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MNREAD- Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(135)7150910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):715719,2009cはじめに今日,子どもたちの多くは小学校入学前に平仮名の読み書きが可能となっている.子どもたちは生活のなかで文字に関連した活動に参加し,遊びのなかで文字の読み書きを自然と覚える13).しかし,視覚障害児は視的経験の不足から意図的に文字学習を行う必要がある.視覚障害児の就学にあたっては望ましい学習環境を整えるために,就学前に十分な視機能の評価がされる必要がある.読書は学童期の学習の基礎となるが,未就学児に関する研究は少ない4).視覚障害が学習に与える影響を知るためには正常視覚児の読書傾向を把握する必要がある.今回筆者らは,正常視覚の未就学児に対して読書速度の測定を行い,成人の読書傾向と比較し,未就学児の読書に適する文字サイズについて若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,保育園検診において視力障害がなく,近見視力1.0以上で情緒障害をもたないと保育園側で判断された年長児48名のうち,平仮名の音読ができ検査可能であった40名(以下,未就学児群),年齢5歳1カ月6歳4カ月,男児〔別刷請求先〕石井雅子:〒950-2076新潟市西区上新栄町5-13-3新潟医療技術専門学校視能訓練士科Reprintrequests:MasakoIshii,OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,5-13-3Kamishinei-cho,Nishi-ku,Niigata-shi,Niigata950-2076,JAPANMNREAD-Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―石井雅子*1,2樺沢優*2張替涼子*2阿部春樹*2*1新潟医療技術専門学校視能訓練士科*2新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野InvestigationofMNREAD-JkReadingRate─TendenciesinPreschoolChildren’sReadingPerformance─MasakoIshii1,2),YuuKabasawa2),RyokoHarigai2)andHarukiAbe2)1)OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity視覚障害児の就学においては,学習環境の整備として視覚補助具や拡大教科書が必要となる.就学前にそれらの選定および客観的評価に役立てる目的で読書チャートMNREAD-Jkを用いて正常視覚の未就学児の読書速度を測定し,読書速度と文字サイズについて成人の読書傾向と比較した.その結果,最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%とすると成人では臨界文字サイズまでは読書効率は一定に保たれるが,未就学児では文字サイズが小さくなるに従って読書効率が次第に低下し,成人の読書傾向とは異なっていた.このことから未就学児の読書においても臨界文字サイズより大きい文字が読書に適しており,その大きさの選択には成人以上に検討が必要である.Toacceptvisuallyimpairedchildrenatschool,thelearningenvironmentmustbeequippedwithvisualaids,larger-fonttextbooksetc.Fortheselectionandobjectiveevaluationofsuchequipmentbeforeitsuseinschool,weusedthereadingchartMNREAD-Jktoassessthereadingrateofpreschoolchildrenwithnormalvision,andcom-paredtheirreadingrateandlettersizewiththoseinadults.Withthereadingrateusingthemaximumlettersize(55.39point)denedas100%readingeciency,thereadingeciencyinadultsremainedxeduntillettersizewasreducedtoathreshold,whereasinpreschoolchildrenthereadingeciencydeclinedwithdecreaseinlettersize.Thelettersizethatwaslargerthanthecriticalthresholdoflettersizeforpreschoolchildrenwassuitableforreading.Forpreschoolchildren,lettersizeismoreimportantthanitisforadults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):715719,2009〕Keywords:未就学児,MNREAD-Jk,文字サイズ,読書効率.preschoolchildren,MNREAD-Jk,lettersize,readingeciency.———————————————————————-Page2716あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(136)22名,女児18名である.なお,調査を行った保育園では特別な文字学習指導は行われていない.検査に先立ち,あらかじめ検査内容について保護者に説明し同意を得た.測定は,はじめに練習用チャートを使用して方法を十分に理解させたうえで実施した.MNREAD-Jkの黒文字/白背景チャート(以下,通常チャート),白文字/黒背景チャート(以下,反転チャート)の2種類のチャート(図1)を用いて,読書速度を測定した.測定条件は,書見台を用いて視距離30cmとし,両眼開放の状態とした.大きな文字サイズから小さな文字サイズへ1ブロックごとに順にできるだけ速く正確に音読するよう指示し,読みに要した時間と読み間違えた文字数を記録した.文字サイズと読みに要した時間と誤読文字数より,読書能力を評価するパラメータである最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出し,筆者らの自験データ5)である眼疾患がなく遠見・近見視力1.0以上の20歳の学生40名(以下,20歳成人群),年齢20歳1カ月20歳10カ月,男性16名,女性24名の読書のパラメータと比較した.II結果1.読書能力の評価(表1)読書能力を評価する最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出した.通常チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では96.59文字/分,20歳成人群は359.13文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.20logMAR(4.40pt),20歳成人群は0.01logMAR(2.84pt)であった.読書視力は未就学児群では0.04logMAR(3.04pt),20歳成人群は0.18logMAR(1.83pt)であった.反転チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では98.06文字/分,20歳成人群は374.97文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.24logMAR(4.82pt),20歳成人群は0.09logMAR(3.41pt)であった.読書視力は未就学児群では0.09logMAR(3.41pt),20歳成人群は0.12図1MNREAD-Jk読書チャート上段:通常チャート(黒文字/白地),下段:反転チャート(白文字/黒地).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009717(137)logMAR(2.11pt)であった.最大読書速度は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが速く,臨界文字サイズおよび読書視力は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが大きかったが,統計学的有意差は認められなかった(pairedt-test).2.文字サイズと読書速度(図2)通常チャートにおいて,未就学児群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に速度の低下がみられた.20歳成人群では0.00logMAR(2.78pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.00logMAR(2.78pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.反転チャートにおいて,未就学児群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりなだらかに速度が低下し急激な速度の低下はみられなかった.20歳成人群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.両群とも読書速度には個人差が大きかった.3.文字サイズと読書効率(図3)最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)での読書速度を読書効率100%とし,各文字サイズでの読書効率を示した.通常チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,徐々に読書効率が低下し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.20logMAR(4.40pt)での読書効率は75%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズで読書効率が向上し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.01logMAR(2.84pt)付近での読書効率は95%であった.反転チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,小さな文字サイズになるに従い徐々に読書効率が低下した.臨界文字サ表1読書能力の評価最大読書速度臨界文字サイズ読書視力未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40平均(文字/分)分散平均(文字/分)分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散通常チャート96.591988.40359.132907.580.20(4.40)0.020.01(2.84)0.010.04(3.04)0.010.18(1.83)0.00反転チャート98.062121.98374.973546.410.24(4.82)0.040.09(3.41)0.010.09(3.41)0.010.12(2.11)0.00*換算値ポイントサイズpt=tan(10logMAR値×5/60)×1,908最大読書速度………文字サイズが適当な場合に得られる最も速い読書速度:個人差が大きい.臨界文字サイズ……効率よく読める文字サイズの最小値:視機能により大きく左右される.読書視力……………読むことのできる最小文字サイズ:ほぼ近見視力に匹敵する.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕0100200300400500600読書速度(文字/分)通常チャート反転チャート文字サイズlogMAR〔pt〕文字サイズlogMAR〔pt〕◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ0100200300400500600読書速度(文字/分)図2文字サイズと読書速度———————————————————————-Page4718あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(138)イズ0.24logMAR(4.82pt)付近での読書効率は50%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズでわずかに読書効率が向上し0.60logMAR(11.05pt)まで変動がみられるものの,ほぼ最大文字サイズと同様の読書効率であるが,0.60logMAR(11.05pt)より徐々に読書効率が低下し,0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.09logMAR(3.41pt)付近での読書効率は78%であった.両群とも通常チャートより反転チャートにおいて文字サイズが小さくなると読書効率が低下した.未就学群では,20歳成人群に比べ臨界文字サイズでの読書効率が低かった.III考按視覚障害児の就学では,教科書が効率よく読めないことから学習に支障をきたす可能性があり,教科書を拡大する視覚補助具や各々の見え方に合わせた拡大教科書が必要となる.視覚補助具の処方や拡大教科書の申請にあたっては,読書検査の結果を基にアドバイスすることが望ましい6).視覚補助具は就学前に十分な指導を行い,学習に対応できるようにしておく必要がある.拡大教科書は,製作に時間を要するため,原則として就学の半年前までに市町村教育委員会に申請することとなっている.これらの理由から今回の未就学児の調査は就学前の5月から9月にかけて行った.MNREAD-Jkは,幼児の語彙の研究7)から,多くの幼児が共通して使用している284語からランダムに単語を組み合わせて作成されている.用いられる品詞は名詞,動詞,形容詞に限定されている.日本語の音節は比較的単純で,平仮名との対応がよく,ほぼ発音の自然な区切りが文字に対応している.MNREAD-Jkは,音読により読書を評価する自覚的検査であるが,平仮名を覚えたばかりの幼児においても比較的,検査の難易度が低く,今回の調査では,未就学児の83%が検査可能であった.最大読書速度は,未就学児,成人ともに個人差が大きかった.読書速度は知的発達,学習経験などに影響され,未就学児では,文字への関心および文字学習の完成度に大きく左右されると推測される.正常視覚児の読書傾向を知ることは,視覚障害が文字への関心および文字学習に与える影響を類推する手がかりとなる.文字サイズが読書速度に与える影響を知る目的で,MNREAD-Jkチャートにおける最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%と定義した.未就学児では成人に比べて小さな文字サイズでの読書効率が低かった.文字学習は小学校入学後に急速に進む.学習開始時に適切な大きさの文字で学習を進めることは重要であり,就学前に読書を評価することは意義がある.正常視覚では通常チャートに比べ反転チャートで読書速度が向上したものの有意差はみられなかった.視覚障害者の読書では視表面の白い反射が読書のパフォーマンスを低下させ白黒反転が有用であるという報告8)があり,視覚障害児の文字学習には反転チャートの利用も考慮する必要がある.MNREADにおいて効率よく読める最小の文字の大きさとされている臨界文字サイズは,読書速度が急激に低下する一つ手前の文字サイズであり,読書にとって重要な指標である.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕通常チャート反転チャート◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕95%75%50%78%最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)図3文字サイズと読書効率———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009719(139)筆者らの先行研究5)では小学生の臨界文字サイズは成人とほぼ等しく,学年による差がなかったことより,視覚正常の学童においては文字の大きさが読書効率に与える影響は成人と同様と考えた.しかし,今回の調査では,未就学児の臨界文字サイズは成人と比べて大きかった.また,読書速度を文字サイズ別に測定すると,成人では比較的大きな文字サイズでは読書速度は一定であるが,文字を次第に小さくしてゆくと,ある文字サイズで急激に読書速度が低下する.小学生では,ほぼ成人と同様の読書傾向をとる.未就学児においても,成人,小学生と同様に最も急激に読書速度が低下する一つ手前の文字サイズを臨界文字サイズとして算出できた.しかし,文字サイズが小さくなるに従って読書速度が緩やかに低下するため,はっきりとしたプラトーが得られない(図4).視覚発達の未熟性および高次大脳機能の未熟性に起因すると思われる.視覚においては,視対象が空間的に互いに接近すると認知成績が低下する読み分け困難9,10)とよばれる現象が生じる.文字サイズが小さくなることによる読み分け困難が幼児の読書に影響を及ぼす.また,文字を読むという過程は高次大脳機能の神経機構が関与しており11),小さな文字サイズになるに従い,文字の視覚的記憶から語の聴覚的記憶への変換が遅れることが考えられる.本稿の要旨は,第105回新潟眼科集談会にて発表した.文献1)HomanSJ:Playandtheacquisitionofliteracy.TheQuarterlyNewsletteroftheLaboratoryofComparativeHumanCognition7:89-95,19852)柴崎正行:幼児は平仮名をいかにして覚えるか.保育の科学,p187-199,ミネルヴァ書房,19873)内田伸子:発達心理学─ことばの獲得と教育.p185-204,岩波書店,19994)東洋:幼児期における文字獲得過程とその環境的要因の影響に関する研究.平成46年度科学研究費補助金研究報告書,19955)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視会誌35:147-154,20066)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:就学にあたり読書検査をおこなった6例の検討.日視会誌37:179-186,20087)藤友雄暉:幼児における語彙の発達的研究.北海道教育大学紀要31:71-79,19808)LeggeGE,RubinGS,SchleskeMM:Contrastpolarityeectsinlowvisionreading.LowVisionPrinciplesandApplications(edbyWooG),p288-307,SpringerVerlag,Berlin,19879)丸尾敏夫,粟屋忍(編):視能矯正学.p214-215,金原出版,200310)川嶋英嗣,小田浩一:字詰まり効果と読書困難.第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p125-128,199811)岩田誠:読み書きの脳機構.第18回日本生体磁気学会論文集16:6-7,2003***文字サイズ読書速度成人小学生未就学児(大)(小)(遅)(速)図4年齢層別による文字サイズと読書速度のシェーマ