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正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の 3 年成績

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):968.973,2022c正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の3年成績柴田真帆豊川紀子植木麻理黒田真一郎永田眼科CThree-YearOutcomesofTrabeculotomywithPhacoemulsi.cationinNormalTensionGlaucomaMahoShibata,NorikoToyokawa,MariUekiandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の術後C3年成績を検討する.対象および方法:永田眼科においてC2015年C1月.2017年C12月に,正常眼圧緑内障に対して白内障同時線維柱帯切開術を施行した患者のうち,6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障薬の点眼数,3年生存率,平均偏差(meandeviation:MD)値,併発症について検討した.結果:術前眼圧C15.4±1.8はC3年後C12.5±2.3CmmHgへ有意に下降した.14,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC77.2%,32.3%,眼圧下降率C20%,30%以上のC3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.術前後C3回以上視野測定のできたC16眼では,MDスロープが.0.51±0.9から術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した.このうち術後CMDスロープが.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,それぞれの術後眼圧経過に有意差はなかったが,進行群では有意に術前CMDスロープが低値であった.併発症として一過性高眼圧をC5眼に認めた.結論:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術は,術後有意な眼圧下降を認め視野障害進行抑制効果があったが,術前に視野障害進行の速かった例では術後も進行する傾向がみられた.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCoftrabeculotomy(LOT)withCphacoemulsi.cationCinCnormal-ten-sionglaucoma(NTG)patients.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC59CNTGCeyesCthatCunderwentCLOTCwithCphacoemulsi.cationCatCtheCNagataCEyeCClinic,CNara,CJapanCbetweenCJanuaryC2015CandCDecemberC2017CandCthatCcouldCbeCfollowedCforCatCleastC6-monthsCpostoperative.CIntraocularCpressure(IOP),glaucomamedications,meandeviation(MD),surgicalsuccess,andpostoperativecomplicationswereinvesti-gated.Surgicalsuccesswasde.nedasanIOPof≦14CmmHgand12CmmHg,andanIOPreductionof≧20%Cand≧30%CbelowCbaselineCwithCorCwithoutCglaucomaCmedications.CResults:AtC3-yearsCpostoperative,CmeanCIOPCwasC12.5±2.3CmmHg,CaCsigni.cantCreductionCcomparedCtoCthatCatbaseline(15.4±1.8CmmHg),CandCtheCsurgicalCsuccessCratesCwere77.2%(IOP≦14CmmHg),32.3%(IOP≦12CmmHg),32.5%(IOPCreduction≧20%),Cand18.6%(IOPreduction≧30%).In16eyesthathadundergonepreoperativeandpostoperativevisual.eldexaminationatleast3Ctimes,CtheCmeanCMDCslopeCsigni.cantlyCimprovedCfromC.0.51±0.9CdB/YCpreoperativelyCtoC.0.0075±0.9CdB/Ypostoperatively.Whenthose16eyesweredividedintoanon-progressgroup(postoperativeMDslope≧.0.5CdB/CY,C13eyes)andCaCprogressgroup(postoperativeCMDCslope<.0.5CdB/Y,C3eyes),CnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCcourseofpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups,whereasthemeanpreoperativeMDslopeintheprogressgroupwassigni.cantlylowerthanthatinthenon-progressgroup.PostoperativecomplicationsincludedIOPCspikesCof>30CmmHg(n=5eyes).Conclusions:InCNTGCpatients,CLOTCwithCphacoemulsi.cationCshowedCsigni.cante.cacyinreducingIOPandsuppressionofvisual.eldprogressupto3-yearspostoperative.However,incaseswithahighervisual.eldprogressionrate,visual.eldtendedtoprogressevenaftersurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):968.973,C2022〕Keywords:線維柱帯切開術,正常眼圧緑内障,眼圧,視野障害進行.trabeculotomy,normaltensionglaucoma,intraocularpressure,visual.eldprogression.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC968(114)はじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy.以下,LOT)は,傍Schlemm管内皮網組織を切開し房水流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.これまで白内障との同時手術を含め多数の長期成績1.6)が示され,Schlemm管外壁開放術(sinusotomy:SIN)と深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)の併用で術後一過性高眼圧の減少と眼圧下降増強効果が報告されている2.6).適応病型は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG),小児緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障とされるが,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に限定した術後成績報告は少ない.これはCPOAGに対するLOT単独の術後眼圧がC18mmHg前後1),白内障手術(phacoemulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:CPEA+IOL)+LOT+SIN+DSの術後眼圧が15mmHg前後3,4)であることから適応症例に限界があるためと考えられ,NTGに対するCLOTの術後成績評価は十分ではなかった.今回,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの3年成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2015年C1月.2017年C12月に永田眼科において,NTGに対しCPEA+IOL+LOT+SIN+DSを施行した連続症例C72眼のうち,術後C6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした(経過観察率C82%).緑内障手術既往眼は含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障治療薬の点眼数,平均偏差(meandeviation:MD)値,目標眼圧(12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上)におけるC3年生存率,術後追加手術介入の有無と併発症を調査,検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.NTGの診断基準は,無治療もしくは緑内障治療薬を中止しC3回以上の眼圧測定でC21CmmHgを超えないもので,正常開放隅角,緑内障性視神経乳頭変化と対応する視野変化があり,視神経乳頭の変化を起こしうる他疾患なし,の条件を満たすものである7).CPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術式は既報5)に準じ,すべての症例でCLOTを下方象限で施行しCSINとCDSを併用,CPEA+IOLは上方角膜切開で施行した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,目標眼圧をC12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上としたC3年生存率,術前後のCMD値とCMDスロープ,術後合併症とした.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査CSITA-Standard30-2が信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できたC16眼について検討し,術前後で比較した.緑内障治療薬数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術後眼圧と点眼スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とDunnettの多重比較,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.術前後のCMDスロープの比較には対応のあるCt検定,術後CMDスロープの差による群間比較にはCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例の患者背景を示す.42例C59眼の平均年齢はC73.5±5.6歳,平均ベースライン眼圧はC17.3C±2.6CmmHg,術前平均点眼スコアC2.1C±1.1による術前平均眼圧はC15.4C±1.8mmHg,術前平均CMD値はC.11.9±7.7CdB(平均C±標準偏差)であった.図1に眼圧経過を示す.術C3年後の平均眼圧はC12.5C±2.3CmmHgであり,術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2に点眼スコア経過を示す.術前C2.1C±0.1の点眼スコアは術C3年後C1.2C±0.2(平均C±標準誤差)であり,すべての観察期間で有意な減少を認めた(p<0.01,CANOVA+Dun-nett’stest).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,14mmHg)ごとの生存曲線を示す.成功基準を12,14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.3%,77.2%であった.図4にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧下降率(20,30%)ごとの生存曲線を示す.成功基準を眼圧下降率20%,30%以上とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.5%,18.6%であった.図5に術前後CMDスロープの平均値比較と散布図を示す.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討し,平均CMDスロープは術前.0.51±0.9から術後C.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した(p=0.02,pairedttest).視野平均観察期間は術前後でそれぞれC95.5C±54.5カ月,37.1C±13.4カ月であった.症例ごとの術前後CMDスロープ値を散布図に示した.術後も.0.5CdB/Yを超える視野障害進行例をC3眼認めた.術後CMDスロープ値がC.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,進行群で術前CMDスロープが有意に低値であった.年齢,術前眼圧,術前点眼スコア,術前CMD値,術後眼圧経過には群間で有表1患者背景症例数42例眼数59眼平均年齢C73.5±5.6(5C9.C87)歳男:女17:2C5右:左33:2C6ベースライン眼圧C17.3±2.6(1C2.C20)CmmHg術前眼圧C15.4±1.8(1C1.C19)CmmHg術前点眼スコアC2.1±1.1(0.4)術前CMD値C.11.9±7.7(C.0.86.C.31.84)CdB(mean±SD)(range)C20意差を認めなかった(表2).併発症として,30mmHgを超える一過性高眼圧をC5眼(8.5%)に認めたが,炭酸脱水酵素阻害薬内服もしくは一時的緑内障治療薬の点眼追加による保存的加療のみで軽快した.3Cmmを超える前房出血を認める症例はなかった.経過中に追加緑内障手術を必要とした症例はなかった.CIII考按NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後3年成績を検討した.平均眼圧はC15.4C±1.8CmmHgからC3年後に眼圧(mmHg)181614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図1眼圧経過術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C2018点眼スコア1614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図2点眼スコア経過術後すべての観察期間で有意な減少を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).100908077.2%7060504032.3%302014mmHg以下1012mmHg以下00510152025303540生存期間(M)図312,14mmHg以下3年生存率12,14CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC32.3%,77.2%であった.生存率(%)生存率(%)1009080706050403020100020%mmHg以下30%mmHg以下32.5%18.6%510152025303540生存期間(M)図4眼圧下降率20%,30%以上3年生存率眼圧下降率C20%,30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.12.5±2.3CmmHgと有意に下降し,PEA+IOL+LOT+SIN+DSはCNTGに対しても有意な眼圧下降が得られる術式と考えられた.POAGにおけるCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの報告3,4)と比較すると,今回の結果ではC14CmmHg以下C3年生存率がC77.2%であり,術前眼圧値が低いため眼圧値による生存率は良好であった.しかし,眼圧下降率C20%以上・30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であり,NTGにおいてCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは10台前半の眼圧を目標とするには限界がある術式と考えられた.術後MDslope(dB/Y)術前後のCMDスロープ比較では,術前C.0.51±0.9CdB/YCから術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意な改善が得られた.今-3-2-10123回の研究では術前平均CMDスロープがC.0.51±0.9CdB/Yと術前MDslope(dB/Y)視野障害進行は緩徐であり,症例群にはCMD値の低い白内障による感度低下症例を含むため,術後CMDスロープの改善は白内障手術による感度上昇の可能性があるが,今回のように術前ベースライン眼圧がChighteenの場合,PEA+IOL+LOT+SIN+DSは眼圧下降効果と点眼スコアの減少とともに,視野障害進行抑制効果がある可能性が考えられた.しかし,術後視野障害進行群と停止群の比較では,術後の眼圧経過は両群で同等であったが術前CMDスロープ値に有意差を認め,術前視野障害進行の早い症例では,PEA+IOL+術前術後p値MDスロープ(dB/Y)-0.51±0.9-0.0075±0.90.02*(mean±SD)(*pairedttest)図5術前後のMDスロープ比較○初期:MD≧.6dB,●中期:C.12dB≦MD<C.6dB,▲後期:MD<.12CdB.平均CMDスロープは術後有意に改善した.術後C.0.5CdB/Yを超える視野進行例(点線で囲む)をC3眼認めた.表2術後MDスロープ値による比較停止群進行群術後CMDスロープC術後CMDスロープp値≧.0.5CdB/Y<.0.5CdB/Y眼数C133年齢(歳)C72.3±5.5C65.0±4.4C0.05術前眼圧(mmHg)C15.0±1.8C14.7±1.5C0.77術前点眼スコアC2.5±0.8C2.0±1.0C0.34術前CMD値(dB)C.9.07±5.1C.8.50±2.5C0.79術前CMDslope(dB/Y)C.0.19±20.7C.1.91±0.7C0.001*術後平均眼圧C12.0±0.4C11.6±1.1C0.27(1.36M)(mmHg)術後平均眼圧下降率C18.9±2.7C21.9±6.9C0.29(1.36M)(%)術後CMDslope(dB/Y)C0.34±0.6C.1.52±0.3C0.0005*LOT+SIN+DSは視野障害進行抑制効果が弱いと考えられた.視野障害進行の早い患者には,濾過手術を選択せざるを得ないかもしれない.視野障害進行のあるCNTGに手術加療を行い術後の視野障害進行阻止を検証した報告8.13)は多いが,いずれも線維柱帯切除術である.長期の視野障害進行抑制にはC20%以上の眼圧下降もしくはC10CmmHg未満の眼圧維持が必要であると報告8)されている.NTGにおける眼圧下降の有効性を検証したCCollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudy(CNTGS)の報告14,15)では,濾過手術によるC20%の眼圧下降で視野C5年維持率がC80%であったとされ,この報告はCNTGへの濾過手術を意義の高いものにした.しかし,濾過手術では低眼圧による視力低下や濾過胞感染など術後合併症による視機能への影響も無視できない16,17).今回の研究でCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後併発症は一過性高眼圧のみであった.NTGはきわめて経過の長い慢性疾患であり,手術加療の適応には患者別の判断が必要とされる.視野障害進行程度,白内障進行の有無,年齢や余命などを考慮した場合,患者によってはCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの適応があると考えられた.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討したが,視野障害進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告18)があり,視野障害進行判定が不十分であった可能性がある.また術後C6カ月以上経過観察できた症(mean±SD)(*t-test)例群であり,手術から最終視野検査までの期間は進行群(884C±90Cdays)と停止群(1,166C±430Cdays)で統計的有意差はないが(p=0.23,CMann-WhitneyCUtest),視野障害進行判定には術後観察期間が不十分であった可能性があり,今後さらなる長期観察が必要であると考える.今回の検討の結果,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは術後有意な眼圧下降を認め,視野障害進行抑制効果があり,患者によっては適応があると考えられた.一方,術前に視野障害進行の速い患者では術後も進行する可能性があり,時機を逸することなく濾過手術を選択せざるをえないと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19963)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,C20024)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか.:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成(118)績.日眼会誌C116:740-750,C20127)TheCJapanCGlaucomaCSocietyCGuidelinesCforGlaucoma(4thEdition)C.NipponGankaGakkaiZasshiC122:5-53,C20188)AoyamaA,IshidaK,SawadaAetal:TargetintraocularpressureCforCstabilityCofCvisualC.eldClossCprogressionCinCnormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmolC54:117-123,C20109)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:E.ectoftrabeculecto-myonvisual.eldperformanceincentral30degrees.eldinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC104:197-201,C199710)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C200211)HagiwaraCY,CYamamotoCT,CKitazawaY:TheCe.ectCofCmitomycinCtrabeculectomyontheprogressionofvisual.eldCdefectCinCnormal-tensionCglaucoma.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC238:232-236,C200012)BhandariCA,CCabbCDP,CPoinoosawmyCDCetal:E.ectCofCsurgeryConCvisualC.eldCprogressionCinCnormal-tensionCglaucoma.OphthalmologyC104:1131-1137,C199713)NaitoT,FujiwaraM,MikiTetal:E.ectoftrabeculecto-myConCvisualC.eldCprogressionCinCJapaneseCprogressiveCnormal-tensionCglaucomaCwithCintraocularCpressure<15CmmHg.PLoSOneC12:e0184096,C201714)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C199815)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup.:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C199816)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109:1336-1341,C200217)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C201418)DeCMoraesCCG,CLiebmannCJM,CGreen.eldCDSCetal:RiskCfactorsCforCvisualC.eldCprogressionCinCtheClow-pressureCglaucomaCtreatmentCstudy.CAmCJCOphthalmolC154:702-711,C2012C***

原発開放隅角緑内障(広義)における相対的瞳孔求心路障害 の検討

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):367.370,2022c原発開放隅角緑内障(広義)における相対的瞳孔求心路障害の検討八鍬のぞみ加藤祐司蒲池由美子札幌かとう眼科CEstimationofRAPDinPrimaryOpenAngleGlaucomaandNormalTensionGlaucomaNozomiYakuwa,YujiKatoandYumikoKamachiCSapporoKatoEyeClinicC目的:相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は視神経疾患の診断に有用な検査である.日常診療において左右差のある緑内障でもCRAPDを認めることがある.今回筆者らは緑内障でCRAPD陽性となる症例の特徴を検討したので報告する.対象:札幌かとう眼科通院中の原発開放隅角緑内障患者C75例で,内訳はCRAPD陽性C25例,RAPD陰性C50例である.方法:RAPDは,swingingC.ashlighttestをC2名の検者が独立して行い,一致した症例を陽性とした.同日に施行した視野検査と光干渉断層計検査の信頼できるCMD値(HumphreyFieldAnalyz-er,CSITA-Standard30-2)とCcpRNFL厚(Triton,トプコン)の左右差を計測し,RAPDの有無における群間差について検討した.結果:RAPD陽性群はCMD値とCcpRNFL厚の左右差が有意に大きかった.そのカットオフ値はCMD値で左右差C6.04CdB(AUC0.82),cpRNFL厚で左右差C15.0Cμm(AUC0.74)であった.結論:緑内障眼においても,MD値やCcpRNFL厚に左右差が認められる場合にはCRAPD陽性となることがある.RAPD陽性の際には左右差の大きい緑内障も鑑別疾患として考えて診療に当たるべきと考える.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcharacteristicsCofCrelativeCa.erentCpupillarydefect(RAPD)inCcasesCofCprimaryCopenCangleCglaucoma(POAG)andCnormalCtensionCglaucoma(NTG)C,CasCitCisCaCusefulCtestCforCdiagnosingCopticCnerveCdiseaseCandCmayCbeCobservedCevenCinCglaucomaCcasesCwithClaterality.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC75CPOAGCpatients(25CRAPDCpositives,C50CRAPDnegatives)seenCatCtheCSapporoCKatoCEyeCClinic,CSapporo,CJapan.CRAPDCwasCperformedCindependentlyCbyCtwoCexaminersCwithCtheCswingingC.ashlightCtest,withCtheCmatchingCcasesCdeemedCpositive.CIntereyedi.erencesCinCthereliablevisualC.ledCmeanCdeviation(MD)value(HumphreyCFieldCAna-lyzer,CSITACStandard30-2)andCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berClayer(cpRNFL)thickness(TritonCSweptCSourceOCT,CTOPCON)performedConCtheCsameCday.CTheCdi.erencesCbetweenCtheCRAPDCpositiveCgroupCandCRAPDCnegativeCgroup,CasCwellCasCtheCROCcurves[i.e.,CareaCunderCtheCcurve(AUC)]C,CwereCexamined.CResults:IntereyeCdi.erencesCbetweenCMDCvalueCandCcpRNFLCthicknessCwereCsigni.cantlyClargerCinCtheCRAPDCpositiveCgroupCthanCinCtheCRAPDCnegativeCgroup.CTheCcutCo.CvalueCwasCanCMDCvalueCof6.04CdB(AUC0.82)andCaCcpRNFLCthicknessCof15Cμm(AUCCmayCbeCpositive.CWhenCRAPDCisCpositive,CdiagnosisCshouldCbeCcarriedCoutCwithCtheCpossibilityCofCglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):367.370,C2022〕Keywords:相対的瞳孔求心路障害,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,平均偏差,乳頭周囲網膜神経線維層厚.relativea.erentpupillarydefect(RAPD)C,primaryopenangleglaucoma(POAG)C,normaltensionglaucoma(NTG),meandeviation(MD)C,cpRNFLthickness.C0.RAPDthickness,cpRNFLorvalueMDindi.erencesintereyearethereifglaucoma,in:EvenCConclusion).47Cはじめに際にみられる感度の左右差を示す所見である.相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillaryRAPDは近年Cpupillographyを用いた定量的評価が可能とdefect:RAPD)は視神経障害など対光反射の求心路異常のなったが,ペンライトC1本でできる簡便な手技(swinging〔別刷請求先〕八鍬のぞみ:〒065-0031北海道札幌市東区北C31条東C16丁目C1-22札幌かとう眼科Reprintrequests:NozomiYakuwa,M.D.,SapporoKatoEyeClinic,N31E16-1-22,Higashi-ku,Sapporo,Hokkaido065-0031,CJAPANC.ashlighttest)を用いることにより検出可能で,感度の高い所見である1).眼底所見の乏しい視神経疾患でCRAPDを検出することは診断的価値が非常に高く,swingingC.ashlighttestは現在でも臨床で広く使われている.視神経疾患はCRAPD,視力低下,限界フリッカ値の低下,視野障害などの所見を呈することが多いが,明らかなRAPDを呈する所見は視神経疾患においてとりわけ特徴的な所見である.瀧澤らはCRAPDx(コーナン・メディカル)によるCRAPDの測定は視神経疾患において高い感度と特異性があることを示し2),Satouらも,RAPDxによる視神経疾患患者の検出率はC75%であり,RAPDが視力,限界フリッカ値の改善に伴って改善することを報告している3,4).日常診療において,左右差のある緑内障患者でもCRAPDを認めることがある.緑内障とCRAPDの関連についてのわが国での報告は少なく,筆者らが調べた限りCTatsumiら5)とCOzekiら6)の報告のみであった.今回筆者らは緑内障眼でCRAPD陽性となる患者の特徴について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2016年C1.6月に札幌かとう眼科に通院していた原発開放隅角緑内障(広義)患者を診療録に基づき後ろ向きに検討した.なお,本研究は札幌市医師会倫理委員会の承認を受けている.CHFA30-2(HumphryCFieldAnalyzer:HFA,SITACStandard30-2)の施行日にCswingingC.ashlighttest,光干渉断層計(OCT)(Triton,トプコン,3DCDiscCReportCw/topography)を施行した白内障手術を含む手術既往のない患者C75例を対象とした.HFA30-2において固視不良C3回以上の信頼係数の低い患者,OCTにおいてCImageQualityがC50%以下の患者,網脈絡萎縮などの眼底疾患のある症例は除外した.CSwinging.ashlighttestは半暗室でペンライトを用いて行い,独立したC2名の検者の結果が一致した患者を陽性とした.CSwingingC.ashlighttestの結果に基づき,対象をCRAPD陽性群と陰性群に分類した.また,HFA30-2のCMD値を同一患者の左右で比較し,高値をCbettereye,低値をCworseCeyeとした.検討項目は矯正視力,平均偏差(meandeviation:MD)値,パターン標準偏差(patternCstandarddeviation:PSD)値,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚,等価球面度数として,bet-tereye,worseeyeそれぞれについて算出した.それぞれの項目について各群のCbettereyeとCworseeye,さらに両群間で比較を行った.また,MD値の左右差,cpRNFL厚の左右差を算出して両群間で比較した.統計学的検討は有意水準をC5%とし,各群のCbettereyeとCworseeyeの比較には対応のあるCt検定を,両群間の比較にはCt検定を用い,さらにCROC解析を行ってCRAPDの有無の判別に対するカットオフ値を求めた.CII結果対象C75例のうち,RAPD陽性C25例(男性C9例,女性C16例)RAPD陰性C50例(男性C21例,女性C29例),年齢はRAPD陽性群C56.6C±10.8歳,RAPD陰性群C56.2C±12.5歳,病型はCRAPD陽性群では原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)7例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)18例,RAPD陰性群ではCPOAG8例,NTG42例であった.各群におけるCbettereyeとCworseeye間の比較では,両群ともCMD値,PSD値,cpRNFL厚において有意差を認めたが,矯正視力,等価球面度数において有意差はなかった.また,両群間においては,worseeyeの矯正視力,MD値,cpRNFL厚,bettereyeとCworseeyeのCPSD値に有意差を認め,年齢,性別,病型,等価球面度数において有意差はなかった(表1).MD値の左右差はCRAPD陽性群C7.52C±4.64CdB,RAPD陰性群C2.68C±1.99CdBであり,RAPD陽性群において有意に高値を示した(図1).cpRNFL厚の左右差においてもCRAPD陽性群C17.8C±14.0Cμm,RAPD陰性群C8.7C±6.0Cμmであり,RAPD陽性群において有意に高値を示した(図2).また,ROC解析により検討した結果,RAPDの有無を判別するカットオフ値は,MD値左右差C6.04CdB(AUC=0.82),cpRNFL厚左右差C15.0Cμm(AUC=0.74)であった(p<0.0001).NTGのみに関してCROC解析により検討した結果,n=18ではあるが,RAPD有無を判別するカットオフ値はCMD値左右差C6.04dB(AUC=0.84),cpRNFL厚左右差C15.0μm(AUC=0.74)となり,全体での検討結果と同様の結果であった(p<0.0001).CIII考按当院の両眼のCPOAG(広義)患者において,RAPD陽性となる症例の特徴を検討した結果,MD値の左右差はCRAPD陽性群において有意に高値を示し(p<0.0001),cpRNFL厚の左右差もCRAPD陽性群において有意に高値を示した(p<0.0001).RAPDの有無を判別するカットオフ値は,MD値左右差がC6.04CdB(AUC=0.82),cpRNFL厚左右差が15.0Cμm(AUC=0.74)であった.本研究からCNTGを主体とするわが国の緑内障でも,左右差がある場合にCRAPDが陽性になることが示唆された.Chewら7)はCPOAG患者をCRAPD群とCRAPD陰性の対照表1患者背景RAPD陽性群25例RAPD陰性群50例年齢(歳)C56.6±10.8C56.2±12.5性別(男性:女性)9:1C621:2C9病型(POAG:NTG)7:1C88:4C2矯正視力(logMAR値)bettereyeCworseeyeC.0.02±0.06C*0.06±0.14.0.03±0.08C*.0.01±0.11MD値(dB)CbettereyeCworseeyeC.1.94±2.35†C.9.16±5.32*†C.0.56±2.20†C.3.01±3.10*†PSD値(dB)CbettereyeCworseeyeC5.10±4.40*†C10.11±5.16*†C2.72±1.79*†C6.63±3.98*†cpRNFL厚(Cμm)CbettereyeCworseeyeC81.1±12.4†C64.2±13.5*†C87.2±13.0†C80.7±11.2*†cpRNFL厚Cworseeye対Cbettereye(%)C*77±14*91±9等価球面度数(D)CbettereyeCworseeyeC.4.20±2.66C.4.52±3.08C.3.30±3.62C.3.36±3.70*両群間に有意差あり(p<0.05).†bettereyeとCworseeye間に有意差あり(p<0.05).C35MD値左右差(dB)1210RAPD陽性群7.52±4.64dBRAPD陰性群2.68±1.99dB(p<0.001)図1MD値の左右差群(各Cn=25)に分け,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)厚,黄斑厚,MD値などにつきCswingingC.ashlighttestを用いたCRAPDとの関連を検討している.彼らの報告ではCRNFL厚の左右差はCRAPD群C17.8Cμm,対照群C5.1μmとCRAPD群で有意に厚く,MD値の左右差はRAPD群C8.62CdB,対照群C1.33CdBとCRAPD群で有意に高値であった.また,MD値の左右差がC9.5dB以上(AUC=0.92),RNFL厚の左右差がC14.6Cμm以上(AUC=0.94)になるとCRAPDを生じると報告している.さらに,RAPDはより障害された眼のCRNFL厚が他眼のCRNFL厚のC83%に減少すると生じ,その感度はC72%(95%信頼区間:0.51-0.88)特異度はC100%(95%信頼区間:0.86-1.00)と報告している.その他,Tathamら8)やCSarezkyら9)もCpupillometerを用いRAPD陽性群RAPD陰性群cpRNFL厚左右差(μm)302520151050RAPD陽性群17.8±14.0μmRAPD陰性群8.7±6.0μm(p<0.001)図2cpRNFL厚の左右差てCRAPDとCMD値の相関について報告している.わが国ではCTatsumiら5)が,緑内障患者におけるCswing-ing.ashlighttestによるCRAPD値(logunit)とCcpRNFL厚には有意な負の相関があり,RAPD陽性群C29例(このうち23例がCPOAG症例)の病期が進行している眼のCcpRNFL厚が軽症眼の約C73%になっていたと報告している.本研究でも進行眼のCcpRNFL厚は軽症眼の約C77%となっており,ほぼ同等の結果であった.また,NTG症例が主体の本研究とCPOAG症例が主体のChewら7),Tatsumiら5)の報告を比較すると,RNFL厚についてはほぼ同程度の左右差でCRAPD陽性となるが,MD値については本研究のほうが若干小さい左右差で陽性となっていた.これよりCPOAGよりもCNTGのほうがCMD値の左RAPD陽性群RAPD陰性群右差が小さくてもCRAPD陽性となる可能性が示唆された.対光反射の求心路は視神経から視交叉を経て両側の視索に入り,外側膝状体に至る直前で視路線維から分かれた線維に乗って,視蓋前域から両側のCEdinger-Westphal(EW)核へ達する経路をとる.遠心路はCEW核から動眼神経路を経て,毛様体神経節,短毛様体神経を介して瞳孔括約筋に至ることが知られている.この対光反射の求心路が非対称性に障害されることでCRAPDが生じる.緑内障の病態は網膜から視神経での障害が中心であり,求心路の障害である.対光反射の起源はおもに錐体・桿体の視細胞であるが,近年,縮瞳にかかわる新たな光受容体としてメラノプシン含有網膜神経節細胞(melonopsin-expressingCganglioncell:m-RGC)が発見され,さまざまな報告がされている10).m-RGC系の対光反射の特徴は青色のような短波長刺激でゆっくりと長く反応することであるが,青色刺激を用いることにより緑内障患者の障害が評価できるという報告もある11).CSwinging.ashlighttestは一般クリニックでも簡便にできる有用な検査であるが,主観的な方法である.近年はRAPDxをはじめとするCpupillographyを用いたCRAPDの定量的評価が可能となり,swinging.ashlighttestでは検出できない軽度のCRAPDも検出可能となっている1.4,6,8.12).これにより,視神経疾患の診断だけではなく,視神経疾患の早期発見あるいはその数値から経過を示す指標や疾患の鑑別につながる可能性がある.今回筆者らは日常診療で行える簡便な検査方法であるCswingingC.ashlighttestを用いたCRAPDの有無と緑内障との関連について検討した.今後は一般眼科医にも普及するような簡便な検査方法や診断治療につながるCpupillographyを用いた研究,さらにはCm-RGCの新しい知見を踏まえた研究が進展することを期待している.最後に,RAPDはおもに視神経疾患診断のツールと考えられているが,本研究のように左右差のある緑内障患者にも認められることがある.RAPD陽性の際には視神経炎などの視神経疾患だけでなく,左右差の大きい緑内障も鑑別疾患として考えて診療に当たるべきと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)敷島敬悟:RAPDの見方と計測装置.日本の眼科C86:890-891,C20152)TakizawaCG,CMikiCA,CYaoedaK:AssociationCbetweenCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCpupillographyCandCinnerCretinalCatrophyCinCopticCnerveCdisease.CClinCOphthalmolC9:1895-1903,C20153)SatouCT,CIshikawaCH,CAsakawaCKCetal:EvaluationCofCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCRAPDxCdeviceCinCpatientsCwithCopticCnerveCdisease.CNeuroophthalmologyC40:120-124,C20164)SatouCT,CIshikawaCH,CGosekiT:EvaluationCofCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCRAPDxCdeviceCbeforeCandCafterCtreatmentCinCpatientCwithCopticCnerveCdisease.CNeurooph-thalmologyC42:146-149,C20185)TatsumiY,NakamuraM,FujiokaMetal:Quanti.cationofretinalnerve.berlayerthicknessreductionassociatedwithCaCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCinCasymmetricCglaucoma.BrJOphthalmolC91:633-637,C20066)OzekiN,YukiK,ShibaDetal:PupillographicevaluationofCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCinCglaucomaCpatients.CBrJOphthalmolC97:1538-1542,C20137)ChewCSS,CCunnninghamCWJ,CGambleCGDCetal:RetinalCnerve.berlayerlossinglaucomaticpatientswitharela-tiveCa.erentCpupillaryCdefect.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:5049-5053,C20108)TathamAJ,Meira-FreitasD,WeinrebRNetal:Estima-tionofretinalganglioncelllossinglaucomatouseyeswitharelativea.erentpupillarydefect.InvestOphthalmolVisSciC55:513-522,C20149)SarezkyCD,CKrupinCT,CCohenCACetal:CorrelationCbetweenintereyedi.erenceinvisual.eldmeandeviationvaluesCandCrelativeCa.erentCpupillaryCresponsesCasCmea-suredCbyCanCautomatedCpupilometerCinCsubejectsCwithCglaucoma.JGlaucomaC23:419-423,C201410)石川均:神経眼科の進歩瞳孔とメラノプシンによる光受容.日眼会誌117:246-269,C201311)KelbschC,MaedaF,StrasserTetal:Pupillaryrespons-esCdrivenCbyCipRGCsCandCclassicalCphotoreceptorsCareCimpairedinglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC254:1361-1370,C201612)瀧渕剛,三木淳司:RAPDの臨床価値.神眼C36:386-396,C2019C***

多施設による緑内障患者の治療実態調査2020 年版 ─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):945.950,2021c多施設による緑内障患者の治療実態調査2020年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─朴華*1井上賢治*2井上順治*1國松志保*1石田恭子*3富田剛司*2,3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科MulticenterSurveyStudyofGlaucomain2020:Normal-TensionGlaucomaandPrimaryOpenAngleGlaucomaHuaPiao1),KenjiInoue2),JunjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),KyokoIshida3)andGojiTomita2,3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障患者の実態調査から正常眼圧緑内障(NTG)と原発開放隅角緑内障(POAG)患者の患者背景と使用薬剤を調査する.対象および方法:2020年C3月C8日.14日に本研究の趣旨に賛同したC78施設に受診したC5,303例5,303眼を対象とした.患者背景と使用薬剤を調査し,NTGとCPOAG患者を比較した.結果:NTGC2,710例(51.1%),CPOAG1,638例(30.9%)だった.使用薬剤数はCPOAG(2.2C±1.4剤)がCNTG(1.6C±1.0剤)より有意に多かった(p<0.0001).単剤使用例では両病型ともプロスタグランジン(PG)関連薬がもっとも多かった.2剤使用例では両病型ともCPG/b配合剤がもっとも多かった.結論:NTGがCPOAGより多く,PG関連薬は単剤使用例,PG/Cb配合剤はC2剤使用例で第一選択となっていた.NTGとCPOAGでは使用薬剤数に差はあるが,使用薬剤はほぼ同様だった.CPurpose:Toinvestigatethecharacteristicsandappliedmedicationsinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)orprimaryopen-angleglaucoma(POAG)C.PatientsandMethods:Thismulticentersurveystudyinvolved5,303NTG/POAGpatientsseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14,2020.Patientchar-acteristicsandthemedicationsusedwereinvestigatedandcomparedbetweenNTG/POAG.Results:Ofthe5,303patients,2,710(51.1%)werediagnosedasNTGand1,638(30.9%)werediagnosedasPOAG.ThemeannumberofCmedicationsCadministeredCforPOAG(2.2C±1.4)wasCsigni.cantlyCgreaterCthanCthatCforNTG(1.6C±1.0)(p<0.0001)C.CAsCforCtheCmonotherapyCandC.xed-combinationCtreatments,prostaglandin(PG)analogsCandCPG/b-block-ers,Crespectively,CwereCtheCmedicationsCmostCfrequentlyCadministered.CConclusion:OurC.ndingsCrevealedCmoreCNTGpatientsthanPOAGpatients.PGanalogswereusedinthemonotherapyand.xed-combinationPG/b-block-erswereusedinthecombinedtherapyas‘.rst-choice’medications,andnosigni.cantdi.erencewasfoundinthemedicationsusedbetweenNTGandPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):945.950,C2021〕Keywords:正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,薬物治療,多施設,配合点眼薬.normaltensionglaucoma,primaryopenangleglaucoma,medication,multipleinstitutions,.xedcombinationeyedrops.Cはじめに緑内障にはさまざまな病型があり,病型により治療方針は異なる1).緑内障診療ガイドライン1)には緑内障の病型別治療が記載されている.日本での緑内障の疫学調査として多治見スタディがあげられるが,多治見スタディでの緑内障有病率は正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)3.6%,原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)0.3%であった2).緑内障診療ガイドラインではNTG,POAGの診断は「原発開放隅角緑内障(広義)は慢性進行性の視神経症であり,視神経乳頭と網膜視神経線維層に形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,他の疾患や先天異常を欠く病型,隅角鏡検査で〔別刷請求先〕朴華:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:HuaPiao,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-kuTokyo134-0088,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(97)C945正常開放隅角(隅角の機能的異常の存在を否定するものではない.)とした.NTGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が常に統計学的に規定された正常値(20CmmHg)にとどまるもの,POAGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が統計学的に規定された正常値(20CmmHg)を超えるもの」と定義している.筆者らはベースライン眼圧の違いにより患者背景や治療薬の使い方が異なるか疑問を抱いた.そこで臨床現場で通院中の緑内障患者の実態を知る目的で多施設での調査をC2007年に初めて行った3).続いてC2009年4),2012年5),2016年6)に再調査を行った.そのなかでCNTGとPOAGの患者背景や薬物治療の相違を検討した3.6).前回調査6)からC4年が経過し,その間に眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬(オミネデパグイソプロピル点眼薬)や配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能となった.そこで今回,再び緑内障患者の実態調査を実施した.そのなかでCNTG患者とCPOAG患者に対する患者背景と薬物治療の相違を検討した.また,経時的変化を合わせて検討した.CI対象および方法2020年C3月C8.14日のC7日間に本試験の趣旨に賛同した78施設に外来受診したすべての緑内障および高眼圧症の患者を対象とした(表1).総症例数はC5,303例C5,303眼(男性2,347例,女性C2,956例),平均年齢はC68.7C±13.1歳(平均値C±標準偏差,11.101歳)であった.調査は各施設にアンケート用紙を郵送し,記入してもらう方法で行った.アンケート項目は,年齢,性別,病型,緑内障使用薬剤(投薬数,使用薬剤),レーザー既往歴,手術既往歴である.回収したアンケート用紙からCNTGとCPOAG患者の年齢(対応のないCt検定),性別,レーザー既往歴,手術既往歴を比較した(Cc2検定).同様に使用薬剤数,単剤・2剤使用例の内訳を比較した(Mann-WhitneyU検定,Cc2検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,前回調査6)までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.さらに,2016年に同様の方法で行った前回調査6)の結果と比較した(Cc2検定).本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果1.病型全症例ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%),続発緑内障C435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%)などであった.性別はCNTGでは男性C1,116例,女性C1,594例,POAGでは男性C798例,女性C840例で,NTGで女性が有意に多かった(p<0.0001).平均年齢はCNTGC67.5±13.4歳,CPOAGC69.5±12.6歳で,POAGが有意に高かった(p<0.0001).レーザー既往ありはCNTG28例(1.0%),POAG46例(2.8%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).手術既往ありはCNTG30例(1.1%),POAG185例(11.3%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).C2.使用薬剤数平均薬剤数はNTGC1.6±1.0剤,POAGC2.2±1.4剤で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).NTGでは使用薬剤なしC160例(5.9%),1剤C1,452例(53.6%),2剤C657例(24.2%),3剤C302例(11.1%),4剤C109例(4.0%),5剤C27例(1.0%),6剤C3例(0.1%)であった.POAGでは使用薬剤なしC130例(7.9%),1剤C490例(29.9%),2剤C373例(22.8%),3剤C317例(19.4%),4剤C207例(12.6%),5剤C103例(6.3%),6剤C18例(1.1%)であった.1剤使用症例はCNTGが有意に多く(p<0.0001),3.6剤使用症例はそれぞれCPOAGが有意に多かった(p<0.0001).C3.単剤使用症例の薬剤(図1)NTG(1,452例),POAG(490例)ともにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が圧倒的に多く,NTGではC961例(66.2%),POAGではC363例(74.1%)であった.PG関連薬はCPOAGが有意に多かった(p<0.05).Cb(ab)遮断薬はCNTG,POAGともにCPG関連薬のつぎに多く,NTGではC328例(22.6%),POAGではC86例(17.5%)であった.Cb(ab)遮断薬はCNTGが有意に多かった(p<0.05).Ca2刺激薬はNTGでは59例(4.1%),POAGでは8例(1.6%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C4.2剤使用症例の薬剤(図2)NTG,POAGともに,PG/Cb配合点眼薬がもっとも多く(NTG303例C46.1%,POAG166例C44.5%),ついでCPG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用が多かった(NTG86例C13.1%,POAG53例C14.2%).Cb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用はCNTGではC31例(4.8%),POAGではC3例(0.8%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C5.前回調査と病型の比較今回調査ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%)で,開放隅角緑内障が約C82%を占めており,前回調査のCNTG2,197例(51.2%),POAG1,232例(28.7%)と同等だった.C6.前回調査と使用薬剤数の比較(図3)平均薬剤数はCNTGでは前回調査C1.5C±1.0剤,今回調査C1.6C±1.0剤で,POAGでは前回調査C2.1C±1.3剤,今回調査C2.2C±1.4剤であった.POAGが前回調査よりも平均薬剤数が有表1協力施設および協力医師名協力施設協力医師都道府県協力施設協力医師都道府県ふじた眼科クリニック藤田南都也北海道眼科中井医院中井倫子神奈川県中山眼科医院余敏子東京都さいとう眼科斎藤孝司神奈川県白金眼科クリニック西野由美子東京都あおやぎ眼科青柳睦美千葉県高輪台眼科クリニック社本真紀東京都本郷眼科吉川みゆき千葉県小川眼科診療所加藤美名子東京都吉田眼科吉田元千葉県もりちか眼科クリニック森近千都東京都のだ眼科麻酔科医院野田久代千葉県中沢眼科医院中澤正博東京都みやけ眼科野崎康嗣千葉県良田眼科良田夕里子東京都高根台眼科奈良俊作千葉県駒込みつい眼科三井義久東京都谷津駅前あじさい眼科田中まり千葉県菅原眼科クリニック菅原道孝東京都おおあみ眼科今井尚人千葉県うえだ眼科クリニック上田裕子東京都いずみ眼科クリニック泉雅子茨城県江本眼科江本有子東京都サンアイ眼科伏屋陽子茨城県えづれ眼科江連司東京都さいき眼科齋木裕埼玉県とやま眼科外山茂東京都林眼科医院林優埼玉県おおはら眼科大原重輝東京都石井眼科クリニック石井靖宏埼玉県的場眼科クリニック伊藤景子東京都やながわ眼科柳川隆志埼玉県篠崎駅前髙橋眼科髙橋千秋東京都ふかさく眼科深作貞文埼玉県かさい眼科笠井直子東京都たじま眼科・形成外科田島康弘埼玉県みやざき眼科宮崎明子東京都鬼怒川眼科医院鬼怒川雄一宮城県はしだ眼科クリニック橋田節子東京都さくら眼科・内科岡本寧一埼玉県にしかまた眼科簗島謙次東京都やなせ眼科矢那瀬淳一埼玉県久が原眼科芹沢聡志東京都博愛こばやし眼科小林一博長野県あつみ整形外科・眼科クリニック渥美清子東京都ヒルサイド眼科クリニック土田覚静岡県そが眼科クリニック蘇我孟志東京都あつみクリニック渥美清子静岡県早稲田眼科診療所尾崎良太東京都さいはく眼科クリニック瀬戸川章鳥取県井荻菊池眼科菊池亨東京都藤原眼科村木剛広島県ほりかわ眼科久我山井の頭通り堀川良高東京都大原ちか眼科大原千佳福岡県小滝橋西野眼科クリニック西野由美子東京都かわぞえ眼科クリニック川添賢志福岡県いなげ眼科稲毛佐知子東京都図師眼科医院図師郁子福岡県赤塚眼科はやし医院林殿宣東京都いまこが眼科医院藤川王哉福岡県えぎ眼科仙川クリニック江木東昇東京都槇眼科医院槇千里福岡県なかむら眼科・形成外科中村敏東京都むらかみ眼科クリニック村上茂樹熊本県西府ひかり眼科野口圭東京都川島眼科川島拓宮崎県東小金井駅前眼科三田覚東京都ガキヤ眼科医院我喜屋重光沖縄県後藤眼科後藤克博東京都札幌・井上眼科クリニック清水恒輔北海道おがわ眼科小川智美東京都大宮・井上眼科クリニック野崎令恵埼玉県立川しんどう眼科真藤辰幸東京都西葛西・井上眼科病院井上順治東京都だんのうえ眼科クリニック壇之上和彦神奈川県お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子東京都綱島駅前眼科芝龍寛神奈川県井上眼科病院井上賢治東京都NTG(1,452例)POAG(490例)a2刺激薬**点眼CAIa2刺激薬**点眼CAI*p<0.05,**p<0.001,c2検定図1単剤使用症例の薬剤(c2検定,*p<0.05,**p<0.001)CNTG(657例)POAG(373例)b(ab)**b(ab)4.8%PG+a26.7%CAI/b配合点眼薬7.3%PG+b(ab)*p<0.05,**p<0.001,c2検定13.1%図22剤使用症例の薬剤(c2検定,**p<0.001)CPOAG2020年2.2±1.4剤*2016年2.1±1.3剤(*p<0.05)0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤■2016年■2020年*p<0.05,Mann-Whitney-U検定,c2検定■2016年■2020年図3前回調査と使用薬剤数の比較(Mann-WhitneyU検定,c2検定,*p<0.05)意に増加し(p<0.05),NTGでは前回調査と同等だった(pC7.前回調査と単剤使用症例の比較(図4)=0.0749).NTG,POAGともに前回調査よりもCPG関連薬の使用割合が有意に減少した(p<0.0001,p<0.05).****NTGPOAG■2016年■2020年■2016年■2020年*p<0.05,**p<0.001,***p<0.0001,c2検定図5前回調査と2剤使用症例の比較(c2検定,*p<0.05,***p<0.0001)NTGではCPG関連薬がC74.0%からC66.2%(p<0.0001)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,a2刺激薬,ROCK阻害薬が増加したが,有意な増加はなかった.POAGではCPG関連薬がC80.2%からC74.1%(p<0.05)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(car-bonicCanhydraseinhibitor:CAI)が増加したが,有意な増加はなかった.またCNTG,POAGともに前回調査5)では未発売であったEP2受容体作動薬が今回調査では各々C5.5%,3.3%だった.C8.前回調査と2剤使用症例の比較(図5)NTGではCPG/b配合点眼薬はC31.4%からC46.1%と有意に増加した(p<0.0001).PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.5%からC13.1%と有意に減少し(p<0.0001),PG関連薬とCa2刺激薬の併用はC11.7%からC6.7%と有意に減少(p<0.001)した.CAI/b配合点眼薬,およびCPG関連薬とCCAIの併用はそれぞれ前回調査と同等だった.POAGではCPG/b配合点眼薬はC29.2%からC44.5%と有意に増加し(p<0.0001),PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.9%からC14.2%と有意に減少した(p<0.0001).CIII考按今回調査での緑内障病型は多治見スタディ2)や前回調査6)と同様で,NTG,POAG合わせて全緑内障患者のC80%近くを占めていた.病型ではCNTGで女性が男性より有意に多かった.若い女性のほうがコンタクトレンズ診療などでCNTGが発見されるケースなどが多いためと考えられる.平均年齢はCPOAGがCNTGに比べて有意に高かった.POAGは眼圧が高く,治療継続が良好な高齢者が多い可能性が考えられる.レーザー既往,手術既往はCPOAGがCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤数はCPOAGがCNTGと比べて有意に多かった.眼圧が高いCPOAGでは眼圧を下げるために薬物治療,レーザー,手術がより多く行われている可能性がある.前回調査との比較では病型は変化なかった.使用薬剤数はCPOAGで有意に増加,NTGでは同等だった.使用薬剤数は今回調査ではCNTGはC1剤がC53.6%で,前回調査(56.0%)と同様にC1剤使用例が過半数を占めていた.POAGではC1剤が今回調査C29.9%で,前回調査6)34.9%に比べて有意に減少し,4剤以上は今回調査C4剤C12.6%,5剤C6.3%と前回調査6)4剤C8.9%,5剤C4.5%よりも有意に増加した(p<0.05).配合点眼薬の使用促進により,点眼回数を増やすことなく薬剤の追加が可能になった.点眼ボトル数や点眼回数を減らすことにより,良好なアドヒアランスを保つことができると考えられる.単剤使用症例では,POAGがCNTGに比べてCPG関連薬が有意に多かった.POAGではCNTGよりも強い眼圧下降を期待するためと予想される.NTGではCPOAGと比べてCa2刺激薬が有意に多かった.NTG患者へのCa2刺激薬投与による視野障害進行速度が抑制されたという報告7)より神経保護効果を期待したことが原因と考えられる.一方,Cb(ab)遮断薬がCPOAGで有意に少ないのは,Cb(ab)遮断薬は全身性副作用出現の心配があり,循環器系,呼吸器系疾患を有する患者や高齢者では使用しづらい点が考えられる.実際にPOAG患者ではCNTG患者より有意に年齢が高かった.PG関連薬が今回調査ではCNTG66.2%,POAG74.1%で,前回調査(NTG74.0%,POAG80.2%)に比べて有意に減少した.新しい作用機序をもつCa2刺激薬,ROCK阻害薬やC2019年11月より使用可能になったCEP2受容体作動薬などの出現により点眼薬の選択肢が増えたことが原因と考えられる.2剤使用症例ではCb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用がNTGがCPOAGに比べて有意に多かった.PG関連薬を使用できないケースでは,Ca2刺激薬の神経保護作用7)を期待してとくにCNTGで使用されたと考える.NTG,POAGともに前回調査と比べてCPG/Cb配合点眼薬が有意に増加し,PG関連薬とCb遮断薬の併用が有意に減少した.アドヒアランス向上を目的として,配合点眼薬の使用が増加した影響と考えられる.NTGではCPG関連薬とCa2刺激薬の併用例は前回調査と比べて有意に減少した.PG関連薬への追加投与としてCROCK阻害薬など新しい作用機序の薬剤との組み合わせが増加したためと考えられる.今回調査から薬剤は一般名でデータを収集した.もっとも多くの症例を集めた井上眼科病院とお茶の水・井上眼科クリニックC1,474例(27.8%)ではC2018年C10月より配合点眼薬を除くほとんどの薬剤を一般名として処方することにした.そのため患者が先発医薬品あるいは後発医薬品のどちらを使用しているかは診療録からは判別できなくなった.そこで収集方法を変更した.このため前回調査との比較では正確な解析が行えていない可能性もある.今回調査をまとめると使用薬剤数がCPOAGでCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤の内訳はほぼ同様であったが,POAGでCPG関連薬,NTGでCb(ab)遮断薬,Ca2刺激薬の使用がやや多い傾向がみられた.今後も新しい配合点眼薬や眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬が使用可能になると予想される.薬物療法はさらに複雑化するので,今後も定期的に多施設で緑内障患者実態調査を行い,緑内障薬治療の実態把握に努めたい.謝辞:今回の実態調査の協力施設およびご協力いただいた先生を表C1へ記載する.この調査に参加していただき,診療録の調査,集計という,とても面倒な作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C20043)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C62:1699-1704,C20084)添田尚一,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2009年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C65:1251-1257,C20115)新井ゆりあ,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障患者の実態調査C2012年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C67:673-679,C20136)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2016年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C71:1541-1547,C20177)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsCfromCtheCLow-PressureCGlaucomaCTreatmentStudy.AmJOpthalmolC151:671-681,C2011***

正常眼圧緑内障におけるプロスタグランジン関連薬単剤からカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液への切り替えにおける眼圧下降効果と安全性の検討

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):980.984,2020c正常眼圧緑内障におけるプロスタグランジン関連薬単剤からカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液への切り替えにおける眼圧下降効果と安全性の検討多田香織*1池田陽子*2,3上野盛夫*2森和彦*2木下茂*4外園千恵*2*1京都中部総合医療センター眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CShort-termSafetyandE.cacyofSwitchingfromMonotherapyProstaglandinAnaloguestoMikelunaCombinationOphthalmicSolutioninJapaneseNormal-tensionGlaucomaPatientsKaoriTada1),YokoIkeda2,3),MorioUeno2),KazuhikoMori2),ShigeruKinoshita4)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC正常眼圧緑内障患者におけるプロスタグランジン(PG)関連薬からカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ,大塚製薬)への切り替え効果と安全性を検討した.PG関連薬単剤で加療中の正常眼圧緑内障患者C33例C33眼を対象に,点眼切り替え前,切り替え後C1カ月とC3カ月における眼圧および副作用を検討した.点眼液切り替え後C1カ月とC3カ月の眼圧はそれぞれC11.0±2.6CmmHgおよびC11.3±2.7CmmHgであり,切り替え前のC12.0±2.2CmmHgと比較していずれも有意に下降した(p<0.05).血圧は点眼液切り替え後C1カ月,脈拍はC1カ月後とC3カ月後時点で有意な低下(p<0.05)を認めたが,経過観察期間において眼局所,全身副作用で点眼中止に至る症例はなかった.以上より,カルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液は正常眼圧緑内障患者の治療強化に有効であり,副作用の少ない点眼液であることが確認された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCMikelunaCCombinationCOphthalmicSolution(OtsukaCPhar-maceuticalCo.),CaClong-acting2%CcarteololChydrochlorideCandClatanoprost.xed-combination(CLFC)eye-dropCmedication,CinCJapaneseCnormalCtensionglaucoma(NTG)patientsCinCtheCclinicalCsetting.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC33CeyesCofC33CNTGCpatientsCwhoCswitchedCfromCtopicalCprostaglandinCanaloguesCmonotherapyCtoCCLFCeyedrops.Intraocularpressure(IOP),bloodpressure,andheartratewasmeasuredbeforetheinitiation(baseline)Candat1-and3-monthspostadministration,andassociatedadverseeventswereinvestigated.Results:MeanIOPatCbaselineCandCatC1-andC3-monthsCpost-administrationCwasC12±2.2CmmHg,C11±2.6CmmHg,CandC11.3±2.7CmmHg,respectively[signi.cantIOPreduction(p<0.05)].Bloodpressuredecreasedsigni.cantlyafter1month(p<0.05)CandCheartCrateCafterC1CandC3months(p<0.05)withoutCsubjectiveCsympotoms.CNoneCofCtheCpatientsCdiscontinuedCuseCdueCtoCadverseCdrugCreaction.CConclusion:CLFCCeyeCdropsCwereCfoundCe.ectiveCforCstrengtheningCtheCIOPCloweringe.ectwithasafeandwell-toleratedpro.leinNTGpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(8):980.984,C2020〕Keywords:カルテオロール,ラタノプロスト,配合点眼液,正常眼圧緑内障,眼圧.carteololhydrochloride,latanoprost,.xed-combination,normaltensionglaucoma(NTG),intraocularpressure(IOP).C〔別刷請求先〕多田香織:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:KaoriTada,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25Yagiueno,Yagi,Nantan,Kyoto629-0197JAPANC980(80)はじめに2017年C1月に世界に先駆けて日本で販売されたカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ配合点眼液,大塚製薬.以下,CLFC)は,プロスタグランジン(PG)関連薬のラタノプロスト点眼液とC1日C1回のCb遮断薬であるカルテオロール塩酸塩C2%を配合した抗緑内障点眼液である.1日C1回製剤同士の組み合わせは世界初であり,かつCb遮断薬としてカルテオロール塩酸塩を含有していることから,眼圧下降効果に加え,眼底血流改善作用や内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticCactivity:ISA)も期待される.また,防腐剤としてベンザルコニウム塩酸塩(BAC)を含まず,角膜への障害が軽減される可能性がある.点眼液販売開始からC1年以上が経過したが,CLFCの眼圧下降効果に関する報告は調べる限りまだ少ない1,2).今回は緑内障病型を正常眼圧緑内障に限定し,PG関連薬単剤からCLFCへの切り替えにおける眼圧下降効果と安全性について検討したので報告する.CI対象および方法京都府立医科大学および御池眼科池田クリニックに通院中の正常眼圧緑内障患者のうち,PG関連薬単剤からCCLFCに切り替え,治療強化を行ったC33例C33眼〔男性C7例,女性26例,平均年齢C62.9C±13.8歳(平均値C±標準偏差)(39.90歳)〕を対象とし,レトロスペクティブに評価を行った.本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,京都府立医科大学病院の倫理委員会の承諾を得て実施した.切り替え前,切り替え後C1,3カ月の眼圧をCGoldmann圧平眼圧計で測定し,眼圧下降効果を検討した.なおCCLFCの両眼処方例では右眼を対象とし,眼圧に影響を及ぼす可能性のある他剤と同時に開始した症例は除外した.緑内障病期を,静的視野検査では初期:meandeviation(MD)値≧C.6CdB,中期:C.6CdB>MD値≧C.12CdB,後期:C.12CdB>MD値,Goldmann動的視野検査では初期:I,II,中期:III,後期:IV,Vと定義し,対象の視野障害の程度を評価した.安全性については,切り替え前後の眼表面障害の程度,血圧と脈拍で評価を行った.眼表面障害の程度の評価はC33例中,前眼部写真での記録があるC29例(男性C5例,女性C24例,平均年齢C62.5C±13.2歳)を対象に行った.評価にはCrichtonら3)の用いた分類を使用し,結膜充血スコア:0=none(normal),0.5=trace(trace.ush,reddishpink),1=moderate(brightCredcolor),3=sever(deep,CbrightCdif-fuseredness),点状表層角膜症(super.cialCpunctaCkera-topathy:SPK)スコア:0=none(no.ndings),0.5=trace(1.5puncta),1=mild(6.20puncta),3=sever(tooCmanypunctatocount)とした.また従来,来院患者には院内の自動血圧計(健太郎CHBP-9020,OMRON,もしくはハートステイションCSMPV-5500,日本電工)を用いた安静時の収縮期/拡張期血圧,脈拍の測定を指示しており,点眼切り替え前後での測定値の変動を検討し安全性の評価を行った.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いた.CII結果対象の内訳を表1に示す.切り替え前平均眼圧はC12.0C±2.2CmmHgと低値であった.対象の視野障害の程度について,33例中,静的視野検査で経過観察されていたC31例のCMD値の平均は.5.0±3.8CdB(C.0.4.C.12.7CdB)であり,Gold-mann動的視野検査で経過観察されていた残りC2例の湖崎分類はCIIbとCIVであった.対象の緑内障病期は初期:22例(66.7%),中期:8例(24.2%),後期:3例(9.1%)であった.切り替え前の眼表面障害の程度については,33例中,前眼部写真での記録があるC29例において結膜充血スコア:C0.4±0.2(0.0.5),SPKスコア:0.4C±0.6(0.2)であった(表2).血圧は収縮期がC119.2C±16.8CmmHg,拡張期がC70.9C±12.1CmmHg,脈拍はC81.1C±17.1/分であった(表1).切り替え前の使用薬剤の内訳はC33例中C32例がラタノプロスト点眼液(内C5例は防腐剤が添加されていないラタノプロスト表1点眼切り替え前の対象の内訳n年齢眼圧緑内障病期(%)血圧(mmHg)脈拍(/分)(男:女)(歳)(mmHg)初期中期後期収縮期拡張期33(7:26)C62.9±13.8C12±2.2C66.7C24.2C9.1C119.2±16.8C70.9±12.1C81.1±17.1C表2点眼切り替え前後の眼表面障害の変化n(男:女)年齢(歳)結膜充血スコアSPKスコア切り替え前切り替え後1カ月切り替え後3カ月切り替え前切り替え後1カ月切り替え後3カ月29(5:24)C62.5±13.2C0.4±0.2C0.5±0.1C0.5±0.1C0.4±0.6C0.4±0.6C0.3±0.516*******:p<0.05NS:有意差なし***NS12.0mmHg11.0mmHg11.3mmHg***:p<0.05NS:有意差なし:収縮期血圧:拡張期血圧:脈拍NS眼圧(mmHg)140切り替え前切り替え後切り替え後1カ月3カ月40図1眼圧の推移点眼切り替え後C1カ月,3カ月いずれの時点でも有意な眼圧下降が確認された.PF点眼液),1例がビマトプロスト点眼液からの切り替えであった.CLFCへ切り替え後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC11.0±2.6CmmHgおよびC11.3C±2.69CmmHgであり,切り替え前のC12.0C±2.2CmmHgと比較し有意に下降した(p<0.05)(図1).検討したC29例の眼表面障害の程度について,切り替え後C1カ月とC3カ月の結膜充血スコアは変動なく両時点ともC0.5C±0.1(0.0.5)であり,切り替え前と有意差はみられなかった.SPKスコアは切り替え後1,3カ月でそれぞれC0.4C±0.6(0.2),0.3C±0.5(0.2)であり,切り替え前と切り替え後C1,3カ月,また切り替え後C1カ月とC3カ月で有意差はみられなかった(表2).33例すべての症例で切り替えC3カ月目以降も点眼継続可能であった.また,切り替え前,切り替え後C1,3カ月における収縮期血圧はそれぞれC119.2C±16.8,114.6C±14.1,116.9C±15.0CmmHg,拡張期血圧はC70.9C±12.1,67.5C±11.3,69.3C±13.7CmmHg,脈拍はC81.1C±17.1,C75.0±12.1,73.1C±10.3/分であった.血圧は収縮期,拡張期ともに切り替え前と切り替え後C1カ月では有意差を認めたが(p<0.05),切り替え前と切り替え後C3カ月では有意差を認めなかった.脈拍は切り替え前に対し,切り替え後C1,3カ月ともに有意差をもって下降した(p<0.05).切り替え後C1カ月とC3カ月の値に有意差はなかった(図2).CIII考察今回の検討の結果,PG製剤単剤からの切り替えC33例中,32例がラタノプロスト点眼液からの切り替えであり,残りのC1例はビマトプロスト点眼液からの切り替え例であった.ラタノプロスト点眼液からの切り替えC32例で検討しても点眼切り替え前後の平均眼圧はほぼ変わりなく,点眼切り替え前,切り替え後1,3カ月の眼圧はそれぞれC12C±2.2CmmHg,C11±2.6CmmHg,11.3C±2.70CmmHgであった.Yamamotoら20201000切り替え前切り替え後切り替え後1カ月3カ月図2収縮期/拡張期血圧と脈拍の推移血圧は収縮期,拡張期ともに切り替え前と切り替え後C1カ月では有意差をもって下降したが,処方時と切り替え後C3カ月では有意差を認めなかった.脈拍は処方時に対し切り替え後C1カ月,3カ月ともに有意差をもって下降した.切り替え後C1カ月とC3カ月の間には有意差を認めなかった.は,CLFCの第CIII相臨床試験において,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症の患者C118例を対象にC4週間のラタノプロスト点眼液単剤投与期間の後CCLFCに切り替えを行ったところ,8週間後の朝点眼前眼圧はC20.1CmmHgから17.2CmmHgまでC2.9CmmHg下降したと報告されている4).このうち正常眼圧緑内障患者はC9例含まれておりC8週間で3.7CmmHgの下降を認めたと報告されているが,エントリー基準がC18CmmHg以上に設定されており,筆者らの検討よりベースライン眼圧が高値であり,それゆえに眼圧下降幅も大きかった可能性がある.また,今回の筆者らの検討においてビマトプロスト点眼液からの切り替え例がC1例含まれていた.ビマトプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液など従来のCPG製剤と異なり,プロスタマイド受容体に作用することで強力な眼圧下降効果を持つCPG製剤である5).ビマトプロスト点眼液とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤の眼圧下降効果を比較した過去の報告はいくつかあり,その効果を同等とするもの6)やビマトプロスト点眼液より配合剤のほうが優れているとするものもある7).今回のC1例では,ビマトプロスト点眼液からの切り替え前,切り替え後C1,3カ月の眼圧はC14CmmHg,12CmmHg,11CmmHgであり,CLFCへ切り替えたことによりC20%以上の眼圧下降が得られた.PG製剤単剤からCPG/Cb配合剤への変更におけるメリットは,点眼本数,点眼回数を増やさずに治療強化でき,アドヒ120100血圧(mmHg)脈拍(/分)8060アランスの維持もしくは点眼切り替えによるアドヒアランスの向上が期待できる点である.また,配合剤では,点眼同士の間隔が不十分でC1剤目の点眼液がC2剤目にCwashoutされて効果が薄れてしまうという心配もない.これまで,国内で臨床使用可能となっているCPG/Cb配合剤の眼圧下降効果はいずれも,それぞれの併用群と比較して非劣性が示されている8,9)が,一方で配合剤のほうが劣っていたという報告もある10.12).これまでのCPG/Cb配合剤に配合されているCb遮断薬はすべてC1日C2回点眼のチモロールであり,配合剤として1日C1回点眼となるとC1日当たりの投与量が減ってしまう.そのためもともとコンプライアンスが良好である患者においては,併用療法より配合剤治療のほうが眼圧下降効果が劣ってしまう可能性がある.今回使用したCCLFCではC1日C1回点眼のカルテオロールが配合されており,1日C1回の製剤同士を配合した点眼液は世界で初めてである.単剤からの治療強化においても併用療法からの変更においても安定した眼圧下降効果が期待できるとされている.CLFCは配合剤として,眼圧コントロール不十分な正常眼圧緑内障患者の治療強化に有用である可能性が示された.安全性において,まずCPG関連薬単剤からの切り替えによりラタノプロストにCb遮断薬としてカルテオロール塩酸塩の成分が追加されるため角膜障害性の増悪が懸念された.検討したC29例すべての症例で眼表面に関する副作用の悪化を認めず,全対象において切り替えC3カ月目以降も点眼継続可能であった.CLFCは防腐剤としてCBACを含まない製剤である.そのうえ,併用療法に比べ点眼回数減少に伴う防腐剤曝露機会の減少という配合剤のメリットも生かされ,CLFCはドライアイなどの眼表面疾患のある患者の治療強化にも有用と考える.また,カルテオロールは内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)をもつ非選択的Cb遮断薬で,チモロールに比べて循環器系や呼吸機能に及ぼす影響が小さいことが報告されている13).今回,点眼切り替え前,切り替え後の収縮期/拡張期血圧,脈拍を測定しその変動を検討した.血圧は収縮期,拡張期ともに切り替え前と切り替え後C1カ月では有意差をもって低下した.切り替え前と切り替え後C3カ月では有意差を認めなかった.脈拍は切り替え前に対し,切り替え後1,3カ月ともに有意差をもって低下した.切り替え後C1カ月とC3カ月の間には有意差はなかった.Yamamotoらの報告4)でもラタノプロスト点眼液からの切り替え後C2カ月で血圧および脈拍の低下(下降幅:収縮期/拡張期血圧はC1.2/1.1CmmHg,脈拍はC1.8/分)を認めており,筆者らのC1カ月での下降幅(それぞれC4.9/3.4CmmHg,脈拍はC6.3/分)はCYamamotoらの報告より大きい値であった.今回検討した対象においては,これらのことが原因で体調不良をきたし点眼中止に至る症例はなく,最高齢の患者はC90歳であったが安全に使用できた.しかし,今回のようにCPG関連薬単剤からCPG/Cb配合剤への切り替えにおいては,常にCb遮断薬の全身性副作用の可能性を念頭におき,切り替え時には十分な問診を行い,切り替え後にも体調の変化がないかなどの確認が必要と考える.今回の検討における限界としては点眼時刻,各種パラメータ測定時刻,観察シーズンを対象間で統一できていないことがあげられ,季節変動や日内変動が影響している可能性がある.また今回はC3カ月という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたり評価を行っていく必要がある.CIV結論CLFCは正常眼圧緑内障患者の治療強化において有意な眼圧下降が得られる副作用の少ない点眼液であることが確認された.利益相反:木下茂:参天製薬【F】【P】,千寿製薬【F】【P】,大塚製薬【F】【P】,興和【F】【P】外園千恵:参天製薬【F】【P】森和彦:【P】池田陽子:【P】上野盛夫:【P】多田香織:【R】-II大塚製薬文献1)中牟田爽史ら:ラタノプロスト点眼液からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼薬への変更.臨眼C73:729-735,C20192)良田浩氣,安樂礼子,石田恭子ほか:カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼薬の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科36:1083-1086,C20193)CrichtonAC,VoldS,WilliamsJMetal:Oclarsurfacetol-erabilityCofCprostaglandinCanalogsCandCprostamidesCinCpatientswithglaucomaorocularhypertension.AdvTherC30:260-270,C20134)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:RandomizedCcontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationinprimaryopen-angleglaucomaorhyperten-sion.AmJOphthalmolC171:35-46,C20165)SharifCNA,CWilliamsCGW,CKellyCR:BimatoprostCandCitsCfreeCacidCareCprostaglandinCFPCreceptorCagonists.CEurJPharmacolC432:211-213,C20016)RossettiL,KarabatsasCH,TopouzisFetal:ComparisonofCtheCe.ectsCofCbimatoprostCandC.xedCcombinationCofClatanoprostCandCtimololConCcircadianCintraocularCpressure.COphthalmologyC114:2244-2251,C20077)FacioAC,ReisAS,VidalKSetal:Acomparisonofbima-toprost0.03%versusthe.xed-combinationoflatanoprost0.005%CandCtimolol0.5%CinCadultCpatientsCwithCelevatedCintraocularpressure:anCeight-week,Crandomaized,Copen-labeltrial.JOculPharmacolTherC25:447-451,C20098)IgarashiR,ToganoT,SakaueYetal:E.ectonintraocu-larpressureofswitchingfromlatanoprostandtravoprostmonotherapytotimolol.xedcombinationsinpatientswithnormal-tensionCglaucoma.CJCOphthalmolC2014:720385,C20149)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科32:133-143,C201510)DiestelhorstM,LarssonL-I,EuropeanLatanoprostFixedCombinationCStudyGroup:AC12-weekCstudyCcomparingCtheC.xedCcombinationCofClatanoprostCandCtimololCwithCtheCconcomitantCuseCofCtheCindividualCcomponantsCinCpatientsCwithCopenCangleCglaucomaCandCocularChypertension.CBrJOphthalmolC88:199-203,C200411)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:E.cacyandsafetyofC.xedCcombinationCofCtravoprost0.004%/timolol0.5%CophthalmicCsolutionConceCdailyCforCopen-angleCglaucomaCandocularhypertension.AmJOphthalmolC140:242-250,C200512)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:TheintraocuC-larpressure-loweringe.ectofprostaglandinanalogscom-binedwithtopicalb-blockertherapy:asystematicreviewandmeta-analysis.OphthalmologyC117:2067-2074,C201013)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculare.ectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmolC123:465-477,C1997***

プロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭血流変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):734.739,2017cプロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭血流変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析内匠哲郎伊藤浩幸安樂礼子竹山明日香榎本暢子石田恭子富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科PeripapillaryAtrophyandItsRelationtoChangesinOpticNerveHeadBloodFlowafterUseofTopicalProstaglandinAnaloguesTetsuroTakumi,HiroyukiIto,AyakoAnraku,AsukaTakeyama,NobukoEnomoto,KyokoIshidaandGojiTomitaDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine東邦大学医療センター大橋病院眼科で新たに診断された無治療の正常眼圧緑内障患者22例22眼を対象とし,ハイデルベルグレチナトモグラフ3による乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)形状測定と,レーザースペックルフローグラフィによる治療前,治療3カ月後の時点での乳頭組織血流測定を行い,その関連を前向きに検討した.治療3カ月後において,眼圧は有意に下降した.治療前後の乳頭組織血流変化率とPPAパラメータに有意な相関を認めなかった.また,治療3カ月後での血流増加群および低下群の間でPPAパラメータに有意差を認めなかった.一方,視神経乳頭の上下耳鼻側別での解析では,鼻側の乳頭組織血流増加群と下側の低下群において,PPAパラメータと乳頭組織血流変化率との間に有意な相関が一部認められた.PPAの大きさや広がりが点眼治療前後の乳頭組織血流変化に与える影響については,その関連性は否定できないが,関連の程度は低いと考えられた.Weprospectivelyinvestigatedthecorrelationbetweenperipapillaryatrophy(PPA)andmicrocirculationoftheopticnervehead(ONH)beforeandafterusingtopicalprostaglandinanaloguesinnormal-tensionglaucoma(NTG).Twenty-twopatientswithnewlydiagnosedNTGwereenrolledinthestudy.PPAparametersweremeasuredbyHeidelbergRetinaTomograph3.ONHmicrocirculationwasdeterminedbylaserspeckle.owgraphy(LSFG)beforeandat3monthsaftertreatment.ThemeanblurrateofthetissuecomponentoftheONH(MBR-T)wascalculat-ed.At3monthsaftertreatment,intraocularpressurewassigni.cantlyreduced.However,nosigni.cantcorrela-tionswereobservedbetweenPPAparametersandchangesintheMBR-T,exceptinthenasalquadrantandtheinferiorquadrantoftheONH.WeconcludethatPPAundeniablyin.uencesthee.ectoftreatmentforONHmicro-circulation,butitsrolemaynotbesigni.cantlyhigh.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):734.739,2017〕Keywords:視神経乳頭血流,レーザースペックルフローグラフィ,正常眼圧緑内障,乳頭周囲脈絡網膜萎縮.op-ticnerveheadcirculation,laserspeckle.owgraphy,normaltensionglaucoma,peripapillaryatrophy.はじめにこれまで乳頭周囲脈絡網膜萎縮(peripapillaryatrophy:PPA)と緑内障との関連についていくつかの報告がなされてきた.すなわち,①PPAの大きさは正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の機能,構造的異常とよく相関する1).②bゾーンPPAを認める緑内障眼はPPAを認めない緑内障眼と比較して視野進行が速い2).③PPAは視野進行領域の急速な部分と空間的に相関する3).④bゾーンPPAと網膜神経線維層欠損の局在は相関がある4).などである.一方,緑内障眼の眼血流について,近年わが国では,レーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)が実用化され,それらを用いた報告がなされてきた.すなわち,①緑内障眼の乳頭辺縁部では,組織血流と視野障害(パターン偏差)の上下比が相関する5),②LSFGにおけ〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒153-0044東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,2-17-6Oohashi,Meguro-ku,Tokyo153-0044,JAPAN734(132)る血流の指標であるmeanblurrate(MBR)は自動視野計の視野障害指標であるmeandeviation(MD)値やスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoher-encetomography:SD-OCT)で測定された網膜神経線維層厚ともによく相関する6),③原発開放隅角緑内障において,LSFGで得られた組織血流の波形解析パラメータであるskew,blowouttimeはMD値と有意に相関する7).④NTGにおいて,MBRはMD値,乳頭周囲網膜神経線維層厚,および黄斑部網膜神経節細胞複合体厚と有意に相関する8),などである.現在,緑内障点眼治療はプロスタグランジン(prostaglan-din:PG)関連薬が第一選択薬として用いられている.PG関連薬については,眼圧下降効果に加え,視神経乳頭部血流が増加したという報告9.11)が散見されるが,低下したという報告12)もある.また,これまでPPAは視神経乳頭局所の血流障害を示す構造変化であるとの認識があるが1),PPAと視神経乳頭血流の関連については不明な点も多い.今回筆者らは,無治療のNTG眼において,PG関連薬1剤点眼治療開始前後での視神経乳頭部組織血流(乳頭組織血流)変化とPPAパラメータの形状(大きさ,広がり)との関連について,とくにPPAの存在が視神経乳頭血流の変化に影響を与えるのかという観点から検討したので報告する.I対象および方法1.対象2013年1月.2015年10月に,東邦大学医療センター大橋病院眼科で新たに診断された無治療のNTG患者のうち,治療開始前3カ月以内にLSFGによる乳頭部血流測定と,ハイデルベルグ走査レーザー断層計(HeidelbergRetinaTomograph3.HeidelbergEngineeringGmBH,HRT3)にてPPA形状解析ができた症例を前向きに採用した.本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行われ,研究の要旨とプロトコールは東邦大学医療センター大橋病院倫理委員会の承認を受けた(承認番号:橋承12-83).すべての対象患者に対し口頭にて研究の内容を説明し,インフォームド・コンセントを得たうえで,同意文書に署名を得た.NTGの診断基準は,①24時間日内変動測定を含む複数回の眼圧測定にて眼圧<21mmHg,②特徴的な緑内障性乳頭変化(乳頭陥凹拡大:C/D比>0.7とそれに伴うリムの菲薄化)と網膜神経線維層束状欠損がみられ,信頼性のある視野検査結果(Humphrey自動視野プログラム中心30-2SITAにて,固視不良率<20%,偽陰性率<20%,偽陽性率<15%)にて,乳頭障害部に一致した視野障害が再現性をもって検出される,③両眼正常開放隅角,④ステロイド薬内服の既往,頭蓋内疾患,眼底の出血性病変など,眼圧,視野結果に影響を与える疾患の既往がないこと,とした13).また,本研究組み入れに際しての除外基準として,内眼手術既往歴があるもの,等価球面度数で<.6D,HRT3の画質が不良(画像のqualitycontrolで“poor”あるいは“unacceptable”と判定,または平均標準偏差>30μm),およびPPAがHRT3の撮影画角より大きい場合は対象から除外した.両眼組み入れ基準に合致した場合は,Humphrey視野の視野障害指数であるMD値(dB)が重度な側の眼を解析対象とした.対象患者に対して,Humphrey視野測定,Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定,眼底写真撮影(トプコンTRC-50DXTypeIAトプコン)を含む眼科的一般検査の後,HRT3によるPPA形状解析およびLSFGによる視神経乳頭部血流測定を行った.点眼薬はラタノプロスト点眼薬かタフルプロスト点眼薬を2人の眼科専門医(GT,KI)が恣意的に選択して投与した.2.HRT3によるPPA形状解析LSFG測定を同一日に行わない場合にはトロピカミド・フェニレフリン点眼,同一日に行う場合にはトロピカミド点眼にて散瞳,眼底写真撮影の後,HRT3(バージョン33.1.2.4)にて視神経乳頭部を画角15°で撮像し,熟練した1人の検者が眼底写真を参照しながら乳頭縁の決定を行った.引き続き,眼底写真を参照しながら,装置に内蔵されているPPAzoneanalysisprogramを用いて,HRT3画像上でbゾーンPPAの範囲を決定した.本研究ではbゾーンPPAは,視神経乳頭縁に沿って強膜と脈絡膜血管が目視できる網脈絡膜の萎縮部分と定義した.bゾーンPPAの形状のパラメータとして,つぎの5つのパラメータを求めた.すなわち,I.PPA全体の面積を示すatrophyarea(AA,mm2),II.PPAの乳頭周囲での広がりの状態を,乳頭中心を基点とした扇の角度として表現するtotalangularextent(TAE,°),III.乳頭中心からPPAの乳頭縁からもっとも離れた場所までの距離を示すtotalradialextent(TRE,mm),IV.totalradialextentのうち,乳頭縁からの距離を示す,maxi-mumdistancefromcontour(MDC,mm),そして,V.MDCを乳頭半径で割ったmaximumdistance/radius(MDR)の五つである(図1).3.LSFGによる視神経乳頭部血流測定トロピカミド点眼にて散瞳後,LSFG-Navi(ソフトケア社)を用いて,視神経乳頭部の血流測定を行った14,15).LSFG-Naviには波長830nmの半導体レーザー発振装置,CCDカメラが内蔵されており,スペックルパターンの変動をコンピュータで解析し,MBR(meanblurrate)値がカラーマップ表示される(図2).解析部位は視神経乳頭とし,四つの部位,すなわち上側,下側,耳側,鼻側の区域に分け,乳頭全体値および各部位の組織領域のMBR(MBR-T)を求めた.測定は3回行い,その平均値を解析に使用した.Ⅰ.Atrophyarea(AA)Ⅱ.Totalangularextent(TAE)Ⅲ.Totalradialextent(TRE)Ⅳ.Max.distancefromcontour(MDC)Ⅴ.Max.distance/radius(MDR;MDC/radius)図1PPAのパラメータ4.検討項目と統計学的解析両眼組み入れ可能な症例では,視野MD値が悪いほうの眼のデータを解析に用いた.点眼治療開始前および点眼後3カ月時点での,眼圧,LSFG測定直後の平均血圧,眼灌流圧〔計算式:2/3(1/3×収縮期血圧+2/3×拡張期血圧).眼圧〕,視神経乳頭全体および上下耳鼻側1/4円のMBR-Tの変化率および治療開始前の五つのPPAパラメータ値とした.点眼前,および点眼開始3カ月後の値の比較には対応のあるt検定を用いた.2群間の相関の解析にはSpearman順位相関係数を求めた.有意水準はいずれも,p<0.05とした.II結果22例22眼(男性7例7眼,女性15例15眼)が対象となった.平均年齢(±標準偏差)は56.7±3.0(歳),平均等価球面度数(±標準偏差)は.2.6±0.6(D),Humphrey視野の平均MD値(±標準偏差)は.3.9±0.7(dB),平均pat-ternstandarddeviation値(±標準偏差)は6.3±0.6(dB)であった.使用PG剤の内訳は,ラタノプロストが8例,タフルプロストが14例であった.点眼開始後3カ月で眼圧は有意に下降したが,平均血圧,眼灌流圧に変化はなかった(表1).治療前の乳頭組織血流とPPA各パラメ.タには有意な相関は認められなかった(表2).治療前後の乳頭組織血流MBR-Tは,全体値および上下耳鼻側において変化はなかった(表3).PPAの各パラメータとMBR-Tの変化率(治療後.治療前/治療前×100)とAllAreaInRubberBandMV=37.7(100.0%)MT-7.0(100.0%)MA=15.1MV-MT=30.7図2MBR(meanblurrate)のカラーマップ表示解析部位は視神経乳頭とし,四つの部位,すなわち上側(S),下側(I),耳側(T),鼻側(N)の区域に分け,乳頭全体値および各部位の組織領域のMBR(MBR-T)を求めた.図では,MV:MeanofVasculararea(ラバーバンド内血管領域のMBR平均値),MT:MeanofTissuearea(ラバーバンド内組織領域のMBR平均値),MA:MeanofAllarea(ラバーバンド内全領域のMBR平均値)が示されるが,このうち組織血流を示すMTを,MBR-Tとし検討項目に使用した.の相関についても,すべてのパラメータに有意な相関はみられなかった(表4).つぎに,治療後3カ月の時点で乳頭全体値および上下耳鼻側それぞれにおいてMBR-Tが増加した群と反対に低下していた群に分けて解析した.その結果,乳頭全体値でMBR-Tが増減した群分けに関して(増加群8眼,低下群14眼),PPAパラメータのTRE(増加群:0.48±0.05mm,低下群:0.60±0.07mm,p=0.070)とMDR(増加群:0.55±0.08,低下群:0.80±0.08,p=0.063)において,低下群のほうがPPAの網膜周辺部方向への進展度が大きい傾向にあったが,上下耳鼻側の増減で分けた場合は,すべてのPPAパラメータに有意な差はなかった(表5).一方,増加群,低下群別で,MBR-Tの変化率とPPAパラメータの相関を解析したところ,鼻側で増減した群分けにおいて(増加群12眼,低下群:10眼),MBR-Tの変化率は,増加群においてPPAパラメータのTAEと有意に正相関した.すなわち,PPAの広がりが大きい眼ほど乳頭組織血流はより改善していた.また,下側で増減した群分けにおいて(増加群12眼,低下群10眼),MBR-Tの変化率は,低下群においてPPAパラメータのAAが有意に正相関した.すなわち,PPAの面積が大きい眼ほど,MBR-Tが低下した率は大きかった(表6).III考察緑内障眼において,b-PPAに関連する報告や1.4),緑内障と視神経乳頭血流との関連について数多くの報告がなされている9.12).PPAは視神経乳頭部における循環障害を示すリスクファクターと考えられているが,これまでにPPAと視神経乳頭血流変化との関連を検討した詳細な既報はほとんどない.今回筆者らは,無治療の正常眼圧緑内障においてPPAの性状(面積および広がり)によって点眼治療前後における血流変化に違いがあるかを検討した.HRT3によって得られた画像を用いて各眼のPPAパラメータをHRT3に内蔵されるPPAanalysisprogramを用いて解析するとともに,LSFGを用い治療前,治療後3カ月時点での視神経乳頭全体表1治療前後眼圧・血圧・眼灌流圧治療前治療3カ月後p値眼圧(mmHg)16.0±0.512.8±0.4<0.001血圧(mmHg)87.5±2.685.2±2.5p=0.310眼灌流圧(mmHg)42.3±1.744.1±1.6p=0.327平均±標準偏差.対応のあるt検定表2治療前MBR.T値とPPAパラメータとの相関係数AATAETREMDCMDR乳頭全体.0.154.0.049.0.052.0.230.038(0.493)(0.828)(0.817)(0.920)(0.867)上側.0.1950.018.0.119.0.051.0.072(0.384)(0.936)(0.597)(0.820)(0.749)耳側0.0080.067.0.0330.0420.167(0.970)(0.766)(0.883)(0.851)(0.458)下側.0.331.0.259.0.261.0.263.0.224(0.132)(0.244)(0.241)(0.238)(0.316)鼻側.0.388.0.095.0.385.0.256.0.205(0.074)(0.673)(0.077)(0.250)(0.360)Spearman順位相関係数.():p値.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表3治療前後のMBR.T値治療前治療3カ月後p値乳頭全体10.5±0.510.3±0.50.523上側10.7±0.510.9±0.50.559耳側7.5±0.47.6±0.50.942下側10.5±0.411.0±0.50.238鼻側12.3±0.612.7±0.60.391平均±標準偏差.対応のあるt検定.および視神経乳頭を上側,耳側,下側,鼻側に4分割した際の各部位における組織血流(MBR-T)を測定した.その結果,治療開始前と治療3カ月後の時点において,PPAの五つのパラメータすべてとMBR-Tの変化率との間には有意な相関を認めなかった.PPAはこれまで視神経乳頭局所の血流に関連した変化と考えられており,PPAの大きさは緑内障性視野障害進行のリスクファクターとの報告されている16).一方,緑内障点眼薬によって,視神経乳頭血流が改善されたとする報告も少なくなく,PG剤においても報告がなされている17).ただ,点眼をすれば必ずしも全例で血流が増加するわけではなく,またその変化も個人差が多い18).緑内障治療薬点眼後の血流変化にPPAの存在が何らかの影響を及ぼすのか否かについては,これまでのところ検討した報告はほとんどない.今回の筆者らの検討では,PPAのパラメータ,すなわち,面積,広がり,周辺部に向かっての突出の程度,すべてに関して点眼前後の乳頭組織血流変化との関連はなかった.一方で,治療後乳頭組織血流が増加した群と低下した群に分けて解析したところ,低下群のほうがPPAの網膜周辺部方向への進展度(TREとMDR)が大きい傾向にあったが,有意ではなかった.また,上下耳鼻側別での乳頭組織血流の変化率においては,鼻側で増加した群において,PPAの広がり(TAE)が大きい眼ほど乳頭組織血流はより改善していた.また,下表4治療前後MBR.T変化率とPPAパラメータとの相関係数AATAETREMDCMDR乳頭全体.0.013.0.0470.0250.090.01(0.954)(0.836)(0.911)(0.691)(0.966)上側.0.1590.020.0.169.0.140.0.176(0.480)(0.930)(0.452)(0.536)(0.434)耳側.0.0320.208.0.099.0.033.0.007(0.887)(0.352)(0.660)(0.885)(0.974)下側.0.0320.091.0.0440.015.0.023(0.887)(0.687)(0.848)(0.946)(0.919)鼻側0.0030.126.0.0270.0080.006(0.990)(0.577)(0.905)(0.970)(0.978)Spearman順位相関係数.():p値.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表5乳頭全体におけるMBR.Tの増加および低下群間でのPPA比較AATAETREMDCMDR増加群(n=8)0.90±0.17174.3±22.560.48±0.05*0.46±0.050.55±0.08#低下群(n=14)0.95±0.12152.1±7.640.60±0.07*0.54±0.080.80±0.08#対応のないt検定,*:p=0.070,#:p=0.063AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表6MBR.T増加および低下群でのMBR変化率とPPAとの相関係数AATAETREMDCMDR増加群:乳頭全体(n=8).0.072.0.548.0.263.0.036.0.190(0.866)(0.160)(0.528)(0.933)(0.651)上側(n=11)0.0360.245.0.0230.055.0.059(0.915)(0.467)(0.947)(0.873)(0.863)耳側(n=9)0.0080.3330.209.0.0420.217(0.983)(0.381)(0.589)(0.915)(0.576)下側(n=12)0.0700.4550.0630.1750.123(0.829)(0.138)(0.846)(0.586)(0.704)鼻側(n=12).0.1820.601.0.340.0.364.0.455(0.572)(0.039)(0.280)(0.244)(0.147)低下群:乳頭全体(n=14).0.0730.354.0.279.0.204.0.090(0.805)(0.215)(0.334)(0.483)(0.759)上側(n=11)0.068.0.327.0.182.0.191.0.191(0.842)(0.326)(0.593)(0.574)(0.574)耳側(n=13)0.4890.1760.4730.4670.313(0.090)(0.566)(0.103)(0.108)(0.297)下側(n=10)0.669.0.2000.4180.3210.321(0.035)(0.580)(0.229)(0.365)(0.365)鼻側(n=10)0.225.0.115.0.0120.0790.079(0.532)(0.751)(0.973)(0.829)(0.829)Spearman順位相関係数,():p値,太字:有意な相関あり.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.側で増減した群分けにおいては,低下群においてPPAの面積(AA)が大きい眼ほど,MBR-Tが低下した率は大きかった.このことから,PPAの存在が緑内障治療薬点眼後の血流変化に何らかの影響を与えている可能性は否定できないが,全体としてはその影響は低いと考えられた.今回の研究の問題点として,すでに治療が開始されている紹介患者の割合が高い大学病院での単施設研究であり,対象となる未治療の緑内障症例数が22例と少ないため関連のある,なしを最終的に結論するには対象数を増やしてさらに検討する必要がある点があげられる.ただ,今回の解析結果では視神経乳頭全体としては相関係数は非常に小さく,さらに多くの対象を解析すれば何らかの有意差は得られる可能性は否定できないが,得られたとしても,PPAが乳頭組織血流変化に関与する割合は,臨床的に問題にならないほど非常に小さい可能性もある.今後,対象患者の全身要因も含め,どのような事前要素が緑内障治療点眼薬使用後の乳頭組織血流改善につながるかをさらに検討していく必要があると思われた.以上,まとめとして,PPAの形状(大きさ,広がり)が,少なくともPG関連薬点眼前後での乳頭組織血流変化に影響を与えている可能性は否定できないものの,その影響は少ないと結論した.本論文の内容の一部は,第120回日本眼科学会総会(仙台)にて発表した.文献1)ParkKH,TomitaG,LiouSYetal:Correlationbetweenperipapillaryatrophyandopticnervedamageinnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology103:1899-1906,19962)TengCC,DeMoraesCG,PrataTSetal:Beta-Zoneparapapillaryatrophyandthevelocityofglaucomapro-gression.Ophthalmology117:909-915,20103)TengCC,DeMoraesCG,PrataTSetal:Theregionoflargestb-zoneparapapillaryatrophyareapredictsthelocationofmostrapidvisual.eldprogression.Ophthal-mology118:2409-2413,20114)ChoBJ,ParkKH:Topographiccorrelationbetweenb-zoneparapapillaryatrophyandretinalnerve.berlayerdefect.Ophthalmology120:528-534,20135)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,20106)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Signi.cantcorre-lationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisual.elddefectsandnerve.berlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,20117)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化LSFG-NAVITMによる解析.あたらしい眼科29:984-987,20128)山下力,家木良彰,三木淳司ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性.あたらしい眼科31:1387-1391,20149)GherghelD,HoskingSL,Cunli.eIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocu-larcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients.Eye22:363-369,200810)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:E.ectsoftopicalphen-ylephrineandta.uprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,201011)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:E.ectsofprosta-glandinF(2a)analoguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularblood.ow:comparisonamongta.uprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,201012)小嶌祥太,杉山哲也,柴田真帆ほか:タフルプロスト長期点眼(1年間)による原発開放隅角緑内障の視野,視神経乳頭血流・形状の変化.臨眼68:895-902,201413)NakazawaT,ShimuraM,RyuMetal:Progressionofvisual.elddefectsineyeswithdi.erentopticdiscappearancesinpatientswithnormaltensionglaucoma.JGlaucoma21:426-430,201214)DaintyJC(ed):Laserspeckleandrelatedphenomena.SpringerVerlag,NewYork,197515)藤居仁:レーザースペックルフローグラフィーの原理.あたらしい眼科15:175-180,199816)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtheprogressionofvisual.elddamagesineyeswithnor-mal-tensionglaucoma.Ophthalmology101:1440-1444,199417)TsudaS,YokoyamaY,ChibaNetal:E.ectoftopicalta.uprostonopticnerveheadblood.owinpatientswithmyopicdisctype.JGlaucoma22:398-403,201318)HarrisA,EvansDW,CantorLBetal:Hemodynamicandvisualfunctione.ectsoforalnifedipineinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol124:296-302,1997***

眼内レンズ挿入後5年目に落屑症候群を発症した1例

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):288.291,2017c眼内レンズ挿入後5年目に落屑症候群を発症した1例古藤雅子與那原理子新垣淑邦酒井寛澤口昭一琉球大学医学部眼科学教室ACaseofExfoliationSyndromeDeveloped5YearsafterIntraocularLensImplantationMasakoKoto,MichikoYonahara,YosikuniArakaki,HirosiSakaiandShoichiSawaguchiDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityoftheRyukyus目的:正常眼圧緑内障(NTG)加療中に偽落屑物質(PE)の発症・沈着を生じた眼内レンズ(IOL)眼の報告.症例:57歳,男性.職業はバス運転手.2004年近医で左眼のIOL挿入術を施行,2006年より両眼のNTGと診断され治療が開始された.2009年6月に眼圧上昇を認めたため,琉球大学附属病院眼科を紹介受診したがPEは観察されなかった.IOL挿入後5年目の2009年12月,再来時に左眼瞳孔縁に微細なPEが観察された.2011年7月にはIOL表面にPEが観察された.IOL眼のフレア値は上昇していた.結論:PEの発症・進行を経時的に観察できたまれな1症例を報告した.Purpose:Toreportacaseofpseudoexfoliation(PE)syndromedevelopedinanintraocularlens(IOL)eyeduringtreatmentofnormal-tensionglaucoma(NTG).Case:A57-year-oldmalewhoworkedasabusdriverunderwentcataractsurgeryinhislefteyewithIOLimplantationin2004.BilateralNTGwasthendiagnosedandtreated.HewasreferredtoourhospitalonJune2009becauseofpoorintraocularpressurecontrol;PEcouldnotbedetectedatthis.rstvisit.SubtlePEaroundthepupillarymargincouldbedetectedonDecember2009,5yearsaftercataractsurgery.OnJuly2011,PEcouldbeseenontheIOLsurface.Flarevaluewasincreasedinthepseu-dophakicPEeye.Conclusion:WereportararecaseofPEsyndromedevelopedaftercataractsurgery,withdetailedtimecourse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):288.291,2017〕Keywords:落屑症候群,眼内レンズ,正常眼圧緑内障,フレア値.pseudoexfoliationsyndrome,intraocularlens,normaltensionglaucoma,.arevalue.はじめに水晶体偽落屑物質(pseudoexfoliation:PE)は瞳孔縁,水晶体表面に線維性細胞外物質の沈着が灰白色の薄片物質として観察され,また眼以外にも全身の臓器組織での産生・沈着が観察される疾患である1).落屑症候群の発症に関しては遺伝子異常の関与,さらに加齢,日光(紫外線)曝露を含めた環境因子や人種差,性差による影響など多くの因子が関与していることが明らかにされてきている.落屑症候群の臨床上重要な点は,緑内障を合併した場合その予後が不良な点と白内障手術における合併症の多さである.実際,開放隅角緑内障や閉塞隅角緑内障に比べてもその予後が不良であることが報告されている2).また,PEを伴う眼では緑内障の合併が多く,わが国では約17%が緑内障を合併することがYama-motoらによる大規模疫学調査,TajimiStudyで明らかにされた3).落屑症候群(落屑緑内障)はとくに加齢とともに有病者が急激に増加することが,多くの疫学調査で明らかにされている.わが国は高齢社会を迎え,高齢者における緑内障有病率の増加,白内障手術のいっそうの増加が予想される.白内障手術が落屑症候群の発症,進行に与える影響あるいは白内障手術と落屑症候群との関連についてはいまだ明らかではない.今回筆者らは白内障手術後,経過観察中に正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)を発症し,その加療中の患者にPEの発症をその時間経過とともに観察できたきわめてまれな1症例を経験したので,文献的考察を含め〔別刷請求先〕古藤雅子:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町上原207琉球大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasakoKoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN288(146)て報告する.I症例57歳,男性.職業はバス運転手.既往歴に気管支炎.2004年に左眼のIOL挿入術を近医眼科で施行した.2006年に両眼のNTGと診断され治療が開始されたが,次第に眼圧コントロールが不良となり,視野障害が進行したため,2009年6月に琉球大学附属病院眼科(以下,当科)を紹介受診した.初診時所見:視力右眼0.7(1.2×sph.0.50D(cyl.0.75DAx90°),左眼0.9(1.5×sph0.00D(cyl.0.75DAx95°),右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧18mmHg.前房は両眼とも深く,右眼初発白内障,左眼はIOL眼(.内固定)であった.視神経乳頭は両眼とも進行した緑内障の異常を認め,右眼耳下側に初期の,また左眼耳側上下に進行した網膜神経線維層欠損を認めた.この時点では細隙灯顕微鏡検査でPEの沈着は両眼とも観察されていなかった.開放隅角緑内障と診断し0.5%マレイン酸チモロール,ラタノプロスト,塩酸ドルゾラミド点眼を両眼に開始した.2009年12月再来院時(右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧21mmHg),左眼瞳孔縁に軽度のPEが観察されたが,右眼には観察されなかった.その後,注意深く観察を続けたところ2011年7月(右眼眼圧18mmHg,左眼眼圧21mmHg)には左眼IOL表面にPEの沈着が観察できるようになり,2013年11月(右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧21mmHg)には瞳孔縁に明らかなPE(図1)が,また2014年1月にはIOL表面にPEの沈着を観察できるようになった.また,PEの出現と前後して右眼眼圧12mmHg,左眼眼圧24mmHgと眼圧のコントロール不良が進行し,視野の悪化(図2)も認めたため2014年1月に左眼線維柱帯切開術を施行した.2016年5月(右眼眼圧16mmHg,左眼眼圧18mmHg)に散瞳下で行った細隙灯顕微鏡検査では右眼水晶体にはPEは認めず(図3a),左眼IOL表面には高度のPEの沈着が観察された(図3b).前眼部画像解析検査では虹彩裏面とIOLは接触していなかった.2016年5月に行ったフレアメーター(Kowa,Tokyo)による検査では,右眼13.0,左眼20.2のフレア値の上昇を認めた(正常対象:4.5±0.9).II考按初診時PEを両眼に認めなかった患者の左眼のIOL挿入後5年目にPEの発症,進行をその時間経過とともに観察できたまれな1症例を報告した.PEは水晶体前面あるいは瞳孔縁,虹彩面に観察される綿状の白色の沈着物で,病理組織学的には眼以外にも全身の臓器組織に観察される1).眼科では落屑症候群とよばれ,難治性の緑内障,白内障,またPEの沈着によるZinn小帯の脆弱化に伴う白内障手術の難易度の上昇や,術中・術後のIOLの偏移,脱臼,落下など種々の合併症が問題となる.落屑症候群は当初,北欧諸国で高頻度にみられ,報告が相ついだが,一方でわが国を含めその他の国では比較的まれな疾患とされてきた.しかしながら近年,日本および国際的な疫学調査でその有病率が次第に明らかにされ,わが国においては,Miyazakiらは1998年に九州の久山町での50歳以上の有病率が3.4%であることを報告し4),YamamotoらはTajimiStudyで40歳以上の1.0%が罹患していることを報告した3).わが国における落屑症候群の有病率が地域差はあるものの国際的にみても同等かそれ以上であることが明らかにされた.落屑症候群における緑内障(落屑緑内障)の頻度は臨床上きわめて重要であり,Yamamotoらは約17%と報告している3).すなわち,日常診療でPEが観察された場合6人のうち,1人が落屑緑内障であることが示された.PEの発症に関しては遺伝子の異常,加齢,日光(紫外線)曝露,人種差,性差など多くの因子が関与している.今回の症例は非常に長期間バス運転手をしており,日光(紫外線)曝露の影響が関与している可能性がある.また,近年若年期に屋外で過ごす時間がPE発症のリスク因子であることが明らかにされており5),小児期からの日光(紫外線)曝露には十分注意が必要である.本症例のように両眼ともPEが観察されていない症例がPEを発症するまでの時間経過については明らかでない(もっとも疫学調査では70歳以上で急激に有病率が上昇する).一方で片眼発症のPEにおける僚眼の発症までにかかる時間に関してはArnarssonらは5年間で27%,12年間で71%と報告している6,7).今回の症例のようにPEが観察されない状態からその発症までの時間経過を比較的正確に観察できた症例は,筆者らの知る限りではない.とくに白内障手術後約5年でPEを発症した今回の症例から,日常臨床においては白内障手術後少なくとも5年間以上は患者を定期的に診察する必要性のあることが示された.一方,欧米の文献を検索したところ,両眼ともPEの観察されていない患者のIOL挿入後のPEの発症時期に関してはIOL挿入後7年目(左眼)8),6年目(両眼),10年目(左眼),5年目(右眼)9),4年目(左眼),3年目(左眼)10)で,6症例7眼の報告があり,PE発症まで平均約6年であった.しかしながらこれらの報告のPE発症までの時間経過は正確でなく,偶然受診時にすでに著明なPEが観察された症例であった.すでに述べたように白内障手術,あるいはIOLがPEの発症,進行に影響を与えるかどうかは明らかでない.しかしながら今回の症例は白内障手術眼でのみPEが発症,進行している.同様に片眼IOLを挿入した3症例9,10)においても,非手術眼(水晶体眼)の他眼はPEの発症が観察されていない.筆者らの症例を含めて,白内障手術(IOL挿入)はPEの発症,進行に何らかの影響を与えているものと考えられる.またMiliaらは左眼にPEを認め,PEのない右眼のIOL挿入術後18カ月後という比較的短期間にPEを発症した症例を報告している8).SchumacherらはPE眼では一般的に血液房水関門が障害され,フレア値はPE(+白内障)眼では16.7±5.9,対象群の白内障眼では4.98±1.5と有意(p=0.001)にPE眼で高値であり,さらに白内障手術を行ったPE眼では血液房水関門はいっそう障害され,術後5日目でPE眼で21.2±5.7,に対し白内障手術を行った対象眼では10.5±1.4と有意差(p=0.003)を認めたと報告している11).同様に猪俣らは落屑症候群のフレア値を測定し,その値は進行したPE眼では13.9±7.1,軽度のPE眼では10.4±2.9であり有意(p<0.05)に,進行したPE眼のフレア値が高値であったと報告した12).今回の症例も同様にまだPEを発症していない有水晶体眼の右眼においても軽度のフレア値の上昇がみられた.さらに白内図1細隙灯顕微鏡検査所見瞳孔縁に明らかな偽落屑物質の沈着が観察される.障手術でその発症が加速する可能性は否定できない.フレア図2視野検査a:初診から半年後のGoldmann視野検査.鼻側内部イソプターの感度低下を認めた.b:初診から2年後には鼻下側の弓状暗点と鼻側下方視野欠損を認めた.図3散瞳下細隙灯顕微鏡検査所見a:初診から7年後の右眼水晶体には,偽落屑物質は散瞳下においても観察されていない.b:著明なスポーク状の偽落屑物質が人工水晶体表面に観察される.値の測定は白内障術前後の標準的な検査項目の一つであり,異常値がある症例では,PEが観察されていない状態でも注意深い細隙灯顕微鏡およびフレア値測定を含めた検査を行い,長期的定期的な診療を行う必要がある.文献1)NaumanGOH,Schloetzer-SchrehardtU,KuchileM:Pseudoexfoliationsyndromeforthecomprehensiveoph-thalmologist.Intraocularandsystemicmanifestations.Ophthalmology105:951-968,19982)Abdul-RahmanAM,CassonRJ,NewlandHSetal:Pseu-doexfoliationinaruralBurmesepopulation:theMeiktilaEyeStudy.BrJOphthalmol92:1325-28,20083)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandsecondaruyglaucomainaJapa-nesepopulation.TheTajimiStudyReport2.Ophthalmolo-gy112:1661-69,20054)MiyazakiM,KubotaT,KudoMetal:TheprevalenceofpseudoexfoliationsyndromeinaJapanesepopulation;TheHisayamaStudy.JGlaucoma14:482-484,20055)KangJH,WiggsJL,PasqualeLR:Relationbetweentimespentoutdoorsandexfoliationglaucomaorglaucomasus-pect.AmJOphthalmol158:605-614,20146)ArnarssonA,JonssonF,DamjiKEetal:Pseudoexfolia-tionintheReykjavikEyeStudy:riskfactorsforbaselineprevalenceand5-yearincidence.BrJOphthalmol95:831-35,20107)ArnarssonA,SasakiH,JonassonF:Twelve-yearinci-denceofexfoliationsyndrome:theReykjavikEyeStudy.ActaOphthalmol91:157-62,20138)MiliaM,KonstantopoulosA,StavrakasPetal:Pseudoex-foliationandopaci.cationofintraocularlenses.CaseRepOphthalmology2:287-290,20119)ParkK-A,KeeC:PseudoexfoliativematerialontheIOLsurfaceanddevelopmentofglaucomaaftercataractsur-geryinpatientswithpseudoexfoliationsyndrome.JCata-ractRefractSurg33:1815-1818,200710)KaliaperumalS,RaoVA,HarishSetal:Pseudoexfoliationonpseudophakos.IndianJOphthalmol61:359-361,201311)SchumacherS,NguyenNX,KuchleMetal:Quanti.ca-tionofaqueous.areafterphacoemulsi.cationwithintra-ocularlensimplantationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol117:733-35,199912)猪俣孟,田原昭彦,千々岩妙子ほか:落屑緑内障の臨床と病理.臨眼48;245-252,1994***

視野障害進行中の正常眼圧緑内障患者に対するカシスアントシアニンの視野障害進行抑制効果

2016年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(11):1656?1661,2016c視野障害進行中の正常眼圧緑内障患者に対するカシスアントシアニンの視野障害進行抑制効果井上賢治*1山本智恵子*1塩川美菜子*1比嘉利沙子*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EffectsofBlackCurrantAnthocyaninsonVisualFieldDefectsinNormal-tensionGlaucomaKenjiInoue1),ChiekoYamamoto1),MinakoShiokawa1),RisakoHiga1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:カシスアントシアニンが緑内障性視野障害進行を抑制するかを前向きに検討する.対象および方法:meandeviation(MD)値変化が?0.5dB/年以下の正常眼圧緑内障28例28眼を対象とした.点眼薬治療を継続し,カシスアントシアニン50mgを含む試験食品を1日3粒2年間摂取した.摂取前後2年間のMD値,patternstandarddeviation(PSD)値,visualfieldindex(VFI)値変化を比較した.結果:MD値変化は,摂取後(?0.18±0.64dB/年)は摂取前(?0.98±0.48dB/年)に比べて有意に改善した(p<0.0001).PSD値変化は摂取前後で同等であった.VFI値変化は,摂取後(?0.94±2.58/年)は摂取前(?2.53±2.00/年)に比べて有意に改善した(p<0.001).結論:カシスアントシアニンは緑内障性視野障害進行を抑制する可能性がある.Purpose:Weprospectivelyinvestigatedtheeffectsofblackcurrantanthocyanins(BCAC)onglaucomatousvisualfielddefects.Methods:Thestudyincluded28participants(28eyes)withnormal-tensionglaucoma(NTG)whosemeandeviations(MDs)were??0.5dB/yearduringtheprevious24months.BCACtabletswereaddedtoongoingeyedroptreatments;3tablets(50mg/day)wereadministeredonceadayfora24-monthperiod.MDslope,patternstandarddeviation(PSD)slopeandvisualfieldindex(VFI)slopeduringthe24monthsafteradministrationwerecomparedwiththerespectivevaluesduringthe24monthsbeforeinitiationoftreatment.Results:MDslopeimprovedfrom?0.98±0.48dB/yearto?0.18±0.64dB/year(p<0.0001).VFIslopeimprovedfrom?2.53±2.00/yearto?0.94±2.58/year(p<0.001).TherewasnosignificantchangeinPSDslope.Conclusion:BCACcouldeffectivelyslowtheprogressionofglaucomatousvisualfielddefectsinNTGpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1656?1661,2016〕Keywords:カシスアントシアニン,視野障害,正常眼圧緑内障,MD,PSD,VFI.blackcurrantanthocyanins,visualfielddefects,normal-tensionglaucoma,meandeviation,patternstandarddeviation,visualfieldindex.はじめに緑内障治療の最終目標は患者の視野障害進行の抑制である.視野障害進行抑制に対して唯一エビデンスが得られているのが眼圧下降である1,2).しかし,眼圧を十分に下降させても視野障害が進行する症例も存在する.そのような症例では眼圧以外の要因が視野障害進行に関与していると考えられる.その要因として,血流障害や神経細胞死があり,血流改善3)や神経保護作用4)が視野障害進行抑制に効果的だったと報告されている.一方,昔からブルーベリーは眼によいといわれている.しかし,ブルーベリーなどの果実を毎日多量に摂取するのは困難なので,錠剤にしたサプリメントが世界的に発売されている.ヨーロッパではサプリメントは一部医薬品として登録されている.実際に緑内障性視野障害の進行抑制効果がイチョウ葉エキスやビルベリーアントシアニンで報告されている5).アントシアニンの目に対する効果としてロドプシンの再合成促進作用6),血流改善7,8),毛様体筋緊張の緩和9),近視抑制10),眼精疲労軽減11)などが報告されている.アントシアニンを多量に含有する果実としてカシスがある.カシスアントシアニンによる緑内障性視野障害の進行抑制効果が日本人原発開放隅角緑内障患者で報告された7).今回,この論文を再検証する目的で,カシスアントシアニンが緑内障性視野障害の進行抑制に寄与するかを,日本人正常眼圧緑内障患者を対象にして前向きに検討した.I方法2011年9月?2012年10月に井上眼科病院に通院中の20歳以上75歳以下の正常眼圧緑内障患者のうち,本研究の主旨を説明し本人の文書による同意が得られ,以下の選択基準を満たし除外基準に抵触しない症例を対象とし,前向き一般臨床試験で実施した.選択基準は緑内障点眼薬治療を2年間以上受けており,試験開始前2年間のHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITA-Standard(以下,HFA30-2)のmeandeviation(MD)値が悪化している症例,MD値?12.0dB以上の早期から中期の緑内障性視神経障害があり,矯正視力0.7以上で,試験開始前2年間の眼圧に変化がない症例とした.除外基準は緑内障以外に視野検査に影響する疾患を有する症例,白内障手術後1年以内の症例,食物アレルギーを有する症例,重篤あるいは進行性の全身性疾患を有する症例,本研究に影響する可能性のある健康食品を常用している症例,妊婦や授乳中の症例とした.カシスアントシアニン摂取24カ月前から摂取開始日までの6カ月ごとのHFA30-2のMD値の変動が2.0dBを超える症例,HFA30-2で信頼性が低い(固視不良20%以上,偽陽性または偽陰性反応33%以上),あるいは検査実施日が規定の検査日±3カ月を超えていて摂取24カ月前から摂取開始日までにHFA30-2で4回以上のデータがない症例,摂取開始日のHFA30-2の信頼性が低い症例は除外した.解析時にはHFA30-2のMD値が悪化している基準として摂取前24カ月間のHFA30-2のMD値変化が?0.5dB/年以下とした.両眼該当例では視野障害が重度のほうの眼を解析に用いた.試験期間中は従来からの緑内障点眼薬治療(表1)を継続し,さらにカシスアントシアニンを含む試験食品(カシス-iR,明治)を1日1回3粒,2年間摂取した.試験食品は1日量(3粒)当たりカシス抽出物(カシスアントシアニン50mg含有),b-カロテン1,800μg,ルテイン0.5mgの他,オリーブ油,大豆レシチン,グリセリン脂肪酸エステルを,ゼラチンおよびグリセリン製軟カプセルに充?した軟カプセル剤である.受診ごとに試験食品の摂取状況を確認した.測定項目は,眼圧,MD値,patternstandarddeviation(PSD)値,visualfieldindex(VFI)値,自己記入式アンケート(表2)とした.眼圧は受診ごとにGoldmann圧平眼圧計で測定し,6カ月ごとの測定値を解析に用いた.HFA30-2と自己記入式アンケートは6カ月ごとに実施した.また,摂取前24カ月間と摂取後24カ月間のMD値,PSD値,VFI値の変化量が改善,不変あるいは悪化した症例数をそれぞれ調べた.統計学的検討は,摂取前24カ月間と摂取後24カ月間のMD値変化(dB/年),PSD値変化(dB/年),VFI値変化(/年)をWilcoxonsignedranktestで,眼圧変化はANOVAおよびBonfferoni/dunn検定で比較した.自己記入式アンケートは摂取開始日と摂取24カ月後についてWilcoxonsignedranktestで比較した.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.眼圧下降が視野障害進行抑制に効果を示すことは証明されている1,2)ことから,その影響を除外する目的で試験食品摂取前と摂取24カ月後で眼圧が有意(p<0.05,ANOVAおよびBonfferoni/dunn検定)に下降した症例は解析から除外した.その他,摂取率が80%以下の症例は解析対象から除外した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得て実施した.II結果同意を得られた72例のうち摂取前24カ月間のHFA30-2のMD値の変動が大きかった症例(4例),HFA30-2で信頼性が低いあるいは検査実施日が規定検査日±3カ月を超えていて摂取24カ月前から摂取開始日までにHFA30-2で4回以上のデータがない症例(19例),摂取開始日のHFA30-2の信頼性が低い症例(4例)の合計27例は摂取6カ月後までに中止として,45例で摂取を継続した.さらに摂取前24カ月間のHFA30-2によるMD値変化が?0.5dB/年よりも大きい11例と同意を撤回した2例を除外した32例を本試験の対象者とした.摂取率80%以下の2例,摂取開始後に眼圧が有意に下降した2例を除いた28例にて解析を行った(図1).解析対象28例(男性8名,女性20名)の平均年齢は59.1±11.8歳,(平均±標準偏差,30?74歳),使用中の緑内障点眼薬は平均1.6±0.8剤で,1剤15例,2剤9例,3剤3例,4剤1例であった(表1).MD値は摂取24カ月前(?4.45±2.71dB)から摂取開始日(?5.55±2.76dB)では有意に低下し(p<0.0001),摂取開始日から摂取24カ月後(?6.33±3.20dB)では変化はなかった(p=0.0992).MD値変化は摂取24カ月前から摂取開始日では?0.98±0.48dB/年,摂取開始日から摂取24カ月後では?0.18±0.64dB/年で,摂取開始後に有意に改善した(p<0.0001).MD値変化量および変化(傾き)を図2に示した.MD値変化が摂取前24カ月間に比べて摂取後24カ月間のほうが改善した症例は24例(85.7%),不変あるいは悪化した症例は4例(14.3%)だった.PSD値は摂取24カ月前(8.74±3.90dB)から摂取開始日(9.40±3.81dB)では有意に上昇し(p<0.05),摂取開始日から摂取24カ月後(10.12±3.53dB)では変化はなかった(p=0.8083).PSD値変化は摂取24カ月前から摂取開始日までは0.79±1.01dB/年,摂取開始日から摂取24カ月後では0.32±0.95dB/年で変化はなかった(p=0.060).PSD値変化量および変化(傾き)を図3に示した.PSD変化が摂取前24カ月間に比べて摂取後24カ月間のほうが改善した症例は16例(57.1%),不変あるいは悪化した症例は12例(42.9%)だった.VFI値は摂取24カ月前(86.25±8.54)から摂取開始日(85.26±8.49)では有意に低下し(p<0.001),摂取開始日から摂取24カ月後(82.38±9.33)では変化はなかった(p=0.2362).VFI値変化は摂取24カ月前から摂取開始日では?2.53±2.00/年,摂取開始日から摂取24カ月後では?0.94±2.58/年でカシス摂取後に有意に改善した(p<0.001).VFI値変化量および変化(傾き)を図4に示した.VFI値変化が摂取前24カ月間に比べて摂取後24カ月間のほうが改善した症例は23例(82.1%),不変あるいは悪化した症例は5例(17.9%)だった.MD値,PSD値,VFI値のすべての変化(傾き)が改善した症例は13例(46.4%)だった.MD値変化とPSD値変化のみが改善した症例は1例(3.6%),MD値変化とVFI値変化のみが改善した症例は7例(25.0%),PSD値変化とVFI値変化のみが改善した症例は2例(7.1%)だった.MD値,PSD値,VFI値のすべての変化が不変あるいは悪化した症例は1例(3.6%)だった(図5).眼圧は,摂取24カ月前は13.5±2.7mmHg,摂取18カ月前は13.3±2.6mmHg,摂取12カ月前は13.5±2.4mmHg,摂取6カ月前は13.2±2.3mmHg,摂取開始日は12.7±2.0mmHgで摂取前まで変化がなく(p=0.054),摂取6カ月後は12.7±2.3mmHg,摂取12カ月後は12.5±2.1mmHg,摂取18カ月後は12.9±2.5mmHg,摂取24カ月後は12.6±2.3mmHgで,摂取後も変化はなかった(p=0.698).自己記入式アンケート調査では「眼が疲れる」「涙が出る」「いらいらする」の3項目において,摂取開始日に比べて摂取24カ月後に有意に改善した(p<0.05,p<0.05,p<0.01)(図6).III考按カシスアントシアニンによる原発開放隅角緑内障患者の視野障害進行抑制がOhguroらの研究により報告されている7).そこで,当院においても,カシスアントシアニンを含む食品の摂取が,視野障害進行中の緑内障患者の視野障害進行を抑制するかについて検討を行った.日本人においては,原発開放隅角緑内障患者の多くは正常眼圧緑内障患者12)であることから,本試験の対象は視野障害が進行中の正常眼圧緑内障患者を対象とした.眼圧下降による視野障害進行抑制作用は証明されている1,2)ので,摂取後に眼圧が有意に下降した症例は解析からは除外し,眼圧非依存性での要因を検討した.今回,視野障害進行症例の判断基準としてHFA30-2によるMD値変化が?0.5dB/年以下とした.過去の緑内障を治療中の患者の視野障害の進行速度は?0.41dB/年13),?0.34±0.17dB/年14),あるいは進行症例は?0.71dB/年で非進行症例は?0.01dB/年15)と報告されている.一方,緑内障を無治療で経過観察している患者の視野障害の進行速度は?0.36dB/年16),?0.41dB/年17)と報告されている.過去の報告13?17)の視野障害進行速度を基にして今回の基準を設定した.カシスアントシアニンの緑内障患者に対する効果はOhguroらにより多数報告されている7,8,18).カシスアントシアニンの緑内障性視野障害進行抑制に対する無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験の報告では,カシスアントシアニン摂取群(カシスアントシアニン50mg/day)20例とプラセボ群20例で摂取前後2年間の眼圧,視野MD値,眼血流を評価した.眼圧は両群とも摂取前後で変化なく,両群間にも差がなかった.MD値の変化は,カシスアントシアニン摂取群では,摂取後にMD値の悪化が抑制された.眼血流はカシスアントシアニン摂取群でプラセボ群に比べて,有意に血流が増加した7).一方,健常人のボランティアにカシスアントシアニンあるいはプラセボを投与したところ,眼圧は投与2週間後ではカシスアントシアニン群がプラセボ群に比べて有意に下降したが,投与4週間後では2群で同等だったと報告した18).正常眼圧緑内障患者30例でカシスアントシアニン(50mg/day)を摂取し,6カ月間経過観察した研究では,摂取前後で眼圧に差はなく,視神経乳頭および乳頭周囲網膜の血流量は有意に増加した.また,摂取後に血中エンドセリン-1濃度は有意に増加した8).MD値とVFI値の変化は摂取前24カ月間に比べて摂取後24カ月間で有意に改善し,OhguroらのMD値の報告7)と同様の結果を得た.また,PSD値変化では摂取前後で有意な変化はみられなかったものの,摂取前24カ月間では有意に上昇していたのに対し,摂取後24カ月間では変化がみられなかった.症例を個別に検討したところ,MD値変化がカシス摂取前24カ月間に比べてカシス摂取後24カ月間のほうが改善した症例が85.7%と多数みられた.同様にPSD値変化,VFI値変化が改善した症例が各々57.1%と82.1%にみられた.MD値,PSD値,VFI値のすべての変化が改善した症例も46.4%存在した.試験食品摂取後の視野障害進行抑制作用は,Ohgroらの報告8)から視神経乳頭の眼血流改善によるものと推測され,その作用は眼圧非依存的であることが示唆された.今回摂取した試験食品はカシスアントシアニンのほかに,目によい成分とされるbカロテン1,800μg,ルテイン0.5mgを含有しており,それらによる影響も考えられるが,それらの含有量はこれまでに有効性の報告された量19)に比べると非常に少ないことから,本作用はカシスアントシアニンによるものが大きいと考える.また,自己記入式アンケートにて有意な改善がみられた「眼が疲れる」は,カシスアントシアニンの血流改善作用8)と毛様筋緊張の緩和9)によると推測される.今回,過去2年間に眼圧に変化がないのに視野障害が進行している正常眼圧緑内障患者に,従来の点眼薬治療を継続しながら,カシスアントシアニンを2年間摂取してもらった.全体では視野障害進行は抑制された.個別の検討ではMD値,PSD値,VFI値のいずれかの変化量が改善した症例は57.1?85.7%だった.眼圧が下降した症例は解析から除去したので,眼圧非依存性にカシスアントシアニンにより正常眼圧緑内障患者で進行中の視野障害を抑制できる可能性が示唆された.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,20084)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20115)ShimSH,KimJM,ChoiCYetal:Ginkgobilobaextractandbilberryanthocyaninsimprovevisualfunctioninpatientswithnormaltensionglaucoma.JMedFood15:818-823,20126)MatsumotoH,NakamuraY,TachibanakiSetal:Stimulatoryeffectofcyanidin3-glycosidesontheregenerationofrhodopsin.JAgricFoodChem51:3560-3563,20037)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,20128)OhguroI,OhguroH,NakazawaM:Effectsofanthocyaninsinblackcurrantonretinalbloodflowcirculationofpatientswithnormaltensionglaucoma.Apilotstudy.HirosakiMedJ59:23-32,20079)MatsumotoH,KammKE,StullJTetal:Delphinidin-3-rutinosiderelaxesthebovineciliarysmoothmusclethroughactivationofETBreceptorandNO/cGMPpathway.ExpEyeRes80:313-322,200510)IidaH,NakamuraY,MatsumotoHetal:Differentialeffectsofblackcurrantanthocyaninsondiffuser-ornegativelens-inducedocularelongationinchicks.JOculPharmacolTher29:604-609,201311)NakaishiH,MatsumotoH,TominagaSetal:EffectsofblackcurrentanthocyanosideintakeondarkadaptationandVDTwork-inducedtransientrefractivealterationinhealthyhumans.AlternMedRev5:553-562,200012)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,200413)SakataR,AiharaM,MurataHetal:Contributingfactorsforprogressionofvisualfieldlossinnormal-tensionglaucomapatientswithmedicaltreatment.JGlaucoma22:250-254,201314)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearprospective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglaucomapatients.Eye18:984-989,200415)NaitoT,YoshikawaK,Mizo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原発開放隅角緑内障の全身的危険因子の検討

2015年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(11):1609.1613,2015c原発開放隅角緑内障の全身的危険因子の検討三戸千賀子*1池田陽子*2,3森和彦3山田裕美*3津崎さつき*2長谷川志乃*2上野盛夫*3中野正和*4吉井健悟*5木下茂*3*1三戸眼科*2御池眼科池田クリニック*3京都府立医科大学眼科学*4京都府立医科大学ゲノム医科学*5京都府立医科大学基礎統計学AnalysisoftheSystemicRiskFactorsofPrimaryOpen-angleGlaucomaandNormal-tensionGlaucomaChikakoSannohe1),YokoIkeda2,3),KazuhikoMori3),HiromiYamada3),SatsukiTsuzaki2),ShinoHasegawa2),MorioUeno3),MasakazuNakano4),KengoYoshii5)andShigeruKinoshita3)1)SannoheEyeClinic,2)Oike-IkedaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,4)DepartmentofGenomicMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofMedicalStatistics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine広義原発開放隅角緑内障(POAG)の患者においてbodymassindex(BMI)を含む全身的なリスク因子(RF)を検討した.対象は2010年6月.2013年11月に三戸眼科と御池眼科池田クリニックに通院中の患者;原発開放隅角緑内障(以下,狭義POAG)119例,正常眼圧緑内障(NTG)378例,および2005年3月.2013年11月に京都府立医科大学にて緑内障正常外来を受診して正常と判定された正常対照644例である.これらの3群でBMI,糖尿病,心疾患,高血圧,高脂血症,年齢,性別,緑内障家族歴の有無を調査し,強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った.その結果,BMIが高いことは狭義POAGに対してオッズ比0.75で保護因子となり,逆にBMIが低いことがRFとなった.高血圧はNTGに対してRF(オッズ比1.67)となった.また,緑内障家族歴(オッズ比2.61)と糖尿病(オッズ比3.40)は狭義POAGとNTGの両者に対してRFとなった.Thisstudyinvolved1141subjects:119POAGpatients,378NTGpatientsand644age-matchednormalcon-trolsubjects.GlaucomapatientswereenrolledatSannoheEyeClinicandOike-IkedaEyeClinic.Thenormalcon-trolsubjectswereenrolledatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,andwerediagnosedbyglaucomaspecial-istsasnormalafterseveralophthalmicexaminations,includingopticdiscimagingandvisual.eldtesting.BMI,presenceofsystemicdiseases(diabetesmellitus,heartdisease,hypertensionandhyperlipidemia),genderandfamilialhistoryofglaucomawereevaluatedinrelationtoglaucomatype(POAGorNTG),usingstepwiselogisticregressionanalysis.Thesystemicriskfactors(RF)betweenNTGandPOAGweredi.erentfromourdataset;HT(oddsratio:1.67)wasRFforNTG;highBMI(oddsratio:0.749)wasprotectiveforPOAG.Familialhistoryofglaucoma(oddsratio:2.610)andDM(oddsratio:3.400)werealsosigni.cantRFforbothPOAGandNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(11):1609.1613,2015〕Keywords:BMI,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,多重ロジスティック解析,リスク因子.bodymassin-dex,primaryopenangleglaucoma,normaltensionglaucoma,logisticregressionanalysis,riskfactor.はじめにこれまでに原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)発症の危険因子として多くの因子が報告されている1.6).これらのなかには家族歴4,7),遺伝子8)などの遺伝要因のみならず,近視3,9)や糖尿病1,5,10,11),肥満1),高血圧1,10,12,13),高脂血症14),加齢3,4),眼圧3,4,15),酸化ストレス16)などの環境要因があり,これらの因子は緑内障の病態に複雑に関連しているものと考えられる.しかしながら報告によっては結果が異なる因子も存在している.糖尿病,肥満や高脂血症,血圧などメタボリックシンドロームにおいて〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)1609は,POAGに対して危険因子と保護因子5,17.22)の両者が報告されているし,関係なし3,19,23,24)とする報告もある.たとえばNewman-Caseyら1)は白人女性において肥満はPOAGの大きな危険因子になると報告しているが,多治見スタディ3)ではbodymassindex(BMI)とPOAGの間に関連はなかったと報告している.また,Asraniら18)は低いBMIが正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の危険因子になると報告しており,バルバドススタディ19)でもアフリカ人種において低いBMIがNTGの危険因子になると報告されている.Pasqualeら5)とRamdasら17)は女性においてBMIが高値であれば緑内障になりにくいと報告している.一方,高脂血症はOhら14)が眼圧を上昇させる可能性があると報告しており,Leungら21)は高脂血症の治療が緑内障の危険性を減弱させると報告している.Newman-Caseyら1)は糖尿病のみであれば35%,高血圧のみであれば17%,糖尿病と高血圧の両者を有する場合は48%も緑内障発症の危険が高くなるが,高脂血症のみでは5%危険性を減らし,かつ高脂血症と糖尿病,高血圧が合併した場合もその危険性を減らすと報告している.また,POAGのリスクバリアントとして報告されているCDKN2B-AS18)は染色体9番21領域に存在しており,この領域は糖尿病25),心臓病26),など全身疾患のリスクバリアントとしても共通しており,遺伝的にもかかわりがある可能性がある.このようにPOAG発症や病態にはさまざまな因子が関与しているが,これまでの報告では生活習慣病とPOAGとの関連について十分にコンセンサスが得られる結果が出ているとは言いがたい.そこで今回,筆者らはPOAGのBMIを含んだ全身的な危険因子について,狭義POAG群,NTG群,正常対照(normaltension:NC)群において比較検討を行った.I対象および方法対象は総計1,141例で,その内訳は狭義POAG119例(男女比66:53,平均年齢65.8±10.7歳),NTG378例(男女比227:151,平均年齢64.3±12.2歳)およびNC644例(男女比190:454,平均年齢63.8±8.1歳)である(表1).狭義POAG群とNTG群は2010年6月.2013年11月に青森県青森市の三戸眼科と京都府京都市の御池眼科池田クリニックおよび京都府立医大附属病院眼科に通院していた患者である.緑内障の診断は日本緑内障学会ガイドラインに基づいて行った,NC群は2005年3月.2013年11月に京都府立医科大学にて緑内障正常外来を受診したボランティアである.この外来にはこれまでに緑内障といわれたことがないという条件で参加が可能である.受診者には視神経乳頭,視野検査を含む眼科学的な諸検査〔眼底写真,レフ,ケラト,FDT/Humphrey30-2SITAStandard,GDx,HRT,オプトビュー/ニデックOCT,ビサンテまたはカシア,IOLマスター,スペキュラ,ペンタカム,スリット(前眼部,後眼部),ノンコンタクト眼圧/アプラネーション眼圧,隅角鏡,〕を実施し,緑内障専門医が診察を行い,最終的に複数の緑内障専門医により正常と判定された症例である(表1).これらの3群でBMI,糖尿病,心疾患,高血圧,高脂血症,性別,緑内障家族歴の有無を問診にて聴取し,その結果を強制投入法による多重ロジスティック回帰分析で解析を行った.統計解析にはTheRsoftware(version3.0.2)を用い,有意水準は5%未満とした.II結果広義POAGとNC群を比較した結果,緑内障家族歴(オッズ比:2.46,p<0.001),糖尿病(オッズ比:3.30,p<0.001),高血圧(オッズ比:1.72,p=0.006)は広義POAGの危険因子(RF)となった(表2).狭義POAG群とNC群を比較すると,BMI(オッズ比:0.75,p=0.018)は,狭義POAGに対して保護的に作用し,糖尿病(オッズ比:6.11,p=0.025)と緑内障家族歴(オッズ比:5.32,p=0.011)はRFとなった(表3).一方,NTGとNC群の比較では,糖尿病(オッズ比:3.12,p<0.001),緑内障家族歴(オッズ:2.31,p<0.001),高血圧(オッズ比:1.67,p=0.010)がRFであった(表4).各病型で男女比が異なるため,BMIと性別の相互作用の検討を行った.各病型にBMIと性別との関係を示す相互作用項を加えて多重ロジスティクス回帰分析を行った.広義POGAとNC群,狭義POGA群とNC群,NTG群とNC群表1対象の内訳表2正常対照群VS広義POAG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果対象n(男性/女性)年齢(歳)BMI(kg/m2)緑内障家族歴(%)糖尿病(%)高血圧(%)高脂血症(%)POAG群NTG群NC群119(66/53)378(227/151)644(190/454)65.8±10.764.3±12.263.8±8.122.5±3.222.8±3.222.2±2.937.722.59.647.116.24.566.040.920.526.714.211.21610あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(98)偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数.0.590.89───性(男性).0.290.180.1020.750.53.1.06年齢.0.020.010.0340.980.96.1.00BMI0.030.030.3681.030.97.1.08緑内障家族歴0.900.22<0.0012.461.59.3.82糖尿病1.190.29<0.0013.301.87.5.84高脂血症.0.460.300.1240.630.35.1.13高血圧0.540.200.0061.721.17.2.52心疾患0.240.320.4461.280.68.2.40表3正常対照群VS狭義POAG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数4.553.38───性(男性).1.510.640.0190.220.06.0.78年齢.0.030.030.3420.970.91.1.03BMI.0.290.120.0180.750.59.0.95緑内障家族歴1.670.660.0115.321.46.19.5糖尿病1.810.810.0256.111.26.29.7高脂血症.0.481.100.6630.620.07.5.38高血圧0.880.670.1912.410.65.8.96心疾患0.001.150.9981.000.11.9.48表4正常対照群VSNTG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数.1.040.91───性(男性).0.210.180.2550.810.57.1.16年齢.0.020.010.0400.980.96.1.00BMI0.040.030.1561.040.98.1.10緑内障家族歴0.840.23<0.0012.311.47.3.62糖尿病1.140.30<0.0013.121.74.5.60高脂血症.0.440.300.1470.640.36.1.17高血圧0.510.200.0101.671.13.2.47心疾患0.260.330.4211.300.69.2.47のモデルにおいて交互作用項の有意差は認められなかった.よってBMIと性別の説明変数間の相互作用はみられなかった.III考按全身疾患と緑内障の関係を見た過去の大規模な報告の一覧1.5)と今回の結果を表5に示した.結果は報告によりさまざまであり,検査の方法や対象選択も一定ではないため単純に比較することはむずかしい.今回,緑内障家族歴が両病型で有意にRFとなったが,これは以前からの報告と矛盾しない.また今回はPOAGのRFとして低BMIが有意となった.BMIに関しては関係なしとする報告3,23),高いことがRFになるという報告1),逆に低いことがRFになるという報告2,5,17.21)があり,一定のコンセンサスは得られていない.Berdablら2)は,低脳脊髄圧はOAGのRFと報告しており,脳脊髄圧とBMIが正比例するので,結果としてBMIが低いと脳脊髄圧も低くなり,OAGの発症リスクを高めている可能性があると報告している.また,Asraniら18)は低BMIの人では高BMIの人よりも血管調整不良(vasculardysregu-lation)を起こしやすいとし,これらの要因がRFとして働いている可能性があると報告している.また,今回の結果では高血圧がNTGのRFとなった.高血圧に関しても,関係なしとの報告3,23,24),高いとRFになるという報告1,10,20,21),逆に低いとRFになるとの報告4,20)があり,これも一定のコンセンサスが得られていない.高血圧が眼圧を上げるという報告3,23)は多くみられるが,緑内障の(99)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151611表5全身的要因と緑内障の関連性の報告一覧報告者症例数(case/control)緑内障病型と症例数危険因子BMIHTDMHLHDFHNewman-CaseyPAら1)55,090/2,127,225OAG55,090+++++(low)BerdahlJPら2)4,235/0POAG4235+(low)SuzukiYら3)119/2,556NTG119―――+LeskeMCら4)125/3,077OAG125+(low)―+PasqualeLPRら5)980/1,689,374POAG657―――NTG323+(low)三戸ら497/644POAG119+(low)―+――+NTG378―+HT:高血圧,DM:糖尿病,HL:高脂血症,HD:心疾患,FH:緑内障家族歴.BMI:bodymassindex.RFになるという報告10,12,13)は多くない.血圧が高いことが緑内障のRFになると考えられる3つの説がある.1番目に毛細動脈の灌流圧上昇により毛様動脈圧が上昇し,前房水の産生が増えることによる眼圧上昇が関与する可能性である12).2番目に視神経に栄養を送る終末小血管の動脈硬化性のダメージと硬化があり,それにより緑内障性の神経障害を起こす可能性である13).3番目が降圧薬内服により,血圧が下降し,眼灌流圧が下がり視神経線維にダメージを与える可能性である1).今回の結果はNTGではPOAGよりも血管や血流の要因が強く働いている可能性が示唆された.糖尿病は狭義POAGとNTGの両者のRFという結果となった.糖尿病もまた関係なしとする報告3,6,19,23,24)とRFとなる1,10,11)という両方の結果が報告されている.Sza.ikら11)は糖尿病は全身疾患であり,広範囲の血管内皮機能不全が起こり,視神経に栄養を送る小血管の機能障害が視神経障害を引き起こす可能性があると報告している.またDM患者は概してBMIが高いため,高血糖や肥満が眼圧上昇にかかわっている可能性もある.また広義POAGやNTGにかかわるCDKN2BAS-1と同じ9p21領域に2型糖尿病もかかわると報告がある25).これらの要因が両病型にかかわることでRFとなった可能性が示唆される.ただし多治見スタディ3,23)では糖尿病はPOAGとは関連がないと報告されており,同じ日本人との報告としては結果が異なったものとなった.今回の対象症例が診療所を主体としたものであり,診療所では内科からの紹介で糖尿病の眼底検査を依頼されることも多いので,選択バイアスがかかった可能性も否定できない.IVまとめ今回の筆者らの結果では,低いBMIが狭義POAG,高血圧がNTGのRFとなり,緑内障家族歴と糖尿病はPOAGとNTGの両者(広義POAG)のRFとなった.生活習慣病と緑内障の関係を検討する報告は海外には多いが,日本では少ない.日本人は欧米人に比べるとBMIの正常者の割合が有意に高いが,インスリン分泌能が低いために糖尿病になりやすいという体質を持っていると報告されている27).また日本人では眼圧の低い緑内障が非常に多いという特性がある28).今後,さらに症例を増やし,各々の項目を単独あるいは組み合わせて検討することにより,食生活の欧米化が進む今後の日本の緑内障患者の予防に役立つのではないかと期待している.これらの要旨は,第25回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Newman-CaseyPA,TalwerN,NanBetal:Therelation-shipbetweencomponentofmetabolicsyndromeandopen-angleglaucoma.Ophthalmology118:1318-1326,20112)BerdablJP,FleischmanD,ZaydlarovaJetal:Bodymassindexhasalinearrelationshipwithcerebrospinal.uidpressure.InvestOphthalmolVisSci53:1422-1427,20123)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorforopen-1612あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(100)angleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20064)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:Riskfactorforinci-dentopen-angleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.Ophthalmology115:85-93,20085)PasqualeLPR,WilletWC,RosnerBAetal:Anthropo-metricmeasuresandtheirrelationtoincidentprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology117:1521-1529,20106)TanGS,WongTY,FongCWetal:Diabetesmetabolicabnormalitiesandglaucoma:theSingaporeMarayEyeStudy.ArchOphthalmol127:1354-1361,20097)TielschJM,KatzJ,SommerAetal:Familyhistoryandriskofprimaryopen-angleglaucoma:TheBaltimoreEyeSurvey.ArchOphthalmol112:69-73,19948)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:CommonvariantsinCDKN2B-AS1associatedwithoptic-nervevulnerabilityofglaucomaidenti.edbygenome-wideassociationstudiesinJapanese.PLoSOne7:e33389,20129)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology106:2010-2015,199910)ChopraV,VarmaR,FrancisBAetal:LosAngelesLati-noEyeStudyGroup.Type2diabetesmellitusandtheriskofopen-angleglaucoma:theLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmology115:227-232,200811)Sza.ikJP,RusinP,Zaleska-ZmijewskaAetal:ReactiveoxygenspeciespromotelocalizedDNAdamageinglauco-ma-iristissuesofelderlypatientsvulnerabletodiabeticinjury.MutatRes697:19-23,201012)ShioseY,KawaseY:Anewapproachtostrati.ednor-malintraocularpressureinageneralpopulation.AmJOphthalmol101:714-721,198613)WolfS,ArendO,SponselWEetal:Retinalhemodynam-icsusingscanninglaserophthalmoscopyandhemorheolo-gyinchronicopen-angleglaucoma.Ophthalmology100:1561-1566,199314)OhSW,LeeS,ParkCetal:Elevatedintraocularpres-sureisassociatedwithinsulinresistanceandmetabolicsyndrome.DiabetesMetabResRev21:434-440,200515)LevineRA,DemirelS,FanJetal:OcularHypertensionTreatmentStudyGroup:Asymmetriesandvisual.eldsummariesaspredictorsofglaucomaintheocularhyper-tensiontreatmentstudy.InvestOphthalmolVisSci47:3896-3903,200616)EnginKN,YemisciB,YigitUetal:Variabilityofserumoxidativestressbiomarkerrelativetobiochemicaldataandclinicalparametersofglaucomapatients.MolecularVision16:1260-1271,201017)RamdasWD,WolfsRC,HofmanAetal:Lifestyleandriskofdevelopingopen-angleglaucoma:TheRotterdamStudy.ArchOphthalmol129:767-772,201118)AsraniS,SamuelsB,ThakurMetal:Clinicalpro.lesofprimaryopenangleglaucomaversusnormaltensionglau-comapatients:apilotstudy.CurrEyeRes36:429-435,201119)LeskeMC,ConnellAM,WuSYetal:Riskfactorforopen-angleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.ArchOphthalmol113:918-924,199520)KaiserHJ,FlammerJ:Systemichypotension:Ariskfac-torforglaucomatousdamage?Ophthalmologica203:15-18,199121)LeungDY,LiFC,KwongYYetal:Simvastatinanddis-easestabilizationinnormaltensionglaucoma:acohortstudy.Ophthalmology117:471-476,201022)DeCastroDK,PunjabiOS,BostromAGetal:E.ectofstatindrugsandaspirinonprogressioninopen-angleglaucomasuspectsusingconfocalscanninglaserophthal-moscopy.ClinExpOphthalmol35:506-513,200723)KawaseK,TomidokoroA,AraieMetal:Ocularandsys-temicfactorsrelatedtointraocularpressureinJapaneseadults:theTajimiStudy.BrJOphthalmol92:1175-1179,200824)QuigleyHA,WestSK,RodriguezJetal:Theprevalenceofglaucomainapopulation-basedstudyofHispanicsub-jects:ProyectoVER.ArchOphthalmol119:1819-1826,200125)ScottLJ,MohlkeKL,BonnycastleLLetal:Agenome-wideassociationstudyoftype2diabetesinFinnsdetectsmultiplesusceptibilityvariants.Science316:1341-1345,200726)HarismendyO,NotaniD,SongXetal:9p21DNAvari-antsassociatedwithcoronaryarterydiseaseimpairinter-feron-gsignallingresponse.Nature470(7333):264-268,201127)KodamaK,TojjarD,YamadaSetal:Ethnicdi.erencesintherelationshipbetweeninsulinsensitivityandinsulinresponse.DiabetesCare36:1789-1796,201328)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004***(101)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151613

正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1387.1391,2014c正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性山下力*1,2家木良彰*2三木淳司*1,2,3後藤克聡*2今井俊裕*2荒木俊介*2春石和子*2桐生純一*2田淵昭雄*1八百枝潔*3,4*1川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科*2川崎医科大学眼科学教室*3新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野*4眼科八百枝医院AssociationbetweenVisualFieldLossandOpticNerveHeadMicrocirculationandRetinalStructureinNormal-TensionGlaucomaTsutomuYamashita1,2),YoshiakiIeki2),AtsushiMiki1,2,3),KatsutoshiGoto2),ToshihiroImai2),SyunsukeAraki2),KazukoHaruishi2),JunichiKiryu2),AkioTabuchi1)andKiyoshiYaoeda3,4)1)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,3)DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,4)YaoedaEyeClinic目的:正常眼圧緑内障(NTG)における視神経乳頭(乳頭)血流と網膜や乳頭構造,視野指標との関連性を検討した.対象および方法:対象はNTG19例19眼である.レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVITM)を用い乳頭血流(全領域・血管領域・組織領域)を測定した.スペクトラルドメイン光干渉断層計(RTVue-100R)を用い乳頭周囲の網膜神経線維層(cpRNFL)厚,乳頭形態,黄斑部網膜神経節細胞複合体(GCC)厚を測定した.乳頭血流と網膜や乳頭構造パラメータ,視野指標との関係について検討した.結果:乳頭の組織領域血流および全領域血流は,cpRNFL厚,GCC厚,乳頭形態パラメータのすべてと有意に相関していた.meandeviation(MD)値との相関係数が最も大きいのはcpRNFL厚(r=0.88)であり,visualfieldindex(VFI)との相関係数が最も大きいのはGCC厚(r=0.81)であった.乳頭の組織領域血流も,MD値およびVFIに相関を示した(r=0.68).結論:NTGにおいて,乳頭血流は,緑内障性網膜構造変化や視野障害との関連が示唆された.Purpose:Toreporttheassociationbetweenvisualfieldlossandopticnerveheadmicrocirculationandretinalstructureinnormal-tensionglaucomapatients.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved19eyesof19patientswithnormal-tensionglaucoma.Opticnerveheadmicrocirculationwasexaminedwithlaserspeckleflowgraphy(LSFG-NAVI.),andthemeanblurrateinallareas,invesselareaandtissuearea,wascalculatedusingthelaserspeckleflowgraphyanalyzersoftware.Macularganglioncellcomplex(GCC)thicknessparameters,circumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thicknessandopticnervehead(ONH)parametersweremeasuredbyspectraldomainopticalcoherencetomography(RTVue-100R).TherelationshipbetweenglaucomatousvisualfieldlossandopticnerveheadmicrocirculationandretinalstructureparameterswasevaluatedusingtheSpearmanrankcorrelationcoefficient.Results:Themeanblurrateoftheopticdiskintissue(MT)andallareaswassignificantlycorrelatedwithcpRNFLthickness,GCCthicknessandONHparameters.ThecpRNFLthicknesswasmostsignificantlycorrelatedwithmeandeviation(MD)value(r=0.88).GCCthicknesswasmostsignificantlycorrelatedwithvisualfieldindex(VFI)(r=0.81).MeanMTwassignificantlycorrelatedwithMDvalueandVFI(r=0.68).Conclusion:TheresultsindicatedassociationbetweenopticnerveheadmicrocirculationandglaucomatousretinastructuralchangeandvisualfielddisordersinNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1387.1391,2014〕〔別刷請求先〕山下力:〒701-0193岡山県倉敷市松島288川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科Reprintrequests:TsutomuYamashita,C.O.,Ph.D.,DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,Kurashiki-city,Okayama701-0193,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(139)1387 Keywords:視神経乳頭血流,レーザースペックルフローグラフィー,正常眼圧緑内障,網膜構造,緑内障性視野障害.opticnerveheadbloodflow,laserspeckleflowgraphy,normaltensionglaucoma,retinalstructure,glaucomatousvisualfielddefects.はじめに厚生労働省研究班の調査によると,わが国における失明原因の第一位は緑内障であり,日本緑内障学会による疫学調査の多治見スタディにおいては,40歳以上の緑内障有病率は5%と多く,そのなかでも正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)が多いことが明らかとなった1).NTGの病態については眼圧の関与以外に,視神経(乳頭)出血の頻度が高いという報告2)や,乳頭周囲網脈絡膜萎縮が緑内障性視野障害の進行に関連していると報告されており3),乳頭循環障害の関与が示唆されている.したがって,NTGにおける循環動態の研究は,病態の解明や治療法の確立にとって重要である.緑内障性視神経症の病態として,眼圧や血流がグリア細胞を変化させ,乳頭篩状板付近において,網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維を障害させ,軸索輸送が障害され,網膜神経節細胞障害が起こる.その結果,乳頭陥凹拡大やリムの菲薄化などを特徴とする緑内障性視神経症が生じるとされている.緑内障診断に視野測定は必須であるが,緑内障性の不可逆的視野変化が生じる頃には,すでに網膜神経節細胞はかなりの不可逆的な障害を受けているといわれている4).そのため,網膜構造の緑内障性変化や乳頭の循環障害をより早期に検出することは,緑内障の早期発見および進行判定につながり非常に重要である.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)は,タイムドメイン光干渉断層計(timedomainopticalcoherencetomography:TD-OCT)に比べスキャンスピードと空間解像度が向上し,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の評価だけではなく,網膜神経節細胞の約50%が分布する黄斑部において,網膜神経節細胞に関連した層を含む内境界膜から内網状層外縁の神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚の計測が可能となった.そのため,SD-OCTを用いることにより,緑内障を早期に発見することや進行検出などが高くなることが期待されている5,6).乳頭の循環測定にはさまざまな方法があるが,今回の研究においては測定再現性がきわめて高い眼血流測定装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)を用い7.9),NTGの乳頭血流測定を行った.LSFGを用いた報告で,全体拡大型乳頭を伴った緑内障眼の乳頭血流と視野障害およびTD-OCTのcpRNFL厚の間に有意な相関があったことが示されている10).今回筆者らは,1388あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014NTGに対しLSFGを用いて乳頭血流を測定し,SD-OCTを用いて算出されたGCC厚やcpRNFL厚,乳頭形態パラメータと,視野指標との関係を検討したので報告する.I対象および方法対象は,Humphrey自動視野計(Humphreyfieldanalyzer:HFA)(CarlZeissMeditec社)の中心30-2SITAstandardによる測定当日に,RTVue-100R(Optovue社)およびLSFG-NAVITM(ソフトケア社)を施行したNTG19例19眼(男/女=9/10眼)である.本研究におけるNTGの診断基準は,検眼鏡的に眼底に緑内障性変化が観察され,治療前眼圧が3回の測定で21mmHg以下であり,HFA30-2SITAstandardでAndersoncriteria11)を満たすものとした.矯正視力1.0以上,.5.0D以上の近視,+2.0D以下の遠視を対象とした.HFAでは,固視不良20%未満,偽陽性,偽陰性のそれぞれが15%未満の信頼性良好な結果のみを採用した.軽度白内障以外の眼疾患の既往,高血圧や糖尿病などの血管系疾患の既往,眼内手術の既往を有する者は除外した.すべての症例に関して,測定日から3カ月前までに点眼や内服内容に変更のないものとした.本研究は当大学倫理委員会の承認を得ており,すべての対象者にインフォームド・コンセントを得たうえで行った.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用い測定し,血圧および脈拍は自動血圧計を用い測定した.平均血圧は次式〔拡張期血圧+1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)〕,眼灌流圧は次式〔2/3平均血圧.眼圧〕を用いて算出した.乳頭血流測定は,0.4%トロピカミド点眼液(ミドリンRM点眼液0.4%,参天製薬)を用いて散瞳した後,LSFG-NAVITMを用いて3回連続行った.同一検者がLSFGAnalyzer(version3.1.16)を用い3枚の乳頭血流マップを作成し,血流速度の指標であるMBR(meanblurrate)値の平均を算出した.楕円ラバーバンドを用い乳頭領域を決定した後,血管抽出解析機能を用い,乳頭内の全領域の平均MBR値(meanMBRinallarea:MA),乳頭内の血管領域の平均MBR値(meanMBRinvesselarea:MV),乳頭内の大血管を除外した組織領域の平均MBR値(meanMBRintissuearea:MT)に分けて解析した8).本研究では乳頭全体の各MBR値を算出し,3回測定の変動係数が10%未満の症例のみを対象とした.SD-OCTによる測定は,RTVue-100Rversion4.0スキャンプログラムの黄斑部解析ソフトGCCを用い,黄斑部7×7mmの範囲で,長さ7mmのラインスキャンで水平方向に1本,垂直方向に0.5mm間隔で15本のスキャンしGCC厚(140) を測定した.乳頭を中心にした4.9mmの範囲を視神経乳頭解析ソフトONHを用い,長さ3.4mmの12本の放射ラインスキャンと13本の同心円リングスキャンで測定した.乳頭の中心に乳頭部6×6mmの範囲を3次元視神経乳頭解析ソフト3DDiscを用い,101の水平ラスタスキャンで測定した.乳頭形状解析においては,ONHと3DDiscの画像をもとに乳頭縁と網膜色素上皮の端に相当する部位決定をした.それらの後,乳頭パラメータと乳頭中心から直径3.45mmの円周上のcpRNFL厚を算出した.両方のスキャンともsignalstrengthindexが50以上のデータを採用した.OCTパラメータ(GCC厚,cpRNFL厚,乳頭形態)とLSFGパラメータ(MA,MV,MT)およびHFAパラメータ〔MD(meandeviation)値,VFI(visualfieldindex)〕との関係は,Spearman順位相関係数を用い,危険率5%未満表1MBRおよびOCTパラメータの平均値と標準偏差MA22.0±6.1MV49.6±12.4MT11.8±3.8GCC厚(μm)74.7±7.4cpRNFL厚(μm)75.6±12.5Cuparea(mm2)1.38±0.69Rimarea(mm2)0.50±0.39C/Dratio0.71±0.22Cupvolume(mm3)0.32±0.22Rimvolume(mm3)0.04±0.05Nerveheadvolume(mm3)0.09±0.10MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.表2MBRとOCTパラメータの関係MAMVMTrp値rp値rp値GCC厚0.75730.00020.73510.00030.70350.0008cpRNFL厚0.62750.00400.53330.01870.64040.0031Cuparea.0.52590.0207.0.38090.1077.0.58360.0087Rimarea0.60960.00560.49520.03110.55930.0128C/Dratio.0.63890.0032.0.51210.0250.0.62580.0042Cupvolume.0.49690.0304.0.44230.0579.0.55110.0145Rimvolume0.65920.00210.53800.01750.65140.0025Nerveheadvolume0.64880.00270.53970.01710.62310.0025MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.を統計学的に有意とした.統計学的分析は統計解析ソフトPASWStatistics21.0(IBM-SPSS)を使用した.II結果患者背景は,年齢63.7±11.4(平均±標準偏差,範囲:51.75)歳,屈折度数は.2.1±2.7(.4.75.+1.50)Dであった.眼圧は12.3±2.6mmHg,収縮期血圧122.1±15.5mmHg,拡張期血圧74.5±9.1mmHg,眼灌流圧46.2±7.1mmHgであった.HFAのMD値は.9.4±10.6(.28.00.0.57)dB,VFIは72.5±33.4(13.99)%であった.本研究における症例全体のLSFG-NAVITMおよびRTVue-100Rの測定結果を表1に示す.LSFGパラメータとOCTパラメータとの関係を表2に示す.MAおよびMTは,すべてのOCTパラメータと有意な相関を示した.なかでも,乳頭内の組織領域の平均MBR値を示すMTにおいては,すべてのOCTパラメータとの相関係数は最も高かった.LSFGパラメータとOCTパラメータおよび視野指標との関係を表3に示す.MD値との関係においては,cpRNFL厚表3MBRおよびOCTパラメータと視野指標MDVFIrp値rp値MA0.69750.00090.75800.0002MV0.64150.00310.69570.0009MT0.68360.00130.72820.0004GCC厚0.85480.00010.82760.0001cpRNFL厚0.88370.00010.78720.0011Cuparea.0.38020.1084.0.19070.4636Rimarea0.51690.02340.48190.0502C/Dratio.0.53310.0188.0.44370.0744Cupvolume.0.44250.0578.0.36590.1486Rimvolume0.46090.04700.42710.0873Nerveheadvolume0.43770.06090.42410.0898MD:meandeviation,VFI:visualfieldindex,MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.(141)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141389 との相関係数が最も高く(r=0.8837,p=0.0001),LSFGパラメータも中程度の相関を示した.VFIにおいては,GCC厚との相関係数が最も高く(r=0.8276,p=0.0001),LSFGパラメータも中程度の相関を示した.眼灌流圧は,MD値(r=0.0910,p=0.7638)およびVFI(r=0.0906,p=0.7296)と相関はなく関連を示さなかった.III考按NTGを対象とした本研究において,LSFGで評価した乳頭血流パラメータと,SD-OCTで測定したcpRNFLやGCC厚,HFAで算出した視野指標との間で,互いに有意な相関があることが示された.Yokoyamaら12)は,MBR値とcpRNFL厚,MD値の有意な相関を報告しているが,本研究では,乳頭血流パラメータとGCC厚,VFIにも相関があることを示した.GCC厚においてはより早期の緑内障評価に有用で5),VFIは患者の視機能をMDよりもよく反映しているとされており13),これらと相関があったことは,LSFGによる乳頭血流評価が早期緑内障発見や緑内障症例の視機能評価に寄与する可能性があると考えられた.NTGにおいては,眼圧非依存因子の関与が原発開放隅角緑内障(狭義)より強い14)とされ,なかでも眼循環障害が示唆される報告が多い.たとえば,NTG眼における乳頭血流の日内変動を測定した研究では,夜間に乳頭血流の低下する症例ほど,視野障害進行が大きいと報告されている15).緑内障眼と健常眼の循環動態と比較した研究では,緑内障眼では動静脈循環遅延がみられることや16),乳頭血流速度が低下している17)ことが報告されている.LSFGは,レーザースペックル法を応用した眼血流測定装置であり,乳頭や網脈絡膜における微小循環を非侵襲的,半定量的に評価することが可能である18,19).Yaoedaら20)は,乳頭辺縁部の血流変化と視野障害との相関に関して,原発開放隅角緑内障(狭義)眼では相関はなく,NTG眼では有意な相関があったことを報告している.また,NTG眼においては,正常眼に比べ血流量が低下していることや,乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている21,22).緑内障眼の乳頭辺縁部の領域別組織血流と視野障害の程度を検討した報告では,パターン偏差上下比と血流の上下比に有意な相関があったとしている23).Chibaら10)は,全体拡大型乳頭を伴った緑内障眼の乳頭MBRは,cpRNFL厚,垂直C/D比(陥凹乳頭比)およびMD値と有意に相関していたとしている.本研究において,乳頭の組織領域の平均MBR値を示すMTは,MD値やVFIと有意な相関を示し,乳頭血流障害と視野障害との関連が示唆された.しかし,今回の症例は,すでに乳頭に緑内障性変化が生じている症例であり,乳頭の構造変化が組織血流低下に影響を及ぼしている可能性がある.乳頭辺縁部体積が減少するこ1390あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014とによりLSFGのパラメータが低下した可能性があり,さらに今後において検討する必要があると考えられた.緑内障病期の進行に伴い耳側血流比の減少がみられたという報告や23),近視性乳頭を有する緑内障眼の乳頭耳側,上方,下方のMTは正常群と比較すると有意に低かった12)などの報告がある.本研究においては,視神経乳頭を分割し領域別のMBR値を算出しておらず,今後の検討課題とする予定である.本研究において,MTはGCC厚やcpRNFL厚,乳頭形態パラメータのすべてに有意な相関を示した.このことは,乳頭組織血流低下と緑内障による網膜の構造上の変化との関連性があることが考えられた.緑内障においては,視神経乳頭の篩状板付近において約120万本の網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維が障害され,軸索輸送障害が起こるために網膜神経節細胞障害が生じるとされている.その結果,網膜神経線維が脱落して緑内障に特徴的な視神経乳頭陥凹拡大やrimの菲薄化および網膜神経線維層欠損などの緑内障性視神経症を生じるとされている.その原因としては眼圧因子の関与は多くの報告でいわれていることではあるが,今回の研究結果から,LSFGパラメータとGCC厚およびcpRNFL厚は有意な相関を示し,乳頭血流障害と網膜神経節細胞障害や視野障害の関連が示唆された.乳頭の循環障害は,視野障害や網膜神経線維層欠損よりも早く生じているのかを,preperimetricglaucomaなどを対象に研究を行っていく予定である.NTGにおける循環動態を研究することは,NTGの病態の解明および治療法の選択の一助となる可能性がある.また,乳頭血流を示すLSFGパラメータは,緑内障を経過観察するうえでGCC厚や,cpRNFL厚と異なる指標として有用である可能性がある.緑内障眼に対し,網膜神経節細胞に関連した網膜厚および乳頭血流を計測し,循環動態変化を捉え治療を再考することで,視野障害の進行速度を少しでも遅らせることが可能となるかもしれない.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853857,19863)JonasJB,NaumannGO:Parapapillaryretinalvesseldiameterinnormalandglaucomaeyes.II.Correlations.InvestOphthalmolVisSci30:1604-1611,19894)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453(142) 464,19895)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:上下半視野異常を有する早期緑内障眼のスペクトラルドメイン光干渉断層計による検討.臨眼64:869-875,20106)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:緑内障眼の黄斑部網膜神経節細胞複合体厚,網膜神経線維層厚,乳頭形態と視野指標.臨眼65:1057-1064,20117)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:MeasurementofmicrocirculationintheopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyandscanninglaserDopplerflowmetry.AmJOphthalmol129:734-739,20008)坪井明里,白柏基宏,八百枝潔ほか:血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定.あたらしい眼科28:448-451,20119)AizawaN,KunikataH,YokoyamaYetal:Correlationbetweenopticdiscmicrocirculationinglaucomameasuredwithlaserspeckleflowgraphyandfluoresceinangiography,andthecorrelationwithmeandeviation.ClinExperimentOphthalmol42:293-294,201410)ChibaN,OmodakaK,YokoyamaYetal:Associationbetweenopticnervebloodflowandobjectiveexaminationsinglaucomapatientswithgeneralizedenlargementdisctype.ClinOphthalmol5:1549-1556,201111)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199912)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Significantcorrelationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfielddefectsandnervefiberlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,201113)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,200814)DownsJC,RobertsMD,BurgoyneCF:Mechanicalenvironmentoftheopticnerveheadinglaucoma.OptomVisSci85:425-435,200815)OkunoT,SugiyamaT,KojimaSetal:Diurnalvariationinmicrocirculationofocularfundusandvisualfieldchangeinnormal-tensionglaucoma.Eye18:697-702,200416)ArendO,PlangeN,SponselWEetal:Pathogeneticaspectsoftheglaucomatousopticneuropathy:fluoresceinangiographicfindingsinpatientswithprimaryopenangleglaucoma.BrainResBull62:517-524,200417)LoganJF,RankinSJ,JacksonAJ:Retinalbloodflowmeasurementsandneuroretinalrimdamageinglaucoma.BrJOphthalmol88:1049-1054,200418)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgraphyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,201019)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,two-dimensionalmeasurementofretinalmicrocirculationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:3825-3834,199420)YaoedaK,ShirakashiM,FukushimaAetal:Relationshipbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfieldlossinglaucoma.ActaOphthalmolScand81:253-259,200321)永谷建,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼及び正常眼圧緑内障眼における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200122)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200623)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,2010***(143)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141391

正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連

2014年6月30日 月曜日

《第2回日本視野学会原著》あたらしい眼科31(6):891.894,2014c正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科VisualFieldDefectandVariousFactorsinNormal-TensionGlaucomaPatientsKenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の視野障害度による各種要因の関連を検討した.対象および方法:NTG289例を対象とし,視野欠損の程度分類で初期群139例,中期群81例,後期群69例に分けた.全症例で視野のmeandeviation(MD)値と年齢,眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,使用薬剤数の相関を検討した.3群間で上記の因子と配合点眼薬使用率,角膜上皮障害の有無を比較した.結果:MD値と年齢(相関係数r=.0.263),使用薬剤数(r=.0.392),緑内障罹病歴(r=.0.165)に有意な負の相関を認めた.使用薬剤数は,後期群(2.0±1.0剤),中期群(1.3±0.7剤),初期群(1.1±0.7剤)の順に多かった.配合点眼薬使用率は初期群(3.4%)が中期群(12.8%),後期群(10.6%)に比べて有意に少なかった.結論:NTG患者では視野障害の進行に伴い使用薬剤数や配合点眼薬使用が増えていた.Purpose:Drugtherapybydegreeofvisualfielddefectinnormal-tensionglaucoma(NTG)patientswasinvestigated.SubjectsandMethods:Subjectswere289NTGpatients,classifiedinto3groupsbasedondegreeofvisualfielddefect:139earlystage,81middlestageand69finalstage.Correlationwasinvestigatedbetweenmeandeviation(MD)valueofvisualfieldandage,intraocularpressure,refractiondegree,glaucomahistoryandnumberofeyedropsused.Thesefactors,fixed-combinationeyedropusagerateandcornealepitheliumdisorderwerealsocomparedamongthe3groups.Results:SignificantnegativecorrelationwasrecognizedbetweenMDvalueandage(correlationcoefficientr=.0.263),numberofeyedrops(r=.0.392)andglaucomahistory(r=.0.165).Thenumberofeyedropswassignificantlygreaterinthefinalstagegroup.Therateoffixed-combinationeyedropswassignificantlylowerintheearlystagegroup.Conclusion:Thenumberofeyedropsandfixed-combinationeyedropsincreasedduetoprogressionofvisualfielddefect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):891.894,2014〕Keywords:正常眼圧緑内障,視野障害,薬物治療,配合点眼薬,関連.normal-tensionglaucoma,visualfielddefect,drugtherapy,fixed-combinationeyedrop,relation.はじめに緑内障治療の最終目標は患者の残存視野の維持であるが,視野の維持に対して高いエビデンスが得られているのが眼圧下降である1).眼圧を下降させるために通常点眼薬を第一選択として使用するが,治療にあたっては目標眼圧を設定することが緑内障診療ガイドライン2)で提唱されている.目標眼圧の設定は病期,無治療時眼圧,余命,視野障害進行,その他の危険因子を考慮すると記されている.岩田は視野障害と目標眼圧について報告し,(狭義)原発開放隅角緑内障ではI期(Goldmann視野正常)は19mmHg以下,II期(弧立暗点,弓状暗点,鼻側階段のみ)は16mmHg以下,III期(視野欠損1/4以上)は14mmHg以下,正常眼圧緑内障は12mmHg以下とした3).また正常眼圧緑内障では30%以上の眼圧下降により視野が維持された患者が有意に多かったと報告されている1).しかし臨床現場において患者の視野障害度に関連して点眼薬をはじめとした各種要因を調査した報告はない.そこで今回,正常眼圧緑内障患者を対象として,視野障害度と各種要因の関連を検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)891 I対象および方法2012年3月12日.18日に井上眼科病院を受診した正常眼圧緑内障患者で以下の条件を満たした289例289眼を対象として後ろ向きに調査を行った.対象の条件は,Humphrey視野検査を2011年12月以降に実施しており,固視不良が20%以下,偽陽性率33%以下,偽陰性率33%以下とした.両眼該当症例は右眼を,片眼該当症例は患眼を対象とした.白内障手術,緑内障手術を施行している症例は除外した.対象は,男性143例,女性146例,年齢は25.90歳で,平均年齢は61.1±12.5歳(平均値±標準偏差)だった.眼圧は13.6±2.2mmHg,8.21mmHgだった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Standardのmeandeviation(MD)値は.7.9±6.7dB,.29.5.+1.8dBだった.これらの症例をAndersonらによるHumphrey視野における視野欠損の程度分類4)を参考にして初期群,中期群,後期群の3群に分けた.具体的にはMD値>.6dBを初期群,.12dB≦MD値≦.6dBを中期群,MD値<.12dBを後期群とした.初期群は139例,中期群は81例,後期群は69例だった.全症例において視野のMD値と年齢,眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,使用薬剤数の相関を各々検討した(Spearmanの順位相関係数).初期群,中期群,後期群の3群間で年齢,眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,使用薬剤数,配合点眼薬使用率,角膜上皮障害の有無を各々比較した(ANOVA,Kruskal-Wallis検定).なお配合点眼薬は2剤として解析した.また,当研究は井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得た後に行った.II結果全症例においてMD値と年齢(相関係数r=.0.263),使用薬剤数(r=.0.392),緑内障罹病歴(r=.0.165)で各々有意な負の相関を認めた(p<0.01)(図1).一方MD値と屈折度数,眼圧には相関がなかった.初期群,中期群,後期群の3群間の比較では,年齢は後期群(66.7±11.4歳)が初期群(58.7±11.4歳),中期群(60.5±13.7歳)に比べて有意に高かった(p<0.0001)(表1).使用薬剤数は3群間に有意差があり,後期群(2.0±1.0剤),中期群(1.3±0.7剤),初期群(1.1±0.7剤)の順に多かった(p<0.0001).配合点眼薬使用率は初期群(3.4%)が中期群(12.8%),後期群(10.6%)に比べて有意に少なかった(p<0.05).眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,角膜上皮障害の有無は3群間で同等だった.III考按今回,正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連を調査した.視野障害度(MD値)と年齢,緑内障罹病歴,使用薬剤数に負の相関を認めた.これらは若年者で,緑内障罹病歴が短く,視野障害が初期で,単剤使用の症例が多数含まれていたためと考えられ,緑内障の早期発見,早期治療の観点からは好ましい結果であった.使用薬剤数の結果は視野障害が進行すれば,たとえ眼圧が安定していても,さらに低い目標眼圧を設定し直すことになり,薬剤の追加が行われる状況を反映していた.一方,屈折度数や眼圧は全症例においても3群間(初期,中期,後期)の比較においても視野障害度との相関や視野障害度別の差がなかった.近視は緑内障発症の危険因子と報告されており5),今回も3群ともに屈折度数は近視を示していたが,視野障害度との関連はなかった.今回の調査では調査日測定の眼圧値のために,眼圧の変動については考慮されていない.また測定した眼圧がその患者の目標眼圧に到達しているかどうかも不明である.配合点眼薬使用率は初期群(3.4%)に比べて中期群(12.8%),後期群(10.6%)で有意に多かったが,使用薬剤数が関与していると考えられる.多剤併用症例ではアドヒアランスが低下するため6),配合点眼薬を使用することで点眼液数,総点眼回数を減らし,アドヒアランスの向上が期待できる.角膜上皮障害は使用薬剤数の多い中期群,後期群で出現しやすいと予想したが,3群間で有意差はなかった.今回は配合点眼薬を2剤として解析したが,角膜上皮障害の原因の一つである防腐剤は配合点眼薬では1剤分しか含有していないことが寄与したと考えられる.もし配合点眼薬を1剤として解析した場合は,今回の症例の使用薬剤数は初期群1.1±0.7剤,中期群1.2±0.5剤,後期群1.8±0.9剤となり差は縮まる.ただし角膜上皮障害は防腐剤だけではなく,基剤やドライアイなども関与するためにその原因の特定はむずかしい.正常眼圧緑内障患者を対象として視野障害度と各種要因の検討を行った報告は少ない7).NakagamiらはHumphrey視野のMD値を基準にして.6dB以上の初期群(29例),.6..12dBの中期群(34例),.12dB以下の後期群(29例)に分けて,背景因子を検討した7).年齢,性別,経過観察期間,屈折度,1日の最高眼圧,1日の平均眼圧,1日の最低眼圧,1日の眼圧変動幅,視神経乳頭出血の頻度のすべての因子において3群間で差がなかった.今回の結果とは異っていたが,その理由は不明である.一方,正常眼圧緑内障患者の視野障害進行に関連する因子については多数報告されている1,7.13).近視8),年齢9),性別(女性)10),視神経乳頭出血7,10,11),経過観察時の平均眼圧1,7,12,13)などが指摘されている.これらの報告では数年間の経過観察を行い,視野障害進行に関連する因子を抽出してお892あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(118) (119)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014893(歳)(dB)a:年齢(r=-0.263,p<0.0001)(剤)b:使用薬剤数(r=-0.392,p<0.0001)60-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-36(dB)(dB)(dB)0(歳)0020406080100012345c:緑内障罹病歴(r=-0.165,p=0.0048)(dB)510152025(mmHg)(D)d:屈折度数(r=0.0041,p=0.510)e:眼圧(r=-0.032,p=0.589)-20-15-10-50510510152025図1視野障害と各種要因の相関a:年齢,b:使用薬剤数,c:緑内障罹病歴,d:屈折度数,e:眼圧.MD値と年齢(相関係数r=.0.263),使用薬剤数(r=.0.392),緑内障罹病歴(r=.0.165)で有意な負の相関を認めた.MD値と屈折度数,眼圧に相関は認めなかった. 表1初期群,中期群,後期群間の各種要因の比較初期群中期群後期群p値例数1398169─年齢(歳)58.7±11.460.5±13.766.7±11.4<0.0001眼圧(mmHg)13.4±2.513.4±2.213.7±2.10.6241屈折度数(D).3.0±4.0.3.3±4.3.3.7±4.80.6256緑内障罹病歴(年)5.6±4.36.5±5.27.2±4.90.0542使用薬剤数(剤)1.1±0.71.3±0.72.0±1.0<0.0001配合剤使用率(%)3.412.810.6<0.05角膜上皮障害出現率(%)6.51.24.30.1944り,今回のようにある時点における比較とは異なる.今回の症例では,薬物治療で眼圧が十分に下降し,視野障害進行が抑制されている症例や,現在行っている薬物治療では眼圧下降が不十分で,視野障害が進行中の症例などが含まれていることがこれらの報告1,7.13)との相違の原因と考えられる.結論として,正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連を調査したところ,視野障害の進行に伴い年齢や緑内障罹病歴が増加しており,また使用薬剤数や配合点眼薬の使用が増えていた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20123)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,19924)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,2ndedition,p121-190,Mosby,St.Louis,19995)WilsonMR,HertzmarkE,WalkerAmetal:Acase-controlstudyofriskfactorsinopenangleglaucoma.ArchOphthalmol105:1066-1071,19876)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJ:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20097)NakagamiT,YamazakiY,HayamizuF:Prognosticfactorsforprogressionofvisualfielddamageinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol50:38-43,20068)SakataR,AiharaM,MurataHetal:Contributingfactorsforprogressionofvisualfieldlossinnormal-tensionglaucomapatientswithmedicaltreatment.JGlaucoma22:250-254,20139)DeMoraesCG,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Riskfactorsforvisualfieldprogressioninthelow-pressureglaucomatreatmentstudy.AmJOphthalmol154:702711,201210)DranceS,AndersonDR,SchulzerM:Riskfactorsforprogressionofvisualfieldabnormalitiesinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol131:699-708,200111)IshidaK,YamamotoT,SugiyamaK:Diskhemorrhageisasignificantlynegativeprognosticfactorinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol129:707-714,200012)中神尚子,山崎芳夫,早水扶公子ほか:正常眼圧緑内障の視野障害進行に対する薬物用法の効果.日眼会誌108:408-414,200413)中神尚子,山崎芳夫,早水扶公子:正常眼圧緑内障の視野障害進行に対する薬物療法と臨床背景因子の検討.日眼会誌114:592-597,2010***894あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(120)