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眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植術の長期成績

2022年5月31日 火曜日

眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植術の長期成績佛坂扶美門田遊佐々木研輔阿久根穂高吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CLong-TermOutcomeofAmnioticMembraneTransplantationforPainfulBullousKeratopathyFumiHotokezaka,YuMonden,KensukeSasaki,HodakaAkuneandShigeoYoshidaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicineC目的:久留米大学病院眼科にて,眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術を施行した症例の長期成績について検討したので報告する.対象および方法:対象はC2006年C1月.2017年C11月に,当院にて眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術を施行したC15例C15眼(男性C4例,女性C11例)である.手術時の平均年齢はC78.0歳で平均術後経過観察期間はC54.4カ月であった.これらの対象の原疾患,痛みの改善の有無,角膜上皮が再生するまでに要した日数を検討した.結果:原疾患は緑内障術後C7眼(46.7%)がもっとも多く,白内障術後C6眼(40.0%),その他C2眼(13.3%)であった.痛みはC15眼中C15眼(100%)で改善した.また,角膜上皮が再生するまでの平均日数はC11.6日であった.羊膜の脱落は,外傷を契機に上皮とともに脱落した症例がC1眼(6.7%),感染で脱落した症例がC1眼(6.7%),部分的に自然に脱落した症例がC8眼(53.3%),脱落していなかった症例がC5眼(33.3%)であった.感染性角膜穿孔の症例を除き,全例で痛みの再燃はなく,上皮は安定していた.結論:眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植は,眼痛を改善させる安全で有効な治療法であると考えられる.CPurpose:Toevaluatetheoutcomesofamnioticmembranetransplantation(AMT)forpainfulbullouskeratop-athy(BK).CPatients:ThisCstudyCinvolvedC15CeyesCofC15patients(meanage:78.0years)withCpainfulCBKCthatCunderwentAMT(meanfollow-upperiod:54.4months).Inallpatients,theetiologyofBK,painrelief,andelapsedtimeCtoCre-epithelializationCwasCevaluated.CResults:TheCetiologyCofCBKCincludedCpreviousCglaucomaCsurgeryCinC7eyes(46.7%),previouscataractsurgeryin6eyes(40.0%),andotherin2eyes(13.3%).Postsurgery,painreliefwasobtainedinall15eyes(100%),andthemeanelapsedtimetore-epithelializationwas11.6dayspostoperative.AMdetachmentoccurredin1eye(6.7%)duetotraumaandin1eye(6.7%)duetoinfection.TheAMremainedinplacein5eyes(33.3%),yetpartialAMdetachmentspontaneouslyoccurredin8eyes(53.3%).Inalleyeswithstableepithelialization,except1eyewithcornealperforation,therewasnorecurrenceofpain.Conclusion:AMTwasfoundtobeasafeande.ectivetreatmenttorelievepaininpatientsa.ictedwithpainfulBK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):666.671,C2022〕Keywords:水疱性角膜症,羊膜移植.bullouskeratopathy,amnioticmembranetransplantation.はじめに羊膜は胎盤組織の一部で,胎生膜の最内層に位置する半透明の膜である.種々のサイトカインや成長因子を含んでおり,角結膜上皮の正常な分化と増殖を促す,線維組織増生や癒着を抑制する,炎症を抑制する,実質の融解を抑制する作用がある1).そのため,これまで再発翼状片,遷延性角膜上皮欠損,瘢痕性角結膜疾患,角膜穿孔など眼表面疾患の再建で使用されてきた.水疱性角膜症においては角膜内皮細胞の不可逆的な障害により,内皮細胞のポンプ機能が低下し角膜上皮・実質に浮腫が生じた状態である.角膜実質の浮腫により視力低下をきたすが,角膜上皮水疱の破裂により角膜びらんを起こし,疼痛を引き起こすことがある.水疱性角膜症の根本的な治療としては角膜移植があるが,わが国ではドナー角膜が不足してい〔別刷請求先〕佛坂扶美:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:FumiHotokezaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANC666(116)図1手術方法a:綿棒で,接着不良な角膜上皮を含めて,大きく角膜上皮を.離する(青線).b:羊膜の上皮をを上にして角膜上皮欠損部に合わせてトリミングする(赤線).c:羊膜が角膜上皮にかぶらないようにC10-0ナイロン糸でたるまないように縫合し結び目は埋没する.その後治療用ソフトコンタクトレンズ装用する.るため,視力不良の症例,もしくは角膜移植を希望しない症例に対しては,治療用コンタクトレンズ装用,photothera-peuticCkeratectomy(PTK),結膜被覆術,羊膜移植術などが行われている.羊膜移植は,Piresらによって痛みを伴う水疱性角膜症に対して有効であったと初めて報告され2),近年,患者の痛みの軽減と上皮治癒のため羊膜移植が用いられてきた3.8).今回,久留米大学病院眼科(以下,当科)にて,眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術を施行したC15例の長期成績について検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2006年C1月.2017年C1月に,当科にて水疱性角膜症による疼痛除去目的で羊膜移植術を施行し,術後C12カ月以上経過観察できたC15例C15眼(男性C4例,女性C11例)である.適応は視力回復の可能性がない,あるいは角膜移植を希望しない患者で,全例で疼痛の原因が水疱性角膜症による角膜上皮障害であることを確認するために治療用コンタクトレンズにて痛みが消失することを確認した.羊膜は,当初は久留米大学倫理委員会の承認を得て,当院産婦人科の協力のもと帝王切開時に得られた胎盤組織から羊膜を採取し,手術室にて清潔操作で洗浄後,1.5MDMSOにて.80℃で保存しておいたものを使用し,2015年C8月からは久留米大学羊膜バンク(カテゴリーCII)から供給された羊膜を使用した.手術の方法を図1に示す.まず綿棒にて接着不良な角膜上皮を,角膜輪部最周辺を除き可能な限り.離する.準備しておいた羊膜を上皮.離した角膜の上にのせ,眼科用吸水スポンジ(M.Q.A)を羊膜に接触させ,MQAに吸着しない側が羊膜の上皮側であることを確認する.角膜上皮欠損部に合わせて羊膜をトリミングしつつ羊膜移植片を作製し,羊膜上皮側を上にしてC10-0ナイロン糸で縫合する.その際,羊膜移植片がたるまないようにピンと張り,残存した最周辺の角膜上皮に重ならないように縫合することが重要である.結び目は埋没し最後に治療用ソフトコンタクトレンズを装用する.術後は全例に抗菌薬点眼(クラビット点眼液C0.5%もしくはクラビット点眼液C1.5%)と副腎皮質ステロイド薬点眼(フルメトロン点眼液C0.1%)をC1日C3.4回使用し,上皮再生を促すため原則C20%自己血清点眼を併用した.治療用コンタクトレンズは約C1カ月間装用を続け,縫合糸は約半年後に抜糸をした.角膜上皮再生後に羊膜脱落の有無,疼痛の有無,上皮ブレブ形成の有無,上皮の安定性を受診時のカルテの記載や前眼部写真によって確認した.疼痛の評価は受診時にカルテに記載された患者本人の痛みに対する自覚の有無で行った.CII結果症例の詳細を表1に示す.手術時の平均年齢はC78.0C±8.4歳(60.89歳)で平均術後経過観察期間はC54.4C±32.1カ月(14.109カ月)であった.水疱性角膜症の原疾患は緑内障手術後がもっとも多くC7眼(46.7%),ついで白内障術後C6眼(40.0%),その他C2眼(13.3%)であった.視力は全例0.02以下で,視力不良の原因は水疱性角膜症がC8眼で,緑内障による中心視野消失がC7眼であった.水疱性角膜症のC8眼は本人が角膜移植を希望せず羊膜移植を選択した.術後血清点眼を行った症例はC15眼中C11眼であり,4眼は処方忘れであった.15眼中C15眼(100%)で角膜上皮が再生し,角膜上皮が再生するまでの平均日数はC11.6C±6.5日(6.30日)であった.疼痛は,角膜上皮再生後全例で消失し,経過観察中も外傷や感染などで上皮の合併症を生じたとき以外は出現しなかった.羊膜の脱落は,2回の外傷で上皮とともに全部脱落した症例がC1眼(6.7%),感染で全部脱落した症例がC1眼(6.7%)であった.部分的に自然に脱落した症例がC8眼(53.3%),脱落していなかった症例がC5眼(33.3%)であり,移植症例性年齢(歳)原因疾患術前視力視力不良の原因上皮再生期間(日)血清点眼観察期間(月)羊膜の脱落1男C80緑内障手術CHM緑内障C14+24.1自然に一部C2女C76緑内障手術+ぶどう膜炎C0.01緑内障C36+89.7なしC3女C60緑内障手術+ぶどう膜炎CHM水疱性角膜症C9C.109.3自然に一部C4女C89緑内障手術CHM水疱性角膜症C20+46.7自然に一部C5女C80緑内障手術CLP+緑内障C7+24.6なしC6女C87緑内障手術CLP.緑内障C6C.51.1なしC7女C74緑内障手術C0.02緑内障C7+103.2自然に一部C8女C86白内障手術C0.01水疱性角膜症C10C.30.4自然に一部C9女C85白内障手術(ACIOL)CLP.緑内障C7+14.3自然に一部C10女C76白内障手術C0.01水疱性角膜症C10+57.2なしC11女C85白内障手術C0.01水疱性角膜症C16C.76.4感染で全部C12男C64白内障手術C0.01水疱性角膜症C7+90.4外傷で全部C13男C80白内障手術C0.01水疱性角膜症C7+15.2自然に一部C14女C70不明CLP+水疱性角膜症C10+47.9なしC15男C78緑内障CLP+緑内障C14+34.5自然に一部ACIOL:anteriorchamberintraocularlens,HM:handmotion,LP:lightperception.表2術後合併症2上皮欠損外傷自然軽快12C64男抗菌薬点滴+14上皮欠損+眼内炎外傷抗菌薬硝子体注射羊膜はC13眼(86.6%)で最終観察時まで残存していた.感染性角膜穿孔の症例を除き疼痛が再燃していた症例はなく,最終受診時に全例で上皮ブレブ形成は認めず上皮は安定していた.術後合併症はC3例で認めた(表2).症例C1は,術後C14カ月に棒が眼に当たり上皮欠損を認めたが,治療用コンタクトレンズ装用にて改善した.症例C11は,長期間にわたり眼科を受診しておらず詳細が不明だが,術後C72カ月に角膜潰瘍穿孔と感染性眼内炎を認め,もともと光覚がなく認知症もあり治療が困難なため,眼球内容除去を施行した.症例C12は,術後C2カ月に竹の棒が眼に当たり上皮欠損を認め治療用コンタクトレンズ装用で改善したものの,羊膜の下半分が脱落している状態だった.さらにC1年後,眼鏡のつるのはしが眼に当たり,角膜上皮欠損と前房蓄膿を認め,抗菌薬点眼で改善を認めず硝子体混濁が出現したため,抗菌薬点滴と抗菌薬硝子体注射を行い改善した.[代表症例]74歳,女性(表1:症例7).主訴:左眼眼痛.現病歴:30歳頃に両眼ぶどう膜炎に伴う続発性緑内障に対し,近医にて両眼緑内障手術を施行された.その後左眼白内障と瞳孔閉鎖を認めていたためC65歳で当院にて左眼瞳孔形成術+白内障.外摘出+眼内レンズ縫着術を施行した.術後に左眼の眼圧コントロールが不良となり,左眼ニードリングを施行した.その後他院にてC2回左眼ブレブ再建術を行っている.68歳のときに当科で左眼毛様体扁平部濾過手術を施行し,その後水疱性角膜症となった.左眼水疱性角膜症による角膜びらんを繰り返し,痛みの訴えがあり,治療用コンタクトレンズにて痛みが改善することを確認し,羊膜移植について説明し同意が得られたためC2012年C7月当科に入院した.入院時所見:視力は右眼C0.8(1.0×+1.0D(cyl.2.0DAx45°),左眼C0.02(矯正不能),眼圧は右眼C10mmHg,左眼19CmmHg(GAT)であった.Goldmann視野検査で右眼は湖崎分類にてCIIIaだが,左眼は中心視野が消失しており湖崎分類CVbであった.右眼は前眼部にC2時方向に濾過胞を認めており,眼底は視神経乳頭の蒼白を認めていた.左眼はC12時方向に濾過胞,角膜浮腫,角膜上皮障害を認めており(図2a),中間透光体,眼底の詳細は不明であった.経過:2012年C7月左眼羊膜移植術を施行した.術翌日より,クラビット点眼液C0.5%1日C4回,フルメトロン点眼液0.1%1日C3回を開始し,術後C3日より血清点眼C1日C4回を図2症例7(74歳,女性)a:術前写真:水疱性角膜症にて角膜浮腫,角膜上皮障害を認める.Cb:術後C7日:角膜上皮欠損は改善し,痛みの自覚が消失.Cc:術後C3年:わずかな点状表層角膜症を認めるが水疱は消失.痛みの自覚はない.自然に一部羊膜の脱落を認める(.).追加した.術後C1週で治療用コンタクトレンズをはずし,フルオレセイン染色をしたところ,羊膜上は角膜上皮により完CIII考察全に被覆されていた(図2b).術後C45日で治療用コンタク水疱性角膜症においては角膜内皮障害のため,角膜実質のトレンズを中止とし,術後C2カ月に角膜縫合糸が一部ゆるん浮腫による視力不良を認め,角膜上皮障害による異物感や疼だため抜糸し,術後C5カ月には全抜糸となった.術後C3年,痛を認める.このため,水疱性角膜症の治療の目的は視力改わずかにフルオレセイン染色を認めるのみであった(図善だけではなく,疼痛のコントロールも重要となってくる.C2c).術後C103カ月(8.6年)経過観察中,角膜びらんおよび視力予後が良好と考えられる場合は角膜移植が選択される眼痛は再発していない.が,視神経萎縮や黄斑萎縮のため視力予後が不良と考えられる症例や,疼痛緩和のみを希望とする症例に対しては,角膜患者数平均年齢痛みの改善観察期間著者報告年(眼)(歳)(%)上皮再生期間(月)EspanaetalC2003C18C70.2C882.2週C25.1CGeorgiadisetalC2008C81C68C87.615日C21.0CSiuetalC2015C21C68.9C942週C39.0本報告C2020C15C79.2C10012.3日C50.8C移植を第一選択とするにはわが国ではドナー角膜の提供に限りがあるため困難である.高張食塩水点眼や軟膏塗布は軽度の異物感の改善は期待できるが,上皮欠損を繰り返す高度な水疱性角膜症には効果が乏しいと考えられる.治療用コンタクトレンズは高度な水疱性角膜症に対しても痛みを軽減するが,定期的に交換しつつ継続して装用する必要があり,長期間使用することで感染性角膜炎のリスクが生じる.外科的治療としては,結膜被覆術が古くから行われ,疼痛には効果があるが9),緑内障手術を繰り返している患者では被覆が困難な場合があり,整容的な面,輪部幹細胞が障害されるなどの欠点もある.PTKが効果的であったとの報告もあるが6,10),エキシマレーザーを所有していない施設では施行できない.AnteriorCstromalpuncture(ASP)が有用との報告もあり,ParisFdosらはASPと羊膜移植を比較し同等の効果を得られたと報告している7).しかし,ASP術後にCsubepithelial.brosis(上皮下線維症)をきたし,羊膜移植を追加したという報告もあるため注意が必要である11).クロスリンキングが効果的であったという報告12)もあるが,器械を所有していない施設では施行ができない.羊膜移植には以下のようなものがあげられる.①羊膜グラフト:羊膜を強膜,あるいは角膜実質上に移植し,新しい基質を供給することで,再生する角結膜上皮の適切な分化・増殖を図る.②羊膜パッチ:羊膜を一時的なカバーとして用い,上皮化を促進し,抗炎症,実質融解防止を行う.③羊膜スタッフ:羊膜を代用実質として用いる13).水疱性角膜症の眼痛が羊膜移植により軽減する機序としては,羊膜グラフトとして羊膜移植を行い,新しい基質が足場として供給されることで,上皮細胞の遊走と分化を促進し接着を強化するためと考えられる.今回C15眼中C8眼で最終受診時に部分的な羊膜の自然脱落を認めたが,疼痛および上皮ブレブの出現は認められなかった.羊膜移植初期は羊膜が足場となりレシピエント自身の上皮細胞が被覆されるが,年月が経過し羊膜が基質として不要になった場合に自然に脱落したのではないかと考えられた.羊膜が脱落しても経過中に上皮の安定性に問題はなかった.また,羊膜間質には抗血管新生および抗炎症蛋白が多く含まれており,炎症・線維化を抑制することで,羊膜上に健常な上皮が被覆して水疱形成が起こりにくくなるため眼痛が消失すると考えられている2).また,羊膜移植後の拒絶反応に関しては,羊膜上皮移植による抗原感作は弱いため,宿主には長期の抗原記憶が残らないと考えられ,同一ドナーの羊膜を短期間に繰り返して移植をしたり,他の組織移植と併用したり,凍結羊膜ではない生きのよい細胞を含む羊膜を用いた場合でない限り,拒絶反応が少ないとされている14).痛みを伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植をした報告はわが国では少なく,小池らがC2例報告をしているのみで,2例中2例(100%)で眼痛の改善を認めている4).長期間経過観察をしている海外での既報および本報告の結果を表3に示す.Espanaらは羊膜グラフトとパッチを行いC18例中C16例(89%)で痛みの改善を認めている3).1例で持続的な痛みを訴え,アルコール球後注射を行い最終的には疼痛管理のために眼球内容除去を行っている.その他C1例は上皮欠損と眼痛が持続している.Georgiadisらは羊膜パッチを行いC81例中C71例(87.6%)で痛みの改善を認めている5).5例がC2回の羊膜移植を,2例がC3回の羊膜移植を,3例がその後CPKPを施行している.Siuらは角膜実質表層切除と羊膜グラフトを行い21例中C20例(94%)で痛みの改善を認めている8).1例が術後C8週間後に羊膜の欠損を認め,結膜被覆を施行している.当科では羊膜グラフトを行いC15例中C15例(100%)で痛みの改善を認めている.前述のようにC3例で合併症を認めているが,3例とも外傷もしくは感染による合併症と考えられ,水疱性角膜症による痛みの再発は認められず,羊膜の再移植,角膜移植,結膜被覆などの追加手術は施行していない.当科を含むこれらの報告では羊膜移植を施行後,平均約C2週で上皮化しており,90%近くの症例で痛みの改善を認めている.以上より,眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植術は有効で安全な治療法であると考えられる.文献1)島.潤:羊膜移植.日本の眼科74:1269-1272,C20032)PiresCRTF,CTsengCSCG,CPrabhasawatCPCetal:AmnioticCmembraneCtransplantationCforCsymptomaticCbullousCkera-topathy.ArchOphthalmolC117:1291-1297,C19993)EspanaCEM,CGrueterichCM,CSandovalCHCetal:AmnioticCmembranetransplantationforbullouskeratopathyineyeswithCpoorCvisualCpotential.CJCCataractCRefractCSurgC29:279-284,C20034)小池直栄,廣瀬直文,小池生夫ほか:眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術が有効であったC2例.眼紀C57:209-212,C20065)GeorgiadisCNS,CZiakasCNG,CBoboridisCKGCetal:Cryopre-servedCamnioticCmembraneCtransplantationCforCtheCman-agementofsymptomaticbullouskeratopathy.ClinExperi-mentCOphthalmolC36:130-135,C20086)ChawlaB,SharmaN,TandonRetal:Comparativeevalu-ationofphototherapeutickeratectomyandamnioticmem-braneCtransplantationCforCmanagementCofCsymptomaticCchronicbullouskeratopathy.CorneaC29:976-979,C20107)ParisFdosS,GoncalvesED,CamposMSetal:AmnioticmembraneCtransplantationCversusCanteriorCstromalCpunc-tureCinCbullouskeratopathy:aCcomparativeCstudy.CBrJOphthalmolC97:980-984,C20138)SiuCGD,CYoungCAL,CChengLL:Long-termCsymptomaticCreliefCofCbullousCkeratopathyCwithCamnioticCmembraneCtransplant.IntCOphthalmolC35:777-783,C20159)北野周作,東野巌,竹中剛一ほか:水疱性角膜症に対するCGundersen法による結膜被覆術の効果について.臨眼C30:683-687,C197610)武藤貴仁,佐々木香る,熊谷直樹ほか:視力回復の可能性のない水疱性角膜症に対するCPhototherapeuticCKeratecto-myの長期成績.あたらしい眼科29:1395-1400,C201211)FernandesCM,CMorekerCMR,CShahCSGCetal:ExaggeratedCsubepithelialC.brosisCafterCanteriorCstromalCpunctureCpre-sentingasamembrane.CorneaC30:660-663,C201112)阿部謙太郎,小野喬,子島良平ほか:水疱性角膜症に対する角膜クロスリンキング術後長期成績,日眼会誌C124:C15-20,C202013)島.潤:羊膜移植の臨床応用.眼科手術C15:25-29,C200214)堀純子:羊膜と免疫反応.眼紀C56:722-727,C2005***

全層角膜移植を施行したAxenfeld-Rieger 症候群の4 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):239.243,2022c全層角膜移植を施行したAxenfeld-Rieger症候群の4例島優作内野裕一三田村浩人片山泰一郎平山オサマ根岸一乃榛村重人慶應義塾大学医学部眼科学教室CPenetratingKeratoplastyinFourCasesofAxenfeld-RiegerSyndromeYusakuShima,YuichiUchino,HirotoMitamura,TaiichiroKatayama,OsamaHirayama,KazunoNegeshiandShigetoShimmuraCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineCAxenfeld-Rieger症候群(ARS)は前眼部形成異常を特徴とする先天疾患であり,臨床上は治療抵抗性の緑内障や水疱性角膜症(BK)による視力低下が問題となる.今回,ARS患者に生じたCBKに対して,全層角膜移植(PKP)を施行したC4症例C5眼の長期経過を報告する.症例は平均年齢C57C±4.0歳,観察期間はC7カ月からC20年.全例で緑内障を発症し,緑内障手術を施行した.5眼中C4眼でCPKP後にCBKが再発し,複数回のCPKPを施行した.全例でCPKP術後は良好な視力回復を得た.ARS患者に生じたCBKに対するCPKPは一時的な視機能回復には効果があるが,PKPは,BKの再発により複数回の手術を繰り返す可能性が高く,慎重かつ十分なインフォームド・コンセントのもとに治療方針を決定すべきである.Axenfeld-Riegersyndrome(ARS)isacongenitaldiseasecharacterizedbyanteriorsegmentdysplasia,whichisCassociatedCwithCtreatment-resistantCglaucomaCandClossCofCvisionCdueCtoCbullouskeratopathy(BK)C.CThisCstudyCinvolved5eyesof4ARSpatients(meanage:57C±4.0years)thatunderwentpenetratingkeratoplasty(PKP)forBK,withafollow-upperiodrangingfrom7monthsto20years.Allpatientswerediagnosedwithglaucoma,andsubsequentlyunderwentglaucomasurgery.In4ofthe5eyes,BKrecurredafterPKPandmultiplePKPwereper-formed,CandCallCpatientsChadCgoodCvisualCrecoveryCafterCPKP.CAlthoughCPKPCforCBKCinCpatientsCwithCARSCisCe.ectiveintemporarilyrestoringvisualfunction,PKPislikelytoberepeatedmultipletimesduetoBKrecurrence,andthetreatmentplanshouldbedecidedundercarefulandsu.cientinformedconsent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):239.243,C2022〕Keywords:Axenfeld-Rieger症候群,前眼部形成異常,全層角膜移植,水疱性角膜症,続発緑内障.Axenfeld-Riegersyndrome,anteriorsegmentdysgenesis,penetratingkeratoplasty,bullouskeratopathy,secondaryglaucoma.CはじめにAxenfeld-Rieger症候群(Axenfeld-RiegerCsyndrome:ARS)は前眼部の両眼性の形成異常と,歯牙,顔面骨,四肢の異常といった全身合併症を伴う先天性疾患である1.5).前眼部所見としてはCSchwalbe線の前方偏位である後部胎生環,瞳孔偏位,偽多瞳孔,irisstrandなどが特徴的である.神経堤細胞の遊走・分化の異常が原因と考えられており6),その発症率はC20万人にC1人と報告され,常染色体優性遺伝の形式をとる2,4,7).臨床上,緑内障と水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)が好発することが知られており,ARSの約C50%が緑内障を発症するとされ1,2,4),治療抵抗性であることが多く,臨床上もっとも問題となる8).ARSはその希少性ゆえに,外科的治療の予後を検討した報告はきわめて少ない8).今回筆者らは,ARSを有する患者に生じたCBKに対して全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)を施行した4症例,5眼の長期経過を報告する.CI症例〔症例1〕53歳,女性.〔別刷請求先〕島優作:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YusakuShima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC図1症例1の左眼所見a:2008年C4月.BK再発時.角膜浮腫を認める.Cb:2008年C4月.PKP術直後.良好な視力回復(0.7)を得た.Cab図2症例2の右眼所見a:2017年C2月.当院初診時.著明な角膜浮腫と視力低下(0.05)を認める.Cb:2018年9月.2回目のPKP術後.良好な視力回復(1.2)を得た.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:出生時から両眼の視力低下を認め,前医にてARSと診断された.前医にてC34歳時に左眼の小角膜,36歳時に左眼のCBKに対してそれぞれCPKPを施行したのち,薬物治療に抵抗性の左眼高眼圧(40CmmHg程度)が持続するため,緑内障手術施行目的にC36歳時に慶應義塾大学病院(以下,当院)紹介受診となった.経過:当院初診時,両眼の瞳孔偏位,偽多瞳孔,隅角全周閉塞を認めた.眼以外に明らかな全身合併症は認めなかった.矯正視力は右眼(0.6),左眼(0.4),眼圧は右眼C10mmHg,左眼C40CmmHg.36歳時に左眼線維柱帯切除術を施行し眼圧下降を得た.しかし,その後も左眼のCBKの再発に対し,PKPをC42.48歳時に合計4回施行した(図1).52歳時に再度左眼のCBKを再発し,そのときの眼圧が27CmmHgであり,同年に左アーメド緑内障バルブ手術を施行した.53歳時の最終診察時の左眼の矯正視力は(0.05),眼圧はC10CmmHgで,Goldmann視野計で左鼻上側の視野障害を認めた(湖崎分類CIII-a相当).現在はC5回目のCPKPに向けてドナー待ちの状態である.〔症例2〕61歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:55歳時に左眼の角膜潰瘍(詳細不明)にて前医受診し,ARSと両眼続発緑内障と診断された.56歳時に左眼線維柱帯切除術を施行した.57歳時に左眼白内障手術を施行し,術後にCBKを発症した.同年に左眼の角膜移植目的に当院初診となった.経過:当院初診時,矯正視力は右眼(0.05),左眼(0.01),両眼とも著明な角膜浮腫を認め,両眼CBKと診断した(図2).眼以外に明らかな全身合併症は認めなかった.57歳時に両眼のCPKPを施行した.その後右眼は白内障の進行とC21.22CmmHg程度の高眼圧を認めたため,他院にてC58.59歳時に右眼の白内障手術と線維柱帯切除術を施行した.59図3症例3の右眼所見a:2020年C1月.当院初診時.瞳孔偏位,全周性の周辺虹彩前癒着を認める.Cb:2020年C3月.PKP術後.良好な視力回復(1.0)を得た.歳時に再度両眼の視力低下を認め,当院を受診した.このとき,矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.01),両眼の角膜浮腫を認めCBKの再発と診断した.同年に両眼に対してそれぞれ2回目のCPKPを施行した.61歳時の最終受診時に左眼のBK再発を認め,矯正視力は右眼(0.9),左眼(0.01),眼圧は右眼C15CmHg,左眼C12CmmHgで,Humphrey視野計で右眼は鼻側C2象限,左眼は全周性の視野障害を認めたが,中心視野は残存していた.現在はC3回目のCPKPに向けてドナー待ちの状態である.〔症例3〕61歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:3回の内斜視手術.現病歴:前医にて両眼前眼部形成異常と内斜視で経過観察されていた.60歳時から右眼の視力低下を自覚し,右眼CBKと診断され,角膜移植施行目的に当院紹介となった.経過:当院初診時,右眼矯正視力は(0.1),瞳孔偏位,全周性の周辺虹彩前癒着,著明な角膜浮腫を認めCARSと診断した(図3).61歳時に右眼CPKPを施行した(図4).PKP後は右眼矯正視力(1.0)と良好な視力回復を得たものの,術後の右眼眼圧はC36.38CmmHgで推移し,降圧点眼にも反応しなかったため,61歳時にアーメド緑内障バルブ手術と白内障手術の同時手術を施行した.同年の最終診察時の左眼の矯正視力は(0.9),眼圧はC32CmmHgで,Goldmann視野計では明らかな視野障害の進行はみられなかった(湖崎分類CI相当).〔症例4〕53歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:生下時より両眼前眼部形成異常を指摘され近医にて経過観察されていた.15歳時に両眼視力低下を自覚し,当院紹介受診となった.図4症例4の右眼所見2012年C2月.2回目のCPKP術後.良好な視力回復(0.8)を得た.経過:当院初診時,右眼矯正視力は(0.7),後部胎生環,偽多瞳孔,瞳孔変異を認め,ARSと診断した.また,続発緑内障と診断し,点眼治療を開始した.その後点眼のみでは眼圧コントロールがつかず,26歳時に右眼,36歳時に左眼に線維柱帯切除術を施行した.36歳時から右眼視力低下を自覚し,BKと診断した.37歳時に右眼CPKP,38歳時に右眼白内障手術を施行した.術後は右眼矯正視力(0.8)程度で良好な視力回復を得たものの,44歳時に再度視力低下を自覚し,右眼矯正視力は(0.1),角膜浮腫を認めCBKと診断した.45歳時にC2回目の右眼CPKPを施行した(図4).その後右眼眼圧はC11.27CmmHgで推移し,点眼治療では眼圧コントロールがつかず,46歳時に右眼バルベルト緑内障インプラント手術を施行した.53歳時の最終診察時の右眼の矯正視力は(0.4),眼圧はC13CmmHgで,Goldmann視野計で左鼻上側の視野障害を認めた(湖崎分類CIII-a相当).表14症例のまとめ症例C153歳,女性症例C261歳,男性症例C361歳,男性症例C453歳,男性部位左眼右眼左眼右眼右眼観察期間20年2カ月5年11カ月9カ月38年緑内障有有有有緑内障手術線維柱帯切除術アーメド線維柱帯切除術線維柱帯切除術アーメド線維柱帯切除術バルベルトPKP回数6回2回2回1回2回PKP後のCBK再発回数5回1回2回0回1回最終診察時視力・眼圧(0C.05)C/10CmmHg(0C.9)C/15CrnmHg(0C.01)C/12CmmHg(0C.9)C/32CmmHg(0C.4)C/13CmmHg最終診察時視野湖崎分類CIII-a鼻側C2象限視野障害*全周性視野障害中心視野残存*湖崎分類CI湖崎分類CIII-aアーメド:アーメド緑内障バルブ手術,バルベルト:バルベルト緑内障インプラント手術,PKP:全層角膜移植,BK:水疱性角膜症.*Humphrey視野計で施行.4症例C5眼の臨床経過を表1に示す.経過中に全例で緑内障を発症し,緑内障手術(線維柱帯切除術もしくはチューブシャント術)を施行した.5眼中C2眼は初回CPKP術前に,4眼はCPKP後に緑内障手術を施行した.5眼中C4眼でCPKP後にCBKが再発し,複数回のCPKPを施行した.全例でCPKP後は良好な視力回復が得られ,拒絶反応や感染を生じた症例は認めなかった.PKP施行からCBK再発までの期間はばらつきがあり,最短ではC10カ月,最長で約C7年であった.CII考按ARSを有する患者に生じたCBKに対して,PKPを施行したC4症例の経過について報告した.いずれもCPKP施行後は良好な視力回復が得られ,グラフトの拒絶反応や感染を生じた症例は認められなかった.一方で,経過のなかでCBKの再発がしばしば生じ,複数回のCPKPを要した.ARSの原因遺伝子として前眼部の発生に深くかかわる転写因子をコードするCPITX2やCFOXC1などが同定されている.ARSにおける角膜内皮異常についてCShieldsらは,典型的には軽度の大きさ・形態のばらつきを伴う程度であり,加齢や緑内障,内眼手術の既往があるとその傾向が目立つと報告している2,4).ARSにおける内皮細胞密度減少の機序は明らかになっていないが,PITX2の変異と内皮細胞異常の関連を示したCARSの家系調査も複数存在し9,10),神経堤細胞の遊走・分化の異常による前眼部の構造異常が一因として考慮される.ARS患者に生じたCBKに対する治療として,PKPのほかに角膜内皮移植(DSAEK,DMEK)も考慮されうる.しかし,前眼部の形態異常(とくに虹彩異常)による手術操作,空気タンポナーデの可否や,線維柱帯切除術による濾過胞の有無などを含め,患者ごとに適応を慎重に検討する必要がある.また,本症例のなかには術後の眼圧コントロールに苦慮したケースが多く含まれる.一般に,PKP後は周辺虹彩前癒着による狭隅角や,長期のステロイド点眼による続発緑内障が問題となることが多い11,12).ARS患者における眼圧上昇の機序としてはCirisstrandによる房水流出抵抗の増加や,線維柱帯を含めた隅角の形成不全など複数の原因が考えられる.開放隅角と閉塞隅角の両方の要素の眼圧上昇を伴い,多くの症例で薬物治療に抵抗し,眼圧コントロールに複数回の外科的治療を要すると報告されている2,8).緑内障手術の術式は,ARSの場合,隅角形成不全を伴うことから線維柱帯切開術は選択されにくく,高い眼圧下降効果を期待し濾過手術(線維柱帯切除術もしくはチューブシャント術)が選択されることが多い.本疾患のように複数回の角膜移植を必要とする患者には,人工角膜移植が考慮される.現在もっとも普及しているCBostonCkeratoprosthesistype1(BostonKPro)は,わが国では未承認であるが,複数の報告で数年の経過においてC9割程度の高い生着率が報告されている13,14).人工角膜移植はCPKPと比較し,移植回数の減少を期待できる一方で,通常の眼圧測定ができず術後の緑内障の管理がむずかしい点や,増殖膜の増生が問題として考えられる.また,比較的若年から角膜移植を要し,長期経過をたどることの多いCARS患者においては,長期予後のさらなる検討が必要である.以上から,ARS患者に生じたCBKに対するCPKPは一時的な視機能回復には効果があるが,PKPは,BKの再発により複数回の手術を繰り返す可能性が高く,慎重かつ十分なインフォームド・コンセントのもとに治療方針を決定すべきであるといえる.文献1)FitchCN,CKabackM:TheCAxenfeldCsyndromeCandCtheCRiegersyndrome.JMedGenetC15:30-34,C19782)ShieldsCMB,CBuckleyCE,CKlintworthCGKCetal:Axenfeld-Riegersyndrome.Aspectrumofdevelopmentaldisorders.SurvOphthalmolC29:387-409,C19853)WaringCGO,CRodriguesCMM,CLaibsonPR:AnteriorCcham-berCcleavageCsyndrome.CACstepladderCclassi.cation.CSurvCOphthalmolC20:3-27,C19754)ShieldsMB:Axenfeld-RiegerCsyndrome:aCtheoryCofCmechanismanddistinctionsfromtheiridocornealendothe-lialCsyndrome.CTransCAmCOphthalmolCSocC81:736-784,C19835)Sei.CM,CWalterMA:Axenfeld-RiegerCsyndrome.CClinCGenetC93:1123-1130,C20186)WilsonME:CongenitalCirisCectropionCandCaCnewCclassi.cationCforCanteriorCsegmentCdysgenesis.CJCPediatrCOphthalmolStrabismusC27:48-55,C19907)ChildersCNK,CWrightJT:DentalCandCcraniofacialCanoma-liesofAxenfeld-Riegersyndrome.JOralPatholC15:534-539,C1986C8)ZepedaCEM,CBranhamCK,CMoroiCSECetal:SurgicalCout-comesCofCglaucomaCassociatedCwithCAxenfeld-RiegerCsyn-drome.BMCOphthalmolC20:172,C20209)KniestedtCC,CTaralczakCM,CThielCMACetal:ACnovelCPITX2CmutationCandCaCpolymorphismCinCaC5-generationCfamilyCwithCAxenfeld-RiegerCanomalyCandCcoexistingCFuchs’CendothelialCdystrophy.COphthalmologyC113:1791,C200610)QinCY,CGaoCP,CYuCSCetal:AClargeCdeletionCspanningCPITX2CandCPANCRCinCaCChineseCfamilyCwithCAxenfeldCRiegersyndrome.MolVisC4:670-678,C202011)AyyalaRS:Penetratingkeratoplastyandglaucoma.SurvOphthalmolC45:91-105,C200012)山田直之,森重直行,柳井亮二ほか:原因疾患と角膜移植後眼圧上昇の相関.臨眼C56:1355-1360,C200213)GoinsKM,KitzmannAS,GreinerMAetal:Bostontype1keratoprosthesis:VisualCoutcomes,CdeviceCretention,Candcomplications.CorneaC35:1165-1174,C201614)AravenaCC,CYuCF,CAldaveAJ:Long-termCvisualCout-comes,Ccomplications,CandCretentionCofCtheCBostonCtypeCICkeratoprosthesis.CorneaC37:3-10,C2018***

角膜ケロイド症例の免疫組織学的検討

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1761.1764,2017c角膜ケロイド症例の免疫組織学的検討沼幸作*1北澤耕司*2,3外園千恵*1木下茂*3*1京都府立医科大学視覚機能再生外科学*2バプテスト眼科クリニック*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CImmunohistologicalExaminationofaCasewithCornealKeloidKohsakuNuma1),KojiKitazawa2,3)C,ChieSotozono1)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)BaptistEyeInstitute,3)DepartmentofFrontierMedicalTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:角膜ケロイドのケロイド組織を免疫組織学的に検討したC1症例を報告する.症例および経過:症例はC73歳,男性で,過去に複数回の眼科手術歴があり,徐々に視力低下が進行しバプテスト眼科クリニックを紹介受診.角膜ケロイドと水疱性角膜症を認めたため,角膜ケロイド除去および全層角膜移植術を施行した.術後C9カ月の経過において裸眼視力C0.1(矯正不能)で,ケロイドの再発は認めず,角膜移植片は透明性を維持している.手術時に除去したケロイド組織を免疫組織学的に検討したところ,角膜上皮層にケラチンC3,ケラチンC12,ケラチンC4,ケラチンC13が陽性であったが,ケラチンC1,ケラチンC10は陰性であった.結論:二次性に発症したと考えられる角膜ケロイドに対して全層角膜移植を行い,術後C9カ月の経過期間中には,ケロイドの再発を認めず,移植片は透明性を維持していた.切除した角膜ケロイド組織は,角膜上皮および結膜上皮の両方の生物学的特徴を有していた.Herewereportapatientwhounderwentpenetratingkeratoplasty(PK)forcornealkeloid.A73-yearoldmalewasreferredtotheBaptistEyeInstitute,Kyoto,Japan.Hehadundergonethreeintraocularsurgeriesandhadcor-nealkeloidandbullouskeratopathy.WeperformedcornealkeloidremovalandPK.Afterthesurgery,best-correct-edCvisualCacuityCimprovedCtoC20/200CandChasCmaintainedCwellCwithoutCrejectionCepisode.CTheCresectedCcornealCkeloidtissueshowedbiologicalcharacteristicsofbothcornealepitheliumandconjunctiva.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1761.1764,C2017〕Keywords:角膜ケロイド,水疱性角膜症,全層角膜移植術,ケラチン.cornealkeloid,bullouskeratopathy,pene-tratingkeratoplasty,keratin.Cはじめに角膜ケロイドは,角膜外傷や手術後に異常な創傷治癒過程をたどることで,角膜に結節状の白色腫瘤を形成する比較的まれな疾患である.病理組織学的には角膜上皮の過形成,角膜基底層とCBowman膜の破綻,同時に角膜実質層の不規則なコラーゲンの蓄積を起こす1,2).一方で,角膜ケロイドを免疫組織学的に検討した報告はこれまでになく,その病態もいまだに不明な部分が多い.今回筆者らは,眼外傷と長期にわたる水疱性角膜症によって発生したと思われる角膜ケロイドの症例に対して,手術時に切除したケロイド組織を免疫組織学的に検討したので報告する.CI症例および経過73歳,男性で,既往疾患に糖尿病および高血圧があった.40歳(1980年)時,右眼外傷でC3度の手術歴があり人工水晶体眼となった.その後,角膜内皮機能不全により水疱性角膜症を発症し近医で経過観察されていた.しかし,角膜混濁を伴う隆起性病変を発症し,さらなる視力低下をきたしたため,2015年C10月にバプテスト眼科クリニックへ紹介受診となった.初診時の右眼視力はC10cm指数弁(矯正不能),眼圧は32CmmHgであり,角膜中央部には表面の滑らかな白色結節を認め,中央部には血管侵入を伴っていた(図1).前眼部OCT(CASIA;トーメイ)では境界明瞭な高輝度領域を認〔別刷請求先〕北澤耕司:〒C606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,Ph.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,CJAPAN図1手術前水疱性角膜症およびC11時方向より血管侵入を伴う白色隆起性病変を認めた.図3手術中所見ケロイド組織と考えられる部位の.離後,残存角膜は比較的透見性が高かった.め,白色結節部位に一致すると考えられた(図2).角膜内皮細胞数は測定不能であった.受診時に高眼圧を認めたため,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩点眼による眼圧コントロールが開始となった.2016年C7月に眼圧C15CmmHgと手術加療が可能であると考えられる状態となったため,全層角膜移植術を施行した.術中に角膜の透見性を確保する目的で,肥厚した角膜上皮層と実質浅層を含む組織片を.離した(図3).縫着糸を通糸した後に,7.5Cmm径でホスト角膜を打ち抜いた.後房内に下方偏位した眼内レンズを認めたためこれを除去し,新しい眼内レンズを縫着した.7.75Cmm径の角膜移植片を連続縫合し手術は終了した.術後は眼圧C30mmHgと高眼圧を示したが,ラタノプロスト・チモロール図2手術前前眼部COCTで角膜表層に境界明瞭な高輝度領域を認めた.図4術後9カ月角膜移植片は透明性を維持していた.マレイン酸塩とブリモニジン酒石酸塩点眼,アセタゾラミド内服でC20CmmHg前後を維持することができた.術後C9カ月の経過時点では,裸眼視力C0.1(矯正不能),眼圧C18CmmHg,角膜内皮細胞数はC2,339Ccells/mmC2であり,角膜移植片は透明性を維持していた(図4).今回,手術開始の際に切除した白色隆起組織と打ち抜いたホスト角膜をそれぞれ半割し,ヘマトキシリン・エオジン染色にて病理組織学的所見を観察した.角膜実質層の表層部では新生血管の増生と不規則なコラーゲンの増生を認めた.角膜上皮の過形成やCBowman膜の破綻,および杯細胞は観察されなかった(図5).角膜実質中間層より深部の角膜組織には明らかな異常は認められなかった(図6).つぎに,残った組織片から凍結切片を作製し,以下のように免疫染色を行い,ケラチンの発現を観察した.アセトンにてC4℃でC10分間固定し洗浄した後,0.15%CTriton/PBSを用いて室温でC10分間の透過処理を行い,その後ブロックキングを行った.一次抗体としてケラチンC3抗体(PROGEN;AE-5,Cmouse),図5手術時に切除したケロイド組織の病理組織像〔Hematoxylin.図6手術時に打ち抜いたホスト角膜の病理組織像〔Hematoxylin.Eosin(HE)染色〕Eosin(HE)染色〕角膜実質浅層に増生された血管(▲)および,不整なコラーゲン角膜実質中間層,実質深層,Descemet膜および角膜内皮層の各増殖の層(*)を認めた.スケールバー:200Cμm.層に明らかな異常は認めなかった.スケールバー:200Cμm.図7手術時に切除したケロイド組織の免疫染色像角膜上皮層においてケラチン(K)3は上皮層の表層C2.3細胞層で陽性,K12は上皮全層で陽性であった.K4は上皮最表層のみで陽性,K13は上皮層の表層C2.3細胞層で弱陽性であった.K1,K10は陰性であった.スケールバー:200Cμm.CケラチンC12抗体(SantaCruz;N-16,goat),ケラチンC4抗体(Novocastra;6B10,Cmouse),ケラチンC13抗体(Novo-castra;KS-1A3,Cmouse),ケラチンC1抗体(LeicaCBiosys-tem;34CbB4,Cmouse),ケラチンC10抗体(Novocastra;LHP1,mouse)を2%CBSAで希釈し,オーバーナイト4℃で反応させた後に,それぞれに対応した二次抗体をC2%CBSAに希釈し室温でC1時間反応させた.PropidiumCiodide(PI)を反応させ封入し,蛍光顕微鏡(AX70CTRFCR;Olympus)で観察した.なお,すべての反応は湿潤箱内で行った.その結果,採取した角膜ケロイドの表層組織では,角膜上皮全層においてケラチンC12が陽性であった.また,上皮表層のC2.3細胞層においてケラチンC3とケラチンC13を,上皮最表層においてケラチンC4が陽性となった.ケラチンC1とケラチンC10は陰性であった(図7).CII考按本症例は,角膜に境界明瞭で表面は滑らかな白色結節病変,および病変に一致して新生血管を認めた.前眼部COCTにおいて高輝度に描出された角膜上皮と実質浅層と考えられる角膜肥厚は,検眼鏡的に認めた白色結節病変と一致していると考えられた.角膜ケロイドについてのこれまでの報告によると臨床所見は,角膜に表面が滑らかで単独の白色またはやや黄色がかった結節病変が生じ,時間経過とともに徐々に拡大傾向を示す.病変に一致して新生血管を伴うこともある1,2).今回の症例の臨床所見は既報の角膜ケロイドの特徴と比較しても矛盾しない所見であり,年齢や外傷歴からも角膜ケロイドと診断した.しかし,一般に角膜ケロイドの臨床所見は多岐にわたり,角膜デルモイド,Salzmann角膜変性症,角膜浮腫を伴う発達緑内障,Peters奇形などが鑑別疾患となる1,3)が,いずれの疾患も前眼部COCTで境界が明瞭にかつ均一な高輝度の領域で描出される疾患ではない.角膜ケロイド診断には前眼部COCTによる評価が有用であった.角膜ケロイドの多くは角膜外傷,角膜疾患,眼手術後に二次的に発症するとされているが,とくにそのような外的因子の関与がなくても発症するという報告もある1.5).本症例は外傷歴と,3度にわたる眼科手術歴と長年の水疱性角膜症から慢性的に角膜上皮のトラブルを繰り返したことにより,二次的に角膜ケロイドを発症したと考えられた.病理学的所見は,既報では,角膜上皮の過形成,基底層とCBowman膜の破綻,角膜実質層ではCalpha-smoothmuscleactin(Ca-SMA)陽性筋線維芽細胞の増生や硝子様コラーゲン線維を認めると報告されている1,2).今回の症例では,角膜上皮の過形成や基底層とCBowman膜の破綻は明らかに認めることはなかったが,角膜実質表層での不規則なコラーゲン増生を認めた.その部位はとくに実質層浅層であり,同部位には血管増生も認めることから,角膜実質浅層がケロイド形成の首座になっている可能性が考えられた.免疫組織学的検討では,正常な角膜上皮に発現するケラチンC3とケラチンC126,7)以外にも,結膜上皮に発現するケラチンC4とケラチンC13の発現8,9)がみられた.さらに,角膜上皮が明らかな過形成を起こしてはいないと思われる部位でも結膜ケラチンの発現が認められた.ケラチンC4とケラチンC13を発現し結膜上皮としての性質を示しながら,病理組織像では杯細胞を認めないことから,角膜上皮が何らかの原因で本来発現することのないケラチンC4とケラチンC13を発現する状態となっていると考えられ,正常角膜上皮のコア転写因子ネットワーク10)が破綻している可能性が示唆された.このようにケロイドが本来存在するケラチンと異なったケラチンを発現することは,皮膚ケロイドにおいても認められる.皮膚ケロイドの形成過程において,創傷治癒という病的病態では,ケラチンC5とケラチンC14を発現する表皮基底細胞がCCa2+やビタミンCDC3で分化してケラチンC1とケラチンC10を発現するようになる11).以上の結果から角膜ケロイドの病態を考察すると,角膜実質層において創傷治癒過程に慢性的な炎症が存在し,それが原因となり実質浅層における異常コラーゲン増生を引き起こすことで,Bowman膜などの角膜の正常構造が破壊へと進行していく可能性が考えられた.さらに,正常基底膜構造が崩れ角膜上皮細胞の環境が変化することで,結果として正常角膜上皮には発現しないケラチンの発現をきたすのではないかと推測された.その際に発現するケラチンは,正常なコア転写因子ネットワークがどれくらい保存されているかに依存すると考えられた.そのため,本症例の角膜ケロイドでは性質の近い粘膜上皮型であるケラチンC4とケラチンC13が,皮膚ケロイドの場合には表皮の角化型であるケラチンC1とケラチンC10が発現すると推察した.今後これらの関係を明らかにしていくことが角膜ケロイドの病態解明につながると考えられるため,さらに症例を蓄積していく必要性がある.今回筆者らは二次性に角膜ケロイドを発症した症例に対して手術で切除したケロイド組織を免疫組織学的に検討した.ケロイド組織は正常の角膜上皮形態を残しつつも,結膜上皮の生物学的特徴も有していることが確認された.文献1)VanathiCM,CPandaCA,CKaiCSCetCal:CornealCkeloid.COculCSurfC6:186-197,C20082)BakhtiariCP,CAgarwalCDR,CFernandezCAACetCal:Cornealkeloid:reportCofCnaturalChistoryCandCoutcomeCofCsurgicalCmanagementintwocases.Cornea32:1621-1624,C20133)JungCJJ,CWojnoCTH,CGrossniklausCHE:GiantCcornealkeloid:caseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CCorneaC29:1455-1458,C20104)GuptaCJ,CGantyalaCSP,CKashyapCSCetCal:Diagnosis,Cman-agement,CandChistopathologicalCcharacteristicsCofCcornealkeloid:aCcaseCseriesCandCliteratureCreview.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)C5:354-359,C20165)LeeCHK,CChoiCHJ,CKimCMKCetCal:CornealCkeloid:fourCcaseCreportsCofCclinicopathologicalCfeaturesCandCsurgicalCoutcome.BMCOphthalmolC16:198,C20166)CooperCD,CSchemerCA,CSunCTT:Classi.cationCofChumanCepitheliaandtheirneoplasmsusingmonoclonalantibodiestoCkeratins:strategies,Capplications,CandClimitations.CLabCInvestC52:243-256,C19857)LiuCCY,CZhuCG,CConverseCRCetCal:CharacterizationCandCchromosomalClocalizationCofCtheCcornea-speci.cCmurineCkeratinCgeneCKrt1.12.CJCBiolCChemC269:24627-24636,C19948)KrenzerCKL,CFreddoCTF:CytokeratinCexpressionCinCnorC-malChumanCbulbarCconjunctivaCobtainedCbyCimpressionCcytology.InvestOphthalmolVisSciC38:142-152,C19979)Ramirez-MirandaCA,CNakatsuCMN,CZarei-GhanavatiCSCetal:KeratinC13CisCaCmoreCspeci.cCmarkerCofCconjunctivalCepitheliumthankeratin19.MolVisC17:1652-1661,C201110)KitazawaK,HikichiT,NakamuraTetal:OVOL2main-tainsCtheCtranscriptionalCprogramCofChumanCcornealCepi-theliumCbyCsuppressingCepithelial-to-mesenchymalCtransi-tion.CellRepC15:1359-1368,C201611)岸本三郎:皮膚創傷治癒そのメカニズムと治療.日本皮膚科学会雑誌113:1087-1093,C2003***

ガンシクロビル点眼療法が奏効したサイトメガロウィルス角膜内皮炎の1例

2017年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(6):888.892,2017cガンシクロビル点眼療法が奏効したサイトメガロウィルス角膜内皮炎の1例向井規子出垣昌子吉川大和田尻健介勝村浩三清水一弘池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CaseofCytomegalovirusCornealEndotheliitisTreatedbyGanciclovirEyedropsNorikoMukai,MasakoIdegaki,YamatoYoshikawa,KensukeTajiri,KozoKatsumura,KazuhiroShimizuandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollage目的:白内障手術後に発症したサイトメガロウィルス(CMV)角膜内皮炎に対し,ガンシクロビル点眼療法が奏効した1症例を経験した.症例:症例は77歳,男性.右眼白内障手術4カ月後より前房内炎症と硝子体混濁を生じ,特発性ぶどう膜炎として加療を受けていたが,術1年半後に限局性の角膜浮腫と豚脂様角膜後面沈着物(KP)を認めたため,当科紹介となった.当初,ヘルペス性角膜内皮炎を疑い,アシクロビル眼軟膏を投与したが改善せず,その後コイン状に配列するKPが角膜浮腫に伴って出現してきた.前房水のpolymerasechainreaction(PCR)検査を施行し,CMV-DNA陽性,単純ヘルペス・水痘帯状疱疹ウィルス陰性であったことより,CMV角膜内皮炎と診断した.患者自身の事情で,ガンシクロビル全身投与が施行困難であったため,自家調整した0.5%ガンシクロビル点眼および,0.1%フルオロメトロン点眼で治療したところ,角膜浮腫とKPは著明に改善した.結論:ガンシクロビル点眼による局所療法が奏効したCMV角膜内皮炎を経験した.ガンシクロビル点眼療法は本疾患に対する治療において一つの選択肢になると考えられた.Purpose:Toreportacaseofcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitisthatdevelopedaftercataractsur-geryandrespondedtoaganciclovireyedropsolutiontreatment.Case:Thepatient,a77-year-oldmale,hadprevi-ouslyundergonetreatmentforidiopathicuveitisinhisrighteye,signi.edbyin.ammationintheanteriorchamberalongwithvitreousopacitythatdeveloped4-monthsaftercataractsurgery.At18monthsafterthesurgery,cor-nealedemaandmutton-fatkeraticprecipitates(KPs)werediscoveredintheeye,andthepatientwasreferredtoourdepartmentfortreatment.Weinitiallysuspectedherpeticcornealendotheliitis,andadministeredacycloviroint-ment.However,noimprovementwasobservedandKPscoalescingintoacoin-likeshapesubsequentlyemergedinassociationwiththecornealedema.Wethereforeperformedapolymerasechainreactiontestontheanterioraque-oushumoroftheeyeanddiagnosedCMVcornealendotheliitisonthebasisofpositiveCMV-DNAandnegativeherpessimplexvirusandvaricella-zostervirus.Forpersonalreasons,thepatientwasunabletoundergosystemicadministrationofganciclovir,sohewasconsequentlytreatedwithadministrationofanoriginal-formulaeyedropsolutionconsistingof0.5%ganciclovirand0.1%.uorometholone,resultinginmarkedimprovementofthecornealedemaandKPs.Conclusion:WeobservedacaseinwhichCMVcornealendotheliitisrespondedtolocalizedtreat-mentwithaganciclovireyedropsolution,showingittobeaviabletreatmentoptionforpatientswithCMVcornealendotheliitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):888.892,2017〕Keywords:サイトメガロウィルス,角膜内皮炎,ガンシクロビル,ガンシクロビル点眼,水疱性角膜症.cyto-megalovirus(CMV),cornealendotheliitis,ganciclovir,ganciclovireyedrops,bullouskeratopathy.〔別刷請求先〕向井規子:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reportrequests:NorikoMukai,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollage,2-7Daigaku-cho,Takatsukicity,Osaka569-8686,JAPAN888(130)はじめに角膜内皮炎は1982年にKhodadoustらによって初めて報告された角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じる疾患であり1),これまではヘルペスウィルス角膜炎の一病型とされてきた2,3).しかし,抗ヘルペス薬による治療に抵抗し角膜内皮障害が進行する症例が散見されることから,近年,それらの一部にサイトメガロウィルス(cytomegarovirus:CMV)が関与する角膜内皮炎があり,ガンシクロビルの全身投与を合わせた治療が有効であるという報告もされている4.7).今回筆者らは,白内障手術後4カ月後に発症したぶどう膜炎治療経過中に認めたCMV角膜内皮炎で,ガンンシクロビルの全身投与が行えなかったにもかかわらず,点眼によるガンシクロビルの局所投与が奏効した1症例を経験したので報告する.I症例患者:77歳,男性.現病歴:2005年6月に近医にて右眼白内障手術を施行さ傍中心部の角膜浮腫角膜後面沈着物図1初診時の右眼細隙灯顕微鏡所見角膜傍中心部に限局性の角膜浮腫を(→)認め,角膜下方に集中する角膜後面沈着物(→)と軽度の虹彩毛様体炎を認めた.れ術後経過順調であったが,同年9月より虹彩炎,硝子体混濁が出現し,特発性ぶどう膜炎の診断で加療を受けていた.その後,眼内の炎症所見は改善するも角膜の進行性浮腫が出現したため,2007年1月,精査・加療目的で大阪医科大学病院角膜外来へ紹介受診となった.既往歴・家族歴:特記すべきものなし.初診時所見:視力は右眼0.1(0.2×sph+3.5D(cyl.2.0DAx90°),左眼0.2(0.8×sph+3.0D(cyl.1.5DAx90°).眼圧は右眼17mmHg,左眼13mmHgであった.前眼部所見として右眼の角膜傍中心部に限局性の角膜浮腫と,角膜下方に集中する角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を認めた.虹彩毛様体炎は軽度(+)であった(図1).左眼には軽度白内障を認めた.眼底所見として右眼は軽度の硝子体混濁を認め,左眼は網膜静脈分枝閉塞症治療後であった.角膜内皮細胞数は右眼1,212cells/mm2(図2),左眼2,801cells/mm2であった.加療経過:右眼ヘルペス性角膜内皮炎を考え,アシクロビル眼軟膏5回/日,0.1%ベタメタゾン点眼4回/日,0.5%レボフロキサシン点眼4回/日を開始したが,2007年3月の時点には角膜浮腫と前房内炎症が増悪し右眼視力(0.02)まで低下をしたため全身投与としてプレドニゾロン内服(10mg/日)も追加した.9月には角膜浮腫は軽快し右眼視力(0.3)まで改善傾向となったが,角膜浮腫と前房内炎症とKPは完全には改善せず,抗ヘルペス治療に抵抗する原因不明の角膜内皮炎として,点眼,軟膏加療のみで経過観察をすることになった.その後,治療開始後1年2カ月後の2008年4月受診時,右眼のKPが円形に配列した衛星病巣所見(コインリージョン)を呈していたため(図3),この時点でCMV角膜内皮炎を疑い,前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を施行した.この時点での右眼視力は(0.3)であった.結果はCMV-DNAが陽性,単純ヘルペスウイルス(herpes図2初診時の右眼角膜内皮スペキュラー角膜内皮細胞数は右眼1,212cells/mm2に減少していた.図3治療開始1年2カ月後の右眼細隙灯顕微鏡所見角膜後面沈着物が円形に配列した衛星病巣所見(コインリージョン)(→)を呈していた.simplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)は陰性であったため,角膜所見とあわせてCMV角膜内皮炎と確定診断した.治療としてガンシクロビルの全身投与を開始しようとしたが,患者が入院による点滴加療を拒否したため,6月18日より,ガンシクロビル注射液を0.5%に自家調整し,点眼投与を外来通院にて開始した.点眼開始2日後の6月20日の再診所見では角膜浮腫とKPの所見は改善せず,前房内炎症が悪化したため,0.1%フルオロメトロン点眼4回/日を0.5%レボフロキサシン点眼4回/日とともに追加投与したところ,1カ月後の7月16日には角膜浮腫は著明に改善しKPと虹彩炎も消失した.さらに2週間後の7月30日には角膜浮腫も消失し,視力0.3(0.6sph+2.75D(cyl.1.5DAx90°)と改善したため,この時点でいったん0.5%ガンシクロビル点眼を中止した.しかし,2月後の9月10日,角膜浮腫が再度出現し,KPは前回と同様にコインリージョンを呈していた.CMV角膜内皮炎の再発と診断し,0.5%ガンシクロビル点眼を再開した.その後1カ月後の10月8日には角膜浮腫は速やかに消失しており,0.5%ガンシクロビル点眼を再度中止とした.12月17日の診察時所見では,角膜浮腫,KPは消失し,矯正視力(0.9)と良好な視力を保持していた.その後,当科経過観察中に,再発は認められなかったが,角膜内皮細胞密度は経過中に712cells/mm2まで減少した(図4,5).II考按CMV角膜内皮炎は,Koizumiらによってわが国から2006年に初めて報告された疾患であり4),これまでに多数の症例報告がなされてきている.近年では,特発性角膜内皮炎研究班によってCMV角膜内皮炎診断基準が提唱され(表1)8),図4治療開始6カ月後の右眼細隙灯顕微鏡所見角膜浮腫,KPは消失し,矯正視力(0.9)と良好な視力を保持していた.図5治療開始6カ月後の右眼角膜内皮スペキュラー角膜内皮細胞密度は712cells/mm2まで減少した.これにより,一般臨床の場でもCMV角膜内皮炎は広く認知されるようになってきた.抗ヘルペス治療薬が奏効しない難治性の角膜内皮炎や,角膜移植を繰り返す原因不明の水疱性角膜症に対しても,CMV角膜内皮炎と確定診断が可能な症例が増えてきていると推測される.本症例においては,先に述べた診断基準が提唱される前であったこともあり,原因不明の前部ぶどう膜炎に起因する角膜内皮炎で,しかも抗ヘルペス治療に抵抗性のものとして長期間経過観察されていた.しかし,現在の診断基準と照らし合わせてみると,IおよびII-①,②に該当するものであり,CMV角膜内皮炎の典型的な所見を呈していたものと考えられる.しかし一方で,以前から大橋らが提唱していた9)角膜内皮炎の臨床病型分類に照らし合わせてみると,Koizumiらの報告ではCMV角膜内皮炎の臨床所見は1型角膜内皮炎(進行表1サイトメガロウィルス角膜内皮炎診断基準(平成24年度特発性角膜内皮炎研究班)I.前房水PCR検査所見①CytomegalovirusDNAが陽性②HerpessimplexvirusDNAおよびvaricella-zostervirusDNAが陰性II.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(コインリージョン)あるいは拒絶反応線様の角膜後面沈着物を認めるもの②角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,かつ下記のうち2項目に該当するもの・角膜内皮細胞密度の減少・再発性・慢性虹彩毛様体炎・眼圧上昇もしくはその既往<診断基準>典型例Iおよび,II-①に該当するもの非典型例Iおよび,II-②に該当するもの<注釈>1.角膜移植後の場合は拒絶反応との鑑別が必要であり,次のような症例ではサイトメガロウィルス角膜内皮炎が疑われる.①副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬による治療効果が乏しい.②Host側にも角膜浮腫がある.2.治療に対する反応も参考所見となる.①ガンシクロビルあるいはバルガンシクロビルにより臨床所見の改善が認められる.②アシクロビル・バラシクロビルにより臨床所見の改善が認められない.表2サイトメガロウイルス角膜内皮炎に対する初期治療の例①ガンシクロビル5mg/kgを1日2回点滴投与,2週間(保険適用外)あるいはバルガンシクロビル900mg,1日2回内服,4.12週間(保険適用外)②0.5%ガンシクロビル点眼液(自家調整)1日4.8回(保険適用外)③0.1%フルオメロトロン点眼1日4回性周辺部浮腫型)をとり,周辺部から中央部に向かって角膜浮腫が進行し,拒絶反応線に類似したKPやコインリージョンを伴う症例が多いとされているが10),本症例では2型(傍中心部浮腫型)に近い病型であり,角膜の中央から外れた場所の角膜実質浮腫と病変内に散在するKPが特徴である所見を呈していた.CMV角膜内皮炎に対する治療は,保険適用のある薬剤を用いた標準治療は確立していないものの,具体的な治療プロトコールは表2のものが多く用いられている8).2007年までの報告としては,Suzukiら,続いてShiraishiらはガンシクロビル点滴500mg/日,0.5%ガンシクロビル点眼8回/日を2週間投与することで角膜浮腫,KP,眼圧上昇が改善した1症例を報告ており6,7),また,Koizumiらは,ガンシクロビル点滴5.10mg/kg/日,0.3.0.5%ガンシクロビル点眼5.8回/日に加え,ステロイドの内服と点眼,抗菌薬の点眼投与を行い,8例中5例の角膜所見の改善をみたと報告していた5).また,唐下らは,バルガンシクロビルの内服加療が奏効した症例を報告している11).いずれの報告においても,ガンシクロビルの全身投与が主体であり,現在においても表2の①に示される,抗CMV薬としてガンシクロビルの全身投与を初期治療とすることが基本とされている.表2の②のガンシクロビルの点眼治療については,全身投与に付加する眼局所的な投与として0.1%フルオロメトロン点眼とともに用いられており,ガンシクロビル全身投与が終了した後も再発予防のために用いられることが多く,角膜内皮機能の維持に長期間の0.5%ガンシクロビル点眼の継続投与が有用であるという報告も出ている12).本症例の治療については,患者の家庭事情により入院管理によるガンシクロビルの点滴投与が不可能であったため,0.5%ガンシクロビル点眼を用いた局所投与のみで治療を開始した.治療開始後,1度の再発は認められたものの,治療開始4カ月後には角膜浮腫とKPコインリージョンは消失し,視力も著明に改善した.幸いなことにそれ以降経過観察をしえた期間中には再発は認めなかった.このことより,本症例のようにガンシクロビル点眼による局所投与のみでも有用であるCMV角膜内皮炎も存在し,全身投与が困難な症例に対してはガンシクロビル点眼治療のみの治療も選択肢の一つになりうると考えられた.また,最近では0.15%ガンシクロビル眼軟膏のみでの良好な治療成績も報告されている13).しかし,本症例においても軽快後2カ月と経過が早いうちに再発をきたしたことと,それに伴い角膜内皮細胞密度は712cells/mm2まで減少したことを考えると,ガンシクロビルの局所投与のみでの治療の際は,水疱性角膜症へと移行するリスクを常に念頭に入れて,ガンシクロビル全身投与を施行する症例に比べてより注意深く経過を観察しながら治療にあたる必要があると思われる.文献1)KhodadoustAA,AttarzadehA:Presumedautoimmunecornealendotheliopathy.AmJOphthalmol93:718-722,19822)OhashiY,YamamotoS,NishidaKetal:DemonstrationofherpessimplexvirusDNAinidiopathiccornealendo-theliopathy.AmJOphthalmol112:419-423,19913)AmanoS,OshikaT,kajiYetal:Herpessimplexvirusinthetrabeculumofaneyewithcornealendorheliitis.AmJOphthalmol127:721-722,19994)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,20065)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20086)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendo-theliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20077)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“Owl’seye”patternbyconfocalmicroscopyinpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol114:715-717,20078)小泉範子:ウィルス編-1:CMV角膜内皮炎の診断基準.あたらしい眼科32:637-641,20159)大橋裕一,真野富也,本倉真代ほか:角膜内皮炎の臨床分類の試み.臨眼42:676-680,198810)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheli-itis:analysisof106casesfromtheJapancornealendo-theliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,201511)唐下千寿,矢倉慶子,郭權慧ほか:バンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウィルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,201012)FanNW,ChungYC,LiuYCetal:Long-termtopicalganciclovirandcorticosteroidspreservecornealendotheli-alfunctionincytomegaloviruscornealendotheliitis.Cor-nea35:596-601,201613)KoizumiN,MiyazakiD,InoueTetal.Thee.ectoftopi-calapplicationof0.15%ganciclovirgeloncytomegalovi-ruscornealendotheliitis.BrJOphthalmol101:114-119,2017***

術中に移植片脱出を生じたDMEKの1例

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):568.570,2017c術中に移植片脱出を生じたDMEKの1例小橋川裕子*1親川格*1,2林孝彦*3,4加藤直子*5酒井寛*1*1琉球大学医学部眼科学教室*2ハートライフ病院眼科*3横浜南共済病院眼科*4横浜市立大学眼科学教室*5埼玉医科大学眼科学教室IntraoperativeDonorGraftEjectioninDMEK:ACaseReportHirokoKobashigawa1),ItaruOyakawa1,2),TakahikoHayashi3,4),NaokoKato5)andHiroshiSakai1)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,2)DepartmentofOphthalmology,HeartLifeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,4)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversity目的:Descemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)の術中合併症の一つに前房内への移植片挿入後の創口からの脱出があり,機械的な内皮細胞損傷と移植片機能不全を続発しうる.今回,移植片脱出を生じたが透明治癒した1例を経験したので報告する.症例:67歳,女性.左眼レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症でハートライフ病院眼科に紹介され,全身麻酔下にDMEKを行った.術中,前房内へ挿入した移植片が眼外に完全に脱出したが,再度挿入した.術後,とくに合併症はなく移植片の接着は良好であった.視力は術前0.06であったが,術後3週間で1.0となり,術後3カ月でも維持された.角膜内皮細胞密度は966/mm2(術前からの減少率67%)であった.結論:術中の移植片脱出により角膜内皮細胞数は大きく減少するが,再挿入により移植片接着を得ることで角膜透明治癒と良好な視機能を獲得することも可能である.Purpose:ToreportacaseofgraftejectionduringDescemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK).Case:Undergeneralanesthesia,DMEKwasperformedonthelefteyeofa67-year-oldfemalewithbullouskera-topathysecondarytolaseriridotomy.Immediatelyafterinjection,thedonorgraftwasbentandsubsequentlyeject-edthroughthecorneoscleralincision.Theejectedgraftwasthenre-insertedintotheanteriorchamber.Aftersur-gery,thegraftattachedwithnopostoperativecomplication.Visualacuityimprovedfrom20/333(0.06)beforesurgeryto20/20(1.0)at3weeks,andremainedatthatlevelfor3monthsaftersurgery.Theendothelialcellden-sitywas966cells/mm2at3months,representingacelllossof67%.Conclusion:Althoughitisknownthatintra-operativegraftejectioncausessevereendothelialcellloss,ourcaseresultedinaclearcornea.Therefore,evenaftergraftejection,re-insertionoftheejectedgraftmaystillbeausefultechniqueinDMEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):568.570,2017〕Keywords:DMEK,術中合併症,移植片脱出,硝子体圧,水疱性角膜症.Descemetmembraneendothelialkera-toplasty,intraoperativecomplication,graftejection,vitreouspressure,bullouskeratopathy.はじめにDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)はGorovoyによって2006年に報告された術式1,2)で,角膜内皮細胞層を含む100.150μm程度の移植片を無縫合で角膜後面へ接着させる.DSAEKは,全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PK)と異なり小切開で行うことができるため,駆逐性出血などの術中合併症を回避することができ1),さらに角膜前面の縫合糸を必要としないことにより,術後乱視を軽減し早い視力回復が可能である1,3).また,強い角膜強度を保ち術後の移植片離開もなく,移植する組織が少ないことにより低い拒絶反応率を得ることができる1,2).わが国においてもDSAEKやDescemet膜非.離角膜内皮移植術(non-Descemetstrippingautomatedendothelialkera-toplasty:nDSAEK)の手技が確立し3,4),現在では角膜内皮機能不全に対する第一選択の治療法となってきている1,4).2006年にMellesらが内皮細胞とDescemet膜のみからな〔別刷請求先〕小橋川裕子:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirokoKobashigawa,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,TownNishihara,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN568(108)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(108)5680910-1810/17/\100/頁/JCOPYる20μm程度の移植片を無縫合で角膜後面へ接着させるDescemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)を報告した5).DMEKは,DSAEKよりもさらに早期からの良好な視力回復,視機能,低い拒絶反応率を達成でき,欧米においておもにFuchs角膜内皮ジストロフィー(Fuchsendo-thelialdystrophy:FED)を対象疾患として行われている.DMEKでは6,7),内皮を外側にロール状に巻いた移植片を前房内で展開し,角膜後面へ接着させる必要があり,DSAEKに比べて手術手技がむずかしいとされている.DMEKの周術期合併症としては,移植片作製時の失敗,前房内に挿入した移植片が裏返しになってしまう,機械的な内皮損傷による移植片接着不良といったものが報告されている.DMEKでは,DSAEKと異なり移植片が非常に薄いために,前房内に挿入している途中で急激な前房圧,硝子体圧の上昇が生じると,移植片は容易に創口やサイドポートから眼外に脱出したり,インジェクターの中を逆流し水圧に押されて圧縮されたりしかねない.このような移植片の前房内挿入に伴う術中合併症は機械的な角膜内皮細胞数の損傷に大きくかかわり,結果的に移植片機能不全に直結する.今回筆者らは,術中に前房内へ挿入した移植片が完全に眼外に脱出したが,その後再挿入し,透明治癒を得た1例を経験したので報告する.図1術中写真前房内へ挿入された移植片(a)は創口へ嵌頓し(b),眼外へ完全に脱出した(c).その後再度移植片を前房内へ挿入し,移植片を生着させた(d).I方法1.症例67歳,女性.原発閉塞隅角症に対して2008年に左眼レーザー虹彩切開術(laseriridotomy)を受けたが,その後徐々に角膜内皮細胞数の減少を認め,2014年に水疱性角膜症を生じた.このときの前房深度(角膜内皮後面から水晶体前面までの距離)は1.52mmであった.2014年に他院で水晶体再建術を施行された後に2014年10月24日にハートライフ病院へ紹介となった.初診時の左眼視力は0.06(矯正不能)眼圧は8mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,左眼角,膜は浮腫状で混濁し,Descemet膜には皺襞がみられた.前房は深く,明らかな前房炎症はなかった.虹彩にはレーザー虹彩切開孔以外の異常はなく,眼内レンズは.内に固定されていた.眼底は角膜浮腫のため詳細は不明であったが,検眼鏡で確認される範囲では大きな異常は認めなかった.中心角膜厚は730μm,角膜内皮細胞密度は測定不能であった.2.手術手技と経過2014年11月19日に全身麻酔下で左眼のDMEKを行った.移植片はPre-strippedDonor(SightLife;USA)(角膜内皮細胞密度2,927/mm2)を用い,トリパンブルー染色を行うことで移植片の視認性を高めた.眼内レンズ挿入器具WJ-60(アキュジェクトユニフィット,参天製薬)を移植片図2前眼部写真と前眼部OCT(CASIASS.1000R,Tomey,Nagoya,Japan)pachymetrymap写真a:術前の前眼部写真.Descemet膜皺襞を伴った角膜浮腫がある.b:術前の前眼部OCT写真.中心角膜厚700μm以上の著明な角膜浮腫がある.c:術後3カ月の前眼部写真.角膜は透明治癒している.d:術後3カ月の前眼部OCT写真.角膜浮腫が改善している.(109)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017569挿入器具として使用し,前房メインテナー併用下インジェクター法による移植片挿入を行った8).前房内灌流を止めた状態で前房内に挿入した移植片が,挿入直後に創口より完全に脱出した(図1).高い硝子体圧が脱出の原因と考え,開瞼器を緩めて開瞼幅を狭くした後,再度移植片を前房内に同手順で挿入した.前房内に移植片が留置されたことを確認した後に,空気を用いて移植片を展開し,角膜後面への接着を得て手術終了とした(図1).術後,空気瞳孔ブロックや移植片の接着不良などの早期術後合併症は生じなかった.術後1週間で角膜透明治癒を得ることができ,術後3週間で,左眼視力1.0(矯正不能),中心角膜厚479μmに回復した.術後3カ月で,視力1.0(矯正不能),中心角膜厚451μm,角膜内皮細胞密度966/mm2(減少率67%)であった(図2).その後も術後約2年まで合併症を生じることなく,透明治癒を維持した状態で経過している.II考按DMEK導入期において,移植片接着不良や移植片機能不全(primarygraftfailure:PGF)は発生しやすい周術期合併症であり6,7),回避するためのマネージメントが必要である.とくにわが国では水疱性角膜症の原因として欧米に多いFEDは少なく,レーザー虹彩切開術後や白内障手術後に発症するものが多い9).短眼軸,浅前房の症例も多く硝子体圧が高い症例が多いと推測される.また,瞼裂幅が狭い症例においては,開瞼による眼球への圧迫が硝子体圧をさらに上昇させる可能性がある.硝子体圧の高い症例では,前房深度の維持,移植片の挿入が困難である.浅前房眼の少ない欧米では,DMEKshooterやガラス製インジェクターを用いた簡便な移植片の前房内への挿入が普及しているが,高い硝子体圧を生じやすいアジア人眼においては,移植片挿入時における前房深度を維持するために,硝子体圧への対応が必須である.手術を局所麻酔で行う場合には,球後麻酔に加え瞬目麻酔を同時に行い,Honanballoonを用いて眼球圧迫し,状況に応じて硝子体切除を追加で行うことも必要と考えている.今回,筆者らは瞬目や腹圧による硝子体圧上昇を抑制する目的で全身麻酔を選択した.また,移植片挿入時の前房内圧上昇や移植片の脱出を防ぐため,前房の虚脱に備えて前房内に留置していた灌流針からの灌流を止めた状態で移植片を挿入した.しかし,挿入した移植片は創口より脱出した.原発閉塞隅角眼であったこと,および開瞼器による圧迫によって高い硝子体圧がもたらされたと考えた.瞼裂の狭い患者においては,開瞼状態にも注意を払う必要がある.移植片の創口からの脱出は角膜内皮細胞の大きな損傷につながる.既報においても同様の術中合併症が報告されており,PGFとなり再移植を余儀なくされている10).しかし,移植片脱出がいったん発生したとしても,必ずPGFに至るというわけではない.実際に,本症例では再挿入した移植片はその後問題なく宿主の角膜に生着し,透明治癒を得て視機能の改善を得ることができた.本報の移植片は術前のドナー角膜内皮細胞密度が2,927/mm2と高値であったため,脱出時に機械的な損傷があってもなお透明治癒するだけの内皮細胞数が残存したと考えられる.移植片脱出が生じてしまった場合,代わりのドナーが用意できない状況では,再挿入により角膜後面へ移植片を接着させて手術を完遂することが勧められる.DMEKは術後の高い視機能,低い拒絶反応の頻度など,長所の多い術式であるが,眼球が小さく,浅前房の多い日本人を含むアジア人の水疱性角膜症には向かないという意見もある.さまざまな合併症への知識を習得し,アジア人に適した手術方法を考案してより安全に施行できる工夫を重ねることにより,わが国でも多くの水疱性角膜症患者がその恩恵を受けることに期待する.文献1)LeeWB,JacobsDS,MuschDCetal:Descemet’sstrip-pingendothelialkeratoplasty:safetyandoutcomes:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmology116:1818-1830,20092)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothe-lialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20053)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Non-Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyforenodthe-lialdysfunctionsecondarytoargonlaseriridotomy.AmJOphthalmol146:543-549,20084)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glideinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-S69,20085)MellesGR,OngTS,VerversBetal:Descemetmem-braneendothelialkeratoplasty(DMEK).Cornea25:987-990,20066)TourtasT,LaaserK,BachmannBOetal:DescemetmembraneendothelialkeratoplastyversusDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOph-thalmol153:1082-1090,20127)GorovoyMS:DMEKcomplications.Cornea33:101-104,20148)親川格,澤口昭一:Descemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)における移植片折れ曲がり整復テクニック.臨眼70:729-734,20169)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.Cornea26:274-278,200710)MellesGR,OngTS,VerversBetal:PreliminaryclinicalresultsofDescemetmembraneendothelialkeratoplasty.AmJOphthalmol145:222-227,2008(110)

Double-glide Techniqueを用いたDescemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後成績の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):429.432,2017cDouble-glideTechniqueを用いたDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後成績の検討浅岡丈治*1出田隆一*1天野史郎*2*1出田眼科病院*2井上眼科病院SurgicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastybyDouble-glideTechniqueUsingBusinGlideTakeharuAsaoka1),RyuichiIdeta1)andShiroAmano2)1)IdetaEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:Double-glidetechniqueを用いたDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)の術後成績を検討した.対象および方法:対象は水疱性角膜症に対してdouble-glidetechniqueを用いてDSAEKを行った33例35眼.原疾患,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:平均患者年齢75±9歳.観察期間は2.0±0.8年(6カ月.3年).術前の平均小数視力は0.095で,術後3年の平均少数視力は0.85であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2.術後3年では1,266±548cells/mm2であり,内皮細胞減少率は55%であった.術後合併症は眼圧上昇が2眼(5%),.胞様黄斑浮腫が4眼(10%)であった.結論:Double-glidetechniqueを用いたDSAEKは合併症も少なく良好な術後成績であった.Purpose:ToinvestigatesurgicaloutcomesofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)bydouble-glidetechniqueusingBusinglide.Methods:Weretrospectivelyanalyzed35eyesof33patientswithbullouskeratopathy(BK)whohadundergoneDSAEKbydouble-glidetechnique.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meanageofpatientswas75±9years.Weanalyzedfor2.0±0.8years.At3yearsaftersurgery,meanvisualacuitywas0.85,ECDwas1,266±548cells/mm2andECDlosswas55%.Complicationswereelevatedintraocularpressure(5%)andcystoidmacularedema(10%).Conclusions:DSAEKbydouble-glidetechniquewase.ectiveforBKandcausedfewercomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):429.432,2017〕Keywords:角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,ブジングライド.Descemet’sstrippingautomat-edendothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,endothelialcelldensity,Businglide.はじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が,これまで主流であった全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)にとって変わりつつある.PKPに比較してDSAEKは,術中にオープンスカイにならないため駆逐性出血のリスクが低い,術後の正乱視・不正乱視が少ない,視力改善が早い,眼球強度が保たれ外傷に強い,拒絶反応が少ない,縫合糸関連の感染などの合併症が少ない,などのさまざまなメリットがある1,2).DSAEKは角膜内皮を移植することを目的とした手術であるため,術中に移植片の角膜内皮保護を行うことが重要である.DSAEK術中に移植片角膜内皮にもっとも傷害を与える可能性の高いステップが,移植片の前房への挿入操作である.そのため,移植片の前房内挿入にかかわる検討が多くされており,たとえば,切開創が3mmよりは5mmであるほうが,Taco-folding,Businglide,糸引き込み法のいずれでも移植片の挫滅が少なく,内皮傷害も少なくなることが報告〔別刷請求先〕浅岡丈治:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:TakeharuAsaoka,M.D.,IdetaEyeHospital,39Tojin-machi,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(123)429されている3).また,移植片挿入時に角膜内皮保護を図るために使用する器具として,Businglide4),NeusidlCornealInserter5),EndoGlide6)など,多くのものが報告されている.Double-glidetechniqueは,DSAEK移植片挿入時にBusinglideとIOLglideを用いる方法で,小林らが初めて報告した7).Double-glidetechniqueは,前房が浅く移植片挿入時に虹彩脱出を起こしやすいアジア人の眼にDSAEKを行う際,虹彩脱出を抑えつつ角膜内皮保護が行える優れた術式と考えられる.今回,筆者らは,double-glidetechniqueを用いてDSAEKを行い,6カ月以上経過観察可能であった症例の術後3年までの成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2008年9月.2014年12月に当院で海外ドナーを用いてDSAEKを行った33例35眼(男性12例12眼,女性21例23眼).経過観察期間が半年未満の症例は除外した.観察期間6カ月3眼,1年9眼,2年9眼,3年14眼,平均±標準偏差は2.0±0.8年(範囲:6カ月.3年)であった.手術方法は,耳側角膜に5mmの角膜創を作製し,インフュージョンカニューラ(モリア・ジャパン)を置き,空気瞳孔ブロック予防目的に下方に25G硝子体カッターで虹彩切除行った.移植片はバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した後,IOLglide(Alcon社IOLglideまたははんだやPTFEチップ)を前房内に挿入したのち,Businglideと引き込み鑷子を用いるdouble-glidetechniqueで前房内に挿入した.移植片の位置を調整したうえで前房内に空気を注入し移植片の接着を確認して終了した.移植片の直径は7.0.8.5mmであった.術式の内訳は,DSAEK5例5眼,Descemet膜を.離しないnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendo-thelialkeratoplasty)28例30眼,nDSAEKと白内障同時手術が1例1眼,nDSAEKと翼状片同時手術が1例1眼であった.術後はメチルプレドニゾロン125mgを1回点滴し,プレドニゾロンを30mg4日間,20mg4日間,10mg7日間,5mg7日間と漸減しながら投与した.術後点眼は単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを1日5回,エリスロマイシン軟膏1回,白内障同時手術の場合は,これにジクロフェナクを1日4回投与した.原疾患,角膜透明治癒率(%),術後3年までの矯正logMAR視力(logarithmicminimumangleofresolution),等価球面度数数,乱視度数数,角膜内皮細胞密度(endotheli-alcelldensity:ECD),術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計(OCT)を用い,術後視力の改善が不良な症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,術前値と術後の各時点での値との比較にMann-Whitney’sU-testを用いた.術前と術後四つの時点での比較であったので,p<0.0125を統計学的に有意とした.II結果1.患.者.背.景患者の手術時平均年齢は75±9歳(範囲:54.90歳)であった.原疾患は,レーザー虹彩切開術後が12例12眼(34%),Fuchs角膜内皮ジストロフィが4例6眼(17%),線維柱帯切除後が6例6眼(17%),白内障術後が6例6眼(17%),落屑症候群が4例4眼(11%),緑内障発作後が1例1眼(2.9%)であった.またPKP後の角膜内皮不全に対してDSAEKを行った1例で,術後2週間目に移植片と患者角膜の間にカンジダ感染を生じてグラフト抜去を行った.透析中の易感染症例であった.今回この眼の術後データのうち合併症については検討対象としたが,視機能や内皮細胞密度については対象から除外した.2.海外ドナーグラフトデータ移植グラフトは米国アイバンク(SightLife,Seattle,WA,USA)からのプレカットドナー角膜を用いた.プレカット後のECD2,800±258cells/mm2,ドナー平均年齢は61±8歳,ドナー死亡から強角膜片作製時間9.5±6時間,ドナー死亡から手術日数6.2±0.9日であった.3.角膜透明治癒率術後,移植片を抜去した1眼を除いたすべての症例で透明治癒が得られた.移植後3年を過ぎて1例が内皮機能不全となったが,高齢のため再移植は行わず経過観察となっている.4.視力術前の平均logMAR視力は1.02±0.5(平均小数視力:0.095)であった.術後6カ月の平均logMAR値は0.16±0.16(平均小数視力:0.69),術後12カ月は0.16±0.28(平均小数視力:0.69),術後24カ月は0.14±032(平均小数視力:0.72),術後36カ月は0.07±0.14(平均小数視力:0.85)であった(図1).術前と比較し,術後6カ月以降,有意な改善を認めた(p<0.0125).術後36カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は83%,同様に0.8以上は67%,1.0以上は42%であった.5.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2であった.術後6,12,24,36カ月での平均内皮細胞密度はそれぞれ,1,632±681cells/mm2,1,661±682cells/mm2,1,304±739cells/mm2,1,266±548cells/mm2であった(図2).内皮細胞減少率は,6,12,24,36カ月でそれぞれ,42430あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(124)-0.501224363,5003,0000内皮密度0.5角膜内皮密度乱視度数logMAR1logMAR1,5001,0001.55002術後(月)00122436図1矯正視力の変化術後(月)術後6カ月で有意な改善を認めている.図2角膜内皮細胞密度の変化術後6,12,24,36カ月での内皮細胞減少率は,26,12,24,36カ月でそれぞれ,42%,41%,53%,55%であった.101224360-11.501224361-2-3-4乱視度数-5術後(月)図3術前後の乱視度数の変化術前後で有意差はなかった.%,41%,53%,55%であった.6.自覚的乱視度数自覚的乱視度数は,術前で1.25±2.8diopters(D),術後6カ月で2.1±1.33D,術後12カ月で1.99±1.3D,術後24カ月で1.74±0.78D,術後36カ月で1.6±0.55Dであった(図3).術前と比較して,術後に有意差はなかった.7.等価球面度数等価球面度数は,術前で.0.40±1.30D,術後6カ月で.0.75±1.53D,術後12カ月で.0.82±1.37D,術後24カ月で.0.68±1.51D,術後36カ月で.0.63±1.28Dであった(図4).術前後で,有意差なく遠視化も認めなかった.8.術後合併症21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(5%)で認めた.発生時期は,術後3.12カ月であった.術後12カ月で眼圧上昇を認めた症例は,落屑緑内障の合併例のため,現疾患による眼圧上昇の可能性も考えられた.いずれも緑内障点眼を追加することで眼圧コントロールが得られ,緑内障手術に至った症例はなかった..胞様黄斑浮腫を4眼(10%)で認めた.発生時期は術後3.12カ月であった..胞様黄斑浮腫は,全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて2カ月以内に消失した.また前述のようにカンジダ感染が1例あった.移植片からの持ち込みの可能性も否定できないが,移植片の残りの培養を行っていないため詳細は不明である.駆逐性出血,眼内炎,拒絶反応は認めなかった.等価球面度数0.50-0.5-1-1.5-2-2.5図4等価球面度数の変化術前後で有意差はなく遠視化も認めなかった.III考按今回すべての症例で矯正視力の改善を認めた.今回,術後12カ月目の平均logMAR矯正視力は0.16±0.28(平均小数視力0.69)であった.これまでの報告では平均logMAR矯正視力は0.34.0.17(小数視力0.46.0.68)であり8.12),今回の結果は既報とほぼ同等の結果であった.DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており10),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.既報では,12カ月での報告が多く,36カ月の経過観察は有益な情報であると考えられる.DSAEK術後の内皮減少率については,挿入法によりさまざまな報告がある.Double-glide法では,アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症へのDSAEKでdouble-glide法を用いた場合に,術後3カ月で37.9%の内皮減少率が報告されている7).今回の術後1年での内皮減少率41%はこの報告とほぼ同等の結果であったと考えられる.また他の挿入法では,術後1年での減少率として,Tacofolding法で27.52%9,11,13,14),EndoGlide法で16.32%6,15),Businglide法で24.39%4,12,16)と報告されている.今回の結果がこれらの報告と比較して高めの内皮減少率となった原因としては,前術後(月)(125)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017431房が浅く硝子体圧が高いためにDSAEKの施行がむずかしいアジア人の眼が対象であったことと,原因疾患として,DSAEK施行のむずかしいレーザー虹彩切開術後,線維柱帯切除後,緑内障発作後のものが全体の半数以上を占めており,また比較的DSAEKの行いやすい白内障術後やFuchs角膜内皮ジストロフィの割合が少なかったことが考えられる.既報10)ではDSAEKの術前術後の自覚的乱視の変化については有意差がないと報告されているが,今回も同様に有意差を認めなかった.また既報では術後軽度遠視化する報告があるが,今回はみられなかった.合併症としては,既報では眼圧上昇は5.8.16%とあるが17,18),今回5%と同等であった.また,.胞様黄斑浮腫は10%に認め,0.97%とする既報17)と比較して多かった.原因の一つとして,緑内障術後や発作後の眼の割合が高く,術後炎症が強めであったことが考えられる.また,以前はOCTの普及率が低かった可能性や,そもそも以前の文献ではOCTを行っていない可能性も考えられる.実際既報では.胞様黄斑浮腫に対して検討されていないものがほとんどであった.当院では,角膜上皮への悪影響を考え,DSAEK術後に非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしてこなかったが,今後,黄斑浮腫発症予防のために,DSAEK単独手術症例でも投与すべきと考えている.今回,double-glidetechniqueを用いたDSAEKの術後3年成績を報告した.術後早期より視力の向上が得られること,術後乱視が軽度であること,合併症が少ないことからも有用な手術方法と考えられた.黄斑浮腫は既報では低く見積もられている可能性があるため,DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,OCTなどを用い積極的に精査する必要があると考えられた.文献1)LeeWB,JacobsDS,MuschDCetal:Descemet’sstrip-pingendothelialkeratoplasty:safetyandoutcomes:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmology116:1818-1830,20092)AnshuA,PriceMO,TanDTetal:Endothelialkerato-plasty:arevolutioninevolution.SurvOphthalmol57:236-252,20123)TerryMA,SaadHA,ShamieNetal:Endothelialkerato-plasty:thein.uenceofinsertiontechniquesandincisionsizeondonorendothelialsurvival.Cornea28:24-31,20094)BusinM,BhattPR,ScorciaV.Amodi.edtechniquefordescemetmembranestrippingautomatedendothelialker-atoplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthal-mol126:1133-1137,2008432あたらしい眼科Vol.34,No.3,20175)TerryMA,StraikoMD,GosheJMetal:Endothelialkera-toplasty:prospective,randomized,maskedclinicaltrialcomparinganinjectorwithforcepsfortissueinsertion.AmJOphthalmol156:61-68,20136)KhorWB,MehtaJS,TanDT:Descemetstrippingauto-matedendothelialkeratoplastywithagraftinsertiondevice:surgicaltechniqueandearlyclinicalresults.AmJOphthalmol151:223-232,20117)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glidedonorinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-69,20088)WendelLJ,GoinsKM,SutphinJEetal:Comparisonofbifoldforcepsandcartridgeinjectorsuturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea30:273-276,20119)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmolo-gy116:248-256,200910)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendotheli-alkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,201211)HsuHY,EdelsteinSL:Two-yearoutcomesofaninitialseriesofDSAEKcasesinnormalandabnormaleyesataninner-cityuniversitypractice.Cornea32:1069-1074,201312)NakagawaH,InatomiT,HiedaO,etal:Clinicaloutcomesindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithinternationallyshippedprecutdonorcorneas.AmJOphthalmol157:50-55,201413)ChenES,PhillipsPM,TerryMAetal:Endothelialcelldamageindescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplastywiththeunderfoldtechnique:6-and12-monthresults.Cornea29:1022-1024,201014)PriceMO,GorovoyM,PriceFWJretal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:three-yeargraftandendothelialcellsurvivalcomparedwithpene-tratingkeratoplasty.Ophthalmology120:246-251,201315)ElbazU,YeungSN,LichtingerAetal:EndoGlideversusEndoSerterfortheinsertionofdonorgraftindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOph-thalmol158:257-262,201416)HongY,PengRM,WangMetal:Suturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyinChinesephakiceyes:out-comesandcomplications.PLoSOne8:e61929,201317)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:Surgicalout-comeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkera-toplastyforbullous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高度緑内障性視野障害のある水疱性角膜症に対する角膜内皮移植術の視機能への影響

2016年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(11):1651?1655,2016c高度緑内障性視野障害のある水疱性角膜症に対する角膜内皮移植術の視機能への影響豊川紀子*1佐々木香る*2松村美代*1黒田真一郎*1*1永田眼科*2JCHO星ヶ丘医療センター眼科ImpactofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyonVisualFunctioninEyeswithAdvancedGlaucomaNorikoToyokawa1),KaoruAraki-Sasaki2),MiyoMatsumura1)andShinichiroKuroda1)1)NagataEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganization(JCHO)HoshigaokaMedicalCenter目的:角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)は術中眼圧変動の大きい術式である.視神経障害進行眼では,術中眼圧変動で視野障害が進行する可能性がある.高度緑内障性視神経障害のある水疱性角膜症に対しDSAEKを施行した症例を対象に,同手術が視機能へ与える影響を検討する.対象および方法:対象は永田眼科でDSAEKを施行された緑内障進行例の水疱性角膜症8例8眼.前向きにDSAEK術前後の視力,眼圧,Goldmann視野,Humphrey視野(中心10-2)を検討した.結果:術後平均経過観察期間は6カ月,患者の手術時平均年齢は73歳,男性5例,女性3例,濾過手術既往6眼中5眼に機能性濾過胞が存在した.全例で移植片の接着が得られた.術後,Goldmann視野では全例でV-4イソプターの拡大または内部イソプターで改善を認め,Humphrey視野(中心10-2)では7眼で平均偏差(meandeviation:MD)または中心4点内の感度の改善が認められた.MDは,術前?25.4±5.7dB,術後平均6カ月の測定で?18.8±6.3dBであった.術後の視力,視野が術前より悪化したものはなかった.術後眼圧は全例で薬剤によりコントール可能であった.結論:緑内障進行例において,DSAEK術中眼圧変動に起因すると思われる視機能の悪化は認めなかった.Purpose:Toinvestigatetheimpactofintraocularpressure(IOP)fluctuationduringDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)onvisualfunctionineyeswithadvancedglaucoma.Patientsandmethod:Thisprospectivestudywasconductedon8eyesof8patientswithbullouskeratopathyandadvancedglaucoma.ResultsofGoldmannperimetry,Humphreyvisualfieldtest(C10-2),visualacuityandIOPwerecomparedbeforeandafterDSAEK.Results:Patientmeanagewas73years.AlleyesshowedimprovementsinGoldmannperimetrywithV-4isopterand/orinnerisoptersafterDSAEK.In7ofthe8eyes,meandeviationorsensitivitywithincentral4pointsofHumphreyvisualfieldtestimprovedafterDSAEK.Noeyesshowedvisualfielddeteriorationpostoperatively.Best-correctedvisualacuityimprovedpostoperativelyinalleyes,althoughitwasnotsignificant.Conclusions:IntraocularpressurefluctuationduringDSAEKhadnonegativeimpactonvisualfunctioninadvancedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1651?1655,2016〕Keywords:角膜内皮移植術,緑内障進行例,水疱性角膜症,術中眼圧変動,視機能.Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty,advancedglaucoma,bullouskeratopathy,intraocularpressurefluctuationduringsurgery,visualfunction.はじめにMellesらにより報告された現在のDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)の基本となる術式1)は,2003年の報告以降,術式の洗練と確立がなされ,良好な手術成績の報告2?5)とともに急速に普及した.米国のアイバンク調査では,2011年以降DSAEKの手術件数は全層角膜移植術を上回った状態が持続している6).DSAEKには,全層角膜移植で問題となる移植片の縫合糸感染の問題がない,術後炎症が軽く惹起乱視もごくわずかであるため術後の視力回復が早い,前眼部免疫抑制機構(anteriorchamber-associatedimmunedeviation:ACAID)が働く前房内への移植のため拒絶反応が少ない,耳側5mmの角膜切開創のためオープンスカイにならないなどの多くの利点がある2,3).近年,緑内障(手術)既往眼にもDSAEKの適応が広がっているが,緑内障手術後の濾過胞を有する眼(濾過胞眼)はDSAEK術中に濾過胞や後房への空気迷入が生じ,眼圧上昇を得ることが困難なことが多く,手術難易度が高いとされている7).緑内障眼でのDSAEKの適応を考える際,緑内障性視神経障害の進行度が重視される.たとえ角膜の透明治癒が得られても,すでに中心視野がなければ視力回復は望めず,視機能回復は限定的であるため手術適応に悩むことが多い.さらに視神経が脆弱化し余力のない緑内障進行例では,術中や術後の眼圧変動で視神経障害がさらに進行し,視野障害が急激に悪化することがある8).これまでに緑内障眼,濾過胞眼におけるDSAEKに関して,術後早期の比較的良好な成績9,10)や視力についての報告11,12)はあるが,視野についての検討はまだされていない.今回,高度緑内障性視野障害のある緑内障進行例にDSAEKを施行し,術前後の視力と視野変化を調べ,DSAEKが緑内障進行例の視機能へ与える影響を検討した.I対象および方法1.対象および方法対象は高度緑内障性視野障害のある水疱性角膜症で2014年8月?2015年11月に,永田眼科でDSAEKを施行された8例8眼である.全例,過去に白内障手術を施行された眼内レンズ挿入眼で,濾過手術既往6眼中5眼で機能性濾過胞が存在した.前向きにDSAEK術前後で最高矯正小数視力(bestcorrectedvisualacuity:BCVA),Goldmann視野,Humphrey視野(中心10-2),眼圧を調査した.術前の視野検査では,視力不良のため視野の固視灯がわかりにくい症例では,中心固視点の誘導を行いながら検査を施行した.術前に,術後の見え方の改善は予測できないことを患者と家族に十分に説明しインフォームド・コンセントを得た.本研究は永田眼科倫理委員会の承認を得て行われた.2.手術手技ドナーは海外ドナーのprecut輸入角膜を使用し,グラフト径を8mmに作製した.全例耳側5mmの角膜切開創から,Businグライドと引き込み鑷子を用いた引き込み法(pullthroughtechnique)で施行し,全例ホスト角膜のDescemet膜は?離しなかった(non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:nDSAEK)4).術中空気注入時の眼圧は空気灌流圧または手動で30mmHgとし,空気抜去は行わなかった.機能過多の濾過胞,損傷しやすい壁の薄い濾過胞はなかったため,濾過胞に対する特別な手技7)は用いなかった.メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム125mgを術中と術後に点滴し,術翌日からプレドニゾン10mgを7日間経口投与した.術後点眼は,レボフロキサシンとリン酸ベタメタゾンを1日5回投与した.3.統計的解析法視力は小数視力で測定し,統計解析にはlogMAR換算し平均視力を算出した後に小数視力へ変換した.II結果患者の手術時の平均年齢は73±6歳,男性5例,女性3例であった.患者背景を表1に示す.術後平均観察期間は6±4カ月であった.1.移植片の接着8眼中7眼で,術翌日に移植片の接着が得られた.1眼(表1症例3の濾過胞眼)は,移植片接着不良のため術後2日目に前房内に空気を再注入し移植片の接着を得た.2眼で術後に空気の後房迷入を認めたが,術後体位の変換にて対処可能であり,空気の再注入を必要としなかった.2.BCVA術後最終受診時(平均6±4カ月)の平均BCVAは0.1(0.01?0.4)で,全例で術前以上の視力が得られた.各症例の術前,術後視力を表1に示す.なお,全例緑内障進行例であり,一般的なDSAEKの術後視力より不良であった.3.眼圧術前平均眼圧は13.1±4.7mmHg,術後2カ月の平均眼圧は12.8±4.6mmHg,全例薬剤で眼圧コントール可能であった.有濾過胞眼5眼では,経過中濾過胞の形態に変化を認めず,低眼圧になった症例はなかった.4.視野術後視野検査の結果が改善したGoldmann視野の代表症例を図1,Humphrey視野の代表症例を図2に示す.Goldmann視野の結果は,8眼中4眼でV-4イソプターと内部イソプターで改善が認められ,4眼では内部イソプターのみで改善が認められた.Humphrey視野(中心10-2)の結果は,8眼中7眼で平均偏差(meandeviation:MD)または中心4点内の感度改善が認められた.Humphrey視野で改善がなかった1例(症例1)はGoldmann視野では改善が認められた(図1).全例の平均MDは術前?25.4±5.7dB,術後平均6カ月の測定で?18.8±6.3dBであった.5.自覚症状術後問診にて,術前と比して自覚症状が改善したと答えた患者は8例中6例であった.III考按濾過手術である線維柱帯切除術の晩期合併症として,とくに複数回施行した場合,水疱性角膜症を発症することがある.水疱性角膜症に至らなくとも濾過手術後に角膜内皮細胞は減少する13,14).一般的に,濾過手術既往眼では緑内障病期が進行していることが多い.水疱性角膜症では視野検査が正確に施行できず視神経所見だけでは緑内障眼の残存視機能を正確に予測できないという問題に直面し,視機能予後不良の可能性からDSAEKの適応判断に苦慮する.今回,高度緑内障性視野障害のある緑内障進行例8眼にDSAEKを施行し,有意とはいえない改善も含めてであるが,全例で術後視野検査の結果が改善した.これは,角膜の透明性を回復したことにより,水疱性角膜症の浮腫状角膜を通して患者が見ていた視野に比して,術後の実用視野が改善したと考える.症例4(図1)では,術前はほとんど測定できなかった視野が,実はある程度存在していたことが術後にわかった.水疱性角膜症を併発すると残存している視野を正確に検出できず,実際よりも視機能が過少評価されることがあると思われた.もちろん,実際に視野障害が進行していればたとえDSAEKに成功しても患者満足度が低い可能性があるため,術前のインフォームド・コンセントの際には,濾過手術既往眼ではDSAEK移植片の長期生存率が不良であること5,15),緑内障進行例では術後視機能の改善は予測不能であることなどマイナス面を十分に説明する必要がある.DSAEK術前の真の緑内障性視野障害は測定することはできず,DSAEKが本当に緑内障性視野障害へ悪影響がなかったかどうかは確認する方法がないが,今回の検討で術前に比して術後に視力,視野が悪化した症例はなかった.さらに水疱性角膜症では角膜浮腫のため視野も眼圧も正確に測定できないため,緑内障進行判定も正確にできない状態に陥っているが,角膜の透明性回復により,視野,眼圧検査が正確に施行できるようになり緑内障の進行判定を再開できた利点もあった.術後の平均小数視力は0.1と不良であったが,これは緑内障視野障害進行例でDSAEKに成功しても視力が上昇しない症例が含まれていたためであり,Riaz,VajarranantらもDSAEK術後も緑内障進行眼では視力不良例が存在したと報告している11,12).しかし,術後視力不良例でも,周辺視野の拡大,中心視野感度の改善は多少なりとも視機能改善に寄与すると思われ,白濁した角膜が透明化することで整容上の利点もあり,8例中6例で自覚的にも手術施行に関して満足されていた.今回の症例の検討では,残存視機能への悪影響がなかったと判断され,DSEAKは高度緑内障性視神経障害のある緑内障患者にも適応になりうると思われた.従来の全層角膜移植では,緑内障の発症,悪化は重篤な手術合併症であり角膜移植不成功因子16,17)であるが,DSAEK術後の眼圧上昇の多くは薬剤コントロール可能10,12)で,追加緑内障手術の頻度も高くない10,12)ため,緑内障進行例では全層角膜移植よりもDSAEKが望ましいと思われる.いずれにせよ,これらの光学的角膜移植は新鮮ドナー角膜が必要な手術であり,視力回復の可能性が低い症例,不確実な症例の手術適応は,角膜以外の眼疾患の状況,他眼の状況,全身状態,患者と家族の手術説明に対する理解度など複数の観点から個々の症例で総合的に判断することが必要である.しかし,低視力でも残存視野が活用できる利点18)も考慮して適応を決定してもよいと思われる.今回,濾過胞眼に対して特別な手技7)は用いなかったが,前房内を空気で充満させるのではなく,ドナーグラフト直径を覆うのに必要な空気量だけを注入し,眼圧上昇を30mmHgに留め,術後の仰臥位安静を徹底した.その結果,術中の濾過胞や後房への空気迷入や濾過胞の破裂などの術中合併症は生じなかった.DSAEKのドナー内皮グラフトの5年生存率は,Fuchs角膜内皮ジストロフィーでは95%5)であるのに対し,濾過胞眼では40?48%5,15)と不良であると報告され,さらに,緑内障インプラント眼は5年生存率25%と不良15)である.したがって,これらの長期予後も鑑み,年齢も考慮して,どのような症例までDSAEKの適応を拡大できるかの判断基準を確立することは今後の課題であると思われる.以上,水疱性角膜症を発症している緑内障進行例のなかにも,悪いなりにも残存視野を有する症例,予想以上に機能が残存している症例など,結果論でしかわからない視機能の潜在する症例が存在し,たとえ術前に進行した視野欠損を呈する症例であってもDSAEKが適応可能な症例があると思われた.文献1)MellesGR,KammingaN:Techniquesforposteriorlammelarkeratoplastythroughascleralincision.Ophthalmologe100:689-695,20032)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin200eyes:earlychallengesandtechniquestoenhancedonoradherence.JCataractRefractSurg32:411-418,20063)PriceMO,PriceFWJr:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplasty:comparativeoutcomeswithmicrokeratome-dissectedandmanuallydissecteddonortissues.Ophthalmology113:1936-1942,20064)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Non-Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyforendothelialdysfunctionsecondarytoargonlaseriridotomy.AmJOphthalmol146:543-549,20085)PriceMO,FairchildKM,PriceDAetal:Descemet’sstrippingendothelialkeratoplastyfive-yeargraftsurvivalandendothelialcellloss.Ophthalmology118:725-729,20116)EyeBankAssociationofAmerica:2014EyeBankingStatisticalReport.Availableatwww.restoresight.org7)小林顕:濾過手術後の角膜移植.眼科手術28:505-509,20158)CostaVP,SmithM,SpaethGLetal:Lossofvisualacuityaftertrabeculectomy.Ophthalmology100:599-612,19939)PhillipsPM.TerryMA,ShamieNetal:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyineyeswithprevioustrabeculectomyandtubeshuntprocedures:Intraoperativeandearlypostoperativecomplications.Cornea29:534-540,201010)QuekDT,WongT,TanDetal:CornealgraftsurvivalandintraocularpressurecontrolafterDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyineyeswithpre-exisitingglaucoma.AmJOphthalmol152:48-54,201111)RiazKM,SugarJ,TueYetal:EarlyresultsofDescemet-strippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)inpatinetswithglaucomadrainagedevices.Cornea28:959-962,200912)VajaranantTS,PriceMO,PriceFWetal:VisualacuityandintraocularpressureafterDescemet’sstrippingendothelialkeratoplastyineyeswithandwithoutpreexistingglaucoma.Ophthalmology116:1644-1650,200913)ArnavielleS,LafontainePO,BidotSetal:Cornealendothelialcellchangesaftertrabeculectomyanddeepsclerectomy.JGlaucoma16:324-328,200714)Storr-PaulsenT,NorregaardJC,AhmedSetal:CornealendothelialcelllossaftermitomycinC-augmentedtrabeculectomy.JGlaucoma17:654-657,200815)AnshuA,PriceMO,PriceFW:Descemet’sstrippingendothelialkeratoplasty:long-termgraftsurvivalandriskfactorsforfailureineyeswithpreexisitingglaucoma.Ophthalmology119:1982-1987,201216)Al-MohaimeedM,Al-ShahwanS,Al-TorbakAetal:Escalationofglaucomatherapyafterpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology114:2281-2286,200717)StewartRMK,JonesMNA,BatterburyMetal:Effectofglaucomaoncornealgraftsurvivalaccordingtoindicarionforpenetratingkeratoplasty.AmJOphthalmol151:257-262,201118)DiveS,RoulandJF,LenobleQetal:Impactofperipheralfieldlossontheexecutionofnaturalactions:Astudywithglaucomatouspatientsandnormallysightedpeople.JGlaucomaE-pub,2016〔別刷請求先〕豊川紀子:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:NorikoToyokawa,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147KitayamadaHourai,Nara-City,Nara631-0844,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(113)1651表1患者背景と術前,術後視力症例年齢緑内障病型緑内障手術既往術前視力術後視力175EXGLOT/SIN0.050.1273EXGLOT/SINLect2回指数弁0.3364POAGVIscoLect4回0.010.15466SOAGLect手動弁0.05571EXGLect2回0.040.07681EXGLOT/SIN2回指数弁0.15Lect776EXGなし指数弁0.4880EXGLOT/SIN2回Lect3回指数弁0.01EXG:落屑緑内障,LOT/SIN:Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術,Lect:線維柱帯切除術,POAG:原発開放隅角緑内障,SOAG:続発開放隅角緑内障,Visco:ビスコカナロストミー.1652あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(114)図1Goldmann視野の結果が術後に改善した代表症例症例1,症例2,症例3は術後にI-3イソプターの内部イソプターでも視野検出可能となり,V-4イソプターも拡大した.症例4は術前視野測定不能であったが,術後にII-4イソプターまで検出可能となり,視野検査が可能となった.(115)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161653図2Humphrey視野の結果が術後に改善した代表症例症例2,症例7ともに術前の中心視野の結果は不良であったが,術後に中心視野が残存していることがわかった.MD:meandeviation.1654あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(116)(117)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161655

国内ドナーを用いた角膜内皮移植術の術後短期成績の検討

2014年12月31日 水曜日

1872あたらしい眼科Vol.4102,211,No.3(00)1872(134)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1872.1875,2014cはじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が行われるようになってきている1).DSAEKは従来の全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty)に比べ,術後の不正乱視が少なく,眼球強度も保たれ,拒絶反応も起きにくいなどのさまざまなメリットがあるため,ここ数年わが国でも急速に普及が進んでいる.DSAEKの術後成績に関してはすでに多数の報告があるが,わが国では国内ドナー不足から,海外ドナーを輸入して手術を行っている施設が多く2.4),国内ドナーのみの報告は少ない5).今回,筆者らは,東京大学医学部附属病院(以下,当院)において国内ドナーを用いたDSAEKを施行し1年以上経過観察可能であった症例の術後1年までの成績について〔別刷請求先〕清水公子:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部付属病院眼科学教室Reprintrequests:KimikoShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN国内ドナーを用いた角膜内皮移植術の術後短期成績の検討清水公子臼井智彦天野史郎山上聡東京大学医学部附属病院眼科Short-termResultsofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyUsingDomesticDonorCorneasKimikoShimizu,TomohikoUsui,ShiroAmanoandSatoruYamagamiDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital目的:国内ドナーを用いた,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)の短期成績を報告する.対象および方法:対象は,水疱性角膜症に対して東京大学医学部附属病院で国内ドナーを用いDSAEKを行い1年以上経過観察可能であった39例40眼で,原疾患,透明治癒率,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:患者の手術時平均年齢は72±10歳.術後1年での透明治癒率は92.5%であった.術前の平均小数視力は0.10で,術後12カ月の平均小数視力は0.70であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,597±275cells/mm2で,術後12カ月での平均内皮細胞密度は1,622±676cells/mm2,内皮細胞減少率は37%であった.合併症は,眼圧上昇が17眼(43%),.胞様黄斑浮腫が7眼(18%),移植片接着不良が4眼(10%),瞳孔ブロックが2眼(5%),内皮機能不全が2眼(5%),拒絶反応が1眼(2.5%)であった.結論:国内ドナーを用いたDSAEKの術後12カ月における術後成績は概ね良好であった.Purpose:Toinvestigatetheshort-termresultsofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)usingdomesticdonorcorneas.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof39patientswhounderwentDSAEKforbullouskeratopathyatUniversityofTokyoHospitalusingdomesticdonorcorneas.Allwereallfollowedupfor12months.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meandecimalvisualacuityat12monthsafterDSAEKwas0.70.MeanECDofthedonorcorneasbeforeDSAEKwas2,597±275cells/mm2;ECDat12monthsafterDSAEKwas1,622±275cells/mm2(37%ECDloss).Themostcommoncomplicationwaselevatedintraocularpressure(43%).Cystoidmacularedema(18%),graftdislocation(10%),transientpupillaryblock(5%)andallograftrejection(2.5%)werealsoobserved.Conclusion:DSAEKusingdomesticcorneasyieldedsatisfactoryoutcomesin12monthsofobservation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1872.1875,2014〕Keywords:DSAEK,角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,国内ドナー.Descemet’sstrippingau-tomatedendothelialkeratoplasty,endothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,cornealendothelialcelldensity,do-mesticdonor.(00)1872(134)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1872.1875,2014cはじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が行われるようになってきている1).DSAEKは従来の全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty)に比べ,術後の不正乱視が少なく,眼球強度も保たれ,拒絶反応も起きにくいなどのさまざまなメリットがあるため,ここ数年わが国でも急速に普及が進んでいる.DSAEKの術後成績に関してはすでに多数の報告があるが,わが国では国内ドナー不足から,海外ドナーを輸入して手術を行っている施設が多く2.4),国内ドナーのみの報告は少ない5).今回,筆者らは,東京大学医学部附属病院(以下,当院)において国内ドナーを用いたDSAEKを施行し1年以上経過観察可能であった症例の術後1年までの成績について〔別刷請求先〕清水公子:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部付属病院眼科学教室Reprintrequests:KimikoShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN国内ドナーを用いた角膜内皮移植術の術後短期成績の検討清水公子臼井智彦天野史郎山上聡東京大学医学部附属病院眼科Short-termResultsofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyUsingDomesticDonorCorneasKimikoShimizu,TomohikoUsui,ShiroAmanoandSatoruYamagamiDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital目的:国内ドナーを用いた,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)の短期成績を報告する.対象および方法:対象は,水疱性角膜症に対して東京大学医学部附属病院で国内ドナーを用いDSAEKを行い1年以上経過観察可能であった39例40眼で,原疾患,透明治癒率,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:患者の手術時平均年齢は72±10歳.術後1年での透明治癒率は92.5%であった.術前の平均小数視力は0.10で,術後12カ月の平均小数視力は0.70であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,597±275cells/mm2で,術後12カ月での平均内皮細胞密度は1,622±676cells/mm2,内皮細胞減少率は37%であった.合併症は,眼圧上昇が17眼(43%),.胞様黄斑浮腫が7眼(18%),移植片接着不良が4眼(10%),瞳孔ブロックが2眼(5%),内皮機能不全が2眼(5%),拒絶反応が1眼(2.5%)であった.結論:国内ドナーを用いたDSAEKの術後12カ月における術後成績は概ね良好であった.Purpose:Toinvestigatetheshort-termresultsofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)usingdomesticdonorcorneas.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof39patientswhounderwentDSAEKforbullouskeratopathyatUniversityofTokyoHospitalusingdomesticdonorcorneas.Allwereallfollowedupfor12months.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meandecimalvisualacuityat12monthsafterDSAEKwas0.70.MeanECDofthedonorcorneasbeforeDSAEKwas2,597±275cells/mm2;ECDat12monthsafterDSAEKwas1,622±275cells/mm2(37%ECDloss).Themostcommoncomplicationwaselevatedintraocularpressure(43%).Cystoidmacularedema(18%),graftdislocation(10%),transientpupillaryblock(5%)andallograftrejection(2.5%)werealsoobserved.Conclusion:DSAEKusingdomesticcorneasyieldedsatisfactoryoutcomesin12monthsofobservation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1872.1875,2014〕Keywords:DSAEK,角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,国内ドナー.Descemet’sstrippingau-tomatedendothelialkeratoplasty,endothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,cornealendothelialcelldensity,do-mesticdonor. 検討したので報告する.I対象および方法対象は2010年8月から2012年9月までに当院で国内ドナーを用いてDSAEKを行った39例40眼(男性15例15眼,女性24例25眼).末期緑内障や黄斑変性で中心視力が消失している症例,全層角膜移植後の移植片不全症例,術後観察期間が1年未満の症例13例13眼は除外した.ドナー角膜の摘出時平均年齢は65±25歳(範囲:4.98歳)であった.手術は全例耳側5mmの角膜切開創から,Businグライドと引き込み鑷子を用いる引き込み法(pull-through法)で行った.移植片はマイクロケラトームEvolutino3E(Moria社)とバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した.マイクロケラトームのヘッド厚は350μm,グラフト径は7.75.8.75mmを使用した.術式の内訳は,DSAEK17例17眼,Descemet膜を.離しないで移植片を接着させるnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)14例14眼,DSAEKと白内障同時手術が4例4眼,nDSAEKと白内障同時手術が4例4眼であった.術後はリン酸ベタメタゾン4mgを3日間点滴し,その後プレドニゾロンを30mg,20mg,5mgと漸減しながら,それぞれ3日間ずつ投与した.術後点眼は,単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとリン酸ベタメタゾンを1日6回,白内障同時手術の場合は,これにブロムフェナクナトリウムを1日2回投与した.原疾患,術後12カ月までの矯正logMAR視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計を用い,角膜所見に比し術後視力の改善が不十分と判断した症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,2群間の検討にはMann-Whitney’sU-0.2test,相関の検討にはPearson’schi-squaretestを用いた.すべての検定でp<0.05を統計学的に有意とした.II結果1.患者背景患者の手術時平均年齢は72±10歳(平均値±標準偏差,範囲:46.88歳)であった.Fuchs角膜内皮ジストロフィが10例11眼(28%),白内障術後が7例7眼(18%),レーザー虹彩切開術後が4例4眼(10%),DSAEK後の移植片不全が3例3眼(7.5%),虹彩炎後が3例3眼(7.5%),線維柱帯切除後が3例3眼(7.5%)で,その他9例9眼(23%)であった.2.角膜透明治癒率術後1年での透明治癒が得られたのは,40眼中37眼(92.5%)であった.透明化が得られなかった3眼のうち,1眼は術後2カ月後に拒絶反応を起こし,他院で再度DSAEKを行った.残り2眼は内皮機能不全となり,うち1眼はサイトメガロウイルス感染症が原因であり,感染症が落ち着いたら再手術を検討している.3.視力術前の平均logMAR視力は0.99±0.4(平均小数視力:0.10)であった.術後1カ月の平均logMAR値は0.40±0.3(平均小数視力:0.40),術後3カ月は0.24±0.2(平均小数視力:0.60),術後6カ月は0.21±0.2(平均小数視力:0.61)術後12カ月は0.16±0.2(平均小数視力:0.70)であった.(,)術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意な改善を認めた(図1,2).術後12カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は90%,同様に0.8以上は48%,1.0以上は20%であった.4.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,597±275cells/mm2であった.術後1,3,6,12カ月での平均内皮細胞密度はlogMAR00.20.40.60.811.21.4****最終視力(小数視力)10.10.011.6術前術後術後術後術後1カ月3カ月6カ月12カ月術前視力(小数視力)図1術前,術後の平均矯正視力図2術前と最終観察時の矯正視力術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意に改善を認2眼を除き,38眼で術後の視力向上が得られた.めた.*p<0.05.(135)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418730.010.11 それぞれ,2,011±657cells/mm2(n=25),1,799±604cells/mm2(n=29),1,716±657cells/mm2(n=32),1,622±676cells/mm2(n=37)と,術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意に減少を認めた.内皮細胞減少率は1,3,6,12カ月でそれぞれ,22%,30%,34%,37%であった(図3).5.術後合併症眼圧上昇(瞳孔ブロック以外で,経過中21mmHgを超えた症例)を17眼(43%)に認めた.また,.胞様黄斑浮腫が7眼(18%),移植片接着不良が4眼(10%),瞳孔ブロックが2眼(5%),内皮機能不全が2眼(5%),拒絶反応が1眼(2.5%)であった.駆逐性出血,眼内炎は認めなかった.眼圧上昇は,術翌日から術後10カ月目までに認めた.眼圧上昇をきたした17眼中5眼は無治療で眼圧が正常化したが,11眼は点眼もしくは内服の薬物治療を行い,1眼は線維柱帯切除術を施行した.術前より緑内障は9眼あり,そのうち4眼(44%)に術後高眼圧を認めた.術後1年経過した最終観察時ではすべての症例で眼圧は正常化した..胞様黄斑浮腫は,7眼中6眼はDSAEK単独手術を施行したもので,1眼はDSAEKに白内障同時手術を行ったものであった.全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて消失した.移植片接着不良眼の内訳は,白内障術後による水疱性角膜症が2眼,Fuchs角膜内皮ジストロフィが1眼,線維柱帯切除術の術後水疱性角膜症が1眼であった.4眼中3眼は,術後前房内空気再注入により接着が得られた.残る1眼は水晶体.内摘出術後眼で,さらに移植片に縫合を追加することで最終的に接着が得られた.術式の内訳は,DSAEKが3眼,nDSAEKと白内障同時手術が1眼であった.拒絶反応は術後2カ月目に発症し,ステロイド内服とリン酸ベタメタゾン点眼の増加により改善し,小数視力0.8まで回復した.瞳孔ブロックを生じた2眼は,ともに術翌日に空気を抜くことで解除可能であった.内皮機能不全となった2眼のうち1眼は,経過中に2回内皮炎を発症,前房水のポリメラーゼ連鎖反応法よりサイトメガロウイルスが検出され,術後約1年で内皮機能不全となった.III考按今回術後12カ月目の平均logMAR値は0.16±0.2(平均小数視力:0.7)であった.他施設の報告でも0.29.0.08(平均小数視力:0.51.0.83)であり3,6,7),既報とほぼ同等の結果であった.初診時と最終観察時の矯正視力を比較すると,術前より視力低下を認めたのは1眼のみであった.この症例はFuchs角膜内皮ジストロフィで,術前小数視力0.9であり,3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000角膜内皮細胞密度(cells/mm2)****術前術後術後術後術後1カ月3カ月6カ月12カ月図3平均角膜内皮細胞密度術後3カ月まで内皮細胞密度の減少を認め,その後の減少は緩やかであった.術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意に減少を認めた(術前ドナーn=40,術後1カ月n=25,術後3カ月n=29,術後6カ月n=32,術後12カ月n=37).*p<0.05.術中・術後とも問題なく,経過良好だが術後12カ月の矯正小数視力は0.8であった.術後12カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は90%,0.8以上は48%,1.0以上は20%であり,これは海外の報告と比べても遜色のない成績であった7).DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており7),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.日本で海外ドナー角膜を用いた既報によれば,術前ドナー角膜内皮細胞密度は2,905.2,946cells/mm2,術後12カ月は1,919.2,064cells/mm2と報告されている2,3).米国で自国のドナー角膜を用いた既報によれば,術前ドナー角膜内皮細胞密度は2,778.3,100cells/mm2,術後12カ月は1,743.1,990cells/mm2と報告されている6,8.10).筆者らの結果では,術前ドナー角膜の内皮細胞密度は2,597cells/mm2,術後12カ月は1,622cells/mm2と,術前および術後12カ月とも既報に比較し少なかった.一方,内皮細胞密度の減少率は,プレカットされていない海外ドナーを用いた施設では,術後12カ月で36.38%と報告しており8,10),筆者らの術後12カ月の内皮細胞密度の減少率の37%とほぼ同等であった.既報における海外および輸入角膜の平均ドナー年齢が44.59歳であるのに対し2,6,8,10),今回,筆者らが用いた平均ドナー年齢は65歳と高かった.筆者らが用いた国内ドナーはドナー年齢が高く,角膜内皮細胞密度は少ない傾向であるが,角膜内皮細胞減少率は既報と大きな違いはなかった.しかし,Priceらは,術後6カ月の内皮細胞密度はドナー年齢が高いほど少なくなると報告しており8),80歳以上の高齢者ドナーも少なくないわが国では,DSAEK術後の角膜内皮細胞密度については,さらに注意深く評価していく必要があると考えられた.今回の結果では,術後眼圧21mmHgを超えた症例が43(136) %(17眼)であり,点眼および手術を要したのは全体の30%(12眼)であった.眼圧上昇した症例のうち29%(5眼)は経過からステロイドレスポンダーが疑われた.既報では眼圧上昇は5.8.17.5%とあるが4,10,11),既報により基準が異なるため,単純に比較し多いとはいえない.ただしDSAEK術後の合併症の頻度としては高く,眼圧上昇には注意する必要がある.筆者らの施設では.胞様黄斑浮腫を7眼(18%)に認め,0.5%とする既報と比較して多かった4,7,13).7眼のうち6眼はDSAEK単独手術後の症例であり,非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしていなかった.また,5眼は術後2カ月以内に認めた.DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,光干渉断層計(OCT)などを用い積極的に精査する必要があると考えられる.また,今回の結果から白内障手術を併用しない単独手術であっても,DSAEK術後では非ステロイド性抗炎症薬の投与を考慮すべきであると筆者らは考えている.今回の検討では術後拒絶反応の発症は1眼(2.5%)のみで,5.2.17.6%とする既報に比べて低かった10,13).当院では全層角膜移植に準じて術後ステロイドの全身投与を実施していることに加え,術後1年では多くの症例でベタメタゾン点眼を継続使用していることも,拒絶反応発生が比較的低く抑えられている原因となっている可能性が考えられた.今回,筆者らは,国内ドナーを用いたDSAEKの術後成績を報告した.多くの症例で術後早期より視力の向上が得られた.拒絶反応は従来の報告どおり低く,感染症や駆逐性出血などの大きな合併症は認めなかった.海外ドナーを用いた他施設での報告と比べ,術後角膜内皮細胞数は少なかったものの,術後視力や内皮細胞密度の減少率は同等で,水疱性角膜症に対する治療として国内ドナーを用いたDSAEKは有用と考えられた.今後はより長期の検討を行うことで,国内ドナーを用いたDSAEKの術後経過を明らかにしていきたい.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)中川紘子,稲富勉,稗田牧ほか:Descemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty術後における角膜内皮細胞密度の変化と影響因子の検討.あたらしい眼科28:715-718,20113)MasakiT,KobayashiA,YokogawaHetal:Clinicalevaluationofnon-Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.JpnJOphthalmol56:203-207,20124)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:SurgicaloutcomeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathysecondarytoargonlaseriridotomy.GraefesArchClinExpOphthalmol250:10431050,20125)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:No-touchtechniqueandanewdonoradjusterforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.CaseRepOphthalmol3:214-220,20126)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Ophthalmology116:248-256,20097)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,20128)PriceMO,PriceFWJr:Endothelialcelllossafterdescemetstrippingwithendothelialkeratoplastyinfluencingfactorsand2-yeartrend.Ophthalmology115:857-865,20089)TerryMA,ChenES,ShamieNetal:EndothelialcelllossafterDescemet’sstrippingendothelialkeratoplastyinalargeprospectiveseries.Ophthalmology115:488-496,200810)PriceMO,GorovoyM,BenetzBAetal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplastyoutcomescomparedwithpenetratingkeratoplastyfromtheCorneaDonorStudy.Ophthalmology117:438-444,201011)SaethreM,DrolsumL:TheroleofpostoperativepositioningafterDSAEKinpreventinggraftdislocation.ActaOphthalmol92:77-81,201412)SuhLH,YooSH,DeobhaktaAetal:ComplicationsofDescemet’sstrippingwithautomatedendothelialkeratoplasty:surveyof118eyesatOneInstitute.Ophthalmology115:1517-24,200813)KoenigSB,CovertDJ,DuppsWJJretal:Visualacuity,refractiveerror,andendothelialcelldensitysixmonthsafterDescemetstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Cornea26:670-674,2007***(137)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141875

Descemet膜剝離角膜内皮移植術とDescemet膜非剝離角膜内皮移植術の短期手術成績の比較

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):547.550,2013cDescemet膜.離角膜内皮移植術とDescemet膜非.離角膜内皮移植術の短期手術成績の比較廣越亜希子*1,2松本幸裕*2市橋慶之*1,2川北哲也*2榛村重人*2坪田一男*2*1日本鋼管病院眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室ComparisonofShort-TermResultsbetweenDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(DSAEK)andnon-Descemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(nDSAEK)AkikoHirokoshi1,2),YukihiroMatsumoto2),YoshiyukiIchihashi1,2),TetsuyaKawakita2),ShigetoShimmura2)andKazuoTsubota2)1)DepartmentofOphthalmology,NihonKoukanHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine目的:Descemet膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)とDescemet膜非.離角膜内皮移植術(nDSAEK)の短期手術成績を比較する.対象および方法:水疱性角膜症に対して,DSAEKを施行した症例(DSAEK群)16例18眼とnDSAEKを施行した症例(nDSAEK群)14例14眼について,角膜透明治癒率,視力,自覚的乱視,等価球面度数,角膜内皮細胞密度を比較検討した.結果:術後12カ月においては,角膜透明治癒率は両群とも100%であり,視力についても両群間に有意差を認めなかった.自覚的乱視や等価球面度数についても両群間に有意差を認めなかった.角膜内皮細胞密度の減少についてはnDSAEK群のほうがDSAEK群と比べて少ない傾向があった.結論:nDSAEKはDSAEKと同様に有用な手術方法であり,術後の角膜内皮細胞の減少が少ない可能性が示唆された.Purpose:Tocomparepostoperativeshort-termresultsbetweenDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)andnon-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(nDSAEK).Methods:Wecomparedgraftclarity,visualacuity,subjectiveastigmatism,sphericalequivalentandendothelialcelllossbetween18eyesof16patientswhounderwentDSAEKand14eyesof14patientswhounderwentnDSAEKforbullouskeratopathy.Results:Allcasesinbothgroupshadretainedcleargraftsat12monthspostoperatively;therewasnosignificantdifferenceinvisualacuity,subjectiveastigmatismorsphericalequivalentbetweenDSAEKgroupandnDSAEKgroup.DonorendothelialcelllosstendedtobelessinnDSAEKgroupthaninDSAEKgroup.Conclusion:Asasurgicaltechnique,nDSAEKisconsideredsimilartoDSAEKintermsofusefulness,andmaybesuperiortoDSAEKintermsofpostoperativeendothelialcellloss.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):547.550,2013〕Keywords:DSAEK(Descemet膜.離角膜内皮移植術),nDSAEK(Descemet膜非.離角膜内皮移植術),角膜内皮移植術,水疱性角膜症.DSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty),nDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty),endothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy.はじめにDescemet膜.離角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)は,2004年より,Melles,Terry,Priceらによって開発された新しい手術方法である1.3).一方,Descemet膜非.離角膜内皮移植術(non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:nDSAEK)は,2009年に小林らにより報告されている手術方法である4).これまで,DSAEK,nDSAEKについて,各々の手術成績は報告されている4,5)が,両者を比較検討したものはない.今回,DSAEKとnDSAEKの短期手術成績を比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕廣越亜希子:〒210-0852川崎市川崎区鋼管通1丁目2番1号日本鋼管病院眼科Reprintrequests:AkikoHirokoshi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NihonKoukanHospital,1-2-1Koukanstreet,Kawasakiku,Kawasaki,Kanagawa210-0852,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)547 :DSAEKI対象および方法-0.5:nDSAEK対象は,慶應義塾大学病院眼科において,同一術者(S.S.)0によって,平成19年8月から平成22年1月までに,水疱性角膜症と診断されて,DSAEKを施行された症例(DSAEK群)16例18眼(男性3例,女性13例,平均年齢75.5±9.6歳)とnDSAEKを施行された症例(nDSAEK群)14例14眼(男性9例,女性5例,平均年齢73.2±12.9歳)であった.LogMAR0.5水疱性角膜症の原因の内訳は,DSAEK群では,白内障術後(眼内レンズ挿入眼術後)が8例,レーザー虹彩切開術後が5例,Fuchs角膜ジストロフィが3例,その他2例であり,またnDSAEK群では,白内障術後(眼内レンズ挿入眼術後)が8例,レーザー虹彩切開術後が2例,その他4例であった.手術方法としては,まず角膜上に直径8mmにて円形にマ1.0術前13612術後(月)図1矯正視力の変化矯正視力に関して,DSAEK群とnDSAEK群との間には,いずれの時期においても有意差を認めなかった.ーキングした後に,耳側に約5mmの角膜創を作製した.インフュージョンカニューラ(モリア・ジャパン,東京)を使3p<0.05:DSAEK:nDSAEK用して前房を安定させた状態で,DSAEKはDescemet膜を.離し移植片を前房内に挿入するのに対し,nDSAEKはDescemet膜を.離せずに前房内に移植片を挿入した.移植片の直径は8.0mmであり,BusinGlideSpatulaTM(モリア・ジャパン,東京)と鑷子を使用して耳側の角膜創より移植片を前房内に引き入れ,移植片の位置を調整したうえで前房内に空気を注入し移植片の接着を図った.自覚的乱視度数(D)210DSAEK群およびnDSAEK群において,角膜透明治癒率(%),視力,自覚的乱視度数(diopter:D),等価球面度数(D),角膜内皮細胞密度(/mm2),術中や術後の合併症を検討した.なお,視力はlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)で解析した.数値は,平均値±標準偏差で記載し,統計学的解析方法としては,Mann-WhitneyU-test,Wilcoxont-test検定を用いて検討した.II結果1.角膜透明治癒率術後12カ月における角膜の透明治癒率は,両群とも100%であった.2.視力DSAEK群での術前の視力は,logMAR値:0.43±0.28(小数視力:0.42±0.17)であり,術後1カ月で0.28±0.23(0.60±0.30),術後3カ月で0.21±0.33(0.69±0.33),術後6カ月で0.19±0.23(0.72±0.35),術後12カ月で0.16±0.21(0.76±0.22)と,術後3カ月以降において,有意な視力の向上が得られた(p<0.05)(Wilcoxont-test).一方,nDSAEK群では,術前の視力は,logMAR値:0.61±0.48(小数視力:0.37±0.26)であり,術後1カ月で0.23±0.28(0.68±0.31),術後3カ月で0.17±0.35(0.81±0.36),術後6カ月で0.18±548あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013術前13612術後(月)図2自覚的乱視度数の変化自覚的乱視度数に関して,DSAEK群とnDSAEK群との間には,術後3カ月においてのみ有意差を認めた(p<0.05).0.35(0.81±0.37),術後12カ月で0.14±0.31(0.84±0.32)と術後1カ月以降において,有意な視力の向上が得られた(p<0.05)(Wilcoxont-test).DSAEK群とnDSAEK群と比較検討したところ,いずれの時期においても有意差を認めなかった(p>0.05)(Mann-WhitneyU-test)(図1).また,0.5以上の小数視力が得られた症例は,術後6カ月で,DSAEK群では66.7%,nDSAEK群では85.7%であった.術後12カ月で,DSAEK群では55.6%,nDSAEK群では85.7%であった.3.自覚的乱視度数DSAEK群において,自覚的乱視度数は,術前で1.50±0.87D,術後1カ月で1.39±1.15D,術後3カ月で1.21±0.95D,術後6カ月で1.34±1.03D,術後12カ月で1.58±1.06Dであり,術前と比較して,術後3カ月,12カ月で有意差を認めた(p<0.05)(Wilcoxont-test).nDSAEK群に(120) :nDSAEK術前13612術後(月)図3等価球面度数の変化等価球面度数に関して,DSAEK群とnDSAEK群との間には,いずれの期間においても有意差を認めなかった.おいて,自覚的乱視度数は,術前で1.46±0.99D,術後1カ月で1.63±1.06D,術後3カ月で2.06±1.07D,術後6カ月で1.55±1.21D,術後12カ月で1.42±0.71Dであり,術前と比較して,術後3カ月で有意差を認めた(p<0.05)(Wilcoxont-test).両群間の比較検討では,術後3カ月において有意差を認めたものの(p<0.05)(Mann-WhitneyU-test),その他の時期においては有意差を認めなかった(図2).4.等価球面度数DSAEK群において,等価球面度数は,術前で.0.13±2.30D,術後1カ月で0.30±1.31D,術後3カ月で.0.30±1.70D,術後6カ月で0.02±1.00D,術後12カ月で.0.01±1.54Dであり,nDSAEK群において,等価球面度数は,術前で.0.94±1.80D,術後1カ月で.0.47±1.17D,術後3カ月で.0.53±1.57D,術後6カ月で.0.56±1.38D,術後12カ月で.0.68±1.59Dであった.DSAEK群において,術前と比較して術後1カ月,術後6カ月,術後12カ月で有意に遠視化しており(p<0.05),nDSAEK群では,術前と比較して術後1カ月,術後3カ月,術後6カ月,術後12カ月で有意に遠視化していた(p<0.05)(Wilcoxont-test)(図3).両群の比較検討では,いずれの時期においても有意差を認めなかった(Mann-WhitneyU-test).5.角膜内皮細胞密度DSAEK群において,ドナー角膜の角膜内皮細胞密度は,術前で2,341±389/mm2,術後1カ月で1,563±426/mm2,術後3カ月で1,862±695/mm2,術後6カ月で1,530±646/mm2,術後12カ月で1,671±735/mm2であり,術後はいずれの時期でも有意な減少を示していた(p<0.05)(Wilcoxont-test).nDSAEK群において,ドナー角膜の角膜内皮細胞密度は,術前で2,616±317/mm2,術後1カ月で2,129±(121):DSAEK1等価球面度数(D)0-1-2角膜内皮細胞密度(/mm2)3,000p<0.05p<0.052,0001,0000術前13612術後(月)図4角膜内皮細胞密度の変化角膜内皮細胞密度に関して,DSAEK群とnDSAEK群との間には,術後1カ月と術後6カ月において有意差を認めた(p<0.05).506/mm2,術後3カ月で2,257±281/mm2,術後6カ月で2,243±336/mm2,術後12カ月で2,007±472/mm2であり,術後はいずれの時期でも有意な減少を示していた(p<0.05)(Wilcoxont-test)(図4).DSAEK群では,術後6カ月で34.6%,術後12カ月で28.6%の細胞数の減少を認めたが,nDSAEK群では,術後6カ月で14.3%,術後12カ月で23.3%の減少率であった.いずれの時期においても,nDSAEK群は,DSAEK群よりも細胞減少率は低く,術後1カ月と術後6カ月において有意差を認めた(p<0.05)(Mann-WhitneyU-test).6.術中・術後合併症DSAEK群において,術後2カ月より眼圧上昇を1例認めたが,点眼治療にて軽快している.nDSAEK群において,術翌日に移植片の偏位を1例認めたが,移植片の位置を修正した後に空気を再注入することで角膜中央部付近への接着を得られた.術中の合併症については,DSAEK群,nDSAEK群ともに認められなかった.III考按今回の結果では,DSAEK群,nDSAEK群ともに術後12カ月における角膜透明治癒率は100%であった.また,0.5以上の小数視力が得られたのは,術後6カ月にてDSAEK群で66.7%,nDSAEK群で85.7%であった.Koenigらは,DSAEK術後6カ月で角膜透明治癒率は100%であり,88.2%で視力の向上が得られ,61.8%で小数視力0.5以上が得られたと報告している6).また,Priceらは,DSAEKの症例のなかで,術後の小数視力が0.5以上得られた症例は69%であったと報告している7).今回の検討では,DSAEK群においては,角膜透明治癒率,視力ともに,過去の報告とほぼ同様の結果であった.nDSAEK群においては,角膜透明治癒あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013549:DSAEK:nDSAEK 率,視力ともに,DSAEK群とほぼ同様の結果であり,視力では統計学的有意差を認めていなかった.今回,DSAEK術後の角膜内皮細胞数の減少率は,術後6カ月で34.6%,術後12カ月で28.6%であった.以前に,DSAEK術後の角膜内皮細胞数の減少率について,Priceらは,術後6カ月では減少率は34%と報告しており8),Terryらは,術後6カ月では34%,術後12カ月では35%であると報告している9).本検討でのDSAEK群においては,既報と同程度の角膜内皮細胞数の減少率であった.今回,nDSAEK術後の角膜内皮細胞数の減少率において,術後6カ月で14.3%,術後12カ月で23.3%であった.nDSAEK群はDSAEK群と比較して,術後のいずれの時期においても角膜内皮細胞数の減少が少ないという結果であった.また,以前に,小林らは,nDSAEKの角膜内皮細胞数の減少率は術後6カ月で25.8%であったと報告している4).既報と今回の報告により,DSAEKと比較して,nDSAEKは,術後の角膜内皮細胞数の減少が少ない手術方法といえる可能性が示唆された.以下は,筆者らの仮説ではあるが,DSAEKでは,Descemet膜を.離することにより,角膜や眼内に炎症を惹起させる可能性があることや,ドナー角膜の偏位などにより,Descemet膜.離部分とドナー角膜の接着部分にずれが生じ,角膜内皮が存在しない領域が生じる可能性があると考えられる.しかしながら,nDSAEKでは,そのような可能性は否定できるため,術後の角膜内皮細胞数を維持できるのではないかと推測している.今回の検討では,DSAEK群において,術後6カ月の自覚的乱視度数は1.34±1.03Dであり,nDSAEK群において,術後6カ月の自覚的乱視度数は1.55±1.21Dであった.DSAEK群,nDSAEK群のいずれにおいても,術後の自覚的乱視は軽度であり,術後早期より安定していた.術後6カ月以降の自覚的乱視については,DSAEK群とnDSAEK群との比較では,有意差を認めなかった.Koenigらは,DSAEKの術前術後の自覚乱視の変化について,術前の乱視(1.68±1.22D)と術後6カ月での乱視(1.80±1.10D)との間には,有意差を認めなかったと報告している6).また,Mearzaらは,DSAEKの術後12カ月での乱視は1.50±1.16Dであったと報告している10).今回,DSAEK術後の自覚乱視については,既報と同程度であり,明らかな差を認めなかった.今回,術前と術後の等価球面度数を検討したところ,DSAEK群およびnDSAEK群において,術後12カ月に至るまで遠視化していた.屈折検査による等価球面度数を検討すると,DSAEKにおいては,術前と比べて,術後は遠視化の傾向があることが知られているが,nDSAEKについては,これまで報告されていない.今回の検討では,遠視化の傾向については,DSAEKとnDSAEKの間に有意差を認めなかった.また,術中や術後の合併症については,DSAEK群,nDSAEK群において,明らかな差を認めず,安全性に関して優劣はないものと考えた.今回の検討により,nDSAEKはDSAEKと同様に高い角膜透明治癒率が得られること,術後早期から視力の改善が得られること,術後の自覚的乱視が軽度であることにより,有用な角膜移植術の一つであると考えられた.また,今回,nDSAEKはDSAEKよりも,術後の角膜内皮細胞数を維持できる可能性が示唆されたが,これについては,今後,長期的に検討する必要があると考えられた.本論文の要旨は,第34回角膜カンファランス(2010,仙台)にて発表した.文献1)PriceMO,PriceFW:Descemet’sstrippingendothelialkeratoplasty.CurrOpinOphthalmol18:290-294,20072)MellesGR:Posteriorlamellarkeratoplasty:DLEKtoDSAEKtoDMEK.Cornea25:879-881,20063)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneuralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20054)小林顕:Descemet膜非.離角膜内皮移植術(nDSAEK):眼科手術22:475-480,20095)市橋慶之,冨田真智子,島﨑潤:角膜内皮移植術の短期治療成績:日眼会誌113:721-726,20096)KoenigSB,CovertDJ,DuppsWJJretal:Visualacuity,refractiveerror,andendothelialcelldensitysixmonthsafterDescemetstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Cornea26:670-674,20077)PriceMO,PriceFW:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplasty:comparativeoutcomeswithmicrokeratome-dissectedandmanuallydissecteddonortissue.Ophthalmology113:1936-1942,20068)PriceMO,PriceFW:Endothelialkeratoplastyinfluencingfactorsand2-yeartrend.Ophthalmology115:857-865,20089)TerryMA,ChenES,ShamieNetal:EndothelialcelllossafterDescemet’sstrippingendothelialkeratoplastyinalargeprospectiveseries.Ophthalmology115:488-496,200810)MearzaAA,QureshiMA,RostronCK:Experienceand12-monthresultsofDescemet-strippingendothelialker-atoplasty(DSAEK)withasmallincisiontechnique.Cornea26:279-283,2007***550あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(122)

視力回復の可能性のない水疱性角膜症に対するPhototherapeutic Keratectomyの長期成績

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1395.1400,2012c視力回復の可能性のない水疱性角膜症に対するPhototherapeuticKeratectomyの長期成績武藤貴仁*1佐々木香る*2熊谷直樹*2高塚弘美*1武藤興紀*1出田隆一*2*1熊本眼科医院*2出田眼科病院Long-TermOutcomeofPhototherapeuticKeratectomyforBullousKeratopathywithPoorVisualPotentialTakahitoMuto1),KaoruAraki-Sasaki2),NaokiKumagai2),HiromiTakatsuka1),KokiMuto1)andRyuichiIdeta2)1)KumamotoEyeClinic,2)IdetaEyeHospital目的:視力回復の見込みのない水疱性角膜症に対し,疼痛解除の目的で,phototherapeutickeratectomy(PTK)を施行した長期結果を報告する.対象および方法:視力回復の見込みのない水疱性角膜症8例8眼.男性5例,女性3例,平均年齢77.6歳で,全例緑内障罹患眼であった.疼痛により,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)連続装用を余議なくされていた.患者の同意を得てNIDEK社製・EC-5000CXIIIを用いてPTKを施行した(平均切除深度:124μm).術後は2週間DSCLを装用のうえ,ステロイド,抗生物質,ヒアルロン酸,ジクロフェナクの点眼を投与した.結果:PTK施行後約4.5日で上皮欠損は全例修復した.平均観察期間19.6カ月において,角膜厚は増加傾向にはあったが,8例中7例では,上皮欠損や巨大bullaは生じず,疼痛も消失した.前眼部光干渉断層計(OCT)では実質表層のスムージングが観察された.結論:視力回復の見込みのない疼痛を伴う水疱性角膜症におけるDSCL離脱を図る場合,羊膜や角膜を用いた移植手術の前に,PTKはまず試みてよい方法の一つと考えられた.Purpose:Wereportonourexperienceswithphototherapeutickeratectomy(PTK)forpainfulbullouskeratopathywithpoorvisualpotential.MaterialsandMethods:Subjectscomprised8eyesof8bullouskeratopathypatients(5males,3females;averageage:77.6years).PTKwasperformedwiththeEC-5000CXIII(NIDEKCo.,Ltd.)withanaverageabrasiondepthof124μm.Thedisposablesoftcontactlens(DSCL)wasappliedforatleast2weeksandtheeyesweretreatedwithtopicalsteroid,antibiotics,hyaluronicacidanddiclofenac.Results:Theepithelialerosionhealedat4.5daysafterPTKinallcases.Althoughthecornealthicknessgraduallyincreasedduringtheobservationperiod(19.6months),theepithelialsheetwasmaintainedwithnoerosion,giantbullaorpainin7eyes.Anterioropticalcoherencetomograph(OCT)showedsmoothingoftheanteriorstroma.Conclusion:PTKisamethodoffirstchoicefortreatingpainfulbullouskeratopathywithpoorvisualpotency.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1395.1400,2012〕Keywords:水疱性角膜症,角膜上皮欠損,治療的レーザー角膜切除,エキシマレーザー,コンタクトレンズ.bullouskeratopathy,cornealepithelialerosion,phototherapeutickeratectomy,excimalaser,contactlens.はじめに医療技術や医療機器の進歩の反面,それに伴い増加した疾患もある.たとえば,レーザー虹彩切開術や複数回の内眼手術などにより生じる水疱性角膜症もその一つである.通常,水疱性角膜症に対しては,角膜内皮移植や全層移植が選択されるが,提供角膜には限りがあり,視神経萎縮など視力予後不良の症例に対しては,移植の適応とはされない.水疱性角膜症が高度になると,異物感や疼痛が出現するため,治療の中心は疼痛のコントロールとなる.このような視力不良の水疱性角膜症に対する治療として,治療用コンタクトレンズ(disposablesoftcontactlens:DSCL)装用,羊膜移植などが選択される1.4).しかし,DSCLでは感染の危険が常に付きまとうことや頻回に通院が必要なこともあり,高齢者には困難が生じること〔別刷請求先〕武藤貴仁:〒862-0976熊本市九品寺2-2-1熊本眼科医院Reprintrequests:TakahitoMutoh,M.D.,KumamotoEyeClinic,2-2-1Kuhonji,Kumamoto862-0976,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(79)1395 が多い.また,羊膜移植においては,施行可能な施設が限られていることや,入院のうえ,手術が必要であり,視力回復が望めない患者に対するストレスも多い.文献的には水疱性角膜症の疼痛に対しphototherapeutickeratectomy(PTK)が有効である報告が散見される5.7)が,わが国ではまだ一般的でない.加えて,もともと水疱性角膜症では内皮細胞不全が存在し,PTKは根本的な加療ではないため,長期予後も検討する必要がある.今回,視力回復の可能性のない水疱性角膜症8眼に対し,疼痛軽減の目的でPTKを施行したので,その経過を報告する.I対象および方法1.対象対象は出田眼科病院,熊本眼科医院に通院治療している視力回復の可能性のない,あるいは角膜移植を希望しない水疱性角膜症の患者8例8眼で,男性5例5眼,女性3例3眼,平均年齢は77.6±10.1歳(66.90歳)であった.水疱性角膜症の原因としては,角膜移植後1眼,外傷1眼,複数回内眼手術後5眼,続発緑内障1眼であった.また,視力回復の可能性がない原因としては,網脈絡膜萎縮1眼,外傷による視神経萎縮1眼,緑内障による視神経萎縮3眼,糖尿病網膜症1眼,黄斑変性症2眼であった.8例中7眼では,治療用コンタクトレンズを装用しなければ日常生活が困難で連続装用を施行しており,2週間ごとに通院のうえ,DSCLを交換していた.1眼では,交換のための通院が困難であることから眼帯,閉瞼にて対処していた.2.方法PTKの3日前から抗生物質点眼を投与し,術前には16倍希釈ポビドンヨードにて眼瞼皮膚および結膜.を洗眼し,オゾン水で洗浄した.PTKはNIDEK社製EC-5000CXIIIを用いてPTKモードでopticalzone径6mm,transitionzone径7.5mmに設定し施行した.切除量に関してはMainiらの文献8)に従って,術前コンタクトレンズ非装用時の角膜中央部の角膜厚を,前眼部光干渉断層計(OCT)(CirrusTM,HDOCT,CarlZeiss,orRTVue-100,OPTOVUE)を用いて計測し,その約25%を切除量とした.なお,PTKに際して,上皮.離は施行しなかった.その際,最低400μmを残存ベッドとして確保するように設定した.術後は上皮が安定するまでDSCLを装用のうえ,ステロイド,抗生物質,ヒアルロン酸,ジクロフェナクの点眼を投与し,細隙灯顕微鏡および前眼部OCTを用いて経過観察をした.前眼部OCTによる角膜厚測定はスリット所見で確認しながら角膜中央を通る同一部位で測定した.II結果[症例の一覧]全症例の年齢,性別,術前角膜厚,術後最終観察時角膜厚,切除量,術前・後視力を表1に示す.術前角膜厚は平均753.63μm(515.1,180μm)であり,角膜切除量は平均144.4±56.4μm(100.240μm)であった.また,術後視力が悪化する症例はなく,4例ではわずかながら視力向上がみられた.なお,術中合併症は認めなかった.[代表症例1]70歳,女性(症例⑤).術前所見:細隙灯顕微鏡にて強い実質浮腫を認め(図1a),OCTにおいても角膜上皮.実質間に巨大blebを認めた(図1b).角膜厚は770μmであった.PTK切除量:平成22年1月下旬,130μmを切除量としてPTKを施行した.術後経過:順調に上皮は再生され,5日後にDSCLを離脱した.術後2カ月の時点では,再生された上皮表層に微細なフルオレセイン染色にて不整パターンを認めるが,上皮欠損は認められなかった(図2a).前眼部OCTでは実質表層の浮腫の軽減と実質表層の平坦化による上皮の安定化を認めた(図2b).角膜厚は術後4カ月で568μm,術後11カ月で560μmであった.[代表症例2]66歳,男性(症例⑥).術前所見:高度の水疱性角膜症を認め(図3a),OCTでは角膜厚986μmと肥厚していた(図3b).DSCLを装用していたため,上皮欠損は認めなかったが上皮細胞の接着不全を示唆する所見を認めた.表1全症例の年齢・性別,術前・後角膜厚,切除量,術前・後視力症例年齢(歳)・性別術前角膜厚(μm)切除量(μm)術後角膜厚(μm)術前視力①68・女性6101003560.09②70・男性6921001,220m.m.③85・女性6521105320.03④90・男性624110560s.l.(.)⑤70・女性770130560m.m.⑥66・男性98624085610cm/n.d.⑦89・男性515120430m.m.⑧83・男性1,1802401,3360.01m.m.:手動弁,n.d.:指数弁,s.l.:光覚弁.術後視力0.07m.m.0.04s.l.(.)10cm/n.d.10cm/n.d.m.m.0.021396あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(80) baba図1a,b代表症例1:70歳,女性(症例⑤)術前には強い実質浮腫を認め(a),前眼部OCTでも角膜上皮層と実質の間に巨大blebを認めた(b).ab図2a,b図1の症例の術後2カ月目の所見再生された上皮表層に微細なフルオレセイン染色の不整パターンを認めるが,上皮欠損は認められない(a).角膜OCTでは実質表層の浮腫の軽減と平坦化により安定した上皮層が観察される(b).ab図3a,b代表症例2:66歳,男性(症例⑥)術前角膜厚は986μmと非常に強い浮腫を認めた(a).OCTでも膨化した角膜浮腫と実質表層の混濁を認め,上皮層の接着不良を認める(b).(81)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121397 aa01234567891112131516171922242840術後月数(M)cb図4a,b,c図3の症例の術後3カ月目の所見角膜浮腫が軽減し,異物感による充血も鎮静化している(a).フルオレセイン染色では小さな不整は認める(b)が,上皮は安定しており,OCTでも角膜実質厚は減少し,角膜上皮層と実質間のbullaも消失している(c).PTK切除量:平成22年7月下旬,240μmを切除量としてPTKを施行した.術後経過:術後一過性に切除部分の周辺角膜の浮腫を認めたが,約1週間で速やかに上皮修復を得た.術後3週間目にDSCLを外したが,その後も最終観察日までの16カ月間,上皮欠損および疼痛を訴えない.術後3カ月の時点での細隙角膜厚(μm)1,4001,2001,0008006004002000灯顕微鏡所見では浮腫を認めるものの,術前より軽度であり,フルオレセイン染色でも上皮接着不全を示唆するblebは存在せず,上皮が均一である(図4a,b).また,OCTにても角膜厚が減少し,上皮細胞と基底膜にわずかな間隙は認めるものの,安定化している(図4c).その後も上皮は安定し,角膜厚は術後3カ月で800μm,術後17カ月で856μmであった.[臨床経過]PTK施行後約1週間以内(術後4.7日,平均4.5日)で全例上皮欠損は修復し,上皮修復の期間は疼痛を訴えたものはなかった.平均18.9(±15.5)日で1例を除いて,全例DSCLを外すことが可能となり,術後感染症などの合併症は認められなかった.:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦:症例⑧図5全症例の角膜厚の経時的変化1398あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(82) 術前には,全例で上皮.離予防のためにDSCLのほぼ連続的な装用が必要であったが,PTK施行後平均観察期間19.6(±6.8)カ月において,1症例を除いて全例で上皮の安定化を継続して得ることができ,DSCLの離脱が図れた.OCTにおいても,実質表層の浮腫の軽減と実質表層の平坦化による上皮の安定が観察できた.角膜厚の経時的変化は図5に示したとおり,PTK後,角膜厚が安定している症例と,徐々に増加傾向を示す症例があった.術前角膜厚以上に増加した症例が2例,ほぼ同等となった症例が1例,術前角膜厚以下の保たれた症例が5例であった.DSCL離脱が困難であった症例④では8カ月目にDSCLを中止した後,上皮欠損の再発と治癒を繰り返したが,家族の希望もありPTKの追加および羊膜移植は施行せず,その都度,眼帯にて経過観察している.III考按水疱性角膜症における治療目的は,視力改善とともに疼痛コントロールが重きを占める.特に視力回復の見込みのない場合,コンタクトレンズや羊膜移植以外に,患者に負担の少なく,それでいて快適に日常生活を送れる治療が望まれる.水疱性角膜症の疼痛改善におけるPTKに関して,その効果,安全性,および長期経過が今回の検討課題であった.まず,効果に関して,今回は既報と同じく水疱性角膜症に対してPTKを施行した8眼中7眼において,疼痛解消およびDSCLの離脱という目標を達することができた.術後経過観察期間19.6カ月において,角膜厚は増加傾向にある症例も認めたが,疼痛解除の状態を維持することができ,臨床的に有用な手段であると考える.当初,懸念していた遷延性上皮欠損は認められず,全例で一旦は速やかな上皮修復を得られたこと,さらに感染症などの合併症を認めなかったことから,安全性についても問題ないと考えられた.水疱性角膜症に対しては,PTK以外に,羊膜移植が有効であることが2003年頃より報告されている4).PTK単独と羊膜移植単独はいずれも有効で,両者に有意差を認めなかったという報告9)や,羊膜移植とPTKの併用が有用との報告もある10).羊膜移植とanteriorstromalpunctureとの併用を推奨する報告もある11,12).しかし,羊膜移植は羊膜の入手や手術手技の問題,さらに術後感染の問題もつきまとう.一方,anteriorstromalpunctureについては過度の上皮下fibrosisを生じることが懸念される13).症例にもよるが,第一選択としては,できるだけ簡便な術式で再現性のよいものが推奨される.したがって,単独でまず行う方法としては,PTKが第一選択として試みてよい方法ではないかと思われた.水疱性角膜症に対するPTKの奏効機序としてはいくつかの考察がなされている5.7).1)extracellularmatrix産生上昇による上皮接着能亢進,2)上皮下のfibrosisあるいは高度浮腫組織除去による実質平坦化,3)角膜内mucopolysaccharide絶対量の減少による実質浸透圧低下に起因するhydrationの向上,4)上皮下神経叢の切除による疼痛軽減である.おそらくこれらの機序のすべてが関与して奏効すると思われる.実際,術後の前眼部OCT検査においても,残存実質の組織は術前の浮腫を示唆する疎な所見から術後には密な状態になっており,実質表層の組織が上皮伸展の土台として改善したことが示された.術後視力がわずかながら向上し,自覚的にも見やすくなったと答えた患者が存在したこと,細隙灯顕微鏡所見でも透明性が向上した症例があったことから,全体の角膜厚の低下によるhydrationの向上が示唆された.術後は全例でまったく疼痛を訴えることがなく,さらに上皮欠損が再発した症例でも,上皮欠損再発時には疼痛を訴えなかったことから,神経叢切除による機序も関与していると思われた.角膜切除深度に関しては,既報を参考に設定した.しかし,浮腫を生じて増加した角膜厚であるため,角膜厚に関する術後炎症の影響が推測できず,過多な切除を避けなければならないと考え,最低400μmは残存するように心がけた.術前のOCT画像ではほぼ全例で角膜浅部に比して深部の実質は,より浮腫が少ない傾向にあった.したがって,できるだけ浮腫の少ない実質表面が確保できる切除深度と術後角膜強度保持のための角膜厚保存の両面を考慮して,症例により切除深度を決定する必要があると考えられた.エキシマレーザーの設定も今回使用した機器では200μmが1回の施術で可能な最大切除深度であったが,より深い切除深度のPTKが有用であったと報告されているように8),症例によっては経過をみながら追加照射を施行することも考慮すべきかもしれない.今回,上皮欠損が再発した1例については,本人,家族の希望により,眼帯にて経過観察することとなったが,追加照射や羊膜移植が有効であったかもしれない.術後角膜厚の推移については,図5に示すように,症例によって差があった.角膜厚減少が乏しかった3例はいずれも術前角膜厚が650μm以上と角膜の浮腫が著明であったと考えられる症例であり,切除前の角膜厚が高度な症例ほど,術後増加しやすい傾向にあった.1年以上の長期経過を観察できた症例では,術後1年以内の角膜厚の変動に比べ1年目以降では比較的安定して推移していた.PTK後に上皮欠損が再発した症例の術前角膜厚は624μmであり,今回の対象症例のなかでは,中程度に位置する値であった.したがって,術前角膜厚のみに術後経過が規定されるのではなく,原疾患や水疱性角膜症を発症してからの期間にも影響されると思われた.さらなる症例の蓄積により,角膜厚が一定以上の水疱性角膜症には,PTKに加えてさらに羊膜移植の必要があるという基準が設定できるかもしれない.(83)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121399 長期予後,症例ごとの適切な切除深度が今後の検討課題であるが,視力予後不良の水疱性角膜症に対するPTKは安全,簡便な手技であり,疼痛改善,DSCL離脱の面から非常に有用であり,まず試みてよい方法と考えられた.文献1)AltiparmakUE,OfluY,YildizEHetal:Prospectivecomparisonoftwosuturingtechniquesofamnioticmembranetransplantationforsymptomaticbullouskeratopathy.AmJOphthalmol147:442-446,20092)ChawlaB,TandonR:Suturelessamnioticmembranefixationwithfibringlueinsymptomaticbullouskeratopathywithpoorvisualpotential.EurJOphthalmol18:9981001,20083)SrinivasS,MavrikakisE,JenkinsC:Amnioticmembranetransplantationforpainfulbullouskeratopathy.EurJOphthalmol17:7-10,20074)EspanaEM,GrueterichM,SandovalHetal:Amnioticmembranetransplantationforbullouskeratopathyineyeswithpoorvisualpotential.JCataractRefractSurg29:279-284,20035)ThomannU,Meier-GibbonsF,SchipperI:Phototherapeutickeratectomyforbullouskeratopathy.BrJOphthalmol79:335-338,19956)ThomannU,NissenU,SchipperI:Successfulphototherapeutickeratectomyforrecurrenterosionsinbullouskeratopathy.JRefractSurg12:S290-292,19967)LinPY,WuCC,LeeSM:Combinedphototherapeutickeratectomyandtherapeuticcontactlensforrecurrenterosionsinbullouskeratopathy.BrJOphthalmol85:908911,20018)MainiR,SullivanL,SnibsonGRetal:Acomparisonofdifferentdepthablationsinthetreatmentofpainfulbullouskeratopathywithphototherapeutickeratectomy.BrJOphthalmol85:912-915,20019)ChawlaB,SharmaN,TandonRetal:Comparativeevaluationofphototherapeutickeratectomyandamnioticmembranetransplantationformanagementofsymptomaticchronicbullouskeratopathy.Cornea29:976-979,201010)VyasS,RathiV:Combinedphototherapeutickeratectomyandamnioticmembranegraftsforsymptomaticbullouskeratopathy.Cornea28:1028-1031,200911)GregoryME,Spinteri-CornishK,HegartyBetal:Combinedamnioticmembranetransplantandanteriorstromalpunctureinpainfulbullouskeratopathy:clinicaloutcomeandconfocalmicroscopy.CanJOphthalmol46:169-174,201112)SonmezB,KimBT,AldaveAJ:Amnioticmembranetransplantationwithanteriorstromalmicropuncturefortreatmentofpainfulbullouskeratopathyineyeswithpoorvisualpotential.Cornea26:227-229,200713)FernandesM,MorekerMR,ShahSGetal:Exaggeratedsubepithelialfibrosisafteranteriorstromalpuncturepresentingasamembrane.Cornea30:660-663,2011***1400あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(84)