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アレルギー性結膜疾患における涙液中amphiregulin値の検討

2016年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(8):1213?1217,2016cアレルギー性結膜疾患における涙液中amphiregulin値の検討野村真美稲田紀子庄司純日本大学医学部視覚科学系眼科学分野EvaluationofAmphiregulinLevelsinTearsofPatientswithAllergicConjunctivalDiseasesMamiNomura,NorikoInadaandJunShojiDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:涙液中amphiregulin(AREG)値の眼アレルギー検査としての有用性の検討.対象および方法:対象は,アレルギー性結膜炎(AC)群11例,アトピー性角結膜炎(AKC)群18例,春季カタル(VKC)群27例およびコントロール群19例である.方法は,Schirmer試験紙に採取した涙液を検体として,enzyme-linkedimmunosorbentassay法により涙液中AREG濃度を測定し,カットオフ値(0.4ng/ml)以上を陽性,カットオフ値未満を陰性として,各群の陽性率について検討した.結果:涙液中AREGの陽性率は,AC群11例中7例,AKC群18例中11例,VKC群27例中11例であり,コントロール群(陽性:19例中1例)と比較して全群で有意に陽性率が高値であった(AC群:p<0.005,AKC群:p<0.001,VKC群:p<0.001,Fisher直接確率).涙液中AREG値は,感度51.8%および特異度94.7%であった.結論:涙液中AREG値は,眼アレルギー検査として有用である.Purpose:Toinvestigatetheusefulnessofamphiregulin(AREG)levelsintearsasanocularallergytest.SubjectsandMethods:Subjectsweredividedintothefollowingfourgroups:allergicconjunctivitis(AC)group(11patients),atopickeratoconjunctivitis(AKC)group(18),vernalconjunctivitis(VKC)group(27)andcontrolgroup(19).RegardingtearspecimenscollectedbySchirmertestpapers,AREGlevelsweredeterminedbyenzymelinkedimmunosorbentassay.Belowcutoffvalue(0.4ng/ml)wasdeemednegativeandabovecutoffvaluewasdeemedpositive;resultswereevaluatedastothepositiverateofeachgroup.Results:ThepositiveratesofAREGintearswere7of11,11of18and11of27intheAC,AKCandVKCgroups,respectively;allpositivegroupsratedsignificantlyhigherthanthecontrolgroup(ACgroup:p<0.005,AKCgroup:p<0.001,VKCgroup:p<0.001,Fisherdirectprobability).TheAREGlevelintearswas51.8%forsensitivityand94.7%forspecificity.Conclusion:TheAREGlevelintearsisusefulasanocularallergytest.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1213?1217,2016〕Keywords:amphiregulin,アレルギー性結膜疾患,涙液検査.amphiregulin,allergicconjunctivaldiseases,teartest.はじめに1988年にヒト乳がん細胞から発見されたamphiregulin1)は,EGF(epidermalgrowthfamily)familyに分類され,細胞の増殖,生存,分化に重要な役割を果たしていることが知られている2).Amphiregulinは,おもにマスト細胞から産生されると考えられており,マスト細胞の脱顆粒とともに組織中に放出される.また,特異な環境下では,好酸球3)や好塩基球4)からの産生も報告されており,即時型アレルギー反応や感染症の病態への関与が検討されている.近年,amphiregulinの研究が進んでいる気管支喘息の領域では,amphiregulinが肺マスト細胞に多量に存在すること5),ヒト肺上皮細胞のムチン遺伝子の発現を増強させ粘液分泌を増強すること5),線維芽細胞の線維化を促進させることにより気管支のリモデリングに関与すること6)などが報告されている.また,気管支喘息以外のアレルギー疾患におけるamphiregulinの検討については,アトピー性皮膚炎7)やスギ花粉によるアレルギー性鼻炎8)などの報告がある.しかし,アレルギー性結膜疾患におけるamphiregulinの関与に関しては,不明な点が多く残されている.今回,筆者らはアレルギー性結膜疾患患者の涙液中amphiregulin濃度を測定し,涙液中バイオマーカーとしての有用性について検討を行った.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を受けて実施した.1.対象対象は,2012年6月?2013年6月に日本大学医学部附属板橋病院眼科を受診し,かつアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン9)の診断基準に従って季節性アレルギー性結膜炎,通年性アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎または春季カタルと準確定もしくは確定診断した56例である.準確定診断の方法は,局所のアレルギー素因として涙液総IgE検査(アレルウォッチR涙液IgE;わかもと製薬/日立化成)もしくは全身のアレルギー素因として血清中抗原特異的IgE抗体価検査のいずれかが陽性を示し,かつアレルギー性結膜疾患の臨床所見を有するものとした.確定診断は,眼脂塗抹標本検査(エオジノステインR染色;鳥居薬品)で好酸球が陽性,かつアレルギー性結膜疾患の臨床所見を有するものとした.アレルギー性結膜疾患56例を,季節性および通年性アレルギー性結膜炎からなるAC群11例,アトピー性角結膜炎からなるAKC群18例および春季カタルからなるVKC群27例に分けて検討した.また,前眼部疾患を有していない健常成人19例をコントロール群とした.各群の症例数,平均年齢,性差,準確定診断および確定診断の内訳については表1に示した.2.涙液採取方法および涙液検体作製方法涙液は,Schirmer試験紙(SchirmertearproductionmeasuringstripsR,昭和薬品工業)を用いて両眼にSchirmer第1法を行い,Schirmer試験紙に涙液を採取した.涙液検体は,涙液を採取したSchirmer試験紙を0.5MNaCl,0.5%Tween20添加0.05Mリン酸緩衝液(phosphatebufferedsolution:PBS,pH7.2)中に一晩浸漬して涙液を溶出し,40倍希釈涙液を作製して検体として使用した.3.涙液中amphiregulin濃度の測定涙液中amphiregulin濃度は,RayBioHumanAmphiregulinELISAkit(RayBiotech社)を用いたenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法で測定し,涙液amphiregulin値とした.また,本キットの測定レンジから,0.4ng/ml以上を陽性,0.4ng/ml未満(測定下限値未満)を陰性として,各群の陽性率ならびに感度と特異度について検討した.4.統計学的解析涙液amphiregulin値の各群間比較は,Kruskal-Wallis検定を用い,陽性率は,Fisher直接確率を用いて検討した.結果は,危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果1.涙液中amphiregulin値の陽性率および感度・特異度AC群,AKC群およびVKC群における涙液中amphiregulinの陽性率を表2,3,4に示した.AC群,AKC群およびVKC群ともにコントロール群と比較して有意に陽性率が高値であった(AC群:p<0.005,VKC群:p<0.001,VKC群:p<0.001).AC群,AKC群およびVKC群を対象とした涙液中amphiregulin値の感度および特異度を表5に示す.涙液中amphiregulin値によりアレルギー性結膜疾患を診断する場合の感度は51.8%,特異度は94.7%と算出された.また,3群のなかではAC群がもっとも感度が高値を示した.2.涙液中amphiregulin値涙液中amphiregulin値が陽性を示した検体の涙液中amphiregulin値は,AC群(n=7)で2.5(0.5?3.4)[中央値(レンジ)]ng/ml,AKC群(n=11)で0.9(0.5?9.6),VKC群(n=11)で1.3(0.4?4.8)で,各群の測定値に統計学的有意差はみられなかった(p=0.145,Kruskal-Wallis検定)(図1).また,コントロール群では,1例のみ陽性を示し,測定値は1.3ng/mlであった.3.代表症例今回の測定で涙液amphiregulin値が最高値を示した症例を提示する.症例は,35歳,男性.数年前よりアトピー性角結膜炎の診断で近医に通院し,憎悪と寛解とを繰り返していた.右眼の羞明,疼痛,流涙が増悪したため当科紹介受診となった.右眼前眼部所見を図2に示す.眼瞼結膜に明らかな巨大乳頭の所見はなかったが,ビロード状乳頭増殖と強い線維化がみられた(図2a).また,球結膜には高度の充血と輪部腫脹とがあり,角膜にシールド潰瘍がみられた(図2b).涙液amphiregulin値は9.6ng/mlと高値であった.III考按Amphiregulinは,EGFfamilyに属する成長因子の一つであり,おもにマスト細胞の脱顆粒で放出されるマスト細胞に関連の深い物質であると考えられている.一方,I型(即時型)アレルギー反応は,マスト細胞表面の高親和性IgE受容体(FceRI)に結合した抗原特異的IgE抗体と抗原(アレルゲン)とが反応することにより,マスト細胞が脱顆粒し,種々のケミカルメディエーターを放出することで発症するアレルギー反応である.したがって,マスト細胞の脱顆粒に関連する因子であるamphiregulinは,I型アレルギー反応の指標になる可能性が考えられる.今回筆者らは,涙液中amphiregulin値を測定することにより,涙液中amphiregulin値のアレルギー性結膜疾患における眼アレルギー検査としての有用性について検討した.今回検討した涙液中amphiregulin陽性率は,AC群,AKC群,VKC群ともにコントロール群と比較して有意に高値であることが判明した.また,感度および特異度に関しては,感度は51.8%,特異度は94.7%であった.現在,アレルギー性結膜疾患の診断用として日常診療に用いられている涙液検査法には,イムノクロマトグラフィ法を用いた涙液総IgE測定キット(アレルウォッチR涙液IgE,わかもと製薬/日立化成)がある.このキットにおけるアレルギー性結膜疾患での陽性率は72.2%であったと報告されている10).したがって,涙液中amphiregulin値は,感度の面ではやや低値であるものの,特異度は高値でありアレルギー性結膜疾患の診断には有用なマーカーであると考えられた.また,涙液中amphiregulin値に関しては,AKC群およびVKC群で高値の症例がみられるものの,全体としてはAC群,AKC群およびVKC群の群間で差はなかった.これまでにアレルギー性結膜疾患の診断上有用として報告されている涙液中バイオマーカーには,総IgEやeosinophilcationicprotein(ECP)などがある9,11).これらのバイオマーカーを用いた涙液検査は,アトピー性角結膜炎および春季カタルでは高値,季節性アレルギー性結膜炎では低値となることから,軽症例では診断率が低値となる問題点が指摘されていた.しかし,今回の涙液中amphiregulin値は,アレルギー性結膜疾患の各病型間でほとんど差がなかったことから,amphiregulinをバイオマーカーに用いた涙液検査は,適当なカットオフ値を設定することにより,有用な臨床検査と成りうる可能性が考えられた.一方,amphiregulinのバイオマーカーとしての可能性については,Kimら12)が,小児の気管支喘息患者では,喀痰中amphiregulin濃度が健常者と比較して有意に増加しており,喀痰中好酸球数および喀痰中eosinophilcationicprotein濃度と有意な正の相関,1秒量(FEV1)と有意な負の相関を認めたと報告していることから,気管支喘息の喀痰中バイオマーカーとして有望視されている.また,この報告では,小児気管支喘息患者の喀痰中amphiregulin濃度の平均は10.80pg/mlであったと報告されている.今回筆者らが測定した涙液中amphiregulin値は,中央値がもっとも高いAC群で2.5ng/ml(2.5×103pg/ml)と高値を示した.すなわち,アレルギー性結膜疾患患者の涙液検査では,高濃度のamphiregulinが検出されることが推測され,アレルギー性結膜疾患で陽性率が有意に上昇した結果になったと考えられた.一方で,竹内ら8)は,スギ花粉症患者鼻汁中のamphiregulin濃度をELISA法で測定し,健常者とスギ花粉症患者とを比較した結果,スギ花粉症患者で高値を認めたものの,両群間に有意差はなかったとし,花粉症患者の鼻汁中amphiregulin濃度の中央値は317pg/mlであると報告している.この論文では,花粉症患者の鼻汁量が健常者と比較して多量であったため,花粉症患者の鼻汁中amphiregulin濃度が希釈されていた可能性を指摘している.今回の涙液中amphiregulin値は,濾紙法により採取した涙液をELISA法により測定したが,この測定には,ELISA測定に必要な検体量も考慮して40倍希釈涙液を用いた.そのため,測定下限値が0.4ng/ml(400pg/ml)となったが,喀痰中や鼻汁中のamphiregulin濃度から推察すると,涙液検査が偽陰性となった検体が存在し,感度が低値となった可能性が示唆された.今後,涙液中amphiregulin値を臨床検査として実用化するためには,特異度を維持しながら感度を上げる測定方法について検討する必要があると考えられた.また,Okumuraら5)は,amphiregulinがマスト細胞から分泌され,この反応はステロイドでは抑制されず,気道粘膜のマスト細胞におけるamphiregulin発現と気管支喘息患者でみられる気道のリモデリングとして知られるゴブレット(goblet)細胞の過形成とが相関することを報告している.これらの結果は,ステロイド治療に抵抗して気道のリモデリングが進行する気管支喘息患者の有用なバイオマーカーとなりうる可能性を示唆している.また,Tominagaら13)は,アトピー性皮膚炎マウスモデルの表皮において神経伸長作用をもつamphiregulinが顕著に増加していることを明らかにし,痒みの発現にamphiregulinの関与が示唆されると報告している.Amphiregulinの発現は,マスト細胞以外にも,アレルギー炎症に関与する好酸球ではgranulocyte-macrophagecolonystimulationfactor刺激により3),好塩基球ではinterleukin-3の刺激により発現がみられると報告され4),アレルギー炎症への関与も示唆されている.今回の実験結果により,涙液amphiregulin値は,アレルギー性結膜疾患の診断に有用な臨床検査と成りうる可能性が示された.しかし,今回の検討では,涙液中のamphiregulin濃度の増加に関する臨床的解釈については不明であった.涙液amphiregulin濃度の上昇が,マスト細胞の脱顆粒が主反応とされるI型アレルギー反応の即時相で生じるのか,アレルギー炎症が主反応とされる遅発相で生じるのか,または,ある種の増悪因子に関連して増加するのかについても疑問が残る点である.今後,涙液中amphiregulin濃度と病態との関連を検索するためには,結膜抗原誘発試験(conjunctivaantigenchallengetest:CACtest)などによる経時的な検討が必要であると考えられ,重症度との関連については臨床スコアなどとの比較により,これらの疑問点を解決することが臨床検査としての涙液amphiregulin検査の実用化に必要なことであると考えられた.文献1)ShoyabM,McDonaldVL,BradleyJGetal:Amphiregulin:Abifunctionalgrows-modulatingglycoproteinproducedbythephorbol12-myristate13-acetate-treatedhumanbreastadenocarcinomacelllineMCF-7.ProcNatlAcadSciUSA85:6528-6532,19882)FalkA,FrisenJ:Amphiregulinisamitogenforadultneuralstemcells.JNeurosciRes69:757-762,20023)MatsumotoK,FukudaS,NakamuraYetal:Amphiregulinproductionbyhumaneosinophil.IntArchAllergyImmunol149(Suppl1):39-44,20094)QiY,OperarioDJ,OberholzerCMetal:HumanbasophilexpressamphiregulininresponsetoTcell-derivedIL-3.JAllergyClinImmunol126:1260-1266,20105)OkumuraS,SegaraH:FceRI-mediatedamphiregulinproductionbyhumanmastcellsincreasesmucingeneexpressioninepithelialcells.JAllergyClinImmunol115:272-279,20056)WangSW,OhCK,ChoSHetal:Amphiregulinexpressioninhumanmastcellsanditseffectontheprimaryhumanlungfibroblasts.JAllergyClinImmunol115:287-294,20057)KubanovAA,KatuninaOR,ChikinVV:Expressionofneuropeptides,neurotrophins,andneurotransmittersintheskinofpatientswithatopicdermatitisandpsoriasis.BullExpBiolMed159:318-322,20158)竹内万彦,鈴木慎也,間島雄一ほか:スギ花粉症患者鼻汁中のamphiregulinの測定の試み.耳展51(補1):29-31,20089)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,201010)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,201211)庄司純:涙液検査からみたアレルギー性結膜疾患.臨眼59:142-148,200512)KimKW,JeeHM,ParkYHetal:Relationshipbetweenamphiregulinandairwayinflammationinchildrenwithasthmaandeosinophilicbronchitis.Chest136:805-810,200913)TominagaM,OzawaS,OgawaH,atal:AhypotheticalmechanismofintraepidermalneuriteformationinNC/Ngamicewithatopicdermatitis.JDermatolSci46:199-210,2007〔別刷請求先〕野村真美:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MamiNomura,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-kamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(131)1213表1対象症例の内訳1214あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(132)表2涙液中amphiregulin陽性率(AC群)表3涙液中amphiregulin陽性率(AKC群)表4涙液中amphiregulin陽性率(VKC群)表5アレルギー性結膜疾患に対する感度・特異度図1涙液中amphiregulin濃度病型別の涙液中amphiregulin濃度を比較したところ,各群間での統計学的有意差はみられなかった(p=0.145,Kruskal-Wallis検定).コントロール群では1例を除いたすべての症例でamphiregulineが陰性であった.図2涙液中amphiregulin濃度が高値を示したアトピー性角結膜炎症例症例は35歳,男性.右眼の眼瞼結膜にはビロード状乳頭増殖と強い線維化がみられる(a).右眼球結膜の充血,輪部堤防上隆起があり,角膜にシールド潰瘍がみられる(b).涙液中のamphiregulin濃度は9.6ng/mlであった.(133)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201612151216あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161217

炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-Lewis X値の検討

2015年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(11):1599.1603,2015c炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-LewisX値の検討白木夕起子庄司純石森秋子稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野EvaluationofSialyl-LewisXLevelsinTearsofPatientswithIn.ammatoryConjunctivalDiseasesYukikoShiraki,JunSyoji,AkikoIshimoriandNorikoInadaDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:非感染性炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-LewisX値の検討.対象および方法:対象は春季カタル(VKC群)12例,Sjogren症候群(SS群)9例および健常対照(コントロール群)10例である.涙液はSchirmer試験第Ⅰ法に準じた濾紙法で採取し,緩衝液中で溶出して40倍希釈涙液検体とした.涙液検体はenzyme-linkedimmuno-sorbentassay(ELISA)法を用いて,涙液中のSialyl-LewisX値を測定した.結果:涙液中Sialyl-LewisX値は,VKC群:4.0(1.7.10.9)[中央値(レンジ)]kU/ml,SS群:8.8(0.5.32.8),コントロール群:10.4(2.9.28.8)であった.VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.05,Steel-Dwasstest).コントロール群とSS群との涙液中Sialyl-LewisX値に差はなかった.結論:春季カタルでみられる結膜のアレルギー炎症は,涙液中Sialyl-LewisX値の変動に影響する可能性が考えられた.Purpose:ToevaluateSialyl-LewisXlevelsintearsofpatientswithnon-infectiousin.ammatoryconjunctivaldiseases.SubjectsandMethods:Subjectswerepatientswithvernalkeratoconjunctivitis(VKCgroup)(n=12)orSjogren’ssyndrome(SSgroup)(n=9);healthyvolunteersservedascontrol(controlgroup)(n=10).Tearsam-pleswereobtainedusinga.lterpapermethodbasedontheSchirmerItest,diluted40timeswithbu.eredsolu-tion.Sialyl-LewisXlevelsweredeterminedbyenzyme-linkedimmunosorbentassay.Results:Sialyl-LewisXlev-elsintearswere4.0(1.7-10.9)[median(range)][kU/ml],8.8(0.5-32.8)and10.4(2.9-28.8)inVKC,Sjogrenandcontrolgroups,respectively.Sialyl-LewisXlevelsintheVKCgroupshowedasigni.cantlylowlevelascomparedtothoseinthecontrolgroup(p<0.05,Steel-Dwasstest).Therewasnodi.erenceinSialyl-LewisXlevelsbetweencontrolandSSgroups.Conclusion:Allergyin.ammation,whichispresentinconjunctivaofpatientswithVKC,maya.ectchangesinSialyl-LewisXtearlevelsinpatientswithVKC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(11):1599.1603,2015〕Keywords:シアリルルイスX,春季カタル,シェーグレン症候群,涙液検査.Sialyl-LewisX,vernalkeratocon-junctivitis,Sjogren’ssyndrome,teartest.はじめに結膜の炎症性疾患は,感染性結膜炎と非感染性結膜炎とに大別される.非感染性結膜炎には,I型アレルギー反応を主要病態とするアレルギー性結膜疾患,自己免疫疾患であるSjogren症候群および瘢痕性結膜疾患であるStevens-John-son症候群や眼類天疱瘡などが含まれる.春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は,瞼結膜の石垣状乳頭増殖や輪部堤防状隆起などの結膜増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患である.VKCの患者背景としては,アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアトピー素因を有し,種々の環境因子により増悪と寛解とを繰り返す症例がみられる.また,VKCの病態や重症度を把握するための眼アレルギー検査は現在のところ存在せず,涙液検査を中心に検討が進められている.これまでに,涙液検査項目として有望視されている涙液中バイオマーカーは,eosinophilcationicprotein(ECP)1.3),IL-4などの2型ヘルパーT細〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)1599胞(Th2)関連サイトカイン4,5),eotaxinやthymusandacti-vationregulatedchemokine(TARC)などのTh2ケモカイン6.8)があげられる.Sjogren症候群は,ドライアイ,ドライマウスおよび関節炎がみられる自己免疫疾患である.涙液中のバイオマーカーに関する既報では,カテプシンSやケモカインであるCXCL9/MIG,CXCL10/IP-10,CXCL11/I-TACが涙液中に増加しているとされている9,10).一方,Sialyl-LewisXは,シアリルルイスグループに属する糖鎖抗原であり,癌関連糖鎖抗原(腫瘍マーカー)11),分泌型ムチン(MUC5AC)のO型糖鎖12),血管内皮に発現されるE-,P-セレクチンと結合する白血球の糖鎖リガンド13)などとして知られている.今回,炎症性結膜疾患であるVKCおよびSjogren症候群を対象として,涙液検査におけるSialyl-LewisXのバイオマーカーとしての有用性について検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査委員会の承認を得た.1.対象対象は,2005年5月.2012年1月に日本大学医学部附属板橋病院眼科を受診したVKC12例12眼(VKC群),Sjogren症候群9例9眼(SS群),対照10例10眼(コントロール群)である.各群の詳細を表1に示す.対照は,屈折異常以外の眼疾患および全身疾患の既往のない健常成人とした.対象眼については,SS群および,コントロール群では左眼を選択した.VKC群では,症状に左右差のある症例については重症眼を,左右差のない症例については左眼を選択した.また,VKC群で,経時的に測定を行った症例については,増悪期がある場合はそのときの値を,ない場合は初診時の測定値を選択した.2.方法a.臨床所見・臨床スコア臨床所見は,細隙灯顕微鏡を用いて,巨大乳頭,輪部堤防状隆起および落屑状点状表層角膜炎(super.cialpunctatekeratitis:SPK,落屑状SPK)の発現の有無について検討した.また,臨床スコアは,5-5-5方式重症度観察スケール14)表1対象VKCSSControl症例数(例)12910年齢(平均±標準偏差)(歳)24.0±9.669.8±8.971.4±11.6性差(男性:女性)10:20:91:9VKC:vernalkeratoconjunctivitis,SS:Sjogren’ssyndrome.を用いて,5-5-5方式重症度観察スケールで提示されている他覚所見15項目により臨床スコアを算出した.b.涙液採取法涙液検体の採取方法は,既報に従って行った5).まず,Schirmer試験第I法に準じて,Schirmer試験紙(SchirmerTearProductionMeasuringStripsR,昭和薬品化工)を使用した濾紙法により涙液を採取した.涙液を採取した濾紙は,0.5MNaCl,0.5%Tween20添加0.01Mリン酸緩衝液中で室温,overnightして涙液を溶出し,40倍希釈涙液検体を作製した.涙液採取はSS群とコントロール群の場合には任意の時期に1回,VKC群の場合には初診時を必須とし,経時的な検討を行った症例では,経過中に複数回の涙液採取を行った.c.Enzymeimmunoassay(EIA)法涙液中Sialyl-LewisX値をenzyme-linkedimmunosor-bentassay(ELISA)法で測定した.今回のELISA法は,N-テストEIAプレートCSLEX-Hニットーボー(ニットーボーメディカル,東京)を用いて,キットの使用方法に従って施行した.また,涙液eosinophilcationicprotein(ECP)値は,化学発光酵素免疫測定法を用いた自動化測定装置であるイムライズ(三菱化学メディエンス,東京)で測定した.d.統計学的解析涙液中Sialyl-LewisX値の群間比較は,Steel-Dwasstestを用いて行った.また,VKC群における涙液中Sialyl-Lew-isX値と臨床所見との関係は,2項ロジスティック回帰により行った.危険率5%未満を有意差ありとした.II結果1.涙液中Sialyl-LewisX値涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群10.4(2.9.28.8)kU/ml[中央値(レンジ)],SS群8.8(0.5.32.8)kU/ml,VKC群4.0(1.7.10.9)kU/mlであった.VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.05,Steel-Dwasstest)(図1).SS群では涙液中Sialyl-LewisX値が低値の症例と高値の症例が混在し,全体ではコントロール群と差はなかった.2.VKC群における涙液中Sialyl-LewisX値と臨床所見コントロール群の測定値を用いて,涙液中Sialyl-LewisX値の健常域を算出した.コントロール群における涙液中Sialyl-LewisX値の5パーセンタイル値は2.95kU/ml,95パーセンタイル値は26.46kU/mLであったため,3.0.26.5kU/mlを健常域に定めた(図2).VKC群のなかで,涙液中Sialyl-LewisX値が3.0kU/ml未満の症例を低値群,3.0kU/ml以上の症例を非低値群とした.VKC群12眼中,低値群は5眼,非低値群は7眼であった.VKCの巨大乳頭および1600あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(88)*35NS303526.46(95パーセンタイル値)涙液中sialyl-LewisX値(kU/ml)302520151050Sialyl-LewisX値(kU/ml)15健常域2520105ControlSSVKC図1Control群,SS群,VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値VKC群はコントロール群と比較して有意に低値を示した(*:p<0.05,Steel-Dwasstest).SS群では低値の症例と高値の症例が混在し,全体ではコントロール群と差がない(NS:notsigni.cant).落屑状SPKと涙液中Sialyl-LewisX値との関係は,表2に示した.巨大乳頭および落屑状SPKの有無を,「所見あり」と「所見なし」との2値変数に変換し2項ロジスティック回帰により検討した.結果は落屑状SPKでオッズ比24.0だったが,統計学的有意差はなかった.3.症例涙液中Sialyl-LewisX値が低値であり,落屑状SPKが存在したVKC群の代表症例を以下に示す.〔症例〕9歳,女児.現病歴:3年前からVKCのため,前医に通院していた.落屑状SPKを伴う角膜上皮障害による視力低下のため,当院へ紹介受診した.既往歴:アトピー性皮膚炎,気管支喘息.初診時所見:視力はVD=0.15(0.15×+2.00D),VS=0.4(矯正不能),眼圧はTd=16mmHg,Ts=8mmHgであった.初診時の前眼部所見は,両眼眼瞼結膜に粘稠性眼脂を伴う巨大乳頭がみられ,両眼角膜全面に落屑状SPKおよび角膜上方に血管侵入がみられた.右眼角膜にはSchield潰瘍がみられた(図3-a-1,3-a-2).経過:初診時から副腎皮質ステロイド(ステロイド)結膜下注射(ケナコルト-AR筋注用関節腔内用水懸注),ステロイド点眼薬(眼・耳鼻科用リンデロンR液0.1%),シクロスポリン点眼薬(パピロックミニR点眼液0.1%),抗アレルギー点眼薬(インタールRUD点眼液2%)による治療を開始した.治療開始後1週間で粘稠性眼脂と両眼角膜の落屑状SPK,右眼のSchield潰瘍は軽快したが,両眼角膜下方のSPKは残存した.治療開始後2週間目からは,自覚症状および他覚所見が軽快したため,シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬と(89)2.95(5パーセンタイル値)0図2コントロール群の涙液中Sialyl-LewisX値涙液中Sialyl-LewisX濃度の健常域は,コントロール群の5パーセンタイル値と95パーセンタイル値により算出した.表2VKC群における臨床所見と涙液中Sialyl-LewisX濃度Sialyl-LewisX(kU/ml)年齢(歳)性別落屑状SPK巨大乳頭低値群1.71.71.91.92.72414998MMFMF●●●●●●●●非低値群3.74.25.25.45.610.610.93013169273312MMMMMMM●●●●●●●SPK:super.cialpunctatekeratitis.●:所見あり,M:男性,F:女性.の2者併用療法により治療を継続した.8週後には巨大乳頭は扁平化し,角膜上皮障害は軽症化していた.(図3-b-1,3-b-2).2カ月半後,右眼に再燃がみられた,右眼の再燃時所見は,角膜に落屑状SPKがみられ,扁平化していた巨大乳頭は隆起した活動性巨大乳頭に変化していた.右眼にステロイド点眼薬とステロイド眼軟膏(サンテゾーンR眼軟膏0.05%)の追加投与を開始したが,ステロイド薬の追加投与後3週経過しても他覚所見はあまり改善しなかった.経過中に測定した涙液ECP値および涙液中Sialyl-LewisX値の測定結果を図4に示す.VKCの治療が開始されると徐々に涙液ECP値が減少しており,再燃時に再上昇していあたらしい眼科Vol.32,No.11,20151601右眼左眼a1a2100,00010,00010,0001,000涙液ECP値(ng/ml),sialyl-LewisX値(kU/ml)涙液ECP値(ng/ml),sialyl-LewisX値(kU/ml)1,00010010010b1b210110.10.1図3春季カタル代表症例の前眼部写真a-1・a-2:治療開始前の前眼部写真.活動性の巨大乳頭と落屑状SPKとがみられる.b-1・b-2:治療開始後8週間目の前眼部写真.巨大乳頭は扁平化し,角膜上皮障害は軽症化している.た.涙液中Sialyl-LewisX値の変化は,涙液ECP値に類似した動向を示した.III考按今回,非感染性炎症性結膜疾患において涙液中Sialyl-LewisX値を測定した.涙液中Sialyl-LewisX値は健常対照と比較して,Sjogren症候群は低値を示したが有意差はなく,VKCでは有意に低値を示した.すなわち,涙液Sialyl-LewisX値は,炎症性結膜疾患のなかでもアレルギー炎症により変化する因子であると考えられたため,VKC症例での検討を進めた.まず,VKC群12例をSialyl-LewisX低値群と非低値群で分け,5-5-5方式重症度観察スケールの他覚所見15項目の有無により,背景因子の検討を行った.低値群は,健常対照の測定値の5.95パーセンタイル値を健常域と設定し,健常域下限値未満の症例を低値群とした.低値群と非低値群との両群間で差がみられた他覚所見は落屑状SPKであった(有意差なし).落屑状SPKは低値群で多くみられ,非低値群では1例のみ陽性であった.落屑状SPKは,角膜所見によるVKCの重症例判定において中等症と判定される所見である.したがって,涙液Sialyl-LewisX値は,重症度が中等症以上のVKC症例で低値を示すと考えることができるが,落屑状SPKは急性増悪時にみられる臨床所見でもあることから,炎症の急性増悪期に涙液中Sialyl-LewisX値が低下する可能性も考えられた.VKCの治療に関して,軽症例では抗アレルギー点眼薬を使用し,重症例では副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制点眼薬を追加する必要があるとされ,重症度に応じて治療が異なる.したがって,涙液Sialyl-LewisX値がVKCの重症化判定因子として臨床応用図4春季カタル代表症例の涙液ECP値および涙液中Sialyl-LewisX値の経時的測定結果涙液ECP値は,治療により徐々に減少し,再燃時に再上昇した.涙液中Sialyl-LewisX値は経過を通して低値を示したが,涙液ECP値に類似した若干の変動を示した.■:涙液ECP値,□:涙液中Sialyl-LewisX値.できれば,薬剤の適正使用に関連する重要な検査項目になる可能性があると考えられた.ただし,今回の結果はオッズ比24.0であったが症例数が少ないため,統計学的有意差は得られておらず,今後症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.炎症性疾患とSialyl-LewisXとの関係を検討した既報では,血管内皮細胞に発現されたP-セレクチンおよびE-セレクチンに対する好中球やリンパ球に発現しているリガンドとして作用するとされている13).また,アレルギー性疾患においては,好酸球の関与するアレルギー炎症との関連が検討されている.Sagaraらは,気管支喘息モルモットモデルを用いて,Sialyl-LewisXanalogを投与することにより好酸球浸潤と遅発相が抑制されたとし,Sialyl-LewisXがアレルギー炎症における好酸球浸潤に関与することを報告している15).これらの報告では,Sialyl-LewisXを炎症細胞浸潤に関与する接着分子のリガンドとして注目しているが,粘膜組織で分泌されるムチンの糖鎖として生体防禦や炎症に関与することも検討されている.石橋らは,Sialyl-LewisXが分泌型ムチンであるMUC5ACの糖鎖として存在し,炎症性気道疾患では糖鎖の変化が細菌やウイルスに対する生体防禦反応に影響するとしている12).また,Colombらは,気道上皮細胞ではtumornecrosisfactor(TNF)がST3GAL4(ST3b-galactosidea.2,3-sialyltransferase4)を介してSialyl-LewisXの増加に関与すると報告している16).今回の涙液Sialyl-LewisX値はムチン型糖鎖を反映している可能性があると考えられるが,詳細についてはさらなる検討が必要である.涙液中Sialyl-LewisX値が低値であり,落屑状SPKが存1602あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(90)在したVKC群1症例による経過観察では,免疫抑制薬点眼治療により,症状が沈静化した8週後に涙液ECP値は低下し,症状が再燃した2カ月半後には再度上昇した.ECPは好酸球内特異顆粒中に含有される特異顆粒蛋白の一つである.好酸球が活性化すると脱顆粒により特異顆粒蛋白を放出し,アレルギー炎症による組織障害に関与するとされている.涙液ECP値はアレルギー性結膜疾患症例に対する抗原点眼誘発試験により,誘発後6時間以降,すなわち遅発相で有意に増加することが報告されている17).また,VKCに対する免疫抑制点眼薬による治療での治療効果判定として,シクロスポリン点眼薬治療例18)での涙液ECP値の検査結果が示され,重症度判定・薬剤の適正使用が可能となると考えられている.本症例では,アレルギー炎症の指標として用いた涙液ECP値と涙液Sialyl-LewisX値との関係を経時的に示した.涙液中Sialyl-LewisX値は経過を通して低値を示したが,涙液ECP値に類似した若干の変動を示した.重症VKCでは,経過中にMUC5ACの減少によるドライアイを合併する可能性が示されているため19),涙液Sialyl-LewisX値はムチン分泌の変化とともに再検討する必要があると考えられた.今回の検討ではSialyl-LewisXが涙液中に存在し,高度のアレルギー炎症により涙液中の含有量が変化すると考えられた.涙液Sialyl-LewisX値は,アレルギー炎症を評価するバイオマーカーのひとつとして有望であると考えられた.文献1)ShojiJ,KitazawaM,InadaNetal:E.cacyofteareosin-ophilcationicproteinlevelmeasurementusing.lterpaperfordiagnosingallergicconjunctivaldisorders.JpnJOph-thalmol47:64-68,20032)LonardiA,BorghesanF,FaggianDetal:Tearandserumsolubleleukocyteactivationmarkersinconjuncti-valallergicdiseases.AmJOphthalmol129:151-158,20003)MontanPG,vanHage-HamstenM:Eosinophilcationicproteinintearsinallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol80:556-560,19964)FujishimaH,TakeuchiT,ShinozakiNetal:Measure-mentofIL-4intearsofpatientswithseasonalallergicconjunctivitisandvernalkeratoconjunctivitis.ClinExpImmunol102:395-399,19955)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-g,interleukin(IL)-2,IL-4andIL-5inpatientswithvernalkeratoconjunctivitisandallergicconjunctivitis.ClinExpAllergy30:103-109,20006)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearso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