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東北大学病院における深層前部層状角膜移植の術後成績

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):545.548,2012c東北大学病院における深層前部層状角膜移植の術後成績針谷威寛*1,2横倉俊二*2植松恵*2目黒泰彦*2佐藤肇*1西田幸二*3中澤徹*2*1東北労災病院眼科*2東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野*3大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室PostoperativeResultsofDeepAnteriorLamellarKeratoplasty(DALK)atTohokuUniversityHospitalTakehiroHariya1,2),ShunjiYokokura2),MegumiUematsu2),YasuhikoMeguro2),HajimeSato1),KohjiNishida3)andToruNakazawa2)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:東北大学病院(以下,当院)にて深層前部層状角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)を施行した症例について術後成績と合併症について報告する.方法:対象は2006年3月から2009年8月までの期間に当院にてDALKを試みて3カ月以上経過観察できた連続症例48例49眼.平均観察期間は19.0±9.78カ月(3.37カ月),手術時平均年齢は56.4±18.4歳(20.80歳).疾患の内訳は,感染後角膜混濁20例20眼,円錐角膜14例14眼,角膜ジストロフィ9例10眼,翼状片術後角膜混濁1例1眼,原因不明角膜混濁4例4眼であった.術中Descemet膜穿孔率,術前術後の視力,角膜内皮細胞密度,合併症について検討した.結果:術中Descemet膜穿孔は49眼中12眼(24%)に生じ,11眼が術中に全層角膜移植術にコンバートした.つぎにDALK成功例38眼について解析した.透明治癒率は38眼中34眼(89%)であった.術前視力と比較して最終視力が改善したのが30眼(79%),不変が8眼(21%)であり,悪化した症例はなかった.角膜内皮細胞密度は術前平均が2,549±542/mm2,6カ月後で1,953±801/mm2,1年後で1,892±733/mm2であった.合併症では,一時的な眼圧上昇が8眼(21%),二重前房が3眼(8%)でみられた.結論:当院でのDALKの術後成績を報告した.これまでの報告とおおむね同程度の成績が得られており,有用な術式であると考えられる.Purpose:Toreportpostoperativeresultsandcomplicationswithdeepanteriorlamellarkeratoplasty(DALK)performedatTohokuUniversityHospital.Methods:Aretrospectivestudyof49consecutiveeyesof48patientsthattriedDALKbetweenMarch2006andAugust2009.Theaverageobservationperiodwas19.0±9.78months;averageagewas56.4±18.4years.Cornealopacitywasobservedafterinfectionin20eyes,keratoconusin14eyes,cornealdystrophyin10eyes,cornealopacitywasobservedaftersurgeryforpterygiumin1eyeandunknowncornealopacityin4eyes.Result:Descemet’smembraneruptureoccurredin12of49eyes(24%).WeperformedDALKin38of49eyes.Thegraftsurvivalratewas89%.Visualacuityimprovedin30eyes(79%),remainedunchangedin8eyes(21%)andworsenedinnone.Theaveragedensityofendothelialcellsatpre-operation,6monthafteroperationand1yearafteroperationwas2,549±542/mm2,1,953±801/mm2and1,892±733mm2,respectively.Elevationofintraocularpressureoccurredin8eyes(21%);doublechamberoccurredin3eyes(8%).Conclusions:Weachievedgoodresults,asinourotherreportonDALK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):545.548,2012〕Keywords:深層前部層状角膜移植,Descemet膜,hooking法,全層角膜移植術.deepanteriorlamellarkeratoplasty(DALK),Descemet’smembrane,hookingtechnique,penetratingkeratoplasty(PK).〔別刷請求先〕針谷威寛:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野Reprintrequests:TakehiroHariya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryoucho,Aoba-ku,Sendai980-8574,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)545 はじめに角膜移植は長い歴史があり,他の組織と比べると高い成功率を誇ることから,多くの症例で行われてきた.角膜を全層にわたって打ち抜いてドナー角膜を縫合する全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PK)は広く行われきたが,いくつかの問題点を抱えた術式である.一つは約20%で起こるといわれている拒絶反応で,そのほとんどは角膜内皮細胞に対するものである1,2).術中にopenskyの状態になるという問題もあり,術後の炎症などにより虹彩前癒着が起こり不可逆的な眼圧上昇を生じたり,拒絶反応を抑えるためステロイドを長期間使用せざるをえなく,そのためステロイド緑内障をきたすこともある3).近年,角膜の上皮,実質,内皮の悪い部分だけを移植する角膜パーツ移植という考えが広まってきた.この考え方に基づいた術式の一つとして,ホスト角膜のDescemet膜と角膜内皮細胞のみを残して,ドナー角膜を移植する深層前部層状角膜移植術(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)が近年行われるようになった4).たとえば,円錐角膜では,DALKはPKと同等の視力が得られるといわれ5),その一方で角膜内皮細胞はレシピエント由来のものであるため,内皮型拒絶反応が起こりえない.術後の炎症も少ないため,早期にステロイドを離脱することが可能であるなどさまざまな利点がある3,6).しかし,Descemet膜と角膜内皮を合わせても厚さがせいぜい15.20μm程度の薄い膜であり,角膜をDescemet膜に至るまで深く削って切除し,そこにドナー角膜を載せるという手技は非常にむずかしい.術中Descemet膜穿孔率も10.30%といわれていて,決して低いとはいえない4,7,8).そのため,Descemet膜を露出するためのさまざまなアプローチの方法が考案され,治療成績の向上が図られている8.10).今回,筆者らは東北大学病院(以下,当院)にてDALKを施行された症例の術後の成績,合併症の種類や頻度について報告する.I対象および方法2006年4月から2009年8月までの間に,光学的手術を目的にDALKを試み,術後3カ月以上の経過観察が可能であった連続症例48例49眼を解析対象とした.平均観察期間は19.0±9.78(3.37)カ月,男女比は29例:19例,手術時平均年齢は56.4±18.4(20.80)歳であった.麻酔方法としては全身麻酔にて行ったのが5例5眼,局所麻酔にて行ったのが44例44眼であった.なお,女性の1例は両眼を手術されており,片眼を全身麻酔下にて,もう片眼を局所麻酔下にて行った.同時手術として,水晶体再建術を5例5眼,角膜輪部移植術を2例2眼に行った.術後経過中に,水晶体再建術を2例2眼に,YAGレーザーによる後発白内障手術546あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012翼状片術後角膜混濁,1感染後角膜混濁,20角膜ジストロフィ・格子状9眼・斑状1眼・アカントアメーバ1眼・不明1眼図1対象疾患を1例1眼に行った.対象疾患としては,感染後角膜混濁が20例20眼,円錐角膜は14例14眼,角膜ジストロフィ9例10眼,翼状片術後角膜混濁1例1眼,原因不明角膜混濁4例4眼であった.内訳としては,感染後角膜混濁のうち,角膜実質炎後9例9眼,ヘルペス後6例6眼,トラコーマ後2例2眼,麻疹後1例1眼,アカントアメーバ後1例1眼,原因菌不明1例1眼であった.角膜ジストロフィのうち,格子状角膜ジストロフィ8例9眼,斑状角膜ジストロフィ1例1眼であった(図1).DALKの術式としては,当初はhydro-delamination法を用いた.ゴルフ刀を用いて角膜に切れ込みを入れて,角膜層間に27ゲージハイドロ針などを用いて人工房水(BSSPLUSR)を注入し,角膜実質を混濁・膨化させ,これを目安に深部実質を切除していく方法である.その後はhooking法を用いて手術を行った11).これは2008年にYaoらによって提唱された術式であり,当院ではこれを一部改良して用いた.厚さ4分の3程度の角膜実質トレパンおよびゴルフ刀を用いて切除し,ボン大学式虹彩有鈎鑷子の先をhookのように使い角膜実質線維をより分けてDescemet膜を露出させ,ポケットを作製する.そこから前田式DLKスパーテルRを挿入してトンネル状に実質をDescemet膜から引き.がし,そこに粘弾性物質(ヒーロンVR)を注入して移植予定部位全体の角膜実質とDescemet膜を分離し,実質を剪刃で除去するという方法である.当院でのステロイド使用のプロトコールとして,リン酸ベタメタゾン10mg/日を術当日から点滴で3日間,その後内服で1カ月程度を目安に漸減中止している.リン酸ベタメタゾン点眼4回/日を術翌日から3カ月程度を目安に,0.1%フ(112)円錐角膜,14角膜ジストロフィ,10不明,4感染後角膜混濁・角膜実質炎9眼・ヘルペス6眼・トラコーマ2眼・麻疹1眼 ルオメトロン点眼4回/日に変更し使用し続けている.状況により適宜,コハク酸メチルプレドニゾロン点滴を追加したり,リン酸ベタメタゾン軟膏を使用している.基本的にDALKとPKによってプロトコールを変えてはいない.統計学的解析は,Fisher検定,およびMann-WhitneyU検定を用いて,p値が0.05未満を有意とした.II結果DALKを試みた全症例49眼のうち,術中Descemet膜穿孔は12眼(24%)に起こった.1眼については小穿孔であったため,そのままDALKを完遂した.その他11眼はPKにコンバートした.2007年12月までhydro-delamination法を用いて,2008年1月からhooking法を用いてDALKを行ったが,Descemet膜穿孔は前者が27眼中6眼(22%),後者が22眼中6眼(27%)と術式の変更にて穿孔率を下げる0.5000.511.522.5術後最終視力図3術前視力vs術後最終視力21.51術前視力結果ではなかった.両者に統計学的には有意差はなかった(Fisher検定p=0.76).つぎにDALK成功例37例38眼に対して,角膜透明治癒率,術後logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,術後角膜内皮細胞密度の変化について解析した.移植された角膜の透明治癒率は,38眼中34眼(89%)であった.角膜透明性を維持できなかった4眼の詳細につき以下に述べる.原因菌不明の感染後角膜混濁1眼は術後にカンジダによる角膜感染症を起こした.トラコーマ感染後の角膜混濁1眼は術後カンジダによる角膜感染を起こした.角膜実質炎後の角膜混濁1眼は術後に外傷のため前房が消失し内皮機能不全に至り,移植片拒絶反応をきたしたためPKを行った.円錐角膜1眼は術後に上皮型移植片拒絶反応を起こし保存加療を行った.術前の視力に比べて,術後の最終視力がlogMAR視力に換算して2段階以上視力が改善したのは30眼(79%),不変が8眼(21%)であり,2段階以上悪化した症例はなかった(図2,3).なお,小数視力で指数弁を0.004,手動弁を0.002,4,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0005000角膜内皮細胞密度(/mm2)n=12n=19n=22n=13n=20**術前1M3M6M1Y光覚弁を0.001とした.角膜内皮細胞密度は,術前2,549±542/mm2(n=19),術1カ月後2,378±981/mm2(n=12),術3カ月後2,352±761/mm2(n=13),術6カ月後1,953±801/mm2(n=22),術1年後1,892±733/mm2(n=20)であった(図4).術前の角膜内皮細胞密度と比べて,6カ月後と1年後の時点で有意に角膜内皮細胞密度が減少した(Mann-WhitneyU検定それぞれp=0.01,p=0.003).合併症として,22mmHg以上の眼圧上昇は38眼中8眼(21%)に起こった.いずれも一時的なものであったか,もしくは緑内障点眼により1カ月程度で正常化した.二重前房は38眼中3眼(8%)に起こった.2眼は自然軽快したが,1眼は自然軽快せずに,前房内に空気を注入し軽快した.0%20%40%60%80%100%1Mn=383Mn=386Mn=341Yn=262Yn=14■:改善■:不変■:悪化図2術後視力の変化32.5図4角膜内細胞密度*p<0.05.III考察DALKの術後の眼圧についてHanらによると,PK群では10%に緑内障手術が必要であったが,DALK群では緑内障手術が必要な症例はなかったとのことであった12).当院でも21%に術後眼圧上昇がみられたが,いずれも一時的なものか,もしくは保存的にコントロールが可能であり,緑内障手術が必要であった症例はなかった.術後の二重前房はほとんどが自然軽快したが,前房内空気注入が必要であった症例もあり,初回手術時に二重前房がみられた場合は,前房内に(113)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012547 空気を入れて手術を終了することで,術後二重前房の出現を抑えることができるかもしれないと考えられた.当院でのDescemet膜の穿孔率は49眼中12眼で24%であった.他施設の報告によると,Sugitaらはhydro-delamination法を用いてDescemet膜穿孔した症例は120眼中47眼で穿孔率は39.2%であった4).Mellesらは鏡面法を用いて7眼中1眼で14.3%7),Shimazakiらはhydro-delamination法を用いて11眼中2眼で18.2%13),Anwarらはbig-bubble法を用いて186眼中16眼で9%8),Senooらは妹尾法を用いて22眼中5眼で23%9),Leccisottiらはbig-bubble法を用いて35眼中8眼で23%10),Yaoらはhooking法を用いて172眼中20眼で11.6%11)であった.当院での成績はこれらと比べても大差はなかった.また,術式の選択によってDescemet膜の穿孔率を下げることはできなかったが,生理食塩液の注入のみで実質とDescemet膜を選り分けていくhydro-delamination法に比べて,hooking法ではDescemet膜の露出と粘弾性物質による実質・Descemet膜間の.離は比較的容易であると考えられる.術前視力と術後最終視力を比べるとほとんどの症例で改善もしくは不変であり,2段階以上悪化した症例はなかった.角膜内皮細胞密度は術前に比べて有意に減少した.6カ月以降では角膜内皮細胞の減少率が緩やかになっていく可能性がある.杉田らの報告によるとDALKでは手術操作がDescemet膜まで及ぶからか,表層角膜移植などと比べると角膜細胞密度は減少しているという14).ShimmuraらによるとDescemet膜と角膜実質を.離する際に,粘弾性物質が残存することで角膜内皮細胞を保護する作用があるとしている15).いずれにしても,DALKではPKに比べて角膜内皮細胞の減少が緩やかであり,内皮機能不全による再移植の可能性を大幅に減らすことが可能であると考えられる.IV結論当院でのDALKの術後成績を報告した.これまでの報告とおおむね同程度の成績が得られており,有用な術式であると考えられる.文献1)BrieflySC,IzquierdoLJr,MannisMJ:Penetratingkeratoplastyforkeratoconus.Cornea19:329-332,20002)KirknessCM,FickerLA,SteeleADetal:Thesuccessofpenetratingkeratoplastyforkeratoconus.Eye4:(Pt5)673-688,19903)ShimmuraS,TsubotaK:Deepanteriorlamellarkeratoplasty.CurrOpinOphthalmol17:349-355,20064)SugitaJ,KondoJ:Deeplamellarkeratoplastywithcompleteremovalofpathologicalstromaforvisionimprovement.BrJOphthalmol81:184-188,19975)CohenAW,GoinsKM,SutpinJEetal:Penetratingkeratoplastyversusdeeplamellarkeratoplastyforthetreatmentofkeratoconus.IntOphthalmol30:675-681,20106)WilliamJR,DavidCM,DeborahSJetal:Deepanteriorlamellarkeratoplastyasanalternativetopenetratingkeratoplasty.Ophthalmology118:209-218,20117)MellesGR,LanderF,vanDoorenBTetal:Anewsurgicaltechniquefordeepstromal,anteriorlamellarkeratoplasty.BrJOphthalmol83:327-333,19998)AnwarM,TeichmannK:Big-bubbletechniquetobareDescemet’smembraneinanteriorlamellarkeratoplasty.JCataractRefractSurg28:398-403,20029)SenooT,ChibaK,TeradaOetal:Deeplamellarkeratoplastybydeepparenchymadetachmentfromthecorneallimbus.BrJOphthalmol89:1597-1600,200510)LeccisottiA:Descemet’smembraneperforationduringdeepanteriorlamellarkeratoplasty:Progress.JCataractRefractSurg33:825-829,200711)YaoYF:Anoveltechniqueforperformingfull-beddeeplamellarkeratoplasty.Cornea27:19-24,200812)HanDC,MehtaJS,PorYMetal:Comparisonofoutcomesoflamellarkeratoplastyandpenetratingketatoplastyinkeratoconus.AmJOphthalmol148:629-631,200913)ShimazakiJ,ShimmuraS,IshiokaMetal:Randomizedclinicaltrialofdeeplamellarkeratoplastyvspenetratingkeratoplasty.AmJOphthalmol134:159-165,200214)杉田潤太郎,近藤順子:表層角膜移植と深層角膜移植.眼紀45:1-3,199415)ShimmuraS,ShimazakiJ,OtomoMetal:Deeplamellarkeratoplasty(DLKP)inkeratoconuspatientsusingviscoadaptiveviscoelastics.Cornea24:178-181,2005***548あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(114)