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タフルプロスト片眼トライアルによる短期眼圧下降効果

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)967《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):967.969,2010cはじめにタフルプロストは平成20年12月に発売されたわが国における第3のプロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)である.眼圧下降に関与するプロスタノイドFP受容体に高い親和性をもつPGF2a誘導体のなかから,15位に2つのフッ素を導入し,活性増強,選択性向上,安定性向上,薬物動態の改善を目的とし開発された.FP受容体へのフルアゴニストであり,その親和性の高さにより正常眼圧緑内障においても眼圧下降効果が臨床試験において証明されている.今回,新規緑内障患者にタフルプロスト片眼投与を行い,その眼圧下降効果および副作用の発現頻度を検討したので報告する.I対象および方法平成21年1月.4月までに弘前大学医学部附属病院眼科(以下,当科)で緑内障および高眼圧症と診断した新規患者39例(平均年齢68.5±11.1歳,男性8例,女性31例)を対象とした.病型の内訳は高眼圧症(ocularhypertension:OH)2眼(5.2%),狭義原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma,以下,狭義POAG)7眼(17.9%),正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)30眼(76.9%)である.初診時から眼圧ベースラインを1週間ごとに3回測〔別刷請求先〕宮川靖博:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprintrequests:YasuhiroMiyagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HirosakiUniversityGraduateSchoolofMedicine,5Zaifucho,Hirosaki-shi036-8562,JAPANタフルプロスト片眼トライアルによる短期眼圧下降効果宮川靖博山崎仁志中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Short-TermEfficacyofTafluprostMonotherapyforUntreatedGlaucomaYasuhiroMiyagawa,HitoshiYamazakiandMitsuruNakazawaDepartmentofOphthalmology,HirosakiUniversityGraduateSchoolofMedicine新規緑内障患者にタフルプロスト片眼投与を行い,その眼圧下降効果を検討した.対象は新規の狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)7眼,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)30眼および高眼圧症(ocularhypertension)2眼の全39眼である.眼圧ベースラインを3回測定後,治療期12週まで4週おきに眼圧を測定した.治療眼全体で治療期12週の眼圧変化値は.3.2±2.9mmHgで,治療期0週と比し有意に下降した(p<0.001).眼圧下降率が30%以上であった症例は12.8%,20%以上であった症例は51.3%と,NTG眼が多数であったため低かったが,ラタノプロストで調査した既報に比し,眼圧15mmHg以下のlow-teenNTG群において,眼圧変化値は.2.3±1.1mmHg(p<0.001),30%以上下降は14.3%,20%以上下降は50.0%と良好な結果を示した.タフルプロストはNTG症例においても第一選択薬になりうる薬剤である.Weevaluatedthehypotensiveeffectoftafluprostmonotherapyin39casesofuntreatedglaucoma.Theseriescomprised2eyeswithocularhypertension(OH),7eyeswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and30eyeswithnormal-tensionglaucoma(NTG).At12weeksoftreatment,meanintraocularpressure(IOP)reductionfrombaselinewas3.2±2.9mmHginalltreatedeyes.IOPreductionby30%ormorewasachievedin12.8%ofallpatients,by20%ormorein51.3%.SinceNTGeyescomprisedthemajority,thisresultwaspoor,butcomparedwithpreviousreportsinvestigatinglatanoprost,tafluprostachievedgoodresultsinthelow-teenNTGgroup,i.e.,2.3±1.1mmHgIOPreduction,withIOPreductionby30%ormorein14.3%,andby20%ormorein50.0%.Thesefindingsshowthattafluprostmaybeeffectiveforuntreatedlow-teenNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):967.969,2010〕Keywords:タフルプロスト,片眼トライアル,正常眼圧緑内障.tafluprost,monotherapy,normal-tensionglaucoma.968あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(108)定後,緑内障診療ガイドラインが推奨する片眼トライアルを採用した.視野がより進行している眼を治療眼としタフルプロスト点眼を開始し,4週おきに治療期12週まで眼圧を測定した.OH症例は眼圧が高い眼を治療眼とした(有意差はなし).左右の眼圧に有意差がある症例,過去1年以内に内眼手術の既往がある症例は除外した.眼圧は全例同一検者がGoldmann接触型眼圧計を用い,患者ごとに午前中のほぼ同時刻に測定した.なお,統計学的手法はベースライン眼圧の左右差にはStudentt-testを,全治療眼と対照眼の眼圧変化値および各病期のベースライン眼圧と治療期眼圧の差にはpairedt-testを用いた.II結果眼圧ベースラインは各病型で左右の眼圧に有意差がないことを確認した(表1).全治療眼と対照眼の眼圧変化値を図1に示した.各治療期で眼圧変化値は治療期0週と比し有意に下降した(p<0.001).なお,最終治療期である12週の眼圧変化値は.3.2±2.9mmHgであった.対照眼は各治療期で治療期0週と比し有意差はなかった.治療眼全体の治療期12週での眼圧下降率は19.9±9.4%,眼圧下降率が30%以上であった症例は12.8%,20%以上であった症例は51.3%であった.病型別での眼圧変化はいずれの病型でもすべての病期で有意に眼圧が下降した(図2).病型別の眼圧変化値,眼圧下降率,30%以上下降,20%以上下降はそれぞれ,OH+POAG群で.4.9±2.8mmHg(p<0.01),24.1%,33.3%,55.6%,NTG群で.2.7±1.7mmHg(p<0.001),18.6%,6.7%,50.0%.さらに眼圧15mmHg未満のlow-teenNTG群(14眼)で.2.3±1.1mmHg(p<0.001),18.4%,14.3%,50.0%であった(表2).眼圧下降率がベースライン眼圧から10%未満の場合をノンレスポンダーと定義した場合,ノンレスポンダーは4例(10.5%)であった.副作用発現率は38.5%で,重複例を含め,充血30.1%,眼瞼発赤15.4%,睫毛増多12.8%,掻痒感7.7%の順に多かったが,角膜上皮障害は今回の対象眼ではみられなかった.充血を生じた症例も点眼継続により33.3%において軽減していき,副作用により点眼継続が不能になった症例はいなかった.III考察わが国では10年前に最初のPG関連薬であるラタノプロ210-1-2-3-4-5-60眼圧変化値(mmHg)治療期間(週)4812:治療眼NSNSNS:対照眼***図1全症例の眼圧変化値治療期12週で治療眼.3.2±2.9mmHg,対照眼.0.9±3.0mmHgであった.*p<0.001.:POAG+OH:NTG:Low-teenNTG***************2520151050048治療期間(週)眼圧変化値(mmHg)12図2治療眼の病型別眼圧変化値*p<0.01,**p<0.001.表2病型別の眼圧変化値,眼圧下降率,30%以上下降率,20%以上下降率眼圧変化値(mmHg)眼圧下降率30%以上下降20%以上下降全体(n=39).3.2±2.9(p<0.001)19.9%12.8%51.3%OH+狭義POAG群(n=9).4.9±2.8(p<0.01)24.1%33.3%55.6%NTG群(n=30).2.7±1.7(p<0.001)18.6%6.7%50.0%Low-teenNTG群(n=14).2.3±1.1(p<0.001)18.4%14.3%50.0%OHは症例数が少ないためPOAG群と合併.表1治療眼と対照眼の眼圧ベースライン値眼圧ベースライン治療眼対照眼全体(n=39)16.5±3.016.3±3.2OH+狭義POAG群(n=9)22.7±1.822.4±3.2NTG群(n=30)15.2±1.815.1±1.9Low-teenNTG群(n=14)13.6±1.013.6±1.2(mmHg)NS全体および各病型でベースライン眼圧に有意差はない.(109)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010969ストが発売され,その強力な眼圧下降作用から,今日ではPG関連薬が緑内障治療の第一選択薬として使用されてきている.近年,ベンザルコニウム塩化物を含有しないトラボプロスト,薬剤安定性が向上したタフルプロスト,また両者に共通してFP受容体への親和性向上といった,さらに付加価値のついたPG関連薬が立て続けに発売され,われわれ眼科医にとっては治療の選択肢の幅が広がった.タフルプロストはFP受容体への親和性がラタノプロストの12倍1)とされているが,市販後の眼圧下降効果および副作用発現率は報告がない.本研究の狭義POAGおよびOH群の眼圧下降率は,同じ対象群で調査した第III相検証的試験2)の結果(治療期4週で.27.6±9.6%)より低かった.これは今回の調査では,既存のPG関連薬との比較を行っておらず,狭義POAG+OH群の症例数が少なかったためと考えられる.CollaborativeNTGStudyGroupの報告3,4)によると,NTG患者では眼圧下降率30%以上を達成することが視野進行の防止に重要であるとしているが,今回NTG群で,30%下降は6.7%にとどまる結果となった.対象となったNTG群の眼圧ベースラインが15.2±1.8mmHgと低めであったこと,さらに眼圧15mmHg未満のlow-teenNTGがNTG群の47%を占めていたことが原因であり,NTG患者で30%以上の眼圧下降を達成するのは困難である.ぶどう膜強膜流出路を増加させても,上強膜静脈圧を下回ることはできないという薬物療法の限界を示唆する結果であった.しかし,20%以上の眼圧下降の割合は病型を問わず50%程度得られたことは,日本人の新規NTG患者にラタノプロストを単独投与した既報5,6)(表3)での眼圧15未満のNTGの眼圧下降率は低かったことから,FP受容体への親和性の差によるタフルプロストの眼圧下降効果かもしれない.副作用発現率に関して,眼局所以外のものは問診による確認しか行っていないが,明らかな有害事象はなく,眼局所の副作用は第III相検証的試験2)の結果とほぼ同等であり,ラタノプロストの副作用発現率よりやや低かったため安全に使用できる薬剤と考えられる.動物実験の報告,および今回の調査におけるNTG患者の眼圧を有意に下降させた結果と併せNTGへの有効性が期待されるが,タフルプロストを第一選択薬として処方するのは①眼圧15未満のlow-teenNTG患者,②携帯することを希望する患者(常温保存可能であるため)がより有効と考えられる.文献1)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20042)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20083)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20036)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,2003***表3新規NTG患者にラタノプロストを単独投与した既報眼圧下降幅30%以上下降岩田らLow-teenNTG.1.3mmHg5.6%15より高いNTG.3.3mmHg24%(あたらしい眼科20,2003)5)眼圧下降率椿井らLow-teenNTG3.6~9.4%(有意差なし)15より高いNTG15.0~18.8%(有意差あり)(あたらしい眼科20,2003)6)ラタノプロストでは眼圧15未満のNTGの眼圧下降率は低い.