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県立静岡がんセンターにおけるアイバンクの現状と取り組み

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1655.1657,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1655.1657,2011c柏木広哉*1大坂嶽*2小熊由美*3穂積雅子*4堀田喜裕*4*1県立静岡がんセンター眼科*2県立静岡がんセンター緩和医療科*3県立静岡がんセンター看護部*4公益財団法人静岡県アイバンクPresentSituationandActionsofEyeBankinPrefecturalShizuokaCancerCenterHiroyaKashiwagi1),IwaoOsaka2),YumiOguma3),MasakoHozumi4)andYoshihiroHotta4)1)DivisionofOphthalmology,ShizuokaCancerCenter,2)DivisionofPalliativeMedicine,ShizuokaCancerCenter,3)DivisionofNurse,ShizuokaCancerCenter,4)ShizuokaEyeBankわが国におけるアイバンクの眼球摘出に関しての現状報告はほとんどない.今回,県立静岡がんセンターにおけるアイバンクの眼球摘出の取り組みについて報告する.症例は,2002年9月から2010年3月までの7年7カ月間の33例で,男性24例,女性9例であった.年齢は37歳から94歳で,平均年齢は67.0歳であった.摘出までの時間は,0.7から8.9時間で平均時間2.6時間であった.眼球摘出時の採血は,鎖骨下静脈から行っているが,1例のみ鼠径部静脈から行った.摘出時の合併症は,出血が2例3眼あった.そのうち1例2眼では,摘出後の止血に大変苦慮した.TherearefewreportsregardingtheenucleationprocessemployedinJapaneseeyebanks.Inthispaper,wereportontheenucleationtechniqueusedintheeyebankintheShizuokaCancerCenter,whereenucleationwasperformedin33individuals(24males,9females)betweenSeptember2002andMarch2010(91months).Averageageoftheindividualswas67.0years(range:37.94years).Enucleationtimerangedfrom0.7to8.9hours(averagetime:2.6hours).Bloodwasdrawnfromasubclavianveininallcasesexceptone(agroinvein).Asforcomplicationsatthetimeofextraction,3eyes(2cases)sufferedbleeding.Severebleedingafterenucleationwasobservedin2ofthoseeyes(onecase).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1655.1657,2011〕Keywords:県立静岡がんセンター,静岡アイバンク,眼球摘出,出血,献眼者.ShizuokaCancerCenter,ShizuokaEyeBank,enucleation,bleeding,donor.はじめに静岡アイバンクの献眼者数は2008年度162件,2009年度121件と,日本で1,2位を争う献眼数である.県内での摘出担当医は地区によって当番制になっている.摘出眼球は,摘出場所により順天堂静岡病院(伊豆の国市),静岡県立総合病院(静岡市),浜松医科大学(浜松市)に移送され,強角膜切片が作製される.県立静岡がんセンター(以下,本院)は静岡県東部(三島)に位置し,病床数は535床で,眼科常勤医は筆者(H.K.)1名のみである.献眼数の特に多い地域のがんセンターとして,どのようにアイバンクの活動を行っていくのか苦慮するところである.今回,2002年9月の本院開院時から2010年3月までの7年7カ月間で,筆者(H.K.)が院内で眼球摘出した33例について,後ろ向きに検討して若干の知見を得たので報告する.I対象および方法2002年9月の本院開院時から2010年3月までの7年7カ月間に筆者(H.K.)が院内で眼球摘出した33例を対象とした.本院での眼球摘出の方法について述べる.無影灯,サイドテーブルを準備.ベット頭部の柵をはずし壁とのスペースを開け,高さを上げておく.合掌,採血が必要な場合は鎖骨下静脈から採血,合掌,孔布をかけ,右眼に開瞼器をかけて輪部球結膜を全周切開する.4直筋を切断(外直筋をやや長く眼球側に残す),斜筋を切断.外直筋にモスキートペアンをかけ,眼球を内転し視神経剪刃で視神経を切断する.摘出〔別刷請求先〕柏木広哉:〒411-8777静岡県駿東郡長泉町下長窪1007県立静岡がんセンター眼科Reprintrequests:HiroyaKashiwagi,DivisionofOphthalmology,ShizuokaCancerCenter,1007Shimonagakubo,Nagaizumicho,Sunto-gun,Shizuoka-ken411-8777,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)1655 した眼球は眼球保存容器に入れ,無防腐剤の抗菌点眼薬を適下する.眼窩部をガーゼで数分圧迫の後,脱脂綿を挿入し義眼を挿入する.つぎに左眼を同様に処置する.最後に両眼上下眼瞼に5-0黒ナイロン糸をかけ閉瞼する(縫合は1,2針).担当看護師による顔部の確認,遺族による顔部の確認を得てから合掌する.器具類を片付ける,採血管,眼球容器を病棟の冷蔵庫に保管する.摘出報告書の記入,静岡県アイバンクに電話連絡を行う.採血管は検査会社SRL担当者が,眼球は移送ボランティアに渡す.事前に感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応),RPR(梅毒定性検査)〕がチェックされていない場合には鎖骨下静脈から採血を施行する.した眼球は眼球保存容器に入れ,無防腐剤の抗菌点眼薬を適下する.眼窩部をガーゼで数分圧迫の後,脱脂綿を挿入し義眼を挿入する.つぎに左眼を同様に処置する.最後に両眼上下眼瞼に5-0黒ナイロン糸をかけ閉瞼する(縫合は1,2針).担当看護師による顔部の確認,遺族による顔部の確認を得てから合掌する.器具類を片付ける,採血管,眼球容器を病棟の冷蔵庫に保管する.摘出報告書の記入,静岡県アイバンクに電話連絡を行う.採血管は検査会社SRL担当者が,眼球は移送ボランティアに渡す.事前に感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応),RPR(梅毒定性検査)〕がチェックされていない場合には鎖骨下静脈から採血を施行する.は37歳から94歳で,60代から80代が多く,平均年齢は67.0歳であった(図1).原疾患は肺癌9例,胃癌7例,大腸癌4例,膵臓癌2例,その他11例(表1)であった.摘出場所は,緩和病棟18例,一般病棟15例(1例は救急外来から一般病棟に移送している).アイバンクの登録が事前確認されていたのが17例,未確認だったのは16例であった.年度別摘出数は2.7件で(図2),摘出は平日21例,休日10例,時間帯は深夜から朝が11例,日中が14例,夕方から深夜が8例であった(図3).摘出までの時間は0.7から8.9時間で平均2.6時間であった(図4).遺族の顔部の修正依頼は3例であった.それぞれ,「眼瞼10987献眼者数6献眼者は,男性24例,女性9例と男性が多かった.年齢543210020022003200420052006200720082009918:男性:女性76献眼者数図2県立静岡がんセンター眼科における年度別献眼者数54316142121男性:女性=26:8,平均年齢:67.0歳.42表1疾患別献眼者の内訳00時~9時9時~17時17時~24時原因疾患男性女性計図3県立静岡がんセンター眼科における摘出時間帯と摘出数肺癌819胃癌61714大腸癌31413膵臓癌11212食道癌1011110十二指腸癌101910860摘出数30代40代50代60代70代80代90代図1年齢別献眼者数8摘出数胆.癌1017尿管癌1016後腹壁癌1015中咽頭癌1014乳癌01123卵巣癌0111皮膚悪性黒色腫01100~11~22~33~44~55~66~77~88~9口腔底癌011時間時間時間時間時間時間時間時間時間頬粘膜癌011図4県立静岡がんセンターにおける眼球摘出までの時間計24933平均時間2時間38分.1656あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(144) をきつく閉瞼して欲しい」,「両眼を薄目を開けるようにして欲しい」,「上眼瞼のふくらみを出して欲しい」という要望があった.修正後に3例すべてで了承を得られた.1例のみ鎖骨下から採血不可能なことがあり,鼠径部から施行した.眼球摘出後の出血は,2例3眼に認められた.1眼は眼球摘出後に片眼に少量の出血を認めたが,圧迫で止血した.もう1例(2眼)は,病状が急変し外来に搬送され,救急処置室で死亡した症例である.処置は病室に移送し30分後に行った.摘出時にはまったく出血がなく,ご家族による顔部の確認の後,体位移動の際に両眼から大出血した.10分以上の圧迫で止血を確認し,再度義眼を挿入したが,体位移動時に再出血した.左眼は視神経が確認できたため,眼動脈を3-0絹糸で縫合した.右眼はさらに数時間の圧迫止血後酸化セルロース(可吸収性創腔充.止血薬:サージセルをきつく閉瞼して欲しい」,「両眼を薄目を開けるようにして欲しい」,「上眼瞼のふくらみを出して欲しい」という要望があった.修正後に3例すべてで了承を得られた.1例のみ鎖骨下から採血不可能なことがあり,鼠径部から施行した.眼球摘出後の出血は,2例3眼に認められた.1眼は眼球摘出後に片眼に少量の出血を認めたが,圧迫で止血した.もう1例(2眼)は,病状が急変し外来に搬送され,救急処置室で死亡した症例である.処置は病室に移送し30分後に行った.摘出時にはまったく出血がなく,ご家族による顔部の確認の後,体位移動の際に両眼から大出血した.10分以上の圧迫で止血を確認し,再度義眼を挿入したが,体位移動時に再出血した.左眼は視神経が確認できたため,眼動脈を3-0絹糸で縫合した.右眼はさらに数時間の圧迫止血後酸化セルロース(可吸収性創腔充.止血薬:サージセル)を挿入して,その上に脱脂綿,義眼を挿入してようやく止血した.III考按アイバンクの眼球摘出についての現状報告は少ない1,2).男性に多い傾向,眼球提供者の年齢分布,9時から17時の時間帯に摘出が多い結果は,過去の報告とよく一致していた.摘出までの時間が短いのは,院内で摘出することによると考える.眼処置中の問題点として,摘出前の採血部位の選択,摘出後の眼瞼などの状態,眼球摘出術中や,術後の出血などがあげられる.摘出前の採血では,鎖骨下静脈が無理な場合が1例あり,鼠径部静脈を選択した.心臓から採血という方法はあるものの,出血汚染の危険性や遺体の尊厳などを考えると,どうしても鼠径部が無理な場合の最終段階として心臓を選択すべきと考えた.遺族が処置後の眼部に違和感をもつことは大きな問題の一つであり,最善の注意が必要である.3例修正の要望があった後,担当看護師に確認し,眼部の状態(特に眼瞼部のふくらみ)が生前と異なっていないかを確認している.今回の検討では,眼球摘出後の大出血を1例経験して大変苦慮した.この症例は,全身に数カ所出血斑があり,Disseminatedintravascularcoagulation(DIC)を起こしていた可能性が否定できない.視神経が発見できるならば眼動脈の結紮が有効であるが,発見不可能な場合には,酸化セルロースの挿入が有効なこともある.出血が多い場合,眼瞼浮腫や皮下出血などにより顔面の状態が変化し3),遺族および摘出医師に少なからず心痛を加える原因にもなる.眼球摘出を行わないマイクロケラトロンの導入も今後検討すべき点かもしれない.その他の問題点として,突然にアイバンク登録が判明した場合,眼科診療,病棟業務などに混乱が生じることがある.そのためにDNR(DoNotResuscitate:積極的延命処置を行わない)を承諾の際,アイバンク登録の有無を確認することの是非の検討がなされたが,遺族の対応もさまざまであるという観点から見送りとなっている.アイバンクでは啓蒙活動が重要である1)ため,院内での講演会や勉強会を行っている.さらに,ドナー発生時の対応マニュアルを看護師長と作成し,電子カルテに登用して情報を広めている.本院は他県出身者も多いので情報提供は有効であると考えている.また,献眼希望者に対しては,本院のよろず相談窓口でもアイバンクのパンフレットをお渡ししている.こうした取り組みは一方で,患者遺族の理解を深め,献眼時のトラブル防止につながる可能性があると考えている.わが国では献眼者の多いアイバンクや,病院は少なくないが,たった一人の常勤医がこれだけ多数の眼球摘出に携わることはあまりない.澤2)は,眼球摘出と眼科医の労働条件の問題点を指摘している.本院のような一人体制での眼球摘出は,肉体的,精神的,時間的にかなり厳しい.手術,学会などが原因で,どうしても対応ができない症例は,今回の対象に含めなかったが4例あった.こうした場合には,近隣の医師の協力を得た(沼津市立病院2回,順天堂静岡病院1回,開業医1回.静岡県では眼科常勤医がいる病院で献眼者が出た場合には,その医師が眼球摘出を担当することになっており,開業医も当番制で対応している).時として長時間の手術中に呼び出された場合には,待たせる側,待たされる側にかなりのストレスとなる.献眼者数が有数の静岡県にある,数少ないがんセンター眼科という特異な環境で,アイバンクの眼球摘出をトラブルなく行うために,院内の関連部署および静岡県アイバンク協会と連携していきたい.この報告は第34回角膜カンファレンス(仙台)でポスター発表した.文献1)村上晶,小野浩一:順天堂アイバンクにおける献眼状況の分析.順天堂医学50:380-382,20002)澤充:アイバンク活動の現状と展望.日本の眼科77:11-14,20063)篠崎尚史,浅水健志:アイバンクへの提供角膜に対するリスク管理について教えてください.あたらしい眼科22(臨増):83-85,2005***(145)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111657