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看護師による涙管通水検査の正確性と安全性

2019年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(3):415.417,2019c看護師による涙管通水検査の正確性と安全性頓宮真紀*1松村望*2加藤祐司*3高橋寧子*4松本雄二郎*1加治優一*1宮崎千歌*5*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター*3札幌かとう眼科*4東京慈恵会医科大学付属病院眼科*5兵庫県立尼崎総合医療センターCAccuracyandSafetyofLacrimalIrrigationTestingConductedbyNursesMakiHayami1),NozomiMatsumura2),YujiKato3),YasukoTakahashi4),YujirouMatsumoto1),YuichiKaji1)andChikaMiyazaki5)1)MatsumotoEyeClinic,2)KanagawaChildren’sMedicalCenter,3)SapporoKatoEyeClinic,4)CJikeiUniversitySchoolofMedicine,5)HyogoPrefecturalAmagasakiGeneralMedicalCenterCDepartmentofOphthalmology,目的:重要なメディカルスタッフである看護師の涙管通水検査を医師の涙管通水検査と比較し,看護師による涙管通水検査の正確性と安全性を検討した.対象および方法:涙管通水検査を看護師,医師ともに行ったC155名C290眼(男性C37名,女性C118名)について検討した.結果:155名C290眼について医師(以下,Dr)と看護師(以下,Ns)の涙管通水検査結果の内訳は,Dr・Nsとも通水可がC253眼(87.2%),Dr通水可・NS通水不可がC11眼(3.7%),Dr・Nsとも通水不可がC25眼(8.6%),Dr通水不可・Ns通水可がC1眼(0.3%)であった.以上の結果からCNsによる涙管通水検査の感度はC96.2%,特異度はC95.8%であった.安全性についても今回の検討では有害事象は認めず,全例(100%)Nsによる涙管通水検査は施行可能であった.結論:Nsによる涙管通水検査はCDrによるものとほぼ同等の正確性と安全性があると考えられた.CPurpose:ToCevaluateCtheCaccuracyCandCsafetyCofClacrimalCirrigationCtestingCconductedCbyCnurses,CimportantCmedicalsta.,incomparisonwithtestingconductedbydoctors.Methods:Weanalyzedtheresultsoflacrimalirri-gationtestson290eyesof155patients(37male,118female)conductedbynursesandbydoctors.Results:Theresultsareasfollows:253eyes(87.3%)werepassedbybothnursesanddoctors,11eyes(3.8%)werepassedbydoctorsCbutCnotCbyCnurses,C25eyes(8.6%)wereCnotCpassedCbyCeitherCnursesCorCdoctors,CandC1eye(0.3%)waspassedbyanursebutnotbyadoctor.Thesensitivityoflacrimalirrigationtestingconductedbynursesis96.2%,andthespeci.cityofsuchtestsis95.8%.Astothesafetyaspect,nursesconductedlacrimalirrigationtestingonallthepatients(100%)withnoadverseevents.Conclusion:Thedataindicatethatlacrimalirrigationtestingcon-ductedbynursesisofasaccurateandsafeastestingconductedbydoctors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):415.417,C2019〕Keywords:涙管通水検査,看護師.lacrimalirrigation,nurse.Cはじめに涙管通水検査は,涙道診療における重要な検査の一つであり,また涙管チューブ挿入術後のチューブ管理にも必要である.しかし,多忙な外来診療において,すべての検査を医師が行うのは困難な場合もある.今回筆者らは,涙管通水検査を,重要なメディカルスタッフである看護師が施行したときの結果と医師のそれとを比較して,正確性や安全性に問題がないか検討した.CI対象および方法対象:2015年C11.12月に,茨城県取手市松本眼科外来にて涙管通水検査を看護師・医師ともに行ったC155名C290眼(男性C37名,女性C118名)について検討した.方法:検者は医師C1名,看護師C6名で,外来ベッド上仰臥〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,MatsumotoEyeClinic,2-25Tyuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(113)C415位直視下にて,同一眼を同一ゲージの涙管洗浄針(一段針曲もしくは二段針曲)で同一涙点より,看護師,医師の順で行った.今回の検討では,上下涙点のどちらかでも通水しなかった場合は,通水不可とした.通水の不可の判定については,患者の鼻咽頭への通水到達自覚ありを,通水可,自覚なしを通水不可とした.CII結果医師(以下,Dr)・看護師(以下,Ns)とも通水可はC290眼中C253眼(87.3%),Dr通水可・Ns通水不可はC11眼(3.8%),Dr・Nsとも通水不可がC25眼(8.6%),Dr通水不可・Ns通水可はC1眼(0.3%)であった.以上の結果から看護師による涙管通水検査の感度はC96.2%,特異度はC95.8%であった.安全性についても今回の検討で,涙管通水検査が原因と思われる出血や,検査後の疼痛などの有害事象は認められなかった.CIII考按今回筆者らは,外来において日常的に必要な涙管通水検査を,医師と看護師がそれぞれ行った際の結果について検討した.涙管通水検査は,外来で簡便に行える涙道診療のルーチン検査である.涙管通水検査は涙管の通水障害がないかどうかのチェックはもちろんのこと,涙道感染症におけるデブリスを洗い出す効果ももつため1),涙道外来において,頻回に行うものである.その際,すべての症例に対して医師が行うのは,多忙な外来ではむずかしい.厚生労働省医政局看護課に問い合わせたところ,涙管通水検査は,保健師助産師看護師法第C5条の診療の補助に該当し,医師の指導・管理のもとに看護師が行うことは可能であるとの回答で,法律的に問題がないことを確認した.また,海外でも,やはり医師の管理のもと,熟練した看護師が日常的に涙管通水検査を行っている2).もちろん,看護師による通水検査の際,一段針もしく二段針どちらの針で行うのか,涙小管のどのレベルまで涙管通水針を挿入するかなどの決定は,医師の指導のもとで行われる必要がある.今回の検討では,看護師による涙管通水検査は,感度,特異度とも高く,医師によるものと比較しても遜色がなく,信頼性および安全性について問題ないことを確認できた.結果が一致しなかった症例について,いくつかその原因を考察してみた.まず,涙管通水検査の順序が影響した可能性がある.今回の検討では,涙管通水検査を看護師が先に行い,その後,医師が行った.この方法では,最初に看護師が通水した際,通水不可でもデブリスなどが洗浄され,2回目に医師が行った際に通水が可能になったのかもしれない.また,涙道内に散見される涙石の動きが,涙管通水検査の結果を左右することもありうる.あるいは,涙小管のどのレベルまで涙管通水針を進めているかも,結果不一致に関係しているかもしれない.ただし,通水可にするために,無理に涙小管内奥に針を進めると,総涙小管閉塞の場合,総涙小管を穿破し,かえってより強い再閉塞をきたすおそれもあり3),やはり医師の指導のもと,解剖を踏まえたうえでの施行が重要で,今後の涙道診療においても,看護師との連携がますます重要になると思われた.検査の多い眼科診療において,たとえば,フルオレセイン蛍光造影は視機能訓練士が写真撮影を担当している医療機関が多い.検査,診療の質を担保しつつ,外来での患者の待ち時間を短縮するために何ができるのか.看護師や視能訓練士などコメディカルとの外来検査での役割分担を考えていくことも,これからの医療の質向上のために必要と思われる.文献1)StevensS:LacrimalCsyringing.CCommunityCEyeCHealthC22:31,C20092)BeigiCB,CUddinCJM,CMcMullanCTFCetal:InaccuracyCofCdiagnosisCinCaCcohortCofCpatientsConCtheCwaitingClistCforCdacryocystorhinostomyCwhenCtheCdiagnosisCwasCmadeCbyConlyCsyringingCtheClacrimalCsystem.CEurCJCOphthalmolC17:485-489,C20073)藤本雅大:検査編.あたらしい眼科C30(臨増):143-144,C2013注記:眼科の検査を,看護師が医師の指示のもとに実施する場合,「保健師助産師看護師法」第C5条および第C37条(下記に抜粋)を参照すると,医師または歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為の禁止は,医師の指示があれば,適用されないとあります.したがって,看護師であれば,医師の指示により涙道通水通色素検査を行うことは直ちに法律違反とは考えられません.ただし,医師の指示がなければこのような行為をすることはできません.一方,視能訓練士は,厚生労働省令により涙道通水通色素検査を行うことは禁止されています(下記に法および施行規則を抜粋).涙道通水通色素検査は特定行為ではありませんが,看護師によるこの検査を積極的に推し進めていく考えであれば,日本眼科学会,日本眼科医会と調整していただく必要があるように思われます.〇保健師助産師看護師法第五条この法律において「看護師」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう.416あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(114)第三十七条保健師,助産師,看護師又は准看護師は,主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか,診療機械を使用し,医薬品を授与し,医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない.ただし,臨時応急の手当をし,又は助産師がへその緒を切り,浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は,この限りでない.第三十七条の二特定行為を手順書により行う看護師は,指定研修機関において,当該特定行為の特定行為区分に係る特定行為研修を受けなければならない.2この条,次条及び第四十二条の四において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる.一特定行為診療の補助であつて,看護師が手順書により行う場合には,実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるものとして厚生労働省令で定めるものをいう.二手順書医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるためにその指示として厚生労働省令で定めるところにより作成する文書又は電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう.)であつて,看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲及び診療の補助の内容その他の厚生労働省令で定める事項が定められているものをいう.三特定行為区分特定行為の区分であつて,厚生労働省令で定めるものをいう.四特定行為研修看護師が手順書により特定行為を行う場合に特に必要とされる実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能の向上を図るための研修であつて,特定行為区分ごとに厚生労働省令で定める基準に適合するものをいう.五指定研修機関一又は二以上の特定行為区分に係る特定行為研修を行う学校,病院その他の者であつて,厚生労働大臣が指定するものをいう.〇視能訓練士法第C17条第一項視能訓練士は,第二条に規定する業務のほか,視能訓練士の名称を用いて,医師の指示の下に,眼科に係る検査(人体に影響を及ぼす程度が高い検査として厚生労働省令で定めるものを除く.次項において「眼科検査」という.)を行うことを業とすることができる.〇視能訓練士法施行規則第十四条の二法第十七条第一項の厚生労働省令で定める検査は,涙道通水通色素検査(色素を点眼するものを除く.)とする.文責:木下茂(あたらしい眼科編集主幹),今井浩二郎(京都府立医科大学医療フロンティア展開学,元厚生労働省医政局研究開発振興課専門官)***(115)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C417

眼科看護師におけるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の鼻腔保菌

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):403.406,2012c眼科看護師におけるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の鼻腔保菌田中寛*1星最智*2卜部公章*1*1町田病院*2藤枝市立総合病院眼科NasalCarriageofMethicillin-ResistantCoagulase-NegativeStaphylococciinOphthalmicNursesHiroshiTanaka1),SaichiHoshi2)andKimiakiUrabe1)1)MachidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital眼科看護師における鼻腔内メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)の保菌率と保菌リスク因子を調査した.看護師30名の培養陽性率は96.7%であり,内訳はメチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌17株,MR-CNS9株,コネバクテリウム属6株,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌2株,a溶血性レンサ球菌1株であった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は検出されなかった.家庭内乳幼児がいない場合はMR-CNSの鼻腔保菌率が13.0%であるのに対し,家庭内乳幼児がいる場合は85.7%と有意に保菌率が上昇した(p<0.001).医療従事者において,家庭内乳幼児の存在はMR-CNSの保菌リスクとなりうる.Themethicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci(MR-CNS)nasalcarriagerateandriskfactorsinophthalmicnurseswereinvestigated.Ofthe30culturestaken,29(96.7%)hadpositivebacterialgrowth:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,17(48.6%);MR-CNS,9(25.7%);Corynebacteriumspecies,6(17.1%);methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,2(5.7%);alpha-haemolyticstreptococci,1(2.9%).Methicillin-resistantStaphylococcusaureuswasnotisolated.TheMR-CNSnasalcarriagerateinnurseswhohadchildren(85.7%)wassignificantlyhigherthaninthosewhodidnot(13.0%)(p<0.001).MedicalworkerswhohavechildrenaremorelikelytobeMR-CNScarriers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):403.406,2012〕Keywords:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,鼻腔保菌,眼科,看護師,小児.methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci,nasalcarriage,ophthalmology,nurse,child.はじめに内眼手術後の細菌性眼内炎は,視力予後に影響しうる重大な合併症である.白内障術後眼内炎の起炎菌では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS),黄色ブドウ球菌,腸球菌やレンサ球菌属をはじめとしたグラム陽性球菌が85%1)を占めることが報告されている.これらグラム陽性球菌のなかでもCNSの検出率は46.3.70%1,2)と最も高い.さらに,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci:MR-CNS)はフルオロキノロン系を含む多くの抗菌薬に耐性であること3,4),症例によっては重症化するものもあること5)から,臨床上重視すべき微生物の一つである.健常結膜.におけるMR-CNSの検出率は11.8.24.8%と報告によって異なる4,6,7).このことはMR-CNSの保菌を促進させるような背景因子が存在することを示唆している.筆者らが行ったMR-CNSの結膜.保菌リスクの調査では,ステロイド内服,他科手術歴と眼科通院歴が保菌率を増加させるリスク因子であり,リスクがない場合の保菌率は7.8%であるが,リスクが増えるにつれて保菌率が33.3%にまで上昇することを報告している8).さらに,白内障術前患者のMR-CNS保菌率は結膜.より鼻腔のほうが有意に高く,〔別刷請求先〕田中寛:〒780-0935高知市旭町1丁目104番地町田病院Reprintrequests:HiroshiTanaka,M.D.,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kochi-shi,Kochi780-0935,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)403 MR-CNSの鼻腔保菌者では非保菌者に比べて結膜.のa溶血性レンサ球菌,1a溶血性レンサ球菌,1コリネバクテリウム属,6MSSA,2MS-CNS,17MR-CNS,9MR-CNS保菌率が有意に高くなることも報告した9).MR-CNSの感染経路と鼻腔保菌の重要性を考慮すると,医療従事者におけるMR-CNS鼻腔保菌率の上昇により,術前患者の鼻腔や結膜.への感染リスクが高まる可能性が考えられる.したがって,医療従事者のMR-CNS保菌率を把握することは,感染対策活動を評価するうえでの指標の一つになると考えられる.今回鼻腔保菌調査を行った理由は,前年に術後眼内炎を経験したことがきっかけとなっており,原因調査の一つとして職員のMRSAを含めた薬剤耐性菌の保菌率を把握する必要があると考えたからである.そのなかで,眼科医療従事者におけるMR-CNS保菌のリスク因子につい図1眼科看護師における鼻腔検出菌の構成て若干の知見が得られたので報告する.I対象および方法対象は眼科専門病院である町田病院(以下,当院)に勤務する看護師30名である.平均年齢は33.7±6.0歳,性別は数字は株数を示す.MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.全員女性である.看護配置の内訳は外来10名,手術室7名,10085.7%13.0%p<0.001病棟13名である.3カ月以内にステロイド内服および抗菌80薬点眼・内服の既往はなかった.当院には倫理委員会が設置保菌率(%)60されていないため,感染対策委員会が主体となって職員への説明と同意を得たうえで2010年5月に培養検査を実施した.検体採取方法は,滅菌生理食塩水で湿らせた培養用滅菌スワ4020ブを用いて右鼻前庭を擦過し,輸送培地に接種した後にデルタバイオメディカル社に輸送して菌種同定を依頼した.培養はヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳糖加寒天培地0乳幼児ありn=7乳幼児なしn=23図2家庭内乳幼児の有無とMR.CNS鼻腔保菌率nは人数を示す.(bromothymolbluelactateagar)を用いて好気培養を35℃で3日間行った.ブドウ球菌属のメチシリン耐性の有無はClinicalandLaboratoryStandardsInstituteの基準(M100-S19)に従ってセフォキシチンのディスク法で判定した.培養結果をもとに,年齢と家庭内乳幼児の存在が鼻腔MR-CNS保菌率に影響するかどうかを検討した.統計学的解析はMann-WhitneyのU検定またはFisherの直接確率検定を用い,有意水準は5%とした.II結果鼻腔の培養陽性率は96.7%であり,35株の細菌が検出された.内訳はMS-CNSが17株,MR-CNSが9株,コリネバクテリウム属が6株,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌が2株,a溶血性レンサ球菌が1株であった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)は検出されなかった(図1).鼻腔MR-CNS陽性者は9名であり,平均年齢は34.1±8.0歳であった.鼻腔MR-CNS陰性者は21名であり,平均年齢は36.9±4.9歳であった.鼻腔MR-CNS陽性群と陰性群で年齢を比較したところ有意差を認めなかった(p=0.227,404あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012Mann-WhitneyのU検定).家庭内乳幼児が存在するのは7名であった.MR-CNSの鼻腔保菌は,家庭内乳幼児が存在しない群では23名中3名(13.0%)であるのに対し,家庭内乳幼児が存在する群では7名中6名(85.7%)であり有意に保菌率が高かった(p<0.001,Fisherの直接確率検定)(図2).III考按細菌性眼内炎は白内障術後の合併症として頻度は高くないものの,重篤な合併症の一つである.わが国で行われた白内障術後眼内炎の起炎菌調査では,CNSが全体の46.3%と最も多かった1).さらに忍足らは,白内障術後眼内炎ではMR-CNSが主要な起炎菌であると報告している10).CNSによる術後眼内炎は一般的に予後が良好といわれているが,メチシリン耐性菌はメチシリン感受性菌に比べてキノロン耐性化率がはるかに高いこと3,4)などから,MR-CNSの場合は治療に難渋する可能性も考えられる.(116) 鼻腔と結膜.のMR-CNS保菌の関連については筆者らが過去に報告しており,白内障術前患者では鼻腔MR-CNS保菌率は結膜.よりも有意に高く,鼻腔MR-CNS保菌者では結膜.のMR-CNS保菌率も有意に高かった9).したがって,眼科感染予防の観点からは鼻腔のMR-CNS保菌も無視できない因子と考えられる.当院看護師全体のMR-CNS鼻腔保菌率は30.0%であった.医療従事者におけるMR-CNSの鼻腔保菌率に関する報告は少なく,わが国では仲宗根らが看護師50名中13名(26.0%)において鼻腔にMR-CNSを保菌していたと報告している11).筆者らの結果は仲宗根らの報告に近似しており,当院看護師におけるMR-CNS保菌率は特に高いわけではないと判断した.MR-CNSには注意すべき結膜.の保菌リスクが存在する.筆者らが行った調査ではステロイド内服,他科での手術歴や眼科通院歴を重要な保菌リスク因子としてあげている.すなわち,宿主の易感染性と医療関連感染が問題となる.今回の検討では対象者全員が易感染性となる全身疾患やステロイド内服などのリスク因子を保有しておらず,さらに年齢についても有意差を認めなかった.また,興味深かったことは,看護師のMR-CNS鼻腔保菌と家庭内乳幼児との関連である.家庭内乳幼児がいない看護師のMR-CNS保菌率は13.0%であったのに対し,家庭内乳幼児がいる看護師では85.7%と有意に高い保菌率であった.これまでにTengkuらは1,285人の集団保育児の鼻腔培養を行い,390人(30.3%)からMR-CNSが検出されたと報告している12).さらに,小森らによる非医療従事者を対象とした鼻腔内ブドウ球菌保菌調査では,就学前の小児のメチシリン耐性ブドウ球菌の保菌率は70.0%と高く,家族内のメチシリン耐性菌伝播の要因の一つに小児の存在をあげている13).一般的に乳幼児は成人とは異なり,鼻咽頭にインフルエンザ菌や肺炎球菌などの病原菌を高率に保菌していることが知られている14).これは宿主の免疫能が未熟であるために病原菌をうまく排除できないためと考えられる.MR-CNSに関してもインフルエンザ菌や肺炎球菌などと同様,いったん乳幼児に感染すると容易に排除できないため,結果として保菌率が高くなる可能性が考えられる.一般的にMR-CNSなどの薬剤耐性菌は医療関連感染で重要な細菌であるため,医療従事者間,医療従事者と患者間という医療施設内での感染経路に注目しがちである.しかしながら,医療従事者から家庭内乳幼児に薬剤耐性菌が伝播し,さらに集団保育児の中で菌が蔓延すると,薬剤耐性菌のリザーバーが形成されて,今度は小児から家族内成人への感染リスクが高まることにも留意すべきである.今回の調査では,看護師からMRSAは検出されなかった.被検者数を考慮してもMRSA保菌率は3.3%未満であり,5.1.11.3%程度とする過去の報告15.17)よりも低い値である(117)ため,当院の感染対策は良好に機能していると考えられた.しかしながら,看護師の配置別に検討すると,手術場にMR-CNS保菌者が集中的に配置されていた.薬剤耐性菌を保菌している人の割合,すなわち保菌圧(colonizationpressure)が高まると,非保菌者の感染リスクが高まることが報告18,19)されており,MR-CNSでも同様のことが考えられる.医療施設内での感染リスクを減らすためには看護配置に注意する必要があると考えられた.結論としては,今回の調査ではMRSAの鼻腔保菌者は認めなかった.家庭内乳幼児の存在はMR-CNS鼻腔保菌のリスクとなるため,保菌圧を下げるために看護配置を工夫するなどの配慮が必要であると考えられた.文献1)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20062)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:ResultsoftheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)HoriY,NakazawaT,MaedaNetal:Susceptibilitycomparisonsofnormalpreoperativeconjunctivalbacteriatofluoroquinolones.JCataractRefractSurg35:475-479,20094)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512.517,20105)OrmerodLD,BeckerLE,CruiseRJetal:Endophthalmitiscausedbythecoagulase-negativestaphylococci.2.Factorsinfluencingpresentationaftercataractsurgery.Ophthalmology100:724-729,19936)大..秀行,福田昌彦,大鳥利文ほか:高齢者1,000眼の結膜.内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19987)森永将弘,須藤史子,屋宜友子ほか:白内障手術術前患者の結膜.細菌叢と薬剤感受性の検討.眼科手術22:385388,20098)星最智,卜部公章:白内障術前患者における結膜.常在細菌の保菌リスク因子.あたらしい眼科28:1313-1319,20119)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在細菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201110)忍足和浩,平形明人,岡田アナベルあやめほか:白内障術後感染性眼内炎の硝子体手術成績.日眼会誌107:590596,200311)仲宗根洋子,名渡山智子:看護師の手掌および鼻腔における薬剤耐性菌の検出頻度.沖縄県立看護大学紀要9:39-43,200812)JamaluddinTZ,Kuwahara-AraiK,HisataKetal:Extremegeneticdiversityofmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisdisseminatedamonghealthyJapanesechildren.JClinMicrobio46:3778-3783,200813)小森由美子:市中におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の鼻あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012405 腔内保菌者に関する調査.環境汚染誌20:164-170,200514)KonnoM,BabaS,MikawaHetal:Studyofupperrespiratorytractbacterialflora:firstreport.Variationsinupperrespiratorytractbacterialflorainpatientswithacuteupperrespiratorytractinfectionandhealthysubjectsandvariationsbysubjectage.JInfectChemother12:83-96,200615)酒井道子,阿波順子,那須郁子ほか:一施設全職員を対象としたMRSA検出部位と職種間の相違についてDNA解析を用いた検討.ICUとCCU29:905-909,200516)垣花シゲ,植村恵美子,岩永正明:病棟看護婦の鼻腔内細菌叢について.環境感染13:234-237,199817)北澤耕司,外園千恵,稗田牧ほか:眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討.あたらしい眼科28:689-692,201118)MerrerJ,SantoliF,ApperedeVecchiCetal:“Colonizationpressure”andriskofacquisitionofmethicillin-resistantStaphylococcusaureusinamedicalintensivecareunit.InfectControlHospEpidemiol21:718-723,200019)BontenMJ,SlaughterS,AmbergenAWetal:Theroleof“colonizationpressure”inthespreadofvancomycinresistantenterococci:animportantinfectioncontrolvariable.ArchInternMed158:1127-1132,1998***406あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(118)