‘眼内レンズ’ タグのついている投稿

眼内レンズの囊外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):213.216,2024c眼内レンズの.外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1例安次嶺僚哉力石洋平新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CACaseofSecondaryGlaucomaCausedbyExtracapsularFixationofIntraocularLensRyoyaAshimine,YoheiChikaraishi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:眼内レンズ(IOL)の.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験したので報告する.症例:45歳,男性.右眼水晶体再建術後に眼圧コントロール不良で紹介となった.初診時,右眼視力はC1.0,眼圧C60CmmHg,明らかなCIOL偏位はなく隅角に全周性色素沈着を認めた.色素緑内障と診断し線維柱帯切開術を施行した.術後一時的な眼圧下降を認めるも,再上昇をきたし線維柱帯切除術を施行した.眼圧は下降したが経過中に術眼を打撲,軽度浅前房と前房出血以外に異常所見なく経過観察とした.受傷C3日後に眼痛が出現し著明な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認め,前房形成術とCIOL整復術を施行した.術中所見はCIOL支持部の一方が.外固定であった.術後前房深度,眼圧ともに安定した.結論:IOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験した.水晶体再建術後の色素沈着を伴う続発緑内障では術後早期でもCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsecondaryCpigmentaryCglaucomaCcausedCbyCintraocularlens(IOL)dislocation.CCaseReport:A45-year-oldmalewasreferredtousduetopoorintraocularpressure(IOP)controlpostcataractsurgery.Uponexamination,hisright-eyevisualacuityandIOPwas1.0and60CmmHg,respectively.Hewasdiag-nosedaspigmentaryglaucomaduetohyperpigmentationinthetrabecularmeshwork,andtrabeculotomywasper-formed.Postsurgery,theIOPwaspoorlycontrolled,sotrabeculectomywasperformed.Aftertrabeculectomy,theIOPdecreasedandwaswellcontrolled.At5-dayspostoperative,theoperatedeyewasseverelyinjured,andat3daysCpostCinjury,CtheCanteriorCchamberCdepthCbecameCveryCshallowCandCirisCcaptureCofCtheCIOLCopticsCwasCobserved.CTheCIOLCwasCthenCsurgicallyCguidedCintoCtheCcapsuleCandCanteriorCchamberCdepthCbecameCdeepened.CIntraoperative.ndingsshowedthatonesideoftheIOLhapticswaslocatedoutofthecapsule.Conclusion:Sec-ondarypigmentaryglaucomaearlypostcataractsurgerymaybecausedbyIOLdislocation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):213.216,C2024〕Keywords:続発緑内障,眼内レンズ,.外固定.secondaryglaucoma,intraocularlens,extracapsular.xation.はじめに色素緑内障は,線維柱帯への色素沈着により眼圧上昇をきたす疾患である1).原因の一つとして,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)支持部と虹彩後部が接触することで,虹彩上皮から色素が過剰に遊離し,線維柱帯の流出路が障害されることにより生じると考えられている2).IOL.外固定による続発色素緑内障の発症時期は術後約C13カ月やC22カ月と,おおむね術後C1年以上と報告されている3,4).今回,筆者らは水晶体再建術後C9日目と比較的早期に発症した,IOL.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障のC1例を経験したため報告する.CI症例45歳,男性.家族歴や既往歴に特記事項なし.X年C3月に前医で右眼水晶体再建術(HOYAisert255,度数不明)を施行.術翌日の右眼眼圧がC42CmmHgと上昇,高張浸透圧薬の点滴および抗緑内障点眼治療にて下降した.術後C3日目の右眼矯正視力はC1.5,眼圧はC13CmmHgであった.術後C9日目に右眼の霧視と視力低下を主訴に前医受診,右眼矯正視力はC0.3,眼圧はC40CmmHg,角膜浮腫と前房内に虹彩色素を〔別刷請求先〕安次嶺僚哉:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:RyoyaAshimine,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC図1当院初診時の右眼前眼部写真角膜浮腫とCIOL上に色素沈着を認める.認めた.前述の点滴・点眼を使用するも眼圧コントロール不良のため,術後C10日目に琉球大学附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見はCVD=0.1(1.0C×sph.3.00D(cyl.1.00DAx160°),VS=0.03(1.0C×sph.4.75D(cylC.1.00DAx5°)であり,眼圧は右眼60mmHg,左眼18mmHgであった.右眼角膜浮腫とCIOL上の色素沈着を認めた.散瞳検査は未施行でありCIOL光学部までしか観察はできず,明らかなCIOL光学部の偏位や動揺はなかった(図1).隅角鏡検査にて右眼優位の線維柱帯への全周性色素沈着を認めた.周辺虹彩前癒着は認めなかった.眼底に特記所見は認めなかった.CII経過線維柱帯への高度な色素沈着と眼圧上昇より,術後早期の続発色素緑内障と診断し,受診日当日に線維柱帯切開術を施行した.術後眼圧はC20CmmHg以下に下降したが術後C5日目に右眼視力低下のため外来受診,右眼矯正視力はC0.08,眼圧はC55CmmHgと再上昇を認めた.炭酸脱水酵素阻害薬内服および抗緑内障点眼使用にても眼圧コントロール不十分であったため,線維柱帯切開術施行C10日後に線維柱帯切除術を施行した.術後眼圧はC15CmmHg程度にコントロールされた.線維柱帯切除術後C5日目,ベッドの手すりで右眼を打撲した.前房出血があり,右眼眼圧C7CmmHgとやや低下あるものの,中心前房深度はC3.4角膜厚と保持されていたため予定どおり退院とした.退院C3日後に眼痛,嘔気を主訴に予約外受診,眼圧はC12CmmHgであったが中心前房深度はC0.5角膜厚と高度な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認めたため,外来処置室にてオキシグルタチオン(BSS)を用いてCIOL光学部を虹彩後方に整復した.しかし,翌日診察時には再度浅前房およびCIOLの虹彩捕獲を認めた(図2).眼圧はC3CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査にて周辺虹彩切除部から前.上に図2打撲後,予約外診時の右眼前眼部写真a:高度な浅前房化を認める.Cb:IOL光学部の虹彩捕獲を認める.IOL支持部が観察された.この所見よりCIOL支持部.外偏位による続発色素緑内障と診断した.同日粘弾性物質を用いて,IOL支持部の水晶体.内への整復術と前房形成術を施行した.術中所見では連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)径はC7Cmm程度で上方支持部は.外に偏位しており,下方支持部は.内に固定されていた.術後,IOL偏位はなかったが中心前房深度はC2.3角膜厚と浅前房化しており,右眼眼圧はC4CmmHgと低眼圧であったため過剰濾過と判断し,IOL整復術後C5日目に強膜弁を追加縫合した.その後前房形成および眼圧コントロール良好で経過している.CIII考察Changら2)はCIOLを毛様溝に挿入後に発症した続発色素緑内障について,平均発症時期は初回水晶体再建術後C21.9C±17.1カ月と報告している.一方,Micheliら3)は.内固定されたCIOLの片側が経過中に.外へ脱出したことにより術後C27日目と比較的早期に続発色素緑内障を発症した症例を報告しており(表1),支持部が脱出した要因としてCCCCが表1水晶体再建術後に続発色素緑内障を発症した期間とIOLの種類UySHetal4)CChangSHetal2)CMicheliTetal3)本症例平均発症期間C13.0±9.6カ月C21.9±17.1カ月27日9日CIOLアクリル,1ピース9眼:アクリル,1ピース1眼:シリコーンアクリル,1ピースアクリル,1ピース症例数20眼10眼1眼1眼眼圧(mmHg)図3本症例の治療と眼圧の経過7Cmmと大きかったためとしている.本症例においてもCIOL整復術中の所見で,7Cmm程度と大きめのCCCCを認めており,既報と同様,水晶体再建術後早期に片側のCIOL支持部が.外偏位し,虹彩と接触することにより色素散布が起こり眼圧上昇した可能性が考えられた.しかし,前医からの追加情報として前医の術中灌流・吸引(I/A)ハンドピース抜去時にCIOLの下方支持部が虹彩上に脱出し,整復を施行したこと,および当院でのCIOL支持部の整復術中所見では上方支持部は.外,下方支持部は.内に固定されていた所見から,前医でのCI/A抜去時にCIOL支持部は上下ともに.外へ脱出し,整復の際にCIOL上方支持部が十分に.内に戻らず.外に固定されたままであった可能性も考えられた.また,.外固定と比較して片側のCIOL支持部が脱出した場合のほうが虹彩と支持部の接触する角度がついて,より色素散布が強く起こり,早期に眼圧が上昇する可能性が考えられた.IOL支持部の偏位時期に関しては,眼球打撲時の可能性も否定できないが,受傷後の診察でも明らかなCIOL支持部の偏位は認めなかったため打撲の影響ではなく前医の術中,もしくは術後早期のCIOL支持部の.外偏位の可能性が高いと考えられた.IOLによる続発色素緑内障は虹彩とCIOLの接触が原因であるため,治療は早期に虹彩とCIOLの接触を解除することである.その後も眼圧下降が不十分な場合はレーザー線維柱帯形成術や流出路再建術,濾過手術を施行する4,5).本症例では濾過手術とCIOL整復術後,眼圧の大きな変動はなく安定した.今回は未施行だったが,既報では超音波生体顕微鏡(UBM)での虹彩とCIOL前面の接触所見は診断に有用6)とあり,術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLが原因の可能性も考慮して,前眼部の画像検査が重要であると考えられた.CIV結論水晶体再建術後早期にCIOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障の症例を経験した.水晶体再建術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SugarCHS,CBarbourFA:PigmentaryCglaucoma;aCrareCclinicalentity.AmJOphthalmolC32:90-92,C19492)ChangCSH,CWuCWC,CWuSC:Late-onsetCsecondaryCpig-mentaryCglaucomaCfollowingCfoldableCintraocularClensesCimplantationCinCtheCciliarysulcus:aClong-termCfollow-upCstudy.BMCOphthalmolC13:Articlenumber22,20133)MicheliCT,CLeanneCMC,CSharmaCSCetal:AcuteChaptic-inducedCpigmentaryCglaucomaCwithCanCAcrySofCintraocu-larlens.JCataractRefractSurgC28:1869-1872,C20024)UyHS,ChanPS:Pigmentreleaseandsecondaryglauco-maCafterCimplantationCofCsingle-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheCciliaryCsulcus.CAmCJCOphthalmolC142:330-332,C20065)LeBoyerRM,WernerL,SnyderMEetal:Acutehaptic-inducedCciliaryCsulcusCirritationCassociatedCwithCsingle-pieceCAcrySofCintraocularClenses.CJCCataractCRefractCSurgC31:1421-1427,C20056)Detry-MorelML,AckerEV,PourjavanSetal:AnteriorsegmentimagingusingopticalcoherencetomographyandultrasoundCbiomicroscopyCinCsecondaryCpigmentaryCglau-comaCassociatedCwithCin-the-bagCintraocularClens.CJCCata-ractRefractSurgC32:1866-1869,C2006***

新しい眼内レンズ度数計算式における予測精度と屈折誤差に 関連する因子の検討

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):111.117,2023c新しい眼内レンズ度数計算式における予測精度と屈折誤差に関連する因子の検討白玖柾貴*1後藤克聡*2竹原弘泰*3水川憲一*1山地英孝*1杉本拓磨*1馬場哲也*1宇野敏彦*1桐生純一*2*1白井病院*2川崎医科大学眼科学1教室*3井上眼科CFactorsRelatedtoPredictionAccuracyandRefractiveErrorinNewIOLPowerCalculationFormulasMasakiHaku1),KatsutoshiGoto2),HiroyasuTakehara3),KenichiMizukawa1),HidetakaYamaji1),TakumaSugimoto1),TetsuyaBaba1),ToshihikoUno1)andJunichiKiryu2)1)ShiraiEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,3)InoueEyeClinicC目的:新しい眼内レンズ(IOL)度数計算式の予測精度と屈折誤差に関連する因子を比較検討した.対象および方法:対象は白内障手術を施行したC88例C150眼で,計算式にCSRK/T,BarrettCUniversalII式(Barrett),Kane,EVO2.0を用いた.各式の屈折誤差の割合をCCochranのCQ検定,屈折誤差に関連する因子を多変量解析で検討した.結果:屈折誤差±0.25D以内の割合は,EVOはSRK/TやCBarrettよりも有意に高く(p<0.05),±0.50D以内の割合は,EVO・Kane・BarrettはCSRK/Tよりも有意に高かった(p<0.01).屈折誤差に関連する因子は,SRK/Tは前房深度,眼軸長,挿入CIOL度数,Barrettは平均角膜屈折力,眼軸長,挿入CIOL度数,KaneとCEVOは挿入CIOL度数のみであった.結論:EVOはCSRK/TやCBarrettよりも精度が高く,Kaneと同等であった.EVOとCKaneは標準値をはずれた術前生体計測値でも影響を受けにくい計算式であることが示唆された.CPurpose:ToCcompareCtheCpredictionCaccuracyCofCnewCintraocularlens(IOL)powerCcalculationCformulasCandCfactorsassociatedwithrefractiveerror(RE)C.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved150eyesof88patientswhoCunderwentCcataractCsurgery.CSRK/T,CBarrettCUniversalII(Barrett)C,CKane,CandEVO2.0(EVO)wereCusedCasCcalculationCformulas.CTheCpercentageCofCRECforCeachCformulaCwasCdeterminedCbyCCochran’sCQCtest,CandCfactorsCrelatedtoREwereexaminedbymultivariateanalysis.Results:ThepercentageofREwithin±0.25diopters(D)CwasCsigni.cantlyChigherCinCEVOCthanCinCSRK/TCandBarrett(p=0.05)C,CandCtheCpercentageCwithinC±0.50Dwassigni.cantlyhigherinEVO,Kane,andBarrettthaninSRK/T(p=0.01)C.FactorsassociatedwithREwereanteriorchamberdepth,axiallength,andIOLpowerinSRK/T,cornealradius,axiallength,andIOLpowerinBarrett,andonlyIOLpowerinKaneandEVO.Conclusions:TheaccuracyofEVOwashigherthanthatofSRK/TandBar-rettandcomparabletothatofKane.WebelivethattheEVOandKaneformulasarelessa.ectedbythenon-stan-dardpreoperativebiometricdata.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):111.117,C2023〕Keywords:眼内レンズ,屈折誤差,計算式,Kane式,EVO式.intraocularlens,refractiveerror,calculationformula,Kaneformula,EVOformula.Cはじめにるかが重要であるが,わが国では従来の計算式であるCSRK/白内障手術において術後の患者満足度を高めるためには,T式1)がもっとも多く使用され,ついでCBarrettUniversalII正確な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数の選択が求式(以下,Barrett),Haigis式の順に多いとされる2).近年められる.そのためにはどのようなCIOL度数計算式を用いでは,Barrettが使用されることが増えており,術後屈折誤〔別刷請求先〕白玖柾貴:〒767-0001香川県三豊市高瀬町上高瀬C1339医療法人明世社白井病院Reprintrequests:MasakiHaku,ShiraiEyeHospital,1339TakaseKamitakase,Mitoyocity,Kagawa767-0001,JAPANC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(111)C111表1各計算式に用いた眼球パラメータ・SRK/T眼軸長,角膜屈折力・Barrett眼軸長,角膜屈折力,前房深度,水晶体厚,角膜横径・Kane眼軸長,角膜屈折力,前房深度,性別・EVO眼軸長,角膜屈折力,前房深度差の少ない有用な計算式であることが報告されている3,4).さらに,新しい計算式としてCKaneformula5)(以下,Kane)やCEmmetropiaCVerifyingCOptical(EVO)formulaCversionC2.05)(以下,EVO)が登場した.KaneはCJackXKaneが開発した計算式であり,理論光学に基づいており回帰式と人口知能の両方が搭載されている.EVOはCTunKuanYeoが開発した正視化理論に基づいた厚肉レンズ計算式である.KaneとCEVOは予測精度が高いことが海外で報告されている6)が,筆者らが調べた限りわが国において報告はなく,日本人における精度は不明である.そこで今回,新しいCIOL度数計算式の予測精度および屈折誤差に関連する因子を他の計算式と比較検討した.CI対象および方法白井病院(以下,当院)倫理委員会承認のもと,ヘルシンキ宣言に基づき後ろ向き観察研究を施行した.対象はC2019年C4月.2021年C3月に当院で白内障手術が施行され,術後3カ月まで経過観察できた症例である.6名の術者がC2.4Cmmの角膜切開創または経結膜C1面切開創から超音波乳化吸引術およびCIOL挿入術を施行し,IOLが.内固定できた症例を対象とした.挿入したCIOLは,DCB00V(オプティブルー:ワンピースアクリル,Johnson&Johnson)であった.対象の除外基準は,術前に白内障以外に視力に影響を及ぼす角膜疾患や網膜疾患があるもの,屈折矯正手術や外傷の既往があるもの,光学式眼軸長測定装置COA-2000(トーメーコーポレーション)で測定できなかったもの,Zinn小帯脆弱例,術中および術後合併症のあったもの,術後矯正視力がC0.7未満であったものとした.年齢,性別,既往歴,現病歴,治療歴,屈折度数,視力,眼内レンズの種類,OA-2000による眼軸長と角膜屈折力(弱主経線:K1,強主経線:K2),前房深度,水晶体厚,角膜横径を診療録から抽出した.IOL度数計算式にはCSRK/T,Barrett,Kane,EVOのC4式を用いた.各計算式に用いた眼球パラメータを示す(表1).実際の手術で使用したCIOL度数の決定にはすべてCSRK/Tが用いられており,その後,挿入CIOL度数での術後予想屈折値をCSRK/T以外のC3式でも算出した.レンズ定数にはメーカー推奨値を使用しCSRK/T,Kane,EVOにはCA定数C118.8,BarrettにはCLensCFac-tor1.77を用いた.定数による誤差の要因を除去するために,既報7)に基づき各眼の屈折誤差値から全体の単純屈折誤差の平均値を減算して平均値がC0になるように較正した値で比較検討を行った.屈折誤差は,術後C3カ月における自覚的屈折値の等価球面値と挿入CIOL度数における各式の予想屈折値との差(自覚的屈折値-予想屈折値)と定義した.検討項目は各計算式における単純値屈折誤差,絶対値屈折誤差,屈折誤差±0.25D,C±0.50D,C±1.00D以内の割合,眼軸長別における屈折誤差の割合,屈折誤差に関連する因子とした.眼軸長別の屈折誤差の割合は標準的な眼球形状とされるC23.0.25.0Cmm8)を基準とし,23.0Cmm未満,23.0.25.0Cmm,25.01Cmm以上のC3群に分けて解析を行った.屈折誤差に関連する因子は多変量解析で検討した.統計学的検討4式間における較正後絶対値屈折誤差の比較にはCFried-man検定,4式間における屈折誤差の割合の比較にはCochranのCQ検定,眼軸長別0.50D以内の割合の比較にはC|2検定を用いた.単純値屈折誤差に影響する因子の検討には重回帰分析を用い,目的変数は較正後の単純値屈折誤差,説明変数はCIOL度数,平均角膜屈折力,角膜乱視,前房深度,眼軸長,年齢,性別,角膜横径とした.IOL度数と単純値屈折誤差の相関にはCSpearmanの順位相関係数を用いた.すべての統計解析の有意水準はC5%未満とし,統計ソフトはCSPSSver.22(IBM社)を用いて行った.CII結果本研究で対象となったC88例C150眼の平均年齢はC74.0C±6.6歳(52.88歳),男性C77眼,女性C73眼,角膜屈折力の弱主経線はC43.91C±1.56D(40.61.48.70D),強主経線はC44.81C±1.61D(41.41.49.56D),角膜乱視はC.0.90±0.55D(C.0.05..2.73D),角膜横径はC11.54C±0.49Cmm(10.14.13.35mm),前房深度C3.24C±0.40Cmm(2.16.4.23Cmm),眼軸長はC23.87±1.38mm(21.69.28.55mm),術後視力はClogMARC.0.10±0.07(0.18.C.0.15),挿入CIOL度数はC19.86C±3.08D(9.5.25.50D)であった(表2).各眼軸長別の症例数の分布を示す(図1).C1.術後屈折誤差屈折誤差の平均値,標準偏差,中央値,四分位範囲の値を示す(表3).較正前の単純値屈折誤差(平均値C±標準偏差)はCSRK/TでC0.12C±0.45D,BarrettでC0.16C±0.44D,KaneでC0.14C±0.44D,EVOでC0.14C±0.43,絶対値屈折誤差はSRK/TでC0.35C±0.31D,BarrettでC0.35C±0.31D,KaneでC0.34±0.31D,EVOでC0.34C±0.30Dであった.較正後の絶対値屈折誤差はCSRK/TでC0.34C±0.30D,BarrettでC0.33C±0.28D,KaneでC0.33C±0.29D,EVOでC0.32C±0.28Dであり,各式間で有意差はなかった(p=0.746)(図2).表2患者背景60年齢C74.0±6.6C50性別(男性/女性)77:73角膜屈折力CK1(D)C43.91±1.56C40角膜屈折力CK2(D)C44.81±1.61平均角膜屈折力(D)C44.36±1.56C30角膜乱視(D)C.0.90±0.55C20角膜横径(mm)C11.54±0.49C10前房深度(mm)C3.24±0.40眼軸長(mm)C23.87±1.38C0術後ClogMARC.0.10±0.07挿入CIOL度数C19.86±3.08平均値±標準偏差図1眼軸長別の症例数の分布21mm代は6眼,22mm代は37眼,23mm代は49眼,24mm代は27眼,25mm代は17眼,26mm代はC10眼,27mm代は3眼,28mm代はC1眼,平均眼軸長はC23.87C±1.38mm(21.69.28.55mm)であった.表3単純値および絶対値屈折誤差症例数(眼)2122232425262728眼軸長(mm)単純値屈折誤差(D)絶対値屈折誤差(D)150眼CSRK/TCBarrettCKaneCEVOCSRK/TCBarrettCKaneCEVO平均値C0.12C0.16C0.14C0.14C0.35C0.35C0.34C0.34標準偏差C0.45C0.44C0.44C0.43C0.31C0.31C0.31C0.30中央値C0.11C0.10C0.11C0.11C0.25C0.26C0.23C0.24四分位範囲C0.55C0.51C0.50C0.47C0.44C0.43C0.39C0.43最小C.1.32C.1.01C.1.07C.1.06C0.00C0.01C0.00C0.00最大C1.85C1.66C1.66C1.61C1.85C1.66C1.52C1.47範囲C3.17C2.67C2.73C2.67C1.85C1.66C1.52C1.47(NS.Friedman’stest)較正後単純値屈折誤差(D)絶対値屈折誤差(D)150眼CSRK/TCBarrettCKaneCEVOCSRK/TCBarrettCKaneCEVO平均値C0.00C0.00C0.00C0.00C0.34C0.33C0.33C0.32標準偏差C0.45C0.44C0.44C0.43C0.30C0.28C0.29C0.28中央値C.0.01C.0.06C.0.03C.0.04C0.29C0.26C0.26C0.24四分位範囲C0.55C0.51C0.50C0.47C0.42C0.33C0.32C0.34最小C.1.43C.1.16C.1.21C.1.20C0.00C0.01C0.00C0.00最大C1.73C1.50C1.52C1.46C1.73C1.50C1.52C1.46範囲C3.16C2.66C2.73C2.66C1.73C1.49C1.52C1.462.術後屈折誤差の割合各計算式における屈折誤差の割合を示す(表4).0.25D以内の割合はCSRK/TでC48.0%(72眼),BarrettでC48.0%(72眼),KaneでC50.7%(76眼),EVOでC51.3%(77眼)で,EVOはCSRK/TとCBarrettよりも有意に割合が高かった(p<0.05).EVOとCKaneに有意差はなかったが,EVOとは異なりCKaneとCSRK/T,Barrett間には有意差はなかった.0.50D以内の割合はCSRK/TでC73.3%(110眼),Barrettで(NS.Friedman’stest)79.3%(119眼),KaneでC78.7%(118眼),EVOでC78.7%(118眼)であり,Barrett,Kane,EVOはCSRK/Tよりも有意に割合が高かった(各Cp<0.01).1.00D以内では各式間で有意差がなかった(p=0.06).各計算式で屈折誤差C1.00Dを超える症例がC3.5例みられたが原因は不明であった.そのうちC4式で共通していたC2例においても,逸脱した術前パラメータはみられなかった.(D)単純値屈折誤差(D)絶対値屈折誤差2.002.001.501.001.500.500.001.00-0.50-1.000.50-1.50-2.000.00SRK/TBarrettKaneEVOSRK/TBarrettKaneEVO(NS.Friedman’stest)(NS.Friedman’stest)図2較正後の単純値屈折誤差と絶対値屈折誤差絶対値屈折誤差はCSRK/TでC0.34C±0.30D,BarrettでC0.33C±0.28D,KaneでC0.33C±0.29D,EVOでC0.32±0.28Dであり,各式間で有意差はなかった(p=0.746).表4絶対値屈折誤差における割合計算式0.25D以内0.50D以内1.00D以内SRK/TCBarrettCKaneCEVOC48.0%(n=72)*48.0%(n=72)50.7%(n=76)*51.3%(n=77)73.3%(n=110)97.3%(n=146)79.3%(n=119)**96.0%(n=144)78.7%(n=118)**96.0%(n=144)78.7%(n=118)98.0%(n=147)(**p<0.01,*p<0.05.Cochrans’sQtest)表5眼軸長別の屈折誤差0.50D以内の割合p値計算式23.0Cmm未満23.0Cmm.25.0Cmm25.01Cmm以上(Chi-squaretest)SRK/T65.1%(n=28)81.8%(n=63)83.3%(n=25)C0.076CBarrett81.4%(n=35)81.8%(n=63)83.3%(n=25)C0.976CKane76.7%(n=33)*80.5%(n=62)80.0%(n=24)C0.882CEVO76.7%(n=33)80.5%(n=62)90.0%(n=27)C0.347C3.眼軸長別の術後屈折誤差0.50D以内の割合眼軸長別の屈折誤差C0.50D以内の割合を示す(表5).眼軸長C23.0mm未満での割合は,SRK/TはC65.1%(28眼),BarrettでC81.4%(35眼),KaneでC76.7%(33眼),EVOで76.7%(33眼)となりCBarrett,Kane,EVOはCSRK/Tよりも有意に割合が高かった(SRK/TCvsBarrett:p<0.01,CSRK/TvsKane:p<0.05,SRK/TvsEVO:p<0.05).眼軸長C23.0.25.0Cmmおよび眼軸長C25.01Cmm以上における割合は,各式間で有意差はなかった(各Cp=0.392,0.096).また,各計算式における眼軸長別のC0.50D以内の割合では,Barrett(p=0.976),Kane(p=0.882),EVO(p=0.347)は有意差がなかったが,SRK/T(p=0.076)ではC23.0Cmm未満C114あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023(**p<0.01,*p<0.05.Cochrans’sQtest)で低い傾向がみられた.C4.単純値屈折誤差に影響する因子単純値屈折誤差における重回帰分析の結果を示す(表6).SRK/Tは前房深度(標準偏回帰係数C0.26,p<0.01),眼軸長(0.41,p<0.01),挿入CIOL度数(0.75,p<0.01),Bar-rettは平均角膜屈折力(0.26,p<0.05),眼軸長(0.58,p<0.05),IOL度数(0.65,p<0.01),KaneはCIOL度数(0.16,p<0.05),EVOはCIOL度数(0.21,p<0.01)が関連因子であった.多重共線性の確認を行ったが,分散拡大要因がC10を超える変数や説明変数間の相関行列において相関係数が0.9以上を示したものはなく,Durbin-Watson比がC2に近い値を示し残差はランダムであったことから,すべての変数を(114)表6単純値屈折誤差における重回帰分析計算式変数偏回帰係数標準偏回帰係数偏回帰係数C95%信頼区間p値下限値上限値CSRK/T定数C.6.32C.9.28C.3.36<0.01前房深度C0.29C0.26C0.09C0.49<0.01眼軸長C0.13C0.41C0.04C0.22<0.01挿入CIOL度数C0.11C0.75C0.07C0.15<0.01CBarrett定数C.9.44C.16.75C.2.13<0.05平均角膜屈折力C0.07C0.26C0.00C0.14<0.05眼軸長C0.19C0.58C0.04C0.33<0.05挿入CIOL度数C0.09C0.65C0.03C0.15<0.01CKane定数C.0.46C.0.92C.0.01<0.05挿入CIOL度数C0.02C0.16C0.00C0.05<0.05CEVO定数C.0.59C.1.03C.0.15<0.01挿入CIOL度数C0.03C0.21C0.01C0.05<0.01SRK/T:単純値屈折誤差とIOL度数Barrett:単純値屈折誤差とIOL度数2.002.001.50y=0.039x-0.77451.50y=0.0233x-0.46021.00R2=0.07071.00R2=0.02730.500.500.000.00-0.50-0.50-1.00-1.00-1.50-1.50-2.00-2.005.00(D)10.0015.0020.0025.0030.000.00(D)5.0010.0015.0020.0025.0030.00Kane:単純値屈折誤差とIOL度数EVO:単純値屈折誤差とIOL度数2.002.001.50y=0.023x-0.4565R2=0.02631.50y=0.0289x-0.5724R2=0.04361.001.000.500.500.000.00-0.50-0.50-1.00-1.00-1.50-1.50-2.00-2.005.00(D)10.0015.0020.0025.0030.005.00(D)10.0015.0020.0025.0030.00(Spearman’srankcorrelationcoe.cient)図3単純値屈折誤差と挿入IOL度数との相関相関係数(r)は,SRK/TでCr=0.25(p<0.001),BarrettでCr=0.16(p=0.057),KaneでCr=0.15(p=0.062),EVOでCr=0.20(p<0.05)であった.対象とした.すべての計算式で関連因子であった挿入CIOL度数と単純値屈折誤差の相関係数(r)は,SRK/TでIII考按r=0.25(p<0.001),BarrettでCr=0.16(p=0.057),Kaneこれまでに日本人において新しいCIOL度数計算式であるでr=0.15(p=0.062),EVOでCr=0.20(p<0.05)であったKaneとCEVOを用いた報告は筆者らが調べた限りなく,本(図3).研究が初めての報告である.その結果,KaneおよびCEVOは従来の計算式であるCSRK/TやCBarrettよりも予測精度の高い計算式であることが明らかとなった.C1.術後屈折誤差とその割合本研究における較正後絶対値屈折誤差の中央値はCEVO,Kane,Barrett,SRK/Tの順に小さかった.屈折誤差C0.25D以内の精度ではCEVOはCSRK/TやCBarrettよりも有意に精度が高く,Kaneと同等であった.0.50D以内の精度では,EVO,Barrett,Kaneは同等で,3式ともにCSRK/Tよりも有意に精度が高い結果であった.既報において,Saviniら9)の検討では,屈折誤差の中央値はCEVO:0.205,Kane:0.200,Barrett:0.202,SRK/T:0.221で,EVO,Kane,BarrettはCSRK/Tよりも屈折誤差が小さかった.さらに,術後屈折誤差C0.50D以内の割合はEVO:90.7%,Kane:90.0%,Barrett:88.0%,SRK/T:84.7%で,EVOおよびCKaneは精度が高かったと報告している.Hipolito-Fernandesら6)はC13のCIOL度数計算式を比較した結果,Kaneがもっとも予測精度の高い計算式であり,ついでCEVOも優れた結果であったことを報告している.Darcyら10)やCConnellら11)の検討においても,Kaneはもっとも予測誤差が小さく,BarrettやCSRK/Tよりも精度が高いことが報告されている.また,EVOにおける前房深度パラメータの有無による検討では,術後屈折C0.50D以内の割合は前房深度ありがC83.5%に対して前房深度なしがC87.0%で,前房深度なしのほうが高く,KaneのC86.5%と同等であったという興味深い報告もある12).本研究の結果は既報と同様の結果が得られたことから,日本人においてもCEVOとCKaneはCBarrettやCSRK/Tよりも予測精度が高い計算式である可能性が示唆された.さらに,EVOは前房深度を用いず必要最小限のパラメータであっても予測精度が高い可能性もあるが,今後詳細な検討が必要である.C2.眼軸長別の術後屈折誤差の割合本研究における眼軸長別の屈折誤差の検討では,23.0Cmm未満においてCSRK/Tが他のC3式に比して精度が有意に低い結果であったが,23.0.25.0CmmおよびC25.01Cmm以上においてはC4式間での有意差はなかった.各式における眼軸長別の屈折誤差の割合では,EVO,Kane,Barrettでは有意差はなかったが,SRK/TではC23.0Cmm未満で低い傾向がみられた.そのため,SRK/TはC23.0Cmm未満の短眼軸眼において精度が劣る可能性が示唆された.Barrettは眼軸長C28.0Cmm以上の強度近視眼やC22.0Cmm以下の短眼軸眼において高い精度であったと報告されている3,4).Saviniら9)の眼軸長C26.0Cmm以上における検討では,屈折誤差C0.25D以内の割合はCSRK/TがC42.1%,Barrettが47.4%,KaneがC52.6%,EVOがC68.4%,屈折誤差C0.50D以内の割合はCSRK/TがC84.2%,BarrettがC84.2%,KaneがC94.7%,EVOがC89.5%で,KaneおよびCEVOはCSRK/TやCBarrettよりも精度が高かったと報告している.Mellesら13)はCKane,EVO,Barrett,SRK/Tを含むC10式の比較において,Kaneがもっとも予測誤差が小さく,短眼軸,標準眼軸,長眼軸のいずれにおいてももっとも正確であったと報告している.Darcyら10)の検討でも同様に,眼軸長別のサブ解析においてCKaneは予測誤差がもっとも小さかったと報告している.本研究におけるCBarrett,Kane,EVOは眼軸長別の屈折誤差に有意差がなく,既報9)とは異なる結果であった.その理由としては,本研究では対象の平均眼軸長がC23.9Cmmと標準的な眼球形状の症例が多く含まれており,23.0Cmm未満はC43眼(22.0Cmm以下はC7眼),25.01Cmm以上はC30眼(26.0mm以上はC14眼)と,短眼軸および長眼軸長が少なかったことが結果に影響したと考えられる.また,本研究では既報8)の標準的な眼球形状とされるC23.0.25.0Cmmを基準として眼軸長別の解析を行ったことも影響していると思われる.そのため,本研究の結果からは,眼軸長C23.0mm未満でEVO・Kane・BarrettはCSRK/Tよりも精度が高く,EVO,Kane,Barrettは眼軸長の影響を受けにくい計算式である可能性が示唆された.さらに,既報9)のように長眼軸長を増やして検討を行うと,EVOおよびCKaneは,BarrettやCSRK/Tよりも予測精度が高い可能性もあるため,今後の検討課題である.C3.術後屈折誤差に関連する因子本研究における術後屈折誤差に関連する因子は,SRK/Tでは挿入CIOL度数,眼軸長,前房深度,Barrettでは挿入IOL度数,眼軸長,平均角膜屈折力,であった.一方,EVOおよびCKaneでは関連因子は挿入CIOL度数のみで,標準偏回帰係数は小さかった.Mellesら8)は,SRK/Tでは角膜屈折力や前房深度,眼軸長,挿入CIOL度数による影響を受けること,Barrettでは角膜屈折力や挿入CIOL度数に影響を受けるが前房深度による影響は小さいことを報告している.Hipolito-Fernandesら14)は,KaneおよびCEVOは極端な前房深度と水晶体厚の眼においても予測精度が高いことを報告している.また,IOL度数については,どのような計算式でもハイパワー,ローパワーになるほど屈折誤差を生じてしまうこと14),ハイパワーレンズは製造過程で誤差が存在すること15),が報告されている.BarrettとCSRK/Tにおいて本研究と既報8)の結果は異なる部分もあるが,対象や解析方法が異なることが影響していると考えられる.本研究は,多変量解析による屈折誤差に関連する因子を検討しており,多変量解析を行っていない既報13)よりも眼球形状をより反映した結果であると思われる.そして,EVOおよびCKaneは,角膜屈折力や眼軸長の影響は受けにくく,極端な前房深度や水晶体厚でも精度が高く,従来の計算式と同様に挿入CIOL度数によって屈折誤差は生じるがその影響は小さいことが考えられる.よって,EVOおよびCKaneは術前生体計測値の影響を受けにくい計算式であることが示唆された.しかし,短眼軸や長眼軸の症例数の割合が増えると,結果が変わる可能性もあるため,眼軸長別の屈折誤差に関連する因子の検討が必要である.C4.本研究における問題点本研究の問題点としては,症例数が少ないこと,両眼のデータを採用している症例が多く含まれていることで結果に影響した可能性があること,標準的な眼軸長の対象が多く含まれており,長眼軸眼や短眼軸眼での屈折誤差の検討ができていないこと,KaneとCEVOではオプション入力である角膜厚や水晶体厚は用いておらず,必要最小限のパラメータを用いての検討であること,複数名の術者による結果であること,があげられる.また,後ろ向き研究であるため屈折誤差の因子とされている術後屈折の測定誤差16)の影響も考えられる.さらに,BarrettやCEVO,Kaneについては,IOL度数計算式が非公開であるため各術前パラメータがどのように組み込まれた結果であるかが不明であるため,計算式の違いによる詳細な比較検討はできないことも限界点である.そのため,今後は症例数を増やし,長眼軸長や短眼軸長を含めてより詳細な眼軸長別の屈折誤差や屈折誤差に関連する因子の検討を行い,オプション入力のパラメータの有無による予測精度の違いを検討する予定である.EVOおよびCKaneでは,角膜厚や水晶体厚を用いることでより予測精度の高い結果が得られることが期待される.CIV結論日本人における四つのCIOL度数計算式の比較検討において,EVOはCSRK/TやCBarrettよりも精度が高く,Kaneと同等であった.さらに,EVOとCKaneは標準値を外れた術前生体計測値でも影響を受けにくい計算式であることが示唆された.文献1)Retzla.JA,SandersDR,Kra.MCetal:DevelopmentoftheSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationfor-mula.JCataractRefractSurgC16:333-340,C19902)佐藤正樹,神谷和孝,小島隆司ほか:2020CJSCRSCclinicalCsurvey.IOL&RSC34:412-432,C20203)RongX,HeW,ZhuQetal:Intraocularlenspowercalcu-lationCinCeyesCwithCextrememyopia:ComparisonCofCBar-rettCUniversalCII,CHaigis,CandCOlsenCformulas.CJCCataractCRefractSurgC45:732-737,C20194)ShrivastavaCAK,CBeheraCP,CKumarCBCetal:PrecisionCofCintraocularClensCpowerCpredictionCinCeyesCshorterCthan22mm:Ananalysisof6formulas.JCataractRefractSurgC44:1317-1320,C20185)SaviniG,TaroniL,Ho.erKJetal:RecentdevelopmentsinCintraocularClensCpowerCcalculationCmethodsC─CupdateC2020.CAnnTranslMedC8:1553,C20206)Hipolito-FernandesCD,CLuisCME,CGilCPCetal:VRF-G,CaCnewCintraocularClensCpowerCcalculationformula:AC13-FormulasCComparisonCStudy.CClinCOphthalmolC14:C4395-4402,C20207)WangCL,CKochCDD,CHillCWCetal:PursuingCperfectionCinCintraocularClenscalculations:III.CCriteriaCforCanalyzingCoutcomes.JCataractRefractSurgC43:999-1002,C20178)MellesCRB,CHolladayCJT,CChangCWJCetal:AccuracyCofCintraocularlenscalculationformulas.OphthalmologyC125:C169-178,C20189)SaviniCG,CHo.erCKJ,CBalducciCNCetal:ComparisonCofCfor-mulaCaccuracyCforCintraocularClensCpowerCcalculationCbasedonmeasurementsbyaswept-sourceopticalcoher-encetomographyopticalbiometer.JCataractRefractSurgC46:27-33,C202010)DarcyCK,CGunnCD,CTavassoliCSCetal:AssessmentCofCtheCaccuracyCofCnewCandCupdatedCintraocularClensCpowerCcal-culationCformulasCinC10930CeyesCfromCtheCUKCNationalCHealthService.JCataractRefractSurgC46:2-7,C202011)ConnellCBJ,CKaneJX:ComparisonCofCtheCKaneCformulaCwithCexistingCformulasCforCintraocularClensCpowerCselec-tion.BMJOpenOphthalmolC4:e000251,C201912)SaviniCG,CMaitaCMD,CHo.erCKJCetal:ComparisonCofC13CformulasCforCIOLCpowerCcalculationCwithCmeasurementsCfromCpartialCcoherenceCinterferometry.CBrCJCOphthalmolC105:484-489,C202113)MellesRB,KaneJX,OlsenTetal:Updateonintraocularlenscalculationformulas.OphthalmologyC126:1334-1335,C201914)Hipolito-FernandesCD,CLuisCME,CSerras-PereiraCRCetal:CAnteriorCchamberCdepth,ClensCthicknessCandCintraocularClenscalculationformulaaccuracy:nineformulascompari-son.BrJOphthalmolC106:349-355,C202215)禰津直久:IOL度数決定の最前線─バレットは最強か.あたらしい眼科36:1485-1492,C201916)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercal-culation.JCataractRefractSurgC34:368-376,C2008***

白内障術後単焦点眼内レンズ挿入眼に多焦点ハードコンタクトレンズを処方した円錐角膜の1例

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):542.545,2018c白内障術後単焦点眼内レンズ挿入眼に多焦点ハードコンタクトレンズを処方した円錐角膜の1例大口泰治*1塩谷浩*1,2堀切紘子*1石龍鉄樹*1*1福島県立医科大学医学部眼科学講座*2しおや眼科CPrescriptionofMultifocalHardContactLensforKeratoconusPatientwithSingle-FocusIntraocularLensafterCataractSurgeryYasuharuOguchi1),HiroshiShioya1,2),HirokoHorikiri1)andTetsujuSekiryu1)1)DepartmentofOphthalmologyFukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)ShioyaEyeClinic白内障術時に単焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼となった円錐角膜患者に多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalhardcontactlens:MF-HCL)を処方し,良好な遠方および近方視力を得ることができたC1例を経験した.症例はC73歳,女性で,28歳時に両眼の円錐角膜と診断された.両眼とも単焦点CHCLによる視力は右眼がC1.0C×HCL(n.c.),左眼がC1.0×HCL(n.c.)と良好であった.73歳時に右眼白内障が進行したため白内障手術(単焦点CIOL挿入術)を施行した.HCLのセンタリングが良好であったため右眼にCMF-HCLを処方した.MF-HCL装用下での右眼の遠方視力はC0.9,近方視力はC0.7となり,患者は眼鏡を併用することなく日常生活を送ることできた.HCLのフィッティングが良好な円錐角膜患者は,白内障術後にCMF-HCLを装用することで良好な遠方および近方視力を獲得できる可能性がある.CWeCrecentlyCencounteredCaCpatientCwithCkeratoconusCwhoCwasCprescribedCmultifocalChardCcontactClensCaftermonofocalCintraocularClensCinCcataractCsurgeryCandCachievedCexcellentCdistanceCandCnearCvisualCacuity(VA).CTheC73-year-oldJapanesefemalehadbeendiagnosedwithkeratoconusat28yearsofage.HercorrectedVAwas1.0intherightandlefteyeswithhardcontactlenses.At73yearsofage,shehadcataractsurgeryonherrighteye.Sincecontactlensrestingpositionalmostcenteredonthecornea,weprescribedmultifocalhardcontactlensaftersurgery.HercorrecteddistanceVAwas0.9andnearVAwas0.7;therefore,shedidn’tneedglassesindailylife.KeratoconusCpatientsCwithCmultifocalChardCcontactClensCrestingCinCaCcentralCpositionCmayChaveCtheCopportunityCtoCachieveexcellentdistanceandnearVAaftercataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):542.545,C2018〕Keywords:円錐角膜,眼内レンズ,多焦点ハードコンタクトレンズ,老視.keratoconus,intraocularlens,multi-focalhardcontactlens,presbyopia.Cはじめに円錐角膜はC10歳代で発症し角膜の菲薄化と突出を特徴とする疾患で,数千人に一人の割合で発症し視力低下を引き起こす.その屈折矯正および治療法は眼鏡による矯正,コンタクトレンズ(contactlens:CL)による矯正,全層角膜移植,角膜クロスリンキングなどがあるが,屈折矯正には主としてハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が用いられる.HCLが使用されるようになって約C60年を経た今日でも,加齢に伴って老視や白内障が生じる状況となった円錐角膜患者への対応は課題として残っている.眼鏡による屈折矯正効果が不良のために若年時からCHCLを使用している円錐角膜患者は,老視や白内障術後のように調節が失われた状態になってもCHCLの使用を続けることが必要であり,眼鏡を併用する煩わしさを避けるためには,HCLの装用だけで遠方および近方を見る生活ができることが理想である.今回筆者らは白内障術時に単焦点眼内レンズ(intraocularlens:〔別刷請求先〕大口泰治:〒960-1295福島県福島市光が丘1福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YasuharuOguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyFukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,1Hikariga-oka,FukushimaCity,Fukushima960-1295,JAPAN542(124)IOL)挿入眼となった円錐角膜患者に対し,多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalChardCcontactClens:MF-HCL)を処方し,眼鏡を併用させることなく良好な遠方および近方視力を得ることができたC1例を経験したので報告する.CI症例〔症例〕73歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:28歳時に近医にて円錐角膜と診断され,HCLを処方され経過観察中であった.49歳時に当院眼科へ紹介され初診した.初診時所見:細隙灯検査では両眼の角膜下方に混濁を伴う軽度突出があり,円錐角膜と診断した.他覚的屈折値は右眼C.6.25D(cyl.5.50DCAx162°,左眼C.8.25D(cyl.2.75DAx133°で,自覚的屈折値は右眼C0.03(0.7C×.6.50D),左眼0.02(0.2C×.8.00D(cyl.1.00DCAx130°)と矯正視力は不良であった.HCLは旭化成アイミー・アイミーCOC2(Dk値(D:di.usioncoe.cient,k:solubilitycoe.cient,酸素透過係数):21.2C×10.11Ccm2/sec)を右眼は(7.60Cmm/+0.75D/9.0Cmm)(ベースカーブ/度数/サイズ),左眼は(7.60Cmm/+1.50D/9.0mm)の規格で処方し,視力は右眼C1.0C×HCL,左眼C1.0C×HCLとなった.59歳時にはレンズの種類を変更してサンコンタクトレンズ製のサンコンマイルドCII(Dk値:C12.1×10.11Ccm2/sec)を右眼は(7.40Cmm/+0.75D/8.8Cmm),左眼は(7.45Cmm/+1.00D/8.8Cmm)の規格で処方し,視力は右眼C1.0C×HCL,左眼C1.0C×HCLとなり,装用を継続していた.60歳代から白内障のため右眼は視力が徐々に低下し,73歳時には右眼の視力はC0.3C×HCL(n.c.)となったため,白内障手術を施行することになった.経過:白内障手術を施行するにあたり,円錐角膜であるため,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,AS-OCTCSS-1000CCASIA(TOMEY製)を用い中央C9点の角膜曲率半径の平均値からCK値を計算(平均CK値:6.65mm)し,眼軸長:23.57CmmからCSRK/T式を用いて挿入する単焦点IOL度数(+19.00D,VivinexCiSertCXY1CR,HOYA,予想屈折度数.2.00D)を決定した1)(図1).水晶体超音波乳化吸引術およびCIOL挿入術を施行し,術後C2カ月の右眼の他覚的屈折値は.3.50D(cyl.5.00DAx78°で,視力は0.6(betterC×.3.50D(cyl.5.00DAx80°)であった.最良の近方の見え方が得られる最小の矯正度数は単焦点CIOL挿入眼であることから,球面度数はC.0.50D,すなわち(C.0.50D(cyl.5.00DCAx80°)程度になると考えられた.裸眼では針の穴に糸を通せたが,遠くはぼやける状態であった.角膜形状はAS-OCTで術前と変化なかったため,角膜不正乱視により網膜像は不鮮明であり,遠方の見え方に合わせた完全矯正の単焦点CHCLでは近方が見えなくなることが考えられたため,図1AS.OCTによる角膜形状解析下方で突出した角膜を認める.右眼にCMF-HCL(サンコンタクトレンズ製のサンコンマイルドCiアシストタイプ・Dk値:95.1CcmC2/sec)を処方した.処方規格の決定にあたっては,ベースカーブは術前に使用していたCHCLと同じC7.40Cmmとし,サイズはCAS-OCTでCK値がC50Dと中等度の円錐角膜であったが,HCLが角膜中央に位置し,視線の移動でレンズの中心光学部と周辺光学部を通して見ることが可能な状態を得られるように,術前に使用していたCHCLより大きいC9.0Cmmで処方した.球面度数は塩谷ら4.6)の白内障術後単焦点IOL挿入眼への遠近両用SCLの処方方法を参考にし,単焦点CHCLで遠方矯正に適当と考えられる度数よりC1.00Dプラス側にし,処方規格は(7.40Cmm/+1.00DCADD+0.50D/9.0Cmm)〔ベースカーブ/度数加入度数(ADD)/サイズ〕となった.遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(+0.25DCcyl.0.75DCAx70°),近方視力はC0.7C×HCLであった.手術を行っていない左眼の遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(.0.50D)であり,両眼開放下で遠方視力はC1.0C×HCL,近方視力はC0.7C×HCLとなり,遠方および近方の見え方に患者の満足が得られ,MF-HCLの処方は有用であると考えられた.CII考按一般的に円錐角膜へのCHCLの処方は,眼鏡では矯正できない強い不正乱視の患者の屈折を矯正し,不自由なく日常生活を送ることができようにすることが目的であり,円錐角膜の老視や円錐角膜の白内障術後の単焦点CIOL挿入眼にMF-HCLを応用した報告は過去にない.従来,円錐角膜の老視や単焦点CIOL挿入眼の調節補助はCHCL装用下でのモノビジョンや眼鏡により行われていた2)が,本報告は円錐角膜がCMF-HCLの適応となりうることを示すと同時に,白内障ab図2MF.HCLのフィッティングa:やや鼻側よりだがこの位置で安定している.Cb:フルオレセインで下方突出角膜にフィットしている.C術後に単焦点CIOL挿入眼となった円錐角膜患者も適応となりうることを示している.近年,MF-HCLは新製品が開発され急速に進歩しているものの,患者の満足を得るためにはCMF-HCLの各製品の光学的機能を効果的に活用するように処方時に工夫が必要3)なのが現状である.そのためCHCLのフィッティングを適正にすること自体がむずかしい円錐角膜へのMF-HCLの処方は,一般に適応にはならないと考えられる.また,単焦点CIOL挿入眼へのCMF-CLの処方は,理論的には加入度数は不足であり,多焦点ソフトコンタクトレンズでの報告はあるが4.6),MF-HCLではいまだ一般的ではない.本症例では手術時年齢がC73歳であり,白内障術前の両眼単焦点CHCL装用時にも近方視時に支障があるばかりか,白内障術後の両眼単焦点CHCL装用眼時にはよりいっそう術後明視域の問題が生じると思われることから,高齢の円錐角膜の特殊性を考慮し,眼鏡を併用する煩わしさを避けるためには,単焦点CIOL+MF-HCLが患者の生活スタイルを維持するために最良の方法であると判断し,手術治療を計画した.また,術後屈折度数をCHCL装脱時に手元が見える屈折として.2.00Dに設定した.術後の右眼の裸眼遠方視力はC0.6となり,HCLや眼鏡の視力補正用具を使用することなく針の穴を通せる近方視も得られたが,術後C2カ月に角膜乱視を矯正して遠方の見え方の質をよりよくするためCHCLを処方することにした.MF-HCL(サンコンマイルドCiアシストタイプ.Dk値:95.1CcmC2/sec)のテストレンズ(7.40Cmm/C.3.00CDCADD+0.50D/9.0Cmm)のフィッティングは,レンズがやや鼻側に偏位していたが上下方向では角膜中央に位置しており,視線の移動でレンズの中心光学部と周辺光学部を通して見ることが可能な状態と判断した(図2).追加矯正を行い0.6(0.9C×HCL(+3.00D)となったため,加入度数は+0.50Dのままとし,球面度数を自覚屈折値よりC1.00Dプラス側の値に設定し,(7.40Cmm/+1.00DCADD+0.50D/9.0Cmm)の規格で処方した.遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(+0.25DCcyl.0.75DAx70°),近方視力はC0.7C×HCLであったことと患者の自覚的満足の状況から判断しCMF-HCLの装用が近方視に有利に働いたものと考えられた.有水晶体眼に対するCMF-SCL処方では,遠方の見え方の質を落とさないために非優位眼の球面度数をプラス側に設定し加入度数を最小限にする3),単焦点CIOL挿入眼では遠方視力を低下させずに高い加入度数を選択できるという報告がある4.6).本症例は,手術を行った右眼は非優位眼であったため,球面度数を遠方に適正と考えられる度数よりもプラス側に設定し,低い加入度数を選択したことで,近用光学部により生じる遠方視の質への影響を最小限にしながら,優位眼の左眼の遠方の見え方を生かしたモディファイド・モノビジョン法での処方を試みたが,結果的には遠方に適正矯正となった状況で遠方および近方ともに良好な視力を得ることができたものと思われた.有水晶体眼の円錐角膜であれば単焦点HCLのみ使用のモノビジョン法での対応は可能であるが,ほとんど調節力がない単焦点CIOL挿入眼の円錐角膜であれば,単焦点CHCLによるモノビジョン法での対応はむずかしく,MF-HCLの処方が有用であると考えられた.円錐角膜を有する白内障症例は不正乱視と調節への対応が課題である.術後眼鏡を使用するならば,①トーリックIOL,あるいは②角膜内リング+単焦点CIOLでの対応が可能と考えられる.また,③角膜内リング+多焦点IOL,あるいは④多焦点トーリックCIOLによる治療を行うことで術後眼鏡を使用することなく不正乱視と調節への同時対応が可能と考えられる.現在,トーリックCIOLにハイパワーの円柱度数に対応した製品が登場したことで円錐角膜でも術後良好な視力を得られるようになってきている7,8).また,角膜内リングと多焦点CIOLの組み合わせにより良好な裸眼視力を得ることができた症例が報告がされている9,10).さらに遠近両用トーリックCIOLで遠方・中間・近方視力ともに裸眼で良好な視力を得られたという報告もされている11).①による対応では調節への対応ができず術後眼鏡が必要となる.②③④による対応は筆者らの施設では角膜内リングや多焦点トーリックCIOLの手術経験がないため選択できず,AS-OCTで角膜厚がC400Cμmを下回る部分があり角膜内リングの適応ではなかった12).本症例では視力低下を引き起こす白内障を生じる前のC28.60歳時まではCHCLにより不正乱視を矯正でき良好な矯正視力を得ていたため,不正乱視に関してはCHCLで対応する予定とし,筆者らは有水晶体眼の円錐角膜でCMF-HCLの処方を経験しており,IOL挿入眼でも可能であると考えて単焦点CIOL+MF-HCLでの対応を行った.IOLは一度眼内に挿入すると変更が困難である.それに比較してCHCLは,何度でも処方変更の可能なリスクの少ない方法であり,規格を変更することで,より良好な視機能を得ることが可能であり,円錐角膜の角膜不正乱視の矯正にはCHCL装用は有用である.本報告は,今後増加してくる円錐角膜患者の老視や白内障術後CIOL挿入眼などの調節力が低下あるいは失われた眼に対してのCMF-HCLの処方は,角膜不正乱視の矯正とともに調節補助が可能であり,眼鏡を併用する煩わしさがなく,遠方および近方の両方に良好な視力を提供することができる症例が存在することを示している.今まで報告されている円錐角膜白内障症例への対応で①.④による治療は報告されているが7.11),単焦点CIOL+MF-HCLの報告はない.角膜内リング12)や多焦点トーリックCIOLの手術はまだ限られた施設での対応であり一般的でなく,どこの施設でも容易に扱うことのできるCMF-HCLを用いた本報告は,今後の新たな対応法として多くの施設で応用でき有用と考えられた.文献1)林研:【眼内レンズ度数決定の極意】特殊角膜における眼内レンズ度数決定円錐角膜,角膜移植後.あたらしい眼科C30:593-599,C20132)中山千里,百武洋子,東原尚代ほか:円錐角膜の老視対策としてのモノビジョン.日コレ誌C56:285-288,C20143)塩谷浩:【眼鏡とコンタクトレンズの実際的処方】実際的コンタクトレンズ処方コンタクトレンズの処方多焦点コンタクトレンズの処方.あたらしい眼科C32(臨増):C158-161,C20154)塩谷浩:私の処方私の治療(第C21回)眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.C57:C191-194,C20155)塩谷浩,梶田雅義:眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.57:164-167,C20156)塩谷浩:【完全攻略・多焦点コンタクトレンズ】ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(白内障術後).あたらしい眼科33:1145-1149,C20167)HashemiCH,CHeidarianCS,CSeyedianCMACetCal:EvaluationCoftheresultsofusingtoricIOLinthecataractsurgeryofkeratoconusCPatients.CEyeCContactCLensC41:354-358,C20158)ZvornicaninCJ,CCabricCE,CJusufovicCVCetCal:UseCofCtheCtoricCintraocularClensCforCkeratoconusCtreatment.CActaCInformMedC22:139-141,C20149)AlfonsoCJF,CLisaCC,CFernandez-VegaCCuetoCLCetCal:CSequentialintrastromalcornealringsegmentandmonofo-calintraocularlensimplantationforkeratoconusandcata-ract:Long-termCfollow-up.CJCCataractCRefractCSurgC43:C246-254,C201710)MontanoCM,CLopez-DorantesCKP,CRamirez-MirandaCACetal:MultifocaltoricintraocularlensimplantationforformefrusteCandCstableCkeratoconus.CJCRefractCSurgC30:282-285,C201411)FaridehD,AzadS,FeizollahNetal:ClinicaloutcomesofnewCtoricCtrifocalCdi.ractiveCintraocularClensCinCpatientswithcataractandstablekeratoconus:Sixmonthsfollow-up.Medicine(Baltimore)C96:e6340,C201712)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nusCwithCintracornealCrings.CJCCataractCRefractCSurgC26:C1117-1122,C2000***

白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1771.1775,2017c白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討大内雅之大内眼科CChangeinRefractiveStatusinVeryEarlyPostoperativeDaysinCataractSurgeryMasayukiOuchiCOuchiEyeClinic目的:白内障眼内レンズ(IOL)手術の術後超早期の屈折変化を調べ,翌日のみ遠視化傾向となる割合,その因子を検討した.方法:白内障CIOL手術を受けたC200眼を,0.25Cdiopter(D)より大きな差を有意として,術翌日がC2日目よりも遠視寄りだった症例(A群),翌日がC2日目より近視寄りだった症例(B群),2日間の変動がC±0.25D以内の症例(C群)に分け,術翌日.2日目の,眼圧,前房深度,角膜屈折力,角膜中央厚の変動を測定計算した.結果:組み入れされたC189眼の内訳は,A群C66眼,B群C38眼,C群C85眼であった.前房深度の変動はC3群間に差はなかった.角膜屈折力の変動はC3群に差があり,A群はCB群に比べ有意に大きく(p=0.02),A群では,角膜屈折力の変動と角膜中央厚の変動に有意な負の相関がみられた(p=0.01)が,術後C2日目以降は屈折変化がみられなかった.結論:白内障IOL手術の約C35%の症例で,術翌日は最終屈折より遠視寄りになり,それは,一時的な角膜厚の増加に伴う角膜屈折力の減少が因子となっている可能性が示唆された.CPurpose:Tostudytheincidenceofearlypostoperativerefractivechangeineyeswithhyperopicshiftonly,at1dayCpostCcataractCsurgery.CMethods:200CeyesCthatCunderwentCintraocularClens(IOL)implantationCwereCdividedinto3groupsbasedontheamountofdiopter(D)changeinrefractivestatusbetweendays1and2postoperative-ly:GroupCA:eyesCwith>0.25DChyperopicCchangeCinCsphericalCequivalent(SE)atCdayC1CasCcomparedCtoCdayC2postoperatively;GroupB:eyeswith>0.25Dmyopicchangeinsphericalequivalent(SE)atday1ascomparedtodayC2Cpostoperatively;GroupCC:eyesCwithinC0.25DCofCrefractiveCchangeCbetweenCdayC1CandCdayC2.CChangeCinanteriorchamberdepth(ACD),cornealpower(K),intraocularpressure(IOP)andcornealthicknessbetweendays1CandC2CpostoperativelyCwereCevaluated.CResults:OfCtheC200CoperatedCeyes,CthereCwereC66CeyesCinCGroupCA,C38eyesinGroupBand85eyesinGroupC;11eyeswereexcludedduetonotmeetingtheinclusioncriteria.EveninGroupAeyes,norefractivechangewasobservedat1week,1monthand6monthspostoperatively.Althoughnodi.erenceCinCACDCchangeCwasCfoundCbetweenCtheCgroups,Csigni.cantCdi.erenceCwasCseenCinCchangeCofCK,CwhichwasCsigni.cantlyClargerCinCGroupCACthanCinCGroupCB(p=0.02)C.CMoreover,Csigni.cantCnegativeCcorrelationCwasfoundCbetweenCchangeCofCKCandCchangeCofCcornealCthicknessCinCGroupCA(p=0.01)C.CConclusions:Ofthe189includedeyes,35%showedhyperopicchangeonlyatday1postoperativelyduetotheKvaluedecreasecausedbythetemporaryincreaseofcornealthickness.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1771.1775,C2017〕Keywords:眼内レンズ,術後屈折,遠視化,前房深度,角膜屈折力,角膜厚.intraocularlens,post-operativere-fraction,hyperopicchange,anteriorchamberdepth,cornealpower,cornealthickness.Cはじめにが開発されており,それらの多くは,眼軸長(axiallength:近年の白内障手術においては,小切開手術と光学式眼軸長AL)に加えて,角膜屈折力(K値)や前房深度(anterior測定器の登場で,術後球面度数の精度は向上してきた1).さchamberdepth:ACD)が重要な計算因子として用いられてらに,より正確な術後屈折を求めて,さまざまな度数計算式いる2,3).〔別刷請求先〕大内雅之:〒601-8453京都市南区唐橋羅城門町C47-1大内眼科Reprintrequests:MasayukiOuchi,M.D.,Ph.D.,OuchiEyeClinic,47-1Karahashi-Rajomon-cho,Minami-ku,Kyoto601-8453,CJAPAN術後屈折誤差の因子として,以前はCALがもっとも大きいとされていたが4),光学式眼軸長測定器の登場以後はその比重は小さくなり,術後の眼内レンズ(IOL)深度(e.ectivelensposition:ELP)の予測精度が最大の因子であり5),つぎに,とくに屈折矯正手術既往眼や角膜形状異常眼などで,K値が重要因子と考えられている6).一方,術式の進歩に加えてプレミアムCIOLの普及に伴い,早期の屈折安定が求められているが,白内障CIOL手術では,術翌日の超早期のみ,屈折値が最終値よりも遠視寄りになる症例をしばしば経験する.しかし,この術後超早期の屈折変化について論じた報告はない.本論文では,IOL手術後超早期の屈折変化を調べ,さらに,術翌日に遠視寄りの屈折を示す症例については,その因子を検討した.CI対象および方法本研究は,当院倫理委員会の審理を経て行われた前向き研究で,すべての組み入れ症例から,本研究への組み入れに対し文書による同意を得た.対象は,同一術者同一手技で水晶体摘出,同一CIOLの挿入を行った連続C134例C200眼で,組み入れ基準は,眼軸長がC22.0Cmm以上C28.0Cmm未満,術前角膜屈折力C42.0ジオプトリー(D)以上46.0D以下,水晶体核硬度Cemery分類CIII以下,円錐角膜などの角膜形状異常がない,水晶体以外に混濁を有さない,黄斑浮腫を有さない,術前に光学的眼軸長測定器CIOLマスター(CarlCZeissCMeditec社)による眼軸長測定が可能,術中合併症がなく,IOLが.内固定されている,術後に細隙灯顕微鏡で確認できるCDescemet膜皺襞,角膜浮腫,創口閉鎖不全がないことを条件とした.術式は,2.2CmmBENT透明角膜切開から,連続円形前.切開,ハイドロダイセクションの後,0.9mmミニフレアABSチップ,0.9Cmmウルトラスリーブを装着した超音波白内障手術装置CCENTURION(いずれもCAlcon社)を用いて水晶体を摘出し,同創からCDカートリッジを装.した電動IOL挿入機CAutoSertを用いてCSN60WF(いずれもCAlcon社)を挿入した.術翌日,術後C2日目に,他覚的屈折(等価球面値),角膜屈折力,ACD,角膜中央厚,眼圧を,術後C1週,1カ月,6カ月には,他覚的屈折と角膜屈折力をそれぞれ測定した.他覚的屈折検査は,オートレフラクトメーターCARK560A(NIDEK社),眼圧は非接触式眼圧計CNT4000(NIDEK社)で,ACDは光学式眼軸長測定装置CIOLマスターC700(CarlZeissCMeditec社),角膜中央厚は超音波眼軸長測定装置AL-2000(TOMEY社)で測定した.角膜厚の測定に関しては,健常角膜では,光学的測定器機の再現性が高いとされるが7,8),術後などのわずかな浮腫や混濁があると,超音波パキメーターよりも過小評価される9,10)ことから,今回は,絶対値よりも,経時的変化の評価を重視し,超音波測定機器を用いた.これらの値より,以下の検討を行った.C1.グループ分けまず術翌日,2日目の他覚的屈折における等価球面値(それぞれCSE1,SE2とする)を求め,以下の群に分類した.・A群:SE2-SE1<C.0.25D;術翌日がC2日目よりも遠視寄りだったもの・B群:SE2-SE1>0.25D;術翌日がC2日目よりも近視寄りだったもの(ただし,2日間の差がC0.25D以内のものは,ボーダー群として,以下のCC群に分類する)・C群:C.0.25≦SE2-SE1≦0.25;術翌日とC2日目との差がC±0.25D以内のものC2.群.間.比.較術翌日とC2日目の眼圧の差(眼圧変動),ACDの差(ACD変動),K値の差(K値変動)を群間比較した.C3.相関の検討ACDの変動とCK値の変動について,それぞれの要因を検討するため,ACD変動と眼圧変動の相関,K値変動と術後角膜厚変化の相関を調べた.統計学的解析は,眼圧変動,ACD変動,K値変動は,Bartlett検定にてC3群が等分散であれば一元配置分散分析法でC3群間比較を行い,有意差があった場合は,多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った.分散が等しくなければ,Kruskal-Wallis検定にてC3群間比較を行った.ACD変動と眼圧変動,K値変動と角膜中央厚の各相関はCSpearman順位相関係数検定で行った.統計学的有意水準は5%とした.CII結果200眼中,細隙灯顕微鏡で確認できる術翌日のCDescemet膜皺襞,角膜浮腫,データ取得不完全からC11眼は除外された.組み入れ症例C189眼中,翌日が遠視寄りだったCA群は66眼,近視寄りだったCB群はC38眼,術翌日とC2日目の差が0.25D未満の境界例:C群がC85眼であった.A群の他覚屈折の経時的変化を図1に示す.術後C2日目以降は近視寄りになり,6カ月まで変化はなく,遠視寄りだったのは翌日だけであることが確認できる.眼圧変動(2日目の値C.翌日の値)は,A群CB群CC群の順に,.2.60±3.83,C.2.98±4.81,C.4.52±5.36(mmHg)ですべて翌日が高く,3群間に差はなかった(p=0.28).ACD変動(2日目の値C.翌日の値)は,A群B群C群の順に,C.0.05±0.83,C.0.02±1.05,0.08C±0.97(mm)で,3群間に差はなかった(p=0.90)(図2).さらに,A群C66眼のうちC30眼は,術翌日が遠視寄りであったにもかかわらず,ACDは翌日のほうが浅かった.また,ACD変動はC.1.59.0.30.10.080.20.060.1前房深度の変化(mm)A群B群C群等価球面屈折値(D)0-0.1-0.21日2日1週1カ月6カ月0.040.020-0.02-0.3-0.4図1A群の等価球面値の経時変化他覚屈折値は,術翌日のみ遠視寄りを呈し,2日目以降は変化がみられない.*0.25-0.04-0.06図2術翌日から2日目までの前房深度の変化(2日目の値.翌日の値)3群間に有意な差はみられない.p=0.90(一元配置分散分析法).C44.5術後K値の変化(D)4443.54342.50.2K値の変化(D)0.150.10.054241.5-0.051日2日1週1カ月6カ月-0.1図4A群の角膜屈折力の経時変化図3術翌日から2日目までの角膜屈折力の変動(2A群では術翌日のみ角膜の平坦化が起っていることが日目の値.翌日の値)示唆される.これはC2日目には改善され,それ以降は変K値の変動は,3群間で有意な差がみられた(p=0.02化がみられない.C:一元配置分散分析法).A群はC2日間でのCK値の変動がもっとも大きく,多重比較にてCB群との間に有意差がみられた(*p=0.02:Tukey-Kramer法).角膜中央厚の変化(μm)150100500-50y=-11.441x+0.3426(p=0.01)角膜屈折力の変化(D)-100-2.5-2-1.5-1-0.500.511.522.5図5A群の術翌日から2日目の角膜中央厚の変化と角膜屈折力の変化の相関両者の間には有意な負の相関がみられた(p=0.01:Spearman順位相関係数検定).D:CDioptryC1.36Cmmに分布しており,眼圧の変動と相関はなかった(p=0.51).図3は,A群CB群CC群のCK値変動である.各群順に,0.20C±0.43,C.0.08±0.50,0.04C±0.47(D)で,A群,C群では,術翌日のほうがCK値が小さく,2日間での変動はCA群がもっとも大きかった.3群のCK値変動には有意差があり(p=0.02),多重比較ではA群とB群に有意差を認めた(p=0.02).このことより,A群では術翌日にもっとも角膜の平坦化が起っていることが示唆された.A群における術後CK値の経時変化をみると,術後C2日目以降は最終観察期間まで変化がなく,角膜が平坦化していたのは術翌日だけであることが示された(図4).このCK値変動の因子を検討するために,A群におけるCK値変動と角膜中央厚変化の関係を調べたのが図5である.2日目-翌日におけるCK値変動と角膜中央厚変化の間には,有意な負の相関がみられた(p=0.01).CIII考察白内障眼内レンズ手術後,約C35%の症例で術翌日は屈折が最終安定位よりも遠視化しており,この傾向はC2日目にはなくなり,以後安定した.術翌日遠視寄りだった症例:A群は,その他の症例と比べて,術後C2日間でのCK値変動が有意に大きく,このCK値変動は角膜中央厚の変化と有意に相関した.術翌日の遠視化傾向は,角膜屈折力の変化がおもな要因で,その理由は,術翌日は角膜厚増加により角膜の平坦化が起こっていることが示唆された.一方,ACD変動はC3群の間に差はなく,術後超早期の屈折変化の要因ではなかった.また,眼圧の変動は群間に差はなく,ACD変動とも相関がなかった.つまり,術後超早期の眼圧がCACDに影響し,屈折が変動する,というメカニズムは示唆されなかった.IOL手術後の屈折変化については,過去にもさまざまな報告がある.Behrouzらは,3ピースCIOLは術後前方移動して前房角度,前房容積も浅くなり,術後C1週からC3カ月にかけて約C0.3D近視化したと報告しているが11),Iwaseらは術後C1週からC6カ月にかけて,IOLは前方移動するも屈折は変わらなかったとしている12).一方,シリコーンCIOL挿入眼では,術後C48週の間に,平均C0.53D近視化し,近視化のうちC60%(0.33D)はCIOLの前方移動量で説明できるが,残りの近視化分は原因不明とした報告がある13).これらの報告はすべてC3ピースCIOLでの報告であるが,シングルピースCIOL14),とくに今回使用したCSN60WFは,術後のCELP変化がC3ピースCIOLよりも有意に少ないことが報告されている15).さらに,シングルピースCIOLにおいて,術後C1カ月からC1年の間の屈折変化は,平均C0.25Dの遠視化であったが,IOLの後方偏位は平均0.03mmで,この変化はC0.05Dの屈折変化にしか相当せず,それに対し,角膜曲率の変化は0.17Dであり,術後の屈折変化と相関していたとする報告がある16).しかし,これらの報告は,いずれも術後数週間から数カ月の中長期的な変化を検討したもので,比較的短期の検討では,deJuanらが術翌日から1週間目の間に平均で1.01D近視化したと報告している17)ほか,Koepplらが,3ピースレンズ挿入眼では,術後C1週間でCACDがやや浅くなることを報告している18).しかし,術翌日からC2日目にかけての超早期の屈折変化とその関連因子を調べたものは,本報告が初めてである.一般に,術後視機能は屈折安定期のデータで評価されるが,術後早期の屈折安定が,患者満足度を上げるとする報告もあるとおり19),術者が患者と対面する臨床現場では,翌日の屈折状態は重要である.このようなCIOL手術後の屈折変化の要因については,ACDの変化11),ELPの変化12),角膜屈折力の変化などが予想されるが,すべての症例で,術後超早期に屈折変化をきたすわけではない.Klijnらは,長期の観察であるが,59眼の検討のなかで近視化したものがC19.32%,遠視化したものが28.48%で,術後屈折変化は,個々の症例で異なる特徴を有する可能性があるとしている16).そこで本研究では,まず,術後C2日間での屈折変動変動によってC3グループに分けて,ACD変動とCK値変動の両方に着目した.その結果,術翌日に遠視化傾向がみられた症例では,みられない症例と比べて,K値の変化が大きかったことが示された一方,ACD変動は関与していなかった.さらに本研究では,K値変動の理由として角膜中央厚の変化が示唆されたが,同じく術翌日は,角膜中央厚がC17.3%増加していたとするCdeJuanらの報告17)とも合致する.本論文の限界として,オートレフラクトメータでの球面度数,円柱度数はいずれもC0.25D刻みであるため,各眼の等価球面値はC0.125D刻みの精度である点である.また,角膜曲率の自然な動揺が,術後16,20)あるいは非手術眼21)でもみられるとする報告もあり,さらに詳細な検討が望まれる.以上より,白内障CIOL手術症例の約C35%で術翌日は最終屈折より遠視寄りになり,それは角膜厚の増加に伴う一時的なCK値の減少が因子となっている可能性が示唆された.IOL術後の,より早期の屈折安定に向けて,今後も検討を重ねてゆきたい.文献1)FindlO,DrexlerW,MenapaceRetal:Improvedpredic-tionCofCintraocularClensCpowerCusingCpartialCcoherenceCinterferometry.JCataractRefractSurgC27:861-867,C20012)Retzla.CJA,CSandersCDR,CKra.CMC:DevelopmentCofCtheCSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.CJCataractRefractSurgC16:333-340,C19903)HaigisCW:TheCHaigisCFormula.CIn:IntaocularCLensCPowerCCalculationsCeditedCbyCShammasCHJ.Cp41-57,CSLACK,NJ,20034)OlsenCT:SourcesCofCerrorCinCintraocularClensCpowerCcal-culation.JCataractRefractSurgC18:125-129,C19925)OlsenCT:PredictionCofCtheCe.ectiveCpostoperative(intra-ocularClens)anteriorCchamberCdepth.CJCCataractCRefractCSurgeC32:419-424,C20066)StakheevAA,BalashevichLJ:Cornealpowerdetermina-tionafterpreviouscornealrefractivesurgeryforintraocu-larlenscalculation.CorneaC22:214-220,C20037)MartinCR,CdeCJuanCV,CRodriguezCGCetCal:ContactClens-inducedCcornealCperipheralCswelling:OrbscanCrepeatabili-ty.OptomVisSciC86:340-349,C20098)ChristensenCA,CNarva´ezCJ,CZimmermanCG.CComparisonCofCcentralCcornealCthicknessCmeasurementsCbyCultrasoundCpachymetry,CKonanCnoncontactCopticalCpachymetry,CandCOrbscanpachymetry.CorneaC27:862-865,C20089)Altan-YayciogluCR,CPelitCA,CAkovaCYA:ComparisonCofCultrasonicCpachymetryCwithCOrbscanCinCcornealChaze.CGraefesArchClinExpOphthalmolC245:1759-1763,C200710)FakhryMA,ArtolaA,BeldaJIetal:Comparisonofcor-nealpachymetryusingultrasoundandOrbscanII.JCata-ractRefractSurg28:248-252,C200211)BehrouzCMJ,CKheirkhahCA,CHashemianCHCetCal:AnteriorsegmentCparameters:comparisonCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicfoldableintraocularlenses.JCataractRefractSurgC36:1650-1655,C201012)IwaseCT,CSugiyamaCK:InvestigationCofCtheCstabilityCofCone-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCcataractCsurgeryCandCinCcombinedCvitrectomyCsurgery.CBrCJCOphthalmolC90:1519-1523,C200613)IwaseCT,CTanakaCN,CSugiyamaCK:PostoperativeCrefracC-tionchangesinphacoemulsi.cationcataractsurgerywithimplantationCofCdi.erentCtypesCofCintraocularClens.CEurJOphthalmolC18:371-376,C200814)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCataractRefractSurgC30:45-51,C200415)EomY,KangSY,SongJSetal:Comparisonoftheactualamountofaxialmovementof3asphericintraocularlensesusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractRefractSurgC39:1528-1533,C201316)KlijnS,SicamVA,ReusNJ:Long-termchangesinintra-ocularClensCpositionCandCcornealCcurvatureCafterCcataractCsurgeryCandCtheirCe.ectConCrefraction.CJCCataractCRefractCSurgC42:35-43,C201617)deJuanV,HerrerasJM,PerezIetal:Refractivestabili-zationandcornealswellingaftercataractsurgery.OptomVisSciC9:31-36,C201318)KoepplCC,CFindlCO,CKriechbaumCKCetCal:PostoperativeCchangeine.ectivelenspositionofa3-pieceacrylicintra-ocularlens.JCataractRefractSurgC29:1974-1979,C200319)RohartC,FajnkuchenF,Nghiem-Bu.etSetal:CataractsurgeryCandCage-relatedCmaculopathy:bene.tsCinCtermsCofvisualacuityandqualityoflife─aprospectivestudy.JFrOphtalmolC31:571-577,C200820)NorrbyS,HirnschallN,NishiYetal:FluctuationsincorC-nealCcurvatureClimitCpredictabilityCofCintraocularClensCpowerCcalculations.CJCCataractCRefractCSurgC39:174-179,C201321)ShammasHJ,Ho.erKJ:Repeatabilityandreproducibilityofbiometryandkeratometrymeasurementsusinganon-contactopticallow-coherencere.ectometerandkeratom-eter.AmJOphthalmolC153:55-61,C2012***

角膜混濁と病的近視のある成熟白内障に超音波白内障手術を行った1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1606.1609,2017c角膜混濁と病的近視のある成熟白内障に超音波白内障手術を行った1例上.甲.覚国立病院機構東京病院眼科CMatureCataractSurgeryinaPatientwithOpaqueCorneaandPathologicMyopiaSatoruJokoCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoNationalHospital目的:角膜混濁と強度近視のある成熟白内障に,超音波水晶体核乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行ったC1症例の報告.症例:74歳,女性,左眼の白内障治療目的で受診した.幼小時に流行性角結膜炎の既往があった.所見と経過:初診時,左眼の矯正小数視力は手動弁で,成熟白内障と角膜混濁と強度近視を認めた.左眼の眼軸長は超音波CAモードでC30.33Cmmであった.術中合併症はなかった.術後最終視力はC0.04であったが,患者は結果に満足している.術後の経過観察期間はC3年で,合併症は生じていない.結論:角膜混濁と病的近視のため術後視力の改善は限定的だったが,患者の満足は得られた.今後,同様な疾患の症例が増えれば,インフォームド・コンセントに有用な手術成績の検討が可能になると考えた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCmatureCcataractCwithCopaqueCcornealCandCpathologicCmyopiaCthatCunderwentCphacoemulsi.cationCcataractCsurgery.CCase:AC74-year-oldCfemaleCwhoCwasCreferredCtoCourChospitalCforCcataractCsurgeryconsultationhadahistoryofepidemickeratoconjunctivitisatyoungelementaryschoolage.FindingsandProgress:CorrectedCvisualCacuityCinCherCleftCeyeCwasChandCmovementCatC.rstCvisitCtoCourChospital.CTheCeyeCshowedsignsofmaturecataract,cornealopacityandhighmyopia.Axiallengthoftheeyewas30.33Cmminultra-sonicAmode.Therewerenointraoperativecomplications.At3yearsaftercataractsurgery,lefteye.nalvisualacuityCwasC0.04.CThereCwereCnoCpostoperativeCcomplications.CConclusion:ThoughCpostoperativeCvisualCacuityCimprovementwaslimitedtopathologicmyopiawithopaquecornea,herresultwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1606.1609,C2017〕Keywords:成熟白内障,角膜混濁,病的近視,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ.matureCcataract,CopaqueCcornea,pathologicmyopia,phacoemulsi.cationandaspiration,intraocularlens.Cはじめに超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulisi.cationCandCaspi-ration:PEA)を行う症例のなかで,角膜混濁のある白内障は難症例の一つと考えられている1.5).また,成熟白内障も難症例の一つと考えられている6,7).さらに,強度近視のある白内障も術中に注意すべき点がある8,9).これまでに,角膜混濁と強度近視をともに合併した白内障症例に対する超音波白内障手術の報告はまれで,その手術結果はあまり知られていない10,11).今回,角膜混濁と強度近視のある患者の成熟白内障に,PEAと眼内レンズ(intraocularClens:IOL)挿入術を行った1症例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:左眼の視力低下.現病歴:左眼の白内障手術目的で紹介受診した.受診のC3カ月前より視力低下が強くなった.初診時所見:矯正視力は右眼0.3(0.6×.2.00D(cyl.1.75DAx75°),左眼は20cm手動弁(矯正不能)であった.眼圧〔別刷請求先〕上甲覚:〒204-8585清瀬市竹丘C3-1-1国立病院機構東京病院眼科Reprintrequests:SatoruJoko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoNationalHospital,3-1-1TakeokaKiyose,Tokyo204-8585,JAPAN1606(122)は右眼C17CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼は角膜混濁と成熟白内障を認めた(図1).右眼も白内障はあったが,角膜混濁は合併していなかった.左眼の超音波CBモードエコーでは,後部ぶどう腫の所見を認めた(図2).既往歴:4歳頃に流行性角結膜炎を罹患し,左眼は当時より視力が不良であった.術前検査:超音波CAモードでは,右眼の眼軸長はC26.28mm,左眼の眼軸長はC30.33Cmmであった.角膜内皮細胞密度は,右眼C2,839/mmC2,左眼C2,597/mmC2であった.白内障手術:手術は通常の顕微鏡照明下で行った.角膜耳側切開を行い,前.はインドシアニングリーンで染色した後,連続円形切.(continuousCcurvilinearCcapsulorhexis:CCC)を施行した.PEAとCIOL挿入術後,切開創は無縫合で終了した.術中合併症はなかった.術後経過:術後視力は改善し,最高視力はC0.07であった.術後早期の前眼部写真を図3に示した.術後の眼底検査で,黄斑部を含めた後極部に網脈絡膜萎縮を認めた(図4).術後の経過観察期間はC3年で,最終視力はC0.04であるが,患者は結果に満足している.術後の合併症は生じていない(図5).なお,右眼は,左眼の術C5カ月後に白内障の手術を施行し図1術前の前眼部写真角膜混濁(Ca)と成熟白内障(Cb)を認める.C図2術前の超音波Bモードエコー強膜が後方に突出している.図3術5カ月後の前眼部写真前眼部の状態は,術前と変わりない.図4術後の眼底写真黄斑部を含む後極部に網脈絡膜萎縮を認める.図5術3年後の前眼部写真明らかな前.の収縮や後.混濁もなく,IOLの偏位もない.C表1筆者の角膜混濁・病的近視の超音波白内障手術報告例報告年年齢・性患眼眼軸Cmm術前視力術後最高視力既往症例C1#177・女右C28.47C0.01C0.04麻疹C2013(左眼C0.9)(幼小時)症例C2#278・女右C29.82C0.08C0.5CpトラコーマC2015左C29.88C0.08C0.3(幼小時)本症例74・女左C30.33手動弁C0.07流行性角結膜炎(右眼C1.0)(4歳頃)#1,2:便宜上,過去に報告した症例をC1とC2とした.た.術中・術後に合併症はなく,最高視力はC1.0であった.CII考察角膜混濁の程度は,眼内の術中操作の難易度に強く影響を与える.通常,特定の限られた疾患以外は,角膜混濁併発例の白内障症例の数は多くはない12.15).したがって,そのような症例に慣れている術者は少ないと考える.最近,さまざまな角膜混濁モデル眼の作製が可能になった16.19).実際の症例に類似した模擬眼で練習を行えば,ある程度慣れることは可能と考える.角膜混濁症例の対策として,治療的角膜表層切除12,14)や「特殊な照明法」を利用する方法1.5)がある.また,水晶体核の処理方法として,水晶体.外摘出術の選択もある.事前に考えた手術計画は,角膜混濁モデル眼を利用して試すことも可能である.今回は,角膜混濁の範囲が限定的なので,通常の顕微鏡照明下で眼内の操作が可能であった.ただし,成熟白内障もあるため,前.染色法を利用してCCCCを行った.CCCはその後の手術操作に大きく影響するので,確実に行う必要がある.慣れていない術者は,事前に成熟白内障モデル眼で,CCCの練習を行うことも可能である20,21).さらに,術中の視認性対策以外に,強度近視眼の注意点も知っておく必要がある.強度近視は強膜が薄いこと,Zinn小帯が脆弱で液化硝子体のため前房深度が不安定になることがある8).黄斑障害のある病的近視眼では,固視の不良にも注意が必要である.ただし,強度近視の白内障モデル眼は調べた限りないので,実際の手術で慣れる必要がある.これまでに,筆者は強度近視と角膜混濁を併発した白内障手術をC2例報告している10,11).本症例を含めた臨床所見のまとめを表1に示した.各症例の角膜混濁の程度は異なるが,共通して幼小時に感染症による角膜障害の既往があり,視力は不良であった.幼小時の眼感染症疾患の治療は,適切に対応する必要がある.白内障手術時の年齢はC3例ともC70歳以上で,通常の強度近視に伴う白内障手術時の年齢より高い傾向である22).角膜混濁と黄斑病変の合併があるので,白内障がかなり進行しないと適応になりにくいことが理由として考えられる.その分,手術の難易度はさらに増すことになる.病的近視のない角膜混濁症例の白内障手術では,患者の満足度の高い報告がある1).本症例と症例C2(表1)の患者は,術後視力の改善は限定的だが,手術の結果に満足している.症例C1の右眼は,術中・術後に特記すべき合併症は生じていないが,患者の満足は得られなかった.ただし,その症例の左眼は病的近視がなく,白内障手術後の視力は良好なので,左眼の結果には満足している.病的近視の併発している角膜混濁症例は,その手術適応の判断はむずかしい.本症例の左眼の視力は,幼小時より中心視力は不良であった.ただし,周辺部はそれなりに見えて,役にたっていたことが,術前の問診でわかっていた.術前の超音波CBモードエコーの結果も踏まえて,最近の視力低下の原因はおもに成熟白内障にあると考え,手術の適応があると判断した.今後,同様な疾患の手術症例数が増えれば,これまで以上にインフォームド・コンセントに有用な手術成績の検討が可能になると考えた.本論文の要旨は,第C1回CTokyoOphthalmologyClub学術講演会(2015年C9月C12日)にて発表した.文献1)FarjoCAA,CMeyerCRF,CFarjoCQA:Phacoemulsi.cationCinCeyesCwithCcornealCopaci.cation.CJCCataractCRefractCSurgC29:242-245,C20032)NishimuraCA,CKobayashiCA,CSegawaCYCetCal:EndoillumiC-nation-assistedcataractsurgeryinapatientwithcornealopacity.JCataractRefractSurgC29:2277-2280,C20033)岡本芳史,大鹿哲郎:手術顕微鏡スリット照明を用いた白内障手術.眼科手術17:365-367,C20034)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:角膜混濁例に対する前房内照明を用いた超音波白内障手術.あたらしい眼科C21:97-101,C20045)OshimaCY,CShimaCC,CMaedaCNCetCal:ChandelierCretroilluC-mination-assistedtorsionaloscillationforcataractsurgeryinpatientswithseverecornealopacity.JCataractRefractSurgC33:2018-2022,C20076)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:StainingofthelenscapsuleCforCcircularCcontinuousCcapsulorrhexisCinCeyesCwithCwhiteCcataract.CArchCOphthalmolC116:535-537,C19987)MellesCGR,CdeCWaardCPW,CPameyerCJHCetCal:TrypanCbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincat-aractsurgery.JCataractRefractSurgC25:7-9,C19998)原優二:強度近視眼の白内障.臨眼C58(増刊号):225-227,C20049)ZuberbuhlerCB,CSeyedianCM,CTuftCS:Phacoemulsi.cationCinCeyesCwithCextremeCaxialCmyopia.CJCCataractCRefractCSurgC35:335-340,C200910)上甲覚:超音波白内障手術の長期経過観察ができたぶどう膜炎併発強皮症のC1例.臨眼67:1713-1718,C201311)上甲覚:超音波白内障手術後に強膜炎を合併した,角膜混濁と強度近視のあるC1症例.臨眼69:493-497,C201512)SalahT,ElMaghrabyA,WaringGO3rd.:ExcimerlaserphtotherapeuticCkeratectomyCbeforeCcataractCextractionCandintraocularlensimplantation.AmJOphthalmolC122:C340-348,C199613)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌C65:170-173,C199614)兼田英子,根岸一乃,山崎重典ほか:治療的レーザー角膜切除施行眼に対する白内障手術における術後屈折値予測精度.眼紀55:706-710,C200415)上甲覚:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編.あたらしい眼科26:491-492,C200916)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの作製と使用経験.臨眼C64:465-469,C201017)上甲覚:初級者向けの白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの試作.あたらしい眼科C27:1707-1708,C201018)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,C201119)上甲覚:角膜混濁モデルによるウエットラボ.眼科手術5白内障(大鹿哲郎編),p93-94,文光堂,201220)VanCVreeswijkCH,CPameyerCJH:InducingCcataractCinCpostmortemCpigCeyesCforCcataractCsurgeryCtrainingCpur-poses.JCataractRefractSurgC24:17-18,C199821)上甲覚:成熟白内障モデル眼の試作.あたらしい眼科C33:1801-1803,C201622)森嶋直人,中瀬佳子,林一彦ほか:強度近視の白内障術後視力.眼臨81:88-91,C1987***

Soemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1054.1059,2017cSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例福武慈坂上悠太栂野哲哉五十嵐遼子長谷部日福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野TwoCasesofSecondaryAngleClosurewithSoemmerring’sRingMegumiFukutake,YutaSakaue,TetsuyaTogano,RyoukoIkarashi,HirumaHasebeandTakeoFukuchiDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversitySoemmerring輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.症例1は78歳,男性.10年前に両眼に超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL)を受けた.左眼に浅前房と眼圧上昇(25mmHg)を生じ,細隙灯顕微鏡検査,および超音波生体顕微鏡(以下,UBM)所見から,本症と診断した.Soem-merring輪の手術的除去と周辺部前後.切開術を行い,前房深度は改善,隅角は開大し,眼圧は下降した.症例2は77歳,女性.11年前に左眼にPEA+IOLを受けた.左眼霧視と頭痛を主訴に受診した.左眼眼圧は77mmHgで浅前房と全周に周辺虹彩前癒着を認めた.同様に細隙灯顕微鏡検査,UBM所見から本症と診断し,Soemmerring輪の手術的除去と隅角癒着解離術を行った.術後,前房深度は改善し,眼圧は下降した.結論:まれではあるがPEA+IOL後の長期合併症の一つとしてSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症がある.本症にはさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性が考えられる.診断にはUBMが有用で,正確に本症と診断された場合には,Soemmerring輪を手術的に除去することで眼内レンズを温存したまま治療できる可能性がある.Purpose:ToreporttwocasesofsecondaryangleclosurewithSoemmerring’sring.Case1:A78-year-oldmalehadshallowanteriorchamberandintraocularpressureof25mmHginhislefteye.Hehadahistoryofcata-ractphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)inbotheyes10yearsbefore.Despitetopicalantiglaucomamedications,theshallowanteriorchamberremained.Ultrasoundbiomicroscopy(UBM)showedlensmaterialsroundlybehindtheirisinthelefteye.WediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclo-sureandperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringande.ectperipheralcapsulotomy.Aportionofthematerialsremained,buttheanteriorchamberbecamedeeperandtheanglewasopened.Case2:A77-year-oldfemalehadahistoryofPEA+IOLinherlefteye11yearspreviously.Shehadblurredvisionandheadache.Herlefteyehadshallowanteriorchamber,totalperipheralanteriorsynechiaandelevatedintraocularpressureof77mmHgdespitetopical,oralandintravenoustreatment.UBMshowedlensmaterialsroundlybehindtheiris;wediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclosure.WeperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringandcarryoutgoniosynechiolysisforaportionoftheangle.Theanteriorchamberbecamedeeperandtheintraocularpressuredecreasedto12mmHg.Conclusions:SecondaryangleclosurewithSoemmerring’sringmayoccurbydi.erentmechanismsinrespectivecases.UBMisveryusefulindiagnosingit.SurgicalremovalofSoemmering’sringmaterialscanresolvesecondaryangleclosure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1054.1059,2017〕Keywords:白内障手術術後合併症,後発白内障,Soemmerring輪,超音波生体顕微鏡,続発閉塞隅角症,眼内レンズ.complicationofcataractsurgery,aftercataract,Soemmerring’sring,ultrasoundbiomicroscopy(UBM),sec-ondaryangleclosure,intraocularlens.〔別刷請求先〕福武慈:〒951-8510新潟県新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:MegumiFukutake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidoori,Chuo-ku,Niigata-shi,Niigata951-8510,JAPAN1054(138)bはじめに白内障手術後の後発白内障は,残存した水晶体上皮細胞が増殖・分化して生じる.病型として,Soemmerring輪,Elschnigpearls,前.切開縁を中心に生じる線維性混濁,液状物が眼内レンズと後.の間に貯留する液状後発白内障がある1.5).このうちSoemmerring輪は,水晶体.周辺部の前後.が接着し房水から遮断された閉鎖腔内で,赤道部に存在する水晶体上皮細胞が増殖したものである2,5).閉鎖腔内での上皮細胞増殖が容量を超えると,接着部分がはずれ,後.に沿って上皮細胞が遊走し,Elschnigpearlsを形成するといわれている1,3,5).Soemmerring輪に伴う合併症として.内固定した眼内レンズの亜脱臼6,7),.外固定した眼内レンズの偏位8),人工無水晶体眼での瞳孔まで及ぶ増殖による視力低下9),続発閉塞隅角症10.12)の報告がある.今回,筆者らはSoemmerring輪に伴って発症したと考えられる続発閉塞隅角症の2例を経験した.これらの症例から,本症の診断と治療,隅角閉塞メカニズムについて知見を得たので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:なし.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:急性膵炎,高血圧.2002年(68歳)左眼,2003年(69歳)右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL).挿入眼内レンズは,左眼AMOSI40NB20.5D,右眼AMOCLRFLXB22.0D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2012年11月に近医を受診した際に,左眼が浅前房であり眼圧は25mmHgと上昇していた.タフルプロスト,0.5%チモロールマレイン酸塩による点眼治療を開始し眼圧は下降したが,浅前房が改善しないため12月に当科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.2(n.c.),眼圧は右眼11mmHg,左眼17mmHg(Goldmann圧平眼圧計:GAT)であった.左眼の前房は右眼に比べとくに周辺が浅く,炎症所見はなく角膜清明であった(図1a).左眼眼内レンズは前方に偏位し,前.と虹彩後面が接触していた.後.は眼内レンズのすぐ後方にあり,液性後発白内障の所見はなかった.また,後.と前部硝子体膜の間にはスペースがあった.眼内レンズの前方偏位はあるものの,硝子体後方への房水流入,aqueousmisdirectionを示す明らかな所見はなかった.隅角鏡検査では左眼の上方10.1時,下方5.8時,全体では半周に相当する範囲に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)では,中心前房深度は右眼3.2mm,左眼2.4mmで,左眼の眼内レンズは前方に偏位していた(図1b).眼軸長は右眼22.3mm,左眼22.1mmであった.後日精査目的に入院のうえ,散瞳診察を行った.散瞳は不良であったが,視神経乳頭陥凹拡大はなく,検眼鏡的に確認できる範囲で眼底に異常所見はなかった.Humphrey静的視野検査では緑内障性視野異常はなかった.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)では,水晶体.周辺部に全周にわたって高輝度の充実性組織があり,虹彩根部を前方に圧排して図1症例1:左眼a:初診時前眼部写真.右眼に比べ浅前房であった.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は2.4mmで眼内レンズの前方偏位と虹彩接触がみられる.c:術後前眼部写真.術前に比べ,前房は深化した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.5mmと改善した.6時ab図2症例1:左眼UBMa:術前UBM.プラトー虹彩様に虹彩根部が前方へ偏位し隅角閉塞をきたしている.虹彩後方には全周性に高輝度の充実組織を認め,Soemmerring輪と考えられる.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に輝度や容積は低下し,虹彩根部への圧排所見や水晶体.前方偏位は改善している.図3症例1:手術所見散瞳不良だったため虹彩リトラクターで術野を確保した.水晶体.内にSoemmerring輪を確認した.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどで掻爬,水流で洗い流した.その後レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作った.虹彩根部は隆起していて隅角は確認できなかった.いて,Soemmerring輪と考えられた(図2a).虹彩の前方弯曲や,毛様体突起の扁平化は認めなかった.経過:Soemmering輪が本症の発症に関与していると考え,除去することを目的に観血的治療を行った.散瞳不良のため虹彩リトラクターで瞳孔を拡大すると,虹彩後方に全周性にSoemmering輪を認めた.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどを用いて掻把し,軟化した組織を水流によって除去した(図3).全周の4分の3程度の組織を除去できた.眼内レンズの前方偏位から,房水が眼内レンズより後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じている可能性を否定できないと考え,レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作って手術を終了した.術翌日から前房は深くなり(図1c),前眼部OCTで中心前房深度は3.5mmと改善,隅角は開大した(図1d).UBMでは,充実性組織は残存するものの,全周で容積は低下し,虹彩根部の前方圧排所見は改善するとともに隅角は開大していた(図2b).その後の眼圧は11.14mmHgで経過し,再発はない.〔症例2〕77歳,女性.主訴:左眼の霧視,眼痛,頭痛.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:心房細動でピルジカイニド塩酸塩水和物を内服している.2002年(66歳)左眼PEA+IOL.挿入眼内レンズは,AMOSI40NB23.5D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2013年11月に左眼霧視と頭痛を主訴に近医眼科を受診した.左眼眼圧は66mmHgで,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド内服,ドルゾラミド・チモロール,ピロカルピン塩酸塩点眼によっても,翌日も77mmHgと改善がみられないため,紹介され当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.8p(n.c.),左眼0.06(n.c.),眼圧は右眼17mmHg,左眼77mmHg(GAT)であった.左眼b図4症例2:左眼a:初診時前眼部写真.浅前房,角膜浮腫,眼内レンズ前方偏位がみられる.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は1.6mmで眼内レンズは前方偏位している.c:術後前眼部写真.前房は深化し,角膜浮腫も改善した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.0mmとなった.ab図5症例2:左眼UBMa:初診時UBM.虹彩後方に全周性にSoemmerring輪を認め,虹彩根部を圧排し隅角閉塞をきたしている.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に容積は低下し,虹彩根部への圧排は改善している.前房は著しく浅く,角膜は浮腫状で,眼内レンズは前方に偏鼻側の充実性組織は大きかったため,灌流・吸引(I/A)ハ位していた(図4a).隅角鏡検査では右眼はappositionalンドピースを用いて.内から摘出した.その直後に前房が深closureで,低いPASが5カ所あり,左眼は全周のPASが化した.視認性不良であり嘔気が強かったため,上方,下方あった.前眼部OCTでは中心前房深度は右眼1.7mm,左の可能な範囲のみ隅角癒着解離術を行った.術後,隅角鏡検眼1.6mmで左眼の眼内レンズは前方偏位していた(図4b).査で左眼PASは10.2時方向は残存したが半周以下となっ眼軸長は右眼21.9mm,左眼22.0mmであった.UBMではた.前房深度は3.0mmとなり(図4c,d),UBMでは充実水晶体.周辺部の高輝度の充実性組織,Soemmerring輪が性組織の容積は低下し,隅角は開大していた(図5b).その全周に虹彩に接し,虹彩根部を圧排していた(図5a).虹彩後の左眼矯正視力は1.2,左眼眼圧は12.14mmHgで経過の前方弯曲や毛様体突起の扁平化は認めなかった.し再発はない.右眼は原発閉塞隅角症と診断し,後日PEA経過:受診当日に水流によるSoemmering輪除去を行っ+IOLを行い前房は深化した.た.散瞳不良のため虹彩リトラクターを留置した.上方からII考按今回,筆者らはSoemmering輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.この2例の隅角閉塞のメカニズムとしては,全周にみられたSoemmering輪が後方から虹彩根部を圧排し,直接,隅角を閉塞したことが主体と考えられた.治療として手術的にSoemmering輪を除去すること,少なくとも容積を減らすことが有効と考え,水晶体.を開放し,水流による灌流とスパーテルなどによる掻爬といった比較的容易な方法によって,眼内レンズを温存したまま,病態を改善させることができた.これまでにもSoemmering輪によって生じた閉塞隅角緑内障の報告10.12)が,いくつかみられる.Kobayashiら10)は,3年前に両眼にPEA+IOL,1年前に右眼にNd:YAGレーザー後.切開術を受け,右眼に発症した本症に対し,レーザー虹彩切開術,さらにその切開部からNd:YAGレーザーを照射してSoemmerring輪を破砕し改善した1例を報告した.松山ら11)は,10年以上前に両眼白内障手術を受け,右眼に発症した本症に対し硝子体切除術を行ったが改善せず,Soemmerring輪を眼内レンズ,水晶体.ごと摘出することによって改善した1例を報告した.また,Kungら12)は,両眼PEA+IOLを受け,9年後に左眼に発症した本症に対しレーザー虹彩切開術を施行したものの,2年後に眼圧上昇とSoemmerring輪の増大を認め,保存的治療で眼圧が改善した1例を報告している.Soemmerring輪を伴う眼圧上昇には開放隅角の症例報告13)もある.白内障手術後に眼圧上昇をきたした症例で,細隙灯顕微鏡検査で閉塞隅角を疑った場合には,隅角鏡検査,UBM,前眼部OCTを施行し,PAS,虹彩の形態異常,毛様体の形態異常,虹彩後方の腫瘤性病変,眼内レンズの位置異常などがないか観察を行う.本症をきたす鑑別疾患として,瞳孔ブロック,眼内レンズ脱臼などによる水晶体ブロック,毛様体ブロック,脈絡膜出血,毛様体脈絡膜滲出,PASをきたすような血管新生緑内障,ぶどう膜炎などがある.UBMは,前眼部OCTに比べ,より虹彩後方を全周に観察することが可能で,閉塞隅角の鑑別に有用である.本症は全周性に虹彩後方に水晶体組織を疑う充実性組織を認めることから,UBMを用いれば診断は比較的容易であると考える.本症例では,虹彩はプラトー虹彩様に根部が前方へ偏位して隅角と接していた.虹彩根部の後方,つまり水晶体.周辺部には全周性にSoemmerring輪があり,これが虹彩を圧排していると考えられた.一方,眼内レンズと水晶体.が前方に移動していた点について,房水が眼内レンズよりも後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じていた可能性があり,症例1ではその可能性を考慮し前後.の穿破を行った.しかし両症例ともUBMでは毛様体突起の扁平化はみられず,症例1では細隙灯顕微鏡検査で水晶体後.と前部硝子体膜との間に十分なスペースが保たれていたことから,房水が硝子体後方へ回りこみ硝子体が前方移動することにより生じる毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えた.また,症例2では前後.の穿破をせずにSoemmerring輪の摘出のみで眼内レンズ前方偏位が改善したことからも,毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えられる.また,UBMではSoemmerring輪と毛様体が接する所見もみられ,Soemmer-ring輪の赤道方向への増殖により毛様体とSoemmerring輪間での房水通過障害が生じる可能性もあるかもしれないが,本症例では近接するものの全周性の接触はなく,やはり本症の主体ではないと考えた.また,いずれも虹彩の前方弯曲はないことから瞳孔ブロックの所見はなく,毛様体.胞や腫瘍性病変,脈絡膜出血,脈絡膜滲出などの所見,PASをきたす新生血管,ぶどう膜炎などの所見はなかった.以上から,少なくともこの2症例における浅前房と隅角閉塞のメカニズムとしては,Soemmerring輪が全周で増大したことによって虹彩根部が前方に偏位し,直接的に隅角を閉塞したことが主体ではないかと考えた.一方,いずれの症例もUBMでSoemmerring輪が全周性に虹彩後方に近接または接していることから,Soemmer-ring輪・虹彩間で房水の通過障害をきたした可能性も考えられる.それにより眼内レンズ後方へのaqueousmisdirec-tionが生じて房水が貯留し,これらが一塊として前方へ偏位していた可能性も考えられた.既報における本症のメカニズムとしては以下が推測されている.Kobayashiら10)は,虹彩の前方弯曲を伴うことから瞳孔ブロックが主因としているが,瞳孔ブロックに効果的なレーザー虹彩切開術のみでは治癒しなかったことは,Soem-merring輪の存在自体が房水の前房への流れを妨げていた可能性があるとしている.松山ら11)は,虹彩根部の圧迫による直接的な隅角閉塞とともに,Soemmerring輪により水晶体.と毛様体の間隙が狭小化しているところに毛様体の前方移動が合併して毛様体ブロックが生じた可能性を示している.UBMでは毛様体の前方移動は認めているが,毛様体扁平化は認めておらず,硝子体腔と前後房の圧較差は高度でない可能性と,毛様体扁平化の所見はなくともaqueousmisdi-rectionの関与する可能性を指摘している.治療としては毛様体ブロックを考慮し,硝子体切除術を行ったが所見の改善が得られず,Soemmerring輪を眼内レンズとともに水晶体.ごと摘出する再手術を行い,改善を得ている.Kungらの報告12)では,虹彩の前方弯曲や眼内レンズの位置異常は認めていない.眼圧は正常であるが,PASが210°あり,UBMで同部位に一致して虹彩後方のSoemmerring輪を認めている.予防的にレーザー虹彩切開術を行っているが2年後に眼圧上昇,全周のPASをきたしていることから,レーザー虹彩切開術では再発の可能性がある.以上から考えると,Soemmerring輪の拡大に伴って,瞳孔ブロック,虹彩根部の後方からの圧排による直接閉塞,毛様体ブロックなど,症例ごとにさまざまなメカニズムによって閉塞隅角が生ずる可能性があり,また混在している可能性を考えることが必要である.したがって,本症に対する治療は,個々の症例におけるメカニズムの差を考慮して選択されることが必要と考えられる.しかし,本症ではSoemmerring輪の容積が増大することが,いずれのメカニズムにもかかわっていると考えられることから,もっとも有効な治療方法はSoemmerring輪を除去,少なくとも容積を減らすことである.一方,今回の2症例ではいずれも眼内レンズと水晶体.は温存されており,Soemmerring輪も容積は減少したとはいえ残存している.水晶体上皮細胞が増殖することで再度,容積が増大し,本症が再発する可能性はあり,今後も慎重に経過観察することが必要である.Soemmering輪を伴う続発閉塞隅角症の2例を報告した.まれではあるが,通常に行われているPEA+IOLであっても,長期経過後に浅前房と閉塞隅角を発症した場合には,本症の可能性を考慮することが必要である.Soemmering輪の容積が増大することが本症の主因と考えられるが,付随してさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性がある.細隙顕微鏡検査による所見とともに,前眼部OCT,UBMといった画像解析装置による詳細な観察が,各症例におけるメカニズムの判定と治療方法の選択に有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)黒坂大次郎:後発白内障(総説).日眼会誌115:659-671,20112)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:TheringofSoemmerringinman:anultrastructuralstudy.GraefesArchClinExpOphthalmol225:77-83,19873)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:Anultra-structuralstudyofElschnig’spearlsinthepseudophakiceye.AmJOphthalmol101:58-69,19864)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Lique.edaftercataract:acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulorhexisandintraocularlensimplantationinthelenscapsule.AmJOphthalmol125:429-435,19985)綾木雅彦,邱信男:眼内レンズ挿入家兎眼にみられる後発白内障の病理組織学的研究.日眼会誌94:514-515,19906)LiuE,ColeS,WernerLetal:Pathologicevidenceofpseudoexfoliationincasesofin-the-bagintraocularlenssubluxationordislocateion.JCataractRefractSurg41:929-935,20157)GimbelHV,VenkataramanA:Secondaryin-the-bagintraocularlensimplantationfollowingremovalofSoem-meringringcontents.JCataractRefractSurg34:1246-1249,20088)矢船伊那子,植木麻里,南政宏ほか:Soemmering’sringにより眼内レンズ偏位をきたした1例.臨眼61:1111-1115,20079)AkalA,GoncuT,YuvaciIetal:PupilocclusionduetoalargedislocatedSoemmeringringinanaphakiceye.IntOphthalmol34:121-124,201310)KobayashiH,HiroseM,KobayashiK:Ultrasoundbiomi-croscopicanalysisofpseudophakicpupillaryblockglauco-mainducedbySoemmering’sring.BrJOphthalmol84:1142-1146,200011)松山加耶子,南野桂三,安藤彰ほか:Soemmering輪による続発閉塞隅角緑内障の1例.あたらしい眼科27:1603-1606,201012)KungY,ParkSC,LiebmannJMetal:Progressivesyn-echialangleclosurefromanenlargingSoemmeringring.ArchOphthalmol129:1631-1632,201113)石澤聡子,黒岩真友美,澤田明ほか:眼圧上昇をきたしたSoemmering輪を伴う液性後発白内障の1例.眼臨紀8:657-660,2015***

高分解能・回転式Scheimpflugカメラによる挿入眼内レンズ表面のデンシトメトリ解析

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):730.733,2017c高分解能・回転式Scheimp.ugカメラによる挿入眼内レンズ表面のデンシトメトリ解析尾方美由紀本坊正人南慶一郎飯田将元森洋斎宮田和典宮田眼科病院DensitometryAnalysisofImplantedIntraocularLensusingHigh-ResolutionRotatingScheimp.ugCameraMiyukiOgata,MasatoHonbo,KeiichiroMinami,MasaharuIida,YosaiMoriandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:挿入眼内レンズ(IOL)に対する2種類の回転式Scheimp.ugカメラによるデンシトメトリ解析の互換性を検討した.対象および方法:IOL挿入後の経過観察を行った82例148眼(術後経過年数:6カ月.16年)を対象とした.従来型と高分解能型の回転式カメラを用いてScheimp.ug像を撮影した.デンシトメトリ解析では,IOL前面中心の解析エリア内の平均値と最大値を求め,機器間の相関を評価した.結果:平均値,最大値ともに,機種間には有意で線形な強い相関がみられ(p<0.001,R2=0.9812,0.9222),高分解能型のほうが,それぞれ30.2%,31.7%も感度が高かった.結論:回転式Scheimp.ugカメラを用いたIOL前面のデンシトメトリ解析において,両機種間は互換可能であると考えられた.Purpose:Toexaminewhetherdensitometryanalysisofimplantedintraocularlens(IOL)isexchangeablebetween2rotatingScheimp.ugcameramodels.Methods:From148eyesof82patients,Scheimp.ugimageswereobtainedusingconventionalandhigh-resolutionrotatingcameras,afterIOLimplantation(postoperativeperiod:6monthsto16years).MeanandmaximumdensitometrieswithintheanalysisareaontheanteriorIOLsurfaceswereobtained,andthecorrelationsbetweenthecameraswereevaluated.Results:Thereweresigni.cant,linear,andstrongcorrelationsbetweenthe2camerasinboththemeanandmaximumdensitometries(p<0.001,R2=0.9812and0.9222,respectively).Thehighresolutioncameraresultedin30.2%and31.7%higherthantheconven-tionalmodel.Conclusions:DensitometryanalysisontheanteriorsurfaceofimplantedIOLwasexchangeablebetween2rotatingScheimp.ugcameramodels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):730.733,2017〕Keywords:眼内レンズ,表面光散乱,デンシトメトリ解析,Scheimp.ug像.intraocularlens,surfacelightscat-tering,densitometryanalysis,Scheimp.ugimage.はじめに多焦点,トーリックなどの機能が付加された眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の普及により,IOL挿入後の安定性がより重要となっている.軽度の後発白内障(posteriorcapsularopaci.cation:PCO)でも,多焦点IOL挿入眼では遠近視機能が低下する1).また,特定IOLでみられる表面光散乱の増加は,術後視機能低下のリスクであるとの報告もある2,3).PCOと表面光散乱の定量的な評価として,Scheimp-.ug画像のデンシトメトリ解析が多く用いられている4).以前は,前眼部解析装置EAS-1000(ニデック)が広く使用されていた2,5.11).しかし,本装置はすでに製造はされておらず,保守も困難となっている.一方,回転式Scheimp.ugカメラを有する前眼部画像診断装置Pentacam(OCULUSOptikgerateGmbH)は,角膜の前後面形状を三次元に解析することができるため,わが国でも広く使用されている.本装置は,EAS-1000と同様にScheimp.ug画像を撮影する〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,Ph.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN730(128)平均値最大値100409080PentacamHRデンシトメトリ(%)30201070605040302010000102030400102030405060708090100Pentacamデンシトメトリ(%)Pentacamデンシトメトリ(%)図12種類の回転式Scheimp.ugカメラを用いた挿入IOL前面のデンシトメトリ解析の関係ことから,IOL表面のデンシトメトリ解析も可能である12,13).また,エリア・デンシトメトリ解析においては,EAS-1000との互換性も検証されている14,15).2009年に高分解能のScheimp.ug画像撮影ができるPentcamHR(OCULUS)が国内で使用可能となり,現在は2種類の回転式Scheimp.ugカメラが用いられているが,デンシトメトリ解析における両機器間の互換性は検討されていない.そこで,同一症例に対して,同日に2機種でScheimp-.ug画像を撮影し,デンシトメトリ解析結果を比較した.I対象および方法本前向き観察研究は,宮田眼科病院倫理審査委員会により承認を得た後,ヘルシンキ宣言に沿って行われた.事前にインフォームド・コンセントを全症例より取得した.対象は,IOL挿入後に当院にて経過観察を行った82例148眼で,観察時の平均年齢は72.3±8.9歳(範囲:38.96歳),術後経過年数は3.8±3.4年(範囲:6カ月.16年)であった..内にIOL固定されていない,後.に破損がある,角膜に混濁がある症例は除外した.挿入IOLの内訳は,Alcon製疎水性アクリルIOL(1ピース:103眼,3ピース:11眼),AMO製疎水性アクリルIOL:11眼,HOYA製疎水性アクリルIOL:14眼,シリコーン製IOL:2眼であった.トロピカミド・フェニレフリン点眼液(ミドリンP点眼液,参天製薬)点眼により十分に散瞳を得た後に,2種類の前眼部画像診断装置により25経線のScheimp.ug像を撮像し,水平方向からの撮影像(鉛直方向のスリット切片像に対応)をデンシトメトリ解析した.対象に含まれるAlcon製IOLは術後長期に表面光散乱が増加する9,10,13,16)ことから,IOL前面の表面光散乱を解析することで2機種を比較した.両機種は青色LED(中心波長:475nm)光源を使用しているため,着色IOLではIOL後面のデンシトメトリ解析値が変動する17).このため,PCO解析は行わなかった.デンシトメトリ解析には試作ソフトウエア(Version1-19b21)を使用した.3.0mm幅,0.25mm高の解析エリアをIOL前面中心に配置し,平均散乱強度と最大散乱強度(ともに単位は%)を得た14,15).平均散乱強度と最大散乱強度に対して,2機種の相関の有無とその関係を単回帰分析により評価した.結果は,平均値±標準偏差で示し,p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果IOL前面の平均散乱強度は,Pentacamでは6.6±4.4%(3.1.25.9%),PentacamHRでは8.3±5.7%(4.7.34.5%)であった.また,最大散乱強度は,それぞれ,5.7±3.3%(3.1.20.0%),7.4±5.0%(4.3.27.8%)であった.IOL前面の平均散乱強度と最大平均散乱強度における2機種の関係を図1に示す.平均散乱強度では,機器間には有意な,線形性を保った強い相関がみられた(p<0.001,R2=0.9812).また,高分解能のScheimp.ugカメラを使用したほうが解析値はより大きく,得られた回帰直線の傾斜と切片はそれぞれ1.3025,.0.2583(95%信頼区間:1.2730.1.3320,.0.4902..0.0255)であった.最大散乱強度でも,有意な強い相関がみられ(p<0.001,R2=0.9222),回帰直線傾斜と切片はそれぞれ1.3166,.0.0394であった.III考按2機種の回転式Scheimp.ugカメラを用いたIOL前面のデンシトメトリ解析は,R2=0.9812と高相関を示し,両機種間は互換可能と考えられた.EAS-1000とPentacamRとの検討では,平均散乱強度はR2=0.91と高相関を示し,両機種の解析結果は互換可能である14,15).本検討の結果より,PentcamHRもEAS-1000の解析結果と互換可能であるこ図2Pentacam(上)とPentacamHR(下)で測定したIOL挿入眼のScheimp.ug像).虹彩の位置に近く,近傍の虹彩端からの散乱と考えられる.IOL前方に迷光による明点がみられる(とが示唆された.今回と以前の検討15)から,EAS-1000(x)とPantacamHR(y)の回帰直線はy=0.081x+4.05となった.解析エリアにおける平均値と最大値を検討した結果,前者のほうが決定係数は大きかった.IOL挿入眼のScheimp.ug像では,挿入IOLに起因するゴーストが前房内に発生することがある18).図2では,IOL前方に明点がみられるが,球面であるIOL前面から散乱した光が近傍の虹彩端を照射し,ゴーストとして観察されたと考えられる.また,IOL前後面間の多重反射もゴーストの発生原因となりえる.解析エリアに表面散乱より強いゴースト(たとえば,図2の上の場合)が含まれると,最大値を用いた解析はよりその影響を受ける.そのため,決定定数が小さくなると考えられる.また,EAS-1000による解析は,エリアの平均値を用いている.よって,過去の報告との差異を検討するうえでも,平均値の採用が望ましいと考える.高分解能のScheimp.ugカメラによるデンシトメトリ解析結果は,約30%大きかった.解析ソフトは同一であるため,機種による違いが要因である.考えられる要因は,①高解像度の画像センサーの感度が高くなった,②青色LEDからのスリット光の輝度が上がった,③スリットの幅が広くなった,④1画像を撮影する露出時間が長くなった,などがあげられる.しかし,③は角膜形状の分解能を低下させ,④は測定時間が長くなるため,要因とは考えにくい.①②,あるいは両方の可能性と思われるが,検証が必要である.本検討ではIOL前面の解析で比較したが,PCOによるIOL後面混濁に対しても同様の関係が得られると考えられる.PCOによる散乱は表面光散乱に比べて弱い9,15).よって,高分解能のScheimp.ugカメラのほうが望ましいと考える.一方,着色IOLは,紫色光から青色光を吸収し,その吸収率はIOLのモデル,度数によって変動することもある17).経年的な変化を評価する場合は問題とならないが,EAS-1000で行えたようにほかのIOLとの比較には適しているとはいえない.文献1)BiberJM,SandovalHP,TrivediRHetal:Comparisonoftheincidenceandvisualsigni.canceofposteriorcapsuleopaci.cationbetweenmultifocalspherical,monofocalspherical,andmonofocalasphericintraocularlenses.JCat-aractRefractSurg35:1234-1238,20092)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:E.ectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20123)MatsushimaH,NagataM,KatsukiYetal:Decreasedvisualacuityresultingfromglisteningandsub-surfacenano-glisteningformationinintraocularlenses:Aretro-spectiveanalysisof5cases.SaudiJOphthalmol29:259-263,20154)WernerL:Glisteningsandsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:1398-1420,20105)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Quantitativecom-parisonofposteriorcapsuleopaci.cationafterpolymethyl-methacrylate,silicone,andsoftacrylicintraocularlensimplantation.ArchOphthalmol116:1579-1582,19986)TanakaY,KatoS,MiyataKetal:LimitationofScheimp-.ugvideophotographysysteminquantifyingposteriorcapsuleopaci.cationafterintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol137:732-735,20047)HayashiK,HayashiH:Posteriorcapsuleopaci.cationinthepresenceofanintraocularlenswithasharpversusroundedopticedge.Ophthalmology112:1550-1556,20058)MiyataK,KatoS,NejimaRetal:In.uencesofopticedgedesignonposteriorcapsuleopaci.cationandanteri-orcapsulecontraction.ActaOphthalmolScand85:99-102,20079)MiyataK,OtaniS,NejimaRetal:Comparisonofpostop-erativesurfacelightscatteringofdi.erentintraocularlenses.BrJOphthalmol93:684-687,200910)HayashiK,HirataA,YoshidaMetal:Long-terme.ectofsurfacelightscatteringandglisteningsofintraocularlensesonvisualfunction.AmJOphthalmol514:240-251,201211)Bissen-MiyajimaH,MinamiK,YoshinoMetal:Surfacelightscatteringandvisualfunctionofdi.ractivemultifocalhydrophobicacrylicintraocularlenses6yearsafterimplantation.JCataractRefractSurg39:1729-1733,201312)BehndigA,MonestamE:Quanti.cationofglisteningsinintraocularlensesusingscheimp.ugphotography.JCata-ractRefractSurg35:14-17,200913)MonestamE,BehndigA:Impactonvisualfunctionfromlightscatteringandglisteningsinintraocularlenses,along-termstudy.ActaOphthalmol89:724-728,201114)本坊正人,南慶一郎,尾形美由紀ほか:回転式Scheimp-.igカメラによる挿入眼内レンズ表面散乱のデンシトメトリ解析.臨眼68:1605-1608,20115)MinamiK,HonboM,MoriYetal:densitometryusingrotatingScheimp.ugphotographyforposteriorcapsuleopaci.cationandsurfacelightscatteringanalyses.JCata-ractRefractSurg41:2444-2449,201516)MiyataK,HonboM,NejimaRetal:Long-termobserva-tionofsurfacelightscatteringinfoldableacrylicintraocu-larlens.JCataractRefractSurg41:1205-1209,20117)MainsterMA:Violetandbluelightblockingintraocularlenses:photoprotectionversusphotoreception.BrJOph-thalmol90:784-792,200618)大西健夫,姜和哲,谷口重雄:後.混濁定量におけるEAS1000の諸設定.日眼紀50:398-402,1999***

眼内レンズ挿入後5年目に落屑症候群を発症した1例

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):288.291,2017c眼内レンズ挿入後5年目に落屑症候群を発症した1例古藤雅子與那原理子新垣淑邦酒井寛澤口昭一琉球大学医学部眼科学教室ACaseofExfoliationSyndromeDeveloped5YearsafterIntraocularLensImplantationMasakoKoto,MichikoYonahara,YosikuniArakaki,HirosiSakaiandShoichiSawaguchiDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityoftheRyukyus目的:正常眼圧緑内障(NTG)加療中に偽落屑物質(PE)の発症・沈着を生じた眼内レンズ(IOL)眼の報告.症例:57歳,男性.職業はバス運転手.2004年近医で左眼のIOL挿入術を施行,2006年より両眼のNTGと診断され治療が開始された.2009年6月に眼圧上昇を認めたため,琉球大学附属病院眼科を紹介受診したがPEは観察されなかった.IOL挿入後5年目の2009年12月,再来時に左眼瞳孔縁に微細なPEが観察された.2011年7月にはIOL表面にPEが観察された.IOL眼のフレア値は上昇していた.結論:PEの発症・進行を経時的に観察できたまれな1症例を報告した.Purpose:Toreportacaseofpseudoexfoliation(PE)syndromedevelopedinanintraocularlens(IOL)eyeduringtreatmentofnormal-tensionglaucoma(NTG).Case:A57-year-oldmalewhoworkedasabusdriverunderwentcataractsurgeryinhislefteyewithIOLimplantationin2004.BilateralNTGwasthendiagnosedandtreated.HewasreferredtoourhospitalonJune2009becauseofpoorintraocularpressurecontrol;PEcouldnotbedetectedatthis.rstvisit.SubtlePEaroundthepupillarymargincouldbedetectedonDecember2009,5yearsaftercataractsurgery.OnJuly2011,PEcouldbeseenontheIOLsurface.Flarevaluewasincreasedinthepseu-dophakicPEeye.Conclusion:WereportararecaseofPEsyndromedevelopedaftercataractsurgery,withdetailedtimecourse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):288.291,2017〕Keywords:落屑症候群,眼内レンズ,正常眼圧緑内障,フレア値.pseudoexfoliationsyndrome,intraocularlens,normaltensionglaucoma,.arevalue.はじめに水晶体偽落屑物質(pseudoexfoliation:PE)は瞳孔縁,水晶体表面に線維性細胞外物質の沈着が灰白色の薄片物質として観察され,また眼以外にも全身の臓器組織での産生・沈着が観察される疾患である1).落屑症候群の発症に関しては遺伝子異常の関与,さらに加齢,日光(紫外線)曝露を含めた環境因子や人種差,性差による影響など多くの因子が関与していることが明らかにされてきている.落屑症候群の臨床上重要な点は,緑内障を合併した場合その予後が不良な点と白内障手術における合併症の多さである.実際,開放隅角緑内障や閉塞隅角緑内障に比べてもその予後が不良であることが報告されている2).また,PEを伴う眼では緑内障の合併が多く,わが国では約17%が緑内障を合併することがYama-motoらによる大規模疫学調査,TajimiStudyで明らかにされた3).落屑症候群(落屑緑内障)はとくに加齢とともに有病者が急激に増加することが,多くの疫学調査で明らかにされている.わが国は高齢社会を迎え,高齢者における緑内障有病率の増加,白内障手術のいっそうの増加が予想される.白内障手術が落屑症候群の発症,進行に与える影響あるいは白内障手術と落屑症候群との関連についてはいまだ明らかではない.今回筆者らは白内障手術後,経過観察中に正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)を発症し,その加療中の患者にPEの発症をその時間経過とともに観察できたきわめてまれな1症例を経験したので,文献的考察を含め〔別刷請求先〕古藤雅子:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町上原207琉球大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasakoKoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN288(146)て報告する.I症例57歳,男性.職業はバス運転手.既往歴に気管支炎.2004年に左眼のIOL挿入術を近医眼科で施行した.2006年に両眼のNTGと診断され治療が開始されたが,次第に眼圧コントロールが不良となり,視野障害が進行したため,2009年6月に琉球大学附属病院眼科(以下,当科)を紹介受診した.初診時所見:視力右眼0.7(1.2×sph.0.50D(cyl.0.75DAx90°),左眼0.9(1.5×sph0.00D(cyl.0.75DAx95°),右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧18mmHg.前房は両眼とも深く,右眼初発白内障,左眼はIOL眼(.内固定)であった.視神経乳頭は両眼とも進行した緑内障の異常を認め,右眼耳下側に初期の,また左眼耳側上下に進行した網膜神経線維層欠損を認めた.この時点では細隙灯顕微鏡検査でPEの沈着は両眼とも観察されていなかった.開放隅角緑内障と診断し0.5%マレイン酸チモロール,ラタノプロスト,塩酸ドルゾラミド点眼を両眼に開始した.2009年12月再来院時(右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧21mmHg),左眼瞳孔縁に軽度のPEが観察されたが,右眼には観察されなかった.その後,注意深く観察を続けたところ2011年7月(右眼眼圧18mmHg,左眼眼圧21mmHg)には左眼IOL表面にPEの沈着が観察できるようになり,2013年11月(右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧21mmHg)には瞳孔縁に明らかなPE(図1)が,また2014年1月にはIOL表面にPEの沈着を観察できるようになった.また,PEの出現と前後して右眼眼圧12mmHg,左眼眼圧24mmHgと眼圧のコントロール不良が進行し,視野の悪化(図2)も認めたため2014年1月に左眼線維柱帯切開術を施行した.2016年5月(右眼眼圧16mmHg,左眼眼圧18mmHg)に散瞳下で行った細隙灯顕微鏡検査では右眼水晶体にはPEは認めず(図3a),左眼IOL表面には高度のPEの沈着が観察された(図3b).前眼部画像解析検査では虹彩裏面とIOLは接触していなかった.2016年5月に行ったフレアメーター(Kowa,Tokyo)による検査では,右眼13.0,左眼20.2のフレア値の上昇を認めた(正常対象:4.5±0.9).II考按初診時PEを両眼に認めなかった患者の左眼のIOL挿入後5年目にPEの発症,進行をその時間経過とともに観察できたまれな1症例を報告した.PEは水晶体前面あるいは瞳孔縁,虹彩面に観察される綿状の白色の沈着物で,病理組織学的には眼以外にも全身の臓器組織に観察される1).眼科では落屑症候群とよばれ,難治性の緑内障,白内障,またPEの沈着によるZinn小帯の脆弱化に伴う白内障手術の難易度の上昇や,術中・術後のIOLの偏移,脱臼,落下など種々の合併症が問題となる.落屑症候群は当初,北欧諸国で高頻度にみられ,報告が相ついだが,一方でわが国を含めその他の国では比較的まれな疾患とされてきた.しかしながら近年,日本および国際的な疫学調査でその有病率が次第に明らかにされ,わが国においては,Miyazakiらは1998年に九州の久山町での50歳以上の有病率が3.4%であることを報告し4),YamamotoらはTajimiStudyで40歳以上の1.0%が罹患していることを報告した3).わが国における落屑症候群の有病率が地域差はあるものの国際的にみても同等かそれ以上であることが明らかにされた.落屑症候群における緑内障(落屑緑内障)の頻度は臨床上きわめて重要であり,Yamamotoらは約17%と報告している3).すなわち,日常診療でPEが観察された場合6人のうち,1人が落屑緑内障であることが示された.PEの発症に関しては遺伝子の異常,加齢,日光(紫外線)曝露,人種差,性差など多くの因子が関与している.今回の症例は非常に長期間バス運転手をしており,日光(紫外線)曝露の影響が関与している可能性がある.また,近年若年期に屋外で過ごす時間がPE発症のリスク因子であることが明らかにされており5),小児期からの日光(紫外線)曝露には十分注意が必要である.本症例のように両眼ともPEが観察されていない症例がPEを発症するまでの時間経過については明らかでない(もっとも疫学調査では70歳以上で急激に有病率が上昇する).一方で片眼発症のPEにおける僚眼の発症までにかかる時間に関してはArnarssonらは5年間で27%,12年間で71%と報告している6,7).今回の症例のようにPEが観察されない状態からその発症までの時間経過を比較的正確に観察できた症例は,筆者らの知る限りではない.とくに白内障手術後約5年でPEを発症した今回の症例から,日常臨床においては白内障手術後少なくとも5年間以上は患者を定期的に診察する必要性のあることが示された.一方,欧米の文献を検索したところ,両眼ともPEの観察されていない患者のIOL挿入後のPEの発症時期に関してはIOL挿入後7年目(左眼)8),6年目(両眼),10年目(左眼),5年目(右眼)9),4年目(左眼),3年目(左眼)10)で,6症例7眼の報告があり,PE発症まで平均約6年であった.しかしながらこれらの報告のPE発症までの時間経過は正確でなく,偶然受診時にすでに著明なPEが観察された症例であった.すでに述べたように白内障手術,あるいはIOLがPEの発症,進行に影響を与えるかどうかは明らかでない.しかしながら今回の症例は白内障手術眼でのみPEが発症,進行している.同様に片眼IOLを挿入した3症例9,10)においても,非手術眼(水晶体眼)の他眼はPEの発症が観察されていない.筆者らの症例を含めて,白内障手術(IOL挿入)はPEの発症,進行に何らかの影響を与えているものと考えられる.またMiliaらは左眼にPEを認め,PEのない右眼のIOL挿入術後18カ月後という比較的短期間にPEを発症した症例を報告している8).SchumacherらはPE眼では一般的に血液房水関門が障害され,フレア値はPE(+白内障)眼では16.7±5.9,対象群の白内障眼では4.98±1.5と有意(p=0.001)にPE眼で高値であり,さらに白内障手術を行ったPE眼では血液房水関門はいっそう障害され,術後5日目でPE眼で21.2±5.7,に対し白内障手術を行った対象眼では10.5±1.4と有意差(p=0.003)を認めたと報告している11).同様に猪俣らは落屑症候群のフレア値を測定し,その値は進行したPE眼では13.9±7.1,軽度のPE眼では10.4±2.9であり有意(p<0.05)に,進行したPE眼のフレア値が高値であったと報告した12).今回の症例も同様にまだPEを発症していない有水晶体眼の右眼においても軽度のフレア値の上昇がみられた.さらに白内図1細隙灯顕微鏡検査所見瞳孔縁に明らかな偽落屑物質の沈着が観察される.障手術でその発症が加速する可能性は否定できない.フレア図2視野検査a:初診から半年後のGoldmann視野検査.鼻側内部イソプターの感度低下を認めた.b:初診から2年後には鼻下側の弓状暗点と鼻側下方視野欠損を認めた.図3散瞳下細隙灯顕微鏡検査所見a:初診から7年後の右眼水晶体には,偽落屑物質は散瞳下においても観察されていない.b:著明なスポーク状の偽落屑物質が人工水晶体表面に観察される.値の測定は白内障術前後の標準的な検査項目の一つであり,異常値がある症例では,PEが観察されていない状態でも注意深い細隙灯顕微鏡およびフレア値測定を含めた検査を行い,長期的定期的な診療を行う必要がある.文献1)NaumanGOH,Schloetzer-SchrehardtU,KuchileM:Pseudoexfoliationsyndromeforthecomprehensiveoph-thalmologist.Intraocularandsystemicmanifestations.Ophthalmology105:951-968,19982)Abdul-RahmanAM,CassonRJ,NewlandHSetal:Pseu-doexfoliationinaruralBurmesepopulation:theMeiktilaEyeStudy.BrJOphthalmol92:1325-28,20083)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandsecondaruyglaucomainaJapa-nesepopulation.TheTajimiStudyReport2.Ophthalmolo-gy112:1661-69,20054)MiyazakiM,KubotaT,KudoMetal:TheprevalenceofpseudoexfoliationsyndromeinaJapanesepopulation;TheHisayamaStudy.JGlaucoma14:482-484,20055)KangJH,WiggsJL,PasqualeLR:Relationbetweentimespentoutdoorsandexfoliationglaucomaorglaucomasus-pect.AmJOphthalmol158:605-614,20146)ArnarssonA,JonssonF,DamjiKEetal:Pseudoexfolia-tionintheReykjavikEyeStudy:riskfactorsforbaselineprevalenceand5-yearincidence.BrJOphthalmol95:831-35,20107)ArnarssonA,SasakiH,JonassonF:Twelve-yearinci-denceofexfoliationsyndrome:theReykjavikEyeStudy.ActaOphthalmol91:157-62,20138)MiliaM,KonstantopoulosA,StavrakasPetal:Pseudoex-foliationandopaci.cationofintraocularlenses.CaseRepOphthalmology2:287-290,20119)ParkK-A,KeeC:PseudoexfoliativematerialontheIOLsurfaceanddevelopmentofglaucomaaftercataractsur-geryinpatientswithpseudoexfoliationsyndrome.JCata-ractRefractSurg33:1815-1818,200710)KaliaperumalS,RaoVA,HarishSetal:Pseudoexfoliationonpseudophakos.IndianJOphthalmol61:359-361,201311)SchumacherS,NguyenNX,KuchleMetal:Quanti.ca-tionofaqueous.areafterphacoemulsi.cationwithintra-ocularlensimplantationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol117:733-35,199912)猪俣孟,田原昭彦,千々岩妙子ほか:落屑緑内障の臨床と病理.臨眼48;245-252,1994***

紫色光ブロック眼内レンズZCB00Vを用いた白内障手術の術後早期成績:視力,屈折度,QOLの検討

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):898.903,2015c《原著》あたらしい眼科32(6):898.903,2015c898(134)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕岡義隆:〒820-0067福岡県飯塚市川津364-2岡眼科ビル1F岡眼科クリニックReprintrequests:YoshitakaOka,M.D.,OkaEyeClinic,1FOkaEyeClinicBldg.,364-2Kawazu,Iizuka,Fukuoka820-0067,JAPAN紫色光ブロック眼内レンズZCB00Vを用いた白内障手術の術後早期成績:視力,屈折度,QOLの検討岡義隆*1貞松良成*2*1岡眼科クリニック*2さだまつ眼科クリニックEarlyClinicalOutcomesofaVioletBlockingIntraocularLensZCB00VPostCataractSurgery:EvaluationofVisualAcuity,Refraction,andQualityofLifeYoshitakaOka1)andYoshinariSadamatsu2)1)OkaEyeClinic,2)SadamatsuEyeClinic目的:紫外線と紫色光をブロックし青色光を透過させる新しい着色眼内レンズ(IOL)であるテクニスオプティブルー(ZCB00V,エイエムオー・ジャパン)について,白内障手術後早期の視力,屈折度,QOL(qualityoflife)における臨床転帰を評価する.対象および方法:32人60眼(年齢73.1±6.0歳)を対象に,ZCB00Vを挿入する白内障手術を実施し,手術1カ月後に裸眼遠方視力,矯正遠方視力,自覚的屈折度,視覚に関連したQOLを評価する多施設前向き研究を行った.QOLの評価はNEIVFQ-25(the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestion-naire)によるアンケート調査により行った.結果:術中合併症の発生はなかった.術前から手術1カ月後にかけ,裸眼遠方視力(logMAR値)は0.58±0.40から0.02±0.16,矯正遠方視力(logMAR値)は0.14±0.24から.0.06±0.06といずれも有意に改善した(ともにp<0.01).等価球面度数は.0.07±2.24Dから.0.39±0.46Dと推移したが,有意な変化ではなかった(p=0.21).手術1カ月後の片眼裸眼遠方視力(logMAR値)は,対象眼数の81.67%(49眼/60眼)で0.0以下,93.33%(56眼/60眼)で0.1以下,そして96.67%(58眼/60眼)で0.3以下であった.片眼矯正遠方視力(logMAR値)は,対象眼数の97.96%(48眼/49眼)で0.0以下,そして100%で0.3以下であった.手術1カ月後のQOLはNEIVFQ-25の12の下位尺度すべてで有意に改善した(いずれもp≦0.01).結論:ZCB00Vは白内障手術後早期の視機能改善において有効性と安全性を備えたIOLである.Purpose:ToevaluateearlyclinicaloutcomesoftheTECNISROptiBlue(ZCB00V;AbbottMedicalOptics,Inc.)intraocularlens(IOL),anew,yellow-tinted,violetlightblockingIOL,postcataractsurgery.Methods:Thestudycomprised60eyesof32patients(meanage:73.1±6.0years)fromtwoeyeclinicsthatunderwentcataractsurgerywithimplantationoftheTECNISROptiBlueIOL.Uncorrecteddistancevisualacuity(UDVA),correcteddistancevisualacuity(CDVA),manifestrefraction,andvision-relatedqualityoflifewereexaminedprospectivelyat1-monthpostoperative.Qualityoflifewasmeasuredwiththe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire(NEIVFQ-25).Results:Nocomplicationsoccurredduringsurgery.ThemeanUDVA(logMAR)valueswere0.58±0.40and0.02±0.16atbeforesurgeryandat1-monthpostoperative,respectively,andthemeanCDVA(logMAR)valuesatthosesameevaluationtime-pointswere0.14±0.24and.0.06±0.06,respectively,thusshowingthatbothUDVAandCDVAweresignificantlyimprovedat1-monthpostoperative(p<0.05).Beforesur-geryandat1-monthpostoperative,themeansphericalequivalentvalueswere.0.07±2.24diopters(D)and.0.39±0.46D,respectively,thusshowingnosignificantchangebetweenbeforeandaftersurgery.At1-monthpost-operative,81.67%(49/60)oftheeyesachievedanUDVAof≦0.0,93.33%(56/60)achievedanUDVAof≦0.1,and96.67%(58/60)achievedanUDVAof≦0.3,and97.96%(48/49)oftheeyesachievedaCDVAof≦0.0and100%achievedaCDVAof≦0.3.TheNEIVFQ-25scoresweresignificantlyimprovedinallofthe12subscalesat1-monthpostoperative(p≦0.01).Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthesafetyandefficacyoftheTECNISROptiBluevioletblockingIOLwithrespecttoearlypostoperativevisualoutcomesfollowingcataractsur-gery. 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):898.903,2015〕Keywords:眼内レンズ,青色光,裸眼遠方視力,矯正遠方視力,等価球面度数,NEIVFQ-25,QOL.intraocularlens,bluelight,uncorrecteddistancevisualacuity,correcteddistancevisualacuity,sphericalequivalent,NEIVFQ-25,QOL.はじめに白内障手術に使用される眼内レンズ(IOL)は1980年代後半以降,光毒性により網膜損傷を引き起こす紫外線(UV)の透過防止を目的として,レンズ材料成分にUV吸収能をもつ発色団を添加し,UVフィルター機能をもたせたIOLが一般的となっている1,2).これらのIOLでは当初,可視光の全波長領域を透過させる非着色タイプのIOLが普及した2).しかし,短波長可視光が網膜に及ぼす悪影響に関して,動物実験により青色光の光毒性が網膜傷害の原因となることが明らかにされた3).また,疫学的研究により,青色光への曝露が加齢黄斑変性の発症と関連する可能性が示された4).こうしたエビデンスの蓄積を背景に,青色光吸収能を有する発色団の添加によって,UVから青色光までの波長スペクトルに対するフィルター機能をもたせた着色タイプの青色光ブロックIOLが開発され5),近年臨床への普及が進んでいる.青色光ブロックIOLを従来の非着色IOLと比較した術後成績に関しては,視力,コントラスト感度,色覚といった視機能や視覚に関連したQOL(qualityoflife)について,両IOLで同等に良好であったという報告がある6,7).一方で,青色光ブロックIOL挿入眼では非着色IOL挿入眼と比較し,暗所視や薄明視における視機能が低下する可能性が指摘されている2).暗所視では,最大視感度の波長が明所視よりも短波長側にシフトするPurkinje現象により,視覚における青色光の重要度が増すと考えられる8).また,青色光ブロックIOL挿入による青色光遮断に伴い,概日リズム同調に必要な網膜神経節細胞での光受容が妨げられ,体内時計や睡眠に関連した問題を生じる可能性も指摘されている9).こうしたなか,青色光ブロックIOLの臨床的有用性の評価をめぐり,いまだ議論が続いているのが現状である10).2013年から使用可能となった新しい着色IOLのテクニスオプティブルー(ZCB00V,エイエムオー・ジャパン)では,従来の青色光吸収剤ではなく紫色光吸収剤が添加されており,UVから400.440nmの紫色光までの波長スペクトルに対するフィルター機能を備えている.440.500nmの青色光は暗所視下に最大視感度を示す波長の近傍であり,かつ概日リズム同調に必要とされる領域を含むが,ZCB00Vは,この青色光領域に対する分光透過率が従来の青色光ブロックIOLと比べて高い8).このためZCB00Vでは,従来の青色光ブロックIOLに対し指摘される上記のデメリットが改善される可能性がある.(135)本研究は,青色光透過性をもつ紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの術後成績についての最初の臨床報告である.ZCB00Vを挿入する白内障手術を行い,手術1カ月後までの視力,屈折度,および視覚に関連したQOLの臨床経過を検討した.I対象および方法1.対象患者研究対象は,2施設の眼科専門クリニック(岡眼科クリニック,福岡;さだまつ眼科クリニック,埼玉)にて,1ピース非球面タイプの紫色光ブロックIOLであるZCB00Vを用いて白内障手術を施行した32人(男性11人,女性21人)60眼である.患者の選択基準はつぎのとおりとした:①年齢21歳以上,②術後の正視を希望,③必要となるIOLの度数が15.26D,④本研究への参加についてインフォームド・コンセントが実施されている,⑤本研究への参加意思があり,術後フォローアップスケジュールに従った受診が可能.また,除外基準をつぎのように定めた:①視力に影響する可能性のある薬剤を全身投与もしくは点眼投与により使用中,②視力もしくは本研究の検討結果に影響を及ぼす可能性がある疾患やその他の病的状態(急性,慢性を問わない)を有する,③術前もしくは術後の診察で水晶体.とZinn小帯の両方もしくはどちらか片方に異常所見があり,それを原因としたIOLの偏位によって術後の視力が影響を受ける可能性がある,④瞳孔の異常(瞳孔無反応,瞳孔強直,瞳孔形態異常,薄明視もしくは暗所視下で瞳孔径4mm以上に拡大しない),⑤散瞳点眼剤へのアレルギーを有する.本研究は各施設の倫理審査委員会による承認を受けており,1964年のヘルシンキ宣言において採択された臨床研究の倫理規範に従って実施された.2.術前・術後臨床評価項目術前臨床評価として,すべての対象患者につぎの項目の一般的な眼科検査を実施した:①裸眼遠方視力,②矯正遠方視力,③自覚的屈折度,④細隙灯顕微鏡検査,⑤生体計測(IOLマスター,カールツァイスメディテック),⑥眼底検査.また,視覚に関連したQOLについて,測定尺度として信頼性・妥当性が確立されているアンケート調査方法であるNEIVFQ-25(The25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire)11)を用いて評価した.NEIVFQ25は25項目から構成され,全体的健康感や視覚,各種の活あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015899 動を行ううえで感じる困難さ,視力低下がもたらす影響をどの程度重大にとらえているかについて,患者への質問によって測定する.視覚に関連した各種の活動に対して感じる困難さについて,「(1)まったく難しくない」「(2)あまり難しくない」「(3)難しい」「(4)とても難しい」「(5)見えにくいのでするのをやめた」「(6)別の理由でするのをやめた/もともとしない」の回答により6段階に評価した(回答(6)は欠損データとして扱った).また,視力低下の影響によるさまざまな役割の制限について尋ねた13項目のうち,5項目については「(1)いつも」.「(5)まったくない」,8項目については「(1)まったくそのとおり」.「(5)ぜんぜんあてはまらない」の回答により,いずれも5段階に評価した.なおNEIVFQ-25は,患者が普段の状態で各種の活動を行うことができるかどうかを尋ねるものであり,患者は眼鏡の使用が許容されるものとして回答する.術後臨床評価として,手術翌日,1週間後,1カ月後の来院時につぎの検査を行った:①裸眼遠方視力,②矯正遠方視力,③自覚的屈折度,④細隙灯顕微鏡検査.また手術1カ月後にNEIVFQ-25を用いて再度,QOLを評価した.3.使用したIOLZCB00Vは,UV・紫色光吸収剤が添加された柔軟で折り畳み可能なアクリル素材からなる1ピース非球面IOLで,光学部直径6.0mm,全長13.0mmである.後.混濁予防のため,光学部はフロスト加工処理され,また後面全周に直角エッジデザインが施されている.紫色光吸収剤によって遮断されるおもな波長域は,網膜損傷を引き起こす可能性のある440nm未満の短波長域8)に限られている.暗所視下の良好な視機能や概日リズム同調のために必要となる440.500nmの青色光領域に対しては,ZCB00Vは従来の青色光ブロックIOLと比べて高い分光透過率を示す8).本レンズは,選択可能な全度数範囲+6.0.+30.0D(0.50D刻み)を通じて分光透過率曲線の形状がほぼ同一となるように設計されている.また,角膜の球面収差を補正することにより術後の眼球全体の球面収差をほぼ0とすることを目的として,レンズ後面は非球面形状となっている.メーカー推奨A定数は118.8である.4.手術手技手術は全例,熟練した術者が局所麻酔下で施行した.岡眼科クリニックでは耳側角膜2.4mm切開,さだまつ眼科クリニックでは耳側経結膜2.4mm切開を行い,CCC(continuouscurvilinearcapsulorhexis)による前.切開に続いて超音波水晶体乳化吸引術を行った後,IOL挿入器アンフォルダーRプラチナ1システム(エイエムオー・ジャパン)を使って水晶体.内にZCB00Vを挿入した.術後管理として全例にステロイド点眼薬投与を行った.5.統計解析統計解析ソフトウェアSPSSversion19.0(IBM)を使用して統計学的検討を行った.各評価項目における経時的変化をみるため,術前後の各評価時点間でWilcoxon順位和検定を用いて比較した.いずれの場合も統計学的有意水準はp<0.05とした.QOLについてのNEIVFQ-25による調査結果を解析するため,米国国立眼病研究所(NEI)の実施要綱に従い,全25項目を構成する12の下位尺度についてのスコア化を行った11).調査時に,視機能が良好なほど高スコアとする採点ルールに従って全25項目のスコア値を記録した後,各項目のスコア値をそれぞれ最低スコア値0.最高スコア値100のスケールに変換した.そして関連性のある項目のスコア値の平均値を求めることで,12の下位尺度のスコア値を算出した.II結果1.患者背景本研究はプロスペクティブな検討として実施され,参加した患者は男性11人(34.4%),女性21人(65.6%),年齢73.1±6.0歳(平均値±SD,範囲:64.83歳),対象とした60眼の内訳は右目29眼(48.3%),左目31眼(51.7%)であった.挿入されたIOLの度数は21.42±3.02D(平均値±SD,中央値:21.00D,範囲:12.50.27.00D)であった.23眼(38.3%)に眼疾患既往があり,23眼(38.3%)に眼底の異常所見がみられた.術前臨床評価時に検出された眼疾患や眼の病的状態は以下のとおりであった:加齢黄斑変性1眼(1.7%),動脈硬化性網膜症1眼(1.7%),糖尿病網膜症4眼(6.7%),緑内障10眼(16.7%),糖尿病網膜症を併存する緑内障2眼(3.3%),黄斑部網膜上膜を併存する緑内障1眼(1.7%),高血圧性網膜症3眼(5.0%),偽落屑緑内障1眼(1.7%).術中合併症の発生はなかった.2.視力と屈折度表1に視力と屈折度の術前.手術1カ月後における経時的推移を示す.片眼裸眼遠方視力(logMAR値,平均値±SD)は術前の0.58±0.40から手術1カ月後に0.02±0.16,片眼矯正遠方視力(logMAR値,平均値±SD)は術前の0.14±0.24から手術1カ月後に.0.06±0.06といずれも有意に改善していた(Wilcoxon順位和検定,いずれもp<0.01;図1).等価球面度数(平均値±SD)は術前の.0.07±2.24Dから手術1カ月後に.0.39±0.46Dと推移したが,有意な変化ではなかった(Wilcoxon順位和検定,p=0.21;図2).手術1カ月後の片眼裸眼遠方視力(logMAR値)が0.0以下であった眼数の割合は81.67%(49眼/60眼),0.1以下は93.33%(56眼/60眼),0.3以下は96.67%(58眼/60眼)であった(図3a).同様に手術1カ月後の片眼矯正遠方視力(logMAR値)が0.0以下,0.1以下の割合はともに97.96%(48(136) あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015901(137)眼/49眼)であり,0.3以下は100%であった(図3b).3.QOL表2にNEIVFQ-25で評価したQOLを術前と手術1カ月後で比較した結果を示す.手術1カ月後に12の下位尺度のすべてにおいてスコア値の有意な改善がみられた(Wilcox-on順位和検定,いずれもp≦0.01).III考察裸眼遠方視力(logMAR値)の平均値±SDは手術1カ月後に0.02±0.16(範囲:.0.08.1.00)まで改善した.この結果から,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの挿入眼では,視力の良好な予後が期待できることが示された.表1術前後の片眼視力および屈折度の臨床経過術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後術前vs.手術1カ月後の比較†UDVA0.58(0.40)0.52(.0.08.1.70)0.08(0.16)0.00(.0.08.1.00)0.02(0.14)0.00(.0.08.0.82)0.02(0.16)0.00(.0.08.1.00)p<0.01CDVA0.14(0.24)0.10(.0.08.1.30).0.01(0.11).0.08(.0.08.0.52).0.06(0.05).0.08(.0.08.0.15).0.06(0.06).0.08(.0.08.0.22)p<0.01等価球面度数(D).0.07(2.24)+0.25(.6.00.+4.63).0.10(0.35)0.00(.0.75.+0.63).0.08(0.37)0.00(.1.00.+0.75).0.39(0.46).0.50(.2.50.0.00)p=0.21上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値.†:Wilcoxon順位和検定.図1フォローアップ期間中の片眼裸眼遠方視力と片眼矯正遠方視力の変化UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値(平均値±標準偏差).p値:Wilcoxon順位和検定.logMAR値-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後UDVACDVA0.58±0.400.02±0.16-0.06±0.060.14±0.24術前vs.手術1カ月後:p<0.01術前vs.手術1カ月後:p<0.01図2フォローアップ期間中の等価球面度数の変化平均値±標準偏差.p値:Wilcoxon順位和検定.等価球面度数(D)-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.0術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後-0.39±0.46術前vs.手術1カ月後:p=0.21-0.07±2.24図3フォローアップ期間を通じた片眼裸眼遠方視力(a)と片眼矯正遠方視力(b)の分布変化術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合logMAR値■0.0以下■0.1以下■0.3以下100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%abあたらしい眼科Vol.32,No.6,2015901(137)眼/49眼)であり,0.3以下は100%であった(図3b).3.QOL表2にNEIVFQ-25で評価したQOLを術前と手術1カ月後で比較した結果を示す.手術1カ月後に12の下位尺度のすべてにおいてスコア値の有意な改善がみられた(Wilcox-on順位和検定,いずれもp≦0.01).III考察裸眼遠方視力(logMAR値)の平均値±SDは手術1カ月後に0.02±0.16(範囲:.0.08.1.00)まで改善した.この結果から,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの挿入眼では,視力の良好な予後が期待できることが示された.表1術前後の片眼視力および屈折度の臨床経過術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後術前vs.手術1カ月後の比較†UDVA0.58(0.40)0.52(.0.08.1.70)0.08(0.16)0.00(.0.08.1.00)0.02(0.14)0.00(.0.08.0.82)0.02(0.16)0.00(.0.08.1.00)p<0.01CDVA0.14(0.24)0.10(.0.08.1.30).0.01(0.11).0.08(.0.08.0.52).0.06(0.05).0.08(.0.08.0.15).0.06(0.06).0.08(.0.08.0.22)p<0.01等価球面度数(D).0.07(2.24)+0.25(.6.00.+4.63).0.10(0.35)0.00(.0.75.+0.63).0.08(0.37)0.00(.1.00.+0.75).0.39(0.46).0.50(.2.50.0.00)p=0.21上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値.†:Wilcoxon順位和検定.図1フォローアップ期間中の片眼裸眼遠方視力と片眼矯正遠方視力の変化UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値(平均値±標準偏差).p値:Wilcoxon順位和検定.logMAR値-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後UDVACDVA0.58±0.400.02±0.16-0.06±0.060.14±0.24術前vs.手術1カ月後:p<0.01術前vs.手術1カ月後:p<0.01図2フォローアップ期間中の等価球面度数の変化平均値±標準偏差.p値:Wilcoxon順位和検定.等価球面度数(D)-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.0術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後-0.39±0.46術前vs.手術1カ月後:p=0.21-0.07±2.24図3フォローアップ期間を通じた片眼裸眼遠方視力(a)と片眼矯正遠方視力(b)の分布変化術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合logMAR値■0.0以下■0.1以下■0.3以下100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%ab 表2NEI.VFQ25の12の下位尺度を用いて評価した術前後のQOL変化NEI-VFQ25下位尺度術前手術1カ月後p値†全体的健康感53.13(15.23)50.00(25.00.100.00)64.06(21.94)50.00(25.00.100.00)0.01全体的見え方55.63(17.40)60.00(20.00.80.00)91.25(10.08)100.00(80.00.100.00)<0.01目の痛み83.59(17.52)87.50(37.50.100.00)93.95(9.05)100.00(62.50.100.00)0.01近見視力による行動60.94(24.54)66.67(0.00.100.00)92.47(12.79)100.00(50.00.100.00)<0.01遠見視力による行動65.63(20.60)66.67(25.00.100.00)98.39(3.98)100.00(83.33.100.00)<0.01運転56.88(25.16)50.00(25.00.100.00)96.71(8.17)100.00(75.00.100.00)<0.01周辺視覚70.16(21.81)75.00(25.00.100.00)99.22(4.42)100.00(75.00.100.00)<0.01色覚87.10(12.70)75.00(75.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による社会生活機能82.81(17.32)87.50(25.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による自立75.78(24.99)75.00(25.00.100.00)99.46(2.99)100.00(83.33.100.00)<0.01見え方による心の健康69.73(23.12)68.75(25.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による役割制限76.56(24.75)81.25(25.00.100.00)99.19(2.67)100.00(87.50.100.00)<0.01上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.†:Wilcoxon順位和検定(術前vs.手術1カ月後の比較).本研究で裸眼遠方視力と矯正遠方視力により評価したZCB00Vの視力予後は,従来タイプの着色IOLである青色光ブロックIOLについて過去に報告された予後評価の結果と同等であった12.15).加えて,非着色タイプの非球面IOLについて過去に報告された結果とも同等,もしくはそれらより良好な結果であった16,17).Baghiらは,TecnisZ9000(AbbottMedicalOpticsInc.USA)とAkreosAO(Bausch&LombInc.USA)の2種類の非球面非着色IOLで視力予後を比較し,各IOL挿入眼の手術3カ月後の裸眼視力(logMAR値)平均値がそれぞれ0.18,0.25であったと報告している16).これに対し,同じ2種類のIOLについてJohanssonらが行った比較検討では,手術10.12週後の裸眼視力(logMAR値)平均値についてTecnisZ9000で0.08,AkreosAOで0.11とより良好な結果が報告されている17).これらの既報の結果との比較から,ZCB00Vは非球面非着色IOLや青色光ブロックIOLと比べ,視力予後が同等,もしくはそれらより良好と考えられる.視力予後に加え,ZCB00Vの挿入が視覚に関連するQOLに及ぼす影響について,NEIVFQ-25を用いたアンケート調査により評価した.NEIVFQ-25は当初,各種の眼疾患に伴う視力低下がさまざまな日常行動に影響を及ぼすことにより,QOLにどう影響するかを測る目的で開発された11).その後の検証により,調査対象者の視力のレベルや健康状態によらず,信頼性・妥当性をもってQOLを評価可能な測定尺度として確立されている18).また近年は,調節型IOLや回折多焦点IOLといった各種のIOLを用いて白内障手術を施行した後のQOLの変化を評価する目的で,NEIVFQ-25が使用されている19,20).本研究では,NEIVFQ-25の12の下位尺度すべてで術後に有意な改善が認められ,そのなかでも平均値増加幅が比較的大きかった下位尺度が「運転」(術前ベースライン値:56.88,増加幅:39.8),「全体的見え方」(同:55.63,同:35.6),「遠見視力による行動」(同:65.63,同:32.8),「近見視力による行動」(同:60.94,同:31.5)であった.Espindleらは青色光ブロックIOLについて,白内障手術前後の視覚に関連したQOLの変化を,NEIVFQ25と同一の12の下位尺度をもち39項目から構成されるNEIVFQ-39を用いて調べた6).その結果,手術120.180日後に「全体的健康感」を除く11の下位尺度すべてでQOL(138) が有意に改善しており,平均値増加幅が比較的大きかった尺度は「運転」(術前ベースライン値:58.37,増加幅:31.17),「全体的見え方」(同:60.04,同:28.59),「近見視力による行動」(同:66.28,同:26.72)「遠見視力による行動」(同:68.89,同:26.17)と本研究の果と共通していた.本研究の観察期間は手術後1カ月間と短いため単純な比較はできないものの,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vは,青色光ブロックIOLと同様に術後の視覚に関連したQOLを改善させると考えられる.結論として,青色光を透過し紫色光.UVを遮断する紫色光ブロックIOLのZCB00Vは,白内障手術後早期の視機能改善において有効性と安全性を備えたIOLであり,従来タイプの青色光ブロックIOLと比較し,遜色ない臨床成績が期待できる.今後の検討課題に関しては,ZCB00Vでは,暗所視において重要度を増す青色光に対し高い分光透過率を示す8)ため,青色光ブロックIOLについて問題視されてきた暗所視でのコントラスト感度低下が起きにくいと予想される.したがって今後,ZCB00V挿入眼におけるコントラスト感度と色覚について検証することが必要と考えられる.また,ZCB00Vでは,患者の視機能低下につながる可能性があるグリスニングやsub-surfacenanoglistening(SSNG)が発生しにくい疎水性アクリル素材が用いられており21),本IOL挿入眼におけるグリスニングやSSNG発生についても検証が必要である.さらに,ZCB00Vの使用によって安定結(,)した長期予後が得られるかに関連して,IOLの.内安定,後.混濁(PCO)の検証も必須である.文献1)MainsterMA:Thespectra,classification,andrationaleofultraviolet-protectiveintraocularlenses.AmJOphthalmol102:727-732,19862)HendersonBA,GrimesKJ:Blue-blockingIOLs:acompletereviewoftheliterature.SurvOphthalmol55:284289,20103)GrimmC,WenzelA,WilliamsTetal:Rhodopsin-mediatedblue-lightdamagetotheratretina:effectofphotoreversalofbleaching.InvestOphthalmolVisSci42:497505,20014)TaylorHR,WestS,MunozBetal:Thelong-termeffectsofvisiblelightontheeye.ArchOphthalmol110:99-104,19925)DavisonJA,PatelAS:Lightnormalizingintraocularlenses.IntOphthalmolClin45:55-106,20056)EspindleD,CrawfordB,MaxwellAetal:Quality-of-lifeimprovementsincataractpatientswithbilateralbluelight-filteringintraocularlenses:clinicaltrial.JCataractRefractSurg31:1952-1959,20057)ZhuXF,ZouHD,YuYFetal:Comparisonofbluelight-filteringIOLsandUVlight-filteringIOLsforcataractsurgery:ameta-analysis.PLoSOne7:e33013,20128)MainsterMA:Violetandbluelightblockingintraocularlenses:photoprotectionversusphotoreception.BrJOphthalmol90:784-792,20069)TurnerPL,MainsterMA:Circadianphotoreception:ageingandtheeye’simportantroleinsystemichealth.BrJOphthalmol92:1439-1444,200810)YangH,AfshariNA:Theyellowintraocularlensandthenaturalageinglens.CurrOpinOphthalmol25:40-43,201411)StelmackJA,StelmackTR,MassotRW:Measuringlow-visionrehabilitationoutcomeswiththeNEIVFQ-25.InvestOphthalmolVisSci43:2859-2868,200212)Kara-JuniorN,EspindolaRF,GomesBAFetal:Effectsofbluelight-filteringintraocularlensesonthemacula,contrastsensitivity,andcolorvisionafteralong-termfollow-up.JCataractRefractSurg37:2115-2119,201113)LeibovitchI,LaiT,PorterNetal:Visualoutcomeswiththeyellowintraocularlens.ActaOphthalmolScand84:95-99,200614)MarshallJ,CionniRJ,DavisonJetal:Clinicalresultsoftheblue-lightfilteringAcrySofNaturalfoldableacrylicintraocularlens.JCataractRefractSurg31:2319-2323,200515)LandersJ,TanTH,YuenJetal:ComparisonofvisualfunctionfollowingimplantationofAcrysofNaturalintraocularlenseswithconventionalintraocularlenses.ClinExperimentOphthalmol35:152-159,200716)BaghiAR,JafarinasabMR,ZiaeiHetal:VisualOutcomesofTwoAsphericPCIOLs:TecnisZ9000versusAkreosAO.JOphthalmicVisRes3:32-36,200817)JohanssonB,SundelinS,Wikberg-MatssonAetal:VisualandopticalperformanceoftheAkreosAdaptAdvancedOpticsandTecnisZ9000intraocularlenses:Swedishmulticenterstudy.JCataractRefractSurg33:1565-1572,200718)HymanLG,KomaroffE,HeijlAetal:Treatmentandvision-relatedqualityoflifeintheearlymanifestglaucomatrial;fortheEarlyManifestGlaucomaTrialGroup.Ophthalmology112:1505-1513,200519)RamonML,PineroDP,Blanes-MompoFJetal:Clinicalandqualityoflifedatacorrelationwithasingle-opticaccommodatingintraocularlens.JOptom6:25-35,201320)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Opticalanalysis,readingperformance,andquality-of-lifeevaluationafterimplantationofadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:27-37,201121)ColinJ,PraudD,TouboulDetal:Incidenceofglisteningswiththelatestgenerationofyellow-tintedhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1140-1146,2012***(139)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015903

白内障術後眼内炎の発症におけるアルミニウムの関与の検討

2015年5月31日 日曜日

《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):705.710,2015c白内障術後眼内炎の発症におけるアルミニウムの関与の検討山川直之片平晴己上田俊一郎水澤剛後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野InvolvementofAluminumintheOnsetofEndophthalmitispostCataractSurgeryNaoyukiYamakawa,HarukiKatahira,ShunichiroUeda,TsuyoshiMizusawaandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUnivresity目的:わが国で特定の眼内レンズを使用した白内障術後に,遅発性眼内炎が多発し,摘出された眼内レンズから微量のアルミニウムが検出され,眼内炎との関与が疑われた.そこで家兎硝子体内にアルミニウムを注入し,炎症反応の有無について検討した.方法:有色家兎の片眼にアルミニウムを,対照として僚眼にBSSPLUSRを硝子体内へ注入した.事前にアルミニウムで感作した家兎にも同様の処置を施した.経過を細隙灯顕微鏡検査,前房フレア測定,摘出眼球の病理組織学的検索によって検討した.結果:注入後1日目にはアルミニウム注入眼および対照眼ともに同程度のフィブリン析出とフレアの上昇を認めた.病理組織検索では隅角付近に存在する細胞の密度が高く観察されたが,対照と有意な差はなかった.アルミニウムで感作した家兎においてもとくに強い炎症反応は認められなかった.結論:家兎の眼内に微量のアルミニウムを懸濁液として注入しただけでは炎症反応は生じない.Objective:InJapan,delayed-onsetendophthalmitisoccurredatahighfrequencypostcataractsurgeryduetotheuseofaspecificbrandofintraocularlens(IOL).TraceamountsofaluminumweredetectedintheextractedIOLs.Therefore,involvementofaluminuminendophthalmitiswassuspected.Inthisstudy,weexaminedwhetherornotintravitrealinjectionofaluminumintorabbiteyeselicitsaninflammatoryresponse.Methods:Usingcoloredrabbits,weperformedintravitrealinjectionofaluminumintooneeyeandBSSPLUSR(AlconLaboratories,Inc.FortWorth,TX)sterileintraocularirrigationsolutionintothefelloweyeasacontrol.Thesameprocedureswerealsoperformedinrabbitspreviouslysensitizedbyaluminum.Theclinicalcoursewasobservedbyslit-lampmicroscopyexamination,measurementofflareintheanteriorchamber,andhistopathologicalexaminationofenucleatedeyes.Results:Onday1afterinjection,thesamedegreesoffibrindepositionandflarewereobservedinthealuminum-injectedandcontroleyes.Histopathologicalexaminationshowedahigherdensityofcellsinthevicinityoftheangleinthealuminum-injectedeyes,buttherewasnosignificantdifferenceinthecontroleyes.Nostronginflammatoryresponsewasfoundinthealuminum-sensitizedrabbits.Conclusions:Intravitrealinjectionoftraceamountsofaluminumsuspensionaloneintorabbiteyesdoesnotelicitinflammatoryresponse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):705.710,2015〕Keywords:眼内レンズ,眼内炎,アルミニウム,家兎,遅発性.intraocularlens,endophthalmitis,aluminium,rabbit,lateonset.はじめに2011年11月から2013年2月にかけ,特定の眼内レンズ(intoraocularlens:IOL)iSertRMicro(モデル251,255)およびAF-1iMics1(モデルNY-60)(いずれもHOYA社製)が挿入された白内障術後に,通常より高頻度に眼内炎が発症するという報告があった.すなわち,一般的には0.052%1)と報告されている白内障術後眼内炎が,これらのIOL挿入後には0.244%と,5倍近くの数字であることが判明した(メーカー算出のIOL挿入枚数から割り出した発症頻度).その大多数が非感染性の眼内炎と思われる臨床症状を呈し,ステロイド治療によく反応したことから,toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)2)に類似した病態であることが推測された.しかし,発症のピークが術後1.2カ月と比較的遅い時期にみられた点は,通常のTASSとは異なっていた.この眼内炎の発症原因の一つとして,アルミニウムの関与〔別刷請求先〕山川直之:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:NaoyukiYamakawa,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUnivresity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)705 が推定された.その理由は,シンガポールにある同IOLの製造工場で,IOLを洗浄する治具の表面処理をアルマイトからテフロンコートに変更した時期と眼内炎発症の時期が一致した点,さらに患者から摘出されたIOL表面からアルミニウムの付着が確認されたことにある3).洗浄用治具のテフロンコートへの変更は治具自体によるレンズの傷を防ぐ目的で行われたが,このテフロン樹脂が劣化によって.離し,母材であるアルミニウム合金が露出してIOL表面に付着したと考えられている.また,回収されたIOLに付着していたアルミニウムの量は,1枚あたり多くてもISOに定められている無機物付着量0.2μg以下であったとメーカーから厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ報告されている.以上の背景を踏まえ,本研究では家兎を用いアルミニウムが眼内に及ぼす影響について,硝子体内にアルミニウムの投与を行うことによって,炎症反応の有無を確認した.今回の実験ではアルミニウムがより長期間に眼内に滞留するよう,前房内ではなく,硝子体内への注入を行った.また,アルミニウムに感作された状態,すなわち,あらかじめアルミニウムを接種した家兎の硝子体内にアルミニウム投与を行い,同様に炎症反応が惹起されるか否かについて検討した.I実験材料および実験方法1.アルミニウム懸濁液(Al懸濁液)の作製アルミニウムは,実際にIOL洗浄治具に使用されていたものと同じA2017合金を使用し,無菌的にジルコニアセラミックスヤスリを用いて粉末状にした後,70μm(CellStrainer,BDFalcon)の篩をかけて粒子の大きさを一定に揃えた.その後,眼内灌流液0.0184%(BSSPLUSR,アル表1前眼部炎症症状の重症度判定基準症状判定基準重症度点数眼脂著明な眼脂中等度の眼脂わずかな眼脂なし3点2点1点0点結膜充血著明な充血中等度の充血軽度の充血なし3点2点1点0点角膜混濁混濁(虹彩透見不能)散在性またはびまん性の浮腫部分的な浮腫なし3点2点1点0点フィブリン析出前房全体を満たすフィブリン部分的に満たすフィブリンわずかなフィブリンなし3点2点1点0点コン)で2種類の濃度(0.4μg/100μl,4μg/50μl)に調整し,実験に使用した.2.実験動物有色家兎(ダッチラビット:体重1.5.2kg)雄8匹を実験に使用した.3.観察項目a.細隙灯顕微鏡検査硝子体注入前,硝子体注入後1,3,7,9,14,21,28,35,49,63日目に細隙灯顕微鏡による前眼部の観察を行い,表1のような重症度判定基準に従い,炎症の程度をスコア化して評価した.b.前房フレア測定興和社製FM-600(マニュアル測定モード)を使用し,硝子体注入前,硝子体注入後1,3,7,9,14,21,28,35,49,63日目にフレア値を測定した.c.病理組織学的検索硝子体注入後63日目にペントバルビタールナトリウム注射液(ソムノペンチルR,共立製薬)の静脈内投与により家兎を安楽死させ,眼球を摘出した.眼球に割を加え,10%中性緩衝ホルマリン液内に静置し,48時間以上固定した.その後は型どおり細切後,上昇エタノール系列で脱水した.パラフィンで包埋後,薄切切片を作製しヘマトキシリン・エオジン染色により光学顕微鏡による観察を行った.4.実験方法実験(1):Al懸濁液硝子体注入家兎は0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(べノキシールR,参天製薬),トロピカミド・塩酸フェニレフリン点眼液(ミドリンPR,参天製薬),レボフロキサシン点眼液(クラビットR0.5%,参天製薬)の点眼後,ペントバルビタールナトリウム(ソムノペンチルR,共立製薬)約30mg/kgとキシラジン塩酸塩(セラクタールR,バイエル製薬)約5mg/kg,および滅菌蒸留水の混合液を腹腔内に注射して全身麻酔を行った.16倍希釈のポビドンヨード液(イソジンR液10%,明治製菓)を用いて洗眼し,手術用顕微鏡下に角膜輪部から30G針で前房水を採取の後,毛様体扁平部から27G針で家兎の片眼にAl懸濁液(右眼:0.4μg/100μlまたは4μg/50μl)を硝子体内へ注入した.対照として僚眼にBSSPLUSR(左眼:100μlまたは50μl)を硝子体内へ注入した.表2Al注入処置後の点眼スケジュール硝子体注入後1.7日目8.21日目22.35日目36.63日目散瞳薬○○..ステロイド○…抗菌薬○…NSAIDs○○○.○:点眼(2回/日),.:点眼なし.706あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(96) 注入翌日から表2に示したタイムスケジュールで点眼を行っムフェナックナトリウム点眼液(ブロナックR0.1%,千寿製た.点眼薬には散瞳薬としてトロピカミド・塩酸フェニレフ薬)を使用した.リン点眼液(ミドリンPR,参天製薬),ステロイド薬として実験(2):アルミニウム感作した家兎に対するAl懸濁液デキサメタゾン点眼液(D・E・X0.1%,日東メディック)硝子体注入抗菌薬としてレボフロキサシン点眼液(クラビットR0.5%,(,)Al懸濁液(4mg/ml)と完全フロインドアジュバンド参天製薬),非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)としてブロ(DIFCO)を1:1の割合で乳化混和し,家兎の背部の皮下にab注入前日目日目日目日目日目日目日目日目日目日目0:BSSPLUS.■:BSSPLUS.■:Al懸濁液■:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μl重傷度点数3注入前日目日目日目日目日目日目日目日目日目日目0:BSSPLUS.■:BSSPLUS.■:Al懸濁液■:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μl3重傷度点数2211図1実験(1)における前眼部炎症の推移a:角膜混濁,b:フィブリン析出.各値は2例の平均値を示す.散瞳薬,NSAIDs,ステロイド,抗菌薬処置前1日目3日目7日目9日目日目日目日目日目日目日目:BSSPLUS.:BSSPLUS.:Al懸濁液:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μlPhotoncount/ms50.040.030.020.010.00.0散瞳薬,NSAIDsNSAIDs点眼なし60.0図2実験(1)における前房フレア値の推移各値は2例の平均値を示す.aabb図3実験(1)における隅角付近の病理組織染色(代表例,63日目)a:Al懸濁液(4μg),b:BSSPLUSR.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015707 注射してAlによる感作を行った.この免疫操作の1カ月後に実験(1)と同様,アルミニウムを硝子体内へ注入した.その後の点眼も実験(1)と同様に行った.II実験結果実験(1)のAl懸濁液硝子体注入後には眼脂,結膜充血,角膜混濁,前房内のフィブリン析出などの症状が認められa3た.角膜混濁とフィブリン析出をスコア化した推移を図1に示す.角膜混濁は,Al懸濁液注入および対照のいずれも非常に軽微な所見であった(図1a).フィブリンの析出は,Al懸濁液注入および対照のいずれも注入後3日目まで一過性にみられたが,両者の間に明らかな差はみられなかった(図1b).図2に前房フレア値の推移を示す.注入後1日目には前房穿刺と硝子体注入操作によって生じたと考えられるフレb3:BSSPLUS.50μl■:BSSPLUS.100μl注入前日目日目日目日目日目日目日目日目日目日目0:BSSPLUS.■:BSSPLUS.■:Al懸濁液■:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μl重傷度点数重傷度点数22■:Al懸濁液4μg/50μl■:Al懸濁液0.4μg/100μl11日目日目0図4実験(2)における前眼部炎症の推移a:角膜混濁,b:フィブリン析出.各値は2例の平均値を示す.散瞳薬,NSAIDs,ステロイド,抗菌薬:BSSPLUS.:Al懸濁液:Al懸濁液100μl4μg/50μl0.4μg/100μl散瞳薬,NSAIDsNSAIDs点眼なしPhotoncount/ms60.050.040.030.020.010.0:BSSPLUS.50μl0.0図5実験(2)における前房フレア値の推移各値は2例の平均値を示す.aabb図6実験(2)における隅角付近の病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色,63日目)a:Al懸濁液(4μg),b:BSSPLUSR.両者の間にとくに有意差は認められない.708あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(98) ア値の上昇がみられたが,とくにAl懸濁液注入によって強い炎症が惹起されることはなかった.図3に注入63日目における隅角付近の病理組織像の代表例を示す.Al懸濁液注入(図3a)および対照(図3b)のいずれも,線維柱帯付近に存在する細胞の密度が高く観察されたが,正常眼と比較して有意な差ではなく両者の間にも明らかな差は認められなかった.実験(2)のアルミニウム感作した家兎に対するAl懸濁液硝子体注入では,前眼部症状として眼脂,結膜充血,角膜混濁,前房内のフィブリン析出などの症状が同様に観察された.角膜混濁も実験(1)と同様に軽微な症状であった(図4a).また,フィブリンの析出は実験(1)の結果と同様,注入操作に伴う一過性の反応がみられるのみで,アルミニウムによる感作の影響は確認されなかった(図4b).前房フレア値の推移では,注入後1日目に一過性の上昇がみられるのみで,アルミニウムに感作された家兎の硝子体にアルミニウムを注入しても,とくに強い炎症反応は認められなかった(図5).病理組織学的にも実験(1)と同様,Al懸濁液注入(図6a)および対照(図6b)との間に明らかな差はみられなかった.III考按生体に対するアルミニウムの毒性4,5)については歯科用インプラント材料の分野で報告があり,培養細胞を直接アルミニウム板の表面で培養すると生存率が著しく低下することが報告されている.また,眼に対する影響については,IOL表面に付着した微量のアルミニウムを含む金属が眼内にあっても炎症反応がみられなかったとする報告6)があり,実験的に家兎前房内にアルミニウム粉末を投与した報告7)では,1眼あたり20μgのアルミニウムを投与すると結膜浮腫,フレアの出現,虹彩血管拡張,フィブリン析出などの炎症反応が生じたという.今回の実験で,家兎の眼内(有硝子体眼の硝子体中)に微量のアルミニウム懸濁液を投与したのみでは,有意な炎症反応は惹起されないことが明らかとなった.また,家兎がアルミニウムに確実に感作されたかについては確認していないが,アルミニウムを事前に免疫した家兎の眼内にアルミニウム懸濁液を投与しても,とくに強い炎症反応は惹起されなかった.その理由の一つとして,微量のアルミニウムが眼内(前房や硝子体)に存在しても,房水循環などにより眼外に速やかに排出されることでとくに問題は生じないものと考えられた.しかし,実際の眼内炎では眼内レンズとともにアルミニウムは水晶体.内に長期間留まって水晶体上皮細胞やマクローファージなどの免疫担当細胞との反応を起こす可能性やアルミニウム自身に起こる何らかの変性によって引き起こされる反応,さらに患者自身のアルミニウムに対する反応性の違いなども考えられる.こうしたアルミニウムの曝露される状況の違いによって,今回は炎症反応が生じなかったものと考えられた.これまで遅発性の眼内炎でTASS様の症状を生じた事例としては,MemoryLensRを用いた白内障手術における報告8)がある.その原因の一つとしてレンズを研磨する酸化アルミニウムの可能性が推測されているが,明らかな病因の特定には至っていない.アルミニウムはインフルエンザ9),三種混合,B型肝炎,HPVなどのさまざまなワクチンに添加されるアジュバントの原料である.アルミニウムが有するアジュバントとしてのメカニズムについては不明な点が多いとされてきたが,近年になってアルミニウムのアジュバントが直接マクロファージなどに作用してプロスタグランジンEを産生させ,Th2タイプの免疫反応を誘導10)したり,NALP3インフラマゾームを介して自然免疫を活性化するとの報告11)がみられる.なかでも好中球の遊走とその細胞死を誘導し,その細胞から放出される網状のDNA自体がアジュバントとなり,自然免疫を活性化することが明らかとなっている12).白内障手術では術中に水晶体上皮細胞が生体の免疫系に曝露され,さらには手術操作に伴い炎症細胞の局所への浸潤という眼内環境の変化が生じる.したがって白内障手術の際に,本来ならば眼内にあるはずのないアルミニウムがIOLに付着して眼内に持ち込まれ,マクロファージや水晶体上皮細胞などに直接作用して遅発性の眼内炎を生じた可能性は否定できない.今後,こうようなアルミニウムが有する免疫系への作用について,白内障手術という特殊な環境における影響を考慮した検討が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorsegmentinflammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19922)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,20073)大鹿哲郎:HOYA社眼内レンズ挿入後の眼内炎症lateonsetTASSについて.IOL&RS28:177-179,20144)岡崎義光,SethumadhavanRao,麻尾茂夫ほか:相対細胞増殖率に及ぼすTi,Al,V濃度の影響.日本金属学会誌9:890-896,19965)岡崎義光,勝田真一,古木裕子ほか:相対細胞増殖率に及ぼすAl酸化皮膜の影響.日本金属学会誌9:897-901,1996(99)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015709 6)MathysKC,CohenKL,BagnellCR:Identificationofunknownintraocularmaterialaftercataractsurgery:evaluationofapotentialcauseoftoxicanteriorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg34:465-469,20087)CalogeroD,BuchenSY,TarverMEetal:Evaluationofintraocularreactivitytometallicandethyleneoxidecontaminantsofmedicaldevicesinarabbitmodel.Ophthalmology119:e36-e42,20128)JehanFS,MamalisN,SpencerTSetal:Postoperativesterileendophthalmitis(TASS)associatedwiththememorylens.JCataractRefractSurg26:1773-1777,20009)多田善一:H5N1インフルエンザワクチン.医学のあゆみ234:185-189,201010)KurodaE,IshiiKJ,UematsuSetal:SilicacrystalsandaluminumsaltsregulatetheproductionofprostaglandininmacrophagesviaNALP3inflammasome-independentmechanisms.Immunity34:514-526,201111)EisenbarthSC,ColegioOR,O’ConnorWetal:CrucialrolefortheNalp3inflammasomeintheimmunostimulatorypropertiesofaluminiumadjuvants.Nature453:11221126,200812)MarichalT,OhataK,BedoretDetal:DNAreleasedfromdyinghostcellsmediatesaluminumadjuvantactivity.NatMed17:996-1002,2011***710あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(100)