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画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEF®の眼科画像に対する有用性の検討

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):559.565,2019c画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFRの眼科画像に対する有用性の検討福岡秀記横井則彦外園千恵京都府立医科大学眼科CE.ectivenessofSoftDEFAdaptiveImageSharpeningSoftwareinOphthalmologyHidekiFukuoka,NorihikoYokoiandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:眼科診療においては,異常所見や経時変化のさまざまな目的で数多くの種類の画像を扱う.さまざまな眼科画像に対しCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を用いた画像鮮明化処理が有用であるか否かについて検討を行った.対象および方法:京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.10人の眼科医に盲検法にて画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を提示し,処理が臨床的に有用であるか判定させた.結果:前眼部写真における異常血管,角膜後面沈着物を鮮明化,およびフルオレセイン染色画像の点状表層角膜症の鮮明化が可能であった.眼底画像では,網膜裂孔,網膜下出血,網膜変性が鮮明化できた.その他にもマイボグラフィー像,眼底自発蛍光画像も鮮明化でき,医師全員が臨床的に有用と判定した.結論:画像鮮明化処理ソフトウェアは眼科のさまざまな画像に有用と考えられた.CPurpose:InCtheCclinicalCsetting,CnumerousCtypesCofCophthalmicCimagesCareCtakenCtoCdetectCandCfollowCupCabnormalC.ndings.CTheCpurposeCofCthisCstudyCwasCtoCinvestigateCtheCe.ectivenessCofsoftDEF(LogicC&CSystems,Kobe)adaptiveimagesoftwareinsharpeningthede.nitionofophthalmicimages.SubjectsandMethods:Ophthal-micimageswereobtainedofpatientsseenatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine;normalphotographsandphotographssharpenedwithsoftDEFwerethenevaluatedandcomparedby10ophthalmologistsviadouble-blindclinicaltest.Results:softDEFsharpenedthede.nitionofabnormalbloodvessels,keraticprecipitatesandstainedsuper.cialCpunctateCkeratitisCinCtheCophthalmicCimages,CasCwellCasCtheCcontourCofCretinalCtears,CsubretinalChemor-rhageCandCretinalCpigmentosaCinCfundusCphotographs.CInCaddition,ClidCmeibographyCandCfundusCauto.uorescenceCbecameclearer;allCtheCophthalmologistsCjudgedCtheCsoftwareCtoCbeCuseful.CConclusions:ImageCsharpeningCsoft-wareisusefulforvarioustypesofphotographsinthe.eldofophthalmology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):559.565,C2019〕Keywords:画像鮮明化処理ソフトウェア,眼科,画像.adaptiveimagesharpeningsoftware,ophthalmology,im-age.Cはじめに眼科では,細隙灯顕微鏡(スリット)や眼底カメラなどさまざまな光学機器を駆使し,眼球および眼付属器を観察することで診察を行う.そのため,前眼部細隙灯顕微鏡(スリット),フルオレセイン染色,前眼部光干渉断層計,網膜光干渉断層計,造影眼底カメラなどで撮影されたさまざまな種類の画像を取り扱う.そして,日常の診察では画像を注意深く観察することで異常所見を検出したり,診察で読影された異常所見の経時変化をファイリングしたりする.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,デジタルもしくは,アナログをデジタル変換した画像から,オリジナリティ(独自性)は保持した状態で画像に独自な処理を行うことで,目的の所見を強調する技術である.具体的には,霧がかかった悪い天候における霧の除去,暗所での監視カメラ映像の鮮明化のほか逆光や半逆光により相対的に暗くなった画像の変換などに利用され,画像鮮明化処理は,さまざまな領域で応用さ〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465,Kajiicho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kyoto602-8566,JAPANCabcd図1今回用いたソフトウェアの説明a:低コントラスト画像のヒストグラム.ある一定の領域にシグナルが集簇しており,急峻な山なりの形状であることがわかる.Cb:ヒストグラム平坦化後のヒストグラム.Cc:ソフトウェアでの処理画像.上方が処理後の画像,下方が画像鮮明化処理前の画像である.処理前には画像の右側は低コントラストとなっているが,処理後はコントラストの改善がみられる.Cd:ソフトウェアの各パラメータの設定パレット.パラメータのスライダーを調整するとリアルタイムで処理結果ウインドウの画像が変化する.れている.今回筆者らは,眼科領域のさまざまな画像に対し画像鮮明化処理を行い,従来の画像と比較し,処理後の画像がどのように鮮明化し有用であるかについて検討を行った.CI対象および方法京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.前眼部写真としては,スリット眼科撮影装置CTL54(TOPCON)およびマイボグラフィー装置CDC4(TOPCON)を用いて撮影されたものを,後眼部写真としては,超広角走査型レーザー検眼鏡CDaytona(Optos),F-10TM(NIDEK社,蒲郡),眼底光干渉断層撮影CRS3000(NIDEK社)を用いて撮影された眼底画像を用いた.今回,不鮮明な画像を鮮明化する画像鮮明化処理ソフトウェアとして,鮮明化処理アルゴリズム(AdaptiveCDetailCEnhancementFilter:ADEF)(PN:patentCnumber.4386C959,PN.6126054)を利用しているCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を使用した.以下にこの画像鮮明化処理ソフトウェアで用いている方法の原理と処理手順,性能について説明する.ここにいう不鮮明な画像とは,コントラストの低い領域(暗い,もしくは濃度差が著しく小さい)に観察対象が存在する画像であり,不鮮明な画像であってもフォーカスのずれやブレが要因となった画像は対象ではない(撮影時の物理的な要因は対象外).すなわち,画像の鮮明化とは,低コントラスト画像の画像処理といえるが,コントラストの低い画像は一般にヒストグラムが偏る傾向にある.ヒストグラムとは画素の明度分布図のことで,横軸に明度,縦軸に面積(特定明度の画素数)で表される.ヒストグラムに偏りがある画像はヒストグラムの平坦化(histogramCequalization)1)という技術を用いてコントラストを回復させる.ヒストグラムの平坦化とは,たとえば,原画像の明度がC8ビットで表現され,原画像の総画素数をCTとすると,0.255のすべての明度の頻度がCT/256になるように変換する処理のことをいう.図1aが低コントラスト画像のヒストグラム,図1bがヒストグラム平坦化後のヒストグラムである.従来の低コントラスト画像のヒストグラムの平坦化には二つの問題点があった.すなわち,1)コントラストが高い領域にコントラストが低い領域が混在し,ヒストグラムの点からみると偏りが少ない画像の場合はコントラストを高めたい領域が十分にコントラストを回復できないという問題(コントラストの高低混在画像の問題),2)ダイナミックレンジの低い画像(非常に暗い領域や輝度差が小さく淡い領域)の場合,コントラストを広げ過ぎるとざらついたノイジーな画像になってしまうというコントラスト過多の問題である.以上のような従来からの克服課題であったコントラストの高低混在という画像の問題は,適応的ヒストグラム平坦化(adaptiveChistogramequalization:AHE)2)として知られる画像を細かく分割し狭い範囲で個別にヒストグラム平坦化を実行した後に合成することで解決可能となった.また,コントラスト過多の問題はCCLAHE(ContrastCLimitedCAdaptiveHistogramCEqualization)として知られるCLUTを生成する際に一定以上の大きな変化を制限することで軽減可能となった.一方,以上のような処理は膨大な反復演算のために非常に大きなメモリやアクセスを要するが,ADEFにより軽量かつ高速で実行可能となった.ADEFによる画像処理の手順は以下のとおりである.C①テスクトップ上に変換したい画像を表示する.ADEF処理を行うソフトウエア(SoftDEF)を起動し,処理結果ウインドウをドラッグして処理結果ウインドウに変換したい画像を入れる(図1c).②SoftDEFメインウインドウで各パラメータを調整する(図1d).③パラメータを確定させ,目的の画像ファイルをCSoftDEFメインウインドウ上にドラッグ&ドロップすると,出力ファイルの指定ウインドウが開くため,出力パス,ファイル名およびファイルフォーマットを指定して処理画像ファイルを出力する.特徴としてファイルフォーマットには“JPEG”,C“PNG”,“TIFF”,“BMP”が利用できる.“PNG”と“TIFF”フォーマットではC16ビットフォーマットに対応しているため,DICOMを変換したハイビット画像も変換可能である.処理速度はコンピュータのCCPUやCGPUの能力に左右されるが,最新の機種を利用するとCADEFはフルハイビジョンをC30枚/秒以上で処理が可能となり,動画をリアルタイムで処理する能力を有することになる.今回のソフトウェアにより鮮明化した画像が臨床的に有用であるかに関して,当院のC10人の眼科医に,画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を,盲検法にて提示し,①どちらが鮮明か否か,および,②臨床的に所見が明確か否かについての判定を得た.なお当研究は,京都府立医科大学の倫理委員会の承認のもと行われた.CII結果画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理を前眼部細隙灯顕微鏡(スリット)写真に対して行った.ディフューザー法で撮影された画像では角結膜にある血管や睫毛が強調され,鮮明化した画像が得られた.図2aにあるような結膜の角膜への侵入例では結膜血管の起始部から末端までの血管走行を追うことが可能であった.また,図2bは翼状片に結膜腫瘍を合併した症例であるが,画像鮮明化処理ソフトウェアにより,一見見逃しやすい腫瘍に特徴的な血管異常を強調することができた.図2cのフルオレセインの画像では,点状表層角膜症が判然としないが,処理により角膜中央部におけるその存在が明瞭に描出された.このように背景の暗い画像に存在する所見を鮮明化することが,今回の方法で可能であった.一方,図2dにおける逆光のような強膜散乱撮影写真では,処理前には角膜下方C1/3の部分の限局した範囲にしかみられなかった角膜後面沈着物が,処理後にはより広範囲かつより数多く観察された.また,図2eはスクレラルスキャッタリング法による画像であるが,逆光画像のように暗く認識がむずかしい虹彩が,処理後には虹彩紋様が認識できるほどに鮮明化された.つぎに,眼底画像に対して処理を行った.図3aでは病変が周辺部にあり,かつ淡い硝子体出血により不鮮明な画像であったが,処理後には網膜周辺の巨大裂孔の形状,網膜.離の範囲がより明確となった.図3bでは網膜下血腫は色調が暗くその範囲がオリジナルの画像では判別がむずかしいが,処理後は明瞭化,判別が容易となった.また,網膜にある点状病巣がとくに強調され,観察が容易になった.さらに,図3cのように,網膜血管の白線化や骨小体など範囲や色調が暗い画像が,処理後には網膜周辺部まで追える画像となった.図3dの眼底自発蛍光画像では,オリジナル画像では通常白味がかっており病変がわかりにくいが,処理後には白い霧のような領域は大部分除去され,自発蛍光の強弱が認識しやすくなった.図3eの眼底光干渉断層計画像では,全体的に輝度が上がり黄斑浮腫の範囲や場所が明確になった.その他の眼科の特殊な画像についても処理を行った.図4aに示すように直接法によるマイボグラフィー像では,オリジナルは白黒のはっきりしない画像であるが,処理後は,コントラストが強調されマイボーム腺の観察が容易となった.図4bはチューブシャントおよび強膜パッチ後の水疱性角膜症の画像であるが,処理後は結膜血管が強調されるとともに角膜上皮浮腫がとくに強調された.また,図4cに示すように結膜下の強膜の境界が鮮明化し,その範囲の認識が容易になった.以上すべての画像において処理後の画像の質の低下は認めなかった.すべての画像においてC10名中C10名(100%)の医師により,①画像は鮮明化したと判定され,同様に全医師により②臨床的な所見を取得しやすくなったと判定された.CIII考按画像鮮明化処理ソフトウェアは,現在,さまざまな製品が利用可能であり,各製品には,固有のアルゴリズムが内蔵され,さまざまな特長がある.このような画像鮮明化処理ソフトウェアの技術の向上が目覚ましく,撮影条件が悪く失敗した画像を修正できるだけでなく,降雪や濃霧などの悪天候での監視画像の処理や,暗所での監視画像の処理など,その有用性はさまざまな領域で認知されてきている.他科領域でも画像鮮明化が有用であったとの報告はあり3,4),眼科領域では,見えにくいものを強調するという意味で充血解析ソフト5),ブルーフリーフィルター6),赤外光マイボグラフィー7,8)などが開発されている.今回,前眼部写真,眼底カメラ画像から眼底自発蛍光画像までさまざまな眼科画像に対し画像鮮明化処理を行った.前眼部写真では,結膜においては結膜の血管が強調される画像が得られた.そのことから角結膜腫瘍など,血管の異常走行を伴う疾患に関して有用である可能性がある.角膜においては,正常では無血管で透明であるため強膜散乱法により撮影した角膜混濁,フルオレセインによる角膜の点状染色病変の鮮明化に有効であった.また,ぶどう膜炎,角膜移植後の拒絶反応やサイトメガロウイルス角膜内皮炎の角膜後面沈着物など,微細で見逃されやすいものも強調表示された.とく図2今回処理を行った眼科前眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:角膜移植後に移植片に結膜血管が侵入した症例.Cb:結膜腫瘍を合併した翼状片.Cc:点状表層角膜症のフルオレセイン染色像(ブルーフィルター使用).Cd:サイトメガロウイルス角膜内皮炎による角膜後面沈着物.Ce:真菌角膜感染症の強膜散乱法像.図3今回処理を行った眼科後眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:網膜.離裂孔(上方巨大裂孔および下方のC2箇所の網膜裂孔).Cb:加齢黄斑変に併発した網膜下出血.Cc:網膜色素変性.Cd:加齢黄斑変性の眼底自発蛍光像.Ce:黄斑浮腫の眼底光干渉断層計画像.図4今回処理を行った眼科の特殊画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理を行った画像(2)の比較a:上眼瞼マイボグラフィー画像.Cb:前房内へのチューブシャント手術後の水疱性角膜症.Cc:チューブシャントと強膜パッチを行った症例.に,角膜後面沈着物については,強調されただけではなく,画像鮮明化により詳細な形状が観察可能となった.マイボーム腺は近赤外線を用いたマイボグラフィーで一般に導管や腺房の撮影が可能である.ライトガイドを用いたマイボーム腺撮影法は,コントラストや明るさが高く有用であるが,正面より近赤外光を当て,その反射を撮影する方法ではコントラストや感度が低いことが問題であった.しかし,画像鮮明化処理を行うと,ライトガイドを用いたマイボグラフィーと同様の高いコントラストの画像を得ることが可能であった.眼底カメラにおいては結膜部の処理結果と同様に網膜血管が強調された.なんらかの網膜病変や網膜血管が強調されたほか,角膜混濁や白内障によって不鮮明な眼底画像でも病変の描出が可能であった.とくに超広角走査型レーザー検眼鏡においては周辺部が暗くなることが多く,この画像鮮明化処理ソフトウェアにより自然な状態で鮮明化されたことは非常に興味深い結果であった.スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮細胞撮影装置)や生体レーザー共焦点顕微鏡などの画像においても画像鮮明化処理が可能であった(データ未掲載).コントラストなどが高い画像取得は可能であったが,オリジナルの画像でまったく診断不可能な病変が処理後に診断可能になることはなかった.今回の検討で多くの眼科画像の画像鮮明化処理を行い,有用な画像が得られた.筆者らが今回行った処理方法はパソコン内に画像鮮明化処理ソフトウェアをインストールしたうえでのソフトウェアでの処理である.この方法ではさまざまな装置からのさまざまな種類のデジタル画像を安価な値段で処理できるというメリットがあるもののさまざまな装置からのデータ抽出と移行などによるデータ流出などの安全性の問題,撮影時にリアルタイムでみられないという問題などが残る.しかし,より高度なCCPUやCGPUが搭載されたコンピュータを利用すれば,フルハイビジョンをC1秒あたりC30枚以上処理でき,ほぼリアルタイムで処理できるレベルにあるほか,ハードウェアでの画像鮮明化も可能とされる.リアルタイムな画像処理では,その速度もソフトウェアと比較し非常に速い.今後の方向性を考えると,さまざまな眼科機器への応用のほか,眼科手術顕微鏡への応用により,より低侵襲で安全な手術が可能になるかもしれない.今回,眼科画像を画像鮮明化処理ソフトウェアで処理することで今まで見えなかった,もしくは見えにくかった画像が鮮明になった.ただ,画像鮮明化処理ソフトウェアにより病変所見をマスクしてしまう可能性,病変でない所見を病変と認識させてしまう可能性は否定できない.今後さらなる機器やソフトウェアの進歩が予想されるので,その眼科への応用に期待したい.本研究は科研費C16K11269の助成を受けて行われた.文献1)HumYC,LaiKW,SalimM;MohamadSalimetal:Multi-objectivesCbihistogramCequalizationCforCimageCcontrastCenhancement.ComplexityC20:22-36,C20142)PizerCSM,CAmburnCEP,CAustinCJDCetal:AdaptiveChisto-gramCequalizationCandCitsCvariations.CComputerCVision,CGraphics,andImageProcessingC39:355-368,C19873)児玉陸,湊泉,堀米洋二ほか:人工股関節の設置位置評価の精度検証.HipJoint41:403-406,C20154)MatsuoCS,CMorishitaCJ,CKatafuchiCTCetal:ComparisonCofCedgeenhancementsbyphasecontrastimagingandpost-processingCwithCunsharpCmaskingCorCLaplacianC.ltering.CMedicalCImagingCandCInformationCSciencesC33:87-95,C20165)福島敦樹:結膜充血の定量的評価(解説/特集).アレルギー・免疫(1344-6932)C22:666-672,6)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:DiagnosingdryeyeusingCaCblue-freeCbarrierC.lter.CAmCJCOphthalmolC136:C513-519,C20037)AritaCR,CItohCK,CInoueCKCetal:NoncontactCinfraredCmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.OphthalmologyC115:C911-915,C20088)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Anewlydevelopednonin-vasiveandmobilepen-shapedmeibographysystem.Cor-neaC32:242-247,C2013***

眼科看護師におけるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の鼻腔保菌

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):403.406,2012c眼科看護師におけるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の鼻腔保菌田中寛*1星最智*2卜部公章*1*1町田病院*2藤枝市立総合病院眼科NasalCarriageofMethicillin-ResistantCoagulase-NegativeStaphylococciinOphthalmicNursesHiroshiTanaka1),SaichiHoshi2)andKimiakiUrabe1)1)MachidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital眼科看護師における鼻腔内メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)の保菌率と保菌リスク因子を調査した.看護師30名の培養陽性率は96.7%であり,内訳はメチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌17株,MR-CNS9株,コネバクテリウム属6株,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌2株,a溶血性レンサ球菌1株であった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は検出されなかった.家庭内乳幼児がいない場合はMR-CNSの鼻腔保菌率が13.0%であるのに対し,家庭内乳幼児がいる場合は85.7%と有意に保菌率が上昇した(p<0.001).医療従事者において,家庭内乳幼児の存在はMR-CNSの保菌リスクとなりうる.Themethicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci(MR-CNS)nasalcarriagerateandriskfactorsinophthalmicnurseswereinvestigated.Ofthe30culturestaken,29(96.7%)hadpositivebacterialgrowth:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,17(48.6%);MR-CNS,9(25.7%);Corynebacteriumspecies,6(17.1%);methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,2(5.7%);alpha-haemolyticstreptococci,1(2.9%).Methicillin-resistantStaphylococcusaureuswasnotisolated.TheMR-CNSnasalcarriagerateinnurseswhohadchildren(85.7%)wassignificantlyhigherthaninthosewhodidnot(13.0%)(p<0.001).MedicalworkerswhohavechildrenaremorelikelytobeMR-CNScarriers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):403.406,2012〕Keywords:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,鼻腔保菌,眼科,看護師,小児.methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci,nasalcarriage,ophthalmology,nurse,child.はじめに内眼手術後の細菌性眼内炎は,視力予後に影響しうる重大な合併症である.白内障術後眼内炎の起炎菌では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS),黄色ブドウ球菌,腸球菌やレンサ球菌属をはじめとしたグラム陽性球菌が85%1)を占めることが報告されている.これらグラム陽性球菌のなかでもCNSの検出率は46.3.70%1,2)と最も高い.さらに,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci:MR-CNS)はフルオロキノロン系を含む多くの抗菌薬に耐性であること3,4),症例によっては重症化するものもあること5)から,臨床上重視すべき微生物の一つである.健常結膜.におけるMR-CNSの検出率は11.8.24.8%と報告によって異なる4,6,7).このことはMR-CNSの保菌を促進させるような背景因子が存在することを示唆している.筆者らが行ったMR-CNSの結膜.保菌リスクの調査では,ステロイド内服,他科手術歴と眼科通院歴が保菌率を増加させるリスク因子であり,リスクがない場合の保菌率は7.8%であるが,リスクが増えるにつれて保菌率が33.3%にまで上昇することを報告している8).さらに,白内障術前患者のMR-CNS保菌率は結膜.より鼻腔のほうが有意に高く,〔別刷請求先〕田中寛:〒780-0935高知市旭町1丁目104番地町田病院Reprintrequests:HiroshiTanaka,M.D.,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kochi-shi,Kochi780-0935,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)403 MR-CNSの鼻腔保菌者では非保菌者に比べて結膜.のa溶血性レンサ球菌,1a溶血性レンサ球菌,1コリネバクテリウム属,6MSSA,2MS-CNS,17MR-CNS,9MR-CNS保菌率が有意に高くなることも報告した9).MR-CNSの感染経路と鼻腔保菌の重要性を考慮すると,医療従事者におけるMR-CNS鼻腔保菌率の上昇により,術前患者の鼻腔や結膜.への感染リスクが高まる可能性が考えられる.したがって,医療従事者のMR-CNS保菌率を把握することは,感染対策活動を評価するうえでの指標の一つになると考えられる.今回鼻腔保菌調査を行った理由は,前年に術後眼内炎を経験したことがきっかけとなっており,原因調査の一つとして職員のMRSAを含めた薬剤耐性菌の保菌率を把握する必要があると考えたからである.そのなかで,眼科医療従事者におけるMR-CNS保菌のリスク因子につい図1眼科看護師における鼻腔検出菌の構成て若干の知見が得られたので報告する.I対象および方法対象は眼科専門病院である町田病院(以下,当院)に勤務する看護師30名である.平均年齢は33.7±6.0歳,性別は数字は株数を示す.MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.全員女性である.看護配置の内訳は外来10名,手術室7名,10085.7%13.0%p<0.001病棟13名である.3カ月以内にステロイド内服および抗菌80薬点眼・内服の既往はなかった.当院には倫理委員会が設置保菌率(%)60されていないため,感染対策委員会が主体となって職員への説明と同意を得たうえで2010年5月に培養検査を実施した.検体採取方法は,滅菌生理食塩水で湿らせた培養用滅菌スワ4020ブを用いて右鼻前庭を擦過し,輸送培地に接種した後にデルタバイオメディカル社に輸送して菌種同定を依頼した.培養はヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳糖加寒天培地0乳幼児ありn=7乳幼児なしn=23図2家庭内乳幼児の有無とMR.CNS鼻腔保菌率nは人数を示す.(bromothymolbluelactateagar)を用いて好気培養を35℃で3日間行った.ブドウ球菌属のメチシリン耐性の有無はClinicalandLaboratoryStandardsInstituteの基準(M100-S19)に従ってセフォキシチンのディスク法で判定した.培養結果をもとに,年齢と家庭内乳幼児の存在が鼻腔MR-CNS保菌率に影響するかどうかを検討した.統計学的解析はMann-WhitneyのU検定またはFisherの直接確率検定を用い,有意水準は5%とした.II結果鼻腔の培養陽性率は96.7%であり,35株の細菌が検出された.内訳はMS-CNSが17株,MR-CNSが9株,コリネバクテリウム属が6株,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌が2株,a溶血性レンサ球菌が1株であった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)は検出されなかった(図1).鼻腔MR-CNS陽性者は9名であり,平均年齢は34.1±8.0歳であった.鼻腔MR-CNS陰性者は21名であり,平均年齢は36.9±4.9歳であった.鼻腔MR-CNS陽性群と陰性群で年齢を比較したところ有意差を認めなかった(p=0.227,404あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012Mann-WhitneyのU検定).家庭内乳幼児が存在するのは7名であった.MR-CNSの鼻腔保菌は,家庭内乳幼児が存在しない群では23名中3名(13.0%)であるのに対し,家庭内乳幼児が存在する群では7名中6名(85.7%)であり有意に保菌率が高かった(p<0.001,Fisherの直接確率検定)(図2).III考按細菌性眼内炎は白内障術後の合併症として頻度は高くないものの,重篤な合併症の一つである.わが国で行われた白内障術後眼内炎の起炎菌調査では,CNSが全体の46.3%と最も多かった1).さらに忍足らは,白内障術後眼内炎ではMR-CNSが主要な起炎菌であると報告している10).CNSによる術後眼内炎は一般的に予後が良好といわれているが,メチシリン耐性菌はメチシリン感受性菌に比べてキノロン耐性化率がはるかに高いこと3,4)などから,MR-CNSの場合は治療に難渋する可能性も考えられる.(116) 鼻腔と結膜.のMR-CNS保菌の関連については筆者らが過去に報告しており,白内障術前患者では鼻腔MR-CNS保菌率は結膜.よりも有意に高く,鼻腔MR-CNS保菌者では結膜.のMR-CNS保菌率も有意に高かった9).したがって,眼科感染予防の観点からは鼻腔のMR-CNS保菌も無視できない因子と考えられる.当院看護師全体のMR-CNS鼻腔保菌率は30.0%であった.医療従事者におけるMR-CNSの鼻腔保菌率に関する報告は少なく,わが国では仲宗根らが看護師50名中13名(26.0%)において鼻腔にMR-CNSを保菌していたと報告している11).筆者らの結果は仲宗根らの報告に近似しており,当院看護師におけるMR-CNS保菌率は特に高いわけではないと判断した.MR-CNSには注意すべき結膜.の保菌リスクが存在する.筆者らが行った調査ではステロイド内服,他科での手術歴や眼科通院歴を重要な保菌リスク因子としてあげている.すなわち,宿主の易感染性と医療関連感染が問題となる.今回の検討では対象者全員が易感染性となる全身疾患やステロイド内服などのリスク因子を保有しておらず,さらに年齢についても有意差を認めなかった.また,興味深かったことは,看護師のMR-CNS鼻腔保菌と家庭内乳幼児との関連である.家庭内乳幼児がいない看護師のMR-CNS保菌率は13.0%であったのに対し,家庭内乳幼児がいる看護師では85.7%と有意に高い保菌率であった.これまでにTengkuらは1,285人の集団保育児の鼻腔培養を行い,390人(30.3%)からMR-CNSが検出されたと報告している12).さらに,小森らによる非医療従事者を対象とした鼻腔内ブドウ球菌保菌調査では,就学前の小児のメチシリン耐性ブドウ球菌の保菌率は70.0%と高く,家族内のメチシリン耐性菌伝播の要因の一つに小児の存在をあげている13).一般的に乳幼児は成人とは異なり,鼻咽頭にインフルエンザ菌や肺炎球菌などの病原菌を高率に保菌していることが知られている14).これは宿主の免疫能が未熟であるために病原菌をうまく排除できないためと考えられる.MR-CNSに関してもインフルエンザ菌や肺炎球菌などと同様,いったん乳幼児に感染すると容易に排除できないため,結果として保菌率が高くなる可能性が考えられる.一般的にMR-CNSなどの薬剤耐性菌は医療関連感染で重要な細菌であるため,医療従事者間,医療従事者と患者間という医療施設内での感染経路に注目しがちである.しかしながら,医療従事者から家庭内乳幼児に薬剤耐性菌が伝播し,さらに集団保育児の中で菌が蔓延すると,薬剤耐性菌のリザーバーが形成されて,今度は小児から家族内成人への感染リスクが高まることにも留意すべきである.今回の調査では,看護師からMRSAは検出されなかった.被検者数を考慮してもMRSA保菌率は3.3%未満であり,5.1.11.3%程度とする過去の報告15.17)よりも低い値である(117)ため,当院の感染対策は良好に機能していると考えられた.しかしながら,看護師の配置別に検討すると,手術場にMR-CNS保菌者が集中的に配置されていた.薬剤耐性菌を保菌している人の割合,すなわち保菌圧(colonizationpressure)が高まると,非保菌者の感染リスクが高まることが報告18,19)されており,MR-CNSでも同様のことが考えられる.医療施設内での感染リスクを減らすためには看護配置に注意する必要があると考えられた.結論としては,今回の調査ではMRSAの鼻腔保菌者は認めなかった.家庭内乳幼児の存在はMR-CNS鼻腔保菌のリスクとなるため,保菌圧を下げるために看護配置を工夫するなどの配慮が必要であると考えられた.文献1)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20062)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:ResultsoftheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)HoriY,NakazawaT,MaedaNetal:Susceptibilitycomparisonsofnormalpreoperativeconjunctivalbacteriatofluoroquinolones.JCataractRefractSurg35:475-479,20094)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512.517,20105)OrmerodLD,BeckerLE,CruiseRJetal:Endophthalmitiscausedbythecoagulase-negativestaphylococci.2.Factorsinfluencingpresentationaftercataractsurgery.Ophthalmology100:724-729,19936)大..秀行,福田昌彦,大鳥利文ほか:高齢者1,000眼の結膜.内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19987)森永将弘,須藤史子,屋宜友子ほか:白内障手術術前患者の結膜.細菌叢と薬剤感受性の検討.眼科手術22:385388,20098)星最智,卜部公章:白内障術前患者における結膜.常在細菌の保菌リスク因子.あたらしい眼科28:1313-1319,20119)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在細菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201110)忍足和浩,平形明人,岡田アナベルあやめほか:白内障術後感染性眼内炎の硝子体手術成績.日眼会誌107:590596,200311)仲宗根洋子,名渡山智子:看護師の手掌および鼻腔における薬剤耐性菌の検出頻度.沖縄県立看護大学紀要9:39-43,200812)JamaluddinTZ,Kuwahara-AraiK,HisataKetal:Extremegeneticdiversityofmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisdisseminatedamonghealthyJapanesechildren.JClinMicrobio46:3778-3783,200813)小森由美子:市中におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の鼻あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012405 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