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眼窩脂肪容積の増大と続発緑内障をきたした再発性多発性軟骨炎の1例

2016年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(7):1066〜1069,2016©眼窩脂肪容積の増大と続発緑内障をきたした再発性多発性軟骨炎の1例石崎典彦*1小嶌祥太*2高井七重*2勝村ちひろ*2小林崇俊*2植木麻理*2杉山哲也*3菅澤淳*2池田恒彦*2萩森伸一*4槇野茂樹*5*1八尾徳州会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室*3中野眼科医院*4大阪医科大学耳鼻咽喉科学教室*5大阪医科大学内科学I教室ACaseofRelapsingPolychondritiswithIncreasedOrbitalFatandSecondaryGlaucomaNorihikoIshizaki1),ShotaKojima2),NanaeTakai2),ChihiroKatsumura2),TakatoshiKobayashi2),MariUeki2),TetsuyaSugiyama3),JunSugasawa2),TsunehikoIkeda2),Shin-ichiHaginomori4)andShigekiMakino5)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,3)NakanoEyeClinic,4)DepartmentofOtolaryngology,OsakaMedicalCollege,5)DepartmentofInternalMedicine(I),OsakaMedicalCollege目的:眼球突出,強膜炎をきたし,続発緑内障を合併した再発性多発性軟骨炎(RP)の症例を経験したので報告する.症例:54歳,男性.両耳介の発赤,腫脹,両眼の充血,眼球突出を認めた.眼圧は右眼18mmHg,左眼33mmHgで,強膜炎および続発緑内障と診断した.さらに,眼所見,耳介軟骨炎と軟骨生検からRPと診断された.保存的治療にても40mmHg以上の高眼圧となったため,線維柱帯切除術および水晶体再建術を施行した.術後の眼圧は20mmHg以下に安定した.眼球突出の精査目的に施行した頭部MRIでは,眼窩脂肪容積の増大を認めた.結論:RPでは眼窩脂肪容積の増大や続発緑内障にも注意が必要と考えられた.Purpose:Toreportacaseofrelapsingpolychondritis(RP)complicatedwithsecondaryglaucomaandexophthalmos.Case:A54-year-oldmalepresentedwithrednessandswellingofbothauricles,andinjectionandproptosisinbotheyes.Uponexamination,hisintraocularpressure(IOP)was18mmHgODand33mmHgOS;hewassubsequentlydiagnosedwithscleritisandsecondaryglaucoma.Inadditiontotheocularfindings,chondritisofbothauriclesandassociatedpathologicalfindingsledtothediagnosisofRP.Despiteconservativetreatment,hisIOPelevatedtomorethan40mmHg.Trabeculectomycombinedwithcataractsurgerywasthereforeperformedonbotheyes;postoperativeIOPthendeclinedtolessthan20mmHg.Subsequentorbitalmagneticresonanceimaging(MRI)performedtoexamineexophthalmosrevealedbilateralincreaseoforbitalfatvolume.Conclusion:OurfindingsshowthatsecondaryglaucomaandexophthalmoscandevelopincasesofRP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1066〜1069,2016〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,続発緑内障,眼窩脂肪,眼球突出,強膜炎.relapsingpolychondritis,secondaryglaucoma,orbitalfat,exophthalmos,scleritis.はじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis:RP)は自己免疫が関与する全身の軟骨および類系組織の炎症性疾患と考えられている.眼組織,鼻軟骨,耳介軟骨,内耳,喉頭気管支軟骨,関節軟骨,心弁膜,全身血管,腎臓などに再発性の炎症および組織の変形,破壊を生じ,多彩な局所症状,全身症状を呈する.発症率は3.5人/100万人とまれな疾患であり,発症の男女比はなく,40~60歳代に発症のピークを有するが,10〜80歳代まで発症する1).RPは高頻度に眼合併症を認め,結膜炎,上強膜炎,強膜炎,角膜炎,虹彩炎,脈絡膜炎,網膜静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症,眼窩偽腫瘍,外眼筋炎,外眼筋麻痺,眼瞼浮腫などの合併が知られている1~3).今回,筆者らは強膜炎,眼窩脂肪容積の増大,続発緑内障を合併したRPの1例を経験したので報告する.I症例と経過患者:54歳,男性.主訴:両眼の充血.既往歴:30歳頃にC型肝炎に対してインターフェロン療法を受けた.49歳時に顔面挫創に対してデブリードマン,植皮を受けた.高血圧に対して内服加療している.現病歴:中国に滞在中の2008年10月頃より両耳介の発赤,腫脹,11月頃より両眼の充血を自覚した.ウイルス性結膜炎として,ステロイド,ガンシクロビル点眼が行われたが軽快せず,12月に帰国した際に近医の眼科を受診した.両眼の強膜炎と右眼30mmHg,左眼50mmHgの眼圧上昇を指摘され,アセタゾラミド(ダイアモックス®)の内服,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(リンデロン0.1%®),チモロールマレイン酸塩持続性点眼液(チモプトールXE0.5%®)が投薬されたうえで,精査加療目的に大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科へ紹介受診となった.当科初診時所見:視力は右眼1.5(矯正不能),左眼0.2(1.0×sph−1.00D).眼圧は右眼18mmHg,左眼33mmHg.前眼部は両眼に結膜および上強膜,強膜のびまん性の充血,左眼に角膜浮腫,前房内フレアを認めた(図1).中間透光体は両眼に軽度の白内障を認めた.眼底は視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.隅角は両眼ともShafferIV,周辺虹彩前癒着を認めなかった.ヘルテル眼球突出計で右眼20.5mm,左眼21.0mm(base105mm)と両側の眼球突出を認めた.両耳介の発赤,腫脹を認めた.臨床検査所見:CRP0.29mg/dl(基準値<0.25mg/dl),IgG1,246mg/dl(基準値870~1,700mg/dl),IgA247mg/dl(基準値110~410mg/dl),IgM28mg/dl(基準値35~220mg/dl),血清補体価(CH50)68.4U/ml(基準値32.0~48.0U/ml),C3111mg/dl(基準値65~135mg/dl),C432.3mg/dl(基準値13.0~35.0mg/dl)であり,CRP,IgG,血清補体価が高値であった.経過:強膜炎および炎症に伴う続発緑内障と診断し,前医の投薬は継続とした.耳介の発赤,腫脹を認めたため,当院耳鼻咽喉科を受診し,耳介軟骨生検が施行された.両側の耳介軟骨炎およびその病理所見,眼症状からDamianiら4)の診断基準によりRPと診断された.眼炎症所見が軽快しないため,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液は継続し,0.05%水溶性シクロスポリン点眼液を開始した.アセタゾラミドの内服,チモロールマレイン酸塩持続性点眼液,ブリンゾラミド点眼液(エイゾプト®),ジピベフリン塩酸塩点眼液(ピバレフリン0.1%®)の点眼により眼圧は10〜20mmHg台で経過した.当院の膠原病内科により2009年1月からプレドニゾロン(プレドニン®)55mg/日の投与を開始し,以後漸減した.耳介の発赤,腫脹は軽快したが,両眼充血はやや改善したのみであった.10月受診時に左眼矯正視力0.5に低下し,動的視野検査で左眼の下鼻側に視野欠損を認めた.アセタゾラミドの内服,トラボプロスト点眼液(トラバタンズ®),チモロールマレイン酸塩持続性点眼液,ブリンゾラミド点眼液の点眼下でも両眼圧が40mmHg以上と高値であったので,12月両眼に対して線維柱帯切除術+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行した.術後は両眼ともに浅前房の傾向,眼内レンズが前方移動する傾向があったが,レーザー切糸やニードリングを行い,濾過胞の形成は良好で眼圧は20mmHg以下で安定した.2015年2月現在,矯正視力は右眼1.2,左眼0.4,眼圧は眼圧下降薬の投与なく,両眼ともに16mmHg,視野は右眼が正常,左眼が下方の視野に欠損を認めており,経過観察中である.初診時より眼球突出を認めていたため,2010年2月に血液検査を施行したが,甲状腺ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,甲状腺関連自己抗体に異常を認めなかった.また,眼窩部の磁気共鳴画像法(magneticresonanceimaging:MRI)では外眼筋の肥厚は認めず,T1,T2強調画像で高信号を示す組織が眼窩内に充満していた(図2,3).T1強調画像で高信号であった部分は,short-TIInversionRecovery(STIR)法で一部等信号な部分を認めたが,全体的に抑制されていた(図4).II考察RPに眼症状は51%2)〜65%3)合併する.眼症状としてもっとも多いものとしては,結膜炎,上強膜炎,強膜炎があげられる2,3).上強膜炎,強膜炎はBradleyら2)が本症の14.3%,McAdamら3)が35.2%に認めたと報告しており,本症例でも眼科へ受診する動機となった症状だった.RPの眼球突出については,McAdamら3)が2.9%に認めたと報告しているが,画像診断,病理診断の報告は渉猟した限りではこれまでになかった.本症例の眼窩内の組織は,MRISTIR法でT1強調画像で高信号であった部分に一部等信号な部分を認めたが,全体的に抑制されていたことから,脂肪が主体と考えられた.甲状腺眼症で推測されているように5),本症例でも眼窩内の炎症に続いて,眼窩脂肪組織内に水分の貯留が起こり,眼窩脂肪容積が増大している可能性が考えられた.Crovatoら6)はRPに甲状腺疾患が合併し,眼球突出を認めた症例を報告しているが,本症例では,甲状腺疾患は血液検査から否定的であり,RPに眼窩脂肪容積の増大が合併したと考えられた.本症例の初診時の眼圧上昇の機序としては,以下の2つの可能性が考えられた.第一は強膜炎から線維柱帯炎および上強膜静脈圧の上昇による機序であり,Jabsら7)はびまん性強膜炎の12.1%に高眼圧を認めたと報告している.第二は眼窩脂肪容積が増大したことによる眼窩内圧および上強膜静脈圧の上昇による機序であり,Ohtsukaら8)は一般集団に比して,甲状腺眼症において開放隅角緑内障,高眼圧が多いことを報告している.また,Devら9)は甲状腺眼症に対して眼窩減圧術を行うと眼圧が下がることを報告している.これらの報告から眼窩内組織の増大は眼圧上昇をきたすと推測される.一方で初診後1年が経過して,再度眼圧が上昇したのはステロイド内服,点眼に伴う続発緑内障が合併した可能性を否定できない.本症例は,強膜炎および眼圧上昇により眼科を受診し,耳鼻咽喉科,膠原病内科での精査によりRPの確定診断となった.両眼の強膜炎に加えて耳介の発赤,腫脹を認める場合は,RPを考慮する必要がある.また,RPでは従来報告されてきた合併症に加え,眼窩脂肪容積の増大や続発緑内障にも注意が必要である.本論文の要旨は第21回緑内障学会(福岡)で発表した.文献1)GergelyPJr,PoórG:Relapsingpolychondritis.BestResClinRhematol18:723-738,20042)BradleyLI,LiesengangTJ,MichetCJ:Ocularandsystemicfindingsinrelapsingchondritis.Ophthalmology93:681-689,19863)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:Prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine55:193-215,19764)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.reportoftencases.TheLaryngoscope89:929-946,19795)陳栄家,鹿児島武志,石井康雄ほか:甲状腺眼症における眼窩内脂肪組織の病理組織学的検討.日眼会誌94:846-855,19906)CrovatoF,NigroA,MarchiRDetal:Exophthalmosinrelapsingpolychondritis.ArchDermatol116:383-384,19807)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleritis:clincalfeaturesandtreatmentresults.AmJOphthalmol130:469-476,20008)OhtsukaK,NakamuraY:Open-angleglaucomaassociatedwithGravesdisease.AmJOphthalmol129:613-617,20009)DevS,DamjiKF,DeBackerCMetal:Decreaseinintraocularpressureafterorbitaldecompressionforthyroidorbitopathy.CanJOphthalmol33:314-319,1998図1初診時前眼部写真左:右眼,右:左眼.両眼ともに結膜,強膜に充血を認めた.図2頭部MRI:T1強調画像(水平断)高信号を示す組織が眼窩内に充満し,眼球突出を認めた.図3頭部MRI:T2強調画像(冠状断)高信号を示す組織が眼窩内に充満していた.図4頭部MRI:STIR(冠状断)眼窩内のT1強調画像で高信号であった部分は一部等信号な部分を認めたが,全体的に抑制されていた.〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0190160-61810/あ160910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(141)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610671068あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(142)(143)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161069