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近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1213.1217,2019c近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能吉岡誇*1稗田牧*2中井義典*2中村葉*2張佑子*2鎌田さや花*2外園千恵*2*1市立福知山市民病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CAccommodationFunctioninCasesofMyopia-AssociatedAcquiredEsotropiaHokoruYoshioka1),OsamuHieda2),YoshinoriNakai2),YoNakamura2),YukoCho2),SayakaKamada2)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,FukuchiyamaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:近視性後天性内斜視C5症例の調節機能と立体視機能を明らかにする.対象および方法:近視を伴う若年者に後天的に発症する共同性内斜視で,MRIで筋円錐内から眼球後部の脱臼を認めないものを近視性後天性内斜視と定義した.近視性後天性内斜視のうち,負荷調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR)を用いて調節機能を精査した5例(男性C2例,女性C3例,平均年齢C19.4C±5.3歳,14.27歳)を対象とした.プリズム順応テスト後の斜視角に応じて内直筋後転・外直筋前転術を施行し,術前の調節機能検査および術前後におけるCTitmusstereotestを検討した.結果:全症例で調節安静位の調節変動量および調節負荷時の波形は正常であった.4例で術前には低下していた両眼視機能も術後は全例で正常にまで改善した.結論:近視性後天性内斜視では,調節機能は正常であり,術後の立体視機能が良好であった.CPurpose:Toinvestigateaccommodationfunctionandstereopsisin5casesofmyopia-associatedacquiredeso-tropia.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC5Cmyopia-associatedCacquiredCesotropiacases(2CmalesCandC3females;meanage:19.4C±5.3years,range:14-27years).Theiraccommodationfunctionwasexaminedusinganautorefractometer/keratometer(ARK-1sCR).Myopia-associatedacquiredesotropiawasde.nedasfollows:esotro-piaCoccurringCinCmyopicCyouths,CacquiredCcomitantCesotropia,CandCnoCeyeCprolapseCfromCtheCmuscleCconeCinCtheCorbitalMRI.ndings.Unilateralrecession-resectionwasperformedaftertheprismadaptationtest.Accommodationfunctionwasexaminedpreoperatively.TheTitmusstereotestwasperformedbothpreoperativelyandpostopera-tively.CResults:InCallCcases,CaccommodationCvariationCinCtheCrestingCstateCofCaccommodation,CandCaccommodationCstimulusresponsecurvewerenormal.Stereopsisfunctionwasworsepreoperatively,butimprovedpostoperatively.Conclusions:Myopia-associatedacquiredesotropiashowednormalaccommodationfunction.Theirstereopsisfunc-tionwasnormalposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(9):1213.1217,C2019〕Keywords:他覚的調節測定機能検査(ARK-1s),近視性後天性内斜視,立体視検査.objectiveaccommodativefunctiontest(ARK-1s)C,myopia-associatedacquiredesotropia,stereopsistest.Cはじめに近視を伴う後天性共同性内斜視はCvonGraefeやCBiel-schowskyにより提唱され,比較的若年で起こるタイプと高齢で高度近視に発症するタイプが存在する.比較的若年で起こるタイプは,間欠性内斜位・内斜視で発症し,近見では複視をきたさないが遠方視で複視を自覚する状態が続き,徐々に恒常性内斜視へと移行していくことを特徴とする1.3).低矯正または未矯正の近視眼において良好な視力を得ることが可能となる近方視をする機会が多くなるため,輻湊が刺激,強化され,次第に開散の機能不全が生じるという可能性が考えられているが,病因は明らかにはなっていない4.5).比較的高齢で高度近視に発症するタイプは,強度近視性内斜視〔別刷請求先〕吉岡誇:〒620-8505京都府福知山市厚中町C231市立福知山市民病院眼科Reprintrequests:HokoruYoshioka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuchiyamaCityHospital,231Atsunaka-cho,Fukuchiyama-city,Kyoto620-8505,JAPANC(進行すると固定内斜視となる)とよばれており,強度近視を伴い眼球後部が筋円錐から脱臼する6).筆者らは近視を伴う共同性の後天性内斜視のうち,強度近視性内斜視を除外したものを「近視性後天性内斜視」とよび,その臨床像を報告している2).この疾患は近視を伴う後天性内斜視としてこれまで報告されている症例と完全に異なる症例ではないものと考える.近視性後天性内斜視と鑑別するべきものとしては,開散不全,急性内斜視,輻湊けいれんなどがあげられる.開散不全は,急性発症し,遠方視により増悪する複視を特徴とし,頭蓋内病変がおもな原因である7).急性内斜視は,発症が急性であり,突然自覚症状が出現することを特徴とし,典型的には,片眼遮閉後などに発症する8).輻湊けいれんは縮瞳とともに調節けいれんを伴う過度の近見反応が内斜視の原因である.輻湊けいれんでは両眼視をした状態で行うむき運動で外転制限があり,単眼で行うひき運動では眼球運動障害を認めないという特徴がある9).さらに近視性後天性内斜視と輻湊けいれんの鑑別には,調節けいれんの有無を検査することが有用と考えられるが,近視性後天性内斜視の調節機能を検査した報告は知る限りまだない.今回筆者らは,近視性後天性内斜視と診断された症例に調節機能検査と立体視機能検査を行い若干の知見を得たので,考察を加えて報告する.CI対象および方法1.対象対象は京都府立医科大学附属病院眼科をC2015年C1月.2016年C7月に受診し,近視性後天性内斜視と診断された症例のなかで,負荷調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR:ニデック)により調節機能検査を実施したC5症例〔男性C2例,女性C3例:年齢C14.27(19.4C±5.3)歳〕である.近視性後天性内斜視の定義は既報と同様であり,近視眼に後天性に発症した共同性内斜視で,中枢性病変を伴う症例や,眼球運動制限のある症例,眼球後部の筋円錐からの脱臼により生じる強度近視性内斜視の症例,また明らかに輻湊けいれんである症例を除外した2).中枢性病変の有無および強度近視性内斜視を除外するにため,頭部および眼窩部CMRIを撮影した.山口らと同様の手法を用いて眼球脱臼角(偏位角)の拡大を判定することで,他覚的に強度近視性内斜視を除外した6,10).また,すべての症例において,加藤らの報告と同様にプリズム順応テスト(prismCadaptationtest:PAT)を行い,術量を決定し内直筋後転・外直筋前転術を施行した11).C2.検.討.項.目全症例に以下の検査を行った.1.患者背景(初診時所見),C2.術前の調節機能検査,3.術前の眼球運動検査,4.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角,5.術前後の立体視機能検査Ca.患者背景(初診時所見)発症から受診に至るまでの期間,近見作業の有無および屈折矯正状況についての問診を行い,1%シクロペントレートによる調節麻痺下他覚的等価球面屈折度数を測定した.Cb.術前の調節機能検査調節機能は負荷調節レフ(ARK-1sCR)を用いて測定した.このCARK-1sCRは内部視標の屈折度を変化させながらC1秒間におよそC12回(83.5Cmsecごと)に屈折度を測定し,視標を追従する際の調節動態を測定する.測定条件は,被験者のオートレフ値をもとにC2.0D遠方の視標を用いた雲霧をC30秒行う.その後,視標の移動速度は静的特性を失わない毎秒0.2DずつC50秒間(10D)近方へ視標を移動(緊張期)させ,同じく毎秒C0.2秒ずつ遠方へ視標を移動(弛緩期)させる12).最後にC2.0D遠方の雲霧状態をC10秒間保つことで検査は終了となる.この間に屈折変動を測定することで得られる負荷調節グラフの波形により調節の準静的特性および動的特性を他覚的にとらえることができる.本項では,緊張期・弛緩期の被験者の屈折度の波形形状および安静時調節変動量(雲霧時の屈折度の標準偏差のC2倍)を算出した11).Cc.術前の眼球運動検査術前の眼球運動検査としてCHessチャートを使用した.Cd.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角斜視角の測定は,まずC1%シクロペントレートによる調節麻痺薬の使用下に屈折検査を行い,必要に応じて眼鏡を処方した.調節麻痺下の屈折検査を行った時点から,手術直前の斜視角の測定まで完全矯正眼鏡を装用し,完全屈折矯正下で交代プリズムカバーテストにより術前の斜視角を測定した.また,斜視手術前にCPATを既報のとおり行って最大斜視角(PAT後斜視角)を測定した11).さらに再現性を確認するため,検査日を変えてC2回以上同様にCPATを行い,PAT後斜視角の変動がないことを確認し,その値に応じて内直筋後転・外直筋前転術を施行した.PATの方法は以下のとおりである.C1.調節麻痺下の自覚的屈折度の眼鏡を装用C2.遠方の交代プリズムカバーテストで得られた斜視角をフレネル膜プリズムで装用C3.30分以上経過した後に,斜視角を再検C4.斜視角の増加がみられる場合にプリズムを増加し時間をおいて再検膜プリズム装用後にはバゴリーニ線状レンズで融像が得られることを確認した.また,プリズムを増加した時点で外斜位もしくは外斜視になった場合にはその一つ前の角度を最大斜視角とした.表1近視性後天性内斜視(年齢,性別,屈折度,発症前後の屈折矯正状況)症例年齢(歳)発症から受診までの期間性別調節麻痺下他覚的等価球面屈折度(D)発症前眼鏡度数(D)発症前屈折矯正近見作業右眼左眼右眼左眼C①C142年男C.7.00C.6.38C.5.25C.5.50眼鏡機会装用裸眼にてしばしばC②C143週間男C.5.25C.4.38C.3.00C.3.00眼鏡機会装用裸眼にてしばしばC③C185カ月女C.5.38C.5.00C.5.00C.4.50SCL常用とくに多い自覚はなしC④C242年女C.3.25C.2.88C.3.00C.3.00眼鏡常用頻度は多いC⑤C273年女C.2.25C.1.88C.2.13C.1.50眼鏡機会装用PC作業が増加していたe.術前後の立体視機能立体視検査はCTitmusstereotest(TST)を術前および術後最終受診時にそれぞれ施行した.CII結果1.患者背景(初診時所見)近方視では融像可能であるが,遠方視にて全例で複視を生じていた.複視の発症から増悪のため受診するまでにC18.2C±14.9カ月(3週間.3年)が経過していた(表1).1%シクロペントレートによる調節麻痺下他覚的等価球面屈折度は右眼.4.53±1.66(C.2.25.C.7.00)D,左眼C.4.00±1.58(C.1.88..6.38)Dであった(表1).うちC2例ではC0.5.2.0D程度低矯正の眼鏡を装用していた(表1).また,症例③を除くC4例では学業・電子機器使用に伴う近見作業時間が長時間であったと自覚していた.C2.術前の調節機能検査全症例において調節負荷時の波形は図1に示すとおり正常であった.また,安静時調節変動量は,右眼C0.32C±0.11(0.16.0.50)D,左眼C0.28C±0.12(0.14.0.50)Dであった.一般に安静時調節変動量は0.5D以内が正常とされており,全例で正常であった(図1).C3.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角内直筋後転・外直筋前転術前に交代プリズムカバーテストにより得られた斜視角は遠見で+36.8±7.1Δ,近見で+38.0C±10.3Δであった.また,PAT後斜視角は遠見・近見ともに+57.0±6.0Δであった(表2).PAT後斜視角に応じて術量はC4例では内直筋後転術C6mm・外直筋前転術C7Cmm,1例では内直筋後転術C6Cmm・外直筋前転術C8Cmmで施行した(表2).術後観察期間はC9.4C±4.8カ月(1.14カ月)であった(表2).1例は術直後に通院が途絶えたが,その他のC4例ではC7カ月以上経過観察が可能であった.そのC4例における術後最終観察時点での眼位および斜視角は,遠見+1.0±4.6Δの内斜位,近見で+4.0±7.5Δの内斜位であった(表2).遠見・近見ともに外斜位となる症例をC1例認めたが,残りのC3例は図1各症例における調節機能検査結果各症例のCARK-1sCRを用いて得られた調節力波形.安静時調節変動は小さく,他覚的調節刺激に応じて適切な調節応答を認める.表2近視性後天性内斜視(PAT前後眼位,術眼,術式・術量,術後眼位,術後立体視,術後観察期間)症例PAT前眼位(Δ)PAT後眼位(Δ)術眼術式最終受診時眼位(Δ)立体視(TST)(秒)術後経過観察期間(月)遠見近見遠見近見遠見近見術前術後C①C49C51C65C65右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCXP6CXP8F(.)F(+)A(C3/3)C(C4/9)C7C②C40C49C60C60右眼CRMRc6Cmm+RLRs8Cmm正位CEPlOF(.)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C1C③C35C35C60C60左眼CRMRc6Cmm+RLRs7Cmm正位CEP4F(.)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C14C④C30C30C50C50右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCEP4CEP12F(.)F(+)A(C3/3)C(C3/9)C12C⑤C30C25C50C50右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCEP6CEP8F(+)A(C3/3)C(C9/9)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C13PAT:prismadaptationtest,RMRc:内直筋後転術,RLRs:外直筋前転術,EP:内斜位,XP:外斜位,TST:Titumsstereotest(F:.y,A:animal,C:circle).わずかに内斜位となっていた.また,全例において複視は消失した.C4.術前の眼球運動術前に施行したCHessチャートでは,全症例で眼球運動制限を認めなかった.C5.術前後の立体視検査TSTは斜視手術前にはC4例においてC.y(C.),animal(0/3),circle(0/9)ときわめて不良であったが,1例では術前のCTSTではC.y(+),animal(3/3),circle(9/9)と良好であった(表2).そして術後最終観察時C9.4C±4.8カ月(1.14カ月)に施行したCTSTでは,全例でCanimal(3/3)あるいはCcircle(5/9)以上と正常な立体視機能を有していた(表2).CIII考察近視性後天性内斜視のC5例に対して,ARK-1sCRを用いて調節機能を測定したところ,安静時調節変動量,調節波形ともに正常範囲であり調節けいれんを認める症例はなく,術後の両眼視機能も正常範囲内であった.近視性後天性内斜視の機序は明らかになっていないが,過去の類似した症例の報告では,近見作業過多,精神的ストレスなどが一因としてあげられている.屈折矯正による治療で反応する報告もあり,近見作業や不適切な矯正なども内斜視発症に関与している可能性がある14,15).近方視で融像することが多いと開散することが少なく,次第に開散機能不全となりやがて筋が器質的に変化して固定化し,開散不全型の内斜視となる可能性が考えられている4,5).今回,筆者らの経験したC5例のうちC2例では適切な屈折矯正であったが,3例では近視を有するが眼鏡装用の機会が少なく,そのうちC2例は低矯正であった.また,4例は近見作業が多かったと自覚していた.今回の症例の多くが不十分な屈折矯正や近見作業の過多を自覚しており,近視性後天性内斜視の発症と関連する可能性がある.今回,明らかな調節麻痺,調節不全,調節けいれんの所見を示した例はなく,近視性後天性内斜視の病態に基本的に調節は関与していないことが示された.筆者らが使用したCARK-1sRは,単眼視での測定であり,輻湊の関与は少ないことと,斜視手術による調節機能への影響は少ないものと考えられる.また,術後の眼位の回復とともに立体視機能が改善していることから,もともとは良好な立体視機能を有していることが明らかになった.近視性後天性内斜視の発症は,調節機能,両眼視機能が良好な若年者が過度の近業作業(スマートフォンの使用など)に加えて,近視患者の低・未矯正のため,調節と輻湊のアンバランスが安静時眼位に影響を与えるのではないかと筆者らは予想している12.15).まず遠方視時の内斜視で発症し,低矯正の近視では近見に何ら支障がないまま経過するため,ますます長時間の近見作業を継続することで眼位が悪化し,間欠性内斜視の時期を経た後に恒常性内斜視となる4,5).したがって,調節そのものの異常ではなく,調節せずに近見作業を継続することが斜視の原因になったと考えられる.今回の症例においても,調節機能検査により調節けいれんの関与は認めなかった.今回は症例数がC5例と少なく,今後さらに症例数を増やして検討を続ける必要がある.また,検討で用いた調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR)による調節力検査は,病態に調節機能の関与の有無を判別するのに有用である.ただし,両眼開放下での検査ではないため,輻湊と調節の関連性の検出には限界がある.近視性後天性内斜視の増悪時の症状は複視の自覚であり,急性内斜視と厳密に鑑別することが困難な症例も存在する.今後さらなる検討を重ね,調節と輻湊の不一致が内斜視の原因となるメカニズムを解明する必要がある.今回の検討から,近視性後天性内斜視では,調節機能は正常であり,斜視手術後の立体視機能も良好で,調節や両眼視機能異常の関与する内斜視とは異なる病態であることが示唆された.文献1)vonCNoordenCGK,CCamposEC:BinocularCvisionCandCocu-larmotility,6thed,p328,Mosby,St.Louis,20022)鎌田さや花,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の臨床像と手術成績.眼紀11:811-815,C20183)村上環,曹美枝子,富田香ほか:近視を伴う後天内斜視の検討.日視会誌21:61-64,C19934)川村真理,田中靖彦,植村恭夫:近視を伴う後天性内斜視のC5例.眼臨81:1257-1260,C19875)Duke-ElderCS,CWyberK:ConvergentCconcomitantCstra-bismus,Cesotropia.In:SystemCofCOphthalmologyVI(edCbyCDuke-ElderS)C,Cp605-609,CHenryCKimptom,CLondon,C19736)YamaguchiCM,CYokoyamaCT,CShirakiK:SurgicalCproce-dureCforCcorrectingCglobeCdislocationCinChighlyCmyopicCstrabismus.AmJOphthalmolC149:341-346,C20107)今井小百合,高崎裕子,三浦由紀子ほか:開散麻痺が疑われた内斜視に対するプリズム治療.日視会誌C33:145-151,C20048)ClarkCAC,CNelsonCLB,CSimonCJWCetal:AcuteCacquiredCcomitantesotropia.BrJOphthalmolC73:636-638,C19899)AnagnostouCE,CKatsikaCP,CKemanetzoglouCECetal:TheCabductionCde.citCofCfunctionalCconvergenceCspasm.CJCNeu-rolSciC363:27-28,C201610)宮谷崇史,稗田牧,石田学ほか:強度近視性の内下斜視に対する片眼上外直筋結合術後の斜視残存症例の検討.日眼会誌122:379-384,C201811)加藤晃弘,稗田牧,中井義典ほか:PrisamCAdaptationTestにより術量決定を行った内斜視の術後成績.あたらしい眼科30:419-422,C201312)鵜飼一彦,石川哲:調節の準静的特性.日眼会誌C87:C1428-1434,C198313)中村葉,中島伸子,小室青:調節安静位の調節変動量測定における負荷調節レフCARK-1sの有用性について.視覚の科学37:93-97,C201614)宮部友紀,竹田千鶴子,菅野早恵子ほか:眼鏡とフレネル膜プリズム装用が有効であった近視を伴う後天性内斜視の2例.日視会誌28:193-197,C200015)WebbCH,CLeeJ:AcquiredCdistanceCesotropiaCassociatedCwithmyopia.Strabismus12:149-155,C2004***

ゲームを用いた弱視訓練機,立体視検査装置の開発

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)993《原著》あたらしい眼科27(7):993.998,2010c〔別刷請求先〕大澤結:〒565-0871吹田市山田丘2-15大阪大学医学部付属病院眼科Reprintrequests:YuiOsawa,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPANゲームを用いた弱視訓練機,立体視検査装置の開発大澤結*1阿曽沼早苗*1金山素子*2鶴留康弘*3藤木かおり*4下條裕史*1永谷広行*5不二門尚*6*1大阪大学医学部感覚器外科学眼科*2財団法人日本生命済生会付属日生病院眼科*3医療法人明和病院眼科*4大阪府立急性期・総合医療センター眼科*5(株)東芝*6大阪大学医学部感覚機能形成学教室PleopticsEquipmentandStericStereosopicVisionExaminationEquipmentTrainingDevicesWhichHaveConceptsofGameUsingaPersonalComputer(PC)YuiOsawa1),SanaeAsonuma1),MotokoKanayama2),YasuhiroTsurudome3),KaoriFujiki4),HiroshiShimojyou1),HiroyukiNagatani5)andTakashiFujikado6)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NisseiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,MeiwaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,OsakaGeneralMedicalCenter,5)ToshibaCorporation,6)AppliedVisualScience,OsakaUniversityMedicalSchool目的:今回筆者らは,パーソナルコンピュータ(PC)を用いてゲームの要素を取り入れた訓練,検査装置を開発したので報告する.方法:正常者10名(男性5名,女性5名),年齢は23.30歳(平均年齢25.7±2.6歳)を対象に,2Dおよび3Dの表示装置(東芝試作機)に視標の大きさ,および視差を可変表示して,カードゲームの神経衰弱類似のゲームを行わせた.検討1:被検者の非優位眼の視力を遮閉膜(Ryser社)を用いて(0.1)(0.2)(0.3)(0.4)に低下させ単眼視下で,2Dのレベル1.9(視標サイズ:直径2.0.2cm)の検査を行い,全員がpassできた最高のレベル(最小の視標サイズ;LVmax)と視力,視力とpassthestagetimeについてを検討した.検討2:検討1と同様に非優位眼の視力を低下させた両眼開放下と単眼視下で,3Dでレベル1(単眼視視標),2.8(900.150″)の検査を行い,全員がpassできた最高のレベル(最小の視差;LSmax)と視力,視力とpassthestagetimeについて検討した.結果:検討1で,LVmaxは,視力低下に応じて低下した.また,視力が下がるごとに,passthestagetimeは延長した.検討2で,LSmaxは視力低下に応じてレベル2.4に低下した.単眼視ではLSmaxはレベル1であった.Purpose:Westudiedtheefficacyofnewlydevelopedtrainingdeviceswhichhaveconceptsofgameusingapersonalcomputer(PC).Method:Weexamined10normalvolunteers(5males,5females;agerange23.30years;averageage25.7±2.6years),using2Dor3Dtargetsofvariablesizeorparallax,displayedonscreen.Subjectswereinstructedtoagamesimilartothenervousbreakdown.Examination1:Wedecreasedthevisionofthesubjects’non-dominanteyeswithaocclusion(Rysercompany)to0.1,0.2,0.3and0.4andexaminedlevel1-9of2D(targetsizevariedfrom2to0.2cmindiameter)underconditionofmonocularvision,andinvestigatedtherelationofthelevelatwhichallmemberscanpass(smallestparallax;LVmax)andvisualacuity,andtherelationshipbetweenvisualacuityandpassthestagetime.Examination2:AsinExamination1,wedecreasedthevisualacuityofthenon-dominanteyesandexaminedunderconditionofmonocularvisionandlevel2-8(900-150.)in3D,andinvestigatedtherelationshipbetweenthelevelatwhichallmemberscanclear(smallestparallax;LSmax)andthevisualacuity,betweenvisualacuityandpassthestagetime.Results:Examination1showedthatLVmaxdecreasedwiththedecreaseinvisualacuity.Inaddition,passthestagetimeshowedinrelationtothedecreaseinvisualacuity.Examination2showedthatLSmaxdeterioratedtolevel2-4dependingonthedecreaseinvisualacuity.Undermonocularcondition,LSmaxwaslevel1.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):993.998,2010〕Keywords:弱視訓練装置,3Dディスプレイ,立体視検査.pleopticsequipments,3Ddisplay,stericstereoscopicvisionexamination.994あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(134)はじめに弱視治療には,眼鏡,健眼遮閉,ペナリゼーションなど1.7)が行われており,家庭での弱視訓練は,迷路やぬり絵などの紙を使った遊びやビーズ通しなどの手作業などが主流である.しかし,訓練が長期にわたったり,年齢が高い場合,これらの従来の課題に飽きてしまい訓練が持続しない症例も少なくない.このように訓練を継続できない理由の一つとして,課題が弱視患児の視力に見合っていない可能性も考えられる.一方,NintendoDSのようなコンピュータゲームを訓練機器として指示する場合もあるが,コンピュータゲームも患者の視力に応じたものにはなっていない.また,外来受診時の近見立体視検査の主流はチトマスステレオテスト(TitmusStereoTests:以下TST)のCircletestやLangstereotest,TNOstereotestなどであるが,同じ検査をくり返し施行していると興味が低下してしまう症例も経験する.現代では,幼小児や児童のいる家庭におけるパソコンの所有率は高く,弱視訓練や立体視検査の対象となる子どもにとってもパソコンは身近で馴染み深い機器である.今回筆者らは,パソコンを使用するゲームの要素を取り入れた弱視訓練,立体視検査装置を開発し試用したので報告する.I対象および方法1.対象対象は,矯正視力が(1.5)で顕性の眼位ずれがなく,TSTにて40秒の立体視機能が認められた正常者10名(男性5名,女性5名)で,年齢は23歳.30歳(平均年齢25.7±2.6歳)であった.2.器機の仕様弱視訓練用の装置(以下2D装置:東芝試作機)(図1)は,ディスプレイのサイズが縦27.0cm×横37.0cmの平置き型ディスプレイ(以下,2Dディスプレイ)であり,解像度はXGA(1,024×768)で,標準的な使用距離は65cmである.この装置を用いて,カードゲームの神経衰弱様のゲームを行わせる.画面上に提示された多数の視標のなかから同じ絵柄のペア視標をマウスで一つずつクリックしていく.正解すれば視標は消えて,最終的に画面上の視標がなくなれば終了(passthestage)となる.レベル1(易しい)からレベル9(難しい)までの9段階のレベルが用意されており,レベル1では20mm径サイズのペア視標が5組提示され,レベルが上がるほど視標サイズは小さく組数は増加する(図2).ゲームを「pass」すると,passthestageに要した時間「passthestagetime」と「ランク」が表示される設定となっている.「ランク」はA.Eまである.立体視検査用の装置(以下,3D装置:東芝試作機)(図1)は,ディスプレイのサイズが縦27.0cm×横37.0cm(15インチ),解像度はWideUXGA(1,920×1,200)の平置き型ディスプレイ(以下,3Dディスプレイ)であり,インテグ2D装置3D装置図1装置の写真レベルペア数視標の大きさ1520mm2815mm31012mm4129mm5147mm6165mm7184mm8183mm9182mm低高難易度図22Dのレベル設定レベルが高くなるとペア数は増え視標は小さくなり,難易度が上がる.(135)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010995ラルイメージング方式(II式)(図3)が用いられている.従来の2眼式ディスプレイは,左右画を1枚ずつ計2枚作成して再生しているためはっきり見える位置(ビューポイント)が存在するが,II式立体ディスプレイは,縦と横に4枚ずつ,計16枚の画を使用して再生しているのでビューポイントはなくはっきり見える範囲(視域)が広い.実際の物体からの反射光線と同様の光線を16枚画でそれぞれに再現をしており,16枚の画がある範囲(視角30度)であれば顔の位置がどこにあっても立体感を得やすい構造となっている.3D装置のゲームも2D装置同様の神経衰弱様であり,同じ絵柄のペアの視標をクリックにより消していく.レベル1(易しい)からレベル8(難しい)までの8段階のレベルがある.レベル1は視標自体が2Dであり単眼視でもpassできるが,以降のレベルでは視標に視差がついている.レベル2では,大きくて(視角2.5度)視差の大きい(900″)2つでワンペアの4種類の絵柄の視標が2組ずつ提示され,レベルが上がるに従い視標サイズも視差も小さくなる(図4).同じ絵柄であっても視差が一致しなければ正解とはならない.両装置とも,絵柄の種類や組数,絵柄の大きさ,視差量などは,すべてプログラムで設定ができ,訓練レベルに応じて任意に設定値の変更が可能である.3.方法検討1:対象者の優位眼を遮閉し非優位眼の視力を遮閉膜(Ryser社製)にて(0.1)(0.2)(0.3)(0.4)に低下させ,それぞれの視力のときに,単眼視下で2D装置のゲームをレベル1から順次施行した.検討2:対象者の非優位眼の視力を同上の遮閉膜を用いて(0.1)(0.2)(0.3)(0.4)に低下させたときの両眼視下と,優位眼のみの単眼視下で3D装置のゲームをレベル1から順次施行した.両検討とも完全矯正下で行い,被検者が視標が判別できないと答えた場合はリタイヤとし,各レベルにおける視力とpassした人数,視力とpassthestagetimeの関係について比較検討を行った.検討2では3D装置での結果とTSTのCircletestの結果との比較も行った.II結果検討1視力とpassした人数についての関係をグラフに示す(図5).各視力における,全員がpass可能な最高レベル(最小の視標サイズ:LVmax)は,視力が1.5ではレベル8,0.4ではレベル6,0.3ではレベル6,0.2でレベル3,0.1でレベル2と,視力が下がるに従いLVmaxは低下し,どの視力においてもレベルの難易度が高くなるほどpassした人数は減少していた.視力とpassthestagetimeについての関係を図6に示す.視力が下がるにつれ,またレベルが上がるにつれてpassthestagetimeは延長した.検討2視力とpassした人数についての関係をグラフに示す(図7).各視力における,全員がpass可能な最高レベル(最小の視差:LSmax)は,片眼視力が1.5のときはレベル6,0.4表示オブジェクト視域3Dディスプレイ視点II方式2眼式図3II方式と多眼(2眼)式の違い2眼式ディスプレイは,左右画を1枚ずつ計2枚作成して再生しているためビューポイントが存在するが,II方式立体ディスプレイは,縦と横に4枚ずつ,計16枚の画を使用して再生しているのでビューポイントはない.実際の物体からの反射光線と同様の光線を16枚画でそれぞれに再現をしており,16枚の画がある範囲(視角30度)であれば顔の位置がどこにあっても立体感を得やすい構造となっている.〔(株)東芝よりスライドご提供〕レベルペア数視角15種24種2ペア34種3ペア44種3ペア54種3ペア63種4ペア73種4ペア82.8度2.5度2.3度2.3度2.3度2.0度2.0度2種4ペア1.8度2種3ペア低高難易度視差900″600″450″300″300″150″150″図43Dのレベル設定レベル1は視差がない視標であり,単眼でもできるように設定してある.レベルが高くなるにつれて視標サイズ・視差は小さくなり,難易度が上がる.996あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(136)ではレベル4,0.3ではレベル3,0.2ではレベル2,0.1でレベル2,単眼視でレベル1と,視力が下がるにつれてLSmaxは低下し,すべての視力において難易度が高いレベルほどpassした人数は減少していた.また,片眼視力が0.2以下と単眼視では,有意な差は認められなかった.視力とpassthestagetimeについての関係を図8に示す.片眼の視力が低下するに従い,また,レベルが上がるに従ってpassthestagetimeは延長する傾向がみられた.TSTと3D装置の比較は,片眼視力が0.4と0.3の場合について行った.両者の視差量が近似する視標である,TSTのCircletestの400秒と3D装置の450秒(レベル4),circlesの140秒と3D装置の150秒(レベル7)でのpassした人数の比較を行った.結果を図9に示す.視力が0.4のときは,視差が約150秒ではTSTのほうが正答率が高かった.視力が0.3のときは,視差が約400秒では3Dのほうが正答率が高く,視差が約150秒ではTSTのほうが正答率が高くなったが,有意差はなかった(n.s.:FisherExacttest).III考按従来の弱視訓練には迷路遊びやぬり絵などの比較的低視力でも対応できる課題や,ビーズ通しなどの比較的高い視力や,両眼視なしではむずかしい課題がある.これらは視力や両眼視機能を考慮した適切な課題の選択がむずかしく,視力に見合わない不適切な課題を与えてしまうこともあり,それが子どもの興味が続かない理由になっている可能性もある.最近では,ゲーム機やパソコンが家庭にも普及しており,子どもたちにも興味深い機器であることは疑いようがない.今回,筆者らはこれらの機器を利用した新しい弱視訓練装置と立体視検査装置の開発を試みた.この装置は,2D,3Dともにマウス操作のため,5.6歳程度から可能で,精神発達障害などのメンタル面での問題がある小児では,5.6歳であってもむずかしいと考える.今後,タッチパネル式など低年齢からでも行えるように改良が必要であると思われる.視標はカラー表示され子どもが興味をもちそうな絵柄を使用しており,ゲーム感覚で行えるインタラクティブ性をもたせて109876543210123456789人数(人)レベルLVmax866321.50.40.3視力0.20.1図52D装置:視力とpassした人数視力が下がるごとにLVmaxは低下し,特に難易度が高いレベルほどその傾向がみられた.10987654321012345678人数(人)LSmax64321レベル1.50.40.3視力0.20.1単眼視2図73D:視力とpassした人数についてのグラフ右端に単眼視での結果を示す.視力が下がるごとにLSmaxは低下し,特に難易度が高いレベルほどその傾向がみられた.160140120100806040200時間(秒)123456789レベル1.50.40.3視力0.20.1図62D装置:視力とpassthestagetime視力が下がるごとに,passthestagetimeは延長し,ゲーム終了に要する時間は,0.1になると,著明な延長がみられた.9080706050403020100時間(秒)12345678レベル1.50.40.3視力0.20.1単眼視図83D装置:視力とpassthestagetimeゲーム終了に要する時間は,片眼の視力が低下するとpassthestagetimeは延長した.(137)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010997いる.カラー視標について,今回の機器では,2D,3Dともに同ペアでは,絵柄や色は同じのため,コントラスト,輝度は一定であるが,異なるペア同士では絵柄や色は違うため,コントラスト,輝度は異なり,同じ視差でもpassできる絵柄とできない絵柄が出てくる可能性は考えられる.今回は絵柄や色の違いにより,できるペアとできないペアが出てくることはなかったが,今後,検討が必要であると思われる.しかし,色を変えることで立体視をできやすくし,達成感を得やすくすることも必要だと考えている.弱視訓練用の2D装置については,passthestagetimeとランクが表示されるため,迷路遊びなどの紙で行う課題と比較すると,2D装置のほうが達成感は沸きやすく,くり返し挑戦する意欲も起こりやすいと考えられる.やり直しなども容易にできるため,エコロジカルでありコスト面でも負担が少なくてすむ.今回の検討は,条件の項で述べた設定で行ったが,絵柄の種類や組数,絵柄の大きさ,視差量などはすべてコンフィング・ファイル形式で設定が可能であり,弱視の程度や興味によって任意に選択できる.今回の設定での結果によると,視力が0.3.0.4の場合,全員がpass可能な最高レベル(LVmax)はレベル6であることから,レベル6までは視力に見合ったレベルであり,それ以上のレベル7.9はこの視力ではむずかしいレベルであると評価できる.同様に,視力が0.2の場合のLVmaxはレベル3,視力が0.1の場合のLVmaxはレベル2までが適切なレベルであると考えられる.また,passthestagetimeの結果を目安にして訓練レベルが適切かどうかを評価することもできると考える.視力が0.4の場合,レベル6の平均passthestagetimeは44.3秒であり,視力が0.3だとレベル6の平均のpassthestagetimeは49.2秒であった.レベル6のpassthestagetimeがそれ以上かかるようであれば,訓練レベルを一段階落とすことが適切と評価すればよい.今回は,0.1の視力までしかシミュレーションを行っていないため,今後,どの程度の視力までこの装置で対応が可能であるか検討を行う予定である.また,passthestagetimeの向上を弱視訓練の視標とすることに対しては,本検査が運動系のskillも反映する可能性があることも併せて検討する必要がある.しかしながら,日常生活は目で見て行動するというEye-Handcoordinationが必須であり,その意味でpassthetimeは実用的な視力の指標といえる可能性がある.両眼視機能検査装置として,立体ゲーム機を応用した両眼視機能検査8)や動的立体視検査装置9),SANYO社製液晶型立体表示装置10),小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置11)が過去に開発され,一部は商品化されている.今回の3D装置の特徴は,ディスプレイにインテグラルイメージング方式(II式)を採用しているためビューポイント視力0.41086420人数(人)10663412800000000TST(400)3D(450)視力0.31086420人数(人)TST(400)3D(450)視力0.41086420人数(人)TST(140)3D(150)視力0.31086420人数(人)TST(140)3D(150)図9TitmusStereoTest(TST)と3Dの比較片眼視力を0.4と0.3にした場合の比較.左側は視差が約400秒,右側は視差が約150秒の場合の結果.視差400秒の場合,TSTと3Dの正答者数に差はなく,視差150秒の場合は,TSTはできるが,3Dができない人数のほうが多い傾向がみられたが,有意性はなかった.998あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(138)がなく,視角30度の範囲であれば顔の位置がどこにあっても立体感が得やすくなっているという構造上の特徴と,ゲーム性をもたせ視力に応じた検査が可能である点である.ゲーム性があることは子供の興味を引き出しやすい.3D装置について,全員がpass可能な最高レベルであるLSmaxと視力について検討した結果,片眼視力の低下とともにLSmaxが低下した.過去の報告では,片眼の視力低下の場合,視力が0.3になると立体視機能は低下し,視力0.2では立体視のないものがほとんどであった12.14)と報告されており,今回の筆者らの結果と一致した.先の報告で用いられた立体視検査はTSTやLangであり,今回の3D装置はこれらと同等の立体視検出能力をもつものと考えられた.ところが,TSTと3D装置の比較をした結果,有意差はなかったが,視差が小さくなると3DよりもTSTのほうが正答率が高い傾向となったのは,以下の理由が考えられた.同じ絵柄のペア視標をディスプレイ上に見つけるためには,眼球運動や,周辺視野の機能も必要である.この点でTSTより難易度が高いと思われた.今回は,3D検査装置として本3D装置を位置付けているが,passthetimeの向上を目指すトレーニングを行うことも可能である.その場合の目標は,(1)弱視がある場合,両眼視時のEye-Handcoordinationも含めた日常両眼視を向上させる,(2)動物実験レベルで臨界期を過ぎても訓練により視差による立体視が向上するという報告があり(ChinoY,私信),立体視の臨界期を過ぎた小児においても立体視の向上を希求する.この2点が考えられるが,これらの点についてはさらなる検討が必要である.2D装置,3D装置を数名の子どもに実際に見せたところ,マウス操作などに問題はなく,興味深く施行し,おもしろかったとの感想を得た.今後は,多数の子どもに施行して検討を続けていく予定である.文献1)BholaR,KeechRV,KutschkePetal:Recurrenceofamblyopiaafterocclusiontherapy.Ophthalmology113:2097-2100,20062)佐藤美保:最近のトピックス「弱視治療」.視覚の科学29:36-39,20083)StewartCE,StephensDA,FielderARetal:Modelingdose-responseinamblyopia:Towardachild-specifictreatmentplan.InvestOphthalmolVisSci48:2589-2594,20074)AwanM,ProudlockFA,GottlobI:Arandomizedcontrolledtrialofunilateralstrabismicandmixedamblyopiausingocclusiondosemonitorstorecordcompliance.InvestOphthalmolVisSci46:1435-1439,20055)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGrop:Arandomizedtrialofatropinevs.patchingfortreatmentofmoderateamblyopiainchildren.ArchOphthalmol120:268-278,20026)RepkaMX,WallaceDK,BeckRWetal:Two-yearfollow-upofa6monthrandomizedtrialofatropinevs.patchingfortreatmentofmoderateamblyopiainchildren.ArchOphthalmol123:149-157,20057)KampfU,ShamshinovaA,KaschtschenkoTetal:Longtermapplicationofcomputer-basedpleopticsinhometherapy:selectedresultsofaprospectivemulticenterstudy.Strabismus16:149-158,20088)三村治,粟本拓治,可児一孝ほか:立体ゲーム機を応用した両眼視機能検査.眼臨94:5,69-71,20009)細畠淳,數尾久美子,初川嘉一ほか:DYNAMICRANDOMDOTSTEREOGRAMによる立体視検査の試み.臨眼98:1569-1572,199510)阿曽沼早苗,松田育子,竹中伊津美ほか:新しい立体視検査装置の開発.眼臨90:1534-1538,199611)半田知也,石川均,魚里博ほか:小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置の開発.臨眼61:389-392,200712)平井陽子,粟屋忍:視力と立体視の研究.眼紀36:1524-1531,198513)中塚敬之,阿曽沼早苗,松田育子ほか:弱視患者における静的立体視と動的立体視.視能訓練士協会誌26:201-206,199814)矢ヶ.悌司:立体視検査法の問題点.神眼23:416-427,2006***