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超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(109)6890910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):689694,2009c〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科医院Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmicClinic,10-4-1,Tsukisamuchu-o-dori,Toyohiraku,Sapporo062-0020,JAPAN超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障西野和明*1吉田富士子*1齋藤三恵子*1齋藤一宇*1山本登紀子*2岡崎裕子*3木村早百合*4*1医療法人社団ひとみ会回明堂眼科医院*2山本内科・眼科クリニック*3江別市立病院眼科*4西岡眼科クリニックPrimaryPhacoemulsicationandAspirationandIntraocularLensImplantationforAcutePrimaryAngle-ClosureandAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaKazuakiNishino1),FujikoYoshida1),MiekoSaitoh1),KazuuchiSaitoh1),TokikoYamamoto2),HirokoOkazaki3)andSayuriKimura4)1)KaimeidohOphthalmicClinic,2)YamamotoInternalMedcine&OphthalmicClinic,3)DepartmentofOphthalmology,EbetsuCityHospital,4)NishiokaOphthalmicClinic目的:急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し初回手術として,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った症例について,手術の有効性と安全性につき検討した.対象および方法:急性原発閉塞隅角症4例6眼および急性原発閉塞隅角緑内障1例1眼の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).平均年齢69.6±8.4歳.平均観察期間7.6±8.2カ月.術前,術後の眼圧,視力,角膜内皮細胞密度,周辺前房深度(vanHerick法)などを比較検討するとともに,術後の合併症についても検討した.結果:発作時の眼圧58.7±14.7mmHgは,術翌日14.7±4.0mmHgに低下,さらに最終観察日の眼圧も9.9±1.8mmHgと良好な結果が得られた.また,術前の矯正視力0.63±0.24は術後0.93±0.11に改善(p<0.05).角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は,術前2,587.3±548.3が,術後2,278.4±657.9へと大きな減少は認められなかったものの(p=0.25),54%の減少が1眼,20%の減少が1眼に認められた.周辺前房深度は十分に深くなり(p<0.00005),隅角も開大した.しかしながら,手術時間が22±7.7分とやや長いこと,また眼内レンズ挿入後に円形の前切開の変形(楕円)が4眼に認められたほか,術後,中等度の角膜浮腫が2眼,前房内に中等度のフィブリン析出が2眼に認められた.結論:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障に対する第一選択の超音波水晶体乳化吸引術は,前房深度や隅角の開大により眼圧を正常化する有用な方法の一つと考えられるが,角膜内皮細胞密度の減少や術後の炎症などに注意する必要がある.Toevaluatetheecacyandsafetyofprimaryphacoemulsicationandaspiration(PEA)andintraocularlens(IOL)implantationforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-closureglaucoma,weanalyzed5eyesof4Japanesefemalepatientsand2eyesof1Japanesemalepatientwho,undertopicalanesthesia,hadundergoneprimaryPEA+IOLforacuteprimaryangle-closure(6eyesof4patients)andacuteprimaryangle-closureglauco-ma(1eyeof1patient),withoutlaseriridotomy.Averageagewas69.6±8.4;meanfollowupdurationwas7.6±8.2months.Outcomessuchasvisualacuity,intraocularpressure(IOP),endothelialcelldensity,depthofperipheralanteriorchamber(vanHerick)andinammationwerecomparedpre-andpostoperatively.PreoperativeIOP,58.7±14.7mmHg,decreasedto14.7±4.0mmHgontherstpostoperativeday.ThenalobservedIOPwas9.9±1.8mmHg.Meanpreoperativebestcorrectedvisualacuity,0.63±0.24,improvedto0.93±0.11postoperatively(p<0.05).Meanpreoperativeendothelialcelldensityof2,587.3±548.3cells/mm2showedanon-signicantdecreaseto2,278.4±657.9cells/mm2postoperatively(p=0.25),but54%decreasein1eyeand20%decreasein1eyewere———————————————————————-Page2690あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(110)はじめに急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障は視神経に緑内障性の変化が認められるかどうかで区別される1)が,それぞれで治療が異なるわけではない.初期治療として点眼,点滴などを十分に行った後,レーザー虹彩切開術(laseriri-dotomy:LI)あるいは,観血的な虹彩切除術が行われるのが一般的である.急激な眼圧上昇を早期に改善する必要があるため,LIは比較的簡単でかつ有効な治療法であるが,施行した後に問題がないわけではない.軽症なものでは虹彩後癒着や白内障の進行から,重篤なものでは内皮細胞密度の減少から水疱性角膜症をきたし失明につながる疾患までさまざまである2,3).また近年,急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムは,単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられるようになり4),LI単独だけでは,解決しない場合があることがわかってきた.つまり隅角を開大する目的のLI後にも,暗室うつむき試験が陰性化せず,機能的閉塞が残存し,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の拡大が停止しないことなどは,それらの複雑なメカニズムによるものと思われる.そこで近年,十分に前房および隅角を開大することで,それらのメカニズムをまとめて解決する有用な方法として,最初から超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)を選択する報告がみられるようになり,しかも良好な結果が得られている58).しかし急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障は,極端な浅前房,Zinn小帯の脆弱性,散瞳が不十分,眼軸が短く度数の高い厚めの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入しなければならないなど,技術的にはむずかしい手術と考えられ,有効性はもちろんのこと,合併症の有無や頻度について冷静で詳細な検討が必要になる.そこで今回筆者らは,急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し,LIを行わず,最初からPEAおよびIOL挿入術(PEA+IOL)を施行した症例を経験したので,その安全性や有効性など臨床経過につき報告する.I対象および方法2006年12月から2008年9月までの間,回明堂眼科医院(当院)で,LIを行わず,PEA+IOLを治療の第一選択とした,急性原発閉塞隅角症(4例6眼)および急性原発閉塞隅角緑内障(1例1眼)の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).発作時の平均年齢は69.6±8.4(標準偏差)歳,平均観察期間7.6±8.2カ月.主訴,既往歴などについては表1に別記した.各眼の眼軸長の平均は22.13±0.62mm,等価球面度数の平均は0.75±1.79D(diopters)と軽度の近視であった.白内障の核硬度の程度はEmery-Little分類で平均2以下と軽度であった(表2).眼圧(mmHg)は発作日,手術日,手術翌日,最終観察日に,矯正視力(少数視力)は手術日,最終観察日に,角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は手術前日,最終観察日に,周辺前房深度(vanHerick法)は手術日,最終観察日にそれぞれ測定し比較検討した.予想屈折度と術後屈折度の差についても検討した.使用機種はすべてAlcon社製INFINITITM(OZILTM)であるが,症例1の両眼と他の症例では,異なる超音波振動を用いたため,手術の侵襲を検討する際の超音波積算値(cumula-tivedissipatedenergy:CDE)をつぎのように計算した.従来の縦振動の超音波のみを使用した症例2から症例5では,CDE=平均超音波パワー(%)×超音波使用時間(秒)として計算,症例1では縦振動の超音波とtorsional(横振動)を併用したので,CDE=平均超音波パワー×超音波使用時間+0.4×(torsionalパワー×torsional使用時間)として計算した.すべての患者にLIおよびPEA+IOLの利点,合併症などを説明した後,PEA+IOLを初回手術として選択することの同意を得た.手術はすべて同一術者(K.N.)により行われた.今回の対象となる症例数はごくわずかであり,統計学的な解析をするには不十分ではあるが,参考までに検討した.視力はWilcoxon符号付順位和検定,その他はそれぞれ対応のfound.Peripheralanteriorchamberdepthimprovedinalleyes(p<0.00005).Meanoperationtime,22±7.7minutes,wasslightlylong;continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)in4eyeswastransformedtoovalafterIOLimplantation.Middlecornealedemawasfoundin2eyesandmiddlebrinofanteriorchamberwasfoundin2eyes.PEA+IOLmightbeaneectiveprimaryprocedureforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma,butitisnecessarytopayattentiontoinammationoftheanteriorsegmentanddecreaseinendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):689694,2009〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障,第一選択の治療,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術.acuteprimaryangle-closure,acuteprimaryangle-closureglaucoma,primaryprocedure,phacoemulsi-cationandaspiration(PEA),intraocularlensimplantation(IOL).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009691(111)あるt検定を用いた.危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果手術時のデータを表3に示した.手術は塩酸リドカインの局所麻酔下に,PEA+IOLを行った.切開はやや角膜よりの強膜切開で行い,粘弾性物質は通常のヒアルロン酸ナトリウムのほか,角膜内皮細胞の保護を目的としてヒアルロン酸ナトリウム・コンドロイチン硫酸ナトリウム配合(ビスコートR)を使用した.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際には前染色としてindocyaninegreen(ICG)を全例に使用.散瞳不良の症例1の左眼と虹彩後癒着がみら表1患者の背景症例12345年齢(発作発症時)(歳)5678747268性別女性女性女性女性男性患眼両眼左眼右眼左眼両眼診断APACAPACAPACGAPACAPAC主訴頭痛眼痛視力低下頭痛充血充血充血違和感霧視嘔気霧視過去の発作様所見2カ月前3カ月前既往歴統合失調症左耳下腺腫瘍切除観察期間(月)226532APAC=acuteprimaryangle-closure:急性原発閉塞隅角症.APACG=acuteprimaryangle-closureglaucoma:急性原発閉塞隅角緑内障.表2各眼の術前のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左等価球面度数(D)0.880.2540.9201.25術前中央前房深度(mm)2.12n.r.2.322.062.442.082.09水晶体厚(mm)5.36n.r.5.345.865.275.895.71眼軸長(mm)21.621.622.922.721.322.522.3白内障の核硬度1.51.522.521.51.5術前中央前房深度や眼軸長は角膜後面からの距離.使用機種はTOMEY社製AL-1000.n.r.=記録なし.白内障の核硬度はEmery-Little分類を用いた.表3手術時のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左手術日06.12.1206.12.1908.4.2208.5.708.7.208.8.608.8.19発作から手術日までの日数(日)6370172114ICG使用使用使用使用使用使用使用瞳孔拡張せず施行せずせずせず癒着解除せず超音波振動横と縦横と縦縦縦縦縦縦CDE31.0719.8017.2211.749.745.4IOLパワー(D)2727.523.523.525.525.524.5手術時間(分)14151919223233ICG=indocyaninegreen.縦=従来の縦振動の超音波(phaco).横=横振動の超音波(torsional).CDE=cumulativedissipatedenergy(超音波積算値).———————————————————————-Page4692あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(112)れた症例5の右眼に対しては機械的に瞳孔を拡張した.手術時間が22±7.7分と通常よりやや長めであった.各眼の術前術後の眼圧の推移(図1a)およびその平均値と標準偏差(図1b)を示した.観察期間が2カ月から22カ月とばらつきがあり,しかも平均観察期間が7.6±8.2カ月と短かったため,最終受診日を最終観察日とした.発作日の高眼圧(58.7±14.7mmHg)は点眼などの初期処置により,術直前には正常化した(12.9±2.7mmHg).術翌日は術後の炎症などでやや眼圧が上昇したものの(14.7±4.0mmHg),最終観察日には落ち着いている(9.9±1.8mmHg).症例3のみ緑内障で,視野がAulhorn分類Greve変法のstage5と進行した緑内障であったため,ラタノプロストを点眼中である.各眼の術前術後の視力を比較した結果を図2に示した.手術前の矯正視力0.63±0.24は,手術後0.93±0.11と有意に改善している(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定).症例3は緑内障による暗点が中心部まで及んでいるためか,視力の回復が十分でない.各眼の術前術後の角膜内皮細胞密度を比較した結果を図380706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察:症例1右:症例1左:症例2左:症例3右:症例4左:症例5右:症例5左図1a各眼の眼圧の推移術後術前図2各眼の白内障手術前後の矯正視力の比較術前術後の少数視力をlogMARに換算して比較検討した.(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定)80706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察図1b眼圧の推移(平均値と標準偏差)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000術後(cells/mm2)05001,0003,5002,5003,0002,0001,500術前(cells/mm2)#1#2図3白内障手術前後の角膜内皮細胞密度の比較#1:症例3の右眼(約54%減少),#2:症例5の左眼(約20%減少).表4周辺前房深度(vanHerick法)の術後の比較1右1左2左3右4左5右5左術前1111111術後4443343周辺前房深度はvanHerick法により,Grade0からGrade4までに分類.手術直前のvanHerickは1/4未満であったので,Grade1として統計処理した.周辺前房深度は十分に深くなり隅角も開大した(p<0.00005:対応のあるt検定).表5術後の合併症症例1右1左2左3右4左5右5左角膜浮腫なしなしなし少中中少前房フィブリンなしなしなし少中中少CCCの変形なしなしなし楕円楕円楕円楕円瞳孔変形なしなしなしなしなし散大なし角膜浮腫の少は,その程度が角膜の1/3以下,中は角膜の1/32/3と定義した.フィブリンの少は,その程度が瞳孔領域内,中は瞳孔領域を超えるが全体に及んでないと定義した.CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)の変形とは,ほぼ円形であったCCCが,IOL挿入後に,CCCが楕円形に変形したことを意味する.症例5の右眼の瞳孔変形は,左眼に対して2mm以上の麻痺性散大していることを意味する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009693(113)に示した.術前の角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は2,587.3±548.3で,術後2,278.4±657.9と全体では大きな減少は認められなかった(p=0.25:対応のあるt検定).しかし症例3では約54%,症例5の左眼では約20%減少している.各眼の術前術後の周辺前房深度(vanHerick法)を比較した結果を表4に示した.術後の合併症を表5に,予想屈折度と術後屈折度の比較を表6に示した.III考按急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する治療は従来,LIあるいは観血的な虹彩切除術が一般的であった.ところが近年,初回手術としてPEA+IOLを行い良好な結果が得られているとの報告が相ついでいる59).これは白内障手術の技術的な進歩にもよるが,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)などの各種検査機器の発達により,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムが単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられようになり4),LI単独では,解決しない場合があるという考え方が大きな背景となっている.今回の筆者らの経験では,すべての症例で周辺前房深度や隅角が広がり,眼圧も翌日には,正常化するという良好な手術成績が得られた.さらに視力が改善しただけでなく,術後の屈折度も予想と変わらず,軽度の近視が得られたことで,副産物的な患者の満足感も得られた.そのなかで一番重要なのは,術後に多少の角膜浮腫や前房の炎症は認められたものの,早期に眼圧下降という目的が達成されたということである.しかしその一方で,角膜内皮細胞密度がかなり減少する症例も経験した.症例3では約54%,症例5の左眼では約20%の減少で,短期間にこのような合併症を経験し,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する手術の危険性を改めて痛感した.ただいずれの症例も,とりわけトラブルのない手術であっただけに,角膜内皮細胞密度のほとんど減少していない症例と減少した症例のどこに違いがあったのか疑問が残る.そこでその要因として,中央前房深度,水晶体厚,眼軸長,白内障の核硬度(表2)や発症から手術までの期間,CDE,手術時間(表3)などを考え,角膜内皮細胞密度の減少との関係についても検討してみた.その結果,症例3と症例5の左眼で,中央前房深度が2.1mm以下,水晶体厚が5.7mm以上という共通点がみられた.症例5の右眼も同様の共通点をもつが,減少はみられない.これは症例3で角膜内皮細胞密度の減少という経験をし,術者がビスコートRを増量して使用するなど工夫したためと思われる.もちろん角膜内皮細胞に及ぼす影響は単一ではなく,白内障の核硬度,CDE,手術時間などが複合的に関与すると思うが,とりわけ術前の検査で中央前房深度が2mm近く,水晶体厚が6mm近い症例では手術の侵襲が,角膜内皮細胞に及ぼす影響が大きいと考え,相当の注意が必要であると考えた.術後の隅角鏡検査で,症例3以外の4例6眼ではPASを認めなかったことから,LIも眼圧を正常化させるという目的では結果的には成功したと思われる.しかしながら症例3のように3/4以上のPASが存在するような症例では,長期的にみればLI単独では十分な効果は得られなかったであろう.一方,このようなPASの多い症例に対しては,白内障手術だけでは不十分で,PEA+IOLと同時に隅角癒着解離術の併用を行うことが有効であるとの報告もある9).今回の症例3では,術前かなりのPASを認めたが,その詳細な範囲がはっきりせず,術後に詳細な隅角鏡検査をしたうえで,隅角癒着解離術の適否を検討することにしたため,最初から併用を行わなかった.また,隅角癒着解離術そのものにも,前房出血やそれに伴う一過性の眼圧上昇など,合併症が発症する可能性もあると考えたことも併用しなかった理由である.仮に解除しないPASが存在しても,術後の眼圧が安定していれば,経過観察するか,あるいは眼圧の推移をみながら,追加の手術として隅角癒着解離術を検討してもよいと思われる.症例3は,今後の眼圧の推移を注意深く見守りながら,隅角癒着解離術の適否を検討していきたい.今後は手術の技術的な議論だけでなく,手術をしなければわからない急性発作のメカニズムも検討していく必要があると思われる.今回の手術で感じたのは「Zinn小帯の脆弱性も急性発作に関与しているのではないか」ということである.今回のすべての症例でCCCの際,水晶体表面の張りが少なく,また7眼中4眼で,ほぼ円形であったCCCがIOL挿入後に楕円形に変形した事実は,Zinn小帯が脆弱であったことを意味すると思う.この脆弱性は急性発作の後遺症と考えることもできるが,発作以前からZinn小帯が何らかの原因で脆弱化していたとすれば,その結果,水晶体が前方に移動し,瞳孔ブロックをひき起こしたと考えることもでき,メカニズムを知るうえで貴重な経験であったと思う.急性ではない原発閉塞隅角症あるいは原発閉塞隅角緑内障に対してでさえ,LIとPEA+IOLのいずれを選択するべきか,議論の多いところである1012).なぜならこのような症例に対するPEA+IOLは,利点は多いものの,やはりLIと比較すれば,危険性も高く,ある程度以上の技術が必要にな表6予想屈折度(D)と術後屈折度(D)の比較症例1右1左2左3右4左5右5左予想屈折度(D)1.471.21.311.370.941.631.61術後屈折度(D)111.251.750.751.752術前の予想屈折度(D)は1.36±0.24Dで,術後は1.35±0.24Dと有意差を認めなかった(p=0.97:対応のあるt検定).———————————————————————-Page6694あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(114)るためと思われる.ましてや症例が急性である場合や,白内障がわずかな症例であれば,初回手術としてPEA+IOLを選択するという考え方に対する批判は多くなるかもしれない.もちろん筆者らが経験した症例数はわずかであり,しかも短期間の経過観察であったので,どちらの立場を支持するというレベルにはない.急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の発症機序は複雑であり,しかも来院時の状況は千差万別である.今後さらに症例を追加し,長期の経過観察をするとともに,従来,当院で行っていた,「LIを治療の第一選択とした群や,LIを最初に施行し,後日白内障が進行した場合にPEA+IOLを行った群」と比較検討する予定である.そのうえで急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内症に対するより安全でかつ有効な治療法につきさらに検討していきたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)島潤:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況─.あたらしい眼科24:851-853,20073)澤口昭一:レーザーか手術か:古くて新しい問題─レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clearlensectomyを含む)─.あたらしい眼科23:1013-1018,20064)上田潤:閉塞隅角の画像診断:瞳孔ブロックと非瞳孔ブロックメカニズム.あたらしい眼科24:999-1003,20075)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma.AmJOphthamol135:534-536,20036)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphaco-emulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20027)MiuraS,IekiY,OginoKetal:Primaryphacoemulsi-cationandaspirationcombinedwith25-gaugesingle-portvitrectomyformanagementofacuteangleclosure.EurJOphthamol18:450-452,20088)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsicationversusperipheraliridoto-mytopreventintraocularpressureriseafteracuteprima-ryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20089)大江敬子,秦裕子,塩田洋ほか:ヒーロンVRを用いた隅角癒着解離術の成績.眼科手術21:251-254,200810)野中淳之:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,200711)大鳥安正:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?.あたらしい眼科24:1015-1020,200712)山本哲也:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,2007***