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HIF-PH 阻害薬投与の開始前後における糖尿病黄斑浮腫の 変化の観察

2024年3月31日 日曜日

《第29回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科41(3):335.339,2024cHIF-PH阻害薬投与の開始前後における糖尿病黄斑浮腫の変化の観察鈴木陽平*1,2小堀朗*1小森涼平*2高村佳弘*2稲谷大*2*1福井赤十字病院眼科*2福井大学眼科学教室CRetrospectiveStudyofDiabeticMacularChangesBeforeandAfterInitiationofHIF-PHInhibitorTreatmentYoheiSuzuki1,2)C,Akirakobori1),RyoheiKomori2),YoshihiroTakamura2)andMasaruInatani2)1)DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukuiC目的:低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(hypoxia-inducibleCfactorprolylChydroxylase:HIF-PH)阻害薬を投与された糖尿病患者において糖尿病黄斑浮腫(DME)が増悪したか検討した.対象および方法:HIF-PH阻害薬を開始した糖尿病患者を対象とし,投与前後における中心網膜厚(CRT)を比較した.結果:5例9眼中2眼でDMEが増悪した.症例C1ではCHIF-PH阻害薬の内服中止に加え,抗CVEGF薬硝子体内注射を施行したが,CRTの回復には約C3カ月を要した.症例C2ではCHIF-PH阻害薬の内服中止のみで軽快したが,CRTの回復には約C7カ月を要した.結論:HIF-PH阻害薬の開始によりCDMEの悪化を認めた症例があったが,自然経過との鑑別は困難であった.CPurpose:Toassesswhetherdiabeticmacularedema(DME)worsenswhendiabeticpatientsaretreatedwithahypoxia-induciblefactorprolylhydroxylase(HIF-PH)inhibitor.SubjectsandMethods:ThisretrospectivecaseseriesCstudyCinvolvedC9CeyesCofC5CpatientsCwithCDMECwhoCwereCtreatedCwithCHIF-PHCinhibitorsCandCfollowedCforseveralmonths.Centralretinalthickness(CRT)wascomparedbeforeandafterinitiationoftheHIF-PHinhibitors.Results:DMEworsenedin2ofthe9eyesafterinitiationofHIF-PHinhibitors.InCase1,thepatientwastreatedwithCvitreousCanti-VEGFCinjectionCinCadditionCtoCdiscontinuationCofCHIF-PHCinhibitors,Chowever,C3CmonthsCwasCrequiredCforCCRTCtoCrecover.CInCCaseC2,CtheCpatient’sCCRTCrecoveredCafterConlyCdiscontinuationCofCtheCHIF-PHCinhibitor,yetapproximately7monthswasrequiredfortherecovery.Conclusions:Our.ndingsshowedthatDMEcanCworsenCafterCinitiatingCtreatmentCwithCHIF-PHCinhibitors,CyetCsinceCthisCwasCaCretrospectiveCstudyCitCwasCdi.culttoassesswhetherHIF-PHinhibitorswererelatedtoDMEworsening.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(3):335.339,C2024〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,HIF-PH阻害薬,抗CVEGF薬,腎性貧血.diabeticmacularedema,HIF-PHinhibi-tors,anti-VEGFdrugs,renalanemia.Cはじめに糖尿病は世界中で推定C4億C6,300万人が罹患しており,糖尿病患者の約C10.15人にC1人の割合で糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)が発症しているといわれている.糖尿病罹患率は今後さらに増大すると考えられ,黄斑浮腫による視力低下は大きな問題となっている1,2).DMEにおいては,持続した高血糖状態が慢性的な微小血管障害,虚血,炎症を引き起こし,眼内において増加した血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)などのサイトカインにより血管透過性が亢進し,黄斑部に血液成分が漏出することで視力の低下,変視症などの自覚症状が生じる.低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(hypoxia-inducibleCfactorprolylhydroxylase:HIF-PH)阻害薬は腎性貧血の治療薬である.HIFは通常CHIF-a,HIF-bで二量体を形成し,血中に存在している.HIF-aのサブユニットにはCHIF-1Ca,〔別刷請求先〕鈴木陽平:〒918-8501福井県福井市月見C2-4-1福井赤十字病院眼科Reprintrequests:YoheiSuzuki,DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,2-4-1Tsukimi,Fukuicity,Fukui918-8501,JAPANCde図1症例1の右眼の網膜光干渉断層計(OCT)像a:HIF-PH阻害薬投与の開始前.Cb:投与開始約C1カ月半後.Cc:投与開始C2カ月半後.このC5日後に投与中止となった.Cd:投与中止C2カ月後.e:投与中止役C3カ月半後.HIF-2a,HIF-3Caが存在する.HIFはCHIF-PHにより,プロリン残基の水酸化を受け,これがCVHL蛋白によりユビキチン化され,その後,プロテアソームによって分解される.エリスロポエチン(EPO)の産生に関与するCHIF-2Caは通常,上記の経路により,分解される.しかし,HIF-PH阻害薬はこの分解を阻害し,HIF-2Caを安定化させる効果がある.これにより,EPOの腎臓での産生を促進するが,同時にCHIF-1aも安定化させることにより,網膜のCVEGFを増加させることでCDMEが悪化する危険性が懸念されている3.5).実際,HIF-PH阻害薬により安定化されるCHIF-1Caを眼内で阻害した場合には,VEGFの発現が抑制されたと報告されている6).臨床研究においては,HIF-PH阻害薬の高容量内服した場合では血中CVEGF濃度は上昇するとされる一方で,実臨床で使用する範囲内では血中CVEGF濃度に変化はなかったとも報告されている7,8).これまでにCHIF-PH阻害薬による網膜症増悪の報告は少数であり,一定の見解は得られていない3,9,10).今回,糖尿病患者に対し,HIF-PH阻害薬を投与した際にCDMEが増悪するかを検討した.CI対象および方法2018年から現在までに福井赤十字病院へ受診した患者のうち,糖尿病を伴う腎性貧血に対して,HIF-PH阻害薬の投与を開始された症例を対象とした.HIF-PH阻害薬の投与前後において,網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)検査の経過を追えた症例の視力,中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)について倫理審査委員会で承認の元,後ろ向きに検討した.眼球破裂によりCOCT検査を行えなかったC1眼を除外した.CII結果5名C9眼が対象となった.5名中C2名,9眼中C2眼でCDMEが増悪した.以下,増悪した症例を提示する.〔症例1〕47歳,男性(図1)a:初診時,Cb:ダプロデュスタット投与C1カ月半後.両増殖糖尿病網膜症で汎網膜光凝固が施行されており,左眼は角膜混濁のため矯正視力はC0.1だった.糖尿病性腎症で透析中であり,腎性貧血に対するダプロデュスタット使用前における網膜症評価のため,腎臓内科より紹介となった.初診時視力はVD=(1.2C×sph.8.50D(cyl.0.50DCAx165°),VS=(0.1C×.7.00D(cyl.3.00DCAx90°),右眼CRT:258Cμm,左眼CCRT:246Cμmであった(図1a).ダプロデュスタット開始C49日後,右眼視力低下を自覚し再診となった.VD=(0.6C×sph.8.75D(cyl.0.75DCAx170°),VS=(0.1C×.7.00D(cyl.3.00DAx100°)で黄斑浮腫は認めなかったが,右眼の矯正視力はC1.2からC0.6に低下していた.翌日の視力検査でC1.0へ回復,経過観察とした.さらに約C1カ月後,視力低下を再度自覚し,再診した(図1b).VD=(0.4C×sphC.8.50D(cyl.0.50DAx160°),VS=(0.06C×.7.00D(cylC.3.00DAx100°),右眼CRT:296μmであり,わずかではあるが中心窩に黄斑浮腫が出現したと判断し(図1c),抗VEGF薬(アフリベルセプト)の硝子体内注射を施行した.腎臓内科にダプロデュスタット投与中断の検討を依頼し,5日後に投与中止となった.抗CVEGF薬硝子体内注射,ダプロデュスタット内服中止後に視力は徐々に上昇したが,CRTは増加し(図1d),約C3カ月後に投与前の水準まで回復した(図1e).この間,左眼視力,CRTともに著変はなかった.ダプロデュスタットを中止して約C5カ月後でCVD=(1.0C×sph.8.00D(cyl.0.50DC再初診時視力はCVD=(SLC.),VS=0.8(矯正不能),左眼黄斑浮腫を認め,左眼CCRT:632Cμmであった(図3b).入院中であり,全身状態を考慮してそのまま経過観察となり,無治療でCDMEは徐々に軽快した(図3c,d).最終視力はCVS=(0.9C×sph.1.25D(cyl.1.50DAx180°)まで回復した.CRTの経過を図4に示す.他C3症例C6眼においては,HIF-PH阻害薬使用後に視力,CRTの著変を認めなかった(図5).中心網膜厚(μm)300250Ax180°)まで回復した.CRTの経過を図2に示す.〔症例2〕68歳,女性(図3)左眼単純網膜症で右眼は眼球破裂の既往があり,眼底は観察困難であった.抗好中球細胞質抗体関連腎炎で透析中であ200150症例1右眼症例1左眼100500り,腎臓内科より視力低下の精査目的で紹介となった.当科紹介の約C1カ月前までロキサデュスタットが処方されていた.約C1年前の当科受診時には軽度の黄斑浮腫を中心窩外にHIF-PH阻害薬投与認めていた(図3a).その後,受診が途絶えており,今回再図2症例1におけるOCTでの中心網膜厚の推移初診となった.実線は右眼,点線は左眼.C図3症例2の左眼のOCT像a:HIF-PH阻害薬投与が開始されるC1年前.Cb:再初診時でCHIF-PH阻害薬投与が終了してC1カ月後.高度の黄斑浮腫を認める.Cc:投与終了してから約C3カ月後.Cd:投与終了してから約C7カ月後.III考察HIF-PH阻害薬投与中にCDMEの増悪をC5例C9眼のうちC2例C2眼で経験した.HIF-1は通常,HIF-1CaとCHIF-1Cbで二量体を形成して血液中には存在し,酸素濃度の低下を感知する.眼内のCVEGF濃度に関係するのはCHIF-1Caである9).慢性腎臓病に伴う腎性貧血においては,腎臓でのCEPOの産生が低下している.EPO産生増加に作用するCHIF-2CaはHIF-PHの作用により最終的にプロテアソームにより分解されるため,HIF-PH阻害薬の使用により,結果的にCEPO産生が誘導される.しかし,HIF-PH阻害薬はCEPOだけでなくCVEGFをも産生を促すため,その結果,DMEや糖尿病網膜症の悪化が危惧されている.よって,網膜出血を発現するリスクが高い患者(増殖糖尿病網膜症,DME,滲出型加齢黄斑変性症,網膜静脈閉塞症などを合併する患者)に対してはとくに注意してCHIF-PH阻害薬を投与すること,本薬剤6005004003002001000を開始後には,定期的に眼科で網膜の状態について評価を受けることが推奨されている3).今回,筆者らが経験した症例のうち,増悪したC2眼はいずれもCHIF-PH阻害薬の投与を開始してC2,3カ月後にCDMEが悪化し,HIF-PH阻害薬の内服を中止してC3.6カ月後に軽快しており,似た経過をたどった.HIF-PH阻害薬による増悪とすれば,両眼への影響とも考えられるが,いずれの症例においても片眼のみの変化であった.DMEは眼局所の因子と全身の因子が複雑にかかわりあって発症するものであ中心網膜厚(μm)HIF-PH阻害薬投与り,HIF-PH阻害薬による影響か,DMEの自然経過かを判図4症例2におけるOCTでの中心網膜厚の推移断することは容易ではない.ABCc図5症例3(A),4(B),5(C)におけるOCT像顕著な浮腫の悪化を認めなかった.C338あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024(102)今回のCDMEが増加したC2眼においては,DMEは内服中止した後も3.7カ月まで浮腫が遷延した.過去においては,HIF-PH阻害薬内服中止後にC2週間程度でCDMEは軽快したとの報告があり10),今回のC2症例の経過とは異なるものであった.血糖のコントロール不良は,終末糖化産物と活性酸素の蓄積をもたらし,関与する炎症経路を活性化することにより,DMEを増悪させるといわれているが11),今回のC5例のDMEにおいては明らかな血糖コントロール不良な例はなかった.人工透析の導入によって,DMEは速やかに,かつ強力に浮腫が改善し,長期にわたって維持されることが報告されている12).今回のC5例中C4例が透析患者であり,透析によってCDMEの進行が抑制され,HIF-PH阻害薬による悪化が抑制された可能性も考えられた.DMEに対する治療については,抗CVEGF薬の硝子体内注射が治療の第一選択として用いられることが多い13).HIF-PH阻害薬によって,眼内の抗CVEGFレベルが増加してCDMEが悪化するとすれば,悪化に際して抗CVEGF治療を行うことは理にかなっている.しかし,HIF-PH阻害薬を中止しただけで軽快した症例も報告されているので,まずは薬剤中止で経過観察することも選択肢の一つとしてよいだろう.ただし,浮腫の遷延は不可逆的な視機能低下にもつながるので,注射のタイミングが遅くならないように注意することも重要であろうと考えられる.HIF-PH阻害薬の中止のみで経過をみるべきか,抗CVEGF薬の硝子体内注射を行うべきか一定した見解はなく,今後検討していく必要があると考えられる.本報告では,すでにCHIF-PH阻害薬を開始されていたDME症例を後ろ向きに検討した.DMEの悪化には,透析の導入や糖尿病の程度,糖尿病歴の長さなどが複雑に関与している11,14).よって,HIF-PH阻害薬のCDMEへの影響を調べるには,条件を揃えたうえでの前向き研究が望ましいと考えられる.前向き研究によりCHIF-PH阻害薬を開始する前のCCRTがわかれば,治療開始後のわずかな変化もCOCTの解析で検出することができるだろう.文献1)LeeR,WongTY,SabanayagamCetal:EpidemiologyofdiabeticCretinopathy,CdiabeticCmacularCedemaCandCrelatedvisionloss.EyeVis(Lond)C2:17,C20152)SaeediP,PetersohnI,SalpeaPetal:Globalandregionaldiabetesprevalenceestimatesfor2019andprojectionsfor2030Cand2045:ResultsCfromCtheCinternationalCdiabetesCfederationCdiabetesCatlas,C9thCedition.CDiabetesCResCClinCPractC157:107843,C20193)内田啓子,南学正臣,阿部雅紀ほか:日本腎臓学会HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation.日腎会誌62:711.716,C20204)GuptaCN,CWishJB:Hypoxia-inducibleCfactorCprolylChydroxylaseinhibitors:ACpotentialCnewCtreatmentCforCanemiainpatientswithCKD.AmJKidneyDisC69:815-826,C20175)CatrinaCB,CZhengX:HypoxiaCandChypoxia-inducibleCfac-torsCinCdiabetesCandCitsCcomplications.CDiabetologiaC64:C709-716,C20216)ZhangD,LvFL,WangGH:E.ectsofHIF-1aondiabet-icCretinopathyCangiogenesisCandCVEGFCexpression.CEurCRevMedPharmacolSciC22:5071-5076,C20187)HaraCK,CTakahashiCN,CWakamatsuCACetal:Pharmacoki-netics,pharmacodynamicsandsafetyofsingle,oraldosesofGSK1278863,anovelHIF-prolylhydroxylaseinhibitor,inChealthyCJapaneseCandCCaucasianCsubjects.CDrugCMetabCPharmacokinetC30:410-418,C20158)SanghaniNS,HaaseVH:Hypoxia-induciblefactoractiva-torsCinCrenalanemia:CurrentCclinicalCexperience.CAdvCChronicKidneyDisC26:253-266,C20199)HirotaK:HIF-aprolylChydroxylaseCinhibitorsCandCtheirCimplicationsCforbiomedicine:ACcomprehensiveCreview.CBiomedicinesC9:468,C202110)浦橋佑衣,小島祥:HIF-PH阻害薬投与後に糖尿病黄斑浮腫が増悪したC1例.臨眼77:324-328,C200311)LiuCE,CCraigCJE,CBurdonK:DiabeticCmacularoedema:Cclinicalriskfactorsandemerginggeneticin.uences.ClinExpOptomC100:569-576,C201712)TakamuraY,MatsumuraT,OhkoshiKetal:FunctionalandCanatomicalCchangesCinCdiabeticCmacularCedemaCafterChemodialysisinitiation:One-yearCfollow-upCmulticenterCstudy.SciRepC10:7788,C202013)YoshidaS,MurakamiT,NozakiMetal:Reviewofclini-calCstudiesCandCrecommendationCforCaCtherapeuticC.owCchartCforCdiabeticCmacularCedema.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmol259:815-836,C202114)MusatCO,CCernatCC,CLabibCMCetal:DiabeticCmacularCedema.RomJOphthalmolC59:133-136,C2015***

多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳第4 版に対する アンケート調査

2023年2月28日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(2):237.242,2023c多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳第4版に対するアンケート調査大野敦粟根尚子佐分利益生廣瀬愛谷古宇史芳赤岡寛晃廣田悠祐小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CQuestionnaireSurveyontheDiabeticEyeNotebook4thEditionamongPhysiciansintheTamaAreaAtsushiOhno,NaokoAwane,MasuoSaburi,AiHirose,FumiyoshiYako,HiroakiAkaoka,YusukeHirota,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:2020年に第C4版に改訂された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対するアンケート調査を内科医を対象として行い,その結果に回答者が糖尿病を専門としているか否かで差を認めるかを検討した.方法:多摩地域の内科医に眼手帳第C4版に対するアンケートへの回答をC2021年に依頼し,回答者を糖尿病が専門のC38名(専)と非専門のC26名(非)に分け調査結果を比較した.結果:両群とも「眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感はない」がほぼC100%.受診の記録の記載内容は「ちょうど良い」がC70%前後,「詳しすぎる」もC20%前後認め,不要と感じる項目は中心窩網膜厚と抗CVEGF療法とする回答が多かった.福田分類は(専)で「無いままでよい」,(非)で「どちらともいえない」が最多であったが,復活を(専)のC12%が希望した.第C4版で「HbA1cが追加されてよかった」が(非)で多い傾向を認めた.結論:眼手帳の受診の記録が詳しすぎるとの回答をC20%前後認め,不要と感じる項目として糖尿病黄斑浮腫関連の回答が多く,内科医への啓発活動が必要と思われる.CPurpose:WeconductedaquestionnairesurveyofphysiciansontheDiabeticEyeNotebook(DEN,revisedtotheC4thCeditionCin2020)C,CandCexaminedCifCthereCwasCaCdi.erenceCinCtheCresultsCdependingConCwhetherCorCnotCtheCrespondentswerediabetesspecialists.Methods:In2021,wesentquestionnairesonthe4th-editionDENtophysi-ciansCinCtheCTamaCarea,CandCdividedCtheCrespondentsCintoCthoseCwhospecialize(S)indiabetes(n=38)andCthoseCwhodonotspecialize(NS)indiabetes(n=26)andcomparedthe.ndings.Results:InboththeSandNSgroup,nearlyCallCpatientsCagreedCtoCtheChandingCoverCtheCDENCophthalmologicalCdata.COfCtheCmedicalCrecordsCcollected,Capproximately70%CwereCadequate,CwhileCapproximately20%CwereCtooCdetailed,CandCfovealCretinalCthicknessCandCanti-VEGFtherapyweretheitemsmostfrequentlydeemedunnecessary.ThemostcommonanswertotheFuku-daclassi.cationwasthatitdidnotneedtobeS,neitherNS,yet12%ofSrespondentsstatedthatitwasacceptedifrevised.ItwasdeemedgoodthatHbA1cwasaddedinthe4thedition,butthattendencywasmorecommonintheCNSCresponses.CConclusion:About20%CofCtheCrespondentsCansweredCthatCtheCrecordsCofCconsultationsCinCtheCDENCwereCtooCdetailed,CandCmanyCrespondedCthatCdiabeticCmacularCedemaCrelatedCitemsCwereCunnecessary,CthusCindicatingthatthephysiciansneedtobefurthereducated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(2):237.242,C2023〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,受診の記録,糖尿病黄斑浮腫,福田分類.diabeticCeyeCnotebook,Cquestionnairesurvey,recordofconsultations,diabeticmacularedema,Fukudaclassi.cation.C〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC表1アンケート回答者の背景(人数)専門医非専門医p値【年齢】20歳代:3C0歳代:4C0歳代:5C0歳代:6C0歳代:7C0歳代1:7:8:12:7:1(無回答C2名)0:2:6:4:7:5(無回答C2名)C0.12【臨床経験年数】10年以内:1C1.C20年:2C1.C30年:3C1.C40年:4C1年以上4:10:12:9:2(無回答C1名)2:5:9:4:4(無回答C2名)C0.64【就業施設】診療所:2C00床以下の病院:2C00床以上の病院:大学病院22:1:1:8(無回答C6名)19:0:0:0(無回答C7名)C0.03【定期通院糖尿病患者数】11.C30名:3C1.C50名:5C1.C100名:1C01.C300名:3C01名.C500名:5C01名以上1:1:7:13:2:1C3(無回答C1名)11:6:4:2:0:0(無回答C3名)<C0.001はじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携.放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経てC2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)の発行されるに至った3).眼手帳は発行後C20年が経過し,その利用状況についての報告が散見され4.7),2005年には第C2版,2014年には第C3版に改訂された.多摩地域では,眼手帳に対する内科医の意識調査を発行C7年目,10年目に施行し,13年目には過去C2回の調査結果と比較することで,発行後C13年間における眼手帳に対する内科医の意識の変化を報告した8).第C3版においては糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方,初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第C2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.さらに2020年には第C4版に改訂されて「HbA1c」の記入欄が設けられ,「糖尿病黄斑浮腫の現状と治療内容」に関する詳細な記載項目が増えた.そこで多摩地域では,2021年C4.5月に眼手帳第C4版に対する内科医を対象としたアンケート調査を施行したので,その結果に糖尿病の専門性の有無で差があるかを検討した.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域で糖尿病診療に関心をもつ内科医C65名で,「日本糖尿病学会員ですか,糖尿病について関心がありますか?」の質問に対する回答結果【①日本糖尿病学会の会員,②会員ではないが糖尿病が専門・準専門,③専門ではないが関心はある,④あまり関心がない】により,専門医(①C32名+②C6名)38名と非専門医(③C26名+④C0名)26名(1名は不明)のC2群に分けた.アンケート回答者の背景を表1に示す.年齢は,専門医が50歳代のC33.3%,非専門医がC60歳代のC29.2%がそれぞれ最多でも,両群間に有意差は認めなかった.臨床経験年数は,専門医・非専門医ともC21.30年がC30%台でもっとも多く,両群間に有意差は認めなかった.就業施設は,専門医が診療所C68.8%,病院C31.2%,非専門医は診療所C100%で,非専門医で診療所勤務者が多い傾向を認めた.糖尿病の定期通院患者数は,専門医はC101名以上の回答がC75.6%,非専門医はC50名以下の回答がC73.9%を占め,両群間に有意差を認めた.アンケート調査はC2021年C4.5月に実施した.眼手帳の協賛企業である三和化学研究所の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうが良いと判断し,依頼した.なお,アンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,三和化学研究所の関係者は関与していない.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケートの設問は,以下のとおりである.問1.眼手帳の認知度・活用度問2.眼手帳を持参される患者数問3.眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感問4.眼手帳の「受診の記録」の記載内容への御意見問5.「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目問6-1).眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望問6-2).第C3版から「福田分類」が消えたことへの御表2眼手帳の認知度・活用度と持参される患者数眼手帳の認知度・活用度専門医非専門医1)2)すでに眼科医から発行されて,外来時に「眼手帳」から診療情報を得ている眼科医から発行されて外来時に見たことはあるが,活用はしていない31名(C91.2%)1名(2C.9%)3名(1C2.0%)8名(3C2.0%)3)外来とは別のところ(研究会等)で見たことや聞いたことはある1名(2C.9%)5名(2C0.0%)4)眼手帳の存在自体今回はじめて知った9名(3C6.0%)5)その他の状況1名(2C.9%)p<0.001無回答C4C1C眼手帳を持参される患者数専門医非専門医1)5名未満1名(3C.2%)6名(5C4.5%)2)5.C9名2名(6C.5%)3名(2C7.3%)3)10.C19名8名(2C5.8%)4)20名以上20名(C64.5%)2名(1C8.2%)p<0.001無回答C1表3眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感と「受診の記録」の記載内容眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感専門医非専門医1)全くない33名(C86.8%)22名(C88.0%)2)ほとんどない4名(1C0.5%)3名(1C2.0%)3)多少ある1名(2C.6%)4)かなりあるp=0.1無回答C1C眼手帳の「受診の記録」の記載内容専門医非専門医1)詳しすぎて理解しにくい項目がある8名(2C2.2%)4名(1C6.0%)2)3)必要な情報が入っていてちょうど良いもっと詳しい内容がほしい27名(C75.0%)1名(2C.8%)17名(C68.0%)4)わからない4名(1C6.0%)p=0.056無回答C2C1C意見問6-3).第C4版で「HbA1c」が追加されたことへの御意見各設問に対する結果は,無回答者を除く回答者数,カッコ内に百分比で示した.問C2は,問C1で眼手帳を活用中,診療で見るが未活用した回答の専門医C32名,非専門医C11名を対象に施行した.問C5は,問C4で詳しすぎると回答した専門医C8名,非専門医C4名を対象に施行した.両群の回答結果の比較は度数がC5未満のセルが多いため,統計ソフトCEZR(EasyR)を用いてCFisherの正確確率検定を行い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.糖尿病眼手帳の認知度・活用度(表2上段)専門医は「外来時に眼手帳から診療情報を得ている」の91.2%,非専門医は「眼手帳の存在自体今回はじめて知った」のC36.0%が最多回答で,専門医において有意に認知度が高く活用もされていた.C2.眼手帳を持参される患者数(表2下段)専門医は「20名以上」の回答がC64.5%,非専門医は「5名未満」の回答がC54.5%を占め,専門医で有意に多かった.C3.眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感(表3上段)両群とも「全くない」がC85%以上,「ほとんどない」を合わせてほぼC100%で,有意差を認めなかった.次回受診予定HbA1c矯正視力眼圧白内障糖尿病網膜症糖尿病網膜症の変化糖尿病黄斑浮腫中心窩網膜厚本日の抗VEGF療法抗VEGF薬総投与回数図1「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目問C4で「詳しすぎる」と回答した人のみに質問(専門医:8名,非専門医C4名).表4「受診の記録」の項目に対する御意見眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望専門医非専門医1)特にない30名(C88.2%)21名(C95.5%)2)ある4名(1C1.8%)1名(4C.5%)p=0.64無回答C4C4C第C3版から「福田分類」が消えたことへの御意見専門医非専門医1)無いままでよい16名(C47.1%)8名(3C8.1%)2)復活してほしい4名(1C1.8%)3)どちらともいえない14名(C41.2%)13名(C61.9%)p=0.17無回答C4C5C第C4版で「HbAC1c」が追加されたことへの御意見専門医非専門医1)追加されてよかった22名(C62.9%)18名(C90.0%)2)必要なかった3名(8C.6%)3)どちらともいえない10名(C28.6%)2名(1C0.0%)Cp=0.11無回答C3C6C4.眼手帳の「受診の記録」の記載内容への御意見(表35.「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目(図1)下段)問C4で「詳しすぎる」と回答した人が不要と感じる項目両群とも「必要な情報が入っていてちょうど良い」がC70は,両群とも中心窩網膜厚と抗CVEGF療法関連項目が多か%前後でもっとも多く,「詳しすぎて理解しにくい項目があった.る」はC20%前後認めた.6-1).眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望(表4上段)「特にない」との回答が両群ともC85%以上を占め,有意差はなかった.C6-2).第3版から「福田分類」が消えたことへの御意見(表4中段)専門医で「無いままでよい」,非専門医で「どちらともいえない」がそれぞれもっとも多く,一方復活希望は専門医で12%認めたが,両群間に有意差はなかった.C6-3).第4版で「HbA1c」が追加されたことへの御意見(表4下段)「追加されてよかった」が,専門医のC62.9%に比し非専門医はC90.0%と多い傾向を認めた.CIII考按1.糖尿病眼手帳の認知度・活用度専門医は眼手帳をC90%以上の回答者が活用中であったのに対し,非専門医はC12%にとどまっていた.今回のアンケート項目にないため推測の範囲内ではあるが,眼科への定期受診率が非専門医の方が低いために眼手帳を見る機会も少ないことが考えられる.また,今回のアンケートでは「眼手帳は眼科医から渡すべきか」との項目も設けたが,その回答において「内科医から渡しても良い」との回答が専門医は31.6%で非専門医のC16.0%の約C2倍を占めており,専門医では糖尿病連携手帳と眼手帳の同時配布率が高いことも非専門医との活用度の差につながっている可能性が考えられる.C2.眼手帳を持参される患者数眼手帳の持参患者数は専門医で有意に多かったが,糖尿病の定期通院患者数は専門医がC101名以上,非専門医はC50名以下の回答がそれぞれ約C75%を占めて有意差を認めているためと思われる.C3.眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感は,両群とも「全く・ほとんどない」がほぼC100%であったことより,糖尿病初診患者には,たとえ糖尿病連携手帳を未持参でも眼科医からの眼手帳の配布が望まれる.ただそのためには,外来における時間的余裕と眼手帳の配布ならびに眼手帳記載時のメディカルスタッフによるサポート体制の確保が必要と思われる.一方,多摩地域の眼科医に対する眼手帳のアンケート調査において「眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか」の設問に対し,「眼科医が渡すべき」の回答が2020年はC2015年に比べてC14.3%減り,「内科医から渡してもかまわない」の回答がC12.7%増えていた9).したがって,内科医も眼科医からの配布を待つ受け身の姿勢ではなく,糖尿病初診患者に糖尿病連携手帳と眼手帳を同時配布し,初診の段階での眼科受診を勧める姿勢が望まれる.C4.眼手帳の「受診の記録」の記載内容への御意見多摩地域の内科医における眼手帳発行C7・10・13年目の意識調査8)では,「必要な情報が入っていてちょうど良い」との回答がC71.75%で今回の結果とほぼ一致していたが,一方「詳しすぎて理解しにくい項目がある」はC3.3.8.5%にとどまり,今回のC20%前後の回答率とは差を認めた.C5.「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目詳しすぎて理解しにくいために不要と感じる項目としては,専門医でも中心窩網膜厚と抗CVEGF療法関連項目をあげていた.「眼手帳の目的」がC16頁に三つ記載されているが,そのなかでもっとも重要な項目は「③患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」ことであると筆者は考えている.眼手帳第C3版への改訂にあたり,患者サイドに立った眼手帳をめざしてC1頁の「眼科受診のススメ」の表記を患者にわかりやすい表記に変更しただけでなく,糖尿病黄斑症への理解を助けるために眼手帳後半のお役立ち情報に光干渉断層計(OCT)や薬物注射を加えるなどの改変を行い.その結果患者さんにとってわかりやすくなったとの回答が多摩地域の眼科医においてC2015年のC54.5%から2020年はC64.9%とC10%増えていた9).今回の結果を踏まえて,第C4版への改訂にあたり糖尿病黄斑浮腫関連の情報提供に関し内科医が「受診の記録」を理解するのに十分であるのか,さらに先にあげた眼手帳の目的③を考えた際に,第C4版でも患者に正しく理解してもらうわかりやすさが確保されているのか今後検証していくべきと思われる.C6-1).眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望「特にない」との回答が両群とも85%以上を占めていたが,眼手帳発行C7・10・13年目の意識調査8)でもC90%以上を占めており,今回の結果とほぼ一致していた.C6-2).第3版から「福田分類」が消えたことへの御意見専門医で「無いままでよい」がC47%でもっとも多いものの,復活希望もC12%認めた.多摩地域の眼科医でのアンケート調査では,眼手帳発行C10年目までの回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として福田分類が多く選ばれていた10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入してもらいたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).また,糖尿病網膜症病期分類は,改変Davis分類,さらに国際重症度分類と主流が変わり,眼手帳の第C3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,多摩地域の眼科医でのC2020年の調査では福田分類の復活希望が27.5%でC2015年のC2.9%より約C25%有意に増加していた9).福田分類に関しては,国際的には過去の分類の位置づけとなりつつも,一部復活の希望もあることより,内科・眼科連携の観点からも重要なポイントであるので,今後のアンケート調査においては復活希望の回答者にその理由を聞いてみたい.C6-3).第4版で「HbA1c」が追加されたことへの御意見(表4下段)HbA1cが追加されてことに対しては,とくに非専門医で9割の支持を得た.受診の記録に追加したい項目に関して多摩地域の眼科医においてCHbA1c記入欄の希望が多かった10)ことより,まずは内科医から糖尿病連携手帳の発行による臨床検査データの提供に心がけてきた.第C4版でCHbA1cの記載欄が追加されてことにより,連携手帳をまずは開いて直近のCHbA1c値を確認したうえで,眼手帳に転記していただく方式が確立できたと思われる.おわりに多摩地域の内科医に眼手帳第C4版に関するアンケート調査をC2021年C4.5月に施行し,回答者が糖尿病を専門としているか否かで結果に差を認めるかを検討した.その結果,眼手帳の認知率や持参する患者数は専門医で有意に高値であった.受診の記録が詳しすぎるとの回答をC20%前後認め,不要と感じる項目として黄斑浮腫関連の回答が多く,内科医への啓発活動が必要と思われた.HbA1cの追加に対しては,とくに非専門医での評価が高かった.謝辞:アンケート調査にご協力いただきました多摩地域の内科医師の方々,またアンケート用紙の配布・回収にご協力いただきました三和化学研究所東京支店多摩営業所の伊藤正輝氏,篠原光平氏,鈴木恵氏,林浩介氏,折小野千依氏,中尾亮太氏に厚くお礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行C7・10・13年目の比較─.プラクティス34:551-556,C20179)大野敦,粟根尚子,赤岡寛晃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第C3版に関するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科39:510-514,C202210)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C2014***

信州大学医学部附属病院における糖尿病患者に対する SGLT2 阻害薬投与の現状と黄斑浮腫との関連の検討

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):371.375,2022c信州大学医学部附属病院における糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬投与の現状と黄斑浮腫との関連の検討高橋良彰*1鳥山佑一*1牛山愛里*2平野隆雄*1大岩亜子*3村田敏規*1*1信州大学医学部附属病院眼科*2信州大学医学部附属病院薬剤部*3信州大学医学部附属病院糖尿病・内分泌代謝内科CCurrentStatusofSGLT2InhibitorsandAssociationwithMacularEdemainDiabetesPatientsYoshiakiTakahashi1),YuichiToriyama1),AiriUshiyama2),TakaoHirano1),AkoOiwa3)andToshinoriMurata1)1)DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofPharmacy,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3)DivisionofDiabetes,EndocrinologyandMetabolism,DepartmentofInternalMedicine,ShinshuUniversitySchoolofMedicineC目的:SodiumCglucoseCco-transporter2(SGLT2)阻害薬が処方された糖尿病患者の眼合併症の有無と黄斑浮腫への影響について検討する.方法:対象は信州大学医学部附属病院にてC2014年C10月.2019年C1月にCSGLT2阻害薬を処方され,期間中に眼科を受診したC80例.処方前の糖尿病網膜症の有無と病期,黄斑浮腫の有無,光干渉断層計(OCT)検査が施行されたC16例C27眼については中心窩網膜厚の変化を,診療録から後ろ向きに検討した.結果:80例中C42例に糖尿病網膜症の合併,28例に治療歴を含む黄斑浮腫の合併を認めた.OCT検査例全体で処方前(346.0C±134.6Cμm)より処方後(321.5C±97.6Cμm)に有意な中心窩網膜厚の減少を認めた(p=0.02).うちC2例C4眼で眼科での治療が行われていなかったにもかかわらずC100Cμm以上の網膜厚の減少を認めた.結論:SGLT2阻害薬が黄斑浮腫に影響を与えうる可能性が示唆された.CPurpose:Theaimofthisstudywastoevaluatethee.ectsofsodium-glucosecotransporter2(SGLT2)inhibi-torsConCmacularedema(ME)andCocularCcomplicationsCinCdiabetesCpatients.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC80CdiabetesCpatientsCwhoCwereCprescribedCSGLT2CinhibitorsCatCShinshuCUniversityCHospital,CMatsumoto,CJapanbetweenOctober2014andJanuary2019.Weexaminedthepresenceofdiabeticretinopathy(DR)C,ME,andchangesinthefovealthicknessbasedonmedicalrecords.Results:Ofthe80patients,42hadDRand28hadME.InC27CeyesCofC16CpatientsCwhoCunderwentCopticalCcoherenceCtomographyCexamination,CmeanCfovealCthicknessCsigni.cantlyCdecreasedCfromC346.0±134.6CμmCtoC321.5±97.6Cμm(p=0.02)C.CInC4CeyesCofC2Cpatients,CaCdecreaseCinCfovealthicknessof≧100Cμmwasobservedwithin3monthseventhoughnoophthalmictreatmentwasperformed.Conclusion:Our.ndingsindicatethatSGLT2inhibitorpossiblya.ectsME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):371.375,C2022〕Keywords:SGLT2阻害薬,糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫.SGLT2inhibitors,diabeticretinopathy,diabeticmacularedema.Cはじめに近年登場したCsodium-glucoseCcotransporter2(SGLT2)阻害薬は,腎臓の近位尿細管に局在しグルコース再吸収の約90%を担っているCSGLT2を阻害することにより,尿中へのグルコース排泄を促進させる経口血糖降下薬である1).インスリン分泌の影響を受けずに高血糖を速やかに是正することができ,心血管イベントや腎機能低下の抑制効果が複数の大規模臨床研究で報告されている2).一方で眼科領域における報告はまだ少なく,黄斑浮腫が改善したという症例報告が複数あるものの3,4),いずれも少数例での報告に留まっている.〔別刷請求先〕高橋良彰:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshiakiTakahashi,DepartmentofOpthalmology,ShinshuUniversity,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPANC今回,筆者らは信州大学医学部附属病院(以下,当院)の糖尿病内科において新規にCSGLT2阻害薬が処方された患者のうち,投与開始前後に当院眼科を受診した患者のCHbA1cの推移,糖尿病黄斑浮腫の改善について後ろ向きに調査検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2014年C10月.2019年C1月に当院糖尿病内科でSGLT2阻害薬が新規に処方され,期間内に当院眼科受診歴のあった糖尿病患者C80例(男性C46名,女性C34名,平均年齢C51.8C±14.0歳)を対象とし,以下の項目を診療録より後ろ向きに検討した.C1.糖尿病網膜症の合併の有無と病期SGLT2阻害薬処方前の最終眼科受診時における糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の有無およびCDRの病期を国際重症度分類にしたがって,網膜症なし(nonCdiabeticretinopathy:NDR),軽症非増殖網膜症(mildnonprolifera-tiveDR:mildNPDR),中等症非増殖網膜症(moderateNPDR),重症非増殖網膜症(severeNPDR),増殖網膜症(proliferativeDR:PDR)の各病期に分類した.左右の眼で病期が異なる場合はより進行している眼を病期として選択した.SGLT2阻害薬処方時点でのCHbA1cを病期群ごとに検討した.C2.HbA1cと腎機能の変化対象C80例のうち,SGLT2阻害薬処方時および処方後C3カ月時点における血液検査結果が得られたC71例において,網膜症合併群と非合併群それぞれにおけるCHbA1c,血清クレアチニン,eGFRの変化を検討した.C3.黄斑浮腫の合併の有無と中心窩網膜厚の変化対象C80例における浮腫に対する治療歴を含む黄斑浮腫合併の有無を調査した.さらに黄斑浮腫合併症例のうち処方前後3カ月以内に光干渉断層計(opticalCcoherenceCto-mography:OCT)検査を施行されていた症例におけるSGLT2阻害薬処方前後の中心窩網膜厚の変化について検討した.C4.眼科診療録へのSGLT2阻害薬に関する記載の有無糖尿病内科からCSGLT2阻害薬が新規に処方されたことを眼科担当医が把握しているかどうかを,眼科診療録への記載の有無から後ろ向きに調査した.CII結果対象症例C80例のうち,SGLT2阻害薬処方前の最終眼科受診の時点でCDRを合併していた症例はC42例,DRを認めない症例はC38例であった.国際重症度分類による病期分類ではCmildNPDRがC7例,moderateNPDRがC12例,severeNPDRがC3例,PDRがC20例であった.SGLT2阻害薬処方時のHbA1cの値はNDRで9.1C±2.1%,mildNPDRでC8.6C±1.1%,moderateNPDRでC8.3C±1.2%,severeNPDRでC7.6±0.4%,PDRでC8.1C±1.3%であり(表1),DRの病期においてHbA1cの値に有意な群間差は認めなかった(OneCwayANOVA,p=0.21).SGLT2阻害薬処方C3カ月後にHbA1cの検査が施行されていたC71例において,HbA1cの値は全体ではC8.5C±1.6%からC7.4C±0.9%と有意な低下を認めた(pairedt-test,p<0.001).DRのないC31例ではC9.1C±2.1%からC7.4C±0.9%,DRのあるC40例ではC8.2C±1.2%からC7.4C±1.0%とどちらの群においてもCHbA1cの有意な改善を認めた(pairedt-test,p<0.001).血清クレアチニンとCeGFRでは全体およびCDR合併群において,処方C3カ月後に有意な腎機能の悪化を認めた(表2).DRを認めたC42例のうちC28例が黄斑浮腫を合併しているか,もしくは治療歴を有していた.42例のうち汎網膜光凝固が施行されていたのはC27例,硝子体手術の既往がある症例はC12例だった.黄斑浮腫を合併,もしくは治療歴を有していたC28例のうち,16例C27眼でCSGLT2阻害薬処方前後C3カ月以内にCOCT検査が施行されており,処方前の中心網膜厚はC348.7C±122.4μm,処方後の中心窩網膜厚はC322.1C±83.1Cμmであった.OCT検査と同日のClogMAR視力は処方前C0.35C±0.44,処方後C0.44C±0.54であり処方前後における視力に有意差は認めなかった(pairedt-test,p=0.32).16例C27眼全体では処方前と処方後の中心窩網膜厚に有意な減少を認めた(pairedt-test,p<0.05)(図1a)が,27眼には期間内に眼科において黄斑浮腫に対する治療が行われた症例も含まれていた.このためCSGLT2阻害薬処方前の中心窩網膜厚がC300Cμm以上であったC11例C14眼を抽出し検討した.表3にC11例C14眼の治療歴を示す.11例C14眼のうちC4例C5眼で処方後の検査でC100Cμm以上の中心窩網膜厚の改善を認めた(図1b).このうちC2例C2眼にはトリアムシノロンTenon.下注射または硝子体手術が期間内に施行されており治療による黄斑浮腫の改善と考えられたが,残るC2例C3眼では期間内に黄斑浮腫に対する治療は行われていなかった.代表症例の経過を図2に示す.56歳,男性,受診時のHbA1cはC8.1%でありCPDRを認めるが観察期間内に眼科における治療歴はなく,SGLT2阻害薬処方前に両眼の黄斑浮腫が存在している.SGLT2阻害薬処方後C2カ月の時点において黄斑浮腫は残存するものの,両眼に明らかな改善を認めた.処方前後の腎機能についても検討したが,血清クレアチニン(0.8Cmg/dlC→C0.82Cmg/dl),eGFR(78Cml/min/1.73CmC2C→C76Cml/min/1.73Cm2)と黄斑浮腫に影響するような大きな変動は認めなかった.本研究で対象となったC80例全例の診療録を後ろ向きに検索したところ,眼科の診療録にCSGLT2阻害薬が新規に処方された旨の記載があったものは,80例中わずかC3例のみで表1糖尿病網膜症の重症度別の平均年齢およびHbA1c糖尿病網膜症なし38例糖尿病網膜症あり(4C2例)CmildNPDR7例CmoderateNPDR12例CsevereNPDR3例CPDR20例性別女性46例/男性34例年齢C58.3±11.2歳C51.8±14.0歳C61.1±15.4歳C56.8±8.9歳C54.3±5.13歳C58.8±11.8歳CHbA1cC9.1±2.1%C8.2±1.2%C8.6±1.1%C8.3±1.2%C7.6±0.4%C8.1±1.3%NDR:nondiabeticretinopathy,NPDR:nonproliferativediabeticretinopathy,PDR:prolifera-tivediabeticretinopathy.表2処方前後におけるHbA1c,血清クレアチニン,eGFRの変化処方前処方後C3カ月p値HbA1c(%)全体(7C1例)C8.5±1.6C7.4±0.9<C0.001糖尿病網膜症あり(3C1例)C8.2±1.2C7.4±1.0<C0.001糖尿病網膜症なし(4C0例)C8.8±2.0C7.5±0.9<C0.001血清クレアチニン(mg/dCl)全体(6C8例)C0.87±0.35C0.92±0.39<C0.001糖尿病網膜症あり(2C9例)C0.95±0.38C1.03±0.43C0.003糖尿病網膜症なし(3C9例)C0.75±0.26C0.79±0.28C0.09CeGFR(mCl/min/1.73CmC2)全体(6C8例)C71.4±22.5C68.6±23.8C0.002糖尿病網膜症あり(2C9例)C62.7±19.6C59.9±21.8C0.01糖尿病網膜症なし(3C9例)C83.0±21.0C79.9±21.7C0.05処方前後の血液検査データが揃っている症例について検討した.あった.CIII考按SGLT2はおもに腎臓の近位尿細管の管腔側に発現し,尿中に排泄されたグルコースの約C90%を体内に再吸収している5).SGLT2阻害薬は尿中の糖排泄を促進するため,インスリン作用を介さずに血糖を低下させることができる.このためインスリンの必要量を減少させることが可能であるが,一方で低血糖や浸透圧利尿による脱水に注意が必要である.SGLT2阻害薬は糖を直接尿中へ排泄するためC1日C300.400Ckcalのエネルギーを体外へ排泄しており,体重減少・肥満改善の効果があり,インスリン抵抗性の改善,肥満組織によるアディポサイトカインの減少による血管内皮障害の改善などを期待することができる1,6).網膜血管においても過剰なグルコースによる糖毒性や酸化ストレスを低減し,高血糖による持続的な内皮機能障害を予防することでCDRの改善につながる可能性が示唆されている7,8).しかし,SGLT2阻害薬のCDRへの影響についての詳細はまだ明らかになっていない.Mienoらは,硝子体術後に遷**ab(μm)800(μm)800*6006004004002002000処方前処方後処方前処方後0図1処方前後の中心網膜厚の変化a:16例C27眼全体での処方前後の中心網膜厚の変化.Cb:処方前の中心網膜厚がC300Cμm以上であったC11例C14眼の中心網膜厚の変化.4例C5眼においてC100Cμm以上中心網膜厚の減少を認めた.表311例14眼の処方前後の中心窩網膜厚の変化と治療歴症例左右重症度処方前CCRT(Cμm)処方後CCRT(Cμm)変化(Cμm)観察期間期間内治療C①56歳,男性右C左CPDRCPDRC583C666C474C469C.109.1972カ月2カ月なしなしC②55歳,女性右C左CmoderateNPDRCmoderateNPDRC480C309C359C297C.121.121カ月1カ月トリアムシノロンなしC③45歳,女性右C左CPDRCPDRC321C432C288C323C.33.1092カ月2カ月なしなしC④59歳,女性右CmoderateNPDRC374C376+21カ月なしC⑤60歳,男性左CsevereNPDRC333C298C.352カ月なしC⑥53歳,男性右CsevereNPDRC465C400C.652カ月アフリベルセプトC⑦53歳,女性右CPDRC509C400C.1094カ月硝子体手術C⑧50歳,男性右CsevereNPDRC420C413C.71カ月汎網膜光凝固C⑨51歳,男性左CPDRC408C420+122カ月汎網膜光凝固C⑩53歳,男性左CPDRC481C472C.92カ月硝子体手術C⑪56歳,男性左CPDRC370C363C.72カ月汎網膜光凝固CRT:centralretinalthickness.図2SGLT2処方後に黄斑浮腫の改善を認めた1例(症例①)左から(Ca)処方前右眼,(b)処方後C2カ月右眼,(c)処方前左眼,(d)処方後C2カ月左眼.両眼ともCSGLT2処方前に比べ黄斑浮腫が明らかに改善している.延する糖尿病黄斑浮腫10眼の後ろ向き研究において,した16例27眼において中心窩網膜厚の有意な減少を認め,SGLT2阻害薬内服開始後C3カ月で視力の有意な改善とC3・観察期間内に眼科的治療が行われていないにもかかわらず黄6・12カ月で黄斑浮腫の有意な減少を認めたと報告してい斑浮腫が改善した症例も存在していた.SGLT2阻害薬の投る3).本研究でもCSGLT2阻害薬処方前後でCOCT検査を比較与が黄斑浮腫の改善に直接効果があるかどうかは現時点ではまだ明らかにはなっていない.しかし,SGLT2阻害薬が優れた血糖是正作用をもつことや,副次的な利尿作用を有していることはすでに明らかとなっている.利尿作用による直接的な浮腫の軽減や,血糖是正による網膜血管における糖毒性や炎症の抑制により,間接的にCDRおよび黄斑浮腫に影響を及ぼす可能性は高いと考えられる.また,Wakisakaらはウシ網膜周皮細胞にはCSGLT2が発現していると報告しており9),SGLT2阻害薬が血糖是正による間接的な効果だけでなく直接網膜になんらかの影響を及ぼしている可能性もある.SGLT2阻害薬がCDR,黄斑浮腫の改善に寄与する可能性がある一方,SGLT2阻害薬投与開始後に脳梗塞を発症した事例が有害事象として報告されている10).SGLT2阻害薬の適正使用に関するCRecommendation11)ではCSGLT2阻害薬投与の初期において体液量の減少による脱水症を引き起こす可能性が指摘されており,それにより脳梗塞など血栓症,塞栓症が発症しうる可能性に関し注意喚起がなされている.とくに自身で飲水を調節できない高齢者や利尿薬の併用,下痢や嘔吐の症状がある場合ではCSGLT2阻害薬により脱水症を起こす危険性が高くなるため,体液量の管理やCSGLT2阻害薬を中止するなどの加療が必要となる.眼科領域においては血管内皮増殖因子阻害薬の投与により脳梗塞,心筋梗塞のリスクが上がることが知られており12),SGLT2阻害薬による脱水症の有無を把握しておく必要がある.SGLT2阻害薬がCDRや黄斑浮腫へ影響している可能性や,血栓症・塞栓症などのリスクが存在するにもかかわらず,本研究では眼科医がCSGLT2阻害薬の処方を把握していた症例がC80例中C3例のみであった.眼科治療に影響を及ぼしうる内科の治療状況の把握と,内科と眼科の診療連携は今後さらに重要になると考えられる.本研究ではCSGLT2阻害薬処方後に黄斑浮腫が明らかに改善する症例を認めたが,後ろ向き研究であり処方時に黄斑浮腫を合併していた症例数も多くはない.今後,多施設共同研究での大規模なデータ収集やCSGLT2の直接的な網膜への影響の研究などの結果が期待される.文献1)古川康彦,綿田裕孝:SGLT2阻害薬の作用機序と動脈硬化進展抑制への期待.分子脳血管病C14:152-156,C20152)広村宗範,平野勉:糖尿病治療の観点からみたCSGLT-2阻害薬.CardiacPracC29:63-69,C20183)MienoCH,CYonadaCK,CYamazakiCMCetal:TheCe.cacyCofCsodium-glucoseCcotransporter2(SGLT2)inhibitorsCforCtheCtreatmentCofCchronicCdiabeticCmacularCoedemaCinCvit-rectomisedeyes:aCretrospectiveCstudy.CBMJCOpenCOph-thalmolC3,C20184)TakatsunaCY,CIshibashiCR,CTatsumiCTCetal:Sodium-glu-coseCcotransporterC2CinhibitorsCimproveCchronicCdiabeticCmacularCedema.CcaseCreports.CCaseCRepCOphthalmolCMedC2020:8867079,C20205)BaysH:SodiumCglucoseCco-transporterCtype2(SGLT2)inhibitors:targetingthekidneytoimproveglycemiccon-trolindiabetesmellitus.DiabetesTherC4:195-220,C20136)遅野井健:CGMデータ評価による経口血糖降下薬の選択3)糖吸収・排泄調節薬.ProgMedC39:275-280,C20197)MayM,FramkeT,JunkerBetal:HowandwhySGLT2inhibitorsCshouldCbeCexploredCasCpotentialCtreatmentCoptionindiabeticretinopathy:clinicalconceptandmeth-odology.TherAdvEndocrinolMetabC10:1-11,C20198)HeratLY,MatthewsVB,RakoczyPEetal:FocusingonsodiumCglucoseCcotoransporter-2CandCtheCsympatheticCnervoussystem:potentialimpactindiabeticretinopathy.IntJEndocrinolC2018:9254126,C20189)WakisakaCN,CTetsuhikoN:SodiumCglucoseCcotransporterC2CinCmesangialCcellsCandCretinalCpericytesCandCitsCimplica-tionsfordiabeticnephropathyandretinopathy.Glycobiol-ogyC27:691-695,C201710)阿部眞理子,伊藤裕之,尾本貴志ほか:SGLT2阻害薬の投与開始後C9日目に脳梗塞を発症した糖尿病のC1例.糖尿病C57:843-847,C201411)SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会:SGLT2阻害薬の適正使用に関するCRecommendation.日本糖尿病協会:2019年8月6日改訂.(https://www.nittokyo.or.jp/uploads/C.les/recommendation_SGLT2_190806.pdf)12)SchlenkerCMB,CThiruchelvamCD,CRedelmeierDA:IntraC-vitrealCantivascularCendothelialCgrowthCfactorCtreatmentCandtheriskofthromboembolism.AmJOphthalmolC160:C569-580,C2015C***

急速な血糖改善により異なる臨床経過を呈した2 型糖尿病 患者の2 症例

2021年5月31日 月曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(5):573.578,2021c急速な血糖改善により異なる臨床経過を呈した2型糖尿病患者の2症例中条恭子*1高地貞宏*1関谷泰治*1須藤史子*1加藤勇人*2佐倉宏*2*1東京女子医科大学東医療センター眼科*2東京女子医科大学東医療センター内科CDi.erenceofClinicalFindingsAfterRapidGlycemicControlinTwoCasesofType2DiabetesKyokoChujo1)CSadahiroKochi1)CYasuharuSekiya1)CChikakoSuto1)CHayatoKato2)andHiroshiSakura2),,,,1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2)DepartmentofInternalMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEastC眼科受診を機にC2型糖尿病と診断され,急速な血糖改善後に異なる臨床経過を呈したC2症例を報告する.症例C1は48歳,男性.初診時視力は右眼(0.1),左眼(0.02)で,両眼に成熟白内障を認めた.HbA1c16.6%で内科治療を開始したが,インスリン投与困難のため,HbA1c値の改善を待たず両眼白内障手術を施行し,視力は両眼(1.2)と改善した.初診時よりC4カ月間でC7.5%と急速に血糖改善したが,両眼底に網膜症を認めなかった.症例C2はC38歳,男性.初診時,視力は両眼(1.2)であった.左眼にフィブリン析出と虹彩後癒着を認め,HbA1c15.9%であり,糖尿病虹彩炎と診断した.内科治療開始後,右眼にも虹彩炎が出現した.両眼に黄斑浮腫を認め,視力は右眼(0.8),左眼(0.3)と低下した.初診時よりC3カ月間でC7.3%と急速に血糖改善したが,アフリベルセプト硝子体内注射施行後,視力は両眼(1.2)と改善し,黄斑浮腫も改善した.糖尿病虹彩炎を有する患者において,急速な血糖改善後に網膜症の進行や黄斑浮腫を引き起こした症例を経験した.CPurpose:Toreporttwocasesoftype2diabetesinwhichdi.erentclinical.ndingswereobservedafterrapidglycemiccontrol.Cases:Case1involveda48-year-oldmalewithbilateralmaturecataracts.HisHbA1cwas16.6%,andintensiveinsulintherapywasimmediatelyinitiated.However,hewasunabletoself-injecttheinsulin.Cata-ractsurgerywasperformedinbotheyeswithoutwaitingforimprovementofHbA1c,andhiscorrectedvisualacu-ityimprovedpostsurgery.AlthoughhisHbA1cfellto7.5%for4months,nodiabeticretinopathywasobserved.Case2involveda38-year-malewithdiabeticiritiswithhypopyoninhislefteye.HisHbA1cwas15.9%.Duringintensiveinsulintherapy,anddespitehavingnodiabeticretinopathy,hedevelopeddiabeticiritis,diabeticmacularedema,CandCpre-proliferativeCretinopathyCinCbothCeyes.CHisCHbA1cCfellCto7.3%CforC3Cmonths.CAfterCintravitrealCa.ibercepttherapy,bilateraldiabeticmacularedemadisappearedandhiscorrectedvisualacuityimproved.Conclu-sion:Weexperiencedacaseofdiabeticiritisthatcausedprogressionofretinopathyandmacularedemaafterrap-idglycemiccontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(5):573.578,C2021〕Keywords:糖尿病白内障,急速な血糖改善,糖尿病虹彩炎,糖尿病黄斑浮腫,血糖改善による一過性の網膜症悪化.diabeticcataract,rapidglycemiccontrol,diabeticiritis,diabeticmacularedema,earlyworseningofdiabeticCretinopathy.CはじめにDR),糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME),糖尿病は多臓器にわたって影響を及ぼす内科疾患であり,血管新生緑内障やぶどう膜炎などの合併症がみられる.その眼科では白内障,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:なかでもよく合併されるDRは,糖尿病患者の6人に1人〔別刷請求先〕須藤史子:〒116-8567東京都荒川区西尾久C2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:ChikakoSuto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWowen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishiogu,Arakawa-ku,Tokyo116-8567,JAPANC(15%)にみられるという1).そのうち,2型糖尿病患者に限定すると,DRの合併率はC40%に上る2).また,糖尿病に伴って眼内に炎症を起こすぶどう膜炎は,急性の非肉芽腫性ぶどう膜炎である糖尿病虹彩炎(diabeticiritis:DI)と転移性内因性眼内炎(感染性眼内炎)の二つに大別され,糖尿病患者のC0.8.5.8%にCDIを合併すると報告されている3).今回筆者らは,眼科受診を契機にC2型糖尿病と診断され,内科治療介入による急速な血糖改善中に異なる臨床経過を呈したC2症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕48歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:2018年から視力低下を自覚していたが,2019年1月より右眼の視力低下増悪を自覚したため,2019年C2月20日に当院を紹介受診した.既往歴:46歳頃に糖尿病を指摘されていたが,内科通院歴なし.家族歴:不明.初診時所見:視力は右眼C0.02(0.1C×sph.4.25D(cyl.0.75CDAx150°),左眼C0.01(0.02C×sph.4.00D),眼圧は右眼C17mmHg,左眼C16CmmHgであった.両眼に成熟白内障と,それに伴う水晶体膨隆を認め(図1a,b),眼底透見は困難であった.全身検査所見:随時血糖C470Cmg/dl,HbA1c16.6%,尿素窒素C11.6Cmg/dl,クレアチニンC0.73Cmg/dl.尿定性試験で尿蛋白は陰性,尿糖と尿ケトン体は陽性であった.経過:2019年C3月C8日に内科入院となり,インスリンおよび内服治療開始となった.しかしながら,著しい視力低下のため,インスリン自己注射が困難であった.そのため,HbA1c値の改善を待たず,同年C3月C22日右眼の白内障手術を施行した.術後視力は(1.2)に改善し,自宅加療可能となり退院した.術後感染や術後炎症の遷延もなかったため,同年C4月C30日に左眼の白内障手術を施行し,術後視力は(1.2)と両眼ともに改善を認めた.HbA1cの推移は,16.6%からC7.5%と,4カ月間でC9.1%低下したが,初診時よりC3カ月後の眼底写真でCDRを示唆する所見を認めなかった(図1c,d).2型糖尿病の内科治療については,術後C6カ月後にインスリン治療を終了し,経口血糖降下薬(DPP-4阻害薬)の内服でCHbA1cはC7.8%台で推移した.経過中,腎機能の変動はみられなかった.〔症例2〕38歳,男性.主訴:左眼充血,視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:両親ともに糖尿病の既往あり.現病歴:2019年C3月C28日よりC1日使い捨てコンタクトレンズをC3日間連続装用後,左眼の充血および視力低下を自覚.同年C4月C3日に近医受診し,抗菌薬(ベガモックス点眼液C0.5%,ベストロン点眼用C0.5%)とステロイド(リンデロン点眼用C0.1%)点眼を開始したが改善乏しく,同年C4月C6日に当院紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.09(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.50CDAx170°),左眼C0.07(1.2C×sph.4.75D(cyl.1.25DCAx175°),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C6mmHgであった.左眼の前眼部に著明な結膜充血,フィブリン沈着および虹彩後癒着を認め,散瞳不良であった(図2a).右眼の前眼部は異常なく,両眼底ともにCDRや後部ぶどう膜炎を疑う所見を認めなかった(図3a,b).全身検査所見:随時血糖C650Cmg/dl,HbA1c15.9%,尿素窒素C16.1Cmg/dl,クレアチニンC0.45Cmg/dl.尿定性試験で尿蛋白は陰性,尿糖と尿ケトン体は陽性であった.経過:2019年C4月C6日よりベガモックス点眼液C0.5%C4回,リンデロン点眼用C0.1%C6回,散瞳薬(ミドリンCP点眼液C4回)の点眼を開始した.同年C4月C8日より内科でインスリン治療開始となった.2019年C4月C15日に右眼にもフィブリンが析出し,DIを認めた(図2b).同年C4月C24日に左眼(0.7)と視力低下およびCDME,同年C5月C2日に右眼(0.8)と視力低下およびDMEが出現した(図4a,b).両眼底に刷毛状出血と軟性白斑を認め(図3c,d),蛍光眼底造影検査では網膜全体に血管透過性亢進を示唆する所見がみられ(図3e,f),前増殖CDRへ進行していた.内科でのインスリン治療開始C1カ月でCHbA1c12.9%になったことから,血糖値の急速な改善による一過性の網膜症悪化(earlyworsening)と診断した.両眼のCDMEに対して,毎月C1回C3カ月間,アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.iberceptCtherapy:IVA)を施行した.その後CDMEは改善し(図4c,d),視力も両眼(1.2)と改善した.HbA1cの推移はC15.9%からC7.3%と,3カ月間でC8.6%低下し,急速改善を認めた.DIについてはリンデロン点眼用C0.1%,ミドリンCP点眼液の点眼継続により炎症症状の改善がみられた.2型糖尿病の内科治療については,両眼にCDIを生じてからC6カ月後にインスリン治療を終了した.経口血糖降下薬(DPP-4阻害薬)の内服でCHbA1cはC6.7%台で推移した.なお,症例C2においても経過中,腎機能の変動はみられなかった.CII考按症例C1,2はいずれもC30.40歳代と比較的若年の男性であり,眼科受診を契機にCHbA1c値C15%以上と血糖コントロール不良の未治療C2型糖尿病が発見された.両症例ともにインスリン治療や内服治療を開始したが,いずれの症例でも経過中に血圧や腎機能の変動はみられなかった.初診時より図1両眼性の糖尿病白内障(症例1)48歳.男性.初診時両眼に成熟白内障とそれに伴う水晶体膨隆を認めた(Ca:右眼,Cb:左眼).術後は両眼とも網膜症を認めなかった(Cc:右眼,d:左眼).図2両眼性の糖尿病虹彩炎(症例2)38歳.男性.Ca:初診時の左眼前眼部所見.結膜充血と,2時からC5時にかけて虹彩後癒着,前房蓄膿を認め(.),散瞳も不良であった.b:9日後には,右眼にもフィブリン析出を認めた(C.).数カ月でC8.9%台と,短期間で急速な血糖改善を認めたが,つつも,異なる臨床経過を呈したC2症例の相違について考察症例C1では眼底にはCDRを認めず,病期はCNDR(nodiabeticする.retinopathy)であった.症例C2では両眼にCDIを発症した後,症例C1では,40歳代でありながら,高度の成熟白内障を急速な血糖改善中に刷毛状出血やCDMEを認め,earlywors-呈していた.2型糖尿病以外に全身状態を含めて異常を疑うeningをきたした.年齢や性別など共通する背景因子を有し所見がなく,糖尿病白内障と診断した.水晶体はクリスタリabdcef図3両眼性の糖尿病虹彩炎(症例2)の眼底所見の経過a,b:初診時の眼底写真.DRは認められない.Cc,d:急速な血糖改善後の眼底写真.刷毛状出血と軟性白斑を認める.Ce,f:同時期の蛍光眼底造影写真.血管透過性亢進と黄斑浮腫が目立つ前増殖CDRへの進行がみられた.ンという蛋白質と水分からなる器官であるが,糖尿病白内障晶体内の浸透圧を上昇させ,水晶体線維を膨化させる.そのの成因としては,アルドース還元酵素(aldosereductase:他,活性酸素による酸化ストレスや,肝臓の代謝障害に伴うAR)を中心とするアルドース蓄積説がもっとも有用とされ血中フルクトース濃度上昇によって,クリスタリンの変性・ている4).高血糖が持続した状態では,ARの働きによって分解が促され,水晶体混濁をきたすとされる.フルクトースに変換され,血中に蓄積したフルクトースが水白内障の術前CDR病期別にみた術後CDR悪化率について,図4両眼性のDME(症例2)に対するIVA施行前後のOCT写真a,b:IVA施行前の両眼光干渉断層計(OCT)写真,両眼にCDMEを認めた.Cc,d:IVA施行後の両眼COCT写真,両眼ともCDMEの消失を認めた.Sutoら5)は急速な血糖改善群では,コントロール良好群および不良群と比較して有意にCDME悪化率が高いことと,急速な血糖改善群のなかでも,術前CDR病期が前増殖期のものは術後CDRとCDMEの悪化率が高いことを報告している.症例1ではCNDRであったため,DMEを生じなかったが,今後も定期的に経過をみていく必要がある.急速な血糖改善に伴うCearlyworseningについては,インスリン強化療法群では,従来療法に比べてCDRの早期悪化率が高いというCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrial(DCCT)での報告6)を筆頭に,すでに広く知られている.Cearlyworseningの機序としては,急速な血糖値低下で相対的に局所の虚血をきたすことで,低酸素誘導因子や網膜内の血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)が亢進し,血液房水関門(blood-aqueousbarrier:BAB)や血液網膜関門(blood-retinalbarrier:BRB)が破綻すると考えられている7).BABの破綻からCDIが発症していると考えられた症例C2では,急速な血糖改善により,前房内および網膜内のCVEGFが亢進し,BABのみならずCBRBも破綻したと考えられた.その結果,刷毛状出血,軟性白斑やCDMEが出現し,前増殖期CDRへ進行した.IVA投与により血管透過性が抑制され,DMEは改善した.DRは一般的に両眼性であることが多いが,DIでは,患者C18名中C11名が片眼性(61%)であったことを,Watanabeらは報告している8).さらに,DI発症時の病期は単純期CDRであったが,DIが軽快したにもかかわらず,短期間で増殖CDRへ進行した症例も報告されている3).そのため,症例C2においても,DI軽快後もCDRの悪化に注意した管理が必要である.今回筆者らは,未治療糖尿病のC2症例から,初診時にCDIを有する場合は,急速な血糖改善後にCDRおよびCDMEが発症・進展することを経験した.内科治療介入による急速な血糖改善後も,内科と眼科で密接に連携しつつ,継続的な加療が必要であると再認識した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)須藤史子:白内障手術と糖尿病網膜症.DiabetesFrontier28:314-318,C20172)田中麻理:2型糖尿病患者の外来医療費に関係する因子についての検討.日本糖尿病学会誌55:193-198,C20123)臼井嘉彦:糖尿病虹彩炎.日本糖尿病眼学会誌C23:66-70,C20184)高村佳弘:糖尿病白内障に対するアプローチ.日本白内障学会誌29:45-47,C20175)SutoC,HoriS,KatoSetal:E.ectofperioperativeglyce-micCcontrolCinCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCandCinsulinCtherapyCexacerbatesCdiabeticCblood-retinalCbarrierCmaculopathy.ArchOphthalmolC124:38-45,C2006Cbreakdownviahypoxia-induciblefactor-1alphaandVEGF.6)DiabetesCControlCandCComplicationsTrial(DCCT)ReserchCJClinInvestC109:805-815,C2002Group:EarlyCworseningCofCdiabeticCretinopathyCinCthe8)WatanabeCT,CKeinoCH,CNakayamaCKCetal:ClinicalCfea-DiabetesCControlCandCComplicationsCTrial.CArchCOphthal-turesofpatientswithdiabeticanterioruveitis.BrJOph-molC116:874-886,C1998CthalmolC103:78-82,C20197)PoulakiCV,CQinCW,CJoussenCAMCetal:AcuteCintensive***

片眼に限局性網膜色素上皮異常があり糖尿病網膜症の病期に左右差を認めた1例

2021年4月30日 金曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(4):454.458,2021c片眼に限局性網膜色素上皮異常があり糖尿病網膜症の病期に左右差を認めた1例高田悠里喜田照代大須賀翔福本雅格佐藤孝樹池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CAsymmetricalDiabeticRetinopathywithUnilateralRetinalPigmentEpitheliumDisorderYuriTakada,TeruyoKida,ShouOosuka,MasanoriFukumoto,TakakiSatoandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:糖尿病網膜症(DR)は通常両眼性で同程度に進行するが,網膜色素変性(RP)を合併するとCDRの重症度は低いと報告されている.今回,片眼に局所性の網膜色素上皮異常があり,DRの進行に左右差を認めたC1例を長期観察できたので報告する.症例:74歳,男性.視力低下で近医受診,DRを指摘され大阪医科大学附属病院眼科紹介となった.初診時視力は右眼(0.15),左眼(0.2),両眼白内障と右眼の増殖CDR,左眼の単純CDRと左右差を認めた.右眼は糖尿病黄斑浮腫(DME)も認め,左眼は耳上方に限局性のCRP様色素沈着を伴う網膜色素上皮異常を認めた.既往にC3年前交通事故で顔面打撲があった.両眼の白内障手術を施行,右眼はCDMEに対し抗血管内皮増殖因子療法,網膜新生血管に対し汎網膜光凝固を施行した.2年C7カ月後,視力は右眼(0.6),左眼(0.8)に改善し,初診より約C4年経過した現在も左眼はCDRの増悪は認めない.結論:左眼の網膜色素上皮異常は限局性にもかかわらず右眼に比べCDRの進行が緩徐でCDMEも発症しなかった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCdiabeticretinopathy(DR)inCwhichClocalizedCretinitispigmentosa(RP)-likeCdis-orderCoccurredCinConeCeye,CthusCillustratingCtheCasymmetricalCdi.erencesCinCtheCprogressionCofCDR.CCase:A74-year-oldmalepresentedwithavisualacuity(VA)of0.15ODand0.2OS.Examinationrevealedbilateral,yetdi.erent-stage,DRandcataract,accompaniedwithdiabeticmacularedema(DME)inhisrighteyeandalocalizedRP-likedisorderinhislefteye.Hehadapasthistoryofbluntfacialtraumathatoccurredduetoatra.caccident3-yearsprevious.Cataractsurgerywasperformedinbotheyes,andhisrighteyereceivedanti-VEGFtherapyfortheDMEandpan-retinalphotocoagulationtotreattheretinalneovascularization.At4-yearspostoperative,hisVAwas0.6ODand0.8OS.Conclusion:Todate,thestageofDRprogressioninhislefteyewiththelocalizedRP-likedisorderhasremainedslowerthanthatinhisrighteye,withnooccurranceofDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(4):454.458,C2021〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜色素上皮異常,片眼性,糖尿病黄斑浮腫,網膜色素変性.diabeticCretinopathy,Cretinalpigmentepitheliumdisorder,unilateral,diabeticmacularedema,retinitispigmentosa.Cはじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は通常,両眼性で同程度の進行を認めるが,網膜色素変性の患者においてDRを合併するとCDRの進行は緩徐であるといわれている1).今回,DRの片眼に鈍的外傷が原因と考えられる網膜色素上皮異常を認め,その網膜色素上皮異常が限局的であるにもかかわらずCDRの進行に左右差を認めた症例を長期に経過観察できたので報告する.CI症例74歳,男性.両眼の視力低下を主訴に近医を受診したところ眼底出血を指摘され,両眼CDRの疑いにてC2016年C4月大阪医科大学附属病院眼科紹介受診となった.初診時視力は右眼C0.1(0.15×sph.2.00D),左眼C0.2(矯正不能),眼圧は〔別刷請求先〕高田悠里:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuriTakada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC図1初診時眼底写真(a,b)および黄斑部光干渉断層計(OCT)画像(c,d)およびフルオレセイン蛍光造影検査(e,f)a:右眼.点状出血が散在している.Cb:左眼.限局性の網膜色素上皮異常を認める(..).c:右眼(横断).黄斑部にフィブリンと思われる漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫を認める.d:左眼(縦断).網膜色素上皮異常部位に一致した網膜の菲薄化を認める.Ce:右眼.網膜無灌流領域を認める.f:左眼.網膜色素上皮異常部位に一致したCwindowdefectを認める.右眼C14CmmHg,左眼C17CmmHgであった.前眼部中間透光coherencetomography:OCT)では右眼黄斑部にフィブリン体は右眼に虹彩後癒着と両眼の白内障を認めた.ぶどう膜炎析出を伴う漿液性網膜.離を認め,糖尿病黄斑浮腫(diabeticはみられなかった.既往歴にはC10年前に虫垂炎の手術歴,Cmacularedema:DME)と考えられた.左眼は網膜色素上3年前にバイクによる交通事故で顔面打撲があった.皮異常部位に一致した網膜の菲薄化を認めたがCDMEはみら初診時の眼底所見は,右眼は点状出血および硬性白斑,軟れなかった(図1c,d).フルオレセイン蛍光造影検査(flu-性白斑がみられ,左眼は点状出血に加えて耳上側に限局性のCoresceinangiography:FA)では右眼は網膜無灌流領域,左網膜色素上皮異常を認めた(図1a,b).光干渉断層計(optical眼は網膜色素上皮異常部位のCwindowdefectを認めた(図図2Goldmann視野検査左眼で網膜色素上皮異常部位に一致した視野欠損を認める.ab図3網膜電図(ERG)a:FlashERGで両眼のCOP波減弱を認める.Cb:フリッカCERGでは明らかな左右差は認めない.1e,f).採血検査でCHbA1cはC10.7%であり,糖尿病は無治療であったため,まず内科治療を開始した.また,眼底所見に左右差を認めていたため,内頸動脈閉塞症の除外を目的に頸動脈エコー検査を行ったが,異常所見は認めなかった.FA所見より右眼の網膜無灌流領域に網膜光凝固を施行したのち,両眼白内障手術を施行した.Goldmann視野検査では左眼の網膜色素上皮異常部位に一致した視野欠損を認めた(図2).網膜電図(electroretinogram:ERG)ではC.ashERGにおいて両眼とも律動様小波(OP波)の減弱を認め,b/a比は右眼でC1未満であった(図3a).フリッカCERGでは明らかな左右差はみられなかった(図3b).経過中に右眼のDMEに対し抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法をC4回施行し漿液性網膜.離は改善した.一方左眼は経過中に一度もCDMEは認めなかった.その後再度CFAを施行し,右眼に網膜新生血管が出現したため,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)を施行した(図4).その後右眼網膜新生血管は退縮し,初診から約C4年過ぎた現在も左眼は網膜症の進行を認めずCDMEはみられない(図5).視力は右眼C0.7,左眼C0.8であり,HbA1cはC6.4%であった.CII考按本症例は,片眼(左眼)に限局性の網膜色素上皮異常がありCDRの進行に左右差を認めた.右眼は増殖CDRに進行しDMEも合併したが,網膜色素上皮異常がみられた左眼にはDMEの発症はみられず単純CDRのまま経過した.DRは通常,両眼性であり,進行には大きな左右差はないとされているが2),本症例のように明らかに眼底所見に左右差があった原因としては,左眼にのみ認められた網膜色素上皮異常と何らかの関係があったのではないかと考えられる.今回,左眼にのみみられた網膜色素上皮異常の鑑別として,片眼性の網膜色素変性症と急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR)に起因する片眼図4初診より2年3カ月後のフルオレセイン蛍光造影検査a:右眼.右眼に網膜新生血管を認めたため汎網膜光凝固を施行した.Cb:左眼.網膜無灌流領域の出現なく初診時より大きな変化は認めない.性の網膜色素異常がある.原発性片眼性網膜色素変性症は続発性の網膜色素変性との鑑別が必須であり,診断基準としては梅毒,ウイルス感染による眼内炎の既往がなく片眼のみ典型的な網膜色素変性症の所見が存在するものの,他眼はERG,眼球電図など電気生理学的にも異常を認めないこと,さらに長期観察においても他眼は異常を認めないことを確認したうえで片眼性の網膜色素変性症と診断する.片眼性網膜色素変性の原因として感染,外傷,循環不全などの続発性と,両眼性ではあるが病期が異なる非対称性網膜色素変性があげられる3,4).本症例は既往にC3年前に交通事故による顔面打撲があり,左眼は外傷性の網膜色素上皮異常と推測され,Baileyらも同様の症例を報告している5).本症例の左眼は続発性の片眼性網膜色素変性様の所見を呈した網膜色素異常と考えられる.外傷性の網膜色素変性では,外傷により網図5治療後の眼底写真(a,b)および黄斑部光干渉断層計画像(c,d)a:右眼.網膜新生血管は退縮し糖尿病網膜症の進行は認めない.Cb:左眼.糖尿病網膜症の進行は認めない.Cc:右眼(横断).漿液性網膜.離は改善し糖尿病黄斑浮腫は認めない.Cd:左眼(横断).糖尿病黄斑浮腫は認めない.膜色素上皮が障害され,その部分からメラニン色素が網膜内に侵入して血管周囲に集積し,本症例のような限局性の骨小体様色素沈着を生じる6).また,循環不全に伴うものとしては閉塞性血管障害による脈絡膜循環不全に起因する網膜色素変性の報告がある7,8).また,AZOORに起因する網膜色素異常については,AZOORの陳旧例で局所の網膜色素変性がみられるという報告がある9,10).AZOORは,光視症と急速な求心性視野狭窄を伴うものの検眼鏡,FAでは異常を認めず,ERGで網膜外層障害を示唆する異常所見を呈する網膜変性疾患である.また,広義のCAZOORであるCacuteCidiopathicCenlargedCblindspotCsyndrome(AIBSE)では,視神経乳頭周囲の色素沈着が発症初期から存在する場合もある11,12).今回の症例はCERGでは網膜色素変性症を疑う所見はなく,網膜の低酸素や循環障害を示唆するCOP波の減弱などCDRに特徴的な所見のみであることと外傷の既往,また,約C4年の経過で眼底所見,視野検査で変化がみられないことから,外傷に伴う網膜色素上皮異常と推測した.DRの進行には網膜の酸素需要の増大による相対的な低酸素の関与が指摘されている1).網膜は低酸素に反応しCVEGFが誘導される結果,血管内皮細胞障害や網膜血管の透過性亢進による血管からの漏出により血管新生を引き起こす1).PRPは血管漏出を抑制し,過剰なCVEGFの放出を防ぐことによって進行予防に作用していることに加え,網膜の酸素需要を下げて網膜の酸素濃度を相対的に増加させるといわれている13).一方,網膜色素変性における酸素需要については,健常者の暗順応において桿体細胞が作用するときに酸素消費量が増大するが,網膜色素変性患者では桿体細胞の障害のため健常者と比較し酸素需要は少ないと推測される14).また,網膜の瘢痕や脈絡膜炎など色素上皮の異常や高度の緑内障も,DRの進行を遅らせることが疫学的に証明されている1).本症例のように網膜色素上皮の異常がかなり限局的であっても網膜色素上皮異常が背景にあることで網膜全体の相対的酸素需要は減少するため,糖尿病による虚血の進行も緩徐で,網膜内の過剰なCVEGFの放出も少なく,本症例では左眼のDRの進行は緩徐であったと考えられる.また,DMEも起こりにくい病態であった可能性が考えられる.さらに網膜色素上皮異常の存在していた部位には点状出血の出現を認めなかったことから,網膜の酸素需要の低下に伴い,網膜内でも部位によってCDRの程度に差異が生じると推測される.本症例のように限局的な網膜色素上皮異常がCDRの左右差をきたしたとする過去の報告はなく,実際にこのような限局的な病変がCDRの重症度に本当に影響を与えるかについては不明な点もあるが,Moriyaらは,左右差のある脈絡膜欠損症の症例で,脈絡膜欠損範囲の軽度なほうにCDRがより著明にみられたC1例を報告しており15),今回のような局所的な病変がDRの左右差をきたす可能性はあるように思われる.今後は左右差のあるCDRをみた場合に,従来報告されている原因に加えて,限局的な病変の有無にも注意を払う必要があると考えられる.なお,本症例は第C25回日本糖尿病糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ArdenGB:TheabsenceofdiabeticretinopathyinpatientswithCretinitispigmentosa:implicationsCforCpathophysiolo-gyandpossibletreatment.BrJOphthalmolC85:366-370,C20012)IinoK,YoshinariM,KakuK:Prospectivestudyofasym-metricCretinopathyCasCaCpredictorCofCbrainCinfarctionCinCdiabetesmellitus.DiabetesCare16:1405-1406,C19933)安達京,岡島修,平戸孝明ほか:片眼性網膜色素変性症のC5症例.臨眼44:41-45,C19904)田中孝男,杉田理恵,土方聡ほか:片眼性網膜色素変性症のC2症例.臨眼52:619-623,C19985)BaileyCJE,CSwayzeCGB,CTownsendJC:SectorialCpigmen-taryretinopathyassociatedwithheadtrauma.AmJOptomPhysiolOptC60:146-150,C19836)BastekCJV,CFoosCRY,CHeckenlivelyJ:TraumaticCpigmen-taryretinopathy.AmJOphthalmolC92:621-624,C19817)RolandEC:Unilateralretinitispigmentosa.ArchOphthal-molC90:21-26,C19738)平野啓治,平野耕治,三宅養三:片眼性網膜色素変性様所見で初発した眼動脈循環不全のC1例.臨眼C86:289-295,C19929)GassJDM:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CClinCNeuroOphthalmolC13:79-97,C199310)GassJDM,AgarwalA,ScottIU:Acutezonaloccultouterretinopathy:alongtermfollow-upstudy.AmJOphthal-molC134:329-339,C200211)WatzkeRC,ShultsWT:Clinicalfeaturesandnaturalhis-toryoftheacuteidiopathicenlargedblindspotsyndrome.OphthalmologyC109:1326-1335,C200212)齋藤航:Acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)とCAZOORcomplex.臨眼62:122-129,C200813)StefanssonCE,CHatchellCDL,CFicherCBLCetal:PanretinalCphotocoagulationCandCretinalCoxygenationCinCnormalCandCdiabeticcats.AmJOphthalmolC101:657-664,C198614)ChenCYF,CChenCHY,CLinCCCCetal:RetinitisCpigmentosaCreducesCtheCriskCofCproliferativeCdiabeticretinopathy:ACnationwideCpopulation-basedCcohortCstudy.CPloSCOneC7:Ce45189,C201215)MoriyaT,OchiR,ImagawaYetal:Acaseofuvealcolo-bomasCshowingCmarkedCleft-rightCdi.erenceCinCdiabeticCretinopathy.CaseRepOphthalmolC7:167-173,C2016***

パノラマ光干渉断層血管撮影が有用であった妊娠中の増殖糖尿病網膜症

2020年1月31日 金曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(1):84?88,2020?パノラマ光干渉断層血管撮影が有用であった妊娠中の増殖糖尿病網膜症竹内怜子*1鈴木克也*1渋谷文枝*1野崎実穂*1蒔田潤*2小椋祐一郎*1*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2福井赤十字病院ACaseofaPregnantWomanwithProliferationDiabeticRetinopathyEvaluatedbyPanoramicOpticalCoherenceTomographyAngiographyRyokoTakeuchi1),KatsuyaSuzuki1),FumieShibuya1),MihoNozaki1),JunMakita2)andYuichiroOgura1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)FukuiRedCrossHospital症例:27歳,女性.1型糖尿病があり,増殖糖尿病網膜症(PDR),糖尿病黄斑浮腫に対し福井赤十字病院眼科で両眼汎網膜光凝固術および両眼アフリベルセプト硝子体注射を受けていたが,2017年5月に妊娠が判明.妊娠継続を強く希望したため,トリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(STTA)への治療変更と網膜光凝固が追加された.糖尿病黄斑浮腫治療に対するセカンドオピニオンのため2017年7月(妊娠15週)に名古屋市立大学病院眼科を受診した.初診時,パノラマ光干渉断層血管撮影(OCTA)で視神経乳頭および網膜に新生血管を認めた.出産まではSTTAを行い,出産後硝子体手術を受けることを勧めた.2018年1月に出産し,前医で両眼硝子体手術施行した.2018年6月当院再診時,パノラマOCTAで両眼の新生血管の退縮が確認された.考察:パノラマOCTAは非侵襲的に実施でき,妊婦・授乳婦のPDRの経過観察に有用と考えられた.Purpose:Toreportthecaseofapregnantwomanwithproliferationdiabeticretinopathy(PDR)evaluatedbypanoramicopticalcoherencetomographyangiography.CaseReport:Thisstudyinvolveda27-year-oldpregnantwomanwithtype1diabetesmellituswhowasreferredtotheNagoyaCityUniversityHospitalforasecondopin?ionregardingtheappropriatetreatmentforPDRanddiabeticmacularedema.Shehadpreviouslyundergonepan?retinalphotocoagulationandvitreousinjectionsofa?iberceptinbotheyesatanotherhospital.InMay2017,shebecamepregnant,andunderwentsubtenon’striamcinoloneacetonide(STTA)injectioninadditiontoretinalphoto?coagulation,andsubsequentlyvisitedourhospitalinJuly2017.Atherinitialvisit,panoramicopticalcoherencetomographyangiography(OCTA)showedneovascularizationintheopticdiscandretina.Weadvisedhertocon?tinuetheSTTAinjectionsandundergovitrectomyaftershehadgivenbirth.InJanuary2018,shegavebirthandsubsequentlyunderwentvitrectomyinbotheyes.InJune2018,OCTAshowedregressionoftheneovasculariza?tion.Conclusions:SinceOCTAisabletoevaluatetheretinalvasculaturenon-invasively,panoramicOCTAisuse?fulforfollow-upofPDRinpregnantorlactatingwomen.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(1):84?88,2020〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫,妊婦,パノラマ光干渉断層血管撮影,新生血管.proliferativediabeticretinopathy(PDR),diabeticmacularedema(DME),pregnant,panoramicopticalcoherenttomographyan?giography(OCTA),neovascularization.はじめに糖尿病網膜症の診断,評価にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(?uoresceinangiography:FA)が用いられてきたが1),造影剤に対するアレルギーなど検査が実施困難な症例も存在する2).また,妊娠中のFAに関しては安全性が確立されておらず,施行は避けるべきであるとされている3).今回,パノラマ光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomog?raphyangiography:OCTA)が経過観察に有用であった妊〔別刷請求先〕竹内怜子:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:RyokoTakeuchi,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPAN84(84)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時超広角走査型レーザー検眼鏡(黄斑部から中間周辺部までを抜粋,California,Optos)網膜出血,軟性白斑,汎網膜光凝固瘢痕を認める.娠中の増殖糖尿病網膜症の1例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,女性.主訴:両眼視力低下.現病歴:8歳時に1型糖尿病を指摘されインスリン導入されている.2010年から福井赤十字病院眼科にて眼底検査を定期的に受けており,2012年に初めて左眼軟性白斑を含む糖尿病網膜症を指摘された.2015年5月にFAを施行し無灌流領域は認めなかったが,2016年12月に両眼網膜出血,黄斑浮腫の悪化を認めたためFAを再度施行のうえ2017年2月に両眼汎網膜光凝固を施行した.2017年3月に再度両眼黄斑浮腫が悪化し,妊娠していないことを確認のうえ両眼アフリベルセプト硝子体内注射を行った.しかし2017年5月に妊娠が判明し,その後黄斑浮腫の再発を認めた.挙児希望は強く,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬の妊婦に対する安全性は確立されていないため,治療をトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(sub-tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)へ変更し,網膜光凝固を追加のうえ妊娠継続とした.その後も黄斑浮腫が遷延し,セカンドオピニオン目的で2017年7月に名古屋市立大学附属病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:妊娠15週,ヘモグロビンA1c8.0%.視力は右眼0.1(0.2×?2.00D),左眼0.1(0.5×?1.50D(cyl?0.50DAx165°).眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHg.両眼前眼部および中間透光体に特記する異常はなかった.両眼眼底には網膜出血,軟性白斑,黄斑浮腫,網膜光凝固瘢痕,視神経乳頭新生血管,網膜新生血管を認めた(図1,2).TritonDRIOCT(トプコン)を用いて9mm×9mmの網膜全層のOCTA画像7枚を撮影し,付属ソフトウェア(IMA?GEnet6,トプコン)を用いて手動合成することでパノラマ図2初診時OCT(CirrusOCT,CarlZeiss)網膜下液を伴った黄斑浮腫を認める.OCTA画像を作成した(図3).パノラマOCTAでは,両眼無灌流領域,視神経乳頭新生血管,網膜新生血管を認めるとともに,一部の新生血管は高い活動性を示唆する微小血管の密な増殖がみられた.経過:当院初診時も妊娠継続を希望していたため,糖尿病黄斑浮腫に対してSTTAを継続し,出産後にVEGF阻害薬の硝子体内投与もしくは硝子体手術を提案した.2017年10月の当院再診時には両眼硝子体出血と左眼硝子体網膜牽引の悪化を認めた.2018年1月に出産,同月前医にて両眼硝子体手術を施行し,後部硝子体?離の作製と内境界膜?離を行った.2018年4月に右眼硝子体出血が生じたため,2018年5月に再度硝子体手術が施行された.2018年6月に当院を再診した.図3初診時パノラマOCTA(9mm×9mm7枚)上段:無灌流領域(?)と視神経乳頭,網膜新生血管(?)を認める.下段:乳頭部の拡大(a)および同部のBスキャン画像(b)でも硝子体腔内に伸展する乳頭部新生血管が確認できる.図4再診時広角走査型レーザー検眼鏡(黄斑部から中間周辺部までを抜粋,California,Optos)網膜出血,新生血管の改善を認める.2018年6月再診時所見:視力は右眼0.1(0.15×?2.00D),左眼0.1(0.7×?1.00D(?0.75DAx170°).眼圧は右眼13mmHg,左眼10mmHg.両眼とも黄斑浮腫が消失し,網膜出血の減少と新生血管の退縮を認めた(図4).12mm×12mmの網膜全層のOCTA画像6枚から作成したパノラマOCTAでも両眼視神経乳頭新生血管,網膜新生血管の退縮が確認でき,一部ループ状血管の残存を認めるが新生血管の血管密度は低下していた(図5).II考按妊娠中の増殖糖尿病網膜症患者に対し,パノラマOCTAを用いて経過観察を行った1例を経験した.OCTAは非侵襲的に網膜血管状態を評価可能であり,FAの実施が困難な患者に実施可能である.近年はOCTAを用いることにより,図5再診時パノラマOCTA(12mm×12mm,6枚)右眼に無灌流領域(?)を認めるが,新生血管の退縮,活動性の低下(?)を認める.乳頭部の拡大(a)と同部のBスキャン画像(b)でも乳頭部新生血管の消失を認める.糖尿病網膜症の悪化が早期に発見できる可能性も報告されている4,5).従来のOCTAは画角が6mm程度と狭いというデメリットがあったが,最近開発された複数枚のOCTA画像からパノラマ画像を作成する手法では,解像度を落とすことなく周辺網膜まで観察できるというメリットがある6).星山らは,妊娠9週の1型糖尿病合併妊婦に対し,パノラマOCTAを用いて無灌流領域を評価し汎網膜光凝固を実施し,その有用性を報告している7).本症例においても,治療前後のパノラマOCTA画像を撮影することで,治療効果の判定を非侵襲的に行うことができた.しかしながらOCTAを用いた糖尿病網膜症の評価は,従来のFAと異なる点もある.OCTAでは汎網膜光凝固の瘢痕が描出されないため,光凝固の有効性の評価は無灌流領域に対する光凝固の程度ではなく,新生血管や網膜内細小血管異常の退縮を用いて評価する必要がある.また,OCTAでは蛍光漏出を観察できないため,新生血管の形態や活動性の評価においても,enface画像だけでなくBスキャン画像を組み合わせて評価を行い,新生血管の三次元的な伸展を評価すべきである8).石羽澤らは,PDRにおけるFAとOCTAを比較し,網膜新生血管の密な微小血管増殖がFAでの蛍光漏出と相関し,新生血管の活動性を反映しており,活動性の低下した新生血管では微小血管は減少し成熟した血管構造が残ることを報告している9).このようにOCTAと従来のFAとの差を理解し評価を行う必要があるものの,パノラマOCTAはOCTA画像5?6枚で作成可能であり,非侵襲的に網膜周辺部の血管状態を評価することができる.パノラマOCTAは本症例を含め妊婦,授乳婦やアレルギーのためFAが施行できない症例における糖尿病網膜症の治療方針決定や治療前後の効果判定に有用であると考えられた.文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Classi?cationofdiabeticretinopathyfrom?uores?ceinangiograms:ETDRSreportnumber11.Ophthalmol-ogy98:807-822,19912)XuK,TzankovaV,LiCetal:Intravenous?uoresceinangi?ography-associatedadversereactions.CanJOphthalmol51:321-325,20163)湯澤美都子,小椋祐一郎,髙橋寛二ほか;眼底血管造影実施基準委員会:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌115:67-75,20114)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:Enlargementoffovealavascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopti?calcoherencetomographyangiography.Retina35:2377-2383,20155)SuzukiK,NozakiM,TakaseNetal:Associationoffovealavascularzoneenlargementanddiabeticretinopathypro?gressionusingopticalcoherencetomographyangiography.JVitreoRetinDis2:343-350,20186)ZhangQ,LeeCS,ChaoJetal:Wide-?eldopticalcoher?encetomographybasedmicroangiographyforretinalimag?ing.SciRep6:22017,20167)星山健,平野隆雄,若林真澄ほか:パノラマOCTangi?ographyが治療方針決定に有用であった増殖糖尿病網膜症の2例.眼科59:67-74,20178)PanJ,ChenD,YangXetal:Characteristicsofneovascu?larizationinearlystagesofproliferativediabeticretinopa?thybyopticalcoherencetomographyangiography.AmJOphthalmol192:146-156,20189)IshibazawaA,NagaokaT,YokotaHetal:Characteristicsofretinalneovascularizationinproliferativediabeticreti?nopathyimagedbyopticalcoherencetomographyangiog?raphy.InvestOphthalmolVisSci57:6247-6255,2016◆**

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):97.101,2019c糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術佐藤孝樹河本良輔福本雅格小林崇俊喜田照代池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CVitreousSurgeryforDiabeticMacularEdemaTakakiSato,RyousukeKoumoto,MasanoriFukumoto,TakatoshiKobayashi,TeruyoKidaandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)における糖尿病黄斑浮腫(DME)の硝子体手術(PPV)成績について,術前のChyperre.ectivefoci(以下,foci)の有無で検討した.対象および方法:当科においてCDMEに対して初回PPVを施行しC3カ月以上経過観察可能であったC23例C28眼を後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7歳.術前の外境界膜(ELM)周囲にCfociのある群C15眼(+)群と,ない群C13眼(C.)群のC2群に分けて,術前,術C1カ月後,術C3カ月後における,視力,網膜厚を比較検討した.結果:全症例において,網膜厚,視力ともに術前に比べて,術C1カ月後,術C3カ月後で有意に改善した.術前において(-)群は(+)群より有意に視力良好であったが,術前と比較して術C3カ月後には両群とも有意に視力が改善していた.結論:Fociの有無に関係なく,DMEに対するCPPVでは術C3カ月後には視力および網膜厚は有意に改善した.Fociを認める場合でも,視力は不良であるが,PPVは視力改善に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCparsplanaCvitrectomy(PPV)outcomeCandCpreoperativeChyperre.ectivefoci(foci)inpatientswhounderwentPPVfordiabeticmacularedema(DME)C.Method:Weretro-spectivelyreviewed28eyesof23patients(11males,12females)whohadundergoneinitialPPVforDMEatOsa-kaCMedicalCCollegeCHospitalCduringCaCperiodCexceedingC3months.CAverageCageCwasC63.7years;15eyesChadCfociaroundexternallimitingmembrane(ELM)beforesurgery((+)group)C,and13didnot((-)group)C.Forthesetwogroups,CvisualCacuityCandCfovealCthicknessCwereCcomparedCbeforeCandCafterCsurgery.CResults:InCallCcases,CfovealCthicknessCandCvisualCacuityCimprovedCsigni.cantlyCinC1monthCandC3months,CcomparedCtoCbaseline.CThereCwasCaCsigni.cantCdi.erenceCinCbaselineCvisualCacuityCbetweenCtheC2groups.CVisualCacuityCwasCsigni.cantlyCimprovedCinCbothgroupsafter3monthspostoperatively,comparedtobaseline.Conclusions:Regardlessofpresence/absenceoffoci,CvisualCacuityCandCretinalCthicknessCwereCsigni.cantlyCimprovedCatC3monthsCpostoperativelyCforCDME.CWhenCfociexistaroundELM,althoughthevisualacuityispoor,itissuggestedthatPPVise.ectiveforrestoringvisualacuityinDMEpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):97.101,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,hyperre.ectivefoci,硝子体手術.diabeticmacularedema,hyperre.ectivefoci,parsplanavitrectomy.Cはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が行われることが主流となっているが,反応不能例などに対しては硝子体手術が適応となる.また,治療の効果判定として,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が使用されることが多い.現在,OCT所見としてChyperre.ectivefoci(以下,foci)と視力予後の関連が注目されている.fociは硬性白斑(hardexudate:HE)の前駆体としての可能性が考えられており1),DMEの硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)後,中心窩にCHEが集積する症例を時に経験する.今回,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)におけるCDMEに対するPPV成績と術前のCfociの関与について検討した.〔別刷請求先〕佐藤孝樹:〒569-8686高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakakiSato,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC図1Foci群代表症例全層にCfociを認め,外境界膜(ELM)周囲にCfociを認める(.).表1患者背景foci(+)群(C15眼)foci(C.)群(C13眼)年齢C64.1±7.7歳C63.2±7.8歳男女比8:77:6浮腫の形態びまん13眼5眼.胞状2眼8眼網膜.離あり1眼3眼白内障手術併用6眼9眼手術時CTA併用硝子体注射7眼STTA1眼硝子体注射3眼ERMあり3眼3眼CPVD不完全4眼5眼なし7眼5眼完全1眼0眼I対象および方法当科において,2014年C1月.2016年C12月に,DMEに対して,初回CPPVを施行し,3カ月以上経過観察が可能であった,23例C28眼について後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7C±7.6歳.3カ月以内に抗CVEGF薬(アフリベルセプト,ラニビズマブ)硝子体注射やトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)Tenon.下注射(subTenonTA:STTA),網膜光凝固など他の治療を施行されたものを除外した.PPVはシャンデリア照明併用4ポートC25CGシステムで施行.有水晶体眼(14例C15眼)には白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を併用した.術前の外境界膜(externalClimitingCmem-brane:ELM)周囲にCfociのある群C15眼〔foci(+)群〕(図1)と,ない群C13眼〔foci(C.)群〕のC2群に分けて,術前,術C1カ月,術C3カ月におけるClogMAR視力および網膜厚を比較検討した.p<0.05を有意な変化とした.CII結果全症例におけるClogMAR視力の平均値は,術前C0.744C±0.350,1カ月後C0.635C±0.339,3カ月後C0.572C±0.363で,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p<0.001)ともに有意に視力改善を認めた.網膜厚は術前C607C±220μm,1カ月後C441C±174μm,3カ月後C462C±159μmで,1カ月後(p=0.002),3カ月後(p=0.002)とも術前と比較して有意に減少していた.症例の詳細を表1に示す.foci(+)群は,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めたものがC3眼,後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)を認めたものがC1眼,PVD未.離がC7眼,PVD不完全なものがC4眼.白内障手術併用がC6眼,PPV時にCTA併用したものがC8眼(うち硝子体注射C7眼,Tenon.下注射C1眼)であった.一方,foci(C.)群は,ERMを認めたものが3眼,PVD未.離がC5眼,PVD不完全なものがC5眼.白内障手術併用がC9眼,PPV終了時にCTA併用したものがC3眼(いずれも硝子体注射)であった.術後にCHEが黄斑に集積した症例は認めなかった.foci(+)群とCfoci(C.)群の比較では,logMAR視力においてCfoci(+)群は術前C0.932C±0.340,1カ月後C0.777C±0.374,3カ月後C0.745C±0.401と,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p=0.018)で有意に視力改善がみられた.foci(C.)群は術前C0.527C±0.218,1カ月後C0.470C±0.203,3カ月後C0.372C±0.169で,術前と比較してC1カ月後(p=0.20)では有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.008)には有意に視力改善がみられた(図2).術前のC2群間の比較において,foci(C.)群はCfoci(+)群より有意(p<0.05)に視力良好であった(図3).網膜厚は,foci(+)群は術前C614C±259Cμm,1カ月後C405C±175Cμm,3カ月後C475C±173Cμmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.004)には有意に網膜厚の減少を認めたが,3カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかった.foci(C.)群は術前C599C±175μm,1カ月後C483C±170μm,3カ月後C453C±146μmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.04)には有意に網膜厚の減少を認めた(図4).2群間で術前の網膜厚に有意差(p>0.05)は認めなかった.また,術終了時にCTAを併用した症例は,foci(+)群で硝子体注射C7眼,STTA1眼,foci(C.)群で硝子体注射C3眼であった.視力は,TA(+)群は,術前C0.757C±0.324,1カ月後C0.626C±0.318,3カ月後C0.589C±0.341,TA(C.)群は,術前C0.768C±0.401,1カ月後C0.653C±0.399,3カ月後C0.603C±0.416と両群とも術前と比較して,1カ月後,3カ月後ともに有意に視力の改善を認めた.網膜厚は,TA(+)群は,C1.4*1.211.510.50-0.5-1術前1カ月後p値3カ月後p値foci(+)0.9310.777<0.0010.7450.018foci(-)0.5270.470.200.3730.008全体0.7440.635<0.0010.572<0.001900800700foci(-)-0.4-0.60foci(+)foci(-)0.8logMAR視力6000.65000.44000.23000200-0.2100(Studentt-test)図3術前2群比較2群間において術前視力に有意差を認めるが,網膜厚に有意差は認めなかった.C9001,000900800図4網膜厚図5TAの有無による網膜厚全症例において,網膜厚は術前に比べて,1カ月後,3カ月後とTA(+)群の術C1カ月後,TA(C.)群の術C3カ月後において,有意に減少を認め,foci(+)群の術C1カ月後,foci(C.)群の術C3術前より有意に網膜厚の減少を認めた.カ月後において術前より有意に網膜厚の減少を認めた.網膜厚(μm)800700網膜厚(μm)700600600500500400300術前foci(+)614foci(-)599全体6071カ月後p値4050.0044830.114410.024003カ月後p値3004750.11術前4530.04TA(+)7014620.02TA(-)5051カ月後p値4320.014390.223カ月後p値5050.124100.07術前C701C±275Cμm,1カ月後C432C±152Cμm,3カ月後C505C±187μm,TA(C.)群は,術前C505C±130μm,1カ月後439C±205Cμm,3カ月後C410C±138Cμmと,TA(+)群のC1カ月後,TA(C.)群のC3カ月後において,術前より有意に網膜厚の減少を認めた(図5).CIII考按Fociは,OCTで描出される粒子状の病変である.Fociは,漏出した脂質や,蛋白質,炎症性細胞などから形成される物質であり,HEの前駆体といわれている2,3).Bolzらは,無治療の糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DMR)12例のOCT画像において,すべての症例で網膜全層にわたってfociを認め,fociはCDMEにおける早期のバリアの破綻によりリポ蛋白あるいは蛋白質が血管外漏出して析出したものではないかとしている1).Davoudiらは,238例の検討で,HEのある全症例でCfociを認めたが,fociを認める症例のうち57%のみにCHEを認めたとし,fociは総コレステロール値およびCLDLコレステロール値と高い相関を認めたとしている4).また,Ujiらは,網膜.離を伴わないCDMEにおいて,fociの外層への集積は視力低下に影響する因子であるとしている5).現在,DME治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射である.抗CVEGF薬硝子体注射とCfociの関係について,Frammeらは,51例の検討で,すべてのCDME症例にCfociを認め,抗CVEGF薬治療で全症例においてCfociは減少し,治療前のfoci量はCHbA1c値と正の相関を示したとしている6).また,Kangらは,97眼の検討で,抗CVEGF薬治療後にCfociは減少を認め,多変量回帰分析において,.胞状およびびまん性浮腫群では治療前視力および外層のCfoci量と最終視力に,漿液性網膜.離群では内層および外層のCfoci量と最終視力に相関があったとしている.つまり,治療前の外層のCfoci量によって最終視力が推察できるのではないかとしている7).しかし,ERMや,PVD未.離など網膜硝子体界面の異常を認める場合は,抗CVEGF薬の効果が不十分となることがある.Ophirらは,PPVを必要としたCDMEについて後ろ向き研究を行い,PVDが不完全な症例がC44眼中C23眼(52.2%),そのうちC20眼(87.0%)にCERMを認めたとしている8).本検討において,PVDを完全に認め,網膜硝子体界面の異常を認めなかった症例はC1例のみで,ERMがC6眼〔foci(+)群C3眼,foci(C.)群C3眼〕,PVD未.離がC12眼〔foci(+)群C7眼,foci(C.)群C5眼〕,PVD不完全がC9眼〔foci(+)群4眼,foci(C.)群C5眼〕だった.また,Kaiserらは,網膜硝子体界面の異常を認めるCDMEについての検討で,9眼のうちC8眼で網膜下液を認め,牽引により網膜下液を生じやすいのではないかとしている9).本検討においては,28眼中C4眼〔foci(+)群C1眼,foci(C.)群C3眼〕のみで網膜下液を認め,網膜硝子体界面異常症例のなかでも牽引の強いものにのみ網膜下液を認めた.Nishijimaらは,DMEに対するCPPV症例について,外層のCfociの有無で比較検討を行ったところ,視力は術前に有意差がなく,3カ月後,6カ月後でCfoci(C.)群では有意に改善がみられるものの,foci(+)群では改善がみられなかったとしている.また,網膜厚は全期間においてC2群間に有意差がなかったとしている10).今回の筆者らの検討では,術前よりCfociの有無で視力に有意差を認めており,foci(+)群で有意に視力不良であった.経過については,foci(+)群ではC1カ月後,3カ月後に有意に視力の改善がみられ,網膜厚はC1カ月後には有意に改善しているものの,3カ月後には有意差はなくなり増悪傾向を認めた.foci(C.)群においては術前と比較して,1カ月後に視力および網膜厚に有意差を認めず,3カ月後には視力および網膜厚ともに有意に改善を認めた.foci(+)群のほうが手術が有効であるかのような結果となった理由としては,PPV終了時にCTA併用された症例がCfoci(+)群に多かったことがあげられる.そのため,foci(+)群のほうが速やかに術後浮腫および視力が改善したと考えられる.しかし,foci(+)群において,網膜厚はC3カ月後において有意差はなくなり増悪傾向を認めた.それは,術C3カ月経過しCTAの効果が減弱したため浮腫が悪化したことによると考えられる.Nishijimaらの報告においては,術終了時には全例CSTTAが施行され,3カ月以降にも追加薬物療法が行われている.今回,TA(+)症例で,3カ月後に浮腫の悪化傾向を認めるものの視力は維持されており,浮腫も早期改善することから,PPV時にCTA併用することは有用であると考えられた.6カ月後,1年後の長期経過について検討を行いたかったが,経過良好例ついては転院により情報が乏しく,今回は検討が不可能であった.以上をまとめると,今回の検討では,foci(+)群の術前視力が有意に悪い状態であったことから,PPVに踏み切るタイミングが少し遅かった可能性が考えられる.DMEに対する治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射であるが,fociの外層への沈着は視力予後不良の因子と考えられるため,抗VEGF薬の反応不良例は速やかにCPPVを検討してもよいのではないかと考えられた.また,fociの有無に関係なくPPVにより視力の改善がみられたことから,とくに網膜硝子体界面の異常を認める症例はCPPVのよい適応であると考えられ,術終了時のCTA投与は早期浮腫改善のために有用であると思われた.本要旨は,第C23回日本糖尿病眼学会で報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BolzCM,CSchmidt-ErfurthCU,CDeakCGCetal;DiabeticCReti-nopathyCResearchCGroupVienna:OpticalCcoherenceCtomo-graphicChyperre.ectivefoci:aCmorphologicCsignCofClipidCextravasationCinCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC116:914-920,C20092)DeBenedettoU,SacconiR,PierroLetal:Opticalcoher-enceCtomographicChyperre.ectiveCfociCinCearlyCstagesCofCdiabeticretinopathy.RetinaC35:449-453,C20153)CusickCM,CChewCEY,CChanCCCCetal:HistopathologyCandCregressionofretinalhardexudatesindiabeticretinopathyafterreductionofelevatedserumlipidlevels.Ophthalmol-ogyC110:2126-2133,C20034)DavoudiCS,CPapavasileiouCE,CRoohipoorCRCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCcharacteristicsCofCmacularCedemaCandhardexudatesandtheirassociationwithlipidserumlevelsintype2diabetes.RetinaC36:1622-1629,C20165)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperre.ectiveCfociCinCtheCouterCretina,CstatusCofCphotore-ceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmolC153:710-717,C20126)FrammeCC,CSchweizerCP,CImeschCMCetal:BehaviorCofCSD-OCT-detectedChyperre.ectiveCfociCinCtheCretinaCofCanti-VEGF-treatedpatientswithdiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC53:5814-5818,C20127)KangCJW,CChungCH,CChanCKimH:CorrelationCofCopticalCcoherenceCtomographicChyperre.ectiveCfociCwithCvisualCoutcomesindi.erentpatternsofdiabeticmacularedema.RetinaC36:1630-1639,C20168)OphirA,MartinezMR:Epiretinalmembranesandincom-pleteCposteriorCvitreousCdetachmentCinCdiabeticCmacularCedema,CdetectedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:6414-6420,C20119)KaiserPK,RiemannCD,SearsJEetal:MaculartractiondetachmentCandCdiabeticCmacularCedemaCassociatedCwithCposteriorhyaloidaltraction.AmJOphthalmolC131:44-49,C200110)NishijimaCK,CMurakamiCT,CHirashimaCTCetal:Hyperre-.ectiveCfociCinCouterCretinaCpredictiveCofCphotoreceptorCdamageandpoorvisionaftervitrectomyfordiabeticmac-ularedema.RetinaC34:732-740,C2014***

糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の長期成績

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):92.96,2019c糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の長期成績三原理恵子*1村松大弐*2若林美宏*2三浦雅博*1塚原林太郎*1馬詰和比古*2八木浩倫*2阿川毅*1真島麻子*2志村雅彦*3後藤浩*2*1東京医科大学茨城医療センター眼科*2東京医科大学病院臨床医学系眼科学分野*3東京医科大学八王子医療センター眼科IntravitrealInjectionofA.iberceptforDiabeticMacularEdema:Long-termE.ectinJapanesePatientsRiekoMihara1),DaisukeMuramatsu2),YoshihiroWakabayashi2),MasahiroMiura1),RintaroTsukahara1),KazuhikoUmazume2),HiromichiYagi2),TsuyoshiAgawa1),AsakoMashima2),MasahikoShimura3)andHiroshiGoto2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityIbarakiMedicalCenter,2)DepartmentofOpthalmology,TokyoMedicalUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するアフリベルセプト硝子体注射(IVA)の効果を検討する.対象および方法:DMEにCIVAを施行し,18カ月以上観察が可能であったC14眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回CIVA後C6,12,18カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療の有無と種類について検討した.結果:平均観察期間はC24.8カ月であった.治療前視力の平均ClogMAR値はC0.51で,治療C6カ月でC0.26,12,18カ月後には,それぞれC0.27,0.25で全期間で有意な改善を示した(p<0.05).治療前の網膜厚はC526Cμmで,治療C6,12,18カ月後にはC367,336,363μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.05).6カ月までのCIVA回数は,平均C2.9回であり,12,18カ月後には,3.5回,4.1回であった.経過中に光凝固をC5眼に,ステロイド局所投与をC8眼に併用した.また,ラニビズマブ硝子体注射へ切り替えた症例がC2眼あった.結論:DMEに対してCIVAを第一選択として治療を行った場合,適切な追加治療を施行することで,IVAの注射回数を少なくしながら,大規模研究と遜色ない長期の視機能予後を得られる可能性がある.CPurpose:Toanalyzethelong-terme.cacyofintravitrealinjectionofa.ibercept(IVA)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME)C.Casesandmethods:Thiswasaretrospectivecaseseriesstudyinvolving14eyesof12patientswithDMEwhoreceivedIVA(0.5mg)C.Caseswerefollowedfor18monthsorlonger.BestC-cor-rectedCvisualacuity(BCVA;logMAR)andCcentralCretinalthickness(CRT)wereCtheCmainCoutcomes.CResults:CThemeanfollow-upperiodwas24.8months.BaselineBCVAandCRTwere0.51and526Cμm,respectively.At6months,CtheCmeanCBCVAChadCsigni.cantlyCimprovedCtoC0.26,CandCtheCmeanCCRTChadCsigni.cantlyCdecreasedCtoC367Cμm,CcomparedCwithCtheCbaselinevalues(p<0.05)C.At12monthsCandC18months,CBCVAChadCsigni.cantlyCimprovedto0.27(p<0.05)and0.25(p<0.05)C,respectively;CRThaddecreasedto336Cμm(p<0.05)and363Cμm(p<0.05)C,respectively.TheaveragenumberofIVAwas4.1times.Amongallcases,5eyeswerealsotreatedwithphotocoagulation;8eyeswerealsotreatedwithlocalsteroids.Twoeyeswereswitchedtoranibizumabtreatment.Conclusion:IVACcombinedCwithCappropriateCadditionalCtreatmentsCareCexpectedCtoCbeCe.ectiveCasCaC.rst-choiceCtreatmentforDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):92.96,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,アフリベルセプト,抗CVEGF,光凝固,トリアムシノロンアセニド.diabeticmacu-laredema,a.ibercept,anti-VEGF,photocoagulation,triamcinoloneacetonide.C〔別刷請求先〕三原理恵子:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央C3-20-1東京医科大学茨城医療センター眼科Reprintrequests:RiekoMihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityIbarakiMedicalCenter,3-20-1AmimachichuouInashikigunIbaraki300-0395,JAPANC92(92)はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,過去に格子状光凝固,ステロイド局所投与,硝子体手術などが施行されてきたものの,満足できる成績は得られなかった.近年CDMEの病態に血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)が関与していることが判明し,またCVEGF阻害薬が保険適用を受けて以来,抗VEGF療法がCDME治療の主体となりつつある1.7).VEGF阻害薬の一つであり,膜融合蛋白であるアフリベルセプトのCDMEに対する治療効果は,大規模研究であるDaVincistudyやCVIVID/VISTAstudyにより格子状光凝固に対する視機能予後の優位性が証明されている4.7).しかし,これらの大規模研究では,視力や浮腫に厳格な組み入れ基準があり,また,ほぼ毎月アフリベルセプトのみが投与されるなど,実臨床とはかけ離れた診療結果であるため,臨床にそのまま適用されることは少ない.わが国ではC2014年C11月よりアフリベルセプトがCDME治療に保険適用を受け,広く使用されるようになってきた.本研究は抗CVEGF療法をアフリベルセプトの硝子体注射で開始したCDME症例のうち,18カ月以上の観察が可能であった症例の治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2014年C12月.2015年C11月に,東京医科大学病た,蛍光眼底造影で無灌流域や毛細血管瘤を認めた症例には光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を併用した.全C14眼のうちC7眼については治療開始からC1カ月ごとにC2.3回の注射を行うCIVA導入療法を施行し,その後はCPRN投与を行った.残りのC7眼はC1回注射の後にCPRN投与を行った.検討項目は,IVA前,およびCIVA後C6,12,18カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力と光干渉断層計C3D-OCT2000(トプコン)もしくはCCirrusHD-OCT(CarlCZeissMeditech)を用いて計測したCCRTとし,さらに再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録をもとに後ろ向きに調査した.CII結果全C14眼の平均観察期間はC24.8C±2.7カ月(20.29カ月)であった.全症例における治療前の平均CCRTはC526.6C±143.7μmであったのに対し,IVA後C6カ月の時点ではC367.7C±105.1Cμmと有意に減少していた.さらにC12カ月の時点でC336.8±147.9Cμm,18カ月ではC363.9C±133.3Cμm,最終来院時ではC372.5C±142.1Cμmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.05,pairedt-検定)(図1).全症例における治療前の視力のClogMAR値の平均はC0.51C±0.32であった.視力はCIVA後C6カ月でC0.26C±0.25と有意に改善した.その後C12,18カ月ではC0.27C±0.21,0.25C±0.25,最終来院の時点でもC0.26C±0.25と,それぞれ治療前と比較院ならびに東京医科大学茨城医療センター眼科において,抗VEGF療法を行ったことのないCDMEに対し,アフリベルセプトC2Cmg/0.05Cmlの硝子体注射(intravitrealCinjectionCofa.ibercept:IVA)で治療を開始し,18カ月以上の観察が可能であったC12例C14眼(男性C7例,女性C5例)である.治療時の年齢分布はC34.78歳,平均(C±標準偏差)はC57.3C±10.8歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による浮腫のタイプは網膜膨化型がC12眼(86%),.胞様浮腫がC6眼(43%),漿液性網膜.離がC5眼(36%)であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.症例の内訳は,まったくの無治療がC8眼,抗VEGF療法以外の治療がすでに行われていたのは6眼であり,網膜光凝固がC6眼,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-TenonCinjectionCofCtriamcinoronacetonide:STTA)がC1眼であった(同一症例の重複治療例あり).抗VEGF療法開始後は毎月視力測定,OCT検査を行い,必要に応じた治療(prorenata:PRN)を行った.再投与基準は,浮腫残存,2段階以上の視力低下,もしくはC20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合とし,原則としてCIVAを行った.浮腫の悪化があってもCIVAに同意されなかった場合や,IVA後の浮腫改善が不十分な場合はCSTTAを施行した.ま-して有意な改善を示していた(p<0.05,CpairedCt検定)(図2).大規模研究の解析方法に合わせ,治療前後でClogMAR(0.2)以上視力が変化した場合を改善あるいは悪化と定義すると,治療前と比較してCIVA後C6カ月の時点で改善例はC7眼(50%),不変例はC7眼(50%),悪化例はC0眼(0%),12カ月の時点で改善例はC8眼(57%),不変例はC6眼(43%),悪化例はC0眼(0%),18カ月の時点で改善例はC7眼(50%),不変例はC7眼(50%),悪化例はC0眼(0%)であり,経時的に視力改善例が増加していた(図3).治療前の小数視力がC0.5以上を示した症例はC3眼(21%)存在したが,IVA後C6カ月では10眼(71%),12カ月で10眼(71%),18カ月後で11眼(78%)と,視力良好例の占める割合も増加していた(各々Cp<0.05,Cc2検定)(表1).経過観察期間中にC13眼は追加治療を要した.初回の注射施行後,最初に黄斑浮腫が再発するまでの期間は平均C4.4C±2.9カ月で,中央値はC4カ月であった.また,再注射後もC12眼(86%)がC2回目の再発をきたした.2回目の再発までの期間は平均C4.5C±2.8カ月で,中央値はC3カ月であった.1眼のみ,IVA注射後に軽度の浮腫がいったん再発するも自然軽快し,視力も安定していたため再治療を要さなかった.初回治療後C6カ月までの平均CIVA投与回数はC2.9C±1.3回,6000.25505000.3CRT(μm)logMAR4500.44000.53503000.6250治療前6カ月12カ月18カ月最終時図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚(CRT)を示す.注射C6カ月で網膜厚は大きく減少し,その後も全期間で治療前と比較して減少している.*p<0.05.%60504030201006カ月後12カ月後18カ月後■改善■不変■悪化図32段階以上の視力変化12カ月までではC3.5C±1.8回,18カ月までではC4.1C±2.3回であった.また,全経過観察期間中に,黄斑浮腫の改善目的や網膜無灌流領域に対し光凝固を併用した症例はC5眼(35%)で,局所光凝固C2眼,毛細血管瘤の直接光凝固C4眼,格子状光凝固C2眼となっている.黄斑浮腫の改善目的にCSTTAを併用した症例はC7眼(20%),トリアムシノロン硝子体注射(intravitrealCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:IVTA)をC1眼(7%)に併用,ラニビズマブC0.5Cmg/0.05Cml硝子体注射(intravitrealCinjectionCofranibizumab:IVR)に切り替えた症例がC2眼(14%)存在し,IVA単独のみで治療を続けた例はC5眼(35%)であった.追加治療を行ったC13眼を,光凝固やCSTTAを併用した群(併用療法群:n=9)と,IVA単独で治療した群(単独群:n=4)に分類し,IVAの回数や視力改善度についてサブグループ解析を行った.併用療法群では追加治療として,当初の6カ月目まではCSTTAあるいはCIVTAを使用していなかっ6カ月12カ月18カ月図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のClogMAR値を示す.注射C6カ月で視力は上昇し,その後も全期間で治療前と比較して有意に改善した.*p<0.05表1治療前後の各時点における小数視力0.5以上が占める割合治療前21%6カ月後71%*12カ月後71%*18カ月後78%**p<0.05たが,7.12カ月ではC50%の症例で,さらにはC13.18カ月ではC36%での症例で併用療法が行われていた.初回治療後6カ月での平均CIVA回数は併用療法群ではC3.2C±1.0回であった.12カ月まででC3.7C±1.5回,18カ月までではC3.7C±1.9回であった.一方,単独群では初回治療後C6カ月での平均IVA回数はC2.2C±1.9回,12カ月においてはC3.3C±2.6回,18カ月ではC6.0回C±2.5回(p=0.08)と経時的に投与回数が増加し,最終観察時までのCIVA回数は単独群ではC7.0回C±2.3回であり,併用療法群のC3.9C±2.1回と比較して有意な差を認めた(p<0.05,Cunpairedt-検定).なお,視力の改善度に関しては,18カ月,最終観察時において両群間に差は認めなかった.CIII考按DMEに対するアフリベルセプト療法の第CIII相無作為試験は,日本,欧州,オーストラリアで行われたCVIVID試験と,米国で行われたCVISTA試験のC2年間の経過が報告されている6).VIVID/VISTACstudyはアフリベルセプトC2Cmgの用量で,投与レジメンとして毎月投与する群と,5回連続注射の後にC2カ月ごと固定投与群,レーザー光凝固単独群の3群に割り付け,アフリベルセプト治療のレーザー光凝固に対する有意性を証明したのであるが,アフリベルセプト毎月投与群での改善文字数は,2年間でCVIVID試験でC22.4回注(94)射してC11.4文字,VISTA試験ではC21.3回注射してC13.5文字であった.一方,アフリベルセプトC2カ月ごとの投与群ではCVIVID試験ではC13.6回注射してC9.4文字,VISTA試験ではC13.5回注射してC11.1文字の視力改善であった.今回の対象となったC14眼のうち,50%にあたるC7眼では導入期治療として,IVAをC2.3回毎月連続投与を行い,その後は毎月観察を行って悪化(再発)時にCIVA再投与を行うPRNで治療を行い,残りのC7眼ではC1回の注射の後にCPRNとしていた.その結果,全症例ではC6カ月間で平均C2.9回,12カ月間に平均C3.5回,18カ月までに平均C4.1回,最終来院時までにC4.5回の注射を行っていた.全症例における検討では,アフリベルセプト治療の開始直後から網膜浮腫は減少し,全経過観察期間中において治療前よりも有意な浮腫の減少が得られており,視力に関しても治療前と比較して全期間で有意な向上が得られていた.視力のデータをCETDRSの文字数に換算すると,18カ月でC13.2文字,最終来院時においてC12.6文字の改善が得られた結果となり,大規模研究よりも少ない注射回数で同等以上の改善が得られていた.本研究において,大規模研究と比較して圧倒的に少ない注射回数にもかかわらず,大規模研究以上の視力改善効果を得られた理由は,追加治療としてCIVAのみならず適宜CSTTAやCIVTA,光凝固を使用して追加,維持療法を行っていたことがあげられる.糖尿病網膜症やDMEの病態進展にはVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている8.12).また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をCSTTAによって抑制可能とする報告もあるので13),本研究におけるステロイドの併用がCVEGF以外の浮腫を惹起する因子を抑制した可能性もある.本研究の対象となった全症例を,IVA単独で治療した群と,途中からステロイドなどの併用療法を行った群に分類しサブグループ解析を行った結果,両群間で視力の改善度には統計学的な差は認めなかったものの,注射回数に関しては,IVA単独群はC18カ月で平均C6.0回,最終時までに平均C7.0回のCIVAが必要であったが,併用群においてはC18カ月で平均C3.7回,最終時までに平均C3.9回であり,併用群で有意にIVA回数が少なかった.また,本研究においては,導入期や治療開始早期,半年からC1年目程度まではおもにCIVAで追加治療が行われ,後期になるとCIVA追加を希望されずにステロイドでの代替治療を行った例が多かったが,このレジメンが少ない注射回数での良好な成績につながった可能性もある.すなわち,糖尿病網膜症の病期によって浮腫の原因となる因子が変化していた可能性があり,早期に抗CVEGF治療を行い,慢性期に入る時期には抗炎症治療に切り替えたことが良好な成績に関与していたと考えられる.さらに良好な成績につながった第二の理由として,本研究で積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用したため,網膜症そのものへの進行抑制が影響をきたしていた可能性があげられる.わが国では一般的に毛細血管瘤に対する直接光凝固や,targetedCretinalphotocoagulation(TRP)とも称される14)部分的な無灌流域に対する選択的光凝固が行われるが,米国における光凝固は後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であるため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.また,近年では眼底に凝固斑が出現しない,より低侵襲な光凝固による良好な治療成績も報告されており15),今後はこのような新しい低侵襲光凝固をアフリベルセプトと併用することにより,黄斑浮腫への治療効果もよりいっそう向上していくかもしれない.今回の実臨床によるCDME患者に対するアフリベルセプトを第一選択とした治療は,経過中にステロイドの局所投与や局所光凝固を適宜追加することで,中.長期的にも有効な結果を得られたといえる.しかしながら,症例数は十分とは言い難く,糖尿病以外の全身的な要因の考察もされていないため,当院での治療法が無条件で肯定されたというわけではない.今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であるものの,DMEの治療については,抗CVEGF療法のみならず他の治療法を適宜組み合わせることで,個別化治療による視機能予後の最適化をめざすべきと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマズ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科C33:111-114,C20162)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,C20133)石田琴弓,加藤亜紀,太田聡ほか:難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績.あたらしい眼科34:264-267,C20174)真島麻子,村松大弐,若林美宏ほか:糖尿病黄班浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射のC6カ月治療成績.眼臨紀10:755-759,C20175)DoCDV,CSchmidt-ErfurthCU,CGonzalezCVHCetal:TheCDACVINCIStudy:phaseC2primaryCresultsCofCVEGFCTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmol-ogyC118:1819-1826,C20116)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20147)BrownDM,Schmidt-ErfurthU,DoDVetal:Intravitreala.iberceptfordiabeticmacularedema:100-weekresultsfromtheCVISTACandCVIVIDCStudies.OphthalmologyC122:C2044-2052,C2015C8)WakabayashiCY,CUsuiCY,COkunukiCYCetal:IncreasesCofCvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsCinCpatientsCwithCconcurrentChypertensionCandCdia-beticretinopathy.RetinaC31:1951-1957,C20119)WakabayashiCY,CKimuraCK,CMuramatsuCDCetal:AxialClengthCasCaCfactorCassociatedCwithCvisualCoutcomeCafterCvitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC54:6834-6840,C201310)MuramatsuCD,CWakabayashiCY,CUsuiCYCetal:CorrelationCofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesCinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:15-17,C201311)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:AqueoushumorlevelsCofCcytokinesCareCrelatedCtoCvitreousClevelsCandCpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmolC243:3-8,C200512)AdamisCAP,CMillerCJW,CBernalCMTCetal:IncreasedCvas-cularCendothelialCgrowthCfactorClevelsCinCtheCvitreousCofCeyesCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC118:445-450,C199413)ShimuraCM,CYasudaCK,CShionoT:PosteriorCsub-Tenon’sCcapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalCphotocoagulation-inducedCvisualCdysfunctionCinCpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.OphthalmologyC113:381-387,C200614)TakamuraY,TomomatsuT,MatumuraTetal:Thee.ectofCphotocoagulationCinCischemicCareasCtoCpreventCrecur-renceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevaci-zumabinjection.InvestOphthalmolVisSciC55:4741-4746,C201415)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌C116:568-574,C2012C***

糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1550.1553,2018c糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例呉香奈白矢智靖荒木章之加藤聡東京大学医学部附属病院眼科CACaseofBilateralNeovascularGlaucomaduringtheCourseofTreatmentforDiabeticMacularEdemaKanaKure,TomoyasuShiraya,FumiyukiArakiandSatoshiKatoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospitalC糖尿病黄斑浮腫の患者(68歳,女性)に対して抗CVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法を行ったところ,両眼に血管新生緑内障を生じ,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.糖尿病網膜症に対し両眼網膜光凝固術を開始し,糖尿病黄斑浮腫の悪化を認めたため,右眼から抗CVEGF療法を開始したところ,先に左眼の血管新生緑内障を発症し,そのC6カ月後に右眼も血管新生緑内障を発症した.その後,網膜光凝固術の追加により鎮静化した.本症例では結果的に透析導入によって糖尿病黄斑浮腫の改善が得られたが,全身状態も踏まえて抗CVEGF療法の適応やタイミングを考慮する必要があると考えられた.また,抗CVEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置く必要があると考えられた.CWeencounteredthecaseofa68-year-oldfemalewhodevelopedbilateralneovascularglaucoma(NVG)afterundergoinganti-vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)therapyfordiabeticmacularedema(DME),exacerbat-edbyCpanretinalCphotocoagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CAfterCanti-VEGFCtherapyCinitiationCinCtheCrightCeye,CtheCleftCeyeCdevelopedNVG;theCrightCeyeCdevelopedCNVGC6monthsClater.CItCsubsidedCafterCadditionalCPRPCwasperformed.WefoundthatC.uorescenceangiographywasusefulinevaluatingthetherapeutice.ectofphotoco-agulation.Also,althoughinthiscaseDMEimprovementwasachievedafterdialysisinitiation,itseemsnecessarytoalsoconsidertheindicationandtimingofanti-VEGFtherapybasedonthegeneralconditionofthepatient.TheriskofNVGmustbekeptinmindwhenplanninganti-VEGFtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1550.1553,C2018〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,血管内皮増殖因子,血管新生緑内障,蛍光眼底造影検査.diabeticmacularedema,vascularendothelialgrowthfactor,neovascularglaucoma,C.uoresceinangiography.Cはじめに抗CVEGF(vascularCendothelialCgrowthfactor)薬の登場によって糖尿病黄斑浮腫の治療は変貌を遂げ,大規模臨床研究では積極的な抗CVEGF薬の投与により,従来のレーザー治療よりも浮腫軽減効果や視力改善について,より良好な成績が示されている1,2).わが国の網膜専門家に対する調査では,70%以上の医師がびまん性糖尿病黄斑浮腫に対する第一選択であると報告されている3).しかし,その一方で臨床研究の結果によるエビデンスと実臨床における治療マネージメントに相違もみられ3),臨床研究のプロトコールに沿った治療を行うことはきわめてむずかしいと考える.今回,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の抗CVEGF療法を含めた治療経過中に網膜症が増悪し,汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagu-lation:PRP)を行うも不十分であったため,結果として両眼の血管新生緑内障の発症をきたし,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕呉香奈:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KanaKure,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospital,7-3-1,Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1550(102)図1初診時の前眼部と眼底写真およびOCT所見(2014年2月)図2初診時の蛍光眼底造影写真(2014年3月)両眼に広範囲の無灌流領域が存在し,右眼鼻上側に網膜新生血管を認める.I症例患者:68歳,女性.主訴:両眼の霧視,歪視.眼科既往歴:特記事項なし.全身既往歴:50歳時にC2型糖尿病を指摘される,63歳頃糖尿病性腎症の疑い.家族歴:特記事項なし.現病歴:1カ月前からの両眼の歪視と霧視で近医眼科を受診した.糖尿病による網膜症が疑われ,当院糖尿病代謝内科へ紹介.まもなく血糖コントロール目的で入院,その後網膜症精査目的でC2014年C2月に当科へ紹介となった.全身検査所見:糖尿病代謝内科初診時の採血結果は,総コレステロールC298Cmg/dl,CBUNC17.8Cmg/dl,CCreC0.64Cmg/dl,WBC7,600Cμl,RBC353万Cμl,PLT30.5万Cμl,HbA1cC11.7%.尿糖C4+,尿蛋白C2+,ケトン体(-).血圧はC160/74mmHg.頸動脈エコーでは両側に狭窄性病変なし.糖尿病治療開始後のCHbA1cの推移は,9.8%(2カ月後),7.1%(4カ月後),6.7%(6カ月後),6.4%(8カ月後)であった.当科初診時所見:視力は,右眼C0.2(0.3×+0.50D),左眼0.3(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼に軽度の白内障が認められ,両眼底に点状,しみ状の網膜出血,硬性白斑および軟性白斑が散在し,さらに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認めた(図1).また,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では右眼上鼻側に網膜新生血管,さらに両眼に多象限に及ぶ広範囲の無灌流領域が確認された(図2).CII経過両眼のCPRPを開始したが,左眼C3回,右眼C2回の光凝固が終了した時点で両眼の黄斑浮腫が増悪し(図3),2014年6月には両眼視力が(0.15)まで低下した.検眼鏡的所見でも両眼に一部凝固斑が不足している領域を認めていたが,自覚的にも視力低下が著しく,PRPの完成よりも視力回復を優先し,抗CVEGF療法〔2回+PRN(proCrenata:必要時投与)〕で浮腫を軽減させたのちに再度レーザーを追加する方針とした.しかし,内科での精査受診や家庭の事情もあ図3汎網膜光凝固術開始後の両眼OCT所見(2014年5月)両眼にCPRPを行っている途中で,黄斑浮腫の増悪所見を認めた.図4汎網膜光凝固術後の蛍光眼底造影写真(2015年7月)両眼に無灌流領域が残存している.図5透析導入前(2015年9月:写真左)および透析導入後(2016年4月:写真右)の右眼OCT所見人工透析の導入とともに,速やかに黄斑浮腫の改善がみられた.り,結果的にC3カ月後のC2014年C9月に右眼ラニビズマブ(ルセンティスCR)の硝子体注射(IVR:intravitrealCranibi-zumab)を行った.右眼のCIVR施行C2週間後に左眼の眼圧がC39CmmHgと上昇し,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスを認め,また虹彩にもルベオーシスが検出され,血管新生緑内障と診断した.当日左眼のCPRPを完成させ,その後もレーザーを追加し,眼圧は正常化した.また,右眼については予定どおり初回からC1カ月後にC2回目のCIVRを行った.網膜光凝固術の評価目的でCFAを予定したが,血圧の上昇(186/90CmmHg)のほか,両下肢の浮腫,尿量減少,全身倦怠感の出現をきたし,かつ内科入退院を繰り返したため,施行を見送った.その際,右眼の血管新生緑内障の発症リスクを考慮し,PRPを完成させた.その後の隅角検査ではルベオーシスは認めず,また両眼の黄斑浮腫は経過とともに改善傾向にあり,PRPの完成によって網膜症も鎮静化していたと判断した.右眼C2回目CIVRからC4カ月後のC2015年C2月再診時に右眼後.下白内障によって(0.2)から(0.09)へ視力が低下し,かつ眼底の透見も不十分となったため手術を検討したが,体調不良のため実際に手術を予定したのは,さらにそのC5カ月後であった.その後,2015年C7月の右眼白内障手術前日に右眼眼圧が26CmmHgと上昇,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスは認めなかったが,虹彩にルベオーシスが確認され,血管新生緑内障と診断した.同日に透見可能な範囲でレーザーを追加し,さらに手術の影響による前房出血や網膜症活動性の上昇を危惧し,右眼にC3回目のCIVRも行った.右眼手術は合併症なく終了し,術後矯正視力は(0.2)まで回復した.全身状態の確認のもとCFAを再検したところ,検眼鏡的にはすでに両眼底にCPRPが完成したと考えられていたが,両眼に無灌流領域が残存しており(図4),この領域にレーザーを追加した.その後虹彩ルベオーシスは完全に消失し,以後眼圧は安定した.腎機能は増悪傾向にあり,2016年C3月に透析導入となったが(右眼白内障手術C9カ月後),右眼のわずかに残存していた黄斑浮腫も改善が得られた(図5).左眼は薬物療法を施行せずに黄斑浮腫が改善,経過中に後.下白内障が進行したため手術を施行し,視力は両眼(0.4)が得られている.CIII考按抗CVEGF療法によって網膜症の改善や新生血管が抑制されることが示されており4,5),本症例においても抗CVEGF療法を行った眼は僚眼と比較して一定期間が経過してから血管新生緑内障を発症しており,網膜症の活動性が抑制されていた可能性が考えられる.すなわち抗CVEGF療法は,治療を中断した際に活動性が再燃することが懸念されるため,虚血網膜の有無に対しても十分に評価することが重要である.また,全身状態が悪化した場合,投与を継続できなくなる可能性も考慮し,網膜光凝固術を早めに行い,虚血の進行を防ぐことが重要であると考えた.血管新生緑内障を発症した場合には徹底的したCPRPが必要とされ6),本症例でも検眼鏡的には完成していた.しかし,FAによって無灌流領域の残存が確認され,その有用性を改めて認識した.ただし,本症例のように高血圧を合併している症例に対してCFAを行う際には,十分に血圧をコントロールすることが勧められている7).しかし,糖尿病患者では,その他にも全身疾患を合併していることもあり,本来必要な情報であるCFAを施行できない場合もある.近年,造影剤を必要としないCOCTangiographyが注目されているが,市販機種の画角は最大C10C×10mmからC12C×9Cmm程度であり,眼底周辺部において十分虚血の評価が可能な技術には至っていない.今後はさらなる広画角化や精度の向上が期待される.本症例では最終的に透析導入によって残存していた右眼黄斑浮腫の改善が得られた.糖尿病腎症による腎機能低下により,全身血管の血漿膠質浸透圧が低下する.透析導入することで浸透圧が改善され,結果的に黄斑浮腫が改善するといわれている.透析導入することでを糖尿病黄斑浮腫を治療するうえで,透析導入が予測される症例については,抗CVEGF療法の適応やタイミングを再考慮する必要があり,また抗VEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置き,適宜隅角検査を行う必要があると考えられた.文献1)ElmanCMJ,CAielloCLP,CBresslerCNMCetal:RandomizedCtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserorCtriamcinoloneCplusCpromptClaserCforCdiabeticCmacularCedema.OphthalmologyC117:1064-1077,C20102)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20143)OguraY,ShiragaF,TerasakiHetal:Clinicalpracticepat-terninmanagementofdiabeticmacularedemainJapan:CsurveyCresultsCofCJapaneseCretinalCspecialists.CJpnCJCOph-thalmolC61:43-50,C20174)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal:Long-termCoutcomesCofCranibizumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:CRISEandRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)HeierCJS,CKorobelnikCJF,CBrownCDMCetal:IntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdema:148-WeekResultsfromtheVISTAandVIVIDStudies.OphthalmologyC123:C2376-2385,C20166)安藤文隆:糖尿病網膜症の治療の進歩血管新生緑内障の治療.眼科C39:41-47,C19977)湯澤美都子,小椋祐一郎,高橋寛二ほか:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌C115:67-75,C2011***

日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体 注射の長期治療成績

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):136.139,2018c日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の長期治療成績清水広之*1村松大弐*1若林美宏*1上田俊一郎*2馬詰和比古*1八木浩倫*1阿川毅*1川上摂子*1山本香織*1渡邉陽子*1塚原林太郎*2三浦雅博*2後藤浩*1*1東京医科大学眼科学分野*2東京医科大学茨城医療センター眼科IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapan:Long-termOutcomeHiroyukiShimizu1),DaisukeMuramatsu1),YoshihiroWakabayashi1),ShunichiroUeda2),KazuhikoUmazume1),HiromichiYagi1),TsuyosiAgawa1),SetsukoKawakami1),KaoriYamamoto1),YokoWatanabe1),RintaroTsukahara2),MasahiroMiura2)andHiroshiGoto1)1)TokyoMedicalUniversity,DepartmentofOphthalmology,2)TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,DepartmentofOphthalmology目的:日本人を対象とした糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の長期治療成績の報告.対象および方法:DMEにCIVRを行い,12カ月以上観察が可能であったC68眼を対象に後ろ向きに調査した.初回IVR後C6,12,18カ月の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した.結果:観察期間は平均C19.2カ月であった.治療前視力の平均ClogMAR値はC0.37で,治療後C6カ月でC0.25,12,18カ月後では,それぞれC0.23,0.24と有意な改善を示した.治療前の平均中心網膜厚はC477Cμmで,治療6,12,18カ月後にはC387,368,312Cμmと全期間で有意な改善を示した.治療開始後C18カ月後までのCIVR回数は平均C3.3回であり,経過中に光凝固はC23眼(33%)に,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射はC15眼(22%)に併用された.全経過観察期間中にC63眼(91%)で浮腫の再発がみられた.結論:日本人においても,IVRは長期にわたりCDMEの軽減と視機能の改善に有効であるが,再発例も多く,複数回の投与と追加治療を要する.CPurpose:Toreportthelong-terme.cacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,68eyesof54patientswithCDMECreceivedC0.5CmgCIVR.CCasesCwereCfollowedCupCforC12CmonthsCorClonger.CBestCcorrectedCvisualCacuity(BCVA;logCMAR)andCcentralCretinalCthickness(CRT)wereCtheCmainCoutcomeCassessments.CResults:MeanCfol-low-upperiodwas19.2months.BaselineBCVAandCRTwere0.37and477Cμm,respectively.At6months,BCVAhadCimprovedCtoC0.25CandCCRTChadCsigni.cantlyCdecreasedCtoC387Cμm,CcomparedCtoCbaseline(p<0.01).CAtC12monthsand18months,BCVAhadsigni.cantlyimprovedto0.23(p<0.01)and0.24(p<0.01),respectively;CRThaddecreasedto368Cμm(p<0.01)and312Cμm(p<0.01),respectively.TheaveragenumberofIVRwas3.3times.Amongallcases,63eyes(92%)experiencedrecurrentmacularedema.Conclusion:Intravitrealinjectionofranibi-zumabisane.ectivetreatmentforDME.However,multipleinjectionsandadditionaltreatmentsarerequired,duetofrequentrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):136.139,C2018〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗CVEGF抗体.ranibizum-ab,diabeticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-VEGF.C〔別刷請求先〕清水広之:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学眼科学分野Reprintrequests:HiroyukiShimizu,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1NishishinjukuShinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN136(136)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(136)C1360910-1810/18/\100/頁/JCOPYはじめに糖尿病網膜症は日本の視覚障害者の主原因疾患の一つであり,なかでも糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularCedema:DME)は糖尿病網膜症における視力障害の主要因子である.DMEの病態には血管内皮増殖因子(vascularCendothelialgrowthCfactor:VEGF)が関与していることが知られており1),VEGFの抑制がCDMEの制御にとってきわめて重要である.DMEに対する治療は,近年では抗CVEGF療法が治療の主体となりつつあり2,3),抗CVEGF抗体の一種でヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であるラニビズマブは,大規模研究であるCRISE&RIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された4).また,同様の大規模研究であるアジア人種を対象としたCREVEALstudy5)によって光凝固治療に対しても優位性が証明された.しかし,これらの研究の対象には厳しい組み入れ基準があるため,実臨床とは乖離している一面があり,また薬剤の投与についても臨床研究のためきわめて数多くの注射が行われているため,実臨床における反応性や効果についてはいまだに不明な点も残されている.以上の背景をもとに,2014年C2月からわが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,日本人症例に対して筆者らが行ってきた治療の長期成績について報告する.CI対象および方法対象はC2014年C3月.2014年C12月に,東京医科大学ならびに東京医科大学茨城医療センターで,DMEに対してラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealCinjectionCofranibizumab:IVR)で治療を開始し,12カ月以上経過観察が可能であったC54例C68眼(男性C41例,女性C13例)で,全例,日本人症例であった.治療時の年齢分布はC39.81歳で,平均年齢±標準偏差はC64.8C±10.2歳である.治療歴として,ベバシズマブからの切り替え症例がC20眼(29%)あった.また,初回CIVR施行眼はC48眼(71%)であり,これらのうちC19眼はまったくの無治療,29眼(43%)は光凝固やトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-tenonCinjec-tionCofCtriamcinoronCacetonide:STTA)による治療歴があった.治療プロトコールとして,IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(proCreCnata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくはC20%以上の中心網膜厚(centralCretinalCthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則としてCIVRを行った.浮腫の悪化がみられてもCIVRの同意が得られなかった場合や,IVR後の浮腫の改善が不十分な場合はCSTTAを施行した.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や黄斑部毛細血管瘤を認めたC17眼に対しては,IVRの後,1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固,血管瘤直接凝固,もしくはCtargetedCretinalCphotocoagulation:TRP6))を行い,残るC51眼はCIVR単独で治療を開始し,適宜追加治療を行った.これらC51眼のうちC19眼については,眼所見が安定するまで治療開始からC1カ月ごとにC2.3回の注射を行うCIVR導入療法を施行し,その後は必要時投与とした.検討項目は,IVR後C6,12,18カ月における完全矯正視力,および光干渉断層計3D-OCTC2000(トプコン)もしくはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditech)を用いて計測したCCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録をもとに後ろ向きに調査した.統計処理はStatViewを使用して,t-検定(Bonferroni補正),c2検定を行い,有意水準5%以下を有意と判断した.CII結果全C68眼の平均観察期間はC19.2C±4.0カ月(12.27カ月)であった.全症例おける治療前の平均CCRTはC476.5C±121.8Cμmであったのに対し,IVR後C6カ月の時点ではC387.2C±119.0Cμmと減少していた.CRTはC12カ月の時点でC367.6C±118.5Cμm,18カ月の時点でC312.6C±83.7Cμmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図1).全症例における治療前の視力のClogMAR値の平均はC0.37C±0.26であった.視力はCIVR後C6カ月でC0.25C±0.21へ改善し,IVR後C12,18カ月の時点でそれぞれC0.23C±0.23,0.24C±0.26であり,いずれの時点においても治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図2).治療前後の視力変化をClogMAR0.2区切りで検討すると,治療前と比較してCIVR後C6カ月の時点で改善例はC21眼(31%),不変例はC43眼(63%),悪化例はC4眼(6%)であり,12カ月の時点で改善例はC26眼(38%),不変例はC37眼(55%),悪化例はC5眼(7%),18カ月の時点で改善例はC18眼(40%),不変例はC25眼(56%),悪化例はC2眼(4%)であり,経時的に視力改善例が増加していた.治療前の小数視力が0.5以上を示した症例はC39眼(57%)存在したが,IVR後C6カ月ではC50眼(73%),12カ月でC49眼(72%),18カ月後でC35眼(78%)と,視力良好例の占める割合も増加していた(各々p<0.05,Cc2検定).一方,全経過観察期間中にC63眼(91%)で黄斑浮腫の再発がみられた.初回の注射施行後,最初に黄斑浮腫が再発するまでの期間は平均C3.9C±3.8カ月で,中央値はC2.5カ月であった.また,再注射後もC37眼(79%)がC2回目の再発をきたした.2回目の再発までの期間は平均C3.6C±3.2カ月で,中央値はC2.5カ月であった.初回治療後C6カ月までの平均CIVR回数はC2.3C±1.2回,12カ月までではC3.0C±1.9回,18カ月までではC3.3C±2.5回であ(137)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1375000.20中心網膜厚(μm)400logMAR0.30300治療前6カ月後12カ月後18カ月後n=68n=68n=68n=45図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化12カ月時点までの全C68眼および,追跡期間がC18カ月に達したC45眼についての各時点における中心網膜厚を示す.注射C6カ月で網膜厚は大きく減少し,その後もC12,18カ月と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.Cった.また,全経過観察期間中に,黄斑浮腫の改善目的や網膜無灌流領域に対し光凝固を併用した症例はC23眼(33%)黄斑浮腫の改善目的にCSTTAを併用した症例はC15眼(22%),存在した.今回の症例には,光凝固を併用した群と,IVR単独で治療した群が存在し,さらにCIVR単独群は,導入を行った群と,初回投与後CPRNで治療した群が存在したが,IVRの回数と,視力改善度,平均網膜厚の変化についてC3群に分けて再検討すると,12カ月の時点での平均CIVR回数は,併用群でC2.8C±1.8回,導入群でC4.1C±2.2回,初回投与後CPRN群でC2.2±1.4回と,導入群で他のC2群よりも有意に多く(p<0.01,ANOVA検定CBonferroni補正),18カ月の時点では,併用群でC3.0C±1.9回,導入群でC4.6C±2.9回,初回投与後CPRN群でC2.5C±1.9回と,導入群で他のC2群よりも有意に多かった(p<0.05,ANOVA検定CBonferroni補正).視力改善度,網膜厚の変化についてはC12,18カ月,いずれの時点でもC3群間に有意差は認めなかった(ANOVA検定CBonferroni補正).観察期間中に,眼内炎や網膜.離などの眼局所の重篤な合併症はきたさなかった.一方,脳梗塞,心筋梗塞,急性腎不全の発症および,ネフローゼ症候群の増悪をそれぞれC1例ずつ認めた.IVRから発生までの期間は,脳梗塞および急性腎不全はそれぞれC1カ月,ネフローゼの増悪はC3カ月,心筋梗塞はC14カ月であった.脳梗塞を発症した症例では,内科と連携したうえで,その後合計C4回のCIVRを行ったが,以降脳梗塞の再発は認めなかった.CIII考按無作為二重盲検試験であるCRISEC&CRIDECstudyにより,DMEに対するラニビズマブ治療の有効性が証明されたが4),この研究における治療プロトコールでは当初のC24カ月は毎0.40治療前6カ月後12カ月後18カ月後n=68n=68n=68n=45図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のClogMAR値を示す.注射C6カ月で視力は上昇し,18カ月の時点まですべての時点において,治療前と比較し有意に上昇している.†p<0.01.C月ラニビズマブ注射を行っており,多数回に及ぶ注射を要したうえでC12文字の視力改善が得られていた.その後,アジア人を対象として行われた光凝固との比較試験であるREVEALCstudyにおいては,当初のC3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降はC1カ月ごとの観察を継続し,必要に応じて再治療を行っている.その結果,治療開始後C12カ月の時点において平均C7.8回の注射を要したがC6.6文字の改善を得ており,1.8文字の改善に留まった光凝固との比較において,その優位性が報告された5).当院における治療方針では,25%(n=17)の症例ではIVR後C1.2週後に毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.28%(n=19)の症例ではC1カ月ごとにC2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行う方法で臨み,47%(n=32)の症例ではC1回の注射の後にCPRNとし,12カ月間で平均C3.0回,治療後C18カ月までにC3.3回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は減少し,視力も治療前と比較して治療後18カ月まで有意な向上が得られた.視力のデータをCETDRSの文字数に換算すると,12カ月の時点でC6.8文字,18カ月の時点においてC7.2文字の改善が得られた.この改善度はRISE&RIDEstudyの結果には及ばなかったが,REVEALstudyとはほぼ同等であった.なお,REVEALCstudyは組み入れ基準で治療前視力はCETDRSの文字数C39文字からC78文字までの症例に限っていたが,本研究の治療前の小数視力はC0.05.1.2までの症例を含んでおり,REVEALCstudyと比較して,より治療前視力の良好な例や,不良な例を多く含んでいたので,治療前視力が,REVEALと同等の症例のみ抽出して再検討すると,視力改善文字数はC12カ月の時点で7.3文字であり,改善度は全症例における検討よりもより良(138)好な結果となった.今回の筆者らの施設の検討で,少ない注射回数にもかかわらずCREVEALstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由としては,経過観察中に必要応じて積極的に毛細血管瘤への直接光凝固やCTRPと称される部分的な無灌流域に対する選択的光凝固を施行したことが考えられる.REVEALstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はわずかに劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均C7.8回であったのに対し,光凝固併用群でもC7.0回とやや少ない結果に留まっていた.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.国外での臨床研究における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,これが筆者らの治療成績との差異につながった可能性も考えられる.その他の要因として,適宜STTAを併用したことも関係している可能性が考えられる.DMEの病態進展にはCVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている7.10).DMEに対してフルオシノロンアセトニド徐放剤の硝子体投与の効果を検討したCFAMECstudy11)においても,DMEの網膜厚減少や視力改善などの効果が確認されている.また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をCSTTAによって抑制可能とする報告もあることから12),本研究におけるステロイドの併用がCVEGF以外の黄斑浮腫惹起因子を抑制していた可能性もある.今回の検討では,約C8週間でC8割以上の症例が再発を繰り返していた.今後もCIVRを行う際には厳密な経過観察とともに必要に応じた追加治療が必要と考えられ,適宜,光凝固やCSTTAなどの代替え治療も必要であると考えられた.また,DMEに対するラニビズマブ治療は加齢黄斑変性や静脈閉塞症への治療と比較して改善に時間を要するため,単回の注射のみで治療効果を判断しないことも肝要である13).以上,日本人のCDMEに対するラニビズマブ治療の長期成績も良好と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり症例数も十分とは言いがたい.また,DMEを含む糖尿病網膜症の発症にはさまざまな全身的な要因も関与するし,因果関係ははっきりしないものの,本研究でも全身的な合併症もみられたことから,今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FunatsuCH,CYamashitaCH,CIkedaCTCetCal:VitreousClevelsC(139)ofCinterleukin-6CandCvascularCendothelialCgrowthCfactorCareCrelatedCtoCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC110:1690-1696,C20032)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C20133)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科C33:111-114,C20164)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetCal;RIDECandRISECResearchCGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularCedema:the36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIICtrials:RISECandCRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)IshibashiT,LiX,KohAetal;REVEALStudyGroup:TheCREVEALCStudy:ranibizumabCmonotherapyCorCcom-binedCwithClaserCversusClaserCmonotherapyCinCAsianCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC122:1402-1415,C20156)TakamuraCY,CTomomatsuCT,CMatsumuraCTCetCal:TheCe.ectCofCphotocoagulationCinCischemicCareasCtoCpreventCrecurrenceCofCdiabeticCmacularCedemaCafterCintravitrealCbevacizumabCinjection.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C4741-4746,C20147)WakabayashiCY,CUsuiCY,COkunukiCYCetCal:IncreasesCofCvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsCinCpatientsCwithCconcurrentChypertensionCandCdia-beticretinopathy.RetinaC31:1951-1957,C20118)MuramatsuCD,CWakabayashiCY,CUsuiCYCetCal:CorrelationCofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesCinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:15-17,C20139)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:AqueoushumorlevelsCofCcytokinesCareCrelatedCtoCvitreousClevelsCandCpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmolC243:3-8,C200510)AdamisCAP,CMillerCJW,CBernalCMTCetCal:IncreasedCvas-cularCendothelialCgrowthCfactorClevelsCinCtheCvitreousCofCeyesCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC118:445-450,C199411)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CPearsonCACetCal;FAMEStudyCGroup:SustainedCdeliveryC.uocinoloneCacetonideCvitreousCinsertsCprovideCbene.tCforCatCleastC3CyearsCinCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC119:2125-2132,C201212)ShimuraCM,CYasudaCK,CShionoCT:PosteriorCsub-TenonC’sCcapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalCphotocoagulation-inducedCvisualCdysfunctionCinCpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.OphthalmologyC113:381-387,C200613)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC355:C1432-1444,C2006Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C139