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細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロ キサシン点眼液(DE-108点眼液)の第III相臨床試験

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):669.678,2012c細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロキサシン点眼液(DE-108点眼液)の第III相臨床試験大橋裕一*1井上幸次*2秦野寛*3外園千恵*4*1愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野*2鳥取大学医学部視覚病態学*3ルミネはたの眼科*4京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学PhaseIIIClinicalTrialof1.5%LevofloxacinOphthalmicSolution(DE-108)inBacterialConjunctivitisandBacterialKeratitisYuichiOhashi1),YoshitsuguInoue2),HiroshiHatano3)andChieSotozono4)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)HatanoEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:細菌性結膜炎および細菌性角膜炎患者における1.5%レボフロキサシン点眼液(1.5%LVFX点眼液,DE-108点眼液)の有効性と安全性を検討する.対象および方法:細菌性結膜炎患者221例,細菌性角膜炎患者17例を対象にオープンラベルで多施設共同試験を実施した.有効性は抗菌点眼薬臨床評価のガイドラインおよび日本眼感染症学会の効果判定基準に従い臨床効果より,安全性は副作用の発現率より評価した.結果:有効率は細菌性結膜炎で100.0%(170/170例),細菌性角膜炎でも100.0%(6/6例)であった.著効率は細菌性結膜炎で90.6%(154/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.副作用発現率は2.9%(7/238例)で,重篤な副作用は認められなかった.結論:1.5%LVFX点眼液は外眼部感染症に対して高い有効性と安全性を示した.また,高い著効率から,早期のqualityoflife改善が期待される.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyof1.5%levofloxacin(LVFX)ophthalmicsolutionintreatingbacterialconjunctivitis(BC)andbacterialkeratitis(BK).SubjectsandMethods:221patientswithBCand17patientswithBKenrolledinanopen-labeled,multicenterstudy.Efficacyandsafetywereevaluatedonthebasisofclinicalefficacyandtheincidenceofadversedrugreactions(ADR),respectively.Result:Theefficacyratewas100.0%forbothBCgroup(170/170)andBKgroup(6/6).Therespectivemarkedefficacyrateswere90.6%(154/170)and100.0%(6/6).TheoverallincidenceofADRwas2.9%(7/238).NoseriousADRwasobserved.Conclusion:Theseresultsindicatethat1.5%LVFXophthalmicsolutionishighlyeffectiveagainstmajorbacterialinfectionsoftheexternaleye,withgoodsafety.Inaddition,thehighmarkedefficacyratesuggeststhat1.5%LVFXophthalmicsolutionmightimprovepatientqualityoflifeduringtheearlyperiodofdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):669.678,2012〕Keywords:細菌性結膜炎,細菌性角膜炎,レボフロキサシン,キノロン系,第III相臨床試験.bacterialconjunctivitis,bacterialkeratitis,levofloxacin,quinolone,phaseIIIclinicaltrial.はじめに広い抗菌スペクトル,強い抗菌力,そして良好な組織移行性から,キノロン系抗菌点眼薬が外眼部感染症治療の第一選択薬として使用されている.これまでに数多くのキノロン系抗菌点眼薬が開発されているが,そのなかでも,レボフロキサシン(levofloxacin:LVFX)は,中性付近での水溶性が高く,良好な眼内移行を示すことから最も点眼液に適しており1,2),0.5%LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)として2000年に発売されて以来,高い有効性と安全性をもとに汎用されてきた.〔別刷請求先〕大橋裕一:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:YuichiOhashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)669 キノロン系抗菌薬は,細菌のDNAジャイレースおよびト表2試験実施医療機関一覧(試験実施時,順不同,敬称略)ポイソメラーゼIVを阻害することによりDNA複製を阻止することで抗菌力を示す.PK-PD(PharmacokineicsPharmacodynamics)理論からは濃度依存的な薬剤に分類されており,安全性面で問題がない限りにおいて,眼組織中濃度を最大限に高めることで治療効果のさらなる向上と耐性菌の出現抑制も期待できるとされている3,4).1.5%LVFX点眼液は,LVFXの高い水溶性を活かし,従来の0.5%LVFX点眼液を高濃度化した製剤である.ウサギでの検討において用量依存的な眼組織移行を示すことが確認されており1),ヒトにおいても高い眼組織移行が期待されるほか,その非臨床試験結果から,クラビットR点眼液0.5%と同等の安全性を確保できると推察されている5).実際,アメリカではすでに,1.5%LVFX点眼液(販売名IQUIXR)が,2007年より角膜潰瘍を対象疾患として医療現場で使用されており,多数例において,その有効性および安全性が確認されているところである6).わが国ではこれまで治療効果の向上および耐性菌出現抑制を目的とした高濃度キノロン系抗菌点眼薬の臨床試験の報告はない.今回,高濃度製剤化した1.5%LVFX点眼液について,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎を対象とし,有効性と安全性をオープンラベルの多施設共同試験で検討したので報告する.I対象および方法本試験は,ヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し,以下の対象および方法で実施された.1.対象おもな選択基準・除外基準は表1に示した.対象は全国24医療機関(表2)において受診した細菌性結医療機関名試験責任医師名医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院板橋隆三さど眼科佐渡一成堀之内駅前眼科黒田章仁医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院大竹博司医療法人湘陽会ルミネはたの眼科秦野寛医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹むらまつ眼科医院村松知幸たはら眼科田原恭治医療法人仁志会西眼科病院岩西宏樹医療法人社団景和会大内眼科大内景子医療法人幸友会岡本眼科クリニック岡本茂樹医療法人聖光会鷹の子病院眼科島村一郎医療法人社団馨風会徳島診療所中川尚高田ようこアイクリニック高田洋子金井たかはし眼科高橋義徳東京女子医科大学東医療センター眼科松原正男医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科石田玲子医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹杉浦眼科杉浦寅男医療法人財団神戸海星病院眼科片上千加子医療法人出田会出田眼科病院佐々木香る医療法人社団松六会道玄坂糸井眼科医院糸井素純特定医療法人財団明徳会総合新川橋病院眼科薄井紀夫膜炎および細菌性角膜炎患者であり,選択基準は7歳以上の性別および入院・外来を問わない患者で,細菌性結膜炎患者の場合は眼脂および結膜充血のスコアがそれぞれ(+)以上,細菌性角膜炎患者の場合は角膜浸潤のスコアが(+)以上の症例とした.試験開始前にすべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)7歳以上である(2)臨床所見より細菌性結膜炎または細菌性角膜炎と診断された患者で,以下の基準を満たす①細菌性結膜炎:眼脂および結膜充血のスコアがそれぞれ(+)以上②細菌性角膜炎:角膜浸潤のスコアが(+)以上2)おもな除外基準(1)臨床所見より,細菌以外による眼感染またはこれらの混合感染が否定できない(2)臨床所見より,アレルギー性結膜炎が疑われる,または試験期間中に症状が発現する恐れがある(3)同意取得3カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)および角膜屈折矯正手術の既往を有する(4)試験期間中に使用する予定の薬剤に対し,薬物アレルギーの既往歴がある(5)同意取得前1週間以内に抗生物質,合成抗菌薬が投与された(6)同意取得前1週間以内に副腎皮質ステロイド剤(眼瞼以外への皮膚局所投与は可とする)が投与された(7)コンタクトレンズの装用が必要である670あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(90) 表3検査・観察スケジュール有害事象については,被験薬との因果関係は問わず,被験0日目3日目7日目14日目試験中止時薬投与後に観察されたすべての自覚症状の発現・悪化および試験責任医師・分担医師が医学的に有害と判断した他覚所見被験者背景○の発現・悪化を有害事象とした.また,有害事象のうち,被点眼遵守状況○○○○自覚症状○○○○○験薬との因果関係が明確に否定できないものを副作用とし他覚所見○○○○○た.視力検査○○○臨床検査については0日目および試験終了時または中止時臨床検査○○○に,血液学的検査,血液生化学検査および尿検査を実施し,細菌検査○○○○○臨床検査値の異常変動の有無を確認した.有害事象○○○○○眼科的検査については0日目および試験終了時または中止時に,5m試視力表(またはそれに相当するもの)を用いて2.試験方法視力を測定し,その推移について検討した.a.試験薬剤4.併用薬剤および併用療法被験薬である1.5%LVFX点眼液として,1ml中にLVFX試験期間中の併用薬剤に関しては,被験薬以外の抗菌薬水和物15mg含有する防腐剤を含まない微黄色.黄色澄明(抗生物質,合成抗菌薬),副腎皮質ステロイド剤(眼瞼を除な水性点眼液を用いた.く皮膚局所投与は可)およびすべての眼局所投与製剤を禁止b.試験デザイン・投与方法した.ただし,細菌性角膜炎に対する散瞳剤の点眼は認め本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施た.した.また,試験期間中の併用療法に関しては,眼に対するレー被験者から文書による同意取得後,試験期間に移行した.ザー手術,観血的手術およびコンタクトレンズの装用を禁止被験薬の用法用量は細菌性結膜炎については1回1滴,1した.日3回とし,細菌性角膜炎については1回1滴,1日3.85.評価方法回(症状に応じて適宜増減可)とした.点眼期間は14日間a.有効性(許容範囲17日以内)とした.ただし,すべての自覚症状・主要評価項目は,臨床効果とし,抗菌点眼薬臨床評価のガ他覚所見が消失した場合には7日目で終了可とした.イドライン(案)および日本眼感染症学会の制定した効果判試験開始時(0日目),3日目,7日目,14日目の来院時に定基準(1985年)に基づき,「著効」,「有効」,「無効」,「悪表3のスケジュールに定められた検査・観察を実施した.化」の4段階に分類し,本剤の評価を行った(表4).3.検査・観察項目および検査・観察時期副次評価項目は,検出菌の消失日数,主症状の消失日数,被験者背景については年齢,性別および眼の合併症の有無主症状,自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移とした.などに関する情報を収集した.両眼が細菌性結膜炎または細菌性角膜炎を罹患していた場自覚症状については異物感,流涙,眼痛,眼掻痒感および合には,選択基準を満たし,かつ主症状の点数が高いほうの羞明について,その症状の程度を確認し(.).(+++)点で点眼を評価対象眼とし,主症状の点数が同じ場合には,自覚症数化した.他覚所見については眼脂,結膜充血,結膜浮腫,状・他覚所見の点数の合計が高いほうの眼とした.また,合眼瞼腫脹,角膜浸潤,角膜上皮欠損,前房内炎症,角膜浮腫計スコアも同じ場合には,右眼を評価対象眼とした.および毛様充血について,その所見の程度を確認し(.).初診時の細菌検査で複数の菌が検出された場合において(+++)点で点数化した.自覚症状,他覚所見の点数化の基準は,特定菌(Haemophilusinfluenzae,Moraxellaspecies,は以下のとおりとした.Pseudomonasaeruginosa,Streptococcuspneumoniae,(+++):症状・所見が高度のものStaphylococcusaureus)が検出された場合はこれを起炎菌と(++):症状・所見が中等度のものし,特定菌以外の菌のみが検出された場合は検出された菌す(+):症状・所見が軽度のものべてを起炎菌として取り扱った.(±):症状・所見がほぼないものb.安全性(.):症状・所見がないもの安全性は,有害事象および副作用,臨床検査値の異常変細菌検査については評価対象眼の患部を綿棒で擦過して検動,眼科的検査(視力検査)結果の推移をもとに評価した.体を採取し,カルチャースワブに封入し,三菱化学メディエ6.解析方法ンス株式会社が分離,同定および薬剤感受性試験を実施し有効性の解析対象集団の検討には,最大の解析対象集団た.(FAS:FullAnalysisSet)を対象とし,診断名別に解析を(91)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012671 表4臨床効果判定基準著効:3日目の観察までに検出菌が消失し,かつ7日目の観察までに主症状が消失しているもの.ただし7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/4以下にならないものは有効とする.有効:以下1.3のいずれかを満たすもの.1.7日目の観察までに検出菌が消失し,かつ14日目の観察までに主症状が消失しているもの.ただし14日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/4以下にならないものは無効とする.2.3日目の観察までに検出菌が消失し,かつ7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/2以下になったもの.3.検出菌が消失しなくても,7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/3以下になったもの.無効:有効以上に該当する効果を示さなかったもの.悪化:有効以上に該当する効果を示さず,かつ主症状または自覚症状・他覚所見の合計スコアが0日目の観察より悪化したもの.検出菌の消失とは,以下のいずれかを満たす場合とする.①0日目の細菌検査で,特定菌(インフルエンザ菌,モラクセラ菌,緑膿菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌)が検出され,以降の細菌検査でその特定菌が検出されなかった場合(特定菌以外の菌の有無は問わない).②0日目の細菌検査で,特定菌が検出されないが,特定菌以外の菌が検出され,以降の細菌検査でその菌が検出されなかった場合.行った.主要評価項目である臨床効果については,分布を集計し,有効率の95%信頼区間を算出した.副次評価項目のうち,検出菌の消失日数および主症状の消失日数については,3日目,7日目,14日目,消失せずに分類し,分布を集計した.主症状および自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移については,時期別の測定値を示し,0日目に対する前後比率の集計を行い,対応あるt検定を行った.安全性の解析対象集団の検討には,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者を対象とし,診断名別に解析を行った.安全性の解析のうち,有害事象および副作用については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.視力検査については,対応のあるt検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,信頼区間は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.1(SASInstituteInc.,Cary,NC)を用いた.II結果1.被験者背景文書同意が得られ,試験に組み入れられた症例は238例(細菌性結膜炎221例,細菌性角膜炎17例)であった.そのうち,菌陰性例などを除く176例(細菌性結膜炎170例,細菌性角膜炎6例)が有効性解析対象集団としてFASに採用された.また,238例(細菌性結膜炎221例,細菌性角膜炎17例)すべてが安全性解析対象集団として採用された(図1).FASにおける被験者背景を表5に示す.年齢の平均は50.8±22.2歳,8.87歳の幅広い患者層が組み入れられた.2.有効性a.臨床効果本剤の点眼による臨床効果を疾患別に図2に示した.有効率(著効または有効であった症例の割合)は,細菌性有効性解析対象(FAS)の被験者:176例細菌性結膜炎:170例細菌性角膜炎:6例安全性解析対象の被験者:238例細菌性結膜炎:221例細菌性角膜炎:17例文書同意を得た被験者:238例細菌性結膜炎:221例細菌性角膜炎:17例安全性解析対象除外:0例細菌性結膜炎:0例細菌性角膜炎:0例有効性解析対象(FAS)除外:62例細菌性結膜炎:51例細菌性角膜炎:11例図1有効性および安全性の解析対象集団の内訳672あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(92) 表5被験者背景項目分類細菌性結膜炎細菌性角膜炎合計例数1706176性別男性女性83(48.8)87(51.2)2(33.3)4(66.7)85(48.3)91(51.7)年齢Minimum.MaximumMean±SD15歳未満(小児)15歳以上(非小児)65歳未満(非高齢者)65歳以上(高齢者)8.8750.4±22.14(2.4)166(97.6)105(61.8)65(38.2)27.8362.8±24.20(0.0)6(100.0)2(33.3)4(66.7)8.8750.8±22.24(2.3)172(97.7)107(60.8)69(39.2)眼の合併症の有無なしあり122(71.8)48(28.2)4(66.7)2(33.3)126(71.6)50(28.4)例数(%).■:著効:有効全体(n=176)90.9%9.1%細菌性結膜炎90.6%9.4%(n=170)細菌性角膜炎(n=6)100.0%0102030405060708090100割合(%)図2臨床効果細菌性結膜炎および細菌性角膜炎の著効率はそれぞれ90.6%および100.0%,有効率はいずれも100.0%であった.結膜炎で100.0%(170/170例),細菌性角膜炎でも100.0%(6/6例)であり,無効例および悪化例は認められなかった.著効率(著効であった症例の割合)は,細菌性結膜炎で90.6%(154/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.b.初診時検出菌消失日数初診時検出菌の消失日数を表6に示した.3日目までに検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で95.3%(162/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.細菌性結膜炎の1例(検出菌:Corynebacteriumspecies,a-hemolyticstreptococci)を除くすべての症例において,7日目までに検出菌の消失を認めた.c.主症状消失日数主症状の消失日数を表7に示した.7日目までに主症状が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で96.5%(164/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.細菌性結膜炎の2例を除くすべての症例において,14日目までに主症状の消失を認めた.(93)表6初診時検出菌消失日数分類例数3日目7日目14日目消失せず細菌性結膜炎170162(95.3)7(4.1)0(0.0)1(0.6)細菌性角膜炎66(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)全体176168(95.5)7(4.0)0(0.0)1(0.6)例数(%).表7主症状消失日数分類例数3日目7日目14日目消失せず細菌性結膜炎170115(67.6)49(28.8)4(2.4)2(1.2)細菌性角膜炎64(66.7)2(33.3)0(0.0)0(0.0)全体176119(67.6)51(29.0)4(2.3)2(1.1)例数(%).d.主症状スコア,自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移主症状スコアの推移を図3に示した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,主症状スコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(細菌性結膜炎:3日目,7日目および14日目いずれもp<0.001,細菌性角膜炎:3日目および7日目ではp<0.001,14日目ではp値算出不能)自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移を図4に示した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,自覚症状・他覚所見の合計のスコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(細菌性結膜炎:3日目,7日目および14日目いずれもp<0.001,細菌性角膜炎:3日目および7日目ではp<0.001,14日目ではp=0.007)e.臨床分離株の薬剤感受性試験に登録された238例より分離された菌株数は330株であった.おもな検出菌はグラム陽性球菌が44.5%(147/330株),グラム陽性桿菌が27.3%(90/330株)であった.臨床あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012673 ***************:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎***************:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎162.014120日目***********:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎合計スコア1.5主症状スコア108641.00.520******0.03日目7日目14日目0日目3日目7日目14日目n=(170)(170)(167)(70)(6)(6)(6)(2)図3主症状スコアの推移(実測値)細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,主症状スコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(***:p<0.001,対応あるt検定)分離株のLVFXに対する薬剤感受性を表8に示した.特定菌に分類される菌種に対するLVFXのMIC90(90%最小発育阻止濃度)は,Staphylococcusaureus(MSSA)で0.5μg/ml,Streptococcuspneumoniaeで1μg/ml,Haemophilusinfluenzaeで≦0.06μg/mlであった.また,Corynebacteriumspecies,Staphylococcusepidermidis(MRSE)およびStaphylococcusepidermidis(MSSE)に対するLVFXのMIC90について,Corynebacteriumspeciesで128μg/ml,Staphylococcusepidermidis(MRSE)で4μg/ml,Staphylococcusepidermidis(MSSE)で0.25μg/mlであった.f.初診時検出菌別の臨床効果本試験より初診時に検出された菌の初診時検出菌別の臨床効果を表9に示した.MIC90が比較的高値であったCorynebacteriumspeciesを含め,検出されたすべての菌種において有効率100.0%であった.3.安全性a.有害事象および副作用本試験に登録した238例,全例が安全性解析対象集団として採用された.試験期間中に発現した有害事象および副作用の発現率を表10に,副作用一覧を表11に示した.有害事象の発現率は10.9%(26/238例,28件)で,副作用の発現率は2.9%(7/238例,7件)であった.最も多く認められた副作用は「眼刺激」1.3%(3/238例,3件)であった.0.5%LVFX点眼液から1.5%LVFX点眼液に高濃度化することにより新たに認められた副作用は,軽度の「味覚異常(苦味)」0.8%(2/238例,2件)のみであった.有害事象の発現による中止例は2.1%(5/238例,5件)で認められた.そのうち副作用の発現による中止例は「じんま674あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012n=(170)(170)(167)(70)(6)(6)(6)(2)図4自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移(実測値)細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,自覚症状・他覚所見の合計のスコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(***:p<0.001,**:p<0.01,対応あるt検定)疹(両大腿部の湿疹および四肢の掻痒感)」の1例のみであった.本事象は軽度であり被験薬投与中止後に速やかに消失した.本事象を含め,認められたすべての副作用の程度は軽度であり,試験期間中または試験期間終了後に速やかに回復した.また,年齢や性別による,副作用の発現率および重症度の差はみられなかった.b.臨床検査値の異常変動薬剤との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は認められなかった.c.眼科的検査(視力検査)臨床的に問題となる視力の変動は認められなかった.III考察今回,0.5%LVFX点眼液を高濃度製剤化した1.5%LVFX点眼液の有効性と安全性を,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎を対象としたオープンラベルの多施設共同試験により検討した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する有効率は,いずれも100.0%であり,高い臨床効果が認められた.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎でそれぞれ90.6%および100.0%と非常に高い著効率を示し,早期からQOL(qualityoflife)の改善が期待できる薬剤であることがうかがわれた.過去にも,本試験と同様の有効性評価基準を用いて,多くのキノロン系抗菌点眼薬が臨床試験において評価されてきた7.19)が,小児対象の試験のように患者層が限定されているケースや症例数が少数のケースを除き,有効率100.0%を示した報告はこれまでにない.過去に実施された臨床試験(第II相試験,第III相試験,一般臨床試験の累計)での0.5%(94) 表8臨床分離株のLVFXに対する薬剤感受性分類菌名株数薬剤MICrangeMIC50MIC80MIC90Staphylococcusaureus(MSSA)35LVFX0.12.0.50.250.250.5Staphylococcusaureus(MRSA)1LVFX8.8───Staphylococcusepidermidis(MSSE)32LVFX≦0.06.20.250.250.25Staphylococcusepidermidis(MRSE)26LVFX0.12.8444グラム陽性球菌Coagulasenegativestaphylococci10LVFX0.12.10.250.50.5Streptococcuspneumoniae27LVFX0.25.10.511GroupGstreptococci2LVFX0.25.0.5───a-hemolyticstreptococci10LVFX0.12.2111Enterococcusfaecalis4LVFX0.5.1111グラム陽性桿菌Corynebacteriumspecies90LVFX≦0.06.>1280.564128Klebsiellaoxytoca2LVFX≦0.06.≦0.06───Enterobacteraerogenes1LVFX≦0.06.≦0.06───Enterobacterspecies1LVFX≦0.06.≦0.06───Serratiamarcescens2LVFX≦0.06.0.12───Proteusmirabilis1LVFX1.1───Proteusvulgaris1LVFX≦0.06.≦0.06───Providenciarettgeri1LVFX0.25.0.25───Pantoeaagglomerans5LVFX≦0.06.≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06Citrobacterkoseri1LVFX≦0.06.≦0.06───グラム陰性桿菌Burkholderiacepacia1LVFX0.5.0.5───Stenotrophomonasmaltophilia1LVFX1.1───Acinetobactercalcoaceticus1LVFX≦0.06.≦0.06───Acinetobacterspecies2LVFX0.5.0.5───Alcaligenesxylosoxidans10LVFX1.2122Alcaligenesfaecalis1LVFX1.1───Comamonasacidovorans4LVFX0.12.0.120.120.120.12Sphingomonaspaucimobilis1LVFX0.25.0.25───Nonglucosefermentativegram-negativerods6LVFX≦0.06.20.250.52Haemophilusinfluenzae19LVFX≦0.06.≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06嫌気性グラム陽性菌Propionibacteriumacnes30LVFX0.5.0.50.50.50.5Anaerobicgram-positiverods1LVFX0.25.0.25───嫌気性グラム陰性菌Prevotellaspecies1LVFX0.25.0.25───全体330LVFX≦0.06.>1280.518※3株未満の場合はMIC値を算出せず.LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)の著効率は,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対して,それぞれ64.5%および71.4%であり,今回の1.5%LVFX点眼液の著効率はこれらの値を大きく上回っている.さらに,これまでに報告されている他のキノロン系抗菌点眼薬の著効率についてみても,0.3%ガチフロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する57.6%10),細菌性角膜炎に対する44.4%11),0.5%モキシフ(95)ロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する46.0%17)および53.8%19),細菌性角膜炎に対する30.0%18),0.3%トスフロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する37.5%14)および38.0%15),細菌性角膜炎に対する36.4%14)の数値を1.5%LVFX点眼液の著効率は凌駕している.同様の傾向は,菌あるいは症状消失率にもうかがえる.たとえば,1.5%LVFX点眼液の場合,初診時検出菌が3日目あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012675 表9初診時検出菌別臨床効果臨床効果疾患名菌名例数著効有効無効悪化有効率Staphylococcusaureus(MSSA)3433(97.1)1(2.9)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusaureus(MRSA)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusepidermidis(MSSE)3028(93.3)2(6.7)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusepidermidis(MRSE)2322(95.7)1(4.3)0(0.0)0(0.0)100.0Coagulasenegativestaphylococci87(87.5)1(12.5)0(0.0)0(0.0)100.0Streptococcuspneumoniae2520(80.0)5(20.0)0(0.0)0(0.0)100.0GroupGstreptococci22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0a-hemolyticstreptococci87(87.5)1(12.5)0(0.0)0(0.0)100.0Enterococcusfaecalis44(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Corynebacteriumspecies7463(85.1)11(14.9)0(0.0)0(0.0)100.0Klebsiellaoxytoca22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Enterobacteraerogenes11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Enterobacterspecies11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0細菌性結膜炎Serratiamarcescens11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Proteusmirabilis11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Proteusvulgaris11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Pantoeaagglomerans44(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Citrobacterkoseri11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Burkholderiacepacia11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Acinetobactercalcoaceticus11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Alcaligenesxylosoxidans77(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Comamonasacidovorans33(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Nonglucosefermentativegram-negativerods22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Haemophilusinfluenzae1716(94.1)1(5.9)0(0.0)0(0.0)100.0Propionibacteriumacnes1310(76.9)3(23.1)0(0.0)0(0.0)100.0Anaerobicgram-positiverods10(0.0)1(100.0)0(0.0)0(0.0)100.0Prevotellaspecies11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusaureus(MSSA)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0細菌性角膜炎Staphylococcusepidermidis(MSSE)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Corynebacteriumspecies55(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Serratiamarcescens11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0例数(%).表10有害事象および副作用の発現率項目細菌性結膜炎細菌性角膜炎合計例数22117238有害事象24(10.9)2(11.8)26(10.9)副作用6(2.7)1(5.9)7(2.9)例数(%).676あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で95.3%,細菌性角膜炎で100.0%,主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で96.5%,細菌性角膜炎で100.0%であったが,他方で,過去に実施されたクラビットR点眼液0.5%の臨床試験(第II相試験,第III相試験,一般臨床試験の累計)における,3日目までに初診時検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で84.1%,細菌性角膜炎で90.0%,主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結(96) 表11副作用発現率一覧細菌性結膜炎細菌性角膜炎全体器官大分類(SOC)基本語(PT)発現率:6/221(2.7)重症度発現率:1/17(5.9)重症度発現率:7/238(2.9)重症度軽度中等度高度軽度中等度高度軽度中等度高度眼刺激2(0.9)──1(5.9)──3(1.3)──眼障害眼掻痒症1(0.5)─────1(0.4)──小計3(1.4)──1(5.9)──4(1.7)──味覚異常2(0.9)─────2(0.8)──神経系障害小計2(0.9)─────2(0.8)──皮膚およびじんま疹1(0.5)─────1(0.4)──皮下組織障害小計1(0.5)─────1(0.4)──合計(件数)6──1──7──例数(%).膜炎で78.0%,細菌性角膜炎で86.7%にとどまっている.また,0.5%モキシフロキサシン点眼液についても,3日目までに初診時検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で76.3%17)および82.3%19),細菌性角膜炎で70.0%18),主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で60.4%17)および70.0%19),細菌性角膜炎で40.0%18)であり,1.5%LVFX点眼液には及ばない.このように,1.5%LVFX点眼液による早期の菌消失は視機能の維持・改善に,早期の症状消失は患者のQOL向上につながることが大いに期待される.本試験における初診時検出菌については,グラム陽性菌の割合が高く,細菌性結膜炎の場合,Corynebacteriumspecies,Staphylococcusepidermidis,Staphylococcusaureus,Propionibacteriumacnes,Streptococcuspneumoniae,Haemophilusinfluenzaeが上位を占めた.1.5%LVFX点眼液はグラム陰性菌のほか,MIC90が比較的高値を示したCorynebacteriumspeciesを含むグラム陽性菌に対しても高い臨床効果を示しており,すべての菌種に対して有効以上であった.なお,本試験で臨床分離された菌株の薬剤感受性を,クラビットR点眼液0.5%の発売後の5年間(2000年5月から2004年12月まで)で実施された全国サーベイランスの薬剤感受性結果20.22),ならびにCOI(Core-NetworkofOcularInfection)による細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間(2004年11月から2009年12月まで)の動向調査23)と比較しても顕著な低下はない.ただし,MICが高値を示す菌種も一部検出されており,これについては引き続きその動向を慎重に追跡していく必要がある.1.5%LVFX点眼液の副作用の発現頻度は2.9%であり,他の抗菌点眼薬の副作用発現率(1.69.5.83%:クラビットR(97)点眼液0.5%,ガチフロR点眼液0.3%,ベガモックスR点眼液0.5%およびオゼックスR点眼液0.3%の添付文書より)と比較して同程度の安全性であった.投与中止に至った副作用として「じんま疹」1例がみられたが,これは,クラビットR点眼液0.5%およびその他のキノロン系抗菌点眼薬でもこれまで認められている範疇のものである.その他の副作用の程度はすべて軽度であり,高濃度化することにより新たに認められた副作用は,LVFXの原薬の苦味に由来すると思われる軽度の「味覚異常(苦味)」2例のみであり,また,副作用の発現率や重症度について,年齢および性別による差はみられなかった.米国ではすでに2007年より,角膜潰瘍を対象疾患として1.5%LVFX点眼液(販売名IQUIXR)が,医療現場で使用されているが,安全性に関する問題は特に認められていない.一方で,今回の対象疾患は細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に限定されているため,今後は,他の疾患での安全性の確認は必要である.近年,PK-PD理論のもと,抗菌薬の有効性は薬物動態と密接に関連することが示されている.全身薬の領域では,高用量製剤であるクラビットR錠500mgが2009年7月より販売されており,PK-PDの観点から,高い治療効果と耐性菌の出現抑制に期待が寄せられている.本剤についても,invitroシミュレーションモデルにおいて,0.5%LVFX点眼液よりも優れた,Staphylococcusaureus(MSSA)およびPseudomonasaeruginosaに対する耐性化の抑制効果を有することが確認されている.細菌性眼感染症の診療においては,起炎菌が特定できない場合,疾患・菌種によっては症状の進行が急速で予後不良の場合もあるため24.27),重症化を阻止するには,早期診断に加えて早期治療を確実かつ効果的に行うことが肝要である.幅広い菌種に対して高い有効性と安全性を併せ持つ1.5%あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012677 LVFX点眼液の登場により,重症患者への治療もより効率的となり,結果として,医療現場での満足度が高まることが期待される.ただし,世界的に抗菌薬の創出が困難な状況下では,無用な耐性菌の出現を抑制するために,本剤の適正使用を推進していくことが重要である.文献1)河嶋洋一,高階秀雄,臼井正彦:オフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液の薬動力学的パラメーター.あたらしい眼科12:791-794,19952)佐々木一之,三井幸彦,福田正道ほか:点眼用抗菌薬の眼内薬動力学的パラメーターとしてのAQCmaxの測定.あたらしい眼科12:787-790,19953)佐藤玲子,谷川原祐介:2.抗菌薬のPK/PD.医薬ジャーナル41:67-74,20054)PrestonSL,DrusanoGL,BermanALetal:Pharmacodynamicsoflevofloxacin:anewparadigmforearlyclinicaltrials.JAMA279:125-129,19985)ClarkL,BezwadaP,HosoiKetal:Comprehensiveevaluationofoculartoxicityoftopicallevofloxacininrabbitandprimatemodels.JToxicolCutanOculToxicol23:1-18,20046)McDonaldMB:Researchreviewandupdate:IQUIX(levofloxacin1.5%).IntOphthalmolClin46:47-60,20067)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の臨床第二相試験─多施設二重盲検法─.あたらしい眼科14:299-307,19978)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の臨床第III相試験─多施設二重盲検法─.あたらしい眼科14:641-648,19979)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の第三相一般臨床試験.あたらしい眼科14:1113-1118,199710)大橋裕一,秦野寛:細菌性結膜炎に対するガチフロキサシン点眼液の臨床第III相試験(多施設無作為化二重盲検比較試験).あたらしい眼科22:123-131,200511)大橋裕一,秦野寛:0.3%ガチフロキサシン点眼液の多施設一般臨床試験.あたらしい眼科22:1155-1161,200512)秦野寛,大橋裕一,宮永嘉隆ほか:小児の細菌性外眼部感染症に対するガチフロキサシン点眼液の臨床成績.あたらしい眼科22:827-831,200513)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の急性細菌性結膜炎を対象としたプラセボとの二重遮蔽比較試験.あたらしい眼科23(別巻):55-67,200614)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の細菌性外眼部感染症を対象とするオープン試験.あたらしい眼科23(別巻):68-80,200615)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:ニューキノロン系抗菌点眼液TN-3262a(0.3%トシル酸トスフロキサシン点眼液)の細菌性結膜炎を対象としたレボフロキサシンとの二重遮蔽比較多施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):95-110,200616)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽多施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):118-129,200617)下村嘉一,大橋裕一,松本光希ほか:細菌性結膜炎に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相比較試験─多施設無作為化二重遮蔽比較試験─.あたらしい眼科24:1381-1394,200718)松本光希,大橋裕一,臼井正彦ほか:細菌性角膜炎(角膜上皮炎,角膜潰瘍)に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相試験─多施設共同試験─.あたらしい眼科24:13951405,200719)岡本茂樹,大橋裕一,臼井正彦ほか:細菌性外眼部感染症に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相試験(多施設共同試験).あたらしい眼科24:1661-1674,200720)松崎薫,小山英明,渡部恵美子ほか:眼科領域における細菌感染症起炎菌のlevofloxacin感受性について.化学療法の領域19:431-440,200321)松崎薫,渡部恵美子,鹿野美奈ほか:2002年2月から2003年6月の期間に細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性.あたらしい眼科21:1539-1546,200422)小林寅喆,松崎薫,志藤久美子ほか:細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性動向について.あたらしい眼科23:237-243,200623)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,201124)松本光希:2.感染症細菌性角膜潰瘍.眼の感染・免疫疾患正しい診断と治療の手引き,p28-33,メジカルビュー社,199725)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,200726)松本光希:細菌性角膜炎の起炎菌別の特徴のポイントは?.あたらしい眼科26(臨増):20-22,200927)北川和子:細菌性角膜炎の治療のポイントは?あたらしい眼科26(臨増):32-34,2009***678あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(98)

細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究)

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(77)679《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(5):679.687,2011c細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究)小早川信一郎*1井上幸次*2大橋裕一*3下村嘉一*4臼井正彦*5COI細菌性結膜炎検出菌スタディグループ*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学*3愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学*4近畿大学医学部眼科学教室*5東京医科大学Five-YearTrendSurveyinJapan(MulticenterStudy)ofBacterialConjunctivitisIsolatesandTheirDrugSensitivityShinichiroKobayakawa1),YoshitsuguInoue2),YuichiOhashi3),YoshikazuShimomura4),MasahikoUsui5)andCore-NetworkofOcularInfectionStudyGroupofIsolatefromBacterialConjunctivitisinJapan1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMeidicine,5)TokyoMedicalUniversityわが国における細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の現状を把握するため,2004年11月から2009年12月までの5年間,全国27施設を受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された症例615例を対象に,結膜から検体を採取後,阪大微生物病研究会に送付して培養を行い,症例背景(年齢,地域,受診施設など),検出菌種,薬剤感受性についてその経年変化を検討した.症例背景では,調査年による大きな差はみられず,年齢においては高齢者が多数を占めた(65歳以上45.9%).全被験者615例より検体採取が可能であり,1,156株の細菌が検出された.検出菌の内訳は,Staphylococcusepidermidis19.3%,Propionibacteriumacnes14.4%,Streptococcusspp.13.0%,Staphylococcusaureus10.8%などで,調査期間を通じてグラム陽性菌が約60%,グラム陰性菌が約20.25%,嫌気性菌が約15.20%検出され,地域にかかわらず同様の傾向を示した.薬剤感受性は累積発育阻止率曲線で比較した場合,全菌種を合わせるとレボフロキサシン(LVFX)と塩酸セフメノキシム(CMX)の感受性が高かった.菌種別のLVFXに対する薬剤感受性では,S.aureus(MSSA〔メチシリン感受性黄色ブドウ球菌〕)とP.acnesは高い感受性を示したが,Corynebacteriumspp.に対する感受性は低かった.薬剤感受性は5年間を通じて大きな変化を認めなかった.ToinvestigatethecurrenttendencyinJapanregardingbacterialconjunctivitiscasesandthedrugsensitivityoftheisolatedbacteria,conjunctivalswabsweretakenfrompatientswithsuspectedbacterialconjunctivitisat27institutionsnationwidebetweenNovember2004andDecember2009.TheswabbedsamplesweresenttotheResearchInstituteofMicrobialDiseasesatOsakaUniversity,whereweinvestigatedpatientbackground(e.g.,age,area,institution),isolatedbacterialstrainsanddrugsensitivityduringthatperiod.Therewerenosignificantchangesinbackgroundthroughoutthesurveyperiod.Agedpatientsaccountedforalargeportionofthecases(45.9%ofthepatientswereover65yearsold).Swabswerecollectedfrom615patients,and1,156bacterialstrainswerecollected.Ofthosestrains,19.3%wereStaphylococcusepidermidis,14.4%werePropionibacteriumacnes,13.0%wereStreptococcusspp.and10.8%wereStaphylococcusaureus.Ofthestrainsfoundduringthesurveyperiod,approximately60%weregram-positive,20-25%weregram-negativeand15-20%wereanaerobic,regardlessofarea.Whendrugsensitivitywascomparedusingcumulativegrowthinhibitioncurves,thosestrainsshowedhighsensitivitytolevofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX),overall.S.aureus(MSSA〔methicillinsensitiveStaphylococcusaureus〕)andP.acnesshowedhighsensitivitytoLVFX;however,Corynebacteriumspp.showedlowsensitivity.Therewerenosignificantchangesindrugsensitivitythroughoutthe5-yearperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):679.687,2011〕〔別刷請求先〕小早川信一郎:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:ShinichiroKobayakawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,7-5-23Omori-Nishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN680あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(78)はじめに細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択・投与方法は,起炎菌を検出したうえでその細菌に最も感受性のある薬剤を選択することである.しかし日常臨床では,患者の苦痛の早期軽減や社会生活への影響を考慮して,起炎菌の検出を待たずに治療を行う場合がほとんどであり,起炎菌の同定を行う前に汎用されている抗菌点眼薬を処方するのが現状である.一方,細菌の抗菌薬感受性には経年変化が認められること,近年メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌による感染症の拡大に伴い,耐性菌対策が必須であることから,日常臨床における抗菌薬選択の重要性は高く,細菌性結膜炎の起炎菌の動向を把握しておくことは意義あることと思われる.そこで,筆者らCore-NetworkofOcularInfection(COI)のメンバーは,多施設における細菌性結膜炎の検出菌の動向と薬剤感受性の現状を把握し,今後の抗菌薬投与の指標となる有益な情報を得るために,新たな共同研究組織であるCOI細菌性結膜炎検出菌スタディグループを組織した.そして,2004年11月より2009年までの5年間,全国27施設を受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された症例615例を対象に,結膜から検体を採取して同一施設で培養を実施し,症例背景(年齢,地域,受診施設),検出菌種,薬剤感受性について検討を行った.初年度の結果についてはすでに報告した1)が,今回,5年間の予定調査期間を終了したので,その結果を報告する.I対象および方法対象は,全国の約27施設(大橋眼科[北海道],くろさき眼科[新潟県],栃尾郷病院[新潟県],阿部眼科[秋田県],東京医科大学[東京都],東京医科大学八王子医療センター[東京都],東邦大学[東京都],とだ眼科[埼玉県],鹿嶋眼科クリニック[茨城県],いずみ記念病院[東京都],上沼田クリニック[東京都],ルミネはたの眼科[神奈川県],稲田登戸病院[神奈川県],いこま眼科医院[石川県],バプテスト眼科クリニック[京都府],大橋眼科[大阪府],岡本眼科クリニック[愛媛県],愛媛大学[愛媛県],鷹の子病院[愛媛県],町田病院[高知県],魚谷眼科医院[鳥取県],大分県立病院[大分県],新別府病院[大分県],NTT西日本九州病院[熊本県],熊本赤十字病院[熊本県],熊本大学[熊本県],中頭病院[沖縄県].ただし,研究参加年数が4年以下の施設も含む.)を,初年度(第1回:2004年11月,第2回:2005年2月,第3回:2005年5月,第4回:2005年8月),2年度(第5回:2006年2月,第6回:2006年11月),3年度(第7回:2007年11月),4年度(第8回:2008年11月,第9回:2009年2月),5年度(第10回:2009年11月.12月)の各調査期間に受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された患者である.症例総数は615例(男性266例,女性344例,不明5例)で,年齢は生後0~99歳(平均年齢52.2歳)で,年齢不明を除き50.2%(309名)が60歳以上であった(図1).また,7.2%(44例)がコンタクトレンズ(CL)を装用していた.患者から同意を得た後,症状の重いほうの片眼の結膜を擦過して採取した検体を,輸送用培地「AMIESCARBON」を用いて阪大微生物病研究会(阪大微研)に送付し,好気・嫌気培養を行い,細菌の分離・同定を行った.そして,検出菌,地域別の検出菌,施設別の検出菌,年齢別の検出菌,季節別の検出菌,CL装用の有無による検出菌のそれぞれの内訳を検討した.また,検出菌に対して日本化学療法学会の標準法により,レボフロキサシン(LVFX),ミクロノマイシン(MCR),エリスロマイシン(EM),クロラムフェニコール(CP),スルベニシリンナトリウム(SBPC),塩酸セフメノキシム(CMX)の6剤の最小発育阻止濃度(MIC)を測定し,その結果を累積発育阻止率曲線で表した.なお,調査期間中,MCRの製造中止に伴い,4年度からはトブラマイシン(TOB)に変更した.さらに,今回の研究では,結膜炎以外の外眼部疾患を有する症例および参加施設の受診以前に抗菌薬が投与されていた症例は除外した.II結果1.細菌分離率全症例615例のなかで細菌が分離されたのは587例(細菌陽性率95.4%)であり,男性263例,女性319例で,年齢は生後0~99歳(平均年齢52.2歳)であった.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):000.000,2011〕Keywords:多施設共同研究,細菌性結膜炎,検出菌,薬剤感受性.multicenterstudy,bacterialconjunctivitis,bacterialisolates,drugsensitivity.20~29歳40~49歳10~19歳1390~99歳17不明141歳未満274230~39歳533360~69歳911~9歳80~89歳618070~79歳12150~59歳63図1症例の年齢分布(期間合計)(79)あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116812.検出菌の種類と頻度細菌が分離された587例から1,156株の細菌が検出された(1症例当たり1~8株).初年度から5年度までのすべての検出菌のうち最も多かったのは,Staphylococcusepidermidis(S.epidermidis)223株(19.3%),ついでPropionibacteriumacnes(P.acnes)166株(14.4%),Streptococcusspp.150株(13.0%),Staphylococcusaureus(S.aureus)125株(10.8%),Corynebacteriumspp.122株(10.6%),Haemophilusinfluenzae53株(4.6%),Moraxellaspp.40株(3.5%)であった(図2).S.aureus125株中,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が99株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が26株であった.嫌気性菌は178株で,そのうちの169株がPropionibacteriumspp.であった.グラム陽性菌が全体の63.6%を占めていた.経年変化では,初年度は,検体総数が429株でS.epidermidisが102株(23.7%)と最も高頻度に検出され,ついでS.aureus66株(15.4%),Streptococcusspp.59株(13.8%),P.acnes40株(9.3%)の順であった.2年度から5年度まではP.acnesが最も多く,次いでS.epidermidisの順であったが,5年間を通して大きな傾向の変化は認められなかった(図3).グラム染色別の検出菌の内訳・経年変化については,初年度,グラム陽性球菌が59.2%(254株)と最多であったが,2年度50.2%(87株),3年度47.9%(82株),4年度45.1%(84株),5年度42.6%(84株)と,初年度から5年度まで検出菌の約50%はグラム陽性球菌で占められていた(図4).グラム陽性球菌は5年間を通して最も多く検出されていたものの,経年的には検出比率が減少した.3.地域別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)地域別(北海道・東北,関東,中部,関西,中国・四国,九州・沖縄)検出菌の内訳・経年変化は,グラム陽性球菌が地域・年度を問わず高頻度であった.初年度は,関西地域でグラム陰性菌が少なく,関西・関東で嫌気性菌の比率がやや高かった.しかし,2年度以降は地域間で参加施設の偏り(施設数,施設のタイプ)が生じたために,地域によってはばらつきがみられたものの,全体的な検出菌の頻度については,経年的,地域的に大きな差は認められなかった(図5).4.施設別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)全症例615例の施設別内訳は,大学病院57例,総合病院127例,眼科クリニック431例であった.施設別の検出菌内訳・経年変化は,5年間を通じ,眼科クリニック,総合病院ではグラム陽性球菌の割合が突出していた.大学病院では,検体数が少ないため,各検出菌の頻度に大きなばらつきがみられ,一定の傾向を得ることはできなかった(図6).5.年齢別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)全症例615例中の年齢別内訳をみると,65歳以上は282例(45.9%)であり,細菌性結膜炎の半数を高齢者が占めた.各年代(14歳以下,15~64歳,65歳以上)における検出菌の内訳・経年変化をみると,各年代を通じてグラム陽性球菌が最も高頻度であり,5年間を通してその傾向は変わらなかったものの,15歳以上の年代ではグラム陽性球菌の割合が経年的に減少しており,特に3年度以降ではその検出比率は半数を切っていた(図7).0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度3729271021110121650341216941113142822202134201820301091413186105102278441733182517662839302940052122859■:Staphylococcusepidermidis■:MSSA■:MRSA■:その他のStaphylococcusspp.■:Streptococcusspp.■:Corynebacteriumspp.■:その他の好気性グラム陽性菌■:Haemophilusinfluenzae■:Moraxellaspp.■:その他の好気性グラム陰性菌■:Propionibacteriumacnes■:その他の嫌気性菌図3検出菌の経年変化(主要菌種別)MSSA9%その他の好気性グラム陰性菌14%その他の嫌気性菌1%MRSA2%その他の好気性グラム陽性菌6%Staphylococcusepidermidis19%その他のStaphylococcusspp.4%Streptococcusspp.13%Propionibacteriumacnes14%Moraxellaspp.3%Haemophilusinfluenzae5%Corynebacteriumspp.10%図2検出菌の種類(期間合計)0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度84848287254392223253546363431962844323044■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図4検出菌の内訳・経年変化(グラム染色別)682あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(80)6.季節別の検出菌内訳・経年変化初年度に季節を4回に分けて行った調査では,2月にグラム陽性桿菌が少なく,嫌気性菌が多かった.冬期に多いとされるHaemophilusinfluenzaeであるが,11月に6株,2月に6株,5月に6株,8月に4株検出されており,季節による大きな変化はみられなかった.なお,こうした初年度の結果1)を受け,2年度以降では季節別の比較は行わなかった(図8).7.CL装用の有無との関連性CLは88.5%が装用しておらず,装用者は7.2%にとどまった.CL装用の有無でグラム陽性菌と陰性菌の比率に大きな差はなかったが,CL装用者にグラム陽性桿菌が少なく,嫌気性菌が多い傾向を認めた(図9).8.薬剤感受性結膜炎由来臨床分類株である全検出菌1,156株(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)に対するLVFX,MCR,TOB,EM,CP,SBPC,CMXの抗菌力を,累積発育阻止率曲線で示した(図10).全体としてのMIC80,MIC90はLVFX,CMXがその他の薬剤と比べて低い値となっており,結膜炎の主要な起炎菌に対する高い感受性が認められた.全検出菌に対する各薬剤の抗菌力の経年変化を,累積発育0%20%40%60%80%100%■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度九州・沖縄中国・四国関西中部関東北海道・東北51311631148112860117819542091024347231414627242892914315924881032510833106237139740362111472111030755789349145104017121494134341435795372513834622842148181176図5地域別検出菌の内訳・経年変化(グラム染色別)0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度65歳以上15~64歳14歳以下26411513216262025932832194729402110125247761810541932016198521276827131391517121213012132316628392244■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図7年齢別の内訳・経年変化(グラム染色別)0%20%40%60%80%100%■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度眼科クリニック総合病院大学病院78645867144612161986148124371816182114561100213383432284952234020072337232324435510044210図6施設別(眼科クリニック,総合病院,大学病院)検出菌の内訳・経年変化0%20%40%60%80%100%2004年11月2005年2月2005年5月2005年11月6942529115811130151239562211■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図8季節別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)(81)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011683阻止率曲線で示した(図11~17).LVFXは5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図11).MIC80,MIC90は低値を示しており,全検出菌に対する高い感受性が認められた.MCR(初年度~4年度)およびTOB(4~5年度)は5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図12~13).EM,CP,SBPCについても5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンであった(図14.16).CMXは5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図17).MIC80,MIC90は低値を示しており,全検出菌に対する高い感受性が認められた.つぎに,細菌性結膜炎に対して最も広く使用されているLVFXの主要検出菌に対する抗菌力について,累積発育阻止率曲線で示した(図18~22).S.epidermidis221株(初年度100株,2年度27株,3年度29株,4年度37株,5年度28株)では,年度間にて多少の変動は認められるものの,LVFXはS.epidermidisに対する高い感受性を5年間を通して維持していた(図18).P.acnes166株(初年度40株,2年度29株,3年度30株,4年度39株,5年度28株)およびS.aureus(MSSA)101株(初年度50株,2年度16株,3年度12株,4年度10株,0%20%40%60%80%100%なしあり■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度5年度4年度3年度2年度初年度初年度79807383227235416372217253300400443429298611027274127303613406図9CL装用の有無による検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml):LVFX:EM:SBPC:TOB:MCR:CP:CMX累積発育阻止率RangeMIC80MIC90LVFX≦0.06~128<28MCR≦0.06~128<32128TOB≦0.06~128<64128EM≦0.06~128<128128<CP≦0.06~128816SBPC≦0.06~128<1632CMX≦0.06~128<28図10全検出菌1,156株に対する全薬剤の累積発育阻止率曲線100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度LVFX:2年度LVFX:3年度LVFX:4年度LVFX:5年度LVFXRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<482年度≦0.06~128<283年度≦0.06~128<124年度≦0.06~128<285年度≦0.06~128<416図11全検出菌1,156株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度MCR:2年度MCR:3年度MCR:4年度MCRRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<321282年度≦0.06~128<32643年度≦0.06~128<16644年度≦0.06~128<32128<図12全検出菌959株に対するMCRの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株)684あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(82)5年度11株)では,5年間を通して左に強くシフトした同様の曲線を描いており,P.acnesおよびMSSAに対するLVFXのきわめて高い感受性が示された(図19,20).Streptococcusspp.150株(初年度59株,2年度21株,3年度20株,4年度22株,5年度28株)は,曲線が左にシフトしており,Streptococcusspp.に対するLVFXの高い感受性が示された(図21).Corynebacteriumspp.118株(初年度30株,2年度20株,3年度18株,4年度20株,5年度30株)では,LVFXの感受性は低かったものの5年間の変化はほとんど認められず,LVFXに対する耐性化は進行していないと考えられた(図22).III考按細菌性結膜炎は,眼感染症のなかで最も高頻度に発症する疾患であるが,日常診療で結膜炎症例の起炎菌を確定することは困難である.今回のスタディは5年間にわたる全国多施設による細菌性結膜炎の細菌の検出状況と薬剤感受性の検討であり,2007年の本スタディグループの報告1)に引き続き,細菌性結膜炎の現状把握と今後の適切な治療薬選択につながる臨床上有用な情報と考えられる.眼感染症における多施設100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:4年度TOB:5年度TOBRangeMIC80MIC904年度≦0.06~128<128128<5年度≦0.06~128<3264図13全検出菌383株に対するTOBの累積発育阻止率曲線(全菌種:4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度EM:2年度EM:3年度EM:4年度EM:5年度EMRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<128<128<2年度≦0.06~128<1281283年度≦0.06~128<641284年度≦0.06~128<128<128<5年度≦0.06~128<64128図14全検出菌1,156株に対するEMの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度CP:2年度CP:3年度CP:4年度CP:5年度CPRangeMIC80MIC90初年度0.25~64882年度0.25~128883年度≦0.06~1288164年度≦0.06~1288325年度≦0.06~128832図15全検出菌1,156株に対するCPの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度SBPC:2年度SBPC:3年度SBPC:4年度SBPC:5年度SBPCRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<16642年度≦0.06~128<8163年度≦0.06~128<161284年度≦0.06~128<16325年度≦0.06~128<1632図16全検出菌1,156株に対するSBPCの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)(83)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011685スタディとしては,眼感染症学会による感染性角膜炎サーベイランス2,3)があり,感染性角膜炎診療ガイドライン4)の礎となった.本スタディは同一の全国多施設において5年間細菌性結膜炎の動向を観察した結果であり,意義深いものと考えられる.まず5年間にわたる細菌性結膜炎の細菌の検出状況についてであるが,起炎菌の累積頻度は,S.epidermidis(19.3%),P.acnes(14.5%),Streptococcusspp(.13.0%),S.aureus(10.8%),Corynebacteriumspp(.10.5%),Haemophilusinfluenzae(4.6%),Moraxellaspp.(2.7%)であり,S.aureusではMSSAが79%,MRSAが21%であった.西澤らは検出菌データの多いものから順に,S.epidermidis,S.aureus,Streptococcusspp.,Propionibacteriumspp.,Corynebacteriumspp.,Haemophilusinfluenzaeとレビューしている1,5~10)が,本スタディとほぼ同様の結果を示しており,わが国における細菌性結膜炎の検出菌はこれら7菌種が4分の3を占めているものと推測される.また,細菌性結膜炎は世代により検出菌と臨床経過が異なり,小児ではHaemophilus100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度CMX:2年度CMX:3年度CMX:4年度CMX:5年度CMXRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<2162年度≦0.06~128<483年度≦0.06~128<2164年度≦0.06~128<145年度≦0.06~128<216図17全検出菌1,156株に対するCMXの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~40.50.52年度0.25~80.50.53年度≦0.06~20.50.54年度≦0.06~20.50.55年度≦0.06~10.50.5図19P.acnes166株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度40株,2年度29株,3年度30株,4年度39株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~128<482年度0.13~8883年度0.13~128<444年度0.13~128485年度0.13~128<832図18S.epidermidis221株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度100株,2年度27株,3年度29株,4年度37株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<0.5162年度0.13~160.583年度≦0.06~0.250.250.254年度0.13~0.50.50.55年度0.13~128<0.52図20S.aureus(MSSA)99株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度50株,2年度16株,3年度12株,4年度10株,5年度11株)686あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(84)influenzaeや,S.pneumoniaeが多く,高齢者ではS.aureusやCorynebacteriumspp.が多いとされる5).本スタディでも,14歳以下では初年度にグラム陰性菌が32%を占め,その約半数がHaemophilusinfluenzaeであったが,その後経年的にグラム陰性菌の割合は減少した.また,各年代を通じてグラム陽性球菌が最も高頻度であり,5年間を通してその傾向はかわらなかったものの,15歳以上の年代ではグラム陽性球菌の割合が経年的に減少していた.つぎに検出菌における地域差については,経年変化や地域別に一定の傾向はみられなかった.施設別では,眼科クリニック,総合病院ではグラム陽性球菌の割合が多く,大学病院では嫌気性菌が多いものの,各検出菌の頻度に大きなばらつきがみられ,一定の傾向はなかった.CL装用の有無については,88.5%が装用しておらず,装用者は7.2%にとどまり,CL装用の有無でグラム陽性菌と陰性菌の比率に大きな差はなかった.以上より,2007年の報告と同様,今日の細菌性結膜炎の主要検出菌は,S.epidermidis,S.aureus,Streptococcusspp.,Corynebacteriumspp.,Haemophilusspp.と推察された.全検出菌に対する薬剤感受性(MIC80,MIC90)は,LVFX,CMXがその他の薬剤と比べて低い値となっており,結膜炎の主要な起炎菌に対する高い感受性が認められた.また,この5年間の調査期間中に,細菌性結膜炎の主要検出菌に対する薬剤感受性に大きな変化がみられなかったことから,急速な菌の変化,耐性化の進行は生じていないと考えられた.本来,細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択,投与方法は,起炎菌を検出したうえで検出された細菌に対する最も抗菌力の強い薬剤を選択し使用することに尽きるが,日常臨床では,患者苦痛の軽減,qualityoflife(QOL)低下の防止,感染拡大の阻止,病態の遷延化・難治化の阻止を治療の要点とし,起炎菌の検出を待たずに早期治療開始の必要性が迫られる.これらの事情を考慮すると,広域の抗菌スペクトルを示し,他の抗菌点眼薬と比較して高い感受性から,細菌性結膜炎の日常診療においてLVFX,CMXを第一選択としてよいと思われる.以上のように,今回の5年間にわたる調査により,細菌性結膜炎の検出菌の急速な変化や耐性化は進行していないことが明らかとなったが,初年度の報告の考按で示したごとく,多剤耐性菌の出現や菌交代現象の要因としてあげられている抗菌薬の過剰投与や広域スペクトルを有する薬剤の濫用の弊害を常に念頭に置き,上記のような広域抗菌点眼薬の投与は必要最低限にとどめるべきであると考える.COI細菌性結膜炎検出菌スタディグループ(50音順)注記:所属が眼科の場合は部門を省略,所属は調査参加当時のもの青木功喜(大橋眼科/札幌),浅利誠志(大阪大学医学部附属病院感染制御部),阿部達也(くろさき眼科),阿部徹(阿部眼科),有賀俊英(札幌社会保険総合病院),生駒尚秀(いこま眼科医院),稲森由美子(横浜市立大学),井上幸次(鳥取大学),魚谷純(魚谷眼科医院),薄井紀夫(総合新川橋病院),臼井正彦(東京医科大学),内尾英一(福岡大学),宇野敏彦(愛媛大学),卜部公章(町田病院),大橋勉(大橋眼科/札幌),大.秀行(大橋眼科/大阪),大橋裕一(愛媛大学),岡本茂樹(岡本眼科クリニック),奥村直毅(京都府立医科大学),亀井里実(バプテスト眼科クリニック),亀井裕子(東京女子医科大学東医療センター),川崎尚美(岡本眼科100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128442年度0.5~64223年度0.5~2114年度0.5~2225年度0.5~6412図21Streptococcusspp.150株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度59株,2年度21株,3年度20株,4年度22株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:3年度:5年度:2年度:4年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~128<641282年度≦0.06~128<32643年度≦0.06~128<32644年度≦0.06~128<641285年度≦0.06~128<64128図22Corynebacteriumspp.118株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度30株,2年度20株,3年度18株,4年度20株,5年度30株)(85)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011687クリニック),岸本里栄子(大橋眼科/札幌),北川和子(金沢医科大学),木村格(岡本眼科クリニック),久志雅和(中頭病院),小鹿聡美(東京医科大学),小嶋健太郎(京都府立医科大学),古城美奈(バプテスト眼科クリニック),小早川信一郎(東邦大学医療センター大森病院),坂本雅子(阪大微生物病研究会),渋谷翠(東京医科大学),島袋あゆみ(琉球大学),下村嘉一(近畿大学),白石敦(愛媛大学),鈴木崇(愛媛大学),外園千恵(京都府立医科大学),瀧田忠介(大分県立病院),田中康一郎(鹿嶋眼科クリニック),田中裕子(愛媛大学),中井義典(バプテスト眼科クリニック),中川尚(徳島診療所),中村行宏(NTT西日本九州病院),西崎暁子(バプテスト眼科クリニック),橋田正継(町田病院),橋本直子(岡本眼科クリニック),秦野寛(ルミネはたの眼科),原祐子(愛媛大学),檜垣史郎(近畿大学),東原尚代(京都府立医科大学),平野澄江(岡本眼科クリニック),福田正道(金沢医科大学),松本光希(NTT西日本九州病院),松本治恵(松本眼科),箕田宏(とだ眼科),宮嶋聖也(熊本赤十字病院),宮本仁志(愛媛大学医学部附属病院診療支援部),山口昌彦(愛媛大学),山崎哲哉(町田病院),横井克俊(東京医科大学)文献1)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20072)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.日眼会誌110:961-972,20063)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeffectの比較.日眼会誌110:973-983,20064)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20075)西澤きよみ,秦野寛:わが国の細菌性結膜炎の起炎菌は?あたらしい眼科26(臨増):65-68,20096)宮尾益也,本山まり子,坂上富士男ほか:新潟大学眼感染症クリニックでの10年間の検出菌.臨眼45:969-973,19917)松井法子,松井孝治,尾上聡ほか:細菌性結膜炎の検出菌についての検討.臨眼59:559-563,20058)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,19899)西原勝,井上慎三,松村香代子:細菌性結膜炎における検出菌の年齢分布.あたらしい眼科7:1039-1042,199010)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,2001***

急性細菌性結膜炎の起炎菌と疫学

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)415《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):415.420,2011cはじめに急性細菌性結膜炎は一般診療で遭遇しやすい眼感染症の一つである.これまでにも起炎菌に関する疫学調査は数多く報告されているが,そのほとんどは検出菌の分布を報告するものであった1~4).当然のことながら,結膜.は無菌環境ではないため検出菌が必ずしも起炎菌とは限らない.臨床的には検出菌の網羅的な分布だけではなく,症例ごとに一つの起炎菌を診断することによって得られる起炎菌分布も重要である.このような起炎菌分布を知ることができれば,より適切な初期抗菌点眼薬を選択することが可能となる.また,起炎菌ごとの疫学的特徴を知ることも重要である.過去には,小児と成人の結膜炎検出菌の相違5~7)や,季節性についての報告1,2)がある.しかしながら,細菌性結膜炎の感染源や感染経路の特徴について調査した報告はない.起炎菌ごとの感染源や感染経路の特徴がわかれば,感染伝播を予防することが可能となるかもしれないし,初診時の診断材料にすることができるかもしれない.今回筆者らは,1症例1菌種とした急性結膜炎の起炎菌分布を把握することを目的として疫学調査を行った.さらに感染源と感染経路を明らかにするため,起炎菌ごとの患者背景〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN急性細菌性結膜炎の起炎菌と疫学星最智*1卜部公章*2*1藤枝市立総合病院眼科*2町田病院ClinicalEpidemiologyandCausativeOrganismsofAcuteBacterialConjunctivitisSaichiHoshi1)andKimiakiUrabe2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)MachidaHospital急性細菌性結膜炎の起炎菌分布と背景因子について調査した.2009年1月から2010年1月までに,急性細菌性結膜炎疑いの外来患者に対して結膜.と鼻腔の培養検査を実施した.初診時に感冒症状と小児接触歴について聴取した.その結果,全52症例のうち,結膜.検出菌により40.4%の症例が黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌による結膜炎と診断可能であった.他の59.6%の症例では,白内障術前患者よりも黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌率が有意に高かった(p<0.001).肺炎球菌とインフルエンザ菌の結膜炎では黄色ブドウ球菌に比べて小児接触率が有意に高かった(それぞれp<0.001,p=0.024).鼻腔保菌を加味すると,急性結膜炎症例のおよそ7割は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌のいずれかが関与するものと推定された.Weinvestigatedthedistributionofcausativeorganismsandbackgroundfactorsofacutebacterialconjunctivitis.TheconjunctivalsacsandnasalswabsofoutpatientswithsuspectedacutebacterialconjunctivitiswerebacteriologicallyexaminedfromJanuary2009toJanuary2010.Wehadheardaboutcoldsymptomsandcontacthistoryforchildrenatfirstexamination.Asaresultofconjunctivalexamination,40.4%ofthepatientswerediagnosedwithconjunctivitisduetooneofthreemainbacteria:Staphylococcusaureus,StreptococcuspneumoniaeorHaemophilusinfluenzae.Staphylococcusaureusnasalcarriageratesintheremaining59.6%ofpatientsweresignificantlyhigherthaninpreoperativecataractsurgerypatients(p<0.001).Children’scontactratesforStreptococcuspneumoniaeandHaemophilusinfluenzaeconjunctivitisweresignificantlyhigherthanforStaphylococcusaureus(p<0.001,p=0.024,respectively).Withnasalbacteriatakenintoaccount,about70%ofcasesmightinvolvethesethreemainbacteria.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):415.420,2011〕Keywords:細菌性結膜炎,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌,肺炎球菌,鼻腔常在菌.bacterialconjunctivitis,Staphylococcusaureus,Haemophilusinfluenzae,Streptococcuspneumoniae,nasalbacterialflora.416あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(108)の特徴についても検討した.I対象および方法2009年1月から2010年1月までに高知市の町田病院を外来受診した急性結膜炎患者を対象とした.対象基準は,2週間以内の発症で,眼球結膜の充血を認め(程度は問わない),眼脂の自覚症状または前眼部所見で眼脂を認める症例とした.当院初診時すでに抗菌点眼薬を使用している症例,コンタクトレンズ装用者,5歳以下のいずれかに該当する場合は対象から除外した.5歳以下を対象から除外したのは,小児結膜炎の検出菌が成人とは大きく異なりHaemophilusinfluenzae(インフルエンザ菌)やStreptococcuspneumoniae(肺炎球菌)が主体となるため,対象患者に占める小児の割合によって起炎菌の構成が影響を受けると判断したためである5~7).つぎに患者背景を調査するため,初診時から2週間以内の発熱・咽頭痛・咳嗽などの感冒症状の有無および小学生以下の小児との接触歴について聴取した.培養検査は下眼瞼結膜.および同側の鼻前庭に対して行った.両眼性の結膜炎の場合は,症状の強いほうから検体を採取した.検体採取方法は,輸送培地に付属するスワブの先を滅菌生理食塩水で湿らせてから被検部位を擦過した.検体は衛生検査所に送付し,好気培養,増菌培養,菌種同定を依頼した.Staphylococcusaureus(黄色ブドウ球菌),肺炎球菌,インフルエンザ菌の3菌種は三井らのいう結膜炎の特定起炎菌の一部であり,結膜.から複数の菌種が検出されても,それ自体が結膜炎の起炎菌とみなすことができる8).したがって,検討方法としてはまず,結膜.検出菌が黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌のいずれかである場合は急性結膜炎の起炎菌と診断し,この基準に基づいて起炎菌の構成をグラフ化した.本論文では,これら3菌種をまとめて急性結膜炎の三大起炎菌とよぶこととする.つぎに,先の診断方法で三大起炎菌と診断できなかった結膜炎症例(結膜.非三大起炎菌症例)の鼻腔細菌叢と,結膜炎ではない白内障術前患者の鼻腔細菌叢を比較した.後者は町田病院の白内障術前患者295名〔年齢の中央値77歳(範囲:41~95歳),男性116名,女性179名〕の鼻腔培養結果を用いた(第114回日本眼科学会総会において報告).さらに,結膜炎の月別発生頻度について,起炎菌ごとに特徴がみられないかを検討した.最後に,三大起炎菌のそれぞれに特徴的な患者背景がないかを調査した.まず黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌者と非保菌者間で,結膜.の黄色ブドウ球菌検出率に差がないかを比較検討した.つぎに,起炎菌ごとの感冒症状の割合(感冒率)および小児との接触歴の割合(小児接触率)について比較検討した.2群間の比較はFisherの直接確率検定法を用い,p<0.05を有意と判定した.II結果1.対象患者の特徴対象は52例(男性22例,女性30例)であった.年齢の中央値は60歳(範囲:6~88歳)であった.結膜.の培養陽性率は75.0%,鼻腔の培養陽性率は100%であった.全52例の結膜.と鼻腔検出菌の詳細および患者背景の一覧を表1に示す.2.結膜.検出菌に基づく三大起炎菌の構成結果を図1に示す.黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌が検出された症例はそれぞれ21.2%,11.5%,7.7%であり,40.4%が三大起炎菌による結膜炎であった.一方,三大起炎菌以外が検出された症例は34.6%,培養陰性例は25.0%であった.三大起炎菌以外が検出された症例の多くは,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌やコリネバクテリウム属が検出された.3.結膜.非三大起炎菌症例と白内障術前患者の鼻腔細菌叢の比較鼻腔培養で検出菌数の多かったコリネバクテリウム属,メチリシン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MS-CNS),メチリシン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)および黄色ブドウ球菌の保菌率について比較したグラフを図2に示す.コリネバクテリウム属,MS-CNS,MR-CNSに関しては2群間で有意差を認めなかったが,黄色ブドウ球菌に黄色ブドウ球菌21.2%肺炎球菌11.5%インフルエンザ菌その他7.7%34.6%陰性25.0%図1結膜.検出菌に基づく三大起炎菌の構成71.0%51.6%41.9%18.3%18.0%58.0%69.5%16.1%020406080100コリネバクテリウム属MS-CNSMR-CNS黄色ブドウ球菌保菌率(%):白内障術前患者(295例):結膜.非三大起炎菌症例(31例)p<0.001図2結膜炎と白内障術前患者における鼻腔細菌叢の比較MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011417表1細菌検査結果と患者背景症例番号年齢(歳)性別患眼検体採取日結膜.検出菌鼻腔検出菌感冒症状小児接触歴18FR2009.1.9─MSSA,MS-CNSありなし251MR2009.2.26肺炎球菌,MS-CNSMSSA,コリネなしあり361ML2009.3.2MSSAMSSA,MR-CNSなしなし488FL2009.3.2─MSSAなしなし576ML2009.3.9MSSA,コリネMSSA,バチルス属,MS-CNSなしなし628ML2009.3.10MR-CNSMR-CNS,コリネなしなし76ML2009.3.25MSSA,a溶連菌MSSA,a溶連菌,MR-CNSなしなし865FR2009.3.30肺炎球菌肺炎球菌,MS-CNS,コリネありあり948MB2009.5.7─MS-CNSなしなし1076FB2009.5.15─MSSA,MS-CNS,コリネありなし1126MB2009.5.19MS-CNSヘモフィルス属,MS-CNS,コリネなしなし1223FB2009.5.22MS-CNSMS-CNSありあり1367FL2009.5.22コリネMS-CNSなしなし1477FL2009.6.8MS-CNSMS-CNS,コリネなしなし1519FB2009.6.10─MSSAなしなし1617FB2009.6.20─MS-CNS,コリネなしなし178FB2009.6.22HIa溶連菌,ナイセリア属,コリネなしあり1873MB2009.6.29MS-CNSバチルス属,コリネなしなし1971MB2009.7.2HI,コリネMSSA,コリネなしなし2077FR2009.7.13HIa溶連菌,MR-CNS,コリネありあり2125FB2009.7.21MS-CNSMSSA,MS-CNS,コリネなしなし2219FB2009.7.22MS-CNS,コリネMSSA,MR-CNS,コリネありなし2323MB2009.7.24EnterobactercloacaeMSSA,a溶連菌,コリネなしなし2464FB2009.7.24MSSAMR-CNS,コリネなしなし2540MB2009.8.6HIHI,MS-CNS,コリネありなし2680ML2009.8.13MSSAコリネなしなし277FB2009.8.15肺炎球菌MRSAなしあり2875ML2009.8.31G群溶連菌,コリネMSSA,a溶連菌,コリネなしなし2959MB2009.9.1MR-CNS,コリネa溶連菌,MR-CNS,コリネなしなし3013FB2009.9.3─MSSA,MS-CNS,コリネありなし3159FL2009.9.5コリネMS-CNS,コリネなしなし3247FB2009.9.24バチルス属,コリネMSSA,コリネなしなし3367FR2009.10.19─MR-CNS,コリネなしあり3468ML2009.10.19MS-CNS,コリネMSSAなしあり3580ML2009.10.27MSSAMS-CNS,コリネなしなし3635FB2009.11.6.肺炎桿菌,MS-CNS,コリネありなし3778FL2009.11.9緑膿菌,MR-CNSMS-CNS,コリネなしなし3872FL2009.11.16MSSAMR-CNSなしなし3968FR2009.11.17─MS-CNS,コリネありなし4067ML2009.11.27大腸菌MSSAなしなし4130FR2009.12.10肺炎球菌ナイセリア属,MR-CNSありあり4255ML2009.12.15MSSAMS-CNS,コリネなしなし4377ML2009.12.15MSSAMSSA,MS-CNSなしなし4458FR2009.12.17コリネa溶連菌,コリネなしあり4578FB2009.12.17肺炎球菌a溶連菌,MR-CNSありあり4676FR2009.12.24コリネMSSA,a溶連菌,MS-CNSなしなし4784MR2010.1.4MSSA,コリネMS-CNS,コリネなしなし4870MR2010.1.5─肺炎球菌,コリネなしあり4967FB2010.1.12肺炎球菌,コリネ肺炎球菌,MR-CNS,MS-CNSなしあり5058FL2010.1.13─MR-CNS,コリネなしなし5155MB2010.1.25─HI,MS-CNS,コリネありあり5254FR2010.1.26MSSAMSSA,MS-CNSなしありF:女性,M:男性,R:右眼,L:左眼,B:両眼.MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,コリネ:コリネバクテリウム属,HI:インフルエンザ菌.418あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(110)関しては,白内障術前患者が18.0%に対して結膜.非三大起炎菌症例では41.9%と有意に高い保菌率であった(p<0.001).さらに,白内障術前患者の鼻腔からは肺炎球菌やインフルエンザ菌は検出されなかったが,結膜炎の5例ではこれら2菌種のいずれかを保菌していた(症例番号:8,25,48,49,51).この結果から三大起炎菌,特に黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌が結膜炎の発症に関与している可能性が示唆された.そこで,三大起炎菌の鼻腔保菌も加味して結膜炎の起炎菌の構成を再分類すると図3のようになり,急性細菌性結膜炎のおよそ7割が三大起炎菌と関連していると推定された.4.起炎菌ごとの月別発生頻度三大起炎菌による結膜炎の月別発生頻度では,黄色ブドウ球菌では1年を通してほぼ一定の頻度で発生する傾向(endemic)がある一方,インフルエンザ菌と肺炎球菌は夏や冬に流行する傾向(epidemic)を認めた(図4).5.三大起炎菌ごとの患者背景の特徴黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌の有無で黄色ブドウ球菌の結膜.検出率を比較すると,鼻腔保菌者の結膜.陽性率は23.8%,鼻腔非保菌者の結膜.陽性率は19.4%となり有意差を認めなかった(p=0.739).つぎに,結膜.と鼻腔培養の結果から起炎菌を診断した場合の感冒率をみると,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌,その他の結膜炎ではそれぞれ,16.7%,42.9%,60.0%,18.3%であった.肺炎球菌とインフルエンザ菌の感冒率は高い傾向を認めたが,各群間で有意差を認めなかった.しかしながら,有意差はないもののインフルエンザ菌は黄色ブドウ球菌と比べて感冒率が高くなる傾向を認めた(p=0.075).最後に,結膜.と鼻腔培養の結果から起炎菌を診断した場合の小児接触率をみると,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌,その他の結膜炎ではそれぞれ,8.3%,100%,60.0%,18.8%であった.肺炎球菌は黄色ブドウ球菌やその他の結膜炎と比べて小児接触率が有意に高かった(ともにp<0.001).さらに,インフルエンザ菌は黄色ブドウ球菌と比べて小児接触率が有意に高かった(p=0.024).III考按結膜.は外界に接しているため,検出菌が必ずしも起炎菌とはならない.しかし,これまでの結膜炎の疫学に関する報告は,検出菌の分布から考察を行うものがほとんどであった1~4).細菌性結膜炎患者の結膜.からはしばしば複数の菌種が検出され,このなかには健常結膜.でもよく検出されるコリネバクテリウム属やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などが含まれる.検出菌の構成を調査する場合,検出菌すべてを把握できるという利点がある一方,常在細菌の分離率が高くなるため,病原菌が過小評価される恐れがある.さらに,検出率がまれな菌種も多く含まれるため,広域抗菌薬を支持する傾向がでてしまう.一方,1人の細菌性結膜炎症例から複数の菌種が分離されても,臨床診断として1つの起炎菌を確定すれば起炎菌の構成グラフは人数が単位となり,臨床現場を反映した実感しやすいものとなる.今回筆者らは,可能な限り個々の症例について起炎菌の特定を行うことにした.そしてまずは特定起炎菌である三大起炎菌に限って,結膜.検出菌から診断を行った.その結果,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌はそれぞれ21.2%,11.5%,7.7%の症例から検出され,およそ40%の症例は三大起炎菌と診断可能であった.しかしながら,残りの症例の多くはコリネバクテリウム属やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などの常在細菌で占められており,結膜.培養結果だけでは起炎菌が特定できない症例も多く存在した.そこで筆者らは別の観点から結膜炎の病態をとらえることを考えた.三大起炎菌は咽頭炎,中耳炎,肺炎などの上気道感染症においても重要な起炎菌であることから,鼻咽頭の病原細菌が結膜炎の病態に関与している可能性を考えた.そして結膜.培養で確定診断できなかった31症例の鼻腔細菌叢を白内障術前患者の鼻腔細菌叢と比較したところ,高率に黄色ブドウ球菌を保菌していることが判明した(p<0.001).黄色ブドウ球菌21.2%黄色ブドウ球菌(鼻のみ)25.0%肺炎球菌11.5%肺炎球菌(鼻のみ)1.9%インフルエンザ菌7.7%インフルエンザ菌(鼻のみ)1.9%その他30.8%図3結膜炎と鼻腔検出菌に基づく三大起炎菌の構成012345発生頻度(人):黄色ブドウ球菌:肺炎球菌:インフルエンザ菌:その他1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月2010年1月2009年図4起炎菌ごとの月別発生頻度(111)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011419この結果から,黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌が結膜炎の発症に関与している可能性が示唆された.黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌がどのように結膜炎の発症に関与しているかは不明である.考えられる機序としては,鼻腔で活発に増殖した黄色ブドウ球菌が手指を介して眼部へ自家感染して発症する可能性が考えられる.その他には,黄色ブドウ球菌はカタル性角膜潰瘍などの感染アレルギーの原因とも考えられていることから,鼻粘膜から血流感染を生じて全身性に免疫感作され,その後手指を介して眼部に黄色ブドウ球菌が混入した際に感染アレルギーによる結膜炎が生じる可能性も考えられる.インフルエンザ菌や肺炎球菌についても,白内障術前患者では分離されなかったが結膜炎患者の鼻腔の一部では検出されたことから,三大起炎菌の鼻腔保菌も加味して結膜炎の起炎菌を推定すると,図3に示すようにおよそ7割の症例が三大起炎菌に関連していると考えられた.細菌性結膜炎の発症には感染源と感染経路が必要である.そこで三大起炎菌ごとの患者背景を比較検討したところ,肺炎球菌またはインフルエンザ菌による結膜炎では黄色ブドウ球菌と比べて小児接触率が有意に高いことが判明した(それぞれp<0.001,p=0.024).特に肺炎球菌による結膜炎では,すべての症例が小児との接触歴を有していた.また,インフルエンザ菌は黄色ブドウ球菌と比べて有意差はないものの,感冒症状を伴いやすい傾向があった(p=0.075).結膜炎の随伴症状としての感冒症状については,青木らはHaemophilus属(インフルエンザ菌まで菌種同定していない)による結膜炎の80%が感冒症状を主とした全身症状を認めると報告しており1),筆者らの調査もこれと類似した結果となっている.このようにインフルエンザ菌と肺炎球菌による結膜炎が小児との接触と強く関係し,感冒症状を伴いやすい理由としては,これらの菌がともに小児の鼻咽頭常在菌であり,成人の健常保菌者はまれであるという疫学的背景が基礎にあると考えられる.わが国における鼻咽頭常在菌の疫学調査によると,0~6歳では肺炎球菌とインフルエンザ菌の保菌率はそれぞれ47.1%と55.7%であるのに対し,7~74歳では肺炎球菌とインフルエンザ菌の保菌率はともに7.6%となっている9).したがって,小児以外でこれら2菌種による結膜炎が成立する機序としては,小児の鼻咽頭に存在する肺炎球菌やインフルエンザ菌が飛沫により成人の鼻咽頭や結膜に感染することで上気道炎や結膜炎を発症すると考えられる.患者背景別の起炎菌構成をみてみると,小児接触歴がある場合,肺炎球菌またはインフルエンザ菌による結膜炎は全体の66.7%を占める一方,小児接触歴がない場合は,黄色ブドウ球菌が59.5%と大部分を占めていることがわかる(図5).したがって,小児接触歴の聴取は起炎菌のおおまかな推定に役立つと考えられる.さらに,小児からの飛沫感染がおもな原因と考えると,これら2菌種による結膜炎が季節性を有する理由をうまく説明することができる.過去の報告では,Haemophilus属は初夏と冬に多く,肺炎球菌は冬から春にかけて多いといわれている1,2).筆者らの調査でも同様の現象を認めているが,これは夏休みなどの長期休暇の時期に成人,特に高齢者が小児に接触する機会が増えるためと考えられ,季節性という表現よりもepidemicな現象と捉えるほうが適切と思われる.本調査における問診の際も,連休中に孫をあずかったなど,小児との接触をはっきりと記憶しているケースが目立った.飛沫感染は1m以内に接近するような状況で成立するため,患者は小児との接触を記憶にとどめやすいものと推測される.一方,黄色ブドウ球菌に関しては小児接触との関連性は認めなかった.さらに,黄色ブドウ球菌を鼻腔に保菌しているからといって結膜.からの検出率が高くなるわけではなかった.調査期間を通しての発生頻度では,肺炎球菌やインフルエンザ菌とは異なり,ほぼ1年を通して発生した.堀らも黄色ブドウ球菌による結膜炎は季節性が不明瞭で通年性にみられると報告している2).したがって,黄色ブドウ球菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌とは異なった感染様式をもっていると考えられる.健常者の約2割は鼻咽頭に黄色ブドウ球菌を保菌しており,肺炎球菌やインフルエンザ菌のような年齢による保菌率の違いは認めない9).考えられる感染経路としては,黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌者から非保菌者へ接触伝播して結膜炎を発症する場合と,鼻腔保菌者自身が自家感染で結膜炎を発症する場合とが考えられる.さらに,先述したように黄色ブドウ球菌結膜炎の病態として,狭義の感染(眼部で増殖)と感染アレルギー(鼻腔で増殖)という2つの機序が単独または複合して関与していると考えられるため,結膜.からの検出菌だけでは黄色ブドウ球菌による結膜炎の全体像を捉えきれない可能性がある.結論としては,急性結膜炎症例の約7割は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌の三大起炎菌が関与してい0%20%40%60%80%100%あり(13例)なし(39例)あり(15例)なし(37例)感冒症状小児接触歴:黄色ブドウ球菌:肺炎球菌:インフルエンザ菌:その他図5患者背景別の起炎菌構成420あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011ると推定された.黄色ブドウ球菌による結膜炎はendemicに発生し,一部の症例では鼻腔の黄色ブドウ球菌が結膜炎の発症に関与している可能性がある.肺炎球菌とインフルエンザ菌による結膜炎はepidemicに発生し,おもに小児からの飛沫が感染リスクと考えられた.文献1)青木功喜:急性結膜炎の臨床疫学的ならびに細菌学的研究.あたらしい眼科1:977-980,19842)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,19893)東堤稔:眼感染症起炎菌─最近の動向.あたらしい眼科17:181-190,20004)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20075)西原勝,井上慎三,松村香代子:細菌性結膜炎における検出菌の年齢分布.あたらしい眼科7:1039-1042,19906)水本博之,五十嵐広昌,秋葉純ほか:乳幼児における細菌性結膜炎の検出菌について.眼紀44:1373-1376,19937)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,20018)三井幸彦,北野周作,内田幸男ほか:細菌性外眼部感染症に対する汎用性抗生物質等点眼薬の評価基準,1985.日眼会誌90:511-515,19869)KonnoM,BabaS,MikawaHetal:Studyofupperrespiratorytractbacterialflora:firstreport.Variationsinupperrespiratorytractbacterialflorainpatientswithacuteupperrespiratorytractinfectionandhealthysubjectsandvariationsbysubjectage.JInfectChemother12:83-96,2006(112)***