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白内障術前患者における結膜嚢内常在菌の薬剤感受性の比較

2014年4月30日 水曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(4):581.586,2014c白内障術前患者における結膜.内常在菌の薬剤感受性の比較港一美*1飯田悠人*1須田謙治*2石原健二*2遠藤みう*1矢坂幸枝*1倉員敏明*1*1公立豊岡病院組合日高医療センター眼科*2京都大学眼科学教室AntimicrobialSusceptibilityofNormalConjunctivalFloraofCataractSurgeryKazumiMinato1),YutoIida1),KenjiSuda2),KenjiIshihara2),MiuEndo1),YukieYasaka1)andToshiakiKurakazu1)1)DepartmentofOphthalmology,ToyookaHospitalHidakaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:白内障術前患者の結膜.内常在菌の薬剤感受性を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)にて比較した.対象および方法:2010年8月.2011年12月の間で外眼部感染症を有しない,白内障手術予定患者150例150眼の結膜.内常在菌およびそれらの薬剤感受性をレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB),バンコマイシン(VCM)のMICにて比較検討した.結果:150眼中126眼(84%)に細菌が検出され,検出菌182株の内訳はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)37.9%,コリネバクテリウム36.3%,アクネ菌6.3%の順であった.CNSに対するMIC90はGFLX・VCM<LVFX<CMX・TOBであり,コリネバクテリウムに対するMIC90はTOB<CMX<VCM<<GFLX<LVFXであった.コリネバクテリウムは第三・第四世代ニューキノロンに耐性を獲得しており,CNSに対するニューキノロンのMIC分布が二峰性を呈したことから耐性化が進行していると考えられた.Purpose:Toevaluatetheantimicrobialsusceptibilityofbacteriaisolatedfromconjunctivalsacsofpatientsundergoingcataractsurgery.Methods:Preoperatively,bacterialisolateswerecollectedfromtheconjunctivalsacsof150eyesatHidakaMedicalCenterfromAugust,2010toDecember,2011.Minimuminhibitoryconcentrations(MIC)oflevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),cefmenoxime(CMX),tobramycin(TOB)andvancomycin(VCM)weremeasuredtodeterminesusceptibility.Results:Atotalof182strainswereisolatedfrom126eyes.Themostfrequentlyisolatedbacterialspecieswerecoagulase-negativeStaphylococci(CNS),37.9%,followedbyCorynebacteriumspp.,36.3%andPropionibacteriumacnes,6.3%.VCMandGFLXhadthelowestMIC(90)sforCNS,followedbyLVFX,CMXandTOB.ForCorynebacteriumspp.,TOBhadthelowestMIC(90),followedbyCMX,VCM,GFLXandLVFX.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):581.586,2014〕Keywords:白内障手術,結膜.内常在菌,薬剤感受性,抗菌点眼薬,最小発育阻止濃度(MIC).cataractsurgery,bacterialflorainconjunctivalsacs,drugsensitivity,antibioticophthalmicsolution,minimuminhibitoryconcentration(MIC).はじめに眼科で使用頻度の高いフルオロキノロン系抗菌薬は強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルを持ち,周術期の感染予防目的に日常的に使用されている.術後眼内炎の起因菌は,術眼の結膜.常在菌によるものが多いといわれており1.4),近年,メチシリン耐性やフルオロキノロン耐性菌による眼内炎の報告もある5.11).公立豊岡病院組合日高医療センター(以下,当院)でも,白内障術後のレボフロキサシン耐性表皮ブドウ球菌による眼内炎を経験し,周術期の抗菌薬点眼を再検討する目的で白内障術前患者における結膜.内常在菌の薬剤感受〔別刷請求先〕港一美:〒669-5302兵庫県豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合日高医療センター眼科Reprintrequests:KazumiMinato,DepartmentofOphthalmology,ToyookaHospitalHidakaMedicalCenter,81Iwanaka,Hidaka,Toyooka-city,Hyogo669-5302,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)581 性を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)にて比較検討した.I対象2010年8月.2011年12月の間,当院眼科を受診した20歳以上の白内障手術を予定し同意を得られた150例150眼で男性66例,女性84例,平均年齢は74.7±9.0歳であった.ただし,術前に明らかな外眼部感染症を認める者,検体採取日の1週間以内に抗菌剤の投与を受けている者,対象眼にコンタクトレンズを装用していた者については除外した.II方法手術の1カ月前以内に術眼の結膜.から検体を採取した.0.4%塩酸オキシブプロカインで表面麻酔した後,下眼瞼結膜.を滅菌綿棒で擦過し,カルチャースワブにて三菱化学メディエンス社に搬送した.羊血液寒天培地M58・クロムアガーオリエンテーション寒天培地・チョコレートⅡ寒天培地・アテネコロンビアウサギ血液寒天培地にて直接分離培養を,GAM半流動高層培地にて増菌培養を行い,検出されたすべての分離菌に対するレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),塩酸セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB),バンコマイシン(VCM)のMICを微量液体希釈法で測定した.MICの結果は累積発育阻止曲線としてまとめ,薬剤間の差異を検討した.III結果150眼中126眼(検出率84%)に182株の菌が検出された.その内訳は表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis:S.epidermidis)を含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)69株(37.9%),Corynebacteriumspp.66株(36.3%),Propionibacteriumacnes(P.acnes)11株(6.0%),腸球菌(Enterococcusfaecalis:E.faecalis)7株(3.8%),黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus:S.aureus)4株(2.2%)であった(図1).検出された全182株中MICが測定できた181株についてMIC別の菌株割合および累積発育阻止曲線を図2,3に示す.全菌株に対する薬剤感受性をMIC90で比較するとVCM(2μg/ml),CMX(8μg/ml),GFLX(16μg/ml),TOB(32μg/ml),LVFX(64μg/ml)の順で感受性が高かった.次に,グラム陽性菌153株に対するMIC別の菌株割合および累積発育阻止曲線を図4,5に示す.グラム陽性菌に対する薬剤感受性はMIC90でVCM(2μg/ml),CMX(8μg/ml),GFLX・TOB(16μg/ml),LVFX(128μg/ml)の順であった.一方,グラム陰性菌17株に対する薬剤感受性はMIC90でGFLX(0.5μg/ml),LVFX(1μg/ml),TOB(4μg/ml),CMX(16μg/ml),VCM(128μg/ml)の順であった(図6,7).主要な菌種別についてみると,CNSに対する薬剤感受性504540350:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>128割合(%)割合(%)その他グラムS.aureus,2.2%30陰性菌,9.3%図1検出菌182株の内訳25グラム陽性菌,CNS2015103.8%(S.epidermidisを含む)37.9%P.acnes,6.0%5S.pneumoniae,Corynebacterium0.5%spp.,36.3%MIC(mg/ml)図2検出菌182株のMIC別菌株割合E.faecalis,3.8%:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>12850450:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>12840累積(%)3530252015105MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図3検出菌182株のMIC累積分布図4グラム陽性菌153株のMIC別菌株割合582あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(104) 6050:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>12880700:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128割合(%)割合(%)累積(%)累積(%)累積(%)40504030302010MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図5グラム陽性菌153株のMIC累積分布図6グラム陰性菌17株のMIC別菌株割合:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>128800708060705060504040303020201010MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図7グラム陰性菌17株のMIC累積分布図8CNS(S.epidermidisを含む)68株のMIC別菌株割合:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>1288080割合(%)7070606050504040303020201010MIC(mg/ml)図9CNS(S.epidermidisを含む)68株のMIC累積分布MIC(mg/ml)図10Corynebacteriumspp.66株のMIC別菌株割合:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>1288080累積(%)累積(%)70706060505040302010MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図11Corynebacteriumspp.66株のMIC累積分布図12P.acnes11株のMIC累積分布(105)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014583 :GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM累積(%)1009080706050403020100≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM累積(%)1009080706050403020100≦0.060.120.250.51248163264128>128MIC(mg/ml)図13E.faecalis7株のMIC累積分布LVFXとGFLXのMIC差■:0管■:1管■:2管■:3管302520151050(菌株)≦0.06≦0.060.1250.250.51248164160.251GFLXはMIC90では,GFLX・VCM(2μg/ml),LVFX(4μg/ml),CMX・TOB(8μg/ml)の順であったが,MIC値の分布をみるとGFLX・LVFXは二峰性の分布を呈しており,CNSのなかでのフルオロキノロン低感受性株の増加がうかがわれた(図8,9).Corynebacteriumspp.についてはMIC90で,図14CNS68株のGFLX・LVFXのMIC値の比較討する目的で今回の調査を行うこととした.術前の結膜.からの検出菌は薄井ら9)の報告と同様,CNS,Corynebacteriumspp.,P.acnesの順であった.CNSTOB(≦0.06μg/ml),CMX(0.25μg/ml),VCM(0ml),GFLX(16μg/ml),LVFX(128μg/ml)の順となり,フルオロキノロンに対する高度な薬剤耐性を獲得しているとμg/5.の薬剤感受性はMIC90ではGFLX<VCM<LVFX<CMX<TOBであったがMICの分布をみると,星23)や片岡ら24)と同様,GFLX,LVFX共に二峰性の分布を示していた.思われた(図10,11).遅発性眼内炎の起因菌とされているP.acnesについては,MIC90はCMX(<0.25μg/ml),GFLX(0.25μg/ml),VCM(0.5μg/ml),LVFX(0.75μg/ml),TOB(128μg/ml)であり,TOB以外は感受性が高い結果であった(図12).E.faecalisについてはMIC90で,VCM(0.75μg/ml),GFLX(8μg/ml),LVFX(32μg/ml),TOB・CMX(>128μg/ml)の順であった(図13).IV考按白内障手術の主流が小切開手術となった現在,わが国の白内障手術後眼内炎の発症率は0.05%程度と考えられている9).一度起こってしまうと最悪失明に至るこの合併症を限りなくゼロに近づけるべく,ハイリスク患者の確認,術前結膜.細菌叢の把握,減菌化を目的とした抗菌薬の点眼,術直前の洗眼,ドレーピング法など,さまざまな検討がなされてきた11).術後眼内炎に限らず感染症の起因菌は微生物=準種性(quosispesisnature)を持つ集まりである以上,耐性の出現を止めることはできない12).これまでにも臨床状態が良好な患者にも耐性菌の保菌者がいること13.16),眼科領域で汎用されているキノロンの耐性率が年々増加傾向にあることといった報告がなされてきた17.22).術野の減菌化目的で抗菌薬の点眼を使用する以上,すべての手術対象者に対し術前に結膜.培養検査と分離菌の薬剤感受性検査を行い適切な薬剤を術前処置に使用することが大切といえる.当院でも,2007.2009年の間近隣からの紹介例も含め白内障術後眼内炎が増加し,LVFX耐性表皮ブドウ球菌が起因菌である症例を経験した.これをきっかけに周術期の抗菌薬点眼を再検584あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014Fukudaら25),Barnardら26),Hooper27)らによると,S.aureus同様,S.epidermidisはトポイソメラーゼIV(parC)→DNAジャイレース(gyrA)→parC→gyrAと変異を積み重ねるたびにより高度なフルオロキノロン耐性を獲得していく.このうちDNAジャイレースの変異を得るとGFLXへの耐性を獲得するとされ26),LVFXに対する低感受性群には第4世代フルオロキノロン耐性の予備軍が存在していることになり,このことは星23)の報告でも指摘されている.そこで個々のCNSについてGFLXとLVFXのMIC値の相関をみたところ図14のようになり,GFLX・LVFXともにMIC値の高い株のなかには少なくとも1回以上の遺伝子変異を起こしている株が存在すると考えられ,CNSのフルオロキノロンに対する段階的な耐性獲得を予想させる結果となった.一方Corynebacteriumspp.にはparCに相当するホモログが存在せず,DNAジャイレースの変異のみでキノロン高度耐性化を獲得することができるとされ28),筆者らの調査でも感受性の低い株が多かった.Corynebacteriumspp.による眼内炎は海外で散見され29.31),わが国では角膜炎が増加傾向にある.Eguchiら32)によるとフルオロキノロン耐性を持つのはCorynebacteriummaginleyであり,その耐性率はキノロンを乱用した日本に多いとされ,今後術後眼内炎についても注意が必要と思われる.P.acnesは遅発性眼内炎の起因菌とされ11,33),皮膚深部やマイボーム腺・結膜円蓋部の皺襞に埋もれて存在し,手術前の消毒・洗眼後にその検出率が増加し,他の術前常在菌が消失した例に多いとの報告もある34).わが国では現在のとこ(106) ろ,アミノ配糖体系の薬剤以外は有効とされ当院の調査でも同様の結果を得た.片岡ら24)や宮永ら35)も術前点眼によるP.acnesの耐性化はほとんどみられなかったとしているが,Horiら36)はCNS,S.aureus,Corynebacteriumspp.,P.acnesについては,LVFXに耐性を持つ株はMICが低くともGFLX,moxifloacinに対して耐性化していくと述べており,今後の動向を見張っていく必要があると思われる.E.faecalisによる眼内炎は1990年頃から増加しはじめ7),2002年度白内障術後眼内炎全国症例調査9)ではCNS,MRSAに次ぎ全体の12%を占め,MRSAとともに視力予後不良と報告されている.今回検出されたE.faecalis7株のMIC90はVCM以外は大きく,有効な抗菌薬の選択肢の少なさが,E.faecalisによる眼内炎の重症化の一因とも考えられた.術後眼内炎予防のために周術期減菌化目的で抗菌点眼薬を使用する場合,術眼の結膜.常在菌を把握し,そのMICに応じて術前抗菌点眼薬を選択すること,点眼薬の薬物動態37.39)を理解しておくことが大切である.そのためには,藤ら40)が報告した眼科用薬剤感受性測定オーダープレートのような眼科に特化した判定方法の開発が待たれるところである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EggerSF,Huber-SpitzyV,ScholdaCetal:BacterialcontaminationduringECCE.Prospectivestudyon200concesutivepatients.Ophtalmologia208:77-81,19942)AriyasuRG,NakamuraT,TrousdaleMDetal:Intaraoperativebacterialcontaminationoftheaqueoushumor.OphthalmicSurg24:367-374,19933)SpeakerMG,MilchFA,ShahMKetal:Roleofexternalbacterialflorainthepathogenesisofacutepostoperativeendophthalmitis.Ophthalmology98:639-650,19914)BannermanTL,RhodenDL,McAllisterSKetal:Thesourceofcoagulase-negativestaphylococciintheEndophthalmitisVitrectomyStudy.ArchOphthalmol115:367-361,19975)BarryP,SealDV,GettinbyGetal:ESCRSstudyofprophylaxisofpostoperativeendophthalmitisaftercataractsurgery:preliminaryreportofprincipalresultsfromaEuropeanmulticenterstudy.theESCRSEndophthalmitisStudyGroup.JCataractRefractScug32:407-410,20066)JensenMK,FiscellaRG,CrandallASetal:Aretrospectivestudyofendophthalmitisratescomparingquinoloneantibiotics.AmJOphthalmol139:141-148,20057)原二郎:起炎菌の変遷と術前消毒の効果.眼科手術11:159-164,19988)秦野寛:白内障術後眼内炎:起炎菌と臨床病型.あたら(107)しい眼科22:875-879,20059)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,200610)DeramoVA,LaiJC,FasteningDMetal:Acuteendophthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgatifloxacinandmoxiflxacin.AmJOphthalmol142:721-725,200611)子島良平,宮田和典:術後眼内炎を予防する白内障手術.IOL&RS22:137-141,200812)宮永嘉隆,山田尚,塩田洋:眼科.耐性菌感染症とその緊急具体策3.対策編化学療法の領域16:278-287,200013)大鹿哲郎:白内障術後眼内炎:発症因子と危険因子.あたらしい眼科22:315-338,200514)屋宜友子,須藤史子,森永将弘ほか:糖尿病患者における白内障手術前の結膜.細菌叢の検討.あたらしい眼科26:243-246,200915)荒川妙,太刀川貴子,大橋正明ほか:高齢者におけるマイボーム腺および結膜.内の常在菌についての検討.あたらしい眼科21:1241-1244,200416)岩崎雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,200617)MillerD,FlynnPM,ScottIUetal:Invitrofluoroquinoloneresistanceinstaphylococcalendophthalmitisisolates.ArchOphthalmol124:479-483,200618)IiharaH,SuzukiT,KawamuraYetal:Emergingmultiplemutationsandhigh-levelfluoloquinoloneresistanceinMRSAisoratedfromocularinfections.DiagnMicrobiolInfectDis56:297-303,200619)JhanjiV,SharmaN,SatpathyGetal:Forth-generationfluoloquinolon-resistantbacterialkeratitis.JCataractRefractSurg33:1488-1489,200720)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,200521)KurokawaN,HayashiK,KonishiMetal:IncreasingofloxacinresistanceofbacterialflorafromconjunctivalsacofpreoperativeophthalmicpatientsinJapan.JpnJOphthalmol46:586-589,200222)関奈央子,亀井裕子,松原正雄:高齢者の結膜.内コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出率と薬剤感受性.あたらしい眼科20:677-680,200323)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,201024)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜.内常在菌に対するガチフロキサシン及びレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科23:1062-1066,200625)FukudaH,HoriS,HiramatsuK:AntibacterialactivityofGFLX,anewlydevelopedfluoloquinolone,againstsequentiallyacquiredquinolone-resistantmutantsandthenorAtransformedofS.aureus.AntimicrobAgentsChemother42:1917-1922,199826)BarnardFM,MaxwellA:InteractionbetweenDNAgyraseandquinolones:effectsofalaninemutationsatGyrAsubunitredusesSer83andAsp87.AntimicrobAgentsChemother45:1994-2000,2001あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014585 27)HooperDC:FluoloquinoloneresistanceamongGrampositivecocci.LancetInfectDis2:530-538,200228)SierraJM,Martinez-MartinezL,Va’squezFetal:RelationshipbetweenmutationsinthegyrAgeneandquinoloneresistanceinclinicalisolatesofCorynebacteriumstriatumandCorynebacteriumamycolatum.AntimicrobAgentsChemother49:1714-1719,200529)FerrerC,Ruiz-MorenoJM,RodriquezAetal:PostoperativeCorynebacteriummacginleyiendohthalmitis.JCataractRefractSurg30:2441-2444,200430)HollanderDA,StewartJM,SeiffSRetal:Late-onsetCorynebacteriumendophthalmitisfollowinglaserposteriorcapsulotomy.OphthalmicSurgLasersImaging35:159161,200431)ArsenAK,SizmazS,OzbonSBetal:Corynebacteriumminutissimumendophthalmitis:managementwithantibioticirrigationofthecapsularbag.IntOphthalmol19:313-316,1995-199632)EguchiH,KawaharaT,MiyaharaTetal:High-levelfluoloquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummavginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,200833)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌.あたらしい眼科20:657-660,200334)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,200635)宮永将,子島良平,宮井尊史ほか:白内障手術の周術期における結膜.内常在菌叢フルオロキノロン点眼による減菌化と感受性変化.臨眼63:1659-1666,200936)HoriY,NakazawaT,MaedaNetal:Susceptibilitycomparisonsofnormalpreoperativeconjunctivalbacteriatofluoloquinolones.JCataractRefractSurg35:475-479,200937)福田正道,佐々木洋,大橋裕一:モキシフロキサシン点眼薬の家兎眼内移行動態─房水内最高濃度値(AQCmax)の測定.あたらしい眼科23:1353-1357,200638)末吉理恵,辻村まり:術前抗生物質投与におけるレボフロキサシン点眼薬とガチフロキサシン点眼液の比較検討.あたらしい眼科27:523-526,201039)BlondeauJM:Newconceptionantimicrobialsusceptibilitytesting:themutantpreventionconcentrationandmutantselectionwindowapproach.VetDermatol20:383-396,200940)藤紀彦,子島良平,池田欣史ほか:眼科用薬剤感受性プレートと臨床的有用性.臨眼65:1601-1607,2011***586あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(108)

周術期抗菌点眼薬の使用期間が結膜囊細菌叢へ及ぼす影響

2010年7月30日 金曜日

982(12あ2)たらしい眼科Vol.27,No.7,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科27(7):982.986,2010cはじめに眼瞼皮膚や結膜.内には常在細菌が存在し,内眼手術時には術後感染症の原因となることがわかっている1).そのため,内眼手術周術期には,常在細菌まで減菌する必要があると提唱されている.白内障術後における眼内炎の発生率は0.01.0.1%とされ2),内眼手術後眼内炎の発生予防のため,周術期に広範な抗菌スペクトルをもつ抗菌点眼薬が使用されているが,その効果におけるエビデンスについては明確ではない3).周術期抗菌点眼薬の使用方法について明確な指針はなく,施設により異なる方法で行われていることが多い.今〔別刷請求先〕須田智栄子:〒143-0013東京都大田区大森南4-13-21独立行政法人労働者福祉機構東京労災病院薬剤部Reprintrequests:ChiekoSuda,DepartmentofPharmacy,TokyoRosaiHospital,4-13-21Omoriminami,Ota-ku,Tokyo143-0013,JAPAN周術期抗菌点眼薬の使用期間が結膜.細菌叢へ及ぼす影響須田智栄子*1戸田和重*2,3松田英樹*2,3成相美奈*1松田俊之*1岡野喜一朗*2,3松田弘道*2,3金澤淑江*1*1独立行政法人労働者福祉機構東京労災病院薬剤部*2同眼科*3東京慈恵会医科大学眼科学教室EffectofAntibioticOphthalmicSolutionPerioperativeUseDurationonBacterialFlorainConjunctivalSacChiekoSuda1),KazushigeToda2,3),HidekiMatsuda2,3),MinaNariai1),ToshiyukiMatsuda1),KiichiroOkano2,3),HiromichiMatsuda2,3)andYoshieKanazawa1)1)DepartmentofPharmacy,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoRosaiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine内眼手術予定患者235名236眼を対象に,ガチフロキサシン(GFLX)点眼液の術前使用期間と用法をA群2日間1日5回,B群1週間1日4回,C群2週間1日4回の3群に分け,結膜.細菌培養,薬剤感受性試験を行い,コンプライアンス,菌検出率,分離菌種および薬剤耐性につき検討した.3群間で,年齢,点眼方法別のコンプライアンスに有意差はみられなかった.3群とも,点眼後に菌検出率の減少がみられた.点眼前には,Corynebacterium,CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)が多く検出された.Corynebacteriumは点眼後も多く検出される傾向があった.Propionibacteriumacnesは点眼前には検出が少なかったが,点眼後より比較的多く検出されるようになった.点眼前の耐性菌検出率は全体で33.8%であった.点眼開始前から手術1カ月後にかけての耐性獲得率について,3群間で有意差はみられなかった.In236eyesof235patientsundergoingsurgery,weinvestigatedgatifloxacin(GFLX)ophthalmicsolutionregardingtheeffectofitsperioperativeusedurationonbacterialfloraintheconjunctivalsac.Thepatientsweredividedinto3groupsaccordingtodurationofGFLXuse:GroupA:2days,5timesperday;GroupB:7days,4timesperday,andGroupC:14days,4timesperday.Bacterialdetectionrate,isolatedbacterialstrainsanddrugresistancewereexamined.Therewerenosignificantdifferencesincompliancebyageordurationofpreoperativeuse.TheapplicationofGFLXophthalmicsolutionresultedinbacterialdetectionratedecrease.ThemostfrequentlyidentifiedbacterialspecieswasCorynebacteriumsp.,followedbyCNS(coagulase-negativeStaphylococci).Corynebacteriumsp.wasidentifiedregardlessofGFLXophthalmicsolutionuse.PropionibacteriumacneswasrarelyidentifiedbeforetheuseofGFLXophthalmicsolution,butitsdetectionratewasslightlyincreasedpost-administration.Thequinolone-resistanceratewas33.8%.Therewerenosignificantdifferencesinresistance-acquisitionrateamongthe3groups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):982.986,2010〕Keywords:周術期,結膜.内常在菌,薬剤感受性,薬剤耐性,眼内炎.perioperative,bacterialflorainconjunctivalsacs,drugsensitivity,antibioticsresistance,endophthalmitis.(123)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010983回,筆者らは,術前抗菌点眼薬の使用回数と期間を3群に分け,年齢・点眼方法による点眼コンプライアンスの比較,点眼開始前と手術時の菌検出率,点眼開始前から手術1カ月後の結膜.細菌叢の変化,キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率と耐性獲得率を調査し,適正な使用方法につき検討を行った.I対象および方法1.対象a.点眼コンプライアンス2007年2月から2007年10月までに東京労災病院眼科における全内眼手術予定患者のうち同意の得られた20.97歳の235名(男性109名,女性126名,平均年齢73.4歳±10.6歳)を対象とした.ガチフロキサシン点眼液(以下,GFLX点眼液と略す)の術前使用期間と用法を(A)2日間1日5回点眼,(B)1週間1日4回点眼,(C)2週間1日4回点眼の3群に分け,対象者を各群に無作為に割り付けた.今回対象とした全患者の背景は,A群79名(男性41名,女性38名,平均年齢71.4±11.1歳),B群82名(男性35名,女性47名,平均年齢74.4±10.5歳),C群74名(男性33名,女性41名,平均年齢74.6±9.71歳)であった.b.点眼開始前の菌検出率と結膜.細菌叢細菌検査が可能であった202名(男性94名,女性108名,平均年齢73.4±10.7歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群77名(男性40名,女性37名,平均年齢71.4±11.2歳),B群73名(男性32名,女性41名,平均年齢74.3±10.8歳),C群52名(男性22名,女性30名,平均年齢74.9±8.97歳)であった.c.手術時の菌検出率と結膜.細菌叢点眼コンプライアンスの評価方法については,2.方法に記載する.点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった160名(男性70名,女性90名,平均年齢73.4±10.7歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群51名(男性27名,女性24名,平均年齢71.1±11.7歳),B群55名(男性21名,女性34名,平均年齢74.6±10.0歳),C群54名(男性22名,女性32名,平均年齢74.4±9.87歳)であった.d.手術1カ月後の結膜.細菌叢点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった113名(男性49名,女性64名,平均年齢74.0±9.19歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群36名(男性19名,女性17名,平均年齢72.1±9.71歳),B群39名(男性13名,女性26名,平均年齢75.6±7.98歳),C群38名(男性17名,女性21名,平均年齢74.0±9.50歳)であった.e.点眼後の耐性獲得点眼開始前から手術時の耐性獲得率については,点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった118名(男性53名,女性65名,平均年齢72.9±10.6歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群44名(男性25名,女性19名,平均年齢70.1±11.9歳),B群41名(男性16名,女性25名,平均年齢74.3±10.2歳),C群33名(男性12名,女性21名,平均年齢74.9±8.14歳)であった.点眼開始前から手術1カ月後の耐性獲得率については,点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった82名(男性37名,女性45名,平均年齢73.8±8.52歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群31名(男性18名,女性13名,平均年齢71.4±9.56歳),B群29名(男性10名,女性19名,平均年齢75.5±7.88歳),C群22名(男性9名,女性13名,平均年齢75.0±6.83歳)であった.2.方法コンプライアンスは患者インタビューより評価し,用法どおりできたものを良好,用法以下を不良,用法以上を過剰,コンプライアンスの聴取ができず不明であったものをその他とした.手術後はすべての群でGFLX点眼液1日3回を約1カ月間,抗炎症薬として0.1%リン酸デキサメタゾンナトリウム点眼液1日3回,0.1%ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液1日1回を約2週間,さらに0.1%フルオロメトロン点眼液に変更後約2週間使用した.各群について点眼開始前,手術時消毒直前,手術1カ月後に,滅菌綿棒にて下眼瞼結膜を擦過し,血液寒天培地を用いて分離培養を行い,細菌を同定した.また,GAM半流動培地を用いた増菌培養も行った.ついで,分離された細菌に対し薬剤感受性試験を行った.薬剤感受性試験の判定はK-Bディスク法で行った.すべての解析には統計解析ソフトであるJMPR6〈日本語版〉Windowsを用いてc2検定を行い,両側検定で危険率5%未満(p<0.05)を有意差ありとした.II結果1.コンプライアンスの比較年齢によるコンプライアンスの比較を行ったところ,コンプライアンス良好であったものは50代13/16(81.3%),60代40/54(74.1%),70代74/96(77.1%),80代45/57(78.9%),90代5/8(62.5%)となり,50代から90代の間で年齢によるコンプライアンスに有意差はみられなかった(図1a).点眼の方法は自己点眼の場合と家族による点眼の場合があった.点眼方法別のコンプライアンス良好率はA群60/79(75.9%),B群62/82(75.6%),C群57/74(77.0%)であり,3群間に有意差はみられなかった(図1b).984あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(124)2.点眼開始前と手術時の菌検出率点眼開始前の菌検出率は,A群45/77(58.4%),B群47/73(64.4%),C群37/52(71.2%)であった(表1a).コンプライアンス良好群における手術時の菌検出率は,A群14/51(27.5%),B群14/55(25.5%),C群14/54(25.9%)となり,GFLX点眼後,菌検出率の減少がみられた(表1b).点眼開始前および手術時の菌検出率において,3群間で有意差はみられなかった.3.点眼前の結膜.細菌叢点眼前の結膜より検出された細菌は,CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)30.5%,Corynebacterium46.1%が多くみられた(表2).4.結膜.細菌叢の変化点眼開始前から手術時と手術1カ月後における結膜.細菌叢の変化は3群とも同様の傾向を示した.CorynebacteriumはGFLX点眼後も多く検出される傾向があった.Propionibacteriumacnes(P.acnes)は,点眼前には検出が少なかったが,点眼後には比較的多く検出されるようになった.Bacillusは点眼開始前には検出されなかったが,手術時,手術1カ月後に検出された.Candidaは手術1カ月後に2眼で検出された(表3).5.キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率と耐性獲得率点眼前の検出菌について薬剤感受性試験を行った結果,キノロン系抗菌薬に対する耐性菌が検出された.点眼前のキノロン系抗菌薬に対する耐性菌は,全体の菌検出株数154に対し,耐性菌株数52となり,耐性菌検出率は33.8%であった(図2a).さらに,点眼後の耐性獲得について検討した.点眼前には耐性菌の出現がなく,点眼後に耐性菌の出現がみられたものを耐性獲得率として示した.その結果,点眼開始前から手術時にかけての耐性獲得率はA群5/44(11.4%),B群2/41(4.9%),C群1/33(3.0%)となり,A群で高い傾向があったものの,3群間に有意差はみられなかった(図2b).さらに,点眼開始前から手術1カ月後にかけての耐性獲得率はA群2/31(6.5%),B群2/29(6.9%),C群1/22(4.5%)であり,3群間で有意差はみられなかった(図2c).III考察結膜.内の細菌の検出率は約50.70%と報告されており4,5),今回の検出率58.3%はこれらとほぼ一致していた.点眼前の結膜.細菌叢については,過去の報告と同様に,Corynebacteriumが最も多く,CNSがつぎに多く検出された5,6).100%80%60%40%20%0%50代60代70代80代90代A群2日間1日5回B群1週間1日4回C群2週間1日4回コンプライアンス100%80%60%40%20%0%コンプライアンスa:年齢別b:用法別■:その他■:過剰■:不良□:良好図1点眼コンプライアンス表2点眼前の結膜.細菌叢分類検出菌株数(%)グラム59(38.3)陽性球菌CNSStaphylococcussp.MRSAStreptococcusStreptococcusalphahemoGroupGStreptococcusEnterococcusfaecalisStreptococcuspneumoniaeMicrococcussp.47(30.5)3(1.9)1(0.6)4(2.6)2(1.3)2(1.3)2(1.3)1(0.6)1(0.6)グラム92(59.7)陽性桿菌Corynebacteriumsp.Propionibacteriumacnesその他のグラム陽性桿菌71(46.1)2(1.3)19(12.3)グラム3(1.9)陰性桿菌CitrobacterkoseriSerratiamarcescensKlebsiellapneumoniae1(0.6)1(0.6)1(0.6)総計154CNS:coagulase-negativeStapylococci.MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus.表1菌検出率a:点眼開始前A群B群C群菌あり454737菌なし322615p値0.4550.4270.141b:手術時A群B群C群菌あり141414菌なし374140p値0.8160.9550.860(125)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010985今回検討した3つの用法では,コンプライアンス,点眼開始前および手術時の菌検出率に有意差はなく,減菌化という点からは2日間,1週間,2週間の術前使用方法については,どれも選択可能な方法と思われた.点眼開始前から手術時にかけての耐性獲得率は,有意差はなかったものの,1週間,2週間の術前使用方法に比べて,2日間の術前使用方法でやや高い傾向を示した.最近の研究では,GFLXなどのフルオロキノロン耐性菌は起炎菌のMIC(最小発育阻止濃度)からMPC(mutantpreventionconcentration:変異株増殖抑制濃度)間の薬剤濃度で発現すると考えられている7).また,白内障手術患者にGFLXを点眼した後の房水内濃度はMPCに達していない可能性も示唆されている8).今回,上記の耐性獲得率が,1週間,2週間に比べて,2日間の術前投与がやや高い傾向を示した原因は不明であるが,2週間投与群の耐性菌検査数が少なかったことがその一因とも考えられる.海外では手術1時間前に10分ごとに4回点眼する方法も用いられており,十分量の抗菌薬を短期間に投与する方法も検討する必要がある.一方,点眼開始前から手術1カ月後にかけ検出菌株数耐性菌株数耐性菌検出率(%)1545233.8A5/44C1/33A2/31B2/29B2/41C1/22①点眼開始前20151050a:キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率b:耐性獲得率耐性獲得率(%)20151050耐性獲得率(%)c:耐性獲得率①点眼開始前→②手術時①点眼開始前→③手術1カ月後11.4%6.5%0.9450.7246.9%4.9%4.5%0.2770.670p値0.166p値0.7673.0%A群2日間1日5回B群1週間1日4回C群2週間1日4回A群2日間1日5回B群1週間1日4回C群2週間1日4回図2キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率と耐性獲得率表3細菌叢の変化分類検出菌ABC①②③①②③①②③グラム陽性球菌CNSStaphylococcussp.MRSAStaphylococcusaureusStreptococcusStreptococcusalphahemoGroupGStreptococcusEnterococcusfaecalisStreptococcuspneumoniaeMicrococcussp.191113111111911132291112113グラム陽性桿菌Corynebacteriumsp.Propionibacteriumacnesその他のグラム陽性桿菌Bacillussp.嫌気性グラム陽性桿菌23183613231294381751917742332グラム陰性桿菌MorganellamorganiiCitrobacterkoseriSerratiamarcescensKlebsiellapneumoniae1111真菌Candidasp.11総計551512551517441512CNS:coagulase-negativeStapylococci,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus.①点眼開始前,②手術時,③手術1カ月後.986あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(126)ての耐性獲得率は,3群間で有意差はみられなかったため,手術1カ月後における耐性獲得と減菌化という点からは,3つの術前使用方法に差はないとも考えられ,患者の負担および利便性を合わせて考慮すると,今回検討した3群のなかでは,使用回数の最も少ない方法が適切ではないかと思われる.P.acnesは遅発性の眼内炎の原因菌として知られている1).Haraらは白内障術前患者488眼の結膜.および眼瞼縁からの菌の検出を試み,結膜.においては63眼(12.9%)にP.acnesを検出している9).今回の結果は,過去の報告と比較して,点眼前のP.acnesの検出率が少なかった.岩﨑らはP.acnesの検出率の低さについて,嫌気性培養を行わなかったためと考察している10).しかし,筆者らは,嫌気性培養を行っており,検出率の低さについては不明である.一方,点眼後にはP.acnesの検出率増加がみられ,過去の報告同様,GFLXによりグラム陽性球菌やグラム陽性桿菌が減少する代わりに増加している6).P.acnesの増加は,①菌交代現象,②点眼操作によるもの,③培養の際の圧出などが原因として考えられると報告されている6).さらに,少量ではあるがキノロン耐性をもつP.acnesも検出された.キノロン耐性P.acnesをもつ症例においては,検出菌の同定と抗菌薬の感受性を確認し,耐性菌が確認された際には,適正な抗菌薬の選択を行う必要があると思われる.一方,Bacillusは外傷による外因性眼内炎,真菌は内因性眼内炎および白内障術後眼内炎の起因菌としての報告がある11).今回の結果でBacillus,Candidaの検出が増加したことから,抗菌点眼薬使用による菌交代現象により,結膜.細菌叢が変化した可能性が考えられた.その頻度は少ないが,Bacillus,Candidaについても眼内炎の起因菌となりうるという点から,同様に注意する必要があると思われた.本論文の要旨は第27回日本眼薬理学会(2007年,岐阜)にて発表した.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起因菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)三宅謙作:眼科危機管理とインフォームドコンセント:白内障/IOL手術後眼内炎.日本の眼科75:1209-1213,20043)佐々木香る:眼科におけるSurgicalSiteInfectionサーベイランスに向けて.感染制御1:337-342,20054)大.秀行,福田昌彦,大鳥利文:高齢者1,000眼の結膜.内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19985)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜.内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,20016)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,20067)BlondeauJM:Newconceptsinantimicrobialsusceptibilitytesting:themutantpreventionconcentrationandmutantselectionwindowapproach.VetDermatol20(5-6):383-396,20098)KimDH,StarkWJ,O’BrienTP:Ocularpenetrationofmoxifloxacin0.5%andgatifloxacin0.3%ophthalmicsolutionsintotheaqueoushumorfollowingtopicaladministrationpriortoroutinecataractsurgery.CurrMedResOpin21:93-94,20059)HaraJ,YasudaF,HigashitsutsumiM:Preoperativedisinfectionoftheconjunctivalsacincataractsurgery.Ophthalmologica211(Suppl1):62-67,199710)岩﨑雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,200611)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起因菌─.日眼会誌95:369-376,1991***