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白内障術前患者における結膜囊常在細菌の保菌リスク因子

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)1313《原著》あたらしい眼科28(9):1313?1319,2011cはじめに結膜?常在細菌は術後感染症の原因として重要である1).特に黄色ブドウ球菌,腸球菌やグラム陰性桿菌に関しては,結膜?保菌率は高くはないものの感染症に至ると重篤な経過となりやすい菌種である2,3).また,近年は結膜?常在細菌の多剤耐性化が問題となっており,特にメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulasenegativestaphylococci:MR-CNS)でその傾向が強く,筆者らが行った調査においても眼科で汎用される各種フルオロキノロン系抗菌薬への耐性化が示されている4).このような眼科感染症の脅威となる微生物に対抗するためには,結膜?常在細菌の疫学的特徴を明らかにすることがまず必要である.結膜?検出菌のリスク因子については過去にいくつかの報告があり5?11),加齢,ステロイド全身投与,アトピー性皮膚炎,糖尿病などが結膜?内の細菌叢に影響するといわれている.しかしながら,これまでの報告の多くは個々の菌種の臨床微生物学的特徴を加味していないため,感染防御に有用な知見が十分に得られているとはいえない状況である.今回〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN白内障術前患者における結膜?常在細菌の保菌リスク因子星最智*1卜部公章*2*1藤枝市立総合病院眼科*2町田病院RiskFactorsforConjunctivalBacterialColonizationinPreoperativeCataractPatientsSaichiHoshi1)andKimiakiUrabe2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)MachidaHospital白内障術前に結膜?培養を施行した990名を対象とした.診療録から,年齢,性別,高血圧,糖尿病,ステロイド内服,涙道閉塞,緑内障点眼薬の使用,眼科通院歴,他科手術歴に関して調査し,主要な7菌種の保菌リスク因子をロジスティック回帰分析にて解析した.a溶血性レンサ球菌と腸球菌では年齢(それぞれp=0.040,p=0.002),グラム陰性桿菌では涙道閉塞(p=0.003),コリネバクテリウム属では年齢,性別,緑内障点眼薬の使用(それぞれp<0.001,p=0.014,p=0.001),メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌では性別(p=0.001),メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌ではステロイド内服,眼科通院歴,他科手術歴(それぞれp=0.002,p=0.021,p=0.001)において有意差を認めた.メチシリン感受性黄色ブドウ球菌では有意な保菌リスク因子を認めなかった.Conjunctivalsaccultureswereexaminedin990preoperativecataractpatients.Patientage,sex,hypertension,diabetes,oralsteroid,lacrimalductobstruction,glaucomaeyedrops,historyofophthalmicmedicalfacilitiesandhistoryofsurgeryinotherdepartmentswereinvestigatedviamedicalrecords.Riskfactorsforcolonizationof7bacterialspecieswereanalyzedbylogisticregressionanalysis.Alpha-haemolyticstreptococciandEnterococcusfaecalisshowedsignificantdifferencesbyage(p=0.040,p=0.002,respectively).Gram-negativebacillishowedsignificantdifferencesbylacrimalductobstruction(p=0.003).Corynebacteriumspeciesshowedsignificantdifferencesbyage,sexanduseofglaucomaeyedrops(p<0.001,p=0.014,p=0.001,respectively).Methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococcishowedsignificantdifferencesbysex(p=0.001).Methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococcishowedsignificantdifferencesbyoralsteroid,historyofophthalmicmedicalfacilitiesandhistoryofsurgeryinotherdepartments(p=0.002,p=0.021,p=0.001,respectively).Methicillin-susceptibleStaphylococcusaureusshowednosignificantriskfactors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1313?1319,2011〕Keywords:結膜?常在細菌,グラム陰性桿菌,コリネバクテリウム属,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,医療関連感染.conjunctivalbacterialflora,gram-negativebacilli,Corynebacteriumspecies,methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci,healthcare-associatedinfections.1314あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(94)筆者らは,白内障術前患者における結膜?常在細菌と患者背景との関連について,臨床微生物学的観点から詳細に調査を行ったので報告する.I対象および方法1.患者背景の調査と検体採取2007年8月から2008年7月までの1年間に,高知県の眼科専門病院である町田病院に外来受診した白内障術前患者を対象とした.検査眼に内眼手術歴がある場合や,抗菌点眼薬を使用している場合は対象から除外した.患者背景については,内眼手術予定の患者用に使用している問診票と診療録を元に,年齢,性別,高血圧の有無,糖尿病の有無,ステロイド内服の有無,涙道閉塞の有無,緑内障点眼薬使用の有無,6カ月以内の他院も含めた眼科通院歴の有無,3年以内の他科での手術歴の有無の9項目について調査した.眼科通院歴の6カ月以内,他科での手術歴の3年以内という期間設定については,診療録から正確に情報収集できる範囲として便宜上設定した.高血圧と糖尿病に関しては,内科ですでに治療を行っている場合と,術前検査で疾患が判明した後に内科で治療が開始された場合に有りと判定した.培養検体は,スワブの先を滅菌生理食塩水で湿らせた後に下眼瞼結膜?を擦過して採取した.培養検査はデルタバイオメディカルに依頼し,ヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳糖加寒天培地(bromothymolbluelactateagar),チオグリコレート増菌培地を用いて好気培養と増菌培養を行った.結膜?の検体採取後,涙道通水検査によって涙道閉塞の有無を全例で確認した.2.保菌リスク因子の解析結膜?から検出されやすい菌種であるメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus:MSSA),a溶血性レンサ球菌,腸球菌(Enterococcusfaecalis),グラム陰性桿菌,コリネバクテリウム属,メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillinsusceptiblecoagulase-negativestaphylococci:MS-CNS),MR-CNSの7菌種それぞれに対し,結膜?保菌率に影響を与える患者背景因子を調べるために統計学的解析を行った.具体的にはまず,9つの患者背景因子を説明変数,各菌種の結膜?保菌の有無を目的変数として単変量ロジスティック回帰分析を行い,粗オッズ比と95%信頼区間を算出した.つぎに,単変量解析にて統計学的に有意な因子を複数認めた場合は,これらを説明変数として強制投入した多変量ロジスティック回帰分析によって調整オッズ比と95%信頼区間を算出した.有意水準は5%とした.II結果1.対象者の特徴対象患者は990名(女性594名,男性396名)であり,平均年齢は73.9±10.1歳,年齢の中央値は75歳であった.対象患者の83.3%が65歳以上の高齢者であった.他の患者背景因子に関しては,高血圧が533名(53.8%),糖尿病が206名(20.8%),ステロイド内服が29名(2.9%),涙道閉塞が31名(3.1%),緑内障点眼薬使用が97名(9.8%),6カ月以内の眼科通院歴が725名(73.2%),3年以内の他科手術歴が74名(7.5%)であった.2.結膜?検出菌の構成培養陽性率は72.8%であった.結膜?検出菌の詳細を表1に示す.コリネバクテリウム属とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で全体の80.3%を占めた.また,本研究の調査対象菌種であるMSSA,a溶血性レンサ球菌,腸球菌,グラム陰性桿菌も含めると,全体の96.4%を占めた.3.保菌リスク因子の解析a.MSSAMSSAに関しては,単変量解析において統計学的に有意な保菌リスク因子を認めなかった(表2a).b.a溶血性レンサ球菌と腸球菌a溶血性レンサ球菌と腸球菌では,単変量解析において年齢と有意な関連を認めた(それぞれp=0.040,p=0.002)(表2b,c).年齢が1歳増加することによるオッズ比は,a溶血性レンサ球菌では1.047(95%信頼区間:1.002?1.093),腸球菌では1.074(95%信頼区間:1.027?1.122)であった.本研究の母集団の中央値が75歳であることから,75歳未満と75歳以上で保菌率を比較すると,a溶血性レンサ球菌ではそれぞれ1.6%,4.4%,腸球菌ではそれぞれ2.3%,4.7%であった.c.グラム陰性桿菌グラム陰性桿菌では,単変量解析において年齢,ステロイ表1結膜?検出菌の構成菌種株数割合(%)コリネバクテリウム属46244.8メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌23022.3メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌13613.2メチシリン感受性黄色ブドウ球菌444.3メチシリン耐性黄色ブドウ球菌60.6腸球菌363.5a溶血性レンサ球菌313その他のグラム陽性球菌282.7グラム陰性桿菌555.3グラム陰性球菌40.4合計1,032100(95)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111315表2各菌種における単変量解析結果a:MSSAb:a溶血性レンサ球菌説明変数陽性群n=44陰性群n=946pvalueオッズ比95%信頼区間説明変数陽性群n=31陰性群n=959pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限下限上限年齢(歳)74.9±10.473.8±10.10.5121.0110.9791.043年齢(歳)77.5±9.073.7±10.10.040*1.0471.0021.093性別(男/女)19/25377/5690.6601.1470.6232.112性別(男/女)14/17382/5770.5521.2440.6062.553高血圧(+/?)24/20509/4370.9231.0300.5611.890高血圧(+/?)21/10512/4470.1201.8330.8543.935糖尿病(+/?)6/38200/7560.2360.5890.2461.413糖尿病(+/?)10/21196/7630.1161.8540.8594.001ステロイド内服(+/?)2/4227/9190.5191.6210.3737.044ステロイド内服(+/?)2/2927/9320.2522.3810.54010.490涙道閉塞(+/?)2/4229/9170.5841.5060.3486.522涙道閉塞(+/?)2/2929/9300.2932.2120.5049.714緑内障点眼(+/?)6/3891/8550.5841.5060.3486.522緑内障点眼(+/?)5/2692/8670.2351.8120.6804.833眼科通院歴(+/?)33/11692/2540.7871.1010.5482.212眼科通院歴(+/?)22/9703/2560.7720.8900.4051.959他科手術歴(+/?)3/4171/8750.8660.9020.2722.985他科手術歴(+/?)1/3073/8860.3770.4050.0543.009c:腸球菌d:グラム陰性桿菌説明変数陽性群n=36陰性群n=954pvalueオッズ比95%信頼区間説明変数陽性群n=52陰性群n=938pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限下限上限年齢(歳)79.0±7.773.7±10.10.002**1.0741.0271.122年齢(歳)76.6±7.773.7±10.20.048*1.0331.0001.067性別(男/女)12/24384/5700.4070.7420.3671.502性別(男/女)21/31375/5630.9541.0170.5761.797高血圧(+/?)21/15512/4420.5821.2090.6162.373高血圧(+/?)33/19500/4380.1551.5210.8532.714糖尿病(+/?)9/27197/7570.5291.2810.5932.768糖尿病(+/?)13/39193/7450.4451.2870.6742.458ステロイド内服(+/?)1/3528/9260.9560.9450.1257.144ステロイド内服(+/?)4/4825/9130.046*3.0431.0189.094涙道閉塞(+/?)2/3429/9250.4021.8760.4308.187涙道閉塞(+/?)6/4625/9130.001**4.7631.86312.182緑内障点眼(+/?)3/3394/8600.7640.8320.2502.764緑内障点眼(+/?)4/4893/8450.6010.7570.2672.147眼科通院歴(+/?)26/10699/2550.8890.9480.4511.995眼科通院歴(+/?)39/13686/2520.7671.1020.5792.099他科手術歴(+/?)4/3270/8840.4021.5790.5434.591他科手術歴(+/?)6/4668/8700.2571.6690.6884.047e:コリネバクテリウム属f:MS-CNS説明変数陽性群n=460陰性群n=530pvalueオッズ比95%信頼区間説明変数陽性群n=223陰性群n=767pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限下限上限年齢(歳)75.9±8.572.1±10.9p<0.001**1.0421.0281.056年齢(歳)73.0±10.274.1±10.00.1650.9900.9761.004性別(男/女)200/260196/3340.038*1.3111.0161.692性別(男/女)110/113286/4810.001**1.6371.2122.211高血圧(+/?)267/193266/2640.014*1.3731.0681.766高血圧(+/?)122/101411/3560.7671.0460.7761.412糖尿病(+/?)92/368114/4160.5600.9120.6701.242糖尿病(+/?)53/170153/6140.2171.2510.8771.785ステロイド内服(+/?)15/44514/5160.5651.2420.5932.602ステロイド内服(+/?)5/21824/7430.4910.7100.2681.883涙道閉塞(+/?)17/44314/5160.3441.4140.6892.902涙道閉塞(+/?)6/21725/7420.6680.8210.3322.026緑内障点眼(+/?)31/42966/4640.003**0.5080.3250.794緑内障点眼(+/?)15/20882/6850.0820.6020.3401.067眼科通院歴(+/?)337/123388/1420.9851.0030.7561.330眼科通院歴(+/?)159/64566/2010.4590.8820.6331.229他科手術歴(+/?)39/42135/4950.2641.3100.8152.106他科手術歴(+/?)10/21364/7030.0580.5160.2601.022g:MR-CNSn:患者数.データは実数または平均±標準偏差で示す.ロジスティック回帰分析*:p<0.05,**:p<0.01.説明変数陽性群n=135陰性群n=855pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限年齢(歳)75.3±10.274.4±9.90.2951.0100.9911.029性別(男/女)52/83344/5110.7050.9310.6411.351高血圧(+/?)75/60458/3970.6671.0840.7521.561糖尿病(+/?)29/106177/6780.8361.0480.6731.632ステロイド内服(+/?)10/12519/8360.002**3.5201.6007.744涙道閉塞(+/?)7/12824/8310.1471.8940.7994.485緑内障点眼(+/?)16/11981/7740.3891.2850.7272.272眼科通院歴(+/?)109/26616/2390.035*1.6271.0342.559他科手術歴(+/?)20/11554/8010.001**2.5801.4904.4671316あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(96)ド内服,涙道閉塞で有意な関連を認めた(それぞれp=0.048,p=0.046,p=0.001)(表2d).そこでこれら3つの因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,涙道閉塞のみが独立した保菌リスク因子として選択された(p=0.003)(表3a).涙道閉塞を認める場合の調整オッズ比は4.231(95%信頼区間:1.630?10.979)であった.グラム陰性桿菌の保菌率は,涙道閉塞を認めない場合は4.8%であり,認める場合は19.4%であった.d.コリネバクテリウム属コリネバクテリウム属では,単変量解析において年齢,性別,高血圧,緑内障点眼薬の使用と有意な関連を認めた(それぞれp<0.001,p=0.038,p=0.014,p=0.003)(表2e).そこでこれら4つの因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,年齢,性別,緑内障点眼薬の使用の3つが独立した保菌リスク因子として選択された(それぞれp<0.001,p=0.014,p=0.001)(表3b).年齢が1歳増加する6050403020100女性(17)男性(15)女性(231)男性(178)女性(48)男性(17)女性(298)男性(186)緑内障点眼あり(32)緑内障点眼なし(409)緑内障点眼あり(65)緑内障点眼なし(484)75歳未満(441)75歳以上(549)結膜?保菌率(%)図1コリネバクテリウム属の結膜?保菌率の変化括弧内の数字は保菌者数を示す.403020100眼科通院なし(232)眼科通院あり(657)眼科通院なし(26)眼科通院あり(46)眼科通院なし(6)眼科通院あり(21)他科手術歴なし(889)他科手術歴あり(72)他科手術歴なし(27)ステロイド内服なし(961)ステロイド内服あり(29)結膜?保菌率(%)図2MR?CNSの結膜?保菌率の変化括弧内の数字は保菌者数を示す.表3各菌種における多変量解析結果a:グラム陰性桿菌説明変数偏回帰係数調整オッズ比95%信頼区間下限上限pvalue年齢0.0271.0270.9941.0610.105ステロイド内服1.0742.9270.9688.8550.057涙道閉塞1.4424.2311.63010.9790.003**定数項?5.062───p<0.001**b:コリネバクテリウム属説明変数偏回帰係数調整オッズ比95%信頼区間下限上限pvalue年齢0.0421.0431.0281.058p<0.001**性別(男)0.3301.3911.0691.8110.014*高血圧0.1631.1770.9031.5340.229緑内障点眼?0.7630.4660.2950.7360.001**定数項?3.409───p<0.001**c:MR-CNS説明変数偏回帰係数調整オッズ比95%信頼区間下限上限pvalueステロイド内服1.2833.6071.6248.0120.002**眼科通院0.5441.7241.0872.7340.021*他科手術歴1.0262.7901.5974.876p<0.001**定数項?2.422───p<0.001**ロジスティック回帰分析*:p<0.05,**:p<0.01.(97)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111317ことによる調整オッズ比は1.043(95%信頼区間:1.028?1.058),男性の場合の調整オッズ比は1.391(95%信頼区間:1.069?1.811)であり,これら2つの因子は保菌リスクを増加させる一方,緑内障点眼薬の使用による調整オッズ比は0.466(95%信頼区間:0.295?0.736)となり保菌リスクを減少させた.コリネバクテリウム属の保菌率は,3つの保菌リスク因子の保有状況により11.8%から55.9%にまで変化した(図1).e.MS?CNSMS-CNSでは,単変量解析において性別と有意な関連を認めた(p=0.001)(表2f).男性の場合のオッズ比は1.637(95%信頼区間:1.212?2.211)であった.性別ごとの保菌率は,男性28.5%,女性19.7%であった.f.MR?CNSMR-CNSでは,単変量解析においてステロイド内服,眼科通院歴,他科手術歴で有意な関連を認めた(それぞれp=0.002,p=0.035,p=0.001)(表2g).そこでこれら3つの因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,ステロイド内服,眼科通院歴,他科手術歴が独立した保菌リスク因子として選択された(それぞれp=0.002,p=0.021,p<0.001)(表3c).ステロイド内服がある場合の調整オッズ比は3.607(95%信頼区間:1.624?8.012),眼科通院歴がある場合の調整オッズ比は1.724(95%信頼区間:1.087?2.734),他科手術歴がある場合の調整オッズ比は2.790(95%信頼区間:1.597?4.876)であり,3因子すべてが保菌リスクを増加させた.MR-CNSの保菌率は3つの因子の保有状況により,7.8%から33.3%まで変化した(図2).III考按結膜?常在細菌は,通常は眼表面を病原微生物から守る働きをもっていると考えられるが,眼科手術後感染症においては常在細菌そのものが起炎菌となりうる1).したがって,結膜?常在細菌の疫学的特徴を明らかにすることは,感染防御の観点からも重要と考えられる.結膜?検出菌の保菌リスク因子については過去にさまざまな研究がなされており,たとえば加齢で細菌検出率が高くなるという報告8,10,11)やプレドニゾロンの投与量と細菌検出数に正の相関を認めるという報告5),アトピー性皮膚炎患者では黄色ブドウ球菌が多く検出されるという報告6),さらに糖尿病ではMR-CNSが多く検出されるという報告9)などがある.しかしながらこれまでの報告は,微生物学的視点や感染疫学的視点に十分配慮した研究デザインがとられているものが少なく,報告されているリスク因子の信頼性を検証するうえでも再度詳細に検討し直す必要があると考えた.今回筆者らは,臨床微生物学的観点からつぎにあげる3点に注意して検討を行った.まず,菌種ごとに保菌リスク因子が存在するかどうかに着目した.細菌は菌種ごとに主たる生息部位,栄養要求性,伝播経路などが異なる.さらに,黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌ではその病原性が異なるように,菌種ごとに臨床上の重要度も異なるはずである.したがって,単に検出菌全体の増減を評価するのではなく,菌種ごとのリスク因子を評価するほうが感染防御的に有用な情報が得られると考えた.そのために対象患者数を増やすことで目的菌種の分離株数を解析可能な数にまで増やして検討を行った.つぎに,医療関連感染の可能性に着目した.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)やMR-CNS,バンコマイシン耐性腸球菌,多剤耐性緑膿菌などの多剤耐性菌は,主として医療関連感染として問題となる細菌である.したがって本研究では,6カ月以内の眼科通院歴と3年以内の他科での手術歴を検討項目に含めた.眼科通院歴に関しては医療従事者の手指から患者結膜への接触感染リスクの指標と考え,他科での手術歴に関しては医療施設内での全身抗菌薬の使用に対する間接的な指標と考えた.最後に,リスク因子について解析する際に問題となる交絡因子に配慮するため,多変量解析も行うことで独立したリスク因子かどうかの確認を行った.以上の3点に配慮して検討を行ったところ,黄色ブドウ球菌を除く6菌種において菌種ごとの保菌リスク因子を明らかにすることができた.黄色ブドウ球菌に関しては,9つの患者背景のいずれにおいても統計学的に有意な保菌リスク因子を認めなかった.結膜?検出菌としての黄色ブドウ球菌に関する過去の報告では,アトピー性皮膚炎患者において検出率が67%と高値であったとしている6).本研究ではアトピー性皮膚炎患者は9名とごく少数であり,統計学的解析はできなかった.アトピー性皮膚炎患者の場合は,皮膚粘膜バリア機能の破綻により黄色ブドウ球菌などの病原微生物が繁殖しやすい環境になっていると考えられ,非アトピー患者とは異なった結膜?細菌叢を構成していると認識したほうがよいかもしれない.黄色ブドウ球菌は主として鼻腔に生息しやすい細菌であり,健常者では2割が鼻腔に保菌している12).したがって,鼻腔の黄色ブドウ球菌が結膜?の保菌に影響を与えている可能性も考えられるため,今後は鼻腔の検出菌を含めた検討が必要と考えられた.a溶血性レンサ球菌と腸球菌では,年齢が保菌リスク因子として選択された.腸球菌では術後眼内炎で予後が悪いといわれている3)が,a溶血性レンサ球菌も筆者らがすでに報告しているように,予後の悪い症例が認められるので注意すべきである13).どの年齢から注意すべきかの判断はむずかしいが,たとえば両菌種の保菌率が5%を超える80歳以上(a溶血性レンサ球菌:6.0%,腸球菌:7.4%)では術後早期の再診間隔を短くするなど,各医療施設で可能な範囲内での対応があってよいと思われる.1318あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011グラム陰性桿菌では,涙道閉塞が独立した保菌リスク因子として選択された.グラム陰性桿菌は水の流れが滞った部位に繁殖しやすい性質があるため,涙道閉塞との関連は容易に理解できる.過去の報告においても,涙道閉塞患者では涙?内貯留液や結膜?検出菌に占めるグラム陰性桿菌の割合が増加することが指摘されている14).一方,慢性涙?炎の検出菌に関する報告では,グラム陰性桿菌の他にMRSAを含む黄色ブドウ球菌や肺炎球菌などの病原性グラム陽性球菌も多く検出されている15,16).本研究において黄色ブドウ球菌や肺炎球菌が多く検出されなかった理由としては,膿の逆流を伴わない涙道閉塞症例や流涙の自覚がほとんどない軽症例が多く含まれていたことが考えられる.しかしながら,慢性涙?炎の臨床所見を伴わない初期の涙道閉塞においても結膜?内の細菌叢に変化が生じうるという本研究の結果は,内眼手術に対する感染対策を行ううえで重要な知見である.白内障術後眼内炎の起炎菌では,まれに緑膿菌などのグラム陰性桿菌を認める2)が,これは手術機器の汚染以外に涙道閉塞が原因となっている可能性も考えられる.グラム陰性桿菌による眼内炎は予後不良であるため,流涙の自覚の有無にかかわらず術前に涙道閉塞の有無を確認するほうがよいと考えられた.また,涙道閉塞が存在する場合は,術直前に涙道内の洗浄を十分に行うか,可能であれば先に涙道再建術を行うほうがよいと考えられた.コリネバクテリウム属では,年齢,性別と緑内障点眼薬の使用が独立した保菌リスク因子として選択された.このうち男性と加齢は保菌リスクを増加させる一方,緑内障点眼薬の使用は保菌リスクを減少させる結果となった.コリネバクテリウム属の保菌と年齢,性別が関係するという報告は過去にない.結膜?からはCorynebacteriummacginleyiが多く分離されるといわれており17),細菌学的特徴として脂質の要求性が高いことが示されている18).仮説として,加齢や性別によってマイボーム腺からの脂質の量や性状が異なることで,高齢男性においてコリネバクテリウム属が繁殖しやすい環境が構築されている可能性が考えられる.緑内障点眼薬の使用によってコリネバクテリウム属の検出率が減少する理由も不明であるが,過去に緑内障術前患者では白内障術前患者と比較してコリネバクテリウム属の検出率が有意に低下するという報告がある7).緑内障術前患者はなんらかの緑内障点眼薬を使用していたはずなので,本研究と同じ現象を指摘していると考えられる.緑内障点眼薬の主成分によるものか,あるいは防腐剤などの添加物によるものかについては,今後さらなる検討が必要と考えられた.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌では,メチシリン耐性の有無で保菌リスク因子が異なるという興味深い結果となった.まず,MS-CNSでは,性別のみが保菌リスク因子として選択された.男性が保菌リスクを増加させたが,理由としてはコリネバクテリウム属の場合と同様,男性の眼瞼や眼表面にはMS-CNSの繁殖に必要な栄養が豊富に存在している可能性が考えられるが詳細は不明である.一方,MR-CNSでは,ステロイド内服,6カ月以内の眼科通院歴,3年以内の他科での手術歴の3つが独立した保菌リスク因子として選択された.ステロイド内服による全身の易感染状態では,外部から結膜?内に侵入してきた混入菌を排除する機構が減弱していることが原因の一つと推測される.結膜?のMR-CNS保菌が眼科通院歴や他科での手術歴と関連するという報告は今までにない.この結果は,医療関連感染の存在を示唆するものと考えられる.MR-CNSなどの薬剤耐性菌は,全身抗菌薬を使用する頻度の高い医療施設で頻繁に分離される細菌である.他科で手術を受けた患者の多くは周術期に全身抗菌薬を投与されていると思われるが,その結果全身の常在細菌叢が影響を受けてMR-CNSに感染しやすくなると考えられる.最初の保菌場所が眼ではなくても,手指による眼への自家感染が起これば,結膜?からもMR-CNSが検出されるようになると考えられる.さらに,このようにしてMR-CNSを保菌した患者が眼科に受診した際,眼科医療従事者の手指を介して,他の患者の眼部に接触伝播することでMR-CNSの保菌者を増やしている可能性が考えられる.本研究では便宜上6カ月以内の眼科受診歴としているが,実際は患者の受診頻度が保菌リスクに影響を与えていると考えられる.したがって,頻繁に眼科受診している患者ほどMR-CNSの感染リスクが高まると考えて,眼科医は日々の診療を行う必要がある.具体的には,患者の眼部に接触する前の手指衛生が重要であり,流水による手洗いや速乾性アルコール手指消毒剤による手指消毒を遵守することで眼科としてインフェクションコントロールに貢献できると考えられる.他のMR-CNSの結膜?保菌リスクとして屋宜ら9)は糖尿病を指摘しているが,本研究では糖尿病はMR-CNSの保菌リスクとはいえなかった.屋宜らの調査では1症例1検体ではなく両眼採取と片眼採取の症例が混在していること,糖尿病の有無で分けた2群間比較ではMR-CNSの保菌者数ではなく検出菌株数を対象としていることが問題であり,解析結果に少なからず影響を与えている可能性が考えられる.最後に本研究における問題点は,アトピー性皮膚炎,喘息,自己免疫疾患,ステロイド以外の免疫抑制剤使用者といった患者背景因子について,対象患者数が少ないために解析できなかったことである.過去にはこれら全身リスクを有する患者に関する報告6,11)もあるので注意が必要である.さらに本研究では嫌気性菌やMRSAについても解析できていないため,今後さらなる検討が必要である.結論として,結膜?常在細菌は菌種ごとに異なった保菌リスク因子を有していた.特にMR-CNSでは,ステロイド内服による全身の免疫抑制状態の他に,医療関連感染との関連(98)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111319が強かった.眼科におけるMR-CNSの蔓延を防ぐためには,眼科医療従事者による標準予防策の遵守が重要である.本研究の要旨は第63回日本臨床眼科学会で報告した.文献1)BannermanTL,RhodenDL,McAllisterSKetal:Thesourceofcoagulase-negativestaphylococciintheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Acomparisonofeyelidandintraocularisolatesusingpulsed-fieldgelelectrophoresis.ArchOphthalmol115:357-361,19972)宮嶋聖也,松本光希,宮川真一:熊本大学における過去20年間の細菌性眼内炎の検討.眼臨89:603-606,19953)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループ.白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)星最智:正常結膜?から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,20105)MillerB,EllisPP:Conjunctivalflorainpatientsreceivingimmunosuppressivedrugs.ArchOphthalmol95:2012-2014,19776)NakataK,InoueY,HaradaJetal:AhighincidenceofStaphylococcusaureuscolonizationintheexternaleyesofpatientswithatopicdermatitis.Ophthalmology107:21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