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感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択2018

2020年4月30日 木曜日

感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択2018加茂純子*1村松志保*2赤澤博美*2阿部水穂*2*1甲府共立病院眼科*2甲府共立病院細菌検査室CRecommendationofAntibioticsfortheEyebyAgeGroupin2018BasedonMicroorganismSensitivityJunkoKamo1),ShihoMuramatsu2),HiromiAkazawa2)andMizuhoAbe2)1)DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,2)DepartmentofBacterialLaboratory,KofuKyoritsuHospitalC目的:今回筆者らは既存抗菌点眼と比べ,わが国で新しく発売予定の強粘性により薬剤の滞留性を高めたマクロライド系の抗菌点眼薬アジスロマイシン(AZM)が結膜炎の眼脂培養で得られた細菌への感受性を年代別に調べた.方法:当院で採用している抗菌薬のセフメノキシム(CMX),ジベカシン(DKB),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)に加え,AZMのディスクを用い感受性を調べた.対象:2016年C12月C1日.2018年C6月C30日に甲府共立病院,甲府共立診療所眼科外来に結膜炎,角膜炎で訪れた患者C246人(男C131,女115)から採取されたC630の菌,平均年齢はC53歳±38.歳(0.99歳).結果:1位CCorynebacterium,2位CCNS,3位CNS-MRS,4位Ca-Hemolytic-streptococcus,5位CStaphylococcusaureus.上位菌種にはCCMX,CP,VCMが強い.AZMに対する感受性がC80%以上なのはCS.aureus,Haemophilusin.uenzae,MoraxellaCsp.のみであった.AZMはCNS-MRSに対してはキノロン系よりは強いがCCMX,CP,VCMには劣る.CMXに対する感受性はCMRSA,Pseudo-monasaeruginosa以外の上位C14種の細菌は感受性C80%以上であった.MRSAに有効なのはCCPとCVCMであった.結論:AZMはCS.aureus,H.in.uenzae,MoraxellaCsp.にはC80%以上の有効性を示すが,既存の抗菌薬と比べてとくに高いわけではない.あくまでもCinvitroの結果であり,invivoでは粘弾性で結果は変わる可能性はある.CMXはMRSA,P.aeruginosa以外は感受性よく,結膜炎のファーストチョイスといえる.CPurpose:WeCinvestigatedCtheCsensitivityCofazithromycin(AZM)macrolideCantimicrobialCeyeCdrops,CwhichChaveanenhanceddrugretentionduetostrongviscosity,tobacteriaobtainedineyedischargeculturesofconjunc-tivitiscomparedwithexistingantimicrobialeyedrops.Methods:Thisstudyinvolved630bacteriasamplescollect-edfrom246patients[meanage:53years(range:0-99years)]whopresentedwithconjunctivitisandkeratitisattheDepartmentofOphthalmologyOutpatientClinicatKofuKyoritsufromDecember1,2016toJune30,2018.InadditiontotheantimicrobialagentsCMX,DKB,CP,VCM,OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,andMFLX,whichhadbeenadoptedforuseinourhospital,thesensitivitywasexaminedwithadiskofAZM.Results:Themostcom-monlyCfoundCbacteriumCwasCCorynebacterium,CwithCtheCsecondCbeingCCNSCandCtheCthirdCbeingCNS-MRS;CMX,CCP,andVCMwerestrongagainstthefrequentlyoccurringbacteria.AZMwasstrongagainstStaphylococcusCaure-us,CHaemophilusCin.uenzae,andMoraxellaCsp.CForCCNS-MRS,CAZMCwasCstrongerCthanCquinolones,CbutCinferiorCtoCCMX,CP,andVCM.AZMwasweakagainstCPseudomonasaeruginosa.CConclusions:Althoughtheviscoelasticprop-ertiesofAZMmayhavealteredtheresults,CMXremainedthe.rst-choiceantimicrobialagentforconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):484.489,C2020〕Keywords:結膜炎,角膜炎,抗菌薬点眼,感受性率.conjunctivitis,keratitis,antibioticeyedrops,susceptibility.〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034山梨県甲府市宝C1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,M.D.,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu,Yamanashi400-0034,JAPANC484(108)2019年に承認されたアジスロマイシン点眼1,2)はマクロライド系の抗菌点眼薬で,DuraSite,DuraSite21)による強粘性により薬剤の滞留性を高め,点眼回数の減少をはかっている.筆者らは,結膜炎の眼脂培養から出た菌について,薬剤感受性からみた眼科領域の抗菌薬選択をC2006年3),患者の年齢別にはC2007年4),2009年5)にも検討し,抗菌薬の感受性率の変化はC2014年6)にも検討している.今回筆者らはアジスロマイシンと既存のキノロン系,セフメノキシム,アミノグリコシド,クロラムフェニコールやバンコマイシンと比べて細菌への有効性を調べた.また,既報と患者の年齢別の検出菌,感受性率も比較も検討した.CI対象および方法前向きに結膜炎,角膜炎における起炎菌につき,下記C10種の薬剤についてディスクで感受性を調べ,年齢別に検討した.本研究は甲府共立病院倫理委員会から承認を得ている.市場に流通しているセフメノキシム(CMX),ジベカシン(DKB),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),キノロン系C5種類〔オフロキサン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシ(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)〕,そしてアジスロマイシン(AZM)である.表1に略号と商品名,ジェネリックを示した.2016年C12月C1日.2018年6月C30日に甲府共立病院および診療所眼科外来に結膜炎,角膜炎で訪れた患者C246人(男131,女C115),平均年齢はC52.9C±38.1歳(0.99歳)から採取されたC630株の菌種を対象とした.角膜炎・結膜炎患者の眼脂を輸送用培地付き綿棒(シードスワブ)で採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室でヒツジ血液寒天培地,ドリガルスキー培地,ガム半流動培地でC48時間培養し,その後同定および薬剤感受性試験を行った.角膜炎・結膜炎患者の眼脂を輸送用培地付き綿棒(シードスワブ)で採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室でヒツジ血液寒天培地,ドリガルスキー培地,ガム半流動培地,ガム寒天培地,チョコレート寒天培地でC48時間培養し,その後同定およびCKBディスク(栄研化学)を用い薬剤感受性試験を行った.感受性はCS/(SC+I+R)×100%で計算した.S:Sensitive,I:Intermediate,R:Resistanceである.2006年とC2008年4,5)に行った研究と同様,全体とC1歳未満,1.15歳,16.64歳,65歳以上に分けて感受性率を検討した.CII結果表2に検出菌の割合を示す.全体の検出菌で一番多いのがC1.CorynebacteriumCsp.146株(23.2%)で,以下,2.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaphylococ-cus:CNS)でC111株(17.6%),3.CNS-MRS(methicillin-resistanceStaphylococcus)59株(9.4%),4.a-Hemolytic-Streptococcus(以下Ca-Hem-Streptococcus)59株(9.4%),5.Staphylococcusaureus(以下CS.aureus)43株(6.8%),6.CMethicillin-resistanceStaphylococcusaureus(MRSA)28株(4.4%),7.Haemophilusin.uenzae(以下CH.in.uenzae)30株(4.8%),8.Moraxellacatarrhalis(以下CM.catarrhalis)13株(2.1%),9.未同定グラム陽性球菌C12株(1.9%),10.CNeisseriaCsp.10株(1.6%),11.嫌気性グラム陰性菌C10株(1.6%),12.CMoraxellaCsp.8株(1.3%),13.B群Ca型CStrep-表1検討した薬剤の略号と一般名および代表的な薬品名とジェネリック(2019.7月現在)一般名おもな商品名ジェネリックCCMXセフメノキシム塩酸塩ベストロン点眼用C0.5%なしCCPクロラムフェニコールクロラムフェニコール点眼用C0.5%オフサロン点眼コリナコール点眼CVCMバンコマイシンバンコマイシン眼軟膏なしCDKB硫酸ジベカシンパニマイシン点なしCAZMアジスロマイシンアジマイマイシン点眼(2C019.6承認)COFLXオフロキサシンタリビッド点・軟膏点眼後発品:1C3種眼軟膏後発品:1種CLVFXレボフロキサシン水和物クラビッド点眼点眼C0.5%後発品:1C9種点眼C1.5%後発品:2C0種CTFLXトスフロキサシントスフロ点眼液C0.3%オゼックス点眼液CGFLXガチフロキサシン水和物ガチフロ点眼なしCMFLX塩酸モキシフロキサシンベガモックス点眼なし順位.菌種株数%C1.CorynebacteriumCspecies(sp.)C146C23.2C2.CoaglaseNegativeStaphylococci(CNS)C111C17.6C3.CNSmethicillinresistanceStaphylococci(MRS)C59C9.4C4.a-Hemolytic-Streptococcus(Ca-Hem-streptococcus)C59C9.4C5.Staphylococcusaureus(S.aureus)C43C6.8C6.S.CaureusCmethicillinCresistanceCStaphylococcusAureus(MRSA)C28C4.4C7.Haemophilusin.uenzae(H.in.uenzae)C30C4.8C8.Moraxellacatarrhalis(M.catarrhalis)C13C2.1C9.未同定グラム陽性球菌C12C1.910.CNeisseriaCspecies(sp.)C10C1.6C11.嫌気性グラム陽性球菌C10C1.6C12.CMoraxellaCsp.C8C1.313.CB群Cb型CStreptococcusC8C1.314.CPseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)C7C1.115.CHaemophilusparain.uenzae(H.parain.uenzae)C6C1.016.CG群Cb型CStreptococcusC5C0.8C17.ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌C6C1.0C順位.菌種株数%18.CStreptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)C5C0.8C19.CPropiunibacteriumacnes(P.acnes)C5C0.8C20.グラム陽性球菌(微好気)C5C0.8C21.CYeastCsp.C5C0.8C22.CEnterococcusCsp.C3C0.5C23.CHemophilusparahaemolyticus(H.Cparahaemo-3C0.5lyticus)C24.Cnon-hemolyticstreptococcusC3C0.525.CStenotrophomonasmaltophilia(S.maltophilia)C3C0.526.CA群Cb型CStreptococcusC2C0.327.CCitrobacterkoseri(C.koseri)C2C0.328.CKlebsiellapneumoniae(K.pneumoniae)C2C0.329.CClostridiumperfringens(C.perfringens)C2C0.330.CStreptococcusmilleriCgroup(S.millerigrp)C2C0.3その他C27C4.3合計C630Ctococcus8株(1.3%),14.PseudomonasaeruginosaC7株(1.1%)と続く.表3は全年齢における上位菌種の感受性がC80%以上のものをグレー背景にした.以前からわかっていたようにMRSAにはCCPとCVCMのみが強く,CMXは多くの菌に感受性がある一方で第C4世代も含めてキノロン系は1,2,3位の菌に弱くなってきている.AZMはCS.Caureus,CH.Cin.uen-zae,未同定グラム陽性菌には強いものの,キノロンには劣る.以下年齢別に検出割合の高い菌を取りあげ,それらに有効な抗菌薬をみてみる.C1.0歳の細菌と感受性率(表4)全C126株のうちもっとも多く検出された細菌は上位からCNS36株,ついでCa溶血性連鎖球菌C26株,H.Cin.uenzae13株,Corynebacterium属12株,S.aureus7株,MRSA4株,NeisseriaCsp.4株,グラム陽性球菌(微好気)4株,M.catarrhalis3株,S.Cpneumoniae3株である.80%の感受性を示すものを有効と定義すれば,上位の菌に有効なのはCMXのみであった.VCM,CPはCMRSAがあるときのみ使う.C2.1~15歳の細菌と感受性率(表5)全C75株のうちもっとも多く検出された細菌はCH.Cin.uenzae16株,ついでCa溶血性連鎖球菌C12株,CNS10株,Coryne-bacterium6株,M.Ccatarrhalis6株,Neisseriasp.6株,CMoraxella5株,CNSMRS3株,S.aureus3株,MRS2株である.上位C5種類に関していえばCCMX,TFLX,GFLX,MLFXが有効である.VCMはCH.in.uenzaeに無効である.3.16~64歳の細菌と感受性率(表6)全C57株のうちもっとも多く検出された細菌はCCNS14株,ついでCCorynebacterium6株C,CNSMRS6株,嫌気性グラム陽性球菌C4株,EnterococcusCsp.2株であった.上位C5菌種にはCCMX,CP,VCMが有効である.キノロン系は残念ながらC80%未満となっている.C4.65歳以上の細菌と感受性率(表7)全C368株のうちもっとも多く検出された細菌はCCoryne-bacterium30.7株,CNS19.6株,CNS-MRS7.6株,S.aureus6.5株,MRSA6.3株.Ca溶血連鎖球菌C5.2%,B群Ca型CStreptococcus8株,嫌気性グラム陽性球菌C6株であった.1位のCCorynebacteriumに有効なのはCVCMのみであるが,軟膏はオーファンドラッグであり,MRSA存在下のみにしか使えない.4位まではCCMXが有効であるが,CPはC8位の嫌気性菌まで有効である.C5.結果まとめ高齢者では検出数でCCorynebacteriumがC1位となった.2008年の筆者らの施設にはなかったCCNS-MRSが台頭してきている.上位菌種にはCCMX,CP,VCMが強い.AZMが強いのは小児に多いCH.in.uenzae,S.aureus,未同定グラム陽性球菌,MoraxellaCsp.でCCNSMRSに対してはキノロン系よりは強いがCCMX,CP,VCMには劣る.AZMはCP.aeruginosaには弱い.キノロン系薬のなかでは第C4世代のキノロンであるCGFLXとCMFLXの有効性が落ちて他の世代とほとんど変わりなくなってきている4,5).CMXはCCory-nebacteriumにも強く,結膜炎のファーストチョイスにすることができる.CMXCCPCVCMCDKBCAZMCOFLXCLVFXCTFLXCGFLXCMFLXC薬剤菌種(株数)C1.Corynebacterium(146)C2.CNS(111)C3.CNSMRS(59)C4.a-Hem-streptococcus(59)C5.S.aureus(43)C6.MRSA(30)C7.H.in.uenzae(28)C8.M.catarrhalis(13)C9.未同定グラム陽性球菌(12)10.CNeisseriasp.(10)C11.嫌気性グラム陽性球菌(10)12.CMoraxellasp.(8)13.CB群Cb型CStreptococcus(8)14.CP.aeruginosa(7)グレイ背景はC80%以上の感受性.CNS:coagulaseCnegativeCStaphylococci,MRS:methicillinCresistanceStaphylococcusCspecies,MRSA:methicillinCresis-tanceStaphylococcusaureus,P.aeruginosa:Pseudomonasaeruginosa.表40歳における上位検出菌に対する感受性率(%)表51~15歳における上位検出菌に対する感受性率(%)表765歳以上における上位検出菌に対する感受性率(%)III考察アジスロマイシン点眼は小児も含め結膜炎の治療薬としてはファーストチョイスとはなりえない.しかし,上記研究はあくまでもCinvitroの結果であり,DuraSiteによる眼表面での滞留がよければ,薬剤感受性試験でCI,Rと判定された菌に対しても,効果があることもあるかもしれない.アジスロマイシン点眼の細菌に関する感受性の論文を調べると,Daveらによれば,フルオロキノロン系薬またはアジスロマイシンに繰り返しさらされる結膜性表皮ブドウ球菌は,急速に耐性を発現する.他の抗生物質に対する共耐性も観察したと報告している.Kimら10)によれば硝子体注射前にフルオロキノロン系薬に繰り返し曝露された眼から培養されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は,旧世代(p=.002)および新世代(p<.01)のフルオロキノロン系薬に対する耐性率の有意な増加を示した.対照的に,アジスロマイシンに曝露された眼から分離されたCCNSは,マクロライド系薬に対する抵抗性の有意な増加(95%;p<.001)と,旧世代(p=.03)および新世代(p<.001)フルオロキノロン系薬に対する抵抗性の低下を示した.治療を受けた眼から分離されたCCNSの多剤耐性に有意な増加があり,分離株のC81.8%およびC67.5%がそれぞれ少なくともC3種(p=.01)および少なくともC5種(p=.009)の抗菌薬に耐性であったと述べている.筆者らの施設では抗菌薬を漫然と使うことはなく,結膜炎でもC1週間以上しても治らない場合には,細菌培養に従って,感受性のある点眼に変えている.硝子体注射後の抗菌薬はC1週間,白内障術後の抗菌薬点眼もC1カ月以内に終了しているにもかかわらず,2008年当時にはCCNSがトップだったものが,Corynebacterium種が一位となり,CNS-MRSが出てきている.これは世間の細菌全体が変化していることを示唆している.2008年の筆者らの論文5)と各年代の傾向を考察する.1歳未満について:上位C5菌種であるCCNS,Ca-Hem-streptococcus,H.in.uenzae,Corynebacterium,S.CaureusとC2008年当時と出てくる菌もそれほど変わらず,CMXがどの菌でも感受性がよい.MRSAがC2008年はC1例であったのに対して今回はC4例と若干多い.DKBとCAZMはC2位のCa-Hem-streptococcusに弱い.1位のCCNSはC2008年当時はどのキノロン系薬にもC70%の感受性を示していたが,軒並みC39%に落ちている.これは,抗菌薬に曝露されていない可能性の高いC0歳に起こるということは世間のフローラが変(112)わっているということになる.1.15歳について:H.in.uenzae,Ca-Hem-streptococcus,CNS,Corynebacterium,M.catarrhalisはC2008年から上位菌種であった.当時もCCMXはどの菌でも感受性がよかった.当時はCCNSMRSがなかったが,今回は出てきた.CMXや他のキノロン系薬はC67%,CP,VCM,DKBがC100%有効であるのに対しCAZMはC33%である.S.aureusに対してはAZMのC0%に対して,他の抗菌薬はC100%である.MRSAにはCP,VCM,DKBがC100%なのに対し,他の抗菌薬はC0%である.16.64歳について:2008年当時なかったCCNS-MRSがC3位である.これに有効なのはCCMX,CP,VCMである.この年代のCS.aureusにはCCMX,CP,VCM,DKBに加えてAZMも有効である.2008年当時キノロン系薬はC100%であったが,今回は軒並みC67%と下がっている.65歳以上:この年齢層はC2008年当時からCCorynebacteri-umがC1位であり,有効なのはCCMX,VCMであった.現在80%以上の感受性を示すのはCVCMだけである.続いてCP,CMXが有効であるが,キノロン系薬は総じてC3%と低い感受性となっている.2位のCCNSにはC2008年当時,CMX,VCM,CP,GFLX,MFLXがC80%超えていた.現在C80%超えるのはCCMX,CP,VCMにCDKBである.AZMがC75%と次点につくが,キノロン系薬は第C4世代も含めてC68.69%と感受性が落ちている.S.aureusに関してはCAZM以外C80%を保っている.MRSAに関しては以前と同様にCCPとCVCMのみが有効である.P.aergionosaに関してはCAZMとDKB,すべてのキノロンがC80%以上の感受性を保っている.総じていえば,CMXはCCorynebacteriumにも強く,結膜炎のファーストチョイスにすることができる.これにキノロン系薬かCDKBを加えればCMRSA以外のほぼすべての菌を網羅できる.漫然と一種類の抗菌薬を使い続けることなく,難治の場合には感受性を調べて適切な処方をすることが,抗菌薬の寿命を保つことになると考えられる.マイボーム腺の治療として,抗菌薬(とくにマクロライド系やテトラサイクリン系)の効果が期待できるとして,報告がある13).マクロライド系であるアジスロマイシンが直接,マイボーム腺の上皮細胞に作用し,脂の分泌を促進することもある11).また,眼瞼炎の治療薬として有効とのレビューもある12).むしろこの方面での効果を期待したい.文献1)OpitzCDL,CHarthanJS:ReviewCofCazithromycinCophthal-mic1%solution(AzaSiteCR)forCtheCtreatmentCofCocularCinfections.OphthalmolEyeDisC4:1-14,C20122)FriedlaenderMHandProtzkoE:Clinicaldevelopmentof1%azithromycininDuraSiteCR,atopicalazalideanti-infec-tiveforocularsurfacetherapy.ClinOphthalmolC1:3-10,C20073)加茂純子,山本ひろ子,松村志保ほか:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向2001.2005年.あたらしい眼科C23:219-224,C20064)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌剤選択C2006.臨眼C61:331-336,C20075)加茂純子,村松志保,赤澤博美らほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択C2008.臨眼C63:1635-1640,C20096)加茂純子,荘子万可,村松志保ほか:細菌性結膜炎の眼脂培養によるC2008年からC2011年の抗菌薬の感受性率の変化.あたらしい眼科31:1037-1042,C20147)OlsonRJ:EncounteringCresistanceCinCtheCbattleCagainstCbacteria.ReviewofOphthalmology,p76-78,20078)DeramoCVA,CLaiCJC,CFasteningCDMCetal:AcuteCendo-phthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgati.oxa-cinCandCmoxi.oxacin.CAmCJCOphthalmolC142:721-725,C20069)DaveCSB,CTomaCHS,CKimSJ:OphthalmicCantibioticCuseCandmultidrug-resistantCstaphylococcusCepidermidis:aCcontrolled,ClongitudinalCstudy.COphthalmologyC118:2035-2040,C201110)KimCSJ,CTomaHS:AntimicrobialCresistanceCandCophthal-micantibiotics:1-yearresultsofalongitudinalcontrolledstudyCofCpatientsCundergoingCintravitrealCinjections.CArchCOphthalmolC129:1180-1188,C201111)LiuCY,CKamCWR,CDingCJCetal:E.ectCofCazithromycinConClipidCaccumulationCinCimmortalizedChumanCmeibomianCglandCepithelialCcells.CJAMACOphthalmolC132:226-228,C201412)KagkelarisCKA,CMakriCOE,CGeorgakopoulosCCDCetal:AnCeyeCforazithromycin:reviewCofCtheCliterature.CTherCAdvCOphthalmol10,C2018C2515841418783622.CPublishedConline2018CJulC30.Cdoi:10.1177/251584141878362213)https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2C_CJPP_an_2014190105.htmlC***

結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例

2016年5月31日 火曜日

《第52回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科33(5):719〜723,2016©結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例平木翔子岡本紀夫山雄さやか渡邊敬三橋本茂樹福田昌彦下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室ACaseofOrbitalCellulitisfollowingConjunctivitisShokoHiraki,NorioOkamoto,SayakaYamao,KeizoWatanabe,ShigekiHashimoto,MasahikoFukudaandYoshikazuShimomuraDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine目的:結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例を経験したので報告する.症例:66歳,女性.2014年12月末に後頭部痛を自覚.その後,眼瞼の痛みを自覚し2015年1月5日に近医を受診.左眼の結膜炎と診断され0.5%レボフロキサシン点眼,0.1%フルメトロン点眼をするも改善されないため当科受診となる.初診時矯正視力は右眼1.2,左眼1.0pで,眼圧は右眼17mmHg,左眼23mmHgであった.前眼部所見では右眼は正常であったが,左眼は全周にわたる充血と下方の結膜の浮腫を認め一部は黄色の液体であった.ただし眼脂を認めていない.眼底所見は両眼とも視神経乳頭浮腫はなかった.若干の眼球運動障害があったのでHess試験を施行したところ,左眼の眼球運動障害を認めた.眼窩蜂巣炎を疑いCT検査をしたところ,炎症波及の原因となる副鼻腔炎を認めない眼窩蜂巣炎であった.ただちにセフェピム塩酸塩1g/日の点滴を開始した.その後,自覚症状は改善し結膜所見,Hess試験の所見も改善した.結論:本症例は既往歴に高血圧があるのみで,軽度の結膜炎から眼窩蜂巣炎に至ったと推察した.軽度の結膜炎に眼球運動障害がある場合,眼窩蜂巣炎を念頭に置く必要がある.Purpose:Wereportacaseoforbitalcellulitisthatfollowedconjunctivitis.Case:Thepatient,a66-year-oldfemale,complainedofoccipitalheadachearoundtheendofDecember2014.LatershefeltthepaininherleftlidareaandvisitedanearbyeyecliniconJanuary5,2015.Herconditionwasdiagnosedasconjunctivitis(OS)andtreatedwith0.5%levofloxacinand0.1%fluorometholoneeyedrops.However,thesymptomspersisted;shethereforevisitedourclinic.Atfirstvisittous,herbest-correctedvisualacuitywas1.2(OD)and1.0p(OS).Ocularpressurewas17mmHg(OS)and23mmHg(OU).Totalrednessofthebulbarconjunctiva,withedemainthelowerpart,wasobservedinherlefteye.Insomeareaofthatedema,therewasyellowishfluid.Herrighteyelookednormal.Therewasnosignoflidswellingordischarge.Wefoundmilddisorderinhereyemovement(OS)ontheHesschartdiplopiatest.Thepatientwasdiagnosedwithorbitalcellulitis,basedonlidandconjunctivaswellingandsoftshadowintheorbitaltissueasrevealedbyCTscan.ThesinusitiswasnotapparentonCTscan.Wetreatedherwithcefepime1g/dayDIVandhersymptomsandocularsignswerewelleased.Conclusion:Wesuggestthatthisorbitalcellulitiswasinducedbymildconjunctivitis,sincehergeneralconditionwasquitenormal,despitepastmildhypertension.Weshouldbecarefulwhenseeingmildconjunctivitiscombinedwitheyemovementdisorder.Therecouldbeorbitalcellulitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):719〜723,2016〕Keywords:眼窩蜂巣炎,結膜炎,眼球運動.orbitalcellulitis,conjunctivitis,ocularmotility.はじめに眼窩蜂巣炎は慢性および急性の副鼻腔炎に多く発症し,副鼻腔の未発達な小児によくみられるが,成人でもまれではない.抗菌薬がなかった時代には約25%が死亡し,25%が失明していた.今日でもときに致死的であり,重要な疾患である.今回筆者らは,高血圧があるのみで,軽度の結膜炎と眼球運動障害から画像検査を行い眼窩蜂巣炎の診断に至り抗菌薬の点滴にて速やかに治癒した1例を経験した.眼窩蜂巣炎の早期診断に寄与すると考えられたので報告する.I症例患者:66歳,女性.主訴:違和感(左眼),複視.既往歴:高血圧.現病歴:2014年12月末に後頭部痛を自覚.その後,眼瞼の痛みを自覚し2015年1月5日に近医を受診.左眼の結膜炎と診断され0.5%レボフロキサシン点眼,0.1%フルメトロン点眼をするも改善されないため当科受診となる.初診時所見(2015年1月8日):矯正視力は右眼(1.2×sph+2.00D(cyl−1.00DAx80°),左眼(1.0p×sph+1.25D(cyl−1.00DAx60°).眼圧は右眼17mmHg,左眼23mmHg.前眼部所見では右眼は正常であったが,左眼は全周にわたる結膜充血と下方の結膜の浮腫を認め,一部は黄色の液体であった(図1).ただし眼瞼腫脹と眼脂を認めていない.両眼とも前房に炎症所見はなかった.眼底所見は両眼とも視神経乳頭浮腫はなかった(図2).若干の眼球運動障害があったのでHess試験を施行したところ,左眼の眼球運動障害を認めた(図3).眼窩蜂巣炎を疑いCT検査をしたところ,左眼瞼・眼球結膜は肥厚し,眼窩内に軟部影が広がっていた.涙腺の肥大,副鼻腔炎,骨破壊像は認めなかった(図4).以上の所見より眼窩蜂巣炎と診断し,近医処方の点眼薬の継続に加え,セフェピム塩酸塩1g/日の点滴をただちに開始し3日間投与した.その後はセフカペンピボキシル塩酸塩100mg3錠/日の内服を7日間投与した.II経過1月10日の再診時には自覚症状は改善し,結膜所見はやや改善していた(図5).2月26日にはHess試験の所見も改善した(図6).3月26日の視力は右眼(1.5×sph+1.75D(cyl−1.00DAx80°),左眼(1.2×sph+1.50D(cyl−1.00DAx60°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.結膜は正常化した.III考按眼窩蜂巣炎は眼窩内の脂肪組織の感染症で,びまん性に化膿性浸潤を生ずる急性化膿性炎症である.ときに限局性化膿巣をつくることがあるが,抵抗力が少なく,かつ静脈系の豊富なところから炎症が容易に拡大しやすく,生命に対しても視力に対しても,重大な障害を及ぼすことがある.原因として小児では副鼻腔炎の眼窩内穿破がもっとも多く,成人では糖尿病や免疫抑制状態患者に多いとされている1〜6).眼科的に救急を要する疾患の一つである.近年の抗菌薬の発達により,以前の死亡率25%前後から激減したが,なお2〜3%の死亡率がある7,8).眼窩蜂巣炎の症状は,1)眼瞼の強い腫脹,開瞼不能,2)球結膜浮腫,3)炎症性眼球突出,4)眼球運動障害,複視,5)三叉神経痛,6)視力障害,7)発熱がある1〜4).本症例は球結膜浮腫と眼球運動のみで,眼窩蜂巣炎に特徴的な眼瞼浮腫・開瞼不能,炎症性の突出を認めなかった.眼窩蜂巣炎は一般的には結膜炎から進展することはないとされているが,高橋ら9)は,ソフトコンタクトレンズ装用中に重篤な結膜炎を初発症状とした眼窩蜂巣炎の1例を報告している.本症例はコンタクトレンズ装用者ではなく,前眼部所見も比較的軽度であった.彼らの症例と同様に健常者であったので原因を究明できなかった.健常者で結膜炎様症状の時期に眼窩蜂巣炎と診断し,適切な治療をすれば有効な治療結果が得られるのではないかと考えた.木村は,眼窩蜂巣炎の一歩手前の前眼窩蜂巣炎というべき症状はまれではないと提唱している11).彼は日常の外来経験から具体例として,他院の抗菌薬の投与で反応しない症例には眼窩周囲の可能性炎症病巣を注意深く検索すべきであると報告している.本症例も近医で抗菌薬が投与されても結膜の所見が改善せず紹介された.若干の眼球運動障害があったのでCTを行ったところ眼窩蜂巣炎の診断に至ったことから,前眼窩蜂巣炎に相当すると思われる.鑑別診断は表1に提示する疾患があげられる1〜5,9).いずれの疾患もCT,MRIが鑑別診断に有用である.眼窩蜂巣炎の起因菌は黄色ブドウ球菌が多く,ついでグラム陽性球菌である肺炎球菌などが多くみられる2,10).小児の場合はHemophilusinfluenzaeが多く重篤化しやすいので注意が必要である2,10).治療法は,細菌検査の結果が待てないときは広域スペクトラムをもつ抗菌薬を投与し,起因菌が黄色ブドウ球菌や肺炎球菌であればペニシリン系,セフェム系,ニューキノロン系の抗菌薬の点滴投与を行う.メシチリン耐性ブドウ黄色ブドウ球菌であればバンコマイシンの投与を行う.その他,眼窩切開術,重篤な場合は眼球摘出術,または眼球内容除去術を行う1〜5,8).本症例は木村11)が提唱する眼窩蜂巣炎の一歩手前の前眼窩蜂巣炎であったためか,抗菌薬の点滴で速やかに治癒することができた.一般的には特徴的な眼瞼腫脹,開瞼不能,炎症性の眼球突出があれば眼窩蜂巣炎を疑うが,ごく初期もしくは前眼窩蜂巣炎であれば見逃す可能性がある.抗菌薬を投与しても改善しない結膜炎をみた場合は,結膜浮腫,眼球運動障害もチェックし,眼窩蜂巣炎が疑わしい場合は積極的にCTを施行すべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)前久保知行,中馬秀樹:眼窩炎症性疾患.あたらしい眼科28:1565-1569,20012)中尾雄三:眼窩蜂巣織炎の診断と治療について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):108-110,20003)太根節直:眼窩蜂巣炎.眼科救急ガイドブック(臼井正彦編),眼科診療プラクティス,15.p185-187,文光堂,19954)萩原正博:眼窩蜂窩織炎.眼感染症治療戦略(大橋裕一編),眼科診療プラクティス,21.p96-98,文光堂,19965)FerqusonMP,McNabAA:Currenttreatmentandoutcomeinorbitalcellulitis.AustNZJOphthalmol27:375-379,19996)MuephyC,LivingstoneI:OrbitalcellulitisinScotlandincidence,aetiology,managementandoutcomes.BrJOphthalmol98:1575-1578,20147)Duke-Elder:SystemofOphthalmology,VolXIII,PartII,p866-884,HenryKimpton,London,19748)大橋孝平:眼科臨床のために.p142-143,金原出版,19689)高橋秀徳,渋井洋文,松尾寛ほか:結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例.あたらしい眼科21:1245-1248,200410)木村泰朗:眼窩蜂巣炎.眼の感染・免疫疾患─正しい診断と治療の手引き─(大野重昭・大橋裕一編),p20-23,メディカルビュー社,199711)木村泰朗:前眼窩蜂巣炎症状!?眼の感染・免疫疾患─正しい診断と治療の手引き─(大野重昭,大橋裕一編),p45-46,メディカルビュー社,1997〔別刷請求先〕平木翔子:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShokoHirakiM.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohnohigasi,OsakasayamaCity,Osaka589-8511,JAPAN図1結膜所見左眼で著明な結膜充血と下方に限局した黄色調滲出液を伴う結膜浮腫を認めた.図2初診時眼底所見両眼ともに特記すべき所見を認めなかった.図3初診時Hessチャート左眼の全方向性の眼球運動障害を認めた.図4初診時頭部CT眼瞼,眼球結膜は肥厚し,眼窩内に軟部影(→)が広がっていた.外眼筋,涙腺の肥大,副鼻腔炎,骨破壊像は認めなかった.図52015年1月10日自覚症状は改善し,結膜所見はやや改善を認めた.図62015年2月26日Hessチャート所見は改善している.表1鑑別診断痛み画像備考眼窩炎性偽腫瘍(−)眼瞼,涙腺,外眼筋の腫大悪性リンパ腫(−)生検し病理診断涙腺炎(+)涙腺部涙腺腫大後部強膜炎(+++)強膜の肥厚頸動脈海綿静脈洞瘻(−)上眼動脈の拡大結膜血管拡張海綿静脈洞症候群(−)海綿静脈洞内の血栓,腫瘍IgG4関連疾患(−)眼瞼,涙腺,外眼筋の腫大生検し病理診断,血清IgG4測定甲状腺眼症(−)外眼筋のコカコーラボトル様肥大0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(95)719720あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(96)(97)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016721722あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(98)(99)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016723

BCG膀胱内注入療法で生じたReiter症候群の結膜炎の特徴

2015年5月31日 日曜日

《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):711.714,2015cBCG膀胱内注入療法で生じたReiter症候群の結膜炎の特徴森川涼子*1佐々木香る*2細畠淳*1西田幸二*3*1大阪鉄道病院眼科*2JCHO星ヶ丘医療センター眼科*3大阪大学医学部附属病院眼科CharacteristicFeaturesofConjunctivitisinReiterSyndromeInducedbyIntravesicalBacillusCalmette-Guerin(BCG)TherapyforBladderCancerRyokoTanaka-Morikawa1),KaoruAraki-Sasaki2),JunHosohata1)andKohjiNishida3)1)DivisionofOphthalmology,OsakaRailwayHospital,2)DivisionofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganization(JCHO)HoshigaokaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,OsakaUniversity背景:泌尿器科領域では,2002年頃から表在性膀胱癌術後に再発予防の目的で,BCG膀胱内注入療法が行われているが,その副作用としてReiter症候群が知られている.Reiter症候群とは,尿路や腸管感染症の後,しばらくして発症する「関節炎,尿道炎,結膜炎」を三徴とする症候群である.今回BCG膀胱内注入によるReiter症候群と思われる2例を経験したので,その結膜炎の臨床所見の特徴を報告する.症例:症例1は67歳,男性.症例2は45歳,男性.2例とも膀胱癌に対し経尿道的膀胱切除後,1週間ごとにBCG膀胱内注入療法を施行していた.いずれも7回目の注入後に高度の充血および膿性眼脂を伴う結膜炎を発症した.症例2では発熱,関節痛も認めた.眼内には炎症を認めず,BCGの中止とステロイド点眼にて速やかに治癒した.結膜.培養は陰性で,スメアではグラム染色,チール・ネルセン染色とも菌を認めないものの,大量の好中球を認めた.結論:BCG膀胱内注入によるReiter症候群の結膜炎は,結核菌ペプチドが発症に関与するといわれているが,無菌性であるものの好中球を主体とする膿性眼脂と高度の充血を特徴とし,その発生機序は興味深いと思われる.Background:Inthefieldofurology,intravesicalbacillusCalmette-Guerin(BCG)therapyhasbeenusedtopreventpostoperativerecurrenceofsuperficialbladdercancersince2002,andReiter’ssyndromeisaknownsideeffectofthistherapy.Reiter’ssyndromeisanautoimmunereactioncharacterizedbythreeclinicalmanifestations(jointpain,urethritis,andconjunctivitis)posturinarytractorintestinaltractinfection.Inthisstudy,wereport2casesofReiter’ssyndromecausedbyintravesicalBCGtherapy,focusingonthecharacteristicfeaturesoftheassociatedconjunctivitis.SubjectsandMethods:Case1involveda67-year-oldmaleandCase2involveda45-yearoldmale.BothpatientsunderwentweeklyintravesicalBCGtherapyposttransurethralcystectomyforbladdercancer.Results:Inbothpatients,severehyperemiaoftheconjunctivawithpurulentdischargedevelopedaftertheseventhBCGtherapy,andfeverandarthralgiadevelopedinCase2.BothcaseswerecuredbydiscontinuingtheBCGtherapyandsteroidinstillation.Althoughsmearsamplesshowedamountofneutrophils,noorganismwasfoundinsmearsamplesbyGramorZiehl-Neelsenstains.Conclusions:TheconjunctivitisofReiter’ssyndromepostintravesicalBCGtherapywascharacterizedbysevereconjunctivalinjectionwithanasepticpurulentdischargecomposedofneutrophils.Ophthalmologistsneedtobeawareofthesecharacteristicfeaturesforearlydiagnosisofthissideeffect.arashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):711.714,2015〕Keywords:結核菌,BCG膀胱内注入療法,Reiter症候群,結膜炎.mycobacteriumtuberculosis,intravesicalBCGtherapy,Reitersyndrome,conjunctivitis.〔別刷請求先〕森川涼子:〒545-0053大阪市阿倍野区松崎町1丁目2-22大阪鉄道病院眼科Reprintrequests:RyokoTanaka-Morikawa,M.D.,OsakaGeneralHospitalofWestJapanRailwayCompany,1-2-22Matsuzakichou,Abeno-ku,Osaka-shi545-0053,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(101)711 はじめにBCG膀胱内注入療法とは,2002年頃から表在性膀胱癌術後に再発予防の目的で導入されており,生きたカルメット・ゲラン菌(BCG菌,イムノブラダーR)を用いた癌免疫療法の一種である.「1回80mgを膀胱内に注入後,2時間膀胱内に保持」という用量で毎週1回8週間を1クールとして行う.おもな有害事象は,膀胱刺激症状と,全身症状に分けられる.添付文書によると,膀胱刺激症状としては,排尿痛(57.6%),頻尿(56.6%),血尿(29.3%)があり,全身症状としては,発熱(33.8%),ALP(アルカリホスファターゼ)増加(14.6%),白血球増加(14.1%)が報告されている.一方,重篤な副作用としては,結核性腹部大動脈瘤,結核性精巣上体炎,結核性前立腺膿瘍などの生菌による異所性BCG感染とReiter症候群が報告されている1.4).眼科領域から本症の報告はわずかであるので,今回経験したBCG膀胱内注入によるReiter症候群と思われる2例の結膜炎について,臨床所見の特徴に主眼を置いて報告する.I症例〔症例1〕67歳,男性.既往歴:くも膜下出血,高血圧,糖尿病,C型肝炎,総腸骨動脈ステント,冠動脈狭窄.主訴:両眼の充血,異物感,眼痛,掻痒感,膀胱刺激症状,血尿.現病歴:2012年7月下旬に表在性膀胱癌に対し経尿道的膀胱切除術を施行した.4カ月後にBCG膀胱内注入療法を開始したところ,7回目後に上記症状が出現した.初診時眼所見:両眼とも結膜充血所見が強度で,多量の粘性膿性眼脂を認めた(図1).輪部浮腫,強膜血管蛇行も認めた.瞼結膜では,充血が高度であったが,濾胞や乳頭は認めなかった.スメアでは,大量の好中球を認めたが,グラム染色において菌体は認めず,培養でも一般細菌陰性であった.なおアデノチェックは陰性で,耳前リンパ節腫脹もなく,流行性角結膜炎は否定的であった.前房内はclearで,眼底は異常を認めなかった.経過:結膜炎発症後は,BCG膀胱内注入療法を中止し,フルメトロンR点眼液5回/日にて約10日間で結膜炎は治癒した.〔症例2〕46歳,男性.既往歴:特記なし.主訴:両眼の充血,異物感,眼痛,発熱,血尿,関節痛.現病歴:2013年3月中旬に表在性膀胱癌に対し経尿道的膀胱切除術を施行した.2カ月後にBCG膀胱内注入療法を開始したところ,7回目後に上記症状が出現した.初診時眼所見:両眼の高度結膜充血と結膜下出血を認め,やはり多量の粘液性膿性眼脂を認めた(図2).眼瞼結膜は充血が高度なものの,濾胞,乳頭は認めなかった.さらに初診1週間後には結節状の結膜浮腫と輪部白色浸潤を認めた(図3).前房内はclearで,眼底は異常を認めなかった.なおアデノチェックは陰性で,耳前リンパ節腫脹もなく,流行性角結膜炎は否定的であった.スメアでは大量の好中球を認めたが,菌体は認めず,一般培養でも菌は検出されなかった.また,チール・ネルゼン染色,PCRでも抗酸菌感染は否定的であった(図4).経過:結膜炎発症後は,BCG膀胱内注入療法を中止し,フルメトロンR点眼液5回/日にて約30日間で結膜炎は治癒した.II考按Reiter症候群とは,非淋菌性尿道炎・関節炎・結膜炎または前部ぶどう膜炎を三徴とする比較的若年の男性に多い疾患ab図1症例1の初診時前眼部写真a:右眼,b:左眼.結膜下出血を伴う高度の球結膜充血と粘性膿性眼脂を特徴とする.712あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(102) abab図2症例2の初診時前眼部写真a:右眼,b:左眼.高度の結膜下充血と粘性膿性眼脂を特徴とする.ab図3症例2の初診1週間後所見結節状の結膜浮腫(a)と角膜輪部の白色浸潤(b)が出現した.で,何らかの細菌やウイルスが炎症を惹起していると考えられている.結核菌のみに限らず,現在までにKlebsiella,Shigella,Salmonella,Chramydiaなど種々の病原体感染後に発症した報告がなされている5.7).一般的なReiter症候群とBCG膀胱内注射により惹起されたReiter症候群の違いは①HLA-B27の関与と,②結膜炎の確認頻度にある.まず,本疾患におけるHLA-B27の役割は明らかではないが,仮説としてmolecularmimicry説が提唱されている5).すなわち抗酸菌の熱ショック蛋白と関節プロテオグリカン関連蛋白の相同性や,細菌成分ペプチドとHLA-B27の相同性が関与するといわれている.一般的なReiter症候群ではHLA-B27陽性率が60.80%と高いが,BCG膀胱内注入療法によるReiter症候群では低く,その重要性は指摘されていない5).おそらくBCG膀胱内注射の場合は,HLA-B27の関与なく,度重なる抗原刺激が本疾患を惹起すると思われる.既報においても筆者らの2症例においても,出現時期はいずれも注入図4症例2の塗抹鏡検所見(チール・ネルセン染色)多量の好中球は認めるものの,菌体は認めなかった.(103)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015713 6.7回目であった.今回,HLA-B27の検査は患者の同意を得られず,検討することはできなかった.つぎに結膜炎の確認頻度であるが,これは発症初期に生じ,軽症で,かつ一過性であるため,見過ごされることが多いといわれている8).しかし,BCG膀胱内注入療法後のReiter症候群は泌尿器科において定期的に病院を受診しており,初期変化を捉えやすいため,確認される頻度が高いと考えられる.筆者らの2症例も,泌尿器科からの発症早期の紹介であった.BCG膀胱内注入による作用には,局所と全身の免疫反応の誘導がある.局所では,非特異的な炎症性反応による膀胱粘膜全体の.離・脱落と,macropinocytotsisによる直接細胞障害がある9).全身では,膀胱粘膜下反応を介して全身的Th1細胞による免疫応答を賦活し,感染細胞のMHCクラスIIの発現促進とともに,CD8+,NK,macrophage細胞の活性上昇や,ADCCやTRAILの活性上昇をきたすとされている9).Reiter症候群の主徴のうち,関節炎とぶどう膜炎は,この全身的免疫応答として生じると考えられる.既報でも,関節液中にTh1サイトカインが上昇していることが明記されている10).一般的に種々の自己免疫疾患で関節炎とともにぶどう膜炎が生じることから,おそらくぶどう膜炎では,関節炎と同じ病態が生じていると考えられる.ところが,筆者らの経験した2症例の結膜炎は,いずれも好中球を主体とする無菌性の膿性眼脂と強い充血が特徴的であった.したがって,結膜炎は,Th1細胞主体の関節炎,ぶどう膜炎の免疫応答と,異なる機序によって生じていると推測される.BCGの投与によって,膀胱において.dT細胞によるIL-17の産生が報告されている.IL-17は好中球の遊走作用があり,このような機序が今回観察された結膜炎の病態に関与している可能性も否定できない11).なお,BCG後のReiter症候群の既報のうち,井上らの報告12)では,発症当初は近医により流行性角結膜炎と診断されており詳細不明であり,また田邊らの報告8)では眼脂は認めなかったとしているが,残念ながらいずれも塗抹による検討はなされていない.この結膜炎の病態については,さらなる検討が必要である.実は,Reiter症候群に確立された診断基準はないが,第三回国際反応性関節炎で提唱された診断基準がある13).その診断基準では関節炎が主体であり,結膜炎や尿道炎の存在は必ずしも必要はないとなっている.筆者らが経験した2例において,症例1は脳梗塞による感覚鈍麻があり,症例2では関節痛があったが整形受診をしていないため,関節炎の有無については不明である.しかし,両者ともBCG膀胱内注射後に結膜炎と尿道炎を発症しており,Reiter症候群と診断してさしつかえないと判断した.今後,増加しつつあるBCG膀胱内注射によるReiter症候群の初期症状としての結膜炎に注目して提示した.BCG膀714あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015胱内注射によるReiter症候群の結膜炎は,関節炎やぶどう膜炎に先行して生じるため,その特徴を把握しておくことは,BCG膀胱内注射後に限らず,Reiter症候群の早期発見に有用であると考えられる.謝辞:本症例の治療に当たり,共観およびご指導いただいたJCHO星ヶ丘医療センター泌尿器科部長百瀬均先生にお礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)織井恒安,本田二郎,平井雄喜:膀胱内BCG注入療法後の結核性腹部大動脈瘤の1例.日血外会誌21:803-808,20122)小西貴裕,中西良一,田上隆一ほか:BCG膀胱内注入療法により生じた精巣上体結核の1例.泌尿紀要54:625-627,20083)石津和彦,平田寛,古屋智子ほか:BCG膀胱内注入療法による結核性精巣上体炎の1例.泌尿紀要49:539-542,20034)橋村正哉,百瀬均,武長真保ほか:BCG膀胱内注入療法後に結核性前立腺膿瘍をきたした1例.泌尿紀要58:169172,20125)森井香織:Reiter症候群.臨眼61:304-308,20076)松本純子,小暮美津子,菊池三季ほか:急性前部ぶどう膜炎をきたしたReiter症候群の1症例.眼臨92:11481152,19987)山崎佳代子,吉利尚,野地潤:両眼性急性ぶどう膜炎を伴ったライター症候群の1例.眼紀49:173-175,19988)田邊益美,椋野洋和,長井知子ほか:BCG膀胱内注入療法後に両眼性の結膜炎を認めた1例.あたらしい眼科24:99-101,20079)Redelman-SidiG,GlickmanMS,BochnerBH:ThemechanismofactionofBCGtherapyforbladdercancer─acurrentperspective.NatRevUrol11:153-162,201410)BerniniL,ManziniCU,GiuggioliDetal:ReactivearthritisinducedbyintravesicalBCGtherapyforbladdercan-cer:ourclinicalexperienceandsystematicreviewoftheliterature.AutoimmunRev12:1150-1159,201311)TakeuchiA,DejimaT,YamadaHetal:IL-17productionbygdTcellsisimportantfortheantitumoreffectofMycobacteriumbovisbacillusCalmette-Guerintreatmentagainstbladdercancer.EurJImmunol41:246-251,201112)井上晃宏,西本周子,雑賀司珠也ほか:BCG膀胱内注入療法で生じたReiter症候群治療後の虹彩炎の一例.眼紀6:561-565,201313)小林茂人:反応性関節炎(reactivearthritis).リウマチ37:504-513,1997.(104)

細菌性結膜炎の眼脂培養による2008年から2011年の抗菌薬の感受性率の変化

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1037.1042,2014c細菌性結膜炎の眼脂培養による2008年から2011年の抗菌薬の感受性率の変化加茂純子*1荘子万可*1村松志保*2赤澤博美*2阿部水穂*2山本ひろ子*2*1甲府共立病院眼科*2甲府共立病院細菌検査室ChangeinConjunctivitisBacteriaSusceptibilitiestoAntibioticsbetween2008and2011JunkoKamo1),MarkSoshi1),ShihoMuramatsu2),HirokoAkazawa2),MizuhoAbe2)andHirokoYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,2)MicrobiologylaboratoryofKofuKyoritsuHospital目的:2008年から4年間の結膜炎の眼脂培養から検出された菌と感受性変化を知る.対象および方法:2008年5月から2012年3月までに甲府共立病院,巨摩共立病院,甲府共立診療所に結膜炎で訪れた患者755人(男382,女385)から採取された延べ1,793の菌株で,平均年齢は63±34歳(0.102歳)であった.眼脂をトランススワブRで採取した.検体を院内細菌検査室で18時間培養し,同定,薬剤感受性検査を行った.感受性を調べた薬剤はテトラサイクリン(TC),ジベカシン(DKB),セフメノキシム(CMX),バンコマイシン(VCM),クロラムフェニコール(CP),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)である.結果:上位5菌種はcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)27%,Corynebacterium27%,Staphylococcusaureus(S.aureus)7%,嫌気性グラム陰性球菌7%,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)5%であった.2008年度と2011年度を比較すると上位10種の菌種に対して感受性率の落ちた薬剤はCNSに対するCMXが98%から87%,第4世代のキノロンの90%が60%,Psuedomonasaeruginosa(P.aeruginosa)に対してCMXは例数は少ないものの,62.5%が0%,TFLXが100から20%,Streptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)に対するTFLXが100から57.1%になった.MRSAに対してVCMは100%,CPは90%以上の感受性を保った.CMXはCNSとP.aeruginosaの感受性率は減ったものの,80%以上の感受性率を持つ菌種が8種あり,CPも同様高い感受性をもつ.逆にTCはCNS,methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA),MRSAに対して感受性率が増した.結論:2008年と2011年の間では,検出される菌に対する感受性は他のキノロンよりはよいが,第4世代キノロンで減少した.CMXはP.aeruginosa,MRSA以外の結膜炎の第一選択としてよい.P.aeruginosaに対してはDKB,LVFXの選択がよい.使われていないTCの感受性が増した.Purpose:Throughthisprospectivestudy,approvedbytheethicalcommitteeofKofuKyoritsuHospital,tolearnthechangesinincidenceandsusceptibilityofbacteriatakenandculturedfromconjunctivitisdischargeduring4years,startingApril2008.Subjectsandmethod:Subjectswere755individuals(male382,female385;agerange:0.102yrs;avg.age63±34yrs)whoconsultedKofuKyoritsuHospitalandrelatedclinicswhilesufferingfromconjunctivitis,andfromwhomsampledischargewasobtainedwithTransswabR.Aftersampleculturinginourbacteriallaboratoryfor18hours,bacteriawereidentifiedandtheirsusceptibilitiesstudied.Weused10discs:tetracycline(TC),dibekacin(DKB),cefmenoxime(CMX),vancomycin(VCM),chloramphenicol(CP),ofloxacin(OFLX),levofloxacin(LVFX),tosufloxacin(TFLX),gatifloxacin(GFLX)andmoxifloxacin(MFLX).Results:Commonlyidentifiedbacteriawerecoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)27%,Corynebacterium27%,S.aureus7%,aerophobicgram-negativecocci7%,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)5%andsoon.Whenwecomparedsusceptibilitybetween2008and2011,theantibioticswhosesusceptibilityhaddecreasedsignificantlywere:CMXagainstCNSdecreasedfrom98%to87%,4thgenerationfluoroquinoloneagainstCNSfrom90%to60%,CMXagainstP.aeruginosafrom62.5%to0%,TFLX;from100to20%,andTFLXagainstS.pneumoniaefrom100to57.1%.AgainstMRSA,VCMkept100%andCPkepthigherthan90%susceptibility.AlthoughCMXlostsusceptibilitytoCNSandP.aeruginosa,itstillhadmorethan80%susceptibilitytothetop10bacteria.CP〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034甲府市宝1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu400-0034,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)1037 alsohasgoodsusceptibility.Incontrast,TCincreasedsusceptibilitytoCNS,MSSAandMRSA.Conclusion:Between2008and2011,thefourthgenerationfluoroquinolonelostsusceptibility,althoughitwasbetterthantheotherquinolones.CMXcanbethefirstchoiceforconjunctivitis,exceptwhencausedbyP.aeruginosaorMRSA.ForP.aeruginosa,DKBorLVFXcanbeselected.TC,whichisunavailableinJapan,increasedsusceptibility.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1037.1042,2014〕Keywords:結膜炎,抗菌薬,感受性率.conjunctivitis,antibiotics,susceptibility.はじめに当院の細菌検査室では10種の薬剤の感受性を調べることができる.2005年3月にはテトラサイクリン(TC)眼軟膏が販売中止となり,ガチフロキサシン(GFLX)など第4世代の抗菌薬が市場に出始めた.そこで2005年から2006年の当院の結膜炎などから検出された菌への薬剤の感受性を10種の抗菌薬〔エリスロマイシン(EM),TC,ジベカシン(DKB),セフメノキシム(CMX),スルベニシリン(SBPC),バンコマイシン(VCM),クロラムフェニコール(CP),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX)(GFLX)〕についてまとめた結果,結膜炎の治療の第一選択(,)としてCMXおよびGFLXがよいと示唆された1).2006年にはやはり第4世代のフルオロキノロン系薬剤(以下,キノロン)であるモキシフロキサシン(MFLX)が登場し,コリマイC(TC)眼軟膏が姿を消し,TCの入った軟膏が市場で入手不能となった.そこでGFLXとの比較のためにMFLXを加えて,2008年に当院における感受性率について年代別にまとめ,統計的に比較検討したが2),やはり,CMX,GFLXを第一選択にするのがよいと考えられた.日本眼感染症学会による眼科感染症起炎菌・薬剤感受性他施設調査(第2報)3)によれば,CMXが最も高度感受性があり,ついでキノロンであることを述べている.MFLXなどの第4世代のキノロンは2種類の細菌のDNA合成酵素を阻害するので,菌の耐性化はしにくいといわれている.これらは結膜に高濃度かつ長い時間停滞し,濃度依存性の殺菌作用を有することから,よいpharmacokinetic/pharmacodynamicsを示す4).はたしてこの4年間で変化がなかったのかどうかを知るのが本研究の目的である.I対象および方法前向きに結膜炎における起炎菌につき下記10種類の薬剤ディスクでの感受性を調べた.今回,2011年の結膜炎患者からの検出菌に対し,感受性試験を実施したので,2008年の結果と比較検討した.2006年度の検討からEMは耐性が多かったために排除し,その代りにMFLXを入れた以下の10種を検討した.すなわち,TC,DKB,CMX,VCM,CP,オフロキサシン(OFLX),LVFX,TFLX,GFLX,MFLXである.なお,本試験は甲府共立病院倫理委員会から承認を受けて実施した.対象は2008年5月から2012年3月までの期間に甲府共立病院,巨摩共立病院と甲府共診療所に結膜炎で訪れた患者755人(男382,女385人)から採取された延べ1,793の菌株で,患者の平均年齢は63±34歳(0.102歳)であった.このうち,2008年〔186人(男75,女111人),平均年齢56.5±40歳(0.100歳)〕,2011年〔209人(男107,女102人),平均年齢61.9±37歳(0.101歳)〕で背景の平均年齢には有意差はなかった(p=0.39).結膜炎患者の眼脂を輸送用培地つき綿棒(トランススワ表1感受性を調べた薬剤の一般名,おもな商品名,ジェネリック商品名略語一般名おもな商品名ジェネリック商品名TCテトラサイクリンテラマイシン(発売中止)なしCMXセフメノキシム塩酸塩ベストロン点眼用0.3%なしDKBジベカシン硫酸塩パニマイシン点眼液0.3%なしCPクロラムフェニコールクロラムフェニコール・コリスチンクロラムフェニコール点眼液0.5%コリマイC点(発売中止)なしコリナコール点眼液VCMバンコマイシン塩酸塩バンコマイシン眼軟膏1%なしOFLXオフロキサシンタリビッド点眼液0.3%・眼軟膏0.3%オフロキシン点眼液0.3%・眼軟膏0.3%LVFXレボフロキサシン水和物クラビット点眼液0.5%,1.5%レボフロキサシン点眼液0.5%多数TFLXトスフロキサシントシル酸塩オゼックス・トスフロ点眼液0.3%なしGFLXガチフロキサシン水和物ガチフロ点眼液0.3%なしMFLXモキシフロキサシン塩酸塩ベガモックス点眼液0.5%なし1038あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(112) ブR)で症状の強い結膜から擦過採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室で18時間培養し,その後同定および薬剤感受性検査を行った.感受性を調べた薬剤はTC,DKB,CMX,VCM,CP,OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,MFLXの10種類である.それぞれの薬品の一般名,先発商品名およびジェネリック商品名を表1にまとめた.2008年と2011年の各菌株に関して,各種抗菌薬の感受性を比較し,標本比率の差の検定を行った.p=0.05未満を有意差ありとした.II結果図1は2008年と2011年の菌株の内訳を比較したものである.両年度とも1位Corynebacterium,2位のcoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)の2菌株で50%以上を占め,3位a-hemStreptococcus,4位S.aureus,またはmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA)そして5位methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)が続く.6位.12位は変動があるが,標本数が少なく,大きな変化は少ないと考えられる.表2は2008年度での1位から10位の菌の抗菌薬への感受性率を,2011年と比較したものである.1位のCorynebacteriumは各世代キノロン系薬剤に対する感受性が低いが,4年間では有意差をもった感受性の低下は認められなかった.その他の抗菌薬に関しても有意差はなかった.2位のCNSに関しては,キノロン系薬剤以外のほうが感受性がよく,有意な感受性の変化が現れたのは,TCで上昇,CMXと第4世代キノロンに対して感受性の低下がみられた.しかし,第4世代はその他の世代のキノロン系薬剤に対して優位な感受性を保っていた.3位のMSSAに関しては,各抗菌薬への感受性は良好で,キノロン系薬剤への感受性も良好であった.4位のMRSAに対してのVCM,CPの抗菌力は4年間で保たれたが,キノロン系薬剤への感受性はほとんどなく,当初感受性があるといわれた第4世代キノロン系薬剤に対しても,有意差はなかったが低下傾向を示した.5位のa-hemStreptococcusはCMX,VCM,CPおよび,第4世代のキノロン系薬剤に感受性があるが,MFLXは2011に有意に感受性率が低下した.6位の嫌気性グラム陽性球菌はと考えられ,CMX,VCM,CPに感受性があった.7位の小児によくみられるHaemophilusinfluenzaeと8位のMoraxellacatarrhalisはVCMを除くすべての薬剤に感受性がある.9位のPseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)に関しては,CMXとTFLXへの感受性が有意に低下していた.キノロン系薬剤への感受性は低下傾向にあった.明らかに低下がないのはDKB1種類のみであった.10位のStreptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)は,TFLXに対する(113)2008年検出菌(n=387):1.Corynebacterium5%■:その他10%24%■:発育なし■:12.K.oxytoca4%■:13.G群b型Streptococcus■:8.M.catarrhalis3%■:9.P.aeruginosa3%■:10.S.pneumoniae3%■:11.B群b型Streptococcus1%2%■:5.a.hemStreptococcus2%9%■:6.嫌気性グラム陽性菌3%29%■:7.Haemophilusinfluenzae■:2.CNS1%■■:3.MSSA1%:4.MRSA2011年検出菌(n=517):1.Corynebacterium3%■:その他6%27%■:同定せず■:11.S.pneumoniae7%■:12.P.aeruginosa3%■:9.Moraxellaspp.4%■:10.Neisseriaspp.■:8.M.catarrhalis2%■:5.a-hemStreptococcus2%28%■:6.嫌気性グラム陽性球菌3%■:7.Haemophilusinfluenzae■:2.CNS1%■■:3.MSSA1%11%2%:4.MRSA図12008年(上)と2011年(下)の検出菌株頻度順の内訳両年度とも1位Corynebacterium,2位のcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)の2菌株で50%以上を占め,3位a-hemstreptococcus,4位S.aureus,またはmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA)そして5位methicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA)が続く.2008年の上位10菌種は2011年の上位12菌種に入る.感受性が有意に低下していたが,第4世代のキノロンに対する感受性は良好に保たれていた.CMX,VCMが最も有効であった.III考察筆者らの施設の4年前の結果と比較し,結膜炎患者から分離培養される菌株の構成に変化はなかった.以前からキノロン系薬剤の抗菌力の低下5,6)が指摘されているが,CNSを除き,今回の検定では明らかに有意差が証明されたものはごくわずかであった.CorynebacteriumはDNA合成酵素としてDNAジャイレースはもっているが,トポイソメラーゼIVはもっていないために耐性化しやすいことがわかっており,実際にキノロン系薬剤に対して高度に耐性化されていたが,2008年と2011年では有意な変化はなかった.2位のCNS,すなわち表皮ブドウ球菌は,第3世代以前のキノロン系薬剤はすでに感受性が低下していたが,第4世代のGFLX,MFLXが2008年時点で90%台であったものが,あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141039 1040あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(114)(114)表22008年度と2011年度の上位細菌の各抗菌剤に対する感受性率薬剤年度1.Corynebacteriumspp.2.CNS3.MSSA4.MRSA5.a-Hem-Streptococcus6.嫌気性グラム陽性球菌7.Haemophilusinfluenzae8.M.catarrhalis9.P.aeraginosa10.S.pneumoniaeTC20082011958382256910010010001396*91**100*614991100100029DKB200820118480794556501001001001379769144293610010010029CMX20082011979897101001001001006310096**87100118391100100**0100VCM20082011981001001001001000001001009910010091100000100CP20082011588997909410010010006358901009489100100100071OFLX20082011334885108842100100881002851911166451001006071LVFX200820113655851094501001001001003152911171551001008071TFLX20082011234982107558100100100100154988116045100100**20*57GFLX20082011419288351005810010010010037**64911180551001006086MFLX2008201139918835100581001005010038**649111**77551001002086標本数2008200920102011108923420161291088105100352627715444126124302337622126614114033183511151757標本比率の差の検定を行い,p<0.05となった箇所には*,p<0.01となった箇所には**を付けた.80%以上の感受性率を示した箇所は網掛けした.薬剤は非キノロン系を上に5種類(TC,DKB,CMX,VCM,CP),下にキノロン系5種類(OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,MFLX).表の下部には2008年から2011年の標本数を示した.グラム陽性菌は太字(CNS:Coagulase-negativeStapylococcus,MSSA:methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus,Staphylococcuspneumonia),その他はグラム陰性菌(Corynebacteriumspp.,Haemophilusinfluenzae,Moraxellacatarrhalis,Pseudomonasaeruginosa) 2011年には64%と有意に低下していた.山田らの論文6)では2008年の時点で,感受性が低下している原因としてgyrA,gyrB,parC,そしてparEのQRDR(キノロン耐性決定領域)に変異がある株が出ていることが指摘されている.当院ではキノロン系薬剤の長期投与は控えているが,日本でのキノロン系薬剤の使用の増加に伴い,市中の菌の変異が考えられる.8位のMoraxellacatarrhalisもVCMを除くすべての薬剤に感受性がある.その他の全身領域の疾患で問題になることはほとんどなく,抗菌薬曝露が少ないことにより,耐性化がみられないと推測される.P.aeruginosaに対しては,キノロン系薬剤,現状最も効果が期待できるのはDKBである.第一選択として使われるCMXの効力が低下していることも明記すべきである.日本の市場から姿を消したTCに対する感受性は,いくつかの上位菌株で上昇した.このように使用されなくなった抗菌薬に対する感受性は,各菌株で回復していく可能性があると考えられる.逆にいまだ,米国ではクラミジアによる結膜炎などに使用しているTCの耐性化が報告されている7)表2をみると,起炎菌の推定できない結膜炎患者へのempiricな抗菌薬治療の際は,施設入所者,入院患者などP.aeruginosaの関与が推定される患者,MRSA保菌が証明されている患者を除けば,第一選択薬としてはCMX,次点にCPを使用するのが最も効果が期待できる.CPはMRSAに対する抗菌力を保持しており,可能な限り温存したいことを考えれば,第一選択としてはやはりCMXがよいと考えられた.MRSA保菌者の結膜炎に対しては,既報2,3)でも述べたが,今回もCPを第一選択とする.VCM眼軟膏はMRSAの検出をもって初めて使用することができ,薬剤が高価であるため,結果として耐性化が抑制されていると推測される.わが国における他の研究をみると,結膜炎に関しては,2004年からの5年間のCOI細菌性結膜炎検出菌スタディグループの研究では8),検出菌の1位がStaphylococcusepidermidis,2位がPropionibacteriumacnes,3位がStreptococcusspp.,そしてS.aureusと続くが,全菌種を合わせるとLVFX,CMXがよい感受性を示したと述べている.感染性角膜炎診療ガイドライン(第2版)9)によれば,角膜炎においてグラム陰性桿菌疑いではキノロン系+アミノグリコシド系,グラム陽性球菌疑いではキノロン系+セフェム系を推奨している.これはキノロン系薬剤のpostantibioticeffect(点眼後組織に長くとどまる現象)を期待しているからである.太根ら10)は高齢者の細菌性結膜炎における臨床分離菌と薬剤感受性を調べているが,筆者らの研究と同様MRSE,MRSAにはCP,VCMが有効で,キノロン系薬剤で初期治(115)療を受けていた症例では耐性化と混合感染がみられたことを指摘,さらにTCが有効と述べている.このように抗菌薬の選択については,どの研究も同様の選択をしている.一方,ヨーロッパでは結膜炎は一般的に1.2週間で自然治癒するので,抗菌薬を使わないこともあるが,病期を短縮する目的で使われる抗菌薬の第一選択はキノロン系薬剤ではなく,CPやフシジン酸(fusidicacid)である11).局所または全身にキノロン系薬剤が使われると,3カ月以内に耐性を示すS.aureusは29%だが,使っていないものは11%と有意な差がある12),とのヨーロッパの報告に対し,米国では,アジスロマイシンよりも第3,4世代のキノロン,GFLX,MFLXのほうが脈絡膜新生血管治療における細菌感染予防のための点眼において,S.aureusやCNSの耐性をつくりにくいことが報告されている13).しかし,19.60%のS.pneumoniae,85%のMRSAが耐性をもっている.第4世代,なかでもBesifloxacinは耐性が少ない14).以上のように,ヨーロッパではキノロンを第一選択とせず,米国ではむしろ第3,4世代と新しいキノロンを第一選択とするような論文が多い.今回の筆者らの研究で,耐性化しにくいといわれていた第4世代のキノロン系薬剤である,GFLX,MFLXの感受性の低下もあり,結膜炎に対する第一選択薬として多く使用されることが予想されるキノロン系抗菌薬の適正利用に留意する必要があると考えられた.本論文は第117回日本眼科学会(2013年4月東京)において発表した.文献1)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた眼科領域の抗菌薬選択2006.臨眼61:331-336,20072)加茂純子,村松志保:感受性から見た眼科領域の抗菌薬選択2008.臨眼63:1635-1640,20093)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか(眼感染症スタディグループ):前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性.日眼会誌11:814-824,20114)Benitez-Del-CastilloJ,VerbovenY,StromanDetal:Theroleoftopicalmoxifloxacin,anewantibacterialinEurope,inthetreatmentofbacterialconjunctivitis.ClinDrugInvestig31:543-557,20115)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,20106)YamadaM,YoshidaJ,HatouS:MutationsinthequinoloneresistancedeterminingregioninStaphylococcusepidermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithsusceptibilitytovariousfluoroquinolones.BrJOphthalmol92:848-851,2008あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141041 7)AdebayoA,ParikhJG,McCormickSAetal:ShiftingtrendsininvitroantibioticsusceptibilitiesforcommonbacterialconjunctivalisolatesinthelastdecadeattheNewYorkEyeandEarInfirmary.GraefesArchClinExpOphthalmol249:111-119,20118)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20119)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会(井上幸次委員長):第3章感染性角膜炎の治療.日眼会誌117:491-496,201310)太根伸浩,北川清隆,勝本武志ほか:高齢者の細菌性結膜炎における臨床分離菌と薬剤感受性.臨眼67:991-996,201311)Bremond-GignacD,ChiambarettaF,MilazzoS:AEuropeanperspectiveontopicalophthalmicantibiotics:currentandevolvingoptions.OphthalmolEyeDis24:29-43,201112)FintelmannRE,HoskinsEN,LietmanTMetal:Topicalfluoroquinoloneuseasariskfactorforinvitrofluoroquinoloneresistanceinocularcultures.ArchOphthalmol129:399-402,201113)KimSJ,TomaHS:Ophthalmicantibioticsandantimicrobialresistancearandomized,controlledstudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.Ophthalmology118:1358-1363,201114)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,2010***1042あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(116)

ゾレドロン酸水和物静注後に生じた急性前部ぶどう膜炎の1例

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):273.275,2013cゾレドロン酸水和物静注後に生じた急性前部ぶどう膜炎の1例西岡木綿子*1,2中尾新太郎*1,2川野庸一*3石橋達朗*2*1国家公務員共済組合連合会千早病院眼科*2九州大学大学院医学研究院眼科学分野*3福岡歯科大学総合医学講座眼科学分野ACaseofAcuteAnteriorUveitisFollowingTreatmentwithZoledronicAcidYukoNishioka1,2),ShintaroNakao1,2),Yoh-IchiKawano3)andTatsuroIshibashi2)1)DepartmentofOphthalmology,ChihayaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3)SectionofOphthalmology,DepartmentofGeneralMedicine,FukuokaDentalCollege目的:ビスホスホネート製剤であるゾレドロン酸水和物投与後に発症した急性前部ぶどう膜炎の症例報告.症例:71歳,女性.51歳時に乳癌を発症し,右乳癌切除術後に抗癌薬治療を行っていた.多発性の骨転移に対して,ゾレドロン酸水和物の点滴投与が行われた.点滴投与日からの右眼の充血,流涙,眼痛と視力低下を主訴に千早病院眼科を受診した.矯正視力は右眼0.2,左眼1.2で,眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgであった.右眼に結膜充血,フィブリンを伴った強い前房内炎症や虹彩後癒着を認めたが,眼底には変化はみられなかった.左眼に炎症所見はみられなかった.全身検査にて他のぶどう膜炎の原因となりうる所見はなかった.副腎皮質ステロイド薬の点眼で2週間後にはぶどう膜炎は軽快し視力も改善し,結膜充血は3カ月後に消退した.結論:ビスホスホネート製剤投与後にぶどう膜炎や結膜炎が発症することがある.Purpose:Toreportacaseofanterioruveitisaftertheinfusionofbisphosphonates(zoledronicacid).Case:A71-year-oldfemale,diagnosedwithrightbreastcancerin1990,wastreatedwithmodifiedradicalmastectomyandadjuvantchemotherapy.Bonemetastaseswerediagnosed.Shewasadmittedwithpain,visualloss,andhyperemiainherrighteyeafterthefirstadministrationofzoledronicacid.Initialvisualacuitywas0.2righteyeand1.2left;intraocularpressurewas8mmHgrighteyeand9mmHgleft.Therighteyeshowedciliaryinjection,moderateamountofcellswithfibrinexudatesinanteriorchamberandposteriorsynechia.Therewasnoevidenceofvitreousinvolvementandnoretinalabnormality.Thepatientwastreatedwithtopicalprednisoloneandrecoveredslowlyover3months.Conclusion:Zoledronicacidmaycauseanterioruveitisandconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):273.275,2013〕Keywords:ビスホスホネート,ぶどう膜炎,結膜炎.bisphosphonates,uveitis,conjunctivitis.はじめにビスホスホネート製剤は従来骨粗鬆症の治療薬として頻用されているが,その一つであるゾレドロン酸水和物は骨粗鬆症以外に,悪性腫瘍による高カルシウム血症,多発性骨髄腫や固形癌骨転移の骨病変治療の注射製剤としてわが国でも用いられるようになっている1).注射製剤の場合,副作用として投与直後から3日以内の発熱,筋肉痛,頭痛,関節痛,インフルエンザ様症状,また,顎骨壊死や顎骨骨髄炎の発生頻度が内服より高まることなどが注目されているが,欧米ではさらに結膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,眼窩炎症の発症が多く報告されている2.6).わが国での眼関連の副作用の報告はまれであるが,筆者らはゾレドロン酸水和物(ゾメタR)投与後にぶどう膜炎を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:71歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛,流涙.既往歴:51歳時に右乳癌切除術施行.52歳時,食道粘膜〔別刷請求先〕西岡木綿子:〒813-8501福岡市東区千早2丁目30番1号千早病院眼科Reprintrequests:YukoNishioka,M.D.,DepartmentofOpthalmology,ChihayaHospital,2-30-1Chihaya,Fukuoka813-8501,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(139)273 abab図1初診時右眼の前眼部所見a:結膜充血と角膜裏面沈着物があった.b:Descemet膜皺襞,前房中には細胞とフィブリンの析出,虹彩後癒着を認めた.下腫瘍.56歳時,縦隔腫瘍.63歳時に乳癌の骨転移を認めたため放射線治療・抗癌薬治療開始.現病歴:2011年9月21日に多発骨転移に対して千早病院(以下,当院)外科でゾレドロン酸水和物(ゾメタR)4mgの静脈注射を行い,注射後に38℃の発熱を認めた.また,同日から右眼充血,眼痛,流涙を自覚していた.同年9月28日,1週間前からの右眼の症状を主訴に当院眼科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.2(1.2×+3.00D(cyl.1.25DAx140°),眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgで,両眼とも白内障は軽度であった.右眼は結膜の充血が著明で,角膜には角膜裏面沈着物と中等度のDescemet膜皺襞があった.前房中には細胞(2+)の炎症反応とフィブリンの析出,虹彩後癒着を認めた(図1).網脈絡膜の炎症や硝子体混濁はなかった.左眼に異常はみられなかった.血液生化学検査では,白血球数4,340/μl,CRP(C反応性274あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013蛋白)0.01(0.0.2)mg/dlと炎症反応はみられなかった.ACE(アンギオテンシン変換酵素)22.7(7.7.29.4)IU/L,抗核抗体・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体・抗RNP(ribonucleoprotein)抗体・抗Sm抗体は陰性で,Ig(免疫グロブリン)G1,388(870.1,700)mg/dl,IgA161(110.410)mg/dl,IgM130(46.210)mg/dlと正常範囲内であった.ウイルス抗体価はVZV(水痘帯状ヘルペスウイルス)が既感染パターンで,HSV(単純ヘルペスウイルス)やHTLV(ヒトTリンパ球向性ウイルス)-Iは陰性であった.HLA(ヒト白血球抗原)はA2,A24(9),B46,B52(5),DR8であった.経過:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンR0.1%)点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩合剤(ミドリンRP)点眼を開始した.翌日には,虹彩後癒着は解除され炎症も軽減していた.初診から1週間目には右眼視力0.4(1.0×+2.50D)と視力の改善がみられた.点眼回数を漸減し,2週間目には,眼内に炎症所見はみられなかった.しかし,結膜の充血のみが継続していたためベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンンR0.1%)点眼と,レボフロキサシン水和物(クラビットR)点眼に変更し経過観察した.3カ月後には,結膜の充血も軽快した.ゾレドロン酸水和物が原因によるぶどう膜炎が疑われたため,以後の本剤の投与は中止された.初診から12カ月後の現在まで,眼症状の再発はない.II考按眼に関するビスホスホネート製剤の副作用はわが国ではほとんど報告されていないが,欧米では1990年頃から報告があり7),視力低下,霧視,眼痛,結膜充血,結膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,視神経浮腫など多様である2.6).本症例は注射用製剤のゾレドロン酸水和物(ゾメタR)を投与後に発熱し,同日,眼症状が出現している.ぶどう膜炎の原因を特定できるような検査所見や眼外症状はみられなかったため,ゾレドロン酸水和物(ゾメタR)によりぶどう膜炎を発症したと診断した.また,内眼炎症状が軽快した後約3カ月間持続した結膜充血も過去の報告から本薬剤の影響を否定できないと考えた.ぶどう膜炎や眼窩炎症の発症のメカニズムははっきりしていない.体内に入ったビスホスホネートのおよそ50%はそのまま腎臓から排出されるが,残りは,骨組織に親和性をもち骨表面に沈着する.破骨細胞が骨を破壊するときに細胞内に取り込まれ,取り込まれたビスホスホネートが破骨細胞のアポトーシスを誘導し,破骨細胞の寿命を縮めて骨病変の進行や症状の発現を抑えるといわれている.Dicuonzoらは,ゾレドロン酸水和物(ゾメタR)を投与した18名の患者の血中TNF(腫瘍壊死因子)-a,IFN(インターフェロン)-gと(140) IL(インターロイキン)-6の経時的変化を測定し,TNF-aは投与1日目と2日目,IL-6は投与1日目に上昇し,しかも,投与後に発熱があった群となかった群では,発熱があった群が優位に上昇していたと報告している8).ビスホスホネートはヒトのgdT細胞の活性化を起こすことが報告されていて9),本症例では,ぶどう膜炎発症時にCRPの上昇はなかったが静注後に発熱がみられたため,やはり自然免疫系の細胞への作用が,早期の眼および眼周囲の炎症反応をひき起こしたと考えられた.ビスホスホネート製剤には,経口製剤と注射用製剤があり,経口製剤では胃の不調や食道の炎症,びらんなどの上部消化器症状がおもな副作用で,内服後30分から60分間座っていることで予防できる.一方,注射用製剤では,発熱,筋肉痛,頭痛,関節痛や,インフルエンザ様の症状など従来の内服製剤では頻度的にあまり問題にならなかった全身的な副作用が増加することが知られている.これはビスホスホネート製剤が経口投与では腸管からの吸収が悪いのに対して静注剤では早期に効能を発揮することに起因することと考えられる.ビスホスホネート製剤は,構造の違いで3世代に分けられる.第一世代は側鎖に窒素を含まず,第二世代は側鎖に窒素を含むが,環状構造を有しない.第三世代は側鎖に窒素を含み環状構造を有する.近年注目されているビスホスホネート関連顎骨壊死は窒素含有注射剤での頻度が高いといわれている1).Fredericらは,2003年に,ビスホスホネート製剤の世代ごとの眼に関する副作用をまとめ,第一世代では視力低下や結膜炎,第二世代では視力低下,ぶどう膜炎,結膜炎や強膜炎,第三世代では結膜炎や強膜炎がみられたと報告している10).本症例に使用されたのは第三世代のビスホスホネート製剤で,現在臨床応用されているビスホスホネート製剤のなかでは強力なハイドロキシアパタイト親和性と破骨細胞活性抑制作用をもち,比較的副作用が少ないといわれているが,2012年にPetersonらはゾレドロン酸水和物の静注後に発症した眼窩炎症の1例とビスホスホネート製剤投与後に眼に副作用の出現した14症例の特徴をまとめて報告している11).報告では,ゾレドロン酸水和物の静注12時間後に左眼痛と側頭部痛を認め,左上下眼瞼の腫脹,結膜浮腫を示し,ステロイド薬の全身投与でようやく消炎が得られている.14症例のうち10症例が片眼性であり,発症時期もゾレドロン酸水和物の静注後3日以内がほとんどであったが,内服製剤では,投与3週間目に発症した症例もあった.ビスホスホネート製剤はステロイド性骨粗鬆症に対しての第一選択として推奨されている.一般的にプレドニゾロン換算5mg/日以上,3カ月以上の使用は骨折リスクが上昇するとして骨粗鬆症の治療対象である.眼疾患の原田病やサルコイドーシスなどでもステロイド薬の長期投与が必要なこともあり,ビスホスホネート製剤の副作用でぶどう膜炎,強膜炎,眼窩炎症が起こる可能性があること,特に静注製剤において投与後早期の発症がありうることを眼科医として認識しておくことが大切と考えられた.文献1)折茂肇:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版,ライフサイエンス出版,20112)WooTC,JosephDJ,WilkinsonR:SeriousocularcomplicationsofZoledronate.ClinOncol18:545-546,20063)KilickapS,OzdamarY,AltundagMKetal:Acasereport:zoledronicacid-inducedanterioruveitis.MedOncol25:238-240,20084)PhillipsPM,NewmanSA:Orbitalinflammatorydiseaseafterintravenousinfusionofzoledronatefortreatmentofmetastaticrenalcellcarcinoma.ArchOphthalmol126:137-139,20085)FrenchDD,MargoCE:Postmarketingsurveillanceofuveitisandscleritiswithbisphosphonatesamonganationalveterancohort.Retina28:889-893,20086)McKagueM,JorgensonD,BuxtonKA:Ocularsideeffectsofbisphosphonates.Acasereportandliteracturereview.CanFamPhysician56:1015-1017,20107)SirisES:Bisphosphonatesandiritis.Lancet341:436437,19938)DicuonzoG,VincenziB,SantiniDetal:FeverafterzoledronicacidadministrationisduetoincreaseinTNF-aandIL-6.JInterferonCytokineRes23:649-654,20039)KuzmannV,BauerE,WilheimM:Gamma/deltaT-cellstimulationbypamidronate.NEnglJMed340:737-738,199910)FrederickW,FrederickT:Bisphosphonatesandocularinflammation.NEnglJMed348:1187-1188,200311)PetersonJD,BedrossianEHJr:Bisphosphonate-associatedorbitalinflammation─acasereportandreview.Orbit31:119-123,2012***(141)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013275

点眼容器の形状のハンドリングに対する影響

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1107《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1107.1111,2010cはじめに眼疾患の治療において点眼薬の役割は大きい.特に緑内障のように自覚症状に乏しく,しかし,進行性の視機能障害を認める疾患では,その治療の成否には点眼薬の継続的使用,すなわちアドヒアランスが大きく関与する1~3).アドヒアランスに影響を及ぼす要因は多数あるが,点眼回数4,5)や点眼薬剤数6~9),点眼容器の使用性10,11)なども関連する要因の一つにあげられている.このうち,点眼容器の使用性には,キャップの開閉や容器の把持,内容液の滴下などのハンドリングも影響する10).しかし,点眼容器の形状とハンドリングに関しての検討は十分にされていない.そこで,今回,緑内障を対象としてすでに臨床使用されている点眼薬を用いた模擬点眼試験を行い,点眼容器の形状の違いがハンドリングに及ぼす影響についてインタビュー調査した.また,点眼薬の使用が短期間に限られ,かつ明らかな自覚症状を伴う季節性アレルギー性結膜炎についても同様の調査を行い,結果を比較検討したので報告する.I対象および方法2009年5月から1カ月間に岡山大学病院および笠岡第一病院で,点眼治療期間が1年以上にわたる緑内障と,点眼治〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN点眼容器の形状のハンドリングに対する影響高橋真紀子*1,2内藤知子*2大月洋*2溝上志朗*3吉川啓司*4*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4吉川眼科クリニックInfluenceofEyedropBottleShapeonHandlingMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),HiroshiOhtsuki2),ShiroMizoue3)andKeijiYoshikawa4)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)YoshikawaEyeClinic緑内障50例を対象に5種類の点眼薬(リザベンR,リボスチンR,キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR)の容器を用いて模擬点眼試験を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングに及ぼす影響を調査した.同様に季節性アレルギー性結膜炎50例に対しても調査を行い,その結果を比較した.ハンドリングは,緑内障,季節性アレルギー性結膜炎とも,キャップ,容器の把持する部分が長い点眼容器が高スコアを示した.さらに胴部に凹みがあるタプロスRの点眼容器は,他の容器に比べ有意に高スコアを示した(p<0.05~p<0.0001,Tukey法).また,今後の治療時に使用希望する点眼容器としてタプロスRの点眼容器が有意に第一に選択された(結膜炎:p=0.0001,緑内障:p<0.0001,適合性のc2検定).Thisinstillationtrial,involving50glaucomapatientsand50seasonalallergicconjunctivitispatients,wascarriedoutusing5kindsofeyedropbottles(RizabenR,LivostinR,XalatanR,TRAVATANZRandTaprosR);theinfluenceofeyedropbottleshapeonhandlingwasalsoinvestigated.Inboththeglaucomaandconjunctivitispatients,thebottlewithalongcapandthebottletoholdreceivedhighscoresintermsofhandling.Inaddition,theTaprosRtypebottle,withthedentinthebody,receivedhigherscoresthanalltheotherbottles(p<0.05~p<0.0001,Tukeytest).Inthechoiceofeyedropbottletousefortreatmenthenceforth,theTaprosRtypebottlewasthetopchoicebyasignificantmargin(conjunctivitis:p=0.0001,glaucoma:p<0.0001,chi-squaretestwhereappropriate).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1107.1111,2010〕Keywords:点眼容器,ハンドリング,緑内障,結膜炎.eyedropbottle,handling,glaucoma,conjunctivitis.1108あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(96)療を1カ月以内で終了した季節性アレルギー性結膜炎(結膜炎)に対し,模擬点眼操作施行後に,使用した点眼容器のハンドリングについてインタビュー調査した.対象には年齢40~75歳で,かつ,書面での同意が得られた症例を組み入れ,一方,手術や緊急的な処置の必要のある症例,明らかな重篤な眼疾患を有する症例,他の眼疾患に対し本試験で使用する容器と同形状の容器を使用中の症例は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院倫理委員会の承認を得たうえで実施した.点眼容器(図1)には実薬が装.されたプロスタグランジン関連緑内障薬3種類(キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR)およびアレルギー性結膜炎薬2種類(リザベンR,リボスチンR)を用いた.ラテン方格により割り付けた(YK)試験順序に従い,模擬点眼操作(キャップを開栓し,それぞれが最も好ましい高さで把持した点眼容器から,薬液をあらかじめ用意したシャーレに滴下)を施行した.なお,試験に先立ち,1名の眼科専門医(TM)が点眼容器のキャップ部分にシュリンクフィルムなどによる包装がある場合はこれを.離し,さらに,キャップは一度開栓し,再び閉栓した.また,点眼容器は10名の試験が終了した時点で,同様の準備を施行した未使用の容器に交換した.模擬点眼操作後,眼科専門医(TM)が点眼容器のハンドリングを中心としたインタビュー調査を行った.まず,ハンドリングに関しては,1.キャップの開閉のしやすさ,2.容器の持ちやすさ,3.容器の押しやすさ,4.薬液の落ち方の4項目に分けて調べた.それぞれの項目について,大変良い,良い,意識しない,やや悪い,悪い,の5段階での評価を求め,これをスコア化した(大変良い:スコア5,良い:スコア4,意識しない:スコア3,やや悪い:スコア2,悪い:スコア1).つぎに,その薬効,薬価などが同一と仮定した場合,今後の治療時に使用を希望する点眼容器の選択を調べ,さらに,点眼容器への自由意見も聴取した.目標症例数は各疾患50例とし,得られた結果はデータ収集施設とは独立しJMP8.0(SAS東京)を用い,Tukey法,c2検定,Fisherの直接確率により解析(MS)した.有意水準はp<0.05とした.II結果緑内障50例(男性26例,女性24例,平均年齢62.7±9.5歳),結膜炎50例(男性16例,女性34例,平均年齢50.9±10.7歳)が試験に参加し対象となった.1.各点眼容器のキャップ・容器のサイズおよび形状(図1)点眼容器のキャップのサイズ(最長部の横径×縦径)は,タプロスRが最も大型で,キサラタンRが最も小型であった.また,リボスチンR,トラバタンズRはキャップ先端の形状が凸であった.一方,容器のサイズはタプロスRが最も大型で,その胴部は凹んでいた.容器の横径はリザベンRが最も小型で,その胴部は円柱状であり,キサラタンR,トラバタンズRの容器は小型で,胴部は平坦であった.2.点眼容器のハンドリング評価ハンドリングについての5段階スコアを点眼容器間で多重比較(Tukey法)した(図2).キャップの開閉のしやすさ(図2a)の平均スコアは,結膜炎群ではタプロスR(3.9±1.0),リボスチンR(3.9±1.0),リザベンR(3.7±1.1),トラバタンズR(3.5±1.1),キサラタンR(2.8±1.3)の順であり,緑内障群でも同様であった(タプロスR:3.9±1.0,リザベンR:3.7±0.9,リボスチンR:3.2±0.8,トラバタンズR:3.0±0.9,キサラタンR:2.7±1.1).両疾患群ともキサラタンRのスコアが最も低く,特に結膜炎群リザベンRリボスチンRキサラタンRトラバタンズRタプロスR1.81.82.22.61.91.7(単位:cm)1.72.02.55.42.12.62.52.05.34.95.25.71.12.0キャップのサイズ・形状容器のサイズ・形状図1使用点眼容器のサイズおよび形状(97)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101109においては他の容器に比べ有意に低値を示した(p<0.05~p<0.0001).一方,緑内障群ではリボスチンR,キサラタンR,トラバタンズRのスコアがタプロスR,リザベンRに比べ有意に低かった(キサラタンRvsタプロスR,リザベンR:p<0.0001,トラバタンズRvsタプロスR:p<0.001,トラバタンズRvsリザベンR,リボスチンRvsタプロスR:p<0.01,リボスチンRvsリザベンR:p<0.05).容器の持ちやすさのスコア(図2b)は,結膜炎群ではタプロスR,リザベンR,リボスチンR,キサラタンR,トラバタンズRの順であり,緑内障群でも同様であった.両疾患群ともタプロスRのスコアが,他の容器に比べ有意に高値を示した(p<0.01~p<0.0001).容器の押しやすさのスコア(図2c)は,結膜炎群ではタプロスR,キサラタンR,リボスチンR,リザベンR,トラバタンズRの順であり,緑内障群でも同様の傾向であった.両疾患群とも,タプロスRのスコアがリザベンR,トラバタンズRに比べ有意に高かった(p<0.05~p<0.001).さらに,緑内障群ではリボスチンRのスコアが,キサラタンR,タプロスRに比べ有意に低値を示した(p<0.0001).図2点眼容器のハンドリング評価:平均値±標準偏差:結膜炎群,:緑内障群.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001:Tukey法.ただし,すべてのTukey法の結果をグラフ内に示すと煩雑になるため,a,cは主要な結果のみグラフ内に示し,他は本文中に結果を示した.Riz:リザベンR,Liv:リボスチンR,Xal:キサラタンR,Tra:トラバタンズR,Tap:タプロスR.(点)RizLivXalTraTap***********54321(点)RizLivXalTraTap54321*************************(点)RizLivXalTraTap54321***********(点)RizLivXalTraTap54321***RizLivXalTraTap結膜炎3.7±1.13.9±1.02.8±1.33.5±1.13.9±1.0緑内障3.7±0.93.2±0.82.7±1.13.0±0.93.9±1.0a:キャップの開閉のしやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.1±1.03.2±1.13.3±1.13.0±1.33.7±1.0緑内障3.2±0.82.7±0.83.6±1.03.1±1.03.9±1.0c:容器の押しやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.4±0.93.3±0.83.2±1.13.1±1.24.2±0.9緑内障3.4±0.83.0±0.73.5±0.93.3±1.04.1±0.9b:容器の持ちやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.4±1.03.4±1.13.2±1.03.5±1.13.7±1.0緑内障3.2±0.82.8±0.73.1±0.93.2±0.83.3±0.8d:薬液の落ち方1110あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(98)薬液の落ち方のスコア(図2d)は,結膜炎群ではタプロスR,トラバタンズR,リボスチンR,リザベンR,キサラタンRの順で,緑内障群ではタプロスR,リザベンR,トラバタンズR,キサラタンR,リボスチンRの順であった.結膜炎群では明らかな容器間の差を認めなかったのに対し,緑内障群はリボスチンRのスコアが,リザベンR,タプロスRに比べ有意に低く(p=0.0387,p=0.0057),容器の違いによる薬液の落ち方の差に鋭敏に反応した.3.今後の治療時に使用を希望する点眼容器今後の治療時に使用を希望する点眼容器(図3)として,結膜炎群ではタプロスR23例(46.0%),リボスチンR10例(20.0%),トラバタンズR8例(16.0%),リザベンR5例(10.0%),キサラタンR4例(8.0%)の順に,緑内障群ではタプロスR22例(44.0%),キサラタンR12例(24.0%),トラバタンズR7例(14.0%),リザベンR7例(14.0%),リボスチンR2例(4.0%)の順に選択された.両疾患群とも,タプロスRの点眼容器が有意に第一選択となった(結膜炎群:p=0.0001,緑内障群:p<0.0001).4.点眼容器への自由意見点眼容器への要望などに対する自由意見では,結膜炎群12例(24.0%),緑内障群21例(42.0%)に回答があり,緑内障群のほうが点眼容器に対する意見を多くもつ傾向がみられた(p=0.0556:c2検定).さらに,緑内障群は意見数が多いだけでなく,回答内容も多彩であり,得られた意見数(結膜炎群:22,緑内障群:52)のうち,ハンドリング関連以外の意見の比率は,緑内障群(18:34.6%)で結膜炎群(2:9.1%)に比べ有意に高頻度であった(p=0.0252:Fisherの直接確率).III考按緑内障および季節性アレルギー性結膜炎(結膜炎)に対し,代表的点眼薬とその容器を用い,点眼容器のハンドリングに関するインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がハンドリングに影響することが示唆された.点眼容器の使用性やハンドリングは点眼薬の継続的な使用に影響する可能性がある10,11).しかし,自覚症状を伴い比較的短期治療が想定され,さらに点眼による治療効果が実感できる疾患ではその影響が少なく,一方,自覚症状に乏しく長期治療が想定される疾患では,ハンドリングの良否が点眼の継続使用の妨げとなることも推測される.そこで,今回,自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障と,掻痒感などの自覚症状が明らかな急性疾患である季節性アレルギー性結膜炎の両者に対し,容器の形状のハンドリングへの影響を調査した.今回,緑内障点眼薬としては,現在の緑内障治療において第一選択であるプロスタグランジン(PG)関連薬のうち,調査時にわが国で使用可能であった3種類を,また結膜炎点眼薬としては,使用割合の多い代表的点眼薬のうち,明らかに302010057***(例)102412872322リザベンRリボスチンRキサラタンRトラバタンズRタプロスR図3今後の治療時に使用希望する点眼容器:結膜炎群,:緑内障群.*p=0.0001,**p<0.0001:適合性のc2検定.キャップの開閉残量の見え方薬液の落ち方容器の押しやすさ色による判別ラベルの.がしやすさ容器の大きさ1.9%キャップが転がるキャップの形キャップの大きさ汚染1.9%キャップの開閉容器の大きさ薬液の落ち方容器の硬さ1.9%容器の形容器の形容器の硬さキャップが転がる容器の持ちやすさ意見数22形による判別1.9%回答12/50例携帯しやすい携帯しやすい1.9%液が早くなくなりそう1.9%容器の持ちやすさ1.9%27.3%18.2%22.7%9.1%9.1%4.5%4.5%4.5%19.2%15.4%9.6%7.7%11.5%5.8%3.8%3.8%5.8%3.8%結膜炎意見数52回答21/50例緑内障図4点眼容器への自由意見:ハンドリング関連の意見,:ハンドリング以外の意見.(99)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101111形状が異なる2種類の点眼容器を,ハンドリングを比較する本調査に適すると考えて選択した.調査法としては模擬点眼操作を採用した.模擬点眼では点眼容器を扱い点眼薬を滴下するが,点眼薬をシャーレに滴下することで,眼表面への点入による刺激感や違和感など点眼容器以外の要因が排除されるため,点眼容器の違いによるハンドリングへの影響がより鋭敏に反映されると考えたためである.また,点眼操作前には,あらかじめ各点眼容器のキャップ部分を覆うラベルなどは.離したうえで開栓し,その後,緩く締め直した容器を準備することにより,点眼容器の使用前に必要となる操作10)の調査結果への影響の最小化を企図した.さらに,実際点眼時の使用感を可能な限り再現するために,容器胴体部分のラベルは.離せず,薬液は実薬を用いた.模擬点眼操作によるハンドリングの印象をよく反映した回答を得るため,点眼操作の直後に,検者が被検者に直接インタビューを行った.さらに,インタビューで得られた5段階評価を5点満点でスコア化し12),疾患群や点眼容器ごとに平均スコアを算出し,これを比較することによりハンドリングを評価した.その結果,結膜炎,緑内障患者ともに,キャップ,容器を把持するのに十分な長さ,太さを有する形状の点眼容器が高スコアを示し,その評価に疾患による明らかな差はなかった.今回は模擬点眼下でインタビューを行ったため,点眼薬を使用する際の点眼容器の形状の違いがハンドリング評価に反映された一方で,病態の違いによる差は検出されにくかったものと推察される.なお,特に,点眼容器を把持する胴部に凹みがある形状の容器は,持ちやすさ,押しやすさにおけるスコアが高値であり,容器の形状がハンドリング,すなわち点眼操作に影響することが強く示唆され,把持部に凹み(ディンプル13))を有した同形状の容器の使用感評価が高いことを示した報告10)と一致する結果と考えた.今後の治療時に使用を希望する容器のインタビューでは,結膜炎群はリボスチンR,緑内障群はキサラタンRと,それぞれの疾患において使用経験の多い点眼容器が比較的多く選択され,容器に対する慣れの影響は大きいと考えた.しかし,最も多く選択されたのが両疾患群ともハンドリング評価で高スコアを示したタプロスRの点眼容器であったことから,今回の模擬点眼操作によるインタビュー調査に,容器の形状のハンドリングへの影響が直接的に反映されたことが改めて評価できた.Open-endedquestionによるフリー回答では,個々の意見や要望をよく引き出すことが期待できる14).この回答内容において,緑内障では結膜炎に比べ点眼容器についての意見数が多いだけでなく,ハンドリング以外の意見も有意に多く聴取することができた.その内容も残量や汚染など日常使用と直接的に関わる点に加え,判別しやすい色や形への要望など,インタビュー調査の評価項目にない多彩な意見を認めた.この結果は,緑内障では結膜炎とは異なり,点眼薬を一時的にではなく長期使用するため,ハンドリングに留まらず容器への関心が高いことを反映したものと考えた.緑内障点眼薬の継続的使用には点眼容器の使用性も影響するが,今回の結果から,点眼容器の形状がハンドリングに影響し,その使用性に関わることが示されたため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20094)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19837)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,20078)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20099)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,200610)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200711)原岳,立石衣津子,原玲子ほか:抗緑内障点眼薬の点眼時刺激と容器の使用感.眼臨紀1:9-12,200812)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-ItemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,200113)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,200514)FriedmanDS,HahnSR,QuigleyHAetal:Doctor-patientcommunicationinglaucomacare.Ophthalmology116:2277-2285,2009

ペニシリン耐性肺炎球菌結膜炎の1 例

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1376あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)376(94)0910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):376378,2009cはじめにペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistantStreptococ-cuspneumoniae:PRSP)は,ペニシリンG(penicillinG:PCG)の最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentra-tion:MIC)が2μg/ml以上を示す肺炎球菌と定義されている.PRSP感染症は,Hansmanら1)によって,1967年に世界で初めて報告された.わが国では,1988年に報告2)されて以来,他科領域では分離頻度が増加している35).そのためPRSP感染症は,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」において第五類感染症として登録され,全国各地でのPRSP分離状況は,行政による基幹定点把握が実施されている.しかし,わが国の眼科領域におけるPRSPに関する報告は,筆者らが知りうる限り3編68)のみである.そこで本論文では,PRSPが起炎菌であることが明らかな結膜炎症例について,その報告が少ないことに対する若干の考察を加えて報告する.I症例患者:88歳,女性.主訴:両眼の充血と眼脂.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:数年来,両眼に鼻涙管閉塞症を伴わない慢性結膜炎があり,数種類の抗菌点眼薬投与で緩解し,起炎菌は同定されていなかった.その他,高血圧と心不全で加療中であった.現病歴:数日前から両眼の充血と眼脂を訴え,無治療の状態で平成20年2月に医療法人三野田中病院を受診した.〔別刷請求先〕江口洋:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座眼科学分野Reprintrequests:HiroshiEguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushima-shi770-8503,JAPANペニシリン耐性肺炎球菌結膜炎の1例江口洋*1桑原知巳*2大木武夫*1塩田洋*1田中真理子*3田中健*3*1徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座眼科学分野*2同生体制御医学講座分子細菌学分野*3医療法人三野田中病院ACaseofConjunctivitisCausedbyPenicillin-ResistantStreptococcuspneumoniaeHiroshiEguchi1),TomomiKuwahara2),TakeoOogi1),HiroshiShiota1),MarikoTanaka3)andTakeshiTanaka3)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofMolecularBacteriology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3)MinoTanakaHospitalMedicalCorporation眼脂のグラム染色像と培養結果,および臨床経過から,ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistantStreptococ-cuspneumoniae:PRSP)結膜炎と診断した症例を経験した.結膜炎は軽度であり,セフメノキシム点眼薬で容易に治癒した.わが国においてPRSPに関する報告は少ないが,日常診療で見逃している可能性がある.結膜炎症例では,眼脂の塗抹鏡検をすべきであり,その結果本症を疑った場合,薬剤の選択には注意が必要である.Wediagnosedacaseofpenicillin-resistantStreptococcuspneumoniae(PRSP)conjunctivitisonthebasisofgramstainingofthedischarge,cultureresultsandclinicalcourse.Theclinicalsymptomsweremildandeasilycuredusingcefmenoximeophthalmicsolution.PRSPconjunctivitiscanbeoverlookedbymanyophthalmologists,whichmaybewhyfewreportsarepublishedontheconditioninJapan.Inconjunctivitiscasesweshouldexaminethedischargesmear,andwhenPRSPissuspectedofbeingthepathogen,attentionshouldbefocusedonthedrugofchoice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):376378,2009〕Keywords:ペニシリン耐性肺炎球菌,結膜炎,眼脂の塗抹・鏡検.penicillin-resistantStreptococcuspneumoniae,conjunctivitis,smearexaminationofdischarge.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009377(95)眼所見:視力は右眼(0.8),左眼(1.2),眼圧は両眼とも正常,両眼の瞼・球結膜の中等度の充血と,粘性で白色の眼脂,および軽度の眼瞼炎を認めた(図1).その他,両眼とも中等度の白内障があり,眼底には特記すべき所見は認めなかった.経過:眼脂のグラム染色(図2)では,多核白血球と,莢膜をもつグラム陽性のレンサ球菌を確認し,Streptococcus属の感染を強く疑う像であった.眼脂の培養を検査機関に依頼したところ,PRSP疑いのStreptococcus属(2+)と報告を受けた.そこで同菌を検査機関より収集し,E-testストリップ(ABBIODISK,Solna,Sweden)でPCGのMICを測図1治療前の前眼部(左:右眼,右:左眼)両眼に,粘性白色の眼脂,軽度の球結膜と瞼結膜の充血,および軽度の眼瞼炎を認める.図2眼脂のグラム染色像好中球と,莢膜を有するグラム陽性双球菌を認める.図3EtestストリップでのMIC測定一見すると阻止帯中と思われる部位にコロニーが存在する(→)ため,MICは4μg/mlであった.表1各種抗菌薬のMIC(μg/ml)薬剤CTRXPCGDOXYEMNFLXLVFXGFLXMFLXTOBGMCPIPMVCMTEICMIC1484810.250.12532840.250.50.125テトラサイクリン系,マクロライド系,アミノグリコシド系には中間,または耐性を示した.CTRX:セフトリアキソン,PCG:ペニシリンG,DOXY:ドキシサイクリン,EM:エリスロマイシン,NFLX:ノルフロキサシン,LVFX:レボフロキサシン,GFLX:ガチフロキサシン,MFLX:モキシフロキサシン,TOB:トブラマイシン,GM:ゲンタマイシン,CP:クロラムフェニコール,IPM:イミペネム,VCM:バンコマイシン,TEIC:テイコプラニン.———————————————————————-Page3378あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(96)定したところ4μg/mlであった(図3).他の抗菌薬に対する感受性(表1)では,ノルフロキサシン以外のキノロン系やセフェム系に対する感受性は良好であったが,マクロライド系,テトラサイクリン系,アミノグリコシド系には,中間または耐性であった.眼脂のグラム染色像,薬剤感受性試験の結果,および臨床経過が合致したため,本症例をPRSP結膜炎と診断した.結膜炎および眼瞼炎は,セフメノキシム点眼薬1日4回1週間の治療で迅速に改善した.II考按他科に比べて,眼科領域でのPRSP感染症の報告が少ない理由には,以下の2点があると推測される.まず1点目は,培養時・結果報告時の見逃しの可能性があげられる.通常Streptococcus属は微好気性菌であり,培養には45%炭酸ガス培養が必要となる.検体採取後,輸送培地をそのまま静置していると,好気条件で旺盛に増殖する菌が優勢となり,検体中のStreptococcus属が確認されにくくなる可能性がある.細菌検査機関のなかには,依頼がなければ眼科の検体は好気培養しか実施しない施設もある.Streptococcus属が分離された場合でも,やはり依頼がなければPCGのMIC測定は実施しない施設が多い.2点目として,眼科医による見逃しの可能性があげられる.日常診療における軽微な結膜炎症例のなかには,眼脂の塗抹・鏡検を実施せずに,何らかの抗菌点眼薬を投与され治癒しているものが多数例あると思われるが,そのような症例のなかにPRSP結膜炎が潜んでいる可能性がある.本症例の眼脂を提出した外部委託の検査機関では,眼科からの検体について,依頼の有無にかかわらず好気培養と炭酸ガス培養を実施していた.また,Streptococcus属が分離され,ディスク法でオキサシリンの阻止円が19mm以下の場合は,「ペニシリン耐性または中間の肺炎球菌の可能性がある」との報告をしていた.さらに今回は,検体提出日に検査機関の担当者に,Streptococcus属感染症を疑っている旨を,眼脂のグラム染色像を呈示しながら直接連絡をしていたことで,スムーズな菌株収集とPCGのMIC測定ができた.したがって,本症例の早期診断には,厳密な培養と眼脂の塗抹・鏡検が必須だといえる.感染症治療の第一歩は病巣からの起炎菌の検出であり,そのためには,軽微な結膜炎であっても,眼脂のグラム染色を施行する必要があることを,本症例は表している.他科領域では,PRSP感染症は大いに臨床的意義があると考えられているが,眼科領域では,現時点で重篤なPRSP感染症の報告がないためか,その臨床的意義が少ないかのような印象を受ける.本症例も,結膜炎は重篤な印象はなく,セフメノキシム点眼薬を,1日4回点眼で1週間使用したところ,容易に治癒せしめることができた.しかしPRSPにおいて,キノロンを含め,多剤耐性化が進行しているとの報告9)があり,さらには形質転換に伴い,病原性が変化する可能性も考慮しなければならないと思われる.わが国の眼科領域では,キノロン系抗菌点眼薬が頻用されており,前記のごとく眼脂の塗抹・鏡検をせずに,キノロン系抗菌点眼薬で治癒せしめている結膜炎症例が多いのであれば,注意が必要である.また,耳鼻科領域でPRSPの分離頻度が高いことや,涙炎とPRSPに関する眼科領域の報告6,7)があることから,涙道と関連のある慢性結膜炎では,本症を念頭に置く必要がある.そして,軽微な結膜炎症例でも,眼脂の塗抹・鏡検で起炎菌の観察を試みるべきである.その際Streptococcus属による感染症を疑ったら,検査機関との連携のもとPCGのMICを測定し,PRSPであった場合,薬剤の選択には注意を払うべきと思われる.謝辞:菌株収集にご協力頂いた,三菱化学メディエンス株式会社に深謝いたします.文献1)HansmanD,BullenMM:Aresistantpneumococcus.Lan-cet2:264-265,19672)有益修,目黒英典,白石裕昭ほか:bラクタム剤が無効であった肺炎球菌髄膜炎の1例.感染症誌62:682-693,19883)岩田敏:耐性肺炎球菌感染症にいかに対処するか.3.小児科の立場から.化学療法の領域16:1285-1293,20004)高村博光,矢野寿一,末竹光子ほか:耐性肺炎球菌感染症にいかに対処するか.6.耳鼻咽喉科の立場から.化学療法の領域16:1311-1318,20005)UbukataK,AsahiY,OkuzumiKetal:Incidenceofpeni-cillin-resistantStreptococcuspneumoniaeinJapan,1993-1995.JInfectChemother2:77-84,19966)大石正夫,宮尾益也,阿部達也:ペニシリン耐性肺炎球菌による眼科感染症の検討.あたらしい眼科17:451-454,20007)今泉利雄,松野大作,神光輝:ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)による涙炎の3例.あたらしい眼科17:87-91,20008)KojimaF,NakagamiY,TakemoriKetal:Penicillinsus-ceptibilityofnon-serotypeableStreptococcuspneumoniaefromophthalmicspecimens.MicrobDrugResistance12:199-202,20069)福田秀行:Streptococcuspneumoniaeにおけるキノロン系薬の作用機序に関する遺伝子解析.日化療会誌48:243-250,2000***