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網膜剝離を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の6症例の検討

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1567.1570,2018c網膜.離を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の6症例の検討三股政英石川桂二郎長谷川英一武田篤信園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CClinicalFeaturesofSixCasesofCytomegalovirusRetinitisComplicatedwithRetinalDetachmentMasahideMimata,KeijirouIshikawa,EichiHasegawa,AtsunobuTakedaandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:網膜.離(RD)を伴ったサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の症例の臨床像を検討する.対象および方法:対象は過去C4年間に九州大学医学部付属病院眼科にてCCMV網膜炎と診断したC10症例C13眼のうち,経過中にCRDを認めたC6症例C6眼で,診療録をもとに後ろ向きに検討した.結果:症例は男性C5例C5眼,女性C1例C1眼,平均年齢60.5歳.初診時の平均視力はC0.15で,CMV網膜炎の診断からCRD発症までの平均期間はC4.3カ月であった.RDに対して,強膜内陥術をC1例に,硝子体手術をC5例に行った.最終的にC4例がシリコーンオイルを留置された.最終観察時の平均視力はC0.04であった.結論:CMV網膜炎に伴うCRDは視力予後が不良であり,重篤な視機能障害の原因となる.CMV網膜炎はCRDの発症に留意して治療を行うことが重要である.CPurpose:ToCdescribeCtheCclinicalCfeaturesCinCcasesCofcytomegalovirus(CMV)retinitisCcomplicatedCwithCreti-naldetachment(RD)C.MaterialsandMethods:ThisCstudyCinvolvedCtheCretrospectiveCreviewCofCtheCmedicalCrecordsof6eyesof6CMVretinitispatientscomplicatedwithRDwhovisitedtheDepartmentofOphthalmology,UniversityofKyushuHospitalfrom2013toC2016.CResults:Averagebest-correctedvisualacuityatC.rstvisitwas0.15.CItCtookCanCaverageC4.3monthsCfromCdiagnosisCofCCMVCretinitisCtoConsetCofCRD.COneCcaseCunderwentCscleralbuckling;theothercasesunderwentparsplanavitrectomy,including4casesthatunderwentsiliconeoiltampon-ade.CAverageCbest-correctedCvisualCacuityCatClastCvisitCwasC0.04.CConclusion:CMVCretinitisCcomplicatedCwithCRDCcancauseseverevisualdysfunction.Duringfollow-upofCMVretinitis,theoccurrenceofRDshouldbecarefullymonitored.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1567.1570,C2018〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,網膜.離,網膜硝子体手術,網膜前膜,免疫回復ぶどう膜炎.cyto-megalovirusretinitis,retinaldetachment,vitreoretinalsurgery,epiretinalmembrane,immunerecoveryuveitis.Cはじめにサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎は,眼科領域では代表的な日和見感染症の一つであり,ぶどう膜炎初診患者のC0.6.0.8%程度を占める1).1990年代後半にCHAART(highlyCactiveCantiretroviraltherapy)が導入されたことにより,AIDS(acquiredCimmunode.ciencyCsyn-drome)に伴うCCMV網膜炎に関しては,発症頻度が導入前のC4分のC1からC5分のC1程度に減少した.しかし一方で,臓器移植後の患者数は年々増加しており,とくに血液腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植後のCCMV網膜炎は増加傾向にあり,近年それらの症例の重要性が増している2).CMV網膜炎の主要な合併症の一つに網膜.離(retinaldetachment:RD)がある.網膜炎が鎮静化した後に生じることが多く3),RDに対して手術を行っても,網膜萎縮のために視力予後不良であると報告されており4),その臨床像の特徴を理解することは重要である.RDを合併したCCMV網〔別刷請求先〕三股政英:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:MasahideMimata,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC表1患者背景と臨床像症例年齢(歳)性別網膜.離僚眼網膜炎基礎疾患診断からCRD発症までの期間(月)滲出斑の大きさ手術方法C1C39男性左無CAIDSC13<25%CsegmentalbucklingCPPV+SF6C2C64男性右無赤芽球癆C6>50%CPPV+SF6CPPV+SO充.+輪状締結CPPV+SO充.C3C50男性左有選択的CIgM欠損症C3<25%CPPV+SO抜去CPPV+SO充.C4C68男性右無肺結核C4>50%CPPV+SO充.C5C74女性左無ANCA関連血管炎C0<25%CPPV+SO充.CPPV+SO抜去C6C67男性右有悪性リンパ腫C0>50%CPPV+SO充.症例黄斑.離術前視力最終観察時視力血中CMV抗原前房水CPCR硝子体CPCRガンシクロビル硝子体内注射抗ウイルス薬全身投与転帰CERMC1無C0.5C0.2陽性無ガンシクロビル生存不明C有2有0.6C0.1陽性陽性1回無生存有C有C有3無1.5C0.1陽性陽性4回ホスカルネット生存不明C有C4無C0.04Cm.m.陰性陽性無無生存有C5有有C0.01C0.2なし陰性無無生存有C6有C0.09CSL-陽性陽性無無死亡不明AIDS:後天性免疫不全症候群,IgM:免疫グロブリンCM,ANCA:抗好中球細胞質抗体,PCR:ポリメラーゼ連鎖反応,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,SF6:SF6gas注入,SO:シリコーンオイル,SL:光覚弁,m.m.:手動弁膜炎症例の臨床経過について,海外では多数例での報告があるが,わが国での報告は少ない.今回筆者らは,RDを伴ったCCMV網膜炎のC6症例について臨床像を後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2013年C1月.2016年C12月に,九州大学医学部附属病院眼科(以下,当院)にてCCMV網膜炎と診断したC10症例C13眼のうち,経過中にCRDを認めたC6症例C6眼とした.同症例について,基礎疾患,CMV網膜炎に対する治療,網膜炎の診断からCRD発症までの期間,網膜炎の範囲,施行術式,再.離の有無,最終復位率,視力予後などの臨床的特徴を診療録に基づいて後ろ向きに検討した.CMV網膜炎の診断は,網膜出血,浮腫を伴う黄白色滲出斑,網膜血管炎などのCCMV網膜炎に特徴的な眼底所見に加えて,免疫不全をきたす基礎疾患の存在,CMV抗原血症の有無,PCR(polymeraseCchainreaction)法による前房水,硝子体液中のCCMV-DNAの検出の有無などから総合的に行った.初診時にCRDを生じていた場合,網膜炎の診断からCRD発症までの期間をC0カ月とした.網膜炎の範囲は,診療録の眼底写真やスケッチから,全網膜に対する滲出斑の占有面積の割合をC0.25%,25.50%,50%以上のC3段階に分類した.視力の計算は既報5)に基づき,指数弁はClogMAR(loga-rithmCofCminimalCangleCofresolution)換算C1.85(少数視力0.014),手動弁はClogMAR換算C2.30(少数視力C0.005),光覚ありはClogMAR換算C2.80(少数視力C0.0016),光覚なしはlogMAR換算C2.90(少数視力C0.0012)として行った.CII結果6例の臨床像を表1に示す.症例は,男性C5例C5眼,女性C1例C1眼,平均年齢C60.5C±12.0歳:39.74歳であった.6例の基礎疾患はそれぞれ,後天性免疫不全症候群C1例,白血病C1例,選択的CIgM欠損症C1例,肺結核C1例,ANCA関連血管炎C1例,悪性リンパ腫C1例であった.6例のうち,2例は僚眼にもCCMV網膜炎を認めた.僚眼の網膜炎は抗ウイルス療法により鎮静化し,RDを発症しなかった.網膜炎の範囲は,0.25%の症例がC3例,50%以上の症例がC3例であった.3例で萎縮瘢痕化した滲出斑と正常網膜の境界に網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めた(図1).そのうちC2例と,ERMの存在は不明であったC1例で滲出斑と正常網膜の境界に原因裂孔を認めた.CMV網膜炎の診断からCRD発症までの平均期間はC4.3C±4.4カ月であった.2例は初診時にすでにCCMV網膜炎に伴ってCRDを発症していた.RD発症前のCCMV網膜炎に対する抗ウイルス療法は,1例でホスカルネットの全身投与およびガンシクロビルの硝子体注射を行われた.1例でホスカルネットの全身投与のみ,1例でガンシクロビルの硝子体注射のみを行われた.その他のC3例は手術前の抗ウイルス療法を行われなかった.RDの範囲が周辺部に限局していたC1例のみ強膜内陥術を行い,同症例は術後再.離を認めず経過した.その他C5例に硝子体手術を行った.1例はCSFC6ガス注入を行い,術後C1カ月で再.離を認めた.再度CSFC6ガス注入を行ったが,術後C1週間で再.離を認めたため,シリコーンオイル注入を行った.その他C4例は初回手術でシリコーンオイル注入を行い,そのうちC2例はそれぞれC9カ月後,10カ月後にシリコーンオイルを抜去した.前者は抜去後C2カ月で再.離を認め,再度シリコーンオイル注入を行った.後者はシリコーンオイルの再注入を行わなかった.初診時の平均少数視力はC0.15(logMAR換算C0.80C±0.82),最終観察時の平均視力はC0.04(logMAR換算C1.43C±0.93)であった.CIII考察今回の検討では,CMV網膜炎の全C13眼のうちC6眼(46%)にCRDを発症した.過去の報告では,CMV網膜炎におけるRDの発症率はおおむねC12.18%と報告されており6),本検討では既報と比べて発症率が高い結果となった.HAART導入後,AIDS患者でのCCMV網膜炎におけるCRD発症率は約C1割程度減少したとする報告がある7).一方で,臓器移植後のCCMV網膜炎におけるCRD発症率は約半数と報告されており8),今回の検討では,全C10例のうちCAIDS患者がC1例のみであったため,RD発症率が既報と比べて高くなった可能性がある.また,RDを契機に紹介されたCCMV網膜炎の1例を含め,初診時にすでにCRDを認めた症例がC2例含まれることも,RDの発症率が高かった原因と考えられる.網膜炎の鎮静化後に,萎縮した壊死部網膜と健常網膜の境界の網膜硝子体界面に高率にCERMを認めると報告されている9).同報告では,非活動期のCCMV網膜炎の約C9割の症例で壊死部網膜と健常網膜の境界にCERMが認められた.本検討においても,3例で同部位にCERMを認めた.残りのC3例は,壊死部網膜と健常網膜の境界部を光干渉断層計で撮影していなかった.ERMを認めたC2例と,その他のC1例で壊死部網膜と健常網膜の境界付近に原因裂孔を認めた.このこと症例2症例4図1壊死部網膜と健常網膜の境界に認めたERMのOCT所見周術期のCswept-sourceOCT所見.菲薄化した壊死部網膜と健常網膜の境界にCERM(.)を認める.からも,CMV網膜炎において壊死部網膜と健常網膜の境界でCERMが形成され,その収縮により網膜裂孔が生じ,RDの原因となっている可能性が示唆された.近年,血液腫瘍や臓器移植後に対する抗がん剤や免疫抑制薬による治療後に,免疫能が回復してくる時期に生じる免疫回復ぶどう膜炎(immuneCrecoveryuveitis:IRU)を合併したCCMV網膜炎の重要性が増している.IRUを伴うCCMV網膜炎では,ERM形成のリスクが増加することが報告されており10),RDの発症率が高くなっている一要因と考えられる.CMV網膜炎の病変の大きさがC10%大きくなるとCRD発症率が約C2倍に増加し3),全網膜のC50%以上の症例ではCRD治療後の復位率が有意に低いと報告されている4).本検討においても,シリコーンオイルの留置なしで網膜の復位を得ている症例は,いずれも網膜炎の大きさC25%未満の症例であり,その他の症例はすべてシリコーンオイルを留置する結果となった.すなわち,進行したCCMV網膜炎に伴うCRDは難治であるため,CMV網膜炎の早期診断と治療開始により網膜炎の進展を制御することで,RDの発症ならびに治療予後を改善する可能性がある.CIV結語CMV網膜炎に伴うCRDは視力予後が不良であり,重篤な視機能障害の原因となる.CMV網膜炎は,その進行度がRD発症,ならびに視力予後とかかわっている可能性があるため,視力予後改善のためには早期診断,治療開始が重要である.文献1)芹澤元子,國重智之,伊藤由起子ほか:日本医科大学付属病院眼科におけるC8年間の内眼炎患者の統計的観察.日眼会誌C119:347-353,C20152)高本光子:サイトメガロウイルスぶどう膜炎.臨眼C66:C111-117,C20123)YenM,ChenJ,AusayakhunSetal:RetinaldetachmentassociatedCwithCAIDS-relatedCcytomegalovirusretinitis:CriskCfactorsCinCaCresource-limitedCsetting.CAmCJCOphthal-molC159:185-192,C20154)WongCJX,CWongCEP,CTeohCSCCetal:OutcomesCofCcyto-megalovirusCretinitis-relatedCretinalCdetachmentCsurgeryCinCacquiredCimmunode.ciencyCsyndromeCpatientsCinCanCAsianpopulation.BMCOphthalmolC14:150,C20145)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handCmotion”and“countingC.ngers”canCbeCquanti-.edCwithCtheCFreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20166)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科C32:699-703,C20157)JabsDA:AIDSCandCophthalmology,C2008.CArchCOphthal-molC126:1143-1146,C20088)WagleCAM,CBiswasCJ,CGopalCLCetal:ClinicalCpro.leCandCimmunologicalCstatusCofCcytomegalovirusCretinitisCafterCtransplantation.TransplInfectDisC10:3-18,C20089)BrarCM,CKozakCI,CFreemanCWRCetal:VitreoretinalCinter-faceabnormalitiesinhealedcytomegalovirusretinitis.Ret-inaC30:1262-1266,C201010)KaravellasCMP,CSongCM,CMacdonaldCJCCetal:Long-termCposteriorCandCanteriorCsegmentCcomplicationsCofCimmuneCrecoveryuveitisassociatedwithcytomegalovirusretinitis.AmJOphthalmolC130:57-64,C2000***