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線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対し レバミピド点眼が著効した1 例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1587.1590,2023c線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対しレバミピド点眼が著効した1例大田啓貴*1近間泰一郎*2木内良明*2*1広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofFilamentaryKeratitisafterTrabeculectomyinwhichTopicalRebamipidewasE.ectiveHirokiOta1),TaiichiroChikama2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC背景:糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)は,角膜表面に糸状物を形成する慢性,再発性の角膜疾患であり,さまざまな眼表面の病態や疾患に関連して生じる.今回,線維柱帯切除術後眼に生じたCFKに対し,レバミピド点眼(RM)が著効した症例を報告する.症例:82歳,女性.複数回の線維柱帯切除術施行後,左眼に異物感が出現しCFKがみられたことから,0.1%フルオロメトロン点眼を行った.1カ月後に,重度の点状表層角膜症(SPK)も生じたことから,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合人工涙液点眼の適時使用を行った.SPKの改善はみられたが,FKの改善に乏しいため,RM単独で加療したところ,1カ月でCFKならびにCSPKは消失し,著しい改善が得られた.考察:本症例ではマイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCoverhangingblebによる眼表面の摩擦亢進がみられた.RMで,角膜ムチン産生を促進し,眼表面の摩擦を低下させ,眼表面の涙液が安定したことが著効した原因と考えている.CBackground:Filamentarykeratitis(FK)C,achronicrecurrentcornealdiseasethatforms.lamentsonthecor-nealsurface,isassociatedwithvariousocularsurfacedisorders.HereinwereportacaseofFKaftertrabeculecto-myCsurgeryCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCwithCtopicalCrebamipide.CCase:AnC82-year-oldCfemaleCinCwhomCFKCdevelopedCinCherCleftCeyeCafterCmultipleCtrabeculectomyCsurgery,CunderwentCsurgicalCremovalCofCcornealC.lamentsandadministrationof0.1%.uorometholoneeyedrops.At1-monthpostoperative,severesuper.cialpunctatekera-topathy(SPK)developed,CsoCallCmedicationsCwereCdiscontinuedCandCaCcombinedCtreatmentCofCboricCacidCandCinor-ganicsaltswasadministered.AfterSPKimproved,rebamipidealonewasadministeredtotreatthepersistentFK,whichCwasCmarkedlyCimprovedCatC1Cmonth.CConclusions:InCcasesCofCFK,CadministrationCofCrebamipideCpromotesCcornealmucinproduction,reducesfrictionontheocularsurface,andstabilizestear.uidontheocularsurface,thusresultinginmarkedimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1587.1590,C2023〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド,線維柱帯切除術,ドライアイ..lamentarykeratitis,rebamipide,trabecu-lectomy,dryeye.Cはじめに糸状角膜炎Cfilamentarykeratitis(FK)は,角膜表面に連なる糸状の構造物からなる慢性,再発性の角膜疾患である.FKの発症には,さまざまな眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与しており,そのメカニズムはいまだ明確にされていない.一般的にはドライアイが多くの症例で合併しているが,そのほかの基礎疾患として,上輪部角結膜炎などの眼表面疾患,各種眼手術後,糖尿病などの全身疾患,プロスタグランジン関連薬などの点眼薬,眼瞼下垂などがある1,2).FKにおける角膜糸状物は瞬目により牽引され,角膜の知覚神経が刺〔別刷請求先〕大田啓貴:〒722-8508広島県尾道市平原C1-10-23広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院Reprintrequests:OtaHiroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeberalHospital,1-10-23,CHirahara,Onomichi-shi,Hiroshima722-8508,JAPANC激されることで,強い異物感などの症状の原因となる3).FKの治療は,角膜糸状物を物理的に除去するだけでは再発を繰り返すため,完治をめざすためには発症に関与する原因疾患を治療する必要がある.保存的な治療としては,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼や,低力価副腎皮質ステロイド点眼,治療用ソフトコンタクトレンズの装着が知られている4.6).このように,さまざまな治療が行われるものの,満足いく効果が得られないことが多い疾患である.今回,線維柱帯切除術後眼に生じた難治性のCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCUD点眼液C2%CR,大塚製薬)が著効した症例を経験したので報告する.CI症例82歳,女性.両眼緑内障に対し,右眼はチューブシャント手術と線維柱体切除術を施行され,左眼は線維柱帯切除術や濾過法再建術を計C4回施行された.2019年C4月頃から左眼異物感があった.両眼前眼部所見では,マイボーム腺機能不全があり,涙液メニスカス高(tearCmeniscusheight:TMH)はCnormal,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-uptime:BUT)はC5秒以下だった.右眼はC11時方向にCblebがみられた.左眼はC2時,10時方向にCoverhangingblebがみられた.左眼異物感の症状は,overhangingblebによる合併症と考えられ,摩擦緩和目的にオフロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏,参天製薬)を開始した(図1a,b).眼軟膏開始後は自覚症状の改善がみられたが,2カ月経過時点で症状が再発した.症状緩和のため,同年C9月にジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス点眼液C3%,参天製薬)を追加したところ,同年C11月に糸状角膜炎が出現した(図1c,d).ジクアホソルナトリウム点眼が要因と考えられ,ジクアホソルナトリウム点眼を中止しレバミピド懸濁点眼液をC1日C4回で開始したところ,2020年C1月には自覚症状が改善して,FKは消失した.その後,レバミピド懸濁点眼液は自己中断していたが,角膜は寛解状態を保っていた.2021年C4月に左眼眼圧がC14CmmHgまで上昇したため,タフルプロスト点眼(タプロス点眼,参天製薬)を開始した.タフルプロスト点眼開始後,左眼異物感が生じ,眼球上方結膜の充血や上皮障害がみられた.レバミピド懸濁点眼液を再開したが,自覚症状や所見の改善はなく,上輪部角結膜炎の発症と考え,0.1%フルオロメトロン点眼液(フルメトロン点眼液C0.1%,参天製薬)を開始した.しかし,0.1%フルオロメトロン点眼開始C1カ月後に左眼異物感症状の悪化があり,左眼でびまん性に点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)とCFKの散在がみられた(図1e).中毒性角膜症の発症と考え,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合剤液(人工涙液マイティア点眼液,千寿製薬)を開始したが,点眼アドヒアランスの不良もあり,改善に乏しく,FKに対して糸状物除去術を施行しつつ,経過観察を行った(図1f).2022年C3月には,左眼眼圧がC18CmmHgまで上昇したため,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行した.レボフロキサシン点眼液(クラビット点眼液C0.5%,参天製薬)とC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C3回でC1週間点眼したが,所見の悪化はなかった.2022年C5月にはSPKの一定の改善がみられ,眼表面の状態は薬剤毒性が解消され,ドライアイに伴うCSPKと糸状角膜炎のみになったと判断したことから,レバミピド懸濁点眼液をC1日C2回で開始したところ,2022年C6月にはCSPKとCFKは消失し,自覚症状は改善した(図1g,h).その後,眼圧コントロールは良好で,自覚症状は落ち着いており,FKの再発もみられていない.CII考察糸状物の構造は,ムチンと変性した角膜上皮細胞により構成されている.角膜上皮障害が原因となり上皮細胞の成分周囲にムチンが絡みつき,瞬目による摩擦ストレスで基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成される7).FKは,多様な疾患背景のもとに生じるために,対症的な治療が行われることが多いが,完治をめざすためには所見から病態を理解して治療方針を考慮する必要がある.本症例は,両眼で線維柱体切除術を施行し,右眼は経過中にラタノプラスト(キサラタン点眼液C0.005%,ヴィアトリス製薬)やブリモニジン酒石酸塩液(アイファガン点眼液C0.1%,千寿製薬)を点眼し,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行後したが,異物感の症状やCFKの発症はなかった.左眼は複数回の線維柱帯切除術後で,bleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足をきたしていると考えた.マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCblebによる角膜表面の摩擦亢進もあった.ドライアイによる異物感の症状に対しジクアホソルナトリウム点眼を開始したが,ジクアホソルナトリウム点眼は杯細胞からのムチン分泌を促し,ムチン/水分比の増加や涙液の粘性の増加を促すことで,結果的に摩擦亢進を引き起こし,糸状物が形成される可能性があると考えられている8).本症例でもジクアホソルナトリウム点眼を使用した際にCFKの発症を招いた.本来摩擦を生じない間隙(Kessingspace)9)がCoverhangingblebによって狭められ,瞬目摩擦が亢進した場合もしくはCbleb周囲に異所性涙液メニスカスが形成され,meniscus-inducedCthin-ningが起こった場合10),bleb周囲に優位にCFKを発症すると考えられる.しかし,本症例では当初角膜耳側の中央から下方優位に糸状物がみられた.10時方向よりもC2時方向のblebの丈が高いことから,耳側で摩擦亢進が強くなったと推測した.また,ドライアイによる涙液安定性の低下が背景にあり,摩擦亢進と強く相互作用する場所が角膜耳側の中央図1本症例の前眼部所見とその経時的変化a,b:2時,10時方向にCoverhangingblebがある.Cc,d:ジクアホソルナトリウム点眼投与後,耳側優位に角膜糸状物が発症している.Ce:0.1%フルオロメトロン点眼後,角膜ほぼ全面にCSPKと糸状角膜炎がある.中毒性角膜症と考え,全点眼中止し,人工涙液マイティアR投与開始した.f:人工涙液マイティアR投与C2週目.改善に乏しく,マイボーム腺機能不全による影響が考えられたため,ホットパックを併用開始した.Cg:人工涙液マイティア投与C21週目.一定の改善がある.従来のドライアイによる点状表層角膜症(SPK)や糸状角膜炎(FK)と考え,レバミピド懸濁点眼液投与開始した.h:レバミピド懸濁点眼液投与C5週目,SPKと糸状角膜炎はほぼ消失している.から下方であったことから,FKが下方に優位にみられたのから糸状角膜炎が再発した.結膜充血や点状の結膜上皮障害ではないかと考えているが,FKの発症部位に関しては今後があり,上輪部角結膜炎の発症を確認したため,炎症性変化さらなる検討が必要である.レバミピド懸濁点眼液でいったに対しC0.1%フルオロメトロン点眼を開始した.しかし,0.1んはCFKの寛解状態にあったが,タフルプロスト点眼開始後%フルオロメトロン点眼により角膜上皮細胞の増殖が抑制され,中毒性角膜症を引き起こしたと推察した.ホウ酸・無機塩類配合剤液で薬剤毒性を解消し,SPKの改善を試みたが,マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCbleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足,また点眼アドヒアランスの不良もあり改善に時間を要したと考えられる.薬剤毒性が解消された後に,遷延するCSPKやCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液単剤投与を行ったところ,著明に改善した.FKは,眼表面摩擦の亢進が要因となることが報告されている11).本症例は,左眼でCoverhangingblebによる眼表面摩擦の亢進もあった.レバミピド懸濁点眼液は,結膜杯細胞の増加作用や,角膜上皮での膜結合型ムチンの増加作用,角膜上皮創傷治癒促進作用,眼表面摩擦の軽減作用などが報告されている12.14).本症例では,すべての点眼薬の影響をいったん排除した後に,レバミピド懸濁点眼液によりムチン産生を促進し,眼表面の涙液を安定させ,眼表面の摩擦を低下させたことが糸状角膜炎に著効した原因ではないかと考えている.今回の症例では,緑内障点眼を再開することなく眼圧を保つことができている.しかし,緑内障点眼薬の多剤併用時に生じるCFKに対するレバミピド懸濁点眼液投与の有効性については,今後の検討課題である.文献1)KinoshitaCS,CYokoiN:FilamentaryCkeratitis.CtheCcornea,Cfourthedition(FosterCCS,CAzarCDT,CDohlmanCCHeds)C,Cp687-692,Philadelphia,20052)DavidsonCRS,CMannisMJ:FilamentaryCkeratitis.CtheCcor-nea,secondedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmolC93:466-469,C19824)AlbietsCJ,CSan.lippoCP,CTroutbeckCRCetal:ManagementCofC.lamentaryCkeratitisCassociatedCwithCaqueous-de.cientCdryeye.OptomVisSciC80:420-430,C20035)MarshCP,CP.ugfelderSC:TopicalCnonpreservedCmethyl-prednisoloneCtherapyCforCkeratoconjunctivitisCsiccaCinCSjogrensyndrome.OphthalmologyC106:811-816,C19996)Bloom.eldSE,GassetAR,ForstotSLetal:Treatmentof.lamentarykeratitiswiththesoftcontactlens.AmJOph-thalmolC76:978-980,C19737)TaniokaCH,CFukudaCK,CKomuroCACetal:InvestigationCofCcornealC.lamentCinC.lamentaryCkeratitis.CInvestCOphthal-molVisSciC50:3696-3702,C20098)青木崇倫,横井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C20199)KnopCE,CKnopCN,CZhivovCACetal:TheClidCwiperCandCmuco-cutaneousCjunctionCanatomyCofCtheChumanCeyelidmargins:anCinCvivoCconfocalCandChistologicalCstudy.CJAnatC218:449-461,C201110)横井則彦:涙液メニスカスの観察.ドライアイ診療CPPP(ドライアイ研究会),p25-27,メジカルビュー社,200211)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌C115:693-698,C201112)UrashimaCH,COkamotoCT,CTakejiCYCetal:RebamipideCincreasesCtheCamountCofCmucin-likeCsubstancesConCtheCconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.CorneaC23:613-619,C200413)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreas-esCtheCmucin-likeCglycoproteinCproductionCinCcornealCepi-thelialcells.JOculPharmacolTherC28:259-263,C201214)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の中期成績 ─経過眼圧と視野変化

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):950.957,2023c原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の中期成績─経過眼圧と視野変化柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CMid-termOutcomesofTrabeculectomyforPrimaryOpenangleGlaucoma-Follow-upIntraocularPressureandVisualFieldChangesMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後の経過眼圧と視野進行抑制効果について検討する.対象および方法:2012.2016年に永田眼科で原発開放隅角緑内障に対して線維柱帯切除術後を施行したC92眼のうち,術後C2年以上経過観察し,術前後にCHumphrey視野をC3回以上施行した症例で経過中水疱性角膜症,加齢黄斑変性の発症,追加緑内障手術を施行した症例を除くC26眼を対象とした.経過眼圧C12CmmHg以下群(15眼)とC12CmmHg超過群(11眼)で術前後CMDスロープを後ろ向きに比較検討した.結果:経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群の平均術後観察期間はそれぞれC60.4,68.7カ月,両群とも術後有意な眼圧下降を認め,経過中の平均眼圧下降率はそれぞれC46.9,44.0%であった.術前後CMDスロープ比較において,12CmmHg以下群ではC30-2,10-2視野とも術後有意に改善したが,12CmmHg超過群ではC30-2視野で統計的有意な改善がなかった.術前後視力比較でC12CmmHg以下群では中心視野障害の強い症例で視力低下傾向があった.結論:経過眼圧C12CmmHg以下群で術後CMDスロープは有意に改善したが,視力低下の傾向があった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCfollow-upCintraocularpressure(IOP)andCtheCe.cacyCofCtheCsuppressionCofCtheCdeteriorationCofCvisual.eld(VF)postCtrabeculectomyCforCprimaryCopenangleCglaucoma(POAG).CSubjectsandmethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofCPOAGCpatientsCwhoCunderwentCtrabeculectomyCbetweenCJanuaryC2012CandCDecemberC2016CatCNagataCEyeCClinicCandCwhoCcouldCbeCobservedCforCmoreCthanC2-yearspostoperativewithmorethan3reliablepre-andpostoperativeVFs.WeexcludedpatientswhodevelopedblurredCkeratoconus,Cage-relatedCmacularCdegeneration,CorCunderwentCadditionalCglaucomaCsurgeryCduringCtheCcourseofthestudy.Analyzedwere26eyes(Group1:15eyeswithanIOPof≦12mmHg;Group2:11eyeswithanCIOPCof>12CmmHg).CPre-andCpostoperativeCIOP,CglaucomaCmedications,Cmeandeviation(MD),CMDCslope,Candvisualacuity(VA)wasinvestigatedandcomparedbetweenthetwogroups.Results:InGroup1andGroup2,themeanCpostoperativeCfollow-upCperiodCwasC68.7CandC60.4Cmonths,Crespectively,CandCtheCmeanCpostoperativeCIOPCreductionCrateCwas44.0%Cand46.9%,Crespectively,CthusCshowingCsigni.cantCIOPCreductionCpostCsurgeryCinCbothCgroups.CInCtheCpre-andCpostoperativeCMDCslopeCcomparisons,CthereCwasCsigni.cantCpostoperativeCMDCslopeCimprovementinboththe30-2and10-2VFtestinGroup1,buttherewasnostatisticallysigni.cantimprovementinCtheC30-2CVFCtestCinCGroupC2.CInCtheCpre-andCpostoperativeCVACcomparisons,CVACtendedCtoCdecreaseCinCtheCpatientswithcentralVFdefectsinGroup1.Conclusions:Therewasasigni.cantimprovementinthepostopera-tiveMDslopeinGroup1,butVAtendedtodecreaseinthepatientswithcentralVFdefects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):950.957,C2023〕Keywords:線維柱帯切除術,MDスロープ,眼圧.trabeculectomy,meandeviationslope,intraocularpressure.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC950(102)はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)は優れた眼圧下降効果とともに,視野障害の進行を緩徐化することが多数報告1.5)されている.緑内障治療の目的は眼圧を十分に下降させ進行を遅延もしくは抑制することにあるが,病期や病型に応じて目標眼圧は異なり,進行した緑内障では目標眼圧をより低く設定する必要がある.AdvancedGlaucomaInterven-tionCStudy6)では,進行した開放隅角緑内障に対する治療後非進行群の平均眼圧はC12.3CmmHgであったと報告されている.今回,LET後の経過眼圧による視野進行の違いを検討するため,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)に対するCLET後の,経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群における視野進行抑制効果について後ろ向きに比較検討した.CI対象および方法2012年C1月.2016年C12月に永田眼科において,POAGに対しCLETを施行した連続症例C92眼のうち,術後C2年以上経過観察し,術前後にCHumphrey視野検査CSITA-stan-dard30-2もしくは10-2を信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できた症例で,経過中に視力や視野に影響のあった症例(水疱性角膜症・加齢黄斑変性症発症眼,追加緑内障手術施行眼)を除いたC26眼を対象とした.26眼について診療録から後ろ向きに,術前後の眼圧,緑内障治療薬数,Humphrey視野Cmeandeviation(MD)値,MDスロープ,目標眼圧をC12mmHg以下としたC6年生存率を検討した.さらにC26眼を経過眼圧によりC2群に分け,経過中の観察時点でC2回連続して12CmmHgを超えない群を「経過眼圧C12CmmHg以下群」,12mmHgを超える群を「12CmmHg超過群」とした.このC2群間で術前後の眼圧,緑内障治療薬数,眼圧下降率,MDスロープ,視力変化を比較検討した.LETの術式を以下に示す.上方円蓋部基底結膜切開後,C3.5Cmm×3.5mmの外層強膜弁(1/3層強膜)を作製した.0.04%マイトマイシンCCをC4分塗布し生理食塩水で洗浄後,強膜床にC3.5CmmC×2.5Cmmの内層強膜弁を作製し切除,強角膜切除窓を作製し周辺虹彩切除後,強膜弁をC2.4針縫合,結膜を角膜輪部で水平縫合し閉創した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36,42,48,54,60,66,72カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,12CmmHg以下C6年生存率,眼圧下降率,術前後のCMD値とCMDスロープ,logMAR視力とした.緑内障治療薬数は,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を薬剤スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でC12CmmHgを超えた時点とした.術後のレーザー切糸とニードリングは死亡に含めず,眼圧値は処置前の値を採用した.解析方法として,術後眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較による検定を行い,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群における患者背景の群間比較にはCt検定,Fisherの直接確立計算法を用い,群間の眼圧・薬剤スコア・眼圧下降率経過の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.術前後CMDスロープ,logMAR視力の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,診療録を用いた侵襲を伴わない後ろ向き研究のためインフォームド・コンセントはオプトアウトによって取得され,永田眼科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号C2021-005).CII結果表1に全症例C26眼の患者背景を示す.平均年齢はC64.8C±13.1歳,術前平均薬剤スコアC3.7C±1.0による術前平均眼圧はC21.9C±6.6CmmHg,術前平均CMD値はCHumphrey30-2でC.19.2±7.3dB,術前後観察期間はそれぞれC86.7C±77.4カ月,C63.9±12.9カ月(すべて平均C±標準偏差)であった.26眼中,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)眼をC15眼含み,手術既往のなかった症例はC2眼であり,他は白内障もしくは緑内障手術既往眼であった.図1にC26眼の眼圧,薬剤スコア経過を示す.術C6年後の平均眼圧はC12.4C±6.8CmmHg,平均薬剤スコアはC0.8C±1.5であり,眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に減少した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2にCKaplan-Meier生命表解析を用いた生存曲線を示す.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C6年後の生存率は46.3%であった.表2にC26眼における術前後CMDスロープ比較を示す.CHumphrey30-2(14眼)において平均CMDスロープ値は術前.1.24±1.6から術後C.0.07±0.51CdB/年,10-2(17眼)において術前.1.76±1.7から術後C.0.19±0.38CdB/年となり,術後有意にCMDスロープが改善した(p<0.05,CpairedCttest).表3にC26眼を経過眼圧によりC2群に分けたC12CmmHg以下群C15眼と超過群C11眼の患者背景を示す.術前眼圧に群間で有意差があったが,その他年齢,術前薬剤スコア,MD値,術前後観察期間,IOL眼の割合,手術歴に有意差はなかった.観察期間中にニードリングを必要とした症例の割合に2群で有意差があった.図3にC12CmmHg以下群と超過群の眼圧経過を示す.両群ともすべての観察期間で術後有意に下降し(p<0.01,表1患者背景眼数26眼年齢C64.8±13.1歳(C37.C83歳)男:女17:9術前眼圧C21.9±6.6CmmHg(1C3.C40mmHg)術前薬剤スコアC3.7±1.0(2.5)術前MD3C0-2(n)C.19.2±7.3CdB(C.0.62.C.31.94dB)(2C2眼)10-2(Cn)C.26.1±7.9CdB(C.1.15.C.33.98dB)(2C0眼)術前観察期間C86.7±77.4カ月(1C4.C263カ月)術後観察期間C63.9±12.9カ月(3C6.C72カ月)IOL:aphakia:phakia15:1:1C0眼白内障・緑内障手術歴なし2眼緑内障手術既往(重複あり)LOT21眼CLET5眼(range)(mean±SD)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.MD:meandeviation,IOL:眼内レンズ挿入眼,aphakia:無水晶体眼,phakia:有水晶体眼,LOT:トラベクロトミー,LET:トラベクレクトミー.薬剤スコア眼圧(mmHg)3020100pre1122436486072(mean±SD)6420(mean±SD)観察期間(月)眼数262626262626262626232323231915図1眼圧・薬剤スコア経過眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に減少した(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C100ANOVA+Dunnett’stest),経過眼圧C12CmmHg以下群の経過中平均眼圧はC9.2CmmHg,超過群ではC14.2CmmHgであっC806046.3%4020001020304050607080生存期間(月)図212mmHg以下6年生存率12CmmHg以下C6年生存率はC46.3%であった.生存率(%)た.図4に薬剤スコアの経過を示す.両群ともすべての観察期間で術後有意に減少した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest)が,経過には群間で差があり(p<0.001,two-wayANOVA),12CmmHg以下群は有意に経過中点眼数が少なかった.図5に眼圧下降率の経過を示す.両群の眼圧下降率に有意差はなく(p=0.13,two-wayANOVA),12CmmHg以下群の経過中平均眼圧下降率はC46.9%,超過群ではC44.0%であ表2術前後MDスロープ術前視野術後視野術前(dB/年)術後(dB/年)p値観察期間(月)観察期間(月)*C115±95C57±1530-214眼C.1.24±1.6C.0.07±0.51C0.019(8.95)(36.87)*C87±71C56±2010-217眼C.1.76±1.7C.0.19±0.38C0.0005(20.235)(15.84)*:pairedttest(meanC±SD)(range)表3患者背景(12mmHg以下群と超過群)12mmHg以下12mmHg超過p値眼数15眼11眼年齢C69.0±10.3歳C59.2±14.8歳C0.06*男:女9:78:3C0.38+術前眼圧C18.5±3.9CmmHgC26.6±6.5CmmHgC0.0005*術前薬剤スコアC3.5±0.9C4.0±1.0C0.18*術前MD3C0-2(n)C.20.1±4.7CdB(1C3dB)C.17.8±10.1CdB(9dB)C0.16*10-2(Cn)C.26.5±5.4CdB(1C3dB)C.25.4±11.2CdB(7dB)C0.82*術前観察期間C96.2±76.8カ月C73.9±80.2カ月C0.48*術後観察期間C60.4±15.8カ月C68.7±4.9カ月C0.07*IOL:aphakia:phakia9:0:6眼6:1:4眼C0.49+白内障・緑内障手術歴なし2眼0眼C0.21+緑内障手術既往(重複あり)LOT12眼8眼CLET2眼3眼ニードリング1眼7眼C0.002+*:t-test,+:Fisher’sexacttest(meanC±SD)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.MD:meandeviation,IOL:眼内レンズ挿入眼,aphakia:無水晶体眼,phakia:有水晶体眼,LOT:トラベクロトミー,LET:トラベクレクトミー.C26.6±6.53025201535+1059.9±2.90pre1361218243036424854606672(mean±SD)観察期間(月)眼圧(mmHg)12mmHg以下1515151515151515151212121210812mmHg超過1111111111111111111111111197図3眼圧経過両群とも術後有意に下降したが(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),眼圧経過には有意差があった(+p<0.001,twowayANOVA).経過眼圧C12CmmHg以下群の経過中平均眼圧はC9.2CmmHg,超過群ではC14.2CmmHgであった.65432薬剤スコア1.3±1.9+0.4±1.110観察期間(月)図4薬剤スコア経過両眼とも術後スコアは有意に減少した(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest)が,経過には有意差があった(+p<0.001,twowayANOVA).C51.8±4.36050403020100眼圧下降率(%)NS1361218243036424854606672(mean±SE)観察期間(月)図5眼圧下降率経過両群の眼圧下降率に有意差はなく(p=0.13,twowayANOVA),12CmmHg以下群の経過中平均眼圧下降率はC46.9%,超過群ではC44.0%であった.った.図6に術前後CMDスロープの散布図と平均値比較を示す.CHumphrey30-2(図6a)において,平均CMDスロープ値は12mmHg以下群で術前C.1.03±1.10から術後C.0.03±0.47dB/年に有意に改善した(p=0.04,pairedCttest)が,超過群では術後統計的に有意な改善がなかった(p=0.11,pairedttest).術前後の視野観察期間に群間で有意差はなかった(術前,術後それぞれCp=0.19,0.38,ttest).Humphrey10-2(図6b)において,12CmmHg以下群,超過群とも術後有意にCMDスロープが改善した(それぞれCp=0.003,0.002,CpairedCttest).術前後の視野観察期間に群間で有意差はなかった(術前,術後それぞれCp=0.98,0.54,ttest).図7に術前後ClogMAR視力の散布図と平均値比較を示す.12CmmHg以下群では術前後でClogMAR視力値に有意差があり(p=0.04,pairedCttest),術後視力低下傾向であった.超過群では術前後で有意差がなかった(p=0.31,pairedCttest).白内障進行による視力低下例を各群にC1眼ずつ認めた.両群の術後観察期間に有意差はなかった(p=0.17,ttest).12CmmHg以下群においてClogMAR値の差がC0.2より大きく悪化を示した症例は,術前強度近視眼(術前CHum-phrey10-2:C.31.32CdB,経過中平均眼圧:8.8CmmHg),術前中心視野障害例C2例(術前CHumphrey10-2:それぞれC.29.89CdB,C.30.31dB,経過中平均眼圧:それぞれC10.9mmHg,8.4CmmHg),または術後低眼圧黄斑症(経過中平均眼圧:7.1mmHg)であった.CIII考按POAGに対するCLET後の視野進行抑制効果について経過a:30-222術後MDslope(dB/年)術前(dBC/年)術後(dBC/年)p値術前視野観察期間(月)術後視野観察期間(月)12CmmHg以下群6眼C.1.03±1.10C.0.03±0.47C0.04*C154±92(50.2C63)C53±15(36.73)12CmmHg超過群8眼C.1.40±2.03C.0.10±0.57C0.11*C87±91(8.2C13)C60±16(36.87)*:pairedttest(meanC±SD)(range)b:10-22術後MDslope(dB/年)術前視野術後視野術前(dB/年)術後(dB/年)p値観察期間(月)観察期間(月)0.003*C86±69C53±2112CmmHg以下群11眼C.2.26±1.87C.0.25±0.33(20.234)(15.80)C0.002*C87±79C56±1912mmHg超過群6眼C.0.85±0.39C.0.07±0.47(22.235)(40.84)*:pairedttest(meanC±SD)(range)図6術前後MDスロープa:Humphrey30-2において,12CmmHg以下群では術後有意にCMDスロープが改善したが,超過群では統計的有意な改善がなかった.b:Humphrey10-2において,12CmmHg以下群,超過群とも術後有意にCMDスロープが改善した.術前logMAR視力術前術後p値術後視野観察期間(月)12CmmHg以下群C0.18±0.3C0.37±0.5C0.04*C54±1912CmmHg超過群C0.52±0.6C0.58±0.6C0.31*C64±16*:pairedttest(meanC±SD)(mean±SD)図7術前後logMAR視力12CmmHg以下群では術前後でClogMAR視力値に有意差があった.白内障進行による視力低下例(丸で囲む)を各群にC1眼ずつ認めた.眼圧C12CmmHg以下群と超過群で後ろ向きに比較検討した.今回対象となった症例群C26眼全体では,平均眼圧は術前C21.9±6.6CmmHgからC6年後にC12.4C±6.8CmmHgと有意に下降し,12CmmHg以下C6年生存率はC46.3%,術前後CMDスロープ比較ではCHumphrey30-2で術前C.1.24±1.6dB/年から術後.0.07±0.51CdB/年と術後有意なCMDスロープの改善があり,これらは既報1.5)の術後成績と同等であった.しかし,経過眼圧C12CmmHg以下群C15眼と超過群C11眼で視野進行抑制効果を比較検討すると,12CmmHg以下群(経過中平均眼圧C9.4CmmHg)ではCHumphrey30-2,10-2とも術後有意なMDスロープの改善があったのに対し,超過群(経過中平均眼圧C14.2CmmHg)では,Humphrey30-2で術後有意なCMDスロープの改善がなかった.開放隅角緑内障に対する眼圧管理の重要性を示した多施設共同臨床試験の一つCAdvancedCGlaucomaCInterventionCStudy6)では,進行した開放隅角緑内障に対する治療後非進行群の平均眼圧はC12.3CmmHg,進行群の平均眼圧はC14.7CmmHgもしくはそれ以上であったと報告されている.今回の研究では経過眼圧C12CmmHg以下群で術後CHumphrey30-2の変化がC.0.03±0.47CdB/年とほぼ非進行であり,経過眼圧C12CmmHg超過群では術後CMDスロープの有意な改善が得られなかったことから,今回の結果はこれと矛盾しないものと考えられた.一方CHumphrey10-2においては,経過眼圧C12CmmHg以下群も超過群も術後中心視野が維持された結果となった.中心視野,とくに耳側傍中心視野は緑内障性視野障害が進行しても保たれやすいという報告2,7,8)があり,これは視神経乳頭や乳頭黄斑線維束,黄斑部の組織的構造的特徴によるものである可能性もあるが,今回の検討は中期経過による結果のため長期経過の検討が必要と考える.今回の症例群には緑内障手術・白内障手術既往眼を含み,視野進行抑制効果の評価方法として術前後のCMDスロープを使ったトレンド解析で比較したが,既報6)と矛盾のない結果が得られた.これらのことから,進行したPOAGではC12CmmHg以下の眼圧を目標として治療することが望ましいことが示されたと考える.術後視力変化の比較では,経過眼圧C12CmmHg以下群は超過群に比較し,低下傾向であった.LET後の視力低下に関する報告は少なくない.海外の報告9.11)では術後視力低下症例は術前中心視野障害例や合併症症例であったと報告されている.わが国の全国濾過胞感染調査のデータを用いたKashiwagiら12)の報告でも,術前の視野障害末期例や術後合併症発症例が視力低下と関連するとされている.LET後の視力変化について病型別に評価した庄司13)の報告でも,POAGにおいてCLET後視力不良例は術前の視機能(Hum-phrey10-2のCMD値)が低く,術後脈絡膜.離の割合が高かったと報告されている.今回の研究では術前中心視野障害例や術後低眼圧遷延症例で術後視力低下傾向を認めたことから,これは既報9.13)と矛盾のない結果と考えられた.一方経過眼圧C12CmmHg超過群で術後統計的に有意な視力低下を認めなかったことについて,信頼性のある視野検査結果が施行可能であった症例群ではあるもの,術前からClogMAR値C1.0を超える視力障害例を含むため,術後視力低下の評価に反映されにくかった可能性もあると考えられた.今回の症例群では,経過眼圧C12CmmHg以下群と比較し超過群で術前眼圧が有意に高く,術後ニードリングを必要とした症例の割合が有意に高かったが,わが国の全国濾過胞感染調査のデータを用いたCSugimotoら14)の報告において,ニードリングと術前高眼圧は濾過手術の不成功因子であると報告され,これと矛盾のない結果と考えられた.経過中の晩期合併症として,経過眼圧C12CmmHg以下群に濾過胞からの房水漏出をC2眼に認めたが,濾過胞感染はなく結膜縫合のみ施行した.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,対象が少数例で術後中期経過であることから,今後多数例,長期での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にCHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できた症例ついて検討したが,当院における初回視野検査結果を含むことから,術前CMDスロープの結果に学習効果の影響があり,視野進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告15)があり,視野進行判定が不十分であった可能性がある.また,術後視力変化の検討において,LET後の視力低下には術前CHumphrey視野C10-2の中心窩閾値が関連することが報告13)されており,今回の研究では未測定であったことから今後の検討項目にする必要があると考える.今回の検討の結果,POAGに対するCLET後の中期経過において,経過眼圧C12CmHg以下群では超過群に比較し術後MDスロープの有意な改善を認め,進行したCPOAGに対する術後目標眼圧はC12CmmHg以下が望ましいことが示唆された.また,視野進行抑制効果の一方で,術前中心視野障害の強い症例や術後低眼圧遷延症例では術後視力低下傾向があることが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BertrandCV,CFieuwsCS,CStalmansCICetal:RatesCofCvisualC.eldClossCbeforeCandCafterCtrabeculectomy.CActaCOphthal-molC92:116-120,C20142)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C20023)CaprioliJ,DeLeonJM,AzarbodPetal:TrabeculectomycanCimproveClong-termCvisualCfunctionCinCglaucoma.COph-thalmologyC123:117-128,C20164)JunoyCMontolioCFG,CMuskensCRPHM,CJansoniusNM:CIn.uenceofglaucomasurgeryonvisualfunction:aclini-calcohortstudyandmeta-analysis.ActaOphthalmolC97:C193-199,C20195)FujitaCA,CSakataCR,CUedaCKCetal:EvaluationCofCfornix-basedCtrabeculectomyCoutcomesCinCJapaneseCglaucomaCpatientsCbasedConCconcreteClong-termCpreoperativeCdata.CJpnJOphthalmolC65:306-312,C20216)TheCAdvancedCGlaucomaCInterventionStudy(AGIS):7.CTheCrelationshipCbetweenCcontrolCofCintraocularCpressureCandvisual.elddeterioration.TheAGISInvestigators.AmJOphthalmolC130:429-440,C20007)WeberCJ,CSchultzeCT,CUlrichH:TheCvisualC.eldCinCadvancedglaucoma.IntOphthalmolC13:47-50,C19898)HoodCDC,CRazaCAS,CdeCMoraesCCGCetal:GlaucomatousCdamageCofCtheCmacula.CProgCRetinCEyeCResC32:1-21,C20139)SteadCRE,CKingAJ:OutcomesCofCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCinCpatientsCwithCadvancedCglaucoma.CBrJOphthalmolC95:960-965,C201110)LawCSK,CNguyenCAM,CColemanCALCetal:SevereClossCofCcentralvisioninpatientswithadvancedglaucomaunder-goingCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC125:1044-1050,C200711)FrancisCBA,CHongCB,CWinarkoCJCetal:VisionClossCandCrecoveryCafterCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC129:C1011-1017,C201112)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alacuityandassociatedriskfactorsaftertrabeculectomywithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C201613)庄司信行:緑内障手術で視力を守るために.あたらしい眼科39:1036-1076,C202214)SugimotoCY,CMochizukiCH,COhkuboCSCetal:IntraocularCpressureCoutcomesCandCriskCfactorsCforCfailureCinCtheCCol-laborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentCStudy.OphthalmologyC122:2223-2233,C201515)ChauhanCBC,CGarway-HeahtCDF,CGoniCFJCetal:PracticalCrecommendationsformeasuringratesofvisualchangeinglaucoma.BrJOphthalmolC92:569-573,C2008***

病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):354.357,2022c病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績上杉康雄徳田直人山田雄介豊田泰大塚本彩香塚原千広佐瀬佳奈北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-TermOutcomesofTrabeculectomyforEtiologicalNeovascularGlaucomaYasuoUesugi,NaotoTokuda,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTsukamoto,ChihiroTsukahara,KanaSase,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する線維柱帯切除術の術後長期成績について原因別に検討する.対象および方法:NVGに対して線維柱帯切除術を施行し,術後C36カ月経過観察可能であったC35例C39眼を対象とした.NVGの原因別に手術成績について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C22例C26眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(CRVO)13例C13眼(CRVO群)であった.眼圧はCDR群では術前C36.6CmmHgが術後C36カ月でC12.4CmmHg,CRVO群ではC36.0mmHgがC13.0CmmHgと両群ともに有意に下降した.Kaplan-Meier法による累積生存率は術後C36カ月でDR群C73.1%,CRVO群C83.9%であった.術後合併症はCDR群で硝子体出血がC5例存在した.結論:NVGに対する線維柱帯切除術は長期的に有効な術式だが,DR症例では眼圧コントロールが良好であっても硝子体出血を生じる患者が存在する.CObjective:Toinvestigatethelong-termpostoperativeoutcomesoftrabeculectomyforetiologicallyneovascu-larglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved39eyesof35patientswhounderwenttrabecu-lectomyforNVGandwhowerefollowedupfor36-monthspostoperative.Results:ThecausesofNVGweredia-beticretinopathy(DR)in26eyesof22cases(DRgroup)andcentralretinalveinocclusion(CRVO)in13eyesof13cases(CRVOgroup).IntheDRandCRVOgroups,themeanintraocularpressure(IOP)signi.cantlydecreasedfrom36.6CmmHgand36.0CmmHg,respectively,preoperative,to12.4CmmHgand13.0CmmHg,respectively,postopera-tive.At3-yearspostoperative,thecumulativesurvivalratesintheDRandCRVOgroupwere73.1%Cand83.9%,respectively.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC5CpatientsCDRCgroupCpatients.CConclu-sion:TrabeculectomyCforCNVGCwasCfoundCe.ectiveCoverCtheClong-termCperiodCpostCsurgery,Chowever,CvitreousChemorrhageoccurredinsomeDRpatientsdespitewell-controlledIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):354.357,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,線維柱帯切除術,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,続発緑内障.neovascularCglaucoma,trabeculectomy,diabeticretinopathy,centralretinalveinocclusion,secondaryglaucoma.Cはじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)など網膜虚血性疾患が原因となり発症する続発緑内障である.低酸素誘導され硝子体中に分泌された血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)などの液性血管新生因子により隅角新生血管が形成され,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇が生じる.治療法として線維柱帯切除術1),VEGF阻害薬投与2),緑内障チューブシャント手術3)などが行われ,その有効性が報告されている.線維柱帯切除術はCNVGに汎用される術式であるが,NVGの病因により術後経過が影響されるかについての検討は少ない.本研究ではCDRとCCRVOに続発したCNVGの術後経過を比較し,NVGに対する線維柱帯〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC354(92)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(92)C3540910-1810/22/\100/頁/JCOPY切除術の手術経過が病因により影響されるかについて検討した.CI対象および方法本研究は診療録による後ろ向き研究である.対象はC2011年C3月.2017年C5月のC7年間に当院でCNVGと診断され線維柱帯切除術を施行され,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C35例C39眼である.平均年齢C66.1C±12.3歳であった.NVG群の原因疾患がCDRであったC22例C26眼をCDR群,原因疾患がCCRVOであったC13例C13眼をCCRVO群とし,両群の術前後の眼圧推移と薬剤スコアの推移,術後合併症について比較検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬C1成分1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.また,Kaplan-Meier法による生存分析も行った.死亡の定義は,術後眼圧がC2回連続してC21CmmHg以上またはC5CmmHg未満を記録した時点,緑内障再手術を施行した時点,光覚喪失となった時点とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず生存とした.NVGに対する濾過手術の選択基準としては,線維柱帯切除術を基本とし,硝子体出血による視力低下を併発している症例のみ硝子体手術を併用した緑内障チューブシャント手術を選択した.線維柱帯切除術は全例円蓋部基底結膜弁で行った.結膜弁作製後,浅層強膜弁を作製しC0.04%マイトマイシンCCを結膜下に塗布し(作用時間は症例によって調整)生理食塩水100Cmlで洗浄,その後深層強膜弁を作製しCSchlemm管を同定し,深層強膜弁を切除,続いて線維柱帯を切除し周辺虹彩切除を行い,浅層強膜弁を縫合(4.7本)し,結膜を縫合し手術終了とした.全例同一術者(N.T.)により施行した.なお,2014年C2月以降に施行した症例については術前にベバシズマブの硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)を施行した.IVBについては適応外使用につき聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C2566号で承認を受け,患者への説明と同意のもと行われた.統計学的な検討は対応のあるCt検定,Mann-WhitneyCUtest,chi-squaretestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.CII結果表1に対象の背景について示す.年齢については,DR群はCCRVO群よりも有意に若かった(Mann-WhitneyCUCtestp<0.01).その他,術前眼圧,薬剤スコア,隅角所見(peripheralanteriorsynechia:PASindex),PASindex75%以上をCNVGの閉塞隅角期とした場合の割合,硝子体手術の既往,IVB実施のいずれにおいても両群間に有意差はなかった.図1にCDR群およびCCRVO群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧は両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図2にCDR群およびCCRVO群の術前後の薬剤スコアの推移を示す.薬剤スコアは両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図3にCDR群およびCCRVO群のCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後C3年の累積生存率は,DR群でC73.1%,CRVO群でC83.9%であり両群間に有意な差は認められなかった(LoglankCtestCp=0.43).なお,術前IVB実施の有無で累積生存率を検討した結果,DR群についてはCIVB無群でC68.8%,IVB有群でC80.0%(Loglanktestp=0.56),CRVO群についてはCIVB無群でC88.9%,IVB有群でC75.0%(LoglankCtestCp=0.62)と有意な差は認められなかった.表2に術後合併症について示す.術後合併症は,硝子体出血がCDR群でC5眼(19.2%),水疱性角膜症がCCRVO群でC1眼(7.7%),眼球癆がCDR群でC1眼(3.8%)に認められた.硝子体出血を生じたCDR群のC5眼うちC3眼は硝子体手術を要した.術後C2段階以上の視力低下が生じた症例は,表1対象の背景DR群CRVO群22例26眼13例13眼p値年齢(歳)C61.2±12.2C76.0±4.0C0.0001*術前矯正視力C0.36±0.5C0.30±0.4C0.27*術前眼圧(mmHg)C37.4±10.9C36.4±5.7C0.84*術前薬剤スコア(点)C4.5±0.6C4.6±0.5C0.46*PASindex(%)C46.2±17.9C43.9±20.2C0.46*閉塞隅角期(PASindex≧75%)(%)C11.5C15.4C0.87**硝子体手術の既往(%)C19.2C23.1C0.89**線維柱帯切除術前CIVB(%)C57.7C69.2C0.73**PAS:peripheralanteriorsynechia,IVB:intravitrealbevacizumab.*:Mann-Whitneytest,**:chi-squaretest.(93)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C355眼圧(mmHg)5040302010術前術後3カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間54321薬剤スコア(点)観察期間図2血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後の薬剤スコアの推移各群ともに術前と比較し術後有意な薬剤スコアの減少を示した.抗緑内障点眼薬1剤C1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点.エラーバー:標準偏差.合併症表2術後合併症DR群CRVO群(n=26)(n=13)p値DR群0.673.1%Loglanktestp=0.435眼0眼C0.09**硝子体出血(19.2%)(0%)0眼1眼C0.15**水疱性角膜症(0%)(7.7%)1眼0眼C0.47**C061218243036眼球癆(3.8%)(0%)2段階以上の4眼3眼観察期間(カ月)視力低下(15.4%)(23.1%)C0.56**累積生存率図3Kaplan.Meier生存分析PDR群で硝子体出血を生じたC5眼中C3眼は硝子体手術を要した.死亡定義:眼圧が2回連続して21mmHg以上または**:chi-squaretest.4CmmHg未満を記録した時点,または緑内障再手術となった時点.(94)DR群でC4眼(15.4%),CRVO群でC3眼(23.1%)認められた.CIII考按本研究は経過観察期間C36カ月という比較的長期の経過を検討している.同様に長期経過観察を行っているCTakiharaらの報告1)では,1,2,5年後の手術成功率がそれぞれ62.6%,58.2%,51.7%であった.また,Higashideらの報告2)ではベバシズマブを併用し,平均経過観察期間C45カ月でC1,3,5年後の手術成功率がそれぞれC86.9%,74.0%,51.3%であった.本研究ではC3年後生存率がCDR群C73.1%CRVO群C83.9%でCHigashideらの報告に近い結果となった.これはDR群15眼(57.7%),CRVO群9眼(69.2%)にVEGF阻害薬を併用して隅角新生血管の活動性を低下させてから線維柱帯切除術を行っていることが要因と考えられた.また,当院では,線維柱帯切除術を狩野らの報告4)と同様に強膜二重弁を作製し深層強膜弁を切除する方法で行っているが,NVGについてはCSchlemm管同定後,深層強膜弁をさらに角膜側まで進めてから強角膜片切除を行うようにしている.この方法によりCPASが生じているCNVG症例に対しても術後に前房出血を生じることが少なくできるため,手術成績の向上に貢献した可能性があると考える.DR群とCCRVO群の背景を比較してみると,年齢はCDR群のほうがCCRVO群のよりも有意に若くなっていたが,これはCCRVOが動脈硬化を生じやすい高齢者に多いことが影響したものと考える.眼圧,薬剤スコア,PASindexについては両群で有意差を認めなかったことから,術前のCNVGの活動性に大差はなかったと考えられる.また,ベバシズマブ使用率にも差はなく,術後眼圧推移,術後薬剤スコア推移とも両群で同様の推移を示した.つまり原因疾患が異なっていても筆者らが行ったCNVGに対する線維柱帯切除術は眼圧下降効果,持続性ともに有効であったことが示唆される.一方術後合併症に関しては,DR群で硝子体出血が多くみられ,再手術症例,眼球癆に至った症例もみられた.DR群では房水流出にかかわる前眼部には十分な濾過効果が得られたにもかかわらず,硝子体出血を生じた理由としては,血糖コントロールの悪化が影響したと考える.線維柱帯切除術後に硝子体出血をきたした症例は,術後しばらくしてから血糖コントロールが再度悪化し,その後硝子体出血を発症している.DRに続発したCNVGでは術後も血糖管理が重要であることを再確認する結果となった.また,これはあくまで推測の域を出ないが,CRVOでは発症からCNVGに至る経過は短期間であり,眼底に血管増殖膜や硝子体出血などの重篤な変化が生じる前に緑内障手術となることが多い印象がある.それに対して,DR群ではCNVGに至る時点ですでに線維血管増殖や牽引性.離など眼底に重篤な病変を形成していることも多い.このような症例では緑内障術後,眼圧下降により眼底虚血はある程度改善されたとしても,術前から存在する不可逆性の眼底病変が術後血糖コントロール不良などを引き金に再燃する可能性が残っている.つまり,NVGに至るまでの背景の違いが術後合併症の差につながったとも考えられる.本研究は少数例の後ろ向き研究であり,より多数例での検討が必要である.また,DR群とCCRVO群に年齢に有意差があり,CRVO群のなかに眼虚血症候群の症例が存在していた可能性はあるが,眼底病因にかかわらずCNVGに対して線維柱帯切除術は有効であることが示唆された.近年ではVEGF阻害薬治療をCNVGの初期治療として行うことがVENERA/VEGA試験により有効であることが示され,単独治療でも眼圧コントロールができる症例が報告されている5,6).本研究が行われた時期では,こうした比較的軽度な患者も手術対象となっていたと考えられる.また,DRやCRVOに関しては以前よりもCVEGF阻害薬で黄斑浮腫治療を行う場合が多くなり,NVGに至る病態は以前と異なってきている可能性がある.VEGF阻害治療のみでコントロールできない重篤な患者においても,病因によって術後経過に差異がないかなど今後の検討を要する点である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20092)HigashideCT,COhkuboCS,CSugiyamaK:Long-termCout-comesandprognosticfactorsoftrabeculectomyfollowingintraocularCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCglauco-ma.PLoSOneC10:e0135766,C20153)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucomaC20:433-438,C20114)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTher38:C1116-1129,C20216)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C2021(95)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C357

ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):738.741,2020cぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響水井理恵子丸山勝彦内海卓也禰津直也小竹修後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectofPhacoemulsi.cationandIntraocularLensImplantationonIntraocularPressureFollowingTrabeculectomyinEyeswithSecondaryGlaucomaAssociatedwithUveitisRiekoMizui,KatsuhikoMaruyama,TakuyaUtsumi,NaoyaNezu,OsamuKotakeandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC目的:ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術の眼圧調整に及ぼす影響を,原発開放隅角緑内障の二期的白内障手術後の場合と比較すること.対象および方法:線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行ったぶどう膜炎続発緑内障(UG群)15例C15眼と,同様に線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行った原発開放隅角緑内障(POAG群)23例C23眼を対象とした.平均経過観察期間はCUG群がC48カ月(13.121カ月),POAG群がC37カ月(12.128カ月)で,眼圧調整の定義は,①術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なしの二つとし,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.また,両群における眼圧調整良好例の術後C1年の時点での眼圧を対応のないCt-検定で比較し,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの正確検定で比較した.結果:術後C1年目の眼圧調整成績は,定義①ではCUG群C27%,POAG群C35%,定義②ではそれぞれC80%,70%で,両群間に差はなかった.また,術後C1年での眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群6.5±1.3CmmHg,POAG群ではC7.3±3.5CmmHg,定義②ではそれぞれC8.5±2.3CmmHg,8.7±3.3CmmHgとなり,両群間に差はなかった.さらに,術中,術後合併症の頻度も両群間に差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.結論:炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定してよいと考えられる.CPurpose:Tocomparethee.ectofphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)onintra-ocularpressure(IOP)followingtrabeculectomybetweenuveiticglaucoma(UG)eyesandprimaryopen-angleglau-coma(POAG)eyes.Methods:Weenrolled15eyesof15patientswithUG(UGgroup)and23eyesof23patientswithPOAG(POAGgroup,control)whounderwentPEA+IOLaftertrabeculectomy.TheprobabilityofsuccessfulIOPCcontrolCandCtheCincidenceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:TheprobabilityofasuccessfulIOPcontrolofunder12CmmHgwithoutadditionalsurgerywas80%intheUGgroupand70%inthePOAGgroup(log-ranktest,p=0.82).Therewerenostatisticaldi.erencesintheinci-denceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCbetweenCtwoCgroups.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisCstudyCsug-gestthattheindicationofcataractsurgeryaftertrabeculectomyinUGeyesissimilartothatinPOAGeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):738.741,C2020〕Keywords:ぶどう膜炎,続発緑内障,ぶどう膜炎続発緑内障,線維柱帯切除術,白内障.uveitis,secondaryglau-coma,uveitisglaucoma,trabeculectomy,cataract.Cはじめに障(uveiticglaucoma:UG)を含めたすべての緑内障病型に線維柱帯切除術は原発開放隅角緑内障(primaryCopen-適応される標準術式であるが1),術後合併症として白内障のCangleglaucoma:POAG)のみならず,ぶどう膜炎続発緑内発生が知られている2).その白内障の進行によって視機能が〔別刷請求先〕水井理恵子:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:RiekoMizui,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC738(94)表1対象の背景UG群POAG群p値眼数C1523C.年齢C55.1±10.5(35.73)歳C59.9±6.6(45.70)歳C0.11*男:女9:615:8C1.00†線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間C29.5±26.6(18.43)カ月C32.5±20.7(18.32)カ月C0.70*術前眼圧C7.8±2.3(4.12)mmHgC8.5±2.4(5.12)mmHgC0.45*角膜内皮細胞密度C2,527.9±446.8(1,370.3,155)/mmC2C2,517.7±269.7(2,141.3,378)/mmC2C0.89*経過観察期間C47.9±29.6(13.121)月C37.3±29.0(12.128)月C0.30*平均C±標準偏差(レンジ).UG:uveiticglaucomaぶどう膜炎続発緑内障,POAG:primaryopen-angleglaucoma原発開放隅角緑内障.*:対応のないCt-検定,C†:Fisherの正確検定.低下した場合には水晶体再建術が行われるが,線維柱帯切除Ca100眼圧調整成績(%)80604020術後に二期的白内障手術を行うと,POAG3,4),UG5,6)のいずれの場合であっても,その後の眼圧調整が悪化することが知られている.このような二期的白内障手術後の眼圧上昇は,白内障手術後に前房内の炎症性サイトカイン濃度が上昇し7),それらの影響によって濾過胞内の創傷治癒が促進され,濾過機能が減弱して生じる8)と考えられている.したがって,潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,二期的白内障手術の成績はPOAGと異なる可能性も考えられるが,これまで両者の比較は行われていない.01020304050607080生存数期間(月)15UG群:4422223POAG群:86311b100本研究の目的は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的眼圧調整成績(%)80604020白内障手術の成績をCPOAGと比較することである.I対象および方法線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行い,1年以上経過観察したCUG(UG群)15例C15眼とCPOAG(POAG群)23例C23眼を対象に,診療録を基にしたCcase-controlstudyを行った.対象の背景に両群間の差はなかった(表1).UG群のぶどう膜炎の内訳は,Behcet病,サルコイドーシス,急性前部ぶどう膜炎,サイトメガロウイルス虹彩炎が各C1眼で,他は同定不能であったが,二期的白内障術前に炎症反応を認めた症例はなかった.なお,両群とも全例が濾過胞所見によってC0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C1.2回使用していたが,眼圧下降薬を使用していた症例はなかった.なお,白内障手術時にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用した症例は対象から除外した.検討項目は以下のとおりである.まず,白内障術後の両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.眼圧調整の定義は,①術後の眼圧値が術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②術後の眼圧値がC12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし,の二つとし,3回連続でこれらの条件を満たさなかった場合は,1回目の時点で眼圧調01020304050607080生存数期間(月)UG群:151210740POAG群:231610652図1両群の眼圧調整成績の比較実線:UG群,点線:POAG群.Ca:定義①(術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C27%,POAG群C35%(術後C1年目),p=0.70.Cb:定義②(眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C80%,POAG群C70%(術後C1年目),p=0.82.整不良と判定した.なお,白内障術後の眼圧下降薬の使用やニードリング,眼球マッサージなどの処置追加の有無は眼圧調整の定義に含めなかった.また,両群の眼圧調整良好例について,術後C1年における眼圧を対応のないCt-検定で比較した.さらに,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの表2術中,術後合併症の頻度UG群POAG群(n=15)(n=23)p値‡C術中合併症後.破損0%0%C1.00結膜損傷0%0%C1.00術後合併症房水漏出0%0%C1.00低眼圧*27%9%C0.19後発白内障*0%9%C0.51角膜内皮細胞密度減少†7%0%C0.39濾過不全*20%44%C0.18緑内障再手術0%4%*:処置を要したもの,C†:術後C1年で減少率C10%以上のもの,C‡:Fisherの正確検定.正確検定で比較した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果白内障術後の眼圧調整成績を図1に示す.定義①,②の場合ともに両群間に有意差はなかった.術後C1年における眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群C6.5C±1.3CmmHg(5.8mmHg),POAG群ではC7.3C±3.5mmHg(3.12mmHg),定義②ではそれぞれC8.5C±2.3CmmHg(5.12CmmHg),8.7C±3.3CmmHg(3.12CmmHg)で,両群間に有意差はなかった(定義①Cp=0.728,定義②Cp=0.709).術中,術後合併症の頻度を表2に示す.両群間に有意差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.CIII考按本研究は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績をCPOAGと比較した初めての報告である.少数例ではあるが,今回の筆者らの検討では,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績はCPOAGと同等で,眼圧調整良好の術後眼圧や術中術後合併症の頻度も同等という結果になった.線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績に関しては,Almobarakら5)が,27眼(術前眼圧:14mmHg,線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間:平均C28カ月)を対象とした後ろ向き研究の結果,眼圧下降薬の併用なしで眼圧をC6.21CmmHgの間に調整できたのは術後C1年目でC84%であったと報告している.本報告では白内障術後の眼圧調整のカットオフ値の上限をC12CmmHgに設定したところ,術後C1年目ではC80%と良好な成績であったが,これは今回,筆者らが対象とした症例の術前眼圧が比較的低かったことを反映した結果と考えられる.有濾過胞眼に対して二期的白内障手術を行う際には,それまで良好にコントロールされていた眼圧が上昇する可能性を考慮し,眼圧値や濾過胞形態から症例に応じて白内障手術にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用することもある.本研究の対象は,それらの操作を併用する必要がないと判断された症例のみであり,術前眼圧は平均C7.8CmmHg,最高でもC12CmmHgとかなり低い値に調整されており,これらの背景が好成績につながった可能性も考えられる.線維柱帯切除術既往眼に対する二期的白内障手術の成績に影響する因子として,線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が知られている.すなわち,線維柱帯切除術後C1年以内に白内障手術を施行した場合の眼圧調整成績は,POAG,UGのいずれも不良であることが報告されている4,6).本研究では線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が平均C2年以上と長期間であったことも良好な成績につながった理由の一つと考えられる.今回の結果では,術後合併症のなかで,処置を要する低眼圧の頻度がCPOAG群よりCUG群で高い傾向があった.経結膜的強膜弁縫合などの処置を行ったあとで,両群とも全例が改善したことから,低眼圧の主原因は過剰濾過であったと考えられる.それに加えてCUG群では房水産生の低下も低眼圧発生に関与していた可能性があるが,正確に同定することは困難である.有濾過胞眼に対する二期的白内障手術後の濾過胞不全や眼圧上昇は,白内障手術により炎症性サイトカインの一つであるCmonocyteCchemoattractantprotein-1の前房内濃度が上昇し7),その影響により結膜下の線維化や濾過胞の瘢痕化が促進され,濾過機能が減弱することが推測されている8).潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,POAGと比較して二期的白内障手術後の眼圧調整成績は不良となる可能性は十分に考えられるが,今回の筆者らの検討では同等の成績となった.むろん,本研究は単一施設における少数例を対象とした後ろ向き研究であり,症例の選択バイアスの影響は否定できないが,炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定して良いことが示唆された.今後はさらに症例数を重ね,長期経過やぶどう膜炎の原因別に成績を検討していくことが必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FellmanCRL,CGroverD:Trabeculectomy.In:Glaucoma,SurgicalManagement(EdbyShaarawyTMetal)p749-780,Amsterdam,Elsevier,20152)BronAM,LabbeA,AptelF:Cataractfollowingtrabecu-lectomy.In:Glaucoma,CSurgicalCManagement(EdCbyCShaarawyTMetal)p882-999,Amsterdam,Elsevier,20153)RebolledaCG,CMunoz-NegreteFJ:Phacoemulsi.cationCineyeswithfunctioning.lteringblebs:aprospectivestudy.OphthalmologyC109:2248-2255,C20024)Awai-KasaokaCN,CInoueCT,CTakiharaCYCetal:ImpactCofCphacoemulsi.cationConCfailureCofCtrabeculectomyCwithCmitomycin-C.JCataractRefractSurgC38:419-424,C20125)AlmobarakCFA,CAlharbiCAH,CMoralesCJCetal:TheCin.u-enceCofCphacoemulsi.cationConCintraocularCpressureCcon-trolCandCtrabeculectomyCsurvivalCinCuveiticCglaucoma.CJGlaucomaC26:444-449,C20176)NishizawaCA,CInoueCT,COhiraCSCetal:TheCin.uenceCofCphacoemulsi.cationConCsurgicalCoutcomesCofCtrabeculecto-myCwithCmitomycin-CCforCuveiticCglaucoma.CPLoSCOneC11:e0151947,C20167)KawaiCM,CInoueCT,CInataniCMCetal:ElevatedClevelsCofCmonocytechemoattractantprotein-1intheaqueoushumorafterCphacoemulsi.cation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C7951-7960,C20128)TakiharaY,InataniM,Ogata-IwaoMetal:Trabeculec-tomyforopen-angleglaucomainphakiceyesvsinpseu-dophakicCeyesCafterphacoemulsi.cation:aCprospectiveCclinicalcohortstudy.JAMAOphthalmolC132:69-76,C2014***

濾過胞形成不全に対するニードリングの成績

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):735.737,2020c濾過胞形成不全に対するニードリングの成績嵜野祐二田村弘一郎横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座CResultsofNeedlingforBlebFailureYujiSakino,KouichiroTamura,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)後の濾過胞形成不全に対するニードリングの成績について検討した.対象および方法:ニードリングを施行したC20例C20眼が対象.ニードリング施行前後の眼圧,ニードリング施行回数につき検討した.結果:ニードリングのみ施行はC13眼,ニードリングが奏効せず追加観血的手術を要したのはC7眼であった.初回ニードリングからの観察期間は平均C10.2C±14.6カ月.ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.眼圧はC27.0C±5.9CmmHg(12.35CmmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36mmHg)と優位に下降した(p=0.0009).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離がC2例ずつみられたが自然軽快した.結論:ニードリングは重篤な合併症が少なく,およそ半数の症例で奏効する可能性があり,積極的に施行してよいと考える.CPurpose:ToCevaluateCtheCresultsCofCneedlingCrevisionCforCblebCfailurefollowingCtrabeculectomy(TLE)withmitomycinC(MMC)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved20eyesof20patientswhounderwentneedlingrevision.Inallpatients,intraocularpressure(IOP)andthenumberofneedlingrevisionsrequiredduringtheobser-vationCperiodCwasCexamined.CResults:ThirteenCeyesCunderwentCneedlingCrevisionCalone,CwhileC7CeyesCrequiredCadditionalCsurgeryCdueCtoCtheCneedlingCrevisionCbeingCunsuccessful.CTheCmeanCobservationCperiodCfollowingC.rstCneedlingrevisionwas10.2±14.6months.Themeannumberofneedlingrevisionswas2.3±1.7times(range:1-6times).MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom27.0±5.9CmmHg(range:12-35mmHg)to17.5±7.5CmmHg(range:9-36CmmHg)(p=0.0009)C.CComplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC2CcasesCandCchoroidalCdetachmentCinC2Ccases,CyetCtheyCwereCspontaneouslyCrelieved.CConclusions:NeedlingCrevisionChadCfewCseriousCcomplications,CandCwase.ectivein50%ofthepatientswithfailingblebsfollowingtrabeculectomywithMMC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):735.737,C2020〕Keywords:線維柱帯切除術,ニードリング,濾過胞形成不全.trabeculectomy,needling,blebfailure.はじめにマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は緑内障に対するもっとも標準的な外科手術で,眼圧下降効果が高い1).2012年にCglau-comaCdrainagedevice(GDD)を用いた緑内障手術が,2018年には水晶体再建術併用眼内ドレナージ挿入術が保険適用となり,治療の選択肢が広がったが,依然として緑内障手術の中でもっとも施行件数が多いのはCTLEである2).しかしながら,術後の濾過胞形成不全による房水流出障害,眼圧上昇が生じ,ニードリングを要することがある3.5).ニードリング施行後の合併症には過剰濾過,低眼圧,脈絡膜.離,硝子体出血などがあるが,外来で簡便に施行でき,良好な濾過胞形成や眼圧下降が得られるため,濾過胞再建の第一選択として施行されることが多い.本研究では,当院におけるCMMC併用CTLE後の濾過胞形成不全に対し,ニードリングを施行した症例について検討した.CI対象および方法対象は2013年1月.2019年5月末にMMC併用TLEを施行したC465例C465眼中,濾過胞形成不全でニードリング〔別刷請求先〕嵜野祐二:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ケ丘C1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YujiSakino,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama,Yufu-city,Oita879-5593,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C735表1対象症例の詳細症例年齢性別病型既往手術歴TLEから初回ニードリングまでの期間(週)ニードリング回数()はその内MMC使用回数追加手術観察期間*(月)眼圧(mmHg)合併症前後C1C69男性CPOAGCTLOTLEC172(0)なしC6C28C16なしC2C64男性CPOAGCTLOTLEC201(0)なしC16C20C18なしC3C57男性CPOAGCTLOC41(0)なしC7C12C9なしC4C81男性CPOAGC381(0)なしC5C21C15なしC5C84男性CPOAGCPEA+IOLC51(0)なしC4C26C16CCDC6C83男性CPOAGCPEA+IOLC81(0)なしC8C19C15なしC7C64男性CEXGC133(0)なしC9C29C10なしC8C69男性CEXGC41(0)なしC64C25C14なしC9C86男性CEXGC51(0)なしC5C30C9なしC10C81男性CEXGC51(0)なしC6C25C15なしC11C68男性CNVGC91(0)なしC3C33C12なしC12C51男性CNVGC352(1)なしC6C31C15CVHC13C80男性CSGC41(0)なしC16C35C10CCDC14C61男性CPOAGCPPVtripleC43(1)CTLEC28C24C18なしC15C85男性CEXGCTLOC54(0)CTLEC12C29C24なしC16C78男性CEXGCTLOTLEC94(1)CTLEC12C32C22なしC17C37女性CNVGCPPVtripleC36(2)再建,TLE,BGIC7C32C36なしC18C46女性CNVGCPPVtripleC93(2)再建C6C23C16CVHC19C22男性CSGCTLOC71(0)再建,BGIC3C30C32なしC20C71男性CCGCTLOtripleC86(2)再建,TLE,BGIC4C35C29なしPOAG:原発開放隅角緑内障,EXG:落屑緑内障,NVG:血管新生緑内障,SG:続発緑内障,CG:小児緑内障,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,PEA+IOL:水晶体再建術+眼内レンズ挿入術,PPV:硝子体切除術,再建:観血的濾過胞再建術,BGI:バルベルト緑内障インプラント,CD:脈絡膜.離,VH:硝子体出血.*観察期間は,ニードリングのみ施行した症例は最終受診時まで,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前まで.を施行したC20例C20眼(男性C18眼,女性C2眼)である.診療録を後ろ向きに調査した.年齢はC66.7C±16.9歳(22.86歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)7眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)6眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)4眼,EXG以外の続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)2眼,小児緑内障(childhoodglaucoma:CG)1眼であった.MMC併用CTLEは全例で円蓋部基底結膜切開であった.手術既往のあるものはC12眼.TLEから初回ニードリングまでの期間はC10.6C±9.9週(3.38週)であった(表1).初回ニードリングは円蓋部結膜下にC0.2%キシロカインを注射後,濾過胞から十分離れた上方球結膜よりC25CG針を刺入し,濾過胞周囲結膜下の癒着を.離した.濾過胞形成が不十分の際は,針を強膜弁下に刺入して弁を浮かせ,良好な濾過胞が形成されるのを確認した.MMC結膜下注射を併用する場合は,0.04%CMMCとC0.2%キシロカインを1:1で混合したものを結膜下注射した後に施行した.術後に抗菌薬およびステロイド点眼を使用した.術後成績の評価にはCStudentのCt検定,Kaplan-Meier法を用いた.CII結果結果を表1に示す.単回あるいは複数回のニードリングを施行したのがC13眼,ニードリングが奏効せず追加手術を要したのがC7眼であった.追加観血的手術はCMMC併用CTLEがC5眼,観血的濾過胞再建術がC4眼.バルベルト緑内障インプラントがC3眼(重複あり)であった.ニードリング施行前および施行後(ニードリングのみ施行した症例は最終受診時,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前)の眼圧は,C27.0±5.9mmHg(12.35mmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36CmmHg)と有意に下降した(p=0.0009).初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義し,最終736あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(92)観察時までに死亡したのはC11眼であった(最終生存率C45%)(図1).ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.MMC結膜下注射を併用したニードリングはC6眼(計C9回)であった.MMC結膜下注射を併用したのはC2回目以降の施行であり,6眼のうちC5眼は追加観血的手術を要した.さらにこれらのC5眼には全例で内眼手術の既往があった(表1).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然経過した.CIII考按ニードリングで使用する注射針としては一般的にC25CG,27CG,30CGが多い.23CGを用いた報告もあるが5),径が太いと結膜縫合が必要となることがある.当院では初回施行時にはすべてC25CGを使用した.2回目以降は,結膜下組織が固いため注射針での.離が不十分な症例もあった.その際にブレブナイフ6)を使用したものがC2眼あったが,結膜縫合を要した症例はなかった.結膜下癒着の.離のみで十分な眼圧下降が得られない場合には,強膜弁下の増殖組織を解除する必要があるが7,8),その際にもC25CGは径や強度がほどよく有用性が高いと考える.初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義したところ,最終観察時での生存率がC45%であった.死亡したC11眼のうちC9眼で内眼手術の既往があり,手術既往のある眼は線維芽細胞の活動性が高くなることにより濾過胞の瘢痕化が生じやすく,ニードリングの効果が持続しづらくなるものと考える5).2回目以降のニードリングや追加手術を要さなかったものはC6眼(30%)で,既報とほぼ同様であった5).2回目以降を施行した症例のうち,MMC結膜下注射併用ニードリングを施行したのはC6眼(計C9回)であった.そのうちC5眼で内眼手術の既往があった.POAGではC7眼中C6眼で内眼手術の既往があったものの,単回のニードリングのみで最終的にC4眼が生存し,追加観血的手術を必要としたのはC1眼のみで,他の病型と比べニードリングが奏効した.追加観血的手術の内訳は濾過胞再建術C4眼,MMC併用CTLE5眼,バルベルト緑内障インプラントC3眼(重複あり)であった.最終的にはC3.18mmHg(9.4C±5.4CmmHg)と十分な眼圧下降が得られた.手術既往のある眼は,複数回のニードリングあるいは追加手術が必要となる症例が多く,線維芽細胞の活性化と濾過胞の瘢痕化が繰り返し生じて眼圧上昇すると考えられる.合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然軽快しており,眼内炎や水疱性角膜症などの重篤な合併症はなかった.本研究の限界は,対象がC20眼と少ない点であり,今後さ生存率(%)100806045%402000123456図1生存曲線初回ニードリング後,15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となったもの,あるいは追加観血的手術を施行したものを死亡と定義.4カ月を過ぎて以降,新たな死亡症例なし.らに症例を増やして検討を重ねる必要がある.ニードリングは手技が簡便で重篤な合併症が少なく,本研究ではC20眼のうちC9眼で奏効しており,濾過胞形成不全に対する第一選択として積極的に施行してよいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ErricoCD,CScrimieriCF,CRiccardiCRCetal:TrabeculectomyCwithCdoubleClowCdoseCofCmitomycinCCC-twoCyearsCofCfol-low-up.ClinOphthalmolC5:1679-1686,C20112)橋本洋平,道端伸明,松井宏樹ほか:本邦における近年の緑内障手術の傾向:大規模データベースを用いた記述研究.日眼会誌C123:815-823,C20193)TsaiCAS,CBoeyCPY,CHtoonCHMCetal:BlebCneedlingCout-comesCforCfailedCtrabeculectomyCblebsCinCAsianeyes:aC2-yearfollowup.IntJOphthalmolC8:748-753,C20154)LaspasP,CulmannPD,GrusFHetal:Revisionofencap-sulatedCblebsCaftertrabeculectomy:Long-termCcompari-sonCofCstandardCblebCneedlingCandCmodi.edCneedlingCpro-cedurecombinedwithtransconjunctivalscleral.apsutures.PLoSOneC12:e0178099,C20155)狩野廉,桑山泰明:注射針による濾過胞再建術(Needling)の術後成績.眼科手術C20:267-273,C20076)相良健:濾過胞再建用極細クレッセントナイフ「ブレブナイフ」.眼科手術23:71-74,C20107)相原一:線維柱帯切除術後の再発─同一創濾過胞再建術の実際─.MBOCULISTAC42:1-9,C20168)野村英一,安村玲子,石戸岳仁ほか:ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め.あたらしい眼科C34:1178-1181,C2017***(93)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C737

硝子体手術既往眼に対するアーメドあるいはエクスプレスによるインプラント手術の比較

2019年8月31日 土曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1070.1073,2019c硝子体手術既往眼に対するアーメドあるいはエクスプレスによるインプラント手術の比較内海卓也丸山勝彦小竹修禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野SurgicalOutcomeofGlaucomaFilteringSurgeryinVitrectomizedEyes:AhmedGlaucomaValveversusEX-PRESSShuntTakuyaUtsumi,KatsuhikoMaruyama,OsamuKotake,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC硝子体手術既往眼に対してアーメド緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行したC13例C16眼(アーメド群)とアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いたチューブシャント手術を施行したC14例14眼(エクスプレス群)の成績を比較した.Kaplan-Meier法による術後C1年目の眼圧調整成績はアーメド群C38%,エクスプレス群C79%であった(Logrank検定,p=0.03).また,術後合併症の頻度に関しては,低眼圧がアーメド群で有意に多かった(Fisherの正確検定,p=0.03).なお,両群とも駆逐性出血を生じた症例はなかった.多変量解析の結果では,術式のみが独立して眼圧調整成績に影響することが判明した(Stepwise法,p=0.02).以上の結果から,硝子体手術既往眼に対しては,施術可能であるならアーメド手術よりエクスプレス手術のほうが術後成績がよい可能性がある.CWeCretrospectivelyCanalyzedC30CcasesCwithCmedicallyCuncontrolledCglaucomaCaftervitrectomy;16CeyesCinC13CcasesCwereCtreatedCwithCimplantationCofCtheCAhmedCglaucomavalve(AGVgroup)andC14CeyesCinC14CcasesCwithCimplantationoftheEX-PRESSglaucoma.ltrationdevice(EX-PRESSgroup).At1yearaftersurgery,thesuccessrateCwas38%CinCAGVCgroupCversus79%CinCEX-PRESSgroup(Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCanalysis,CLogrankCtest,Cp=0.03).CTheCincidenceCofCpostoperativeChypotonyCwasChigherCinCAGVgroup(Fisher’sCexactCtest,Cp=0.03).CExpulsivehemorrhagedidnotoccurineithergroup.Stepwisemultipleregressionanalysisshowedthatthesurgi-calprocedurewasofindependentin.uence;therefore,EX-PRESSimplantationmaybeasaferandmoree.ectiveprocedurethanAGVimplantationforglaucomapatientswithvitrectomizedeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(8):1070.1073,C2019〕Keywords:硝子体手術既往眼,緑内障手術,アーメド,エクスプレス,線維柱帯切除術.vitrectomizedCeye,Cglaucomasurgery,Ahmed,EX-PRESS,trabeculectomy.Cはじめに硝子体手術既往眼に対して線維柱帯切除術を行うと,急激な眼圧下降に伴って眼球が虚脱し,駆逐性出血などの重篤な合併症が生じる危険性が高いことが知られている1).このような問題点に対して,プレートを有するチューブシャントであるアーメド緑内障バルブ(以下,アーメド,NewCWorldMedical)は調圧弁を有するため,アーメドを用いたチューブシャント手術(以下,アーメド手術)では低眼圧に関連した合併症をきたしにくいという利点がある2).また,プレートのないミニチューブであるアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイス(以下,エクスプレス,AlconLaboratories)を用いたチューブシャント手術(以下,エクスプレス手術)は濾過量が限定的であるため,線維柱帯切除術と比べ術後の低眼圧が生じにくいことがわかっている3).したがって,硝子体手術既往眼に対して眼圧下降手術を行う場合,線維柱帯切除術よりアーメド手術やエクスプレス手〔別刷請求先〕内海卓也:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:TakuyaUtsumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC1070(100)表1対象の背景アーメド群エクスプレス群p値症例数/眼数C年齢(歳)C病型(原発緑内障:続発緑内障)続発緑内障のうち血管新生緑内障(眼)C術前眼圧(mmHg)C術前薬剤数(合剤,内服はC2本として計算)C硝子体手術を必要とした原因増殖糖尿病網膜症C裂孔原性網膜.離C硝子体出血C黄斑円孔Cぶどう膜炎C黄斑前膜C後.破損C硝子体手術から緑内障手術までの期間(月)C硝子体手術以外の手術既往(眼,重複あり)白内障手術C緑内障濾過手術C強膜内陥術C角膜移植術C経過観察期間(月)C13/16C62.9±13.2(C35.C79)C1:1C513C27.6±7.3(18.43)C3.8±2.1(0.7)C12C1C2C0C1C0C0C22.8±23.4(2.84)C16C14C2C0C23.5±6.8(12.34)C14/14C59.8±12.7(C43.C80)C4:1C0C7C24.7±3.7(18.32)C2.9±1.0(0.4)C7C2C0C2C1C1C1C74.9±79.1(C3.C206)C14C50C2C59.3±15.1(C12.C74).0.51*0.16†0.12†0.19*0.09*0.26†0.59†0.49†0.21†1.00†0.47†0.47†0.02*1.00†<C0.01C†0.49†0.21†<C0.01C†平均±標準偏差(レンジ).*:対応のないCt-検定.†:Fisherの正確検定.術を適応したほうが低眼圧に伴う重篤な合併症が生じにくい可能性があるが,これまで十分な検討は行われておらず,アーメド手術とエクスプレス手術の成績の比較も行われていない.このような背景を踏まえ,本研究では硝子体手術往眼に対するアーメド手術とエクスプレス手術の眼圧調整成績と合併症の頻度を後ろ向きに比較した.CI対象および方法対象は,一定期間内(2012年C9月.2017年C6月)に東京医科大学病院でアーメド手術,あるいはエクスプレス手術を施行し,術後C1年以上経過観察したC27例C30眼の硝子体手術既往眼である(それぞれアーメド群,エクスプレス群とした).なお,対象にシリコーンオイル注入眼はなかった.表1に内訳を記載した.手術方法は以下のとおりである.まず,アーメド手術はモデルCFP-7を用い,上耳側または下耳側に輪部からC9Cmmの位置でプレートを縫合し,症例に応じてチューブを前房,後房,硝子体腔に挿入して保存強膜で被覆した.なお,プレートを上耳側に縫合したのはC3眼,下耳側はC13眼,チューブの挿入部位は前房,後房,硝子体腔それぞれC8眼,5眼,3眼であった.また,エクスプレス手術はモデルCP-50を用い,術中マイトマイシンCCを塗布して,術後はレーザー強膜弁縫合切糸術で濾過量を調整し,適宜ニードリングを行った.両術式とも術後の濾過不全,眼圧上昇に対しては眼球マッサージや眼圧下降薬の追加を行い,必要に応じて緑内障手術の再手術を行った.検討項目は以下のとおりである.まず,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,Logrank検定で比較した.眼圧調整不良の定義は眼圧C18CmmHg以上またはC5CmmHg以下,かつ術前からの眼圧下降率C20%未満とし,3回連続でこれらの条件を満たしたときにC1回目の時点を不良とした.また,緑内障手術の再手術を行った場合も不良としたが,眼圧下降薬の使用やレーザー強膜弁縫合切糸術,ニードリング,眼球マッサージなどの術後処置施行の有無は問わないこととした.つぎに,経過中の眼圧を対応のないCt-検定で,両群の術後合併症と追加処置の頻度をCFisherの正確検定で比較した.さらに,アーメド群とエクスプレス群を合わせ,全体を眼圧調整良好群と不良群のC2群に分けて,これまで報告されている眼圧調整不良に影響する因子4),すなわち,年齢,血管新生緑内障か否か,術前眼圧,硝子体手術から緑内障手術までの期間に差があるかをCFisherの正確検定で比較した.そして,眼圧調整成績に影響する因子をCStepwise法で検討した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果両群の眼圧調整成績を図1に示す.術後C1年目における眼眼圧調整成績(%)10080604020(mmHg)03024.72011020304050607080平均眼圧100生存数アーメド群:16エクスプレス群:14114131020393040期間(950月)6057080図1アーメド群とエクスプレス群の眼圧調整成績と経過中の平均眼圧眼圧調整不良の定義:18CmmHg以上またはC5CmmHg以下,かつ術前眼圧からの眼圧下降率C20%未満,緑内障手術の再手術を行った場合(眼圧下降薬の使用,レーザー強膜弁縫合切糸術,ニードリング,眼球マッサージなどの術後処置施行の有無は不問).経過中の眼圧:眼圧調整良好例のみの検討.*:Logrank検定.†:対応のないCt-検定.表2術後合併症と追加処置の頻度アーメド群(n=16)エクスプレス群(n=14)p値†術後合併症硝子体出血19%7%C0.06前房出血19%21%C1.00低眼圧*56%14%C0.03追加処置経結膜的強膜弁縫合C.29%C.ニードリングC.43%C.緑内障手術の再手術31%29%C1.00重複あり.*:眼圧C5CmmHg未満,2週間以上遷延するもの,†:Fisherの正確検定.圧調整率はアーメド群C38%に対しエクスプレス群C79%であり,アーメド群はエクスプレス群と比較し有意に眼圧調整が不良であった.また,術後C1年での平均眼圧もエクスプレス群で有意に低かった.術後合併症と追加処置の頻度を表2に示す.2週間以上遷延するC5CmmHg未満の低眼圧の頻度はアーメド群で有意に多かった.なお,両群とも駆逐性出血を生じた症例はなかった.アーメド群とエクスプレス群を合わせ,全体を眼圧調整良好群と不良群のC2群に分けて,背景因子の差の有無を検討した結果を表3に示す.いずれの因子にも差はなかった.眼圧調整成績に影響する因子の検討結果を表4に示す.独立変数を眼圧調整良好か否か,従属変数を本研究で有意差のみられた術式(アーメド手術かエクスプレス手術か),緑内障濾過手術の既往,術後低眼圧の有無,硝子体手術から緑内障手術までの期間,経過観察期間として解析したところ,説明変数として唯一術式が抽出され,独立して眼圧調整に影響していることがわかった.CIII考按本研究は,シリコーンオイル注入などを行っていない通常の硝子体手術往眼に対するアーメド手術とエクスプレス手術の術後成績を比較した初めての報告である.眼圧調整成績はエクスプレス群のほうがアーメド群より良好で,術後低眼圧を生じる頻度も少なかった.また,多変量解析の結果でも術式が独立して眼圧調整に影響しており,アーメド手術よりエクスプレス手術のほうが成績良好であることがわかった.なお,本研究の対象のなかには駆逐性出血を生じた症例はなかった.硝子体手術既往眼に対する眼圧下降手術の成績に関しては,Inoueら4)が線維柱帯切除術についてC116眼を対象に検表3眼圧調整良好例と不良例の背景因子表4眼圧調整成績に影響する因子良好群(n=17)不良群(n=13)p値年齢C65.1±11.7歳(43.8C0歳)C56.6±13.0歳(35.7C4歳)C*0.07血管新生緑内障10眼10眼C0.23†術前眼圧C26.1±6.0CmmHg(18.4C3mmHg)C26.4±6.3CmmHg(18.4C2mmHg)C*0.88硝子体手術から緑内障手術までの期間C60.5±65.9月(3.2C06月)C29.1±52.4月(2.1C99月)C*0.17平均C±標準偏差(レンジ),*:対応のないCt-検定,†:Fisherの正確検定.討を行っている.眼圧がC21CmmHgを超えた場合や緑内障手術の再手術を行った場合,光覚が消失した場合を眼圧調整不良としたとき,術後C1年目での眼圧調整率はC55%であったと報告している.また,同報告では眼圧調整に影響する因子を多変量解析で検討しており,眼圧調整不良となる危険率は術前眼圧がC1CmmHg上がるごとにC1.05倍,病型が血管新生緑内障であるとC1.88倍になるとしている.この結果を踏まえ,本研究でも同様の検討を行ったが,術前眼圧や病型に有意差はなかった.このように,硝子体手術既往眼に対する成績が線維柱帯切除術とエクスプレス手術やアーメド手術で異なる可能性はあるが,本報告とCInoueら4)の報告には術式以外にも対象の背景因子や眼圧調整不良の定義など多くの相違があり,優劣は不明である.後ろ向き研究である本研究には各種バイアスの影響が否定できない.とくに,今回対象となった症例の背景は多彩であり,検討した項目以外に関連する臨床因子が存在する可能性がある.また,手術適応や手術操作が必ずしも一定していないという問題もあるが,今回の検討結果からは,さまざまな背景因子があったとしても,硝子体手術既往眼に対しては結膜弁作製,強膜弁作製などの操作が可能であればエクスプレ従属変数Crp値術式(アーメド手術Corエクスプレス手術)C緑内障濾過手術の既往C術後低眼圧C硝子体手術から緑内障手術までの期間C経過観察期間C.0.41C0.330.17.0.26.0.300.02アーメド手術:アーメド緑内障バルブを用いたチューブシャント手術,エクスプレス手術:アルコンCRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いたチューブシャント手術.ス手術を適応したほうがよい成績が得られる可能性があることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SpeakerMG,GuerrieroPN,MetJAetal:Acase-controlstudyCofCriskCfactorsCforCintraoperativeCsuprachoroidalCexpulsivehemorrhage.OphthalmologyC98:202-209,C19912)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal;ABC-AVBStudyCGroups:Five-yearCpooledCdataCanalysisCofCtheCAhmedBaerveldtcomparisonstudyandtheAhmedver-susCBaerveldtCStudy.CAmCJCOphthalmolC176:118-126,C20173)WangL,ShaF,GuoDDetal:E.cacyandeconomicanal-ysisCofCEx-PRESSCimplantationCversusCtrabeculectomyCinCuncontrolledglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.IntJOphthalmolC9:124-131,C20164)InoueT,InataniK,TakiharaYetal:Prognosticriskfac-torsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmolC56:464-469,C2012***

緑内障術後早期に発症したLeaking Blebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1268.1275,2018c緑内障術後早期に発症したLeakingBlebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性立花学*1,2小林顕*2新田耕治*1,2東出朋巳*2横川英明*2大久保真司*3杉山和久*2*1福井県済生会病院眼科*2金沢大学附属病院眼科*3おおくぼ眼科クリニックCTheUsefulnessofBlebRevisionwithAmnioticMembraneTransplantationforEarly-onsetLeakingBlebDevelopedafterGlaucomaSurgeryGakuTachibana1,2),AkiraKobayashi2),KojiNitta1,2),TomomiHigashide2),HideakiYokogawa2),ShinjiOkubo3)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,3)OhkuboEyeClinic線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)あるいは濾過胞再建術(blebrevision,以下revision)の術後早期(early-onset)に発症した濾過胞からの房水漏出(leakingCbleb)に対する羊膜移植(amnioticCmembraneCtransplantation:AMT)併用Crevisionの有用性を検討した.対象は,初回ないしは別部位からの追加手術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし,結膜縫合あるいは自己結膜移植にてCleakingblebの消失を認めなかったC8例C8眼である.これらの症例に対してCAMT併用Crevisionを施行した.その結果,8眼全例で一過性のCleakingbleb再発を認めたものの,そのうちC4眼は無処置で治癒,3眼で結膜縫合,1眼で羊膜再移植を施行し,最終的にCleakingblebは全例で消失した.眼圧は漏出原因となった手術または処置後のCleakingbleb確認時が平均C12.6±8.8CmmHg,leakingblebの最終消失時が平均C18.9C±5.4CmmHgであった.眼圧コントロール不良例に対しては追加手術を施行した.これらの結果により,TLEあるいはCrevision後のCearly-onsetに発症したCleakingblebに対してCAMT併用のCrevisionは有用であることが示唆された.CThepurposeofthisstudywastoinvestigatetheusefulnessofblebrevisionwithAMTforearly-onsetleakingblebthatdevelopedafterglaucomasurgery.Enrolledwere8eyesof8patientswithearly-onsetleakingblebwith-inC1CmonthCafterCTLECorCblebCrevisionCwhoCshowedCnoCimprovementCwithCconjunctivalCsutureCorCautologousCcon-junctivalCtransplantation.CAlthoughCtransientCaqueousChumorCleakageCwasCobservedCafterCAMTCinCallCeyes,C4CeyesCwerecuredthroughobservationonly,withnotreatment,3eyesrequiredconjunctivalsutureand1eyerequiredre-AMT.CAsCaCresult,CaqueousChumorCleakageCwasC.nallyCimprovedCinCallCeyes.CIntraocularCpressureCwasC12.6±8.8CmmHgCwhenCleakingCblebCwasCcon.rmedCafterCtheCtreatmentCthatChadCcausedCit,CandC18.9±5.4CmmHgCatCtheCtimeofleakingbleb.nalimprovement.WeperformedadditionalglaucomasurgeryincaseswithpoorIOPcontrol.Inconclusion,AMTisquiteusefulforearly-onsetleakingblebafterTLEor.lteringblebrevisionsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1268.1275,C2018〕Keywords:緑内障,線維柱帯切除術,濾過胞再建術,房水漏出,羊膜移植.glaucoma,trabeculectomy,blebrevi-sion,leakingbleb,amnioticmembranetransplantation.Cはじめに効性は確立している.しかし,術後の合併症の一つとして濾マイトマイシンCC併用の線維柱帯切除術(trabeculecto-過胞からの房水漏出(leakingCbleb)がしばしば問題視されmy:TLE)は,緑内障において点眼による薬物療法によっる.leakingblebの治療法として保存的加療あるいは縫合・ても眼圧コントロール不良の症例に対して施行され,その有自己結膜移植(autologousCconjunctivalCtransplantation:〔別刷請求先〕立花学:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:GakuTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takaramachi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN1268(112)表1患者背景症例年齢性別病型直近の手術漏出部位漏出パターンAMT前処置回数(回)結膜移植結膜縫合C1C45CMCSOAGCTLE(EX-PRESS)角膜輪部CEC0C7C2C69CFCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C2C3C68CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC1C0C4C64CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC0C2C5C70CMCSOAGCTLEbleb上のCholeCCC0C5C6C40CMCtraumaticCglaucomaCneedling結膜縫合部CAC0C4C7C58CMCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C1C8C53CMCtraumaticCglaucomaCneedlingbleb上のCholeCBC0C2M:男性,F:女性,SOAG:続発開放隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,TLE:線維柱帯切除術,AMT:羊膜移植.ACT)などの観血的処置が第一選択であるが,奏効しない症例もしばしば認められる.そのような状況下で注目されているのが羊膜の利用である.羊膜は子宮内の胎児と羊水を直接に包む半透明の膜で,その抗炎症・瘢痕化作用や拒絶反応の起こりにくい良質な器質となりうる性質から,外科手術の際の癒着防止や皮膚熱傷の覆膜などに利用されてきた1.3).とくにCKimらによる家兎眼を用いた眼表面再建における羊膜利用の有用性に関する報告により眼科領域でも羊膜移植(amnioticmembranetransplantation:AMT)が注目されるようになった4).日本ではCTsubotaらにより眼類天庖瘡,Stevens-Johnson症候群といった高度の瞼球癒着を有する難治性角結膜疾患に対して,眼表面再建を目的に初めて羊膜が用いられた5).それ以後,角膜上皮の再生あるいは結膜の再建における治療材料としての有効性も確認され,AMT症例数は増加しつつある.緑内障領域でも,TLEあるいは濾過胞再建術(blebCrevi-sion,以下Crevision)におけるCAMT併用の報告が散見されるようになった.ShehaらおよびCSarnicolaらはCTLEにおけるCAMTの安全性を確認し,術後の眼圧コントロールも良好であると報告している6,7).Fujishimaらは眼圧コントロール不良な症例に対しCAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告している8,9).JiらはCAMTを併用したCTLEは眼圧の降下と術後合併症の頻度軽減に有効で成功率が高い術式であると報告している10).樋野らは,抗緑内障点眼により薬剤性偽眼類天庖瘡を生じた患者に対しAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告した11).また,leakingCbleb症例に対するCAMTの適用例も僅少ながら報告されているが,それらは術後C1カ月以上経過した後にCleakingblebを合併した晩期発症(late-onset)の報告が大半であり,早期発症(early-onset)の報告はない.そこで筆者らは術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし観血的処置でも消失しなかったCearly-onsetの難治症例に対するCAMT併用Crevisionの成績を検討した.CI対象および方法対象はC2004年C8月.2014年C7月に金沢大学附属病院(以下,当院)でCTLEを施行したC1,664眼のうち,TLEあるいはCrevision(needlingを含む)の術後C1カ月以内にCSeidel試験にてCleakingblebを確認し,結膜縫合やCACTにて消失を認めなかった難治CleakingblebのC8例C8眼(平均C58.4C±10.8歳)である.これらの症例についてCAMT併用Crevisionを施行した.年齢・性別・病型・直近の手術・漏出部位・濾過胞からの房水漏出の類型(以下,漏出型)・AMT前処置回数などの患者背景を表1に示す.また,対象C8眼で認めた漏出型は,a)縫合部から漏出,b)bleb上のCholeから漏出,c)lasersuturelysis(LSL)の際に照射レーザー光によるCbleb上Choleから漏出,d)術前のCTLEで結膜が薄くなった部分からの漏出,e)輪部結膜の薄い部位からの漏出であり,この概略を図1に示す.AMT併用CrevisionはC3名の術者によって次のような方針abcde図1Leakingblebのパターンa:縫合部からの漏出.Cb:blebの上のCholeからの漏出.Cc:laserCsutureClysisの際の照射レーザー光によるCbleb上のholeからの漏出.Cd:以前のCTLEで結膜薄くなった部分からの漏出.Ce:輪部の結膜が薄い部位からの漏出.Cで施行された.羊膜を羊膜上皮側が強膜側を向くように,症例によっては上皮側が外側になるようにC2重翻転した状態で強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い,結膜創に羊膜を挟みこんで結膜縫合を施行した.結膜欠損の大きさに応じて,縫合を以下のC3通りの方法で行った.すなわち,①創が小さい場合は結膜同士を縫合,②創が大きい場合はCACTを併用,③創が大きいがCACTを併用せず羊膜を露出,であり,そのシェーマを図2に示す.CII結果AMT併用Crevision後のC8症例の個別の病歴,経過,経過日数,眼圧の経過,追加処置などについて以下および図3に示す.〔症例1〕45歳,男性,漏出型:E(図3a).続発開放隅角緑内障(secondaryCopen-angleCglaucoma:SOAG)に対しC2013年C1月に線維柱帯切開術(trabeculoto-my:TLO),6月CTLE(EX-PRESSCR)施行.術後C5日目のLSL後に角膜輪部よりCleakingCbleb(+),縫合をいくどか試みたがたびたび再漏出するため,漏出確認後C27日目にAMT併用Crevision+ACTを施行.術後CleakingCbleb再発,結膜縫合を追加し消失した.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C511日目にトラベクトーム手術を施行したが,術後眼内炎をきたしたためC528日目にCvitrectomyを施行.2016年C3月時点で術後の経過観察中である.〔症例2〕69歳,女性,漏出型:B(図3b).abc羊膜自己結膜露出した羊膜図2AMTを用いたrevisiona:結膜縫合のみ.Cb:ACTの併用.Cc:羊膜を露出させた状態.原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)に対しC2011年C7月CTLO,8月CTLE施行.TLE術後4日目で濾過胞が輪部で一部引きちぎれleakingbleb(+),結膜縫合やCneedling+結膜縫合などで対処したが別部位でのCholeとCleakingCbleb(+),holeが徐々に拡大したため漏出確認後C12日目にCAMT併用Crevision+ACTを施行.術後leakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例3〕68歳,女性,漏出型:A(図3c).POAGに対しC2012年C5月CTLE,2013年C6月Cneedling施行.術後C13日目に結膜縫合部位よりCleakingblebと創口離開(+),ACT+needlingを施行したが消失せず,漏出確認後C24日目にCAMT併用Crevision+needling+ACTを施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例4〕64歳,女性,漏出型:A(図3d).POAGに対しC2011年C2月CTLE,2013年C6月Cneedlingを2回施行.術後C6日目より創口からCleakingbleb(+),nee-dling+結膜縫合を行ったが別部位からのCleakingbleb(+),結膜縫合を追加したが消失せず,漏出確認後C8日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.術後Cleakingblebが再発したが,結膜縫合を追加し消失.のちに眼圧コントロール不良となりCAMT術後C126日目にTLO,719日目にCTLEを追加.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例5〕70歳,男性,漏出型:C(図3e).SOAGに対し前医でC2010年C11月TLE,当院でC2011年C3月別部位からCTLEを施行.術後C3日目にCLSLでレーザーが出血部に吸収されCleakingCbleb(+),結膜縫合を追加し消失.その後眼圧上昇したためCneedlingを追加,術翌日からleakingCblebが再発し,結膜縫合を追加したが,前医CTLEでの菲薄化した結膜縫合部からのCleakingbleb(+),漏出確認後C21日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.翌日C図3各症例の日数と眼圧経過a:症例①:45歳,男性,漏出型:ECb:症例②:69歳,女性,漏出型:BCc:症例③:68歳,女性,漏出型:ACd:症例④:64歳,女性,漏出型:ACe:症例⑤:70歳,男性,漏出型:CCf:症例⑥:40歳,男性,漏出型:ACg:症例⑦:58歳,男性,漏出型:BCh:症例⑧:53歳,男性,漏出型:Bleak期間羊膜移植線維柱帯切除術needlingblebrevision結膜縫合結膜移植入院退院a.症例1(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100b.症例2(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100c.症例3(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100d.症例4(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100e.症例5(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100f.症例6(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)g.症例7h.症例8から消失したが,羊膜が結膜に嵌頓していたため術後C10日目に嵌頓部を縫合したところ,同部位からCleakingbleb再発を認めたが,保存的加療で消失.2014年頃より眼圧コントロール不良となり,AMT術後C1,133日目にCTLOを追加し,その後眼圧は安定.2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例6〕40歳,男性,漏出型:A(図3f).眼球破裂に対してC2008年C5月Cvitrectomy(硝子体切除術)+強角膜縫合術を施行.その後眼圧上昇しC6月CTLO,10月TLE施行.2009年C3月末にCneedling施行したところ低眼圧と術後C3日目からCleakingCbleb(+),2度の結膜縫合後にCneedling+結膜縫合,その後結膜縫合も追加したが消失せず,漏出確認後C9日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合+保存強膜移植を施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C2,048日目にバルベルト緑内障インプラント術を施行した.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例7〕58歳,男性,漏出型:B(図3g).POAGに対してC2007年C12月CTLEを施行.術翌日よりleakingCbleb(+)のため結膜縫合を施行,2008年C1月にleakingCbleb増悪を認めたため漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行した.しかし術後も消失せず,結膜縫合をC2回追加したがCleakingCbleb(+)持続したため,漏出確認後C32日目に再度のCAMT併用Crevisionを施行.術後Cleak-ingbleb再発に無処置で経過観察し消失.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例8〕53歳,男性,漏出型:B(図3h).1990年に針金が左目に刺さり,白内障手術+角膜縫合術施行.その後眼圧コントロール不良となりC1992年C10月末にCTLE施行.2002年頃から眼圧が再上昇し,2004年C2月に別部位にてCTLE施行.術後CleakingCbleb(+)に結膜縫合で消失したが,眼圧が上昇したためC4月にCneedling,5月にrevision,7月にCneedlingを施行.needling後C8日目にleakingCbleb(+)を認めCneedling+結膜縫合を施行したが,leakingCbleb再発しCrevision+結膜縫合を施行.しかし高眼圧とCleakingCbleb(+)持続し,漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行.術後CleakingCblebが再発したが,無処置で消失.以後の眼圧は不安定であったため術後C3,733日目にCTLOを追加.その後眼圧は安定し,2014年C4月に転院のため終診となった.表2には,8症例のCAMT直近のCTLE,AMT直近のCnee-dling,緑内障手術後のCleakingbleb,AMTの術後,についてまとめる.また,表3に,8症例の経過および術後処置についてまとめる.CIII考察羊膜の抗瘢痕化・炎症作用に関する先行研究を以下に示す.Bauerらは,ネズミの単純ヘルペス角膜炎モデルにおいて,移植した羊膜間質に付着したリンパ球,マクロファージが急速にアポトーシスを起こすことを報告した12).Heらは,羊膜から分離した水溶性物質CHC・HA(inter-a-inhibitorheavyCchain・hyaluronan)はCCD80,CCD86,主要なCClassCII抗原複合体の発現を減少させ,増殖を抑制し,アポトーシスを増強させると報告した13).さらにCHeらは,眼組織線維芽細胞において,TGF-bのシグナル伝達を転写の段階で抑制すると報告した14).Espanaらは,培養液中で角膜細胞の樹枝状形態を維持し,生理学的に角膜細胞形態を維持する作用を認めるとともに,TGF-bのシグナル伝達阻害以外の抗瘢痕化作用も関与していると考察している15).以上のような基礎検討に基づいて,羊膜の有する抗炎症・抗瘢痕化作用,結膜上皮の分化促進,線維組織増生の抑制効果などから,結膜瘢痕化症例や角膜不全症例などに対するCTLEあるいはCrevi-sionにおいて起こりうる晩期発症のCleakingCblebや濾過胞感染,濾過胞瘢痕形成などによる濾過胞不全に対して,AMTを併用することは有用であると考えられてきた.しかしながら,AMT併用のCTLE・revisionの手術成績については,濾過胞形成不全に陥るリスクの高い患者の眼圧下降維持に有用であるとした報告6)がある一方で,AMTと結膜前方移動術とのランダム化臨床試験では,最終的な眼圧や点眼数,Kaplan-Meier法による術後成績のいずれにも有意差は認めなかったとする報告16)もあり,統一的な見解は得られていないのが現状である.以上の報告は術後Clate-onsetのleakingCblebに対してであり,術後Cearly-onsetのCleakingblebにおいては,治療用コンタクトレンズ装用や自己血清眼など非観血的処置,あるいは縫合追加やCACTなどの観血的処置を施すことが通例である.そのため,early-onsetのleakingCblebに対してCAMT併用のCrevisionを施行した報告はなく,その臨床的な有用性については検討すべき課題である.当院ではCearly-onsetのCleakingCblebに対する治療方針として,下記の枠組みに沿って対応している.この概略を図4に示す.(1)Seidel試験でCleakingblebの有無を確認し,結膜に明らかな裂隙があり漏出が著明で低眼圧や浅前房が改善しない場合には,その時点で観血的処置を施す.(2)患者が流涙を自覚しない程度のわずかな漏出であれば非観血的処置を施し,改善を認めない場合に観血的処置を施す.(3)観血的処置ではCdirectCsutureやCcompressionCsutureなどの縫合,あるいは結膜前転,保存強膜移植,ACTを漏表2眼圧の経過症例AMT直近のCTLEAMT直近のCneedling緑内障手術後のCleakingblebAMTの術後術前術後術前術後確認時初回消失時最終消失時3カ月6カ月1年最終C1C22C5C–8C7C18C22C16C17C27C2C18C6C–9C11C19C20C20C17C19C3C18C6C26C8C10C4C20C8C11C9C8C4C22C4C23C10C6C13C13C20C17C19C10C5C48C4C–27C12C12C14C12C11C14C6C37<1C0C17C3C3C26C30C22C23C16C8C7C19C4C–25C11C16C14C-14C12C8C40不明不明C17不明C21C23C25C16C14C18AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.表3経過日数と追加処置経過日数(日)術後処置症例緑内障手術後のCleakingbleb確認時漏出確認.AMT最終的な漏出消失確認AMT後leakingblebに対する処置直近CTLE直近CneedlingC1C5C-27C57結膜縫合C2C4C-12C32C-3C-13C24C36C-4C-6C8C9結膜縫合C5C3C-21C68C-6C-3C9C15結膜縫合C7C1C-25C29結膜縫合×2再CAMTC8C-8C25C22C-AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.CACT=自己結膜移植図4Early.onsetのleakingblebに対する当院での治療方針出の状態に応じて施し,それでも消失を認めない場合にはフラップ縫合で漏出を止めて別の位置で濾過手術を施すか,AMT併用のCrevisionを施す.本研究の対象となったCTLE施行のC1,664眼のうちのCear-ly-onsetのCleakingblebに対する最終手段としてCAMT併用のCrevisionを施行したC8眼の結果は,全症例でCAMT併用のCrevision後に一時的にCleakingCbleb再発を認め,1眼で羊膜再移植,3眼で観血的処置,4眼で経過観察の後,最終的には全例で消失を認めた.術後の一時的なCleakingbleb再発の理由としては,各症例において羊膜の機械的な裏打ちのみでは結膜が脆弱であったためと考えられる.しかしながら,最終的に全例でCleakingblebが消失したのは,羊膜のもつ抗炎症・抗瘢痕化作用や結膜上皮の分化促進作用が奏効したものと推定される.術後の眼圧についてはCleakingbleb消失の確認時,術後C3カ月後,術後半年後,術後C1年後の段階でそれぞれの平均値がC18.9CmmHg,18.1CmmHg,16.4CmmHg,14.7CmmHgと比較的良好であったと評価できる.しかしながら,後に眼圧コントロールが不良となったため追加の緑内障手術を要した症例が半数のC4例であった.その内訳は,TLE:2眼,バルベルト緑内障インプラント術:1眼,トラベクトーム手術:1眼であった.結膜瘢痕化症例に対するCAMT併用のCTLEによって長期の眼圧経過でも最終的にコントロールが得られた例が多かったとする報告17)がある一方で,化学熱傷や外傷,薬剤障害,感染症などを原因とする難治で重篤な角膜不全(後に水疱性角膜症を発症したため全層角膜移植術を施行した症例などを含む)を合併した緑内障に対するCAMT併用のCTLEの成績に関しては,術後長期の経過で眼圧のコントロールが悪化したケースが認められたとの報告18)もあり,より難治な症例ほどCAMT併用のCTLEやCrevisionのみでは長期経過での眼圧コントロールが不十分となり,追加の処置や手術などが必要となる可能性が示唆されている.最近,当院ではハイリスク症例に初回手術の際に結膜の裏打ちとしてCTenon.を前転し,より広範な濾過胞が形成されるように工夫している.今回の羊膜の設置方法は,全例で羊膜上皮が強膜側を向くように強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い結膜創に羊膜を挟みこんだが,結膜縫合においては全C9回のCAMT(1眼の再移植を含む)のうち,単純に結膜同士を縫合して閉創可能であった症例がC4眼,結膜創が大きく別部位から結膜を採取してパッチとして使用した症例がC4眼,結膜創が大きいものの別部位を含め結膜の状態が非常に悪く,次善の策として結膜-羊膜を縫合し,羊膜が一部露出した状態となった症例がC1眼であった.最終的には羊膜が露出した状態となった1例も含め,全例で最終的なCleakingblebの消失を認めたことからどの術式も有効性が認められるが,結膜の状態に応じて三つの術式を使い分けることがより妥当であると考えられる.また本研究ではCAMT前に4.7回の結膜縫合を行ったが,leakingblebの改善を認めなかった症例がC3例あり,術後C3回目までの結膜縫合やCACTでCleakingblebの改善を認めない場合は,早期に積極的なCAMTを検討すべきであると考えられる.本研究の問題点,限界は,同一術者による統一された手術方法ではなかったこと,症例数がC8例C8眼と母数が小さいこと,難治となった原因としての患者背景が症例ごとに異なること,などがあげられる.CIVまとめTLE後Cearly-onsetにCleakingblebを発症した難治のC8例8眼に対してCAMT併用のCrevisionを施行し,一過性のleakingCbleb再発を認めたものの最終的に全例で消失した.今後,より多くの症例に対して詳細な検討が必要であり,AMTを併用しないCrevisionとの比較検討が重要な課題であると思われる.文献1)Troensegaard-HansenE:Amnioticgraftsinchronicskinulceration.LancetC255:859-860,C19502)BennettJP,MatthewsR,FaulkWP:Treatmentofchron-iculcerationofthelegswithhumanamnion.LancetC315:C1153-1156,C19803)DuaCHS,CGomesCJA,CKingCAJCetCal:TheCamnioticCmem-braneCinCophthalmology.CSurvCOphthalmolC49:51-77,C20044)KimCJC,CTsengCSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.CorneaC14:473-484,C19955)TsubotaCK,CSatakeCY,COhyamaCMCetCal:SurgicalCrecon-structionoftheocularsurfaceinadvancedocularcicatri-cialCpemphigoidCandCStevens-JohnsonCsyndrome.CAmJOphthalmolC122:38-52,C19966)ShehaCH,CKheirkhahCA,CTahaCH:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCforCrefractoryglaucoma.JGlaucomaC17:303-307,C20087)SarnicolaCV,CMillacciCC,CToroCIbanezCPCetCal:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCfailedCtrabeculectomy.CJGlaucomaC24:154-160,C20158)FujishimaH,ShimazakiJ,ShinozakiNetal:Trabeculec-tomywiththeuseofamnioticmembraneforuncontrolla-bleglaucoma.OphthalmicSurgLasersC29:428-431,C19989)森川恵輔:先進医療として実施された羊膜移植の適応と有効性.日眼会誌120:291-295,C201610)JiCQS,CQiCB,CLiuCLCetCal:ComparisonCofCtrabeculectomyCandtrabeculectomywithamnioticmembranetransplanta-tionCinCtheCsameCpatientCwithCbilateralCglaucoma.CIntJOphthalmolC6:448-451,C201311)樋野景子,森和彦,外園千恵ほか:羊膜移植併用線維柱帯切除術を施行した薬剤性偽眼類天庖瘡のC1例.日眼会誌C110:12-317,C200612)BauerCD,CWasmuthCS,CHennigCMCetCal:AmnioticCmem-branetransplantationinducesapoptosisinTlymphocytesinCmurineCcorneasCwithCexperimentalCherpeticCstromalCkeratitis.InvestOphthalmolVisSciC50:3188-3198,C200913)HeH,LiW,ChenSYetal:SuppressionofactivationandinductionCofCapoptosisCinCRAW264.7CcellsCbyCamnioticCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:4468-4475,C200814)HeCH,CLiCW,CTsengCDYCetCal:BiochemicalCcharacteriza-tionandfunctionofcomplexesformedbyhyaluronanandtheCheavyCchainsCofCinter-a-inhibitor(HC・HA)puri.edCfromextractsofhumanamnioticmembrane.JBiolChem284:20136-20146,C200915)EspanaEM,HeH,KawakitaTetal:Humankeratocytesculturedonamnioticmembranestromapreservemorphol-ogyCandCexpressCkeratocan.CInvestCOphthalmolCVisCSciC44:5136-5141,C200316)KiuchiCY,CYanagiCM,CNakamuraCT:E.cacyCofCamnioticCmembrane-assistedCblebCrevisionCforCelevatedCintraocularCpressureafter.lteringsurgery.ClinOphthalmolC4:839-843,C201017)山田裕子:羊膜移植併用緑内障手術.あたらしい眼科C28:C827-828,C201118)MoriCK,CIkedaCY,CMaruyamaCYCetCal:AmnioticCmem-brane-assistedCtrabeculectomyCforCrefractoryCglaucomaCwithcornealdisorders.IntMedCaseRepJC9:9-14,C2016***

無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1191.1195,2017c無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績宮平大輝與那原理子新垣淑邦酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座COutcomesofSurgicalRevisionforAvascularFilteringBlebHirokiMiyahira,MichikoYonahara,YoshikuniArakakiandHiroshiSakaiCOphthalmology,UniversityoftheRyukyus目的:無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績を報告する.対象:琉球大学医学部附属病院において,2011年10月.C2015年C9月に線維柱帯切除術後の無血管濾過胞に対し濾過胞再建術を施行した連続症例C8例C8眼.7眼で濾過胞漏出を,2眼で濾過胞感染を合併していた.方法:手術はC1眼で無血管濾過胞下にCTenon.被覆を,1眼は濾過胞除去+結膜縫合を,6眼は濾過胞除去+結膜円蓋部減張切開+自家結膜有茎弁移植を行った.結果:術後経過観察期間は12.48カ月(平均C24.8カ月).術前眼圧はC4.16mmHg(7.6C±4.3mmHg),緑内障点眼数はC1.9C±1.2であった.Tenon.被覆を行ったC1眼と,濾過胞除去と減張切開併用結膜被覆を行ったC6眼で術後有血管性濾過胞が形成された.濾過胞除去と結膜被覆のみを行ったC1眼では濾過胞は消失した.濾過胞漏出再発はなく,最終観察時眼圧はC8.18mmHg(13.5C±2.8CmmHg),点眼数C2.1C±1.1であった.結論:無血管濾過胞に対する濾過胞再建術により濾過胞漏出は解消され,眼圧もコントロールされた.結膜円蓋部減張切開を併用した結膜被覆術は,濾過胞を維持する有効で安全な方法である.CPurpose:Toreportthesurgicalresultsofblebrevisionforleakingavascularblebaftertrabeculectomy.Sub-jects:EightCconsecutiveCeyesCofC8CpatientsCwhoChadCundergoneCtrabeculectomyCdevelopedCleakingCavascularCblebCorblebitis.Methods:Sixeyesunderwentblebremoval+autologousconjunctivatransplantationwithrelaxinginci-sion.CTennon’sCcapsuleCtransplantationCorCsimpleCconjunctivaCsuturingCwereCperformedCinCtheCotherC2Ceyes.CResults:PreoperativeCintraocularCpressure(IOP)wasC7.6C±4.3CmmHg,CtreatedCwithC1.9±1.2Canti-glaucomaCeye-drops.Inanaverageof24.8months’(range12-48)follow-upperiod,IOPwascontrolledwithin8-18CmmHg(13.5C±2.8)withC2.1±1.1Canti-glaucomaCeyedrops.CVascularCblebCwasCobservedCinC7Ceyes,Cexcepting1CeyeCthatCreceivedCsimplesuturing.Conclusions:Surgicalblebrevisionforavascularblebise.ectiveandsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1191.1195,C2017〕Keywords:線維柱帯切除術,無血管濾過胞,濾過胞漏出,濾過胞炎,結膜移植.trabeculectomy,avascularbleb,leakingbleb,blebitis,autologousconjunctivatransplantation.Cはじめに緑内障は世界において失明原因の第C2位1),日本において視力障害の原因の第C1位2)とされている.治療法として眼圧下降療法の有用性が示されており,開放隅角緑内障に対しては薬物治療が第一選択とされるが,眼圧コントロールが不十分な症例には手術が行われる.手術による眼圧下降療法としてはレーザー線維柱帯形成術,流出路再建術,線維柱帯切除術や深層強膜切除術などの濾過手術,緑内障インプラント手術などがある.なかでも,マイトマイシンCC(MMC)併用線維柱帯切除術(trabeclectomy:TLE)は,確実な眼圧下降によりわが国において標準術式として広く行われている3).一方,TLEにはさまざまな合併症が存在することが知られている.浅前房・前房消失,濾過胞漏出,脈絡膜.離,巨大濾過胞,悪性緑内障,上脈絡膜出血,線維柱帯切除部の閉鎖,encapsulatedCbleb,角膜乱視,中心視野消失,過剰濾過,濾過胞漏出,低眼圧黄斑症,濾過胞感染,白内障,over-hangingbleb,眼瞼下垂,角膜乱視の増加などのさまざまな合併症のなかでも,濾過胞感染および術後眼内炎は失明の可〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学医学部眼科医局Reprintrequests:HiroshiSakai,Ophthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN表1濾過胞漏出に対する保存的加療の報告治療方法Cn成功寧(%)合併症ソフトコンタクトレンズ7)C15C80ドライアイ(6.7%)CSimmons’shell8)C5C80C.フィブリン糊9)C12C75記載なしシアノアクリレート9)C8C37.5記載なし自己血清点眼10)C42C42.1C.自己血濾過胞内注入11)C12C58.3前房出血(58.3%)全眼球炎(8.3%)ヒアルロン酸CNa濾過胞内注入12)C2C100C.トリクロロ酢酸による焼灼13)C3C100C.Nd:YAGレーザー14)C14C57.1医原性漏出(42.9%)虹彩収縮(42.9%)高眼圧(7.1%)Argonレーザー15)C15C86.7医原性穿孔(20%)角膜実質混濁(6.7%)表2濾過胞漏出に対する手術療法の報告(海外,国内)術式Cn術後眼圧(mmHg)緑内障手術追加漏出再発濾過胞感染発症49C13.8±4.8C2C..上方結膜前方移動16.18)C34C14.08±7.36C1C1C1C海外濾過胞切除+遊離結膜弁19)C羊膜移植18)C強膜移植20)C15C58C15C15C12.7±1.3C12.67±4.83C10.9±0.9C14.1±3.3C3C2C3C.1C3C4C..1.1濾過胞焼灼+遊離結膜弁21)C47C11.9±4.1C.2C.国内濾過胞切除+上方結膜前方移動22)C遊離結膜弁23)C337.1C5C6.1C6C……Tenon.遊離移植24)C54.1C4C.1C.濾過胞切除または温存+羊膜移植25)C211.1C5C…濾過胞拡大+compressionsuture26)C21.9C…能性のある重篤な合併症と考えられている.最近,日本においてCTLE術後の濾過胞感染症の発症頻度を研究する前向きの多施設前向き研究CCollaborativeCBleb-relatedCInfectionIncidenceCandCTreatmentCStudy(CBIITS)が行われ,TLE術後の濾過胞感染症の発症率はC5年間で累積C2.0C±0.5%と報告された4).TLE術後の濾過胞感染症の実態を調査する多施設調査研究CJapanGlaucomaSocietySurveyofBleb-relatedInfection(JGSSBI)では,開放隅角緑内障眼の術後濾過胞感染における失明率は全濾過胞関連感染においてC16%,眼内炎を発症した場合にはC44%と報告されている5).筆者らは当院において硝子体手術を必要とした重症濾過胞感染症例の視力予後の検討を行い,失明率がC70%(10眼中C7眼)と高率であることを報告した6).TLE術後の濾過胞感染の危険因子として濾過胞漏出の既往が示されており,CBIITSによれば術後C5年間での発症率は濾過胞漏出の既往がある場合C7.9C±3.1%であり,既往のない場合C1.7C±0.4%の約C5倍である4).濾過胞漏出に対する治療としてさまざまな方法が報告され1192あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017ている.手術以外の保存的方法には,濾過胞内に物質を注入する方法と濾過胞を被覆する方法がある.(表1)7.15)有効率の低さ,治療後の重篤な合併症の可能性も報告されており,菲薄化した濾過胞が残存するという根本的な問題点も存在する.手術加療には大きく分けて二つの方法がある.一つは濾過胞を拡大させ,濾過胞にかかる内圧を減少させることにより漏出を止める方法,もう一つは濾過胞を自家組織(結膜,Tenon.)や生体材料(羊膜,ドナー強膜)を用いて被覆する方法である.表2に国外,国内から報告されている手術方法およびその術後眼圧,緑内障手術追加,漏出再発,濾過胞感染発症などの術後成績を示す16.26).わが国においては過剰濾過に対する濾過胞再建術の術後成績の報告は比較的少ない.今回,筆者らは当院で行った濾過胞再建術の経過についてその術式を含めて報告する.CI対象および方法対象:2011年C10月.2015年C9月に,濾過手術後に無血(118)術前術後術前術後図1濾過胞再建術前(a,c,e,g,i,k,m,o,q)および術後(b,d,f,h,j,l,n,p,r)濾過胞の細隙灯顕微鏡写真および前眼部OCT写真(o,p)Ca,b:症例1,Cc,d:症例2,Ce,f:症例3,Cg,h:症例4,Ci,j:症例5,Ck,l:症例6,Cm,n,o,p,:症例7,Cq,r:症例8.C管濾過胞を呈し濾過胞再建術を行った全症例C9例C9眼.このうち,無血管濾過胞に広範な強膜壊死と眼内炎を生じ,緊急で姑息的に結膜被覆術を行ったC1症例(図1a,b)を除外したC8例C8眼を解析対象とした.1例のみ通院自己中断があり,その他C7例はC2016年C9.11月が最終診察で,現在術後C1.5年の経過観察中である.観察期間はC12.48カ月,平均C24.8カ月であった.濾過手術の術式はすべて線維柱帯切除術であり,1例を除いてCMMCを併用していた.術前背景,術後眼圧,術後点眼,術後濾過胞の経過について検討した.術式:濾過胞再建術はCTenon.または結膜+Tenon.の自家移植または縫合で行った.1例では濾過胞は切除せずにTenon.を輪部側へ進展させ無血管濾過胞の下の強膜に10-0ナイロン糸で縫着した(症例C1,図1c,d).7例では無血管濾過胞を切除した.このうち,1例では,強膜弁縫合と10-0ナイロン糸により周辺結膜を寄せて縫合する結膜縫合のみを行った(症例2,図1e,f).6例(症例3.8,図1i.t)で円蓋部で結膜のみを減張切開し,Tenon.を伸展させ結膜を角膜輪部へC7-0バイクリル糸で縫合する有茎弁移植を施行した.後方の結膜を寄せて角膜輪部をC10-0ナイロン糸にて縫合した.輪部へと寄せるための円蓋部結膜の減張切開は1.3列,すだれ状に行いCTenon.を伸展させ,結膜を角膜輪部へC7-0バイクリル糸で縫合する有茎弁移植(図2)を施行した.円蓋部結膜減張切開部は縫合や被覆は行わず,abc図2濾過胞切除術+減張切開併用結膜有茎弁移植術a:濾過胞切除+円蓋部結膜減張切開(灰色線).b:結膜減張切開のさらに円蓋部側に結膜切開をすだれ状に追加.Cc:結膜弁を前方移動させ輪部にC7-0バイクリル糸で縫合,円蓋部CTenon.は露出(斜線).Tenon.が露出した状態で手術を終了した.このC6例のうちC1例では強膜弁縫合を追加し,1例では同時手術として白内障手術を行った.CII結果全C8症例の術前,術後の細隙灯顕微鏡写真および症例C7の術前および術後の前眼部COCT所見を図1に示す.Tenon.移植した症例C1と,結膜有茎弁移植を行った症例C3.8において術後も丈のある濾過胞が維持された.濾過胞再建術前,術後の視力,眼圧,薬剤数(1薬C1点,アセタゾラミド内服2点),術後濾過胞の有無,術後の濾過胞漏出の有無を表3に示す.術後に矯正視力が術前からC2段階以上の視力低下を表3術前,術後患者背景と所見MMC発症までの術前濾過胞性状濾過胞術後術前術後術前眼圧術後最終術前術後術後術後症例年齢性別緑内障病型C観察眼圧濾過胞濾過胞(0.04%)期間(年)丈血管漏出C感染期間視力視力(mmHg)(mmHg)点眼数点眼数の有無漏出1C70CM血管新生緑内障5分C10.3ありなしありなしC14C0.04C0.01C4C13C1C3ありなしC2C75CMCPOAG5分C4.0ありなしなしありC48C0.01手動弁C4C15C2C3なしなしC3C68CMCPOAG3分30秒C4.0ありなしありありC37C0.7C0.9C4C12C4C3ありなしC4C56CMぶどう膜炎続発4分20秒C8.4ありなしありなしC31C0.9C1.2C6C14C2C1ありなしC5C56CM血管新生緑内障不明約8ありなしありなしC22C0.03C0.06C16C16C3C3ありなしC6C72CM落屑緑内障5分C0.8ありなしありなしC19C0.5C0.7C6C8C0C2ありなしC7C59CFCPACG4分C7.3ありなしありなしC15C0.04C0.03C10C14C2C0ありなしC8C57CM色素緑内障なしC26.4ありなしありなしC12C1.0C1.2C11C14C1C2ありなしPOAG:原発開放隅角緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.きたした症例はなかった.濾過胞再建後に水晶体再建術がC2眼に施行され,1例で術前C0.9が術後C1.2,1例で術前C0.5が術後C1.5に回復した.点眼数は術前平均C1.9,術後C2.1で統計的に差はなかったが,眼圧は術前平均C7.6C±4.3CmmHgからC13.5C±2.8CmmHgへと有意に上昇した(p=0.0032,対応のあるCt検定).術前眼圧はC6CmmHg以下の低眼圧がC5眼であったが,術後に低眼圧症例はなかった.術後に濾過胞漏出や感染をきたした症例はなく,眼圧上昇により緑内障手術の追加を要した症例もなかった.CIII考按濾過胞漏出に対してはさまざまな保存的療法が報告されており,当院においても過去に自己血注射,粘弾性物質の注入,レーザー光凝固などを施行してきた.しかしながら,その成績は既報のとおり満足のいくものではなかった.そのため,保存療法としては眼軟膏の点入などを行っているだけであった.また,濾過胞漏出への対応としては強膜フラップの縫合により濾過胞を完全に機能させなくすることが有効であると考えていたが,緑内障性視神経症の進行予防のためにはより低い眼圧が望ましいと考えられるため,こうした観血的手術の施行を行うことは非常にまれであった.しかしながら,TLE術後症例数の増加に伴い,当院においても術後感染症例は近年増加傾向である.筆者らも参加した全国的な多施設研究であるCCBIITSによれば,線維柱帯切除術後に濾過胞漏出のある濾過胞では術後C5年以内にC12.7人にC1人(7.9%)が感染性の眼内炎を発症する4).濾過胞漏出の発症時期は術後一定期間を経てからであることを考慮すると,漏出した濾過胞を呈して眼が数年以内に濾過胞感染を引き起こす可能性は十分に高いことが認識できる.また,硝子体手術を必要とする重症濾過胞感染症例の視力予後が失明率C70%(10眼中C7眼)と不良であったこと6)を考慮すると,濾過胞漏出に対して再建術を行うことを検討しなければならない.濾過胞再建術は,海外から比較的多数例の報告があるが,わが国においてその報告は少ない.眼圧下降が得られている濾過胞に対して侵襲を加えることにより濾過効果が失われ,眼圧上昇,緑内障性視神経症が進行することには懸念がある.一方で,TLE術後眼内炎の頻度は高く,予後不良であることから治療の必要性は高い.わが国において濾過胞漏出に対する再建術の報告が少ない理由の一つとしては,日本人では西洋人よりも術後瘢痕の形成が強いと推定されていることがあるだろう.加えて,沖縄県住民は眼球構造が小さく27),濾過胞形成の条件はさらに不利であることが推定される.結膜円蓋部も浅く濾過胞形成に不利である眼に形成された濾過胞に侵襲を加えるためには,濾過胞再建術の成績を検討する意義は大きい.今回,筆者らがC4年間に行った濾過胞再建術の成績は,おおむね海外からの報告どおり良好であった.また,筆者らは結膜.が狭い症例への対応のための必要性から結膜円蓋部の減張切開をC5眼に施行したが,結果として濾過胞圧の軽減と術後濾過胞の維持に貢献した可能性がある.円蓋部の結膜を大きく無縫合にする術式であり濾過胞漏出や結膜被覆不全も懸念されたが,Tenon.により濾過胞漏出はなく,結膜上皮欠損部は上眼瞼結膜上皮にシールドされて結膜上皮の増殖による被覆に問題が起きた症例もなかった.今回の検討はC8眼と少なく,最小経過観察期間がC1年と短いことは本研究の限界である.過去の報告にあるように濾過胞漏出の再発,眼内炎の発症,眼圧上昇による緑内障手術の追加の可能性については今後とも経過観察を行いたい.結論として,TLE後の濾過胞漏出漏出に対する濾過胞再建術は安全で有効な方法であり,減張切開を併用する結膜有茎弁移植濾過胞維持の可能な術式である.濾過胞感染の発症率の高さを考慮すると,TLE術後に濾過胞漏出が出現した場合濾過胞再建術を検討する必要がある.文献1)WorldCHealthCOrganization.CVisualCimpairmentCandCblind-ness,FactsheetNo.282.April2011.Availableat:http://Cwww.who.int/mediacentre/factsheets/fs282/en/.CAccessedAugust6,20112)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患─最近の視覚障害原因の疫学調査から.GeriatricCMedicineC44:1221-1224,C20063)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C116:3-46,C20124)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafter.lteringsurgerieswithadjunctivemitomycinC.col-laborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreatmentCstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)YamamotoT,KuwayamaY,NomuraEetal:ChangesinvisualCacuityCandCintra-ocularCpressureCfollowingCbleb-relatedCinfection:theCJapanCGlaucomaCSocietyCSurveyCofCBleb-relatedCInfectionCReportC2.CActaCOphthalmolC91:Ce420-e426,C20136)宮平大輝,新垣淑邦,與那原理子ほか:琉球大学眼科における重症濾過胞炎の臨床的特徴と経過,眼科手術C30:335-340,C20177)BlokCMD,CKokCJH,CvanCMilCCCetCal:UseCofCtheCMegasoftCBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabec-ulectomy.AmJOphthalmolC110:264-268,C19908)RudermanCJM,CAllenCRC:SimmonsC’CtamponadeCshellCforCleaking.ltrationblebs.ArchOphthalmolC103:1708-1710,C19859)AsraniSG,WilenskyJT:Managementofblebleaksafterglaucoma.lteringsurgery.Useofautologous.brintissueglueasanalternative.OphthalmologyC103:294-298,C199610)MatsuoCH,CTomidokoroCA,CTomitaCGCetCal:TopicalCappli-cationofautologousserumforthetreatmentoflate-onsetaqueousCoozingCorCpoint-leakCthroughC.lteringCbleb.CEyeC19:23-28,C200511)LeenCMM,CMosterCMR,CKatzCLJCetCal:ManagementCofCover.lteringCandCleakingCblebsCwithCautologousCbloodCinjection.ArchOphthalmolC113:1050-1055,C199512)出口香穂里,横山知子,木内良明:線維柱帯切除術後早期の濾過胞からの房水漏出に対し高分子量ヒアルロン酸ナトリウム高濃度製剤の濾過胞内注入を行ったC2例.あたらしい眼科C26:969-972,C200913)GehringCJR,CCiccarelliCEC:TrichloraceticCacidCtreatmentCof.lteringblebsfollowingcataractextraction.AmJOph-thalmolC74:622-624,C197214)GeyerCO:ManagementCofClarge,Cleaking,CandCinadvertant.lteringblebswiththeneodymium:YAGlaser.Ophthal-mologyC105:983-987,C199815)HennisCHL,CStewartCWC:UseCofCtheCargonClaserCtoCcloseC.lteringCblebCleaks.CGraefesCAuchCClinCExpCOphthalmolC230:537-541,C199216)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200417)Al-ShahwanS,Al-TorbakAA,Al-JadaanIetal:Long-termCfollowCupCofCsurgicalCrepairCofClateCblebCleaksCafterCglaucomaC.lteringCsurgery.CJCGlaucomaC15:432-436,C200618)RauscherCFM,CBartonCK,CBudenzCDLCetCal:Long-termCoutcomesofamnioticmembranetransplantationforrepairofCleakingCglaucomaC.lteringCblebs.CAmCJCOphthalmolC143:1052-1054,C200719)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:OutcomesofblebexcisionCwithCfreeCautologousCconjunctivalCpatchCgraftingCforCblebCleakCandChypotonyCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.JGlaucomaC20:392-397,C201120)HarizmanCN,CBen-CnaanCR,CGoldenfeldCMCetCal:DonorCscleralpatchfortreatinghypotonyduetoleakingand/orover.lteringblebs.JGlaucomaC14:492-496,C200521)HarrisCLD,CYangCG,CFeldmanCRMCetCal:AutologousCcon-junctivalCresurfacingCofCleakingC.lteringCblebs.COphthal-mologyC107:1675-1680,C200022)木内良明,梶川哲,追中松芳ほか:房水が漏出する濾過胞(Leakingbleb)の再建術.眼科C39:667-672,C199723)岡部純子,木村英也,野崎実穂ほか:房水漏出を認める濾過胞に対する遊離結膜弁移植.臨眼C55:545-549,C200124)山内遵秀,澤口昭一,江本宜暢ほか:Tenon.移植による漏出濾過胞再建術.あたらしい眼科C25:557-560,C200825)椋野洋和,金森章泰,瀬谷隆ほか:晩発性濾過胞漏出に対する羊膜を用いた濾過胞再建術.臨眼C57:1699-1704,C200326)三浦聡子,臼井審一,多田明日美ほか:強膜弁直上に漏出点がある場合の新しい濾過胞再建術を施行したC2症例.眼臨紀C7:174-178,C201427)鯉淵浩,早川和久,上原健ほか:沖縄県久米島住民の前眼部生体計測.日眼会誌C97:1185-1192,C1993

抗血栓療法の線維柱帯切除術における周術期の影響

2015年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(12):1757.1761,2015c抗血栓療法の線維柱帯切除術における周術期の影響辻拓也竹下弘伸山本佳乃嵩翔太郎山川良治久留米大学医学部眼科学講座PerioperativeImpactsofAntithromboticTherapyinTrabeculectomyTakuyaTsuji,HironobuTakeshita,YoshinoYamamoto,ShotaroDakeandRyojiYamakawaDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine目的:線維柱帯切除術において,抗血栓薬の内服の有無による影響について検討した.対象および方法:2008年4月.2012年12月に,初回線維柱帯切除術(白内障同時手術を含む)を施行した130例143眼.年齢は平均68.9±10.8歳,術後観察期間25.4±14.9カ月.対象を抗血栓薬内服群と非内服群に分類し,術後の経過について後ろ向きに検討した.抗血栓薬内服群は全症例が術前に休薬して手術を行った.結果:抗血栓薬内服群25例27眼,非内服群105例116眼であった.眼圧のコントロールについては,24カ月の時点では両群に有意差はなかった.術中・術後の合併症では,前房出血が内服群9眼(33.3%),非内服群15眼(12.9%)で有意であった.前房洗浄が必要となった2眼は内服群の症例であった.結論:線維柱帯切除術において,抗血栓薬を休薬しても術後前房出血に注意すべきと考えられた.Purpose:Toevaluateantithrombotictherapyintrabeculectomy.Subjectsandmethods:Thisstudyincluded143eyesof130patientswhounderwentprimarytrabeculectomyortrabeculectomycombinedwithcataractsurgerybetweenApril2008andDecember2012.Meanagewas68.9±10.8years.Meanfollow-upperiodwas25.4±14.9months.Patientswereclassifiedintoantithromboticgroupandnon-antithromboticgroup.Surgicaloutcomeswereretrospectivelyevaluated.Antithrombotictherapywasdiscontinuedbeforetrabeculectomy.Results:Theantithromboticgroupincluded27eyesof25patients.Thenon-antithromboticgroupincluded116eyesof105patients.Therewasnosignificantdifferencebetweenthegroupsintermsofintraocularpressurecontrolat24months.Theincidenceofhyphemawassignificantlygreaterintheantithromboticgroup(9eyes,33.3%)thaninthenon-antithromboticgroup(15eyes,12.9%)(p=0.01).Anteriorchamberwashoutwasrequiredin2eyesoftheantithromboticgroup.Therewerenosignificantdifferencesinothercomplicationsbetweenthegroups.Conclusion:Hyphemacouldoccuraftertrabeculectomy,evenduringdiscontinuationofantithrombotictherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1757.1761,2015〕Keywords:線維柱帯切除術,抗血栓療法,合併症,眼圧コントロール.trabeculectomy,antithrombotictherapy,complications,controlofintraocularpressure.はじめに手術の周術期における抗血栓薬管理は,日常臨床でしばしば問題となる1,2).抗血栓薬は,抗凝固薬と抗血小板薬に分類され,休薬すれば観血的処置時の止血操作は容易になると期待されるが,血栓・塞栓性疾患発症のリスクは高くなる.一方,抗血栓薬継続下で処置を行えば,血栓・塞栓症発症のリスクを上げることはないが,術中の止血操作が困難になる可能性がある3).眼科手術と抗血栓療法については,近年いろいろ議論されるようになってきた3.7).とくに抗血栓薬内服患者の緑内障手術では,周術期の出血性合併症の頻度が高くなるという報告8.12)がある.当院においては抗血栓薬を内服している場合,原則として休薬して緑内障手術を行っている.今回,線維柱帯切除術の手術成績を抗血栓薬療法の有無で検討した.I対象および方法2008年4月.2012年12月に,久留米大学病院眼科にて初回線維柱帯切除術(白内障同時手術を含む)を施行した〔別刷請求先〕辻拓也:〒830-0011福岡県久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuyaTsuji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1757 表1おもな抗凝固薬・抗血栓薬の術前投与休止期間危険率5%未満を有意差ありとした.おもな商品名休止期間(術前)ワーファリンRII結果5日プラビックスR14日内服群は25例27眼,非内服群は105例116眼であった.パナルジンR7.14日症例背景を表2に示す.年齢,性別は両群間で有意差はなバイアスピリンR,バファリンR7.10日エパデールR7.10日く(Wilcoxonsigned-ranktest),各病型も両群間に有意差プレタールR1.4日はなかった(c2検定).抗血栓薬の種類は抗血小板薬20眼,ペルサンチンR1.2日抗凝固薬4眼,抗血小板薬+抗凝固薬3眼であった.アンプラーグR1.2日全身既往症は,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患,脳梗塞,不ドルナーR,プロサイリンR1.2日オパルモンR,プロレナールR1日整脈の割合が内服群で有意に高かった.眼圧の経過を図1に示す.平均眼圧(内服群/非内服群)は,術前30.93±7.80mmHg(n=27)/31.42±6.78mmHg(n130例143眼(男性75眼,女性68眼)を対象とした.年齢=116),術後6カ月12.12±3.97mmHg(n=25)/13.39±は平均68.9±10.8歳,術後観察期間は平均25.4±14.9カ月5.33mmHg(n=113),術後12カ月12.68±3.80mmHg(n(3.60カ月).病型の内訳は,落屑緑内障46眼,続発緑内=22)/13.84±5.88mmHg(n=96),術後24カ月10.18±障40眼,原発開放隅角緑内障35眼,血管新生緑内障17眼,3.74mmHg(n=11)/13.54±5.70mmHg(n=56)であった.原発閉塞隅角緑内障3眼,発達緑内障2眼であった.続発緑両群とも術前と比較して術後24カ月まで有意に眼圧は下降内障はぶどう膜炎や他の眼疾患,全身疾患あるいは薬物使用した(Wilcoxonsigned-ranktest).また,術前および術後が原因となって眼圧上昇が生じた緑内障で,落屑緑内障,血12カ月まで両群間の眼圧値に有意差はなかった(Mann管新生緑内障を除いたものとした.続発緑内障は,ぶどう膜WhitneyUtest).炎による緑内障25眼,硝子体手術・白内障手術後の緑内障薬剤スコアの経過を図2に示す.平均薬剤スコア(内服群10眼,外傷後の緑内障2眼,虹彩角膜内皮症候群2眼,ス/非内服群)は,術前5.08±0.85点(n=27)/5.05±1.02点(nテロイド緑内障1眼であった.=114),術後6カ月は0.40±1.11点(n=25)/0.66±1.17点対象症例を抗血栓薬を内服している患者で術前に休薬した(n=113),術後12カ月0.59±1.22点(n=22)/0.96±1.34症例(以下,内服群)と,抗血栓薬をもともと内服していな点(n=96),術後24カ月0.46±1.21点(n=11)/1.10±1.41い症例(以下,非内服群)に分類して検討した.内服群は全点(n=11)であった.両群とも術前と比較して術後24カ月症例で休薬可能かを処方医に確認し,適切な休薬期間5,7)(表まで有意に薬剤スコアは減少し(Wilcoxonsigned-rank1)の後に手術を行った.test),両群間の薬剤スコアに有意差はなかった(Mann線維柱帯切除術の術式は,結膜を円蓋部基底で切開し,4WhitneyUtest).mm×4mmの表層強膜弁を作製した.0.04%マイトマイシ眼圧20mmHg以下でのKaplan-Meier生命表を用いた群ンCを結膜下・強膜弁下に3.4分塗布後,生理食塩水100別の累積生存率を図3に示す.内服群の生存率は,術後6カmlで洗浄した.深層に強膜トンネルを作製し,線維柱帯を月96.3%(n=25),術後12カ月96.3%(n=22),術後24カ含む強角膜片を切除後,周辺虹彩切除を行った.表層強膜弁月90.3%(n=11)であった.非内服群の生存率は,術後6を10-0ナイロン針にて4.5糸縫合した後,結膜を10-0ナカ月93.9(n=111),術後12カ月93.9%(n=93),術後24イロン針にて縫合した.術後,浅前房,脈絡膜.離など過剰カ月89.1%(n=53)であり,両群間に有意差はなかった濾過が生じた症例には,圧迫眼帯などを行った.眼圧下降が(Log-ranktest,p=0.848).不十分な場合,濾過胞の丈が低い場合はレーザー切糸術を適術中・術後の合併症を表3に示す.出血性合併症として前宜施行した.房出血,硝子体出血,上脈絡膜出血を認めた.非内服群の2検討項目は,眼圧,薬剤スコア,生存率,術中・術後の合眼は,前房出血と硝子体出血,前房出血と上脈絡膜出血の重併症,追加処置とした.薬剤スコアは,緑内障点眼1剤1複例があった.出血性合併症の頻度は,内服群27眼中10点,炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.眼(37.0%),非内服群116眼中19眼(16.4%)と内服群に統計学的検討は,Wilcoxonsigned-ranktest,Mannおいて有意に高かった.とくに前房出血が非内服群16眼WhitneyUtest,c2検定,Fisher’sexacttestを用いた.生(13.8%),内服群9眼(33.3%)と内服群が有意に高かった存率はKaplan-Meier生命表法を用い,2回連続で20(c2検定).濾過胞漏出,脈絡膜.離は両群間に有意差はなmmHgを超えた時点,再手術を追加した時点を死亡と定義かった.また,内服群では抗血栓薬の休薬による全身的な血した.2群間の生存率の比較にはLog-ranktestを用いた.栓・塞栓症の発症はなかった.さらに抗血栓薬の種類と出血1758あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(126) 表2症例背景抗血栓薬内服群(内服群)抗血栓薬非内服群(非内服群)(n=27)(n=116)pvalue年齢(Mean±SD(years))69.5±11.068.8±10.90.77*性別(男性/女性)18/957/590.10*抗血栓薬抗血小板薬20抗凝固薬4抗血小板薬+抗凝固薬3病型0.34**原発開放隅角緑内障8(29.6%)27(23.3%)0.49**原発閉塞隅角緑内障03(2.6%)>0.99***落屑緑内障8(29.6%)38(32.4%)0.75**続発緑内障5(18.5%)35(30.2%)0.15**血管新生緑内障6(22.2%)11(9.5%)0.07**発達緑内障02(1.7%)>0.99***全身既往歴高血圧16(61.5%)42(35.9%)0.016**糖尿病13(50.0%)21(17.9%)<0.001**冠動脈疾患9(34.6%)2(1.7%)<0.001***脳梗塞5(19.2%)5(4.3%)0.009***不整脈4(15.4%)4(3.4%)0.03****Mann-WhitneyUtest,**c2test,***Fisher’sexacttest.眼圧(mmHg)4035302520151050非内服群内服群01234567薬剤スコア(点)非内服群内服群術前術後136121824術前術後1M361218観察期間(月)観察期間(月)図2薬剤スコア図1眼圧の経過両群とも術前に比べて有意に薬剤スコアの低下を認め,両群間両群とも術前眼圧に比較していずれの時点でも有意に下降した.両群を比較すると術前および術後12カ月まで両群間の眼圧値に有意差はなかった.表3合併症に有意な差はなかった.02040608010096.3%90.3%93.9%89.1%(%)非内服群内服群06121824抗血栓薬内服群抗血栓薬非内服群(内服群)(n=27)(非内服群)(n=116)pvalue出血性合併症前房出血硝子体出血上脈絡膜出血濾過胞漏出10(37.0%)9(33.3%)1(3.8%)0(0.0%)9(33.3%)19(16.4%)+16(13.8%)3(0.9%)2(1.7%)20(17.2%)0.016*0.016*0.57**0.5**0.06*脈絡膜.離6(22.2%)17(14.6%)0.33*+2眼重複あり,*c2test,**Fisher’sexacttest.図3Kaplan.Meier生命表を用いた眼圧コントロール率(20mmHg以下)両群間に有意差はなかった.観察期間(月)(127)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151759 表4抗血栓薬の種類と出血性合併症出血性合併症あり(n=10)出血性合併症なし(n=17)計pvalue抗血小板薬515200.065抗凝固薬2240.613抗血小板薬+抗凝固薬3030.041Fisher’sexacttest.性合併症について表4に示す.抗血小板薬+抗凝固薬において,出血性合併症3眼(100%),出血性合併症なし0眼(0%)と有意に高かった(Fisher’sexacttest).追加処置を表5に示す.出血性合併症に対する処置として,内服群の2眼(7.4%)で前房出血に対して前房洗浄を行った.非内服群で上脈絡膜出血を起こした2眼のうち1眼に対して脈絡膜下排液を行った.脈絡膜.離に対して圧迫眼帯で軽快し,追加処置はなかった.前房洗浄が必要になったのは,内服群の2眼であった.結膜縫合,ニードリングは両群間に有意差はなかった.III考按日本循環器学会が作成した「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)」では眼科領域では白内障手術については記述されているが,緑内障手術や硝子体手術などに対しては明記されていない3).白内障手術は,抗血小板療法継続下での白内障の手術時や手術後に出血を合併したとの症例報告もあるが,抗血栓薬を術前に休薬すると血栓症や塞栓症を発症する恐れがあることと,角膜と水晶体には血管がないため通常の白内障手術では出血しないことから,休薬せずに出血の少ない方法で手術するほうが安全であるとの意見が強いと述べられている.緑内障手術は,術後出血への対応が容易な場合のワルファリンや抗血小板薬内服継続下での体表の小手術あるいは出血性合併症が起こった場合の対処が困難な体表の小手術やペースメーカ植込み術での大手術に準じた対処にあたると考えられる.抗血栓薬内服による緑内障手術の報告として,Cobb8)は,抗凝固薬内服群と対照群の線維柱帯切除術後の前房出血において,抗凝固薬内服群は有意に前房出血の頻度が高く(抗凝固薬内服群55.0%,対照群28.0%),抗凝固薬使用の全例が著明な前房出血を生じたとしている.Law9)は,緑内障手術(線維柱帯切除術,チューブシャント手術)における抗血栓薬の出血性合併症(前房出血,上脈絡膜出血,硝子体出血)について報告している.その頻度は,抗血栓薬内服群347眼で10.1%,非内服群347眼で3.7%と内服群が有意に高いと報告しており,抗血栓薬内服は緑内障手術の出血性合併症を有意に増加させる結果であった.また,Kojimaら10)は,表5追加処置抗血栓薬内服群(内服群)(n=27)抗血栓薬非内服群(非内服群)(n=116)pvalue前房洗浄脈絡膜下液排液結膜縫合ニードリング2(7.4%)03(11.1%)3(11.1%)01(0.9%)9(7.8%)9(7.8%)0.035>0.9990.6990.699Fisher’sexacttest.抗血栓療法は線維柱帯切除術での前房出血の危険因子として報告している.本検討では前房出血が,内服群27眼中9眼(33.3%),非内服群116眼中16眼(13.8%),と内服群が非内服群に比べ有意に高く,Cobb8),Law9),Kojimaら10)の報告と同様に抗血栓薬内服は出血性合併症の頻度を増加させる可能性があると考えられた.術後の上脈絡膜出血については,今回上脈絡膜出血は非内服群に2例みられたが,内服群と有意差はなかった.Tuliら11)の2,285症例,Jaganathanら12)の2,252症例の検討では,抗血栓療法が上脈絡膜出血の危険因子と報告している.上脈絡膜出血については今後も症例数を増やして検討を要すると考えられた.休薬については,Lawら9)は,抗血栓薬を内服している群を,抗凝固薬内服,抗凝固薬・抗血小板薬両方内服群,抗血小板薬内服群に分け,それぞれ継続群と休薬群の6群に分け検討している.抗凝固薬内服の継続群における出血性合併症の割合は,21眼中7眼(33.3%)と他の群より有意に高く,またこの6群すべてが抗血栓薬を内服していない対照群よりも有意に高いと報告している.今回の検討では,抗血栓薬は全症例が休薬して手術を行い,抗血栓薬を継続して行った症例はなかった.術後の成績(眼圧,薬剤スコア,生存率)に有意差はなかったが,抗血栓薬内服を休薬しても,非内服群より出血性合併症の頻度が高く,前房洗浄の追加処置が必要となった症例があった.緑内障手術は長期に濾過効果を保つことが重要であり,他の内眼手術に比べ,周術期の出血性合併症が手術手技や術後の管理を困難にさせる可能性が示唆された.以上より,抗血栓薬を継続して線維柱帯切除術を行った場合,さらに出血性合併症が起こる可能性が高く,可能であれば術前に休薬して手術したほうが良いと考えられた.文献1)山崎由加里:眼科診療における抗血小板薬全身投与.臨眼56:141-146,20022)KatzJ,FeldmanMA,BassEBetal:Riskandbenefitsofanticoaglantandantiplateletmedicationusebeforecataractsurgery.Ophthalmology110:1784-1788,20031760あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(128) 3)循環器病の診断と治療に関するガイドライン:循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版).2008年度合同研究班報告4)松下知弘,山本禎子,菅野誠:増殖糖尿病網膜症患者の硝子体手術における抗凝固療法の術後合併症発生への影響.あたらしい眼科25:1157-1161,20085)喜多美穂里:眼科手術と抗血小板薬.日本の眼科80:33-34,20096)結城賢弥:トラベクレクトミー合併症のEBM.眼科手術25:33-37,20127)加藤聡:抗凝固薬・抗血小板薬内服中の内眼手術.日本の眼科84:34-35,20138)CobbCJ,ChakrabartiS,ChadhaVetal:Theeffectofaspirinandwarfarintherapyintrabeclectomy.Eye21:598-603,20079)LawSK,SongBJ,YuFetal:Hemorrhagiccomplicationfromglaucomasurgeryinpatientsonanticoagulationtherapyorantiplatelettherapy.AmJOphthalmol145:736-746,200810)KojimaS,InataniM,ShobayashiKetal:RiskfactorsforhyphemaaftertrabeclectomywithmitomycinC.JGlaucoma23:307-311,201411)TuliS,WuDunnD,CiullaTetal:Delayedsuprachoroidalhemorrhageafterglaucomafiltrationprocedures.Ophthalmology108:1808-1811,200112)JaganathanVS,GhoshS,RuddleJBetal:Riskfactorsfordelayedsuprachoroidalhaemorrhagefollowingglaucomasurgery.BrJOphthalmol92:1393-1396,2008***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151761

治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1201.1204,2015c治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例田川小百合*1陳進輝*1田川義晃*1新明康弘*1大口剛司*1木嶋理紀*1宇野友絵*1石嶋漢*1新田卓也*2南場研一*1石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2回明堂眼科・歯科ACaseofRefractorySecondaryGlaucomaAssociatedwithPsoriaticUveitisSayuriTagawa1),ShinkiChin1),YoshiakiTagawa1),YasuhiroShinmei1),TakeshiOhguchi1),RikiKijima1),TomoeUno1),KanIshijima1),TakuyaNitta2),KenichiNamba1)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Sapporo,Japan,2)Kaimeido-ophthalmologyanddentalclinic症例は45歳の男性で,10数年前より乾癬の診断を受け,数年前から両眼にぶどう膜炎による発作を繰り返し,プレドニゾロン内服とステロイド点眼治療を受けていた.繰り返す発作と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を受診,左眼眼圧のコントロール不良に対し,左マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した.術後数カ月間にわたる遷延性の低眼圧が持続したため,毛様体機能不全による房水産生能低下を考え,左強膜弁縫合術を行った.その後,左眼眼圧は落ち着いたが,半年後に右眼の続発緑内障をきたし,さらに左眼眼圧の再上昇をきたしたため,前回の経過を踏まえ,右眼に360°suturetrabeculotomy変法,左眼に240°trabeculotomy変法を施行した.右眼の眼圧は良好だったが,3カ月後に左眼眼圧が再上昇したため,左眼濾過胞再建術を追加した.その後は両眼とも眼圧が10mmHg前後と落ち着いている.A45-year-oldmalepatientwhohadbeendiagnosedwithpsoriasisformorethan10yearsandwhohadrecurrentattacksofbilateraluveitiswastreatedwithoralandtopicalsteroidsforseveralyearsatanotherfacility.Hewaslaterreferredtoourhospitalduetoelevatedintraocularpressure(IOP)inhislefteye,andwetreatedthateyebyperformingtrabeculectomywithmitomycinC.Postoperativeocularhypotonycontinuedforseveralmonthsafterthetrabeculectomy.Sincethereductionofaqueoushumorproductionappearedtocausetheocularhypotony,weperformedanadditionalsurgerytosuturethescleralflaptightly.Hisleft-eyeocularhypotonyrecovered,yet6-monthslaterbilateralocularhypertensionemerged.Therefore,weperformedamodified360-degreesuturetrabeculotomyonhisrighteyeandamodified240-degreetrabeculotomyonhislefteye.Asaresult,theIOPinhisrighteyewascontrolled,buttheIOPinhislefteyeincreasedagainafter3months,leadingtoblebreconstructionsurgeryofhislefteye.Consequently,theIOPinbotheyessettledatapproximately10mmHg.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1201.1204,2015〕Keywords:乾癬,ぶどう膜炎,続発緑内障,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術.psoriasis,uveitis,secondaryglaucoma,trabeculectomy,trabeculotomy.はじめに乾癬に伴うぶどう膜炎は,ときに前房蓄膿を伴う前房炎症型の発作を起こし,再発を繰り返すことが知られている1).今回筆者らは,乾癬に伴うぶどう膜炎の続発緑内障に対するマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術(LEC)後に,毛様体機能不全が原因と思われる持続性の低眼圧の症例を経験した.さらにその後両眼の高眼圧を呈したため,右眼に360°suturetrabeculotomy(S-LOT)変法を,左眼に240°のtrabeculotomy(LOT)を施行したので,その経過について報告する.I症例患者:45歳,男性.主訴:視曚感.〔別刷請求先〕田川小百合:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:SayuriTagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita-15,Nishi-7,Kita-ku,Sapporocity,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)1201 既往歴:高血圧症,頸椎圧迫骨折,骨粗鬆症,心筋炎(心不全にて入院加療歴あり),左眼眼内レンズ挿入眼.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:尋常性乾癬の診断を受けてから10数年,シクロスポリンで加療された.数年前に両眼の前部ぶどう膜炎を発症し,乾癬に伴うぶどう膜炎と診断された.その後はステロイド薬の内服と点眼にてコントロールされていたが,繰り返す眼炎症と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.3(0.8×.1.50D),左眼0.2(0.8×.1.25D(cyl.1.25DAx75°).眼圧は右眼13mmHg,左眼22mmHg(アセタゾラミド内服,0.1%ベタメタゾン点眼,緑内障点眼3剤点眼継続下).前眼部所見は右眼2+flare,2+cellsで,右眼のみ全周に虹彩後癒着があり,左眼は2.3+flare,2+cellsであった.隅角所見は,右眼に異常はなく広隅角.左眼は周辺虹彩前癒着が2カ所あり,Shaffer4,色素はScheieIIであった.中間透光体は右眼に軽度の核性白内障を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.右眼の視神経乳頭には緑内障性変化はみられなかったが,左眼は視神経乳頭陥凹比0.7の緑内障性変化を認めた.臨床経過:プレドニゾロン(PSL)5mg内服は継続とし,アセタゾラミド内服および抗緑内障点眼を追加したが,左眼眼圧が40.50mmHgと高眼圧を持続したため,術1週間前よりPSLを20mgへ増量し,左眼にMMC併用LECを施行した.術後矯正視力は左眼(0.7),術後3カ月間の左眼眼圧は3.7mmHgであった.濾過胞は平坦で,浅前房が持続していた.術4カ月後,突然左眼視力低下を訴えて当科を再診した.このときの視力は右眼0.3(0.5×.0.50D),左眼手動弁(矯正不能)で,前房は消失していた.また,濾過胞は平坦で,Seidel現象はみられなかった(図1).超音波生体顕図1左眼前眼部写真(線維柱帯切除術後3カ月)前房は消失し,平坦な濾過胞がみられた.左前房消失左強膜フラップ縫合術左眼濾過胞再建術左眼240°LOT右眼360°S-LOT6050403020100右眼圧左眼圧03カ月6カ月9カ月12カ月15カ月図2経過のまとめMMC併用線維柱帯切除術後に左前房が消失した時点からの治療経過と眼圧の推移.左眼強膜フラップ縫合術後に眼圧は一旦落ち着いたが再び上昇し,両眼に線維柱帯切開術を施行した.その後,左眼はまた眼圧が再上昇したため,左濾過胞再建術を追加した.眼圧(mmHg)1202あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(136) 微鏡検査(UBM)にて,明らかな毛様体の前方回旋は認めず,脈絡膜.離などもみられなかった.粘弾性物質(ヒーロンVR)および空気を計4回前房内へ注入したが,いずれも1週間.10日間で再び浅前房となり,低眼圧を呈した.炎症による毛様体産生機能の著しい低下が原因と考え,ステロイドパルス療法を施行するも,改善はみられなかった.左眼前房消失から1カ月後に結膜を切開して強膜弁を確認したところ,房水の濾過が確認されたため,左眼強膜弁縫合術を施行した.術後の左眼前房は深く保たれ,眼圧も良好となった.その後PSLを徐々に漸減して様子をみていたところ,左眼眼圧が徐々に上昇し始めたため,ドルゾラミド/チモプトール配合点眼,タフルプロスト点眼,ブリモニジン点眼を順次追加した結果,左眼眼圧は10mmHg前後に落ち着いた.しかし,その後右眼眼圧が徐々に上昇しため,抗緑内障点眼やアセタゾラミド内服を追加し,PSLを10mgから20mgへ増量したが眼圧は低下しなかった.右眼に360°S-LOT変法を施行し,右眼眼圧は10mmHg台前半に落ち着いた.しかし,左眼眼圧もほぼ同時期に上昇したため,左眼に240°LOT(180°S-LOT変法+60°金属ロトームによるLOT)施行し,両眼圧とも10台前半に落ち着いた.しかし,その3カ月後,左眼眼圧が45mmHgへ再上昇したため,左眼に濾過胞再建術を施行し,現在まで両眼圧とも良好に経過している(図2).II考按本症例は乾癬に伴うぶどう膜炎に続発した緑内障で,左眼の眼圧コントロールが不良であったため,左眼MMC併用LECを行うも術後持続的な低眼圧に陥った.さらに,経過中に僚眼であった右眼の眼圧上昇もきたしたため,右眼360°S-LOT変法を施行し,眼圧は下降した.一方,左眼は強膜弁閉鎖後に再度眼圧上昇がみられたため,左眼240°LOTを施行したが3カ月後に眼圧が上昇し,最終的に濾過胞再建術を施行して眼圧が落ち着いた.本症例にみられた経過について考えてみたとき,①なぜ,左眼はMMC併用LEC後に前房が消失したのか?②なぜ,右眼は360°S-LOT変法により良好な術後経過が得られたのか?③なぜ,左眼は240°LOT変法により一時的に眼圧は落ち着いたが,数カ月で再度眼圧上昇をきたしたのか?という疑問が生じる.①については,乾癬性ぶどう膜炎のような繰り返す前眼部発作に伴う続発緑内障は,房水産生機能の低下と流出路抵抗の上昇の両方を伴っていることがあり,非生理的な流出路を作るMMC併用LECはそのバランスを大きく崩す可能性がある.本症例において左眼MMC併用LEC後に前房消失をきたした際には,すでに度重なる発作のため房水産生機能が低下した状態で濾過したため,持続的な低眼圧が生じたと考(137)えられた.言い換えれば,術前に房水産生機能が低下していたにもかかわらず,それを上回る流出路抵抗の上昇があったため,結果的に眼圧上昇が引き起こされていたと推察される.②については,360°S-LOT変法は原発開放隅角緑内障(POAG)だけでなく,ぶどう膜炎を含む続発開放隅角緑内障(SOAG)にも有効とされる2).線維柱帯流出路の流出抵抗を改善するLOTはMMC併用LECと異なり生理的な流出路をそのまま使用するため,低眼圧を生じにくく,良好な結果が得られたのではないかと考えられた.③については,左眼の240°LOT後の再眼圧上昇は,右眼に比べて左眼の炎症が遷延していたため,炎症によって切開部の閉塞やSchlemm管以降の流出路抵抗が増大した可能性があると考えられた.左眼のLOTについては,LECにより線維柱帯を切除した箇所は通糸できないため,180°S-LOT変法と金属ロトームによる60°の切開により,計240°の切開を行った.今回の眼圧下降効果が切開範囲の違いによるものなのかどうかは,今後症例を積み重ねての検討が必要であると考えられる.また,左眼の濾過胞再建術後に過濾過による浅前房をきたしていない点については,房水産生量が安定したことに加え,初回手術と異なり一度癒着した後の濾過胞であったため,濾過胞内に適度な肉芽腫や癒着などが存在し,結膜下での吸水あるいは排水能力に乏しいために,初回のMMC併用LEC時よりも房水産生と濾過量のバランスがとれているものと考えられた.眼圧は基本的に房水産生と房水流出のバランスによって決まる.眼内にぶどう膜炎などの炎症が生じると,たとえ毛様体の房水産生が低下しても房水流出抵抗が上昇して房水流出が減少すると考えられる.したがって,眼内の炎症による房水産生低下が房水流出減少を上回れば,結果的に眼圧は下降するし,房水流出減少が房水産生低下を上回れば眼圧は上昇すると考えられる.実際,過去の報告でも炎症により眼圧は上昇することも下降することもあると報告されている3,4).Kaburakiらの報告によれば,POAGとSOAGに対するMMC併用LECの成績を比較したところ,成功率は変わらなかったが,晩期合併症として持続的な低眼圧が指摘されている5).乾癬に伴うぶどう膜炎のような炎症が持続することによる続発緑内障では,房水産生能が著しく低下していることがあり,濾過手術時には注意が必要であると考えられた.一方,本症例が示すように,生理的な流出路を使うLOTは,房水産生機能が著しく低下している場合でも術後浅前房をきたすことがないという点においては安全である.しかし,術後予後に関してはMMC併用LECの予後と同様に,術後炎症のコントロールが重要と考えられる5).さらに,ぶどう膜炎の症例におけるLOTの線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果については,さらなる症例の積み重ねと長期的な経過観察あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151203 が必要であると考えられた.原疾患である尋常性乾癬については,ステロイドの使用や漸減・中止により膿疱性乾癬へ移行する場合があり,実は皮膚科分野ではステロイド使用は禁忌である6).しかし,本症例の場合,当院受診時にはすでにPSLを内服しており,炎症の再燃などのリスクがあるため,ステロイド内服を継続せざるをえなかった.また,シクロスポリンやステロイドの使用がすでに長期間に及んでおり,腎機能障害や骨粗鬆症など全身的な合併症もあるため,今後はインフリキシマブなどの生物製剤による治療も検討していく必要があると思われた7).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)奥貫陽子,毛塚剛司,臼井嘉彦ほか:乾癬に伴うぶどう膜炎の検討.臨眼62:897-901,20082)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:Apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)沖坂重邦,猪俣孟:毛様体の炎症反応の多様性─臨床と基礎の融合─.日眼会誌108:717-749,20044)田内芳仁,板東康晴,小木曽正博:Behcet病患者の眼発作時における血液房水関門障害と眼圧変動.臨眼47:373376,19935)KaburakiT,KoshinoT,KawashimaHetal:InitialtrabeculectomywithmitomycinCineyeswithuveiticglaucomawithinactiveuveitis.Eye23:1509-1517,20096)難病情報センター:膿胞性乾癬診療ガイドラインTNF-a阻害薬を組み入れた治療指針20107)渡邉裕子,蒲原毅,佐野沙織ほか:インフリキシマブが有効であった乾癬性ぶどう膜炎の1例と乾癬性ぶどう膜炎の当科4症例および本邦報告例のまとめ.日皮会誌122:2321-2327,2012***1204あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(138)