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再発性多発性軟骨炎の1 例

2010年12月31日 金曜日

1714(82あ)たらしい眼科Vol.27,No.12,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科27(12):1714.1716,2010cはじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis)は,全身の軟骨組織を冒す自己免疫疾患で,II型コラーゲンに対する自己免疫が発症に関与しているといわれている.1976年にMcAdamら1)が両側耳介軟骨炎,非びらん性血清反応陰性多発関節炎,鼻軟骨炎,眼の炎症症状,気道軟骨炎,蝸牛・前庭機能障害が6大症状とする診断基準を報告した.今回25年間虹彩炎・強膜炎などの眼症状をくり返した症例で,再発性多発性軟骨炎と診断されたまれな1例を経験したので報告する.I症例患者:51歳の男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:4歳時にアデノイド摘出.家族歴:父:筋萎縮性側索硬化症(ALS).母:Sjogren症〔別刷請求先〕能谷紘子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学病院眼科Reprintrequests:HirokoNotani,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN再発性多発性軟骨炎の1例能谷紘子*1島川眞知子*1豊口光子*1菅波由花*1上村文*1幸野敬子*2堀貞夫*1*1東京女子医科大学病院眼科*2幸野メディカルクリニック眼科ACaseofRelapsingPolychondritisHirokoNotani1),MachikoShimakawa1),MitsukoToyoguchi1),YukaSuganami1),AyaUemura1),KeikoKono2)andSadaoHori1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KonoMedicalClinic長期に遷延していたぶどう膜炎の原因検索において,再発性多発性軟骨炎と診断された1例を経験した.症例は51歳の男性.25歳頃より,両眼のぶどう膜炎,両耳介の変形,鼻根部の発赤・腫脹・疼痛をくり返していたが精査をされなかった.50歳時に右眼視力低下を主訴に東京女子医科大学眼科を初診し,視力は右眼(0.3),左眼(0.8),両眼に眼球突出,輪部に沿った全周の著明な強膜菲薄化と角膜混濁があり,右眼には,フィブリン塊を伴う虹彩炎,虹彩後癒着を認めた.耳介軟骨炎,鼻軟骨炎,ぶどう膜炎,気管軟骨炎,感音性難聴を認め,再発性多発性軟骨炎と診断した.再発性多発性軟骨炎は全身の軟骨組織を冒すまれな自己免疫疾患で,耳介軟骨や鼻中隔軟骨,気管軟骨,眼球,関節などに多彩な症状を呈する.生命予後は不良であり,眼合併症による視機能低下を予防するためにも早期診断,治療が重要である.Wereportararecaseofchronicuveitisassociatedwithrelapsingpolychondritis.Thepatient,a51-year-oldmalewitha25-yearhistoryofbilateralrecurrentuveitis,hadbilateralauriculardeformityaccompaniedbyrecurrentnasalinflammation,butnofurtherinvestigationhadbeenconducted.Heconsultedourclinicwithchiefcomplaintofdecreasedvision.Hiscorrectedvisualacuitywas0.3ODand0.8OS.Exophthalmos,scleralthinningandcornealopacitywereobservedbilaterally.Inaddition,iritiswithfibrinformationandposteriorsynechiawaspresentintherighteye.Ocularfindings,togetherwithassociatedsystemicfindingsofchondritisofauricles,nasalcartilage,bronchusandsensorineuraldeafness,ledtothediagnosisofrelapsingpolychondritis.Arareautoimmunediseaseaffectingcartilagetissuessuchasauricularcartilage,nasalseptalcartilage,trachealcartilages,theeyeballandarticulation,relapsingpolychondritisshouldbediagnosedandtreatedassoonaspossible.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1714.1716,2010〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,ぶどう膜炎,強膜炎,耳介軟骨炎,鼻軟骨炎.relapsingpolychondritis,uveitis,scleritis,chondritisofauricles,nasalcartilage.(83)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101715候群疑い,子宮癌,狭心症.現病歴:25歳頃より,両眼のぶどう膜炎を発症し,約3カ月に一度の割合で,再燃していた.同時期より両耳介の変形,鼻根部の発赤・腫脹・疼痛をくり返し,45歳頃には突発性難聴と診断され,ステロイド治療を受けた.25年間特に精査をされずに近医でステロイドの内服,局所投与で加療されていた.50歳時に転院をきっかけに,Wegener肉芽腫などの膠原病が疑われ,精査目的に東京女子医科大学眼科初診となった.初診時所見:1)眼所見:矯正視力は右眼0.08(0.3×.3.50D(cyl.1.25DAx20°),左眼0.30(0.8×.1.75D(cyl.2.00DAx140°)で,眼圧は右眼4mmHg,左眼10mmHgであった.Hertel眼球突出計で両眼ともに19mmと眼球突出がみられた.前眼部では両眼とも輪部から後方約6mm幅で全周にわたってぶどう膜が透見されて,強膜菲薄化が著明であった(図1).角膜周辺部には全周に硬化性角膜炎を示唆する実質混濁があり(図2),以前に強膜炎が持続していたことが推測された.右眼前房内炎症細胞2+あり,前房内下方に多くのフィブリン塊,さらに5時方向に虹彩後癒着を認めた.両眼とも虹彩紋理が粗になっていた.中間透光体に中等度白内障を認め,右眼虹彩後癒着のため散瞳不良であり,両眼にびまん性の硝子体混濁で透見困難であったが,眼底には明らかな出血,滲出斑,血管炎などはなかった.その他の所見として,両耳介の変形(図3),鞍鼻(図4)を認め,耳介軟骨炎,鼻軟骨炎が疑われた.2)臨床検査所見:血液検査で白血球10,700/mm3,CRP(C反応性蛋白)10.41mg/dl,赤沈1時間値92mm,2時間値117mm,Ig(免疫グロブリン)G:2,264mg/dl,IgA:556mg/dl,IgE:210mg/dl,C3:145mg/dlと高値であったが,抗核抗体や抗白血球細胞質抗体(PR3-ANCA,MPOANCA)は陰性であった.その他の血液,生化学所見に特記すべき異常は認めなかった.3)頭部CT(コンピュータ断層撮影)所見:前頭洞,篩骨洞の粘膜肥厚を認め副鼻腔炎が示唆された.4)胸部CT所見:両側気管支の石灰化,内腔狭窄を認めた.5)気管支鏡検査所見:喉頭軟骨,輪状軟骨,主気管・気管支軟骨の浮腫を認めた.6)耳鼻科的所見:聴力検査で両側感音性難聴であり,耳介軟骨炎,鼻軟骨炎を認めた.Wegener肉芽腫に典型的な膿性,血性鼻汁,鼻中隔穿孔などの所見は認めず,特異的なANCAも陰性であり,当初疑ったWegener肉芽腫は否定的であった.以上より両耳介軟骨炎,鼻軟骨炎(鞍鼻),ぶどう膜炎,気管軟骨炎,難聴を認めることにより再発性多発性軟骨炎と診断された.図1前眼部両眼ともに19mmと両眼球突出が著明であり,前眼部は両眼ともに輪部から約6mmにわたり全周にぶどう膜が透見されて,強膜菲薄化が著明である.(図1~4は患者の同意のもにと写真を掲載)図2右眼周辺角膜実質混濁両眼ともに角膜輪部から約1mm幅で角膜実質混濁を認め,硬化性角膜炎を疑う.図4鞍鼻鼻背部が陥凹しており,鞍鼻を呈している.図3左耳介の変形左耳介の腫脹・変形.右耳介も同様の変形を認めた.1716あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(84)経過:内科で両側気管軟骨炎に対してプレドニゾロン(プレドニンR)60mg内服治療を開始した.ぶどう膜炎・強膜炎に対して,局所ステロイド治療,トロピカミド・フェニレフリン点眼液(ミドリンPR),0.05%シクロスポリン点眼薬を開始した.虹彩炎の再燃をくり返し,点眼加療にて改善を認めたが,強膜菲薄化,眼球突出,硝子体混濁に改善はみられなかった.現在白内障の進行により,徐々に視力低下をきたしているが,強膜の状態などから慎重に手術を検討予定である.全身状態はステロイド療法でやや緩解はしたが,依然として,気道軟骨炎,関節痛,耳漏などに加え,最近は帯状疱疹や呼吸器真菌症を併発し,今後とも他科での加療が必要である.II考按本症例は両側耳介軟骨炎,鼻軟骨炎,ぶどう膜炎,気道軟骨炎,蝸牛・前庭機能障害を認めた.1976年にMcAdamが報告した再発性多発軟骨炎の診断基準を,1979年にDamianiら2)が改定し,両側耳介軟骨炎,非びらん性血清反応陰性多発関節炎,鼻軟骨炎,眼の炎症症状,気道軟骨炎,蝸牛・前庭機能障害の6項目中,3項目以上あれば診断基準を満たすと改定した.本症例は5項目が当てはまり,再発性多発性軟骨炎の確定診断に至った.再発性多発性軟骨炎は,全身の軟骨組織やムコ多糖類を多く含む組織を冒すまれな自己免疫疾患である.II型コラーゲンに対する自己免疫が発症に関与しているともいわれている3).耳介軟骨や鼻中隔軟骨,気管軟骨,眼球,多関節などに多彩な症状を呈する特徴がある.海外では,本症は50~70%に眼症状が合併すると報告されている1)が,わが国では,谷村ら4)が眼科領域の報告14例をまとめたところ,上強膜炎は8例(57%),ぶどう膜炎は6例(43%),視神経乳頭炎は5例(36%),角膜浸潤は4例(29%)に合併していた.欧米では前房蓄膿がみられたという報告5)があるが,ぶどう膜炎や強膜炎の病型や頻度はまだ明らかではない.そのほかにまれではあるが重篤な後部強膜炎,網膜静脈炎,漿液性網膜.離,視神経萎縮などの報告がある4,6).気管軟骨病変が進行すると,肺炎や気管閉塞による窒息が生じることがあり,本症の5年生存率は70~80%といわれている7).また,慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患を合併することもあり症状はさらに多彩,複雑になる.本症の治療で主体をなすのは現在のところはステロイドの全身投与であり,ステロイド使用中の再燃例では,アザチオプリンやシクロフォスファミドなどの免疫抑制薬を併用することがある8).本症例は眼症状が初発であり,25年間ぶどう膜炎をくり返した.すでに強膜の菲薄化が著明であり,眼球穿孔も危惧された.これは,強膜に軟骨の主成分であるムコ多糖類が存在しているため,強膜のくり返す炎症の後に菲薄化が生じたと考えられる9).本症例のようにぶどう膜炎に対してステロイド内服・点眼を漫然と続けており,精査されずに,診断がついていないこともまれではない.実際に,眼症状・耳痛・呼吸苦で各診療科を受診していても,生前には診断がついていないままで,窒息による心肺停止に至った1例の報告もある10).さらに,本症例は,ステロイド内服治療が開始された後に,肺真菌症や顔部帯状疱疹など,ステロイドの副作用と考えられる合併症を起こしている.そのため,他科と連携して,注意深く治療・経過観察していかなければならない.まれではあるものの,予後不良であるので,強膜炎,ぶどう膜炎をくり返す症例では,眼症状だけでなく,耳や鼻などの多臓器所見にも注意深い観察が必要で,原因疾患として本症も念頭におき,早期診断・早期治療をすることが重要である.文献1)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine55:193-215,19762)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.Reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,19793)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondritis.NEnglJMed299:1203-1207,19784)谷村真知子,横山勝彦,安部ひろみほか:後部強膜炎を合併した再発性多発軟骨炎の1例.臨眼61:1299-1303,20075)AndersonNG,Garcia-Valenzuela,MartinDF:Hypopyonuveitisandrelapsingpolychondritis.Ophthalmology111:1251-1254,20046)田邊智子,山本禎子,上領勝ほか:硝子体手術によりぶどう膜炎が軽快した再発性多発性軟骨炎の1例.臨眼61:215-219,20077)岡見豊一,松永裕史,白数純也ほか:多彩な眼症状を示した再発性多発性軟骨炎の症例.臨眼57:867-871,20038)渡邉紘章,平松哲夫,松本修一:視力障害を主訴とした再発性多発性軟骨炎の1例.内科98:939-941,20069)田中才一:眼症状を初発とし診断に苦慮した再発性多発性軟骨炎の一症例.眼臨紀1:662-666,200810)山口充,間藤卓,福島憲治ほか:窒息による心肺停止で搬入された再発性多発性軟骨炎の1例,日救急医会誌19:972-978,2008***

片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)1090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):109112,2009cはじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis:RP)は全身のムコ多糖やプロテオグリカンを多く含む組織(眼組織,鼻軟骨,耳介軟骨,内耳,喉頭気管支軟骨,関節軟骨,心弁膜,全身血管,腎臓など)に再発性の炎症およびそれに伴う組織の変形,破壊を生じる原因不明の炎症性疾患で,多彩な局所症状や全身症状を合併する.眼組織においては本疾患の5060%で炎症,変性や機能異常などの多彩な症状を呈し,全病期においては耳介軟骨炎,関節炎についで高い発症率である.本疾患の発症率は3.5人/100万人1)とまれであるが,眼組織において日常経験するあらゆる炎症所見に関係している可能性があり,適切な治療を行ううえで早期に本疾患を疑うことは重要であると考えられる.今回筆者らは片眼の虹彩炎〔別刷請求先〕内田真理子:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野25番地公立南丹病院眼科Reprintrequests:MarikoUchida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NantanGeneralHospital,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan629-0197,JAPAN片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例内田真理子*1伴由利子*1吉田祐介*1土代操*1山本敏也*2*1公立南丹病院眼科*2同耳鼻咽喉科ACaseofRelapsingPolychondritisOccurredbyUnilateralIritiswithOcularHypertentionMarikoUchida1),YurikoBan1),YusukeYoshida1),MisaoDoshiro1)andToshiyaYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOtolaryngology,NantanGeneralHospital70歳,男性,右眼視力低下を自覚,右眼虹彩炎と高眼圧があり,Posner-Schlossman症候群を疑われた.その後両上強膜炎および右耳介軟骨炎を発症し,プレドニゾロンの内服治療(30mg/日)に反応した.診断基準である,典型的な多発する炎症,ステロイド反応性の2項目を満たしたことにより再発性多発性軟骨炎と診断した.高眼圧の発症から診断までは約半年であった.初期の血液検査ではCRP(C反応性蛋白)値の上昇など,急性炎症の存在を示したが,抗Ⅱ型コラーゲン抗体の測定はステロイド治療の開始後に行われたため陰性であった.以後再発,寛解をくり返し,症状増悪時にはステロイドの増量が必要であった.ステロイドの減量をめざし,コルヒチン1mg/日またはシクロスポリン300mg/日内服を併用したが改善せず,現在もプレドニゾロン15mg/日内服を継続している.症状はほぼ軽快しているが,今後ステロイド内服に伴う眼合併症および全身合併症にも注意をしていく必要がある.A70-year-oldmalewithinitialsymptomsofvisualacuityloss,iritisandocularhypertensioninhisrighteyewassuspectedofhavingPosner-Schlossmansyndrome.Subsequently,hesueredepiscleritisinbotheyesandauricularchondritisintheleftear;theyrespondedwelltooralprednisolone30mg/d.Hewasdiagnosedwithrelapsingpolychondritis,inviewofthetypicalepisodeofcartilaginoustissueinammationanditsresponsetocor-ticosteroidtherapy.Itwasalmost6monthsfromtherstsymptomstoourdiagnosis.Laboratoryevaluationinitial-lyrevealedacuteinammatorychanges;circulatingautoantibodiestotypeIIcollagenwerenegativewhiletakingprednisolone15mg/d.Relapseagainoccurred,atwhichpointwehadtoincreasetheprednisolone.Wetriedadmin-isteringcolchicine1mg/dorcyclosporine-A300mg/dincombinationwithprednisolone,buttheyhadnorecogniz-ableeect.Thepatientisnowtakingprednisolone15mg/dandsymptomshavealmostcleared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):109112,2009〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,高眼圧,上強膜炎,虹彩炎,耳介軟骨炎,ステロイド療法,抗Ⅱ型コラーゲン抗体.relapsingpolychondritis,ocularhighpertentsion,episcleritis,iritis,auricularchondritis,corticosteroidtherapy,circulatingautoantibodiestotypeⅡcollagen.———————————————————————-Page2110あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(110)に伴う高眼圧の発症後に両上強膜炎を呈した後,右耳介軟骨炎を合併し,本疾患の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2005年1月6日,上記主訴にて近医を受診したところ,右眼眼圧46mmHgと上昇があり,軽度の虹彩炎を伴いPosner-Scholssman症候群の診断となった.眼圧は眼圧下降薬点眼にて20mmHg前後にコントロールされたが,経過中両上強膜炎を発症し2005年3月12日精査目的で当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.1(1.0×+2.5D(cyl1.25DAx90°),左眼0.15(0.7×+3.0D(cyl1.0DAx60°).眼圧はマレイン酸チモロール(チモプトールR)両眼2回/日,塩酸ドルゾラミド(トルソプトR)両眼3回/日点眼下にて,右眼20mmHg,左眼22mmHgであった.両眼とも角膜は透明で耳側上強膜に充血があり,前房内炎症はcell(+)であった.水晶体には中等度の白内障があったが,硝子体混濁や眼底には異常はなかった.隅角所見は両眼ともShaer分類grade2,右眼は3時-6時,左眼は8時-10時にかけ周辺虹彩前癒着の散在を認めたが結節は認めなかった.血液検査は白血球4,880/μlと正常値であったが,CRP(C反応性蛋白)4.1mg/dl,補体価58.7U,a1-globulin3.8%,a2-globulin9.7%,b-globulin11.1%,g-globulin25.4%,赤沈(60分値)52mmとそれぞれ上昇があり急性炎症を示す結果であった.リウマチ因子,抗核抗体や抗DNA抗体は陰性であった.その他ヘモグロビン12.6g/dl,MCV(平均赤血球容積)96.7,MCH(平均赤血球血色素量)32.3pg,MCHC(平均赤血球血色素濃度)33.4%と正球性正色素性貧血があった.II経過リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンR)両眼4回/日点眼にて約1カ月で両上強膜炎がほぼ軽快した.2005年5月右耳介の発赤腫脹を自覚(図1),耳鼻科にて右耳介軟骨炎と診断され,プレドニゾロン内服(30mg/日)を開始され,15mg/日まで漸減しながら約3カ月で寛解した.この時点で,上強膜炎およびステロイド投与に反応する耳介軟骨炎の合併を認めたことから,RPにおけるDamianiらの改革診断基準2)を満たし本症の診断となった.プレドニゾロン内服を10mg/日に漸減したところ両上強膜炎が再燃,プレドニゾロン20mg/日内服へ増量したが,再度10mg/日に自己判断で減量し,上強膜炎が悪化した(図2).そのため,プレドニゾロン15mg/日内服を継続して約1カ月で左眼症状はほぼ軽快した.抗Ⅱ型コラーゲン抗体検査は本人の承諾がなく未施行であったが,この時点で承諾を得られ調べたところ陰性であった.眼圧下降薬点眼下にて両眼圧が20mmHgを超えることもあり,ステロイド緑内障の発症を危惧しプレドニゾロン内服減量を目的にコルヒチン(コルヒチンR)1mg/日内服併用やシクロスポリン(ネオーラルR)300mg/日内服併用を試みたが,症状は改善せず,ステロイドの減量はむずかしかった.その後も強膜炎および耳介軟骨炎の再燃がみられ,さらに2007年9月左耳の耳鳴りを自覚,左内耳障害を疑い耳鼻咽喉科にてコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(サクシゾンR)を500mg/日より経静脈的に漸減投与され(500mg/日×3日,400mg/日×2日,300mg/日×2日,200mg/日×図1右耳介軟骨炎2005年5月,右耳介の発赤,腫脹がある.図2右上強膜炎再燃時2005年12月,上強膜全体に強い充血がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009111(111)2日,100mg×3日),上強膜炎および耳鳴りともに軽快した.現在もプレドニゾロン内服(15mg/日)を続けている.現在までのところ関節炎や呼吸器症状はない.眼圧は眼圧下降薬点眼下にて正常範囲内にあり視野異常はないが,両眼ともに皮質白内障に進行している.以上の経過を図3に示す.III考按RPは1923年にJaksch-Wartenhorstにより報告されて以来現在までに約1,000例ほど報告されてきている1).本疾患の原因は明らかではないが,自己免疫疾患の合併率が30%と高率でありムコ多糖類を多く含む組織を選択的に障害することや,急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇を認めること3),ステロイドや各種の免疫抑制薬に有効性を認めることから免疫異常が原因であると考えられている.好発年齢は4060歳だが新生児から90歳代まで報告がある4).性差はなく,遺伝性は報告されていない.初発症状で高率なのが鼻軟骨炎の約20%,眼症状の19%,呼吸器症状の14%である.全病期において最も発症率が高いのは耳軟骨炎の95%,ついで多いのは関節炎の5080%となっており,眼疾患や鼻軟骨炎も約5060%とそれらについで高率に発症する.気道閉塞,肺炎,心弁膜症,腎障害などにより1986年では10年生存率が55%であったが,早期にステロイド治療などを開始されるようになったため1998年で8年生存率は94%となっている.眼症状として最も多いのが結膜炎,上強膜炎,強膜炎で鼻軟骨炎や関節炎と平行して再燃,寛解をくり返すことが多い.強膜炎の3.1%が本症と診断されたという報告もある5).その他ぶどう膜炎(25%),角膜炎(10%),網脈絡膜炎(10%),静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症,眼瞼浮腫,眼窩偽腫瘍,外眼筋炎などが報告されており,全眼組織が本疾患で炎症を生じる可能性がある6).本疾患の診断は1976年にMcAdamらが提案した診断基準を,DamianiとLevineら2)が1979年に拡大したものが多く用いられている.診断においては,合併する局所症状の組み合わせが基準となるため,発症から診断までの期間は長く68%の症例で1年以上を要し,平均は2.9年ほどである.検査所見では赤沈値の亢進,CRP上昇やポリクローナルなグロブリン値上昇などの急性炎症の所見以外に正球性正色素性貧血を認めることが多い.その他急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体3)が陽性になるため診断確定の補助となる.またCRPは症状の増悪,軽快に平行して変動することが多く本疾患の活動性の指標になりうる.しかし,抗Ⅱ型コラーゲン抗体は慢性関節リウマチやMeniere病でも陽性となるため本疾患特異的な抗体ではない7).本症例においては,片眼の軽度虹彩炎と眼圧上昇という非典型的な初発症状で発症したが,3カ月後に上強膜炎を,5カ月後には耳介軟骨炎を発症し,約6カ月と平均に比べ比較的早期に診断が可能であった.図3発症より現在までの経過上強膜炎耳介軟骨炎内右右右耳介耳介耳り———————————————————————-Page4112あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(112)本症例は発症12カ月の時点で抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇がなかったが,すでにステロイド内服を開始していたことや急性期でなかったことが一因であると思われる.また,CRP値は耳介軟骨炎の増悪に一致して上昇する傾向を認めたが,上強膜炎とは関連性がなかった.治療法としてのガイドラインはないが,抗炎症薬,免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬に有効性が報告されている.軽微な局所症状のみであれば非ステロイド系抗炎症薬8)の内服,より重症と判断される場合はダプソン9)やステロイド(0.51mg/kgより開始)の全身投与,ステロイドパルス療法の施行,その他シクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリン10),メソトレキセートやコルヒチン8)などの単独投与またはステロイドとの併用の有効性が報告されている.症状が強い場合シクロホスファミドやアザチオプリンを第一選択とする場合もある11).また,アザチオプリンやメソトレキセート内服併用がステロイド減量に有効だったとの報告もある12).眼局所に対してはステロイド結膜下注射なども有効である.本症例ではプレドニゾロンに反応したが,減量すると増悪や再発を起こした.コルヒチン併用,シクロスポリン併用については明らかな効果がなかった.本症例は,片眼の虹彩炎および高眼圧にて発症したが,後に上強膜炎および耳介軟骨炎を合併しRPの診断となった.現在のところ発症時の主症状が高眼圧であった報告はほかに認めないが,高眼圧を伴う軽度の虹彩炎であっても本疾患を疑う必要性があると思われる.本症例の治療においてはプレドニゾロン内服を減量すると増悪するため維持量を継続せざるをえず,ステロイド内服によるステロイド緑内障および全身合併症にも注意をしていくことが重要である.文献1)GergelyP,PoorG:Relapsingpolychondritis.BestPractResClinRheumatol18:723-738,20042)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.Oph-thalmology93:681-689,19863)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondrites.NEnglJMed299:1203-1207,19784)ArundellFW,HaserickJR:Familialchronicatrophicpolychondritis.ArchDermatol82:439-440,19605)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleri-tis.AmJOphthalmol130:469-476,20006)PeeboBB,MarkusP,FrennessonC:Relapsingpolychon-dritis:ararediseasewithvaryingsymptoms.ActaOph-thalmolScand82:472-475,20047)垣本毅一,真弓武仁:抗Ⅱ型コラーゲン自己抗体.日本臨牀63:643-645,20058)MarkKA,FranksAGJr:Colchicineandindomethacinforthetreatmentofrelapsingpolychondritis.JAmAcadDermatol46:S22-24,20029)MartinJ,RoenigkHHJr,LynchWetal:Relapsingpoly-chondritiswithdapsone.ArchDermatol112:1272-1274,197610)OrmerodAD,ClarkLJ:Relapsingpolychondritistreat-mentwithcyclosporineA.BrJDermatol127:300-301,199211)LetkoE,ZarakisP,BaltatzisSetal:Relapsingpoly-chondritis:Aclinicalreview.SeminArthritisRheum31:384-395,200212)TrenthamDE,LeCH:Relapsingpolychondritis.AnnInternMed129:114-122,1998***