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非典型的な特徴がみられた間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の 2 症例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):655.659,2022c非典型的な特徴がみられた間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の2症例田口諒*1武島聡史*1御任真言*1齊間至成*1空大将*2竹内大*2梯彰弘*1蕪城俊克*1*1自治医科大学附属さいたま医療センター眼科*2防衛医科大学校眼科学教室CTwoCasesofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeWithanAtypicalCourseRyoTaguchi1),SatoshiTakeshima1),ShingenMito1),YoshinariSaima1),DaisukeSora2),MasaruTakeuchi2),AkihiroKakehashi1)andToshikatsuKaburaki1)1)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU)は若年女性に多い疾患である.今回,非典型的な特徴がみられたTINU症候群のC2例を経験したので報告する.症例:症例C1はC38歳,男性.10日前から右眼視力低下.矯正視力右眼0.3.右眼前房内細胞C4+,微塵様角膜後面沈着物,視神経乳頭発赤を認め,血清クレアチニンC5.6Cmg/dl,尿中Cb2MG45,000Cμg/lと高値,腎生検で尿細管間質性腎炎と診断された.ステロイド内服によりぶどう膜炎,腎障害は改善した.症例C2はC15歳,女性.8年前に両眼ぶどう膜炎を発症.尿中Cb2MG400Cμg/l高値からCTINU症候群と診断され,ステロイド点眼を継続していた.自治医科大学附属さいたま医療センター初診時の矯正視力両眼C1.2.両眼前房内細胞C1+,白色小型角膜後面沈着物,蛍光眼底造影で両眼炎症に伴う網膜新生血管がみられた.両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を行い,炎症所見は消失し,新生血管の軽減がみられた.結論:症例C1は男性で壮年発症である点,症例C2は網膜新生血管を認めた点がCTINU症候群としては非典型的である.CPurpose:TubulointerstitialCnephritisCanduveitis(TINU)syndromeCisCcommonCinCyoungCwoman.CHereCweCreporttwocasesofTINUwithanatypicalcourse.CaseReports:Case1involveda38-year-oldmalewithongo-inglossofvisioninhisrighteyefrom10yearspriortopresentation.Uponexamination,thebest-correctedvisualacuity(BCVA)inhisrighteyewas0.3,and4+cellsintheanteriorchamber,.nekeraticprecipitates(KPs)C,andrednessoftheopticdiscwasobserved.Hisserumcreatininewas5.6Cmg/dl,hisratioofurinaryb2-microglobulin(b2-MG)wasC45000Cμg/l,CandCaCrenalCbiopsyCrevealedCTINU.CTreatmentCwithCoralCsteroidsCimprovedCtheCuveitisCandnephropathy.Case2involved15-year-oldfemalewhobecamea.ictedwithbilateraluveitis8yearspriortopresentation.ShewasdiagnosedwithTINUbasedonthehighratioofurinaryb2-MG(400Cμg/l)C,andunderwentsteroidCinstillationCforCtreatment.CHerCBCVACwasC1.2,CandC1+cellsCinCtheCanteriorCchamberCandCsmallCwhiteCKPsCwereobservedinbotheyes.Moreover,.uoresceinangiography(FA)examinationrevealedbilateralretinalneovas-cularizationCaroundCtheCopticCdisc.CBinocularCsub-Tenon’sCtriamcinoloneCacetonideCinjectionsCimprovedCtheCuveitisCandreducedtheleakagesobservedonFA.Conclusion:ThestudyinvolvedamaleTINUpatientinwhomdiseaseonsetoccurredatclosetomiddleage,andafemaleTINUpatientwithretinalneovascularization,whichareatypi-calTINUcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):655.659,C2022〕Keywords:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,尿中Cb2ミクログロブリン,腎生検,壮年発症,網膜新生血管.tubu-lointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome,urinaryb2microglobulin(Cb2MG)C,renalbiopsy,middleageConset,retinalneovascularization.C〔別刷請求先〕田口諒:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RyoTaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,JichiMedicalUniversity,1-847CAmanuma-cho,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPANC図1症例1の初診時右眼所見a:右眼前眼部写真.右眼に毛様充血,前房内細胞C4+,フレアC3+,.neKP,フィブリンの析出を認め,非肉芽腫性ぶどう膜炎の所見であった.b:右眼眼底写真.右眼眼底に硝子体混濁C2+,視神経乳頭発赤を認めた.図2症例1の腎生検病理写真間質においてリンパ球主体の炎症細胞浸潤をびまん性に認め,急性間質性腎炎と診断された.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎(tubulointerstitialCnephritisCanduveitis:TINU)症候群は,急性間質性腎炎(acuteCtubuloin-terstitialnephritis:AIN)にぶどう膜炎が合併する疾患で,わが国のぶどう膜炎初診患者のC0.5%を占め1),65%は腎炎がぶどう膜炎に先行するとされている2).好発年齢はC15歳以下で小児ぶどう膜炎のC5.7%を占め,女性,両眼性が多く,肉芽腫性・非肉芽腫性はどちらもありうるとされている3).通常,急性の虹彩毛様体炎として発症し,炎症が強い場合は硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜浮腫をきたす3).今回,非典型的な特徴がみられたTINU症候群のC2例を経験したので報告する.I症例[症例1]38歳,男性.主訴:右眼痛,流涙,視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2020年C3月C1日より右眼の違和感,流涙,刺すような痛みを自覚し,一晩で視界がぼやけるようになった.3月C6日に近医で右眼ぶどう膜炎を指摘され,3月C11日に精査加療目的に自治医科大学附属さいたま医療センター(以下,当院)眼科を紹介受診となった.初診時,視力は右眼C0.1(0.3C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼C0.2(1.2C×sph.1.75D).眼圧は右眼21mmHg,左眼C17CmmHg.右眼は毛様充血,前房内細胞C4+,フレアC3+,微塵様角膜後面沈着物,フィブリンの析出を認め,非肉芽腫性ぶどう膜炎の所見であった(図1a).左眼には炎症所見は認めなかった.眼底は,右眼硝子体混濁C2+,視神経乳頭発赤を認めた(図1b).左眼眼底は異常を認めなかった.OCTでは,両眼異常を認めなかった.腎機能が悪かったため,蛍光眼底造影は施行しなかった.OCTCanigi-ographyでは,両眼後極部の網膜血管に異常所見を認めなかった.この時点で鑑別診断として,中間部ぶどう膜炎で非肉芽腫性,片眼性,急性の経過であることから,急性前部ぶどう膜炎,HLA-B27関連ぶどう膜炎,Behcet病,炎症性腸疾患や乾癬に伴うぶどう膜炎などを考えた.治療として右眼デキサメタゾン結膜下注射C1.2Cmg/0.3Cmlを行い,0.1%ベタメタゾンC8回点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩C3回点眼を開始した.ぶどう膜炎の鑑別に関する血液検査では,BUNC29Cmg/C図3症例2の初診時両眼眼底写真両眼視神経乳頭周囲に新生血管と網膜滲出斑を認めた.図4症例2の初診時蛍光眼底造影両眼ともびまん性に毛細血管からの蛍光漏出がみられ,視神経乳頭の周囲に新生血管が多発していた.無血管領域はなく,炎症性の新生血管と考えられた.dl,クレアチニンC5.68Cmg/dlと高度の腎障害がみられ,尿検査では尿中Cb2ミクログロブリン(Cb2MG)がC45,000Cμg/lと高値で近位尿細管障害が考えられた.この時点でCTINU症候群を疑い,3月C25日に当院腎臓内科で腎生検が行われた.糸球体基底膜やメサンギウム領域の変化は目立たないが,近位尿細管上皮内へのリンパ球浸潤と間質においてリンパ球主体の炎症細胞浸潤がびまん性にみられ,AINと診断された.それを受けて眼科ではぶどう膜炎をCTINU症候群と診断した(図2).間質性腎炎に対する治療として腎臓内科でプレドニゾロン(PSL)40mg/日内服が開始された.PSL内服開始からC4週間後には右眼矯正視力C1.2となり,前房内炎症,硝子体混濁は消失し,視神経乳頭発赤も改善した.その後,1年間経過観察し,再燃を認めない.腎機能に関しては,PSL40mg/日内服1週間でクレアチニン5.68mg/dlからC2.53Cmg/dlまで改善し,その後CPSLを漸減しながら,1年間内服した結果,クレアチニンC1.34Cmg/dlまで低下した.最終観察時においてCPSL3Cmg/日を内服しており,再燃を認めない.[症例2]15歳,女性.主訴:加療目的.既往歴:特記事項なし.現病歴:2013年C5月に両眼ぶどう膜炎を指摘され,近医でステロイド点眼治療を受けていた.2018年C1月に防衛医科大学校病院眼科を紹介初診し,尿中Cb2MG400Cμg/lと高図5症例2の治療開始6カ月後の蛍光眼底造影毛細血管からの蛍光漏出と網膜新生血管の軽減がみられた.値からCTINU症候群と診断されたが,通院上の理由のため,2020年C12月当院を紹介初診した.初診時,視力は右眼C1.2(n.c.),左眼C1.0(1.2C×sph+1.00D(cyl.1.25DAx10°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.両眼前房内細胞C1+,フレアC1+,白色小型角膜後面沈着物と虹彩後癒着を認めた.眼底は,両眼視神経乳頭周囲に網膜新生血管と網膜滲出斑を認めた(図3).蛍光眼底造影では,両眼びまん性に毛細血管からの蛍光漏出がみられ,視神経乳頭の周囲に網膜新生血管が多発していた.無血管領域はなく,炎症性の新生血管と考えた(図4).ぶどう膜全検の血液検査では,BUN12Cmg/dl,クレアチニンC0.58Cmg/dlと正常であったが,尿中Cb2MG298Cμg/lと高値であり,TINU症候群と矛盾しない結果であった.当院腎臓内科に紹介し,腎臓に関しては尿細管障害が軽微なため,経過観察の方針となった.治療として両眼C0.1%ベタメタゾンC4回点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩C1回点眼を行った.その後,初診時からC3カ月後に網膜新生血管に対して両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を行った.初診時からC6カ月後,最終観察時では,炎症所見は消失しており,蛍光眼底造影でも毛細血管からの蛍光漏出と網膜新生血管の軽減がみられた(図5).CII考按TINU症候群は,AINに両眼性急性前部ぶどう膜炎が合併した疾患として,1975年にCDobrinらによって初めて報告された2).発症年齢の中央値はC15歳で,男女比はC1:3と女性に多い疾患であり,発生頻度に人種や民族間で差はないとされている3,4).原因に関しては,HLA-DRB1*0102対立遺伝子やCFOXP3+Tregulatorylymphocytes(T-reg)の関与といった遺伝的背景に加え,Epstein-BarrウイルスやCChla-mydiatrachomatisなどの先行感染,非ステロイド抗炎症薬や抗菌薬などの薬剤性についていくつか報告されているが,正確な原因の特定には至っていない4).TINU症候群のC65%は,AINがぶどう膜炎に先行するが,20%はぶどう膜炎がAINに先行し,15%は両者が同時に発症するとされている4).ぶどう膜炎は,両眼性(77%)が多く,肉芽腫性・非肉芽腫性はどちらもありうるとされており,通常,急性の虹彩毛様体炎として発症し,炎症が強い場合は硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜浮腫をきたす3).症例C2でみられた網膜新生血管に関しては,Koreishiらが,TINU症候群と診断された患者C17例のうちC1例(6%)に視神経乳頭部の新生血管と硝子体出血がみられたと報告しており5),TINU症候群に網膜新生血管を伴う症例は少ないと思われる.眼症状は,眼痛と充血(77%),視力低下(20%),羞明(14%)などを呈し3),全身症状は,発熱(53%),体重減少(47%),全身倦怠感(44%),食思不振(28%),筋肉痛(28%),腹部・側腹部痛(28%)などを呈する.血液検査ではCBUN,クレアチニンの上昇に加え,血沈亢進(89%),貧血(96%)を認め,尿検査では尿中Cb2MG上昇のほか,低レベルの蛋白尿(86%)を認める2).TINU症候群の診断基準(表1)は,2001年にCMandevilleらによって報告された3).AINが組織診断か臨床診断か,およびぶどう膜炎が典型的か非典型的かの組み合わせで,「確定例」,「ほぼ確実例」,「疑い例」に診断される.AIN組織診断は,腎生検で尿細管間質性腎炎像を呈するかどうかで診断される.AIN臨床診断は,表1にあるように,腎機能障害,尿検査異常,2週間以上持続する全身症状と検査値異常のC3項目すべてを満たせば完全型臨床診断群,2項目以下で表1TINU症候群の診断基準(文献C3より抜粋)TINU症候群の診断基準確定診断(de.nite)AIN組織診断群またはCAIN完全臨床診断群(※1)+典型ぶどう膜炎(※2)ほぼ確実(probable)AIN組織診断群+非典型ぶどう膜炎またはAIN不全型臨床診断群+典型的ぶどう膜炎疑い(possible)AIN不全型臨床診断群+非典型ぶどう膜炎※C1CAIN臨床診断群:以下C3項目すべてを満たすものを「完全型」,2項目以下のものを「不全型」と診断する.1.腎機能障害:血清クレアチニン上昇,クレアチニンクリアランス低下.2.尿検査異常:Cb2MG上昇,ネフローゼ症候群よりも軽度の蛋白尿(尿蛋白C2+以下,尿蛋白/尿クレアチニン比<3.0Cg/gクレアチニン,大人で蛋白尿<3,0g/日,小児で蛋白尿<3.5Cg/1.73CmC2/日),尿中好酸球,感染のない膿尿または血尿,白血球円柱,糖尿病のない尿糖.3.以下の症状(Ca)と検査異常(Cb)がC2週間以上続く.(a)発熱,体重減少,食欲不振,倦怠感,(側)腹痛,関節痛,筋肉痛,発疹.(b)貧血,肝機能異常,好酸球増加,赤沈≧40mm/hr.※C2ぶどう膜炎:以下C2項目すべてを満たすものを「典型的」,1項目以下のものを「非典型的」と診断する.1.両眼性前部ぶどう膜炎(中間部,後部ぶどう膜炎の合併を問わない).2.発症時期がCAIN発症のC2カ月前.12カ月後までの間に存在する.あれば不全型臨床診断群となる.同様に,ぶどう膜炎は,両眼性前部ぶどう膜炎(中間部,後部ぶどう膜炎の合併を問わない)かつ発症時期がCAIN発症のC2カ月以前.12カ月以後までの間に存在する場合を典型的,それ以外の場合を非典型的と診断する3,4).症例C1は腎生検陽性であったが,ぶどう膜炎が非典型的なので「ほぼ確実例」となる.症例C2は,腎生検は行われておらず,ぶどう膜炎と腎症の発症時期にC5年間の開きがあるため,ぶどう膜炎が非典型的であり,診断としては「疑い例」となる.腎障害は,TINU症候群を疑う重要な根拠となるため,ぶどう膜炎初診患者にはスクリーニング検査として血液検査(BUN,クレアチニン)と尿検査を行い,腎機能が悪いとわかった時点でCTINU症候群の可能性を考えて尿中Cb2MGを測定し,尿中Cb2MG高値ならばTINU症候群確定診断のために腎生検含め,腎臓内科にコンサルトするべきであると考える3).治療成績に関しては,Mandevilleらは過去に報告されたTINU症候群C133例をCreviewして報告している.それによると,ぶどう膜炎に対してはステロイド点眼に加え,80%にステロイド内服治療が行われていた.治療の反応は良好だが,41%でぶどう膜炎の再発がみられ,14%でぶどう膜炎がC3カ月以上遷延した.ぶどう膜炎再発例にはステロイド点眼に加え,プレドニゾロン内服,免疫抑制薬(アザチオプリンなど)が使用されていた.腎障害については,ステロイド内服に反応良好で,自然回復例もあるとされている.腎炎の再発はまれで,腎不全はC8.3%のみと報告されている3).今回,症例C1は男性で比較的高齢発症であること,症例C2は網膜新生血管を認めた点がCTINU症候群としては非典型的であった.TINU症候群はわが国のぶどう膜炎初診患者の0.5%と頻度が低い疾患であるが,早期に診断してステロイド全身投与を行わないと腎不全となる可能性がある.しかし,TINU症候群には今回のC2例のような非典型的な症例もあり,TINU症候群を眼所見だけから推測することは困難である.したがって,TINU症候群を見落とさないためにも,ぶどう膜炎の鑑別に関する血液検査には腎機能検査を含めるべきであると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmol65:184-190,C20212)DobrinCRS,CVernierCRL,CFishAL:AcuteCeosinophilicCinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanterioruveitis.Anewsyn-drome.AmJMedC59:325-333,C19753)MandevilleCJT,CLevinsonCRD,CHollandGN:TheCtubuloint-erstitialCnephritisCandCuveitisCsyndrome.CSurvCOphthalmolC46:195-208,C20014)AmaroD,Carren.oE,SteeplesLRetal:TubulointerstitialnephritisCanduveitis(TINU)syndrome:aCreview.CBrJOphthalmolC104:742-747,C20205)KoreishiCAF,CZhouCM,CGoldsteinDA:TubulointerstitialCnephritisCandCuveitissyndrome:CharacterizationCofCclini-calfeatures.OculImmunolIn.ammC29:1312-1317,C2020

糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):419.424,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例善本三和子*1高野秀樹*2東原崇明*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2東京逓信病院腎臓内科ACaseofDiabeticMacularEdemawithProgressiveRenalDysfunctionafterIntravitrealInjectionofRanibizumabMiwakoYoshimoto1),HidekiTakano2),TakaakiHigashihara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)DepartmentofNephrology,TokyoTeishinHospital糖尿病性腎症(以下,腎症)を合併した糖尿病黄斑浮腫(以下,DME)患者に対するラニビズマブ硝子体内注射(以下,IVR)治療経過中,腎機能障害が急速に進行した症例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.下腿蜂窩織炎にて当院初診時,糖尿病が発見された(HbA1C12.2%,腎症+).眼科初診時,両眼視力(1.2),増殖前網膜症を認め,内科治療開始後より右眼DMEが発症,悪化し,右眼IVRを連続3回施行したが,反応不良であった.IVR前とIVR3回後で,血清クレアチニン値2.04→3.39mg/dl,尿中TP/CRE8.14→10.92g/gCr,尿糖(.)→(+2)と3カ月間の腎機能障害の進行は急速かつ顕著であり,その後の積極的な内科治療にも抵抗して腎症はさらに悪化し続け,IVR開始11カ月後,透析導入となった.DMEに対する抗VEGF療法では,全身因子としての腎機能の変化に注意し,盲目的な連続投与は避ける必要がある.Acaseofdiabeticmacularedema(DME)withprogressiverenaldysfunctionafterrepeatedintravitrealinjec-tionofranibizumabisreported.A56-y.o.malewasadmittedtoourhospitalwithacutecellulitisofthelowerextremitiesanddiagnosedwithdiabetesmellitus(HbA1C12.2%,diabeticnephropathy+).Atinitialophthalmicexamination,correctedvisualacuityofbotheyeswas1.2,anddiabeticretinopathywaspreproliferativestage.Afterdiabetesmedicationwasinitiated,DMEofrighteyeoccurredandprogressed,andintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)wasrepeatedthreetimes,butresponseforIVRwaspoor.Dataforserumandurineanalysis(pre-→post-IVR),serumcreatinine(2.04→3.39mg/dl),urineTP/CRE(8.14→10.92g/gCr)andurinesugar(.→+2)showedrapidrenaldysfunctionafterrepeatedIVR.Elevenmonthsafterthe.rstIVR,despiteintensivemedicaltreatmentagainstprogressiverenaldysfunction,dialysiswasinitiated.Itisnecessarytogivecareandattentiontorenalfunctioninanti-VEGFtherapyforDME,andtoavoidrepeatinginjectionsroutinely.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):419.424,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ硝子体内注射,抗VEGF抗体,糖尿病性腎症,腎生検.diabeticmacu-laredema,intravitrealranibizumabinjection,anti-VEGFantibody,diabeticnephropathy,renalbiopsy.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体硝子体内注射は,現在,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)治療の主流になりつつある.しかし,同効薬である抗癌剤ベバシズマブの全身的副作用には高血圧や蛋白尿などが多く報告1)されており,全身合併症を有する頻度の高い糖尿病患者では,他の疾患に比べてその全身的影響が懸念されている.今回,筆者らは,初診時より腎症を有するDME患者に対し,抗VEGF抗体であるラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)を連続3回施行したところ,反応は不良で,かつ3回連続投与後に,急速な腎機能障害の悪化・進行が判明し〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23,Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPANた症例を経験したので報告する.I症例患者:56歳男性.主訴:下腿浮腫,発赤.現病歴:2014年3月中旬,左足関節部の傷と下腿の発赤腫脹を自覚し,同年3月18日当院皮膚科を受診.下腿蜂窩織炎を認め,全身検査の結果,HbA1C12.2%,尿糖4+,尿蛋白3+であり,糖尿病と診断(表1)され,抗菌薬全身投与とともに,強化インスリン療法,降圧薬の投与を開始,その後,3月24日糖尿病網膜症精査目的にて当科初診.既往歴:1998年頃,肥満(体重113kg,BMI34.11kg/m2),尿糖指摘.その後自己流の運動療法で体重が20kg減少し,放置.家族歴:糖尿病:弟,高血圧:母.初診時眼科所見:視力は,RV=0.15(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),LV=0.1(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),眼圧:両眼18mmHg,前眼部所見:角膜・前房異常なし.軽度の白内障あり.虹彩・隅角異常なし.眼底所見:両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑が散在し,初診時黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見では,右眼黄斑浮腫なし,左眼にはわずかな漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)と中心窩上方に軽度の網膜膨化を認めた(図1).経過:3月25日,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)では,両眼の中間周辺部網膜に無灌流域(nonperfusionarea:NPA)を認め,とくに右眼の鼻側網膜で広く,また右眼黄斑部には造影後期に毛細血管瘤からの蛍光漏出および貯留を認めた.3月31日,右眼の視力低下(矯正0.8)を訴え,OCTでは.胞様黄斑浮腫と網膜の膨化所見を認めたため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)を施行し,その後,右眼黄斑局所凝固およびNPAに対する病巣凝固を開始し,4月30日には右眼DMEは消失した.初診から3カ月後には,HbA1Cは6.7%に低下し,それ以後は,テネリグリプチン(選択的DPP-4阻害薬:テネリアR20mg1錠/日)内服治療の下,HbA1Cは5.7.6.2%と良好なコントロール状態が続いた.初診から3カ月後のFAの結果,左眼のNPAに対する病巣凝固を施行し(両眼ともにDMEの再燃なし),初診から9カ月後(2014年12月)のFAでは,右眼でさらにNPAが拡大し,左眼では網膜新生血管を認め,OCTでは右眼にわずかなSRDと網膜膨化が再燃していたため,先に右眼STTAを施行後,DMEが軽減したため,網膜光凝固を追加,さらに左眼にも網膜光凝固を追加した.2015年1月7日受診時,右眼のDMEの網膜膨化所見が悪化(図2a)していたため,同年2月6日より右眼IVRを開始したところ,反応不良であったため,その後3月13日,4月24日と連続3回IVRを施行した.しかし,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は改善せず(図2b.d),同時期に腎機能障害の急速な進行が発覚したた表1初診時全身検査結果血液検査所見WBC(×103μl)15.6×103RBC(×106μl)4.39×106Hb(g/dl)13.5Ht(%)38.4Plt(×103μl)283×103CRP(mg/dl)19.11Na/K/Cl(mEq/l)136.7/5.0/99.3GOT/GPT(IU/l)26/18TP/Alb(g/dl)5.9/2.1BUN/CRE(mg/dl)26.6/1.79BS(mg/dl)朝食後5h504HbA1C(%)12.2eGFR32.3(ml/分/1.73m2)尿所見尿糖/尿蛋白4+/3+尿ケトン体─蛋白質定量(mg/dl)569TP/CRE(g/gCr)6.13NAG(U/l)34.3b2ミクログロブリン(ng/ml)52370身体所見身長182cmBMI26.4体重91.35kg血圧180/95異常値を○○(斜体と下線)で示す.eGFRは推算糸球体濾過量(基準値:90以上),TP/CREは1日尿蛋白量(正常:0.15未満),NAG(N-アセチル-b-D-グルコサミダーゼ正常:7以下),b2ミクログロブリン(正常:230以下)はともに尿細管障害の指標.本症例はeGFRおよび尿TP/CREより,糖尿病腎症3期(顕性腎症期)と診断された.図1初診時眼底写真とOCT2014年3月24日眼科初診時の眼底写真(右眼:a,左眼:d),および黄斑部水平断(右眼:b,左眼:e)および垂直断(右眼:c,左眼:f)OCT撮影画像を示す.眼底検査では両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑を認めた.OCTでは,右眼には明らかな黄斑浮腫はなく,左眼にわずかな漿液性網膜.離と中心窩上方の軽度の網膜膨化所見を認めた.め,本症例の黄斑浮腫には全身性因子の関与が強い可能性も考えられたため,その後のIVRを中止し経過観察とした.腎機能データは,当院初診時より顕性腎症期(糖尿病腎症)であったが,内科治療開始後約9カ月間は,血1表期)(3清クレアチニン値が1.3.1.7mg/dlを維持したまま経過していた.しかし,右眼DMEが再燃したため,IVRを開始し(同時期の血清クレアチニン値2.04mg/dl),連続3回施行したところ,3回目のIVRの1週間後の4月30日腎臓内科受診時,血清クレアチニン値が3.23mg/dlと急激に上昇していたため,当院腎臓内科に即日入院となった.IVR前後の右眼CRTの変化と腎機能データの推移を図3に示す.IVR後の腎臓内科入院約1カ月間,安静と飲水励行および減塩食による食事療法,降圧薬や脂質異常症治療薬の内服にて全身浮腫は改善しいったん退院したが,退院後早期に全身性浮腫が再度悪化し,7月21日腎臓内科に再入院となり,急激な腎機能障害の進行の精査目的に8月3日腎生検を施行した.病理組織学的検査(図4)では,糸球体には,慢性経過の糖尿病性腎症の病理所見で,糖尿病性結節性硬化の初期病変と考えられる細胞浸潤を伴った活動性の高いメサンギウム融解像を認めたことや,比較的新しい内皮障害が示唆される細動脈硝子化や尿細管の滲出病変が散見されたことなどから,最近になって比較的急速に進展した糖尿病性腎症の所見2)と考えられ,臨床経過を考慮すると,IVRの全身的影響の一部である可能性も考えられた.その後は,複数回の入院治療を含む積極的な内科治療にも抵抗して腎機能障害は進行し,2015年10月シャント造設,2016年1月透析導入となった.IVR後の右眼DMEは,腎臓内科入院後徐々にCRTが減少し,入院後3カ月でほぼ浮腫は消失し,その後は全身浮腫が悪化してもCRTは約250μm程度のまま,浮腫は再燃せずに経過した.なお,左眼のDMEは上記経過中出現していない.II考察DMEは,眼局所因子と全身因子が複雑にかかわり合って発症3)し,また患者個々に病態が異なることから,その治療法は大変複雑である.また,そのためかDMEに対する抗VEGF抗体単回投与の反応は,他の加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症に比して緩やかであり,繰り返し使用を余儀なくされることも多く4),さらに治療法の選択を困難にしていると*:CRT図2IVR前後の右眼黄斑部OCT所見(上段:水平断下段:垂直断)2015年1月7日(a),DMEが再発していたため,2月6日(b)に初回IVR,3月13日(c)に第2回IVR,4月24日(d)に第3回のIVRを施行したが,CRTは増加した.思われる.抗VEGF抗体硝子体内注射の全身的副作用としては,DME患者では狭心症・心筋梗塞,高血圧症などが少数例報告されてはいる5)ものの,大規模スタディでは,対象群と抗VEGF抗体治療群を比較しても全身的副作用の発現に有意差はない6)とされている.しかし,これらの大規模スタディの対象患者の患者背景は,比較的全身状態の良好な患者に限定されていることに注意する必要がある.抗VEGF抗体硝子体内注射後の血中VEGF濃度の推移をみた報告7)では,硝子体内注射後,血中VEGF濃度が上昇し,かつ腎障害のある患者では,そのクリアランスが低下していることや,抗VEGF抗体硝子体内注射後の腎臓組織には抗VEGF抗体が存在し,さらにVEGF活性が低下していることが報告8)されており,抗VEGF抗体硝子体内注射が腎組織に対して影響を与える可能性も考えられる.また,過去には,抗VEGF抗体の硝子体内注射後に,腎機能障害が進行した症例が報告9,10)がされており,とくに糖尿病性腎症があるDME患者において抗VEGF抗体硝子体内注射を繰り返し施行する際には,腎機能の推移に注意する必要があると考える.さらに,腎機能に対する注意は,副作用という観点だけではなく,腎機能障害が進行しつつある症例では,全身因子としてのDME悪化要因が加わることで,抗VEGF抗体注射に対する反応も不良となるため,その誤った評価により,不必要な注射を繰り返すことを避けるためにも重要であると考えられる.抗VEGF抗体である,ベバシズマブは,以前より大腸癌などの抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,その全身投与時の副作用として高血圧や蛋白尿が高率に報告されており1),症例の腎生検の組織学的検討を行った報告11.16)がなされている.それらによると,腎臓組織におけるVEGFの役割は,いまだ不明な点も多いが,VEGFはおもにpodo-cyteや尿細管上皮から産生され14),糸球体毛細血管の内皮700中心窩600網膜厚500CRT400(μm)3002003.525尿NAG(Ul)尿TP/CRE(g/gCr)3201400012000血清Cr(mg/dl)尿b2MG(ng/dl)2.51510000280001060001.54000200005100.52014/10/92014/11/92014/12/92015/1/92015/2/92015/3/92015/4/92015/5/9図3IVR前後の中心窩網膜厚(CRT)と腎機能データの変化上段には中心窩網膜厚(CRT)の変化とIVR施行日を示す.下段グラフは左軸に血清クレアチニン値(実線・,□の中に実測値),尿NAG(細点線・▲),尿TP/CRE(長点線・●),右軸にb2ミクログロブリン(実線・■)を示した.グラフ右下の棒グラフは尿糖を示し,IVR開始後出現し増加した.図4腎生検(病理所見)a:糸球体.糖尿病性腎症に矛盾しない結節性病変を多数認める.b:aの拡大写真.細胞浸潤を伴うメサンギウム細胞誘融解(.)を認め,結節性病変形成の初期病変と考えられた.c:尿細管の滲出病変,尿細管間質萎縮と線維化.d:血管の光顕像(PAM染色).内皮障害を示唆する細小動脈の硝子化.細胞のfenestration形成にかかわることにより,糸球体の構造や機能を維持する役割11)や,毛細血管障害が生じた場合の修復の役割も担うこと16)が報告されている.したがって,VEGFを阻害することにより,腎臓の毛細血管の成長が阻害されることにより毛細血管障害が起こり,さらにその修復過程も阻害されることにより,腎臓組織内の毛細血管障害やthromboticmicroangiopathy(TMA)などが引き起こされることが推測されている.本症例の腎機能障害の進行経過は,通常の糖尿病腎症を否定するものではないが,IVR開始後の進行速度が,非常に急速でかつ内科的治療に抵抗性であったこと,またHbA1C5.6%と血糖コントロール良好であるにもかかわらず,IVR開始後に尿糖が陽性になり,その後増加していったことは,通常の糖尿病腎症の進行経過中にはみられない点として着目した.通常の糖尿病性腎症の進行速度は,さまざまな要因によって修飾されるため,一定速度であるとは限らないが,過去の報告17)によると,血清クレアチニン値2.0mg/dlから透析導入に至るまでの期間は糖尿病腎不全症例36例の検討では平均2年4カ月と報告されており,本症例では経過は,約1年であり,比較的早い経過で腎不全に進行した症例と考えられた.さらに腎生検では糖尿病腎症に矛盾しない所見に加えて,この病期の糖尿病腎症患者ではみることが少ない,初期病変が散見されたことは,それまで存在していた糖尿病性腎症がIVRによりさらに後押しされたように進行した可能性も考えられたが,因果関係は不明である.DMEに対する抗VEGF抗体硝子体内注射は大変有用な治療法である.しかし,DME患者では糖尿病腎症を合併していることが多く,繰り返し治療を行う場合には進行性の腎機能障害があるかどうか,治療開始後,腎機能データに著しい変動はないか,という点に注意する必要があると思われた.とくに腎症を有し,DME治療開始時期に血清クレアチニン値が上昇傾向にある患者では,腎臓内科主治医と連絡をとりあいながら治療法を決定することが望ましいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhuX,WuS,DahutWLetal:Risksofproteinuriaandhypertensionwithbevacizumab,anantibodyagainstvas-cularendothelialgrowthfactor:systemicreviewandmeta-analysis.AmJKidneyDis49:186-193,20072)齋藤弥章,木田寛,吉村光弘ほか:糖尿病性腎症におけるMesangiolysisについて.日腎誌26:367-375,19843)BresnickGH:Diabeticmaculopathy.Acriticalreviewhighlightingdi.usemacularedema.Ophthalmology90:1301-1317,19834)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofranibizumabondiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/mlVIII安全性(使用上の注意等)に関する項目.VIII-8副作用.p56-58,2015年3月改訂(改訂第11版)6)LangGE,BertaA,EldemBMetal:Two-yearsafetyande.cacyofranibizumab0.5mgindiabeticmacularedema:interimanalysisoftheRESTOREeztensionstudy:Oph-thalmology120:2004-2012,20137)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/ml.VII.薬物動態に関する項目.p47-51,2015年3月改訂(改訂第11版)8)TschlakowA,ChristnerS,JulienSetal:E.ectsofasin-gleintravitrealinjectionofa.iberceptandranibizumabonglomeruliofmonkeys.PLoSOne21:e113701,20149)PelleG,ShwekeN,DuongVanHuyenJPetal:Systemicandkidneytoxicityofintraocularadministrationofvascu-larendothelialgrowthfactorinhibitors.AmJKidneyDis57:756-759,201110)GeorgalasI,PapaconstantinouD,PapadopoulosKetal:Renalinjuryfollowingintravitrealanti-VEGFadministra-tionindiabeticpatientswithproliferativediabeticretinop-athyandchronickidneydisease-Apossiblesidee.ect?CurrentDrugSafety9:156-158,201411)EreminaV,Je.ersonJA,KowalewskaJetal:VEGFInhi-bitionandRenalThromboticMicroangiopathy.NEnglJMed358:112-1136,200812)SugimotoH,HamanoY,CharytanDetal:Neutralizationofcirculatingvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)byanti-VEGFantibodiesandsolubleVEGFreceptor1(sFlt-1)inducesproteinuria.JBiolChem278:12605-12608,200313)GeorgeBA,ZhouXJ,TotoR:Nephroticsyndromeafterbevacizumab:casereportandliteraturereview.AmJKidneyDis49:E23-E29,200714)FrangieC,LefaucheurC,MedioniJetal:Renalthrom-boticmicroangiopathycausedbyanti-VEGF-antibodytreatmentformetastaticrenal-cellcarcinoma.LancetOncol8:177-178,200715)RonconeD,SatoskarA,NadasdyTet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眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):235.238,2012c眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例竹内正樹*1翁長正樹*1樋口亮太郎*1水木信久*2*1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室ACaseofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeDiagnosedbyOphthalmologicConsultationMasakiTakeuchi1),MasakiOnaga1),RyotarouHiguchi1)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine目的:眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群:tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)の1症例の報告.症例:27歳,男性.発熱,腹痛,体重減少を自覚し慢性胃炎,熱中症の診断で内科治療が行われたが症状の改善はみられなかった.2カ月後,右眼の充血,眼痛を自覚した.近医眼科でぶどう膜炎と診断され,横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.血清クレアチニン3.0mg/dl,尿中b2ミクログロブリン53.8mg/lであり尿細管障害が指摘された.腎生検で急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併からTINU症候群と診断された.点眼治療,副腎皮質ステロイドパルス療法によりぶどう膜炎,急性間質性腎炎は改善した.結語:ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮し精査加療する必要があると考えられた.Purpose:Toreportacaseoftubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome(TINUsyndrome)diagnosedbyophthalmologicconsultation.Case:A27-year-oldmaleexperiencedfever,weightlossandabdominalpain.Hewastreatedforheatstrokeandchronicgastritisbyaninternist,butthesymptomswerenotalleviated.Twomonthslater,henoticedpainandrednessinhisrighteye,andhisserumcreatinineandurinarybeta2microglobu-linlevelswerefoundtobeelevated.HewasdiagnosedwithTINUsyndromeonthebasisofocular.ndingsandrenalbiopsy.ndings.Theuveitisandinterstitialnephritiswereimprovedbyeyedroptreatmentandcorticosteroidpulsetherapy.Conclusion:TINUsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithuveitisandcompromisedrenalfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):235.238,2012〕Keywords:間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群,TINU症候群,前部ぶどう膜炎,間質性腎炎,腎生検.tubulointer-stitialnephritisanduveitissyndrome,TINUsyndrome,anterioruveitis,tubulointerstitialnephritis,renalbiopsy.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(以下,TINU症候群)は,急性間質性腎炎にぶどう膜炎を合併した症候群である.1975年にDobrinが2症例を報告して以来1),現在までに世界で200例ほどの報告がみられる2).TINU症候群は若年女性に好発し,ぶどう膜炎は両眼性前部ぶどう膜炎が多くみられる3).全身症状には,発熱,体重減少,倦怠感,腹痛などがあり,眼症状としては充血,眼痛,霧視などがある3).急性間質性腎炎はぶどう膜炎に先行して起こることが多いが,ぶどう膜炎が先行した症例の報告もみられる3).TINU症候群の治療には,副腎皮質ステロイド,免疫抑制剤の全身投与が行われる.TINU症候群の視力予後は一般的に良好であり,腎機能障害についても89%で改善がみられるが,不可逆性の腎機能障害から腎不全に至り,腎移植が必要となることもある3).今回,筆者らは発熱,倦怠感,腹痛などを自覚し内科を受〔別刷請求先〕竹内正樹:〒236-0037横浜市金沢区六浦東1-21-1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科Reprintrequests:MasakiTakeuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,1-21-1Mutsuura-Higashi,Kanazawa-ku,Yokohama236-0037,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(87)235診していたが診断に至らずに,眼科受診を契機にTINU症候群の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,男性.主訴:右眼充血.既往歴:特記事項なし.平成22年6月頃より,発熱,全身倦怠感,腹痛,食欲不振を自覚した.近医内科を受診し,熱中症の診断で点滴加療を受けた.その後も症状が続いたため,上部消化管内視鏡検査を施行し慢性胃炎の診断で内服治療を受けていた.8月上旬より右眼の充血および眼痛を自覚し,8月21日,近医眼科を受診した.右眼の虹彩炎の診断でリン酸ベタメタゾン点眼の4回投与を行った.リン酸ベタメタゾン点眼により充血,虹彩炎の改善がみられたが,その後も軽快と増悪を繰り返した.10月4日,右眼虹彩炎の再燃および右眼眼圧28mmHgと上昇を認め,精査加療目的に横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.初診時視力は,VD=20cm/m.m.,VS=(1.2),眼圧は右眼21mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部所見では,右眼に角膜浮腫,結膜毛様充血,前房内細胞(2+),前房フレア(+),虹彩後癒着を認めた(図1).右眼中間透光体,眼底は角膜浮腫のため透見不良であった.左眼に特記すべき所見はみられなかった.血液生化学検査では,血清クレアチニン3.0mg/dl,尿素窒素24.9mg/dlと高値であった.尿定性検査では蛋白定性2+,糖定性3+であった.アンジオテンシン変換酵素8.4U/lは正常範囲内であり,自己免疫抗体では抗核抗体(.),リウマトイド因子<10IU/ml,好中球細胞質抗体(PR3-ANCA<3.5U/ml,MPO-ANCA<9.0U/ml)は正常範囲内であった.心電図,胸部単純写真に異常所図1初診時右眼前眼部写真角膜浮腫,結膜毛様充血,虹彩後癒着がみられた.図2腎生検病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)間質に著明なリンパ球の浸潤を認める.糸球体の炎症はほとんどみられない.見はみられなかった.右眼前部ぶどう膜炎の診断で,リン酸ベタメタゾン点眼を1時間毎に増量し,トロピカミド・フェニレフリン点眼を開始した.腎機能障害の精査目的に,10月6日に腎臓高血圧内科を受診した.尿生化学検査では,尿蛋白定量148mg/dl(基準値20mg/dl以下),尿糖定量594mg/dl(基準値70mg/dl以下),尿中b2ミクログロブリン53.8mg/l(基準値0.3mg/l以下)と著明に高値であった.尿細管障害を主座とした腎機能障害を認め,同日,内科に緊急入院となり,尿細管障害による脱水補正を目的に生理食塩水2,500ml/日の点滴静注が開始された.10月8日に眼科受診時には,眼痛,充血は改善傾向であった.角膜浮腫は軽快し,結膜毛様充血,前房内細胞は改善傾向であり,右眼矯正視力は0.5となった.眼底所見に特記すべき所見はみられなかった.ぶどう膜炎および腎機能障害の合併より,TINU症候群を考慮し,10月12日に腎生検が施行された.病理学的検査では,尿細管間質にリンパ球と形質細胞の著明な浸潤を認め,尿細管は圧排されていた(図2).以上より,急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併よりTINU症候群の診断に至った.10月25日より副腎皮質ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日3日間)を行い,以後内服で漸減した.右眼ぶどう膜炎は点眼により軽快し,角膜浮腫の改善により右眼矯正視力は1.2となった.腎機能障害は安静と副腎皮質ステロイドパルス療法により軽快した(図3).その後,平成23年5月に左眼の前部ぶどう膜炎を認め,リン酸ベタメタゾン点眼を開始した.現在まで,右眼のぶどう膜炎の再発はみられていない.平成23年8月には血清クレアチニン,尿中b2ミクログロブリンが基準値内となった.236あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(88)副腎皮質ステロイド全身投与ベタメタゾン点眼1時間毎6回4回前房内細胞2+++2+++-1.510.50小数視力10月4日12日25日11月18日初診入院腎生検ステロイドパルス退院図3入院時経過Cr:血清クレアチニン,U-b2II考察今回,筆者らは全身症状を自覚し内科を受診したが診断に至らずに,眼科受診を契機に腎機能障害を指摘され,TINU症候群の診断に至った症例を経験した.TINU症候群では腎機能障害は89%で改善すると報告されている3).しかし,腎不全に至る症例もあり早期発見,早期治療が重要となる.TINU症候群のぶどう膜炎は点眼治療に対する反応も良いため,ぶどう膜炎の治療のみを行うと急性間質性腎炎の診断が遅れる可能性がある.今回の症例においては,全身症状の自覚からTINU症候群の診断に至るまでにおよそ4カ月を要した.他の報告4)でも,発症初期では眼科,内科が独立して治療を行っていることも多く,早期の診断のためには内科との円滑な連携が重要となる.ぶどう膜炎の診察では炎症が軽度であっても全身疾患が隠れていることもあるため,血液尿検査をはじめとした全身検査が必要である.TINU症候群では視力予後は良好である3).症例では初診時に角膜浮腫を伴っており視力は手動弁であった.急性期においても視力低下は比較的軽度であり手動弁にまで低下した報告は過去にない.しかし,治療経過は他の報告と同様に副腎皮質ステロイド点眼により,速やかに視力が改善している.TINU症候群では50%程度の症例でぶどう膜炎が再発するため3),今後も定期的な診察が必要である.症例では現在までぶどう膜炎の再発はみられていないが,7カ月後に副腎皮質ステロイド10mg/日を内服中であるにもかかわらず左眼に初めて前部ぶどう膜炎を認めた.過去の報告でも高用量の副腎皮質ステロイド投与中にぶどう膜炎を発症した症例が報告されている5).CrU-b2MG(mg/dl)(mg/l)3.0602.0401.0200.00MG:尿中b2ミクログロブリン.TINU症候群の診断について標準的な診断基準は確立されていない.腎機能障害とぶどう膜炎を合併する鑑別疾患としては,サルコイドーシス,Sjogren症候群,全身性エリテマトーデス,Wegener肉芽腫症などがあげられる.これらの疾患との鑑別には,腎生検における急性間質性腎炎の病理所見が重要となる.MandevilleらはTINU症候群の診断基準について,急性間質性腎炎の2カ月前から12カ月後以内に発症した両眼性ぶどう膜炎をtypicaluveitisとし,typicaluveitisと急性間質性腎炎の病理診断を合わせた症例をde.niteTINUsyndromeとしている3).症例では,両眼同時発症ではないが両眼性ぶどう膜炎と急性間質性腎炎の病理診断よりde.niteTINUsyndromeとなる.TINU症候群の原因については感染,薬剤,自己免疫との関連が過去に報告されているが,いまだ結論には至っていない3).尿細管と毛様体上皮は炭酸脱水酵素阻害感受性の電解質輸送体に関して同様の機能を有しており,このことは両者に共通の交叉抗原が存在する可能性を示唆している6,7).近年の報告では,Tanらはmodi.edCRPに対する自己抗体がTINU症候群の原因である可能性について報告している8).また,OnyekpeらはTINU症候群で腎不全に至り腎移植を受けた患者で移植腎においても間質性腎炎がみられたことから,TINU症候群の原因は血液中の自己抗体ではないかと推察している9).III結語ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮して内科との連携を図り精査加療する必要がある.(89)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012237文献1)DobrinRS,VernierRL,FishAL:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanteriorueitis.Anewsyn-drome.AmJMed59:325-333,19752)SinnamonKT,CourtneyAE,HarronC:Tubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome:Epidemiology,diagnosisandmanagement.NephrolDialTransplantPlus2:112-116,20083)MandevilleJTH,LevinsonRD,HollandGN:Thetubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthal-mol46:195-208,20014)黛豪恭,秋山英雄,海野朝美ほか:良好な経過をたどった尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群の2例.臨眼63:897-901,20095)LavaSA,BucherO,BucherBSetal:DevelopmentofuveitisduringsystemiccorticosteroidtherapyinTINUsyndrome.PediatrNephrol26:1177-1178,20116)IzzedineH:Tubulointerstitialnephritisanduveitissyn-drome:Astepforwardtounderstandinganelusiveocu-lorenalsyndrome.NephrolDialTransplant23:1095-1097,20087)SugimotoT,TanakaY,MoritaYetal:Istubulointersti-tialnephritisanduveitissyndromeassociatedwithIgG4-relatedsystemicdisease?Nephrology13:89,20088)TanY,YuF,QuZetal:Modi.edC-reactiveproteinmightbeatargetautoantigenofTINUsyndrome.ClinJAmSocNephrol6:93-100,20119)OnyekpeI,ShenoyM,DenleyHetal:Recurrenttubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndromeinarenaltransplantpatient.NephrolDialTransplant26:3060-3062,2011***238あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(90)