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プロスタグランジン/β遮断薬配合点眼液による単回点眼の視神経乳頭血流に及ぼす影響

2019年8月31日 土曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1074.1077,2019cプロスタグランジン/b遮断薬配合点眼液による単回点眼の視神経乳頭血流に及ぼす影響芳賀聡*1,2篠原和哉*1山名智志*1清水瑞己*1海津美穂*1能美典正*1武田憲治*1藤澤公彦*1*1地域医療機能推進機構九州病院眼科*2福岡歯科大学医科歯科総合病院眼科CIn.uenceonOpticNerveHeadBloodFlowofSingleDoseInstillationofBeta-blockerAdditiontoProstaglandinSatoshiHaga1,2),KazuyaShinohara1),SatoshiYamana1),TamamiShimizu1),MihoKaizu1),NorimasaNoumi1),KenjiTakeda1)andKimihikoFujisawa1)1)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationKyushuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FukuokaDentalCollegeC目的:視神経乳頭の血流に及ぼす影響についてわが国で使用可能な抗緑内障薬のうち,プロスタグランジン製剤とCb遮断薬の合剤C4種類について単回点眼の効果について前向きな研究を行う.眼圧下降効果,視神経乳頭血流への影響,点眼による自覚的副作用について調べる.対象および方法:眼疾患を有しない健常者C21例・42眼(平均年齢C40.6歳±10.5歳)を対象として,プロスタグランジン/b遮断薬配合点眼液(A群:ラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼液,B群:ラタノプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,C群:トラボプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,D群:タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液)を片眼にC1剤,他眼に別剤を点眼し,点眼C1,2時間後に血圧・脈拍数・眼圧を測定,視神経乳頭血流量をレーザースペックル法で測定した.結果:トラボプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(A群)において点眼前と点眼C2時間後の間に眼圧の有意な低下を認めた(p=0.02CTurkeytest).タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(D群)において点眼前と点眼後C1,2時間ともに眼圧の有意な低下を認めた(p=0.01,Cp=0.01Turkeytest).眼灌流圧・視神経乳頭血流量に関しては点眼後C1,2時間ともに有意な変化を認めなかった(眼灌流圧:p=0.89,C0.61,C0.59,0.49,視神経乳頭血流:p=0.64,C0.99,C0.42,0.92).点眼後C1,2時間後の眼灌流圧と視神経乳頭血流量の相関は少ない結果となった(相関係数:1時間後A群:C0.240,B群:0.075,C群:0.090,D群:0.020,2時間後A群:0.002,B群:0.007,C群:0.018,D群:0.184).結論:プロスタグランジン/b遮断薬配合点眼液による単回点眼の視神経乳頭血流に及ぼす血流変化は示さなかった.CPurpose:Weconductedaprospectivestudyregardingthein.uenceonopticnerveheadblood.owofsingledoseinstillationof4kindsofbeta-blockersaddedtoprostaglandin.Patientsandmethods:Subjectscomprised42eyesCofC21Chealthyvolunteers(meanage:40.6±10.5years).COpticCnerveCbloodC.owCwasCmeasuredCbyCtheClaserspecklemethod;bloodpressure,pulserateandintraocularpressureweremeasuredat1and2hoursafterprosta-glandin/bblocker(latanoprost/carteololhydrochloridecombination,latanoprost/timololmaleatecombination,travo-prost/timololCmaleateCcombination,Cta.uprost/timololCmaleatecombination)inConeCeye,CandCotherCeye.CResults:CMeaningfuldropinintraocularpressurewasdetectedtwohoursafterinstillationoftimololmaleatecombination(p=0.02CTurkeytest),CandCtwoChoursCafterCinstillationCofCta.uprost/CtimololCmaleatecombination(p=0.01,Cp=0.01Turkeytest).Intraocularpressureandopticnerveblood.owdidnotincreaseforoneortwohours(eyeperfusionpressure:p=0.89,C0.61,C0.59,0.49;opticCnerveCblood.ow:p=0.64,C0.99,C0.42,0.92).CNoCsigni.cantCcorrelationCwasobservedbetweenintraocularpressureandopticnerveblood.owforoneortwohours(Correlationcoe.cient:CAfterC1ChourA:0.240,B:0.075,C:0.090,D:0.020,CAfterC2ChoursA:0.002,B:0.007,C:0.018,D:0.184).CConclusion:Resultsindicatethatsingledoseinstillationofbeta-blockeradditiontoprostaglandinhasnoin.uence〔別刷請求先〕芳賀聡:〒814-0193福岡市早良区田村C2-15-1福岡歯科大学医科歯科総合病院眼科Reprintrequests:SatoshiHaga,DepartmentofOphthalmology,FukuokaDentalCollege,2-15-1Tamura,Sawara-ku,Fukuoka-shi,Fukuoka814-0193,JAPANC1074(104)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(104)C10740910-1810/18/\100/頁/JCOPYonopticnerveheadblood.ow.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(8):1074.1077,C2019〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィー(LSFG),視神経乳頭血流,ラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼液,ラタノプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,トラボプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,前向き研究.laserspeckle.owgraphy(LSFG)C,opticnerveheadblood,latanoprost/carteololhydrochloridecombination,latanoprost/timololmaleatecombination,travo-prost/timololmaleatecombination,ta.uprost/timololmaleatecombination,prospectivestudy.Cはじめに緑内障の進行には眼圧の影響がもっとも大きい.そのため眼圧下降においてプロスタグランジン製剤,Cb遮断薬を第一選択として使用することが多い.眼圧以外の進行にかかわる要素の一つとして眼循環が指摘1)されている.プロスタグランジン製剤点眼が視神経乳頭の血流に及ぼす影響2),b遮断薬が視神経乳頭の血流に及ぼす影響3.5)に関しての報告はあるが,合剤に関しての報告は少ない.筆者らは,Cb遮断薬との合剤C4種類について視神経乳頭血流を検討した.CI対象および方法全身疾患および眼疾患・眼手術歴を有しない健常者C21人・42眼(平均年齢C40.6歳C±10.5歳)を対象としてプロスタグランジン/Cb遮断薬配合点眼液(A群:ラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼液,B群:ラタノプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,C群:トラボプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,D群:タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液)を片眼にC1剤,他眼にC1剤点眼し,点眼C1,2時間後に血圧・脈拍数・眼圧を測定,視神経乳頭血流量をレーザースペックル法で測定した.右眼へ点眼CA,左眼へ点眼CBをC11人へ,右眼へ点眼CC,左眼へ点眼CD10人へ点眼した.視神経乳頭血流測定不能眼に関してはこれを除外し,38眼となった.血圧,脈拍測定は自動血圧計(エレマーノ,テルモ),眼圧測定はノンコンタクトトノメーター(NT-530,ニデック)を用い,視神経乳頭血流速度測定にはレーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVI,ソフトケア)を用いた.視神経乳頭の血管血流(meanCvesselCblood.ow:MV)についてCmeanCblurCrate(MBR)の値を求めた.全例に対して無散瞳下で測定した.平均血圧は拡張期血圧+1/3(収縮期血圧C.拡張期血圧),眼灌流圧は(2/3平均血圧C.眼圧)とした.すべての測定は同一検者が施行した.統計学的検討にはCanalysisCofCvari-ance(ANOVA)を用い,ANOVAで群間に有意差がある場合はCTurkeyの多重比較を施行した.p<0.05を統計学的に有意とした.また,今回の研究では点眼施行後にアンケート調査を行った項目は結膜充血,眼刺激症状,眼痛,霧視,掻痒感,眼脂,結膜浮腫,羞明,眼重感,乾燥感で,各項目についてC0:なし,1:軽度,2:重度で評価してもらい,平均値を比較した.当臨床試験は地域医療機能推進機構九州病院倫理委員会の承認(申請番号C555)を得たあとに,試験参加全員からの文書での参加同意を得て施行した.本研究はヘルシンキ宣言に従って施行され,被験者に対して本研究の趣旨・内容に関して説明し同意を得たうえで施行した.CII結果被験者の内訳を表1に示した.4群の点眼前の年齢・平均血圧・脈拍・眼圧・MVに有意差を認めなかった(p=0.90,Cp=0.99,Cp=0.86,Cp=0.61,Cp=0.45ANOVA).C1.眼圧点眼前の眼圧はCA群C15.7C±3.7CmmHg(meanC±SD)であった.点眼C1時間後はC12.8C±3.7mmHg,点眼2時間後はC13.1±3.2CmmHgとなった(p=0.19).B群では点眼前C15.9C±4.1CmmHg,点眼C1時間後C13.4C±3.4CmmHg,点眼C2時間後でC12.0C±3.4CmmHgとなった(p=0.07).C群では点眼前C14.3±2.3mmHg,点眼C1時間後C10.4C±2.3mmHg,点眼C2時間後はC9.5C±2.9CmmHgとなった(p=0.01).C群点眼前に表1内訳とその背景A群B群C群D群p値(ANOVA)9C10C9C10年齢(歳)C39.6±9.8C39.6±9.3C40.5±12.5C40.9±9.9C0.90平均血圧(mmHg)C96.7±12.4C96.1±11.8C95.9±7.3C97.3±6.7C0.99脈拍(/min)C80.4±14.6C81.4±14.1C80.2±9.1C76.9±10.4C0.86眼圧(mmHg)C15.7±3.7C15.9±4.1C14.3±2.6C14.2±3.2C0.61CMVC47.0±7.3C43.6±6.0C47.6±7.2C45.9±6.9C0.45C(105)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C10751.61.41.41.21.211眼灌流圧変化比眼圧変化比眼灌流圧変化比眼圧変化比0.80.80.60.60.40.40.20.20A群0.82B群0.84C群0.82D群0.680A群0.84B群0.75C群0.84D群0.71点眼施行群(眼圧変化比平均値)点眼施行群(眼圧変化比平均値)図1点眼前に対する点眼1時間後の眼圧変化比図2点眼前に対する点眼2時間後の眼圧比1.41.41.21.2110.80.80.60.60.40.40.20.20A群1.02B群1.00C群1.03D群1.060A群1.04B群1.07C群1.05D群1.04点眼施行群(眼灌流圧変化比平均値)点眼施行群(眼灌流圧変化比平均値)図3点眼前に対する点眼1時間後の眼灌流圧変化比図4点眼前に対する点眼2時間後の眼灌流圧変化比1.61.6視神経血流量変化比1.41.210.80.60.40.2視神経血流量変化比1.41.210.80.60.40.20A群0.98B群1.01C群1.02D群0.92点眼施行群(視神経血流量変化比平均値)図5点眼前に対する点眼1時間後の視神経血流量変化比対して点眼C1時間後で有意に下降した.(p=0.02CTurkeytest).D群では点眼前C14.2C±3.2mmHg,点眼C1時間後C9.3C±2.7mmHg,点眼C2時間後C9.6C±2.1mmHgとなった(p=0.01).D群点眼前に対して点眼C1時間後・2時間後で有意に下降した.(p=0.01,Cp=0.01Turkeytest).点眼前に対する眼圧比は点眼C1時間後ではCA群:0.82,CB群:0.84,C群:0.82,D群:0.68,点眼C2時間後ではCA群:0.84,CB群:0.75,CC群:0.84,CD群C0.71となった(図1,2).C2.血圧点眼前の平均血圧はCA群C96.7C±12.4CmmHgであった.点眼C1時間後はC93.7C±15.2mmHg,点眼C2時間後はC95.7C±0A群0.99B群0.99C群1.00D群1.02点眼施行群(視神経血流量変化比平均値)図6点眼前に対する点眼2時間後の視神経血流量変化比17.7mmHgとなった(p=0.91).B群では点眼前C96.1C±11.8mmHg,点眼C1時間後C92.9C±14.5mmHg,点眼C2時間後でC95.0±16.8mmHgとなった(p=0.88).C群では点眼前C95.9C±7.3mmHg,点眼C1時間後C93.7C±4.8CmmHg,点眼C2時間後はC94.0C±5.2mmHgとなった(p=0.71).D群ではC97.3C±6.7mmHg,点眼C1時間後C95.5C±6.2CmmHg,点眼C2時間後C94.5±5.6mmHgとなった(p=0.60).C3.眼.灌.流.圧点眼前の眼灌流圧はCA群C48.8C±5.2mmHgであった.点眼C1時間後はC49.7C±8.7CmmHg,点眼C2時間後はC52.0C±10.1mmHgとなった(p=0.89).B群では点眼前48.1C±5.5mmHg,(106)点眼C1時間後C48.1C±8.9mmHg,点眼C2時間後でC51.4C±8.8mmHgとなった(p=0.61).C群では点眼前49.7C±7.2mmHg,点眼C1時間後C51.3C±3.1mmHg,点眼C2時間後はC52.1C±4.9mmHgとなった(p=0.59).D群ではC51.4C±6.7CmmHg,点眼C1時間後C53.4C±4.6mmHg,点眼C2時間後C52.6C±4.6CmmHgとなった(p=0.49).点眼前に対する眼灌流圧比は点眼C1時間後ではCA群:1.02,B群:1.00,C群:1.03,D群:1.06,点眼2時間後ではA群:1.04,B群:1.07,C群:1.05,D群1.04となった(図3,4).C4.視神経乳頭血流点眼前に対する視神経乳頭血流比は点眼C1時間後ではCA群:0.98,B群:1.01,C群:1.02,D群:0.92(図5),点眼C2時間後ではCA群:0.99,CB群:0.99,CC群:1.00,CD群C1.02(図6)となった.MVについてCMBRは点眼前CA群:47.0C±8.7,B群:43.6C±6.0,C群:47.6C±7.2,D群:45.9C±6.9,点眼C1時間後ではCA群:44.3C±7.1,B群:43.6C±5.8,C群:44.1C±5.1,D群:47.3C±8.2,点眼C2時間後ではCA群:43.7C±7.0,CB群:43.5C±5.5,C群:44.8C±5.1,D群:46.9C±8.8となった.点眼C1・2時間後ともに有意な変化を認めなかった(p=0.64,C0.99,C0.42,0.92).眼灌流圧比と視神経乳頭血流量比の相関関係に関して,相関係数はC1時間後CA群:0.240,B群:0.075,C群:0.090,CD群:0.020,C2時間後CA群:0.002,CB群:0.007,C群:0.018,D群:0.184であった.いずれにおいても相関係数はC0.0.0.25の間となった.プロスタグランジン/Cb遮断薬配合点眼液による副作用に関してはCA群・B群・C群・D群で結膜充血(0.3,C0.6,C0.7,0.3)(平均値),眼刺激症状(0,C1.0,C0.1,0.2),眼痛(0,0.1,0,0),霧視(0,0,0,0),掻痒感(0.1,C0.1,C0.1,0.1),眼脂(0,0,0,0),結膜浮腫(0,0,0,0),羞明(0,C0,C0,0),眼重感(0.2,C0.3,C0.1,0.1),乾燥感(0.2,0.4,C0.3,C0.3)となった.CIII考按b遮断薬とプロスタグランジン製剤の合剤はC4種類いずれも視神経乳頭血流への影響はなかった.眼灌流圧が上昇すれば理論的には視神経乳頭血流は上昇すると考えられるが,症例ごとの眼灌流圧の変化と視神経乳頭血流量の間に明らかな相関関係はなかった.このことから視神経乳頭血流量は眼灌流圧に依存しないような調節機能6)があるか,または点眼薬の視神経乳頭血流に対する直接の減少作用6)で打ち消されているかいずれかであろうと推察された.今回の研究では点眼施行後の視神経乳頭血流の有意な増加は認めなかったが,正常眼と緑内障眼では結果が異なる可能性がある7,8).正常眼に比較してすでに視神経乳頭血流量が減少している緑内障眼では異なる結果2)が起こりうる.Cb遮断薬としてカルテオール塩酸塩では視神経乳頭血流比のC2時間後にばらつきが多かった.カルテオール塩酸塩とチモロールマレイン酸塩では視神経乳頭血流に対する違いが指摘されているが4),カルテオール塩酸塩には内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympa-thomimeticactivity:ISA)があり,末梢血管抵抗を減少9,10)させ,眼血流への影響があったためにばらつきが大きくなった可能性も考えられた.点眼による副作用に関してはラタノプラスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液で眼刺激症状が他よりも多く,既報の(13例/473例)11)に比べて刺激症状が多い結果となった.今回の検討結果では健常人に対してCb遮断薬とプロスタグランジン製剤の合剤はC4種類いずれも視神経乳頭血流への影響を示さなかった.今後症例数を増やし,また緑内障症例での検討も必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)内藤哲郎,伊藤浩幸,安樂礼子ほか:プロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析.あたらしい眼科C34:734-739,C20172)梅田和志,稲富周一郎,大黒幾代ほか:正常眼におけるカルテオール塩酸塩(ミケランCRLA2%)の眼血流への影響.あたらしい眼科C30:405-408,C20133)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:E.ectoftopicalcar-teololConCtissueCcirculationCinCtheCopticCnerveChead.CJpnJOphthalmol42:27-32,C19984)TamakiCY,CAraieCM,CTomitaCKCetal:E.ectCofCtopicalCbeta-blockersConCtissueCbloodC.owCinCtheChumanCopticCnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,C19975)TamakiCY,CAraieCM,CTomitaCKCetal:E.ectCofCtopicalCtimololontissuecirculationinopticnervehead.JpnJOph-thalmol41:297-304,C19976)酒井麻夫,橋本りゅう也,出口雄三ほか:健常者におけるRhoキナーゼ阻害薬リスパジル塩酸塩水和物による視神経乳頭血流への影響.あたらしい眼科33:1226-1230,C20167)杉山哲也,柴田真帆,嶌祥太ほか:緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVICTMによる解析.あたらしい眼科29:984-987,C20128)笠原正行,庄司信行,森田哲也ほか:緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響.あたらしい眼科29:1136-1140,C20129)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:ラタノプロスト・Cb遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科28:1017-1021,C201110)JanczewskiCP,CBoulangerCC,CIqbalCACetal:Endothelium-dependente.ectsofcarteolol.JPharmacolExpTherC247:C590-595,C198811)吉田愛,森政美香,板東説也ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(ザラカム配合点眼液)の使用実態下における安全性と有効性-特定使用成績調査中間解析結果報告.臨眼C68:574-580,C2014(107)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C1077

0.005%ラタノプロスト点眼液による正常眼視神経乳頭および脈絡膜循環の変化

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1133.1138,2018c0.005%ラタノプロスト点眼液による正常眼視神経乳頭および脈絡膜循環の変化萩原蓉子小暮朗子小暮俊介高橋洋平江村純子竹下恵理飯田知弘東京女子医科大学眼科学教室ChangesinBloodFlowofOpticNerveHeadandChoroidby0.005%LatanoprostinHealthyEyesYokoHagiwara,AkikoKogure,ShunsukeKogure,YoheiTakahashi,JunkoEmura,EriTakeshitaandTomohiroIidaCDepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:0.005%ラタノプロスト点眼液による正常眼視神経乳頭部および脈絡膜の血流動態に及ぼす影響を検討した.対象および方法:対象は健常人C14例C14眼.片眼にC0.005%ラタノプロストを点眼し,点眼前および点眼C2時間後に眼圧,血圧,眼灌流圧,またレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用いて視神経乳頭部および黄斑部の血流値を測定した.結果:平均眼圧は,ラタノプロスト点眼前後でC14.7C±1.8CmmHgからC13.2C±1.9CmmHgへ有意に下降した(p<0.01).平均血圧および眼灌流圧は点眼前後で有意な変化がなかった.LSFGによる血流値は,ラタノプロスト点眼前後で,黄斑部CMBR,視神経乳頭CMA,MVおよびCMTすべの部位において有意に上昇した(それぞれ点眼前C10.9±4.1,23.0C±4.0,46.3C±9.2,12.7C±3.0から点眼後C11.3C±3.91,24.7C±3.5,49.9C±9.9,13.6C±3.0.すべてCp<0.05).眼灌流圧変化率と眼圧変化率には有意な相関を認めなかった.結論:0.005%ラタノプロスト点眼液は眼圧下降効果のみならず,眼圧非依存性の血流増加作用がある可能性が示唆された.CPurpose:WeCinvestigatedCchangesCinCbloodC.owCofCtheCopticCnerveChead(ONH)andCmaculaCafterCinstillationof0.005%latanoprostinnormaleyes.MaterialandMethod:In14eyesof14healthysubjects,intraocularpres-sure(IOP),CbloodCpressure,CocularCperfusionCpressure(OPP)andCbloodC.owCvelocityCofCONHCandCmaculaCusingLSFGCwereCmeasuredCbeforeCandCatC2ChoursCafterCinstillationCofC0.005%Clatanoprost.CResults:MeanCintraocularCpressurereducedsigni.cantly,from14.7±1.8CmmHgto13.2±1.9CmmHg,2hoursafterlatanoprostinstillation(p<0.01)C.MeanbloodpressureandOPPwerenotsigni.cantlychanged.MacularMBRandMA,MVandMTofONHincreasedCsigni.cantlyCinCallCareas(p<0.05)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCcorrelationCbetweenCchangesCinCOPPCandCIOP.CConclusion:ThisCstudyCfoundCthatC0.005%ClatanoprostCsigni.cantlyCreducedCintraocularCpressureCandCincreasedblood.ow2hoursafterinstillation.BecauseOPPwasunchanged,itissuggestedthatthesechangesinhemodynamicswereduetodirectvasodilativee.ectsof0.005%latanoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1133.1138,C2018〕Keywords:ラタノプロスト,レーザースペックルフローグラフィー,視神経乳頭血流.latanoprost,ClaserCspeckleC.owgraphy,blood.owofopticnervehead.Cはじめに現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた確実な治療法は眼圧下降であり,ベースラインからC30%の眼圧下降を目標に点眼治療を導入することがスタンダードとなっている1).しかしながら,眼圧下降が十分であるにもかかわらず,視野障害が進行することがしばしば経験される.片頭痛,高血圧,視神経乳頭出血および視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮などの循環障害を起因とする病態が緑内障の視野進行における危険因子であることが報告されており2.8),緑内障治療薬に対しては,眼圧下降効果に加え眼循環に対する〔別刷請求先〕小暮朗子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkikoKogure,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjyu-ku,Tokyo162-8666,JAPAN作用が期待されている.ラタノプロストはプロスタグランジンCF2Caアナログで強力な眼圧下降効果を有する緑内障治療薬であり9),緑内障点眼薬の第一選択薬の一つである.ラタノプロスト点眼液の眼血流量に与える影響は,眼圧下降による眼灌流圧上昇に伴う血流増加10.14)と,薬剤が末梢血管拡張作用を有する15)ことの二つが考えられるが観察期間が長期の投与例の既報告がほとんどであり,眼圧下降による眼灌流圧上昇に伴う血流増加を示す結果であると推察されている.そこで今回筆者らは,ラタノプロストの点眼後早期における血流動態への影響を検討するために,LSFG-NAVIを用いて,0.005%ラタノプロスト点眼C2時間前後における視神経乳頭部および黄斑部の眼血流変化について血流解析を行った.CI対象および方法対象は,健常人ボランティアC14例C14眼,男性C5例,女性9例.平均年齢はC32.3C±9.2歳(25.48歳)である.対象眼の等価球面度数は,平均C.1.75±2.5ジオプトリー(D)(.3.75..0.75D)であった.高血圧症・糖尿病を含む重篤な全身合併症の既往,等価球面度数C.6D以下の近視,+3D以上の遠視,眼疾患の既往のものは除外した.本研究は,本学倫理員会承認を得ており,すべての対象について本研究に関する目的と方法について十分な説明を行い,同意を得ている.0.005%ラタノプロストを点眼する眼を無作為に決定しラタノプロスト点眼群とし(コインによる左右眼ランダムサンプリング),他眼を対照群として生理食塩水を点眼した.点眼前と点眼C2時間後に眼圧,平均血圧,眼灌流圧およびLSFGによる血流値CMBR(meanblurrate)の測定を行った.眼圧,血流測定は点眼前後各C3回行い,平均値を用いた.それぞれ平均血圧=(拡張期血圧)+1/3(収縮期血圧C.拡張期血圧),眼灌流圧=2/3×平均血圧.眼圧として算出した.LSFGによる血流測定部位は黄斑部と視神経乳頭部とした.黄斑部はCRubberCband(RB)を中心窩C150ピクセル四方に設置した.これは眼底では約C1Cmm四方の大きさであり脈絡膜循環を測定していることとなる.視神経乳頭部においては,MBRを乳頭内平均血流値CMA(meanCblurCrateCinCallarea),乳頭内組織領域平均血流値CMT(meanblurrateintissueCarea),乳頭内血管領域平均血流値CMV(meanCblurrateinvesselarea)に分類して測定を行った.統計には各群間(Mann-Whitney’sUtest),各項目(Wil-coxonCsigned-ranksCtest)の点眼前後の比較について検討し,また血流値変化と眼灌流圧変化との関連についてもCPearson’sCcorrelationCtestを用いて検討した(p<0.05を有意とした).CII結果平均血圧は,点眼前C85.0C±9.3CmmHg(93.128CmmHg),点眼後C85.3C±9.3CmmHg(89.132CmmHg)で有意な変化はみられなかった.平均眼圧はラタノプロスト点眼群において,点眼前C14.7C±1.8CmmHg(12.18CmmHg)から点眼後C13.2C±1.9CmmHg(10.16CmmHg)と有意に下降し(p<0.01),平均変化率は.10.2%であった(図1).対照群では点眼前C14.4C±2.0mmHg(11.17mmHg)から点眼後C13.8C±2.0CmmHg(10.17CmmHg)と有意な変化は認めなかった.平均眼灌流圧はラタノプロスト点眼群において,点眼前41.9C±5.9CmmHg(32.1.51.6mmHg),点眼後C43.6C±6.3CmmHg(32.5.52.5mmHg)であり(図1),対照群では点眼前C43.0C±7.7CmmHg(42.3.67.5CmmHg)から点眼後C43.9C±8.2CmmHg(43.3.69.7mmHg)といずれも有意な変化を認めなかった.血流値に関しては,黄斑部CMBRはラタノプロスト点眼群において,点眼前C10.9C±4.1(5.2.18.2),点眼後C11.3C±3.91(5.6.16.7)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+3.7%であった.対照群では点眼前C10.3C±3.4(5.2.15.8)から点眼後C10.5C±3.6(6.16.9)と有意な変化は認めなかった(図2).視神経乳頭部において,MAは点眼前C23.0C±4.0(17.8.30.2),点眼後C24.7C±3.5(19.8.31.9)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+7.4%であった.対照群では点眼前C23.8C±4.7(18.1.33.8)から点眼後C24.5C±4.0(19.8.31.6)と有意な変化は認めなかった(図2).MVでは点眼前C46.3C±9.2(30.5.63.9),点眼後C49.9C±9.9(34.4.58.1)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+7.8%であった.対照群では点眼前C45.6C±8.9(32.6.67.5)から点眼後C47.1C±8.9(34.7.73.5)と有意な変化は認めなかった(図2).MTでは点眼前C12.7C±3.0(8.3.17.5),点眼後C13.6C±3.0(8.2.19.3)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+7.1%であった.対照群では点眼前C12.4C±3.3(6.6.18.9)から点眼後C12.7±3.0(8.3.18.6)と有意な変化は認めなかった(図2).すなわちラタノプロスト点眼群においては,黄斑部CMBR,視神経乳頭CMA,視神経乳頭CMVおよび視神経乳頭CMTのすべての部位において有意な血流値の増加がみられた.眼灌流圧変化率と黄斑部CMBR,視神経乳頭CMA,視神経乳頭MVおよび視神経乳頭CMTにおいての血流値変化率では有意な相関を認めなかった(それぞれCr=.0.30,+0.19,+0.05,すべてCp=ns).代表症例を示す(図3).39歳,女性.この症例は,ラタノプロスト点眼前後で眼圧はC16CmmHgのままで眼圧下降を認めず,眼灌流圧は点眼前C42.5mmHgから点眼後C41.8mmHgとわずかに低下した.血流値は,黄斑部CMBRはC11からC13,視神経乳頭部CMAはC23.3からC28.1,MV4はC8.7点眼前■点眼後点眼前■点眼後20**ns60nsns5015nsnsmmHgmmHg4010302010050ラタノプロスト点眼群生食点眼群生食点眼群図1平均眼圧・平均眼灌流圧の変化ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な眼圧下降を認めた(**p<0.01CWilcoxonCsigned-ranksCtest).生食点眼群では有意な変化はなかった.両群ともに点眼C2時間後において平均眼灌流圧の有意な変化を認めなかった.C点眼前■点眼後点眼前■点眼後*ns2030*ns251520151050*点眼前■点眼後ns点眼前■点眼後6020*ns5015400ラタノプロスト点眼群生食点眼群ラタノプロスト点眼群生食点眼群図2黄斑MBR・視神経乳頭MA・視神経乳頭MV・視神経乳頭MTの変化ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な黄斑部CMBRの上昇を認めた(*p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な視神経乳頭CMAの上昇を認めた(**p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な視神経乳頭CMVの上昇を認めた(*p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な視神経乳頭CMTの上昇を認めた(*p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).105ラタノプロスト点眼眼生食点眼眼点眼前点眼C2時間後点眼前点眼C2時間後眼圧(mmHg)C16C16C16C16眼灌流圧(mmHg)C42.5C41.8C42.5C41.8黄斑CMBRC11.0C13.0C6.5C6.6視神経乳頭CMAC23.3C28.1C26.0C26.9視神経乳頭CMVC48.7C51.9C45.8C45.9視神経乳頭CMTC10.7C11.8C11.0C11.2図3代表症例における点眼前後の眼圧・眼灌流圧・眼血流の変化39歳,女性.ラタノプロスト点眼前後で,眼圧は両眼ともにC16CmmHgのままで眼圧下降を認めなかった.眼灌流圧は点眼前C42.5CmmHgからC41.8CmmHgとわずかに低下した.黄斑部CMBRはC11からC13,視神経乳頭部MAはC23.3からC28.1,MV4はC8.7からC51.9,MTはC10.7からC11.8と全部位で血流の増加を認めた.からC51.9,MTはC10.7からC11.8と全部位で血流の増加を認めた.つまり眼圧や眼灌流圧の変化に依存せずに血流が増加しているということが示唆された.CIII考按眼灌流圧が低いほど緑内障の有病率が高く16,17),進行も早い18.20)ことや,片頭痛2,3)および高血圧4)などの全身合併症や視神経乳頭出血5,6)および乳頭周囲網脈絡膜萎縮7,8)などの眼底所見が正常眼圧緑内障の進行における危険因子であることが報告されており,緑内障の発症および進行に血流要因が関与することが考えられている.そのため緑内障治療薬には,眼圧下降効果に加えて,眼循環に対する作用が期待されている.ラタノプロストは強力な眼圧下降効果を有するのみならず,網膜神経線維および節細胞のアポトーシスを抑制する神経保護作用を有する21).ラタノプロスト点眼が眼血流におよぼす影響としては,眼血流が増加する報告10.13,22.28)と不変であるとする報告29.34)などさまざまな結果が報告されている.また,それらの対象が緑内障(POAG11,12,22.24,29,31),CNTG10,30)),緑内障疑い23),高眼圧症24,29,34)および正常症例13,25.28,32,33)などさまざまであり,血流測定部位(眼動脈24,29),網膜中心動脈12,24,31,34),視神経乳頭22,25.27,29,30,32,33),網膜22),脈絡膜13)),測定方法(カラードップラー12,24,26,29,31,34),CHeiderbergCRetinaCFlowmetry22,33),LSFG25,27,30,32))もさまざまである.本研究では,点眼前後の眼血流を,正常眼の黄斑部および視神経乳頭部においてCLSFGにより測定した.LSFGはわが国で開発された非侵襲的な血流解析装置で,一画角をC4秒間で走査することができる.得られた血流マップ上の任意の部位でCRBを設置し,該当部位の血流値を求める35).近年では,病態解明のために有用となる血流波形解析ソフトが開発されており,これらを用いた報告が散見されている25,27,30,32).LSFGによる血流計測は高い再現性をもち,眼底血流を任意の部位で観察することができる.ラタノプロスト点眼液の眼血流に与える影響は,眼圧下降による眼灌流圧上昇に伴う血流増加10.14)と,薬剤が末梢血管拡張作用15)をもつことがあげられる.本研究では,ラタノプロスト点眼後に眼圧は有意に減少したが(p<0.01),眼灌流圧には有意な変化はみられなかった.一方,血流値に関しては黄斑部,視神経乳頭全領域においてMBRは有意に上昇した(p<0.05).しかし,眼灌流圧変化率と血流値変化率には関連を認めず,眼圧下降による眼灌流圧の上昇に伴う変化が原因というよりも,薬剤の末梢血管拡張作用により血流の増加を示している可能性が考えられた.プロスタグランジンはアラキドン酸から生合成される生理活性物質の一つで,その代謝産物であるプロスタグランディンCF2CaはプロスタグランジンCI2を介して血管拡張作用を有する.Kimuraら21)の報告では,イヌの子宮動脈におけるプロスタグランジンの血管拡張作用発現時間は非常に早く,1.2分程度であると考えられている.本研究では,点眼後C2時間というわずかな時間内で血流が増加したという結果を得たが,これはプロスタグランジンの迅速な血管拡張作用によるものであると考えられた.その他のプロスタグランジン製剤による眼血流への影響についての報告もいくつか散見される.イソプロピルウノプロストン点眼において,牧本ら36)は,LSFGを使用し視神経乳頭部において眼血流が増加したと報告している.この報告では,1日C2回点眼をC21日間継続しており,長期点眼使用による眼圧下降に伴い眼灌流圧が上昇し,血流増加を呈したと推察している.一方,小蔦ら37)はイソプロピルウノプロストン点眼C3時間で視神経乳頭部および黄斑部の眼血流において有意に増加を示したが,6時間後では有意な変化がなく,本研究と同様に点眼後早期における薬剤の末梢血管拡張作用があることを示唆している.トラボプロスト11,24)やビマトロプロスト38)においても,カラードップラーでの計測により眼動脈血流が増加し,眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇に伴う血流増加作用であると報告されている.緑内障をはじめとする眼底疾患における眼血流の把握においては,眼動脈よりも視神経乳頭および黄斑部血流動態を観察する必要性が高く,LSFGでの血流観察が適していると思われる.さらには,AOSLO(adaptiveCopticsCscan-ningClaserCopthalmoscopy)を用いた,タフルプロスト点眼後の黄斑部血流増加も報告されており,より緻密な黄斑部毛細血管の血流計測の有用性も注目されている39).多くの既報告で,眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇により眼血流が増加したと報告されていたが,本研究では,ラタノプロスト点眼後早期における眼血流増加は,眼灌流圧変化率と血流値変化率には関連を認めず,眼圧非依存性のプロスタグランジン末梢血管拡張作用による可能性があると考えられた.しかし,本研究は症例数が少なく,血流測定も点眼前および点眼C2時間後のC2点のみである.点眼前後における眼灌流圧の結果もデータのばらつきもあり,統計学的に結果が不十分である可能性も考えられる.今後はさらに測定点を増加し,より詳細な血流変化を検討する必要があると考える.本研究では,ラタノプロスト点眼後早期における眼血流増加は,眼圧非依存性のプロスタグランジン末梢血管拡張作用による可能性があり,この血流変化をCLSFGにより鋭敏に把握することができたと考えられた.利益相反:飯田知弘(カテゴリーCF:バイエル製薬,ノバルティスファーマ,ニデック,興和,キヤノン)文献1)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C19982)DranceCS,CAndersonCDR,CSchulzerCMCetCal:RiskCfactorsCforprogressionofvisual.eldabnormalitiesinnormal-ten-sionglaucoma.AmJOphthalmolC131:699-708,C20013)AndersonCDR:CollaborativeCnormalCtensionCglaucomaCstudy.CurrOpinOphthalmolC14:86-90,C20034)ErnestCPJ,CSchoutenCJS,CBeckersCHJCetCal:AnCevidence-basedreviewofprognosticfactorsforglaucomatousvisualC.eldprogression.OphthalmologyC120:512-519,C20135)BudenzDL,AndersonDR,FeuerWJetal:DetectionandprognosticCsigni.canceCofCopticCdiscChemorrhagesCduringCtheCOcularCHypertensionCTreatmentCStudy.COphthalmolo-gyC113:2137-2143,C20066)BengtssonB,LeskeMC,YangZetal:DischemorrhagesandCtreatmentCinCtheCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.COph-thalmologyC115:2044-2048,C20087)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtotheprogressionofvisual.elddamageineyeswithnor-mal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC101:1440-1444,C19948)RockwoodEJ,AndersonDR:Acquiredperipapillarychang-esCandCprogressionCinCglaucoma.CGraefesCArchCClinCExpCOpthalmolC226:510-515,C19889)ZiaiCN,CDolanCJW,CKacereCRDCetCal:TheCe.ectsConCaque-ousCdynamicsCofCPhXA41,CaCnewCprostaglandinCF2CalphaCanalogue,CafterCtopicalCapplicationCinCnormalCandCocularChypertensiveChumanCeyes.CArchCOphthalmolC111:1351-1358,C199310)LiuCj,KoYC,ChengCYetal:E.ectoflatanoprost0.005%andbrimonidinetartrate0.2%onpulsatileocularblood.owCinCnormalCtensionCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC86:C1236-1239,C200211)CardasciaCN,CVetrugnoCM,CTrabuccoCTCetCal:E.ectsCofCtravoprosteyedropsonintraocularpressureandpulsatileocularblood.ow:a180-day,randomized,double-maskedcomparisonCwithClatanoprostCeyeCdropsCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CCurrCTherCResCClinCExpC64:389-400,C200312)ErkinCEF,CTarhanCS,CKayikciogluCORCetCal:E.ectsCofCbetaxololCandClatanoprostConCocularCbloodC.owCandCvisualC.eldsinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.EurJOphthalmolC14:211-219,C200413)BoltzA,SchmidlD,WeigertGetal:E.ectoflatanoprostonCchoroidalCbloodC.owCregulationCinChealthyCsubjects.CInvestOphthalmolVisSciC52:4410-4415,C201114)VertrugnoCM,CCantatoreCF,CGiganteCGCetCal:Latanoprost0.005%CinCPOAG:e.ectsConCIOPCandCocularCbloodC.ow.CActaOphthalmolScandSupplC227:40-41,C199815)KimuraT,YoshidaY,TodaN:Mechanismsofrelaxationinducedbyprostaglandinsinisolatedcanineuterinearter-ies.AmJObsetGynecolC167:1409-1416,C199216)BonomiCL,CMarchiniCG,CMarra.aCMCetCal:VascularCriskfactorsforprimaryopenangleglaucoma:theEgna-Neu-marktStudy.OphthalmologyC107:1287-1293,C200717)TielschJM,KatzJ,SommerAetal:Hypertension,perfu-sionpressure,andprimaryopen-angleglaucoma.Apopu-lation-basedCassessment.CArchCOphthalmolC113:216-221,C199518)LeskeMC,Heijl,HymanLetal:Predictorsoflong-termprogressionintheearlymanifestglaucomatrial.Ophthal-mologyC114:1965-1972,C200719)FlammerJ,OrgulS,CostaVPetal:TheimpactofocularbloodC.owCinCglaucoma.CProgCRetinaCEyeCResC21:359-393,C200220)HarrisCA,CRechtmanCE,CSieskyCBCetCal:TheCroleCofCopticCnerveCbloodC.owCinCtheCpathogenesisCofCglaucoma.COph-thalmolClinNorthAmC18:345-353,C200521)NakanishiY,NakamuraM,MukunoHetal:Latanoprostrescuesretinalneuro-glialcellsfromapoptosisbyinhibit-ingCcaspase-3,CwhichCisCmediatedCbyCp44/p42Cmitogen-activatedCproteinCkinase.CExpCEyeCResC83:1108-1117,C200622)GherghelD,HoskingSL,Cunli.eIAetal:Eye.First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocu-larCcirculationCinCnewlyCdiagnosedCprimaryCopen-angleglaucomaCpatients:aCprospective,C6-month,Copen-labelCstudy.EyeC22:363-369,C200823)SponselWE,ParosG,TrigoYetal:Comparativee.ectsofClatanoprost(Xalatan)andCunoprostone(Rescula)inCpatientswithopen-angleglaucomaandsuspectedglauco-ma.AmJOphthalmolC134:552-559,C200224)KozCOG,COzsoyCA,CYarangumeliCACetCal:ComparisonCofCtheCe.ectsCofCtravoprost,ClatanoprostCandCbimatoprostConocularCcirculation:aC6-monthCclinicalCtrial.CActaCOphthal-molScandC85:838-843,C200725)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:E.ectsoftopi-calClatanoprostConCopticCnerveCheadCcirculationCinCrabbits,Cmonkeys,CandChumans.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:C2957-2963,C200126)TamakiCY,CNagaharaCM,CAraieCMCetCal:TopicalClatano-prostCandCopticCnerveCheadCandCretinalCcirculationCinChumans.JOculPharmacolTherC17:403-411,C200127)廣石悟朗,廣石雄二郎,藤居仁ほか:ラタノプロスト点眼とイソプロピルウノプロストン点眼による正常人乳頭循環への影響.眼臨100:303-306,C200628)GeyerCO,CManCO,CWeintraubCMCetCal:AcuteCe.ectCofClatanoprostConCpulsatileCocularCbloodC.owCinCnormalCeyes.CAmJOphthalmolC131:198-202,C200129)NicolelaMT,BuckleyAR,WalmanBEetal:AcomparaC-tiveCstudyCofCtheCe.ectsCofCtimololCandClatanoprostConCblood.owvelocityoftheretrobulbarvessels.AmJOph-thalmolC122:784-789,C199630)SugiyamaCT,CKojimaCS,CIshidaCOCetCal:ChangesCinCopticCnerveCheadCbloodC.owCinducedCbyCtheCcombinedCtherapyCofClatanoprostCandCbetaCblockers.CActaCOphthalmolC87:C797-800,C200931)MartinezCA,CSanchezCM:ACcomparisonCofCtheCe.ectsCof0.005%ClatanoprostCandC.xedCcombinationCdorzolamide/CtimololConCretrobulbarChaemodynamicsCinCpreviouslyCuntreatedCglaucomaCpatients.CCurrCMedCResCOpinC22:C67-73,C200632)南雲日立,萩原直也,伊藤賢司ほか:ラタノプロスト点眼による夜間の眼血流量と眼圧の変化.臨眼C57:483-485,C200333)SeongCGJ,CLeeCHK,CHongCYJ:E.ectsCofC0.005%Clatano-prostConCopticCnerveCheadCandCperipapillaryCretinalCbloodC.ow.OphthalmologicaC213:355-359,C199934)AkarsuC,BilgiliYK,TanerPetal:Short-terme.ectoflatanoprostConCocularCcirculationCinCocularChypertension.CClinExpOphthalmolC32:373-377,C200435)小暮朗子:LaserCSpeckleCFlowgraphy.臨眼C69:1764-1773,C201536)牧本由紀子,杉山哲也,小蔦祥太ほか:イソプロピルウノプロストン長期点眼の網脈絡膜循環に及ぼす影響.日眼会誌104:39-43,C200037)小蔦祥太,杉山哲也,東郁郎ほか:イソプロピルウノプロストン点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.日眼会誌C101:605-610,C199738)InanCUU,CErmisCSS,COrmanCACetCal:TheCcomparativeCcardiovascular,Cpulmonary,CocularCbloodC.ow,CandCocularChypotensivee.ectsoftopicaltravoprost,bimatoprost,bri-monidine,andbetaxolol.JOculPharmacolTherC20:293-310,C200439)IidaCY,CAkagiCT,CNakanishiCHCetCal:RetinalCbloodC.owCvelocityCchangeCinCparafovealCcapillaryCafterCtopicalCta.u-prostCtreatmentCinCeyesCwithCprimaryCopen-angleCglauco-ma.SciRepC7:5019,C2017***

プロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭血流変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):734.739,2017cプロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭血流変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析内匠哲郎伊藤浩幸安樂礼子竹山明日香榎本暢子石田恭子富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科PeripapillaryAtrophyandItsRelationtoChangesinOpticNerveHeadBloodFlowafterUseofTopicalProstaglandinAnaloguesTetsuroTakumi,HiroyukiIto,AyakoAnraku,AsukaTakeyama,NobukoEnomoto,KyokoIshidaandGojiTomitaDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine東邦大学医療センター大橋病院眼科で新たに診断された無治療の正常眼圧緑内障患者22例22眼を対象とし,ハイデルベルグレチナトモグラフ3による乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)形状測定と,レーザースペックルフローグラフィによる治療前,治療3カ月後の時点での乳頭組織血流測定を行い,その関連を前向きに検討した.治療3カ月後において,眼圧は有意に下降した.治療前後の乳頭組織血流変化率とPPAパラメータに有意な相関を認めなかった.また,治療3カ月後での血流増加群および低下群の間でPPAパラメータに有意差を認めなかった.一方,視神経乳頭の上下耳鼻側別での解析では,鼻側の乳頭組織血流増加群と下側の低下群において,PPAパラメータと乳頭組織血流変化率との間に有意な相関が一部認められた.PPAの大きさや広がりが点眼治療前後の乳頭組織血流変化に与える影響については,その関連性は否定できないが,関連の程度は低いと考えられた.Weprospectivelyinvestigatedthecorrelationbetweenperipapillaryatrophy(PPA)andmicrocirculationoftheopticnervehead(ONH)beforeandafterusingtopicalprostaglandinanaloguesinnormal-tensionglaucoma(NTG).Twenty-twopatientswithnewlydiagnosedNTGwereenrolledinthestudy.PPAparametersweremeasuredbyHeidelbergRetinaTomograph3.ONHmicrocirculationwasdeterminedbylaserspeckle.owgraphy(LSFG)beforeandat3monthsaftertreatment.ThemeanblurrateofthetissuecomponentoftheONH(MBR-T)wascalculat-ed.At3monthsaftertreatment,intraocularpressurewassigni.cantlyreduced.However,nosigni.cantcorrela-tionswereobservedbetweenPPAparametersandchangesintheMBR-T,exceptinthenasalquadrantandtheinferiorquadrantoftheONH.WeconcludethatPPAundeniablyin.uencesthee.ectoftreatmentforONHmicro-circulation,butitsrolemaynotbesigni.cantlyhigh.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):734.739,2017〕Keywords:視神経乳頭血流,レーザースペックルフローグラフィ,正常眼圧緑内障,乳頭周囲脈絡網膜萎縮.op-ticnerveheadcirculation,laserspeckle.owgraphy,normaltensionglaucoma,peripapillaryatrophy.はじめにこれまで乳頭周囲脈絡網膜萎縮(peripapillaryatrophy:PPA)と緑内障との関連についていくつかの報告がなされてきた.すなわち,①PPAの大きさは正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の機能,構造的異常とよく相関する1).②bゾーンPPAを認める緑内障眼はPPAを認めない緑内障眼と比較して視野進行が速い2).③PPAは視野進行領域の急速な部分と空間的に相関する3).④bゾーンPPAと網膜神経線維層欠損の局在は相関がある4).などである.一方,緑内障眼の眼血流について,近年わが国では,レーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)が実用化され,それらを用いた報告がなされてきた.すなわち,①緑内障眼の乳頭辺縁部では,組織血流と視野障害(パターン偏差)の上下比が相関する5),②LSFGにおけ〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒153-0044東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,2-17-6Oohashi,Meguro-ku,Tokyo153-0044,JAPAN734(132)る血流の指標であるmeanblurrate(MBR)は自動視野計の視野障害指標であるmeandeviation(MD)値やスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoher-encetomography:SD-OCT)で測定された網膜神経線維層厚ともによく相関する6),③原発開放隅角緑内障において,LSFGで得られた組織血流の波形解析パラメータであるskew,blowouttimeはMD値と有意に相関する7).④NTGにおいて,MBRはMD値,乳頭周囲網膜神経線維層厚,および黄斑部網膜神経節細胞複合体厚と有意に相関する8),などである.現在,緑内障点眼治療はプロスタグランジン(prostaglan-din:PG)関連薬が第一選択薬として用いられている.PG関連薬については,眼圧下降効果に加え,視神経乳頭部血流が増加したという報告9.11)が散見されるが,低下したという報告12)もある.また,これまでPPAは視神経乳頭局所の血流障害を示す構造変化であるとの認識があるが1),PPAと視神経乳頭血流の関連については不明な点も多い.今回筆者らは,無治療のNTG眼において,PG関連薬1剤点眼治療開始前後での視神経乳頭部組織血流(乳頭組織血流)変化とPPAパラメータの形状(大きさ,広がり)との関連について,とくにPPAの存在が視神経乳頭血流の変化に影響を与えるのかという観点から検討したので報告する.I対象および方法1.対象2013年1月.2015年10月に,東邦大学医療センター大橋病院眼科で新たに診断された無治療のNTG患者のうち,治療開始前3カ月以内にLSFGによる乳頭部血流測定と,ハイデルベルグ走査レーザー断層計(HeidelbergRetinaTomograph3.HeidelbergEngineeringGmBH,HRT3)にてPPA形状解析ができた症例を前向きに採用した.本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行われ,研究の要旨とプロトコールは東邦大学医療センター大橋病院倫理委員会の承認を受けた(承認番号:橋承12-83).すべての対象患者に対し口頭にて研究の内容を説明し,インフォームド・コンセントを得たうえで,同意文書に署名を得た.NTGの診断基準は,①24時間日内変動測定を含む複数回の眼圧測定にて眼圧<21mmHg,②特徴的な緑内障性乳頭変化(乳頭陥凹拡大:C/D比>0.7とそれに伴うリムの菲薄化)と網膜神経線維層束状欠損がみられ,信頼性のある視野検査結果(Humphrey自動視野プログラム中心30-2SITAにて,固視不良率<20%,偽陰性率<20%,偽陽性率<15%)にて,乳頭障害部に一致した視野障害が再現性をもって検出される,③両眼正常開放隅角,④ステロイド薬内服の既往,頭蓋内疾患,眼底の出血性病変など,眼圧,視野結果に影響を与える疾患の既往がないこと,とした13).また,本研究組み入れに際しての除外基準として,内眼手術既往歴があるもの,等価球面度数で<.6D,HRT3の画質が不良(画像のqualitycontrolで“poor”あるいは“unacceptable”と判定,または平均標準偏差>30μm),およびPPAがHRT3の撮影画角より大きい場合は対象から除外した.両眼組み入れ基準に合致した場合は,Humphrey視野の視野障害指数であるMD値(dB)が重度な側の眼を解析対象とした.対象患者に対して,Humphrey視野測定,Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定,眼底写真撮影(トプコンTRC-50DXTypeIAトプコン)を含む眼科的一般検査の後,HRT3によるPPA形状解析およびLSFGによる視神経乳頭部血流測定を行った.点眼薬はラタノプロスト点眼薬かタフルプロスト点眼薬を2人の眼科専門医(GT,KI)が恣意的に選択して投与した.2.HRT3によるPPA形状解析LSFG測定を同一日に行わない場合にはトロピカミド・フェニレフリン点眼,同一日に行う場合にはトロピカミド点眼にて散瞳,眼底写真撮影の後,HRT3(バージョン33.1.2.4)にて視神経乳頭部を画角15°で撮像し,熟練した1人の検者が眼底写真を参照しながら乳頭縁の決定を行った.引き続き,眼底写真を参照しながら,装置に内蔵されているPPAzoneanalysisprogramを用いて,HRT3画像上でbゾーンPPAの範囲を決定した.本研究ではbゾーンPPAは,視神経乳頭縁に沿って強膜と脈絡膜血管が目視できる網脈絡膜の萎縮部分と定義した.bゾーンPPAの形状のパラメータとして,つぎの5つのパラメータを求めた.すなわち,I.PPA全体の面積を示すatrophyarea(AA,mm2),II.PPAの乳頭周囲での広がりの状態を,乳頭中心を基点とした扇の角度として表現するtotalangularextent(TAE,°),III.乳頭中心からPPAの乳頭縁からもっとも離れた場所までの距離を示すtotalradialextent(TRE,mm),IV.totalradialextentのうち,乳頭縁からの距離を示す,maxi-mumdistancefromcontour(MDC,mm),そして,V.MDCを乳頭半径で割ったmaximumdistance/radius(MDR)の五つである(図1).3.LSFGによる視神経乳頭部血流測定トロピカミド点眼にて散瞳後,LSFG-Navi(ソフトケア社)を用いて,視神経乳頭部の血流測定を行った14,15).LSFG-Naviには波長830nmの半導体レーザー発振装置,CCDカメラが内蔵されており,スペックルパターンの変動をコンピュータで解析し,MBR(meanblurrate)値がカラーマップ表示される(図2).解析部位は視神経乳頭とし,四つの部位,すなわち上側,下側,耳側,鼻側の区域に分け,乳頭全体値および各部位の組織領域のMBR(MBR-T)を求めた.測定は3回行い,その平均値を解析に使用した.Ⅰ.Atrophyarea(AA)Ⅱ.Totalangularextent(TAE)Ⅲ.Totalradialextent(TRE)Ⅳ.Max.distancefromcontour(MDC)Ⅴ.Max.distance/radius(MDR;MDC/radius)図1PPAのパラメータ4.検討項目と統計学的解析両眼組み入れ可能な症例では,視野MD値が悪いほうの眼のデータを解析に用いた.点眼治療開始前および点眼後3カ月時点での,眼圧,LSFG測定直後の平均血圧,眼灌流圧〔計算式:2/3(1/3×収縮期血圧+2/3×拡張期血圧).眼圧〕,視神経乳頭全体および上下耳鼻側1/4円のMBR-Tの変化率および治療開始前の五つのPPAパラメータ値とした.点眼前,および点眼開始3カ月後の値の比較には対応のあるt検定を用いた.2群間の相関の解析にはSpearman順位相関係数を求めた.有意水準はいずれも,p<0.05とした.II結果22例22眼(男性7例7眼,女性15例15眼)が対象となった.平均年齢(±標準偏差)は56.7±3.0(歳),平均等価球面度数(±標準偏差)は.2.6±0.6(D),Humphrey視野の平均MD値(±標準偏差)は.3.9±0.7(dB),平均pat-ternstandarddeviation値(±標準偏差)は6.3±0.6(dB)であった.使用PG剤の内訳は,ラタノプロストが8例,タフルプロストが14例であった.点眼開始後3カ月で眼圧は有意に下降したが,平均血圧,眼灌流圧に変化はなかった(表1).治療前の乳頭組織血流とPPA各パラメ.タには有意な相関は認められなかった(表2).治療前後の乳頭組織血流MBR-Tは,全体値および上下耳鼻側において変化はなかった(表3).PPAの各パラメータとMBR-Tの変化率(治療後.治療前/治療前×100)とAllAreaInRubberBandMV=37.7(100.0%)MT-7.0(100.0%)MA=15.1MV-MT=30.7図2MBR(meanblurrate)のカラーマップ表示解析部位は視神経乳頭とし,四つの部位,すなわち上側(S),下側(I),耳側(T),鼻側(N)の区域に分け,乳頭全体値および各部位の組織領域のMBR(MBR-T)を求めた.図では,MV:MeanofVasculararea(ラバーバンド内血管領域のMBR平均値),MT:MeanofTissuearea(ラバーバンド内組織領域のMBR平均値),MA:MeanofAllarea(ラバーバンド内全領域のMBR平均値)が示されるが,このうち組織血流を示すMTを,MBR-Tとし検討項目に使用した.の相関についても,すべてのパラメータに有意な相関はみられなかった(表4).つぎに,治療後3カ月の時点で乳頭全体値および上下耳鼻側それぞれにおいてMBR-Tが増加した群と反対に低下していた群に分けて解析した.その結果,乳頭全体値でMBR-Tが増減した群分けに関して(増加群8眼,低下群14眼),PPAパラメータのTRE(増加群:0.48±0.05mm,低下群:0.60±0.07mm,p=0.070)とMDR(増加群:0.55±0.08,低下群:0.80±0.08,p=0.063)において,低下群のほうがPPAの網膜周辺部方向への進展度が大きい傾向にあったが,上下耳鼻側の増減で分けた場合は,すべてのPPAパラメータに有意な差はなかった(表5).一方,増加群,低下群別で,MBR-Tの変化率とPPAパラメータの相関を解析したところ,鼻側で増減した群分けにおいて(増加群12眼,低下群:10眼),MBR-Tの変化率は,増加群においてPPAパラメータのTAEと有意に正相関した.すなわち,PPAの広がりが大きい眼ほど乳頭組織血流はより改善していた.また,下側で増減した群分けにおいて(増加群12眼,低下群10眼),MBR-Tの変化率は,低下群においてPPAパラメータのAAが有意に正相関した.すなわち,PPAの面積が大きい眼ほど,MBR-Tが低下した率は大きかった(表6).III考察緑内障眼において,b-PPAに関連する報告や1.4),緑内障と視神経乳頭血流との関連について数多くの報告がなされている9.12).PPAは視神経乳頭部における循環障害を示すリスクファクターと考えられているが,これまでにPPAと視神経乳頭血流変化との関連を検討した詳細な既報はほとんどない.今回筆者らは,無治療の正常眼圧緑内障においてPPAの性状(面積および広がり)によって点眼治療前後における血流変化に違いがあるかを検討した.HRT3によって得られた画像を用いて各眼のPPAパラメータをHRT3に内蔵されるPPAanalysisprogramを用いて解析するとともに,LSFGを用い治療前,治療後3カ月時点での視神経乳頭全体表1治療前後眼圧・血圧・眼灌流圧治療前治療3カ月後p値眼圧(mmHg)16.0±0.512.8±0.4<0.001血圧(mmHg)87.5±2.685.2±2.5p=0.310眼灌流圧(mmHg)42.3±1.744.1±1.6p=0.327平均±標準偏差.対応のあるt検定表2治療前MBR.T値とPPAパラメータとの相関係数AATAETREMDCMDR乳頭全体.0.154.0.049.0.052.0.230.038(0.493)(0.828)(0.817)(0.920)(0.867)上側.0.1950.018.0.119.0.051.0.072(0.384)(0.936)(0.597)(0.820)(0.749)耳側0.0080.067.0.0330.0420.167(0.970)(0.766)(0.883)(0.851)(0.458)下側.0.331.0.259.0.261.0.263.0.224(0.132)(0.244)(0.241)(0.238)(0.316)鼻側.0.388.0.095.0.385.0.256.0.205(0.074)(0.673)(0.077)(0.250)(0.360)Spearman順位相関係数.():p値.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表3治療前後のMBR.T値治療前治療3カ月後p値乳頭全体10.5±0.510.3±0.50.523上側10.7±0.510.9±0.50.559耳側7.5±0.47.6±0.50.942下側10.5±0.411.0±0.50.238鼻側12.3±0.612.7±0.60.391平均±標準偏差.対応のあるt検定.および視神経乳頭を上側,耳側,下側,鼻側に4分割した際の各部位における組織血流(MBR-T)を測定した.その結果,治療開始前と治療3カ月後の時点において,PPAの五つのパラメータすべてとMBR-Tの変化率との間には有意な相関を認めなかった.PPAはこれまで視神経乳頭局所の血流に関連した変化と考えられており,PPAの大きさは緑内障性視野障害進行のリスクファクターとの報告されている16).一方,緑内障点眼薬によって,視神経乳頭血流が改善されたとする報告も少なくなく,PG剤においても報告がなされている17).ただ,点眼をすれば必ずしも全例で血流が増加するわけではなく,またその変化も個人差が多い18).緑内障治療薬点眼後の血流変化にPPAの存在が何らかの影響を及ぼすのか否かについては,これまでのところ検討した報告はほとんどない.今回の筆者らの検討では,PPAのパラメータ,すなわち,面積,広がり,周辺部に向かっての突出の程度,すべてに関して点眼前後の乳頭組織血流変化との関連はなかった.一方で,治療後乳頭組織血流が増加した群と低下した群に分けて解析したところ,低下群のほうがPPAの網膜周辺部方向への進展度(TREとMDR)が大きい傾向にあったが,有意ではなかった.また,上下耳鼻側別での乳頭組織血流の変化率においては,鼻側で増加した群において,PPAの広がり(TAE)が大きい眼ほど乳頭組織血流はより改善していた.また,下表4治療前後MBR.T変化率とPPAパラメータとの相関係数AATAETREMDCMDR乳頭全体.0.013.0.0470.0250.090.01(0.954)(0.836)(0.911)(0.691)(0.966)上側.0.1590.020.0.169.0.140.0.176(0.480)(0.930)(0.452)(0.536)(0.434)耳側.0.0320.208.0.099.0.033.0.007(0.887)(0.352)(0.660)(0.885)(0.974)下側.0.0320.091.0.0440.015.0.023(0.887)(0.687)(0.848)(0.946)(0.919)鼻側0.0030.126.0.0270.0080.006(0.990)(0.577)(0.905)(0.970)(0.978)Spearman順位相関係数.():p値.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表5乳頭全体におけるMBR.Tの増加および低下群間でのPPA比較AATAETREMDCMDR増加群(n=8)0.90±0.17174.3±22.560.48±0.05*0.46±0.050.55±0.08#低下群(n=14)0.95±0.12152.1±7.640.60±0.07*0.54±0.080.80±0.08#対応のないt検定,*:p=0.070,#:p=0.063AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表6MBR.T増加および低下群でのMBR変化率とPPAとの相関係数AATAETREMDCMDR増加群:乳頭全体(n=8).0.072.0.548.0.263.0.036.0.190(0.866)(0.160)(0.528)(0.933)(0.651)上側(n=11)0.0360.245.0.0230.055.0.059(0.915)(0.467)(0.947)(0.873)(0.863)耳側(n=9)0.0080.3330.209.0.0420.217(0.983)(0.381)(0.589)(0.915)(0.576)下側(n=12)0.0700.4550.0630.1750.123(0.829)(0.138)(0.846)(0.586)(0.704)鼻側(n=12).0.1820.601.0.340.0.364.0.455(0.572)(0.039)(0.280)(0.244)(0.147)低下群:乳頭全体(n=14).0.0730.354.0.279.0.204.0.090(0.805)(0.215)(0.334)(0.483)(0.759)上側(n=11)0.068.0.327.0.182.0.191.0.191(0.842)(0.326)(0.593)(0.574)(0.574)耳側(n=13)0.4890.1760.4730.4670.313(0.090)(0.566)(0.103)(0.108)(0.297)下側(n=10)0.669.0.2000.4180.3210.321(0.035)(0.580)(0.229)(0.365)(0.365)鼻側(n=10)0.225.0.115.0.0120.0790.079(0.532)(0.751)(0.973)(0.829)(0.829)Spearman順位相関係数,():p値,太字:有意な相関あり.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.側で増減した群分けにおいては,低下群においてPPAの面積(AA)が大きい眼ほど,MBR-Tが低下した率は大きかった.このことから,PPAの存在が緑内障治療薬点眼後の血流変化に何らかの影響を与えている可能性は否定できないが,全体としてはその影響は低いと考えられた.今回の研究の問題点として,すでに治療が開始されている紹介患者の割合が高い大学病院での単施設研究であり,対象となる未治療の緑内障症例数が22例と少ないため関連のある,なしを最終的に結論するには対象数を増やしてさらに検討する必要がある点があげられる.ただ,今回の解析結果では視神経乳頭全体としては相関係数は非常に小さく,さらに多くの対象を解析すれば何らかの有意差は得られる可能性は否定できないが,得られたとしても,PPAが乳頭組織血流変化に関与する割合は,臨床的に問題にならないほど非常に小さい可能性もある.今後,対象患者の全身要因も含め,どのような事前要素が緑内障治療点眼薬使用後の乳頭組織血流改善につながるかをさらに検討していく必要があると思われた.以上,まとめとして,PPAの形状(大きさ,広がり)が,少なくともPG関連薬点眼前後での乳頭組織血流変化に影響を与えている可能性は否定できないものの,その影響は少ないと結論した.本論文の内容の一部は,第120回日本眼科学会総会(仙台)にて発表した.文献1)ParkKH,TomitaG,LiouSYetal:Correlationbetweenperipapillaryatrophyandopticnervedamageinnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology103:1899-1906,19962)TengCC,DeMoraesCG,PrataTSetal:Beta-Zoneparapapillaryatrophyandthevelocityofglaucomapro-gression.Ophthalmology117:909-915,20103)TengCC,DeMoraesCG,PrataTSetal:Theregionoflargestb-zoneparapapillaryatrophyareapredictsthelocationofmostrapidvisual.eldprogression.Ophthal-mology118:2409-2413,20114)ChoBJ,ParkKH:Topographiccorrelationbetweenb-zoneparapapillaryatrophyandretinalnerve.berlayerdefect.Ophthalmology120:528-534,20135)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,20106)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Signi.cantcorre-lationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisual.elddefectsandnerve.berlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,20117)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化LSFG-NAVITMによる解析.あたらしい眼科29:984-987,20128)山下力,家木良彰,三木淳司ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性.あたらしい眼科31:1387-1391,20149)GherghelD,HoskingSL,Cunli.eIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocu-larcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients.Eye22:363-369,200810)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:E.ectsoftopicalphen-ylephrineandta.uprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,201011)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:E.ectsofprosta-glandinF(2a)analoguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularblood.ow:comparisonamongta.uprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,201012)小嶌祥太,杉山哲也,柴田真帆ほか:タフルプロスト長期点眼(1年間)による原発開放隅角緑内障の視野,視神経乳頭血流・形状の変化.臨眼68:895-902,201413)NakazawaT,ShimuraM,RyuMetal:Progressionofvisual.elddefectsineyeswithdi.erentopticdiscappearancesinpatientswithnormaltensionglaucoma.JGlaucoma21:426-430,201214)DaintyJC(ed):Laserspeckleandrelatedphenomena.SpringerVerlag,NewYork,197515)藤居仁:レーザースペックルフローグラフィーの原理.あたらしい眼科15:175-180,199816)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtheprogressionofvisual.elddamagesineyeswithnor-mal-tensionglaucoma.Ophthalmology101:1440-1444,199417)TsudaS,YokoyamaY,ChibaNetal:E.ectoftopicalta.uprostonopticnerveheadblood.owinpatientswithmyopicdisctype.JGlaucoma22:398-403,201318)HarrisA,EvansDW,CantorLBetal:Hemodynamicandvisualfunctione.ectsoforalnifedipineinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol124:296-302,1997***

健常者におけるRhoキナーゼ阻害薬リパスジル塩酸塩水和物による視神経乳頭血流への影響

2016年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(8):1226?1230,2016c健常者におけるRhoキナーゼ阻害薬リパスジル塩酸塩水和物による視神経乳頭血流への影響酒井麻夫*1橋本りゅう也*1出口雄三*1富田剛司*2前野貴俊*1*1東邦大学医療センター佐倉病院眼科*2東邦大学医療センター大橋病院眼科InfluenceofRhoKinaseInhibitorRipasudilInstillationonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersAsaoSakai1),RyuyaHashimoto1),YuzoDeguchi1),GojiTomita2)andTakatoshiMaeno1)1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:健常者におけるリパスジル塩酸塩水和物点眼による視神経乳頭血流の変化を検討する.対象および方法:屈折異常以外の眼疾患を有しない健常者12例を対象とし,0.4%トロピカミドによる散瞳後,片眼にリパスジル点眼を,他眼に生理食塩水を点眼し,1,2,4,6時間後に体血圧,脈拍数,両眼圧および視神経乳頭血流の変化率(meanblurrate:MBR)をレーザースペックル法で測定した.MBRは,上方,下方,耳側,鼻側の4つの区域に分け,各領域の組織MBR(meanoftissuearea:MT),血管MBR(meanMBRinvesselarea:MV),全領域MBR(meanofallarea:MA)として測定し比較検討した.結果:視神経乳頭全体では,点眼6時間後のMTが点眼前と比べ有意に増加していた.耳側では,4時間後のMA,MTと,6時間後のMT,MVが点眼前と比べ有意に増加した.眼圧は対照側と比べ有意に低下した.全身血圧と脈拍数は開始前と比べ有意な変化はなかった.結論:健常者においてリパスジル点眼は眼圧下降のみならず視神経乳頭血流を増加させることが示された.Purpose:Toexaminewhethertherhokinaseinhibitorripasudilinfluencesopticnervehead(ONH)bloodflowinhealthyvolunteers.Patientsandmethods:Subjectscomprised12healthyvolunteers.Meanblurrate(MBR)wasmeasuredbylaserspecklemethodonONHandineachof4sectors(superior,temporal,inferior,nasal),beforeandat1,2,4and6hoursafterripasudilinstillationinoneeyeandsalineinthefelloweye.Systemicbloodpressure(SBP),pulserate(PR)andintraocularpressure(IOP)weremeasuredateachinstillation.Results:TherewerenosignificantchangesinSBPorPR.IOPshowedasignificantdecreaseat1hourcomparedtothatbeforeinstillation,andlowerlevelsweremaintained.ThechangeratesignificantlyincreasedforMTontheentireONHat6hours,MA/MTat4hoursandMT/MVat6hoursonthetemporalsectorafterripasudilinstillation.Conclusion:RipasudilincreasesONHbloodflowandisconsideredtobeaneuroprotectivedrug.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1226?1230,2016〕Keywords:Rhoキナーゼ阻害薬,リパスジル,視神経乳頭血流,レーザースペックル.Rhokinaseinhibitor,ripasudil,opticnervebloodflow,laserspeckle.はじめにROCK(Rho-associatedcoiled-coilkinase)は,セリン・スレオニンリン酸化酵素で,アクチン細胞骨格再構成にかかわるRhoの下流シグナルを形成する分子量約160kDaの小分子グアノシン3リン酸(GTP)結合蛋白質であり1),他臓器での報告であるがROCKシグナル経路の異常活性がある病態へのROCK阻害薬の投与で血管拡張効果が示され,臨床応用されている2,3).リパスジル塩酸塩(以下,リパスジル)点眼薬は,緑内障患者に対して2014年10月に承認されたRhokinase阻害薬(以下,ROCK阻害薬)である.原発開放隅角緑内障における房水流出抵抗の主座である線維柱帯流出路のSchlemm管からの房水流出を促進することにより眼圧下降に貢献し,大規模臨床試験でも眼圧下降効果が示されている4).緑内障治療で現在,唯一エビデンスのある治療は眼圧を下げることであるが,眼圧下降を示しても緑内障が進行する症例も存在し,眼圧以外に影響を与える因子が研究されている.正常眼圧緑内障患者では,非眼圧因子として視神経乳頭部血流の低下が緑内障進行と関係があるといわれ,以前より注目を集めており,b遮断薬やPG製剤点眼薬,炭酸脱水酵素阻害薬では眼圧下降以外に血流増加作用をもつことが報告されている5?7).ROCK阻害薬であるリパスジルは,血管平滑筋内のRhokinaseを阻害することで,Ca2+流入の抑制を介して血管を拡張させることが基礎実験でも示されており,invivoにおいても血流を増加させる報告がある8).しかし,正常人において血流の変動に関する報告例はこれまでにはない.今回,筆者らは正常健常人においてROCK阻害薬が視神経乳頭血流に影響を与えるかどうかについて検討したので報告する.I対象および方法対象は,2014年10月?2015年4月に,本研究に同意された健常成人12例12眼とした.対象症例は,男性5例,女性7例で,23?44歳,平均年齢31.6歳であった.糖尿病,高血圧を含めた全身の基礎疾患を有するもの,?6.0D以上の強度近視,眼疾患の既往を有するもの,1週間以内の喫煙を有するものは除外とした.測定項目は,視神経乳頭血流変化率,眼灌流圧,眼圧,体血圧,脈拍で,各測定時間に測定した.両眼にミドリンMR(参天製薬)にて散瞳後,片眼に0.4%グラナテックR(リパスジル塩酸塩水和物,興和創薬)点眼を,他眼はコントロールとして生理食塩水を点眼した.グラナテックR点眼直前,点眼1時間後,2時間後,4時間後,6時間後に両眼の視神経乳頭血流と眼圧および体血圧,脈拍を測定した.視神経乳頭血流の測定は,Laserspeckleflowgraphy(LFSG-NAVIR;ニデック社)およびLayerviewソフト(ソフトケア社)を用いてMBR(meanblurrate)を3回測定し,その平均値をとった.血圧や姿勢の変動による眼血流への影響を考慮し,5分間の安静座位の姿勢を保った後,視神経乳頭血流を測定した.解析部位は視神経乳頭を4つの部位,すなわち上方,下方,耳側,鼻側の区域に分け,各部位の組織領域のMBR(meanoftissuearea:MT),血管領域のMBR(meanofvesselarea:MV),全領域のMBR(meanofallarea:MA)を求めた.視神経乳頭血流の領域分割解析を図1に示す.つぎの計算式を用いて,血流変化率を算出し比較検討した.(各時間のリパスジル点眼眼MBR/リパスジル点眼眼の点眼前MBR)/(各時間のコントロール眼MBR/コントロール眼の点眼前MBR)×100(%).眼灌流圧は,2/3×(拡張期血圧+(収縮期血圧?拡張期血圧)×1/3)?眼圧として算出した.眼圧測定は,非圧平式眼圧計(Cannon,FullAutoTonometerTX-FR)を,血圧と脈拍は自動血圧計(日本COLIN社)を用いた.体血圧は,平均血圧を拡張期血圧+1/3×(収縮期血圧?拡張期血圧)として算出した.統計学的解析には,StateViewver7.0解析ソフトを用いて,repeatedmeasureanalysisofvariance(ANOVA検定)で統計学的有意差を検定し,p<0.05を有意水準とした.本研究は,ヘルシンキ宣言および厚生労働省の定める臨床研究に関する倫理指針に基づき,研究協力者には本研究の主旨を十分に説明し,文書による同意を得て実施した.II結果体血圧および脈拍,眼灌流圧は点眼後の経過で有意な変化を認めなかった(図2).両眼の眼圧推移を図3に示す.リパスジル点眼眼では,点眼開始前の眼圧と比べ点眼1時間後から有意に眼圧下降を示し(14.1±3.2mmHgvs10.9±2.9mmHg,p<0.05),6時間後においても眼圧下降を維持していた.一方,コントロール眼においては,有意な眼圧下降を認めなかった.各時間における視神経乳頭血流の変化率を表1に示す.視神経乳頭全体の血流変化率においては,点眼6時間後のMTが点眼前と比べ有意に増加していた.耳側は,点眼4時間後のMAおよびMTが有意に増加していた.また,点眼6時間後のMTおよびMVも点眼前と比べ有意に増加していた.上方においては,MT,MV,MAのいずれも有意な変化を認めなかった.下方・鼻側の血流は,各々点眼4時間後のMV,点眼6時間後のMTが点眼前と比べ有意に増加していた.III考按本研究は,正常健常人に対してROCK阻害薬リパスジル塩酸塩の視神経乳頭血流への影響を調べた初めての報告である.ROCK阻害薬の視神経乳頭血流への影響を調べた報告は,Sugiyamaらのファスジルでの検討9)とNakabayashiらのリパスジルでの検討8)の2報がある.前者では,ウサギの正常眼を用いて,ファスジルを静脈内に投与した結果,視神経乳頭血流には影響しなかったが一酸化窒素(NO)合成阻害薬のL-NAMEやET-1の投与下で血流改善を抑制したと報告している9).後者では,ネコ正常眼を用いてリパスジルを硝子体内に投与し,網膜血流速度が硝子体内濃度1μMでは投与後90分後に,100μMでは50分後から血流が増加したと報告している.しかし,緑内障患者および正常人を対象とした網膜血流への影響をみたものは,これまで調べた限りでは報告がない.視神経乳頭血流が増加する機序としては,①眼圧低下の結果,眼灌流圧が上昇することでauto-regulation(自動調節能)を超え間接的に血流量が増加する機序,②点眼薬自体のもつ直接的な薬理作用すなわち末梢血管拡張作用,があげられる.通常,自動調節能が働くと眼灌流圧の変動にかかわらず眼血流を一定に保つ,すなわち,眼圧が10?30mmHgの範囲では自動調節能により網膜血流は維持されるが,60mmHgから急に低下させると血流が増加する10).一方,眼圧がこの範囲を超え上昇すると網膜血流が低下する.正常眼圧緑内障患者においてはこの自動調節能の破綻が血流に影響を与えたとの報告11)もある.本研究ではリパスジルの前向き臨床試験の結果と同様に正常健常者においても眼圧下降を示したが,眼灌流圧については有意な変化がみられなかった.また,正常健常人を対象としており,今回の血流増加の原因としては,自動調節能を超えた間接的な関与は考えにくく,リパスジル本来の血管平滑筋に作用する直接的な血管拡張作用が関与していたものと考えられる.Nakabayashiらのネコを対象とした研究8)では,リパスジル硝子体内濃度が1μMから直接的な作用があったとしており,筆者らが使用した0.4%リパスジル単回点眼(50μl)による硝子体内濃度がどの程度であったかは不明であるが,直接作用するのに十分な濃度であったのではないかと考えられる.今回の筆者らの結果では,耳側の視神経乳頭において,他の領域(下方・鼻側・上方)と比べ血流量が増加している傾向があった.また,視神経乳頭全体でも組織血流が有意に増加しており,リパスジルによる直接的な血管拡張作用は,視神経乳頭表層の血管より篩状板付近の深層の微小血管に働いていたのではないかと推測される.梅田らはカルテオロール塩酸塩(ミケランLA2%R)の正常健常者の眼血流への影響を調べている12).筆者らと同様に乳頭近傍上耳側脈絡膜血流が増加しており,その機序として,薬理作用自体のもつ内因性交感神経刺激様作用による血管弛緩因子の分泌亢進,および血管収縮因子の分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って毛細血管の拡張をきたし,本検討と同様に耳側領域の血流が増加していたと報告している12).耳側においては視神経乳頭耳側の神経線維数が多く,正常者においても耳側での血流が多い13)ことから予備能が高いため,他の部位と比べ鋭敏に反応したのではないかと考えられる.緑内障の視野病期の進行とともに耳側の血流が低下することがこれまでの報告からわかっており,正常人においても有意な眼圧下降とともに耳側の血流を増加させたという本研究結果は,血流増加による神経保護を介して初期緑内障患者へのリスパジルの有効性を示唆するものである.今後,初期緑内障患者における血流への影響を検討した研究が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshizakiT,MaekawaM,FujisawaKetal:ThesmallGTP-bindingproteinRhobindstoandactivatesa160kDaSer/Thrproteinkinasehomologoustomyotonicdystrophykinase.EmboJ15:1885-1893,19962)InokuchiK,ItoA,FukumotoYetal:Usefulnessoffasudil,aRho-kinaseinhibitor,totreatintractableseverecoronaryspasmaftercoronaryarterybypasssurgery.JCardiovascPharmacol44:275-277,20043)SatoM,TaniE,FujikawaHetal:InvolvementofRhokinase-mediatedphosphorylationofmyosinlightchaininenhancementofcerebralvasospasm.CircRes87:195-200,20004)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20155)GrunwaldJE:Effectoftimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci31:521-526,19906)OhguroI,OhguroH:Theeffectsofafixedcombinationof0.5%timololand1%dorzolamideonopticnerveheadbloodcirculation.JOculPharmacolTher28:392-396,20127)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20098)NakabayashiS,KawaiM,YoshiokaTetal:EffectofintravitrealRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)onfelineretinalmicrocirculation.ExpEyeRes139:132-135,20159)SugiyamaT,ShibataM,KajiuraSetal:Effectsoffasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onopticnerveheadbloodflowinrabbits.InvestOphthalmolVisSci52:64-69,201110)TakayamaJ,TomidokoroA,TamakiYetal:Timecourseofchangesinopticnerveheadcirculationafteracutereductioninintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci46:1409-1419,200511)GalambosP,VafiadisJ,VilchezSEetal:Compromisedautoregulatorycontrolofocularhemodynamicsinglaucomapatientsafterposturalchange.Ophthalmology113:1832-1836,200612)梅田和志,稲富周一郎,大黒幾代ほか:正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランLA2%)の眼血流への影響.あたらしい眼科30:405-408,201313)FekeGT,TagawaH,DeupreeDMetal:Bloodflowinthenormalhumanretina.InvestOphthalmolVisSci30:58-65,1989〔別刷請求先〕酒井麻夫:〒285-8741千葉県佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:AsaoSakai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura-city,Chiba285-8741,JAPAN図1視神経乳頭血流の領域分割解析視神経乳頭部全体を覆うようにEllipseラバーバンドを設定した(図左).ラバーバンド内を4領域〔上方(S),耳側(T),下方(I),鼻側(N)〕に区域し,各領域別の組織領域のMBR(meanoftissuearea:MT),血管領域のMBR(meanofvesselarea:MV),全領域のMBR(meanofallarea:MA)を算出した(図右).(145)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161227図2体血圧,脈拍数,眼灌流圧の推移体血圧および脈拍数,眼灌流圧は点眼後も有意な変化を認めなかった.NS:NotSignificant,repeatedmeasureANOVA検定.平均値±標準偏差.図3眼圧の推移リパスジル点眼眼では,いずれの時間でも投与前と比較して有意に眼圧は下降した.(*:p<0.05,repeatedmeasureANOVA検定,─△─:リパスジル点眼眼,─〇─:コントロール眼,平均値±標準偏差)1228あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(146)表1各領域における視神経乳頭血流(MBR)変化率の推移視神経乳頭全体では,6時間後にMTが有意に増加した.耳側では2時間後にMVが,4時間後にMAおよびMTが,6時間後にMTおよびMVが有意に増加した.下方では4時間後にMVが有意に増加した.鼻側では6時間後にMTが有意に増加した.平均値±標準偏差(%)MA:meanofallarea,MT:meanoftissuearea,MV:meanofvesselarea,*:p<0.05,repeatedmeasureANOVA検定.MBR-A:meanblurrateofall,MBR-T:meanblurrateintissue,MBR-V:meanblurrateinvein,平均±標準偏差(%),repeatedmeasureANOVA検定,*p<0.05.あたらしい眼科Vol.33,No.8,201612291230あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(148)

リパスジル点眼の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1191?1195,2016cリパスジル点眼の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果杉山哲也清水恵美子中村元宮本和明冨田香子高木史子星野朗子長嶋珠江藤田裕美山田亮三京都医療生活協同組合・中野眼科医院Short-termEfficacyofRipasudilonIntraocularPressureandOpticNerveHeadBloodFlowinPrimaryOpen-angleGlaucomaTetsuyaSugiyama,EmikoShimizu,HajimeNakamura,KazuakiMiyamoto,KaorukoTomita,ChikakoTakagi,AkikoHoshino,TamaeNagashima,HiromiFujitaandRyozoYamadaNakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative目的:最近臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジル点眼液の緑内障における眼圧,視神経乳頭血流に対する短期成績を検討する.方法:対象は3カ月以上リパスジルを追加継続し,レーザースペックル法による視神経乳頭血流測定を行った原発開放隅角緑内障(広義)27例(平均年齢66.1歳)で,内訳は原発開放隅角緑内障(POAG)15例,正常眼圧緑内障(NTG)12例であった.追加前後に眼圧,血圧,視神経乳頭血流(MV:血管血流,MT:組織血流)を測定した.結果:眼圧は1?3カ月後,有意に下降した.3カ月間の平均眼圧下降幅はPOAG:2.4mmHg,NTG:2.0mmHgであった.3カ月後,視神経乳頭血流はMTのみPOAG,NTGとも有意な増加(5.9%,11.9%)を認めた.結論:短期的検討により,リパスジルは原発開放隅角緑内障(広義)の眼圧を有意に下降させ,視神経乳頭血流,とくに組織血流を有意に増加させた.Purpose:Toinvestigatetheshort-termoutcomeofripasudil,aROCKinhibitorrecentlyapprovedforuseinJapan,onintraocularpressure(IOP)andopticnervehead(ONH)bloodflowinpatientswithglaucoma.Method:IOP,bloodpressureandONHbloodflow(MV:meanvesselbloodflow,MT:meantissuebloodflow)weremeasuredin15patientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and12patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)whenripasudilhadbeenadditionallyprescribedformorethan3months.Results:Inripasudil-treatedeyes,IOPwassignificantlyreducedfrom1to3months.AverageIOPreductionforthisduration(mmHg)was2.4inPOAGand2.0inNTG.MTofONHbloodflowwassignificantlyincreasedby5.9%and11.9%,respectively.Conclusion:Thepresentstudyindicatesthatshort-termtreatmentofripasudilsignificantlyreducesIOPandincreasesONHbloodflow,particularlyoftissuebloodflow,inpatientswithPOAGandNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1191?1195,2016〕Keywords:ROCK阻害薬,リパスジル,眼圧,視神経乳頭血流,レーザースペックル法.ROCKinhibitor,ripasudil,intraocularpressure,opticnerveheadbloodflow,laserspeckleflowgraphy.はじめにカルシウムを介さず血管収縮に関与する酵素としてRhoassociatedcoiled-coilformingproteinkinase(ROCK)が知られており,その阻害薬の一つ,ファスジルは,くも膜下出血術後の脳血管攣縮や脳虚血症状の改善の適応症で臨床使用されている1).ファスジルについては慢性脳梗塞患者における脳血流増加作用2)のほか,高血圧ラットにおける網膜血管拡張作用3),糖尿病ラットにおける網膜微小血管障害抑制作用4),家兎視神経乳頭血流増加作用5)やその減少の抑制作用6),さらにはラット網膜虚血再灌流モデルにおける神経保護作用7)について,眼科領域における基礎研究の報告が散見される.一方,緑内障治療薬として近年臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジルは,従来のものと異なり,直接的に主経路からの房水流出を促進させて眼圧を下降させることがわかっている8).その結果,単独での眼圧下降作用のみならず,プロスタグランジン系緑内障点眼薬やチモロール点眼薬との併用によって,さらなる眼圧下降作用を発揮することが臨床試験によって実証されている9?13).しかし,リパスジルの眼血流に対する報告としては,その硝子体投与がネコ網膜血流(速度と量)を増加させる14)というもののみで,人眼に対するものは今のところ見当たらない.今回は,すでに他の緑内障点眼薬で治療を行っている原発開放隅角緑内障(広義)患者に,片眼のみリパスジル点眼を追加し,眼圧や視神経乳頭血流の短期的な変化を検討した.I対象および方法対象は中野眼科医院で通院加療中の原発開放隅角緑内障(広義)患者のうち,リパスジル(グラナテックR)点眼液を片眼に1日2回(1回1滴),3カ月以上追加継続し,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVITM,ソフトケア)による視神経乳頭血流測定を行った27例(平均年齢66.1歳)で,内訳は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)15例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)12例であった.リパスジルを追加した眼は視野進行などのため,臨床上,緑内障治療の強化が必要だった眼であり,無作為化はしていない.緑内障以外の網膜・視神経疾患,糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外し,処方中の緑内障点眼薬はそのまま継続した.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得,対象患者には本研究の趣旨を説明したうえで承諾を得た.対象とした患者の背景,緑内障併用薬の内訳は表1,2のごとくであった.なお,緑内障併用薬は両眼同一であり,追加前後で変更はしなかった.リパスジル追加前に眼圧(Goldmann眼圧計),血圧,視神経乳頭血流を測定し,追加の1,2,3カ月後に眼圧を,3カ月後に血圧,視神経乳頭血流を各々,測定した.各測定はリパスジル点眼の2?3時間後とし,同一患者では同一の時間帯に行った.視神経乳頭血流測定は眼圧測定後に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬)で散瞳後,LSFGNAVITMを用いて3回ずつ行った.その後,解析ソフト(LSFGAnalyzer,ソフトケア)によって視神経乳頭全体の全血流(meanallbloodflow:MA),血管血流(meanvesselbloodflow:MV),組織血流(meantissuebloodflow:MT)についてmeanblurrate(MBR)値を求め,各々3回分の平均値を算出した.一方,眼灌流圧を2/3平均血圧?眼圧として算出した.各数値は平均値±標準偏差(SD)または平均値±標準誤差(SE)で表記し,統計学的検討には初期値(追加前)と各時点での間でpairedt-testを行い,p<0.05を有意水準とした.II結果リパスジル追加後の眼圧を全例,POAG群,NTG群に分けて検討した結果,いずれも追加眼では1,2,3カ月後に有意な下降を示し,非追加眼では有意な変化を認めなかった(図1~3).リパスジル追加眼において,全例では3カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.2mmHg)を認めた.POAG群では1?3カ月の眼圧下降幅にほとんど差はなかったが,1カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.4mmHg)を認めた.NTG群では3カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.0mmHg)を認めた.また,眼圧下降率(Δ眼圧/追加前眼圧)は両群とも1カ月後から3カ月後の間で有意差はなかったが,NTGでは1カ月後に比べ,3カ月後にもっとも高い傾向(p=0.10)があった(図4).最大の眼圧下降率はPOAG群で14.6%(1カ月後),NTG群では17.0%(3カ月後)であった.眼圧下降率と他の因子との関連を検討した.まずリパスジルが2剤目となる群(14眼)と,3剤目以降となる群(13眼)に分けて眼圧下降率を比較したが,両群間に有意差は認めなかった.つぎに,年齢を66歳未満の群(13眼)と66歳以上の群(14眼)に分けて検討したが,有意差はなかった.さらに,追加前眼圧が14mmHg未満の群(14眼)とそれ以上の群(13眼)に分けて検討したが,やはり有意差を認めなった.視神経乳頭血流は,全例ではMA,MV,MTともリパスジル追加3カ月後に有意な増加を示した(図5).POAG群,NTG群ごとの検討では,両群ともMTでのみ有意な増加を示し,その増加率はNTG群で11.9%,POAG群で5.9%であった(図6).なお,非追加群では有意な変化を認めなかった.眼灌流圧はリパスジル追加後,有意な変化を認めず,眼灌流圧の変化量とMTの変化量との間に有意な相関を認めなかった.今回の27例全例において,投与期間中,リパスジル点眼後に結膜充血がみられたが,いずれも一過性であり,継続可能であった.III考按今回の検討の結果,リパスジルの追加点眼によって,緑内障患者の眼圧は1カ月から3カ月後まで有意に下降し,視神経乳頭血流は3カ月後に有意に増加した.とくに,リパスジルの緑内障眼血流への影響に関しては,筆者らが知る限りまだ報告されておらず,今回が初めてのものと思われる.リパスジルのネコ網膜血流増加作用を示した既報14)は硝子体内投与であり,今回のような点眼ではないが,50μMおよび5mMの50μl(推定硝子体内濃度は1μMと100μM)投与で有意な網膜血流増加が認められたと報告されている.一方,有色家兎にリパスジルを1日2回7日間点眼した際の視神経への移行は337.9ng/mlであったというオートラジオグラフィによる実験結果がある15).リパスジルの分子量(MW:395.9)より計算すると0.85μMであり,上述の網膜血流増加作用があった1μMに近似している.今回は7日間以上点眼を継続しているので,より高濃度になった可能性もあり,部位はやや異なるものの視神経乳頭血流を増加させたとしても矛盾はないと考えられる.また,今回の結果ではMVよりもMTが有意に増加しており,眼灌流圧に有意な変化がなく,眼灌流圧の変化量とMTの変化量との間に有意な相関を認めなかったことより,末梢血管の血管抵抗減少により組織血流が増加したと推察される.上述したネコを用いた基礎研究において,網膜の血管径でなく血流速度を有意に増加させた,すなわち,より末梢の血管を拡張させたという結果14)とも合致している.さらに,今回の結果ではPOAGよりもNTGで血流の増加率が高く,その理由として,1)追加前の血流がNTGのほうがより低下していたため,2)NTGのほうがリパスジルに対する反応性が高かったため,などの可能性が考えられるが,今のところ不明である.なお,今回の検討は追加眼について無作為化しておらず,臨床上,片眼にのみ追加が必要だった例を対象としている.その結果,追加前のMTが追加側のほうが明らかに低かった可能性が高く,結果の解釈には限界がある.リパスジルの神経保護作用16)とともに緑内障の眼血流への作用については,今後,無作為化試験などさらなる検討を要する.一方,今回の結果におけるリパスジルの眼圧下降効果について過去の報告と比べて検討する.今回はすでに緑内障点眼薬で加療中の患者が対象であり,併用点眼薬数やその種類はさまざまなので,これまでに行われた臨床試験と単純に比較することはできないが,比較的近いものとしてチモロールあるいはラタノプロストとの併用試験13)の結果と比較してみる.チモロールあるいはラタノプロストで治療中の原発開放隅角緑内障・高眼圧症(治療下で眼圧が18mmHg以上,平均で20mmHg弱)患者に8週間リパスジルを追加した結果,追加前に対する眼圧下降幅はチモロールの場合に2.9mmHg,ラタノプロストの場合に3.2mmHgと報告されている.今回は半数近くの症例にすでに2剤以上の緑内障点眼薬が使用されていたこと,NTGも多く含まれ,追加前眼圧がこの臨床研究より明らかに低かったことを考えると,2.2mmHgという眼圧下降幅はそれほど矛盾しない結果と考えられる.眼圧下降率がNTGでは3カ月後にもっとも大きいという結果であったのは,ROCK阻害薬の眼圧下降機序の一つとして推測されている線維柱帯細胞の細胞骨格変化17)などにある程度の期間を要するためかもしれないが,さらなる検討が必要である.また,今回の結果では追加前の点眼薬数で眼圧下降率に差がなかったこと,追加前眼圧の高低で明らかな差がなかったことより,リパスジルの追加点眼はさまざまな状況でさらなる眼圧下降を図る際に考慮してよいのではないかと考えられるが,今後さらに検討を要する.以上,新しく臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジルの原発開放隅角緑内障(広義)における短期的な追加効果を検討した結果,有意な眼圧下降に加え,視神経乳頭組織血流の有意な増加が認められることを明らかにした.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShibuyaM,SuzukiY,SugitaKetal:EffectofAT877oncerebralvasospasmafteraneurysmalsubarachnoidhemorrhage.Resultsofaprospectiveplacebo-controlleddouble-blindtrial.JNeurosurg76:571-577,19922)NagataK,KondohY,SatohYetal:Effectsoffasudilhydrochlorideoncerebralbloodflowinpatientswithchroniccerebralinfarction.ClinNeuropharmacol16:501-510,19933)OkamuraN,SaitoM,MoriAetal:Vasodilatoreffectsoffasudil,aRho-kinaseinhibitor,onretinalarteriolesinstroke-pronespontaneouslyhypertensiverats.JOculPharmacolTher23:207-212,20074)AritaR,HataY,NakaoSetal:Rhokinaseinhibitionbyfasudilamelioratesdiabetes-inducedmicrovasculardamage.Diabetes58:215-226,20095)TokushigeH,WakiM,TakayamaYetal:EffectsofY-39983,aselectiveRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onbloodflowinopticnerveheadinrabbitsandaxonalregenerationofretinalganglioncellsinrats.CurrEyeRes36:964-970,20116)SugiyamaT,ShibataM,KajiuraSetal:Effectsoffasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onopticnerveheadbloodflowinrabbits.InvestOphthalmolVisSci52:64-69,20117)SongH,GaoD:Fasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,attenuatesretinalischemiaandreperfusioninjuryinrats.IntJMolMed28:193-198,20118)IsobeT,MizunoK,KanekoYetal:EffectsofK-115,arho-kinaseinhibitor,onaqueoushumordynamicsinrabbits.CurrEyeRes39:813-822,20149)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,201310)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,201311)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201512)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol94:e26-e34,201613)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,201514)NakabayashiS,KawaiM,YoshiokaTetal:EffectofintravitrealRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)onfelineretinalmicrocirculation.ExpEyeRes139:132-135,201515)http://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400129/index.html.リパスジル塩酸塩水和物申請資料概要CTD2.6.4薬物動態試験の概要文p2916)YamamotoK,MaruyamaK,HimoriNetal:ThenovelRhokinase(ROCK)inhibitorK-115:anewcandidatedrugforneuroprotectivetreatmentinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci55:7126-7136,201417)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:EffectsofrhoassociatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.lnvestOphthalmolVisSci42:137-144,2001〔別刷請求先〕杉山哲也:〒604-8404京都市中京区聚楽廻東町2中野眼科医院Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative,2Jurakumawari-higashimachi,Nakagyo-ku,Kyoto604-8404,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(109)1191表1患者背景(n=27)全例POAGNTG年齢(歳)66.1±10.967.0±12.165.1±9.7男:女12:158:74:8併用点眼薬数1.8±0.92.0±0.81.5±1.0屈折(D)?2.5±3.5(?2.6±3.5)?2.6±2.9(?2.6±2.3)?2.4±4.2(?2.4±4.6)MD(dB)?11.6±6.9(?7.5±5.7)?12.7±6.4(?7.0±4.6)?10.2±7.6(?8.2±7.0)括弧内:リパスジル非追加側.いずれもmean±SD.表2緑内障併用薬の内訳(n=27)POAG(例)NTG(例)合計(例)1剤5(PG:4,b:1)9(PG:6,a1:2,b:1)142剤5(PG+b:4,b+CAI:1)1(PG+b)63剤5(PG+b+CAI:4,PG+b+a1:1)1(PG+b+CAI)64剤1(PG+b+CAI+a2)1PG:プロスタグランジン関連薬,b:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,a2:a2刺激薬,PG+b,b+CAIの一部は配合剤.1192あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(110)図1全例における眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=27,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(*:p<0.0001,対応のあるt検定,対追加前).図2POAGにおける眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=15,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).図3NTGにおける眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=12,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(***:p<0.001,**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).図4POAG,NTGにおける眼圧下降率(Δ眼圧/リパスジル追加前眼圧)□:POAG(n=15),■:NTG(n=12),平均値±標準誤差.NTGの1カ月後と3カ月後の間に差のある傾向を認めた(†:p=0.1,対応のあるt検定).図5全例における視神経乳頭血流の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=27,平均値±標準誤差.MA,MV,MTとも有意な増加を認めた(***:p<0.001,**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).(111)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161193図6POAG,NTGにおける視神経乳頭血流MT値の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,POAG:n=15,NTG:n=12,平均値±標準誤差.両群とも有意な増加を認めた(**:p<0.01,*:p<0.05,対応のあるt検定,対追加前).1194あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161195

正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1387.1391,2014c正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性山下力*1,2家木良彰*2三木淳司*1,2,3後藤克聡*2今井俊裕*2荒木俊介*2春石和子*2桐生純一*2田淵昭雄*1八百枝潔*3,4*1川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科*2川崎医科大学眼科学教室*3新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野*4眼科八百枝医院AssociationbetweenVisualFieldLossandOpticNerveHeadMicrocirculationandRetinalStructureinNormal-TensionGlaucomaTsutomuYamashita1,2),YoshiakiIeki2),AtsushiMiki1,2,3),KatsutoshiGoto2),ToshihiroImai2),SyunsukeAraki2),KazukoHaruishi2),JunichiKiryu2),AkioTabuchi1)andKiyoshiYaoeda3,4)1)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,3)DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,4)YaoedaEyeClinic目的:正常眼圧緑内障(NTG)における視神経乳頭(乳頭)血流と網膜や乳頭構造,視野指標との関連性を検討した.対象および方法:対象はNTG19例19眼である.レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVITM)を用い乳頭血流(全領域・血管領域・組織領域)を測定した.スペクトラルドメイン光干渉断層計(RTVue-100R)を用い乳頭周囲の網膜神経線維層(cpRNFL)厚,乳頭形態,黄斑部網膜神経節細胞複合体(GCC)厚を測定した.乳頭血流と網膜や乳頭構造パラメータ,視野指標との関係について検討した.結果:乳頭の組織領域血流および全領域血流は,cpRNFL厚,GCC厚,乳頭形態パラメータのすべてと有意に相関していた.meandeviation(MD)値との相関係数が最も大きいのはcpRNFL厚(r=0.88)であり,visualfieldindex(VFI)との相関係数が最も大きいのはGCC厚(r=0.81)であった.乳頭の組織領域血流も,MD値およびVFIに相関を示した(r=0.68).結論:NTGにおいて,乳頭血流は,緑内障性網膜構造変化や視野障害との関連が示唆された.Purpose:Toreporttheassociationbetweenvisualfieldlossandopticnerveheadmicrocirculationandretinalstructureinnormal-tensionglaucomapatients.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved19eyesof19patientswithnormal-tensionglaucoma.Opticnerveheadmicrocirculationwasexaminedwithlaserspeckleflowgraphy(LSFG-NAVI.),andthemeanblurrateinallareas,invesselareaandtissuearea,wascalculatedusingthelaserspeckleflowgraphyanalyzersoftware.Macularganglioncellcomplex(GCC)thicknessparameters,circumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thicknessandopticnervehead(ONH)parametersweremeasuredbyspectraldomainopticalcoherencetomography(RTVue-100R).TherelationshipbetweenglaucomatousvisualfieldlossandopticnerveheadmicrocirculationandretinalstructureparameterswasevaluatedusingtheSpearmanrankcorrelationcoefficient.Results:Themeanblurrateoftheopticdiskintissue(MT)andallareaswassignificantlycorrelatedwithcpRNFLthickness,GCCthicknessandONHparameters.ThecpRNFLthicknesswasmostsignificantlycorrelatedwithmeandeviation(MD)value(r=0.88).GCCthicknesswasmostsignificantlycorrelatedwithvisualfieldindex(VFI)(r=0.81).MeanMTwassignificantlycorrelatedwithMDvalueandVFI(r=0.68).Conclusion:TheresultsindicatedassociationbetweenopticnerveheadmicrocirculationandglaucomatousretinastructuralchangeandvisualfielddisordersinNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1387.1391,2014〕〔別刷請求先〕山下力:〒701-0193岡山県倉敷市松島288川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科Reprintrequests:TsutomuYamashita,C.O.,Ph.D.,DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,Kurashiki-city,Okayama701-0193,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(139)1387 Keywords:視神経乳頭血流,レーザースペックルフローグラフィー,正常眼圧緑内障,網膜構造,緑内障性視野障害.opticnerveheadbloodflow,laserspeckleflowgraphy,normaltensionglaucoma,retinalstructure,glaucomatousvisualfielddefects.はじめに厚生労働省研究班の調査によると,わが国における失明原因の第一位は緑内障であり,日本緑内障学会による疫学調査の多治見スタディにおいては,40歳以上の緑内障有病率は5%と多く,そのなかでも正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)が多いことが明らかとなった1).NTGの病態については眼圧の関与以外に,視神経(乳頭)出血の頻度が高いという報告2)や,乳頭周囲網脈絡膜萎縮が緑内障性視野障害の進行に関連していると報告されており3),乳頭循環障害の関与が示唆されている.したがって,NTGにおける循環動態の研究は,病態の解明や治療法の確立にとって重要である.緑内障性視神経症の病態として,眼圧や血流がグリア細胞を変化させ,乳頭篩状板付近において,網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維を障害させ,軸索輸送が障害され,網膜神経節細胞障害が起こる.その結果,乳頭陥凹拡大やリムの菲薄化などを特徴とする緑内障性視神経症が生じるとされている.緑内障診断に視野測定は必須であるが,緑内障性の不可逆的視野変化が生じる頃には,すでに網膜神経節細胞はかなりの不可逆的な障害を受けているといわれている4).そのため,網膜構造の緑内障性変化や乳頭の循環障害をより早期に検出することは,緑内障の早期発見および進行判定につながり非常に重要である.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)は,タイムドメイン光干渉断層計(timedomainopticalcoherencetomography:TD-OCT)に比べスキャンスピードと空間解像度が向上し,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の評価だけではなく,網膜神経節細胞の約50%が分布する黄斑部において,網膜神経節細胞に関連した層を含む内境界膜から内網状層外縁の神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚の計測が可能となった.そのため,SD-OCTを用いることにより,緑内障を早期に発見することや進行検出などが高くなることが期待されている5,6).乳頭の循環測定にはさまざまな方法があるが,今回の研究においては測定再現性がきわめて高い眼血流測定装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)を用い7.9),NTGの乳頭血流測定を行った.LSFGを用いた報告で,全体拡大型乳頭を伴った緑内障眼の乳頭血流と視野障害およびTD-OCTのcpRNFL厚の間に有意な相関があったことが示されている10).今回筆者らは,1388あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014NTGに対しLSFGを用いて乳頭血流を測定し,SD-OCTを用いて算出されたGCC厚やcpRNFL厚,乳頭形態パラメータと,視野指標との関係を検討したので報告する.I対象および方法対象は,Humphrey自動視野計(Humphreyfieldanalyzer:HFA)(CarlZeissMeditec社)の中心30-2SITAstandardによる測定当日に,RTVue-100R(Optovue社)およびLSFG-NAVITM(ソフトケア社)を施行したNTG19例19眼(男/女=9/10眼)である.本研究におけるNTGの診断基準は,検眼鏡的に眼底に緑内障性変化が観察され,治療前眼圧が3回の測定で21mmHg以下であり,HFA30-2SITAstandardでAndersoncriteria11)を満たすものとした.矯正視力1.0以上,.5.0D以上の近視,+2.0D以下の遠視を対象とした.HFAでは,固視不良20%未満,偽陽性,偽陰性のそれぞれが15%未満の信頼性良好な結果のみを採用した.軽度白内障以外の眼疾患の既往,高血圧や糖尿病などの血管系疾患の既往,眼内手術の既往を有する者は除外した.すべての症例に関して,測定日から3カ月前までに点眼や内服内容に変更のないものとした.本研究は当大学倫理委員会の承認を得ており,すべての対象者にインフォームド・コンセントを得たうえで行った.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用い測定し,血圧および脈拍は自動血圧計を用い測定した.平均血圧は次式〔拡張期血圧+1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)〕,眼灌流圧は次式〔2/3平均血圧.眼圧〕を用いて算出した.乳頭血流測定は,0.4%トロピカミド点眼液(ミドリンRM点眼液0.4%,参天製薬)を用いて散瞳した後,LSFG-NAVITMを用いて3回連続行った.同一検者がLSFGAnalyzer(version3.1.16)を用い3枚の乳頭血流マップを作成し,血流速度の指標であるMBR(meanblurrate)値の平均を算出した.楕円ラバーバンドを用い乳頭領域を決定した後,血管抽出解析機能を用い,乳頭内の全領域の平均MBR値(meanMBRinallarea:MA),乳頭内の血管領域の平均MBR値(meanMBRinvesselarea:MV),乳頭内の大血管を除外した組織領域の平均MBR値(meanMBRintissuearea:MT)に分けて解析した8).本研究では乳頭全体の各MBR値を算出し,3回測定の変動係数が10%未満の症例のみを対象とした.SD-OCTによる測定は,RTVue-100Rversion4.0スキャンプログラムの黄斑部解析ソフトGCCを用い,黄斑部7×7mmの範囲で,長さ7mmのラインスキャンで水平方向に1本,垂直方向に0.5mm間隔で15本のスキャンしGCC厚(140) を測定した.乳頭を中心にした4.9mmの範囲を視神経乳頭解析ソフトONHを用い,長さ3.4mmの12本の放射ラインスキャンと13本の同心円リングスキャンで測定した.乳頭の中心に乳頭部6×6mmの範囲を3次元視神経乳頭解析ソフト3DDiscを用い,101の水平ラスタスキャンで測定した.乳頭形状解析においては,ONHと3DDiscの画像をもとに乳頭縁と網膜色素上皮の端に相当する部位決定をした.それらの後,乳頭パラメータと乳頭中心から直径3.45mmの円周上のcpRNFL厚を算出した.両方のスキャンともsignalstrengthindexが50以上のデータを採用した.OCTパラメータ(GCC厚,cpRNFL厚,乳頭形態)とLSFGパラメータ(MA,MV,MT)およびHFAパラメータ〔MD(meandeviation)値,VFI(visualfieldindex)〕との関係は,Spearman順位相関係数を用い,危険率5%未満表1MBRおよびOCTパラメータの平均値と標準偏差MA22.0±6.1MV49.6±12.4MT11.8±3.8GCC厚(μm)74.7±7.4cpRNFL厚(μm)75.6±12.5Cuparea(mm2)1.38±0.69Rimarea(mm2)0.50±0.39C/Dratio0.71±0.22Cupvolume(mm3)0.32±0.22Rimvolume(mm3)0.04±0.05Nerveheadvolume(mm3)0.09±0.10MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.表2MBRとOCTパラメータの関係MAMVMTrp値rp値rp値GCC厚0.75730.00020.73510.00030.70350.0008cpRNFL厚0.62750.00400.53330.01870.64040.0031Cuparea.0.52590.0207.0.38090.1077.0.58360.0087Rimarea0.60960.00560.49520.03110.55930.0128C/Dratio.0.63890.0032.0.51210.0250.0.62580.0042Cupvolume.0.49690.0304.0.44230.0579.0.55110.0145Rimvolume0.65920.00210.53800.01750.65140.0025Nerveheadvolume0.64880.00270.53970.01710.62310.0025MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.を統計学的に有意とした.統計学的分析は統計解析ソフトPASWStatistics21.0(IBM-SPSS)を使用した.II結果患者背景は,年齢63.7±11.4(平均±標準偏差,範囲:51.75)歳,屈折度数は.2.1±2.7(.4.75.+1.50)Dであった.眼圧は12.3±2.6mmHg,収縮期血圧122.1±15.5mmHg,拡張期血圧74.5±9.1mmHg,眼灌流圧46.2±7.1mmHgであった.HFAのMD値は.9.4±10.6(.28.00.0.57)dB,VFIは72.5±33.4(13.99)%であった.本研究における症例全体のLSFG-NAVITMおよびRTVue-100Rの測定結果を表1に示す.LSFGパラメータとOCTパラメータとの関係を表2に示す.MAおよびMTは,すべてのOCTパラメータと有意な相関を示した.なかでも,乳頭内の組織領域の平均MBR値を示すMTにおいては,すべてのOCTパラメータとの相関係数は最も高かった.LSFGパラメータとOCTパラメータおよび視野指標との関係を表3に示す.MD値との関係においては,cpRNFL厚表3MBRおよびOCTパラメータと視野指標MDVFIrp値rp値MA0.69750.00090.75800.0002MV0.64150.00310.69570.0009MT0.68360.00130.72820.0004GCC厚0.85480.00010.82760.0001cpRNFL厚0.88370.00010.78720.0011Cuparea.0.38020.1084.0.19070.4636Rimarea0.51690.02340.48190.0502C/Dratio.0.53310.0188.0.44370.0744Cupvolume.0.44250.0578.0.36590.1486Rimvolume0.46090.04700.42710.0873Nerveheadvolume0.43770.06090.42410.0898MD:meandeviation,VFI:visualfieldindex,MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.(141)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141389 との相関係数が最も高く(r=0.8837,p=0.0001),LSFGパラメータも中程度の相関を示した.VFIにおいては,GCC厚との相関係数が最も高く(r=0.8276,p=0.0001),LSFGパラメータも中程度の相関を示した.眼灌流圧は,MD値(r=0.0910,p=0.7638)およびVFI(r=0.0906,p=0.7296)と相関はなく関連を示さなかった.III考按NTGを対象とした本研究において,LSFGで評価した乳頭血流パラメータと,SD-OCTで測定したcpRNFLやGCC厚,HFAで算出した視野指標との間で,互いに有意な相関があることが示された.Yokoyamaら12)は,MBR値とcpRNFL厚,MD値の有意な相関を報告しているが,本研究では,乳頭血流パラメータとGCC厚,VFIにも相関があることを示した.GCC厚においてはより早期の緑内障評価に有用で5),VFIは患者の視機能をMDよりもよく反映しているとされており13),これらと相関があったことは,LSFGによる乳頭血流評価が早期緑内障発見や緑内障症例の視機能評価に寄与する可能性があると考えられた.NTGにおいては,眼圧非依存因子の関与が原発開放隅角緑内障(狭義)より強い14)とされ,なかでも眼循環障害が示唆される報告が多い.たとえば,NTG眼における乳頭血流の日内変動を測定した研究では,夜間に乳頭血流の低下する症例ほど,視野障害進行が大きいと報告されている15).緑内障眼と健常眼の循環動態と比較した研究では,緑内障眼では動静脈循環遅延がみられることや16),乳頭血流速度が低下している17)ことが報告されている.LSFGは,レーザースペックル法を応用した眼血流測定装置であり,乳頭や網脈絡膜における微小循環を非侵襲的,半定量的に評価することが可能である18,19).Yaoedaら20)は,乳頭辺縁部の血流変化と視野障害との相関に関して,原発開放隅角緑内障(狭義)眼では相関はなく,NTG眼では有意な相関があったことを報告している.また,NTG眼においては,正常眼に比べ血流量が低下していることや,乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている21,22).緑内障眼の乳頭辺縁部の領域別組織血流と視野障害の程度を検討した報告では,パターン偏差上下比と血流の上下比に有意な相関があったとしている23).Chibaら10)は,全体拡大型乳頭を伴った緑内障眼の乳頭MBRは,cpRNFL厚,垂直C/D比(陥凹乳頭比)およびMD値と有意に相関していたとしている.本研究において,乳頭の組織領域の平均MBR値を示すMTは,MD値やVFIと有意な相関を示し,乳頭血流障害と視野障害との関連が示唆された.しかし,今回の症例は,すでに乳頭に緑内障性変化が生じている症例であり,乳頭の構造変化が組織血流低下に影響を及ぼしている可能性がある.乳頭辺縁部体積が減少するこ1390あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014とによりLSFGのパラメータが低下した可能性があり,さらに今後において検討する必要があると考えられた.緑内障病期の進行に伴い耳側血流比の減少がみられたという報告や23),近視性乳頭を有する緑内障眼の乳頭耳側,上方,下方のMTは正常群と比較すると有意に低かった12)などの報告がある.本研究においては,視神経乳頭を分割し領域別のMBR値を算出しておらず,今後の検討課題とする予定である.本研究において,MTはGCC厚やcpRNFL厚,乳頭形態パラメータのすべてに有意な相関を示した.このことは,乳頭組織血流低下と緑内障による網膜の構造上の変化との関連性があることが考えられた.緑内障においては,視神経乳頭の篩状板付近において約120万本の網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維が障害され,軸索輸送障害が起こるために網膜神経節細胞障害が生じるとされている.その結果,網膜神経線維が脱落して緑内障に特徴的な視神経乳頭陥凹拡大やrimの菲薄化および網膜神経線維層欠損などの緑内障性視神経症を生じるとされている.その原因としては眼圧因子の関与は多くの報告でいわれていることではあるが,今回の研究結果から,LSFGパラメータとGCC厚およびcpRNFL厚は有意な相関を示し,乳頭血流障害と網膜神経節細胞障害や視野障害の関連が示唆された.乳頭の循環障害は,視野障害や網膜神経線維層欠損よりも早く生じているのかを,preperimetricglaucomaなどを対象に研究を行っていく予定である.NTGにおける循環動態を研究することは,NTGの病態の解明および治療法の選択の一助となる可能性がある.また,乳頭血流を示すLSFGパラメータは,緑内障を経過観察するうえでGCC厚や,cpRNFL厚と異なる指標として有用である可能性がある.緑内障眼に対し,網膜神経節細胞に関連した網膜厚および乳頭血流を計測し,循環動態変化を捉え治療を再考することで,視野障害の進行速度を少しでも遅らせることが可能となるかもしれない.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853857,19863)JonasJB,NaumannGO:Parapapillaryretinalvesseldiameterinnormalandglaucomaeyes.II.Correlations.InvestOphthalmolVisSci30:1604-1611,19894)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453(142) 464,19895)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:上下半視野異常を有する早期緑内障眼のスペクトラルドメイン光干渉断層計による検討.臨眼64:869-875,20106)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:緑内障眼の黄斑部網膜神経節細胞複合体厚,網膜神経線維層厚,乳頭形態と視野指標.臨眼65:1057-1064,20117)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:MeasurementofmicrocirculationintheopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyandscanninglaserDopplerflowmetry.AmJOphthalmol129:734-739,20008)坪井明里,白柏基宏,八百枝潔ほか:血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定.あたらしい眼科28:448-451,20119)AizawaN,KunikataH,YokoyamaYetal:Correlationbetweenopticdiscmicrocirculationinglaucomameasuredwithlaserspeckleflowgraphyandfluoresceinangiography,andthecorrelationwithmeandeviation.ClinExperimentOphthalmol42:293-294,201410)ChibaN,OmodakaK,YokoyamaYetal:Associationbetweenopticnervebloodflowandobjectiveexaminationsinglaucomapatientswithgeneralizedenlargementdisctype.ClinOphthalmol5:1549-1556,201111)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199912)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Significantcorrelationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfielddefectsandnervefiberlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,201113)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,200814)DownsJC,RobertsMD,BurgoyneCF:Mechanicalenvironmentoftheopticnerveheadinglaucoma.OptomVisSci85:425-435,200815)OkunoT,SugiyamaT,KojimaSetal:Diurnalvariationinmicrocirculationofocularfundusandvisualfieldchangeinnormal-tensionglaucoma.Eye18:697-702,200416)ArendO,PlangeN,SponselWEetal:Pathogeneticaspectsoftheglaucomatousopticneuropathy:fluoresceinangiographicfindingsinpatientswithprimaryopenangleglaucoma.BrainResBull62:517-524,200417)LoganJF,RankinSJ,JacksonAJ:Retinalbloodflowmeasurementsandneuroretinalrimdamageinglaucoma.BrJOphthalmol88:1049-1054,200418)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgraphyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,201019)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,two-dimensionalmeasurementofretinalmicrocirculationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:3825-3834,199420)YaoedaK,ShirakashiM,FukushimaAetal:Relationshipbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfieldlossinglaucoma.ActaOphthalmolScand81:253-259,200321)永谷建,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼及び正常眼圧緑内障眼における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200122)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200623)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,2010***(143)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141391

正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケラン® LA2%)の眼血流への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):405.408,2013c正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)の眼血流への影響梅田和志稲富周一郎大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座EffectofCarteololHydrochloride(2%MikeranRLA)onOpticNerveHeadBloodFlowinNormalEyesKazushiUmeda,SyuichiroInatomi,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)点眼薬の眼血流への影響についてレーザースペックルフローグラフィを用いて調査した.対象および方法:対象は健常人正常眼8例16眼.右眼にミケランRLA2%,左眼にプラセボを単回点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後に眼圧,眼灌流圧,全身血圧,脈拍および視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上・下耳側リム,視神経乳頭近傍上・下耳側網脈絡膜の血流量を測定した.結果:ミケランRLA2%点眼眼とプラセボ点眼眼の両群間で眼圧および眼灌流圧において有意差を認めなかった.全身血圧および脈拍は開始時と比較して下降したが重篤な副作用はみられなかった.眼血流量は,乳頭近傍上耳側網脈絡膜でミケランRLA2%点眼眼が3および6時間後に有意に増加した(p<0.05).結論:ミケランRLA2%は正常眼において,眼血流増加作用のあることが示されたことから,緑内障神経保護治療の選択肢となる可能性が期待される.Purpose:Toexaminetheeffectofcarteololhydrochloride(2%MikeranRLA)onopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers,usinglaserspeckleflowgraphy.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved8healthysubjects(16eyes)instilledwith2%MikeranRLAintherighteyeanditsplacebointhelefteye.Changesinintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP),pulserate(PR),ocularperfusionpressure(OPP)andmeanblurrate(MBR)weredeterminedfrommeasurementstakenatbaselineandat1.5,3,4.5and6hoursafterinstillation.Results:IOPandOPPdidnotchangebetweentherightandlefteyes.BPandPRdecreaseduponinstillationof2%MikeranRLA,butwithnosideeffects.MBRatthesuperotemporalchorioretinasurroundingtheopticnerveheadincreasedsignificantlyat3and6hoursafterinstillation(p<0.05).Conclusion:Thisresultsuggeststhat2%MikeranRLAincreasesopticnerveheadbloodflowandcouldbeaneuroprotectiveagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):405.408,2013〕Keywords:カルテオロール,視神経乳頭血流,緑内障,レーザースペックルフローグラフィ.carteolol,opticnerveheadbloodflow,glaucoma,laserspeckleflowgraphy.はじめに緑内障性視神経症の発症および進行の原因としては,眼圧による機械的な障害のみではなく,視神経乳頭や網脈絡膜などの眼循環障害の関与が考えられる1).したがって,種々の抗緑内障薬のもつ眼圧下降効果に加えて眼血流に対する効果,すなわち神経保護の重要性が示唆されている2.8).抗緑内障点眼薬のなかで最も多く使用される薬剤としてプロスタグランジン点眼液とbブロッカー点眼薬がある.bブロッカー点眼薬のなかでもカルテオロール塩酸塩は内因性交感神経刺激様作用(ISA)を有し,また血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進,血管収縮因子(EDCF)の分泌抑制により末梢血管抵抗を減少させる働きを有しているため眼血流改善効果が期待される2,9.11).Tamakiら11)は正常人に対して2%カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)または0.5%チモロールをそれぞれ1日2回3週間点眼させて眼血流量をレーザースペックルフローグラフィで検討したところ,両〔別刷請求先〕梅田和志:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KazushiUmeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)405 者において短期的には影響はなかったものの,前者では3週後の時点で眼血流の増加の可能性を示唆した.そこで今回筆者らは,カルテオロール塩酸塩の効果の持続性が期待される製剤(ミケランRLA2%)において短期的な眼血流への影響がどうなるかを検討する目的で,健常眼における点眼前後での眼血流の変化をレーザースペックルフローグラフィを用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は軽度の屈折異常以外特に全身および眼疾患を有しない健常ボランティア8例16眼である.その内訳は男性3例女性5例,年齢20.34歳(平均23.9歳).対象の右眼にミ図1レーザースペックルフローグラフィによる血流マップ測定部位は乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域,また乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.(mmHg)2118151296開始時1.5hr3hr4.5hr6hra.眼圧************ケランRLA2%を点眼,左眼にプラセボとして生理食塩水を点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後における眼圧,眼灌流圧,全身血圧および脈拍をそれぞれ3回ずつ測定した.眼血流は視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上耳側および下耳側リム,視神経乳頭近傍上耳側および下耳側網脈絡膜の5カ所とした.具体的には0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.MBR値は相対値であるため,開始時に対する変化率を経時的に算出した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した(図1).乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.統計学的解析は対応のあるまたは対応のないt検定を用い,有意水準p<0.05を有意とした.当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,試験参加者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)(図2a)眼圧は開始時16.1±3.3mmHgから,ミケランRLA2%点眼1.5,3,4.5および6時間後でそれぞれ13.3±2.2mmHg(p<0.05),13.1±2.6mmHg(p<0.01),12.4±2.8mmHg(p<0.01)13.1±2.5mmHg(p<0.01)と有意に下降した.プラセボ点眼眼(,)においても点眼3,4.5および6時間後でそれぞれ14.6±2.2mmHg(p<0.05),14.0±2.7mmHg(p<0.01),14.0±2.2mmHg(p<0.01)と開始時に比べて有意に下降した.両群間で統計的有意差はみられなかったが,プラセボ点眼眼に比べてミケランRLA2%点眼眼でより低い眼圧値を呈した.(mmHg)5520開始時1.5hr3hr4.5hr6hrb.眼灌流圧504540353025*図2眼圧および眼灌流圧の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼圧(a)および眼灌流圧(b)の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(*p<0.05,**p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.406あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(120) 2.全身血圧および脈拍(平均±標準偏差)平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,平均血圧はミケランRLA2%点眼前78.9±6.4mmHgで,点眼4.5および6時間後にそれぞれ72.6±5.3mmHg(p<0.05),72.5±5.5mmHg(p<0.01),と開始時より有意に低下していたが,重篤な副作用はみられなかった.また,脈拍はミケランRLA2%点眼前70.4±5.3拍/分で,点眼1.5および3時間後にそれぞれ64.8±6.0拍/分(p<0.01),65.1±9.3拍/分,と開始時より低下したが,4.5時間後までには元のレベルに回復していた.3.眼灌流圧(平均±標準偏差)(図2b)眼灌流圧は2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ミケランRLA2%点眼眼では眼灌流圧に有意な変化はみられず,プラセボ点眼眼では開始時36.5±4.3mmHgに比べ点眼6時間後に34.3±3.8mmHgと有意に下降した(p<0.05)が,両群間で統計的有意差はみられなかった.4.視神経乳頭および網脈絡膜血流(平均±標準偏差)視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は,ミケランRLA2%点眼眼でいずれの時点でも開始時より高い値を示していたのに対し(図(%)a.視神経乳頭陥凹部20151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hr*(%)151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hrc.視神経乳頭下耳側リム*#図3眼血流の変化率の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼血流(MBR値)の開始時からの変化率の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(#p<0.05,##p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.(121)3a,3b,3d),プラセボ点眼眼では開始時に比べ6時間後に視神経乳頭陥凹部MBR値の変化率が有意に低下していた(p<0.05)(図3a).さらにミケランRLA2%点眼眼の乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率はプラセボ点眼眼に比べて3および6時間後に有意に増加した(p<0.05)(図3d).一方,視神経乳頭下耳側リムのMBR値の変化率はミケランRLA2%点眼眼でプラセボ点眼眼に比べ点眼1.5時間後には有意に低下した(p<0.05)が,その後は両群間での有意差はみられなかった(図3c).乳頭近傍下耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は両群間での有意差はみられなかったが,ミケランRLA2%点眼眼では点眼前と比べてほぼ変化がなかったのに対し,プラセボ点眼眼で点眼6時間後に有意な低下がみられた(図3e).III考按一般的にbブロッカーの眼局所効果は房水産生を抑制することで眼圧の下降が得られることが知られ,全身副作用として血圧低下や末梢組織血流量の減少などがある.一方,カルテオロール塩酸塩では内因性交感神経刺激様作用(ISA)による血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進および血管収縮因(%)b.視神経乳頭上耳側リム40302010-20-100開始時1.5hr3hr4.5hr6hr(%)403020100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hrd.視神経乳頭近傍上耳側網膜**##(%)20100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hre.視神経乳頭近傍下耳側網膜*あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013407 子(EDCF)の分泌抑制作用により末梢血管抵抗を減少させることでこれらの副作用の軽減があるとされている2,9.11).今回筆者らの正常眼を用いた検討では,視神経乳頭近傍上耳側網脈絡膜血流がミケランRLA2%点眼により,点眼3および6時間後に有意に増加するという結果が得られた.この機序として,ミケランRLA2%点眼眼で眼灌流圧が下降せず保たれていたことから,ISAによるEDRFの分泌亢進およびEDCFの分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って視神経乳頭および網脈絡膜毛細血管が拡張したためと考えられる.現在までに種々の抗緑内障点眼薬を用いた眼血流への効果をみた研究報告が散見される3.6)が,緑内障眼を用いたものが多く,ある程度の血流増加作用の報告はあるものの,筆者らが調べたかぎりにおいて正常眼を用いた研究ではそのような効果の報告は少ない7,8).正常眼圧緑内障眼においては正常人眼に比べ血流量が低下していること,さらに乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている12,13).これらの事実は視神経乳頭の血流動態が緑内障と密接に関係していることを示唆するものである.したがって,正常眼に比べて緑内障眼ではすでに視神経乳頭周囲の血流が低下しているため,抗緑内障点眼薬のもつ血流への影響が正常眼に比べて出やすい可能性がある.今回筆者らの検討においても視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜ではミケランRLA2%点眼による眼血流量の増加がみられたのに対し,下耳側リムおよび乳頭近傍下耳側網脈絡膜ではみられなかった.これは解剖学的にいわゆるI’SNTの法則により視神経乳頭下方の神経線維が最も多く,それに伴って血流の予備能も多いため効果がマスクされた可能性が考えられた.正常人眼では視神経乳頭血流量は加齢とともに減少することが知られている12).緑内障眼では視神経乳頭血液循環のautoregulation機構が破綻するため,加齢変化以上に乳頭血流量が低下するのかもしれない.したがって,低下した血流量を抗緑内障点眼薬などにより生涯にわたり改善することができれば,緑内障の進行をある程度阻止できる可能性が期待できる.2008年,Kosekiら14)は正常眼圧緑内障患者にカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを3年間投与し,ニルバジピン群はプラセボ群に比しHumphrey視野のMD(標準偏差)の傾きが有意に低下し,かつ視神経乳頭血流量が有意に増加したと報告した.ごく最近筆者らの研究グループは,2年間の前向き2重盲検試験においてサプリメントとしてのカシスアントシアニンが緑内障患者の視野進行の阻止と眼血流の上昇をもたらすことを報告した15).この事実は乳頭血流を改善することによって視野障害の進行を阻止しうる可能性を示唆している.したがって,今回筆者らが得たミケランR408あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013LA2%点眼による眼血流量の増加作用,しかも点眼6時間後にも血流が増加していた事実は慢性疾患である緑内障の治療を考えると望ましいものであり,緑内障神経保護治療の選択肢として有用な示唆を与えるものであると考えられる.文献1)早水扶公子,田中千鶴,山崎芳夫:正常眼圧緑内障における視野障害と視神経乳頭周囲網膜血流との関係.臨眼52:627-630,19982)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19993)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸レボブノロール長期点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.臨眼60:1841-1845,20064)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20095)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20056)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸ブナゾシン点眼の人眼・眼底末梢循環に及ぼす影響.眼紀55:561-565,20047)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20038)廣辻徳彦,杉山哲也,中島正之ほか:ニプラジロール点眼による健常者の視神経乳頭,脈絡膜-網膜血流変化の検討.あたらしい眼科18:519-522,20019)戸松暁美:b遮断剤点眼薬カルテオロールの眼圧下降作用と網脈絡膜組織血流量に及ぼす影響.聖マリアンナ医科大学雑誌22:621-628,199410)三原正義,松尾信彦,小山鉄郎ほか:ビデオ蛍光血管造影と画像解析によるCarteolol(ミケランR)点眼における網膜平均循環時間の検討.TherapeuticResearch10:161-167,198911)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)永谷健,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼および正常眼圧緑内障における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200113)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200614)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,200815)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantsanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,2012(122)

緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1136.1140,2012c緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響笠原正行*1,3庄司信行*1,2森田哲也*3平澤一法*1清水公也*1,3*1北里大学大学院医療系研究科眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学医学部眼科学教室InfluenceofSingle-doseInstillationofAnti-glaucomaFixedCombinationsonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMasayukiKasahara1,3),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita3),KazunoriHirasawa1)andKimiyaShimizu1,3)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity,2)DepartmentofRehabilitationOrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロスト/チモロール配合剤(LTFC),ドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)の視神経乳頭血流への影響の検討.対象および方法:健常者11名(平均27.0±1.6歳)の片眼にDTFC(D群),僚眼に人工涙液を,被験者が決めて1回1滴のみ点眼し,1,2,4,8時間後に眼圧,眼灌流圧,血圧,脈拍,視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値:レーザースペックル法〕を測定した.1週間休薬後,同じ対象の片眼にLTFC(L群),僚眼に人工涙液を点眼し同様の測定を行った.結果:L群,D群ともに点眼1時間後より眼圧は下降(各p<0.01).眼灌流圧,血圧,脈拍に変化はなかった.MBR値はL群では2時間後,4時間後に103.4%,D群では4時間後に104.1%と有意に増加した(各p<0.05).部位別には耳側と上方で増加した.結語:眼圧下降とは関係なく,配合剤単回点眼で視神経乳頭血流は一時的に増加した.Purpose:Toevaluatetheinfluencesoflatanoprost/timololfixedcombination(LTFC)eyedropsanddorzolamide/timololfixedcombination(DTFC)eyedropsonopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers.SubjectsandMethods:Subjectscomprised11eyesof11healthyvolunteers(meanage:27.0±1.6years).First,meanblurrate(MBR)wasmeasuredontheopticnervehead,andineachof4sectors,beforeandat1,2,4and8hoursafterinstillationoftheeyedrops,asrandomlyselectedbytheexamineesthemselves:DTFCinoneeye(Dgroup)andartificialtearsinthefelloweye(D-congroup).Intraocularpressure(IOP),ocularperfusionpressure(OPP),systemicbloodpressure(BP)andpulserate(PR)werealsomeasured,atthesametime.Second,thesameparametersweremeasuredinthesamemannerafterinstillationoftheeyedrops,alsorandomlyselected:LTFCinoneeye(Lgroup)andartificialtearsinthefelloweye(L-congroup),regardlessofwhicheyehadreceivedtheearliereye-drops.Results:IOPshowedasignificantdecreaseat1hourafterinstillationofLTFCorDTFC,andmaintainedlowerlevels(p<0.01).TherewerenochangesinOPP,BPorPRafterinstillationofeacheyedrop.MBRofopticnerveheadincreasedsignificantlyat2and4hours(103.4%,p<0.05)afterLTFCinstillation,andat4hours(104.1%,p<0.05)afterDTFCinstillation.Conclusion:Opticnerveheadbloodflowinyoungnormaleyesincreasedtemporarilyandsignificantlyaftersingle-doseinstillationofLTFCorDTFC,regardlessofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1136.1140,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG),視神経乳頭血流,眼圧,ラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合剤,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合剤.laserspeckleflowgraphy(LSFG),bloodflowintheopticnervehead,intraocularpressure,latanoprost-timololmaleatecombination,dorzolamidehydrochloridetimololmaleatecombination.〔別刷請求先〕笠原正行:〒252-0375相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN113611361136あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(110)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY はじめに現在,緑内障性視神経障害の進行抑制のためには眼圧下降療法が行われているが,眼圧が十分に下がっていても視野障害が進行する症例も散見され,緑内障の進行には視神経乳頭の血流障害の関与が指摘されている1.2).一方,抗緑内障点眼薬のなかには,眼圧下降効果だけでなく血流増加作用を有するものもあるのではないかと,さまざまな報告がなされている.抗緑内障点眼薬が眼血流へ及ぼす影響としては,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬のそれぞれにおいて,血流増加効果があるとする報告3.6)と血流は変わらないとする報告7.9)が存在し,今のところ一定の見解を得ていない.血流増加効果があるとする報告の増加のメカニズムとしては,血管拡張作用や,眼灌流圧の自動調節能の低下などさまざまであるが,眼圧下降に伴い,眼灌流圧が上昇し,血流が増加するといった報告も多く見受けられる.結局,眼圧下降の結果として血流の増加が生じているのであれば,その点眼薬に血流の増加作用があると果たして言って良いのか疑問である.そこで今回,筆者らは,新しい点眼薬に血流を増加させる作用があるのかどうか,それが眼圧の下降と相関しているのかどうかを検討するために,ラタノプロスト/チモロール配合剤(LTFC)とドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を点眼し,点眼前後における視神経乳頭血流の変化,ならびに関連因子について検討した.点眼による眼圧下降と血流増加作用の関連性を検討した.I対象および方法対象は全身疾患および軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者11名(男性5名,女性6名),平均年齢は27.0±1.6歳(25.30歳)である.方法は,検者にわからないようにして,被験者自身に無作為に片眼にDTFC(D群),僚眼にプラセボとして人工涙液(D-con群)をそれぞれ1回点眼してもらい,両眼の眼圧,全身血圧,脈拍,視神経乳頭血流を,それぞれ,点眼直前(午前9時),点眼1時間後,2時間後,4時間後,8時間後に測定した.その後,1週間のwashout期間を設けた後,同一の対象に,1回目の点眼と関係なく,無作為に片眼にLTFC(L群),僚眼にプラセボとして人工涙液(L-con群)を点眼してもらい,1回目と同様の時刻と方法で測定を行った.眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計を用い,血圧,脈拍測定は自動血圧計(日本コーリン社)を用いた.血流測定にはレーザースペックルフローグラフィ(LSFG-NAVITM,ソフトケア社)を用い,無散瞳下で行った.瞬目をしない状態で6秒間測定し,それを3回繰り返し,LSFGAnalyzer(version3.020.0)を用いて乳頭の血流マップを作成した.乳頭微小循環の評価のため,作成された血流マップから,血流パラメータMBR(meanblurrate)を算出した.MBRは,楕円ラバーバンドを用いて乳頭領域を決定した後,LFSGAnalyzerに装備されている血管抽出機能を用い,乳頭内の大血管のMBRを除外して,乳頭全体,乳頭上側,乳頭鼻側,乳頭耳側,乳頭下側の各部位での3回測定の平均値を算出した.しかし,MBRは個体間でばらつきがあり,もともと絶対値ではなく相対値である.日内変動もみられることから,これらを加味し,以下の計算式7)を用いて,視神経乳頭の相対的血流量の変化を算出した.(各時間の点眼眼MBR/点眼眼の点眼前MBR)/(各時間の対照眼MBR/対照眼の点眼前MBR)×100(%).平均血圧を拡張期血圧+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧),眼灌流圧を2/3×平均血圧.眼圧として算出した.すべての測定は同一検者が行い,眼圧,平均血圧,脈拍,眼灌流圧,MBRに基づく相対的視神経乳頭血流量に関して,点眼前後の変化を比較検討した.眼圧に関しては,L群とL-con群,D群とD-con群間での眼圧下降の相違についても比較検討した.統計学的検討はANOVA(analysisofvariance),Dunnett検定を用いて行い,危険率5%未満を統計学的有意とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,被験者には本研究の主旨を口頭により十分説明し同意を得て行った.II結果眼圧は,L群,D群ともに点眼1時間後,2時間後,4時間後,8時間後で点眼前に比し有意に下降した.点眼前との眼圧差(mmHg:1時間後,2時間後,4時間後,8時間後)はL群で(3.6,4.6,4.9,4.6),D群で(3,4.5,4.4,4.4)で,各時間帯においてL群,D群間に有意差は認めなかった.点眼後,すべての時間帯において,L群とL-con群ではL群が,D群とD-con群ではD群が有意に眼圧の下降を認めた(mmHg)*151005*****************■:L群□:L-con群●:D群○:D-con群点眼前1248点眼前1248(hr)図1眼圧の推移L群とL-con群,D群とD-con群の点眼前後での眼圧の推移を表した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.*:p<0.05,**:p<0.01,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(111)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121137 (%)**100*■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図2視神経乳頭全体の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭全体の血流変化を表した.血流変化は(各時間の点眼眼MBR/点眼眼の点眼前MBR)/(各時間の対照眼MBR/対照眼の点眼前MBR)×100(%)で視神経乳頭の相対的血流量の変化を算出し評価した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(%)100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図4視神経乳頭下側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭下側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(%)**100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図6視神経乳頭上側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭上側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).1138あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(%)100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図3視神経乳頭鼻側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭鼻側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).*(%)100*■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図5視神経乳頭耳側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭耳側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(図1).血流は,L群では乳頭全体で点眼2時間後,4時間後に103.4%,乳頭上側で点眼2時間後に104.9%,点眼4時間後に104.3%,乳頭耳側で点眼4時間後に104.4%と有意に増加した(図2.4).D群では乳頭全体で点眼4時間後に104.1%,乳頭耳側で点眼4時間後に107.6%と有意に増加した(図2,4).L群,D群ともに乳頭鼻側,乳頭下側では点眼前後で有意な変化は認めなかった(図5,6).平均血圧,脈拍,眼灌流圧は両群ともに点眼前後で有意な変化は認めなかった(図7,8).III考按抗緑内障点眼薬が眼血流を増加させる機序としては,プロスタグランジン関連薬に関しては不明な点も多いものの,一般的にはプロスタグランジンF2aが有する血管拡張作用によるものが指摘されている3,10).炭酸脱水酵素阻害薬に関して(112) (mmHg)100L群D群(rate/min)10050500◆:平均血圧◇:脈拍数▲:平均血圧△:脈拍数0直前1248直前1248(hr)図7平均血圧,脈拍数L群とD群の点眼前後での平均血圧,脈拍数の推移を表した.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).は,毛様体無色素上皮細胞においてcarbonicanhydraseII型活性を阻害することによる,組織内CO2濃度の上昇に伴う血管拡張作用によるものが指摘されている5,6).b遮断薬に関しては,単独では眼血流に影響を与えないとする報告が多い8,11)が,眼圧下降に伴う眼灌流圧の上昇により血流が増加するとする報告もある4).プロスタグランジン関連薬,炭酸脱水酵素阻害薬においても同様に,眼圧下降に伴う眼灌流圧の上昇により血流が増加するとする報告が多くみられる3,5,6).今回の検討では,LTFCの点眼2時間後,4時間後に乳頭全体,上側,耳側で,DTFCの点眼4時間後に乳頭全体,耳側で一時的に点眼前に比し有意に血流が増加した.しかし,眼圧は点眼1時間後(測定始点)から8時間後(測定終点)まで有意に下降しており,眼灌流圧に関しては点眼前後で有意な変化がなかったことから,LTFC,DTFC点眼後の血流増加は,眼灌流圧の上昇が主たる原因とは考えにくい結果となった.しかしながら,両剤点眼後,眼圧が有意に下降している時間帯に,一時的とはいえ血流増加が重なって生じているため,点眼による乳頭微小循環の増加が少なからず眼灌流圧の変化の影響を受けている可能性も否定できず,今後詳細な検討が必要であると考えられた.これまでに本検討と同様にLTFC点眼とDTFC点眼の血流に及ぼす影響の報告としては,Martinezら12)の開放隅角緑内障患者32例を対象に1カ月間点眼を持続させカラードップラーを用いて行った球後血流に及ぼす影響の報告がある.DTFC点眼群では有意に眼動脈,後毛様動脈ともに血流速度が増加したとしており,LTFC点眼群では血流速度を減少させたとしている.本検討においては,両群ともに血流の増加を認めたが,単回点眼で正常眼を対象としており,血流評価方法や症例数の相違も結果に関与している可能性が考えられた.乳頭部位別での血流増加に関しては,これまでにDTFC点眼やLTFC点眼に関する報告はなく,タフルプロスト単剤投与により耳側,上側が増加したとする報告13)や,チモロール単剤にドルゾラミ(mmHg)直前1(hr)248直前12486030010402050■:L群□:L-con群●:D群○:D-con群図8眼灌流圧L群とL-con群,D群とD-con群の点眼前後での眼灌流圧の推移を表した.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).ド単剤を併用した際に耳上側が増加したとの報告14)が存在する.これは健常眼が有する乳頭微小循環の部位別の相違が関与するものと考えられる15).本検討においてもL群では上側の血流は増加し,D群では有意な変化を認めなかったものの,他の部位に比べて上側は血流が増加傾向(p=0.093)にあったことから,今回の結果はこれまでの報告と大きな矛盾はないと考えられた.なお,筆者らは,個体差や日内変動の影響を減らすために,方法の項で述べたように対照眼の変動値を用いて補正を試みる方法を用いた.しかし,配合点眼薬は,片眼に点眼しても僚眼の眼圧に影響を及ぼす可能性の高いチモロールを含んでいるため,厳密な意味では,血流の検討でも僚眼を対照眼にすることは適当ではないかもしれない.そのため,両眼ともに対照液を点眼したり,日を変えて何度か日内変動を測定するなどの工夫が必要かもしれない.しかし,日内変動の再現性の問題もあり,筆者らは同一日時での日内変動を考慮することを重視して,僚眼の変動値で補正するような計算式を用いた.今後,b遮断薬を含む配合点眼薬の血流への効果を検討する場合,対照眼の設定に関してはさらなる検討が必要と考えられた今回の検討結果から,LTFC,DTFCのいずれの点眼も,眼圧下降とは関係なく視神経乳頭血流は一時的に増加した.しかし,本検討は対象数が11名と少ないことや,単回点眼での検討であるため,今後,循環の改善を目的にこれらの配合剤を用いる意義があるかどうか,症例数を増やし,点眼を持続した状態での長期的な検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(113)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121139 文献1)MincklerDS,SpaethGL:Opticnervedamageinglaucoma.SurvOphthalmol26:128-148,19812)LeveneRZ:Lowtensionglaucoma:Acriticalreviewandnewmaterial.SurvOphthalmol24:621-664,19803)KimuraT,YoshidaY,TodaN:Mechanismsofrelaxationinducedbyprostaglandinsinisolatedcanineuterinearteries.AmJObstetGynecol167:1409-1416,19924)GrunwaldJE:Effectoftopicaltimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci31:521-526,19905)GalassiF,SodiA,RenieriGetal:Effectsoftimololanddorzolamideonretrobulbarhemodynamicsinpatientswithnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmologica216:123-128,20026)HarrisA,ArendO,ArendSetal:Effectsoftopicaldorzolamideonretinalandretrobulbarhemodynamics.ActaOphthalmolScand74:569-572,19967)今野伸介,田川博,大塚賢二ほか:ラタノプロスト点眼の正常人視神経乳頭および脈絡膜-網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:695-698,20048)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,19979)SampaolesiJ,TosiJ,DarchukVetal:Antiglaucomatousdrugseffectsonopticnerveheadflow:design,baselineandpreliminaryreport.IntOphthalmol23:359-367,200110)StjernschantzJ,SelenG,AstinMetal:Microvasculareffectsofselectiveprostaglandinanaloguesintheeyewithspecialreferencetolatanoprostandglaucomatreatment.ProgRetinEyeRes19:459-496,200011)富所敦男:1.緑内障.V疾患と眼循環,NEWMOOK眼科(大野重昭,吉田晃敏,水流忠彦編集主幹,張野正誉,桐生純一,玉置泰裕編),7巻,p164-172,金原出版,200412)MartinezA,SanchezM:Retrobulbarhaemodynamiceffectsofthelatanoprost/timololandthedorzolamide/timololfixedcombinationsinnewlydiagnosedglaucomapatients.IntJClinPract61:815-825,200713)八百枝潔,白柏基宏,阿部春樹:健常眼におけるタフルプロスト点眼前後の視神経乳頭微小循環.臨眼64:455458,201014)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用.あたらしい眼科28:868-873,201115)BoehmAG,PillunatLE,KoellerUetal:Regionaldistributionofopticnerveheadbloodflow.GraefesArchClinExpOphthalmol237:484-488,1999***1140あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(114)

緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):984.987,2012c緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析杉山哲也柴田真帆小嶌祥太植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室AnalysisofWaveformsObtainedfromPeriodicChangeinOpticNerveHeadBloodFlowofGlaucomaPatientsUsingLaserSpeckleFlowgraphy-NAVITMTetsuyaSugiyama,MahoShibata,ShotaKojima,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)によって視神経乳頭血流の波形解析を行い,緑内障性視野障害との関連を検討した.対象および方法:対象は広義・原発開放隅角緑内障(POAG)34例と正常対照20例,各1眼を用いた.LSFG-NAVITMによって血流波形パラメータを算出し,再現性やHumphrey視野meandeviation(MD)値,MDslopeとの間の関連を検討した.結果:変動係数はPOAG,正常対照ともにおおむね10%未満で良好な再現性を示した.Skew,Blowouttime(BOT)はMD値との間に有意な相関を認めた.また,局所虚血型乳頭において,MDslopeとBOT,Fallingrateとの間には有意な相関を認めた.結論:視神経乳頭血流の波形解析によるパラメータがPOAGの進展に関与している可能性が示唆された.Purpose:Toinvestigatethecorrelationbetweenglaucomatousvisualfielddefectandwaveformsobtainedfromperiodicchangeinopticnervehead(ONH)bloodflow,usinglaserspeckleflowgraphy(LSFG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised34patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)and20normalvolunteers.SeveralindiceswerecalculatedfromthebloodflowwaveformsusingLSFG-NAVITM;reproducibility,relationshipbetweentheseindicesandmeandeviation(MD)valuesorMDslopesobtainedbyHumphreyvisualfieldanalyzerwereevaluated.Results:Coefficientsofvariationweremostlyunder10%inPOAGpatientsandnormalvolunteers.Skewandblowouttime(BOT)showedsignificantrelationshipswithMDvalues.BOTandfallingrateshowedsignificantrelationshipwithMDslopeinfocalischemictype,asassignedtoONHappearance.Conclusion:TheseresultssuggestthatsomeindicesobtainedfromtheONHbloodflowwaveformmightberelatedtothedevelopmentofPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):984.987,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ,視神経乳頭血流,波形解析,原発開放隅角緑内障,MD値.laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,analysisofwaveform,primaryopenangleglaucoma,meandeviation.はじめにパルスドップラ法などによる頸動脈,冠動脈などの血流波形解析は従来から臨床的に行われているが,眼血流についても最近,レーザースペックル法によって可能になり,動脈硬化や網膜静脈閉塞症などとの関連が検討され始めている1,2).一方,緑内障性視神経障害への眼循環障害の関与を示唆する報告はこれまでも多くなされているが,緑内障と動脈硬化との関連の有無については有るとするもの3.6)と無いとするもの7,8)の両者がある.今回,筆者らは視神経乳頭血流の波形解析を緑内障患者において行い,緑内障病期や視野障害進行との関連について検討した.I対象および方法対象は大阪医科大学附属病院眼科外来通院中の広義・原発〔別刷請求先〕杉山哲也:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN984984984あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(108)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY 開放隅角緑内障(POAG)患者および正常対照者のうち本研究参加に同意を得られた例である.POAGは乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の狭小化,網膜神経線維層欠損など緑内障性視神経障害があり,隅角検査で正常開放隅角であり,Humphrey自動視野検査(プログラム中心30-2SITAスタンダード)で以下の基準(1)(2)のいずれかを連続する2回の検査で認める者とした.(1)(,)緑内障半視野検査で正常範囲外もしくはパターン標準偏差でp<5%であること,(2)パターン偏差確率プロットでp<5%の点が最周辺部でない検査点に3つ以上連なって存在し,かつそのうち1点がp<1%であること.POAGのうち他の眼疾患の合併,手術歴を有する者は除外した.正常対照者は正常眼圧・正常開放隅角であり,精密眼底検査にて緑内障性視神経障害を認めず,軽度.中等度近視(.7D以下の近視),軽度白内障(Grade1以下の白内障)以外の眼疾患を認めない者とした.いずれの群からも糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外した(問診を主としたが,内科での血液検査結果も参考にした).POAGは34例で,緑内障病期(Anderson分類9))の内訳は初期群16例,中期群10例,後期群8例,また正常対照は20例であった.POAG各群および正常対照群の年齢,性別,眼圧,Humphrey視野meandeviation(MD)値,MDslope,緑内障点眼の内訳は表1のごとくであるが,MD値以外は群間に有意差は認めなかった.POAG群では本研究期間中を通して同様の点眼治療を継続していたが,表1のごとく治療点眼薬に偏りはなかった(c2検定).また,POAGは全例両眼性であり,すべての対象において解析眼を無作為に選択し,1例1眼としてデータを使用した.血流測定・解析には,レーザースペックルフローグラフィ(LAFG-NAVITM,ソフトケア,福岡)を用いた.0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後,同一検者が視神経乳頭血流の測定を同一眼について3回ずつ行い,その後,波形解析を行った.LSFG測定ソフト(ソフトケア,福岡)で記録したスペックル画像からLSFG解析ソフト,プラグインlayerviewer(いずれもソフトケア)を用いて,視神経乳頭全体を選択し,血流波形の特徴を示すパラメータ(Fluctuation,Skew,Blowoutscore,Blowouttime,Risingrate,Fallingrate)を算出した〔ソフトケア.LSFGAnalyzerInstructionManual(Rev.1.16),2011〕.これらはこの解析ソフト用に独自に開発されたパラメータであり,それぞれ以下の意義をもつと考えられている.1)Fluctuation:分散に相当する血流の変動率であり,血流の不安定さを表す指標である.2)Skew:分布の非対称性(歪度)を表し,確立密度関数の偏りの違いを示す統計量,確立変数の三次モーメントで定義されている.3)Blowoutscore:次式によって算出され,血流の通り抜けやすさ(血管抵抗の逆数)を表す指標とされる.(1.AC/2DC)×100(%).ただし,AC:血流の最大値.最小値,DC:血流の平均値.4)Blowouttime(BOT):次式によって算出され,高い血流値が維持されている時間の割合(末梢への血流供給の十分さ)を表すとされ,CW/Fから算出された.ただし,C:比例定数W:半値(最大値.最小値)以上を呈した時間,F:1心拍の時間.5)Risingrate:波形の上昇領域のAreaundercurveの面表1対象の背景正常対照初期群POAG中期群後期群例数2016108年齢(歳)59.0±12.259.8±11.860.3±11.964.9±5.8性別(男/女)8/126/104/64/4眼圧(mmHg)13.4±2.112.0±2.513.2±2.612.9±2.6MD(dB).0.03±0.87.3.02±1.39.8.78±2.48.13.32±3.25MDslope(dB/year).0.18±0.64.0.11±1.26.1.02±1.58緑内障点眼の内訳(例数)PG剤865b遮断薬532その他422なし430POAG:広義・原発開放隅角緑内障,PG:プロスタグランジン.(平均±標準偏差)(109)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012985 積比から算出され,急速に上昇するほど大きい値となる.6)Fallingrate:波形の下降領域のAreaovercurveの面積比から算出され,急速に下降するほど大きい値となる.各々3回の血流測定の再現性を表す指標として変動係数を下記の式によって算出した.変動係数=(標準偏差/平均値)×100(%)視野障害進行の指標としてMDslopeを用いた.すなわち,血流測定以後,2年以上(平均±標準偏差:28.7±5.2カ月)にわたり5回以上(平均±標準偏差:5.09±0.29回)のHumphrey視野MD値を測定し,MDslopeを求めた.血流波形パラメータと年齢,眼圧,平均血圧,眼灌流圧との間の関連性の有無についてPearsonの相関係数を求め,有意性を検定した.POAG群においては同様に血流波形パラメータと視野MD値,MDslopeとの間の相関の有無を検討し,また乳頭形態分類(Nicolelaら10))によって局所虚血型,加齢性硬化型,近視型,全体的拡大型の4群に分けたうえ,これらの関連性の有無を検討した.II結果血流波形の各パラメータの変動係数は表2のごとくで,最20-2y=3.302-0.90xr=0.37,p=0.032-4-6-8-10-12MD値(dB)-14-16-1867891011121314151617も大きいSkewが約11%であったが,他のパラメータはいずれも10%未満であり,またPOAG群と正常対照群の間に有意差は認めなかった.POAGにおいて視野MD値と各パラメータの間の関連を検討した結果,有意な相関を認めたのはSkewとBOTで,前者は負の,後者は正の相関を認めた(図1,2).眼圧,平均血圧,眼灌流圧と各パラメータの間の関連性を検討した結果,いずれも有意な相関は認めなかった.つぎに,POAGにおいてMDslopeと各パラメータの間の関連性を検討した結果,POAG全体では有意な相関はみら表2血流波形パラメータの変動係数正常対照POAGFluctuation6.39±3.645.46±5.40Skew11.30±9.3711.06±11.71Blowoutscore1.83±1.061.84±2.81Blowouttime6.75±4.985.95±6.95Risingrate5.90±3.314.98±3.36Fallingrate6.05±5.214.49±4.29POAG:広義・原発開放隅角緑内障.(%,平均±標準偏差)20-2y=-26.469+0.386xr=0.34,p=0.046MD値(dB)-4-6-8-10-12-14-16-184244464850525456586062SkewBlowouttime図1視野MD値とSkewの相関図2視野MD値とBlowouttimeの相関視野MD値はSkewとの間に有意な負の相関を認めた.視野MD値はBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.1.21.2MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4y=13.352-1.016xr=0.80,p=0.009y=-5.874+0.121xr=0.61,p=0.049MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.6-0.8-0.81212.212.412.612.81313.213.413.6424446485052545658FallingrateBlowoutTime図3局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとFllingrate図4局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとBlowoutの相関timeの相関MDslopeはFallingrateとの間に有意な負の相関を認めた.MDslopeはBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.986あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(110) れなかった.乳頭形態分類では局所虚血型9例,加齢性硬化以上,視神経乳頭の血流波形解析によって,動脈硬化性変型7例,近視型11例,全体的拡大型7例であったが,局所化を含む血流動態の変化がPOAGの病態や進展に関与して虚血型においてのみ,MDslopeとFallingrateとの間に負いることが示唆されたが,臨床的意義をより明らかにするたの,BOTとの間に正の有意な相関をそれぞれ認めた(図3,めにはさらなる検討が必要であると考える.4).III考按利益相反:利益相反公表基準に該当なし今回の検討の結果,POAGおよび正常対照の視神経乳頭血流波形パラメータは変動係数が1.8%から11.3%であった.文献視神経乳頭において同様の血流波形パラメータの変動係数を1)岡本兼児,高橋則善,藤居仁:LaserSpeckleFlowgra検討した報告はこれまでになく,直接比較はできないが,同phyを用いた新しい血流波形解析手法.あたらしい眼科じレーザースペックル法で正常者・視神経乳頭血流〔NB26:269-275,2009(normalblur)値〕を測定した再現性指数は11.7%と報告さ2)小暮朗子,田村明子,三田覚ほか:網膜静脈分枝閉塞症れており11),筆者らは今回と同じLAFG-NAVITMで正常者における静脈血流速度と黄斑浮腫.臨眼65:1609-1614,2011とPOAGの視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値〕を3)OmotiAE,EdemaOT:Areviewoftheriskfactorsin測定した際の変動係数がいずれも10%未満であったと報告primaryopenangleglaucoma.NigerJClinPract10:している12).また,laserDopplerflowmetryによって正常79-82,2007者と緑内障患者(高血圧なし)の視神経乳頭血流(Flow)を4)Pavljasevi.S,As.eri.M:Primaryopen-angleglaucomaandserumlipids.BosJBasicMedSci9:85-88,2009測定した際の変動係数は各々21%,13%であったと報告さ5)GungorIU,GungorL,OzarslanYetal:Issymptomaticれている13).これらと比較しても今回測定した視神経乳頭血atheroscleroticcerebrovasculardiseaseariskfactorfor流波形パラメータは再現性が良好であり,各種の解析に適しnormal-tensionglaucoma?MedPrincPract20:220-224,たものと考えられた.なお,今回は病期ごとに年齢を合致さ20116)SiasosG,TousoulisD,SiasosGetal:Theassociationせ,かつ特別な全身疾患を有する例を除外したPOAGにつbetweenglaucoma,vascularfunctionandinflammatoryいての検討なので,加齢や他疾患の影響を受けず,緑内障のprocess.IntJCardiol146:113-115,2011病態と血流波形パラメータとの関連の検討ができたと考えら7)deVoogdS,WolfsRC,JansoniusNMetal:Atheroscleroれる.sis,C-reactiveprotein,andriskforopen-angleglaucoma:theRotterdamstudy.InvestOphthalmolVisSci47:POAGにおいて視野MD値とSkew,BOTとの間に有意3772-3776,2006な相関を認めたことより,緑内障性視野障害と血流波形との8)ChibaT,ChibaN,KashiwagiK:Systemicarterial間に何らかの関連があることが推察された.Skewは動脈硬stiffnessinglaucomapatients.JGlaucoma17:15-18,化度を反映すると考えられており1),緑内障の病態に動脈硬20089)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,化が関連している可能性が示唆された.BOTは末梢への血2ndedition,p121-190,Mosby,StLouis,1999流維持の十分さを示す値であることから,末梢血流の維持が10)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousoptic保たれているかどうかも緑内障の病態に関連していることがnerveappearances:clinicalcorrelations.Ophthalmology示唆された.103:640-649,199611)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-timemeasureまた,血流波形解析後(約2年間)のMDslopeとBOTmentofhumanopticnerveheadandchoroidcirculation,やFallingrateが局所虚血型の症例において有意に相関してusingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmolいたことより,POAGの少なくとも一部では血流波形が緑41:49-54,1997内障進行の予測因子となり得る可能性が示唆された.BOT12)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしいに関しては緑内障病期との関連のみならず,進行との関連も眼科27:1279-1285,2010認めたことより,末梢血流の維持が緑内障の病態に深く関わ13)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnerveっている可能性が示唆された.また,Fallingrateは血流波bloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.形の下降領域の急峻さを反映するものであり,動脈硬化性変AmJOphthalmol127:516-522,1999化が緑内障の進行と関わる一因子であると考えられた.***(111)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012987

ラタノプロスト・β遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)1017《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(7):1017?1021,2011cはじめに緑内障性視神経障害には眼圧以外の因子として眼循環障害の関与が示唆され,緑内障治療として緑内障点眼薬のもつ眼圧下降効果のほかに血流改善効果が期待されている.単剤投与における緑内障点眼薬の視神経乳頭血流への影響はすでに多くの報告があるが,臨床的にしばしば行われる併用療法に〔別刷請求先〕柴田真帆:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPANラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化柴田真帆*1杉山哲也*1小嶌祥太*1岡本兼児*2高橋則善*2植木麻理*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2(有)ソフトケアOpticNerveHeadBloodFlowChangesInducedbyLong-ActingBeta-BlockerAdditiontoLatanoprostinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMahoShibata1),TetsuyaSugiyama1),ShotaKojima1),KenjiOkamoto2),NoriyoshiTakahashi2),MariUeki1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)SoftcareLtd.目的:ラタノプロスト点眼とb遮断持続性点眼液の併用が原発開放隅角緑内障における視神経乳頭血流に及ぼす影響を検討した.対象および方法:対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来通院中の,ラタノプロスト点眼を単剤で4週間以上継続している広義の原発開放隅角緑内障患者10例10眼.ラタノプロスト点眼にチモロールまたはカルテオロール持続性点眼液を2カ月間併用し,その後もう一方のb遮断薬を2カ月間併用し,併用前後の眼圧,視神経乳頭血流,血圧,脈拍数を測定するクロスオーバー試験を行った.b遮断薬の順序は封筒法による無作為割付で決定した.結果:両b遮断薬とも併用後に有意な眼圧下降効果が得られ,両群間に差はなかった.視神経乳頭を上下,耳鼻側に4分割し,視神経乳頭陥凹部を除いた辺縁部組織血流解析では上下,耳側においてカルテオロール併用時にのみ有意な血流増加を認めた.結論:ラタノプロスト・カルテオロール持続性点眼併用により視神経乳頭血流が増加し,その機序としてカルテオロールの血管拡張作用が考えられた.Purpose:Toevaluatetheinfluencesofadditivetherapy,withlong-actingbeta-blockerinstillationaddedtolatanoprost,ontheopticnervehead(ONH)bloodflowinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised10eyesof10POAGpatientswhohadbeenontopicallatanoprostformorethan4weeks.Intraocularpressure(IOP),ONHbloodflow(laserspekckleflowgraphy),bloodpressureandpulserateweremeasuredbeforeandat2monthsaftertherapywithlatanoprostplus0.5%timololor2%carteolollong-actinginstillations,inacrossoverstudyusingtheenvelopemethod.Results:TheadditionoftimololorcarteololtolatanoprostsignificantlydecreasedIOP,withnosignificantdifferencenotedbetweenthetwoadditivetherapies.Analysisofbloodflowin4sectionsoftheONHrimshowedthatthecombinedtherapyoflatanoprostandcarteololsignificantlyincreasedbloodflowintheupper,lowerandtemporalsections.Conclusions:Therapywith2%carteolollong-actinginstillationaddedtolatanoprostincreasedONHbloodflow,probablyduetothevasodilatingactionoftheagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1017?1021,2011〕Keywords:カルテオロール,レーザースペックルフローグラフィー,視神経乳頭血流,視神経乳頭辺縁部,併用療法.carteolol,laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,rim,combinedtherapy.1018あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(114)おける視神経乳頭血流への影響についてはまだ報告が少なく,これまでラタノプロスト点眼,持続性ではないb遮断薬点眼液併用による視神経乳頭血流の変化が報告されている1).今回,ラタノプロスト点眼とb遮断持続性点眼液との併用が視神経乳頭血流に及ぼす影響を検討した.I方法および対象対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来通院中のラタノプロスト点眼を単剤で4週間以上継続している広義の原発開放隅角緑内障患者のうち本研究参加への同意が得られた10例10眼(男性4例4眼,女性6例6眼,年齢38?76歳)である.内眼手術既往歴のあるもの,b遮断薬禁忌症例,コントロール不良の糖尿病・高血圧合併症例,喫煙者は除外した.ラタノプロスト点眼(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー製薬,東京)を1日1回夜点眼して4週間以上継続している患者に,チモロール(チモプトールRXE点眼液0.5%,参天製薬,大阪)もしくはカルテオロール(ミケランRLA点眼液2%,大塚製薬,東京)の持続性点眼液を1日1回朝点眼して2カ月併用し,その後もう一方のb遮断薬を2カ月併用して併用前後の眼圧,血圧,脈拍数,レーザースペックル法による視神経乳頭血流を測定するクロスオーバー試験を行った.b遮断薬の順序は封筒法による無作為割付で決定した.眼圧,血圧,脈拍数,血流の測定は朝の点眼2?3時間後とし,同一患者については最初の測定時刻±1時間に測定した.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用い,血圧,脈拍は自動血圧計を用いた.血流測定方法としてレーザースペックルフローグラフィー,LSFG-NAVITM(ソフトケア,福岡)を用いた.すべての対象において0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後に同一検者が乳頭血流の測定をした.その測定原理については既報のとおり2)であるが,LSFGNAVITMでは取り込んだスペックル画像からLSFG解析ソフトversion3,プラグインLayerViewer(いずれもソフトケア)を用いて合成血流マップを作製することができ,血流マップ上で解析する部位を四角形や円形で指定すると,その内部の組織血流量を反映したmeanblurrate(MBR)値が得られる.MBR値はSBR(squareblurrate)値に比例する値であり3),また,SBR値はNB(normalblur)値に相関する値である4).NB値は元来,血流速度の指標であるが,表在血管を避けた部位では組織血流量をも反映すると報告されている5).本研究ではまず血流測定部位を視神経乳頭耳側辺縁部の一部領域(以下,Temporalrectangle;図1a)とした.つぎに視神経乳頭を4分割(S:上方,T:耳側,I:下方,N:鼻側)し,以下の方法で乳頭陥凹部を除いた視神経乳頭辺縁部領域(以下,Srim,Trim,Irim,Nrim;図1b)を血流解析部位とした.この乳頭陥凹部を除いた辺縁部のみの血流解析方法は以前に筆者らが報告した6)とおりであるが,合成血流マップ上でマウスカーソルを使って視神経乳頭周囲境界線と除外する乳頭陥凹部を指定し,視神経乳頭内部の4分割線を決定する.つぎに組織血流値を得るため主要血管血流を除外して解析すると7),4分割した辺縁部の組織血流に対応する領域別MBR値が得られる.解析から除外する視神経乳頭陥凹はHidelbergRetinaTomographII(HeidelbergEngineering,Heidelberg,Germany)の結果から同一検者が判定した.各解析結果は3回測定における平均値とした.図1aTemporalrectangleの部位(左眼)大血管を除いた耳側の視神経乳頭辺縁部の組織血流を解析した.図1b視神経乳頭辺縁部4分割表示(左眼)斜線領域の乳頭陥凹部は除外し,4分割した視神経乳頭辺縁部のみの組織血流を解析した.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111019また,今回の研究では4カ月の試験終了後にアンケート調査を実施した.開始2カ月後に現在の点眼で不具合があるかどうか,開始4カ月後に現在の点眼で不具合があるかどうか,終了時に今後どちらの点眼を続けたいか,その理由はなにかを患者聞き取りにて実施した.統計にはunpairedt-test,chi-squaretest,onewayanalysisofvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで群間に有意差がみられた場合はTukeyの多重比較,もしくはDunnettの多重比較を行った.なお,p値が0.05未満を統計学的に有意であるとした.II結果症例の内訳を表1に示した.10例10眼のうちカルテオロール先行群は5例,チモロール先行群は5例であり,両群の年齢,性別,b遮断薬併用前の眼圧,本研究参加時のHumphrey自動視野計(CarlZeissMeditec,Dublin,CA)による視野検査でのmeandeviation(MD)値に有意差を認めなかった(それぞれp=0.46,unpairedt-test;p=0.19,chisquaretest;p=0.15,unpairedt-test;p=0.93,unpairedt-test).表2に症例全体をまとめた薬剤別眼圧の変化を示した.両剤ともラタノプロスト単独点眼時に比較して有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,Dunnett’stest)が,両剤の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.平均血圧,眼灌流圧,脈拍数においてはb遮断薬併用による変化を認めなかった(それぞれp=0.25,p=0.71,p=0.78,onewayANOVA).Temporalrectangleの血流測定結果を図2に示した.ラタノプロスト単独点眼時を100%とするとカルテオロール点眼併用時の組織血流は112±15.6%(mean±SE)を示し,有意な血流増加を認めた(p<0.05,pairedt-test).図3に視神経乳頭辺縁部を4分割した領域別血流を示した.ラタノプロスト単独点眼時に比してカルテオロール点眼併用時のSrim,Trim,Irimに有意な血流増加を認めた(それぞれp<0.05,p<0.01,p<0.05,pairedt-test)が,チモロール点眼併用時にはすべての領域で有意な変化を認めなかった.また,視神経乳頭辺縁部の領域別血流変化率を薬剤別に比較した結果を図4に示した.ラタノプロスト単独点眼時を100%とするとカルテオロール点眼併用時のTrimは110±10.4%(mean±SE)を示し,他部位と比較した場合にNrimと比して有意な増加を認め(p<0.05,Tukeytest),Trimが最も血流改善効果のみられる領域であることが示された.使用後アンケート調査の結果を表3に示した.カルテオロール点眼で不具合を感じたのは1例で掻痒感が理由であっ表1患者内訳と背景全体カルテオロール先行群チモロール先行群p値(unpairedt-test)例数1055年齢(歳)59.3±13.363.2±10.755.4±15.60.46性別(男/女)4/61/43/20.19投与前眼圧(mmHg)MD値(dB)15.7±1.4?4.1±1.616.4±1.3?4.1±1.815.0±1.4?4.0±1.50.150.93(mean±SD)表2b遮断薬追加前後の眼圧,平均血圧,眼灌流圧,脈拍数の変化LL+CL+T眼圧(mmHg)15.7±1.412.9±2.0*12.8±1.6*平均血圧(mmHg)94.1±15.588.8±12.895.5±22.2眼灌流圧(mmHg)50.2±12.248.3±9.852.9±15.1脈拍数(/min)69.4±11.667.2±12.665.5±13.5(mean±SD)L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼とカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼とチモロール点眼併用.p<0.05,one-wayANOVA;*:p<0.01,Dunnett’stestcomparedtolatanoprostalone.8765432MBR値血流1201151101051009590%Baseline(%)血流変化率■:L■:L+C■:L+T(Mean±SE)**図2点眼後のTemporalrectangleにおける血流と血流変化率ラタノプロスト単独点眼時に比して,カルテオロール点眼併用時に有意な血流増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.*:p<0.05,pairedt-testcomparedtolatanoprostalone.1020あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(116)た.チモロール点眼で不具合を感じたのは5例で不具合の理由は霧視,べとつき感,刺激感であった.今後の点眼にカルテオロール点眼を希望したのは4例,使用感の良さが理由であった.チモロール点眼を希望したのは2例,使用感の良さと眼圧下降効果が良かったという理由であった.どちらの点眼でもいいというのは4例であった.また,チモロール点眼に霧視やべとつき感を感じて不具合があると回答した患者(チモロール先行群2例,カルテオロール先行群3例)と,チモロール点眼に不具合がないと回答した5例の患者(チモロール先行群3例,カルテオロール先行群2例)に有意差を認めず(p=0.52,chi-squaretest),チモロール点眼の不具合は点眼の先行もしくは後行に関係しないという結果であった.III考按循環異常と緑内障の関連を示唆する報告は多く,特に正常眼圧緑内障で視神経乳頭出血の頻度が高く8),視野進行に関与し9),視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮が視野障害と関連している10)ことなど,視神経乳頭循環障害が緑内障の進展に関与している可能性が考えられている.そのためこれまでにも,緑内障眼における視神経近傍の血流を測定する方法は多数報告されているが,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)では視神経乳頭,脈絡膜,網膜,虹彩などの末梢循環の測定が可能であり,その正確さと高い再現性が得られること4)から,本研究ではLSFGの最新機種であるLSFGNAVITMを用いて視神経乳頭組織血流を測定した.筆者らは以前に,今回と同様のLSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部血流解析において,緑内障病期や視神経乳頭測定部位にかかわらず変動係数10%未満という高い再現性が得られる6)ことを報告している.眼循環障害と緑内障性視神経障害との関連から,緑内障治療として眼圧下降効果のほかに血流改善効果をもつ薬剤の検表3使用後アンケート調査Q1:点眼の不具合不具合なし不具合あり(理由)カルテオロール点眼9例1例(掻痒感)チモロール点眼5例5例(霧視4例,べとつき2例,刺激感1例:重複回答あり)Q2:今後の点眼の選択理由カルテオロール点眼4例使用感が良いチモロール点眼2例使用感が良い,眼圧が下降したどちらでも4例Nrim14131211101413121110Irim98765Trim151413121110MBR値MBR値Srim****■:L■:L+C■:L+T(Mean±SE)図3点眼後の乳頭辺縁部領域別血流ラタノプロスト単独点眼時に比して,カルテオロール点眼併用時のSrim,Trim,Irimに有意な血流増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.*:p<0.05,**:p<0.01,pairedt-testcomparedtolatanoprostalone.12011511010510095LL+CL+T%baseline(%)■:Srim■:Trim■:Irim■:Nrim(Mean±SE)*図4乳頭辺縁部血流変化率の領域別比較(点眼別)ラタノプロスト単独点眼時を100%とする%baseline表示である.カルテオロール点眼併用時のTrimは他部位と比較して有意な増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.p<0.05,onewayANOVA;*:p<0.05,Tukeytest.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111021討がなされている.単剤投与における緑内障点眼薬の視神経乳頭血流への影響はすでに多くの報告があるが,臨床的にしばしば行われる併用療法の影響についてはまだヒト眼での報告が少なく1),本研究ではラタノプロスト点眼にチモロール点眼,カルテオロール点眼(いずれも持続性点眼液)を追加する併用療法における視神経乳頭血流について検討した.今回検討したb遮断薬の単剤投与における視神経乳頭血流変化について,正常ヒト眼においてチモロール点眼は視神経乳頭血流を変化させず,カルテオロール点眼は増加させるという報告11)がある.本研究では原発開放隅角緑内障眼においてであるが,同様の結果であり,カルテオロール点眼併用時にのみ血流改善効果を認めた.今回の結果は,ラタノプロスト点眼に持続性ではない1日2回点眼の2%カルテオロール点眼を併用して視神経乳頭血流が増加したとする過去の報告1)と同様であり,耳側乳頭辺縁部領域Temporalrectangleにおいて10%の血流改善率を認めた.また,カルテオロール点眼群ではSrim,Trim,Irimにおいて血流改善を認め,他領域と比較してTrimに有意な改善率を認めた.筆者らは以前に原発開放隅角緑内障眼において,病期の進行とともに耳側の視神経乳頭血流が低下することを報告した6).今回の結果と合わせて,耳側視神経乳頭血流は変化を受けやすい部位であると考えられた.チモロール点眼,カルテオロール点眼併用時の眼圧下降効果はそれぞれ17.0%,18.1%であり,併用による有意な眼圧下降を認め,この結果はこれまでの報告12,13)と同様であった.しかし,これらb遮断薬点眼併用前後で全身循環パラメータに有意な変化を認めず,眼灌流圧においても両剤とも点眼併用で有意な変化を認めなかった.しかし,カルテオロール点眼併用時にのみ視神経乳頭血流が増加したことから,血流増加は眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇によるものではなく,カルテオロールによる直接的血管拡張作用によるものと考えた.その機序として,カルテオロールによる内因性交感神経刺激作用14)や内皮依存性血管弛緩作用15)の関与が考えられた.今回検討したアンケート結果により,チモロール点眼の不具合は先行か後行かに関係なく霧視やべとつき感を自覚する患者が多く,カルテオロール点眼のほうが差し心地が良いという結果となった.しかし,チモロール点眼に不具合があるが眼圧下降効果が良かったため,今後同点眼を希望した患者が1例あり,不具合の程度にもよるが,患者にとっても眼圧下降効果が第一選択基準となることをうかがわせた.本研究で,ラタノプロスト点眼加療中の原発開放隅角緑内障患者においてチモロールまたはカルテオロール持続性点眼液併用により有意な眼圧下降が得られ,カルテオロール持続性点眼併用により視神経乳頭血流の増加を認めた.今後多数例での長期的な検討が必要であるが,カルテオロール持続性点眼液は眼圧下降効果に加えて血流改善効果が期待できると考えられた.文献1)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20092)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,twodementionalmeasurementofretinalmicrocircurationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:3825-3834,19943)KonishiN,TokimotoY,KohraKetal:NewlaserspeckleflowgraphysystemusingCCDcamera.OpticalReview9:163-169,20024)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgrapyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,20105)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19966)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,20107)岡本兼児,レーフントゥイ,高橋則善ほか:LaserSpeckleFlowgraphyによる網膜血管血流解析.あたらしい眼科27:256-259,20108)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853-857,19869)DranceSM,FaircloughM,ButlerDMetal:Theimportanceofdischemorrhageintheprognosisofchronicopenangleglaucoma.ArchOphthalmol95:226-228,199710)RockwoodEJ,AndersonDR:Acquiredperipapillarychangesandprogressioninglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol226:510-515,198811)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,200213)StewartWC,DayG,SharpeEDetal:Efficacyandsafetyoftimololsolutiononcedailyvs.timololgeladdedtolatanoprost.AmJOphthalmol128:692-696,199914)YabuuchiY,KinoshitaD:Cardiovascularstudiesof5-(3-tert-butylamino-2-hydroxy)propoxy-3,4-dyhydrocarbostyrilhydrochloride(OPC-1085),anewpotentbetaadrenergicblockingagent.JpnJPharmacol24:853-861,197415)JanczewskiP,BoulangerC,IqbalAetal:Endotheliumdependenteffectsofcarteolol.JPharmacolExpTher247:590-595,1988