‘視神経周囲炎’ タグのついている投稿

眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹の1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1326.1329,2019c眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹の1例川端真理子*1,2福岡秀記*1向井規子*1,3奥村峻大*1,3岩間亜矢子*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都市立病院眼科*3大阪医科大学眼科学教室CACaseofOrbitalApexSyndromewithHerpesZosterOphthalmicusMarikoKawabata1,2),HidekiFukuoka1),NorikoMukai1,3),TakahiroOkumura1,3),AyakoIwama1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC症例はC68歳,男性.左眼部帯状疱疹と眼球運動障害を発症した.水痘帯状疱疹ウイルス血清抗体価の上昇と,磁気共鳴画像法ガドリニウム造影検査にて動眼神経および滑車神経の炎症と視神経周囲炎を認めたため,眼窩先端部症候群と診断した.帯状疱疹に対する治療は新規作用機序の抗ヘルペスウイルス薬であるアメナメビル内服を使用し,さらにステロイドミニパルス療法(125Cmg/日)に加え大量ステロイドパルス療法(1,000Cmg/日)を施行することで発症C2カ月で改善を得た.本症例では適切な検査とステロイドパルス療法を行ったことにより,早期の眼合併症状改善と早期の社会復帰につなげることができた.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCorbitalCapexCsyndromeCwithCherpesCzosterophthalmicus(HZO).CCaseReport:A68-year-oldmalepresentedwithHZOontheleftsideofhisfaceandophthalmoplegiainhislefteye.UponCexamination,ChisCserumCvaricella-zostervirus(VZV)antibodyCtiterCwasCincreased,CandCmagneticCresonanceCimagingshowedgadoliniumenhancementintheleftopticperineuritis,oculomotornerve,andpulley-liketrochlea.HeCwasCdiagnosedCasCorbitalCapexCsyndromeCsecondaryCtoCHZO.CAfterCaC2-monthCsystemicCtreatmentCwithCame-namevir,CaCnovelCantiviralCagentCagainstCVZVCandCherpesCsimplexCvirus,CandCsteroidCpulseCtherapy,CtheCpatient’sCconditionCimproved.CConclusions:WeCconcludeCthatCophthalmoplegiaCsecondaryCtoCHZOCshowedCearlyCimprove-mentviatheproperchoiceofexaminationsandsubsequenttherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1326.1329,C2019〕Keywords:眼部帯状疱疹,眼球運動障害,視神経周囲炎,眼窩先端部症候群,アメナメビル.herpesCzosterCoph-thalmicus,ophthalmoplegia,opticperineuritis,orbitalapexsyndrome,amenamevir.Cはじめに帯状疱疹とは水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が原因となるウイルス感染症であり,一次感染によって神経節に潜伏していたCVZVが,なんらかの原因で再活性化されることで発症する.そのなかでも眼部帯状疱疹は,三叉神経節に潜伏したCVZVが再活性化し,三叉神経第C1枝支配領域の帯状疱疹として発症する.眼部帯状疱疹は眼瞼を含む広範な皮疹に加えて角膜炎,虹彩炎・ぶどう膜炎や結膜炎などを認めることが多いが,ほかにも動眼神経,外転神経,滑車神経麻痺による外眼筋麻痺を引き起こすこともある.まれではあるが中枢神経内感染などによる神経症の合併も報告されている1).帯状疱疹の治療薬としては長年,抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル,バラシクロビル塩酸塩,ファムシクロビルが用いられてきたが,2017年より新規作用機序をもつアメナメビルが処方可能となった.既報では,帯状疱疹による外眼筋麻痺に対して,従来の抗ヘルペスウイルス薬に加えてステロイド内服や静脈投与での加療が中心に行われているが,その治療方針は確立するに至っていない.今回,眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹に対し,アメナメビルとステロイドパルス療法により著明な改善を得た症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕川端真理子:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:MarikoKawabata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashi-Takada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPANC1326(104)図19方向眼位左眼は外転方向以外の運動障害を認める.図2初診時前眼部写真およびフルオレセイン染色(左眼)毛様充血と,5時からC8時にかけての角膜周辺部に浮腫と上皮障害を認める.I症例68歳,男性.特記すべき既往歴はなし.左眼痛と充血を自覚し前医を受診した.点状表層角膜炎および虹彩炎と診断され,0.1%フルオロメトロン左眼C4回/日点眼を開始された.2病日に左顔面に皮疹を認めたため,近医皮膚科を受診し,帯状疱疹の診断にてアメナメビル内服とレボフロキサシン左眼C4回/日点眼を開始された.また,同日頃より複視も自覚しはじめた.7病日には左眼の眼圧上昇(33CmmHg)を認めたためドルゾラミド点眼左眼3回/日,アセタゾラミド500Cmg内服を開始されたが,高眼圧の改善なく,11病日に当院紹介となった.当院初診時の検査では,右眼矯正視力C1.2,左眼矯正視力0.3,右眼眼圧C14CmmHg,左眼眼圧C28CmmHgであった.左前頭部,左眼瞼,鼻尖部といった三叉神経第C1枝領域に痂皮化した皮疹を認め,軽度左眼瞼下垂を認めた.眼位は右眼正位,左眼外転位であり,著明な左眼内転,上転,下転運動障害を認めた(図1).瞳孔径は右眼C3Cmm,左眼C6Cmmと左眼は散瞳固定しており,対光反射が消失していた.左眼には毛様充血を認め,角膜周辺部に上皮障害と角膜浮腫を認め,前房内炎症を認めた(図2).中心フリッカ値は右眼C39CHz,左眼C35CHzであった.図3MRI画像(ガドリニウム造影)左眼窩部(1)視神経周囲炎,(2)動眼神経,(3)滑車神経に炎症を示す造影効果を認める.左眼ヘルペス角膜炎およびヘルペス虹彩炎,左動眼神経麻痺と診断し,アシクロビル眼軟膏左眼C5回/日点入,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム左眼C6回/日点眼,レボフロキサシン左眼C6回/日点眼,ドルゾラミド塩酸塩チモロールマレイン酸塩液(コソプトCR)左眼C2回/日点眼で治療開始した.14日目には,左眼の角膜上皮障害,浮腫ともに改善を認め,前房内炎症も消失し,左眼圧C11CmmHgと低下した.abcd図4HESS試験a:当院初診時C11病日.Cb:ステロイドパルス開始前C53病日.Cc:ステロイドパルス終了後C60病日.Cd:81病日.眼球運動の改善を認める.図581病日前眼部写真(左眼)毛様充血や角膜上皮の状態は改善し,散瞳状態も改善傾向にある.しかし,左眼痛と左動眼神経麻痺は改善を認めなかったため,メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム125Cmg点滴を投与したあとに,プレドニゾロン(PSL)30mg/日をC3日間,また同時にアメナメビルC400Cmg/日をC4日間内服し,点眼薬はベタメタゾンリン酸エステルナトリウム左眼C4回/日へ減量し,その他は継続とした.18病日には,角膜上皮はさらに改善したが,依然,眼痛と動眼神経麻痺は改善を認めなかった.その後もCPSLの投与量を漸減したが,眼球運動障害は改善なく,左眼視力も矯正C0.7以上の改善が乏しいため,25病日に脳神経内科に対診を依頼した.血液検査でCVZV抗体価:IgM1.20(基準値:0.80未満)IgG367(基準値:2.0未満)と高値でありCVZVによる感染初期と考えられ,また磁気共鳴画像法(MRI)ガドリニウム造影検査で,左視神経周囲炎および動眼神経(第CIII脳神経),滑車神経(第CIV脳神経)の炎症を示す造影効果を認めたため(図3),左眼窩先端部症候群と診断された.髄液検査ではリンパ球の増加を認めるもののCVZV-PCRではCDNAを検出しなかったため,髄膜炎への移行のリスクは低いと判断し,54病日よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000mg/日をC3日間)を入院にて施行し,その後にCPSL50Cmg/日の内服を開始し徐々に漸減した.60病日には眼球運動と矯正視力ともに急激に改善し退院となった(図4).その後もCPSLを漸減するも再発は認めず,左眼散瞳状態は時間経過により徐々に改善傾向である(図5).CII考按眼窩先端部症候群とは,眼窩深部や海綿静脈洞の病変により,視神経(第CII脳神経)と,動眼神経(第CIII脳神経),滑車神経(第CIV脳神経),三叉神経(第CV脳神経),外転神経(第CVI脳神経)が障害される複合神経麻痺であり,主症状は視力低下と眼球運動障害,眼痛である.眼窩深部から海綿静脈洞にかけては,非常に狭い範囲に第CIII.VI神経が走行しており,どの神経が障害されるかによって上眼窩裂症候群や海綿静脈洞症候群とよばれるが,これらに第CII神経障害が加わった場合,眼窩先端部症候群と診断される2).本症例では,眼瞼下垂,瞳孔散大,眼球運動障害を認め,初診時にはヘルペス角膜炎およびヘルペス虹彩炎による視力低下と考えていたが,それらが治癒したあとも視力低下が遷延したことにより,眼窩先端部症候群を疑った.さらに造影CMRI検査にて視神経周囲炎(第CII脳神経)と,動眼神経(第CIII脳神経),滑車神経(第CIV脳神経)の造影効果があったことにより確定診断に至った.Marshらは眼部帯状疱疹の合併症について,頻度の高いものでは,結膜炎(75%),眼瞼浮腫(68%),虹彩炎(54%)があるが,精査すればC29%に眼球運動障害を認め,それらは動眼神経,外転神経,滑車神経の順に多いと報告している1).一方,眼球運動障害のC29%に比して,視神経障害は0.4.1.9%と報告されており1,3)本症例のように眼球運動障害に加えて視神経障害を合併する眼窩先端症候群の例はきわめてまれである4.7).治療に関しては,皮疹に対しては抗ヘルペスウイルス薬の内服投与,神経合併症がある場合は点滴静注を行うとされている.眼球運動障害を合併した既報では,ステロイドは内服投与が中心であり,投与量はC30.60Cmgと体重C1Ckg当たりCPSL1Cmg量から開始されることが多いが,ステロイドミニパルス(PSL500Cmg/日をC3日間)やステロイドパルスを施行した報告もあるなかで,佐藤らの報告では,発症後C3カ月で眼球運動の改善を認めたが8),西谷らの報告は発症後C24カ月でも眼球運動の改善は得られなかった9).本症例における眼球運動障害は,125Cmgステロイドミニパルスで十分な改善が得られなかったため,さらに大量ステロイドパルスを追加することで,治療開始からC1.5カ月で著明な改善を得ることができた.本症例では前医からアメナメビル内服にて加療されていた.従来の抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルやバラシクロビルが核酸類似体であるのに対して,アメナメビルはヘリカーゼ・プライマーゼ複合体として新規作用機序として抗ヘルペスウイルス活性をもつ.VZVへの活性が高いとされており腎排泄性でないことから,腎機能の低下した患者に使用しやすい薬剤となっている.本症例ではアメナメビルで加療を行ったが,眼合併症に対してアメナメビルで加療した既報にはなく,十分な検討はなされておらず,今後のさらなる臨床応用が待たれる.眼球運動障害の自然寛解率は76.5%,2週間からC1.5年(平均C4.4カ月)を要するとされている10).自然寛解が多いとされながらも,眼球突出を伴う全眼筋麻痺や虚血性乳頭炎などのように閉塞性血管炎が疑われる場合はステロイドの全身投与が推奨される2).血管炎が進行し虚血性変化が高度になったことにより眼球癆となった全眼筋麻痺を伴う症例も報告されており11),不可逆な虚血性変化が起こる前に迅速なステロイドの全身投与が必要であるといえる.一方でステロイドの全身投与は,ヘルペス脳炎や髄膜炎への移行,免疫抑制作用による合併症の懸念もあるため,全身状態の評価や投与後の全身管理が重要となる.今後,免疫抑制薬の使用やヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvitus:HIV)感染などにより免疫不全状態の患者が増加すると考えられる.これらは眼部帯状疱疹発症の高いリスク因子であり,なおかつ合併症が強く顕在化しやすいため,その治療と全身管理にはよりいっそうの注意が必要となる12).本症例ではステロイドパルス加療前に,感染症検査および髄液検査を施行し,髄膜炎移行リスクが低いことを確認して治療へと踏み切った.本症例では適切な検査とステロイドパルス療法を行ったことにより,早期の眼合併症状改善と早期の社会復帰につなげることができたといえる.CIII結論眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹に対し,ステロイドパルス療法により著明な改善を得た.適切な時期のステロイドパルス療法は早期の眼合併症状改善と早期の社会復帰を可能とした.文献1)MarshCRJ,CDulleyCB,CKellyV:ExternalCocularCmotorCpal-siesCinCophthalmiczoster:ACreview.CBrCJCOphthalmolC61:677-682,C19772)藤田陽子,吉川洋,久冨智朗ほか:眼窩先端部症候群の6例.臨眼59:975-981,C20053)KahlounCR,CAttiaCS,CJellitiCBCetal:OcularCinvolvementCandCvisualCoutcomeCofCherpesCzosterophthalmicus:CreviewCofC45CpatientsCfromCTunisia,CNorthCAfrica.CJCOph-thalmicIn.ammInfect:4-25,C20144)ArdaH,MirzaE,GumusKetal:OrbitalapexsyndromeinCherpesCzosterCophthalmicus.CCaseCReportsCinCOphthal-mologicalMedicine:854503,C20125)青田典子,平原和久,早川和人ほか:眼窩先端部症候群をともなった眼部帯状疱疹のC1例.臨皮C62:220-223,C20086)曺洋喆,国分沙帆,竹内聡ほか:眼部帯状疱疹に続発した眼窩先端部症候群が疑われたC1例.あたらしい眼科C31:453-458,C20147)岡本真奈,細谷友雅:眼部帯状疱疹に合併した眼窩先端部症候群.目のまわりの病気とその治療,(外園千恵,加藤則人編),p153-155,学研メディカル秀潤社,20158)佐藤里奈,山田麻里,玉井一司:眼部帯状疱疹に続発した全眼筋麻痺.臨眼C62:1223-1227,C19849)西谷元宏,児玉俊夫,大橋一夫ほか:眼部帯状疱疹に続発した海綿静脈洞症候群のC1例.眼紀C53:898-903,C200210)LeeCY,TsaiHC,LeeSSetal:Orbitalapexsyndrome:CanCunusualCcomplicationCofCherpesCzosterCophthalmicus.CBMCInfectDisC15:33,C201511)土屋美津保,輪島良平,田辺譲二ほか:全眼筋麻痺および眼球突出をきたした眼部帯状ヘルペスのC2例.眼臨C81:C855-858,C198712)GhaznawiN,VirdiA,DayanAetal:Herpeszosteroph-thalmicus:diseasespectruminyoungadults.MiddleEastAfrJOphthalmolC18:178-182,C2011

後部強膜炎に視神経周囲炎を合併した若年者の1例

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)671《第43回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科27(5):671.674,2010cはじめに後部強膜炎は疼痛,視力低下を主症状とし,眼底に網脈絡膜皺襞や滲出性網膜.離など多彩な症状を呈する疾患である.特に初期の原田病と鑑別困難な場合があり,超音波検査,CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)などの画像検査で後部強膜の肥厚所見を得ることが診断の決め手となることがある.原疾患として関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)といった膠原病や,結核・梅毒などの感染症を合併することも多いといわれている1).視神経周囲炎は視神経鞘に炎症の首座があるものをいい,脱髄性視神経炎とはまったく異なる病態で,眼窩内炎症の一つと位置付けられる.急性または亜急性の片眼または両眼の霧視,眼痛で発症する比較的まれな疾患である.乳頭腫脹は初発時,ほぼ全例にみられるが中心視力は保たれることがあり,その場合盲点の拡大,傍中心暗点または弓状暗点のみがみられることがある.MRI所見が重要で,視神経周囲がT2強調画像で高信号を呈する.ステロイド薬は著効するが,漸減または中止後しばしば再燃しやすい2).両疾患とも小児や若年者での報告が少なく,特発性眼窩炎症の一型として考えられている.以前林らが成人例の後部強〔別刷請求先〕菅原道孝:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3医療法人社団済安堂井上眼科病院Reprintrequests:MichitakaSugahara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN後部強膜炎に視神経周囲炎を合併した若年者の1例菅原道孝藤本隆志井上賢治若倉雅登井上眼科病院ACaseofPosteriorScleritiswithOpticPerineuritisMichitakaSugahara,TakashiFujimoto,KenjiInoueandMasatoWakakuraInouyeEyeHospital緒言:後部強膜炎,視神経周囲炎ともに別々の独立した疾患概念で分類されている.今回両者が連続すると思われる症例を経験したので報告する.症例:16歳,男性.両眼球運動痛と上眼瞼腫脹,複視を自覚し,近医を受診.眼窩内炎症を考え加療するも,前房内炎症,視神経乳頭腫脹が出現したため当院紹介受診となった.当院初診時視力は両眼とも(1.2),RAPD(相対性求心路瞳孔異常)(.),両眼の強膜炎,前房内炎症,視神経乳頭発赤腫脹,黄斑に網脈絡膜皺襞があった.フルオレセイン蛍光眼底造影で両眼視神経乳頭過蛍光を示した.MRI(磁気共鳴画像)で両眼とも眼球後壁から視神経にかけての肥厚と造影剤による増強効果を認め,後部強膜炎と視神経周囲炎の合併例と診断し,ステロイドパルス療法を施行した.再発例が多いことから免疫抑制薬を併用しステロイド薬内服を漸減中である.結論:本例は後部強膜炎も視神経周囲炎も解剖学的に連続性があり,特発性眼窩炎症の一型と解釈した.A16-year-oldmale,whenfirstseenbyhisophthalmologist,complainedofocularpain,eyelidswellinganddiplopia.Hewasinitiallytreatedwithanon-steroidalanti-inflammatorydrug,butwasfoundtohaveiritisanddiscswelling,andwasrefferedtoourclinic.Onadmission,hisbestvisualacuitywas20/16inbotheyes.Examinationofbotheyesshowedanteriorscleritis,iritis,hyperemicdisc,andretinalfold.Fundusfluoresceinangiographydisclosedpersistentdyeleakagefrombothdiscs.MRIrevealedahigh-signal-intensityareaaroundtheposteriorscleraandtheadjacentopticnervesheath.Wediagnosedposteriorscleritiswithopticperineuritis,andadministeredpulsedcorticosteroidtherapy.Thesteroidsweretaperedoffincombinationwithimmunosuppressantdrugs.Posteriorscleritiswithopticperineuritisshouldberegardedasamanifestationofidiopathicorbitalinflammatorysyndromes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):671.674,2010〕Keywords:後部強膜炎,視神経周囲炎,特発性眼窩炎症.posteriorscleritis,opticperineuritis,idiopathicorbitalinflammatorysyndromes.672あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(100)膜炎と視神経周囲炎の合併例を報告した3)が,今回筆者らは両者を合併した若年者の1症例を経験したので報告する.I症例患者:16歳,男性.初診:2008年5月10日.主訴:眼痛,視野異常.現病歴:平成20年4月中旬に発熱,咽頭痛出現.4月下旬頃より両眼球運動痛,上眼瞼腫脹,複視を自覚し近医受診.上記症状に加え,右眼下転障害,採血で炎症反応を認めたため,眼窩内炎症を考え非ステロイド系抗炎症薬,抗生物質内服投与された.眼瞼腫脹・複視は改善するも,眼痛が軽減せず,さらに前房内炎症・視神経乳頭腫脹が出現し,傍中心暗点も認めたため当院紹介受診となった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.15(1.2×sph.2.25D),左眼0.1(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx180°),眼圧は右眼15mmHg,左眼14mmHgであった.中心フリッカー値(CFF)は左右とも48Hzであった.眼位は正位,眼球運動は異常なく,前医でみられた下転障害は改善していた.瞳孔は正円,左右同大,RAPD(相対性求心路瞳孔異常)(.)であった.両眼に微細な角膜後面沈着物,両眼前房内に2+.3+の炎症細胞,両眼耳側強膜充血がみられた.眼底は両眼とも視神経乳頭の発赤・腫脹,両眼黄斑部の網脈絡膜皺襞を認めた(図1).蛍光眼底造影(FA)では両眼視神経乳頭からの蛍光漏出と右眼耳側網膜血管からの漏出がみられた(図2).視野検査では両眼Mariotte盲点の拡大と左眼の傍中心暗点が検出された(図3).造影MRIでは両眼とも眼球後壁から視神経にかけての肥厚と造影剤による増強効果を認めた(図4).血液検査では血沈が軽度亢進(14mm/h)していたが,抗核抗体などは陰性であった.甲状腺機能は遊離サイロキシンFT3,FT4は正常であったが,TSH(甲状腺刺激ホルモン)が0.17と低下していた.抗サイログロブリン抗体は正常であった.経過:眼痛,視神経乳頭浮腫,網脈絡膜皺襞,MRIで眼球後壁の肥厚がみられたことから後部強膜炎,視神経乳頭浮腫と視野検査でMariotte盲点の拡大,MRIで視神経周囲の増強効果を示したことから視神経周囲炎と診断した.FAで視神経乳頭からの蛍光漏出を認め,視神経炎も鑑別として考えたが,視力低下がみられないこと,CFFの低下がみられ図1初診時眼底写真両眼の視神経乳頭の発赤・腫脹,両眼黄斑部の網脈絡膜皺襞を認めた.図2初診時蛍光眼底造影写真a:右眼耳側網膜血管からの漏出,b:両眼視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.ab(101)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010673ないこと,MRI所見では視神経実質の炎症というより視神経周囲に炎症がみられたことから視神経炎より視神経周囲炎と考え,後部強膜炎と視神経周囲炎の合併例として治療を開始した.治療は16歳という年齢を考慮して,当初メチルプレドニゾロン500mgのセミパルス療法を5日間,後療法としてメチルプレドニゾロン125mgの点滴を2日間施行したが消炎が不十分であった.ついで,メチルプレドニゾロン1,000mgのパルス療法を3日間行い,以後プレドニゾロン30mgとし漸減していった.両疾患とも再発が多いことからこのときよりアザチオプリン50mgも併用した.前房内炎症・網脈絡膜皺襞も軽減し,視神経乳頭腫脹は軽減した.アザチオプリンを100mgに増量し,プレドニゾロン漸減を計画し,治療開始後18週目にプレドニゾロン15mgに減量したところで炎症が再燃した.このため,プレドニゾロンを30mgに再増量し,免疫抑制薬もシクロスポリン35mgに変更した.その後治療開始26週目に炎症が再燃したが,シクロスポリンを75mgに増量し現在活動性は,ほぼ消失している(図5).CFFは経過中低下はみられなかった.II考按後部強膜炎と視神経周囲炎を合併した過去の報告を調べると,林ら3)は4例報告している.発症年齢は40.50歳代と視神経炎の好発年齢より高齢で,眼痛や頭痛が4例中3例に認められた.視力低下は軽度であったが全例にRAPDが陽図3初診時Goldmann視野検査両眼Mariotte盲点の拡大と左眼の傍中心暗点を認めた.LR図5治療経過プレドニゾロン換算量(mg/日)(週数)炎症再燃101506251,250302010203040炎症再燃アザチオプリン50mg100mgシクロスポリン35mg50mg75mg図4造影MRI両眼とも球後軟部組織の炎症性浮腫(黒矢印)と視神経鞘に炎症所見(白矢印)を認めた.674あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(102)性で,視神経萎縮が進んでいた1例以外は乳頭浮腫を伴っていた.視野はMariotte盲点拡大または弓状暗点を呈していた.副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)が著効するが,いずれも再発性であった.4例とも視力低下は後部強膜炎とほぼ同時期に認められたが,強膜の炎症が視神経鞘に波及し,視神経周囲炎を合併したために視力低下をきたした.後部強膜炎または視神経周囲炎は広義の眼窩炎性偽腫瘍の一型と考えるべきで,眼窩内外組織の検索と経過観察が望まれるとしている.Ohtsukaら4)は合併例1例を報告している.40歳の女性で,左眼痛,視力低下を主訴に受診した.左眼の視神経乳頭は腫脹し,発赤・線状出血があった.左眼は散瞳しており,0.125%ピロカルピンに過敏性があった.MRIT2強調画像で視神経鞘に隣接した後部強膜は高信号で,造影後脂肪抑制MRIT1で後部強膜と視神経鞘の周囲に造影効果を示した.解剖学的に強膜と視神経鞘とは連続性があり,これらの関係を示すのに造影後脂肪抑制MRIが有用であったとしている.特発性眼窩炎症は眼窩内のさまざまな場所にできる原因不明の非肉芽腫性炎症で,小児を含むあらゆる年齢に発症する.従来眼窩炎性偽腫瘍とよばれていたが,そのうち,解明されてきたリンパ増殖性疾患などを除いたものを,英文文献では「idiopathicorbitalinflammation」と記している.症状は病変の部位によって決まり,典型的な症例では急性の経過を示し,疼痛,眼瞼腫脹,眼球突出,結膜充血,結膜浮腫,眼球運動障害,複視,視力低下,眼瞼下垂などの症状が突然出現する.病変の主座により強膜炎型,外眼筋炎型,涙腺炎型,視神経周囲炎型,びまん型に分類されるが,ときに複数の型にまたがって病変が多重することがあったり,両側の眼窩に病変が生じることもあるといわれている5,6).今回の筆者らの症例も単一の疾患では説明できず,MRIの結果からも特発性眼窩炎症の強膜炎型と視神経周囲炎型の重複したものと考えた.後部強膜炎と視神経周囲炎を合併した過去の報告で,若年者の症例はない.後部強膜炎は若年者で少数例の報告がある7,8)が,確定診断のため超音波Bモード検査やCTが施行されてはいるものの,眼窩MRIを施行された症例は少ないため,視神経病変の検討は不十分であった可能性がある.強膜肥厚はCTで描出可能であるが,視神経鞘や眼窩内脂肪組織の炎症を捉えるには脂肪抑制MRIが適しているため,今後は可能であればMRIを施行し眼窩内外の検索を行う必要があると考えた.治療の第一選択はステロイドの大量点滴で,多くの場合数日のうちに改善を認める.減量中再燃をきたした場合免疫抑制薬を併用したり,放射線を使用する.今回の症例では治療にステロイドと免疫抑制薬のアザチオプリン,シクロスポリンを併用したが,Swamyら9)は24名の特発性眼窩炎症の患者の治療で19名にステロイドの内服を,1名にステロイドの点滴を,7名に免疫抑制薬としてメトトレキセート,アザチオプリン,シクロスポリン,ミコフェノール酸などを併用したとしている.経過観察期間中42%の患者が再発し,29%は2剤以上の薬剤で寛解を維持できたとしている.この論文では免疫抑制薬使用者の詳しい記載はなく,どの薬剤を選択するかの基準もないとしている.Smithら10)は14名の特発性眼窩炎症の患者の治療でステロイドの補助療法としてメトトレキセートを使用し約90%の患者に効果があり,併用が必要であった患者の2/3の症例はメトトレキセートを中止することができたと報告している.当院でも再発性眼窩炎性疾患にアザチオプリン,シクロスポリン,メトトレキセート,エンドキサンを用いているが,その反応性は症例により異なり,どれが優位とはいえない.本例ではシクロスポリンの効果があるようにみえたが,どの症例にも共通して奏効するとは結論できないと考える.文献1)McCluskeyPJ,WatsonPG,LightmanSetal:Posteriorscleritis:clinicalfeatures,systemicassociations,andoutcomeinalargeseriesofpatients.Ophthalmology106:2380-2386,19992)PurvinV,KawasakiA,JacobsonDM:Opticperineuritis:clinicalandradiographicfeatures.ArchOphthalmol119:1299-1306,20013)林恵子,藤江和貴,善本三和子ほか:後部強膜炎に合併したと考えられた視神経周囲炎の4例.臨眼60:279-284,20064)OhtsukaK,HashimotoM,MiuraMetal:Posteriorscleritiswithopticperineuritisandinternalophthalmoplegia.BrJOphthalmol81:514,19975)KennerdellJS,DresnerSC:Thenonspecificorbitalinflammatorysyndromes.SurvOphthalmol29:93-103,19846)RootmanJ,NugentR:Theclassificationandmanagementofacuteorbitalpseudotumors.Ophthalmology89:1040-1048,19827)有馬由里子,河原澄枝,松岡雅人ほか:著明な乳頭浮腫を伴った小児の強膜炎.眼紀55:465-470,20048)柴田邦子,竹田宗泰:片眼の漿液性網膜.離を呈した小児の後部強膜炎の1例.眼紀45:189-192,19949)SwamyBN,McCluskyP,NemetAetal:Idiopathicorbitalinflammatorysyndrome:Clinicalfeaturesandtreatmentoutcomes.BrJOphthalmol91:1667-1670,200710)SmithJR,RosenbaumJT:Aroleformethotrexateinthemanagementofnon-infectiousorbitalinflammatorydisease.BrJOphthalmol85:1220-1224,2001***