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角膜サイドポートからの鑷子を用いた周辺虹彩切除の試み

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(101)6810910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):681684,2009cはじめに周辺虹彩切除術は1857年のVonGraefeによる報告に始まり1),閉塞隅角緑内障に対して確立されてきた重要な術式である.しかしレーザー虹彩切開術の広がりとともに施行される機会は減少し,いざ必要となった際には経験のない術者には心理的な負担を伴う.また基本的に結膜や強角膜切開を行うため2),将来濾過手術が必要となった場合に障害となる可能性がある.欧米では以前から結膜切開を行わず角膜切開創から鑷子を用いて行う周辺虹彩切除の報告3,4)があり,わが国では角膜から硝子体カッターを挿入して行った報告4)はあるが,鑷子によるものは見受けられない.そこで筆者らは角膜サイドポートよりイリデクトミー鑷子を用いて周辺虹彩切除を行ったので,その2症例を報告する.I症例〔症例1〕50歳,女性.主訴:緑内障精査加療希望.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:幼少時より両眼の視力低下があり,6歳時で0.4程度であった.平成8年から近医眼科で両眼滴状角膜,視神経萎縮,高眼圧症の診断で点眼加療されるも徐々に眼圧が20mmHgを超えるようになり,2007年10月31日に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.2(0.4×+1.25D(cyl1.50DAx45°),左眼0.2(0.3×+0.75D(cyl+1.25DAx50°)で,眼圧は眼圧下降点眼を用いず3%食塩水点眼使用して右眼21mmHg,左眼20mmHgであった.両眼ともに角膜は中央に軽度な実質の浮腫と混濁を認め,前房は浅く隅角は〔別刷請求先〕河原純一:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:JunichiKawahara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN角膜サイドポートからの鑷子を用いた周辺虹彩切除の試み河原純一杉本洋輔望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学PeripheralIridectomyUsingTranscornealIridectomyForcepsJunichiKawahara,YosukeSugimoto,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity周辺虹彩切除はわが国では一般に結膜,強角膜切開で行われるが,今回角膜サイドポートからイリデクトミー鑷子を用いて周辺虹彩切除術を行ったので報告する.症例1は50歳,女性で,閉塞隅角緑内障に滴状角膜を合併しており,角膜から周辺虹彩切除を単独で行った.症例2は60歳,男性で,色素緑内障があり,線維柱帯切開術に周辺虹彩切除を組み合わせた.両症例とも十分な大きさの虹彩切除が作製され,合併症は認めなかった.本術式は手技が比較的容易で習得しやすく,結膜が温存できる,他の術式と組み合わせやすいといった利点があると考えられた.InJapan,peripheraliridectomygenerallyrequiresconjunctivalandsclerocornealincision.Weherereporttwocasesofperipheraliridectomyusingtranscornealiridectomyforceps.Incase1,a50-year-oldfemalewhohadangle-closureglaucomaandcornealguttata,weperformedonlytranscornealperipheraliridectomy.Incase2,a60-year-oldmalewhohadpigmentaryglaucoma,wecombinedtrabeculotomyandperipheraliridectomy.Bothcas-eshadsucientlysizediridectomycolobomas,andnocomplications.Thistechniquecanbeacquiredrelativelyeas-ilyandoferstheadvantagesofconjunctivalpreservationandeasycombinationwithothermethods.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):681684,2009〕Keywords:周辺虹彩切除,角膜サイドポート,イリデクトミー鑷子.peripheraliridectomy,transcorneal,iridec-tomyforceps.———————————————————————-Page2682あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(102)Shafer分類2度,Scheie分類III度であった.周辺虹彩前癒着は存在せず,水晶体はわずかに前皮質混濁を認めた.非接触型スペキュラーマイクロスコープでは,角膜内皮細胞は個々の同定ができないほどに減少しており,光学的な角膜厚測定はできなかった.眼底の透見は角膜混濁のため不良で,視神経乳頭は耳側が蒼白でC/D(cup/disc)比は0.7であった.Goldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIb,左眼IIaであり,Humphrey視野検査は中心30-2プログラムで両眼とも全体的な感度低下を認めた.以上より両眼の滴状角膜,閉塞隅角緑内障と診断し,角膜内皮細胞が減少したことによる角膜の混濁,浮腫が視力低下の原因と考えた.経過:閉塞隅角緑内障への対策として両眼ともに周辺虹彩切除を選択することにした.手術はTenon下麻酔の後に11時の角膜輪部に20ゲージサイドポートを作製し(図1a)粘弾性物質を注入して前房を確保した.つぎに,サイドポートよりアリオ氏イリデクトミー鑷子(アシコ社)を挿入して(図1b)虹彩を掴み出し鑷子で切除した(図1c).虹彩を整復し(図1d),粘弾性物質を除去して終了した.術後は十分な大きさの虹彩切除が形成され,結膜は切開されていないため無侵襲で保存された(図2).術後炎症は軽度で0.1%フルオロメトロン点眼のみで速やかに消炎され,術後眼圧は両眼とも眼圧下降点眼を用いず1819mmHgであった.術後8カ月の時点で,虹彩切除創は閉塞せず経過していた.〔症例2〕60歳,男性.主訴:緑内障精査加療希望.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:平成13年から近医で緑内障の診断で点眼加療されてきたが,徐々に眼圧が上昇するために,2008年3月5図1術中写真(症例1)a:20ゲージサイドポートを作製.b:アリオ氏イリデクトミー鑷子で虹彩を把持.c:引き出した虹彩を切除.d:虹彩を整復.図2術後前眼部写真(症例1)a:右眼,b:左眼.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009683(103)日に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.1(1.2×3.00D),左眼0.1(1.2×2.50D(cyl1.50DAx90°)で,眼圧はラタノプロスト,0.5%チモロール,0.1%ジピベフリン点眼使用して右眼23mmHg,左眼18mmHgであった.両眼ともに角膜後面には紡錘形ではないが多くの色素が付着し,前房は深く隅角はShafer分類4度,Scheie分類0度で高度の色素沈着を認めた.水晶体はわずかに前皮質の混濁を認めた.超音波生体顕微鏡(UBM)では虹彩が後方に屈曲しreversepupillaryblockが観察された(図3).虹彩のtransilluminationdefectはみられなかった.視神経乳頭のC/D比は右眼0.7,左眼0.6で,Goldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIIa,左眼Ia,Humphrey視野検査は中心30-2プログラムで右眼にBjer-rum領域の感度低下があり,左眼は正常範囲内であった.以上の所見を総合して両眼の色素緑内障と診断した.経過:眼圧が高く視野障害も進行していた右眼に対して,線維柱帯切開術と周辺虹彩切除を行うこととした.手術はまず外下方より通常の線維柱帯切開術を行い,その後に症例1と同様に11時の角膜に20ゲージサイドポートを作製し,アリオ氏イリデクトミー鑷子で虹彩を掴み出し切除した.その際に虹彩前葉は切除されたが後葉が残ったため,後葉のみ鑷子で掴み出して除去した.今回,粘弾性物質は使用しなかった.術後は後葉が一部残存していたが十分な周辺虹彩切除となっていた(図4).術後のUBMでは後方に屈曲していた虹彩形状が平坦化し(図5),前後房の圧格差が改善しているようであった.術後4カ月後の時点で右眼眼圧は眼圧下降点眼を用いず20mmHgとなっており,虹彩切除部の閉塞はなかった.II考按閉塞隅角緑内障の治療としてレーザー虹彩切開が広く行われるようになり,周辺虹彩切除術を行う機会は減少した.さらに白内障手術が小切開の超音波水晶体乳化吸引術に進化して,白内障手術時にも周辺虹彩切除は行われなくなった.周辺虹彩切除術は眼科医として習得すべき基本の術式の一つと認識されるものの,強角膜輪部に垂直に切り込む機会がほとんどないために,その施行をためらい,ときには忌避されることがある.一方,透明角膜にサイドポートを作製することは小切開白内障手術のときに常時行っている慣れた操作である.そこで多くの術者にとって手慣れた切開層から周辺虹彩切除を行うことができないか,その有用性と新たな手技に伴う前眼部組織の挙動を検討してみた.症例1は両眼の滴状角膜を伴う閉塞隅角緑内障であった.閉塞隅角緑内障の管理として白内障手術,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術をそれぞれ検討したが,滴状角膜で高度の角膜内皮障害があるため白内障手術とレーザー虹彩切開術は角膜内皮への影響6)が避けられず将来の内皮障害進行が危惧されたため,周辺虹彩切除を行った.症例2では色素緑内障に対してレーザー虹彩切開術は有効である7)との報告がある一方,それのみでは長期間の眼圧コントロールは困難であ図3術前UBM(症例2)虹彩が後方に屈曲しreversepupillaryblockが観察された.図5術後UBM(症例2)虹彩形状が平坦化している.図4術後前眼部写真(症例2)一部に虹彩後葉が残っているが,十分な切除が行われている.———————————————————————-Page4684あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(104)る8)との報告があるため,眼圧下降とreversepupillaryblockの両者の改善を狙って線維柱帯切開術と周辺虹彩切除を組み合わせて行った.術後は両症例とも十分な大きさの虹彩切除となり,機能的に満足のできるものであると考えた.本術式は角膜サイドポートから行うことにより新たな結膜や強膜の切開が不要となるため,将来の濾過手術に備えて術野を保存することができ,異なった手術と組み合わせる場合でも有効である.また角膜サイドポートを通した手技は白内障手術時に多くの術者が経験しており,新たな技術習得を要せず比較的簡便に行えるというのも,術者の負担を減少させる大きな利点である.今回はアリオ氏イリデクトミー鑷子を用いたが,一般的に使用されている前切開鑷子のように角膜サイドポートから挿入できる器具であれば,虹彩の把持は可能で代用できると考える.注意点としては,把持できる虹彩幅が小さいために一度に虹彩全層を切除することはむずかしく,後葉が残った際には鑷子で確実に除去しておくことがあげられる.前葉が切除されていれば,残った後葉は鑷子で容易にがし取ることができるため,小切開からでも確実な全層切除が行える.切除がなされているかどうかは,徹照させて確認することが望ましい.またサイドポートを作製する際に,角膜内の走行が長くなると輪部近くの虹彩が把持できず瞳孔中央に近い切除になってしまう.虹彩切除術は文字通り虹彩周辺部で行われるべき術式であり,なるべく短い角膜創で前房に到達する必要がある.粘弾性物質に関しては症例1では初めての症例ということもあり使用した.術中の操作は容易であったが,前房に残った粘弾性物質を除去する際に前房が不安定になり,かえって角膜内皮の損傷が危惧された.そのため症例2では粘弾性物質を使用しなかったが,前房保持が不安定になることはなかった.むしろ粘弾性物質を使用しないほうが,虹彩が創に嵌頓しやすく,虹彩切除が容易になった.症例1は浅前房で症例2は十分な前房深度があるという違いがあり,粘弾性物質の使用に関しては個々の症例で検討されるべきである.また今回は本来最も周辺虹彩切除術の適応になる急性緑内障発作眼に試みることができなかったため,その適応につき今後の検討課題としたい.角膜サイドポートから鑷子を用いて行う周辺虹彩切除術は,手技が比較的容易で合併症がなく有効な方法であった.今後,急性緑内障発作眼でも適応の可否を検討していくとともに,輪部切開による周辺虹彩切除とそれぞれの優劣を比較検討する予定である.文献1)VonGraefeA:UeberdieIridectomiebeiGlaucomundueberdenglaucomatosenProcess.ArchOphthalmol3:456-555,18572)黒田真一郎:緑内障手術手技周辺虹彩切除術.臨眼58:1140-1144,20043)AhmadN:Transcornealperipheraliridectomy.Ophthal-micSurg11:124-127,19804)HoferKJ:Pigmentvacuumiridectomyforphakicrefrac-tivelensimplantation.JCataractRefractSurg27:1166-1168,20015)岩脇卓司,山城健児,野中淳之ほか:偽水晶体眼に対する硝子体カッターによる周辺虹彩切除.眼科手術19:109-112,20066)松永卓二,阿部達也,笹川智幸ほか:アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の検討.眼紀52:1011-1015,20017)KarickhofJR:Pigmentarydispersionsyndromeandpig-mentaryglaucoma:anewmechanismconcept,anewtreatment,andanewtechnique.OphthalmicSurg23:269-277,19928)ReistadCE,ShieldsMB,CampbellDGetal:Theinu-enceofperipheraliridotomyontheintraocularpressurecourseinpatientswithpigmentaryglaucoma.JGlaucoma14:255-259,2005***