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マルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(93)930910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):9399,2009cはじめにマルチパーパスソリューション(MPS)は,消毒,洗浄,すすぎ,保存を1本で行うことのできるソフトコンタクトレンズ用のレンズケア用品であり,簡便さを特徴としている.しかし,その一方で,MPS特有の角膜上皮障害(角膜ステイニング)1),アレルギー反応2)などの障害も報告されている.コンタクトレンズ(CL)使用者で発生する薬剤毒性による角膜ステイニングは,重篤な角膜障害のリスクファクターになりうるといわれており,それを生じた患者は,生じていない患者と比べ,角膜炎の発生率が3倍と報告されている3).つ〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院Reprintrequests:MotozumiItoi,M.D.,DougenzakaItoiEyeClinic,1-10-19-1FDougenzaka,Shibuya-ku,Tokyo150-0043,JAPANマルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評価糸井素純道玄坂糸井眼科医院CornealStainingwithCombinationsofMultipurposeSolutionsandSiliconeHydrogelContactLensesMotozumiItoiDougenzakaItoiEyeClinic目的:3種のマルチパーパスソリューション(MPS)と4種のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)との組み合わせを,実際の装用サイクルで1週間使用したときに発生する角膜ステイニングの程度を評価した.方法:試験MPSに塩化ポリドロニウムを含むMPS1種(MPS-1)と塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を含むMPS2種(MPS-2およびMPS-3)を,試験レンズに4種のSHCLを使用した.対象者は,3種のMPSを1週間ずつランダムに使用した.角膜ステイニングは使用8日目の装用2時間後に観察し,病変の範囲と密度を0(なし)3(重度)にそれぞれスコア化し,2つのスコアを掛け合わせた総スコアを角膜ステイニングのスコアとした.結果:いずれのSHCLとの組み合わせにおいても,角膜ステイニングの程度は,MPS-3が他の2種のMPSより有意に高く,MPS-1とMPS-2で有意な差はなかった.結論:実際の装用サイクルにおいてもMPSとSHCLの組み合わせにより角膜ステイニングが発生した.その程度は,組み合わせにより異なった.Thepurposeofthisstudywastoevaluatecornealstainingwithcombinationsof3multipurposesolutions(MPS)and4siliconehydrogelcontactlenses(SHCL),wornfor1week.Usedwiththe4SHCLwere1polyquad(polyquaternium-1)-basedMPS(MPS-1)and2PHMB(polyhexamethylenebiguanide)-basedMPS(MPS-2,MPS-3).Thesubjectsusedthe3MPSwiththe4SHCLfor1week.Cornealstaining,asgradedbyRangeandDensityfromNone(0)toSevere(3),wasobservedat2hoursafterinstillationatday8afterstartingtolenswear.ThetotalscoreforthecornealstainingwascalculatedbymultiplyingoftheRangeandDensityscores.ThetotalscoreforcornealstainingwithMPS-3wassignicantlyhigherthanthetotalscoresfortheother2MPS.TherewerenosignicantdierencesbetweenMPS-1andMPS-2.ThelevelofcornealstainingdependedonthecombinationofMPSandSHCL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):9399,2009〕Keywords:多目的用剤,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角膜ステイニング.multipurposesolution,siliconehydrogelcontactlens,cornealstaining.———————————————————————-Page294あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(94)まり,MPSによる角膜上皮障害は,重篤な角膜障害のリスクファクターとなりうるため,臨床上,注意をはらう必要がある.MPSによる角膜ステイニングは,MPSに含まれる消毒成分が原因と考えられている.現在,MPSに配合されている消毒成分は,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)もしくは塩化ポリドロニウムのいずれかであるが,PHMBを消毒成分として含むMPSのほうが,角膜ステイニングの発生リスクが高いと報告されている4,5).MPSによる角膜ステイニングはCLとの組み合わせによって,その程度が異なるため6),それぞれの組み合わせについて,その発生状況を確認する必要がある.この角膜ステイニングが,CL装用14時間後に最も程度が高くなり,その後は回復する挙動を示す7)ことから,MPSとCLのそれぞれの組み合わせについて装用2時間後の角膜ステイニングを観察し,臨床上のリスクを評価する研究が行われてきた6,8).この研究では,短期間のうちに,多くのMPSとCLの組み合わせにおける臨床上の角膜ステイニングの発生リスクを予測することが可能だが,実際の使用では,CLに付着した蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れやCLの劣化も角膜に影響を与えると考える.したがって,MPSとCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングの臨床上のリスクを評価する場合,これまでの短時間装用試験の結果に加え,実際の装用サイクルに基づいた試験系での評価が望まれる.そこで本試験では,実際の装用サイクルに基づいて,MPSとシリコーンハイドロゲルCL(SHCL)の組み合わせによる角膜ステイニングを評価するため,3種のMPSと4種のSHCLを使用し,それぞれの組み合わせにおける使用8日目の装用2時間後に角膜ステイニングの程度を評価した.I対象および方法1.試験MPS試験MPSは,オプティフリーRプラス〔MPS-1,日本アルコン(株)社製〕,エピカコールド〔MPS-2,(株)メニコン社製〕およびレニューRマルチプラス〔MPS-2,ボシュロムジャパン(株)社製〕を使用した.消毒成分として,MPS-1は塩化ポリドロニウムを,MPS-2およびMPS-3はPHMBを含む.これらの成分を表1に示す.2.試験レンズ試験レンズは,アキュビューRアドバンスR〔CL-1,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製〕,アキュビューRオアシスTM〔CL-2,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製〕,O2オプティクス〔CL-3,チバビジョン(株)社製〕および2ウィークプレミオ〔CL-4,(株)メニコン社製〕の4種のSHCLを使用した.これらの物性値を表2に示す.表1試験マルチパーパスソリューション(MPS)の成分MPS-1MPS-2MPS-3メーカー日本アルコン(株)(株)メニコンボシュロムジャパン(株)消毒成分塩化ポリドロニウム(0.0011%)PHMB(0.0001%)PHMB(0.00011%)洗浄成分クエン酸テトロニックPOE硬化ヒマシ油*1グリコール酸AMPD*2ポロキサミンハイドラネート*1POE硬化ヒマシ油:植物原料の界面活性剤,*2AMPD:アミノメチルプロパンジオール.表2試験シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)の物性値CL-1CL-2CL-3CL-4メーカージョンソン・エンド・ジョンソン(株)ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)チバビジョン(株)(株)メニコンUSAN*1galylconAsenolconAlotralconAasmolconA酸素透過係数(Dk)*260103140129酸素透過率(Dk/L)*386147175161含水率(%)47382440FDA分類*4I*5III*1USAN:米国一般名(UnitedStatesAdopotedNames).*2酸素透過係数:×1011(cm2/sec)・(mlO2/(ml×mmHg)).*3酸素透過率:×109(cm/sec)・(mlO2/(ml×mmHg)).*4FDA分類:米国食品医薬品局(FDA;FoodandDrugAdministration)によるソフトコンタクトレンズの分類.*5FDA分類グループI:非イオン性,低含水性のソフトコンタクトレンズ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200995(95)3.対象対象者は,試験前にインフォームド・コンセントにより同意を得たボランティア30名で,いずれも屈折異常以外に眼疾患を有さないハイドロゲルCL装用者であった.対象者は無作為に15名ずつ4群に分けた.第1群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は35.3±7.2歳(平均±標準偏差,範囲:2444歳),第2群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は35.3±7.2歳(平均±標準偏差,範囲:2444歳),第3群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は36.5±7.6歳(平均±標準偏差,範囲:2248歳),第4群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は36.5±7.6歳(平均±標準偏差,範囲:2248歳)であった.4群間の年齢に有意差はなかった(p>0.05,Steel-Dwass検定).4.方法a.試験レンズ装用各対象者に適切な度数の試験レンズを選択し,第1群はCL-1,第2群はCL-2,第3群はCL-3,第4群はCL-4をそれぞれランダムに終日装用した.また,4群とも,3種のMPSをランダムに1週間ずつ使用させた.なお,MPSの種類を切り替える際は,1週間以上のウォッシュアウト期間(MPSを使用しない期間)を設け,その期間は1日使い捨てCLもしくは眼鏡を装用するよう指示した.b.角膜ステイニングのスコア化MPSの薬剤毒性による角膜ステイニングは深度が浅く,点状のステイニングの形態をとる.この角膜ステイニングの程度を独自な方法でスコア化して評価した.まず角膜ステイニングを,病変部位の範囲と密度について,それぞれ4段階にスコア化した.範囲については,角膜ステイニングのないものを“0”,染色のある範囲が角膜の125%のものを“1”,2650%のものを“2”,51%以上のものを“3”とした(図1).密度については,角膜ステイニングのないものを“0”,密度が低いものを“1”,中等度のものを“2”,高いものを“3”とした(図1).最終的に範囲のスコアと密度のスコアを掛け合わせた総スコアを角膜ステイニングの程度のスコアとした.c.角膜ステイニングの評価方法MPSとSHCLのそれぞれの組み合わせについて,使用8日目の角膜ステイニングの程度を前述した方法で同一人物が評価した.角膜の観察は,装用2時間後に行った.角膜を観範囲0(0%)密度0範囲1(125%)範囲2(2650%)密度1密度2範囲3(51%)密度3図1角膜ステイニングのスコア1)範囲(上段) 角膜ステイニングなし:スコア0,障害範囲が角膜の125%:スコア1,障害範囲が角膜の2650%:スコア2,障害範囲が角膜の51%以上:スコア3.2)密度(下段) 角膜ステイニングなし:スコア0,障害密度が低い:スコア1,障害密度が中等度:スコア2,障害密度が高い:スコア3.———————————————————————-Page496あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(96)察する際は,CLをはずし,フルオレセインで染色し,イエローフィルターを挿入した細隙灯顕微鏡を使用した.CLのとりはずしは同一人物が実施した.また,角膜ステイニングを評価する際は,MPSとSHCLの種類を評価者には知らせないobserver-maskの方法で実施した.d.統計処理各MPS間で角膜ステイニングの程度の差が生じるか否かをSteel-Dwass検定を用いて,統計学的に解析した.さらに,各SHCL間で角膜ステイニングの程度に差が生じるか否かについても,同様の統計手法で解析した.II結果MPS-3(PHMB含有MPS)は,4種のSHCLとのすべての組み合わせにおいて,MPS-1(塩化ポリドロニウム含有MPS)およびMPS-2(PHMB含有MPS)より,角膜ステイニングのスコアが有意に高かった(Steel-Dwass検定,MPS-1vs.MPS-3:CL-1:p=0.021,CL-2:p=0.0053,CL-3:p=0.00198,CL-4:p=0.00022;MPS-2vs.MPS-3:CL-1:p=0.035,CL-2:p=0.0041,CL-3:p=0.0042,CL-4:p=0.0066,表3,図2).MPS-1とMPS-2の間で図3MPS1(塩化ポリドロニウムを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜点状の染色はごくわずかであった.(総スコア1:範囲スコア1,密度スコア1)図4MPS2(PHMBを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜点状の染色はごくわずかであった.(総スコア1:範囲スコア1,密度スコア1)図5MPS3(PHMBを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜角膜の全面に点状の染色があった.(総スコア6:範囲スコア3,密度スコア2)CL-1CL-2CL-3CL-4100806040200(%)CL-1CL-2CL-3CL-4CL-1CL-2CL-3CL-4MPS-1MPS-2MPS-3:9点:6点:4点:3点:2点:1点:0点***************p0.05,**p0.01,Steel-Dwass検定(n15)図2角膜ステイニングの総スコアの結果表3角膜ステイニングの総スコアの平均値CL-1CL-2CL-3CL-4MPS-11.1±1.51.2±0.61.2±0.61.1±0.7MPS-21.1±0.81.1±1.01.5±1.51.9±1.3MPS-33.1±2.33.1±2.04.5±2.44.7±2.4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200997(97)は,4種のSHCLとのいずれの組み合わせにおいても,角膜ステイニングの程度に有意な差はなかった(表3,図2).また,同一のMPSと組み合わせた場合,SHCL種類の違いによる角膜ステイニングの程度に差はなかった.CL-1と3種のMPSとのそれぞれの組み合わせで観察された角膜ステイニングの代表例を示す.これらは,同一対象眼のものだが,MPS-1およびMPS-2では角膜ステイニングはごくわずか[MPS-1:総スコア1(図3),MPS-2:総スコア1(図4)]だが,MPS-3では,角膜の全面に密度の高い点状のステイニングが観察された(総スコア6,図5).III考察本試験の結果,実際に1週間の装用サイクルで使用した場合でも,角膜ステイニングが発生することがわかった.過去の報告と同様に,角膜ステイニングの程度はMPSとSHCLの組み合わせにより差があった.ただし,同じ組み合わせでも,角膜上皮障害の発生程度には個人差があった.たとえば,角膜ステイニングの発生の多かったMPS-3とCL-4を例に取ると,軽度な症例はごくわずかなステイニング(総スコア1)で臨床上問題はなかったが,重度な症例では角膜の全面に密度の高い点状のステイニング(総スコア9)が観察され,その組み合わせを継続して使用することは問題と思われるレベルであった.つまり,MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングは,それらの相性も重要であるが,個人の眼の状態(角膜の健常性,涙液状態など)も関与することが示唆された.MPSで発生する角膜ステイニングは,それに含まれる消毒成分が原因と考えられており,そのリスクは塩化ポリドロニウムよりPHMBのほうが高いと報告されていた4,5)が,今回の結果では,消毒成分としてほぼ同濃度のPHMBを含むMPS間でも角膜ステイニングの程度に有意な差があった.PHMBを消毒成分として含むMPSのうち,MPS-2に関しては,角膜ステイニングの程度が塩化ポリドロニウムを消毒成分として含むMPS-1と差がなかった.つまり,PHMBの存在のみが角膜ステイニングの発生に関係しているのではなく,MPSに含まれるすべての成分(消毒剤,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤など)のバランスが関係することが示唆された.消毒効果の高いMPSは細胞毒性が高くなる,つまり角膜などへの影響が強くなる可能性が懸念されていた9)が,角膜ステイニングの程度に有意な差があったMPS-2とMPS-3に関しては,消毒効果には大きな差がないことが報告されている10).つまり,角膜ステイニングの発生するリスクは,必ずしもMPSの消毒効果とは関係がないと考えられた.今回の結果と,過去に筆者らが実施した短時間装用試験の結果を比較すると,CL-2(アキュビューRオアシスTM)とCL-3(O2オプティクス)に関しては,ともにMPS-1とMPS-2の角膜ステイニングの程度に有意な差はなく,MPS-3はこれら2種類のMPSと比べ,その程度が有意に高かった6).つまり,CL-2とCL-3については,短時間装用試験と実際の装用サイクルでの結果の傾向が一致しており,短時間装用試験で得られる結果で,実際の使用における角膜ステイニングのリスクをある程度,評価できることがわかった.ただし,CL-1(アキュビューRアドバンスR)については,PHMBを含むMPSとの組み合わせにおいて,本試験の角膜ステイニングの総スコアの程度が,短時間装用試験の結果11)よりも有意に軽度であった(MPS-2:p<0.0001,MPS-3:p=0.0008,Mann-WhitneyのU検定,図6).つまり,SHCLの種類によって,短時間装用試験の結果と今回の結果が一致するものと差が生じるものがあるということがわかった.これまでに実施した短時間装用試験では新品のCLを使用しており,そこには蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れは付着していない.しかし,実際の使用においては,適切に洗浄を行っても,ある程度,汚れが残存し,CLに付着した汚れが角膜ステイニングに影響を与える可能性があるといわれている12).SHCLの種類によって蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れの付着性は異なると考えられ,それが新品のSHCLと1週間使用したSHCLとの間の差を招いたのではないかと推測される.ただし,どの成分が今回の差を招いたかは明らかではな**p0.01,Mann-Whitney検定(n15)(%)MPS-1MPS-2MPS-3新品のSHCLNS****1009080706050403020100:6,9点:2,3,4点:0,1点MPS-1MPS-2MPS-31週使用したSHCL図6CL1とMPSの組み合わせによる角膜ステイニングの1週間使用したSHCLと新品のSHCLの比較PHMBを含むMPS-2およびMPS-3において新品のSHCLの角膜ステイニングの程度が有意に高かった(新品のSHCLのデータは文献11より引用).———————————————————————-Page698あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(98)い.今回の実験系ではMPSとSHCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生の程度を判定した.角膜ステイニングはMPSの薬剤毒性によるものと考えられており,CLの種類によっては,実際の使用により,薬剤毒性が低下することが判明した.薬剤毒性が低下することは,眼組織にとって非常に良いことであるが,MPSの消毒効果が果たして維持されているのか疑問が残る.粘膜中に含まれるムチンが消毒効果を低下させるという報告があり13),涙液中のムチンがMPSの消毒効果に影響を与える可能性もある.多くのMPSの消毒効果試験は,実際の装用サイクルのレンズを使用していない.この点については,今後の検討課題である.MPSで発生する角膜ステイニングに関しては,装用14時間後に最も程度が高く,6時間後には軽減もしくは解消する性質をもつことから,臨床上問題となるか否かは議論の分かれるところであった.しかし,今回の結果から,実際の装用サイクルで1週間使用した場合でも角膜ステイニングが発生することが明らかになり,角膜ステイニングは,日々,発生と消失をくり返している可能性が示唆された.角膜が障害されたとき,角膜上皮バリア機能が低下しているという報告があり14),MPSによる角膜ステイニングであっても,角膜上皮のバリア機能が低下する可能性がある.正常眼であっても,その結膜に常在菌は存在しており15),角膜ステイニングにより,角膜上皮のバリア機能が低下した場合,角膜感染症のリスクは上がると考える.また,最近では,薬剤毒性による角膜ステイニングがある場合,角膜浸潤などの角膜炎の発生頻度が高くなるとの報告3)や,MPSそのものが角膜上皮バリア機能を低下させる可能性を示唆した報告16)もある.したがって,MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングについては,感染症や角膜炎のリスクも考慮し,今後も注意して観察すべきである.MPSで発生する角膜ステイニングは,“深度の浅い,点状のステイニング”という特有の形態をもって現れる.これらは,MPSとSHCLの組み合わせ,あるいは,個人差によって程度が異なるため,その都度,より適切な評価方法で,その程度を評価する必要がある.角膜ステイニングの評価方法で一般的な方法の一つであるCCLRU(CorneaandContactLensResearchUnit)GradingScale17)では,その形態(Type),深度(Depth),面積(Extent)についてそれぞれ分類し,評価している.しかし,MPSで発生する角膜上皮障害の多くは,形態は“点状(1:Micropunctate)”,深度は“1:角膜上皮の表層(1:Supercialepithelial)”に分類され,差が生じるのは面積(Extent)のみである.その点に特化してこれら角膜ステイニングを評価したのが,Andraskoらである.彼らは,10種のケア用品と9種のCL(3種のHyCLと6種のSHCL)の組み合わせで発生する角膜ステイニングを,形態(Type)と面積(Area)でそれぞれ評価したが,形態はすべて“点状(1:Micropunctate)”で差がなかったことから,最終的なリスク判定は角膜ステイニングの面積の結果のみで行っている18).角膜ステイニングの程度を評価するにあたっては,CCLRUGradingScaleにおいても,Andraskoらの研究においても,角膜を5つの領域(中央,上方,下方,耳側,鼻側)に分け,それぞれの領域における角膜の病変面積を算出している.CCLRUGradingScaleでは病変面積の程度をGrade分類し,5領域のGradeを合計して最終的な判定をしている18).また,Andraskoら18)の研究では5領域の病変面積の平均を算出している.研究レベルでは,このような詳細な分類および評価が可能であるが,一般の眼科診療において,個々の患者に対しこれほど詳細な評価を行うのは困難である.宮田らは,びまん性表層角膜炎の重症度を評価する簡便な方法として,障害をAreaとDensityに分け,それぞれを“障害なし(分類:0)”から“重度(分類:3)”の4段階に分けて評価するAD分類を提案している19).この方法は一般診療において,視診のみで角膜上皮障害の重症度を判定できる方法として有用である.しかし,AreaとDensityに分けて評価しているため,全体の重症度を数値で評価できないという問題があると考える.そこで,本試験では,一般の診療現場で簡便にMPSの薬剤毒性による角膜上皮障害を評価でき,かつ,その病変面積を数値で評価する方法として,病変部位の範囲(Range)と密度(Density)を掛け合わせる方法を考案し,MPSによる角膜ステイニングの程度を評価した.この方法を採用するにあたっては,事前にMPSによる角膜ステイニングが発生した300眼を対象に,本評価方法で評価した場合と,CCLRUGradingScaleで評価した場合とで相関が得られるか否かを確認した.その結果,これら2つの評価方法は高い相関(r=0.881)があり(図7),今回採用した病変の範囲(Range)と密度(Density)を掛け合わせ0123456789100510152025(n300)r0.881範囲(R)密度(D)CCLRUGradingScale(5領域の合計)図7角膜上皮障害〔範囲(Range)×密度(Density)〕とCCLRUGradingScaleの相関———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.1,200999(99)る方法は,MPSで発生した角膜ステイニングを評価するのに適切な方法であると判断した.MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングは,その評価方法も含め,臨床上どの程度問題となるかが今後も議論されると思われる.ただし,角膜ステイニングが短時間で消失するものであったとしても,一時的に角膜の健常性は損なわれ,感染症や角膜炎のリスクファクターとなりうると考える.MPSとCLの相性も重要であるが,同じ組み合わせを使用しても,個々で角膜ステイニングの発生程度は異なる.今後,MPSとCLを患者に選択する立場にある者は,それらの相性を十分に把握し,さらには角膜ステイニングの発生程度に個人差があることも理解したうえで,最終的には実際の使用のなかで角膜への影響を観察していくことが重要であると考える.文献1)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20012)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20003)CarntN,JalbertI,StrettonSetal:Solutiontoxicityinsoftcontactlensdailywearisassociatedwithcornealinammation.OptomVisSci84:309-315,20074)LebowKA,SchachetJL:Evaluationofcornealstainingandpatientpreferencewithuseofthreemulti-purposesolutionsandtwobrandsofsoftcontactlenses.EyeCon-tactLens29:213-220,20035)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbalalconsilicone-hydro-gelcontactlensesdisinfectedwithapolyminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.OptomVisSci79:753-761,20026)工藤昌之,糸井素純:O2オプティクスと各種ソフトコンタクトレンズ消毒剤との組み合わせによる安全性.あたらしい眼科24:513-519,20077)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20058)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20059)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,200710)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49:S13-S18,200711)糸井素純:シリコーンハイドロゲルレンズとケア製品の適合性.日コレ誌50(補遺):S11-S15,200812)丸山邦夫,横井則彦:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの組み合わせで発生しうる角膜上皮障害とその考察.あたらしい眼科24:449-450,200713)AnsorgR,RathPM,FabryW:Inhibitationoftheanti-staphylococcalactivityoftheantisepticpolihexanidebymucin.Arzneimittelforschung53:368-371,200314)横井則彦,清水章代,西田幸二ほか:新しいフルオロフォトメーターによる角膜上皮バリアー機能の定量的評価.あたらしい眼科10:1357-1363,199315)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用よる角膜感染症.日コレ誌40:1-6,199816)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200817)TerryRL,SchniderCM,HoldenBAetal:CCLRUstan-dardsforsuccessofdailyandextendedwearcontactlenses.OptomVisSci70:234-243,199318)AndraskoGJ,RyenKA:EvaluationofMPSandsiliconehydrogellenscombinations.ReviewofCornea&ContactLenses:36-42,200719)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,1994***