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全層角膜移植後の眼表面と涙液機能に対するカルテオロールとチモロール点眼の比較

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(113)113《原著》あたらしい眼科29(1):113?116,2012cはじめに角膜移植後の眼圧上昇は術後合併症の一つとしてよくみられる.bブロッカー点眼は20年以上使用されている歴史の長い抗緑内障点眼薬であるが,使用後の角膜知覚の低下,杯細胞の減少,涙液産生の低下,そして点状表層角膜症の報告があり1?4),角膜上皮再生が重要である角膜移植後にはこれらの作用がより重篤な副作用につながる可能性がある.bブロッカー点眼であるカルテオロールはチモロールと比較すると点状表層角膜症を起こしにくいという報告がある5)が,角膜移植後に使用しチモロールと比較検討した報告はいまだない.今回筆者らは角膜移植後にカルテオロール,チモロールを使用し,その眼表面と涙液に与える影響をプロスペクティブに比較検討したので報告する.I対象および方法対象は,東京歯科大学市川総合病院眼科外来および両国眼科クリニックにて,全層角膜移植術の初回手術後1年以内に21mmHg以上の眼圧を呈し,抗緑内障点眼薬の初回投与を受ける患者とし,術後のレボフロキサシン点眼(クラビットR,参天製薬),ベタメタゾン点眼(サンベタゾンR,参天製薬),および人工涙液以外の点眼を使用している者,コンタクトレンズを使用している者,抗緑内障点眼開始前にAD(areadensity)分類6)にてスコアが2以上の者は対象から除外した.〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPAN全層角膜移植後の眼表面と涙液機能に対するカルテオロールとチモロール点眼の比較石岡みさき*1,2,4島﨑潤*2,3*1みさき眼科クリニック*2東京歯科大学市川総合病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4両国眼科クリニックComparisonofBeta-BlockerEyedropswithCarteololorTimololonOcularSurfaceandTearDynamicsafterPenetratingKeratoplastyMisakiIshioka1,2,4)andJunShimazaki2,3)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)RyogokuEyeClinic全層角膜移植後に抗緑内障薬の初回投与を受ける13名を,2%カルテオロール点眼を使用する群(円錐角膜5名)と,0.5%チモロール点眼を使用する群(円錐角膜3名,水疱性角膜症5名)に分け,4週にわたり観察した.涙液機能,角膜知覚は点眼前後と治療群間に差を認めなかった.角膜フルオレセイン染色スコアの投与前後での変化量を比較すると,投与4週後にチモロール群の変化量はカルテオロール群より有意に大きかった.カルテオロール点眼は角膜移植後に点状表層角膜症を起こしにくい可能性がある.Weconductedaprospectivecomparativestudyof13patientswhousedantiglaucomamedicationforthefirsttimeafterkeratoplasty,duringaperiodof4weeks.Patientswereassignedeither2%carteololor0.5%timololeyedrops.Nodifferenceswerenotedincornealsensitivityortearsecretionbetweenpre-andpost-treatment,ineithergroup.At4weeks,thedifferenceincornealfluoresceinscorebetweenpre-andpost-treatmentwasgreaterintheeyesusingtimololthanintheeyesusingcarteolol.Carteololeyedropscouldbelessharmfultothecorneaafterkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):113?116,2012〕Keywords:カルテオロール点眼,チモロール点眼,角膜移植,角膜上皮,涙液分泌.carteololeyedrops,timololeyedrops,keratoplasty,cornealepithelium,tearsecretion.114あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(114)試験実施に先立ち,東京歯科大学市川総合病院倫理委員会,および両国眼科クリニック治験審査委員会において,試験の倫理的および科学的妥当性が審査され承認を得た.すべての被験者に対して試験開始前に試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し理解を得たうえで,文書による同意を取得した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い実施された.0.5%チモロール(チモプトールR,参天製薬,万有製薬)と2%カルテオロール(ミケランR,大塚製薬)のいずれかを封筒法にて無作為に割り付け1日2回の点眼を開始し,検査は表1のスケジュールに従い行った.眼圧測定は非接触型眼圧計を用いた.生体染色は1%フルオレセイン2μlを結膜?に滴下し,角膜の染色状態をAD分類6)(表2)にて評価し,AxDの値を評価対象とした.Schirmerテストは麻酔なしで5分間施行した.角膜知覚はCochetBonnet角膜知覚計にて角膜中央部を測定し,換算表にてg/mm2に換算し比較した.4週間の観察期間を終了した13名(男性9名,女性4名,平均年齢45.1±22.8)について解析を行った.内訳を表3に示す.結果は平均値(±標準偏差)で表した.統計学的検定は,眼圧のグループ内の比較にはStudent’spairedt-test,投与前後の変化量のグループ間比較にはStudent’st-test,フルオレセイン染色スコアのグループ内比較にはWilcoxon’ssigned-rankstest,投与前後の変化量のグループ間比較にはWilcoxon’sranksumtestを用いた.Schirmerテスト,角膜知覚のグループ内比較にはStudent’spairedt-test,グループ間比較にはStudent’st-testを用いた.II結果眼圧はカルテオロール群では22.8±3.0mmHg(投与前),19.0±2.4mmHg(1週後),18.4±3.1mmHg(2週後),21.6±2.4mmHg(4週後)と投与1週後と2週後において有意な低下を示した(p=0.0090,p=0.0090).チモロール群では26.0±5.2mmHg(投与前),18.8±3.0mmHg(1週後),18.9±3.6mmHg(2週後),19.3±5.9mmHg(4週後)とどの時点においても有意に低下した(p=0.0004,p=0.0008,p=012投与期間(週)眼圧(mmHg)4*******4035302520151050:カルテオロール:チモロール図1治療前後の眼圧の変化チモロール群では投与前と比較しどの時点においても有意に低下した(*:p<0.01,**:p<0.001).カルテオロール群では投与1週後と2週後に有意な低下を示した(*:p<0.01).両群間に差はみられなかった.表4涙液検査,角膜知覚検査点眼開始前4週後p値Schirmerテスト(mm/5分)カルテオロール7.2(6.4)4.0(4.0)0.26チモロール9.9(8.7)12.1(10.9)0.44角膜知覚(g/mm2)カルテオロール2.6(4.3)1.9(1.3)0.70チモロール4.7(6.9)2.4(3.2)0.46平均値(標準偏差)表1検査スケジュール開始前1週2週4週眼圧○○○○Schirmerテスト○○フルオレセイン染色○○○○角膜知覚○○表2AD分類(点状表層角膜症の重症度分類)Area:病変が及んでいる範囲Density:点状染色の密度A0:点状染色がない(正常)D0:点状染色がない(正常)A1:角膜全体の面積の1/3未満に点状のフルオレセイン染色を認めるD1:疎(点状のフルオレセイン染色が離れている)A2:角膜全体の面積の1/3?2/3に点状のフルオレセイン染色を認めるD2:中間(D1とD3の中間)A3:角膜全体の面積の2/3以上に点状のフルオレセイン染色を認めるD3:密(点状のフルオレセイン染色のほとんどが隣接している)表3症例内訳カルテオロール(n=5)チモロール(n=8)平均年齢(標準偏差)36.2(11.5)50.1(26.9)性別(男性:女性)5:04:4原疾患円錐角膜53水疱性角膜症05(115)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20121150.0084).両群間に差は認められなかった(図1).Schirmerテスト,角膜知覚検査はそれぞれの治療群において治療前後で差を認めず,また投与4週後において両治療群間に差を認めなかった(表4).Schirmerテストの4週後における変化量も両治療群間に差を認めなかった.フルオレセインスコアはカルテオロール群では0.60±0.55(投与前),0.80±0.84(1週後),0.60±0.55(2週後),0.40±0.55(4週後)と変化を認めなかった.チモロール群では0.25±0.46(投与前),1.00±0.53(1週後),1.13±0.99(2週後),1.38±1.30(4週後)と増加傾向がみられ,投与4週後に投与前後でのスコアの変化量はチモロール群はカルテオロール群と比較して有意に大きかった(p=0.039)(図2).円錐角膜の症例だけを抜き出し角膜染色スコアを比較すると,カルテオロール群(n=5)で投与前0.60±0.55,投与4週後0.40±0.55,チモロール群(n=3)で投与前0.33±0.58,投与4週後1.67±0.58となり,4週の時点でチモロール群のスコア変化量はカルテオロール群と比較して大きかった(p=0.017).III考察これまでbブロッカー点眼を使用すると,角膜知覚が低下することにより瞬目回数の減少と涙液分泌減少が生じ,その結果角膜上皮障害が起きると考えられてきた1,3).今回の報告では角膜知覚,涙液分泌量は両群とも投与前後で変化していないにもかかわらず,投与前後の角膜染色スコアの変化量を比較するとチモロール群はカルテオロール群より増加していた.筆者らは以前に,bブロッカーそのものではなく添加されている防腐剤が角膜上皮障害に影響している可能性を報告した7)が,その報告でも角膜知覚・涙液分泌量に投与前後,治療群間で差を認めなかった.点眼による角膜上皮障害の成因には角膜知覚および涙液分泌の低下は必須条件ではないといえる.ただし,今回は全例が角膜移植後であり,bブロッカー点眼開始前より角膜知覚が低下している症例もあったため,知覚低下に関しては変化をとらえるのがむずかしかった可能性はある.今回使用したカルテオロール,チモロール点眼は同じ防腐剤,塩化ベンザルコニウムを含有している.防腐剤が角結膜上皮に悪影響を与えるメカニズムは,界面活性作用による細胞膜障害,上皮細胞の増殖阻害,上皮の創傷治癒阻害などがあり,塩化ベンザルコニウムによる培養結膜上皮障害は,スーパーオキサイドによる可能性が報告8)されている.一方,カルテオロールにはラジカルスカベンジャーとして紫外線による角膜上皮障害を抑制する効果があるという報告9)があり,防腐剤による障害をカルテオロールそのものが抑制する可能性も考えられる.今回封筒法にて割り付けを行ったにもかかわらずチモロール群にのみ水疱性角膜症が含まれ,原疾患に偏りが出てしまっている.水疱性角膜症は角膜移植後に遷延性上皮欠損がみられることがあり,これは角膜輪部に結膜が侵入し輪部機能不全が起きるためと考えられている10).水疱性角膜症の角膜移植後は上皮が不安定であり,そこにbブロッカーを点眼すると角膜上皮障害がより出やすくなる可能性がある.移植後の角膜上皮障害は高齢者で出やすいという報告11)もあるが,今回有意差はないもののチモロール群に高齢患者が多く含まれている.そのためにチモロール群の染色スコアが高くなっていることも考えられる.そこで円錐角膜の症例だけを抜き出し角膜染色スコアを比較すると,4週の時点でチモロール群のスコア変化量はカルテオロール群と比較して有意に大きかった.今回の報告では角膜移植後の角膜知覚が低下している状態にカルテオロール点眼を使用しても,角膜上皮障害を起こしにくかった.眼圧下降に関してカルテオロール点眼群には効果が不十分な症例がみられ,今後長期処方による眼圧下降効果,また角膜上皮への影響を調べるには,原疾患を揃え症例を増やしての検討が必要と考えられる.角膜移植の術式は内皮移植など現在多岐にわたる.抗緑内障点眼薬も種類が豊富となり,bブロッカー点眼には徐放型という選択肢も出てきている今,角膜移植術後の眼圧上昇に対する治療に関しては研究デザインも検討の余地があると思われ,今回の結果を踏まえて今後の課題としたい.文献1)WeissmanSS,AsbellPA:Effectoftopicaltimolol(0.5%)andbetaxolol(0.5%)oncornealsensitivity.BrJOphthalmol74:409-412,19902)WilsonFM:Adverseexternaloculareffectsoftopicalophthalmicmedications.SurvOphthalmol24:57-88,1979図2治療前後のフルオレセインスコアの変化投与前後でのスコアの変化量を両群間で比較すると,投与4週後に有意差を認めた(#p=0.039).0124#投与期間(週)フルオレセインスコア(areaxdensity)3210-1:カルテオロール:チモロール116あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(116)3)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19924)ShimazakiJ,HanadaK,YagiYetal:Changesinocularsurfacecausedbyantiglaucomatouseyedrops:prospective,randomizedstudyforthecomparisonof0.5%timololu0.12%unoprostone.BrJOphthalmol84:1250-1254,20005)InoueK,OkugawaK,KatoSetal:Ocularfactorsrelevanttoanti-glaucomatouseyedrop-relatedkeratoepitheliopathy.JGlaucoma12:480-485,20036)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19947)石岡みさき,島﨑潤,八木幸子ほか:チモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響.あたらしい眼科28:559-562,20118)DebbaschC,BrignoleF,PisellaPJetal:Quaternaryammoniumsandotherpreservatives’contributioninoxidativestressandapoptosisonChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci42:642-652,20019)TanitoM,TakanashiT,KaidzuSetal:CytoprotectiveeffectofrebamipideandcarteololhydrochlorideagainstultravioletB-inducedcornealdamageinmice.InvestOphthalmolVisSci44:2980-2985,200310)UchinoY,GotoE,TakanoYetal:Long-standingbullouskeratopathyisassociatedwithperipheralconjunctivalizationandlimbaldeficiency.Ophthalmology113:1098-1101,200611)FeizV,MannisMJ,KandavelGetal:Surfacekeratopathyafterpenetratingkeratoplasty.TramsAmOphthalmolSoc99:159-170,2001***

熱応答ゲル化チモロール点眼薬の角膜上皮および涙液への影響

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(93)1259《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1259.1262,2010cはじめに緑内障治療の第一選択は薬物療法である.b遮断薬は緑内障治療薬として昔から広く使用されている.しかしb遮断薬の長期使用により,角膜上皮バリア機能の低下1,2),角膜知覚の低下3),涙液分泌量の減少4,5),涙液安定性の低下4,5)など角膜上皮や涙液に及ぼす影響が報告されている.近年,患者のコンプライアンスや利便性の向上を目的に,b遮断薬の持続性製剤が市販されており,その1つである熱応答ゲル化チモロール点眼薬(リズモンRTG,以下TG)は,防腐剤の少なさやゲル基剤の特性から,角膜保護作用が高いといわれている.今回,水溶性チモロール点眼薬(チモプトールR,以下TM)あるいはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬(チモプトールRXE,以下XE)からTGへ変更した際の角膜上皮や涙液への影響を検討した.〔別刷請求先〕増本美枝子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MiekoMasumoto,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN熱応答ゲル化チモロール点眼薬の角膜上皮および涙液への影響増本美枝子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座EffectofThermo-SettingGelTimololSolutiononCornealEpitheliumandTearsMiekoMasumoto1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine熱応答ゲル化チモロール点眼薬が角膜上皮および涙液に及ぼす影響について検討した.水溶性チモロール点眼薬またはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬を単剤またはラタノプロスト点眼薬と併用使用中の緑内障患者22例22眼を対象とした.水溶性チモロール点眼薬またはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬を中止し,熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した.変更前と変更1,2カ月後の眼圧,角膜上皮障害,涙液状態〔Schirmerテスト,涙液層破壊時間(BUT)〕を比較した.眼圧は変更前後で変化なかった.角膜上皮障害〔SPK(点状表層角膜症)スコア〕は変更前(3.2±0.6)に比べ変更1カ月後(3.2±0.6),2カ月後(1.3±1.2)には有意に改善していた.SchirmerテストとBUTは変更前後で変化なかった.熱応答ゲル化チモロール点眼薬は水溶性チモロール点眼薬やイオン応答ゲル化チモロール点眼薬と眼圧や涙液に及ぼす効果は同等で,角膜保護作用や防腐剤の濃度の点から熱応答ゲル化チモロール点眼薬のほうが優れていた.Weinvestigatedtheeffectsofthermo-settinggeltimololsolution(RysmonRTG:TG)oncornealepitheliumandtears.Subjectscomprised22glaucomapatientswhowerebeingtreatedwithtimololsolution(TimoptolR:TM)orgel-formingtimololsolution(TimoptolRXE:XE)aloneorincombinationwithlatanoprost.TMorXEwasswitchedtoTG.Intraocularpressure(IOP),superficialpunctatekeratopathy(SPK),Schirmer’stestandtearfilmbreak-uptime(BUT)werecomparedbeforeandat1and2monthsafterswitching.NosignificantchangeswereobservedinIOPafterswitching.TheSPKscorebeforeswitching(3.2±0.6)wassignificantlyimprovedatonemonthafterswitching(3.2±0.6)andattwomonthsafterswitching(1.3±1.2).Schirmer’stestandBUTresultsshowednodifferencesbetweenbeforeandafterswitching.TheeffectsonIOPandtearsweresimilarbetweenthermo-settinggeltimololsolutionandtimololsolutionorgel-formingtimololsolution.Cornealepitheliumprotectionwasstrongerandpreservativeconcentrationwaslowerinthermo-settinggeltimololsolution.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1259.1262,2010〕Keywords:熱応答ゲル化チモロール点眼薬,角膜上皮,Schirmerテスト,涙液層破壊時間(BUT).thermosettinggeltimololsolution,cornealepithelium,Schirmer’stest,tearfilmbreak-uptime.1260あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(94)I対象および方法2008年9月から2009年3月の間に井上眼科病院に通院中の患者で,TM(1日2回朝夜点眼)あるいはXE(1日1回朝点眼)を単剤,あるいはラタノプロスト点眼薬(キサラタンR,以下XA)(1日1回夜点眼)と併用使用中で,点状表層角膜症(superpunctuatekeratopathy:SPK)が出現した緑内障患者22例22眼を対象とした.男性4例,女性18例,年齢65.9±11.2歳(平均値±標準偏差)であった.緑内障病型は正常眼圧緑内障12例,原発開放隅角緑内障7例,原発閉塞隅角緑内障3例であった.TM(9例)またはXE(13例)をwashout期間なしでTGに変更した.使用中のXAは継続とした.眼圧を変更前と変更1,2カ月後にGoldmann圧平式眼圧計で測定し,比較した(対応のあるt検定).角膜上皮障害(SPK)をArea-Density分類6)を用いて,変更前と変更1,2カ月後で評価した.SPKの程度の判定はフルオレセインで角膜を染色後,眼圧測定前に行った.変更後にAreaまたはDensityのいずれかが改善したものを「改善」,変わらないものを「不変」,AreaまたはDensityのいずれかが悪化したものを「悪化」とした.さらにArea-Density分類のArea+DensityをSPKスコアとし,変更前と変更1,2カ月後を全例・TM群・XE群に分けて検討した(Wilcoxonsigned-ranktest).涙液状態をSchirmerテストと涙液層破壊時間(BUT)を用いて,変更前と変更1カ月後を全例・TM群・XE群に分けて検討した(対応のあるt検定).SchirmerテストとBUT測定はTM,XEあるいはTG点眼1時間後以降に行った.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.II結果患者背景を表1に示す.眼圧は変更前14.7±3.0mmHg,変更1カ月後14.3±3.3mmHg,変更2カ月後14.5±3.6mmHgで変更前後に有意差はなかった(図1).角膜上皮障害は,変更前はA1D1が1眼,A1D2が6眼,A2D1が7眼,A2D2が6眼,A3D1が1眼であった(図2).変更1カ月後はA0D0が6眼,A1D1が3眼,A1D2が2眼,A2D1が7眼,A2D2が2眼であった.変更前と比べて改善が13眼,不変が5眼,悪化が2眼であった.変更2カ月後はA0D0が9眼,A1D1が8眼,A1D2が1眼,A2D1が3眼であった.変更前と比べて改善が19眼,不変が2眼であった.SPKスコアは,全例では変更前(3.2±0.6)に比べ変更1カ月後(3.2±0.6),2カ月後(1.3±1.2)には有意に改善していた(p<0.05)(図3).XE群では変更1カ月後(2.5±1.4)は表1患者背景性別男性4女性18年齢65.9±11.2(歳)病型POAG7NTG12PACG3変更前点眼薬TM9XE13併用薬XA6POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,TM:チモプトールR,XE:チモプトールRXE,XA:キサラタンR.02468101214161820変更前1カ月後2カ月後眼圧(mmHg)NS図1変更前後の眼圧(ANOVA,NS:notsignificant)A0A1A2A3D0D1171D266D3623279183図2角膜上皮障害(Area-Density分類)数字:変更前,丸囲い数字:変更1カ月後,四角囲い数字:変更2カ月後.00.511.522.533.544.5*p<0.052カ月後1カ月後変更前2カ月後1カ月後変更前2カ月後1カ月後変更前全例XE群TM群SPKスコア*****図3角膜上皮障害のSPKスコア(95)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101261変更前(3.3±0.6)と同等であったが,変更2カ月後(1.8±1.2)は変更前(3.3±0.6)より有意に改善していた(p<0.05).TM群では変更前(3.1±0.6)に比べ変更1カ月後(1.4±1.4),変更2カ月後(0.7±1.0)に有意に改善していた(p<0.05).Schirmerテストは,全例では変更前は5.4±3.9mm,変更1カ月後は5.6±4.7mmで同等であった.XE群では変更前は3.1±2.5mm,変更1カ月後は4.7±3.1mmで同等であった.TM群では変更前は6.8±3.9mm,変更1カ月後は6.9±6.4mmで同等であった.BUTは,全例では変更前は6.0±1.9秒,変更1カ月後は6.8±2.6秒で同等であった.XE群では変更前は5.6±1.5秒,変更1カ月後は7.2±2.8秒で同等であった.TM群では変更前は6.3±2.1秒,変更1カ月後は6.4±2.5秒で同等であった.1例はTGへの変更直後に異物感が生じ点眼中止となった.他の1例は変更1カ月後には来院がなかった.III考按今回の検討では,TMまたはXEからTGへの変更により,Schirmerテスト,BUTは変化なかったが,角膜上皮障害はほとんどの症例で改善していた.過去にもTM,XE,TGの角膜や涙液に及ぼす影響が報告されている7,8).海平らはTMとTGを単剤で交互に使用した緑内障患者27名の涙液分泌量および涙液安定性について報告した7).彼らは涙液分泌量の指標としてSchirmerテストI法,涙液安定性の指標としてBUTを用いた.Schirmerテストの平均値はTM15.2±11.7mm,TG16.4±12.0mmで同等であった.5mm以下の異常値を示す割合はTM,TGともに22.2%であった.BUTの平均値はTM6.8±3.6秒,TG9.0±4.5秒で,TGがTMに比べ有意に延長していた.5秒以下の異常値を示す割合はTM46.3%,TG20.4%でTGのほうが良好であった.今回のSchirmerテストはTM群では変更前は6.8±3.9mm,変更1カ月後は6.9±6.4mmで同等であった.5mm以下の異常値を示した割合は変更前42.9%,変更1カ月後45.0%であった.BUTはTM群では変更前は6.3±2.1秒,変更1カ月後は6.4±2.5秒で同等であった.5秒以下の異常値を示した割合は変更前52.4%,変更1カ月後45.0%であった.海平らと今回の違いは,海平らは角結膜障害のある症例は対象外であったが,今回は角膜上皮障害を有する症例を対象とした.平均年齢も海平らの報告(60.6±9.9歳)に比べ今回(65.9±11.2歳)のほうが高齢であった.海平らはTMやTGの単剤投与例であったが,今回はTMやXEの単剤投与あるいはXAとの併用例とした.石岡らは健常成人ボランティア男性16名に無作為にXEあるいはTGを1カ月間投与し,投与前後に生体染色試験,BUT,Schirmerテスト,角膜上皮バリア機能検査を行った8).投与前後の比較で,生体染色試験,Schirmerテストでは有意差はなかったが,BUTはTGで投与前4.6±2.6秒が投与後7.5±3.4秒に延長したと報告した.しかし石岡らは,Schirmerテスト5mm未満の症例は除外している.また投与前のフルオレセインスコアも両群ともに平均0±0で,角膜上皮障害を有していなかった.今回と海平らや石岡らの報告を比較すると,今回はドライアイ研究会によるドライアイの診断基準9)1.自覚症状,2.涙液異常①SchirmerテストI法にて5mm以下,②BUT5秒以下(①,②のいずれかを満たすものを陽性とする),3.角結膜上皮障害①フルオレセイン染色スコア3点以上(9点満点),②ローズベンガル染色スコア3点以上(9点満点),③リサミングリーン染色スコア3点以上(9点満点)(①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とする)のうち涙液異常に該当した症例が17例含まれており,そのためにSchirmerテストやBUTが元来低値で,TGへの変更によっても改善しなかった可能性が考えられる.ゲル化剤添加マレイン酸チモロール点眼薬にはTGとXEの2種類がある.TGは眼表面の熱に反応してゲル化する.また,基剤にメチルセルロースが添加されており,このメチルセルロースが角膜や結膜表面の保護作用を有すると報告されている10).一方,XEは涙液中のイオンにより角膜上でゲル化し,瞬目とともにゲルは細くなり涙点より排出される.このゲル化剤の違いが今回の角膜上皮障害の改善に寄与した一因と考えられる.また,点眼薬に含まれる防腐剤の影響も関与した可能性がある.防腐剤としてTMには塩化ベンザルコニウムが0.005%,XEには臭化ベンゾドデシウムが0.012%,TGには塩化ベンザルコニウムが0.001%含まれている.ラットを用いた点眼実験では0.01%塩化ベンザルコニウムと0.01%臭化ベンゾドデシウムの角結膜への影響は同等と報告されている11).TMまたはXEからTGへの変更により防腐剤の悪影響も軽減されたと考えられる.角膜上皮障害がTMまたはXEからTGへの変更により改善されたのはTGのゲル化剤のメチルセルロースの角結膜への保護作用,防腐剤の軽減,あるいは両者の影響と考えられる.今回,角膜上皮障害を有している症例においてTMまたはXEからTGへ変更したところ,眼圧,Schirmerテスト,BUTに変化はなく,角膜上皮障害はほとんどの症例で改善していた.TGはTMやXEに比べゲル化剤に含まれるメチルセルロースの角膜保護作用が強力で,防腐剤の濃度も低いため,角膜上皮障害を有している症例ではTGの使用を考慮してもよいと考えられる.文献1)新谷明子,横井則彦,松本康宏ほか:b遮断薬点眼の角膜上皮バリアー機能に対する影響.臨眼49:395-397,19952)俊野敦子,岡本茂樹,島村一郎ほか:プロスタグランディ1262あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(96)ンF2aイソプロピルウノプロストン点眼薬による角膜上皮障害発症メカニズム.日眼会誌102:101-105,19983)WeissmanSS,AsbellPA:Effectsoftopicaltimolol(0.5%)andbetaxolol(0.5%)oncornealsensitivity.BrJOphthalmol74:409-412,19904)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19925)大槻勝紀,横井則彦,森和彦ほか:b遮断剤の点眼が眼表面に及ぼす影響.日眼会誌105:149-154,20016)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19947)海平淳一,京本敏行:熱応答ゲル基剤チモロール点眼液(リズモンRTG)と従来型チモロール点眼液(チモプトールR)の涙液分泌量および涙液安定性の比較.あたらしい眼科20:1183-1185,20038)石岡みさき,八木幸子,島.潤ほか:2種類のゲル化剤添加チモロール点眼が眼表面に与える影響.あたらしい眼科25:399-402,20089)島.潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200710)TodaI,ShinozakiN,TsubotaK:HydroxypropylmethylcelluloseforthetreatmentofseveredryeyeassociatedwithSjogren’ssyndrome.Cornea15:120-128,199611)BecquetF,GoldschildM,MoldovanMSetal:Histopathologicaleffectsoftopicalophthalmicpreservativesonratcorneoconjunctivalsurface.CurrEyeRes17:419-425,1998***