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海外ドナー角膜の国内保存時間の差異が角膜移植後の 角膜内皮細胞密度へ及ぼす影響

2022年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(6):827.829,2022c海外ドナー角膜の国内保存時間の差異が角膜移植後の角膜内皮細胞密度へ及ぼす影響渡辺真子*1,2脇舛耕一*1,2山崎俊秀*1,2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.ectoftheDomesticPreservationTimeofInternationally-ShippedDonorCorneasonCornealEndothelialCellDensityPostCornealTransplantationMakoWatanabe1,2)C,KoichiWakimasu1,2)C,ToshihideYamasaki1,2)C,ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:海外ドナー角膜の国内保存時間の差異が角膜移植後の角膜内皮細胞密度に及ぼす影響を検討した.方法:バプテスト眼科クリニックにて全層角膜移植術および角膜内皮移植術を施行したC117例を対象とし,ドナー角膜が国内に到着してから移植を行うまでの時間がC24時間C±12時間であったC62眼をC1日群,48時間C±12時間であったC57眼を2日群とした.2群間で死亡日時から手術までに要した日数,術前(ドナー角膜保存時)および術後C6カ月時点におけるドナー角膜内皮細胞密度を後ろ向きに比較検討した.結果:死亡日時から手術までに要した日時はC1日群ではC6.1C±1.0日,2日群ではC6.5C±0.7日であった(p=0.02).また,術前および術後の角膜内皮細胞密度は,1日群では術前がC2,747C±156個/mmC2(平均±標準偏差),術後がC2,018C±468個/mmC2,2日群では術前がC2,739C±個/mmC2,術後がC1,951C±472個/mmC2であり,有意差を認めなかった.結論:海外ドナー角膜を用いた角膜移植術では,国内保存時間がC24時間延長されても角膜移植術後の角膜内皮細胞密度の予後に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた.CPurpose:Toinvestigatethee.ectofthedomesticpreservationtimeofinternationally-shippeddonorcorneasoncornealendothelialcell(CEC)densitypostcornealtransplantation.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved119CeyesCofC117CpatientsCwhoCunderwentCpenetratingCkeratoplastyCandCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyattheBaptistEyeClinic,Kyoto,Japan.The119eyeswerecategorizedintothefollowingtwogroupsbasedontheelapsedtimebetweenwhenthedonorcorneasarrivedinJapanandsurgerywasperformed:24C±12hours(1-daygroup,n=62eyes)and48±12hours(2-daygroup,n=57eyes).Thenumberofdaysfromthedateofdonorcornealpreservationtosurgery,anddonorCECdensityatpriortosurgeryand6-monthspostoperative,wereCretrospectivelyCanalyzedCandCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:InCtheC1-dayCgroupCandC2-dayCgroup,CtheCmeanCelapsedCtimeCfromCtheCdateCofCpreservationCtoCsurgeryCwasC6.1±1.0CdaysCandC6.5±0.7Cdays,respectively(p=0.02)C,andthepre-andpostoperativeCECdensitieswere2,747±156cells/mm2(mean±SD)and2,018±468Ccells/mm2,CandC2,739±cells/mm2CandC1,951±472Ccells/mm2,Crespectively,CthusCshowingCnoCsigni.cantCdi.erencebetweenthetwogroups.Conclusion:Our.ndingsshowedthatincornealtransplantationsusingdonorcorneasCshippedCfromCoverseas,CaCdomesticCstorageCperiodCextensionCofC24ChoursCdidCnotCsigni.cantlyCa.ectCCECCdensitypostcornealtransplantation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(6):827.829,C2022〕Keywords:角膜移植,角膜内皮細胞密度,角膜輸送,角膜保存時間.cornealtransplantation,cornealendothelialcelldensity,cornealtransplantation,corneapreservationtime.C〔別刷請求先〕渡辺真子:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:MakoWatanabe,M.D.,BaptistEyeInstitute,12KitashirakawaKamiikedacho,SakyoWard,Kyoto606-8287,CJAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(131)C827はじめに角膜混濁,円錐角膜,水疱性角膜症などの種々の角膜疾患に対する視力改善を目的とした外科的治療法の一つとして角膜移植術が確立している1.3).実際,2020年には,116カ国で年間約C185,000件の角膜移植が行われ,82カ国でC284,000眼のドナー角膜が提供された.それぞれの国内はもとより,全ドナー角膜のC55%は米国とインドから提供されている4).ドナー角膜は角膜移植術に必須であり,ドナー角膜,とくに角膜内皮細胞層の質の担保にかかわる数多くの研究がなされてきた.影響する因子として,ドナー角膜内皮細胞そのものの細胞生物学的な質,ドナー角膜の摘出までの時間,ドナー角膜の保存方法,保存時間,輸送方法,輸送時間などが検討されてきた5.7).ドナー角膜は,国内では臓器移植法に基づきアイバンクにより管理,斡旋される.このため各都道府県にはアイバンクが設立され,ドナー角膜の摘出から保存までが臓器移植に関する法律に基づいて適切に行われている.令和元年度の国内の献眼者数はC725人であり,移植実施数は1,207例であった8).一方,緊急避難的に海外ドナー角膜を用いる場合がある.海外ドナー角膜は,国内ドナー角膜より安定的に確保できる利点があるが,少なくとも輸送にかかわるいくつかの問題点が懸念される.例をあげれば,海外からの航空便による輸送距離と時間に加え,国内輸送の方法,とくに発着時間の制限などによる国内到着後から通関そして医療施設到着までの時間,さらにその間のドナー角膜の輸送における温度管理や輸送の間の振動などにも懸念がある.そこで,筆者らは,海外ドナー角膜の安全性を実務的に検証するために,ドナー角膜内皮細胞密度について海外アイバンクでのドナー角膜保存時と角膜移植後C6カ月の差異について検討し報告してきた9).今回はさらに実際的な見地に立って検討するために,米国アイバンクから提供されたドナー角膜について,国内到着後のC2つの異なる輸送方法と保存期間が角膜移植の成績にもたらす影響について対象をC2群に分け後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2018年C1月.2019年C12月に,バプテスト眼科クリニック(以下,当院)で海外ドナー角膜を使用し,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)および角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)を施行したC313眼を対象とした.そのうちCprima-rygraftfailure2眼,DSAEKでのドナー角膜縫合例C17眼,角膜内皮細胞密度追跡不能例C175眼を除外したのち,手術後C6カ月の角膜内皮細胞密度の経過が追えたC119例を検討した.なお,手術後C6カ月はC6カ月C±2カ月と定義した.そのうち,ドナー角膜が国内に到着してから移植を行うまでの時間がC24時間C±12時間であったC62例をC1日群(緊急輸送群),C48時間C±12時間であったC57例をC2日群(通常輸送群)と規定した.ドナー角膜は,いずれの群も輸送中の保冷温度は2.8℃が保たれる冷蔵保存であった.当院到着後は4℃に設定された医療用冷蔵庫にて手術開始まで保存した.検討項目は,両群のレシピエント年齢,性別,術式,ドナー角膜年齢と性別,死因,死亡から強角膜片作製までの時間,角膜移植術までの時間,海外アイバンクによる角膜保存開始時のドナー角膜内皮細胞密度および手術施行C6カ月後の移植片の角膜内皮細胞密度とし,各項目について両群間での検討を行った.統計学的手法としてCWilcoxonの順位符号和検定を用い,p値C0.05未満を有意水準として判定した.CII結果2群間のレシピエントの年齢,性別,術式,ドナー角膜の年齢と性差,死因,死亡日時から強角膜片作製までの時間に統計学的な有意差を認めなかった(表1).国内に到着してから当院に到着するまでの時間はC1日群でC11時間,2日群で17時間であった.上記に加え,院内到着後,手術開始時間との兼ね合いで両群ではC24時間の差異が生じた.死亡日時表12群間の背景検討項目1日群症例数C62CPKP(PEA+IOL同時施行)11(4)DSAEK(PEA+IOL同時施行)37(10)性差(男:女)34:2C8年齢(歳)70.3(C±12.7)ドナー角膜年齢60.4(C±9.7)ドナー性差(男:女)42:2C0死亡から強角膜片作製までの時間(時間)C12.80±6.30C死亡から手術までの日数C6.1±1.0CPEA+IOL:水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術2日群5716(8)26(7)28:2C967.0(C±16.7)C59.0(C±13.4)C37:2C0C12.06±5.32C6.5±0.7Cp値p=0.58p=0.46p=0.74p=0.44p=0.02828あたらしい眼科Vol.39,No.6,2C022(1C32)から手術までに要した日時は緊急予想群のC1日群ではC6.1C±1.0日,通常輸送群のC2日群ではC6.5C±0.7日であり,2日群が有意に長かった(p=0.02).術前の角膜内皮細胞密度は,1日群ではC2,747C±156個/mmC2(平均C±SD),2日群では術前がC2,739C±155個/mmC2で有意差はなく(p=0.87),術後C6カ月ではC1日群がC2,018C±468個/mmC2,2日群がC1,951C±472個/mmC2であり,有意差を認めなかった(p=0.30)(図2).CIII考按ドナー角膜の保存期間と術後経過の関係については,Ros-enwasserらにより,8.14日間保存されたドナー角膜のうち,保存期間がC11日までは術後成績に差を認めなかったと報告されている7).しかし,これらの研究は米国内のアイバンクから提供されたドナー角膜が同国内で使用された場合に限定されていた.ドナー角膜が海外へ輸送された場合については,温度や湿度などの環境変化,輸送時の振動,そして時間経過がドナー角膜へもたらす影響が懸念される.海外ドナー角膜の国際航空輸送に伴うドナー角膜内皮細胞密度への影響はCNakagawaらが検討し,航空機輸送に伴う気圧変化や衝撃などの影響による内皮細胞密度の減少率は2.3%であったと報告している9).これは緊急輸送を用いて,ドナー角膜の摘出後の角膜内皮細胞密度と角膜移植時のドナー角膜残りリムの周辺部角膜内皮細胞密度を比較している.しかし,ドナー角膜が日本に到着してからの輸送法に緊急輸送と通常輸送があるとすれば,そのドナー角膜内皮細胞への影響についての客観的データが必要とされるところであるが,現時点まで詳細に検討された報告は筆者の調べた限りではなかった.今回,ドナー角膜が日本に到着するまでの諸条件は足立らの報告と同一であったが,国内輸送として二つの方法を施行したために,国内到着後から手術開始時間までに約C24時間の差異が生じたため検討を行った.その結果,当院に到着し,手術開始まで保管するC24時間の保存期間の差では,角膜移植術後C6カ月時点での角膜内皮細胞密度減少率に有意な変化を認めなかった.このことは,ドナー角膜保存器に満たされた限られた量の角膜保存液であっても,冷所保存に問題なければ,臨床的な角膜内皮細胞密度に影響しないということを示したことになる.本研究の限界としては,後ろ向き研究であること,原疾患による差異が検討されていないこと,長期経過が追えてないこと,検討条件が限定されていることなどがあげられる.しかし,海外ドナー角膜を用いた角膜移植術では,少なくとも国内保存期間がC24時間延長されても,角膜移植術後の予後に重大な影響は及ぼさないことが示されたと考えられる.角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,0002,5002,0001,5001,0001日群術前術前術後6カ月図1術前および術後6カ月の角膜内皮細胞密度1日群では術前がC2,747C±156個/mmC2(平均C±標準偏差),術後がC2,018C±468個/mmC2,2日群では術前がC2,739C±155個/mmC2,術後がC1,951C±472個/mmC2であり,術前および術後ともに両群間で有意差を認めなかった.文献1)TanCDT,CDartCJK,CHollandCEJCetal:CornealCtransplanta-tion.LancetC379:1749-1761,C20122)PriceCMO,CCalhounCP,CKollmanCCCetal:DescemetCstrip-pingCendothelialkeratoplasty:ten-yearCendothelialCcellClosscomparedwithpenetratingkeratoplasty.Ophthalmol-ogyC123:1421-1427,C20163)PatelCSV,CDiehlCNN,CHodgeCDOCetal:DonorCriskCfactorsCforgraftfailureina20-yearstudyofpenetratingkerato-plasty.ArchOphthalmolC128:418-425,C20104)GainCP,CJullienneCR,CHeCZCetal:GlobalCsurveyCofCcornealCtransplantationandeyebanking.JAMAOphthalmolC134:C167-173,C20165)KhattakCA,CanNakhliF:Five-yearCendothelialCcellCcountCpostCpenetratingCkeratoplastyCusingCinternationally-trans-portedcornealdonortissue.SaudiJOphthalmolC33:7-11,C20196)LassJH,BenetzBA,VerdierDDetal:Cornealendotheli-alCcellClossC3CyearsCafterCsuccessfulCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCinCtheCcorneaCpreser-vationCtimestudy:ACrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1394-1400,C20177)RosenwasserCGO,CSzczotka-FlynnCLB,CAyalaCARCetal:CE.ectofcorneapreservationtimeonsuccessofDescemetstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:ACrandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1401-1409,C20178)厚生労働省:令和C2年度臓器移植の実施状況等に関する報告書(令和C2年度国会報告).2020.06.169)NakagawaH,InatomiT,HiedaOetal:ClinicaloutcomesinDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithCinternationallyCshippedCprecutCdonorCcorneas.CAmJOphthalmolC157:50-55.Ce1,C20142日群術前1日群術後2日群術後(133)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C829

エクスプレス挿入術における角膜内皮細胞密度の変化についての検討

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):994.998,2020cエクスプレス挿入術における角膜内皮細胞密度の変化についての検討嶌嵜薫齋藤雄太嶌嵜創平恩田秀寿昭和大学医学部眼科学講座CChangesinCornealEndothelialCellDensityPostEX-PRESSGlaucomaShuntImplantationKaoruShimasaki,YutaSaito,SoheiShimasakiandHidetoshiOndaCDepartmentofOphthalmonogy,ShowaUniversitySchoolofMedicineC対象および方法:当院でC2014年C1月.2016年C12月に同一術者によるエクスプレス挿入術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できた連続症例を対象とした.術前と比較した術後の角膜内皮細胞密度と減少率をレトロスペクティブに検討した.結果:男性C40眼,女性C32眼で年齢はC66.1±13.9歳,病型は原発開放隅角緑内障C56眼,落屑緑内障C12眼,続発緑内障C4眼だった.単独手術のうち有水晶体眼C20眼,眼内レンズ挿入眼C31眼,水晶体再建術併用C21眼だった.観察期間はC23.5±10.0カ月で,角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は術前C2,488±387(n=72),術後6,12,24,36カ月でそれぞれC2,469±382(n=59),2,503±402(n=59),2,414±477(n=45),2,355±530(n=15),減少率(%)はそれぞれC1.4±8.4,2.1±11.0,6.0±13.8,10.9±15.4だった.CPurpose:Toinvestigatethechangesincornealendothelialcelldensity(ECD)postEX-PRESSGlaucomaFil-trationDevice(Alcon)implantation.CSubjectsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCexaminedCandCcom-paredCtheCpre-andCpostoperativeCcornealCECDCandCreductionCrateCinCpatientsCwhoChadCundergoneCEX-PRESSRCimplantationbythesamesurgeonfromJanuary2014toDecember2016andwhowereabletobefollowedupformorethan6-monthspostoperative.Results:Therewere40maleeyesand32femaleeyes(meanage:66.1±13.9years),andtheglaucomatypeswereprimaryopen-angleglaucoma(56eyes),exfoliationglaucoma(12eyes),andsecondaryglaucoma(4eyes).Ofthesingleoperationsperformed,therewere20phakic-surgeryeyes,31intraocu-lar-lens-implantationCeyes,CandC21Ccataract-surgeryCeyes.CTheCmeanCfollow-upCperiodCwasC23.0±11.5Cmonths.CAtCpreCsurgeryCandCatC6-,C12-,C24-,CandC36-monthsCpostoperative,Crespectively,CtheCmeanCcornealECD(cells/mm2)CwasC2,488±387(n=72),C2,469±382(n=59),C2,503±402(n=59),C2,414±477(n=45),CandC2,355±530(n=15),andthemeanECDreductionrateat6-,12-,24-,and36-monthspostoperativewas1.4±8.4%,C2.1±11.0%,C6.0±13.8%,CandC10.9±15.4%,Crespectively.CConclusion:ACsigni.cantCdecreaseCinCECDCwasCobservedCatC18-,C24-,CandC36-monthsafterexpressinsertioncomparedwithbeforesurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(8):994.998,C2020〕Keywords:角膜内皮細胞密度,エクスプレス,眼圧.cornealendothelialcelldensity,EX-PRESS,intraocularpressure.Cはじめにわが国ではC2012年にエクスプレス緑内障フィルトレーションデバイス(以下,エクスプレス.Alcon)が認可された.エクスプレスの眼圧下降は線維柱帯切除術と比較して同等であるとの報告が多く1.5),エクスプレス挿入術の利点として術中の前房消失や術後前房出血,脈絡膜.離などの合併症の軽減があげられる1.6).近年,日本アルコンから使用成績調査が報告され,わが国におけるエクスプレスの長期的な術後合併症の一つである術後の角膜内皮細胞密度(cornealendo-thelialCcelldensity:ECD)の減少はC12カ月でC2.5±19.3%,〔別刷請求先〕齋藤雄太:〒142-8666東京都品川区旗の台C1-5-8昭和大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YutaSaito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmonogy,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8,Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-8666,JAPANC994(94)24カ月でC5.6C±22.0%であった.線維柱帯切除術でも術後の長期経過観察においてCECDの減少が報告されており7,8),エクスプレス挿入術ではCECDが減少するとの報告9.11)がある一方で,術後C2年では減少が認められなかったとの報告もある12).そこで今回,昭和大学病院附属東病院(以下,当院)にてエクスプレス挿入術を行った患者について術後CECDの変化をレトロスペクティブに検討した.CI対象および方法1.対象2014年C1月.2016年C12月に,昭和大学病院附属東病院においてエクスプレス挿入術を施行し,術後C6カ月以上の経過観察ができた連続症例を対象として診療録をもとにレトロスペクティブに調査した.水晶体再建術または線維柱帯切開術以外の眼手術歴のある症例は除外し,エクスプレス挿入術後の経過観察中に他の眼内手術が行われた症例はその時点で観察終了とした.いずれも術前に手術の術式と利点・欠点について十分な説明を行い,同意を得られた症例である.本研究は昭和大学「人を対象とする研究等に関する倫理委員会」の承認を得て行った.C2.方法手術はすべて同一医師が執刀し行った.円蓋部基底結膜弁法で角膜輪部の結膜を切開後,3C×3Cmmの四角形強膜弁を作製し,切開創にスポンジに浸したC0.04%のマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)をC3分間留置したあと,生理食塩水C250Cmlで洗浄した.水晶体再建術を併施した場合は,強膜弁よりC90°離れた位置に角膜切開を作製して水晶体超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った.強膜弁下のグレーゾーンよりC25ゲージ針で前房内へ穿刺後,本体を前房内へ挿入し,本体の位置と房水の流出を確認してC10-0ナイロン糸で強膜弁を縫合した.強膜弁の両角をC1針ずつ縫合し,過剰濾過があればそのつど縫合数を増やし濾過量を調節した(4.0C±1.3本).9-0バイクリル糸で結膜を縫合し,結膜からの房水漏出がないことを確認後終了とした.術後レーザー切糸はC1.9C±1.5本行った.術後には抗菌薬点眼(ガチフロキサシン),ステロイド点眼(リン酸ベタメタゾン)を約C3カ月間使用した.術前,術後C6,12,18,24,36カ月の眼圧,角膜中央部のCECDを測定した.眼圧測定にはCGoldmann圧平眼圧計を,ECD測定には非接触式スペキュラーマイクロスコープ(KONANFA-3509,コーナンメディカル)を使用した.点眼スコアはC1剤C1点,配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点とした.C3.統.計.解.析手術後の眼圧およびCECDを術前と比較した.また,術前と比較した術後のCECD減少率をエクスプレス単独手術のうち有水晶体眼群と眼内レンズ挿入眼群,水晶体再建術併用群の群間で比較した.得られた結果は平均値C±標準偏差で示し,ECDの術前後比較はCpairedt-test,ECD減少率の群間比較はCTukeyのCHSD(honestlysigni.cantdi.erence)検定を使用した.また,ECDの減少要因解析にはCECDの最終測定時までにC10%以上の減少率を認めた症例を従属変数として年齢・病型〔落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG)またはその他〕・術前眼圧・術前点眼スコア・術前CECD・術後前房形成の有無・術後脈絡膜.離の有無・術式(単独または水晶体再建術併用)・単独手術での有水晶体眼または眼内レンズ眼を目的変数としてロジスティク回帰分析を行った.統計解析ソフトウェアはCJMPver.14.0を使用し,p値<0.05を有意差ありとした.CII結果対象症例の患者背景を表1に示す.対象眼はC66例C72眼(男性38例40眼,女性28例32眼),年齢は平均66.1歳であった.術前眼圧はC23.5CmmHg,術前点眼スコアはC3.9,経過観察期間はC23.0カ月,線維柱帯切開術(トラベクトーム)施行眼はC15眼,水晶体再建術施行眼はC31眼であった.術式別では,水晶体再建術併用群がC21眼,単独手術C51眼のうち有水晶体眼群がC20眼,眼内レンズ挿入眼群がC31眼であった.また病型は,原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)56眼,XFG12眼,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)4眼(ステロイドC2眼,アトピーC1眼,血管新生C1眼)であった.術後合併症・追加処置として脈絡膜.離C5眼(6.9%),浅前房C6眼(8.3%)のうち前房形成を施行した症例がC5眼(6.9%)あった.眼圧推移を表2に示す.術後C6,12,18,24,およびC36カ月における眼圧は術前と比較して有意な眼圧下降を認めた.ECD(cells/mmC2)の変化を表3に示す.術前と比較して,全体では術後C18,24およびC36カ月で有意なCECDの減少を認めた.また術式別では水晶体再建術併用群の術後C6,18,24カ月で,エクスプレス単独手術のうち有水晶体眼群の術後C36カ月,眼内レンズ挿入眼群の術後C24カ月において術前と比較してそれぞれ有意なCECDの減少を認めた.病型別ではCPOAGの術後C18,24,36カ月で,XFGの術後C18カ月で術前と比較してそれぞれ有意なCECDの減少を認めた.ECDの減少率を表4に示す.術式別での群間比較では術後C6カ月において水晶体再建術併用群とエクスプレス単独群全体および眼内レンズ挿入眼群との間に有意差を認めたが,病型別では術後経過中のCECD減少率に群間差を認めなかった.症例数の少ないCSG群を除いたCPOAG群とCXFG群とのECD減少率の比較でも有意な群間差は認められなかった.10%以上CECDが減少した症例はC16眼ありその要因検討を表5に示す.表1患者背景表2眼圧の推移年齢C66.1±13.9歳眼圧(mmHg)Cn性別(男性/女性)40/32眼術前C23.5±10.0C72C術前眼圧C23.5±10.0mmHg1CDC10.6±6.0*C70C術前点眼スコアC3.9±1.01CWC10.4±4.8*C69C観察期間C23.0±11.5月2CWC13.5±10.6*C47C眼手術歴1CMC12.4±6.4*C69CトラベクトームC152CMC11.9±3.7*C58C水晶体再建術C313CMC11.7±4.7*C61C術式6CMC12.5±5.2*C70C水晶体再建術併用C219CMC12.4±4.1*C41Cエクスプレス単独C5112CMC13.0±4.8*C63C有水晶体眼C2018CMC14.0±6.1*C47C眼内レンズ挿入眼C3124CMC12.9±3.9*C50C病型36CMC12.6±4.1*C23原発開放隅角緑内障C56D:day,W:week,M:month落屑緑内障C12n:眼数,mean±SD,続発緑内障C4*p<0C.05術前と比較(ステロイドC2眼,アトピーC1眼,新生血管C1眼)表3角膜内皮細胞密度の変化術前C6MC12MC18MC24MC36MC全体C2,488±387(72)C2,469±382(59)C2,503±402(59)C2,426±477(36)*C2,414±477(45)*C2,355±530(15)*水晶体再建術併用C2,720±233(21)C2,539±273(17)*C2,596±307(18)C2,587±277(13)*C2,606±256(16)*C2,550±239(6)エクスプレス単独C2,392±399(51)C2,440±418(42)C2,462±435(41)C2,334±544(23)C2,309±538(29)*C2,226±640(9)*有水晶体眼C2,593±210(20)C2,560±271(17)C2,634±240(18)C2,594±303(10)C2,556±244(14)C2,488±194(5)*眼内レンズ挿入眼C2,262±439(31)C2,332±468(25)C2,327±506(23)C2,134±612(13)C2,078±637(15)*C1,899±885(4)原発開放隅角緑内障C2,532±327(56)C2,521±265(46)C2,531±380(46)C2,447±454(29)*C2,459±454(39)*C2,354±550(14)*落屑緑内障C2,420±455(12)C2,389±575(9)C2,412±505(11)C2,323±706(5)*C2,044±675(4)2,381(1)続発緑内障C2,066±731(4)C2,046±768(4)C2,335±410(2)C2,366±336(2)C2,289±380(2)C.Cmean±SDcells/mm2(眼数),*p<0.05術前と比較表4角膜内皮細胞密度の減少率6MC12MC18MC24MC36MC全体C1.4±8.4(59)C2.1±11.0(59)C4.4±11.0(36)C6.0±13.8(45)C10.9±15.4(15)水晶体再建術併用C6.6±11.9(17)*†C4.7±10.5(18)C4.4±6.0(13)C5.2±10.0(16)C5.8±5.4(6)エクスプレス単独C.0.7±5.4(42)*C0.9±11.0(41)C4.4±13.1(23)C6.4±15.6(29)C14.2±19.2(9)有水晶体眼C1.1±3.6(17)C.0.9±3.9(18)C2.3±4.9(10)C1.3±5.3(14)C6.4±1.9(5)眼内レンズ挿入眼C.1.9±6.1(25)C†C2.3±14.3(23)C6.1±17.1(13)C11.3±20.3(15)C24.1±27.2(4)原発開放隅角緑内障C1.7±8.4(C46)C2.1±11.7(C46)C4.5±12.1(C29)C5.4±14.5(C39)C11.4±15.9(C14)落屑緑内障C0.2±9.7(9)C2.1±8.4(C11)C5.5±3.6(5)C12.8±6.3(4)3.6(1)続発緑内障C1.6±6.2(4)C1.9±0.6(2)C0.3±4.1(2)C3.8±1.5(2)C.CIII考察本研究において眼圧は術後C6カ月でC12.5C±5.2mmHg,12カ月でC13.0C±4.8mmHg,24カ月でC12.9C±3.9CmmHgで,CXVTstudyで報告された術後C6カ月でC13.8C±4.7mmHg,2mean±SD%(眼数),*†p<0.05群間比較年でC14.7C±4.6mmHgと同等と考えられる5).またエクスプレス挿入術の合併症の発症率は過去の報告では脈絡膜.離が0.42.9%2,10,13.16),浅前房がC6.5.42.9%5,10,13,14,16)で,本研究でも同程度であった.エクスプレス挿入術後のCECDの減少率は術後C1年でC2.2表510%以上減少した症例のロジスティック回帰分析項目オッズ比95%信頼区間p値年齢C0.997C0.934-1.065C0.9354病型(落屑緑内障/その他)C2.127C0.396-11.429C0.3792術前眼圧C0.991C0.911-1.077C0.8236術前点眼スコアC0.733C0.381-1.406C0.3500術前角膜内皮細胞密度C1.000C0.999-1.002C0.5666前房形成(あり/なし)C1.413C0.102-19.611C0.7967脈絡膜.離(あり/なし)C2.304C0.256-20.771C0.4570術式(単独/併用)C0.022C0.000-2.815C0.1233単独手術での有水晶体眼/眼内レンズ挿入眼C0.193C0.014-2.626C0.2167C.10.1%,術後C2年でC4.0.18.0%と報告されており9.11),本研究での術後C1年でC2.1%,2年でC6.0%の減少率は過去の報告と同程度であると考えられる.一方でCOmatsuらは,術後C2年の経過観察で線維柱帯切除術ではCECDの減少が認められたものの,エクスプレス挿入術では認めなかったと報告している12).線維柱帯切除術でも術後12カ月でC6.0.9.6%8,17),24カ月でC6.3.9.3%7,17)程度のCECDの減少が報告されており,必ずしもエクスプレス自体がCECDの減少に関与しているわけではないのかもしれない.ECD減少率の群間比較では,術式別比較で術後C6カ月において,水晶体再建術併用群と眼内レンズ挿入眼群との群間に有意差を認めたが,この結果は水晶体再建術の操作がCECD減少に影響を与えたものと予測される.10%以上CECDが減少した症例の要因解析において,病型別では宮本ら18)はエクスプレス挿入術で原発開放隅角緑内障眼と比べて落屑緑内障眼でよりCECDの減少を認めたと報告しているため,本研究でもCXEGとその他の病型に分けてCECDの減少要因を検討したが,病型はECD減少の要因として有意差は認められなかった.以上よりエクスプレス挿入術におけるCECD減少の要因を明らかにすることはできなかった.本研究の限界としてレトロスペクティブであること,線維柱帯切除術と比較しておらず,ECD減少がエクスプレス単体による影響によるものか,濾過手術自体が影響するのかが明らかではないこと,さらに隅角内でのエクスプレス先端の虹彩や角膜に対する角度や位置の定量化を行っていないことなどがあげられる.今後前眼部COCTを用いた画像解析を行うことでエクスプレス挿入位置とCECDの変化の新たな知見が得られるかもしれない19).以上,本研究の結果より,エクスプレス挿入術後にCECDの有意な減少が認められたため,今後長期的なCECDの観察を要する.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:Comparisonoftrabec-ulectomyCwithCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCdeviceCimplantedunderscleral.ap.JGlaucomaC16:14-19,C20072)WagschalCLD,CTropeCGE,CJinapriyaCDCetal:ProspectiveCrandomizedCstudyCcomparingCEx-PRESSCtoCtrabeculecto-my:1-yearresults.JGlaucomaC24:624-629,C20153)WangCW,CZhangX:Meta-analysisCofCrandomizedCcon-trolledtrialscomparingEX-PRESSimplantationwithtra-beculectomyCforCopen-angleCglaucoma.CPLoSCOneC9:Ce100578,C20144)WangCW,CZhouCM,CHuangCWCetal:Ex-PRESSCimplanta-tionCversusCtrabeculectomyCinCuncontrolledglaucoma:aCmeta-analysis.PLoSOneC8:e63591,C20135)NetlandCPA,CSarkisianCSRCJr,CMosterCMRCetal:RandomC-ized,Cprospective,CcomparativeCtrialCofCEX-PRESSCglauco-maC.ltrationCdeviceCversustrabeculectomy(XVTstudy)C.CAmJOphthalmolC157:433-440,Ce433,C20146)前田征宏,近藤奈津,大貫和徳:EX-PRESSCTMを用いた濾過手術の術後早期成績Trabeculectomyとの比較.あたらしい眼科29:1563-1567,C20127)HigashideT,NishinoT,SakaguchiKetal:DeterminantsofCcornealCendothelialCcellClossCafterCtrabeculectomyCwithCmitomycinC.JGlaucomaC28:61-67,C20198)ArnavielleS,LafontainePO,BidotSetal:Cornealendo-thelialcellchangesaftertrabeculectomyanddeepsclerec-tomy.JGlaucomaC16:324-328,C20079)AiharaCM,CKuwayamaCY,CMiyataCKCetal:Twelve-monthCe.cacyCandCsafetyCofCglaucomaC.ltrationCdeviceCforCsur-geryinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JpnJOph-thalmolC63:402-409,C201910)IshidaCK,CMorotoCN,CMurataCKCetal:E.ectCofCglaucomaCimplantCsurgeryConCintraocularCpressureCreduction,C.areCcount,CanteriorCchamberCdepth,CandCcornealCendotheliumCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJpnCJCOphthalmolC61:C334-346,C201711)ArimuraS,MiyakeS,IwasakiKetal:Randomisedclini-calCtrialCforCpostoperativeCcomplicat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Double-glide Techniqueを用いたDescemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後成績の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):429.432,2017cDouble-glideTechniqueを用いたDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後成績の検討浅岡丈治*1出田隆一*1天野史郎*2*1出田眼科病院*2井上眼科病院SurgicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastybyDouble-glideTechniqueUsingBusinGlideTakeharuAsaoka1),RyuichiIdeta1)andShiroAmano2)1)IdetaEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:Double-glidetechniqueを用いたDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)の術後成績を検討した.対象および方法:対象は水疱性角膜症に対してdouble-glidetechniqueを用いてDSAEKを行った33例35眼.原疾患,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:平均患者年齢75±9歳.観察期間は2.0±0.8年(6カ月.3年).術前の平均小数視力は0.095で,術後3年の平均少数視力は0.85であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2.術後3年では1,266±548cells/mm2であり,内皮細胞減少率は55%であった.術後合併症は眼圧上昇が2眼(5%),.胞様黄斑浮腫が4眼(10%)であった.結論:Double-glidetechniqueを用いたDSAEKは合併症も少なく良好な術後成績であった.Purpose:ToinvestigatesurgicaloutcomesofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)bydouble-glidetechniqueusingBusinglide.Methods:Weretrospectivelyanalyzed35eyesof33patientswithbullouskeratopathy(BK)whohadundergoneDSAEKbydouble-glidetechnique.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meanageofpatientswas75±9years.Weanalyzedfor2.0±0.8years.At3yearsaftersurgery,meanvisualacuitywas0.85,ECDwas1,266±548cells/mm2andECDlosswas55%.Complicationswereelevatedintraocularpressure(5%)andcystoidmacularedema(10%).Conclusions:DSAEKbydouble-glidetechniquewase.ectiveforBKandcausedfewercomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):429.432,2017〕Keywords:角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,ブジングライド.Descemet’sstrippingautomat-edendothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,endothelialcelldensity,Businglide.はじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が,これまで主流であった全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)にとって変わりつつある.PKPに比較してDSAEKは,術中にオープンスカイにならないため駆逐性出血のリスクが低い,術後の正乱視・不正乱視が少ない,視力改善が早い,眼球強度が保たれ外傷に強い,拒絶反応が少ない,縫合糸関連の感染などの合併症が少ない,などのさまざまなメリットがある1,2).DSAEKは角膜内皮を移植することを目的とした手術であるため,術中に移植片の角膜内皮保護を行うことが重要である.DSAEK術中に移植片角膜内皮にもっとも傷害を与える可能性の高いステップが,移植片の前房への挿入操作である.そのため,移植片の前房内挿入にかかわる検討が多くされており,たとえば,切開創が3mmよりは5mmであるほうが,Taco-folding,Businglide,糸引き込み法のいずれでも移植片の挫滅が少なく,内皮傷害も少なくなることが報告〔別刷請求先〕浅岡丈治:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:TakeharuAsaoka,M.D.,IdetaEyeHospital,39Tojin-machi,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(123)429されている3).また,移植片挿入時に角膜内皮保護を図るために使用する器具として,Businglide4),NeusidlCornealInserter5),EndoGlide6)など,多くのものが報告されている.Double-glidetechniqueは,DSAEK移植片挿入時にBusinglideとIOLglideを用いる方法で,小林らが初めて報告した7).Double-glidetechniqueは,前房が浅く移植片挿入時に虹彩脱出を起こしやすいアジア人の眼にDSAEKを行う際,虹彩脱出を抑えつつ角膜内皮保護が行える優れた術式と考えられる.今回,筆者らは,double-glidetechniqueを用いてDSAEKを行い,6カ月以上経過観察可能であった症例の術後3年までの成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2008年9月.2014年12月に当院で海外ドナーを用いてDSAEKを行った33例35眼(男性12例12眼,女性21例23眼).経過観察期間が半年未満の症例は除外した.観察期間6カ月3眼,1年9眼,2年9眼,3年14眼,平均±標準偏差は2.0±0.8年(範囲:6カ月.3年)であった.手術方法は,耳側角膜に5mmの角膜創を作製し,インフュージョンカニューラ(モリア・ジャパン)を置き,空気瞳孔ブロック予防目的に下方に25G硝子体カッターで虹彩切除行った.移植片はバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した後,IOLglide(Alcon社IOLglideまたははんだやPTFEチップ)を前房内に挿入したのち,Businglideと引き込み鑷子を用いるdouble-glidetechniqueで前房内に挿入した.移植片の位置を調整したうえで前房内に空気を注入し移植片の接着を確認して終了した.移植片の直径は7.0.8.5mmであった.術式の内訳は,DSAEK5例5眼,Descemet膜を.離しないnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendo-thelialkeratoplasty)28例30眼,nDSAEKと白内障同時手術が1例1眼,nDSAEKと翼状片同時手術が1例1眼であった.術後はメチルプレドニゾロン125mgを1回点滴し,プレドニゾロンを30mg4日間,20mg4日間,10mg7日間,5mg7日間と漸減しながら投与した.術後点眼は単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを1日5回,エリスロマイシン軟膏1回,白内障同時手術の場合は,これにジクロフェナクを1日4回投与した.原疾患,角膜透明治癒率(%),術後3年までの矯正logMAR視力(logarithmicminimumangleofresolution),等価球面度数数,乱視度数数,角膜内皮細胞密度(endotheli-alcelldensity:ECD),術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計(OCT)を用い,術後視力の改善が不良な症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,術前値と術後の各時点での値との比較にMann-Whitney’sU-testを用いた.術前と術後四つの時点での比較であったので,p<0.0125を統計学的に有意とした.II結果1.患.者.背.景患者の手術時平均年齢は75±9歳(範囲:54.90歳)であった.原疾患は,レーザー虹彩切開術後が12例12眼(34%),Fuchs角膜内皮ジストロフィが4例6眼(17%),線維柱帯切除後が6例6眼(17%),白内障術後が6例6眼(17%),落屑症候群が4例4眼(11%),緑内障発作後が1例1眼(2.9%)であった.またPKP後の角膜内皮不全に対してDSAEKを行った1例で,術後2週間目に移植片と患者角膜の間にカンジダ感染を生じてグラフト抜去を行った.透析中の易感染症例であった.今回この眼の術後データのうち合併症については検討対象としたが,視機能や内皮細胞密度については対象から除外した.2.海外ドナーグラフトデータ移植グラフトは米国アイバンク(SightLife,Seattle,WA,USA)からのプレカットドナー角膜を用いた.プレカット後のECD2,800±258cells/mm2,ドナー平均年齢は61±8歳,ドナー死亡から強角膜片作製時間9.5±6時間,ドナー死亡から手術日数6.2±0.9日であった.3.角膜透明治癒率術後,移植片を抜去した1眼を除いたすべての症例で透明治癒が得られた.移植後3年を過ぎて1例が内皮機能不全となったが,高齢のため再移植は行わず経過観察となっている.4.視力術前の平均logMAR視力は1.02±0.5(平均小数視力:0.095)であった.術後6カ月の平均logMAR値は0.16±0.16(平均小数視力:0.69),術後12カ月は0.16±0.28(平均小数視力:0.69),術後24カ月は0.14±032(平均小数視力:0.72),術後36カ月は0.07±0.14(平均小数視力:0.85)であった(図1).術前と比較し,術後6カ月以降,有意な改善を認めた(p<0.0125).術後36カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は83%,同様に0.8以上は67%,1.0以上は42%であった.5.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2であった.術後6,12,24,36カ月での平均内皮細胞密度はそれぞれ,1,632±681cells/mm2,1,661±682cells/mm2,1,304±739cells/mm2,1,266±548cells/mm2であった(図2).内皮細胞減少率は,6,12,24,36カ月でそれぞれ,42430あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(124)-0.501224363,5003,0000内皮密度0.5角膜内皮密度乱視度数logMAR1logMAR1,5001,0001.55002術後(月)00122436図1矯正視力の変化術後(月)術後6カ月で有意な改善を認めている.図2角膜内皮細胞密度の変化術後6,12,24,36カ月での内皮細胞減少率は,26,12,24,36カ月でそれぞれ,42%,41%,53%,55%であった.101224360-11.501224361-2-3-4乱視度数-5術後(月)図3術前後の乱視度数の変化術前後で有意差はなかった.%,41%,53%,55%であった.6.自覚的乱視度数自覚的乱視度数は,術前で1.25±2.8diopters(D),術後6カ月で2.1±1.33D,術後12カ月で1.99±1.3D,術後24カ月で1.74±0.78D,術後36カ月で1.6±0.55Dであった(図3).術前と比較して,術後に有意差はなかった.7.等価球面度数等価球面度数は,術前で.0.40±1.30D,術後6カ月で.0.75±1.53D,術後12カ月で.0.82±1.37D,術後24カ月で.0.68±1.51D,術後36カ月で.0.63±1.28Dであった(図4).術前後で,有意差なく遠視化も認めなかった.8.術後合併症21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(5%)で認めた.発生時期は,術後3.12カ月であった.術後12カ月で眼圧上昇を認めた症例は,落屑緑内障の合併例のため,現疾患による眼圧上昇の可能性も考えられた.いずれも緑内障点眼を追加することで眼圧コントロールが得られ,緑内障手術に至った症例はなかった..胞様黄斑浮腫を4眼(10%)で認めた.発生時期は術後3.12カ月であった..胞様黄斑浮腫は,全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて2カ月以内に消失した.また前述のようにカンジダ感染が1例あった.移植片からの持ち込みの可能性も否定できないが,移植片の残りの培養を行っていないため詳細は不明である.駆逐性出血,眼内炎,拒絶反応は認めなかった.等価球面度数0.50-0.5-1-1.5-2-2.5図4等価球面度数の変化術前後で有意差はなく遠視化も認めなかった.III考按今回すべての症例で矯正視力の改善を認めた.今回,術後12カ月目の平均logMAR矯正視力は0.16±0.28(平均小数視力0.69)であった.これまでの報告では平均logMAR矯正視力は0.34.0.17(小数視力0.46.0.68)であり8.12),今回の結果は既報とほぼ同等の結果であった.DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており10),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.既報では,12カ月での報告が多く,36カ月の経過観察は有益な情報であると考えられる.DSAEK術後の内皮減少率については,挿入法によりさまざまな報告がある.Double-glide法では,アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症へのDSAEKでdouble-glide法を用いた場合に,術後3カ月で37.9%の内皮減少率が報告されている7).今回の術後1年での内皮減少率41%はこの報告とほぼ同等の結果であったと考えられる.また他の挿入法では,術後1年での減少率として,Tacofolding法で27.52%9,11,13,14),EndoGlide法で16.32%6,15),Businglide法で24.39%4,12,16)と報告されている.今回の結果がこれらの報告と比較して高めの内皮減少率となった原因としては,前術後(月)(125)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017431房が浅く硝子体圧が高いためにDSAEKの施行がむずかしいアジア人の眼が対象であったことと,原因疾患として,DSAEK施行のむずかしいレーザー虹彩切開術後,線維柱帯切除後,緑内障発作後のものが全体の半数以上を占めており,また比較的DSAEKの行いやすい白内障術後やFuchs角膜内皮ジストロフィの割合が少なかったことが考えられる.既報10)ではDSAEKの術前術後の自覚的乱視の変化については有意差がないと報告されているが,今回も同様に有意差を認めなかった.また既報では術後軽度遠視化する報告があるが,今回はみられなかった.合併症としては,既報では眼圧上昇は5.8.16%とあるが17,18),今回5%と同等であった.また,.胞様黄斑浮腫は10%に認め,0.97%とする既報17)と比較して多かった.原因の一つとして,緑内障術後や発作後の眼の割合が高く,術後炎症が強めであったことが考えられる.また,以前はOCTの普及率が低かった可能性や,そもそも以前の文献ではOCTを行っていない可能性も考えられる.実際既報では.胞様黄斑浮腫に対して検討されていないものがほとんどであった.当院では,角膜上皮への悪影響を考え,DSAEK術後に非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしてこなかったが,今後,黄斑浮腫発症予防のために,DSAEK単独手術症例でも投与すべきと考えている.今回,double-glidetechniqueを用いたDSAEKの術後3年成績を報告した.術後早期より視力の向上が得られること,術後乱視が軽度であること,合併症が少ないことからも有用な手術方法と考えられた.黄斑浮腫は既報では低く見積もられている可能性があるため,DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,OCTなどを用い積極的に精査する必要があると考えられた.文献1)LeeWB,JacobsDS,MuschDCetal:Descemet’sstrip-pingendothelialkeratoplasty:safetyandoutcomes:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmology116:1818-1830,20092)AnshuA,PriceMO,TanDTetal:Endothelialkerato-plasty:arevolutioninevolution.SurvOphthalmol57:236-252,20123)TerryMA,SaadHA,ShamieNetal:Endothelialkerato-plasty:thein.uenceofinsertiontechniquesandincisionsizeondonorendothelialsurvival.Cornea28:24-31,20094)BusinM,BhattPR,ScorciaV.Amodi.edtechniquefordescemetmembranestrippingautomatedendothelialker-atoplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthal-mol126:1133-1137,2008432あたらしい眼科Vol.34,No.3,20175)TerryMA,StraikoMD,GosheJMetal:Endothelialkera-toplasty:prospective,randomized,maskedclinicaltrialcomparinganinjectorwithforcepsfortissueinsertion.AmJOphthalmol156:61-68,20136)KhorWB,MehtaJS,TanDT:Descemetstrippingauto-matedendothelialkeratoplastywithagraftinsertiondevice:surgicaltechniqueandearlyclinicalresults.AmJOphthalmol151:223-232,20117)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glidedonorinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-69,20088)WendelLJ,GoinsKM,SutphinJEetal:Comparisonofbifoldforcepsandcartridgeinjectorsuturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea30:273-276,20119)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmolo-gy116:248-256,200910)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendotheli-alkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,201211)HsuHY,EdelsteinSL:Two-yearoutcomesofaninitialseriesofDSAEKcasesinnormalandabnormaleyesataninner-cityuniversitypractice.Cornea32:1069-1074,201312)NakagawaH,InatomiT,HiedaO,etal:Clinicaloutcomesindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithinternationallyshippedprecutdonorcorneas.AmJOphthalmol157:50-55,201413)ChenES,PhillipsPM,TerryMAetal:Endothelialcelldamageindescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplastywiththeunderfoldtechnique:6-and12-monthresults.Cornea29:1022-1024,201014)PriceMO,GorovoyM,PriceFWJretal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:three-yeargraftandendothelialcellsurvivalcomparedwithpene-tratingkeratoplasty.Ophthalmology120:246-251,201315)ElbazU,YeungSN,LichtingerAetal:EndoGlideversusEndoSerterfortheinsertionofdonorgraftindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOph-thalmol158:257-262,201416)HongY,PengRM,WangMetal:Suturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyinChinesephakiceyes:out-comesandcomplications.PLoSOne8:e61929,201317)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:Surgicalout-comeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkera-toplastyforbullous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原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):292.295,2017c原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症酒井寛與那原理子新垣淑邦力石洋平玉城環琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座Preoperative,IntraoperativeandPostoperativeComplicationsofSmallIncisionCataractSurgeryforCataractandPrimaryAngle-closureDiseasesHiroshiSakai,MichikoYonahara,YoshikuniArakaki,YoheiChikaraishiandTamakiTamashiroDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus目的:原発閉塞隅角眼の白内障手術合併症の検討.対象:原発閉塞隅角合併白内障に対する小切開白内障手術の連続症例121例184眼.内訳は原発閉塞隅角緑内障(PACG)98眼,急性原発閉塞隅角症および緑内障(APAC)20眼,原発閉塞隅角症(PAC)40眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)26眼.方法:術前,術中,術後3カ月までの合併症,眼圧,角膜内皮細胞密度(CD),毛様小帯の脆弱の有無を検討した.結果:術前高眼圧22mmHg以上32眼(17%),同30mHg以上8眼,CD1,500未満20眼(10%),同1,000未満5眼,3mm以下の散瞳不良8眼,毛様小帯の脆弱10眼(5.4%).術中合併症は,術中悪性緑内障で硝子体切除を施行1眼,術中フロッピーアイリス症候群1眼で,後.破損例はなく,毛様小帯の脆弱から眼内レンズ(IOL)毛様溝縫着となった1眼を除く全例でIOL.内固定された.術後高眼圧22mmHg以上36眼(20%),同30mHg以上6眼,術後新たにCD1,500/mm2未満9眼.術後眼内炎の発症,水疱性角膜症など重篤な合併症はなかった.Subjects:184eyesof121primaryangle-closurediseasesunderwentsmallincisioncataractsurgeries.Mainoutcomemeasures:Preoperative,intraoperativeandpostoperativecomplicationsuntil3monthaftersurgeries,intraocularpressure(IOP),cornealendothelialcelldensity(CD)andweakenedzonules.Results:Preoperatively,ocularhypertensionequaltoormorethan22mmHgin32eyes,CDlessthan1500/mm2in19eyes,smallpupildiameterlessthan3mmin8eyesandweakenedzonulesin10eyeswererecorded.Intraoperatively,apatientwithmalignantglaucomaunderwentcorevitrectomy,andintraoperative.oppyirissyndromeoccurredinoneeye.IOLwasimplantedinthebaginallcases,exceptingoneinwhichweakenedzonulesrequiredIOLsuture.xation.Postoperativeocularhypertensionequaltoormorethan22mmHgwasnotedin36eyes.CDlessthan1500/mm2wasnewlydiagnosedin9eyes.Therewerenoinstancesofpostoperativeendophthalmitisorbullouskeratopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):292.295,2017〕Keywords:原発閉塞隅角,白内障手術,術後合併症,高眼圧,角膜内皮細胞密度.primaryangleclosuredisease,cataractsurgery,postoperativecomplications,ocularhypertension,cornealendothelialcelldensity.はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は沖縄に多く,失明しやすい緑内障病型である1.3)が,手術により予防または治療が可能であり,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術または白内障手術が選択肢となる4).PACGの前段階であり緑内障性視神経症を伴わない原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),さらに眼圧上昇や周辺虹彩前癒着も伴わない原発閉塞隅角症疑い(PACS)に対しても予防的に手術加療が行われるが,その適応や合併症の発症率は明らかではない4).PACG,PACおよびPACSを包括した原発閉塞隅角(primaryangleclosuredesease:PACD)眼に対する白内障手術では,浅前房,角膜内皮細胞〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科医局Reprintrequests:HiroshiSakai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN292(150)密度の減少,毛様小帯の脆弱など術前から存在する合併症も存在し,術中,術後合併症の発症に影響を与えると考えられる.今回,筆者らはPAC眼に対する白内障手術の術前,術中,術後合併症について検討した.I対象琉球大学医学部附属病院眼科において,2010年の1年間に同一術者(H.S.)により施行された原発閉塞隅角合併白内障に対する小切開白内障手術の連続症例121例184眼.内訳は,PACG98眼,急性原発閉塞隅角症および緑内障(APAC)20眼,PAC40眼,PACS26眼.男性76眼,女性108眼,年齢は70±8.9歳(49.89歳)であった.対象の内訳を表1に示す.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着を前提として手術を予定した,術前から明らかな水晶体動揺がある症例は今回の検討には含んでいない.全例に緑内障専門医による隅角鏡検査,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)検査を行い診断した.PACSでは,UBMで4象限の閉塞がある場合,または3象限以上の閉塞があり,残る一象限も狭い場合を手術適応の基準とし,PACおよびPACGは,基本的に手術適応とし,いずれも本人への詳細な説明と同意のもとに手術を施行した.すでに,レーザー虹彩切開術(LI)が43眼(23%)に,周辺虹彩切除術が20眼(11%)に施行されていた.121眼(66%)では2.4mm耳側角膜切開による超音波乳化吸引術+IOL挿入術(PEA+IOL)を初回手術として施行した.麻酔は全例点眼麻酔で行った.II方法術前,術中,術後3カ月までの合併症,眼圧,角膜内皮細胞密度(CD),毛様小帯の脆弱の有無をカルテの記載より記録し検討した.術前に外来において手術の危険因子となりうるもの,および,手術開始後明らかになった合併症で手術前から存在したと考えられるものを術前合併症とした.前.切開(continuouscurvicularcapslotomy:CCC)開始時に明らかになった毛様小帯脆弱も術前合併症に分類した.術後合併症は術後3カ月までの早期合併症を検討した.III結果1.術前合併症緑内障点眼薬やアセタゾラミド内服を用いてもコントロールできない高眼圧(22mmHg以上)が32眼(17%)に,同30mHg以上が8眼にあった.術前スペキュラマイクロスコープにより測定されたCD値2,000/mm2未満が28眼(15%),1,500/mm2未満19眼(11%),1,000/mm2未満5眼(2.7%)に存在した.瞳孔径は,術前散瞳で手術開始時に3mm以下の散瞳不良で瞳孔拡張を必要とするものが8眼(4.3%),毛様小帯の脆弱が10眼(5.4%)であった.2.術中合併症1例で,超音波乳化吸引中に前房形成不良となり,術中悪性緑内障と診断した.硝子体切除を施行し前房形成が得られたため手術を完遂可能であった.1例で,術中フロッピーアイリス症候群を発症したが,低灌流設定で手術完遂した.CCCの亀裂や後.破損例はなかった.毛様小帯の脆弱から皮質吸引終了後IOLを毛様溝縫着した1眼を除く全例でIOLは.内固定された.3.術後合併症術後1週間以内の高眼圧22mmHg以上36眼(20%),同30mHg以上が6眼(3.8%)にあったが,1眼を除く全例で1カ月以内に緑内障点眼併用下に眼圧は21mmHg以下にコントロールされた.1眼では術後1週間で線維柱帯切除術を追加した.PACSの眼圧上昇はすべて術翌日のみで,点眼なしで1週間以内に眼圧は21mmHg以下にコントロールされた.術後初回外来受診時の測定で新たにCDが1,500/mm2未満となったものが9眼あった.この9眼のうち4眼ではCDは術後1カ月までに1,500/mm2以上となった.減少が持続した5眼のうち2眼にはLIの既往があり,1例はIOL縫着となった症例だった.術後1週の時点で,CD2,000/mm2未満は41眼(22%),1,500/mm2未満は17眼,1,000/mm2未満は3眼に確認された.術後2段階以上の矯正視力の低下した症例はなく,術後眼内炎の発症,水疱性角膜症などの重篤な合併症もなかった.4.病型別の合併症PACG,APAC,PAC,PACSの病型別の術前,術後合併症を表1に示す.術前高眼圧を除いて,病型間に術前,術後合併症の頻度の統計的な差はなかった(p>0.05,c2検定).IV考察2016年に眼圧30mmHg以上のPACおよびPACGを対象とした前向きのランダム化比較試験が示されPEA+IOLがLIよりも眼圧コントロール,QOL(qualityoflife),費用対効果の点で優れていることがLancet誌に報告された5).PEA+IOLがPACD眼の眼圧コントロールに優れていることも多くの報告があり,米国眼科アカデミーの報告と題したレビューも2015年にOphthalmology誌に掲載された6).PACG,PACに対するPEA+IOLの有効性は世界的に確認されたと考えられる.一方,PACD眼は浅前房であり,術前から眼圧が高いPAC,PACGが含まれ,LI,周辺虹彩切除術,APACの既往眼があり,CD減少や毛様小帯の脆弱を伴う症例が存在することが知られている.久米島で行われた疫学調査から,正常対象のCDは2,943±387/mm2で,CD2,000/mm2未満は.2S.D.未満と非常に稀であることが明らかになった.今回の症例では,CD2,000/mm2未満は術前に表1病型別の術前,術後合併症n性別n術前高眼圧術前高眼圧術前内皮散瞳不良術前毛様小帯術後高眼圧術後高眼圧術後内皮病型(症例)(男:女)(眼)年齢(*)(22mmHg以上)(30mmHg以上)1,500未満(3mm以下)の脆弱(22mmHg以上)(30mmHg以上)1,500未満PACG7131:419870±8.420(20.4%)5(5.1%)12(12%)5(5.4%)4(4.1%)22(22%)5(5.1%)12(12%)APAC196:132065±7.95(25%)3(15%)3(15%)1(5%)2(10%)2(10%)01(5%)PAC3411:234073±9.95(12.5%)02(5%)2(5%)1(2.5%)8(20%)1(2.5%)4(10%)PACS195:142671±9.2──2(7.7%)03(12%)4(15%)00±標準信差*平均PACG:原発閉塞隅角緑内障,APAC:急性原発閉塞隅角症,PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,内皮:角膜内皮細胞密度(/mm2).※術後高眼圧,術後内皮は術後1週間での頻度.※診断は眼単位で行われており両眼の病型が異なる症例が含まれているため,性別の合計症例数は全体よりも多い.15%,術後に22%と高い頻度であった.筆者らは,沖縄における原発閉塞眼の白内障手術の特徴として浅前房,短眼軸があり,術前からCDが少なく,術後CD減少は術前の浅前房と関連することを過去に報告している7,8).浅前房で前房内操作スペースが狭いことが術後CD減少の原因と考えられる.PAC眼のPEA+IOLの施行例の早期術後合併症としての角膜内皮障害の多さは術前から内皮障害が存在し,浅前房であることが原因になっていると考えられた.一方,眼圧は緑内障点眼薬やアセタゾラミド内服を用いてもコントロールできない22mmHg以上の高眼圧が17%,30mHg以上でも4%にあったが,術後は線維柱帯切除術を要した1眼を除き点眼にて眼圧コントロールが得られた.数多くの既報のとおり,PEA+IOLはPACD眼の眼圧コントロールにおいて優れている.角膜内皮減少にも注意が必要であるが,CD1,500/mm2未満は術前19眼に対して,術後1週で17眼と測定誤差による変動の範囲であった.今回の研究は後ろ向きの症例研究であり,無作為化されていない.また,患者の多くを紹介先病院へ逆紹介しているため経過観察期間が短いという限界がある.対象が沖縄という島嶼県の大学病院という重症例を中心とした紹介患者が中心となり,術者も熟練した単一術者によるものであり,結果を一般化することができない点も限界である.しかしながら,今回の研究の意義の一つは,現在の沖縄県における閉塞隅角緑内障診療の一面を合併症に焦点を当てて記録することである.また,相対的に一般化されうる事実としてPACD眼に術前の高眼圧,角膜内皮障害,毛様小帯の脆弱などが存在すること,こうした術前合併症に対して注意深い診察が必要なことをあげたい.事実,筆者らは術前に全例にUBMを行い,毛様小帯脆弱が著明な症例などには硝子体手術の併用など術式変更を考慮して適応を決定している.また,今回の症例には含まれなかったが角膜内皮移植を前提に手術を行うこともある.こうした条件のもとではPACD眼に対するPEA+IOLは安全で効果的であることが確認された.もしも,高リスク症例を厳密に区別することなく同様の検討を行えば,術後成績は低下すると考えられる.PACD眼の手術選択においては合併症を,術前,術中,術後の総合的な局面から考慮して決定することが望まれる.文献1)NakamuraY,TomidokoroA,SawaguchiSetal:Preva-lenceandcausesoflowvisionandblindnessinaruralSouthwestIslandofJapan:theKumejimastudy.Ophthal-mology117:2315-2321,20102)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20123)YamamotoS,SawaguchiS,IwaseAetal:Primaryopen-angleglaucomainapopulationassociatedwithhighprev-alenceofprimaryangle-closureglaucoma:theKumejimaStudy.Ophthalmology121:1558-1565,20144)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版)第4章緑内障の治療総論.日眼会誌116:22-29,20125)Azuara-BlancoA,BurrJ,RamsayCetal:E.ectivenessofearlylensextractionforthetreatmentofprimaryangle-closureglaucoma(EAGLE):arandomisedcon-trolledtrial.Lancet388:1389-1397,20166)ChenPP,LinSC,JunkAKetal:Thee.ectofphaco-emulsi.cationonintraocularpressureinglaucomapatients:AReportbytheAmericanAcademyofOph-thalmology.Ophthalmology122:1294-1307,20157)早川和久,酒井寛,仲村佳巳ほか:沖縄の白内障手術症例の特徴.臨眼56:789-793,20028)上門千時,酒井寛,早川和久ほか:超音波乳化吸引術後早期の角膜内皮細胞密度と前房深度との関係.臨眼56:1103-1106,2002.***

マイクロチューブシャント(エクスプレス®)を用いた濾過手術後の角膜内皮細胞変化

2016年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(11):1645?1650,2016cマイクロチューブシャント(エクスプレスR)を用いた濾過手術後の角膜内皮細胞変化宮本大輝*1坂上悠太*1,2栂野哲哉*1末武亜紀*1佐々木藍季子*1福武慈*1本間友里恵*1福地健郎*1*1新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野*2新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院CornealEndothelialCellChangeafterFiltrationSurgeryUsingaMicro-tubeShunt(Ex-PRESSR)DaikiMiyamoto1),YutaSakaue1,2),TetsuyaTogano1),AkiSuetake1),AkikoSasaki1),MegumiFukutake1),YurieHonma1)andTakeoFukuchi1)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,2)RegionalMedicalEducationCenterofNiigataUniversity,UonumaKikanHospital目的:エクスプレス併用濾過手術後の角膜内皮細胞所見について検討した.対象および方法:対象はエクスプレス併用濾過手術を施行し,術後3カ月以上スペキュラーマイクロスコープによって角膜内皮細胞を観察できた32例37眼である.年齢は70.8±10.4歳で,病型は広義・原発開放隅角緑内障眼19例21眼(POAG群),落屑緑内障群10例13眼(XFG群),その他3例3眼であった.このうち眼内レンズ挿入眼は28例32眼であった.内皮細胞密度(CD),六角形細胞出現率(6A),変動係数(CV)の経時変化について検討した.結果:CDは術前2,292±563/mm2に対して,平均術後観察期間13.7±8.5カ月の最終観察時に2,059±614/mm2と有意に減少した(p=0.0002).病型別にPOAG群CDは術前2,359±487/mm2が術後最終2,244±574/mm2に対して,XFG群CDは術前2,196±671/mm2が術後最終1,808±555mm2と,XFG群で有意に大きく減少していた(p=0.037).6A,CVでは有意な差はみられなかった.術後にCDが500以上減少した例は6眼,20%以上減少した眼は7眼であった.結論:エクスプレス併用濾過手術後に角膜内皮細胞密度が低下する可能性がある.落屑緑内障眼ではより減少する可能性がある.Purpose:WeexaminedcornealendothelialcellsinfiltrationsurgeryusingEX-PRESSR.SubjectsandMethods:Subjectscomprised37eyesof32patientswhounderwentfiltrationsurgeryusingEX-PRESSR;theircornealendothelialcellswereobservedbyspecularmicroscopeformorethan3monthsafteroperation.Averageagewas70.8±10.4years;diseasetypewasprimaryopen-angleglaucomain21eyesof19patients(POAGgroup),exfoliationglaucomain13eyesof10patients(XFGgroup)andotherglaucomain3eyesof3patients.Ofthese,pseudophakiawaspresentin32eyesof28patients.Weexaminedtimevariationofcornealendothelialcelldensity(CD),meanarea,hexagonality(6A)andcoefficientofvariationincellarea(CV).Results:CDsignificantlydecreasedatthemeanlastfollowupof13.7±8.5months,with2,059±614/mm2forpreoperative2,292±563/mm2(p=0.0002).PreoperativeandlastfollowupofPOAGgroupwere2,359±487/mm2and2,244±574/mm2,XFGgroup2,196±671/mm2and1,808±555mm2;XFGgroupdecreasedsignificantlymorethanPOAGgroup(p=0.037);6AandCVshowednosignificantdifference.In6eyes,CDdecreasedmorethan500/mm2postoperatively,andin7eyesdecreasedmorethan20%.Conclusion:CDmaydecreaseafterfiltrationsurgeryusingEX-PRESSR,andmaydecreasemoreinXFG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1645?1650,2016〕Keywords:エクスプレス併用濾過手術,角膜内皮細胞密度,落屑緑内障.filtrationsurgerywithuseofEXPRESSR,cornealendothelialcelldensity,exfoliationglaucoma.はじめにエクスプレスR(Ex-PRESSR,日本アルコン)は緑内障濾過手術のためのステンレス製のマイクロチューブデバイスで,2012年6月に認可され日本国内でも正式に使用可能となった.エクスプレスRを用いた緑内障濾過手術は,元々は強膜を全層貫通させる術式として考案された1)が,術後早期の低眼圧,浅前房,他の合併症が問題となり2,3),修正され,現在では強膜弁下から前房内へ挿入し,結膜下に濾過胞を形成する濾過手術の術式として用いられている4?9).結果的に濾過手術としてはトラベクレクミー(以下,レクトミー)と類似の術式となったが,線維柱帯と虹彩の切除が不要であることから,術中の眼内出血,硝子体脱出を予防することができる利点がある.また,日本で用いられているエクスプレスRは内径50μmと小さく,房水流量が一定で術後低眼圧を生じにくいと考えられている.したがって,わが国で導入された際には,術後眼圧は従来のトラベクレクトミーと同等でありながら,術後合併症は少ない点が利点である術式として紹介された8?12).エクスプレス併用濾過手術と称されている.その一方で,使用され始めた当初から挿入位置や角度を適切,かつ一定にすることがむずかしく,しばしば虹彩や角膜に接触する例が生ずることが指摘されていた.そのため術式に関連した前房内炎症や角膜内皮障害のリスクに対する検証が必要と考えられている.そこで,この研究ではエクスプレス併用濾過手術を施行された症例における術後角膜内皮細胞変化と,関連する諸因子について検討した.I対象および方法対象は新潟大学医歯学総合病院眼科で2012年8月?2015年2月にエクスプレス併用濾過手術を施行した54例61眼のうち,3カ月以上の経時的なスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞の観察が可能であった32例37眼である.いずれも術前に手術の術式と,従来のトラベクレクトミーに対してエクスプレスRを併用する利点と欠点について十分な説明を行い,同意を得られた症例である.術後のニードリング,観血的濾過胞再建,前房再形成による外科的な追加処置が行われた症例は,今回の研究に関してはその時点で観察終了とした.今回の症例には同時に白内障手術を施行した症例は含まれていない.内訳は男性17例19眼,女性15例18眼で,右眼18眼,左眼19眼であった.平均年齢は70.0±9.9歳(平均±標準偏差)(50?86歳),平均経過観察期間は13.7±8.5カ月(4?32カ月)であった.病型は広義・原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG群)19例21眼,そのうち狭義・原発開放隅角緑内障16例18眼,正常眼圧緑内障3例3眼であった.落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG群)10例13眼,発達緑内障2例2眼,ステロイド緑内障1例1眼であった.眼内レンズ挿入眼は28例32眼,有水晶体眼4例5眼,そのうち強度近視眼は3例4眼であった.眼内レンズ挿入からエクスプレス併用濾過手術までの平均期間は79.5±47.5カ月(14?170カ月)であった.手術方法は輪部基底結膜弁法16例18眼,円蓋部基底結膜弁16例19眼で,強膜弁作製(四角,3.5×3.5?4.0×4.0mm)後にマイトマイシンC(MMC)を3.8±0.6分(3?5分)塗布し,生理食塩水200mlで洗浄した.25ゲージ注射針で穿刺後にエクスプレスRを前房へ挿入,強膜弁縫合は10-0ナイロン糸で4.3±1.1本縫合し,さらに結膜縫合は10-0ナイロン糸で端々縫合および連続縫合した.術者は統一しておらず,3名で行われた.術後レーザー切糸は平均で2.5±1.4本行われ,平均開始日は術後7.2±17.1日であった.術後に自己マッサージを行った症例は14例15眼で,行わなかった症例は17例22眼であった.術後には抗菌薬点眼(レボフロキサシンほか),ステロイド点眼(リン酸ベタメタゾン)を約3カ月間,トラニラスト点眼を術後から連続して継続した.角膜内皮細胞所見の観察は,スペキュラーマイクロスコープ(KONANFA-3709P,コーナンメディカル)を用いて術前および術後に角膜内皮細胞を撮影した.センター法解析にて3回解析し,細胞密度(CD),六角形細胞出現率(6A),変動係数(CV),それぞれの平均値で,術前と術後最終までの時間経過を検討した.術前と術後最終の各パラメータを病型別,術後合併症別,自己マッサージの有無別で統計学的検討を行い,有意水準はp<0.05とした.II結果術前平均眼圧値19.7±7.2mmHg(10?38mmHg)は,術後最終平均眼圧値7.9±3.3mmHg(1?15mmHg)へと低下した.術後早期合併症を生じた症例は19例20眼で,その内訳は,5mmHg未満の低眼圧16例16眼,浅前房8例8眼,脈絡膜?離10例10眼,房水濾出5例5眼であった.エクスプレスRの虹彩への接触は8例9眼,角膜への接触は2例2眼であった.術前後のCDの分布と平均CDの変化を図1および図2に示す.術前平均CD2,292±563/mm2は,術後1カ月2,184±570/mm2,術後3カ月2,202±570/mm2,術後6カ月2,165±659/mm2,術後12カ月2,048±552/mm2,術後最終観察13.7±8.5カ月で2,059±614/mm2であった.術後最終観察時の平均CDは,術前と比較すると有意に減少していた(p=0.0002).術前から術後最終までに500/mm2以上減少した例は6眼で,20%以上減少した例は7眼であった.6Aは術前63.5±9.7%に対して,術後最終観察時には60.9±10.3%と有意な差は認めなかった(p=0.292).CVは術前29.9±5.2,術後最終で31.7±5.1と有意差は認めなかった(p=0.116).眼内レンズ挿入眼28例32眼と有水晶体眼4例5眼の比較では,術前CDは眼内レンズ挿入眼が2,219±567/mm2で,有水晶体眼2,757±226/mm2に対し有意に少なかった(p=0.045).術後最終観察時でのCDの減少率は眼内レンズ挿入眼?12±16%,有水晶体眼?5±6%と有意な差は認められなかった(p=0.348).病型別の比較を表1に示す.POAG群19例21眼とXFG群10例13眼を術前と術後最終観察時でそれぞれ比較した.CDは術前がPOAG群2,359±487/mm2,XFG群2,196±671/mm2と有意な差は認められなかった(p=0.417)が,術後最終観察時にはPOAG群2,244±574/mm2に対して,XFG群1,808±555mm2と有意に少なかった(p=0.037).角膜内皮細胞減少率はPOAG群?5.6±3.6%に対して,XFG群?16.3±3.6%とXFG群が少ない傾向がみられた(p=0.0516).6A,CVについては術前,術後とも両群の間で有意な差は認められなかった.術後浅前房の有無(表2),術後脈絡膜?離の有無(表3),術後自己マッサージの有無(表4)によって術前,術後CD,6A,CVを比較したが,いずれに関しても有意な差を認めなかった.III考按チューブシャント手術が日本国内で正式に用いられるようになって,すでに3年が経過した.エクスプレス併用濾過手術に関しても,すでに短期から中期の手術成績が報告されている9,13,14).いずれも濾過手術ではあるものの,従来のレクトミーとは異なった特徴があり,別な対象や別な目的で用いられている.その一方で合併症についての報告も散見されるが,多数例での検討はまだ不十分である14,15).現在までのところ,エクスプレス併用濾過手術の術後角膜内皮細胞について検討した研究は限られている.Casiniら16)はレクトミー,エクスプレス併用濾過手術,アーメドインプラントの術後角膜内皮細胞について検討し,術後1カ月,3カ月でレクトミー,アーメドインプラントでは明らかなCD減少が認められたが,エクスプレス併用濾過手術では有意な差はみられなかったと報告している.前田ら13)はレクトミーとエクスプレス併用濾過手術の早期成績を比較し,術後3カ月までの経過で,両群とも術前術後で有意なCDの変化はなかったと報告している.Wagschalら11)は同じくレクトミーとエクスプレス併用濾過手術の1年までの術後成績を比較し,この研究では角膜厚は術前と術後で有意な変化はなく,明らかな角膜内皮機能低下の所見はなかったと報告している.一方で,山崎ら(2015年4月,第119回日本眼科学会総会にて発表)はレクトミーとエクスプレス併用濾過手術約1年後のCDを両群で比較し,エクスプレス併用濾過手術群でのみ有意な減少を認めたと報告している.また,Tojoら15)は術前のCD2,228/mm2がエクスプレス併用濾過手術9カ月後に584/mm2に減少した75歳のXFGの1例を報告している.この研究では,エクスプレス併用濾過手術後の角膜内皮細胞変化について非接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて調べた.その結果,平均約1年の観察期間で,エクスプレス併用濾過手術の術後から,CDは経時的に減少している傾向がみられた.POAG群と比較してXFG群でより大きくCDが減少している傾向がみられた.6A,CVには有意な変化はみられなかった.この結果を既報と比較した場合,Casiniら16)の報告は3つの濾過手術後のCDを比較しているが,3カ月までの短期の検討である点,手術そのものによる変化を検討するため,浅前房などの合併症を生じた症例や手術既往眼,術前からCDが少ない例などの危険因子をもつ症例が省かれている点で異なっている.前田ら13)の報告も同様に3カ月までの報告である点,症例が10例と少ない点が研究の問題点としてあげられる.山崎の報告は術後約1年までの検討で,本研究に近く,CDが有意に減少した点でも一致している.この報告ではCDは術前2,560/mm2から1,985/mm2へと約20%減少したのに対して,筆者らの例では約10%とやや減少率は小さかった.以上から考えると,エクスプレス併用濾過手術によって長期経過観察ではCDが減少する可能性は高いと考えられる.CDが減少する原因については不明である.エクスプレスRの刺入位置が角膜寄りであること,角度が角膜側であること,また虹彩に接触して慢性的な虹彩炎を生ずることなどが可能性として考えられている.Tojoら15)の報告は角膜側から刺入されたことが原因ではないかと推測しており,術後の前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)所見でも刺入部位周囲の角膜厚が著明に肥厚したことが示されている.さらに,この研究では角膜内皮細胞変化に関与する可能性のあるいくつかの背景因子について検討した.その結果,POAG群に対してXFG群でより明らかにCDが減少していることが考えられた.坂上ら17)は,POAG群と比べ,XFG群のCDが有意に少ないこと,またXFGでは,偽落屑物質を伴っていない他眼に比べてCDが有意に少ないことを報告している.落屑症候群には角膜内皮細胞の易障害性があり,角膜内皮障害の原因となりうることが指摘されている18,19).今回のエクスプレス併用濾過手術の術後だけでなく,レクトミーやチューブシャント手術術後の影響について,今後,改めて検討する必要がある.レクトミー術後のCD変化に浅前房とその程度が大きく影響することについては,いくつかの報告がある19?21).エクスプレス併用濾過手術に関しては,術後に浅前房を生じた場合には,ある程度の期間,エクスプレスRが角膜や虹彩へより強く接触する可能性が考えられる.そのため,浅前房や脈絡膜?離を生じた症例と生じなかった症例の差について検討したが,明らかな差はみられなかった.術後に濾過胞を維持する方法として,しばしば眼球マッサージが用いられるが,これによってもエクスプレスRが角膜や虹彩と機械的に接触する可能性がある.しかし,この場合も同様に明らかな傾向はみられなかった.今回の研究は後ろ向き研究であること,レクトミー症例との比較研究ではない点などが問題点や限界としてあげられる.また,エクスプレスRの位置や角度と,角膜内皮細胞変化の関連性について,さらに検討が必要である.Verbraakら22)は前眼部光干渉断層計によってエクスプレスRの挿入位置や角度の観察が可能であることを報告しており,このような方法を併用することにより詳細な検討が可能と考えられる.また,今回の研究は角膜中央部における内皮細胞所見のみの検討である.今回の結果ではCDは平均では時間経過とともに減少する傾向であったが,個々の症例でみると減少する時期はさまざまである.周辺部角膜で内皮障害が生じても,内皮細胞の再配置によって中央部へ影響が到達するには時間経過が必要であり,さらにこれは個々の症例によって異なる可能性がある.最近のスペキュラーマイクロスコープでは,中央および周辺8方向の計9方向の角膜内皮細胞観察が可能である23).今後のエクスプレス併用濾過手術症例では,この9方向における内皮細胞観察を経時的に行って,影響を受ける位置や方向,時間経過など,より詳細な検討を行う予定である.また,この研究では個々の症例における詳細な検討は行っていない.今回の症例のなかには,術後にCDが500/mm2以上減少した例が6眼,20%以上減少した例が7眼あり,これらにおける角膜内皮細胞所見の経過や,それぞれにおけるCD減少の原因と考えられる問題点などの詳細について,今後改めて検討する必要がある.今回CDが大きく減少した1例について報告する.82歳,女性,他院にて平成12年に両眼白内障手術を受け,平成26年6月XFGとして当科に紹介された.初診時眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で左眼28mmHgであった.点眼アドヒアランスを確認し,経過観察としたが,点眼指導と家族点眼でも29mmHg,CD2,937/mm2で,同12月に左眼エクスプレス併用濾過手術となった.術後合併症はなく,エクスプレスの挿入位置は角膜寄り.眼圧は術後1カ月で28mmHg,自己マッサージ後18mmHg,CD2,506/mm2と低下したため自己マッサージ開始とした.術後2カ月で17mmHg,3カ月で18mmHg,CD2,084/mm2となり,内皮細胞減少傾向のため自己マッサージ中断となった.本人が近医にかかりたいと希望され,術後4カ月,5カ月でどちらも18mmHgと安定していたため,近医紹介となった.エクスプレス併用濾過手術とレクトミーを比べて,術後の眼圧下降効果が本当に同等で,合併症が本当に少ないのかに関して,現在ではさまざまな意見がある11).しかし,エクスプレス併用濾過手術では,確かに虹彩切除は不要で,眼球が完全に開放される時間は最小限である.これらの術式の違いは,強度近視眼において虹彩切除部からの硝子体脱出の予防,術中の脈絡膜出血の予防,また落屑緑内障眼でZinn小帯が脆弱化した症例で眼内操作を減らすなどの点で,レクトミーに対する明らかな利点である.この手術方法の利点を生かして,緑内障手術の一方法として有効に利用していくために,角膜内皮への影響やその予防手段などについてさらに検討することが必要である.本論文の要旨は第26回日本緑内障学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NyskaA,GlovinskyY,BelkinMetal:BiocompatibilityoftheEx-PRESSminiatureglaucomadrainageimplant.JGlaucoma12:275-280,20032)WamsleyS,MosterMR,RaiSetal:ResultsoftheuseoftheEx-PRESSminiatureglaucomaimplantintechnicallychallenging,advancedglaucomacases:aclinicalpilotstudy.AmJOphthalmol138:1049-1051,20043)StewartRM,DiamondJG,AshmoreEDetal:ComplicationsfollowingEx-PRESSglaucomashuntimplantation.AmJOphthalmol140:340-341,20054)DahanE,CarmichaelTR:Implantationofaminiatureglaucomadeviceunderascleralflap.JGlaucoma14:98-102,20055)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol151:507-513,20116)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:9-14,20077)KannerEM,NetlandPA,SarkisianSRetal:Ex-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderascleralflapaloneorincombinationwithphacoemulsificationcataractsurgery.JGlaucoma18:488-491,20098)MarzetteL,HerdonLW:AcomparisonoftheEx-PRESSTMminiglaucomashuntwithstandardtrabeculectomyinthesurgicaltreatmentofglaucoma.OphthalmicSurgLasers42:453-459,20119)SugiyamaT,ShibataM,KojimaSetal:Thefirstreportonintermediate-termoutcomeofEx-PRESSglaucomafiltrationdeviceimplantedunderscleraflapinJapanesepatients.ClinOphthalmol5:1063-1066,201110)DeJongLA,LaumaA,AguadeASetal:Five-yearextensionofaclinicaltrialcomparingtheEx-PRESSglaucomafiltrationdeviceandtrabeculectomyinprimaryopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol5:527-533,201111)WagschalLD,TropeGE,JinapriyaDetal:ProspectiverandomizedstudycomparingEx-PRESStotrabeculectomy:1-yearresults.JGlaucoma24:624-629,201512)Gonzalez-RodriguezJM,TropeGE,Drori-WagschalLetal:ComparisonoftrabeculectomyversusEx-PRESS:3-yearfollow-up.BrJOphthalmol.2015.(Epubaheadofprint)13)前田征宏,近藤奈津,大貫和徳:Ex-PRESSTMを用いた濾過手術の術後早期成績:Trabeculectomyとの比較.あたらしい眼科29:1563-1567,201214)輪島良太郎,新田耕治,杉山和久ほか:Ex-PRESSR併用と非併用濾過手術の術後成績.あたらしい眼科32:1477-1481,201515)TojoN,HayashiA,MiyakoshiA:CornealdecompensationfollowingfilteringsurgerywiththeEx-PRESS(R)miniglaucomashuntdevice.ClinOphthalmol9:499-502,201516)CasiniG,LoiudiceP,PellegriniMetal:TrabeculectomyversusEx-PRESSshuntversusahmedvalveimplant:Short-termeffectsoncornealendothelialcells.AmJOphthalmol160:1185-1190,201517)坂上悠太,福地健郎,関正明ほか:落屑緑内障の角膜内皮細胞所見の検討.あたらしい眼科28:430-434,201118)NaumannGOH,Schlotzer-SchrehardtU:Keratopathyinpseudoexfoliationsyndromeasacauseofcornealendothelialdecompensation.Aclinicopathologicstudy.Ophthalmology107:1111-1124,200019)VannasA,SetalaK,RuusuvaaraP:Endothelialcellsincapsularglaucoma.ActaOphthalmol55:951-958,197720)ArnavielleS1,LafontainePO,BidotSetal:Cornealendothelialcellchangesaftertrabeculectomyanddeepsclerectomy.JGlaucoma16:324-328,200721)佐野友紀,福地健郎,沢口昭一ほか:マイトマイシンCを併用した線維柱帯切除術後の角膜内皮細胞の変化.日眼会誌102:365-370,199822)VerbraakFD,BruinDM,SulakMetal:OpticalcoherencetomographyoftheEx-PRESSminiatureglaucomaimplant.LasersMedSci20:41-44,200523)今井和行,澤田英子,福地健郎:うつむき位超音波生体顕微鏡検査を施行したレーザー虹彩切開術後に角膜内皮細胞が減少しているプラトー虹彩の2例.日眼会誌119:68-76,2015〔別刷請求先〕宮本大輝:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野(眼科)Reprintrequests:DaikiMiyamoto,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,Asahimachi-dori,1-757,Chuou-ku,NiigataCity951-8510,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY1646あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(108)図1術前と術後最終のCD散布図図2術後平均CD経過表1病型別比較POAG19例21眼XFG10例13眼p値CD術前2,359±4872,196±6710.417術後最終2,244±5741,808±5550.037*6A術前62.4±10.664.2±8.90.614術後最終60.1±8.261.0±13.50.800CV術前29.3±4.031.2±6.90.336術後最終31.9±4.932.4±5.80.770いずれも対応のないt検定表2術後浅前房の有無による比較あり8例8眼なし26例29眼p値CD術前2,276±5052,296±5870.942術後最終2,073±6942,055±6030.9436A術前63.7±10.963.4±9.50.956術後最終65.6±7.859.7±10.70.153CV術前28.9±3.630.1±5.60.547術後最終29.4±3.632.4±5.40.153いずれも対応のないt検定表3術後脈絡膜?離の有無による比較あり10例10眼なし25例27眼p値CD術前2,383±6182,258±5500.558術後最終2,130±6202,032±6210.6736A術前61.7±10.364.2±9.50.499術後最終65.1±9.059.4±10.50.137CV術前29.9±3.530.1±3.00.996術後最終29.9±5.832.3±5.70.141いずれも対応のないt検定表4術後自己マッサージの有無による比較あり14例15眼なし17例22眼p値CD術前2,433±5212,195±5820.212術後最終2,207±6661,958±5690.2306A術前62.3±10.064.3±9.60.553術後最終61.0±12.260.9±9.10.976CV術前31.1±6.229.0±4.40.238術後最終30.4±5.632.6±4.70.198いずれも対応のないt検定(109)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616471648あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(110)(111)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616491650あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(112)

国内ドナーを用いた角膜内皮移植術の術後短期成績の検討

2014年12月31日 水曜日

1872あたらしい眼科Vol.4102,211,No.3(00)1872(134)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1872.1875,2014cはじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が行われるようになってきている1).DSAEKは従来の全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty)に比べ,術後の不正乱視が少なく,眼球強度も保たれ,拒絶反応も起きにくいなどのさまざまなメリットがあるため,ここ数年わが国でも急速に普及が進んでいる.DSAEKの術後成績に関してはすでに多数の報告があるが,わが国では国内ドナー不足から,海外ドナーを輸入して手術を行っている施設が多く2.4),国内ドナーのみの報告は少ない5).今回,筆者らは,東京大学医学部附属病院(以下,当院)において国内ドナーを用いたDSAEKを施行し1年以上経過観察可能であった症例の術後1年までの成績について〔別刷請求先〕清水公子:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部付属病院眼科学教室Reprintrequests:KimikoShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN国内ドナーを用いた角膜内皮移植術の術後短期成績の検討清水公子臼井智彦天野史郎山上聡東京大学医学部附属病院眼科Short-termResultsofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyUsingDomesticDonorCorneasKimikoShimizu,TomohikoUsui,ShiroAmanoandSatoruYamagamiDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital目的:国内ドナーを用いた,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)の短期成績を報告する.対象および方法:対象は,水疱性角膜症に対して東京大学医学部附属病院で国内ドナーを用いDSAEKを行い1年以上経過観察可能であった39例40眼で,原疾患,透明治癒率,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:患者の手術時平均年齢は72±10歳.術後1年での透明治癒率は92.5%であった.術前の平均小数視力は0.10で,術後12カ月の平均小数視力は0.70であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,597±275cells/mm2で,術後12カ月での平均内皮細胞密度は1,622±676cells/mm2,内皮細胞減少率は37%であった.合併症は,眼圧上昇が17眼(43%),.胞様黄斑浮腫が7眼(18%),移植片接着不良が4眼(10%),瞳孔ブロックが2眼(5%),内皮機能不全が2眼(5%),拒絶反応が1眼(2.5%)であった.結論:国内ドナーを用いたDSAEKの術後12カ月における術後成績は概ね良好であった.Purpose:Toinvestigatetheshort-termresultsofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)usingdomesticdonorcorneas.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof39patientswhounderwentDSAEKforbullouskeratopathyatUniversityofTokyoHospitalusingdomesticdonorcorneas.Allwereallfollowedupfor12months.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meandecimalvisualacuityat12monthsafterDSAEKwas0.70.MeanECDofthedonorcorneasbeforeDSAEKwas2,597±275cells/mm2;ECDat12monthsafterDSAEKwas1,622±275cells/mm2(37%ECDloss).Themostcommoncomplicationwaselevatedintraocularpressure(43%).Cystoidmacularedema(18%),graftdislocation(10%),transientpupillaryblock(5%)andallograftrejection(2.5%)werealsoobserved.Conclusion:DSAEKusingdomesticcorneasyieldedsatisfactoryoutcomesin12monthsofobservation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1872.1875,2014〕Keywords:DSAEK,角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,国内ドナー.Descemet’sstrippingau-tomatedendothelialkeratoplasty,endothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,cornealendothelialcelldensity,do-mesticdonor.(00)1872(134)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1872.1875,2014cはじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が行われるようになってきている1).DSAEKは従来の全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty)に比べ,術後の不正乱視が少なく,眼球強度も保たれ,拒絶反応も起きにくいなどのさまざまなメリットがあるため,ここ数年わが国でも急速に普及が進んでいる.DSAEKの術後成績に関してはすでに多数の報告があるが,わが国では国内ドナー不足から,海外ドナーを輸入して手術を行っている施設が多く2.4),国内ドナーのみの報告は少ない5).今回,筆者らは,東京大学医学部附属病院(以下,当院)において国内ドナーを用いたDSAEKを施行し1年以上経過観察可能であった症例の術後1年までの成績について〔別刷請求先〕清水公子:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部付属病院眼科学教室Reprintrequests:KimikoShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN国内ドナーを用いた角膜内皮移植術の術後短期成績の検討清水公子臼井智彦天野史郎山上聡東京大学医学部附属病院眼科Short-termResultsofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyUsingDomesticDonorCorneasKimikoShimizu,TomohikoUsui,ShiroAmanoandSatoruYamagamiDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital目的:国内ドナーを用いた,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)の短期成績を報告する.対象および方法:対象は,水疱性角膜症に対して東京大学医学部附属病院で国内ドナーを用いDSAEKを行い1年以上経過観察可能であった39例40眼で,原疾患,透明治癒率,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:患者の手術時平均年齢は72±10歳.術後1年での透明治癒率は92.5%であった.術前の平均小数視力は0.10で,術後12カ月の平均小数視力は0.70であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,597±275cells/mm2で,術後12カ月での平均内皮細胞密度は1,622±676cells/mm2,内皮細胞減少率は37%であった.合併症は,眼圧上昇が17眼(43%),.胞様黄斑浮腫が7眼(18%),移植片接着不良が4眼(10%),瞳孔ブロックが2眼(5%),内皮機能不全が2眼(5%),拒絶反応が1眼(2.5%)であった.結論:国内ドナーを用いたDSAEKの術後12カ月における術後成績は概ね良好であった.Purpose:Toinvestigatetheshort-termresultsofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)usingdomesticdonorcorneas.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof39patientswhounderwentDSAEKforbullouskeratopathyatUniversityofTokyoHospitalusingdomesticdonorcorneas.Allwereallfollowedupfor12months.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meandecimalvisualacuityat12monthsafterDSAEKwas0.70.MeanECDofthedonorcorneasbeforeDSAEKwas2,597±275cells/mm2;ECDat12monthsafterDSAEKwas1,622±275cells/mm2(37%ECDloss).Themostcommoncomplicationwaselevatedintraocularpressure(43%).Cystoidmacularedema(18%),graftdislocation(10%),transientpupillaryblock(5%)andallograftrejection(2.5%)werealsoobserved.Conclusion:DSAEKusingdomesticcorneasyieldedsatisfactoryoutcomesin12monthsofobservation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1872.1875,2014〕Keywords:DSAEK,角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,国内ドナー.Descemet’sstrippingau-tomatedendothelialkeratoplasty,endothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,cornealendothelialcelldensity,do-mesticdonor. 検討したので報告する.I対象および方法対象は2010年8月から2012年9月までに当院で国内ドナーを用いてDSAEKを行った39例40眼(男性15例15眼,女性24例25眼).末期緑内障や黄斑変性で中心視力が消失している症例,全層角膜移植後の移植片不全症例,術後観察期間が1年未満の症例13例13眼は除外した.ドナー角膜の摘出時平均年齢は65±25歳(範囲:4.98歳)であった.手術は全例耳側5mmの角膜切開創から,Businグライドと引き込み鑷子を用いる引き込み法(pull-through法)で行った.移植片はマイクロケラトームEvolutino3E(Moria社)とバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した.マイクロケラトームのヘッド厚は350μm,グラフト径は7.75.8.75mmを使用した.術式の内訳は,DSAEK17例17眼,Descemet膜を.離しないで移植片を接着させるnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)14例14眼,DSAEKと白内障同時手術が4例4眼,nDSAEKと白内障同時手術が4例4眼であった.術後はリン酸ベタメタゾン4mgを3日間点滴し,その後プレドニゾロンを30mg,20mg,5mgと漸減しながら,それぞれ3日間ずつ投与した.術後点眼は,単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとリン酸ベタメタゾンを1日6回,白内障同時手術の場合は,これにブロムフェナクナトリウムを1日2回投与した.原疾患,術後12カ月までの矯正logMAR視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計を用い,角膜所見に比し術後視力の改善が不十分と判断した症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,2群間の検討にはMann-Whitney’sU-0.2test,相関の検討にはPearson’schi-squaretestを用いた.すべての検定でp<0.05を統計学的に有意とした.II結果1.患者背景患者の手術時平均年齢は72±10歳(平均値±標準偏差,範囲:46.88歳)であった.Fuchs角膜内皮ジストロフィが10例11眼(28%),白内障術後が7例7眼(18%),レーザー虹彩切開術後が4例4眼(10%),DSAEK後の移植片不全が3例3眼(7.5%),虹彩炎後が3例3眼(7.5%),線維柱帯切除後が3例3眼(7.5%)で,その他9例9眼(23%)であった.2.角膜透明治癒率術後1年での透明治癒が得られたのは,40眼中37眼(92.5%)であった.透明化が得られなかった3眼のうち,1眼は術後2カ月後に拒絶反応を起こし,他院で再度DSAEKを行った.残り2眼は内皮機能不全となり,うち1眼はサイトメガロウイルス感染症が原因であり,感染症が落ち着いたら再手術を検討している.3.視力術前の平均logMAR視力は0.99±0.4(平均小数視力:0.10)であった.術後1カ月の平均logMAR値は0.40±0.3(平均小数視力:0.40),術後3カ月は0.24±0.2(平均小数視力:0.60),術後6カ月は0.21±0.2(平均小数視力:0.61)術後12カ月は0.16±0.2(平均小数視力:0.70)であった.(,)術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意な改善を認めた(図1,2).術後12カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は90%,同様に0.8以上は48%,1.0以上は20%であった.4.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,597±275cells/mm2であった.術後1,3,6,12カ月での平均内皮細胞密度はlogMAR00.20.40.60.811.21.4****最終視力(小数視力)10.10.011.6術前術後術後術後術後1カ月3カ月6カ月12カ月術前視力(小数視力)図1術前,術後の平均矯正視力図2術前と最終観察時の矯正視力術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意に改善を認2眼を除き,38眼で術後の視力向上が得られた.めた.*p<0.05.(135)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418730.010.11 それぞれ,2,011±657cells/mm2(n=25),1,799±604cells/mm2(n=29),1,716±657cells/mm2(n=32),1,622±676cells/mm2(n=37)と,術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意に減少を認めた.内皮細胞減少率は1,3,6,12カ月でそれぞれ,22%,30%,34%,37%であった(図3).5.術後合併症眼圧上昇(瞳孔ブロック以外で,経過中21mmHgを超えた症例)を17眼(43%)に認めた.また,.胞様黄斑浮腫が7眼(18%),移植片接着不良が4眼(10%),瞳孔ブロックが2眼(5%),内皮機能不全が2眼(5%),拒絶反応が1眼(2.5%)であった.駆逐性出血,眼内炎は認めなかった.眼圧上昇は,術翌日から術後10カ月目までに認めた.眼圧上昇をきたした17眼中5眼は無治療で眼圧が正常化したが,11眼は点眼もしくは内服の薬物治療を行い,1眼は線維柱帯切除術を施行した.術前より緑内障は9眼あり,そのうち4眼(44%)に術後高眼圧を認めた.術後1年経過した最終観察時ではすべての症例で眼圧は正常化した..胞様黄斑浮腫は,7眼中6眼はDSAEK単独手術を施行したもので,1眼はDSAEKに白内障同時手術を行ったものであった.全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて消失した.移植片接着不良眼の内訳は,白内障術後による水疱性角膜症が2眼,Fuchs角膜内皮ジストロフィが1眼,線維柱帯切除術の術後水疱性角膜症が1眼であった.4眼中3眼は,術後前房内空気再注入により接着が得られた.残る1眼は水晶体.内摘出術後眼で,さらに移植片に縫合を追加することで最終的に接着が得られた.術式の内訳は,DSAEKが3眼,nDSAEKと白内障同時手術が1眼であった.拒絶反応は術後2カ月目に発症し,ステロイド内服とリン酸ベタメタゾン点眼の増加により改善し,小数視力0.8まで回復した.瞳孔ブロックを生じた2眼は,ともに術翌日に空気を抜くことで解除可能であった.内皮機能不全となった2眼のうち1眼は,経過中に2回内皮炎を発症,前房水のポリメラーゼ連鎖反応法よりサイトメガロウイルスが検出され,術後約1年で内皮機能不全となった.III考按今回術後12カ月目の平均logMAR値は0.16±0.2(平均小数視力:0.7)であった.他施設の報告でも0.29.0.08(平均小数視力:0.51.0.83)であり3,6,7),既報とほぼ同等の結果であった.初診時と最終観察時の矯正視力を比較すると,術前より視力低下を認めたのは1眼のみであった.この症例はFuchs角膜内皮ジストロフィで,術前小数視力0.9であり,3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000角膜内皮細胞密度(cells/mm2)****術前術後術後術後術後1カ月3カ月6カ月12カ月図3平均角膜内皮細胞密度術後3カ月まで内皮細胞密度の減少を認め,その後の減少は緩やかであった.術前と比較し,術後1,3,6,12カ月で有意に減少を認めた(術前ドナーn=40,術後1カ月n=25,術後3カ月n=29,術後6カ月n=32,術後12カ月n=37).*p<0.05.術中・術後とも問題なく,経過良好だが術後12カ月の矯正小数視力は0.8であった.術後12カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は90%,0.8以上は48%,1.0以上は20%であり,これは海外の報告と比べても遜色のない成績であった7).DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており7),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.日本で海外ドナー角膜を用いた既報によれば,術前ドナー角膜内皮細胞密度は2,905.2,946cells/mm2,術後12カ月は1,919.2,064cells/mm2と報告されている2,3).米国で自国のドナー角膜を用いた既報によれば,術前ドナー角膜内皮細胞密度は2,778.3,100cells/mm2,術後12カ月は1,743.1,990cells/mm2と報告されている6,8.10).筆者らの結果では,術前ドナー角膜の内皮細胞密度は2,597cells/mm2,術後12カ月は1,622cells/mm2と,術前および術後12カ月とも既報に比較し少なかった.一方,内皮細胞密度の減少率は,プレカットされていない海外ドナーを用いた施設では,術後12カ月で36.38%と報告しており8,10),筆者らの術後12カ月の内皮細胞密度の減少率の37%とほぼ同等であった.既報における海外および輸入角膜の平均ドナー年齢が44.59歳であるのに対し2,6,8,10),今回,筆者らが用いた平均ドナー年齢は65歳と高かった.筆者らが用いた国内ドナーはドナー年齢が高く,角膜内皮細胞密度は少ない傾向であるが,角膜内皮細胞減少率は既報と大きな違いはなかった.しかし,Priceらは,術後6カ月の内皮細胞密度はドナー年齢が高いほど少なくなると報告しており8),80歳以上の高齢者ドナーも少なくないわが国では,DSAEK術後の角膜内皮細胞密度については,さらに注意深く評価していく必要があると考えられた.今回の結果では,術後眼圧21mmHgを超えた症例が43(136) %(17眼)であり,点眼および手術を要したのは全体の30%(12眼)であった.眼圧上昇した症例のうち29%(5眼)は経過からステロイドレスポンダーが疑われた.既報では眼圧上昇は5.8.17.5%とあるが4,10,11),既報により基準が異なるため,単純に比較し多いとはいえない.ただしDSAEK術後の合併症の頻度としては高く,眼圧上昇には注意する必要がある.筆者らの施設では.胞様黄斑浮腫を7眼(18%)に認め,0.5%とする既報と比較して多かった4,7,13).7眼のうち6眼はDSAEK単独手術後の症例であり,非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしていなかった.また,5眼は術後2カ月以内に認めた.DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,光干渉断層計(OCT)などを用い積極的に精査する必要があると考えられる.また,今回の結果から白内障手術を併用しない単独手術であっても,DSAEK術後では非ステロイド性抗炎症薬の投与を考慮すべきであると筆者らは考えている.今回の検討では術後拒絶反応の発症は1眼(2.5%)のみで,5.2.17.6%とする既報に比べて低かった10,13).当院では全層角膜移植に準じて術後ステロイドの全身投与を実施していることに加え,術後1年では多くの症例でベタメタゾン点眼を継続使用していることも,拒絶反応発生が比較的低く抑えられている原因となっている可能性が考えられた.今回,筆者らは,国内ドナーを用いたDSAEKの術後成績を報告した.多くの症例で術後早期より視力の向上が得られた.拒絶反応は従来の報告どおり低く,感染症や駆逐性出血などの大きな合併症は認めなかった.海外ドナーを用いた他施設での報告と比べ,術後角膜内皮細胞数は少なかったものの,術後視力や内皮細胞密度の減少率は同等で,水疱性角膜症に対する治療として国内ドナーを用いたDSAEKは有用と考えられた.今後はより長期の検討を行うことで,国内ドナーを用いたDSAEKの術後経過を明らかにしていきたい.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)中川紘子,稲富勉,稗田牧ほか:Descemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty術後における角膜内皮細胞密度の変化と影響因子の検討.あたらしい眼科28:715-718,20113)MasakiT,KobayashiA,YokogawaHetal:Clinicalevaluationofnon-Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.JpnJOphthalmol56:203-207,20124)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:SurgicaloutcomeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathysecondarytoargonlaseriridotomy.GraefesArchClinExpOphthalmol250:10431050,20125)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:No-touchtechniqueandanewdonoradjusterforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.CaseRepOphthalmol3:214-220,20126)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Ophthalmology116:248-256,20097)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,20128)PriceMO,PriceFWJr:Endothelialcelllossafterdescemetstrippingwithendothelialkeratoplastyinfluencingfactorsand2-yeartrend.Ophthalmology115:857-865,20089)TerryMA,ChenES,ShamieNetal:EndothelialcelllossafterDescemet’sstrippingendothelialkeratoplastyinalargeprospectiveseries.Ophthalmology115:488-496,200810)PriceMO,GorovoyM,BenetzBAetal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplastyoutcomescomparedwithpenetratingkeratoplastyfromtheCorneaDonorStudy.Ophthalmology117:438-444,201011)SaethreM,DrolsumL:TheroleofpostoperativepositioningafterDSAEKinpreventinggraftdislocation.ActaOphthalmol92:77-81,201412)SuhLH,YooSH,DeobhaktaAetal:ComplicationsofDescemet’sstrippingwithautomatedendothelialkeratoplasty:surveyof118eyesatOneInstitute.Ophthalmology115:1517-24,200813)KoenigSB,CovertDJ,DuppsWJJretal:Visualacuity,refractiveerror,andendothelialcelldensitysixmonthsafterDescemetstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Cornea26:670-674,2007***(137)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141875

長期に高密度の角膜内皮細胞を維持する全層角膜移植術例の臨床的特徴

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):415.420,2014c長期に高密度の角膜内皮細胞を維持する全層角膜移植術例の臨床的特徴宮本佳菜絵*1,2中川紘子*2脇舛耕一*1,2稲富勉*2木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Long-termClinicalCharacteristicsofCaseswithHighCornealEndothelialCellDensityPostPenetratingKeratoplastyKanaeMiyamoto1,2),HirokoNakagawa2),KoichiWakimasu1,2),TsutomuInatomi2)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:全層角膜移植術後長期に高い角膜内皮細胞密度(ECD)を維持する症例の臨床的特徴を検討する.対象:1998.2007年に同一術者が施行した全層角膜移植のうち,重大な術後合併症を生じず,術後5年までのECD測定が可能であった203眼.方法:対象を術後5年のECDが2,000個/mm2以上の高ECD群,1,000個/mm2以上2,000個/mm2未満の中ECD群,1,000個/mm2未満の低ECD群に分類し,ホスト因子(手術時年齢,原疾患),ドナー因子(年齢,死因,術前ECD,死亡から強角膜片作製までの時間,死亡から手術までの時間),手術因子(術式,移植片サイズ,手術による角膜内皮細胞減少)を検討した.結果:3群の内訳は高ECD群14眼(6.9%),中ECD群53眼(26.1%),低ECD群136眼(67.0%)であった.ドナー術前ECDは,低ECD群に比べて高ECD群で有意に高かったが,高ECD群の14眼のうち,ドナー術前ECDが3,000個/mm2以上と高値であったのは8眼のみであった.他の因子は3群間で差異を認めなかった.結論:高いドナー術前ECDが術後長期のECDに良好な影響を与える因子の一つであることが確認できたが,他にもなんらかの未知の因子が影響を及ぼしている可能性があると考えられた.Purpose:Toevaluatethelong-termclinicalcharacteristicsofcaseswithhighcornealendothelialcelldensity(ECD)postpenetratingkeratoplasty(PKP).Methods:Wereviewedtheclinicalrecordsof203patientswhohadundergonePKPattheBaptistEyeClinicfrom1998to2007andwhowerefollowedupformorethan5years.Theywereclassifiedinto3groups,accordingtotheirECDat5yearspostoperatively,asfollows:HighECD(groupA:over2,000cells/mm2),MiddleECD(groupB:from1,000.2,000cells/mm2)andLowECD(groupC:under1,000cells/mm2).Hostcharacteristics,donorcharacteristicsandsurgicalcharacteristicswereevaluated.Results:Ofthe203patients,groupAcomprised6.9%ofcases,groupBcomprised26.1%andgroupCcomprised67.0%.AlthoughpreoperativeECDwashigheringroupAthaningroupC,ofthe14casesclassifiedintogroupAonly8hadpreoperativeECDover3,000cells/mm2.Nosignificantdifferenceswerefoundamongthe3groupswithrespecttotheothercharacteristics.Conclusions:TheresultsofthisstudysuggestthatnotonlyhigherpreoperativedonorECD,butotherunknownfactorsaswell,areassociatedwithhigherpostoperativeECDoverthelongterm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):415.420,2014〕Keywords:全層角膜移植術,長期成績,角膜内皮細胞密度,ドナー,ホスト.penetratingkeratoplasty,long-term,endothelialcelldensity,donor,host.はじめにた現在でも広く行われており,フェムトセカンドレーザーな全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)は,角どの手術機器の進歩1)により,今後もさらに手術手技の向上膜内皮移植術や表層角膜移植術といったパーツ移植が広まっが期待される手術である.PKPの長期術後において,高密〔別刷請求先〕宮本佳菜絵:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KanaeMiyamoto,BaptistEyeClinic,12Kitashirakawa,Kamiikeda-cho,Sakyo-ku,Kyoto,606-8287,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)415 度のドナー角膜内皮細胞を維持することができれば理想的であり,このことにより長期間にわたって透明角膜を維持し,良好な視機能を保つことが可能となる2).PKP術後の角膜内皮細胞は,徐々に減少するとされる報告がほとんどであり3.8),林らは術後5年までの角膜内皮細胞減少率は73.2%であったと報告している6).しかし,実際の臨床現場では,こうした通常の角膜内皮細胞減少の経過をたどらず,長期術後においても非常に高密度の角膜内皮細胞を維持している症例を経験することがある.術後の角膜内皮細胞密度(endothelialcelldensity:ECD)には,ホストの原疾患やドナー年齢などが関与することは過去にも報告されているが7.9),筆者らは上述のような症例の経験から,これまでに考えられている因子だけではなく,ドナー角膜内皮細胞の健常性そのものが長期術後のECDに影響を与えるのではないかとの仮説をもっている.そこで今回,筆者らは,PKP術後5年に2,000個/mm2以上の高いECDを維持している症例の臨床的特徴を調べることにより,術後長期のECDがホスト,ドナー,手術にかかわる既知の因子と必ずしも相関しないことを証明するため,検討を行ったので報告する.I対象および方法1998.2007年までの間に,バプテスト眼科クリニックにて同一術者(SK)が施行したPKPのうち,術後5年までの臨床経過観察とECD測定が可能であり,かつ拒絶反応,続発緑内障,感染症などの重大な術後合併症を認めなかった症例,計203眼を対象とした.対象を術後5年のECDが2,000個/mm2以上である「高ECD群」,1,000個/mm2以上2,000個/mm2未満である「中ECD群」,1,000個/mm2未満である「低ECD群」の3群に分け,これらの3群の臨床的特徴に差異があるか否かを検討した.検討項目は,ホスト因子として手術時年齢,原疾患(水疱性角膜症の割合),ドナー因子としてドナー年齢,ドナー死因(急性死の割合),ドナー術前ECD,死亡から強角膜片作製までの時間,死亡から手術までの時間,手術にかかわる因子として術式(PKP単独手術の割合),移植片サイズ,手術による角膜内皮細胞減少である.また,高ECD群については術前から術後5年までの角膜内皮細胞減少率を検討した.ドナー角膜はSightLifeR,NorthWestLionsR,HawaiiLionsRのいずれかの海外アイバンクのものを用いた.ドナー死因は,心疾患や脳血管障害,外傷によるものを急性死と定義し,それ以外のものを慢性死とした.ドナー術前ECDは海外アイバンクにて測定された値を用い,術後ECDはすべて当院で非接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて測定した値を用いた.また,手術による角膜内皮細胞減少は,術後1カ月の時点で非接触型スペキュラーマイクロスコ416あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014ープの撮影が可能であった症例のみを対象とし,術前から術後1カ月までの角膜内皮細胞減少を手術によるものと定義した.II結果203眼のうち,高ECD群は14眼(6.9%),中ECD群は53眼(26.1%),低ECD群は136眼(67.0%)であった.各検討項目の結果は以下のとおりであった.1.ホストに関連する因子(図1)a.手術時年齢手術時年齢は,高ECD群で66.6±11.2歳,中ECD群で62.8±12.1歳,低ECD群で67.2±11.8歳であり,3群間に有意差は認めなかった(p=0.06KruskalWallistest).b.ホスト原疾患ホスト原疾患は,水疱性角膜症とそれ以外の疾患に分けて検討した.水疱性角膜症の割合は,高ECD群で14眼中6眼(42.9%),中ECD群で53眼中25眼(47.2%),低ECD群では136眼中75眼(55.1%)であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.47c2test).2.ドナーに関連する因子(図2)a.ドナー年齢ドナー年齢は,高ECD群で57.3±18.9歳,中ECD群で57.3±16.3歳,低ECD群で63.1±9.6歳であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.12KruskalWallistest).b.ドナー死因ドナー死因のうち急性死の占める割合は,高ECD群では14眼中9眼(64.3%),中ECD群では53眼中31眼(58.5%),低ECD群では136眼中84眼(61.8%)であり,すべての群において急性死が多かったが,3群間で有意差は認めなかった(p=0.89c2test).c.ドナー術前角膜内皮細胞密度ドナー術前ECDは,高ECD群で3,062±544.2個/mm2,中ECD群で2,919.7±368.1個/mm2,低ECD群で2,768.8±344.6個/mm2であり,高ECD群は低ECD群に比べて有意に高かった(p=0.005Steel-Dwasstest).d.死亡から強角膜片作製までの時間(分)死亡から強角膜片作製までの時間は,高ECD群で442.5±310.1分,中ECD群で358.6±165.7分,低ECD群で408.3±208.3分であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.36KruskalWallistest).e.死亡から手術までの時間(日)死亡から手術までの日数は,高ECD群で5.07±1.00日,中ECD群で5.15±1.08日,低ECD群で5.21±1.01日であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.88KruskalWallistest).(112) ab9060水疱性角膜症(%5040302010術前ECD(個/mm2)手術時年齢(歳603000高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECD図1ホストに関連する因子a:手術時年齢.b:原疾患(水疱性角膜症の占める割合).ab907060ドナー年齢(歳)急性死(%)5060403020103000高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECDc*d4,0003,0002,0001,000死亡~強角膜片(分)80060040020000高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECDe76543210高ECD中ECD低ECD図2ドナーに関連する因子死亡~手術(日)a:ドナー年齢.b:ドナー死因(急性死の占める割合).c:ドナー術前ECD.d:死亡から強角膜片作製までの時間.e:死亡から手術までの時間.3.手術に関連する因子(図3)23眼(43.4%),低ECD群では136眼中45眼(33.1%)であa.術式り,3群間で有意差は認めなかった(p=0.35c2test).術式は全層角膜移植単独手術と白内障同時手術(眼内レンb.移植片サイズズ縫着術を含む)に分けて検討した.単独手術の割合は,高移植片サイズは,高ECD群で7.68±0.18mm,中ECDECD群では14眼中4眼(28.6%),中ECD群では53眼中群で7.59±0.26mm,低ECD群で7.52±0.27mmであり,(113)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014417 ab950840手術による内皮減少(%)移植片サイズ(mm)7654100高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECDcPKP(%3020321035302520151050高ECD中ECD低ECD図3手術に関連する因子a:移植片サイズ.b:術式(PKP単独手術の割合).c:手術による角膜内皮細胞減少.3群間で有意差は認めなかった(p>0.05Steel-Dwasstest).c.手術による角膜内皮細胞減少高ECD群で19.4±13.4%(n=7),中ECD群で14.7±10.3%(n=19),低ECD群で14.9±12.9%(n=49)で,3群間で有意差は認めなかった(p>0.5Steel-Dwasstest).3群を比較検討した結果,高ECD群は低ECD群に比べてドナー術前ECDが有意に高かったが,それ以外の検討項目は3群間で有意な差を認めなかった.このことより,高いドナー術前ECDが,術後長期のECDに良好な影響を与える因子の一つであることがわかった.しかし,表1に示したように,今回高ECD群に分類された14眼の中には,ドナー術前ECDが2,000個/mm2台と決して高値ではない症例も含まれており,術後長期の高いECDにはさらに他の因子が関与していると考えられる.そこで今回,筆者らは,ドナー術前ECDが3,000個/mm2以上の症例のみを抽出し,上記と同様に,術後5年のECDによって3群に分類し,比較検討を行った.結果は,ドナー術前ECDが3,000個/mm2以上と高値である症例は203眼中54眼存在したが,その中で高ECD群に分類されたのは8眼(14.8%)のみであった.また,高ECD群に分類された8眼と,中ECD群に分類された20眼および低ECD群に分類された26眼との間で,前述の検討項目(ホスト手術時年齢,原疾患,ドナー年齢,ドナー死因,ドナー術前ECD,死亡から強角膜片作製までの時間,死亡から手術までの時間,術式,移植片サイズ,手術による角膜内皮細胞減少)すべてにおいて,有意な差異を認めなかった.418あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014高ECD群に分類された症例について,図4に術前後の前眼部写真を示した.また表1に,ホスト原疾患,ドナー年齢,ドナー術前ECD,術後5年ECD,術前から術後5年までの角膜内皮細胞減少率を示した.III考察今回の検討では,PKP術後5年に2,000個/mm2以上の高密度の角膜内皮細胞を維持する症例が,全体の6.9%(14/203眼)に存在することがわかった.また,高ECD群では低ECD群に比べてドナー術前ECDが有意に高く,ドナー術前の高密度の角膜内皮細胞が,術後長期のECDに良好な影響を与える因子の一つであることが確認できた.しかし,ドナー術前の高密度の角膜内皮細胞が3,000個/mm2以上と高値であっても,そのうち術後5年に2,000個/mm2以上の高密度の角膜内皮細胞を維持し得た症例はわずか14.8%のみであり,2,000個/mm2以上の角膜内皮細胞を維持しなかった症例と比較しても,その臨床的特徴に差異は認められなかった.このことから,術後長期のECDは,必ずしもホスト,ドナー,手術にかかわる既知の因子だけでは示されず,なんらかの未知の因子が,長期術後のECDに影響を与えている可能性が示唆された.PKPにおける術前から術後5年までの角膜内皮細胞減少率は,Bourneらの報告では58.9%9),Priceらの報告では70%10),林らの報告では73.2%6)とされている.一方,今回術後5年に2,000個/mm2以上の高密度の角膜内皮細胞を維持した症例(高ECD群)の,5年間の平均角膜内皮細胞減少(114) (1)(2)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(13)(14)図4高ECD群に分類された症例の術前および術後5年における前眼部写真(14眼中12眼)表1高ECD群の原疾患,ドナー年齢,ドナー術前・術後5年角膜内皮細胞密度ドナ一年齢ドナー術前ECD5年時ECDECD減少率(術前.5年)原疾患(歳)(個/mm2)(個/mm2)(%)1.水疱性角膜症(LIBK)502,7272,5008.32.水疱性角膜症(graftfailure)602,7942,38314.73.水疱性角膜症(PBK)463,1422,53219.44.水疱性角膜症(LIBK)473,0102,14528.75.水疱性角膜症(ABK)753,1562,16931.26.水疱性角膜症(Fuchs)34,5632,42046.97.角膜混濁752,1612,0963.08.角膜混濁572,7462,38113.29.円錐角膜582,6002,22214.510.角膜混濁493,3702,58723.311.角膜混濁683,0612,18728.812.角膜混濁712,9102,02830.313.角膜混濁703,2022,18031.914.角膜混濁733,4262,19435.9LIBK:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症.Graftfailure:移植片機能不全.PBK:偽水晶体性水疱性角膜症.ABK:無水晶体性水疱性角膜症.Fuchs:フックス角膜内皮ジストロフィ.率は23.6%であり,中に3.0%や8.3%と非常に低い症例も認められた.健常なヒトでは,角膜内皮細胞は1年で0.3.0.6%減少するとされており11),上述したような症例は,むしろ健常なヒトの角膜内皮細胞に近い経過をたどっているといえる.さらに,ホスト原疾患が水疱性角膜症であれば術後の角膜内皮細胞減少が早いとされているにもかかわらず,予想外ではあるが,高ECD群に分類された14眼のうち6眼が,ホスト原疾患が水疱性角膜症である症例であった.これらの結果は,術後長期のECDには,一般的に考えられている条件だけでは説明がつかない事象が生じているといわざるを得ない.現在,筆者らは,その一つとして,角膜内皮細胞そのものの健常性が術後長期のECDに影響を及ぼすと想定しており,本検討は筆者らの仮説を支持する結果であると考えられた.例えば,原疾患が水疱性角膜症の場合に,術後長期に高密度の角膜内皮細胞を維持したとすれば,これらの細胞群は間違いなくドナー由来のものであり,ドナー角(115)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014419 膜内皮細胞がきわめて健常であるか,場合によっては一部増殖すらしている可能性も否定できないと考えられる.今回の検討の限界として,高ECD群の対象となった症例が14眼と少ないこと,また内皮細胞の健常性の評価がまだ可能でないことがあげられる.スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮検査は,いわゆる組織構造検査であり,生理機能を検査するものではない.このため,細胞の長期の健常性を検討できるようなバイオマーカーの発見は今後不可欠なものになると思われる.今後,角膜内皮細胞の健常性の評価が可能になれば,筆者らの仮説を証明することが可能となるだけでなく,高い健常性をもつ角膜内皮細胞を選択的に採取・培養することにより,再生医療の分野においても有用な手法となることが予想される.現在,ヒト角膜内皮細胞培養でも,ドナー角膜細胞の多様性が重要であると考えられはじめている.文献1)BaharI,KaisermanI,LangeAPetal:Femtosecondlaserversusmanualdissectionfortophatpenetratingkeratoplasty.BrJOphthalmol1:73-78,20092)松原正男,木村内子,佐藤孜ほか:角膜移植片の透明性と内皮細胞面積について.臨眼38:751-755,19843)IngJJ,IngHH,NelsonLRetal:Ten-yearpostoperativeresultsofpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology105:1855-1865,19984)PatelSV,HodgeDO,BourneWMetal:Cornealendotheliumandpostoperativeoutcomes15yearsafterpenetratingkeratoplasty.AmJOphthalmol139:311-319,20055)HayashiK,KondoH,MaenoAetal:Long-termchangesincornealendothelialcelldensitiyafterrepeatpenetratingkeratoplastyineyeswithendothelialdecompensation.Cornea32:1019-1025,20136)BourneWM:One-yearobservationoftransplantedhumancornealendothelium.Ophthalmology87:673-679,19807)ObataH,IshidaK,MuraoMetal:Cornealendothelialcelldamageinpenetratingkeratoplasty.JpnJOphthalmol4:411-416,19918)WagonerMD,Gonnahel-S,Al-TowerkiAEetal:Outcomeofprimaryadultopticalpenetratingkeratoplastywithimporteddonorcorneas.IntOphthalmol2:127-136,20109)BourneWM,HodgeDO,NelsonLRetal:Cornealendotheliumfiveyearsaftertransplantation.AmJOphthalmol118:185-196,199410)PriceMO,FairchildKM,PriceDAetal:Descemet’sstrippingendothelialkeratoplastyfive-yeargraftsurvivalandendothelialcellloss.Ophthalmology118:725-729,201111)BourneWM,NelsonLR,HodgeDO:Centralcornealendothelialcellchangesoveraten-yearperiod.InvestOphthalomolVisSci38:779-782,1997***420あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(116)

炭酸脱水酵素阻害薬長期点眼による角膜内皮への影響

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1151.1154,2013c炭酸脱水酵素阻害薬長期点眼による角膜内皮への影響舘野寛子*1城信雄*1南野桂三*2安藤彰*3南部裕之*1,4松村美代*4髙橋寛二*1*1関西医科大学附属枚方病院眼科*2関西医科大学附属滝井病院眼科*3あんどう眼科クリニック*4永田眼科Long-TermInfluenceofCarbonicAnhydraseInhibitorEyedropsonCornealEndotheliumHirokoTateno1),NobuoJo1),KeizoMinamino2),AkiraAndo3),HiroyukiNambu1,4),MiyoMatsumura4)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityTakiiHospital,3)AndoEyeClinic,4)NagataEyeClinic炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)点眼の長期継続による角膜内皮への影響を検討した.対象はCAI点眼を6年以上継続し,経過中に内眼手術やレーザー治療歴がなく,経過観察中に眼圧が21mmHgを超えなかった原発開放隅角緑内障10例14眼.平均観察期間±標準偏差89.1±13.4カ月,平均年齢±標準偏差61.3±11.3歳.角膜内皮細胞密度は,点眼開始前2,698±429個/mm2,最終観察時2,575±526個/mm2で,1年当たりの平均減少率は0.58%であり,正常な成人の角膜内皮細胞密度の減少の報告と差はなかった.ただし,2%/年以上の減少を認めた例が6眼あり,手術既往のないものも4眼あった.症例によってはCAIの長期点眼による角膜内皮細胞密度減少の可能性が示唆され,定期的な内皮測定を行う必要があると思われた.Wereviewedtheeffectofcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)eyedropsoncornealendotheliumoverlong-termadministration.Reviewedwere14eyesof10cases;averageagewas61.3years.Innormaltensionglaucomaandprimaryopenangleglaucoma,CAIeyedropswerecontinuedformorethan6years,duringacoursewithnohistoryofintraocularsurgeryorlaser;intraocularpressuredidnotexceed21mmHg.Themeanobservationperiodwas89.1months.Themeancornealendothelialcelldensitywas2,698±429/mm2beforeeyedropinitiationand2,575±526/mm2atlastobservation.Although6eyesshowedadensitydecreaseofmorethan2%/year,theaveragereductionrateperyearwas0.58%,whichwaswithintherangeofthenaturalreductionrate.However,endothelialcelldensitywasreducedbymorethan2%peryearinthe4cases,withoutsurgicalhistory.Insomecases,decreaseincornealendotheliumseemedduetolong-termuseofCAIeyedrops.Withlong-termuseofCAIeyedrops,itisnecessarytoperiodicallymeasurethecornealendothelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1151.1154,2013〕Keywords:炭酸脱水酵素阻害薬点眼,角膜内皮細胞密度.carbonicanhydraseinhibitor,cornealendothelium.はじめに炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の点眼薬であるドルゾラミド〔トルソプトR,MSD(株)〕は発売後約14年,ブリンゾラミド〔エイゾプトR,日本アルコン(株)〕は同約10年経過し,緑内障治療薬のなかで追加点眼薬として広く使用されている.CAI点眼薬の角膜内皮への影響については複数報告1.10)されているが,いずれも2年以内の短期間の報告であり,短期間では影響はなかったと結論づけられている.しかし,長期間の影響は報告されておらず,また不可逆性の角膜浮腫に至った症例の報告5,11)もあることから,CAIの長期点眼による影響を検討するため筆者らはCAI点眼薬発売から現在までCAIを連続して点眼し,定期的に経過観察できている症例を検出し,そのなかでCAI点眼開始前に角膜内皮細胞密度を測定していた症例に今回角膜内皮細胞密度を測定し,CAIの角膜内皮への影響を検討した.〔別刷請求先〕舘野寛子:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学枚方病院眼科Reprintrequests:HirokoTateno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata-city,Osaka573-1191,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)1151 I対象および方法2001年から2006年の間に関西医科大学附属病院でCAI点眼薬(ドルゾラミドもしくはブリンゾラミド)による治療を開始され,治療開始時に角膜内皮細胞密度を測定し,かつ以下の4条件をすべて満たした10例14眼(男性7例10眼,女性3例4眼)を対象とした.①原発開放隅角緑内障(POAG)および正常眼圧緑内障(NTG),②CAI点眼薬を6年以上継続して点眼していること,③治療開始後に内眼手術やレーザー治療,眼外傷歴がないこと,④CAI点眼薬使用中に眼圧が21mmHgを超えていないこと.症例はPOAG12眼,NTG2眼で,観察期間は73.128カ月(平均89.1カ月),点眼開始時の年齢は37.70歳(平均61.3歳)であった.CAI点眼薬開始前に投与されていた点眼はマレイン酸チモロール7眼,塩酸カルテオロール4眼,ラタノプロスト11眼で,点眼を複数併用していた症例があった(表1)が,CAI点眼開始後にさらに追加された点眼薬はなかった.CAI点眼薬開始前の手術既往は,線維柱帯切除術+白内障手術が3眼,線維柱帯切開術+白内障手術が1眼,水晶体.外摘出術が1眼あったが,すべて2年以上前に施行されていた.角膜内皮細胞数は,非接触型スぺキュラーマイクロスコープ(トプコン社SP2000-P)にて測定した.CAI点眼薬開始前と最終観察時に患者の中央部角膜内皮を撮影し,CAI点眼薬開始前と最終観察時で角膜内皮細胞密度を対応のあるt検定で比較した.表1CAI点眼開始前に使用していた点眼薬塩酸カルテオロール単独3眼ラタノプロスト単独2眼塩酸カルテオロール+ラタノプロスト2眼マレイン酸チモロール+ラタノプロスト7眼角膜内皮細胞密度(個/mm2)4,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000500035II結果1.CAI点眼薬開始前と最終観察時の角膜皮細胞密度の変化(図1)角膜内皮細胞密度は,点眼開始前2,698±429個/mm2,最終観察時2,575±526個/mm2であり,点眼開始前と最終観察時で有意差はなかった(p=0.47).1年当たりの平均減少率は0.58%であった.すべての症例で糖尿病,コンタクトレンズ装用歴はなかった.しかし,6眼に2%/年以上の角膜内皮細胞密度の減少が認められた.それらは全例60歳以上で,2眼に緑内障,白内障の手術歴があった(表2).2.CAI点眼薬開始前後の眼圧変化眼圧±標準偏差は,CAI点眼開始前は平均18.5±2.70mmHg(12.24mmHg),最終観察時は平均14.8±3.26mmHg(12.20mmHg)であった.経過中に21mmHgを超えた症例はなかった.3.手術既往の有無での検討(図2)CAI点眼開始前に手術既往がある5眼の角膜内皮細胞密度は,点眼開始前2,594±495個/mm2,最終観察時2,384±593個/mm2で,1年間の平均減少率は0.92%/年であった.手術既往がない9眼は,点眼開始前2,804±397個/mm2,最終観察時2,551±4,283個/mm2で,平均減少率は0.01%/年であった.対応のあるt検定では手術既往の有無でこの2群に有意差はなかった(p=0.62)が,手術既往のあるほうが減少する傾向がみられた.III考按CAI点眼薬は,毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素のII型アイソザイムを阻害することにより,房水産生を抑制し眼圧を下降させる抗緑内障薬である.その一方,角膜実質内からの水分の流入を調節するポンプ作用をする炭酸脱水酵素のアイソザイムも減弱させるため,角膜含水量が増加年齢(歳)455565758595:CAI開始前:最終観察時:2%/年以上の減少図1全症例のCAI点眼開始前と最終観察時の角膜内皮細胞密度の変化1152あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(108) 表2角膜内皮細胞密度減少率の高かった6症例症例点眼開始年齢(歳)性別CAI点眼開始前内皮細胞密度(個/mm2)最終観察時内皮細胞密度(個/mm2)点眼年数(カ月)1年当たりの減少率手術既往併用点眼166男3,1392,439992.78%なしなし(塩酸カルテオロール中止)261男3,1252,540842.57%なし塩酸カルテオロールラタノプロスト361男3,2882,543843.14%なし塩酸カルテオロールラタノプロスト463女2,7401,857934.57%CAI点眼開始3年前に線維柱帯切開術+PEA+IOLマレイン酸チモロールラタノプロスト565男2,8872,467732.33%なしマレイン酸チモロールラタノプロスト667男2,9162,220962.87%CAI点眼開始3年前に線維柱帯切除術+PEA+IOL1年前に線維柱帯切除術塩酸カルテオロール角膜内皮細胞密度(個/mm2)2,804±3972,5002,0001,5001,00050002,594±4952,384±5932,551±4,283CAI点眼最終CAI点眼最終開始前観察時開始前観察時手術既往あり5眼手術既往なし9眼図2手術既往の有無による角膜内皮細胞密度の変化の比較し,角膜内皮障害をきたしたとの報告がある5).一方で,CAI点眼薬開始後2年以内の報告では角膜内皮細胞密度の有意な減少はなかったとも報告されている10).今回の検討では6年以上CAI点眼薬を継続点眼している症例であっても,CAI点眼前後で角膜内皮細胞密度に有意な減少を認めなかった.正常なヒト中央角膜内皮細胞密度は1年当たり平均約0.3.1.0%減少するとの報告があり12.17),今回は平均0.58%と成人の自然減少率と差がなかった.橋本ら10)は,内眼手術既往例に角膜内皮細胞密度が著明に減少した症例があったと報告しており,安藤ら11)が報告した不可逆性の浮腫で報告された症例も内眼手術既往例であり,角膜内皮細胞密度は1,100個/mm2程度に減少した症例であった.本報告では内眼手術既往の有無で有意差はなかったが,CAI点眼開始前に手術既往があるほうが角膜内皮細胞密度は減少する傾向がみられた.手術既往眼では手術侵襲による内皮障害の影響がある可能性もあるので,CAI点眼薬使用時には角膜内皮を確認し,内皮細胞密度が1,000個/mm2以下に減少しているなど,水疱性角膜症を発症する可能性が考えられる症例では違う点眼薬を使用したほうがよいと思われた.一方で,今回(109)手術既往のない症例でも年2%以上の角膜内皮細胞密度が減少した例が4眼あった.これらの症例で糖尿病,コンタクトレンズ装用,眼圧上昇など他に角膜内皮細胞密度減少の原因となるものはなかったが,2%/年以上の減少率を認めたのは全例60歳以上であった.今回は症例数が少なく,年齢による精密な検討はできなかったが,高齢でCAI点眼薬を長期使用した際に角膜内皮細胞密度が減少している傾向がみられたことから,今後さらに症例数を増やし,年齢による検定を行うなど,どのような症例で角膜内皮に影響を及ぼしやすいのかも具体的に検討する必要があると思われた.今回の検討ではドルゾラミドとブリンゾラミドを切り替えて継続使用していた症例も含んでおり,2剤を分けて検討はしていないが,過去に報告されているかぎり,両薬剤間で角膜内皮への短期の影響については著明な差はないようである.また,併用していたbブロッカーやラタノプロストについては,角膜内皮への薬理作用ははっきりしておらず,過去の報告ではそれぞれ単剤使用や,CAIとの併用でも短期では点眼角膜内皮細胞密度に影響はなかったとの報告が多い18.23)が,CAI自体が臨床的に緑内障点眼のなかでも追加薬剤として使用されるため,単剤での効果を検討することは困難であるのが現状である.今回の検討では,角膜内皮の測定は点眼開始前および最終観察時にそれぞれ1回ずつしか測定しておらず,誤差があると考えられるため,さらに症例数を増やして検討する必要があると思われた.IV結論CAI点眼薬を6年以上継続使用している症例においても平均の角膜内皮細胞密度の減少率は自然減少の範囲内であり,正常の内皮細胞密度の症例に使用するには影響はないとあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131153 考えられるが,高齢者や手術既往例などの症例によってはCAI点眼薬の長期点眼により角膜内皮細胞密度が減少する可能性が示唆された.CAI点眼薬を長期間投与する際には,自然減少率を超える内皮細胞の減少がないかをCAI点眼投与前と投与後に1年に1回など定期的に角膜内皮細胞密度を測定し,自然減少率を超える内皮細胞の減少が認められた場合は点眼の変更を検討する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WilkersonM,MarshallC,ErikAetal:Four-weeksafetyandefficacystudyofdorzolamide,anovel,activetopicalcarbonicanhydraseinhibitor.ArchOphthalmol111:1343-1350,19932)CatberineAE,DavvidOH,JayWMetal:Effectofdorzolamideoncornealendotherialfunctioninnormalhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci39:23-29,19973)KaminskiS,HommerA,KoyuncuDetal:Influenceofdorzolamideoncornealthickness,endotherialcellcountandcornealsensibility.ActaOphthalmolScand76:78-79,19984)JonathanHL,SamerAK,JaurenceJKetal:Adouble-masked,randomized,1-yearstudycomparingthecornealeffectsofdorzolamide,timolol,andbetaxolol.ArchOphthalmol116:1003-1010,19985)KonowalA,MorrisonJC,BrownSVetal:Irreversiblecornealdecompensationinpatientstreatedwithtopicaldorzolamide.AmJOphthalmol127:403-406,19996)ClaudeJD,TuanQT,HeleneMBetal:Dorzolamideandcornealrecoveryfromedemainpatientswithglaucomaoroccularhypertention.AmJOphthalmol129:144-150,19997)SrinivasSP,OngA,ZhaiCBetal:Inhibitionofcarbonicanhydraseactivityinculturedbovinecornealendotherialcellsbydorzolamide.InvestOphthalmolVisSci43:32733278,20028)InoueK,OkugawaK,OshitaTetal:Influenceofdorzolamideoncornealendothelium.JpnJOphthalmol47:129133,20039)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,200610)橋本尚子,原岳,青木由紀ほか:ブリンゾラミド長期点眼による角膜への影響.あたらしい眼科25:711-713,200811)安藤彰,宮崎秀行,福井智恵子ほか:炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例.臨眼59:1571-1573,200512)MurphyC,AlvaradoJ,JusterRetal:Prenatalandpostnatalcellularityofthehumancornealendothelium.Aquantitativehistologicstudy.InvestOphthalmolVisSci25:312-322,198413)ChengH,JacobsPM,McPhersonKetal:Precisionofcelldensityestimatesandendothelialcelllosswithage.ArchOphthalmol103:1478-1481,198514)AmbroseVM,WaltersRF,BatterburyMetal:Longtermendothelialcelllossandbreakdownoftheblood-aqueousbarrierincataractsurgery.JCataractRefractSurg17:622-627,199115)NumaA,NakamuraJ,TakashimaMetal:Long-termcornealendothelialchangesafterintraocularlensimplantation.Anteriorvsposteriorchamberlenses.JpnJOphthalmol37:78-87,199316)BourneWM,NelsonLR,HodgeDO:Centralcornealendotherialcellchangesoveraten-yearperiod.InvestOphthalmolVisSci38:779-782,199717)HatouS,ShimmuraS,ShimazakiJetal:MathematicalprojectionmodelofvisuallossduetoFuchscornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci52:7888-7893,201118)AlankoHI,AiraksinenPJ:Effectoftopicaltimololoncornalsendotherialcellmorphologyinvivo.AmJOphthalmol96:615-621,198319)LassJH,ErikssonGL,OsterlingLetal:Comparisonofthecornealeffectsoflatanoprost,fixedcombinationlatanoprost-timolol,andtimolol:Adouble-masked,randomized,one-yearstudy.Ophthalmology108:264-271,200120)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeffectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,200821)星野美佐子,山田利津子,真鍋雄一ほか:開放隅角緑内障に対するピロカルピン及びチモロール点眼治療の角膜内皮に及ぼす影響.眼臨88:1842-1844,199422)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:ラタノプロスト,ウノプロストン,水溶性チモロール点眼の角膜内皮への影響.眼臨紀1:1210-1215,200823)山田英里,山田晴彦,山崎有加里ほか:リズモンTGTMによると考えられる重症角膜障害の1例.眼紀53:800-803,2002***1154あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(110)

EX-PRESSTMを用いた濾過手術の術後早期成績:Trabeculectomyとの比較

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1563.1567,2012cEX-PRESSTMを用いた濾過手術の術後早期成績:Trabeculectomyとの比較前田征宏近藤奈津大貫和徳岐阜赤十字病院眼科EarlyOutcomesofEX-PRESSTMGlaucomaFiltrationDeviceVersusTrabeculectomyinJapanesePrimaryOpenAngleGlaucomaPatientsMasahiroMaeda,NatsuKondoandKazunoriOnukiDepartmentofOphthalmology,GifuRedCrossHospital新しい緑内障手術装置EX-PRESSTMの術後早期成績を,従来のtrabeculectomy(TLE)と比較した.対象はEXPRESSTMを用いた緑内障濾過手術を受けた原発開放隅角緑内障(POAG)患者10例10眼(EX-PRESSTM群)と,同時期にTLEを行ったPOAG患者10例10眼(TLE群)である.EX-PRESSTM群では術中の前房消失,眼球虚脱,前房内への出血は認めなかったが,TLE群では虹彩切除時に一過性の前房消失を,また無硝子体眼において眼球虚脱を認めた.角膜内皮細胞密度の変化は認めなかった.眼圧は術前EX-PRESSTM群30.3±9.9mmHg,TLE群26.9±10.3mmHgであり,術後3カ月の平均眼圧はEX-PRESSTM群が13.3±9.7mmHg,TLE群が8.9±4.2mmHgで両群に有意差は認めなかった.Wecomparedearlysurgicaloutcomesforprimaryopenangleglaucomain10eyestreatedwiththeEX-PRESSTMGlaucomaFiltrationDeviceand10eyestreatedwithtrabeculectomy(TLE).DuringsurgeryintheTLEgroup,transientanteriorchambercollapsewasseeninallcases,eyeballcollapsewasseenin1case.IntheEXPRESSTMgroup,noanteriororeyeballcollapsewasseen,eveninvitrectomizedeye.Meanintraocularpressuredecreasedfrom30.3±9.9mmHgto13.3±9.7mmHgintheEX-PRESSTMgroupandfrom26.9±10.3mmHgto8.9±4.2mmHgintheTLEgroupat3months.Nostatisticallysignificantchangeincornealendothelialcelldensitywasseenineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1563.1567,2012〕Keywords:エクスプレスTM,トラベクレクトミー,角膜内皮細胞密度.EX-PRESSTM,trabeculectomy,cornealendothelialcelldensity.はじめに緑内障の手術療法では大きく流出路手術と濾過手術に分けられるが,濾過手術の一つであるマイトマイシンC(MMC)併用trabeculectomy(TLE)が眼圧下降の点で最も優れた術式である.MMC併用TLEは現在緑内障手術の標準的な治療方法であり,適切な手術と術後管理により十分な眼圧下降が得られる術式であるが,術後低眼圧や房水漏出,晩期感染症が問題となるため,中・高齢者や中期以降の進行した緑内障,血管新生緑内障や閉塞隅角緑内障が適応となる1).また,術中虹彩切除時の出血や急激な眼圧変動による眼球の虚脱など,手術に伴うリスクも大きな問題である.EX-PRESSTM(AlconInc.,ForthWorth,TX)は濾過手術において使用する緑内障インプラントの一つで,強膜弁下に留置することで前房から濾過胞へと房水を導く,ステンレス製のノンバルブチューブである.わが国でも平成23年に厚生労働省の承認を得ている.EX-PRESSTMはTLEの術中および術後早期の合併症を減らしつつ,従来のTLEと同等かそれ以上の成績が報告されている.わが国でもSugiyamaらがTLEと比べ術後眼圧に有意差がないことを報告し,また,術後早期においてTLEよりもEX-PRESSTM群で視力が良〔別刷請求先〕前田征宏:〒502-8511岐阜市岩倉町3-36岐阜赤十字病院眼科Reprintrequests:MasahiroMaeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuRedCrossHospital,3-36Iwakura-cho,Gifu5028511,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(113)1563 好であったと報告している2.6).前房内インプラント手術では角膜内皮細胞密度の減少が危惧されるが,今回筆者らはEX-PRESSTMを使用する経験を得たので,術後早期手術成績および角膜内皮細胞密度の変化を,同時期に行ったTLEと比較報告する.I対象および方法平成21年4月1日より平成24年3月31日までに当院眼科を受診した,点眼・内服にてコントロール不良の原発開放隅角緑内障(POAG)患者で,本手術を受けることに同意が得られ,術後3カ月以上経過観察ができた10例10眼(EXPRESSTM群)をレトロスペクティブに検討した.比較対象として同時期にTLEを行ったPOAG10例10眼(TLE群)と比較し,術後3カ月の早期結果をまとめた.本手術は当院倫理委員会の承認を得て行い,すべての患者に書面による同意を得て行った.患者にはTLEとEXPRESSTM手術について十分説明し,自由意思にて手術術式を選択させた.今回の調査ではPOAGのみを対象とし,偽落屑症候群,外傷やぶどう膜炎などの続発緑内障は調査対象外とした.また,両眼EX-PRESSTM手術を行った患者は先に手術を行った眼を採用した.手術はすべて同一術者が行った.術前抗菌点眼薬および非ステロイド消炎点眼薬の前処置を行った.術前に2%ピロカルピン点眼を用いて縮瞳し,点眼麻酔後円蓋部より27ゲージ(G)鋭針を用いて2%キシロカインRにて後部Tenon.下麻酔を行った.上輪部に制御糸をかけ眼球を下転し,円蓋部基底結膜切開を行った.Tenon.を.離した後,強膜の半層の深さで3mm×3mmの強膜弁を1層作製した.0.04%MMCを3分間作用させ,balancedsaltsolution(BSS)図1Blue-GrayzoneEX-PRESSTMを挿入する際はこの部位に虹彩と平行になるように心がけて挿入する.200mlにて洗浄した.25Gあるいは26G針にて虹彩と平行になるようにBlue-Grayzoneとよばれる部位に予備穿刺し(図1),同部位にEX-PRESSTM,P-50を挿入した.強膜を10-0ナイロン糸にて房水がわずかに漏れる程度に術者の判断で2.4針縫合し,結膜を8-0バイクリル糸にて房水漏出のないように縫合した.輪部から漏出が生じないよう10-0ナイロン糸にて輪部と平行にblockingsutureを行った.術後は術前に使用していた眼圧下降薬はすべて中止し,ベタメタゾン点眼液を2週間2時間ごとの頻回点眼,および抗菌点眼薬と非ステロイド消炎鎮痛点眼薬(NSAIDs)の点眼を行った.TLEはEX-PRESSTMと同様の術前処置,結膜切開,MMC作用で行った.縫合もEX-PRESSTMと同様に強膜弁縫合は術者の判断で2.4針,結膜は8-0バイクリル糸にて縫合し,blockingsutureを行った.相違点としては,強膜2層弁を作製し深層強膜弁を切除後,強角膜ブロックを切除,虹彩切除を行った.術後眼圧,前房深度,濾過胞の状態を見て,術者の判断でレーザー切糸を行った.術前および術後翌日,1・2週,1・3カ月の各診察日の視力,眼圧,使用眼圧下降薬数,角膜内皮細胞密度および合併症を調べた.点眼は眼圧下降点眼を1点,合剤および炭酸脱水酵素阻害薬の内服は2点としてスコア化し計算を行った.統計学的検討は眼圧,点眼数,内皮細胞密度の群間比較はStudent-ttestを,群内比較はpaired-ttestを,合併症はFisher’sexacttestをそれぞれ用い,p<0.05を統計学的有意とした.II結果EX-PRESSTM群は平均年齢70.8±11.7歳,男性5眼,女性5眼,TLE群は平均年齢75.2±12.0歳,男性9眼,女性1眼であった.患者背景を表1に示す.すべての項目で統計学的な有意差は認めなかったが,性別はTLE群で男性が多い傾向であった(p=0.07).術前平均眼圧はEX-PRESSTM群では30.3±9.9mmHg,TLE群26.9±10.3mmHgであり,両群に有意差は認めなかった.術前点眼スコアにも有意差は認めなかった.図2に術後眼圧経過を示す.術後3カ月目の平均眼圧はEXPRESSTM群が13.3±9.7mmHg,TLE群が8.9±4.2mmHgで両群に有意差は認めなかった(p=0.21).すべての観察期間において術後眼圧および点眼スコアに両群で有意差は認めなかった.表2に合併症の頻度を示す.手術中,EX-PRESSTM挿入前後で前房が消失することはなく,手術終了まで十分な前房深度を保ったまま手術を行うことが可能であった.2例では1564あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(114) 表1患者背景:両群の術前データEX-PRESSTM群n=10TLE群n=10p値年齢(歳)70.8±11.775.2±120.417平均±SD性別0.070男性59女性51術眼0.185右眼63左眼47緑内障手術既往歴0.175あり(流出路手術)25なし85硝子体手術既往歴0.500あり12なし98角膜内皮細胞密度個/mm22,328±6452,239±3940.715水晶体の状態0.453有水晶体12眼内レンズ挿入眼97無水晶体01術前点眼スコア平均±SD3.6±1.33.2±1.00.326術前眼圧(mmHg)平均±SD30.3±9.926.9±10.30.461Trabeculectomy(TLE)群で男性が多い傾向があるものの統計学的な有意差は認めなかった.その他の項目においても統計学的な有意差は認めない.0510152025303540450123眼圧(mmHg):EX-PRESSTM:TLE術後観察期間(月)図2術後眼圧経過すべての点で両群に有意差は認めなかった.術前に硝子体手術がすでになされていたが,術中の眼球虚脱は認めなかった.術翌日にEX-PRESSTM群において2例で低眼圧とそれに伴う軽度の脈絡膜.離をきたしたが,前房は深く保たれており,脈絡膜.離は2週間以内に消失した.術後2週間以内に3例でレーザー切糸を行ったところ,2例で過剰濾過となり(115)表2合併症の頻度EX-PRESSTM群TLE群(n=10)(n=10)p値術中の前房消失010<0.01術後2週目での5mmHg以下の低眼圧350.32脈絡膜.離250.17TLE群では虹彩切除時に前房の虚脱を認めたが,EX-PRESSTM群では認めなかった.結膜上から縫合を追加した.術後3カ月目に1例needlingを行った.前房出血やフィブリンの析出は認めなかった.TLE群ではごく軽度のものを含めて5例で脈絡膜.離を生じた.そのうち1例で低眼圧黄斑症を生じ矯正視力が術前1.0から術後0.5まで低下したが,その後全例自然消失し視力も回復した.1例でレーザー切糸を行った.1例で術前硝子体手術が行われており,虹彩切除時に眼球の虚脱を認めた.また,虹彩切除時に全例で前房の一時的な消失を認めた.術後前房内のフィブリン析出は認めなかったが,軽度の前房細胞を全例で認めた.術後2カ月,および3カ月の時点で各1例ずつneedlingを行った.角膜内皮細胞密度はEX-PRESSTM群では術前,術後3カ月においてそれぞれ2,328±645個/mm2,2,306±802個/mm2(p=0.94),TLE群では2,239±394個/mm2,2,217±467個/mm2(p=0.80)で両群とも有意な変化を認めなかった.術前と術後3カ月時点での視力低下は群内・群間とも有意差を認めなかった.III考察EX-PRESSTMは1999年にOptonol社より発売され,その後2010年からはAlcon社より発売されている緑内障インプラントである.本装置は全世界ですでに8万眼以上使用され,緑内障手術のスタンダードとされるMMC併用TLEと同等以上の手術成績と,TLEよりも少ない周術期合併症が報告されている2.7).EX-PRESSTMは内径が200μmのP-200とP-200の内筒に150μmの支柱を取り付け有効内径50μmとしたP-50があるが,世界的には90%以上P-50が使用されている.本装置はバルブのないステンレススチールでできており,3テスラのMRI(磁気共鳴画像)に対して位置異常を認めなかったと報告されている8.10).本手術は強膜弁下から前房内に装置を挿入するのみであり,術中に急激に眼圧低下をきたし前房消失する危険が少ないこと,虹彩切除を行わないため,虹彩切除時の出血がなく術後の前房内炎症が少ないこと,前房内から強膜弁下に流れる房水の量が術者によらず一定にコントロールされることが利点である.あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121565 特に硝子体手術を行ったあとの無硝子体眼では,通常のMMC併用TLEでは前房内に穿孔後,虹彩切除をして強膜弁縫合をするまでに,眼球が虚脱することがあるが,本装置を用いた場合,眼球が虚脱することがなく手術を完遂することが可能である.今回初期10症例の成績を示したが,全例で術中の前房消失は認めなかった.術後のレーザー切糸で低眼圧をきたした症例があったが,その後の処置にて改善された.術後の炎症反応はTLE群では軽度の前房細胞を認めたが,虹彩切除に伴う出血と考えられ,追加の処置は行わなかった.EX-PRESSTMは前房から流れ出る房水量を一定にコントロールすることが可能であるが,強膜弁下から先の経路は通常のTLEと同等であり,強膜弁の縫合が緩ければ過剰濾過を,強すぎれば濾過不十分となりうる.今回の結果では術後早期の低眼圧やレーザー切糸後の過剰濾過がみられたが,これはEX-PRESSTMによる合併症ではなく,従来の濾過手術でも認められる強膜弁の縫合の程度の問題であり,強膜弁をややきつめに縫合し,術後経過をみて本手術に合わせて慎重にレーザー切糸を行うことで対応可能であると考えられる.EX-PRESSTM固有の問題として,装置の閉塞,角膜内皮細胞密度の減少が考えられるが,これらの合併症は今回の検討では認めなかった.やや虹彩側に向けて挿入された術後の前眼部OCT(光干渉断層計)画像を図3に示す.この症例ではEX-PRESSTMと虹彩との接触はみられないが,これ以上虹彩側に向くと装置の閉塞の可能性があると考えられる.角膜内皮細胞密度についてはこれまで報告はなく,今回の検討で少なくとも術後3カ月程度の短期においては有意な変化を認めないと考えられる.装置を正しい位置に虹彩と平行に挿入することができず,虹彩側,あるいは角膜側へ向けて刺入した場合は,虹彩嵌頓による装置の閉塞,角膜内皮細胞密度の減少の可能性があるため,予備穿刺とそれに続く装置の挿入の際は特に注意が必要である.内皮細胞密度の変化につい図3術後前眼部OCT写真やや虹彩側に向いているが,先端は虹彩とは接触していない.ては中長期間で注意する必要がある.また,両群とも強い術後炎症は認めなかったが,両群の炎症を比較するには出血が消退したのちにレーザーセルフレアメータによる測定が望ましいと考えられる.従来のTLEと術後眼圧は同等で合併症の頻度が少ないという報告であるが,今回の結果でも症例数が少ないながらも術中の前房消失,虹彩出血や脈絡膜出血といったTLEで生じうる合併症はなく,TLEと比べ術中の前房消失や眼球虚脱は認めなかった.術後の眼圧経過では有意差はないもののEX-PRESSTM群のほうがやや高い結果となった.これは以下二つの理由が考えられる.一つはTLEでは強膜2層弁を作製し深層強膜弁を切除しているため,deepsclerectomyの作用が加わっていること,二つ目は,行い慣れたTLEと異なり,本装置の術後経過観察では早期にレーザー切糸をして,前房が消失するのを防ぐため,レーザー切糸のタイミングが遅くなった可能性が考えられる.後者は術後管理に改善の余地があることを示すと考えられる.濾過手術は手術手技のみで術後成績が決まるのではなく,術後点眼や処置を含めた濾過胞全体の管理が重要である.本手術の長期成績を論じるには,厳密にはEX-PRESSTMの術後管理に習熟したのち,強膜1層弁で行ったTLEとの比較を行うべきである.しかしながら,従来のTLEで生じる術中・術後早期合併症を考慮すると,装置を正しい位置で虹彩と平行に挿入することなど,いくつかの注意点を十分理解したうえで本手術を行うことで,EX-PRESSTMは濾過手術をより安全に行うための非常に有用な装置となると考えられる.文献1)本庄恵:緑内障手術のEBMトラベクレクトミーvs.トラベクロトミー.眼科手術25:4-9,20122)deJongL,LafumaA,AguadeASetal:Five-yearextensionofaclinicaltrialcomparingtheEX-PRESSglaucomafiltrationdeviceandtrabeculectomyinprimaryopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol5:527-533,20113)KannerEM,NetlandPA,SarkisianSRJretal:Ex-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderascleralflapaloneorcombinedwithphacoemulsificationcataractsurgery.JGlaucoma18:488-491,20094)SugiyamaT,ShibataM,KojimaSetal:Thefirstreportonintermediate-termoutcomeofEx-PRESSglaucomafiltrationdeviceimplantedunderscleralflapinJapanesepatients.ClinOphthalmol5:1063-1066,20115)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol151:507-513,20116)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:Comparisonoftrabe1566あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(116) culectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20077)NyskaA,GlovinskyY,BelkinMetal:BiocompatibilityoftheEx-PRESSminiatureglaucomadrainageimplant.JGlaucoma12:275-280,20038)DeFeoF,RoccatagliataL,BonzanoLetal:MagneticresonanceimaginginpatientsimplantedwithEx-PRESSstainlesssteelglaucomadrainagemicrodevice.AmJOphthalmol147:907-911,911el,20099)SeiboldLK,RorrerRA,KahookMY:MRIoftheEx-PRESSstainlesssteelglaucomadrainagedevice.BrJOphthalmol95:251-254,201110)GeffenN,TropeGE,AlasbaliTetal:IstheEx-PRESSglaucomashuntmagneticresonanceimagingsafe?JGlaucoma19:116-118,2010***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121567

急性原発閉塞隅角症の僚眼に対する異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(109)861《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):861.864,2011c急性原発閉塞隅角症の僚眼に対する異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化西野和明吉田富士子新田朱里齋藤三恵子齋藤一宇医療法人社団ひとみ会回明堂眼科・歯科ComparisonofCornealEndothelialCellDensityafterDifferentTherapiesfortheFellowEyesinCasesofUnilateralAcutePrimaryAngle-ClosureKazuakiNishino,FujikoYoshida,AkariNitta,MiekoSaitoandKazuuchiSaitoKaimeidohOphthalmic&DentalClinic目的:急性原発閉塞隅角症(あるいは緑内障)=APAC(G)の僚眼に対しては発作を予防する目的でレーザー虹彩切開術(LI)や超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)などが行われるが,それらの異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化を比較検討した.対象および方法:対象は過去23年間に回明堂眼科・歯科を受診し,片眼がAPAC(G)と診断された症例の僚眼で原発閉塞隅角症(疑いや緑内障も含む)と診断された53眼,男性6眼,女性47眼.発症時の平均年齢は69.4±8.3歳,APAC(G)発症からの平均観察期間は85.1±68.9カ月.症例を3群に分類,LIのみを施行したLI群(24眼),PEA+IOLのみを施行したPEA群(9眼),LIを最初に施行し後日PEA+IOLを行ったLI-PEA群(20眼).計画的.外摘出術,周辺虹彩切除術など各種緑内障手術を施行した症例を除外した.それぞれの群で術前と術直後,術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度を比較検討.LIとPEAに要したエネルギー量も比較検討した.結果:角膜内皮細胞密度の術前術後の変化で有意差が認められたのは,LI-PEA群の術前と最終観察日の比較のみで(p<0.005),2,615.1±585.2cells/mm2から1,955.6±526.5cells/mm2へと減少した.LIに要したエネルギーは有意差はないが,LI-PEA群がLI群より多く(p=0.083),PEAに要したエネルギーもLI-PEA群がPEA群より多かった(p<0.05).結論:APAC(G)の僚眼に対する治療としてLI-PEAが選択された場合,角膜内皮細胞密度はかなり減少した.これはLI-PEA群でLIやPEAに要したエネルギー量が他群より多かったためと考えられる.LIに多くのエネルギーを使用した症例でその後にPEA+IOLが行われる場合,角膜内皮細胞の減少に注意する必要がある.Purpose:Toretrospectivelydeterminethelong-termoutcomeofcornealendothelialcelldensityafterdifferenttherapiesforthefelloweyesincasesofunilateralacuteprimaryangle-closure(APAC).Methods:Subjectscomprised53individualswhowereexaminedatKaimeidohOphthalmic&DentalClinicduringthepast23years,atameantimepointof85.1±68.9monthsafteraunilateralepisodeofAPAC.Subjectswereclassifiedinto3groups:thelaseriridotomy-onlygroup(LI;24eyes),thephacoemulsification,aspirationandintraocularlensimplantationgroup(PEA+IOL;9eyes)andthePEAafterLIgroup(LI-PEA;20eyes).Cornealendothelialcelldensitywascomparedineachgroupbetweenpreoperative,postoperativewithinonemonth,andfinalobservationday.LIandPEAenergywerealsocompared.Results:SignificantdecreaseincornealendothelialcelldensitywasfoundonlybetweenpreoperativeandfinalobservationdayinLI-PEAgroup(p<0.005),from2,615.1±585.2cells/mm2to1,955.6±526.5cells/mm2.NodifferenceinLIenergywasfoundbetweenLIgroupandLI-PEAgroup,buttotalamountofPEAenergywashigherinLI-PEAgroupthaninPEA+IOLgroup(p<0.05).Conclusions:CornealendothelialcelldensitydecreasedafterLI-PEAbecausehigherenergywasusedinbothLIandPEA.IfhighenergyLIisusedasthefirsttreatment,subsequentPEA+IOLmustbedonecarefullytoprotectcornealendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):861.864,2011〕〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN862あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(110)はじめに急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure)あるいは急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangle-closureglaucoma)(以下,両者合わせて急性発作)の僚眼は,急性発作眼と同等な眼球構造を有するため急性発作が起こる可能性が高く,予防的な処置の必要性あるいは有効性が報告されている1,2).また国内においても日本緑内障学会の診療ガイドラインで予防的なレーザー虹彩切開(laseriridotomy:LI)あるいは周辺虹彩切除(peripheraliridectomy:PI)は絶対的な適応とされている3).しかしながら超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsification,aspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)が急性発作眼の僚眼のみならず原発閉塞隅角症疑(primaryangle-closuresuspect:PACS),原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)などに対してLIより安全でかつ有効であるとの十分なエビデンスは得られていない4~6).そこで今回筆者らは急性発作眼の僚眼に対するLIとPEA+IOLの中長期の安全性を確認する目的で,術前術後の角膜内皮細胞密度を後ろ向きに比較検討したので報告する.I対象および方法1987年から2010年までの間,回明堂眼科・歯科を受診し,急性発作と診断された症例の僚眼でかつ,PACS,PACあるいはPACGと診断された眼球(以下,非発作眼)53眼,男性6眼,女性47眼.これら非発作眼は急性発作眼と比較し,屈折値,眼軸長,中心前房深度,水晶体厚のいずれも統計的な有意差を認めなかった7).急性発作発症時の平均年齢は69.4±8.3歳,急性発作発症からの平均観察期間は85.1±68.9カ月.非発作眼をつぎのように3群に分類した.LIのみを施行したLI群(24眼),PEA+IOLのみを施行したPEA群(9眼),最初にLIを施行し後日PEA+IOLを施行したLI-PEA群(20眼).治療方法の選択は厳密ではないものの,2007年以前は第一選択としてLIを優先し,それ以降はPEA+IOLの選択が増加した.LI-PEA群において白内障手術の適応とした基準は,視力障害のほか眼圧の安定化などを目的とした総合的な判断による.各群の治療から角膜内皮細胞密度の最終観察日までの期間はLI群で68.6±51.2カ月,PEA群は12.6±5.5カ月,LI-PEA群は61.1±38.2カ月.ただし,LI-PEA群の期間はPEA+IOL施行後から最終観察日までとし,LI施行後からPEA+IOL施行までの平均期間は43.3±45.8カ月であった.このように経過観察期間が各群で異なることから,その治療の時期を,LI群はLI期,PEA群はPEA期,LI-PEA群はLI-PEA期と定義した.PEA群の1眼,LI-PEA群のLIの5眼を除く,LIおよびPEA+IOLを同一術者(K.N.)が行った.LI-PEA群のなかで,5例はLI施行時にNd:YAGレーザーを使用していない.2000年以降は角膜内皮細胞保護を目的として,分散型粘弾性物質のヒアルロン酸ナトリウム/コンドロイチン硫酸エステルナトリウム(ビスコートR)を使用している(27眼/PEA+IOL,総数29眼).超音波白内障手術の使用装置は2006年11月からInfinitiRvisionsystem(Alcon)を使用しているが,それ以前は1991年8月から1995年10月まで10000MasterR(Alcon),その後2006年11月までは20000LegacyR(Alcon)を使用していた.計画的.外摘出術,周辺虹彩切除術を含む各種緑内障手術を施行した症例を除外した.それぞれの群でまず術前と術直後(術後約1カ月以内),ついで術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度を比較検討(対応のあるt検定),その後各群の最終観察日の角膜内皮細胞密度をそれぞれの群間で比較した(Welchのt検定).ただしLI-PEA群の術前とはLI施行前のことである.角膜内皮細胞密度の測定機種はスペキュラーマイクロスコープ(SP-1000TOPCON,SP2000PTOPCON,SP-3000PTOPCON)で,それぞれを発売順に使用した.LIの合計エネルギー(J)をアルゴンレーザーの出力(W)×照射時間(S)×回数(第1,第2段階のそれぞれの合計)+追加Nd:YAGレーザー(J)として計算し,白内障手術時における超音波の累積使用エネルギー(cumulativedissipatedenergy:CDE)を平均超音波パワー(%)×使用時間(S)として計算した.そのうえで,LI群とLI-PEA群のLIに要したエネルギー量を比較,ついでPEA群とLIPEA群のPEAに要したエネルギー量を比較検討した(Welchのt検定).いずれの統計的な検定もp<0.05を有意差ありとした.II結果それぞれの治療前のベースラインとなる角膜内皮細胞密度には統計的な有意差を認めず各群はほぼ同等な状態であった.まず術前,術直後の比較においては,いずれの群も統計的な有意差は認めないが,LI-PEA群では約350cells/mm2と一番減少している(p=0.07)(図1).つぎに術前,最終観察日の比較においては,LI-PEA群で2,615.1±585.2cells/〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):000.000,2011〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,僚眼,レーザー虹彩切開術,超音波白内障手術,角膜内皮細胞密度.acuteprimaryangle-closure,felloweye,laseriridotomy,phacoemulsificationaspirationandintraocularlensimplantation,cornealendothelialcelldensity.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011863mm2から1,955.6±526.5cells/mm2へと有意に減少した(p<0.005).その他の群では有意差は認められなかった(図2).それぞれの群の最終観察日で比較すると,LI群とPEA群では差はないが,LI-PEA群はPEA群に比べると角膜内皮細胞密度は少なく(p<0.01),LI群に比べるとかなり少ない(p<0.0001).LIに要したエネルギーはLI群とLI-PEA群の群間で統計的な有意差はない(p=0.083)が,LI-PEA群ではLI群の約2倍のエネルギーが使用されている(図3).PEAに要したエネルギーはPEA群よりLI-PEA群が多かった(p<0.05)(図4).すべての群で術後から最終観察日までの間,急性発作を発症した症例はなく急性発作を予防するという意味ではいずれの群でも目的は達成されている.III考按急性発作眼に対する治療としては,従来LIあるいはPIが行われていた8).しかし近年の白内障手術の技術的な進歩や急性発作のメカニズムをまとめて解決する目的あるいはLI後の重篤な合併症である水疱性角膜症を防ぐ目的から,PEA+IOLを初回治療として選択し良好な結果が得られているとの報告が相次ぐようになってきた9~11).筆者らも現在追試中である12).しかしながら急性発作眼が治療前に受けた障害の程度はさまざまである.つまり自覚症状が軽症の充血,霧視から重症の眼痛,頭痛,吐気までさまざまであること,急性発作が発症してから来院するまでの日数にばらつきがあること,引き金となった要因が単一でないこと,プラトー虹彩形状の有無など虹彩根部の状況や周辺虹彩前癒着の程度がさまざまであること,さらには点眼薬,内服,点滴などによる効果も一様ではないことなど障害の程度は千差万別である.したがって治療方法を単純にLIあるいはPIだけと決められず,段階的あるいは同時に白内障手術(PEA+IOL,計画的.外摘出術)あるいは緑内障手術(隅角癒着解離術,線維柱帯切除術)を選択することも念頭に置かなければならない.このように障害の程度が異なる急性発作眼に対しては,仮に同一の治療方法であってもその有効性や安全性を比較することはむずかしい.一方,急性発作眼の僚眼は急性発作眼のように大きな障害は受けていないため,異なる治療方法を選択した場合,その有効性や安全性を相対的に比較検討しやすい状況にあると考えられる.今回の検討で非発作眼に対する治療としてLI-PEA群が選択された場合,白内障手術直後に角膜内皮細胞密度はかなり減少し,それは5年以上の経過を経てさらに有意に減少した.この理由は,術者のLI-PEA期とLI期におけるLI施行方法が若干異なっていたためと考えられる.LIの使用エネルギー量はLI-PEA群とLI群で比較し統計的な有意差はみられないものの,LI-PEA群では約2倍のエ3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LI群PEA群LI-PEA群角膜内皮細胞密度(cells/mm2)■:術前■:術直後NSNSNS対応のあるt検定2,7072,7382,7052,5542,6152,258図1各群の術前と術直後の角膜内皮細胞密度の比較各群の術前,術後で統計的な有意差はみられない.LI-PEA群のLIとPEAまでの間隔は43.3±45.8カ月.3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LI群PEA群LI-PEA群角膜内皮細胞密度(cells/mm2)■:術前■:最終NSNSp<0.005対応のあるt検定2,7072,6972,7052,5372,6151,944図2各群の術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度の比較LI-PEA群のみに著明な減少がみられた.PEA群累積使用エネルギー(CDE)LI-PEA群p<0.054035302520151050図4PEAに要したエネルギーの比較:PEA群とLI.PEA群(Welchのt検定)LI群使用エネルギー(J)LI-PEA群NS(p=0.083)43.532.521.510.50図3LIに要したエネルギーの比較:LI群とLI.PEA群(Welchのt検定)864あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(112)ネルギーが使用されている.これはLI-PEA期には術者の20年くらい前の症例や術者以外がLIを実施した症例が含まれていることと関係している.LI-PEA期における術者の標準的なLIは,第2段階で使用した照射条件の1,000mW,0.05秒を穿孔した後もしばらく続け,虹彩に200μm程度の穴が開いたことを確認した後Nd:YAGレーザーに切り替えるという方法であった.さらにLI-PEA群のなかには術者以外がLIを実施したものも含まれ,その際にはNd:YAGレーザーが併用されず,より多くのエネルギー量が使用された.その後LI期になると第2段階で使用した前述と同じ照射条件をgun-smokeが認められたのち,ただちにNd:YAGレーザーに切り替えるようにしたため少ないエネルギー量で済むようになった.これらのことからLI-PEA群では相対的に多くのエネルギーを要したLIにより虹彩後癒着の合併,白内障の進行,Zinn小帯への侵襲などがあったと考えられる.したがってLI-PEA群ではPEA群に比べ白内障手術の手術手技が複雑化し,より多くのエネルギーが必要になり,相対的に多くの侵襲を受け,角膜内皮細胞密度が減少したと推定される.各群の経過観察期間にはばらつきがある.とりわけPEA群の術後の経過観察期間は他の群に比べ短く,すべての群を同等に比較することはできない.ただPEA群の角膜内皮細胞密度の減少幅が年率約20cells/mm2と少ないことから,もしこれが直線的に減少すると仮定すれば,5年でわずか約100cells/mm2の減少となり,LI-PEA群ほどの減少はみられないと推定される.このことを検証する意味でもPEA群の症例数をさらに加えるとともに長期の経過観察期間が必要になる.さらに今後はLI群のなかで白内障手術を施行しLI-PEA群に移行する症例も増加することが予想されるため,より長期で多数例の比較検討が可能となる.本研究は単一施設の少数例での検討であり,しかも研究デザインが後ろ向きであるためエビデンスレベルが高いとはいえない.さらに検討期間が23年と長期に及んだためスペキュラーマイクロスコープ,手術装置,粘弾性物質などが数回変更されたほか,症例の大半に対して同一術者が治療を担当したため,施行方法の変更や改善があり同一技量の手術であったともいえない.しかしながら今回の研究から少なくともLI後の白内障手術,とりわけLIに多くのエネルギーを要した症例では白内障手術時の侵襲が大きくなると考えられ,角膜内皮細胞密度の減少に注意する必要がある.以上のことから非発作眼の急性発作を予防する有効な治療方法で,かつ中長期的に角膜内皮細胞を保護するためには,屈折値や白内障の程度,隅角の状態などにもよるが,非発作眼に対しては最初からPEA+IOLを選択するほうが望ましい症例もあると考えられる.さらに最終的には非発作眼のみならず急性発作に対する治療方針を決定するうえでも,今回の検討結果が参考になるかどうか,今後さらに症例を重ね検討していく予定である.さらに将来的には,よりエビデンスレベルの高い結果を得るために複数多施設による前向きで無作為なデザインによる研究が必要と考えた.文献1)LoweRF:Acuteangle-closureglaucoma.Thesecondeye:ananalysisof200cases.BrJOphthalmol46:641-650,19622)SawSM,GazzardG,FriedmanGS:Interventionsforangle-closureglaucoma.Anevidence-basedupdate.Ophthalmology110:1869-1879,20033)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20064)野中淳之:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,20075)大鳥安正:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?あたらしい眼科24:1015-1020,20076)山本哲也:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,20077)西野和明,吉田富士子,新田朱里ほか:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の両眼同時発症例と片眼発症例の比較.臨眼64:1615-1618,20108)AngLP,AungT,ChewPT:AcuteprimaryangleclosureinanAsianpopulation:long-termoutcomeofthefelloweyeafterprophylacticlaserperipheraliridotomy.Ophthalmology107:2092-2096,20009)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,200210)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangleclosureglaucoma.AmJOphthalmol135:534-536,200311)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsificationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,200812)西野和明,吉田富士子,齋藤三恵子ほか:超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障.あたらしい眼科26:689-694,2009***