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円錐角膜眼におけるEnhanced Ectasia Displayの有用性

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(135)1039《原著》あたらしい眼科28(7):1039?1042,2011cはじめに円錐角膜は,角膜中央部が進行性に菲薄化して前方突出し,不正乱視や近視化により視機能低下をきたす疾患である1).診断には細隙灯顕微鏡や角膜曲率半径測定などのほかに,角膜形状解析が重要である.現在,円錐角膜診断における角膜形状解析検査は,プラチド式により角膜前面曲率半径を測定し,その結果をもとに算出された指数を用いて行うものが一般的である2,3).プラチド式による角膜形状解析は,感度・特異度ともに高く優れた診断方法であるが,この方法にはいくつか問題点も存在する.まず円錐角膜の早期変化をとらえるのに重要な角膜後面形状の情報を得ることができない.また曲率マップは測定軸に依存するため,測定軸のずれによって正常眼でも円錐角膜眼と診断されることがある.曲率マップは,角膜屈折度数を評価するうえでわかりやすく多〔別刷請求先〕石井梨絵:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RieIshii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN円錐角膜眼におけるEnhancedEctasiaDisplayの有用性石井梨絵*1,4神谷和孝*1五十嵐章史*1清水公也*1宇津見義一*2熊埜御堂隆*3*1北里大学医学部眼科学教室*2宇津見眼科*3クマノミドー眼科*4北里大学北里研究所メディカルセンター病院EvaluationofCornealElevation:UsefulnessofEnhancedEctasiaDisplayinKeratoconusEyesRieIshii1,4),KazutakaKamiya1),AkihitoIgarashi1),KimiyaShimizu1),YoshikazuUtsumi2)andTakashiKumanomido3)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)UtsumiEyeClinic,3)KumanomidoEyeClinic,4)KitasatoUniversityKitasatoInstituteMedicalCenterHospital円錐角膜の診断は角膜形状解析による曲率に基づくものが主体で高さ情報については不明な点が多い.今回二つの異なる参照面を用いて円錐角膜眼の高さ情報を定量的に検討した.円錐角膜眼44例80眼および正常眼42例83眼を対象とし,Scheimpflug型前眼部解析装置(PentacamTM,Oculus社)のEnhancedectasiadisplayを用いて角膜前面・後面頂点における通常のbestfitsphere(BFS)とenhancedBFS(角膜最菲薄部より4mm径を除外)におけるelevation量をそれぞれ算出し,その差をelevation変化量として評価した.正常眼の角膜前面頂点におけるelevation変化量は2.5±2.1μmであったが,円錐角膜眼では14.3±13.8μm,と有意な増加を示した(Mann-WhitneyUtest,p<0.001).また,正常眼の角膜後面頂点におけるそれは12.3±6.8μmであったが,円錐角膜眼では60.7±39.1μmと有意な増加を示した(p<0.001).角膜高さ情報は円錐角膜のスクリーニングに有用となる可能性が示唆された.Weusedtwodifferentbest-fit-sphere(BFS)tocomparethecornealelevationvalueinnormalandkeratoconuseyes.Wemeasured80eyesof44keratoconuspatiantsand83eyesof42normalswithPentacamTMandevaluatedthemusingEnhancedectasiadisplaythatcalculatedthedifferencebetweenelevationwithnormalBFSandthatwithenhancedBFS(exceptinga4mmdiameterfromcornea’sthinnestpoint)ontheanteriortheposteriorapices.Theelevationchangevaluesofthenormalgroupwere2.5±2.1μmand12.3±6.8μm,andthoseofthekeratoconusgroupwere14.3±13.8μmand60.7±39.1μm,respectively,ontheanteriorapexandtheposteriorapex.Therewerestatisticallysignificantdifferencesbetweenthenormalandkeratoconusgroupsonboththeanteriorapex(Mann-WhitneyUtest,p<0.001)andtheposteriorapex(p<0.001).Keratoconuseyeshavehigheranteriorandposteriorelevationchangevalues.Enhancedectasiadisplaymaybehelpfulindetectingkeratoconus,whenusedwithvideokeratography.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1039?1042,2011〕Keywords:円錐角膜,高さ情報,角膜形状解析装置.ペンタカム,keratoconus,elevation,cornealtopography,PentacamTM.1040あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(136)くの臨床医にとって見なれたものであるが,測定軸により変化する相対的なものであり,必ずしも角膜の物理的な性質を示すとは限らない.角膜前後面形状解析装置では,従来の曲率マップ測定以外にも角膜の高さ情報を評価することが可能である.実際には,Scheimpflug式前眼部解析装置(PentacamTM,Oculus社)やスリットスキャン式前眼部解析装置(OrbscanTM)といった装置で測定することが可能である4,5).高さ情報は,形状解析から算出された参照面(bestfitsphere:BFS)を基準として用い,測定された角膜面とBFSとの差異を高さ(elevation)として表示する.曲率マップは円錐角膜に伴う角膜の歪みを顕在化し,高さ情報は円錐角膜に伴う角膜の突出を描出可能である.現在,円錐角膜の診断は曲率マップによるものが主体で,角膜の高さ情報については十分に検討されておらず,不明な点が多い.そこで今回筆者らはPentacamTMを用いて高さ情報を算出し,円錐角膜の特徴的な変化をより鋭敏にとらえるために二つの異なる参照面を用いて,円錐角膜眼と正常眼における角膜頂点でのelevation変化量を定量的に検討したので報告する.I対象および方法細隙灯顕微鏡検査および角膜形状解析により円錐角膜と診断された症例44名80眼(男性34名62眼・女性10名18眼,年齢37.0±11.0歳)および屈折異常以外に眼科的疾患を有さない正常被験者42名83眼(男性25名50眼・女性17名33眼,年齢35.2±10.1歳)を対象とした.それぞれの症例において,Scheimpflug式前眼部解析装置(PentacamTM)を使用し,角膜前面・後面における角膜面と参照面との差をelevation量として求めた.Enhancedectasiadisplay6,7)を用いて,参照面として角膜形状解析で得られた通常のBFSと角膜最菲薄部を中心として直径4mmの部分をBFS算出の際に除外して求めたenhancedBFSを使用した.これらの二つの参照面を用いて得られた同一眼におけるelevation量の差をelevation変化量として求め,角膜前面頂点および角膜後面頂点での値を円錐角膜眼と正常眼で比較した.角膜混濁例や角膜上皮障害が顕著な症例,角膜移植などの手術加療を行っている症例は除外した.正常眼と円錐角膜眼の結果の比較にはMann-WhitneyUtestを用いた.結果は平均値±標準偏差で表し,p<0.05を有意差ありとした.II結果角膜前面頂点における正常眼の平均elevation変化量は2.5±2.1μmで,円錐角膜眼では14.3±13.8μmであり,円錐角膜眼のほうが有意に高値であった(Mann-WhitneyUtest,p<0.001)(図1).角膜後面頂点における正常眼の平均elevation変化量は12.3±6.8μmで,円錐角膜眼では60.7±39.1μmとこちらも円錐角膜眼で有意に高値であった(p<0.001)(図2).III考按今回の検討では,円錐角膜眼は正常眼に比べelevation変化量が有意に高値を示した.これまでにも,通常のBFSのみを用いて得られた高さ情報で円錐角膜眼のほうが正常眼に比べ高値を示すことが報告されている.Raoら8)は,OrbscanIITMを用いて角膜前面および後面のelevation量を測定したところ,プラチド式角膜形状解析による円錐角膜の診断基準を満たした症例の前面と後面におけるelevation量は対象群と比較して有意に高値であり,角膜屈折矯正手術前のスクリーニングとして,プラチド式角膜形状解析で円錐角膜疑いとなった症例でOrbscanIITMを測定し,後面elevation量40μm以上の場合は角膜屈折矯正手術を行わないという方法を提案している.Schlegelら9)は円錐角膜疑い眼と正常眼でOrbscanIITMを測定したところ,角膜頂点から1mm径における角膜後面の最大elevation量は,円錐角膜疑い眼で正常眼に比べ有意に高値であったと報告している.今回の筆者らの報告では,elevation変化量を用いているため,これらの報告とは高さ情報の評価方法が少し異なっているが,これらの結果は角膜の高さ情報が円錐角膜眼における早期の角膜変化をとらえるのに有用であることを示唆している.現在,円錐角膜の診断は先述したプラチド式による角膜形状解析が有正常眼円錐角膜眼2.53302520151050Elevation変化量(μm)14.34図1角膜前面のelevation変化量の比較角膜前面では正常眼に比較して円錐角膜眼ではelevation変化量は有意に高値となった(Mann-WhitneyU検定,p<0.001).正常眼円錐角膜眼12.3512010080604020060.74Elevation変化量(μm)図2角膜後面のelevation変化量の比較角膜後面において正常眼に比較して円錐角膜眼ではelevation変化量は有意に高値となった(Mann-WhitneyU検定,p<0.001).(137)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111041用で,この方法で診断可能な症例がほとんどである.しかし,臨床的に問題とならないようなごく早期の円錐角膜もしくは円錐角膜疑い(formefrustekeratoconus)の一部では角膜の形状変化が軽微なため,屈折矯正術施行前に検査を行っても診断がむずかしい場合がある.実際に屈折矯正術後にkeratectasiaを発症した症例の多くが術前に円錐角膜とは診断されておらず,formefrustekeratoconusを診断することは,医原性の重篤な合併症を防止するために重要である.Elevation変化量の算出に用いているenhancedBFSは,角膜菲薄部を中心に前方に角膜が突出するという円錐角膜の特徴をより顕在化させるために考案されたもので,正常眼の場合には通常のBFSとさほど変わりはない.しかし円錐角膜眼では,突出部分を除いて算出されたenhancedBFSは,通常のBFSに比べてフラットになるため,角膜の突出をより強調することができる(図3).このため通常のBFSとenhancedBFSとの差であるelevation変化量は,通常のBFSだけを用いた場合より早期の段階で円錐角膜に特徴的な変化を検出しやすく,円錐角膜眼における高さ情報の評価方法として有用な指標となる可能性がある.ここでenhancedBFSを用いたelevation量ではなくelevation変化量を用いるのは,elevation量ではカットオフポイントの設定がむずかしく乱視などの影響により感度および特異度の低下が懸念されるからである.今回の結果では角膜前面に比べて,角膜後面のほうが高値をとる傾向にあった.プラチド式による角膜形状解析では,角膜前面の曲率半径をもとに角膜の歪みをとらえているが,円錐角膜の変化は角膜全体に起こっており,角膜前面だけでなく角膜後面の情報も早期の円錐角膜診断に有用と考えられる.これまでも円錐角膜眼における角膜後面の変化を評価するために角膜後面由来の曲率を測定したり,高次収差を測定したりする方法が考案されてきた10?12).それらによると,角膜後面でも角膜前面と同様に円錐角膜眼では正常眼に比べ有意に角膜曲率や高次収差が増加すると報告されている.今回用いたPentacamTMは短時間で角膜前面,後面の情報を測定することができ,後面形状変化を検出可能である.Mihaltzら13)はPentacamTMを用いて,円錐角膜眼の角膜前面および後面のelevation量,中心角膜厚,最小角膜厚,乱視度数,平均K(角膜屈折)値,角膜中心と角膜最菲薄部との距離という円錐角膜検出の指標についてROC曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve)を用いて比べたところ,後面elevation量が最も感度および特異度に優れていたと報告している.このように角膜高さ情報は円錐角膜評価に有用と考えられるが,現段階ではまだ一般的な指標や基準値が定まっておらず,結果の解釈がむずかしいという側面がある.また機器により測定方法が違うため,異なった測定機器で得られた値を単純に比較することはできない14).今後は基準値や評価方法を明確にし,さらに疾患の重症度との関連や他の評価法との関連を検討していくことが必要と思われる.PentacamTMでは,高さ情報だけでなく角膜厚の詳細な情報も測定可能である.従来は超音波パキメトリーを用いて中心角膜厚を測定しており,角膜全体の厚みを評価することはむずかしかった.しかし,現在では角膜全体の厚みのプロフィールを短時間で測定することが可能で,角膜最菲薄部の位置を評価することもできる.Ambrosioら15)は,PentacamTMを用いて角膜厚の情報と角膜体積の情報を元に角膜最菲薄部を基準として角膜周辺部へ向かって角膜厚増加率と角膜体積増加率を算出し,正常眼と円錐角膜眼を比較したところ,円錐角膜眼において有意に高値であったと報告している.高さ情報や角膜厚といった新しい角膜評価法は,従来の曲率マップを用いた円錐角膜診断法と併用することで,円錐角膜の早期診断に有用となると考えられる.今回用いたEnhancedectasiadisplayというプログラムはPentacamTMにて使用でき,elevation変化量と角膜厚の情報を同時に評価することが可能である.さらに近年,円錐角膜眼でのORAを用いた角膜生体力学特性の定量的評価も報告されており16),これらの併用によって円錐角膜の診断精度の向上が期待される.今回の検討で,角膜高さ情報の指標の一つであるelevation変化量は円錐角膜眼において正常眼より有意に増加することが明らかとなった.Enhancedectasiadisplayは円錐角膜の診断に有用である可能性が示唆された.文献1)SherwinT,BrookesNH:Morphologicalchangesinkeratoconus:pathologyorpathogenesis.ClinExperimentOphthalmol32:211-217,20042)MaedaN,KlyceSD,SmolekMKetal:Automatedkeratoconusscreeningwithcornealtopographyanalysis.InvestOphthalmolVisSci35:2749-2757,19943)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Comparisonofmethodsfordetectingkeratoconususingvideokeratography.Arch正常眼円錐角膜眼:BFS:EnhancedBFS図3EnhancedBFSとBFSの違い図のピンクの線がenhancedBFSを示し,黄色の線が通常のBFSを示している.正常眼ではBFSとenhancedBFSであまり違いはないが,円錐角膜眼ではBFSに比べてenhancedBFSはよりフラットになるため,突出した角膜の高さをより描出しやすくなっている.1042あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(138)Ophthalmol113:870-874,19954)LimL,WeiRH,ChenWKetal:EvaluationofkeratoconusinAsians:roleofOrbscanIIandTomeyTMS-2cornealtopography.AmJOphthalmol143:390-400,20075)NilforoushanMR,SpealerM,MarmorMetal:ComparativeevaluationofrefractivesurgerycandidateswithPlacidotopography,OrbscanII,Pentacam,andwavefrontanalysis.JCataractRefractSurg34:623-631,20086)BelinMW,KhachikianSS:Keratoconus:Itishardtodefine,but….AmJOphthalmol143:500-503,20077)BelinMW,KhachikianSS:Highlightsofophthalmology.Elevationbasedtopographyscreeningforrefractivesurgery,JaypeeHighlightsMedicalPublishers,Inc,Panama,20088)RaoSN,RavivT,MajmudarPAetal:RoleofOrbscanIIinscreeningkeratoconussuspectsbeforerefractivecornealsurgery.Ophthalmology109:1642-1646,20029)SchlegelZ,Hoang-XuanT,GatinelD:Comparisonofandcorrelationbetweenanteriorandposteriorcornealelevationmapsinnormaleyesandkeratoconus-suspecteyes.JCataractRefractSurg34:789-795,200810)TomidokoroA,OshikaT,AmanoSetal:Changesinanteriorandposteriorcornealcurvaturesinkeratoconus.Ophthalmology107:1328-1332,200011)ChenM,YoonG:Posteriorcornealaberrationsandtheircompensationeffectsanteriorcornealaberrationsinkeratoconiceyes.InvestOphthalmolVisSci49:5645-5652,200812)NakagawaT,MaedaN,KosakiRetal:Higher-orderaberrationsduetotheposteriorcornealsurfaceinpatientswithkeratoconus.InvestOphthalmolVisSci50:2660-2665,200913)MihaltzK,KovacsI,TakacsAetal:Elevationofkeratometric,andelevationparametersofkeratoconiccorneaswithpentacam.Cornea28:976-980,200914)QuislingS,SjobergS,ZimmermanBetal:ComparisonofPentacamandOrbscanIIzonposteriorcurvaturetopographymeasurementsinkeratoconuseyes.Ophthalmology113:1629-1632,200615)AmbrosioRJr,AlonsoRS,LuzAetal:Corneal-thickinessspatialprofileandcorneal-volumedistribution:Tomographicindicestodetectkeratoconus.JCataractRefractSurg32:1851-1859,200616)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyzerTMによる円錐角膜の角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-215,2008***