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両眼に発症したIntrapapillary Hemorrhage with Adjacent Peripapillary Subretinal Hemorrhage (IHAPSH)の1例

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(121)8450910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):845847,2009cはじめに若年者にみられる乳頭周囲出血の原因としては,乳頭血管炎や,近視性乳頭出血,後部硝子体離に伴うものなどが知られている.そのほかに,intrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhage(IHAPSH)は,2004年にKokameらが10眼の臨床報告を行ったことで知られている1).今回,2年の間に両眼にIHAPSHを生じたと考えられた症例を経験したので報告する.I症例患者:25歳,女性.初診:平成18年9月7日.主訴:右眼霧視.既往歴:特記事項なし.現病歴:平成18年9月7日に,左眼の霧視を主訴に,奈良県立医科大学附属病院を受診した.初診時視力は,VD=両眼に発症したIntrapapillaryHemorrhagewithAdjacentPeripapillarySubretinalHemorrhage(IHAPSH)の1例西智湯川英一松浦豊明原嘉昭奈良県立医科大学眼科学教室ACaseofIntrapapillaryHemorrhagewithAdjacentPeripapillarySubretinalHemorrhageinBothEyesTomoNishi,EiichiYukawa,ToyoakiMatsuuraandYoshiakiHaraDepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity今回,筆者らは2年の間に両眼にintrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhage(IHAPSH)を生じたと考えられた症例を経験したので報告する.症例は,25歳,女性で,主訴は左眼の霧視である.初診時矯正視力は両眼1.2であった.右眼眼底には異常なく,左眼の視神経乳頭周囲に網膜下出血と網膜前出血,および軽度の硝子体出血を認めた.無治療下にて定期的な外来通院による経過観察とした.その後,徐々に出血は吸収され,消失した.その2年後に右眼の霧視を自覚し当科を受診した.矯正視力は両眼1.2であった.左眼眼底には異常なく,右眼の視神経乳頭周囲に網膜下出血と網膜前出血,および軽度の硝子体出血を認めたが,その後,無治療下にて徐々に出血は吸収され,消失した.その後現在まで両眼とも再発は認めていない.Wereportthecaseofa25-year-oldfemalewhosuferedintrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapil-larysubretinalhemorrhage(IHAPSH)inbotheyesfor2years.SheexperiencedblurredvisionintheOS(oculussinister).Oninitialexamination,visualacuitywas1.2OU(oculusuterque).Theanteriorsegment,ocularmediaandfundusexaminationswerenormalOD(oculusdexter),butOSshowedsubretinal,preretinalandvitreoushem-orrhagearoundthedisc.Withnotreatment,thehemorrhageslowlydisappeared.After2years,shepresentedwithblurredvisionintheOD;visualacuitywas1.2OU.Therewassubretinal,preretinalandvitreoushemorrhagearoundthediscOD;OSwasnormal.Thehemorrhageslowlydisappeared.Thusfar,therehasbeennorecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):845847,2009〕Keywords:視神経周囲乳頭出血,近視眼.intrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemorrhage(IHAPSH),myopiceye.———————————————————————-Page2846あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(122)(1.2×sph2.0D),VS=(1.2×sph2.25D)であった.前眼部,中間透光体には異常は認めず,後部硝子体離も認めなかった.左眼眼底は,乳頭周囲に網膜下出血と網膜前出血を認めた(図1a).フルオレセイン蛍光眼底撮影にて乳頭の組織染による過蛍光を認め,検眼鏡の所見でも軽度の乳頭浮腫を認めた(図1b)が,無血管領域や新生血管などは認めなかった.その後,徐々に出血は吸収され,12月11日受診時にはほぼ消失した.その後所見は安定していたが,平成20年1月4日に今回は右眼の霧視を自覚したため受診した.左眼には異常所見なく,右眼の乳頭周囲に網膜下出血と網膜前出血を認めた(図2a).視力は,VD=(1.2×sph2.0D),VS=(1.2×sph2.25D)で,初診時と同様であった.蛍光眼底撮影でも,同様に乳頭の組織染による過蛍光を認め,検眼鏡の所見でも軽度の乳頭浮腫を認めた(図2b)が,無血管領域や新生血管などは認めなかった.その後,徐々に出血は吸収され,同年4月8日受診時には,ほぼ消失した(図3).血液検査や,胸部単純X線写真でも異常所見は認めなかった.現在,再発は認めていない.また,静的視野検査でも現在異常は認めていない.II考按今回は,両眼に2年の間にIHAPSHを生じ,その後再発のみられなかったと考えられた症例を経験した.Kokameら1)によると,IHAPSHの特徴は,①乳頭からの出血であること,②中等度近視眼,傾斜乳頭で頻度が高いこと,③乳頭の上方,鼻側に出血が生じることが多いこと,④発症は急性で,黄斑部病変がなければ無治療で良好な視機能の改善がみられること,⑤再発がみられないこと,⑥女性に多いこと,⑦フルオレセイン蛍光眼底造影検査で出血による蛍光遮断と乳頭の組織染による過蛍光がみられることがあげられており,今回の症例にあてはまった.10例の臨床報告のなかで,両眼発症は1例のみであり,今回の症例はまれなものではないかと考えられた.鑑別診断としては,近視性乳頭出血や乳頭血管炎を考慮に入れた.近視性乳頭出血は,1989年に廣辻ら2)によって報告された.その報告によれば,近視による乳頭の出血は脈絡膜乳頭境界部で脈絡膜とBruch膜が水平方向に伸展され,解剖学的に脆弱になることが理由として考えられている.このような近視性の乳頭出血は以前から報告されており35),いずれも,若年者で,中等度あるいは軽度の近視の片眼で,乳頭から花冠状に広がる網膜下出血を特徴としている.その後,2004年にKokameら1)がIHAPSHとして報告しており,また2008年加藤ら6)によってIHAPSHの可能性もある近視性乳頭出血を報告している.また,乳頭血管炎は,今回の症例では,網膜血管の蛇行や拡張がみられなかったことや,ステロイド治療などを施行せずに早期に回復を示したことから,否定的と考えられた.出血の機序としては,Kokameら1)もいくつかの機序の可能性を示している.視神経乳頭篩板前部は特異的な循環構造をもっている.動脈系は,乳頭周囲脈絡膜と後部短毛様動脈に栄養されているが,それらが,脈絡膜の細静脈によって網膜中心静脈へ還流しているために細静脈のうっ滞を生じやすいことから出血が生じる可能性について報告している.また,急性の視神経乳頭浮腫も出血の誘因になるのではないかとも述べている.筆者らは,両眼に乳頭出血を生じたが,いずれも無治療で早期に回復した症例を経験した.今後,再発がないかどうか経過観察を行っていく予定である.図1初診時左眼乳頭所見(a)と蛍光眼底撮影所見(b)図3現在の右眼の乳頭所見(a)と左眼の乳頭所見(b)図2右眼発症時乳頭所見(a)と蛍光眼底撮影所見(b)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009847(123)文献1)KokameGT,YamamotoI,KishiSetal:Intrapapillaryhemorrhagewithadjacentperipapillarysubretinalhemor-rhage.Ophthalmology111:926-930,20042)廣辻徳彦,布出優子,中倉博延ほか:近視性乳頭出血.眼紀40:2787-2794,19893)渡辺千舟,白木重次郎,吉永健一:若年者にみられた片眼性乳頭出血.眼科23:241-246,19814)三木正敬,藤岡孝子:片眼性乳頭出血の2症例.眼臨76:1542-1544,19825)升田義次,中川正人:10才台の近視の若者に見られた片眼性乳頭出血の3症例.眼臨78:368-372,19846)加藤健,牧野伸二,金上千佳ほか:若年女性にみられた乳頭周囲出血の1例.眼紀1:25-28,2008***