‘間質性腎炎’ タグのついている投稿

眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):235.238,2012c眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例竹内正樹*1翁長正樹*1樋口亮太郎*1水木信久*2*1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室ACaseofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeDiagnosedbyOphthalmologicConsultationMasakiTakeuchi1),MasakiOnaga1),RyotarouHiguchi1)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine目的:眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群:tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)の1症例の報告.症例:27歳,男性.発熱,腹痛,体重減少を自覚し慢性胃炎,熱中症の診断で内科治療が行われたが症状の改善はみられなかった.2カ月後,右眼の充血,眼痛を自覚した.近医眼科でぶどう膜炎と診断され,横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.血清クレアチニン3.0mg/dl,尿中b2ミクログロブリン53.8mg/lであり尿細管障害が指摘された.腎生検で急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併からTINU症候群と診断された.点眼治療,副腎皮質ステロイドパルス療法によりぶどう膜炎,急性間質性腎炎は改善した.結語:ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮し精査加療する必要があると考えられた.Purpose:Toreportacaseoftubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome(TINUsyndrome)diagnosedbyophthalmologicconsultation.Case:A27-year-oldmaleexperiencedfever,weightlossandabdominalpain.Hewastreatedforheatstrokeandchronicgastritisbyaninternist,butthesymptomswerenotalleviated.Twomonthslater,henoticedpainandrednessinhisrighteye,andhisserumcreatinineandurinarybeta2microglobu-linlevelswerefoundtobeelevated.HewasdiagnosedwithTINUsyndromeonthebasisofocular.ndingsandrenalbiopsy.ndings.Theuveitisandinterstitialnephritiswereimprovedbyeyedroptreatmentandcorticosteroidpulsetherapy.Conclusion:TINUsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithuveitisandcompromisedrenalfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):235.238,2012〕Keywords:間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群,TINU症候群,前部ぶどう膜炎,間質性腎炎,腎生検.tubulointer-stitialnephritisanduveitissyndrome,TINUsyndrome,anterioruveitis,tubulointerstitialnephritis,renalbiopsy.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(以下,TINU症候群)は,急性間質性腎炎にぶどう膜炎を合併した症候群である.1975年にDobrinが2症例を報告して以来1),現在までに世界で200例ほどの報告がみられる2).TINU症候群は若年女性に好発し,ぶどう膜炎は両眼性前部ぶどう膜炎が多くみられる3).全身症状には,発熱,体重減少,倦怠感,腹痛などがあり,眼症状としては充血,眼痛,霧視などがある3).急性間質性腎炎はぶどう膜炎に先行して起こることが多いが,ぶどう膜炎が先行した症例の報告もみられる3).TINU症候群の治療には,副腎皮質ステロイド,免疫抑制剤の全身投与が行われる.TINU症候群の視力予後は一般的に良好であり,腎機能障害についても89%で改善がみられるが,不可逆性の腎機能障害から腎不全に至り,腎移植が必要となることもある3).今回,筆者らは発熱,倦怠感,腹痛などを自覚し内科を受〔別刷請求先〕竹内正樹:〒236-0037横浜市金沢区六浦東1-21-1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科Reprintrequests:MasakiTakeuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,1-21-1Mutsuura-Higashi,Kanazawa-ku,Yokohama236-0037,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(87)235診していたが診断に至らずに,眼科受診を契機にTINU症候群の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,男性.主訴:右眼充血.既往歴:特記事項なし.平成22年6月頃より,発熱,全身倦怠感,腹痛,食欲不振を自覚した.近医内科を受診し,熱中症の診断で点滴加療を受けた.その後も症状が続いたため,上部消化管内視鏡検査を施行し慢性胃炎の診断で内服治療を受けていた.8月上旬より右眼の充血および眼痛を自覚し,8月21日,近医眼科を受診した.右眼の虹彩炎の診断でリン酸ベタメタゾン点眼の4回投与を行った.リン酸ベタメタゾン点眼により充血,虹彩炎の改善がみられたが,その後も軽快と増悪を繰り返した.10月4日,右眼虹彩炎の再燃および右眼眼圧28mmHgと上昇を認め,精査加療目的に横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.初診時視力は,VD=20cm/m.m.,VS=(1.2),眼圧は右眼21mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部所見では,右眼に角膜浮腫,結膜毛様充血,前房内細胞(2+),前房フレア(+),虹彩後癒着を認めた(図1).右眼中間透光体,眼底は角膜浮腫のため透見不良であった.左眼に特記すべき所見はみられなかった.血液生化学検査では,血清クレアチニン3.0mg/dl,尿素窒素24.9mg/dlと高値であった.尿定性検査では蛋白定性2+,糖定性3+であった.アンジオテンシン変換酵素8.4U/lは正常範囲内であり,自己免疫抗体では抗核抗体(.),リウマトイド因子<10IU/ml,好中球細胞質抗体(PR3-ANCA<3.5U/ml,MPO-ANCA<9.0U/ml)は正常範囲内であった.心電図,胸部単純写真に異常所図1初診時右眼前眼部写真角膜浮腫,結膜毛様充血,虹彩後癒着がみられた.図2腎生検病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)間質に著明なリンパ球の浸潤を認める.糸球体の炎症はほとんどみられない.見はみられなかった.右眼前部ぶどう膜炎の診断で,リン酸ベタメタゾン点眼を1時間毎に増量し,トロピカミド・フェニレフリン点眼を開始した.腎機能障害の精査目的に,10月6日に腎臓高血圧内科を受診した.尿生化学検査では,尿蛋白定量148mg/dl(基準値20mg/dl以下),尿糖定量594mg/dl(基準値70mg/dl以下),尿中b2ミクログロブリン53.8mg/l(基準値0.3mg/l以下)と著明に高値であった.尿細管障害を主座とした腎機能障害を認め,同日,内科に緊急入院となり,尿細管障害による脱水補正を目的に生理食塩水2,500ml/日の点滴静注が開始された.10月8日に眼科受診時には,眼痛,充血は改善傾向であった.角膜浮腫は軽快し,結膜毛様充血,前房内細胞は改善傾向であり,右眼矯正視力は0.5となった.眼底所見に特記すべき所見はみられなかった.ぶどう膜炎および腎機能障害の合併より,TINU症候群を考慮し,10月12日に腎生検が施行された.病理学的検査では,尿細管間質にリンパ球と形質細胞の著明な浸潤を認め,尿細管は圧排されていた(図2).以上より,急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併よりTINU症候群の診断に至った.10月25日より副腎皮質ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日3日間)を行い,以後内服で漸減した.右眼ぶどう膜炎は点眼により軽快し,角膜浮腫の改善により右眼矯正視力は1.2となった.腎機能障害は安静と副腎皮質ステロイドパルス療法により軽快した(図3).その後,平成23年5月に左眼の前部ぶどう膜炎を認め,リン酸ベタメタゾン点眼を開始した.現在まで,右眼のぶどう膜炎の再発はみられていない.平成23年8月には血清クレアチニン,尿中b2ミクログロブリンが基準値内となった.236あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(88)副腎皮質ステロイド全身投与ベタメタゾン点眼1時間毎6回4回前房内細胞2+++2+++-1.510.50小数視力10月4日12日25日11月18日初診入院腎生検ステロイドパルス退院図3入院時経過Cr:血清クレアチニン,U-b2II考察今回,筆者らは全身症状を自覚し内科を受診したが診断に至らずに,眼科受診を契機に腎機能障害を指摘され,TINU症候群の診断に至った症例を経験した.TINU症候群では腎機能障害は89%で改善すると報告されている3).しかし,腎不全に至る症例もあり早期発見,早期治療が重要となる.TINU症候群のぶどう膜炎は点眼治療に対する反応も良いため,ぶどう膜炎の治療のみを行うと急性間質性腎炎の診断が遅れる可能性がある.今回の症例においては,全身症状の自覚からTINU症候群の診断に至るまでにおよそ4カ月を要した.他の報告4)でも,発症初期では眼科,内科が独立して治療を行っていることも多く,早期の診断のためには内科との円滑な連携が重要となる.ぶどう膜炎の診察では炎症が軽度であっても全身疾患が隠れていることもあるため,血液尿検査をはじめとした全身検査が必要である.TINU症候群では視力予後は良好である3).症例では初診時に角膜浮腫を伴っており視力は手動弁であった.急性期においても視力低下は比較的軽度であり手動弁にまで低下した報告は過去にない.しかし,治療経過は他の報告と同様に副腎皮質ステロイド点眼により,速やかに視力が改善している.TINU症候群では50%程度の症例でぶどう膜炎が再発するため3),今後も定期的な診察が必要である.症例では現在までぶどう膜炎の再発はみられていないが,7カ月後に副腎皮質ステロイド10mg/日を内服中であるにもかかわらず左眼に初めて前部ぶどう膜炎を認めた.過去の報告でも高用量の副腎皮質ステロイド投与中にぶどう膜炎を発症した症例が報告されている5).CrU-b2MG(mg/dl)(mg/l)3.0602.0401.0200.00MG:尿中b2ミクログロブリン.TINU症候群の診断について標準的な診断基準は確立されていない.腎機能障害とぶどう膜炎を合併する鑑別疾患としては,サルコイドーシス,Sjogren症候群,全身性エリテマトーデス,Wegener肉芽腫症などがあげられる.これらの疾患との鑑別には,腎生検における急性間質性腎炎の病理所見が重要となる.MandevilleらはTINU症候群の診断基準について,急性間質性腎炎の2カ月前から12カ月後以内に発症した両眼性ぶどう膜炎をtypicaluveitisとし,typicaluveitisと急性間質性腎炎の病理診断を合わせた症例をde.niteTINUsyndromeとしている3).症例では,両眼同時発症ではないが両眼性ぶどう膜炎と急性間質性腎炎の病理診断よりde.niteTINUsyndromeとなる.TINU症候群の原因については感染,薬剤,自己免疫との関連が過去に報告されているが,いまだ結論には至っていない3).尿細管と毛様体上皮は炭酸脱水酵素阻害感受性の電解質輸送体に関して同様の機能を有しており,このことは両者に共通の交叉抗原が存在する可能性を示唆している6,7).近年の報告では,Tanらはmodi.edCRPに対する自己抗体がTINU症候群の原因である可能性について報告している8).また,OnyekpeらはTINU症候群で腎不全に至り腎移植を受けた患者で移植腎においても間質性腎炎がみられたことから,TINU症候群の原因は血液中の自己抗体ではないかと推察している9).III結語ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮して内科との連携を図り精査加療する必要がある.(89)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012237文献1)DobrinRS,VernierRL,FishAL:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanteriorueitis.Anewsyn-drome.AmJMed59:325-333,19752)SinnamonKT,CourtneyAE,HarronC:Tubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome:Epidemiology,diagnosisandmanagement.NephrolDialTransplantPlus2:112-116,20083)MandevilleJTH,LevinsonRD,HollandGN:Thetubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthal-mol46:195-208,20014)黛豪恭,秋山英雄,海野朝美ほか:良好な経過をたどった尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群の2例.臨眼63:897-901,20095)LavaSA,BucherO,BucherBSetal:DevelopmentofuveitisduringsystemiccorticosteroidtherapyinTINUsyndrome.PediatrNephrol26:1177-1178,20116)IzzedineH:Tubulointerstitialnephritisanduveitissyn-drome:Astepforwardtounderstandinganelusiveocu-lorenalsyndrome.NephrolDialTransplant23:1095-1097,20087)SugimotoT,TanakaY,MoritaYetal:Istubulointersti-tialnephritisanduveitissyndromeassociatedwithIgG4-relatedsystemicdisease?Nephrology13:89,20088)TanY,YuF,QuZetal:Modi.edC-reactiveproteinmightbeatargetautoantigenofTINUsyndrome.ClinJAmSocNephrol6:93-100,20119)OnyekpeI,ShenoyM,DenleyHetal:Recurrenttubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndromeinarenaltransplantpatient.NephrolDialTransplant26:3060-3062,2011***238あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(90)