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小児頭蓋内疾患患者に対する動的視野測定の可能性

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1848あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(00)848(124)0910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):848852,2009cはじめに視野測定は動的視野測定,静的視野測定ともに自覚的な検査法であり,被検者の理解力や集中力などの影響をうける.さらに小児においては検査への協力やコミュニケーションが得られにくいため,1回の検査で信頼性のある視野検査結果を得ることは困難であることが予想される.しかし一方で,頭蓋内疾患により視覚領や視路に障害が生じている場合には,視野測定は原疾患の病態把握や治療前後での評価に重要な情報をもたらしてくれる.そこで今回,筆者らは視野障害が疑われる小児の頭蓋内疾患患者に対して動的視野測定がどの程度可能であるかを検討してみたので報告する.I対象および方法対象は2007年4月から2008年3月の間に奈良県立医科大学附属病院小児科発達外来より視野障害が疑われるため当科に視機能評価の依頼があった10歳までの小児頭蓋内疾患患者で,視力検査が施行できた症例とした.動的視野検査はすべて一人の視能訓練士によって行われた.それぞれの患者〔別刷請求先〕湯川英一:〒634-8521橿原市四条町840奈良県立医科大学眼科学教室Reprintrequests:EiichiYukawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,840Shijo-cho,Kashihara-shi,Nara634-8521,JAPAN小児頭蓋内疾患患者に対する動的視野測定の可能性池田仁英湯川英一宮崎大介松浦豊明原嘉昭奈良県立医科大学眼科学教室UtilityofKineticPerimetryinChildrenwithIntracranialDiseasesHitoeIkeda,EiichiYukawa,DaisukeMiyazaki,ToyoakiMatsuuraandYoshiakiHaraDepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity視野障害が疑われる小児の頭蓋内疾患患者に対して動的視野測定がどの程度可能であるかを検討してみた.対象は2007年4月から2008年3月の間に奈良県立医科大学附属病院小児科発達外来より視野障害が疑われるため,眼科に精査依頼があった10歳までの頭蓋内疾患患者10例で,年齢4歳2カ月9歳10カ月,平均年齢6歳10カ月である.動的視野検査は1回の検査で信頼のある結果が得られない場合には固視状態や検査に対する理解力などを考慮し,3回目までは少なくとも1カ月以内ごとに再検査を行った.その後は症例に合わせて6カ月以内で適宜再検査とした.その結果,10例中9例で信頼のある視野測定結果が得られ,検査回数は14回,平均2.3回であった.小児頭蓋内疾患患者でも検査をくり返すことで短期間のうちに信頼のある視野検査結果が得られた.今後,われわれは小児科医や脳神経外科医との協力下に視野測定に最大限の努力を払うべきである.Weevaluatedtheutilityofkineticperimetryinchildrenwithintracranialdiseasesandsuspectedvisualelddefects.Subjectscomprised10childrenwithintracranialdiseaseswhorangedinagefrom4years,2monthsto9years,10months(meanage:6years,10months).TheyhadbeenreferredfromtheDepartmentofPediatrics,NaraMedicalUniversity,betweenApril2007andMarch2008,forsuspectedvisualdysfunction.Ifkineticperime-tryresultswerenotreliableontherstexamination,weconductedperimetryagainwithinatleast1month,using3consecutiveexaminations,consideringeyexationandthechildren’sunderstandingoftheexaminations.Wethenconductedre-examinationuntilreliabledatawereobtainedwithin6months.For9of10children,reliableresultswereobtainedforkineticperimetry.Theexaminationswereperformedfrom1to4times,themeanbeing2.3times.Wewereabletoobtainreliableperimetryforonlyashortperiod,thoughweexaminedrepeatedly.Weshouldthereforeputourbesteortsintoobtainingreliablekineticperimetrydatainchildren,inclosecollaborationwithpediatriciansandbrainsurgeons.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):848852,2009〕Keywords:動的視野検査,小児,頭蓋内疾患,動的視野計.kineticperimetry,children,intracranialdisease,kineticperimeter.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009849(125)で視野検査ごとにシートを作成し,検査時間,固視状態(固視の可否,持続性),検査に対する応答(検査に対する理解力,視標の追従,再現性,Mariotte盲点の検出),検査に対する集中力や意欲,機嫌,検査環境の評価を行った.1回の検査で信頼のある結果が得られなかった場合には固視状態や検査に対する理解力,積極性などを考慮しながら,視野検査が3回目までは少なくとも1カ月以内ごとに再検査を行った.その後は症例に合わせて6カ月以内で適宜再検査とした.なお,動的視野検査は応答の再現性やMariotte盲点の検出を指標にしたうえで,V/4,I/4,I/3,I/2のイソプターで,中心暗点が疑われる症例ではさらにI/1までのイソプターで従来の視野検査法にて信頼性のある結果が得られた時点をもって動的視野検査が可能と判断した.今回の研究に関しては患者の両親に視野検査の重要性を理解してもらい,書面にてインフォームド・コンセントを得た.II結果小児科発達外来より依頼があった10例の結果を表1に示す.年齢は4歳2カ月から9歳10カ月,平均年齢は6歳10カ月であり,すべての症例で矯正視力検査が可能であった.動的視野検査は10例中9例で信頼のある視野検査結果が得られた.視野検査回数は1回から4回であり,平均2.3回施行された.十分な視野検査が施行できなかった1例は中等度の精神発達遅滞を伴っており,3回の視野検査を試みるも検査に対する理解が得られなかった.代表例として正常視野と考えられた4歳8カ月,女児(症例7)の測定結果を図1に,左同名半盲が認められた5歳6カ月,男児(症例4)の測定結果を図2に示す.症例7では1回目の検査では片眼で固視移動点による視野測定法1)と中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法でしか検査が行えなかったが,検査3回目(初回より約1カ月後)には両眼で従来の視野検査法で信頼性のある動的視野検査結果を得た.また,症例4でも1回目の検査ではやはり固視移動点による視野測定法と中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法でしか検査が行えなかったが,検査4回目(初回より約3カ月後)には両眼で従来の視野検査法で信頼性のある動的視野検査結果を得た.III考按これまでに正常小児の視野検査においては,年齢の増加に伴い網膜各部位で視野閾値が低下することで年齢的変化を認めるとする報告24)や,年齢による有意な変化はみられないとする報告5)がみられる.今回は半盲や暗点は異常と判定する一方で,各イソプターについては極端な狭窄がみられない場合には異常なしと判定した.また,これまでに小児固有の視野反応として暗点,比較暗点の検出において求心法と遠心法では結果が異なる場合があること,固視が良好であるにもかかわらずMariotte盲点が検出されない場合があること6),さらには小児の視野検査の注意点として親との同室による不安感の除去,検査時間と集中力の持続状態の把握,固視状態の確認,視標の呈示方法などが報告されている1,7,8)ことから,筆者らはこれらの項目を検査ごとに再評価し,次回の検査時の助けとした.そして今回は成人と同様の測定法で視野検査が完遂できたときをもって視野検査可能と判断したが,症例によっては検査を行っていく過程で固視移動点による視野測定法1)や中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法も取り入れた.特に中心から周辺部に向かって視標を動かし視標消失域を測定する方法は被検者が最初から視標が見えている安心感からか固視が安定しやすいうえ,検者側からは固視ずれが生じた際にはすぐに注意を促しやすく,視野検査に慣れていくうえで有効な方法であると思われた.一方,固視移動法については今回,成人と同様に従来の検査法で施行することを最終目標としており,この方法に慣れてしまうことで固視の安定性がより得られにくいことが懸念表1動的視野検査を行った小児例症例年齢性別疾患名矯正視力検査回数視野結果備考123456789106歳11カ月5歳7カ月8歳1カ月5歳6カ月8歳3カ月9歳10カ月4歳8カ月4歳2カ月6歳1カ月9歳4カ月男女女男男女女女女女新生児脳梗塞神経線維腫,視神経膠腫疑い左側頭葉腫瘍多発性脳梗塞右くも膜胞術後左後頭葉腫瘍術後脳室周囲白質軟化症脳室周囲白質軟化症脳室周囲白質軟化症脳室周囲白質軟化症右眼1.2,左眼1.2右眼1.0,左眼1.0右眼1.2,左眼1.0右眼1.2,左眼1.2右眼1.2,左眼1.2右眼1.0,左眼1.2右眼1.2,左眼1.2右眼1.0,左眼1.0右眼0.8,左眼1.0右眼1.2,左眼1.21114123433異常認めず異常認めず右同名半盲左同名半盲左同名半盲右1/2半盲異常認めず異常認めず異常認めず測定不能5歳11カ月時には測定不能軽度精神遅滞軽度精神遅滞中等度精神遅滞———————————————————————-Page3850あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(126)abc左眼右眼図14歳8カ月,女児(症例7)の動的視野検査結果a.検査1回目:右眼で固視移動点による視野測定法と中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法により検査を行った.左眼は集中力が続かず断念した.b.検査2回目:両眼で中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法と周辺から中心に向かって視標を動かし,見えた時点でボタンを押す方法を組み合わせることによりそのずれを確認しながらV/4I/2イソプターでの測定が行えたが,Mariotte盲点の検出が不安定であった.c.検査3回目:両眼で従来の視野検査とほぼ同様の方法でV/4I/2イソプターで応答の再現性を確認し,Mariotte盲点の安定した検出がみられた.図25歳6カ月,男児(症例4)の動的視野検査結果a.検査1回目:両眼で固視移動点による視野測定法と中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法により視野検査を行った.右眼の鼻上側で特に応答が不安定であった.b.検査2回目:両眼で中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法と周辺から中心に向かって視標を動かし,見えた時点でボタンを押す方法を組み合わせることによりそのずれを確認しながらV/4I/2イソプターでの測定がかろうじて行えたが,固視の状態が非常に不安定であった.c.検査3回目:両眼で中心から周辺に向かって視標を動かし,見えなくなった時点でボタンを押す方法と周辺から中心に向かって視標を動かし,見えた時点でボタンを押す方法を組み合わせることによりそのずれを確認しながらV/4I/2イソプターでの測定を行えたが,固視の状態が不安定であった.d.検査4回目:両眼で従来の視野検査とほぼ同様の方法でV/4I/2イソプターで応答の再現性を確認し,Mariotte盲点の安定した検出がみられた.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009851(127)abcd左眼右眼図25歳6カ月,男児(症例4)の動的視野検査結果(図説明はp.850参照)———————————————————————-Page5852あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(128)されたため,必要最小限にとどめるようにした.また,4歳の2症例(症例7と症例8)では顔が小さいため,あご台と額部の間隔が広く検査が困難であったため,あご台にパッドを敷くことで対応した.症例10は3回の視野検査を行ったが検査を重ねても改善がみられず,固視移動点による方法も困難であった症例であり,精神遅滞による理解力不足が原因と考えられた.症例5においては5歳11カ月時に一度動的視野検査が試みられているが,理解力不足とのことで測定不能と判断されていた.しかしその2年4カ月後の今回では1回の検査で信頼のある視野検査結果が得られており,以前より数回にわたり視野検査を施行していればより早い時期から視野障害をとらえていた可能性があると思われた.今回の結果では10例中9例で最終的に視標を周辺から中心に向かって動かし,視標出現域を測定する従来の視野検査と同様な方法で検査を行うことができたが,この大きな理由の一つとして被検者の病院に対する慣れがあると思われた.すなわち今回の症例はすべて何らかの頭蓋内疾患を有しており,以前よりさまざまな治療や検査を経験してきている.このようなことが視野検査に対しても積極的に取り組もうとする姿勢にあらわれたり,ひいては検査に対する順応が早いものと思われた.実際,視野検査をゲーム感覚でとらえ,次回の検査を楽しみにしてくれる患者もみられた.そして今回行った視野検査は平均2.3回であり,比較的短期間で信頼性のある視野検査結果が得られた.このことは頭蓋内疾患に対する術後だけではなく,術前においても眼科医に3カ月程度の時間が与えられれば,十分に視野評価が行える可能性があることを示している.そのためには今後,小児科医や脳神経外科医に理解を得たうえで,われわれは視野検査に最大の努力を払うべきであると考えられた.文献1)山本節:小児の視野検査.あたらしい眼科19:1297-1301,20022)LakowskiR,AspinallPA:Staticperimetryinyoungchil-dren.VisionRes9:305-312,19693)普天間稔:小児の視野集団検診について.日眼会誌77:719-730,19734)廖富士子:ゴールドマン視野計による小児の動的および静的視野.日眼会誌77:1270-1277,19735)野村耕治:小児の視野測定.眼科プラクティス15,視野(根木昭編),p309-311,文光堂,20076)友永正昭:小児の量的視野について.日眼会誌78:482-491,19747)原澤佳代子:小児の視野検査.あたらしい眼科3:1659-1670,19868)可児一孝,貫名香枝:視野検査の実際.臨眼44:1537-1541,1990***