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高齢で発症したアカントアメーバ角膜炎の1 例

2024年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(3):349.352,2024c高齢で発症したアカントアメーバ角膜炎の1例池田舜太郎佐々木研輔門田遊阿久根穂高田中満里子林亮吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CACaseofContact-Lens-RelatedAcanthamoebaKeratitisinanElderlyPatientShuntaroIkeda,KensukeSasaki,YuMonden,HodakaAkune,MarikoTanaka,RyoHayashiandShigeoYoshidaCDepartmentofOpthalmology,SchoolofMedicineKurumeUniversityC目的:高齢者に認められたコンタクトレンズ(CL)によるアカントアメーバ角膜炎の症例報告.症例:79歳,女性.外傷歴なく,左眼の疼痛,流涙,視力低下を訴え前医で約C1カ月細菌性角膜炎として加療されたが改善乏しく当院紹介となった.初診時視力は右眼:(0.8C×sph-9.25D),左眼:手動弁.左眼に毛様充血,小円形の角膜浸潤,限局した実質浮腫,Descemet膜皺壁,角膜後面沈着物を認め,内皮型角膜ヘルペスを疑いアシクロビル眼軟膏,ベタメタゾン点眼を開始しいったん改善.2週後に地図状角膜炎類似の所見が出現しベタメタゾン点眼を内服に変更したが増悪し,角膜浸潤がリング状に拡大しアカントアメーバ角膜炎を疑った.再度問診を行いCCL装用歴が判明.角膜擦過物のPCR検査でアカントアメーバCDNAが陽性でありアカントアメーバ角膜炎と診断.病巣掻爬,抗真菌薬全身投与,抗真菌薬,消毒薬の局所投与を行い,初診後C161日に瘢痕治癒した.結論:角膜感染症においては高齢であってもCCL装用歴を聴取し,アカントアメーバ角膜炎を鑑別にあげることが重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCcontact-lens-relatedCAcanthamoebakeratitis(AK)inCanCelderlyCpatient.CCaseReport:A79-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalwithaninitialdiagnosisofbacterialkeratitis.Shecom-plainedofpain,lacrimation,anddecreasedvisioninherlefteye,yetshehasnohistoryoftrauma.Hercorrectedvisualacuitywas0.8×.9.25CSODandhandmotionOS.Ciliaryinjection,smallroundcornealin.ltrates,localizedstromaledema,aDescemetmembranefold,andkeraticprecipitateswereobservedinherlefteye.Herpeticendo-thelialkeratitiswassuspected,soantiviraltreatmentandtopicalcorticosteroidswereinitiatedandherconditionsimproved.CHowever,C2CweeksClater,CaClesionCmimickingCgeographicCkeratitisCwasCnoted.CCorticosteroidsCwereCswitchedtooralcorticosteroids,yetaring-shapein.ltratewasnoted.Basedonahistoryofcontactlenswearandtheresultsofapolymerasechainreactiontestofacornealscrapingbeingpositiveforacanthamoeba,adiagnosisofAKCwasCmade.CTreatmentCwithCantiamoebicCdrugsCwasCthenCinitiated,CandCtheCkeratitisCresolved.CConclusion:IntheCdi.erentialCdiagnosisCofCkeratitis,CcontactClensCwearCisCanCimportantCfactorCthatCshouldCbeCconsidered,CevenCinCelderlypatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(3):349.352,C2024〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,高齢者,コンタクトレンズ.AcanthamoebaCkeratitis,elderly,contactlens.Cはじめにアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)はC1974年にCNagingtonらにより初めて報告された難治性角膜疾患である1).これは土壌関連の外傷に伴う角膜感染症であったが,その後,コンタクトレンズ(contactlens:CL)の普及に伴い発症者が増加し,国内ではC1988年に石橋らによりCCL装用者に生じたCAKの症例が初めて報告された2).国内の調査では発症年齢はC28.7C±11.1歳と報告されており3),非CCL性CAKはC1.7.10.7%と報告されていることからも3.5),CLを装用している若年者に好発する疾患であることは広く知られている.今回,筆者らはCCLを装用していた高齢者のCAKのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:79歳,女性.〔別刷請求先〕池田舜太郎:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShuntaroIkeda,DepartmentofOpthalmology,SchoolofMedicineKurumeUniversity,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANC図1初診時所見a:毛様充血,小円形の角膜浸潤(.),不正形の角膜浸潤(.),限局性の角膜浮腫,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を認める.Cb:小円形の角膜浸潤に一致してフルオレセイン染色を認める.図2初診後21日目a:毛様充血,弧状の角膜浸潤を認める.b:広範な地図状角膜炎類似の所見を認める.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:とくに誘因なく左眼の疼痛・流涙・視力低下を主訴に近医眼科を受診した.左眼細菌性角膜炎と診断されC1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.5%セフメノキシム点眼液を2時間ごとに点眼,1%アジスロマイシン点眼液C1日C1回,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1日C4回点入で治療を開始されたが,アドヒアランスが不良であり,症状が改善せず,入院下の点眼管理も含め総合病院眼科に紹介された.紹介後も本人が入院加療を拒否したため,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.5%セフメノキシム点眼液をC1時間ごとに点眼,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1日C1回点入でC7日間外来加療されたが改善なく,本人を説得し同院に入院となった.入院後,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.5%セフメノキシム点眼液をC1時間ごとに点眼,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1日C4回点入,セフタジジムC2Cg/日点滴でC16日間加療を行ったが改善乏しく,精査加療目的に久留米大学病院眼科(以下,当科)へ紹介された.初診時眼所見:視力は右眼:0.07(0.8C×sph.9.25D(cylC.2.50DAx80°),左眼:手動弁.眼圧は右眼:10mmHg,左眼:4.7CmmHg(NCT).左眼は毛様充血,小円形の角膜浸潤,不正形の角膜浸潤,限局性の角膜浮腫,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を認めていた(図1).右眼には明らかな異常所見は認めなかった.治療経過:初診時に前房水のポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査を行いヘルペスウイルスは陰性であったが,眼所見より内皮型角膜ヘルペスを疑い,3%アシクロビル眼軟膏C1日C5回点入,0.1%ベタメタゾン点眼液C1日C4回点眼,バラシクロビル錠C1,000Cmg/日内服を開始した.当科初診後C7日の時点では,角膜浮腫,KPは改善を認めていたが,初診後C21日に広範な地図状角膜炎類似の所見が出現し,上皮型角膜ヘルペスの併発を疑いベタメタゾン点眼を中止して経過観察を行った(図2).初診後26日にはCKPは増加,前房蓄膿が出現し,地図状角膜炎類似の所見も増悪を認めた(図3).上皮型および内皮型角膜ヘ図3初診後26日目a:結膜充血,毛様充血,角膜浮腫,弧状の角膜浸潤,写真には写っていないが前房蓄膿も認めていた.b.:地図状角膜炎類似の所見の増悪を認める.図4初診後33日目a:リング状の角膜浸潤を認める.b:角膜輪部を除き,フルオレセイン染色を認める.ルペスの増悪と判断し,プレドニゾロンC20Cmg/日内服を開始した.初診後C30日にはCKPと前房蓄膿はさらに増加し,潰瘍も増悪を認めたため細菌感染の合併を疑い入院管理とし,プレドニゾロン内服を中止,0.5%セフメノキシム点眼液をC1時間ごとに点眼,セフタジジムC2Cg/日点滴を追加した.初診後C33日で前房蓄膿は改善したが,リング状の角膜浸潤を認め,AKの移行期を疑った(図4).この段階で改めてCCL装用歴について問診を行ったところ,ハードCCL装用歴が判明した.角膜擦過物のCreal-timePCRを行い,アカントアメーバCDNA陽性であり,AKと診断.病巣掻爬,ボリコナゾールC300Cmg/日点滴,自家調整C0.05%クロルヘキシジン点眼液と自家調整C0.1%ボリコナゾール点眼液をC1時間ごとに点眼,1%ピマリシン眼軟膏C1日C6回点入で治療を開始した.治療開始後,円板状の角膜混濁となり,AKの完成期に至ったが,同治療を継続し初診後C161日に瘢痕治癒を得た.左眼の最終視力は手動弁であった.本症例は独居であり当科通院中に受診日を間違えることが多く,問診の回答が二転三転することもあった.その後,転院先で認知症と診断された.CII考察AKの所見は,初期には放射状角膜神経炎が特徴的な所見として知られているが6),非特異的な所見を示すことも多い7).75.90%がCAK以外の診断で初期治療を開始されるといった報告もあるように8),初期に放射状角膜神経炎を見逃すと,初期診断および初期治療がむずかしく,また,初期に適切な治療がなされないとリング状の角膜浸潤が出現し,完成期として円板状の混濁となる6).本症例においても,初期は細菌性角膜炎として治療開始され,当科初診時も放射状角膜神経炎の所見は認めず,角膜浮腫とCKPが主体であり,角膜ヘルペスとしての治療が行われて診断が遅れ,またステロイド点眼による病態の増悪,遷延の結果,AKの完成期まで至った.昨今,CLとCAKの関連について周知が進み,以前よりもAKの初期診断・初期治療ができるようになってきたが,AK患者,CL装用者はともに若年者に多く3),高齢者のCAKは外傷後・術後がほとんどであり10),外傷歴や手術歴,AKに特徴的な所見(放射状角膜神経炎やリング状角膜浸潤など)を示した場合を除いては,高齢者の角膜感染症でまず初めにCAKを疑い治療を開始することは非常に困難といえる.本症例はC79歳と高齢であったため,CL装用歴が見逃され,特徴的なリング状角膜浸潤の所見がみられたことで初めてAKを疑い,それからCCL装用歴の聴取やCreal-timePCRなどの精査を行ったため,診断に遅れが生じた.これらのことから,角膜感染症を診た際は高齢であってもCCL装用歴の聴取を行うことでCAKの早期診断の一助になりうると考える.また,本症例は強度近視眼であり,屈折矯正目的にハードCLを装用していた.近年,世界中で近視が増加傾向にあり,今後も増加することが予想されているという背景もあり9),CLによる屈折矯正を行う人口も増加してくると考えられ,今後,高齢者のCCL装用者が増加してくる可能性も否定はできない.わが国の高齢単身者(65歳以上の単身世帯)も増加傾向となっており11),とくに認知機能の低下した高齢者ではCCLの洗浄や保管などの管理面においてもCAK感染のリスクは高いと考えられ,高齢者のCAKが今後増加する可能性もある.本症例は高齢単身者で,認知症の診断も受けており,CLの管理面においてリスクは高かったと考えられる.また,AKの臨床的特徴の一つに非常に強い眼痛があるが,認知症患者においては自覚症状の把握がむずかしい場合があり,本症例においても疼痛の訴えは強くなかった.非常に強い疼痛の訴えがあれば早期診断の一助になった可能性も考えられる.今回,筆者らは高齢者のCCL性CAKのC1例を経験し,今後の高齢社会,近視社会を見据え,角膜感染症を診た際は,CL問診も含め,AKを常に鑑別にあげることが重要と考えられた.文献1)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfec-tionoftheeye.LancetC2:1537-1540,C19742)石橋康久,松本雄二郎,渡辺良子ほか:AcanthamoebakeratitisのC1例-臨床像,病原体検査法および治療についての検討.日眼会誌92:963-972,C19883)鳥山浩二,鈴木崇,大橋裕一:アカントアメーバ角膜炎発症者数全国調査.日眼会誌118:28-32,C20144)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近経験したアカントアメーバ角膜炎C28例の臨床的検討.あたらしい眼科C27:680-686,C20105)平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌C115:899-904,C20116)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科C35:C1613-1618,C20187)IllingworthCCD,CCookSD:AcanthamoebaCkeratitis.CSurvCOphthalmolC42:493-508,C19988)SzentmaryN,DaasL,ShiLetal:Acanthamoebakerati-tis-ClinicalCsigns,Cdi.erentialCdiagnosisCandCtreatment.CJCurrOphthalmolC31:16-23,C20199)藤村芙佐子:学校健康診断と小児の近視.日視能訓練士協誌49:1-6,C202010)高津真由美,奈田俊,山本秀子ほか:白内障術後のアカントアメーバ角膜炎のC1例.感染症学雑誌C69:1159-1161,C199511)内閣府:令和C4年版高齢社会白書.p9-10,2022C***

眼科病棟の高齢入院患者における点眼手技の研究

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1704.1708,2022c眼科病棟の高齢入院患者における点眼手技の研究森本綾華*1三木篤也*2,3中川里恵*1西田幸二*2,4*1大阪大学医学部附属病院看護部*2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)*3愛知医科大学医学部近視進行抑制学*4大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門CInvestigationofEyeDropInstillationTechniquesinElderlyInpatientswithEyeDiseasesAyakaMorimoto1),AtsuyaMiki2,3),RieNakagawa1)andKoujiNishida2,4)1)DepartmentofNursing,OsakaUniversityHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofMyopiaControlResearch,AichiMedicalUniversityMedicalSchool,4)IntegratedFrontierResearchforMedicalScienceDivision,InstituteforOpenandTransdisciplinaryResearchInitiatives,OsakaUniversityC眼科病棟の入院患者における点眼手技の巧拙およびそれに関連する背景因子について検討を行った.2020年C9月1日.2021年C5月C31日に大阪大学医学部附属病院西C7階病棟に眼疾患の治療目的で入院した患者のうち,65歳以上の176名を対象とし,16項目の点眼手技を,チェック表を用いて看護師が「できている」「指導があればできる」「できていない」のC3段階で評価した.その後,定量的評価が困難なC4項目を除いたC12項目の評価結果と,年齢および性別,病名との相関を統計学的に検討した.12項目すべてが「できている」であった者はC44名(40.7%)で,平均年齢が65.3歳であったのに対し,それ以外の患者の平均年齢はC72.0歳であり,有意に年齢が高かった(p=0.0151).性別では男性(60.4%)が女性(39.6%)よりも有意に「できている」の割合が高かった.緑内障患者が緑内障以外の患者より有意で「できている」の割合が高かった.CWeanalyzedthetechniquesofeyedropinstillationandassociatedbaselinefactorsininpatientswitheyedis-eases.CInCthisCstudy,CnursesCevaluatedCtheCinstillationCtechniquesCofCtheCinpatientsCwhoCunderwentCophthalmologicCtreatmentsfromSeptember1,2020toMay31,2021atOsakaUniversityHospitalusingthree-levelscoringof16parameters.Scoresof12parametersexcluding4parametersthatwerenotsuitableforquantitativeanalysiswereretrospectivelycollectedandstatisticallyanalyzed.Forty-fourpatients(40.7%)showeda“good”instillationtech-niqueinall12parameters.Themeanageofthepatientswhoshowedagoodtechniqueinall12parameters(i.e.,65.3years)wassigni.cantlyhigherthanthatofthepatientswhoshowedbadtechniqueinany1of12parameters(i.e.,C72.0Cyears,Cp=0.0151).CMalepatients(60.4%)performedCbetterCthanCfemalepatients(39.6%).CPatientsCwithCglaucomaperformedbetterthanthepatientswithotheroculardiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(12):1704.1708,C2022〕Keywords:点眼,高齢者.eyedrop,elderlypeople.はじめに日本人の平均寿命は内閣府の統計データによるとC2018年時点で男性C81.3年,女性C87.3年であり,2019年の高齢化率はC28.4%にも上る1).また,2016年の健康寿命は男性72.1歳,女性C74.8歳である2).厚生労働省の「平成C29年の患者調査の概況」によると,65歳以上の入院患者は入院患者全体のC73.2%,75歳以上でC53.2%であり,外来通院している患者では,65歳以上の患者が外来患者全体のC50.6%,75歳以上でC28.9%となっている3).患者の高齢化は眼科領域においても例外ではなく,眼科医会によるとC2007年時点で日本にはC145万人の視覚障害患者が存在すると推定されているが,その視覚障害者の半数は70歳以上であり,60歳以上でC72%を占めていると推定されている4).高齢化が進むなかで白内障などの一時的に点眼治療が必要な患者だけでなく,緑内障など長期に点眼治療が必要な患者も高齢化しており,点眼管理が医師の指示どおり行えているかどうか疑問である.高齢者の服薬管理の研究は過去に行われており,加齢に伴〔別刷請求先〕三木篤也:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:AtsuyaMiki,DepartmentofOphthalmology,AichiMedicalUniversityMedicalSchool,1-1YazakoKarimata,Nagakute,Aichi480-1195,JAPANC1704(136)い罹患する疾患数が増えるため処方される薬の種類も増え,複数の薬の服薬自己管理が必要であるといわれている5).厚生労働省のC2019年の統計によると,服薬中の薬がC7種類を超えるケースはC65.74歳でC13.5%,75歳以上でC24.5%であり6),高齢者が多剤を服用していることがわかる.高齢化に伴う認知機能の低下,理解力の低下,身体機能の低下に加え,多剤服用によりさらに服薬自己管理が困難になっていると示唆され,また,服用期間が長期になることで服薬忘れや自己中断も起きていることが示されている5).眼科領域においても自己点眼が必要な高齢患者が多く,緑内障患者の多くは点眼薬が多剤処方されており,点眼管理が困難になっていることが考えられる.また,処方された点眼薬を指示回数どおり実施しているだけでは不十分であり,正しく点眼できていることが重要である.眼疾患の治療において点眼は,手術患者の術前無菌化,術後感染予防,消炎などに重要であり欠かすことのできない治療法の一つである.しかし,超高齢社会である現代において眼科疾患を有する患者も高齢化している.生方らは白内障手術を受けた患者に限定して点眼手技を評価し,点眼容器を持つ手が安定しないことが確実な点眼ができない要因であり,げんこつ点眼法の指導が自己点眼の習得に有効であると考察している7).鈴木はC75歳以上の後期高齢者では老年症候群,フレイル,認知症が増加すると述べている.また,60歳以上の患者で点眼アドヒアランスが不良であり,60歳以上の高齢者に積極的な点眼指導を行う必要性を述べている8).これらのことから,75歳以上の後期高齢者においては,視力障害の程度にかかわらず自己点眼が困難になることが少なくないと考える.これからますます増加する高齢眼科疾患患者に対し,早期に正しい点眼手技を獲得してもらうことは眼科看護の重要な課題であると考える.しかし,高齢の眼科疾患を有する患者の看護ケアとして点眼手技に着目した先行研究や,自己点眼の評価についてのガイドラインもなく,各施設でそれぞれの経験に基づいてチェックリストや判断基準を作成している現状がある.これらのことから,眼科病棟の入院患者における点眼手技の巧拙およびそれに関連する背景因子を検討することで,その後の自己点眼確立に向けての介入の検討に役立てることができると考える.そのような背景から,今回筆者らは,眼科病棟入院中の高齢患者において,点眼手技およびそれに相関する因子の検討を行った.CI対象および方法対象は,2020年9月1日.2021年5月31日に大阪大学医学部附属病院西C7階病棟(当科)に眼疾患の治療目的で入院したC65歳以上の患者のうち,「点眼手技チェック表」に基づいて看護師が点眼手技の評価を行ったC176名(平均年齢C69.1±14.7歳)である.内訳は女性C83名(47%),男性C93名(53%),病名は緑内障C118名(67%),その他C58名(33%)であった.当科では,点眼継続の必要があるすべての入院患者に対して,独自に作成した「点眼手技チェック表」に基づいて点眼手技の評価を行っている.点眼手技チェック表はC16項目からなり(表1),それぞれ看護師がC3段階(できている,指導があればできる,できていない)のスコアで評価している.チェック表を後ろ向きに収集し,定量的評価が困難なC4項目を除いたC12項目を解析の対象とした.「できている」を良好,「指導があればできる」および「できていない」を不良として,それぞれの項目について点眼手技が良好であった患者の割合(良好率)と,年齢および性別,病名と各項目の良好率との相関を統計学的に検討した.また,12項目すべてが「良好」の群と,一つでも「不良」があった群のC2群に分けてC2群の頻度と,相関する因子の検討を行った.解析は統計ソフトウェアCJMPPro15.2.0(SASInstituteInc)を用いて行った.連続変数は線形回帰分析,名義変数はCt検定を用い,p値C0.05未満を有意とした.本研究は臨床研究法を遵守し,ヘルシンキ宣言に則って行った.本研究は大阪大学医学部附属病院倫理委員会の承認を受け,研究内容を公表し被検者に拒否の機会を与える(オプトアウト)形で行った.CII結果点眼手技チェック表の各項目の良好者数と良好率を表2に示す.良好者が少ない項目は「8.眼球,瞼,睫毛と点眼薬が接していない」でC139名(78.9%)であり,もっとも良好者が多い項目は「13.後片付けを行う」でC168名(95.4%)であった.項目C8以外は良好者がC80%以上あった.病名と相関した項目はC7項目あり(表3),年齢と相関したのはC3項目であった(表4).すべての項目が良好であった患者はC91名(51.7%),どれか一つでも不良であった患者はC85名(48.3%)という結果になった.性別,年齢,疾患のすべてが点眼手技すべての項目の巧拙と有意に相関した.性別は男性C55名(60.4%)が女性C36名(39.6%)よりも有意に良好であった.また,年齢においては良好群がC66.3C±1.5歳,不良群C72.0±1.6歳であり(表4),年齢が若いほうが有意に良好であり,疾患では緑内障患者が緑内障以外の患者より有意に良好であった(表5).CIII考察眼科入院患者において,当科独自点眼手技チェック表を用いて客観的な評価を行った.点眼手技チェック表の各項目のなかで良好者が少ない項目は「8.眼球,瞼,睫毛と点眼薬が接していない」でC139例(78.9%)であり,もっとも良好者が多い項目は「13.後片付けを行う」でC168例(95.4%)表1「点眼手技チェック表」の項目1.点眼薬の種類を判別できる.2.手をきれいに洗う.3.アイコットンを清潔に使用する.4.アイコットンで目頭から目尻の方向に拭く.5.アイコットンの同じ面でC2度拭きしない.6.点眼薬の蓋は上向きに置く.7.安全に下眼瞼のみを引っ張る.8.眼球,瞼,睫毛と点眼薬が接していない.9.点眼薬はC1滴を点眼する.10C①.点眼時の体位(仰臥位・坐位・その他)10C②.坐位以外の体位で実施する理由(例・開眼困難,頸部拘縮)11.溢れた点眼液をアイコットンで拭き取る.12.複数の点眼薬使用時,5分間隔をあける.13.後片付けを行う.14.(頻回点眼時のみ)点眼表にチェックを入れる.15.正しく点眼薬を保管している(冷蔵庫や交換日など).表2各項目における良好患者数と良好率項目良好者数(良好率)C1.点眼薬の種類を判別できる.160名(C90.9%)C2.手をきれいに洗う.146名(C82.9%)C3.アイコットンを清潔に使用する.156名(C88.6%)C4.アイコットンで目頭から目尻の方向に拭く.158名(C89.7%)C5.アイコットンの同じ面でC2度拭きしない.144名(C81.8%)C6.点眼薬の蓋は上向きに置く.154名(C87.5%)C7.安全に下眼瞼のみ引っ張る.161名(C91.4%)C8.眼球,瞼,睫毛と点眼薬が接していない.139名(C78.9%)C9.点眼薬はC1滴を点眼する.164名(C93.1%)C10C①C.点眼時の体位(座位を良好とする)152名(C86.3%)C11.溢れた点眼液をアイコットンで拭き取る.163名(C92.6%)C13.後片付けを行う.168名(C95.4%)表3疾患と相関した項目項目緑内障緑内障以外p値C3.アイコットンを清潔に使用する.109名(C69.9%)47名(C30.1%)C0.0409C4.アイコットンで目頭から目尻の方向に拭く.112名(C70.9%)46名(C29.1%)C0.0026C5.アイコットンの同じ面でC2度拭きしない.103名(C71.5%)41名(C28.5%)C0.0117C8.眼球,瞼,睫毛と点眼薬が接していない.101名(C72.7%)38名(C27.3%)C0.0031C9.点眼薬はC1滴を点眼する.114名(C69.5%)50名(C30.5%)C0.0211C11.溢れた点眼液をアイコットンで拭き取る.115名(C70.5%)48名(C29.5%)C0.0010C13.後片付けを行う.116名(C69.1%)52名(C30.9%)C0.0163C表4年齢と相関した項目項目良好症例良好症例の年齢不良症例不良症例の年齢p値C2.手をきれいに洗う.146名C68.0±1.2歳30名C74.1±2.6歳C0.0401C7.安全に下眼瞼のみ引っ張る.161名C68.2±1.1歳15名C78.1±3.7歳C0.0120C10C①C.点眼時の体位(坐位・仰臥位・その他)152名C67.6±1.2歳23名C78.3±3.0歳C0.0011*10①は坐位を良好,仰臥位・その他を不良とした.表5すべての項目の巧拙に関与する因子カテゴリー良好不良p値性別女性36名(C39.6%)47名(C55.3%)C0.0049年齢C66.27±1.51歳C72.04±1.56歳C0.0088緑内障疾患緑内障以外71名(C60.2%)47名(C39.8%)C0.002220名(C34.5%)38名(C65.5%)であった.「8.眼球,瞼,睫毛と点眼薬が接していない」以外の項目の良好者はC80%以上あった.海外における既報では,点眼手技は1)1滴だけを正確に滴下する,2)眼球(眼瞼などでなく)に滴下できる,3)点眼瓶を汚染せず滴下できる,のC3つを主要な因子として評価している.それ以外に,手洗い,点眼後の閉瞼や涙点閉鎖を含めて評価することもある.その中では点眼瓶汚染がもっとも多くみられ,一滴滴下がそれに次ぐが,眼球をはずすことは比較的少ないとされている12).今回の項目C8の結果は,良好率は高いが既報と同様の傾向がみられた.「9.点眼薬はC1滴を点眼する」に関しては,既報とは異なりC164例(93.1%)が良好であった.既報は海外の研究結果であったため,背景の違いも考えられるが,細かな背景について情報が取れていないため理由は不明である.今回使用した点眼手技チェック表は病棟独自で作成したものであり,点眼した位置などの項目が含まれていないため,点眼手技チェック表の項目追加の検討の余地があると考える.点眼手技のすべての項目で良好な結果を示した患者はC51.7%であり,過去の同様の研究と比較すると概して点眼手技が良好である.年齢においては加齢により点眼手技が有意に悪化することが示された.これは既報でも点眼手技不良ともっとも関連する因子は高齢である12)とされており同様の結果が得られた.また,それ以外に,点眼手技不良と関連する因子として女性,関節炎,視野障害,低教育などがあげられている12).女性のほうが不良であることは理由は不明だが本報告と一致する.関節炎,視野,教育については評価できておらず,今後の検討が必要である.疾患別では緑内障患者と非緑内障患者では緑内障患者の点眼手技が良好であったが,緑内障患者は有病歴が長く点眼に対する慣れがあることが考えられる.当院は大学病院であるため,今回検討した患者の半数以上が網膜,角膜疾患を有する患者であったことから,疾患別に細かな解析をしていくことで違った結果が得られる可能性がある.既報ではC78%の研究で,何らかの介入が点眼手技改善に役立つとされており,おもな介入方法としては,dosingaid,single-usebottle,点眼手技教育がある.本研究では,Cdirectobservationで点眼手技を評価したが,既報では,患者の自己評価は,客観的評価と比較して点眼手技を過大評価しているため,本研究のような客観的評価が点眼手技の研究には必要である13).しかし,directobservationの場合,評価者により評価がばらつくおそれがあるため,videorecord-ingのほうがよいとされており,今後の検討が必要である12).術後管理を適切に行うためには点眼手技を正しく評価し,患者に合った指導が必須であり,とくに高齢者では注意が必要だということが今回の研究で示唆された.今回は患者の学歴や理解度などの検討は行っていないが,今回検討した以外の背景因子についても検討を行うことで,患者に合った点眼指導につなげていくことができると考える.利益相反森本綾華,中川里恵,西田幸二:該当なし三木篤也:株式会社シード,株式会社メニコン(いずれもカテゴリーFクラスCIII)文献1)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_1_1.html(2022年C3月C6日閲覧)2)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_2_2.html(2022年C3月C6日閲覧)3)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/kanja-01.pdf(2022年C3月C6日閲覧)4)https://code.kzakza.com/2018/05/gankaikai_popu/(2022年3月6日閲覧)5)坂根可奈子:高齢者の服薬自己管理を査定する服薬アドヒアランス評価ツールの開発.島根大学大学院医学系研究科看護学専攻博士後期課程,博士学位論文6)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa19/dl/gaikyou2019.pdf(2022年C3月C9日閲覧)7)生方美恵子,芳賀智子:眼科手術を受ける患者の確実な点眼手技の習得に向けた取り組み.日農医誌64:1-65,C20158)鈴木隆雄,石崎達郎,磯博康ほか:後期高齢者の保健事業の在り方に関する研究.平成C27年度厚生労働科学研究特別研究9)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析,薬学雑誌121:799-806,C200110)葛谷雅文,遠藤英俊,梅垣宏行ほか:高齢者服薬コンプライアンスに影響を及ぼす諸因子に関する研究,日老医誌C37:363-370,C200011)KashiwagiCK,CMatsudaCY,CItoCYCetal:InvestigationCofCvisualCandCphysicalCfactorsCassociatedCwithCinadequateCinstillationCofCeyedropsCamongCpatientsCwithCglaucoma.CPLoSOneC16:e0251699,C202112)DavisSA,SleathB,CarpenterDMetal:Dropinstillationandglaucoma.CurrOpinOphthalmolC29:171-177,C201813)StoneJL,RobinAL,NovackGDetal:Anobjectiveeval-uationCofCeyedropCinstillationCinCpatientsCwithCglaucoma.CArchOphthalmolC127:732-736,C2009***

特別養護老人ホームに通所している高齢者の視覚関連Quality of Life

2020年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(6):763.767,2020c特別養護老人ホームに通所している高齢者の視覚関連QualityofLife多々良俊哉前田史篤生方北斗菊入昭金子弘阿部春樹新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科CVision-RelatedQualityofLifeinElderlySubjectsinaSpecialElderlyNursingHomeShunyaTatara,FumiatsuMaeda,HokutoUbukata,AkiraKikuiri,HiroshiKanekoandHarukiAbeCNiigataUniversityofHealthandWelfareDepartmentofOrthopticsandVisualSciencesC特別養護老人ホームに通所している高齢者(平均年齢C±標準偏差C86.0C±5.3歳)を対象に,25-itemCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)を用いて視覚に関連した健康関連CQOL尺度を測定し,視力との関係性について検討した.対象者の眼鏡常用率はC12.5%であった.本研究では矯正視力に加えて,眼鏡常用者は眼鏡視力,未常用者の場合は裸眼視力を測定し,それらを日常生活視力として評価した.日常生活視力は矯正視力と比較して,遠見でC0.23log(p<0.01),近見でC0.20log(p<0.01)低値であった.NEIVFQ-25の「遠見視力による行動」のスコアはC81.0,「近見視力による行動」では,74.0であり,それらはCworseeyeの日常生活視力と強く相関した(p<0.01).特別養護老人ホームに通所している高齢者には眼鏡非常用者が多かった.これらのことから高齢者は適切な屈折矯正がされていないため,日常生活のなかで行動制限が生じている可能性が示唆された.CInthisstudy,wemeasuredthehealth-relatedqualityoflife(QOL)levelusingthe25-itemNationalEyeInsti-tuteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)amongelderlysubjects[meanage:86.0C±5.3(meanC±standarddeviation)years]inaspecialelderlynursinghome,andexaminedtherelationshipbetweenQOLandvisualacuity(VA)C.OfCtheCsubjectsCexamined,12.5%CworeCglassesCregularly.CInCadditionCtoCcorrectedCVA,CweCmeasuredCVACwithglassesornakedeyeasvisionindailylife(dailylifeVA)C.DailylifeVAwas0.23Clog(p<0.01)inthedistanceand0.20Clog(p<0.01)inCtheCnearCvisionCcomparedCwithCtheCcorrectedCVA.CTheCNEICVFQ-25scoreCwasC81.0forC“di.cultyCwithCdistance-visionCactivities”andC74.0for“di.cultyCwithCnear-visionCactivities”,andCmostCofCtheCexaminedCsubjectsCdidCnotCwearCglassesCwhileCatCtheCfacility.COurC.ndingsCsuggestCthatCseniorsCmayCnotChaveCappropriaterefractivecorrection,andthatbehavioralrestrictionsmayoccurintheirdailylives.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):763.767,C2020〕Keywords:NEIVFQ-25,QOL,視覚,高齢者,特別養護老人ホーム.NEICVFQ-25,QOL,visual,elderly,spe-cialelderlynursinghome.Cはじめに2018年におけるわが国の平均寿命1)は女性C87.3歳,男性81.3歳であり,65歳以上の人口が全人口のC28.1%を占める超高齢社会である.加齢による機能低下は身体のみならず視機能にも生じ,qualityCoflife(QOL)の低下をきたす2).西脇ら3)は眼科の患者を対象とした研究において,眼疾患によって生じた視機能低下がCQOLに及ぼす影響について検討している.しかし眼科に通院せず,具体的な医療の介入を受けていない高齢者を対象とした報告は少ない4,5).信頼性と妥当性が確認されたCQOL尺度にC25-itemNation-alCEyeCInstituteCVisualCFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)6)がある.NEIVFQ-25は,51の質問項目があるCTheCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionCQuestionnaireの短縮版であり,Suzukamoら7)がその日本語版を作成した.CNEIVFQ-25は見え方による身体的,精神的,そして社会的な生活上の制限の程度を測定する.12の領域(下位尺度)〔別刷請求先〕多々良俊哉:〒950-3198新潟県新潟市北区島見町C1398新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科Reprintrequests:ShunyaTatara,NiigataUniversityofHealthandWelfareDepartmentofOrthopticsandVisualSciences,1398Shimami-cho,Kita-ku,Niigata-shi,Niigata950-3198,JAPANCから構成され,これらの領域は,眼疾患をもつ患者だけでなく,眼疾患をもたない人にも共通する内容で構成されている.したがって疾患別のCQOLが比較できるほか,疾患の有無にかかわらず利用することが可能である.本研究では特別養護老人ホームに通所している高齢者の視機能を評価し,NEIVFQ-25から求めた視覚に関連した健康関連CQOLとの関係性について検討した.CI対象および方法1.対象対象は特別養護老人ホームCAに通所している高齢者C40名で,その内訳は女性C36名,男性C4名であった.年齢はC70.96歳であり,平均年齢C±標準偏差はC86.0C±5.3歳であった.C2.方法a.NEIVFQ.25対象者に対し,NEIVFQ-25をC1対C1の面接方式で行った.検者C1名が各項目を読み上げ,対象者にC5段階の回答肢のなかから選択させた.NEIVFQ-25のデータ分析は「NEIVFQ-25日本語版(Ver1.4)使用上の注意」に従った.具体的には調査表の各項目にコード化された数値を再コード化のうえ,各項目をC0.100のスケールで得点化して下位尺度を算出した.検討した下位尺度はCSuzukamoら7)の使用法を参考に「全体的見え方」「近見視力による行動」「遠見視力による行動」「見え方による社会生活機能」「見え方による心の健康」「見え方による役割制限」「見え方による自立」のC7項目とした.スコア化についてはスコアC100を最高値としC0を最低値とした.回答が得られなかった項目については,平均代入法を用いて処理した.Cb.視力検査対象者には視機能検査として遠見および近見の視力検査を行い,得られた視力値はClogMAR値に換算した.なお,視力検査には視力表(半田屋商店)とひらかな万国近点検査表(半田屋商店)を用いた.室内照度はC270Clxであった.左右表1眼鏡の使用目的使用目的人数(常用者数)遠見3(1)近見5(1)遠見および近見10(2)中間距離および近見1(1)不明4(0)計C23(5)眼それぞれの完全屈折矯正下における矯正視力と日常生活における視力(以下,日常生活視力)を測定した.日常生活視力を求めるため,眼鏡常用者では眼鏡装用下の眼鏡視力を測定し,眼鏡を常用していない対象者の場合は裸眼視力を測った.また,左右眼の視力を比較し,視力良好であった眼をCbettereye,不良であった眼をCworseeyeと定義した.分析では矯正視力と日常生活視力について,左右眼およびCbettereye,worseeyeの視力値を比較した.Cc.統計解析遠見視力と近見視力,そして日常生活視力と矯正視力との比較をCWilcoxonの符号付き順位検定にて行った.遠見のCbettereye,worseeyeそれぞれの日常生活視力とNEIVFQ-25における下位尺度の「遠見視力による行動」の項目との相関を,Spearmanの順位相関係数を用いて求めた.同様に,近見のCbettereye,worseeyeそれぞれの日常生活視力とCNEIVFQ-25における下位尺度の「近見視力による行動」の項目との相関を,Spearmanの順位相関係数を用いて求めた.なお,統計処理において,小数視力C0.01未満であったC2眼は小数視力C0.01として扱った.すべての統計解析において,有意水準C5%未満を統計学的有意差ありとして判定した.本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した.CII結果1.眼鏡保有率と使用率眼鏡保有者はC40名中C23名(57%)であった.そのうち,眼鏡常用者はC5名であり全体のC12.5%であった.眼鏡の使用目的は表1のとおりであった.C2.視力矯正視力と日常生活視力(平均値C±標準偏差)を表2に示した.遠見視力よりも近見視力が低かった.日常生活視力は矯正視力と比較して,遠見でC0.23log(p<0.01),近見で0.20log(p<0.01)低値であった.C3.NEIVFQ.25の下位尺度スコアと日常生活視力との関係NEIVFQ-25の下位尺度スコア(平均値C±標準誤差)は「全体的見え方」66.3C±3.0,「近見視力による行動」73.9C±4.5,「遠見視力による行動」81.0C±3.6,「見え方による社会生活機能」83.1C±3.9,「見え方による心の健康」76.6C±4.3,「見え方による役割制限」78.8C±3.6,「見え方による自立」78.1C±4.1であり,対象者は「遠見視力による行動」よりも「近見視力による行動」に制限を感じていた(図1).「遠見視力による行動」「近見視力による行動」ともにCbet-tereyeに比べてCworseeyeの日常生活視力と相関が強かった(図2~5).表2対象者の視力値遠見近見p値矯正視力右眼C0.35±0.42C0.49±0.41Cp=0.01左眼C0.41±0.36C0.54±0.39p<0.01日常生活視力右眼C0.58±0.44C0.72±0.36Cp=0.02左眼C0.63±0.40C0.72±0.36Cp=0.06矯正視力CbettereyeC0.24±0.28C0.37±0.27p<0.01CworseeyeC0.51±0.44C0.67±0.45p<0.01日常生活視力CbettereyeC0.42±0.29C0.59±0.27p<0.01CworseeyeC0.80±0.44C0.85±0.40Cp=0.25C100100NEIVFQ-25「遠見視力による行動」908070605040302010NEIVFQ-25スコアGVNVDVSFMHRLDPNEIVFQ-25下位尺度図1NEIVFQ.25の下位尺度検討を行った下位尺度は「全体的見え方(generalvision:GV)」「近見視力による行動(nearvision:NV)」「遠見視力による行動(distancevision:DV)」「見え方による社会生活機能(socialfunction:SF)」「見え方による心の健康(mentalhealth:MH)」「見え方による役割制限(rolelimitations:RL)」「見え方による自立(dependency:DP)」のC7項目であった.バーは平均値を,エラーバーは標準誤差を示す.CIII考按1.眼鏡保有率と使用率本研究における眼鏡常用率はC12.5%であった.宮崎ら4)が特別養護老人ホームで行った調査では入所者の眼鏡常用率は20.0%であり,入所者は眼鏡の作製に対して「受診に手間がかかる」「介護者に依頼すると面倒なことを増やすだけ」といった意見があったと報告している.特別養護老人ホームの高齢者は眼科への受診が容易ではなく,眼鏡を作製しにくい状況にあると考えられる.また,河鍋8)はC40歳代に初診した患者の他覚的屈折度をC40年にわたって測定し,その屈折度の変化は球面度数+1.81D,円柱度数C.0.87Dであったと報告している.このことから本研究の対象群においても,経年的な屈折度の変化が生じていることが推測され,眼鏡を常用していない理由の一つとして眼と眼鏡の度数が合っていない可能性が考えられる.さらにCbettereyeの矯正視力がC0.24(121)02.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)bettereyeの日常生活視力(遠見)図2「遠見視力による行動」とbettereyeの日常生活視力縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「遠見視力による行動のスコア」,横軸はCbettereyeの日常生活視力(遠見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.r=.0.293,p<0.01で弱い相関があった.C±0.28であったことから白内障などの影響が推測され,眼鏡を装用しても視力が改善しにくいことも眼鏡を常用しない要因としてあげられる.C2.視力値日常生活視力は遠見のCbettereyeで+0.42±0.29,近見のCbettereyeで+0.59±0.27であった.平均年齢C77.52C±5.33歳を対象とした林の調査9)においてCbettereyeの日常生活視力(小数視力)は遠見でC0.63(logMAR換算値C0.20),近見で0.44(logMAR換算値C0.36)であったと報告されている.視力はC45歳を境として眼疾患がない場合でも加齢とともに低下する傾向にあり,75歳以上では急激に低下する10)ため,対象群の年齢の違いが今回の差の理由だと推測される.C3.NEIVFQ.25の下位尺度スコアと日常生活視力との関係大鹿ら11)は白内障患者における手術前後のCNEICVFQ-25あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C765100100908080NEIVFQ-25「遠見視力による行動」NEIVFQ-25「近見視力による行動」707060504030201060504030201002.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)worseeyeの日常生活視力(遠見)図3「遠見視力による行動」とworseeyeの日常生活視力(遠見)縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「遠見視力による行動のスコア」,横軸はCworseeyeの日常生活視力(遠見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.Cr=.0.495,p<0.01で相関があった.C10002.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)bettereyeの日常生活視力(近見)図4「近見視力による行動」とbettereyeの日常生活視力(近見)縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「近見視力による行動のスコア」,横軸はCbettereyeの日常生活視力(近見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.Cr=.0.263,p=0.12であった.た結果,「遠見視力による行動」および「近見視力による行90807060504030201002.01.51.00.50.0(0.01)(0.03)(0.1)(0.3)(1.0)worseeyeの日常生活視力(近見)図5「近見視力による行動」とworseeyeの日常生NEIVFQ-25「近見視力による行動」動」のスコアは視力と相関した.大鹿ら11)の医療機関の研究において,その対象はClogMAR値C0.15以下の患者であった.本研究の対象は特別養護老人ホームの高齢者であり,そのClogMAR値は遠見でC2.0からC.0.08,近見でC2.0からC0.0と幅があった.そのためCQOLスコアについても一定の幅があり,両者の相関が得られやすかったと推測される.本研究の限界としては,調査対象が特別養護老人ホームAのC1施設のみであったことがあげられる.しかし,得られたデータは宮崎ら4)と同様の傾向を示しており,特別養護老人ホームを利用している高齢者の特徴を捉えていると考えられる.今後は多施設の調査を実施し,より詳細な特徴を明らかにしたい.本研究の眼鏡非常用者はC87.5%であり,視力低下と行動による制限には相関があった.視機能低下がわずかであって活視力(近見)縦軸はCNEIVFQ-25で測定した「近見視力による行動のスコア」,横軸はCworseeyeの日常生活視力(近見)をClogMARで示し,括弧内にその小数視力を表した.Cr=.0.686,p<0.01で相関があった.のスコア改善度は,手術前後それぞれのCbettereye,worseeyeの視力いずれとも相関しなかったことを報告している.本研究では特別養護老人ホームの高齢者の視機能とCNEIVFQ-25の各種の行動に関するスコアとの関係性を検討しも,QOLに与える影響は大きいとされている12).これらのことから高齢者は適切な屈折矯正がされていない,あるいは眼鏡を常用していないため,行動に制限が生じている可能性が示唆された.超高齢社会に向けて今後は高齢者に対する眼科受診の必要性について積極的な啓発活動を行うこと,さらには特別養護老人ホームへ眼科医療従事者が具体的に介入することについて検討が必要である.文献1)厚生労働省:平成C30年簡易生命表の概要2)田中清,田丸淳子:介護とCQOL.骨粗鬆症治療C3:44-49,C20043)西脇友紀,田中恵津子,小田浩一ほか:ロービジョン患者のCQualityCofLife(QOL)評価と潜在的ニーズ.眼紀C53:C527-531,C20024)宮崎茂雄,浜口奈弓,辻直美ほか:特別養護老人ホーム入所者の視活動に関する実態調査.眼臨C98:88-91,C20045)宮崎茂雄,青葉香奈,田畑舞:特別養護老人ホームにおける眼科的ケアについてのアンケート調査.眼臨C101:C578-581,C20076)MangioneCCM,CLeeCPP,CGutierrezCPRCetal:DevelopmentCofCtheC25-itemCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionCQuestionnaire.ArchOphthalmolC119:1050-1058,C20017)SuzukamoCY,COshikaCT,CYuzawaCMCetal:PsychometricCpropertiesCofCtheC25-itemCNationalCEyeCInstituteCVisualCFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25)C,JapaneseCversion.CHealthQualLifeOutcomesC3:65,C20058)河鍋楠美:他覚的屈折度(等価球面度数)をC40年以上追えたC180眼の屈折度の変化.臨眼C69:1389-1393,C20159)林雅美:地域活動に参加している高齢者の視覚機能の実態と活動性との関連.老年社会科学C37:417-427,C201610)市川宏:老化と眼の機能.臨眼C35:9-26,C198111)大鹿哲郎,杉田元太郎,林研ほか:白内障手術による健康関連CqualityCoflifeの変化.日眼会誌C109:753-760,C200512)西永正典,池成基,上総百合ほか:老年症候群;わずかな視・聴覚機能低下が生活機能やCQOL低下に与える影響.日老医誌C48:302-304,C2007***

高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症の臨床像

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):389.394,2018c高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症の臨床像鈴木智*1,2横井則彦*1木下茂*3*1京都府立医科大学眼科学教室*2独立行政法人京都市立病院機構眼科*3京都府立医科大学感覚器未来医療学講座CClinicalFeaturesofMeibomitis-relatedKeratoconjunctivitisinElderlyPatientsTomoSuzuki1,2)C,NorihikoYokoi1)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)KyotoCityHospitalOrganization,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedCkeratoconjunctivitis:MRKC)の病態について検討し,若年者のCMRKCと比較した.方法:マイボーム腺開口部が閉塞し,発赤・腫脹など明らかな炎症所見を有するマイボーム腺炎とともに,角結膜上皮障害を認めるC60歳以上のCMRKC症例C14例について性別,角膜所見(結節性細胞浸潤,点状表層角膜症〔super.cialpunctatekeratopathy:SPK〕,表層性血管侵入),meibumの細菌培養,抗菌薬内服治療の有効性を検討した.結果:平均年齢はC69.1歳,男性C6例,女性C8例,片眼性C4例,両眼性C10例であった.角膜上皮障害は全症例CSPK主体で結節性細胞浸潤は認めず,表層血管侵入を伴う症例はC4例であった.Meibumの細菌培養を施行できたC11例のうち,6例でCPropionibacteriumCacnes(P.Cacnes)が,5例でCStaphylococcusepidermidis(S.epidermidis)が,1例でCP.acnes+S.epidermidisが検出された(単一症例からの複数検出を含む).治療は,全症例で抗菌薬内服治療が奏効した.結論:高齢者のCMRKCは若年者で診られるCMRKC「非フリクテン型」に相当し,性差は少なく,両眼性であり,ブドウ球菌の検出率が増加していた.治療には抗菌薬内服治療が奏効した.CPurpose:ToCevaluateCtheCclinicalCfeaturesCofCmeibomitis-relatedCkeratoconjunctivitis(MRKC)inCelderlyCpatientsandtocomparethemwithMRKCinyoungpatients.Subjects:FourteenMRKCpatientsover60yearsofageCwereCenrolledCandCevaluatedCasCtoCtheirCcornealCfeatures,CsuchCasCin.ammatoryCcellularCin.ltration,CSPK,Csuper.cialneovascularization,bacterialcultureofmeibum,andthee.ectivenessofsystemicantimicrobialtherapy.Results:Theaverageageofpatientswas69.1years;8ofthe14patientswerefemale;10ofthe14werebilater-al.ThecorneainallcasesshowedSPKbutnocellularin.ltration;4patientsshowedsuper.cialneovascularization.BacterialcultureofmeibumwaspositiveforPropionibacteriumacnesCin6casesandStaphylococcusepidermidisCin5cases.Systemicantimicrobialagentsweree.ectiveforallcases.Conclusion:MRKCinelderlypatientswasbilat-eral,showedlessgenderdi.erenceandhadthesamecorneal.ndingsasnon-phlyctenulartypeMRKCinyoungpatients.Itwastreatedwellwithsystemicantimicrobialagents.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):389.394,C2018〕Keywords:マイボーム腺炎角結膜上皮症,マイボーム腺炎,点状表層角膜症,抗菌薬内服治療,高齢者.mei-bomitis-relatedkeratoconjunctivitis(MRKC),meibomitis,super.cialpunctatekeratopathy(SPK)C,systemicanti-mi-crobialtreatment,elderlypatients.Cはじめに筆者らは,角膜フリクテンではほとんどの症例でマイボーム腺炎を合併していることに着目し,マイボーム腺炎と角膜病変が関連しており,角膜病変の治療のためには全身的な抗菌薬治療によりマイボーム腺炎をコントロールすることが必須であることを報告し1,2),2000年にマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を「マイボーム腺炎角膜上皮症」として呼称することを提唱した3).実際,角膜フリクテンは抗菌薬内服を用いて治療することで寛解し,再発予防も可能であった4).当時は,重症な角膜上皮障害に注目して「角膜上皮症」としたが,その後,より正確にその病態を反映させるため,「マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedCkerato-〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2独立行政法人京都市立病院機構眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashitakada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPAN図1マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis.relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)a,b:若年者のCMRKCフリクテン型(19歳,女性).上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認め,その延長線上の角膜には上皮下細胞浸潤(一部結節状)とそこに向かう表層血管侵入を認める(Ca).フルオレセイン染色では,結節に一致した上皮びらんを認めるが,SPKは認めない(Cb).Cc,d:若年者のCMRKC非フリクテン型(16歳,女性).上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認め,その延長線上の角膜には結節性細胞浸潤は認めず(Cc),SPKを認める(Cd).上方輪部に,軽度表層血管侵入を伴っている.Cconjunctivitis:MRKC)」と呼称を改めた5,6).MRKCは,マイボーム腺炎に関連して,角膜の結節性細胞浸潤や表層性血管侵入,点状表層角膜症(super.cialpunctateCkeratopathy:SPK),結膜充血を生じる病態である.その病型は,角膜上の結節性細胞浸潤を特徴とするいわゆる「フリクテン型」(図1a,b)と結節病変は認めずCSPKが主体である「非フリクテン型」(図1c,d)に大別される3).いずれの病型も,マイボーム腺炎の重症度と角結膜上皮障害の重症度は相関し,マイボーム腺炎を治療することが眼表面炎症を消退させるために必須と考えられる5.7).1998年以降,筆者らは,フリクテン型の病態については症例数を追加しながら詳細な検討を続け,特徴的な角膜所見の他,1)若年女性に圧倒的に多いこと,2)霰粒腫の既往が多いこと,3)通常は両眼性であること,4)起炎菌はCPropi-onibacteriumCacnes(P.Cacnes)が多いこと,5)特徴的なヒト白血球抗原(humanCleukocyteCantigen:HLA)が認められること,などの臨床的特徴があることを報告してきた5.7).一方で,MRKC非フリクテン型の臨床像は,2000年の段階では,フリクテン型と同様に女性に多く,マイボーム腺炎の起因菌はCP.Cacnesであると推測されたが3),詳細な検討は行っていなかった.そこで,今回,高齢者におけるCMRKCの臨床像について検討し,若年者のCMRKCと比較検討したうえで,MRKCの臨床像の多様性を報告する.CI対象および方法マイボーム腺開口部が閉塞し,開口部周囲の発赤・腫脹など明らかな炎症所見を有するマイボーム腺炎とともに,角結膜上皮障害を認めるC60歳以上のCMRKC症例C14例について,背景因子(年齢,性別,罹患眼),角膜所見(結節性細胞浸潤,SPK,表層性血管侵入),結膜充血,meibumの細菌培養,抗菌薬内服治療について検討した.さらに,32歳以下の若年者のCMRKC非フリクテン型C12例,既報のC33歳以下の若年者のCMRKCフリクテン型C23例4),の検討結果と比較した.ぶどう球菌性眼瞼炎など明らかな前部眼瞼炎を合併している症例,カタル性角膜浸潤(潰瘍)の症例は除外した.Meibumの採取は,40℃,10分間の眼瞼温罨法(目もと表1MRKCの臨床像高齢者若年者非フリクテン型フリクテン型症例数C14C12C23平均年齢(歳)C69.1C15.1C17.9女性(%)C57.1C83.3C87.0両眼性(%)C71.4C83.3C71.1角膜上皮障害結節性細胞浸潤(%)C0C0C100SPK(%)C100C100C0NV(%)C28.6C16.7C100Meibum培養結果(%)CP.acnesC54.5C57.1C60.0CS.epidermidisC45.5C28.6C5.0CP.acnes+S.epiC7.1C14.3C5.0内服抗菌薬CMINO,CAMCCFPN-PICCFPN-PI,CAMSPK:super.cialpunctatekeratopathy,NV:neovascularization,S.epidermidis:Staphylococcusepidermidis,P.acnes:Propionibacteriumacnes,CAM:Clarithro-mycin(クラリスロマイシン),MINO:Minocycline(ミノサイクリン),CFPN-PI:Cefcapene-Pivoxil(セフカペンピボキシル)エステR,Panasonic)の後,手術用顕微鏡下にて眼瞼縁を10%ポビドンヨード液スワブCRで消毒し,さらに同部位を滅菌綿棒で清拭した後に,吉富式マイボーム腺圧迫鑷子で眼瞼縁を圧迫して,マイボーム腺開口部周囲の皮膚に接触しないように,涙液や皮脂の混在がないように細心の注意を払って,圧出したCmeibumをダビール匙で採取した.採取したmeibumは,ただちに滅菌綿棒(直径C2Cmm)にてCANAポート微研C2CR培地に接種し,C.20℃のフリーザーで凍結保存した.後日,大阪大学微生物病研究所にて好気性および嫌気性培養へ供した.CII結果若年者および高齢者のCMRKCの臨床的特徴を表1に示す.高齢者の患者の平均年齢はC69.1歳,男性C6例,女性C8例,両眼性C10例,片眼性C4例であった.角膜上皮障害は全症例でCSPK主体であり,結節性細胞浸潤は認めず,角膜表層血管侵入を認める症例はC4例であった.Meibumの細菌培養を施行できたのはC11例であり,6例でCP.Cacnesが,5例でCS.epidermidisが,1例でCP.acnes+S.epidermidisが検出された(単一症例からの複数検出を含む).治療は,抗菌点眼薬(ガチフロキサシン)に加え,ミノマイシンあるいはクラリスロマイシン内服を併用し,全症例で眼表面炎症は著明に改善した.しかしながら,14例中C8例では,抗菌薬内服治療によりマイボーム腺炎に伴うCSPKが軽快した後に,蒸発亢進型ドライアイに伴うCSPKが残存していると考えられたため,ドライアイ点眼薬(レバミピド)による治療に移行し,全症例で寛解した(表2).典型例を図2,3に示す.表2MRKC非フリクテン型の治療高齢者(n=14)若年者非フリクテン型(n=12)抗菌薬治療後SPK残存なし(%)C42.9C100SPK残存あり(%)C57.1C0+ドライアイ治療追加後SPK残存なし(%)C86.7SPK残存あり(%)C13.3高齢者では抗菌薬内服治療によりCSPKは軽快するが,後にドライアイ治療を追加しなければ寛解できない症例がある.若年者では抗菌薬内服治療のみでCSPKは消退し寛解導入できる.一方,若年者では,MRKC非フリクテン型では,患者の平均年齢はC15.1歳,男性2例,女性C10例,両眼性C10例,片眼性C2例であった.細菌培養を行えたC7例中,4例でCP.acnesが,2例でCS.epidermidisが,1例でCP.acnes+S.epi-dermidisが検出された.セフェム系抗菌薬(フロモックスCR)による内服治療が奏効し,全症例で抗菌薬治療のみで寛解し,SPKは消退した.追加のドライアイ治療は必要なかった.若年者のCMRKCフリクテン型は4),患者の平均年齢は17.9歳,男性C3例,女性C20例,両眼性C16例,片眼性C7例であった.細菌培養を行えたC20例中,12例でCP.Cacnesが検出された.重症例ではセフェム系抗菌薬内服のみならず点滴も用いることで,全症例で寛解した.図2高齢者のMRKC(62歳,男性)初診時(Ca,b,c),マイボーム腺開口部は閉塞し(plugging),その周囲に炎症を伴っている(Ca).角膜全体のびまん性の密なCSPKとともに(Cc),球結膜充血を認める(Cb).ミノマイシン内服C1カ月後(Cd,e,f),マイボーム腺開口部周囲の閉塞所見,炎症所見ともに軽快してきており(Cd,e),角膜のCSPKは著明に改善している(f).III考按マイボーム腺の異常と眼表面の異常には密接な関連がある.1977年CMcCulleyとCSchiallisは,両眼性にびまん性のマイボーム腺異常(開口部でCmeibumがうっ滞しCplugが形成される)とともに,角膜のCSPKと球結膜充血を認める病態を最初に報告し,“meibomianCkeratoconunctivitis”と名付けた8).この病態で認められるCSPKは,涙液の不安定さ(unstabletear.lm)によって生じるCSPKに類似していると考えられている.MeibomianCkeratoconjunctivitisでは,約3分のC2の症例が脂漏性皮膚炎や酒さ(acneCrosacea)などの皮脂腺の機能不全と関連していると報告されている.今回の検討で,高齢者のCMRKCは,SPKが主体で,角膜の結節性細胞浸潤を伴わない「非フリクテン型」であり,若年者の「非フリクテン型」と同様に両眼性が多いものの,女性の割合は若年者の「非フリクテン型」(83.3%)より少なくなっていた(57.1%).若年者のCMRKCは,幼少時より霰粒腫を繰り返すなど,もともとマイボーム腺機能が低下しやすい傾向にある人に発症しやすい4).また,月経周期とともに女性ホルモンの影響を受けてマイボーム腺機能が周期的に低下することは9),MRKCが思春期.若年女性に生じやすい理由の一つと考えられる.一方,高齢者になると性ホルモン濃度は低下し,男女ともに加齢に伴うマイボーム腺機能の低下がCMRKCの発症に影響している可能性が考えられる.「フリクテン型」の原因は,マイボーム腺内で増殖しているCP.acnesに対する遅延型過敏反応が関与している可能性があるC図3高齢者のMRKC(図C2と同一症例,2週後)クラリスロマイシン内服に変更しC2週間後,マイボーム腺炎はさらに軽快し(Ca),SPKはさらに減少し下方へとシフトしている(Cb).この時点でレバミピド点眼を追加すると,1カ月には涙液の安定性が改善しCSPKは消退した(Cc,d).が10),高齢者でいわゆる「フリクテン型」がほとんど認められなかったのは,加齢に伴い免疫反応の主体がCTh1からTh2へと変化するため,P.Cacnesに対する遅延型過敏反応を起こしにくくなっている可能性が推測される.一方で,高齢者のみならず若年者のCMRKC非フリクテン型でCmeibumから検出されたCP.CacnesやCS.Cepidermidisは,結膜.や眼瞼縁からもっともよく検出される細菌でもある.これらの細菌は,どちらもCmeibumに含まれる脂質を分解するリパーゼを有している11).とくに,S.Cepidermidisは,P.Cacnesにはないコレステロールエステルを分解するリパーゼを有しており,リパーゼによって生じる遊離脂肪酸(freeCfattyacid:FFA)そのものが細胞傷害性を有すること11),涙液中にある一定濃度以上CFFAが増加すると,濃度依存性に涙液油層が破綻すること12)などが知られており,「非フリクテン型」のCSPKの原因となっている可能性がある.そのため,ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬の内服を用いることで,細菌のリパーゼによるCmeibum脂質の分解を抑制することが眼表面炎症の治療に有効であることが報告されているが13),実際にはマクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンの内服も有効であった.これは,どちらの抗菌薬も細菌のCMICが低く,マイボーム腺内の細菌を減菌することが結果としてCmeibumのCFFAを減らし,眼表面上皮障害の改善につながると考えられる.高齢者に認められる閉塞性マイボーム腺機能不全(meibo-mianCglandCdysfunction:MGD)における炎症の有無についてはしばしば議論の的になるところである.「眼瞼縁の炎症を伴わないマイボーム腺の異常」については,1980年にKorbとCHenriquezにより初めて報告され14),その後の多くの病理組織学的な検討から,閉塞性CMGDには明らかな炎症所見が存在しないと考えられるようになってきた15,16).炎症がない閉塞性CMGDに伴うCSPKは,蒸発亢進型ドライアイによって生じていると考えられるため,ドライアイ点眼薬でSPKをコントロールすることは可能である.一般的に,日常臨床では,SPKを見かけるとドライアイと診断してドライアイ点眼薬が処方されているのが現状と思われる.そのため,ドライアイ点眼薬で改善しないCSPKは,難治例として涙点プラグまで挿入されることもある.MRKC非フリクテン型のように,マイボーム腺炎とCSPKが同時に認められるC症例では,先に抗菌薬内服治療を用いてマイボーム腺炎をコントロールしなければ,ドライアイ治療のみではCSPKは消退しない.逆に,今回の検討結果のように,高齢者では約半数で,マイボーム腺炎がほぼ軽快してもなかなかCSPKが消退しきらない.これは,長期にわたるマイボーム腺炎によりMGDが高度なため,閉塞性CMGDに伴う蒸発亢進型ドライアイによるCSPKが残存している状態と考えられる.マイボーム腺炎が軽快した段階でドライアイ点眼薬を用いた治療に切り替えると,SPKを消退させることができる.このように,とくに高齢者でCSPKを認める症例では,眼瞼縁,とくにマイボーム腺開口部周囲に炎症がないかを確認し,適切な治療を開始することが重要である.すなわち,若年者ではマイボーム腺炎の治療のみで眼表面上皮障害を消退させることは可能であるが,高齢者では,マイボーム腺炎の治療後に非炎症性閉塞性CMGDに伴うCSPKの治療を行う必要が生じる場合があると考えられる.抗菌薬の選択については,若年者のフリクテン型では,meibumの細菌培養の結果および動物実験の結果から10),マイボーム腺炎および角膜の結節性細胞浸潤の原因としてCP.acnesが関与している可能性が高いと考えられ1.7),P.Cacnesをターゲットとして初期の炎症が非常に強い場合には殺菌的なセフェム系抗菌薬の内服や点滴を,その後常在細菌のコントロールのために静菌的なクラリスロマイシンの内服を継続することが多い.若年者の非フリクテン型も,セフェム系抗菌薬内服が奏効した.ミノサイクリンは,他のテトラサイクリン系抗菌薬に比べ脂溶性が高いこと,細菌のリパーゼ産生を抑制すること13),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusCepidermidis:MRSE)などにも感受性がよいことなどの利点がある一方で,「めまい」などの体調不良を訴える患者にもしばしば遭遇する.そのような症例では,マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンに切り替えることも多いが,クラリスロマイシンには抗菌作用以外に抗炎症作用を有するという利点もある17).ミノサイクリンとクラリスロマイシンは,それぞれ作用機序,特性が異なる抗菌薬であるが,いずれもマイボーム腺炎に有効である.このことから,どちらの抗菌薬にも感受性がある細菌が腺内で増殖している可能性があると考えられる.以上,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとしてとらえるコンセプト(meibomianCglandsCandCocularCsurface:MOS)7)を念頭に,前眼部の観察を行うことがCMRKCの効果的な治療へとつながると考えられる.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:角膜フリクテンの起炎菌に関する検討.あたらしい眼科C15:1151-1153,C19982)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科C15:1143-1145,C19983)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,C20004)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisCassociatedCwithCmeibomitisCinCyoungCpatients.CAmJOphthalmolC140:77-82,C20055)SuzukiT,KinoshitaS:Meibomitis-relatedkeratoconjunc-tivitisCinCchildhoodCandCadolescence.CAmCJCOphthalmolC144:160-161,C20076)SuzukiT:Meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:Impli-cationsCandCclinicalCsigni.canceCofCmeibomianCglandCin.ammations.Cornea31(Suppl1):S41-S44,20127)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaCS:MeibomianCglandsCandCocularCsurfaceCin.ammation.COculCSurfC13:133-149,C20158)McCulleyCJP,CSchiallisCGF:MeibomianCkeratoconjunctivi-tis.AmJOphthalmolC84:85-103,C19779)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetCal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201710)SuzukiCT,CSanoCY,CSasakiCOCetCal:OcularCsurfaceCin.am-mationCinducedCbyCPropionibacteriumCacnes.CorneaC21:C812-817,C200211)DoughertyJM,McCulleyJP:Bacteriallipasesandchron-icCblepharitis.CInvestCOphthalmolCVisCSciC27:486-491,C198612)ArciniegaCJC,CNadjiCEJ,CButovichCIA:E.ectCofCfreeCfattyCacidsonmeibomianlipid.lms.ExpEyeResC93:452-459,C201113)ShineCWE,CMcCulleyCJP,CPandyaCAG:MinocyclineCe.ectConCmeibomianCglandClipidsCinCmeibomianitisCpatients.CExpCEyeResC76:417-420,C200314)KorbCDR,CHernriquezCAS:MeibomianCglandCdysfunctionCandcontactlensintorelance.JAmOptomAssocC51:243-351,C198015)GutgesellVJ,SternGA,HoodCL:Histopathologyofmei-bomianglanddysfunction.AmJOphthalmolC94:383-387,C198216)ObataCH:AnatomyCandChistopathologyCofChumanCmeibo-miangland.Cornea21(Suppl7):S70-S74,200217)UeharaH,DasSK,ChoYKetal:Comparisonoftheanti-angiogenicCandCanti-in.ammatoryCe.ectsCofCtwoCantibiot-ics:ClarithromycinCversusCMoxi.oxacin.CCurrCEyeCResC41:474-484,C2016***

高齢者に初発発症した急性前部ぶどう膜炎の1例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):611.614,2014c高齢者に初発発症した急性前部ぶどう膜炎の1症例渡辺芽里吉田淳新井悠介川島秀俊自治医科大学病院眼科PatientwithElderlyOnsetAcuteAnteriorUveitisafterSurgeryforCataractMeriWatanabe,AtsushiYoshida,YusukeAraiandHidetoshiKawashimaDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityHospital急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)は若年壮年者の片眼に強い眼痛を伴って発症するのが特徴で,前房に線維素,角膜輪部に毛様充血がしばしばみられる.筆者らは,白内障術後の85歳で発症したAAUの女性患者を経験した.2年前に左眼白内障手術歴がある.10日前より左眼充血と激しい疼痛,霧視が出現,遅発性眼内炎を疑われ自治医科大学病院眼科紹介となった.左眼に,毛様充血,非肉芽腫性角膜裏面沈着物,前房蓄膿,眼内レンズ表面に付着する巨大な線維素塊を認めた.前部硝子体に炎症細胞がみられたが,眼底には有意な所見はなかった.術後2年経過の手術創口部位に感染徴候を認めなかったため,術後眼内炎よりもAAUを疑い診断的治療目的にステロイド薬の結膜下注射を施行,翌朝には著明に改善し,以後ステロイド薬の点眼内服により眼炎症は抑制された.ヒト白血球抗原(HLA)-B27は陰性であった.高齢発症のAAUは稀であるが,高齢者のAAUも考慮することが必要と考える.Acuteanterioruveitis(AAU)ischaracterizedbyyoungormiddle-agedonsetofmonocularinflammationwithacutepain.Fibrinoushypopyonandsevereciliaryhyperemiaareoftenobserved.Weexperiencedan85-year-oldfemalepatientwithAAU,whohadundergonesurgeryforcataractinherlefteyetwoyearspreviously.Shewasreferredtoourhospitalbecauseofsuspectedinfectiousendophthalmitis.Slit-lampexaminationrevealedfinekeraticprecipitate,hypopyonandmassivefibrinontheintraocularlens.Ophthalmoscopyshowednoobviousinflammatorychangesofthefundus.Sincethemaincornealwoundfromtheformersurgeryhadnoinfectioussymptoms,shewasdiagnosedwithAAU,ratherthaninfectiousendophthalmitis.Shewasthereforetreatedwithsubconjunctivalinjectionofdexamethasoneastherapeuticdiagnosis.Bythenextmorning,theintraocularinflammationwasmuchimproved.Shewassubsequentlytreatedwithtypicalandsystemiccorticosteroid.Humanleukocyteantigen(HLA)-B27wasnegative.TheincidenceofelderlyonsetAAUisverylow,yetAAUoccursevenintheelderlypopulation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):611.614,2014〕Keywords:急性前部ぶどう膜炎,高齢者,線維素析出,ステロイド薬治療.acuteanterioruveitis,elderly-onset,fibrinprecipitation,corticosteroidtherapy.はじめに急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)は,劇症の急性虹彩毛様体炎をきたし,微細な角膜裏面沈着物や線維素析出を形成する.片眼性が多いが両眼発症も30%程度ある1)といわれており,急激な眼痛,羞明,視力低下などの自覚症状が強い2).病因は明らかになっていないが,ヒト白血球抗原(HLA)-B27との関連が指摘されている.HLAB27保有率は欧米では日本より多く,欧米ではAAU患者のおよそ50%がHLA-B27陽性である3.5).初発年齢は,比較的若年(20.40歳代)で,高齢で再発することはあっても,初発発作の発症は平均で35歳前後とする報告が多い1,2,5).50歳代以上の報告はしばしばあるが,70歳代以上の高齢者での初発は稀である6).今回筆者らは,白内障手術後の80歳代の高齢者に発症し,感染性眼内炎との鑑別を要したAAUの症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕吉田淳:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:AtsushiYoshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsukeshi,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(133)611 図1初診時左眼前眼部所見Descemet皺襞(赤矢印)および耳側前房に線維素塊(白矢頭)を認めた.I症例症例:85歳女性.主訴:左眼の疼痛,充血,視力低下.既往歴:2年前に近医で左眼の白内障手術,狭心症,高血圧.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:X年2月9日左眼充血,疼痛が出現した.2月13日近医受診し,ぶどう膜炎と考えられ,ステロイド薬点眼開始.2月18日同院再診時,前房蓄膿が認められ,高齢で,かつ白内障術後眼であることより遅発性感染性眼内炎を疑われ,即日自治医科大学病院眼科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.1(0.4×+2.00D),左眼は0.15(0.3×+1.00D)だった.眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHg,右前眼部は異常なく,左前眼部は,細隙灯顕微鏡にて著明な毛様充血のほか,前房蓄膿および耳側前房に線維素塊を認め,微細な角膜裏面沈着物とDescemet膜皺襞がみられた(図1).しかし,白内障手術切開創に眼脂や縫合不全などの感染徴候は認めなかった(図2).中間透光体は,右眼は白内障があり,左眼は眼内レンズが.内固定されていて,後.混濁はなかった.右眼眼底に異常所見はみられず,左眼眼底は,前部硝子体に炎症性混濁があり眼底透見性は低下していた.経過:原因精査のため,血液検査を行った.白血球9,400/ml,CRP1.82mg/dlといずれも軽度上昇を認めた.赤血球沈降速度は,54mm/時と延長していた.しかし,リウマトイド因子および抗核抗体は陰性であった.b-Dグルカンは7.4U/mlで上昇していなかった.Hb(ヘモグロビン)A1C5.8%で糖尿病は否定的であった.高齢であったが,初診時に発熱や眼痛以外の疼痛はなく,眼症状のほか全身状態は問題なかった.白内障手術から2年以上経過しており,創部も612あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014図2初診時左眼前眼部鼻側所見白内障術後創部(白矢印)は鼻側にあり,その部位に眼脂の付着や縫合不全・房水漏出はなかった.前房蓄膿(黒矢頭)も確認できる.図3治療開始3週間後左眼前眼部所見前房内線維素・Descemet膜皺襞は完全に消失,左眼矯正視力(0.5).縫合不全や眼脂の付着などの感染徴候なく,漏出もなかった.急性発症の劇症の虹彩毛様体炎で,微細な角膜裏面沈着物とDescemet膜皺襞がみられ前房蓄膿も形成しており,眼痛,羞明,視力低下などの自覚症状が強いなどの自他覚所見がAAUと類似していた.しかし初発であり,高齢発症である点が典型的ではなかった.診断的治療として,デカドロン結膜下注射(1mg)を行い,翌日増悪した場合,もしくは改善を認めない場合は,前房穿刺を行い培養,病理検査を行う方針とした.翌朝(2月19日)には眼痛が著明に改善し,前房炎症も改善傾向であった.感染性も完全には否定できずステロイド薬内服は保留とし,0.1%リンデロンおよびニューキノロン系点眼を2時間ごと点眼で,トロピカミド・フェニレフリン合剤点眼を1日4回点眼で追加した.その後徐々に前房炎症は改善傾向を示し眼底も十分透見できるようになったため,抗生剤内服および静脈内投与,硝子体手術は行わな(134) かった.左眼眼底上,明らかな網膜血管炎やその瘢痕病巣は見当たらなかった.また,前房穿刺による細菌真菌培養や鏡検,前房水PCR(polymerasechainreaction)検査も行わなかった.ステロイド結膜下注射および点眼で改善傾向にあることより,AAUと診断したが,依然として炎症が強く,初診4日目(2月22日)より点眼はそのままでプレドニゾロン内服20mg/日を開始した.治療開始3週(3月11日)で,線維素塊,前房蓄膿,毛様充血は消失し炎症も沈静化した(図3).この時点でHLA-B27およびB51は陰性であることが確認された.以後,2週ごとに点眼およびステロイド薬内服は漸減し,治療開始6週(4月1日)で内服を終了した.治療開始6週の時点で,左眼矯正視力は(0.9)まで改善し,7カ月経過した現時点で再発はない.II考按AAUは,急性発作的に,毛様体無色素上皮細胞の血液眼関門が破綻し,前房内への炎症細胞浸潤,前房内蛋白濃度の上昇を生じると考えられている.さらに炎症細胞の活性化により血液房水関門を含む組織障害が進行することにより角膜後面沈着物あるいは線維素析出や線維素性の前房蓄膿を生じる5).通常は片眼性だが,両眼に生じることもある1,5,6).副腎皮質ステロイド薬によく反応し,炎症は通常3週間程度で改善,3カ月以内には大部分が治癒するが,再発が多い5).類似の症状を呈する疾患の鑑別として,Behcet病,糖尿病虹彩炎,梅毒性ぶどう膜炎,前部強膜炎,白内障をはじめとする前眼部内眼手術後の眼内炎などがあげられる.Behcet病に関しては,眼症状以外の全身所見の有無で鑑別が可能である.また,糖尿病虹彩炎や梅毒性ぶどう膜炎を除外するためにも,既往歴の聴取と血液検査は有用である.前部強膜炎との違いは,炎症の主座が,虹彩側か強膜側かによるが,びまん性の前房炎症の場合は,鑑別が困難である.強膜炎の原因となる,関節リウマチ,Wegener肉芽腫症などの基礎疾患の有無を確認することは最低限必要となる.また,白内障手術創口部付近の虹彩鼻側上方側に虹彩萎縮が初診時から治療後(図3)もみられ,この所見からヘルペス虹彩炎の可能性も考えられた.しかし,治療経過で拡大することもなく存在し,眼圧上昇もなかったことから,手術による虹彩萎縮ではないかと考えた.白内障術後眼内炎は,通常,術後早期(1週間以内)の発症で,半年以内の報告が多い7).また,基礎疾患に糖尿病がある患者に,術後2年以上経過して,縫合糸から眼内炎を生じた報告はある8).本症例は術後2年経過しており,創部に縫合不全や眼脂などの感染徴候はなかった.また,糖尿病の既往もなかったことより,本症例は,白内障術後眼ではあったが,感染性眼内炎のリスクは低い患者であった.以上のように,前房炎症をきたす疾患の多くがAAUとの(135)鑑別にあがるが,全身的な疾患の検索のほかに,初発発症年齢も,診断を進める手がかりとなる.ぶどう膜炎では一般的には,原田病は若年者から高齢者までみられるが,若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)に伴う虹彩炎や,Behcet病は若年者で有意に多い.わが国では,澁谷らの統計9)によると,65歳以上の高齢発症(144例)のぶどう膜炎では,Behcet病に関しては,高齢発症の症例がなく,原田病,強膜炎は各々10例(7%)と11例(8%)で,青壮年層(20.64歳,245例)発症の原田病(23例9%),強膜炎(21例9%)と同頻度であったが,サルコイドーシスや悪性リンパ腫/仮面症候群の高齢発症は各々25例(17%)と7例(5%)で青壮年層発症のサルコイドーシス(20例8%),仮面症候群(0例0%)より高頻度であった.そしてAAUについては,20.64歳の青壮年発症(28例11%)に対して高齢発症(5例3%)と低頻度と報告している.このことは,Behcet病ほどではないにしても,他のぶどう膜炎に比較して,AAUでは高齢発症は稀であることを示している.外間らの1999年の報告1)では,AAU初発発症の平均年齢は38.2±13.7歳である.HLA-B27陽性群と陰性群に分けると,有意差はなくとも,HLA-B27陽性群のほうが,陰性群と比して若年に多いと一般的にいわれている.わが国では,先述した外間らの報告1)でHLA-B27陽性群が平均35歳,陰性群が41歳,吉貴らの報告2)ではHLA-B27陽性群の平均年齢が35歳,陰性群が55歳である.わが国では,これまでのAAUの初発症例の最高齢は,調べられた範囲では,吉貴ら2)の統計の,B27陰性群の75歳の患者であった.本症例は85歳が初発年齢であり,最高齢のAAUの報告と思われる.本症例のように70歳代以上の高齢者で,初発のAAUをきたす可能性はあるため,年齢だけで鑑別から除外することはできない.高齢発症のぶどう膜炎に遭遇したとき,術後眼内炎の他,糖尿病,関節リウマチや梅毒,悪性リンパ腫など全身疾患だけなく,AAUも念頭に入れておく必要もある.III結語高齢者発症のぶどう膜炎に遭遇した際は,内因性非感染性ぶどう膜炎も考慮することが必要である.高齢発症のAAUは稀であるが,前房の炎症が主体であれば高齢発症のAAUの可能性も考え鑑別することが求められる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)外間英之,後藤浩,横井秀俊ほか:急性前部ぶどう膜炎あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014613 94症例の臨床的検討.臨眼53:637-640,19992)吉貴弘佳,小林かおり,沖波聡:ヒト白血球抗原(HLA)-B27陽性急性前部ぶどう膜炎.眼紀55:715-718,20043)RothovaA,vanVeenedaalWG,LinssenAetal:Clinicalfeaturesofacuteanterioruveitis.AmJOphthalmol103:137-145,19874)PowerWJ,RodriguezA,Pedroza-SeresMetal:OutcomesinanterioruveitisassociatedwiththeHLA-B27haplotype.Ophthalmology105:1646-1651,19985)岩田光浩:急性前部ぶどう膜炎.眼科49:1199-1208,20076)望月學:急性前部ぶどう膜炎.臨眼42:9-12,19887)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20068)井幡紀子:白内障手術後2年経過して発症した眼内炎の1例.眼臨91:941-942,19979)澁谷悦子,石原麻美,木村育子ほか:横浜市立大学附属病院における近年のぶどう膜炎の疫学的検討(2009-2011年).臨眼66:713-718,2012***614あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(136)

プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)1127《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1127.1132,2010c〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒791-0952松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime791-0952,JAPANプロスタグランジン点眼容器の使用性の比較兵頭涼子*1林康人*1,2,3鎌尾知行*1,2,3溝上志朗*2,3吉川啓司*4大橋裕一*2*1南松山病院眼科*2愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*3愛媛大学視機能再生学(南松山病院)寄附講座*4吉川眼科クリニックEvaluationofProstaglandinAnalogGlaucomaEyedropContainerUsabilityRyokoHyodo1),YasuhitoHayashi1,2,3),TomoyukiKamao1,2,3),ShiroMizoue2,3),KeijiYoshikawa4)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DivisionofVisualFunctionRegeneration,EhimeUniversitySchoolofMedicine,4)YoshikawaEyeClinic目的:3種類のプロスタグランジン点眼容器の使用性を比較すること.対象および方法:南松山病院において,緑内障もしくは緑内障疑い症例として経過観察中の患者のうち,過去に緑内障点眼薬の使用経験がない者を対象とした.プロスタグランジン点眼薬として現在上市され,点眼容器の性状が異なる,キサラタンR(Xa),トラバタンズR(Tr),タプロスR(Tp)を用いた.各薬剤を無作為に割り付けた順で参加者に渡し,眼の上にセットした透明カップ内に3滴くり返し滴下させた.試験終了後,各容器の使用感(開栓操作,持ちやすさ,押しやすさ,および,薬液の落ち方)に関する聞き取り調査を行った.最後に総合的に最も使用感が優れ,将来使用したいと思われた容器を選択させた.結果は65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者に分けて解析した.結果:試験参加者は32人(男性14人,女性18人,平均年齢61.3歳),うち高齢者は18人,非高齢者は14人であった.高齢者において,開栓操作,容器の持ちやすさと押しやすさはTpがTr,Xaに比べて有意(Tukey多重検定,p<0.05)に優れていた.薬液の落ち方は高齢者においては,TpがXaより有意(Tukey多重検定,p<0.05)に高い評価を得たが,非高齢者群では有意差がなかった.最も優れた点眼容器として両群ともTpを選ぶものが有意(適合性のc2検定,p<0.05)に多かった.結論:3種類のプロスタグランジン点眼容器の使用性はそれぞれ異なり,点眼治療におけるアドヒアランスに影響する可能性が示唆された.Purpose:Toevaluatetheusabilityofeyedropcontainersofthreeprostaglandin(PG)analogs.PatientsandMethods:Enrolledinthisstudywerepatients(14malesand18females,averageage61.3±17.2)withglaucomaorsuspectedglaucomaatMinamimatsuyamaHospitalwhowerenotundergoingeyedroptherapy.ThepatientswererandomlyprovidedoneofthreetypesofPGeyedropcontainers〔XalatanR(Xa),TRAVATANZR(Tz),andTaprosR(Tp)〕.Theywerethenaskedtoopenthecapsanddropadropletofthedrugthreetimesontoatransparentplasticcupthatwasheldabovetheireye.Theyweretheninterviewedastothefeelingsofopeningthecaps,handlingthebottles,squeezingthebottlesanddrippingadropletofthedrug.Theythenchosemultipletermsrelatingtoeyedropbottleusability.Finally,theychosethebestofthethreetypesofeyedropbottles.Statisticalanalysiswasperformedontheelderpatientgroup(.65years)andthenon-elderpatientgroup(<65years).Results:The32participantsweredividedintotheelderpatientgroup(18patients)andthenon-elderpatientgroup(14patients).Intheelderpatientgroup,thefeelingofopeningthecap,handlingandsqueezingtheTpbottlewassignificantlybetterthantheresultsforXaandTz(Tukey’smultiplecomparisontest,p<0.05).Alsointheelderpatientgroup,thefeelingofdrippingadropletofTpwassignificantlybetter(Tukey’smultiplecomparisontest,p<0.05)thantheresultsforXa,whereasnosignificantdifferencewasobservedbetweenthethreePGeyedropbottlesinthenon-elderpatientgroup.TheTpbottlewaschosenasthebestcontainerbymostmembersinbothgroups(chi-squaretestforgoodnessoffit,p<0.05).Conclusion:UsabilitydifferedamongthethreetypesofPGeyedropcontainers.Thesedifferencesmayaffecteyedroptherapyadhererance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1127.1132,2010〕1128あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(116)はじめにプロスタグランジン関連点眼薬(PG製剤)は眼圧下降作用と安全性により,緑内障治療の第一選択薬となった.一方,緑内障の有病率は加齢に伴い増加するため1~3)高齢者の緑内障点眼薬の使用頻度も必然的に増加する.以前,筆者らが行った調査により,点眼容器の構造や薬液の性状が使用感に深く関わり4),手指の精緻な運動能力に劣ると考えられる高齢者5)においては,長期使用を強いる緑内障点眼薬を不快に感じていることや,点眼薬間における使用感の差が大きいことが明らかとなった.すなわち,緑内障点眼治療のアドヒアランス向上のためには点眼容器のすぐれた使用性も影響し,特に高齢者ではその点に注目する必要性が高いと考えられる.そこで,現時点だけでなく,将来的にも使用頻度が高いと考えられるPG製剤の点眼容器の使用性に対するアンケート調査を行った.I対象および方法1.プロトコールの審査今回の調査にあたり,事前に南松山病院院内臨床研究審査委員会に所定のプロトコールを提出した.2.対象平成21年6月に南松山病院眼科緑内障外来を受診した年齢が20歳以上の緑内障または緑内障疑い患者のうち点眼治療開始前で,自己点眼が可能と判断され,かつ今回の調査に対し書面による承諾が得られたものを調査対象とした.3.点眼薬の準備点眼薬は図1Aに示す3剤〔キサラタンR点眼液0.005%(Xa),トラバタンズR点眼液0.004%(Tz),タプロスR点眼液0.0015%(Tp)〕を購入し,キャップ部分に(シュリンクフィルムなどによる)包装がある場合は,事前に.がしておき,キャップは一度緩めに軽く締め直した.今回の調査に直接参加しない担当者(Y.O.)が3種類の点眼薬をA,B,Cと無作為に記号化し,さらに,直接試験に参加しないもう1人の割付担当者(K.Y.)が試験開始前に無作為にA,B,Cの順番を割り付けした「割付表」に従い,試験担当者が,試験参加者に手渡した.4.点眼容器使用感の調査試験参加者は,渡された点眼容器それぞれを,キャップの開封から模擬的な点眼操作まで順に行い,試験参加者の眼の高さに試験担当者が保持した透明のカップの中に点眼液を3滴滴下した(図1B).そのうえで試験参加者にキャップの開閉,容器の持ちやすさ,押しやすさと薬液の落ち方について1点から5点での評価を求めた.さらに表1に示す筆者らが用意した16の評価項目について試験担当者が質問を行い,その回答を用紙に書き込んだ.5.データの解析各評価項目を点数化(1.5点)し,65歳以上を高齢者群と65歳未満を非高齢者群と定義して分類し,それぞれの群内で分散分析を行いTukey法により多重比較を施行した.使用したい点眼容器は順位1位のみを適合性のc2検定(仮Keywords:点眼容器,ユーザビリティ,プロスタグランジン関連点眼薬,緑内障,高齢者.eyedropcontainer,usability,prostaglandinanalog,glaucoma,elderlypatient.121086420aABCbc5(cm)20.2930.3940.4950.5960.6970.7980.年齢(歳)人数図1研究デザインと対象A:各点眼容器の形状(a:Xa型,b:Tz型,c:Tp型).B:模擬的な点眼操作.試験参加者は透明のカップの中に点眼液を3滴滴下する.C:試験参加者の年齢分布.(117)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101129説:各点眼容器が選択される確率は33.3%)を施行した.p<0.05の場合,有意であると判定した.16の評価項目はJMPVer8.0(SASインスティチュートジャパン社)を用いてコレスポンディング分析を行った.II結果1.対象承諾が得られ試験に参加したのは合計32名(女性18名,男性14名,平均年齢61.3歳)であった(図1C).非高齢者群14名と高齢者群18名の間で疾患〔緑内障と緑内障疑い(表2)〕と性別(表3)に有意差を認めなかった.2.キャップの開閉のしやすさキャップの開閉のしやすさは非高齢者群ではTp(平均4.1±0.9点)がXa(平均2.7±1.4点)に比べ有意に評価が高かったがTz(平均3.4±1.3点)の間に有意差を認めなかった.高齢者群ではTp(平均4.7±0.7点)がXa(平均3.1±1.4点)とTz(平均3.7±1.1点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体ではTp(平均4.4±0.8点)がXa(平均2.9±1.4点)とTz(平均3.5±1.2点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図2).3.容器の持ちやすさと押しやすさの評価容器の持ちやすさの5段階評価は,非高齢者群はTp(平均4.3±0.9点)とTz(平均3.1±1.2点)の間に有意差を認めた.高齢者群でもTp(平均4.5±0.8点)はXa(平均3.1±1.3点)とTz(平均2.9±1.3点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体でもTp(平均4.4±0.8点)はXa(平均3.2±1.1点)とTz(平均3.0±1.2点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図3A).容器の押しやすさの5段階評価は,非高齢者群は3種類の点眼容器間で有意差を認めなかった.高齢者群でTp(平均4.4±0.9点)はXa(平均3.5±1.2点)とTz(平均3.1±1.1点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体ではTp(平均4.1±1.1点)はTz(平均3.0±1.2点)に比べ有意に表3試験参加者の性別と非高齢者,高齢者の群別の人数65歳未満65歳以上全体女性61218男性8614合計141832表1アンケート調査の内容の要旨問1.キャップの開閉のしやすさ;5段階評価(開閉しにくい:1点~開閉しやすい:5点)問2.容器A,B,Cの容器の持ちやすさ;5段階評価(持ちにくい:1点~持ちやすい:5点)問3.容器A,B,Cの容器の押しやすさ;5段階評価(押しにくい:1点~押しやすい:5点)問4.容器A,B,Cの薬液の落ち方;5段階評価(よくない:1点~丁度良い:5点)問5.お使いいただいた各容器について印象を教えて下さい.選択肢に○をつけていただいても結構ですし,自由に記載しても構いません.・キャップが開けやすい・キャップが開けにくい・キャップが大きい・キャップが小さい・硬い・柔らかい・押しやすい・押しにくい・持ちやすい・持ちにくい・液がなかなか落ちない・液がすぐに落ちてしまう・液の切れが悪い・容器が大きすぎる・容器が小さすぎる・何も気にならない・その他(自由記載)問6.ご病気の治療に使用することのできる目薬が複数ある場合で,全てのお薬の費用・効き目・副作用が同じとします.今回のように容器の使用感を試してからお薬を選べるとしたら,選んで使いたいですか?1.はい2.いいえ問7,問6で「はい」と答えた方へ,これからあなたが長期間に渡って継続的に点眼し続けるとしたら,どの容器を使いたいと思いますか?順番をつけてください.順番容器1番ABC2番ABC3番ABC表2試験参加者の疾患と非高齢者,高齢者の群別の人数65歳未満65歳以上全体緑内障疑い71118緑内障7714合計1418321130あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(118)評価点の平均が高値を示した(図3B).4.薬液の落ち方の評価薬液の落ち方は高齢者群でTp(平均4.3±1.0点)はXa(平均2.9±1.4点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体でもTp(平均3.9±1.1点)はXa(平均3.2±1.3点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図4).5.コレスポンディング分析各点眼容器について16の評価項目(表1の問5)のうち,「液の切れが悪い」と「容器が大きすぎる」を選択した試験参加者はなく,その結果14項目にはチェックがついた.Xa54321XaABTz全体分散分析*p<0.0001多重比較(Tukey法)*p<0.0001*p<0.0001*p=0.0156Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.0134多重比較(Tukey法)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0001多重比較(Tukey法)*p=0.0010*p=0.0002Tp54321XaTz全体分散分析*p=0.0031多重比較(Tukey法)*p=0.0020Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.3155(ns)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0026多重比較(Tukey法)*p=0.0420*p=0.0022Tp図3容器の持ちやすさと押しやすさの評価A:容器が持ちにくいの1点から持ちやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.B:容器が押しにくいの1点から押しやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.54321XaTz全体分散分析*p<0.001多重比較(Tukey法)*p<0.0001*p<0.0065Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.0133多重比較(Tukey法)*p=0.0097Tp54321XaTz高齢者分散分析*p<0.0003多重比較(Tukey法)*p=0.0002*p<0.0250Tp図2キャップの開閉のしやすさの5段階評価開閉しにくいの1点から開閉しやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.(119)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101131は「キャップが小さい」「容器が柔らかい」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多く,Tzは「容器が押しにくい」「液が落ちない」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多かった.Tpでは「容器が持ちやすい」「キャップが大きい」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多かった.さらに,これら多項目による分析結果を可視化するため,ポジショニングマップを作成した(図5).6.点眼容器の総合評価点眼薬の費用・効き目・副作用が同じ場合,容器の使用感を試してから選んで使いたいかの質問には全員が「はい」と回答した.そこで長期間継続的に点眼し続けるとした場合,最も使用したい点眼容器をとして選択したのは全体,非高齢者群,高齢者群ともTpが有意に多かった(それぞれp<0.00001,p=0.0021,p=0.0103)(図6).III考按緑内障診療における点眼治療の重要性6)については言を待たないが,その成否にはアドヒアランスが大きな鍵を握っている.以前に筆者らが報告した点眼薬使用感のアンケート調査4)では,点眼薬間で使用感に大きなばらつきがあり,特定の点眼薬で患者が点眼動作を不快に感じていることが示されており,また緑内障点眼容器の押し圧力計測では,1滴を落とすために必要とされる押し圧力が点眼薬により数倍も異なることが報告されている7).一方,わが国における高齢化は顕著であり,緑内障患者に占める高齢者の割合も今後さらに増加することが予想される.その治療には,眼圧下降作用の強さと全身に対する安全性より,PG製剤がこれから先も第一選択薬として処方される可能性が高い.よってPG製剤の使用感を高めるための取り組みは重要である.今回のアンケート調査では,経験に基づく先入観を避けるため,点眼薬の使用経験がない集団を対象として選択したが,使用感を真剣に吟味できる集団として,近日中に点眼薬54321XaTz全体分散分析*p=0.0322多重比較(Tukey法)*p=0.0299Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.8865(ns)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0066多重比較(Tukey法)*p=0.0050Tp図4薬液の落ち方の評価薬液の落ち方が良くないの1点から丁度良いの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.c1XaTzTpキャップが開けにくいキャップが開けやすいキャップが小さいキャップが大きい液が落ちない液が落ちる何も気にならない容器が押しにくい容器が押しやすい容器が硬い容器が持ちにくい容器が持ちやすい容器が柔らかい容器が小さすぎるc2-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.01.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0図5コレスポンディング分析によるポジショニングマップ3種類の点眼容器●と筆者らが準備した点眼容器の性状を示す16項目■との距離で表現している.距離が近いほど関係が深い.16項目のうち2項目については選択した試験参加者が存在せず,図には示されていない.全体*p<0.00001Tp*(23)Xa(4)Tz(5)Xa(2)Tz(3)Xa(2)Tz(2)Tp*(13)Tp*(10)高齢者*p=0.0021非高齢者*p=0.0103図6点眼容器の総合評価1132あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(120)治療を開始する予定である患者を調査の対象としたため,多数の参加者は得られなかった.にもかかわらず,今回,高齢者群では3種類のPG製剤間でキャップや容器の使用感について明らかな違いが認められたことは興味深く,高齢者では各容器の構造がその使用性に,より鋭敏に反映されることが窺えた.これは,非高齢者では問題にならない程度であっても,高齢者でみられる指先の力などの衰えが容器の扱いにくさ,すなわち,Xaのキャップの開閉のしにくさや,Tzの容器の持ちにくさ,押しにくさに結びつくものと考えられる.一方,今回の点眼容器の使用性調査で高齢者,非高齢者ともに平均スコアが高値を示し,使用感が良好であると考えられたのはTp型の容器であった.Tp型の容器は他の容器と異なり把持部に凹み(ディンプル12))を有しているため,点眼時の指先の操作がしやすいためと考えた.このような点眼容器の構造上の工夫は,年齢を問わず,その使用感の向上に寄与するが,特に,高齢者ではその影響が大きいものと考えた.点眼薬の円滑な使用にあたっては点眼指導8~10)や点眼補助具の開発11)も必要不可欠である.しかし,今回の結果から高齢者では点眼治療のアドヒアランスの向上のために,患者の要望や意見を反映した点眼容器の作製が求められるべきであることが強く示唆された.使用性の改善をめざした点眼容器のユニバーサルデザイン化が大いに望まれる.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20062)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:RiskfactorsforopenangleglaucomainaJapanesepopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20063)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20054)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20075)MathiowetzV,KashumanN,VollandGetal:Gripandpinchstrength:Normativedataforadult.ArchPhysMedRehabil66:69-74,19856)青山裕美子:教育講座緑内障の点眼指導とコメディカルへの期待緑内障と失明の重み.看護学雑誌68:998-1003,20047)兵頭涼子,林康人,溝上志朗ほか:圧力センサーによる緑内障点眼剤の点眼のしやすさの評価.あたらしい眼科27:99-104,20108)吉川啓司:〔緑内障診療のトラブルシューティング〕薬物治療点眼指導の実際.眼科診療プラクティス98:119-120,20039)木下眞美子:自己点眼継続に向けた高齢者への点眼指導後の効果.眼科ケア6:388-392,200410)福本珠貴,渡邊津子,井伊優子ほか:〔患者さんにまつわる小さな「困った」対処法50〕点眼指導で起こりうる小さな「困った」対処法.眼科ケア8:242-248,200611)沖田登美子,加治木京子:看護技術の宝箱高齢者の自立点眼をめざした点眼補助具の作り方.看護学雑誌69:366-368,200512)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,2005***

高齢者に発生した視神経膠腫の1例(視交叉神経膠腫)

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(121)1210910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):121126,2009cはじめに成人の原発性視神経膠腫は,まれな疾患とされ1,2),小児では神経線維腫type1と関連し予後良好3,4)であるのと対照的に,通常は予後不良な悪性視神経膠腫57)とされている.初症状は突然の視力低下を呈し,急速に進行し,失明,死亡に至る812).眼底は,視神経炎や虚血性視神経症に似た所見〔視神経乳頭の浮腫,蒼白(萎縮)〕を呈する13).視路の神経膠腫の25%が視神経に限局し,残りが視交叉,視索に「浸潤する」13).今回筆者らは,視交叉部が原発と考えられた高齢者の神経膠腫症例を経験したので報告する.患者は発症時85歳と視神経膠腫の既報のなかでは最高齢の部類で,その原発部位が視交叉部であると推定されることから,その治療〔別刷請求先〕深作貞文:〒113-8602東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:SadafumiFukasaku,M.D.,D.MSc.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8602,JAPAN高齢者に発生した視神経膠腫の1例(視交叉神経膠腫)深作貞文*1,2藤江和貴*1前原忠行*3新井一*4若倉雅登*1*1井上眼科病院*2日本医科大学眼科学教室*3順天堂大学医学部放射線医学講座*4順天堂大学医学部脳神経外科学講座ACaseofPrimaryOpticGlioma(OriginatingintheChiasma)inan85-Year-OldFemaleSadafumiFukasaku1,2),WakiFujie1),TadayukiMaehara3),HajimeArai4)andMasatoWakakura1)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,3)DepartmentofRadiology,JuntendoUniversity,SchoolofMedicine,4)DepartmentofNeurosurgery,JuntendoUniversity,SchoolofMedicine高齢女性での視交叉部神経膠腫を発症したまれな症例を経験したので報告する.症例は85歳,女性.左眼耳側の視野異常を主訴に井上眼科病院(以下,当院)に来院,前眼部は白内障を認め,眼底は左視神経乳頭がやや蒼白であった.左相対的瞳孔求心路障害(RAPD)陽性,左眼中心フリッカー値低下,Amsler検査で両耳側の暗点,Goldmann視野計にて両耳側半盲を認めた.以上より視交叉の病変を疑い,頭部磁気共鳴画像(MRI)を施行した.視交叉部視神経膠腫が強く疑われ,患者は順天堂大学病院(以下,同院)脳神経外科にて化学および,放射線治療を施行された.退院後当院眼科での経過観察中,再び左眼視力低下,フリッカー値低下をきたした.同院にて副腎皮質ステロイド薬治療を受けたが,状態は悪化し当院初診から1年後永眠した.高齢者の突然の視力低下を呈する疾患としては,視神経膠腫はきわめてまれであり,診断過程では画像検査(MRI)が有用であった.年齢と病変部位(視交叉部)を考慮して化学および,放射線治療が施行された.しかしながらこの疾患の予後は依然として不良であった.Wereportararecaseofopticchiasmalgliomainaveryelderlyfemale.Thepatient,85yearsofage,present-edwithtemporalvisualelddefectinherlefteye.Slit-lampexaminationdisclosedbilateralcataract;fundscopyrevealedapaleleftopticdisc.Inthelefteye,relativeaerentpupillarydefect(RAPD)waspositive,andcentralickerfrequency(CFF)waslow.Amsler’schartdisclosedbilateraltemporalscotoma.Goldmannperimetryrevealedbilateraltemporalhemianopia.Onthebasisofthesesignsandsymptoms,achiasmallesionwassuspected.Cranialmagneticresonanceimaging(MRI)stronglysuggestedanopticchiasmalglioma.Thepatientunderwentradiotherapyandchemotherapyatauniversityhospital.Duringpost-treatmentobservation,weagainfounddecreasedvisualacuityandCFFinthelefteye.Thepatientwasthereforehospitalizedandmedicatedwithste-roids.Despitethesemeasures,herconditiondeterioratedandshedied12monthsafterinitialpresentation.Primaryopticgliomasinveryelderlyindividuals,causeearlylossofvisionareveryrare.Insuchcases,cranialMRIwasusefulforearlydiagnosis.Consideringthispatient’sageandlesion(chiasmal),sheunderwentradiotherapyandchemotherapy.Nevertheless,thecourseofthediseaseinthiscasewasunsatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):121126,2009〕Keywords:高齢者,視神経膠腫,視交叉,両耳側半盲,放射線治療.veryelderlyindividuals,opticglioma,opticchiasma,bitemporalhemianopia,radiotherapy.———————————————————————-Page2122あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(122)方針,および経過につき参考になると思われるものである.I症例呈示患者:85歳,女性.初診:2007年5月18日.主訴:左眼耳側の視朦.現病歴:近医にて左眼白内障と指摘され2種類の点眼にて経過観察されていた.以前はよく見えていたというが,井上眼科病院(以下,当院)受診の半月前から左眼の主訴を感じていた.上記主訴にて当院初診となった.家族歴・既往歴:特記すべきことはない.初診時所見:視力は,VD=0.04(0.09×sph+5.00D(cyl1.50DAx95°),VS=0.05(0.08×sph+3.75D(cyl1.25DAx95°),眼圧は正常(右眼=14mmHg,左眼=16mmHg),眼位は外斜視であった.瞳孔不同はなく,眼球運動の制限なく,円滑であった.対光反射は左右とも迅速,十分で,相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)はなかった.前眼部は,深前房,両眼白内障(E2)があり,散瞳がやや不良であった.眼底は,乳頭,黄斑,周辺部に異常はなかった.Amslerチャートで両耳側に暗点,動的視野計にて両耳側半盲を呈していた(図1).フリッカー値は,右眼30Hz,左眼17Hzと左眼が有意に低下していた.視交叉病変が疑われ,頭部磁気共鳴画像法(MRI)を施行した.経過:再診時(2007年5月25日)視力は,VD=0.03(0.2×sph+5.00D(cyl1.50DAx95°),VS=0.02(0.09×sph+3.75D(cyl1.25DAx95°),静的視野計(Humphrey30-2fast-pac)にても両耳側半盲を認め,左眼は中心窩閾値が測定できなかった.MRI所見では,視交叉から右眼窩内視神経の腫大とガドリニウム増強効果を認め,視交叉は左右対称的に腫大と増強効果がみられた(図2,3).下垂体には図1動的量的視野所見両耳側半盲を呈している.図2井上眼科病院初診時MRIT1強調画像(Gd造影).矢印部に増強効果を呈している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009123(123)異常なく,硬膜,髄膜に増強効果は認めなかった.画像診断では,視交叉から右眼窩内視神経腫瘍で,神経膠腫の凝いが強いとされた.鑑別疾患としては悪性リンパ腫,肉芽腫性疾患が指摘された.当院神経眼科医の精査では,瞳孔は3.5mm同大で,対光反射は直接反応が両眼ともに迅速であり,左眼のRAPDが陽性であった.フリッカー値は,右眼2933Hz,左眼17Hzと低下していた.眼底は,乳頭の色がやや蒼白であった.以上の経過より視交叉部神経膠腫疑いとし,順天堂大学病院(以下,同院)脳神経外科へ紹介した.同院入院治療経過:6月初診時の同院MRI所見にて視交叉部神経膠腫と診断された(図4).7月4日患者の両眼の視力低下が進行し(光覚弁),入院治療となった.治療は局所放射線療法が施行された.約1カ月間に48Gy(LINAC)照射された.同時に内服治療も試行され,開始時プレドニゾロン30mg/日であり,退院時は3mg/日となった.入院中の7月末の視力は,右眼(0.08),左眼(0.02)であり,MRI所見では腫瘍縮小を認め(図5),8月6日退院となった.9月に当院の再診時は,視力はVD=(0.09×sph+5.00D(cyl1.50DAx95°),VS=0.04(0.04×sph+3.75D(cyl1.25DAx80°),フリッカー値は右眼78Hz,左眼17Hzと両眼図3図2と同一症例のMRI(右視神経から視交叉部まで)T1強調画像(Gd造影).矢印部に右視神経の腫大がみられる.図4順天堂大学病院受診時MRIT1強調画像(Gd造影).視交叉部の腫大を認める.———————————————————————-Page4124あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(124)がともに有意に低下していた.このときは右眼にRAPDが陽性であり,白内障(右眼に強い)を認め,左視神経乳頭は蒼白を呈していた.静的視野計は中心固視点が見えず計測できなかった.腫瘍が再び増大した可能性もあり,同院に再紹介となった.9月にテモダール療法のため入院となり,5日間100mg/日を内服した.その後全身倦怠感や胸部不快感があり,再度入院して点滴治療を行った.通院中も視力,視野に関しては改善傾向は認めなかった.さらにMRIで脳幹部にも造影効果を受ける部位も出現し,視交叉の病変も増大していたが,プレドニゾロン10mg投与で軽度改善した.12月末に全身状態悪化から入院し,視力は光覚弁であった.退院後自宅近くの病院で保存的治療を受けていたが,6月腫瘍の播種による頭蓋内ヘルニアをきたし,自宅にて永眠した.II考按成人の原発性視神経膠腫(opticglioma)は,中枢神経腫瘍の1%を占める1,2)まれな疾患である.小児では,毛様性星状細胞腫(pilocyticastrocytoma)で神経線維腫type1と関連し予後良好3,4)であるのに対し,一方,成人では予後不良な悪性視神経膠腫〔悪性星状細胞腫(astrocytoma)〕57)で,多くが数カ月以内に失明し,1年以内に死亡する812).特徴的な所見として,急激な視力低下,および視神経炎や虚血性視神経症に似た眼底所見〔視神経乳頭の浮腫,蒼白(萎縮)〕を呈することが知られている13).この時点では乳頭に異常所見が現れないものも多い9).悪性視神経膠腫の鑑別診断として,突然の視力低下を示すものでは,視神経炎,虚血性視神経症がある8,10,13).本症例でも,白内障で経過観察中に,両耳側の視野異常,視力の急速な低下という初期症状を呈しており,視神経乳頭は正常所見でRAPD陽性,フリッカー値の低下,静的および動的視野計での両耳側半盲所見に加え,MRIによる画像診断によって視神経膠腫が強く疑われたものであった.視神経膠腫の徴候や症状は,通常その腫瘍の解剖的浸潤程度に相関しているとされ,一側の遠位側の視神経が腫瘍に巻き込まれると片側の視機能不全をきたし(視力低下70%,視野欠損43%),眼底検査で,乳頭浮腫(41%),静脈の捩れ,視神経萎縮(14%),腫瘍による閉塞性乳頭血管の虚血性梗塞を呈することもある9,10).本症例の視交叉部神経膠腫でも左眼の乳頭において初診時は白色調,3カ月後は蒼白であった.本疾患の診断においては,早期のMRI画像が強力な手段である12,14).悪性視神経膠腫では,T1強調画像で脳実質と等信号輝度から低信号輝度,T2強調画像では,高信号輝度を示し,ガドリニウム造影剤ではわずかに増強される15,16).Anaplasticastrocytomでは,造影剤で増強される肥厚した視神経や,視交叉,鞍上部の腫瘍がみられる10,15).実際に本症例の当院初診時のT1強調造影画像では,視交叉において左右対称的に腫大と増強効果がみられていた.ここで先にあげた鑑別診断を検討した.虚血性視神経症の初期では眼窩内の腫瘍性病変を疑わせる他覚的所見を通常欠如しているとさ図5図4と同一症例の退院時MRIT1強調画像(Gd造影).放射線療法後腫瘍は縮小した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009125(125)れ9),多発性硬化症で特徴的な側脳室周辺の病変が,本症例のMRIではみられない10).また視神経炎では,突然の視力低下,乳頭腫脹に加え球後痛がみられ,副腎皮質ステロイド薬の静脈注射で視力は急速に回復することが多い9).これらの病態と比較検討してみると,この症例では球後痛はなく,視力も結果的に回復しなかったことから,本症例においては,視神経炎や虚血性視神経症は否定的であった.しかしながら,悪性視神経膠腫はまれな症例であるため,開頭術や生検を施行する前に,診断がつくのはごく限られた症例となっている14,17,18).治療では,眼窩内視神経に限局するもの(前部型)では経過観察し,症状の進行があった場合外科的切除,放射線療法,化学療法併用(アクチノマイシン,ビンクリスチン)を行うが,視交叉,視索に発生あるいは浸潤したもの(後部型)では腫瘍の根治はむずかしく,外科的治療は限界があり,放射線治療を含むadjuvant療法が利用される12,14,17,19).小児例では自然治癒もあり,臨床的に症状悪化がみられた場合は手術も行われ,予後は比較的良好である3,11,19)が,反対に成人の悪性視神経膠腫は視交叉,視索に沿って急速に視交叉,下垂体に浸潤するとされる8,13,16).これらのことを考慮すると病変を縮小させるための手術は疑問とされ,腫瘍の部分摘出術の危険性は,生検術に比して疑いなく大きいと考えられている14,17).一方では,放射線療法はより良い術後療法とみられており,施行された患者は,されない場合に比べてより長い生存率を示している17).放射線療法を施行された患者の平均生存率期間は,9.7カ月とされ,化学療法を併用した場合としない場合では,それぞれ12.2カ月,8.8カ月との報告もあるが,統計的に有意ではないとされる9).放射線治療を施行する場合,最適な放射線量は57Gy,または54Gy以下とされ,その量では周辺組織のダメージを避けることができる1,2,14,20).病変が片側の場合には補助的療法も残りの対眼を維持するために考慮される必要がある.本症例では,年齢(85歳)と,また家族の意向もあり,手術ではなく放射線治療が同院で施行された.現在可能な治療法では予後を改善することはできないが,部分的には放射線治療で病状進行の抑制はできる10).今回本患者には,約33日間で48Gyが照射された.照射後の患者の自覚所見は改善がみられ,眼底は,視神経乳頭がなお蒼白を呈していたが,その他の副作用であるⅢ,Ⅳ,Ⅵ脳神経の障害などは確認されていない.本症例では2回目の入院以後は,視力は光覚弁となっていた.その後も同院にて副腎皮質ステロイド薬による内科的治療を受けていたが,12月末に全身状態悪化から入院した.ただ意識は清明であり,流動食によって体力は維持されていた.退院後は,自宅近くの病院で保存的治療を受けていたが,6月初旬に腫瘍の播種による頭蓋内ヘルニアをきたし,自宅にて永眠した.当院初診から約1年であった.悪性視神経膠腫の確定診断は,開頭術による生検でなされる(前述).その組織形はglioblastomaや,低悪性度astro-cytomaが報告されてきた8,10).成人の視神経膠腫の予後は不良であり,平均生存期間はanaplasticastrocytomaで8.1カ月,glioblastomaで8.3カ月と報告されている10,14).本症例の患者は発症時85歳と視神経膠腫の既報のなかでは最高齢の部類に入り,また疾患の原発部位が,片側の視神経から視交叉部であると推定され,以上の点により当疾患の診断過程,他の疾患との鑑別点,治療方針,および経過につき眼科的に参考になると思われるものである.文献1)SafneckJR,NapierLB,HallidayWC:Malignantastrocy-tomaoftheopticnerveinachild.CanJNeurolSci19:498-503,19922)HamiltonAM,GarnerA,TripathiRCetal:Malignantopticnerveglioma.BrJOphthalmol57:253-264,19733)RushJA,YoungeBR,CampbellRJetal:Opticglioma:long-termfollow-upof85histopathologicallyveriedcases.Ophthalmology89:1213-1219,19824)EggersH,JakobiecFA,JonesIS:Opticnervegliomas.DiseasesoftheOrbit(edbyJonesIS,JakobiecFA),p417-433,Harper&Row,NewYork,19795)RuddA,ReesJE,KennedyPetal:Malignantopticnervegliomasinadults.JClinNeuro-ophthalmol5:238-243,19856)CummingsTJ,ProvenzaleJM,HunterSBetal:Gliomasoftheopticnerve:histological,immunnohistochemical(MIB-1andp53),andMRIanalysis.ActaNeuropathol99:563-570,20007)SpoorTC,KennerdellJS,MartinezAJetal:Malignantgliomasoftheopticnervepathways.AmJOphthalmol89:284-292,19808)HoytWF,MeshelLG,LessellSetal:Malignantopticgliomaofadulthood.Brain96:121-132,19739)WabbelsB,DemmlerA,SeitzJetal:Unilateraladultmalignantopticnerveglioma.GraefesArchClinExpOph-thalmol242:741-748,200410)HartelPH,RosenC,LarzoCetal:Malignantopticnerveglioma(Glioblastomamultiforme):Acasereportandlit-eraturereview.WVaMedJ102:29-31,200611)AlbersGW,HoytWF,FornoLSetal:Treatmentresponseinmalignantopticgliomaofadulthood.Neurolo-gy38:1071-1074,198812)AstrupJ:Naturalhistoryandclinicalmanagementofopticpathwayglioma.BrJNeurosurg17:327-335,200313)KosmorskyGS,MillerNR:Inltrativeopticneuropathies.Walsh&Hoyt’sClinicalNeuro-Ophthalmology(edbyMillerNR,NewmanNJ),Chapter15:681-689,Williams&Wilkins,Baltimore,199814)MiyamotoJ,SasajimaH,OwadaKetal:Surgicaldecisionforadultopticgliomabasedon[18F]uorodeoxyglucose———————————————————————-Page6126あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(126)positronemissiontomographystudy─casereport─.Neu-rolMedChir(Tokyo)46:500-503,200615)TanakaA:Imagingdiagnosisandfundamentalknowl-edgeofcommonbraintumorsinadults.RadiatMed24:482-492,200616)中尾雄三:腫瘍による視神経症.眼科プラクティス,第5巻これならわかる神経眼科(根木昭編),p198-201,文光堂,200517)DarioA,IadiniA,CeratiMetal:Malignantopticgliomaofadulthood.Casereportandreviewofliterature.ActaNeurolScand100:350-353,199918)ManorRS,IsraeliJ,SandbankU:Malignantopticgliomaina70-year-oldpatient.ArchOphthalmol94:1142-1144,197619)宮崎茂雄:視神経膠腫.眼科診療プラクティス眼科診療ガイド(丸尾敏夫,本田孔士臼井正彦,田野保雄編),p467,文光堂,200420)北島美香:中枢神経系放射線治療後の変化.画像診断26:922-931,2006***