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併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用

2011年6月30日 木曜日

868(11あ6)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):868.873,2011cはじめに日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン1)によると,「現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降することである」とされており,したがって強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)関連薬あるいはb遮断薬が第一選択薬として使用されている.一方,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)阻害薬であるドルゾラミドは,眼圧下降効果および点眼回数などの点でやや劣ることから,これらに併用する形で使用されることがほとんどである.近年,ドルゾラミド点眼薬に眼循環改善作用があるとする報告が散見され2.4),緑内障神経保護治療の面で注目されている.2003年Arendら2)は原発開放隅角緑内障患者14例にドルゾラミド,0.5%マレイン酸チモロールあるいはラタ〔別刷請求先〕大黒幾代:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IkuyoOhguro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用大黒幾代片井麻貴田中祥恵鶴田みどり大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座Dorzolamide1%AddedtoLatanoprostorTimololMaleate0.5%:EffectonOpticNerveHeadBloodFlowinGlaucomaIkuyoOhguro,MakiKatai,SachieTanaka,MidoriTsurutaandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールにドルゾラミドを併用した際の視神経乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.対象および方法:ラタノプロスト単剤(LP群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(TM群)で治療中の緑内障患者15症例に1%ドルゾラミドを追加投与し,2カ月後の眼圧,眼灌流圧および視神経乳頭血流量を測定した.結果:ドルゾラミド追加により両群で乳頭血流量に増加傾向がみられた.特にLP群では乳頭陥凹部のmeanblurrate(MBR)値が7.45±2.51から10.09±4.02,TM群では上耳側リムのMBR値が4.49±2.59から6.04±3.20とそれぞれ有意に増加した(p<0.05).一方,眼圧は群間での差はなく両群ともに有意に下降していた.結論:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールへのドルゾラミドの併用は,眼圧下降だけでなく視神経乳頭血流量増加にも有効であると考えられる.Purpose:Toevaluatetheeffectofadditionalinstillationofdorzolamide1%onopticnerveheadbloodflowinglaucomapatientsreceivingeitherlatanoprostortimololmaleate.CasesandMethod:Thisprospectivestudyinvolved15eyesof15patients,theseriescomprising10patientstreatedwithlatanoprost(LPgroup)and5treatedwithtimololmaleate(TMgroup).Opticnerveheadcirculationwasmeasuredusinglaser-speckleflowgraphy,beforeandat2monthsafterdorzolamideinstillation.Results:Laser-speckleflowgraphydisclosedsignificantbloodflowincreasesinthecuppingofLPgroupandinthesuperotemporalsegmentoftherimareaofTMgroup(p<0.05).Intraocularpressuredecreasedsignificantlyafter2monthsofinstillationinbothgroups.Conclusion:Theseresultssuggestthattheinstillationofdorzolamideadditionaltoeitherlatanoprostortimololmaleateisaneffectivetreatmentforincreasingopticnerveheadbloodflow,aswellasfordecreasingintraocularpressure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):868.873,2011〕Keywords:1%ドルゾラミド,視神経乳頭血流,ラタノプロスト,0.5%マレイン酸チモロール.dorzolamide1%,opticnerveheadbloodflow,latanoprost,timololmaleate0.5%.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011869ノプロストのいずれか1剤を4週間点眼し,網膜動静脈循環時間の短縮およびコントラスト感度の上昇がドルゾラミド群でのみ認められたと報告している.また,2005年にはFuchsjager-Mayrlら4)が原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者140名にドルゾラミドあるいは0.5%マレイン酸チモロールのいずれか1剤を6カ月間点眼し,ドルゾラミド群ではチモロール群に比べて視神経乳頭耳側リムおよび陥凹部の血流が有意に増加したと報告しており,これらの事実はドルゾラミドがマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに比べて網膜および視神経乳頭の循環改善作用を有するとするものであろう.しかしながら,PG関連薬と併用した際のドルゾラミド点眼薬の乳頭血流に関する報告はなく,また併用薬の違いによりドルゾラミドの乳頭血流に及ぼす効果に差が生じるか否かは不明である.そこで,今回はPG関連薬あるいはb遮断薬にドルゾラミド点眼薬を併用し,その乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.I対象および方法対象は札幌医科大学眼科緑内障専門外来に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト単剤(ラタノプロスト群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(ただし持続性点眼液は除く)(チモロール群)にて3カ月以上治療中で,効果が不十分と判断されかつ当臨床試験の趣旨に賛同した緑内障患者15例(男性7例,女性8例,年齢45.78歳)である.ラタノプロスト群は10例,その内訳は男性6例,女性4例,年齢は54.78歳(平均±標準偏差;68.8±7.2歳),病型は正常眼圧緑内障6例,原発開放隅角緑内障4例である.緑内障病期はHumphrey静的視野プログラム30-2にてmeandeviation(MD)値が.19.14.1.06dB(平均±標準偏差;.5.54±6.82dB)と初期から中期のものが大部分で,MD≦.12dBのAndersonら5)の重度視野欠損例は1例であった(表1).チモロール群は5例,その内訳は男性1例,女性4例,年齢は45.70歳(平均±標準偏差;61.0±10.0歳),病型は正常眼圧緑内障2例,原発開放隅角緑内障2例,虹彩切開術後の慢性閉塞隅角緑内障1例である.緑内障病期は同プログラムにてMD値が.10.85.1.16dB(平均±標準偏差;.5.26±4.70dB)とすべて初期から中期であった(表1).対象患者に1%ドルゾラミド点眼液を追加投与し,追加前,追加1カ月および2カ月後に眼圧,全身血圧より眼灌流圧を算出し,追加前および追加2カ月後に視神経乳頭陥凹部および耳側リムにおける組織血流を測定した.実際には既報6)のごとく,0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した.リム乳頭径比が0.1未満で矩形領域が設定困難な場合はやや黄斑部に寄せて矩形領域を設定した.統計学的解析は15例15眼に施行し,有意水準p<0.05を有意とした.なお,測定はすべての症例で点眼2時間から5時間後の午前10時から11時の間に行った.表1ドルゾラミド追加投与前の両群患者背景ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定年齢(平均±標準偏差)68.8±7.260.1±10.0NS(p=0.0647)(Mann-WhitneyUtest)性別(男性/女性)6例/4例1例/4例病型正常眼圧緑内障6例2例NS(p=0.3734)原発開放隅角緑内障4例2例(c2検定)慢性閉塞隅角緑内障(LI後)1例病期MD(平均±標準偏差).5.54±6.82dB.5.26±4.70dBNS(p=0.4724)MD>.6dB6例2例(c2検定).6dB≧MD>.12dB3例3例.12dB≧MD1例眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)14.6±2.515.3±2.3NS(p=0.6192)(Mann-WhitneyUtest)眼灌流圧(mmHg)(平均±標準偏差)49.2±6.1*39.5±6.7*(p=0.0373)(Mann-WhitneyUtest)収縮期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)135.7±17.9120.9±20.3NS(p=0.1583)(Mann-WhitneyUtest)拡張期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)75.5±7.3*62.9±7.6*(p=0.0142)(Mann-WhitneyUtest)LI:レーザー虹彩切開術,MD:meandeviation.870あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(118)また,当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,患者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.ドルゾラミド追加投与前の両群の患者背景両群の年齢,病型および病期に差はなく,ドルゾラミド追加投与前のラタノプロスト群およびチモロール群の眼圧値はそれぞれ14.6±2.5mmHg,15.3±2.3mmHgで有意な差はなかった.しかし,拡張期血圧はラタノプロスト群で有意に高く(p<0.05),血圧と眼圧値から算出した眼灌流圧はチモロール群(39.5±6.7mmHg)に比べてラタノプロスト群(49.2±6.1mmHg)で有意に高かった(p<0.05)(表1).2.ドルゾラミド追加投与前の両群の眼血流ドルゾラミド追加投与前における組織血流の指標であるMBR値は,乳頭陥凹部および上・下耳側リムいずれの部位においても両群に差はみられなかった(表2).3.ドルゾラミド追加投与後の眼圧ラタノプロスト群の眼圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前14.6±2.5mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ12.9±3.1mmHg(p<0.05),13.2±2.9mmHgと有意に下降した(図1).チモロール群の眼圧(平均±標準偏差)もドルゾラミド追加前15.3±2.3mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ14.1±1.3mmHg,12.7±1.8mmHg(p<0.05)と有意に下降した(図1).4.ドルゾラミド追加投与後の平均血圧平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,ラタノプロスト群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前95.6±8.9mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ88.5±13.4mmHg,93.3±7.8mmHgとやや低下傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図2).チモロール群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前82.2±10.3mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ82.9±11.6mmHg,84.7±14.3mmHgで,有意な変化はなかった(図2).5.ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧眼灌流圧は便宜的に2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ラタノプロスト群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前49.2±6.1mmHg,追加1カ月後および2カ表2ドルゾラミド追加投与前の両群眼血流ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定陥凹部(平均±標準偏差)4.49±2.596.12±2.83NS(p=0.2207)(Mann-WhitneyUtest)上耳側リム(平均±標準偏差)8.30±5.447.45±2.51NS(p=0.7389)(Mann-WhitneyUtest)下耳側リム(平均±標準偏差)8.15±6.567.17±1.60NS(p=0.6242)(Mann-WhitneyUtest)(単位:MBR)*:p<0.05pairedt-testベースライン眼圧(mmHg)201816141210015.3±2.314.1±1.31カ月後2カ月後12.7±1.8:チモロール群:ラタノプロスト群14.6±2.512.9±3.113.2±2.9**図1ドルゾラミド追加投与後の眼圧経過ベースライン平均血圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群120110100908070082.2±10.382.9±11.695.6±8.993.3±7.888.5±13.484.7±14.3図2ドルゾラミド追加投与後の平均血圧経過ベースライン眼灌流圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群70:ラタノプロスト群605040302010039.5±6.749.2±6.143.7±10.945.6±6.549.0±6.141.2±7.3図3ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧経過(119)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011871月後はそれぞれ45.6±6.5mmHg,49.0±6.1mmHgと有意な変化はみられなかった(図3).チモロール群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前39.5±6.7mmHg,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ41.2±7.3mmHg,43.7±10.9mmHgとやや増加傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図3).6.ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭血流組織血流の指標となるMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群の乳頭陥凹部で,ドルゾラミド追加前4.49±2.59から,追加2カ月後に6.04±3.20と有意に増加した(p<0.05)(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前8.30±5.44,8.15±6.56から,追加2カ月後に8.59±5.48,9.12±7.83と増加傾向を示した(図5,6).一方チモロール群では,乳頭陥凹部のMBR値(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前6.12±2.83から,追加2カ月後に6.75±3.45と有意ではないものの10%程度の増加傾向がみられた(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前7.45±2.51,7.17±1.60から,追加2カ月後に10.09±4.02(p<0.05),7.80±4.75となり,上耳側リムでは有意な増加を示した(図5,6).7.ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ドルゾラミド追加投与前のベースラインから投与2カ月後の変化量を群間で比較したところ,眼圧および眼灌流圧には差がなかったが,視神経乳頭上耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群(0.28±1.63)に比べてチモロール群(2.63±1.83)で有意に増加していた(p<0.05).視神経乳頭陥凹部および下耳側リムのMBR値には群間で差はなかった(表3).III考按CAは生体内におけるH2O+CO2.H2CO3.HCO3.+H+の可逆的反応を触媒する酵素で,房水産生に関与することが知られている.CA阻害薬であるドルゾラミドはヒトCA-II型に強い阻害活性を示す7)ことから,毛様体におけるCA-II型の活性を強く阻害することで房水産生を抑制し眼圧を下降させると考えられている.近年の免疫組織化学的研究からブ乳頭陥凹部(MBR)6.12±2.836.75±3.45109876543204.49±2.596.04±3.20**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群図4ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭陥凹部血流経過上耳側リム(MBR)131211109876540**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群7.45±2.5110.09±4.028.30±5.448.59±5.48図5ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭上耳側リム血流経過下耳側リム(MBR)ベースライン2カ月後10:チモロール群:ラタノプロスト群7.17±1.607.80±4.758.15±6.569.12±7.8350図6ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭下耳側リム血流経過表3ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)p値(Mann-Whitneytest)陥凹部(MBR)1.55±2.010.63±2.83NS(p=0.540)上耳側リム(MBR)0.28±1.632.63±1.83*p<0.05(p=0.028)下耳側リム(MBR)0.98±2.540.63±4.73NS(p=0.903)眼灌流圧(mmHg).0.15±9.144.24±4.95NS(p=0.142)眼圧(mmHg).1.35±2.24.2.60±1.67NS(p=0.294)872あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011タやサルの視神経毛細血管周囲さらにサルでは網膜毛細血管周囲にCA活性があり,ドルゾラミド添加によりこれら毛細血管が拡張することが示されている8).この事実はドルゾラミドにより網膜および視神経の毛細血管に存在するCA-II型活性が阻害され,局所炭酸ガス分圧が上昇し二次的に毛細血管が拡張して網膜および視神経乳頭血流が増加する可能性を示唆している.実際に筆者らの臨床試験において,ドルゾラミドを追加投与することにより両群で眼圧は有意に下降し眼灌流圧は変化しなかったことから,ドルゾラミドは血管抵抗を減弱することで血流を改善したと考えられ,先の可能性を支持するものであった.今回併用薬として用いた薬剤ラタノプロストはPGF2a誘導体で,強力な眼圧下降効果をもつことから第一選択薬として使用されている.眼血流に関しては不変とする報告もある2,3)が増加とする報告が多く9.10),ラタノプロストは眼圧を大きく下降させることにより眼灌流圧を上昇させるため,一般に眼血流は増加すると考えられる.Gherghelら9)は原発開放隅角緑内障患者未治療22例にラタノプロストを6カ月間投与したところ,眼圧は有意に下降し平均眼灌流圧は有意に上昇して視神経乳頭血流速度は有意に増加したと報告している.また,ラタノプロスト点眼にて有色家兎,カニクイザル,正常人の視神経乳頭血流量が増加したとする報告では,その機序としてPGF2a誘導体であるラタノプロストが内因性PGI2を誘導する可能性が考察で述べられている10).したがって,作用機序が異なるラタノプロストとドルゾラミドの併用は眼圧のみならず眼血流においても有用と考えられ,筆者らの臨床試験結果においても視神経乳頭,特に陥凹部血流は有意に増加していた.今回併用薬として用いたもう一つの薬剤であるマレイン酸チモロールは非選択性b遮断薬である.眼圧下降による眼灌流圧上昇は眼血流増加の方向に働くと考えられるが,一般にb遮断薬は末梢血管収縮作用を有することから,b遮断点眼薬が視神経や網膜の血流に抑制的に働く可能性も考えられる.これまでチモロールの眼血流に関する報告は多数あるものの,結果は増加11),不変12),減少13)と一定していない.Martinezら14)は0.5%マレイン酸チモロールで加療中の原発開放隅角緑内障初期40例80眼を対象に,片眼(視野障害の大きいほう)に2%ドルゾラミドを追加投与して,眼血流に関する4年間の前向き試験を行ったところ,チモロール・ドルゾラミド併用治療眼ではチモロール単独治療眼に比べて,有意な眼圧下降,眼動脈および短後毛様動脈の拡張終期血流速度の有意な上昇および抵抗指数の有意な低下,視野障害進行リスクの有意な減少がみられたと報告した.したがって,チモロールとドルゾラミドの併用により後眼部血流が増加することから,視神経乳頭血流の増加も期待できると予想され,筆者らの臨床試験においても視神経乳頭,特に上耳側リム血流は有意に増加しており矛盾しない結果であった.ドルゾラミドの単剤もしくはチモロールに追加した際の眼血流に関する報告は成されている2.4,14)が,ラタノプロストに併用した際の眼血流に関する報告はこれまでなく,今回の筆者らのものが初めてである.ドルゾラミドはチモロールに併用してもラタノプロストに併用しても視神経乳頭血流を増加することが示されたことから,併用薬として有用と考えられる.同時に,ドルゾラミドの乳頭血流増加作用には部位によって差があることも今回示された.この原因として,ベースラインにおける眼灌流圧の群間での違いやCA活性の部位による差,血管分布密度の部位別差などが考えられるが,詳細については多数例での検討が必要と考えられ,次回の課題としたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)ArendO,HarrisA,WolterPetal:Evaluationofretinalhaemodynamicsandretinalfunctionafterapplicationofdorzolamide,timololandlatanoprostinnewlydiagnosedopen-angleglaucomapatients.ActaOphthalmolScand81:474-479,20033)HarrisA,MigliardiR,RechtmanEetal:Comparativeanalysisoftheeffectsofdorzolamideandlatanoprostonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucomapatients.EurJOphthalmol13:24-31,20034)Fuchsjager-MayrlG,WallyB,RainerGetal:Effectofdorzolamideandtimololonocularbloodflowinpatientswithprimaryopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol89:1293-1297,20055)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry,2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19996)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:緑内障眼における1%ドルゾラミド点眼の視神経乳頭血流に及ぼす影響.臨眼64:921-926,20107)大森政信,内藤恭三:塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)の薬理作用,臨床効果.眼薬理15:9-15,20018)Lutjen-DrecollE,RichterM,KiilgaardJetal:Speciesdifferencesindistributionofcarbonicanhydraseactivityandvasodilativeeffectsofdorzolamideinretinalandopticnervevasculature.InvestOphthalmolVisSci41:S560,20009)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye22:363-369,200810)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,200111)GrunwaldJE:Effectoftimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.Invest(120)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011873OphthalmolVisSci33:604-610,199212)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199713)YoshidaA,FekeGT,OgasawaraHetal:Effectoftimololonhunanretinal,choroidalandopticnerveheadcirculation.OphthalmicRes23:162-170,199114)MartinezA,Sanchez-SalorioM:Effectsofdorzolamide2%addedtotimololmaleate0.5%onintraocularpressure,retrobulbarbloodflow,andtheprogressionofvisualfielddamageinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma:asingle-center,4-year,open-labelstudy.ClinTher30:1120-1134,2008(121)***