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難治性緑内障に対するAhmed Glaucoma Valve の手術成績

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(111)971《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):971.974,2010cはじめに度重なる線維柱帯切除術でもコントロール不良となった難治性緑内障への対応は,しばしば遭遇する困難な問題の一つである.次なる選択肢としては毛様体光凝固,毛様体冷凍凝固などとともにインプラント手術があげられる.インプラント手術(Seton手術)はデバイスを設置して房水を眼外に導出させる手術であり,1906年Rollettらの報告1)に始まり100年以上にわたり素材や形状の改良を受け今日に至る術式である.現在,おもに使用可能なインプラント装置には弁を有しないMolteno,Baerveldtと弁を有するAhmedがあり,わが国ではおもに線維柱帯切除術が無効な難治性緑内障に用いられているが,その長期経過の報告は少ない2.4).今回はAhmedglaucomavalveを使用した難治性緑内障の術後成績を検討したので報告する.I対象および方法1.対象対象症例を表1に示す.Ahmedglaucomavalveには房水を導出するチューブが付属し,その挿入先として前房内と硝子体腔がある.症例総数は13例15眼(男性7例8眼,女性6例7眼)で,年齢は50.7±23.5歳(平均値±標準偏差),病型は血管新生緑内障6例7眼,その他の続発緑内障5例5眼,発達緑内障1例2眼,原発開放隅角緑内障1例1眼であった.いずれもインプラント手術前に複数回の手術既往のあ〔別刷請求先〕河原純一:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:JunichiKawahara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN難治性緑内障に対するAhmedGlaucomaValveの手術成績河原純一*1望月英毅*1木内良明*1中村孝夫*2*1広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学*2大手前病院眼科OutcomeofAhmedGlaucomaValveImplantationforRefractoryGlaucomaJunichiKawahara1),HidekiMochizuki1),YoshiakiKiuchi1)andTakaoNakamura2)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,OtemaeHospital難治性緑内障15眼に対してAhmedglaucomavalveを挿入し,術後成績を検討した.対象は血管新生緑内障7眼,その他の続発緑内障5眼,発達緑内障2眼,原発開放隅角緑内障1眼で,術前平均眼圧は41.0±9.2mmHgであった.術後平均眼圧は12カ月後に19.4±8.0mmHgとなった.インプラントチューブ挿入先は前房内もしくは硝子体腔とし,両群間で眼圧値に差はなかった.角膜内皮細胞減少率は前房内挿入群で40.6%,硝子体腔挿入群で14.9%と前房に挿入した群で大きく減少した.1年生存率は26.7%であった.Ahmedglaucomavalveは難治性緑内障に対して有効な治療となる可能性があると考えられた.WeevaluatedtheclinicaloutcomeofAhmedglaucomavalveimplantin15eyeswithrefractoryglaucoma.Ofthe15eyes,7hadneovascularglaucoma,5hadsecondaryglaucoma,2haddevelopmentalglaucomaand1hadprimaryopen-angleglaucoma.Preoperativemeanintraocularpressureof41.0±9.2mmHgwasreducedto19.4±8.0mmHgafter12months.Animplanttubewasplacedintheanteriorchamberorparsplana,IOPaftersurgeryshowednostatisticallysignificantdifferencesbetweenthetwo.Cornealendotheliumdecreaseratewas40.6%intheanteriorchambergroupand14.9%intheparsplanagroup,thelattergroupdecreasedmore.Thecumulativesuccessratewas26.7%at12months.Ahmedglaucomavalveimplantationseemstobeaneffectivetreatmentforrefractoryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):971.974,2010〕Keywords:Ahmedglaucomavalve,難治性緑内障,セトン手術.Ahmedglaucomavalve,refractoryglaucoma,Setonoperation.972あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(112)る難治性緑内障である.術前眼圧は41.0±9.2mmHg(25.56mmHg)であった.これらの症例に関して眼圧,視力,角膜内皮細胞,追加手術,合併症,生命表法による成績の検討を行った.視力は術前に比して2段階以上上がったものを改善,2段階以上下がったものを悪化,それ以外を不変とした.生命表法は術後7日目以降での眼圧5mmHg以下または22mmHg以上,緑内障再手術例,視機能喪失例を死亡と定義した.なお,Ahmedglaucomavalveの使用にあたっては倫理委員会の承認を得た後に,患者にインフォームド・コンセントを行い同意を得た.2.手術方法今回用いたのはNewWorldMedical社のAhmedglaucomavalve(図1)でModelS3,FP8およびPC8である.いずれも本体の強膜プレート部は幅9.6mm,前後10.0mmで,米国では小児用として出されているタイプであるが,成人用に比して小径であることから設置が容易となっている.房水導出用のチューブが付属し材質はS3がポリプロピレン,FP8およびPC8がシリコーンである.PC8はFP8に硝子体腔挿入用のデバイスを備えたものとなっており,本体の形状は同一である.強膜プレート部に弁が内蔵され8mmHgの圧で開閉し,術後の過剰濾過を防止するとされている.一般的な手術手技を以下に示す.まず,2直筋に制御糸をかけ術野を確保し,上強膜を止血した後に4×4mmの強膜弁を作製した.いずれの症例も複数回の手術既往があるため上方結膜の瘢痕化が強い場合は耳下側を利用した.製品の個体差があるためチューブ側から眼灌流液を通水して開通の有無を確認した後に,本体を強膜に固定した.前房留置例ではチューブを強膜フラップ下で角膜輪部から挿入し,角膜内皮に接触しない範囲で前房に2mm程度出るように留置した.硝子体腔留置では経毛様体扁平部挿入用のプレートを強膜フラップ下に固定して,チューブは角膜輪部から3.5.4.0mmの位置で23ゲージ針で強膜を刺入し,硝子体腔に挿入留置した.強膜への縫合は7-0シルク糸を用いた.その後に強膜弁と結膜を10-0ナイロン糸で縫合した.II結果術後平均眼圧の推移を図2に示す.術前41.0±9.2mmHgであったものが,術後1週で12.3±4.9mmHgまで低下し,12カ月後には19.4±8.0mmHgとなった.チューブ挿入部位別の眼圧推移を図3に示す.平均値は硝子体腔に挿入した群が最終観察時にはやや高値であったが,いずれの時点にお表1対象症例全体前房内硝子体腔眼数13例15眼5例5眼8例10眼年齢(歳)50.7±23.548.5±26.855.5±15.8性別(男性/女性)8/73/25/5病型(眼)血管新生緑内障716その他の続発緑内障532発達緑内障202原発開放隅角緑内障110術前眼圧(mmHg)41.0±9.243.5±9.136.0±6.5手術既往数(回)3.433.6図1Ahmedglaucomavalve(NewWorldMedical,Inc.の説明書より引用)経過観察期間眼圧(mmHg)1015202530354045術前1週1カ月3カ月6カ月12カ月図2眼圧経過051015202530354045経過観察期間:前房留置:硝子体腔留置眼圧(mmHg)術前1週1カ月3カ月6カ月12カ月図3チューブ留置部位別の眼圧経過いずれの時点でも両群間に有意差は認めなかった.(113)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010973いても術前と比較して眼圧は有意に低下しており,両群間には有意差はなかった.視力の推移を図4に示す.視力改善が2眼,不変が4眼,悪化が7眼,測定不能が2眼となった.悪化した症例のうち3眼は術後に光覚を失った.角膜内皮細胞(表2)は測定可能であったものが術前9眼,術後8眼であり,硝子体腔留置の1眼で術後測定が不可能であった.平均細胞密度は術前1,959±718個/mm2から術後1,441±719個/mm2へと減少した.最終観察時におけるチューブ挿入部位別の角膜内皮細胞数は前房内に挿入した場合826±305個/mm2で,硝子体腔に挿入した場合は2,055±329個/mm2であり,内皮細胞減少率は前房内留置例で大きくなる結果となった.しかし,手術前後で角膜内皮の測定が可能であった8眼で検討すると術前細胞数は硝子体留置群が有意に多く(p=0.018t検定),角膜内皮減少率に有意差はなかった(p=0.210t検定).全症例の生命表法による生存曲線を図5に示す.1年生存率は26.7%であった.Ahmedglaucomavalve挿入後の追加手術(表3)はインプラント周囲癒着.離6眼(40.0%),インプラント摘出2眼(13.3%),線維柱帯切除術2眼(13.3%),毛様体冷凍凝固1眼(6.7%)であった.また,術後合併症はプレート露出2眼(13.3%),低眼圧2眼(13.3%)であった.プレート露出例のうち1眼はプレート抜去,1眼は結膜被覆を行った.低眼圧症例のうち1眼は6カ月後に眼圧上昇に転じ,1眼は糖尿病網膜症が増悪し眼球癆となった.III考察インプラント手術は海外では手術を重ねた難治性緑内障のみならず,原発開放隅角緑内障や原発閉塞隅角緑内障に対する初回手術でも広く用いられている5,6).しかし,わが国では厚生労働省から医療材料としての認可が下りておらず,使用に際しては各施設での倫理委員会の承認や十分なインフォームド・コンセント,ならびに医師の個人輸入が必要となるため,適応は濾過手術などでも眼圧コントロールが困難な難治性緑内障に限られるというのが現状である7).Ahmedglaucomavalveを用いた既報の手術成績をみると海外では多数の報告があり,1年生存率が70%から高いものでは90%以上という良好な成績となっている6,8,9).一方,わが国では高本ら,前田らが1年生存率44%2,3),木内らが眼圧21mmHg以下にコントロールされたのが40%4)と報告しており,海外からの報告とわが国からの成績には大きな開きがある.また,一般に難治性緑内障の代表格である血管新00.010.010.11.01.00.1術前視力術後視力□:視力改善○:不変△:視力悪化図4視力視力改善2眼,不変4眼,視力悪化7眼,測定不能2眼.0204060801000102030405060観察期間(週)累積生存率(%)図5生命表法1年生存率は26.7%であった.表3追加手術と合併症全体15眼前房内5眼硝子体腔10眼【追加手術】眼(%)インプラント周囲癒着.離6(40)3(60)3(30)インプラント摘出2(13.3)1(20)1(10)TLE追加施行2(13.3)1(10)1(10)毛様体冷凍凝固1(6.7)01(10)追加手術なし5(33.3)2(40)3(30)【合併症】プレート露出2(13.3)02(20)低眼圧2(13.3)02(20)TLE:線維柱帯切開術.表2角膜内皮細胞全体前房内硝子体腔術前(細胞数/測定眼)1,959±7189眼1,390±4344眼2,415±5535眼術後(細胞数/測定眼)1,441±7198眼826±3054眼2,055±3294眼観察期間(日)内皮減少率216.8±85.726.4%193.3±73.040.6%220.5±74.814.9%前房内留置例で内皮細胞減少率が大きくなった.974あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(114)生緑内障に対する線維柱帯切除術の成績はKiuchiらが1年生存率67.0%10),馬場が76.7%11)と報告している.今回の検討では術後12カ月で平均眼圧が20mmHg以下にコントロールされている点では評価に値するが,1年生存率は26.7%と諸報告に比してさらに低い値であった.しかしながら,わが国でAhmedglaucomavalveの適応となる緑内障には複数回の線維柱帯切除術が行われた症例が多く,今回も平均3.4回の緑内障手術もしくは硝子体手術の既往があることを勘案すると,ある程度の成績低下はやむをえないと考えられた.また,手術をくり返した緑内障眼では上方結膜の瘢痕化が強く,上方あるいは下方を利用しても濾過手術では成績低下が予想される.しかし,Ahmedglaucomavalveでは強膜プレート設置部位は上方,下方を問わず同等の眼圧下降作用が期待できるとされ12),難症例では大きな利点となる.生存率曲線で死亡に至った条件の内訳をみると,眼圧5mmHg以下または22mmHg以上が3眼,緑内障再手術が7眼,視機能喪失が1眼と緑内障再手術例が最も多かった.さらに,再手術例7眼のうち6眼はインプラント周囲の癒着.離を行った症例であった.癒着は強膜に固定したインプラント本体周囲に被膜状に厚い増殖組織が形成されるもので,それにより周囲への房水拡散が妨げられる.多くの症例では被膜を切開すると房水が噴出するほど内圧が上がっており強固な増生であることがわかるが,これを丹念に除去することでインプラント機能を再建することができる.症例の多くは複数回の癒着.離をくり返していた.当院では増殖組織形成が強い症例ではインプラント本体周囲へのmitomycinC(MMC)塗布を試みている.しかし,インプラント挿入に際してMMCの塗布を行うと,かえって成績が不良になるとの報告もあり13),今後の治療に苦慮するところである.視力は改善と不変合わせて6眼(40.0%)に対して悪化7眼(46.7%)であり,そのうち3眼は光覚を失った.内訳は,角膜内皮障害によりインプラントを抜去し眼圧コントロール不良となったものが1眼,糖尿病網膜症が進行し広範囲の牽引性.離に至ったものが1眼,視神経萎縮が進行したものが1眼であった.難症例を対象としているため,視力の推移も厳しい結果となった.インプラントチューブの挿入先としては前房内留置と硝子体腔留置があり,硝子体腔留置は前房内留置に比して角膜内皮減少が少なく眼圧コントロール率も上回るという報告がある14).今回の検討では両者の平均眼圧に有意差はなかったが,角膜内皮は両群とも減少するものの硝子体腔留置例に比して前房内留置例では減少率が大きくなる結果となった.前房内留置例では内皮障害によりインプラント抜去に至った症例もあり,インプラント手術では常に角膜障害の懸念が拭えない.硝子体腔留置には硝子体切除術が必要であり,術後の網膜.離や脈絡膜.離,硝子体出血といった合併症があげられているが,今回は硝子体手術に起因する合併症の発生はみられなかった.症例数が少ないことも影響し角膜内皮減少率に統計学的有意差は出なかったが,内皮減少をより抑制できる可能性のある硝子体腔留置を積極的に行うことが望ましいと考えられた.Ahmedglaucomavalveは異物を挿入するがゆえに周囲の癒着.離を高頻度に必要とする,角膜内皮細胞を障害するといった問題点も残るが,難治性緑内障に対する有効な手術療法となる可能性があり,今後の臨床応用の広がりが期待される.文献1)RollettM,MoreauM:Traitementdelehypopyonparledrainagecapillairedechamberanterieure.RevGenOphthalmol35:481,19062)高本紀子,林康司,前田利根ほか:AhmedGlaucomaValveの手術成績.あたらしい眼科17:281-285,20003)前田利根,井上洋一:AhmedGlaucomaValveImplantを中心に─第2世代緑内障インプラント─.眼科手術14:327-332,20014)木内良明,長谷川利英,原田純ほか:Ahmedglaucomavalveを挿入した難治性緑内障の術後経過.臨眼59:433-436,20055)WilsonMR,MendisU,SmithSDetal:Ahmedglaucomavalveimplantvstrabeculectomyinthesurgicaltreatmentofglaucoma:arandomizedclinicaltrial.AmJOphthalmol130:267-273,20006)WilsonMR,MendisU,PaliwalAetal:Long-termfollowupofprimaryglaucomasurgerywithAhmedglaucomavalveimplantversustrabeculectomy.AmJOphthalmol136:464-470,20037)井上立州:インプラント手術.眼科手術21:173-178,20088)PapadakiTG,ZacharopoulosIP,PasqualeLRetal:LongtermresultsofAhmedglaucomavalveimplantationforuveiticglaucoma.AmJOphthalmol144:62-69,20079)SouzaC,TranDH,LomanJetal:Long-termoutcomesofAhmedglaucomavalveimplantationinrefractoryglaucomas.AmJOphthalmol144:893-900,200710)KiuchiY,SugimotoR,NakaeKetal:TrabeculectomywithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.Ophthalmologica220:383-388,200611)馬場哲也:濾過手術.眼科49:1683-1690,200712)PakravanM,YazdaniS,ShahabiCetal:SuperiorversusinferiorAhmedglaucomavalveimplantation.Ophthalmology116:208-213,200913)Al-MobarakF,KhanAO:Two-yearsurvivalofAhmedvalveimplantationinthefirst2yearsoflifewithandwithoutintraoperativemitomycin-C.Ophthalmology116:1862-1865,200914)足立初冬,高橋宏和,庄司拓平ほか:経毛様体扁平部挿入型インプラントで治療した難治緑内障.日眼会誌112:511-518,2008