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急性視力低下を示した神経サルコイドーシスの1例

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(131)703《原著》あたらしい眼科27(5):703.706,2010cはじめに神経サルコイドーシスはサルコイドーシスの約5%にみられる中枢神経疾患であり,脳神経障害では顔面神経麻痺が代表的である1.4).サルコイドーシスにおける視神経障害としては視神経乳頭の結節型腫脹が知られているが,視交叉病変も神経サルコイドーシスの約10%を占め,好発部位にあげられる5).今回筆者らは片眼の急性視力低下で発症し,MRI(磁気共鳴画像)において視交叉部圧迫病変を示した神経サルコイドーシスの1例を経験したので報告する.I症例患者:21歳,男性.主訴:左眼視力低下.全身既往歴・家族歴:特になし.〔別刷請求先〕松尾祥代:〒080-0016帯広市西6条南8丁目1JA北海道厚生連帯広厚生病院眼科Reprintrequests:SachiyoMatsuo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ObihiroKouseiHospital,1West6South8ObihiroCity080-0016,JAPAN急性視力低下を示した神経サルコイドーシスの1例松尾祥代*1橋本雅人*2小原裕一郎*2大黒浩*2保月隆良*3木村早百合*4*1JA北海道厚生連帯広厚生病院眼科*2札幌医科大学眼科学講座*3札幌医科大学神経内科学講座*4西岡眼科クリニックACaseofNeurosarcoidosiswithAcuteVisualLossSachiyoMatsuo1),MasatoHashimoto2),YuichiroObara2),HiroshiOhguro2),TakayoshiHozuki3)andSayuriKimura4)1)DepartmentofOphthalmology,ObihiroKouseiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofNeurologiccalInternalMedicine,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,4)NishiokaEyeClinic急性視力低下を示した神経サルコイドーシスの1例を経験した.症例は21歳,男性.視野検査では部分的両耳側半盲を示したため,視交叉病変を疑いMRI(磁気共鳴画像)施行した.造影MRIでは,大脳鎌より前頭蓋底にかけて硬膜に沿って広がる造影効果を有する腫瘍陰影を認め,さらに薄いスライスFIESTA(FastImagingEmployingSteady-stateAcquisition)では腫瘤が視交叉を圧迫している所見がみられた.脳外科的に部分的腫瘍摘出術が施行され,迅速病理診断では結核が疑われたが,永久病理所見およびガリウムシンチグラフィーなどの全身検索の結果,サルコイドーシスと診断された.本症例はMRI所見および迅速病理所見から,脳内結核腫や結核性髄膜炎の際にみられるoptochiasmaticarachnoiditis類似の臨床像を呈したため,サルコイドーシスとの鑑別が困難であった.また,本症例における視力低下の原因は,臨床経過および画像所見より肉芽腫による視交叉への直接圧迫が原因と考えられた.Wedescribeacasewithneurosarcoidosispresentingasacutevisualloss.Thepatient,a21-year-oldmale,hadacutepartialbitemporalhemianopiasuggestingchiasmallesion.Post-contrastmagneticresonanceimaging(MRI)oftheheadshowedanenhancedmassextendingfromthefalxcerebrialongtheduraofthefrontalskullbase.Moreover,thin-sliceMRIofthechiasmwithFIESTA(FastImagingEmployingSteady-stateAcquisition)showedthatthemassdirectlycompressedthepre-chiasmfromtheanteromedialside.Althoughtuberculosiswassuspectedonthebasisofquickpathologicalfindingsafterpartialresectionofthetumor,sarcoidosiswasfinallydiagnosedonthebasisofpathologicalandsystemicfindings,suchasfromgalliumscintigraphy.Inthiscaseitwasverydifficulttodistinguishsarcoidosisfromtuberculosis,becausetheclinicalmanifestationissimilartooptochiasmaticarachnoiditis,whichissometimesseeninpatientswithcranialtuberculumortuberculousmeningitis.Theseclinicalandneurologicalfindingssuggestthatthevisuallossinthiscasemayhavebeencausedbydirectcompressiontothechiasm,ratherthanbyinflammationfromsarcoidosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):703.706,2010〕Keywords:神経サルコイドーシス,FIESTA法,視交叉病変,結核.neurosarcoidosis,FIESTA,optochiasmaticarachnoiditis,tuberculosis.704あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(132)現病歴:平成19年3月中旬ごろより頭痛が出現し,その後左眼の見え方の異常に気付いた.近医眼科を受診し,精査目的のために4月初旬札幌医科大学附属病院(以下,当院)眼科紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.06(1.0×.4.5D(cyl.2.5DAx180°),左眼0.03(0.09×.5.0D)であった.眼圧は右眼17mmHg,左眼16mmHgであり,前眼部,中間透光体,眼底は特に異常を認めなかった.また,左眼に相対的求心性瞳孔異常(RAPD)がみられた.初診時に行った静的量的視野検査では左眼上方に垂直子午線に沿った耳側欠損を有する中心暗点を,右眼はわずかではあるが,上耳側欠損がみられ(図1),視交叉病変を疑った.4月16日のMRI検査では造影T1強調画像において大脳鎌から前頭蓋底にかけて硬膜に沿うように伸展する実質外腫瘍陰影がみられた(図2).また,造影FIESTA(FastImagingEmployingSteady-stateAcquisition)水平断(0.4mm厚)ではchiasmaticcisternに存在する腫瘤が両視交叉前部を内側から圧排している所見がみられた(図3).以上の臨床所見より視力低下の原因は前頭蓋底腫瘤によることが示唆され,平成19年5月当院脳神経外科にて部分的腫瘍摘出術が施行された.術中迅速病理では,肉芽腫の中に乾酪壊死層様所見があり,結節が少ないことより結核が示唆された(図4).しかし永久標本では多数の小結節と,ところどころにラングハンス(Langhans)巨細胞を認め,ラングハンス巨細胞内にはカルシウムの沈着物であるasteroidbodyが確認された(図5).さらに結核菌が赤く染色されるZiel-Neelsen染色にても染色されなかったことより,病理学的には結核が否定され,サルコイドーシスが疑われた.全身検索では,ツベルクリン反応テストは陰性,胸部X線にて肺門部リンパ節腫脹を認め,ガリウムシンチグラフィーでも肺門部に集積像を認めた.しかし,アンギオテ左眼右眼図1静的量的視野検査(初診時)左眼は上方に垂直子午線に沿った耳側欠損を有する中心暗点を,右眼はわずかではあるが,上耳側欠損がみられる(矢印).冠状断矢状断図2造影MRIT1強調画像大脳鎌から前頭蓋底にかけて硬膜に沿うように伸展する実質外腫瘍陰影を認める.(133)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010705ンシン変換酵素(ACE),リゾチームは正常であった.最終的には経気管支的生検にてサルコイドーシスと診断された.経過:脳神経外科による頭蓋内腫瘍部分摘出後,視力は右眼(1.25×.4.5D(cyl.2.5DAx180°),左眼(1.0×.5.0D)と改善し,視野検査においても初診時にみられた左眼の中心暗点および,右眼上耳側欠損ともに改善された(図6).腫瘍摘出後,ステロイドパルス療法および漸減により外来にて経過観察中であるが,現時点では頭蓋内病変の拡大などは認めず,経過は良好である.II考按本症例は,MRI画像所見より,視交叉前部から前頭蓋底にかけて硬膜に沿って伸びる腫瘍性病変を示し,迅速病理所見から結核が疑われたことから,当初optochiasmatic図3造影FIESTA法水平断(0.4mm厚)Chiasmaticcisternに存在する腫瘤が両視交叉前部を内側から圧排している(丸印).図4迅速病理所見(HE染色,×40倍)乾酪壊死様所見を認め(丸印),結節が少ない.100μm50μm図5永久標本(HE染色,×100倍)ラングハンス巨細胞内にasteroidbody(Caの沈着物)(丸印)を認める.図6静的量的視野検査(頭蓋内腫瘍摘出術後)両眼ともに初診時(図1)に認めた視野欠損は改善した.左眼右眼706あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(134)arachnoiditisのような病態を考えた.Optochiasmaticarachnoiditisは1947年にFeldらが提唱した疾患概念であり6),結核性髄膜炎や脳内結核腫の際にみられることがあるくも膜の炎症性肥厚である.最近ではこのような病態をoptochiasmaticarachnoiditisという用語は使わず,慢性肥厚性脳硬膜炎(chronichypertropicpachymeningitis)という範疇で捉えるのが一般的となっている.神経サルコイドーシスによる視神経障害は,視神経乳頭上の結節型腫脹や後部ぶどう膜炎波及による乳頭発赤腫脹のほかに視交叉病変があげられる7.9).神経サルコイドーシスは頭蓋底の髄膜に好発するため,視交叉への直接浸潤や炎症性波及が生じやすい.したがって視交叉部視神経炎や,視神経由来の腫瘍など,MRI上視交叉部の腫大を示す疾患との鑑別が重要である.これまでに報告されている神経サルコイドーシスによる視交叉障害例では,ステロイド治療によって視力が回復した症例がほとんどである.また,Aszkanazy10)は,剖検例において神経サルコイドーシスによる肉芽腫の視交叉への浸潤を報告している.しかしながら本症例においては,ステロイド療法前の腫瘍摘出後に視野が改善していることから,視交叉への炎症波及や浸潤は考えにくく,むしろ肉芽腫による視交叉への直接圧迫が視力障害の原因と考えられた.今回筆者らは,MR脳槽撮影(MRcisternography)の一つであり,優れたコントラスト,高分解能を有するFIESTAを用いて視交叉部の圧迫所見を捉えることが可能であった.FIESTAは,0.4mm厚という薄いスライスでもノイズが少なく,脳槽内を走行する脳神経や血管が明瞭に描出できるため,近年広く臨床応用されている11,12).一般に,視交叉病変では下垂体腫瘍や内頸動脈瘤など,視交叉を下から圧迫し上方へ偏位させる病変が大部分であるため,冠状断撮影が最も有用な撮影角度である.しかしながら,本症例のように視交叉の前方から圧迫する病変を描出するには冠状断の撮影角度では困難であり,FIESTAを用いた薄いスライス厚での水平断撮影がきわめて有用と思われた.本症例は,最終的には永久病理所見および全身ガリウムシンチグラフィーによる肺所見からサルコイドーシスの確定診断に至ったが,結核との鑑別に苦慮した症例であった.診断結果次第によっては,当然のことながら治療方針は異なり,感染などの治療管理の慎重性も考慮しなければならないため,確定診断には細心の注意を払って行うことが重要であることを再認識した.文献1)SternBJ,KrumholzA,JohnsCetal:Sarcoidosisanditsneurologicalmanifestation.ArchNeurol42:909-917,19852)DelaneyP:Neurologicmanifestationsofsarcoidosis:reviewoftheliterature,withareportof23cases.AnnInternMed87:336-346,19773)DuboisPJ,BeeardsleyT,KlomtworthGetal:Computedtomographyofsarcoidosisoftheopticnerve.AmJNeuroradiology24:179-182,19834)RickerW,ClarkM:Sarcoidosis:Aclinicopathologicalreviewofthreehundredcases,includingtwenty-twoautopsies.AmJClinPathol19:725-749,19495)ReisW,RotbfeldJ:TuberkulidedesSehnervenalsKomplikationvonHautsarkoidenvomTypusDarier-Roussy.GrafesArchClinExpOphthalmol126:24,19316)FeldR,SicardJ:Surdeuxcasdetuberculeduchiasrma.RevNeurol79:664-666,19477)IngestadR,StigmarG:Sarcoidosiswithocularandhypothalamic-pituitarymanifestation.Auniquetherapeuticresponsetoinfliximab.ActaOphthalmol49:1-10,19718)BeardsleyTL,BrownSV,SydnorCFetal:Elevencasesofsarcoidosisofopticnerve.AmJOphthalmol97:62-77,19849)KatzJM,BrunoMK,WinterkornJMetal:Thepathogenesisandtreatmentofopticdiscswellinginneurosarcoidosis.ArchNeurol60:426-430,200310)AszkanazyCL:Sarcoidosisofthecentralnervoussystem.JNeuropatholExpNeurol11:392-400,195211)金沢勉,岩崎友也,笠原哲郎ほか:3D-CISS法による外転神経同定方法の撮像手技の検討.日本放射線学会雑誌59:958-964,200312)奥村悠祐,鈴木正行,武村哲浩ほか:3D-FIESTAによる下位脳神経の描出.日本放射線学会雑誌61:291-297,2004***