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マウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)6710910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):671674,2009cはじめにアレルギー性結膜炎は,眼部の掻痒感,充血,結膜浮腫および上眼瞼結膜乳頭を主徴とする眼瞼結膜のⅠ型アレルギー性疾患である1).特に,掻痒感は患者の自覚症状として現れ,qualityoflife(QOL)を低下させる要因となっている.ヒスタミンは掻痒感を誘発させる因子として最も強力な関与があるとされている2,3).しかし,抗ヒスタミン薬だけではアレルギー性結膜炎の症状を完全には抑制しない例も報告46)されており,ヒスタミン以外のメディエーターの関与が示唆されている.そこで,BALB/c系雌性マウスを用いて,卵白アルブミン(OVA)を抗原として全身感作した後,眼部にOVAを直接点眼投与する局所感作を連続的に行うことにより,マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.さらに,この実験モデルを用いて,ヒスタミン以外の脂質メディエーターのアレルギー性結膜炎に対する関与を明らかにする目的で,〔別刷請求先〕亀井千晃:〒700-8530岡山市津島中1-1-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室Reprintrequests:ChiakiKamei,Ph.D.,DepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,1-1-1Tsushima-Naka,Okayama700-8530,JAPANマウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果西藤俊輔杉本幸雄亀井千晃岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室EectsofLipidMediator-AssociatedCompoundsonAllergicConjunctivitisinMiceShunsukeSaito,YukioSugimotoandChiakiKameiDepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences本研究では,アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果について検討した.まず,マウスにくり返し抗原(卵白アルブミン)を点眼投与することにより眼部引っ掻き行動の増加およびアレルギー症状が認められるアレルギー性結膜炎モデルを作製した.作製したモデルを用いて,H1受容体拮抗薬であるセチリジン,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.その結果,セチリジンおよびエトドラクの投与により,抗原誘発眼部引っ掻き行動が有意に抑制された.また,セチリジンおよびAA-861の投与により,抗原誘発アレルギー症状が有意に抑制された.以上の成績から,アレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効であることが示唆された.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheeectsoflipidmediator-associatedcompoundsonallergicconjunctivitisinmice.Repeatedtopicalapplicationofantigen(ovalbumin)causedincreaseineye-scratchingbehav-iorandallergicsymptoms,suchashyperemiaandedema,insensitizedanimals.Cetirizine(H1receptorantagonist)andetodolac(selectivecyclooxygenase(COX)-2inhibitor)causedinhibitionofeye-scratchingbehaviorinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.Inaddition,cetirizineandAA-861(5-lipoxygenaseinhibitor)causedinhibitionofallergicsymptomsinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.TheseresultsindicatethatH1receptorantagonistandselectiveCOX-2inhibitorareusefulforinhibitingitching,whereasH1receptorantagonistand5-lipoxygenazeinhibitorareusefulforinhibitingallergicsymptomsofallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):671674,2009〕Keywords:アレルギー性結膜炎,痒,H1受容体拮抗薬,COX-2選択的阻害薬,5-リポキシゲナーゼ阻害薬.allergicconjunctivitis,itching,H1receptorantagonist,selectiveCOX-2inhibitor,5-lipoxygenazeinhibitor.———————————————————————-Page2672あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(92)シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.I実験方法1.マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製BALB/c系雌性マウスを以下に示す方法により感作した.OVA(Sigma)1μgおよび水酸化アルミニウムゲル(LSL)100μgを生理食塩液0.2mlに懸濁し初回感作から0,5,14および21日目に腹腔内投与することにより全身感作を行った.さらに初回感作から28日目以降,局所感作として1週間に3回OVA(100mg/ml)を両眼にマイクロピペットで2μlずつ点眼した.2.眼部引っ掻き行動の測定マウスを観察用ケージ(幅31cm,奥行18cm,高さ25cm)に入れ,10分間環境に馴化させた後,OVAまたはヒスタミンを両眼にマイクロピペットで2μl/site点眼した際に誘発される後肢による眼部引っ掻き行動の回数を30分間計測することにより行った.3.アレルギー症状のスコア化発赤もしくは浮腫の症状をそれぞれ以下のスコアで判定し,浮腫と発赤のtotalscoreをアレルギー症状の指標とした.両眼で症状が異なる場合はより重症度の高いものを指標として用いた.0=無症状1=軽度の発赤または浮腫2=中等度の発赤または浮腫3=重度の発赤または浮腫4.Passivecutaneousanaphylaxis(PCA)抗体価の測定法感作したマウスの腹部大静脈から採取した血液を遠心分離して得られた血清成分を20℃で凍結保存した.血清は,未感作および初回感作から140日目のものを使用した.PCA反応は血清を2倍希釈系列とし,ラットの背部に0.1mlずつ皮内注射した.48時間後,1%Evansblue溶液とOVA5mg/ml溶液を等量混合した溶液を2ml/kgになるようにラットの尾静脈内に注射した.30分後,エーテルにより致死させ,背部皮膚を剥離し,色素斑の直径が5mm以上の場合を陽性と判定した.5.各種薬物の投与作製したモデルを用いて5%アラビアゴムに懸濁したセチリジン,エトドラクおよびAA-861を経口投与し,1時間後にOVA(100mg/ml)を2μl/site点眼投与した.6.統計処理実験データはすべて平均値±標準誤差で示した.統計学的検討は,眼部引っ掻き行動では2群間の比較にStudentのt検定を,多群間の比較にはDunnett法を用いた.アレルギー症状はMann-WhitneyUtest法およびKruskal-Wallis法を用い,危険率5%未満の場合を有意差ありと判定した.II実験成績1.マウスのOVA誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化感作したマウスにOVAを点眼した際に誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化を図1に示した.局所感作を行うことにより感作35日目以降対照群と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が誘発された(図1a).感作42日目以降は,対照群と比較して有意なアレルギー症状が誘発された(図1b).2.感作マウスにおけるPCA抗体価の測定未感作および感作したマウスにおける,血中の卵白アルブミンに対する特異的IgE(免疫グロブリンE)抗体価を,PCA反応により測定した結果を図2に示した.感作マウスではPCA抗体価は128512倍まで上昇しており,抗原特異的抗体価が上昇していることが確認された.一方,未感作マウスでは抗体価の上昇はみられなかった.(a)(b)感作後日数感作後日数705642281269811284847056422898112126123045スコア030252015105眼部引っ掻き行動(回数/30分)***********************************************図1抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の変化a:眼部引っ掻き行動,b:アレルギー症状.○:Saline,●:OVA.*:p<0.05,**:p<0.01,n=10.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009673(93)3.ヒスタミンおよびOVAの感受性の変化初回感作から0,28,56および84日目のマウスを用いてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動を測定した結果を表1に示した.初回感作から56日目および84日目においてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動は,用量依存的に増加し,ヒスタミン500nmol/siteおよびOVA200μg/siteの用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.初回感作から84日目においてOVA20μg/site以上の用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.4.抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果感作84日目のマウスを用いて,抗原の点眼により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対するセチリジン,エトドラクおよびAA-861の効果を表2に示した.セチリジンは,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状を用量依存的に抑制し,いずれの症状に対しても10mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.エトドラクも,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.アレルギー症状に対してはいずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.AA-861は,抗原により誘発されるアレルギー症状を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.眼部引っ掻き行動に対しては,いずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.III考察マウスの鼻炎モデル7)を参考にして,抗原の全身感作および局所感作によるアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.全身感作の後,両眼に抗原投与を行うことにより,有意な眼部引っ掻き行動の増加が観察された.発赤および浮腫のアレルギー症状も同様に観察された.作製したモデルの表1感作によるヒスタミンおよび卵白アルブミン(OVA)の感受性の変化感作後日数薬物0日28日56日84日ヒスタミンコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.6±0.45nmol/site3.2±1.14.8±1.25.2±1.77.1±1.650nmol/site4.7±1.15.8±1.36.9±1.312.6±2.6500nmol/site6.1±1.29.1±2.712.5±2.7**17.2±2.3**OVAコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.3±0.22μg/site3.2±1.12.6±1.34.4±1.27.4±1.620μg/site4.7±1.14.8±1.18.8±2.018.8±3.0*200μg/site6.2±1.212.9±2.916.5±3.0**20.5±3.5***:p<0.05,**:p<0.01,n=10.表2抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果薬物引っ掻き行動スコアセチリジン(p.o.)コントロール24.4±2.54.0±0.51mg/kg20.0±2.83.1±0.53mg/kg19.2±2.32.9±0.610mg/kg15.7±1.9*1.9±0.4*エトドラク(p.o.)コントロール24.4±2.93.6±0.410mg/kg19.9±3.13.2±0.430mg/kg18.1±2.13.4±0.5100mg/kg14.9±2.6*2.8±0.5AA-861(p.o.)コントロール22.7±3.33.6±0.410mg/kg20.3±2.52.6±0.430mg/kg22.6±2.62.6±0.6100mg/kg21.7±2.41.8±0.4**:p<0.05,n=14.図2感作によるPCA抗体価の変化PCA抗体価未感作マウス感作マウス1,0245122561286432168421<1———————————————————————-Page4674あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(94)PCA抗体価を測定した結果,抗原特異的IgE抗体価は著明に上昇していることが確認された.感作後のOVAおよびヒスタミン感受性の変化を検討した結果,感作によりOVAおよびヒスタミンに対する感受性が有意に亢進していることが明らかとなった.ヒトにおいてもアレルギーの発症により,抗原のみならずヒスタミンに対する過敏症が出現することが報告されており8,9),本モデルは臨床症状とも一致する病態を発現していることが明らかとなった.アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果を検討する目的でCOX-2選択的阻害薬であるエトドラクと5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861を使用し,H1受容体拮抗薬であるセチリジンの効果と比較検討した.その結果,セチリジンの投与により抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状はいずれも有意に抑制された.エトドラクは抗原誘発眼部引っ掻き行動を有意に抑制したが,アレルギー症状を抑制しなかった.AA-861は抗原誘発眼部引っ掻き行動を抑制しなかったが,アレルギー症状を有意に抑制した.プロスタグランジンE2およびD2は,モルモットに点眼することにより痒みを誘発することが報告されており3,10),ロイコトリエンC4,D4およびE4は,アレルギー症状の原因となる血管透過性を亢進することが知られている11).これらの知見は,マウスのアレルギー性結膜炎モデルでの本実験成績を支持するものである.以上の成績から,臨床においてアレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬が,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆された.文献1)山口昌彦,大橋裕一:抗ヒスタミン作用のない抗アレルギー薬─アレルギー性結膜炎─.綜合臨床46:680-684,19972)ProudD,SweetJ,SteinPetal:Inammatorymediatorreleaseonconjunctivalprovocationofallergicsubjectswithallergen.JAllergyClinImmunol85:896-905,19903)WoodwardDF,NievesAL,SpadaCSetal:Characteriza-tionofabehavioralmodelforperipherallyevokeditchsuggestsplatelet-activatingfactorasapotentpruritogen.JPharmacolExpTher272:758-765,19954)HowarthP:Antihistaminesinrhinoconjunctivitis.ClinAllergyImmunol17:179-220,20025)KameiC,IzushiK,NakamuraS:Eectsofcertainantial-lergicdrugsonexperimentalconjunctivitisinguineapigs.BiolPharmBull18:1518-1521,19956)FukushimaY,NabeT,MizutaniNetal:Multiplecedarpollenchallengediminishesinvolvementofhistamineinallergicconjunctivitisofguineapigs.BiolPharmBull26:1696-1700,20037)渡辺雅子,朝倉光司,斎藤博子ほか:鼻アレルギーマウスモデル作成の試み.アレルギー45:1127-1132,19968)浜口富美:鼻アレルギー発症の機構に関する研究.日耳鼻88:492-501,19849)CiprandiG,BuscagliaS,PesceGPetal:Ocularchallengeandhyperresponsivenesstohistamineinpatientswithallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol91:1227-1230,199310)WoodwardDF,NievesAL,FriedlaenderMH:Character-izationofreceptorsubtypesinvolvedinprostanoid-inducedconjunctivalpruritusandtheirroleinmediatingallergicconjunctivalitching.JPharmacolExpTher279:137-142,199611)GaryRKJr,WoodwardDF,NievesALetal:Character-izationoftheconjunctivalvasopermeabilityresponsetoleukotrienesandtheirinvolvementinimmediatehyper-sensitivity.InvestOphthalmolVisSci29:119-126,1988***