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遺伝性白内障ICR/f ラット水晶体への過酸化水素処理による脂質過酸化とCa2+-ATPase 活性の関連性

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(71)527《第49回日本白内障学会原著》あたらしい眼科28(4):527.530,2011cはじめに一般に白内障はその混濁過程が比較的長期であり,種々の発症危険因子,たとえば,水晶体上皮細胞から線維細胞への分化過程での障害,加齢,喫煙,糖尿病,外傷,マッサージ,電撃,ガラス加工時の熱,超音波,薬物,栄養障害,さらに紫外線などによる放射エネルギーの関与が報告されている1~3).近年,白内障のなかで最も発症頻度の高い加齢白内障の成因として,太陽光中に含まれる紫外線などによる水晶体細胞への酸化ストレス〔活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)など〕が注目されている.この機構として,酸化的傷害により水晶体上皮細胞,特に細胞膜が傷害を受け細胞内恒常性が破綻をきたし電解質バランスなどが崩れ,上昇した細胞内カルシウムイオン(Ca2+)がCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインを活性化し,最終的にクリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体混濁がひき起こされるという仮説が提唱されている1).これら酸化ストレスに関わる代表的なROSは,スーパーオキシド(O2・),過酸化水素(H2O2),ヒドロキシラジカル(・OH),一酸化窒素(NO)などがあげられ,いずれも蛋白質や核酸からROSと反応しやすい脂質の水素を引き抜くことで連鎖的脂質過酸化反応をひき起こし,〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN遺伝性白内障ICR/fラット水晶体への過酸化水素処理による脂質過酸化とCa2+-ATPase活性の関連性長井紀章*1村尾卓俊*1小仲陽子*1伊藤吉將*1,2竹内典子*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3名城大学薬学部生理学研究室RelationshipbetweenLipidPeroxidationandCa2+-ATPaseActivityinICR/fRatLensesStimulatedbyHydrogenPeroxideNoriakiNagai1),TakatoshiMurao1),YokoKonaka1),YoshimasaIto1,2)andNorikoTakeuchi3)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceuticalResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity,3)SectionofBiochemistry,FacultyofPharmacy,MeijoUniversity本研究では,正常およびIharacataractrat(ICR/fラット)水晶体を用い,白内障発症要因の一種である過酸化水素(H2O2)処理が水晶体中過酸化脂質(LPO)産生やCa2+-ATPase活性へ与える影響について比較検討を行った.正常およびICR/fラットともにH2O2処理によりLPOの上昇が認められ,ICR/fラットでは正常ラットと比較し,低濃度のH2O2処理でLPO産生量増加が確認された.また正常およびICR/fラットともに,LPO値が6.7pmol/mgproteinに達した際に急速なCa2+-ATPase活性低下が認められた.以上の結果から,ICR/fラットは正常ラットと比較し,水晶体でのH2O2に対する防御能が脆弱であることが明らかとなった.ThisstudyevaluatedtherelationshipbetweenlipidperoxidationandCa2+-ATPaseactivityinthelensesofnormalratsandIharacataractrats(ICR/frat:arecessivehereditarycataractstrain),followingstimulationbyhydrogenperoxide(H2O2).Lipidperoxide(LPO)levelsinnormalandICR/fratlenseswereincreasedbytreatmentwithH2O2,andthelevelsintheLPOlensesbeingsignificantlyincreasedincomparisonwiththatinnormalratlenses.Inaddition,therapiddecreaseinCa2+-ATPaseactivitywasobservedbyproductionofhighLPO(6-7pmol/mgprotein)inthelensesofnormalandICR/frats.TheresultssuggestedthattheICR/fratlensesaremoresensitivitytoH2O2thanarenormalratlenses.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):527.530,2011〕Keywords:白内障,過酸化脂質,Ca2+-ATPase,ジエチルジチオカルバミン酸,ICR/fラット.cataract,lipidperoxide,Ca2+-ATPase,diethyldithiocarbamate,Iharacataractrat.528あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(72)この反応で多くの過酸化脂質(LPO)を生ずる.筆者らは,遺伝性白内障モデル動物Iharacataractrat(ICR/fラット)を用い,水晶体混濁前におけるROSによるLPOの増加を明らかとするとともに,水晶体でのLPO増加はICR/fラット白内障の主因であり,最終的に細胞内Ca2+の増加を介した水晶体混濁をひき起こすことを報告した4).したがって,ICR/fラット水晶体におけるROSによるLPOの増加と細胞内Ca2+の制御機構であるCa2+-ATPaseの関係を詳細にすることは白内障発症機構の解明および抗白内障薬開発を目指すうえで非常に重要と考えられる.本研究では,正常および遺伝性白内障モデル動物ICR/fラット水晶体を用い,ROSの一種であるH2O2処理による酸化ストレスが水晶体中LPO産生量やCa2+-ATPase活性へ与える影響について比較検討を行った.また,活性酸素捕捉能を有するラジカルスカベンジャーであるジエチルジチオカルバミン酸(DDC)の影響についても検討した.I対象および方法1.実験動物実験には22日齢の遺伝性白内障ICR/fラットとWistarラット(正常ラット)を用いた.ICR/fラットは名城大学薬学部生理学研究室から供与された.正常ラットは清水実験材料から購入した.すべてのラットは室温25℃,湿度60%に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.2.水晶体中過酸化脂質量の測定LPOの測定は,正常およびICR/fラットから摘出した水晶体を0.100mMH2O2含有生理食塩水に加え60分間処理後,氷中でホモジナイズし,遠心分離(5,800rpm,10min,4℃)を行い,その上清をLPO測定試料とした.LPO測定はLPOAssayKit(BIOXYTECHRLPO-586TM)を用いてマロンジアルデヒドおよび4-ヒドロキシアルケンを分析することにより測定した.DDC処理時には,摘出した水晶体をH2O2含有生理食塩水処理前に,100μMDDC含有生理食塩水にて15分間処理を行った.得られた結果は総蛋白質量当りの量として表した.総蛋白質量はBio-RadProteinAssayKit(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて測定した.3.水晶体中Ca2+-ATPase酵素活性の測定Ca2+-ATPase酵素活性の測定は,正常およびICR/fラットから摘出した水晶体を0.100mMH2O2含有生理食塩水に加え60分間処理後,氷中でホモジナイズし,このホモジネートをCa2+-ATPase酵素活性測定試料とした.Ca2+-ATPase酵素活性の測定法はWangらの方法5)に従った.すなわち,上記ホモジネートを125μlずつ2本に分け,一方には2MKCl25μl,1M4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonicacid(HEPES,pH7.4)25μl,100mMMgCl225μl,20mMEGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)25μl,4mMATP112.5μl,精製水12.5μlを加え,他方には2MKCl25μl,1MHEPES(pH7.4)25μl,100mMMgCl225μl,20mMEGTA25μl,4mMATP112.5μl,22mMCaCl212.5μlを加え,37℃で1時間インキュベーションした.酵素反応は25μlの氷冷50%トリクロロ酢酸を加えることにより停止させた.その後,遠心分離(5,000rpm,10min,4℃)し,上清200μlにモリブデン硫酸液(2.7mM七モリブデン酸六アンモニウム,205mM硫酸)600μl,Fiske-Subarow液(10.4mM1-アミノ-2-ナフトール-4-スルホン酸,1.4M亜硫酸水素ナトリウム,40.7mM亜硫酸ナトリウム)20μl加え,室温で10分間放置し,660nmにおける吸光度を分光光度計CL-770(島津製作所製)にて比色定量した.Ca2+-ATPase酵素活性は0.1mMCaCl2存在下または非存在下でのATP分解により放出される無機リン酸(Pi)量の差により算出した.DDC処理時には,摘出した水晶体をH2O2含有生理食塩水処理前に,100μMDDC含有生理食塩水にて15分間処理を行い,同様に酵素活性を測定した.得られた結果は総蛋白質量当りの量として表した.II結果1.H2O2処理によるICR/fラット水晶体中LPO産生量およびCa2+-ATPase活性の変化図1,2には正常(図1)とICR/fラット(図2)水晶体へのH2O2処理によるLPO産生量およびCa2+-ATPase活性の変化を示した.正常およびICR/fラットともにH2O2処理濃度の増加に従いLPO産生量の増加が認められ,そのLPO産生量の最大値は約9pmol/mgproteinであり,正常とICR/fラットでほぼ同じであった.一方,Ca2+-ATPase活性においては,正常およびICR/fラットともにH2O2処理濃度の増加に従いCa2+-ATPase活性の低下がみられた.これら正常とICR/fラット水晶体におけるCa2+-ATPase活性は,LPO産生量が6.7pmol/mgprotein付近で急速に低下した.また,LPO産生量の増加およびCa2+-ATPase活性の低下は,正常ラットでは60mMH2O2処理で認められたが,ICR/fラット水晶体ではより低濃度の20mMH2O2処理でみられた.2.ラジカルスカベンジャーDDC処理がH2O2処理誘発水晶体中LPO産生量およびCa2+-ATPase活性変化へ与える影響図3に100μMDDC前処理後30mMH2O2にて刺激した際の,正常およびICR/fラット水晶体中LPO産生量の変化を示した.正常およびICR/fラットともに,H2O2処理により増加した水晶体LPO産生量は,DDCを前処理することで有意に減少した.図4には100μMDDC前処理後30mM(73)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011529H2O2にて刺激した際の,正常およびICR/fラット水晶体中Ca2+-ATPase活性の変化を示した.水晶体中Ca2+-ATPase活性においても,DDCを前処理することでH2O2処理により低下した水晶体Ca2+-ATPase活性は,正常およびICR/fラットともにH2O2未処理水晶体と同程度まで回復した.III考按加齢白内障の成因とされる酸化ストレスはおもにROSによりひき起こされる1,4).このROSの一つであるH2O2はFe2+やハロゲンと反応して活性酸素のなかでも最も反応性が高く酸化力の強い・OHを生じ,・OHは脂質の水素を引き抜くことで連鎖的脂質過酸化反応を誘発し,大量のLPO産生に関わることが知られている6).筆者らはこれまで遺伝性白内障モデル動物ICR/fラットを用い,水晶体中での大量のLPO産生は細胞内Ca2+の増加をひき起こし,最終的に水晶体混濁につながることを明らかとしてきた4).そこで本研究では,正常およびICR/fラット水晶体を用いH2O2処理による酸化ストレスが水晶体中LPO産生量および細胞内Ca2+調節を担うCa2+-ATPase活性へ与える影響について比較検討を行った.以前に筆者らは前眼部画像解析装置EAS-1000を使い,動物を殺傷せずに水晶体混濁を測定した4).その結果22.63日齢のICR/fラット水晶体は透明性を維持しており,混濁は認められなかったが,77日齢では混濁開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.さらに,水晶体中Ca2+上昇および水晶体混濁の要因とされる,加齢に伴う水晶体中LPO量およびCa2+-ATPase活性についても,22.49日齢のICR/fラットでは変化が認められないことを確認した4).これらの結果から本研究では22日齢のICR/fラット水晶体(透明時の水晶体)を研究に使用した.2.52.01.51.00.50.01086420Lipidperoxide(pmol/mgprotein)Lipidperoxide(pmol/mgprotein)Normalrat*ControlDDC*ControlDDCICR/frat図3ジエチルジチオカルバミン酸(DDC)が過酸化水素(H2O2)処理による過酸化脂質(LPO)上昇へ与える影響Control:30mMH2O2処理,DDC:100μMDDCおよび30mMH2O2処理(n=3.4).*p<0.05vs.Control.121086420020406080100Lipidperoxide(pmol/mgprotein)H2O2concentration(mM)43210Ca2+-ATPaseactivity(μmol/mgprotein/hr)○:LPO●:Ca2+-ATPase図1過酸化水素(H2O2)処理による正常ラット水晶体中過酸化脂質(LPO)およびCa2+-ATPase活性の変化(n=3.4)121086420020406080100Lipidperoxide(pmol/mgprotein)H2O2concentration(mM)43210Ca2+-ATPaseactivity(μmol/mgprotein/hr)○:LPO●:Ca2+-ATPase図2過酸化水素(H2O2)処理によるICR/fラット水晶体中過酸化脂質(LPO)およびCa2+-ATPase活性の変化(n=3.4)43210Ca2+-ATPaseactivity(μmol/mgprotein/hr)43210Ca2+-ATPaseactivity(μmol/mgprotein/hr)*NormalratICR/fratControlDDC*ControlDDC図4ジエチルジチオカルバミン酸(DDC)が過酸化水素(H2O2)処理によるCa2+-ATPase活性低下へ与える影響Control:30mMH2O2処理,DDC:100μMDDCおよび30mMH2O2処理(n=3.4).*p<0.05vs.Control.530あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(74)H2O2を用いラット水晶体に酸化ストレスを施したところ,正常およびICR/fラットともにH2O2によるLPO産生量の増加が認められた(図1,2).これらH2O2によるLPO産生量の増加は,活性酸素捕捉能を有するDDC処理により抑制された(図3)ことから,H2O2処理による水晶体内LPO産生量の増加はラジカルを介した連鎖的脂質過酸化反応によるものであると示唆された.一方,正常ラットと比較しICR/fラット水晶体では低濃度のH2O2処理によるLPO産生量の増加がみられた.したがって,ICR/fラット水晶体では正常ラット水晶体と比較し,低濃度のH2O2処理においても連鎖的脂質過酸化反応が誘発されることが明らかとなった.したがって,ICR/fラットでは正常ラットと比較し,ROSに対する防御機構が脆弱であるものと示唆された.本結果において,正常およびICR/fラットともにH2O2処理濃度の増加に従い,Ca2+-ATPase活性の低下がみられた.このCa2+-ATPase活性の低下もまた,DDC処理により抑制された.筆者らの遺伝性白内障動物を用いた以前のinvivo実験の結果4,7)において,水晶体でのLPO産生量の増加に従い,Ca2+-ATPaseの構造変化を介したCa2+ポンプくみ出し機能の低下がみられることから,水晶体におけるROSによるLPOの増加はCa2+-ATPase活性の低下をひき起こすことが明らかとなった.さらに,正常ラット水晶体において,50と60mMおよび60と70mMH2O2処理群間におけるLPOの増加差はそれぞれ2.33,2.27pmol/mgproteinと同程度であったが,Ca2+-ATPase活性低下の差は0.49,1.57μmol/mgprotein/hrと60と70mMH2O2処理群間で急速な低下が認められた.ICR/fラット水晶体においても未処理群と20mMおよび20と30mMH2O2処理群間におけるLPOの増加差はそれぞれ2.87,2.24pmol/mgproteinであり,未処理群と20mMH2O2処理群間のLPO産生量差のほうが大きな増加が認められたが,Ca2+-ATPase活性低下は0.81,1.45μmol/mgprotein/hrと20と30mMH2O2処理群間で急速な低下が認められた.これら正常とICR/fラット水晶体におけるCa2+-ATPase活性の急速な低下は,ともにLPO産生量が6.7pmol/mgprotein付近に達した際に認められたことから,LPO増加に伴うCa2+-ATPase活性の低下には最低値が存在することが示唆された.筆者らが以前に測定したICR/fラットのinvivo実験の報告4,7)においても,Ca2+-ATPase活性低下はLPO値が約7pmol/mgprotein付近に達した際に認められたことから,ある一定値までのROSによるLPO産生量増大は,Ca2+-ATPase活性に与える影響は弱いが,一定値(ラット水晶体においては7pmol/mgprotein付近)を超えるとCa2+-ATPase活性の低下が急速に進行し,重度な白内障進行へとつながる可能性が示唆された.細胞内において上昇した細胞内Ca2+濃度は,細胞内カルシウムストアへ取り込まれるか細胞外へ排出されることで調節されている.このカルシウムストアへの取り込みは,小胞体膜に存在するsarcoplasmicreticulumCa2+-ATPase(SERCA)によって行われ,細胞外への排出は細胞膜に存在するplasmamembraneCa2+-ATPase(PMCA)によって行われる.今回測定したCa2+-ATPase活性はSERCAとPMCA両方の活性を含むものであるため,今回の結果から得られたLPO増加による急速なCa2+-ATPase活性の低下は,SERCAとPMCAのどちらに強く起因するのかを明らかとすることは白内障発症機構解明研究において非常に重要でありさらなる研究が必要である.したがって,現在筆者らはLPO産生がSERCAとPMCAへ与える影響について検討しているところである.以上,本研究ではICR/fラットは正常ラットと比較し,水晶体における酸化ストレスに対する防御能が脆弱であることを明らかとした.また,ラット水晶体中における一定以上の脂質過酸化により急速なCa2+-ATPase活性低下がみられ,その際のLPO値はラットにおいて6.7pmol/mgproteinであることが判明した.さらに,DDCがH2O2刺激によるLPO上昇においても効果的に働くことを確認した.これらの報告は今後の抗白内障薬開発研究の確立に有用であるものと考える.文献1)SpecterA:Oxidativestress-inducedcataract:mechanismofaction.FASEBJ9:1173-1182,19952)佐々木一之:白内障.医学と薬学33:1271-1277,19953)ShearerTR,DavidLL,AndersonRSetal:Reviewofselenitecataract.CurrEyeRes11:357-369,19924)NagaiN,ItoY,TakeuchiN:InhibitiveeffectsofenhancedlipidperoxidationonCa(2+)-ATPaseinlensesofhereditarycataractICR/frats.Toxicology247:139-144,20085)WangZ,BunceGE,HessJL:SeleniteandCa2+homeostasisintheratlens:effectonCa-ATPaseandpassiveCa2+transport.CurrEyeRes12:213-218,19936)大柳善彦:SODと活性酸素調節剤─その薬理作用と臨床応用.p3-4,日本医学館,19897)NagaiN,ItoY,TakeuchiNetal:ComparisonofthemechanismsofcataractdevelopmentinvolvingdifferencesinCa(2+)regulationinlensesamongthreehereditarycataractmodelrats.BiolPharmBull31:1990-1995,2008***

遺伝性白内障ICR/fラットの水晶体混濁におけるインターロイキン18およびDNA分解酵素の関与

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(95)6750910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):675680,2009cはじめに白内障とは水晶体が白く混濁するすべての現象をいい,現在まで数多くの研究がなされている1).白内障は全世界の失明の約40%を占めており,罹患率は加齢に伴って増加し,80歳以上の高齢者ではほとんどが何らかの形で白内障の症状を示すことが報告されている2).この白内障のおもな発症〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN遺伝性白内障ICR/fラットの水晶体混濁におけるインターロイキン18およびDNA分解酵素の関与長井紀章*1伊藤吉將*1,2竹内典子*3臼井茂之*4平野和行*4*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3名城大学薬学部生理学研究室*4岐阜薬科大学薬剤学研究室InvolvementofInterleukin18andDNaseII-likeAcidDNaseinCataractFormationinICR/fRatNoriakiNagai1),YoshimasaIto1,2),NorikoTakeuchi3),ShigeyukiUsui4)andKazuyukiHirano4)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KindaiUniversity,3)SectionofBiochemistry,FacultyofPharmacy,MeijoUniversity,4)LaboratoryofPharmaceutics,GifuPharmaceuticalUniversityIharacataractrat(ICR/fラット)はヒト加齢白内障に類似した水晶体混濁を示す遺伝性白内障モデル動物である.本研究ではこのICR/fラット白内障発症機構を明らかにするために,近年白内障発症の要因として報告されたインターロイキン18(IL-18)およびDNA分解酵素(DNaseII-likeacidDNase:DLAD)のICR/fラット水晶体混濁における関与について検討した.2263日齢の間ではICR/fラット水晶体は透明性を維持し,混濁は認められなかった.しかしながら,77日齢より水晶体混濁が開始し,91日齢では成熟白内障に達した.水晶体混濁開始直前の63日齢および成熟白内障時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Rおよびcaspase-1)および成熟型IL-18蛋白発現量の上昇が認められた.一方,DLAD遺伝子発現量は,いずれの日齢においても変化はみられず,ICR/fラット水晶体核部への未切断ゲノムDNA残存も認められなかった.これらの結果はIL-18がICR/fラット水晶体混濁に関与する可能性を強く示唆した.また,ICR/fラット水晶体ではDNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存が起こらないことを明らかとした.TheIharacataractrat(ICR/frat)isarecessivehereditarycataractstrainwhosemechanismofcataractdevelopmentissimilartothatofsenilecataractsinhuman.Inthisstudy,wedemonstratedtheinvolvementofinterleukin18(IL-18),whichleadstointerferon-gamma,andDNaseII-likeacidDNase(alsocalledDNaseIIb,DLAD)inthelensesofICR/fratsduringcataractdevelopment.AlthoughthelensesofICR/fratsweretranspar-entatage22to63days,lensopacicationstartedat77days,thelensesof91-day-oldICR/fratsbecomingentire-lyopaque.ThegeneexpressionlevelscausingIL-18activation(IL-18,IL-18receptorandcaspase-1)increasedat63daysofage;theexpressionofmatureIL-18proteinintheICR/fratlensesalsoincreaseswithage.Ontheoth-erhand,theDLADmRNAexpressionlevelsdidnotchangewithage,whileundigestedDNAwasdegradedinthelensnucleiof91-day-oldICR/frats.TheseresultssuggestthatincreasedIL-18activityisrelatedtocataractdevelopment.Inaddition,DLADdysfunctionandaccumulationofundigestedDNAwerenotobservedincataractdevelopmentinICR/frats.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):675680,2009〕Keywords:白内障,ICR/fラット,インターロイキン18,DNA分解酵素,未切断DNA.cataract,Iharacataractrat,interleukin18,DNaseII-likeacidDNase,undigestedDNA.———————————————————————-Page2676あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(96)機構としては,紫外線などにより誘導される酸化的ストレスが水晶体上皮細胞に傷害を与えることで細胞内恒常性が破綻をきたし水晶体中カルシウムイオン(Ca2+)量の上昇を導くことが起因とされている3,4).さらに,この水晶体中Ca2+量上昇によりCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインが活性化され,これによりクリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体が白く混濁するという報告がなされている3,4).また,近年ではDNA分解酵素の欠乏が水晶体核部へのゲノムDNA残存をひき起こし,このゲノムDNA残存が水晶体混濁につながるといった機構が注目されている5).筆者らはこれまで急速に水晶体混濁がみられる遺伝性白内障動物UPLラットを用い,水晶体混濁以前に強力なインターフェロン-gの産生誘導,ナチュラルキラー細胞活性化,誘導型一酸化窒素合成酵素の誘導能などの生理活性を有することが知られているインターロイキン18(IL-18)が発現すること6)や,水晶体混濁時に核部でのゲノムDNA残存が認められることを明らかとしてきた7).このUPLラットは寿命,体重曲線,血液学的パラメータ,血液生理学的パラメータ,血糖値において正常ラットと変わらないことが確認されており,眼異常を除く生物学的特性はほぼ正常であることが明らかとなっている8).したがって,UPLラットは白内障発症機構の解明を行ううえできわめて適切なモデルであると考えられている.しかしながら,UPLラットの水晶体混濁は短期間で急速に認められることから,その水晶体混濁機構解明を目指した研究では有効だが,抗白内障薬の有効性における研究には不向きであり,ヒト加齢白内障のように水晶体混濁化がゆっくりと進行するモデル動物の開発が望ましいと考えられた.Iharacataractrat(ICR/fラット)は遺伝性白内障発症動物であり,その発症率は100%である9).これまでの研究から,生後75日頃から水晶体の混濁が徐々に進行し,生後90日頃には成熟白内障に達する9).また,水晶体混濁時のCa2+濃度は透明時のそれと比較し約10倍に上昇し,水晶体中カルパインの活性化およびクリスタリン蛋白質の分解・凝集も確認されている9).したがって,ICR/fラットは,抗白内障薬の有効性検討を行ううえで適切なモデルであると考えられた.本研究ではUPLラットと比較し徐々に水晶体混濁化が進行するICR/fラット白内障発症における,IL-18およびDNA分解酵素(DNaseII-likeacidDNase:DLAD)の関与ついて検討した.I対象および方法1.実験動物実験には名城大学から分与された2291日齢のICR/fラットを用いた.ICR/fラットはともに25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.2.前眼部画像解析22,63および91日齢のICR/fラットの前眼部スリット像の撮影は,前眼部画像解析装置EAS-1000(ニデック社製)を用いて行った.3.遺伝子発現量の測定摘出した水晶体よりインビトロジェン社製Trizol試薬(1ml)を用いてAcidguanidium-phenol-chloroform法により全RNAを抽出し,RNAPCRkit(AWVVer2.1,タカラ社製)を用い1μgの全RNAからcDNAを合成した.合成したcDNAにGenBankTMからのデータベースより設計した各遺伝子特異的プライマーを加え,半定量および定量poly-merasechainreaction(PCR法)を行った.半定量PCR法表1定量RTPCR法における各種プライマー塩基配列PrimerSequence(5′-3′)GenBankAccessionNo.IL-18FORCGCAGTAATACGGAGCATAAATGACNM_019165REVGGTAGACATCCTTCCATCCTTCACIL-18RaFORAGCAGAAAGAGACGAGACACTAACXM_237088REVCTCCACCAGGCACCACATCIL-18RbFORGACCACAGGATTTAACCATTCAGCAJ550893REVAGCAGGACCTAGTGTTGATGATGIL-18BPFORTTGGTGGGTCCTGCTTCTATATGAF154569REVGGTCAGCGTTCCATTCAGTGCaspase-1FORTGAAGATGATGGCATTAAGAAGGCNM_012762REVCAAGTCACAAGACCAGGCATATTCDLADFORTTGCTCTTCGTTGCCCTGTCAF178974REVTCCTCTGCTGGTCCTTCTGGGAPDHFORACGGCACAGTCAAGGCTGAGANM_017008REVCGCTCCTGGAAGATGGTGAT———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009677(97)は以下のプライマーを用い30cycleにて行った.5′-TCAGATGTGTGCCAAGTCCAGTGCCTC-3′および5′-AATACAGGTCCAGCGAGCCTGAGAGTC-3′(DLAD,GenBankaccessionNo.AF178974);5′-GGTGCTGAGTATGTCGTGGAGTCTAC-3′および5′-CATGTAGGCCATGAGGTCCACCACC-3′(glyceraldehyde-3-phosophatedehydrogenase(GAPDH),GenBankaccessionNo.NM_017008).これにより得られたPCR生成物は1.5%アガロースゲルにて泳動後,エチジウムブロマイド照射によって撮影された.定量PCR法は,LightCycler(ロシュ社製)を用い遺伝子発現量の測定を行った.表1には今回使用した各種プライマー塩基配列を示した.本研究では各種遺伝子発現量はGAPDHに対する比から求めた.4.ウエスタンブロッティングICR/fラットの水晶体に生理食塩水200μlを加え氷中でホモジナイズした.水晶体ホモジネートは20分間氷中で超音波処理後,遠心分離(1,500rpm,10min,4℃)により上清を採取した.この上清に等量のLoadin緩衝液(12.5mmol/lTris-HCl,pH6.8,0.4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS),2%グリセロール,1%2-メルカプトエタノール,0.004%ブロモフェノールブルー)を加え,3分間煮沸することで標品を作製した.この標品(10μg)を15%ポリアクリルアミドSDSゲルで100V,90min泳動することで分離し,SEMI-DRYTRANSFERCELL(BIO-RAD社製)を用い,蛋白質をポリビニルデンフッ化メンブラン(BIO-RAD社製)に転写した(20V,2.0A,50min).転写後,トリス緩衝液(20mMTris-HCl,500mMNaCl,pH7.5)で5分間洗浄し,さらにメンブランの非特異部位をブロッキングするため,3%低脂肪粉ミルク含有トリス緩衝液中に8時間浸した.ウエスタンブロッティングは2時間室温で15μg/lgoatanti-ratIL-18ポリクロナール抗体(プロメガ社製)で標識した.2次抗体には15μg/lanti-goatIgG(1:7000希釈,プロメガ社製)を用いて2時間室温で反応させた.その後,アルカリホスファターゼ(プロメガ社製)に対する基質10mlとともに15minインキュベートすることで発色させた.5.水晶体中ゲノムDNAの測定ICR/fラットから摘出した水晶体を皮質部と核部に分離後試料とした.ゲノムDNA抽出にはQuickPickTMgDNAkit(BIO-NOBILE社製)を用いた.DNA抽出後,サンプルを1.0%アガロースゲルに添加し,Mupid-21ミニゲル電気泳動槽(コスモバイオ)を用いて電気泳動(100V,40min)を行った.泳動後,エチジウムブロマイド溶液(0.5μg/ml)にて25min染色しdiethylpyrocarbonate(DEPC)水にて15min洗浄した.写真は泳動終了後ImageMaster-CLを用い,ゲルに紫外線を照射することで確認されるバンドを撮影した.II結果1.水晶体混濁に伴うICR/fラット水晶体中IL18遺伝子および蛋白発現量の変化図1にはEAS-1000によるICR/fラット水晶体の前眼部スリット像を示した.2263日齢のICR/fラット水晶体は透明であり混濁は認められなかったが,77日齢では水晶体の混濁の開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.図2には22,63および91日齢のICR/fラット水晶体中IL-18の活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Ra,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1)遺伝子発現量の変化について示した.IL-18Raはいずれの週齢においても変化はみられなかった.一方,水晶体混濁開始直前の63日齢および水晶体混濁時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1の上昇がみられた.さらに,18kDaのIL-18蛋白も水晶体混濁直前の63日齢および成熟白内障時である91日齢でその発現上昇が認められた(図3).2.水晶体混濁に伴うICR/fラット水晶体中DLAD遺伝子およびゲノムDNAの変化図4に水晶体中DLAD遺伝子発現量を示した.22,63および91日齢のICR/fラットいずれにおいても水晶体中DLAD遺伝子発現量は一定であった.図5には22および91日齢ICR/fラット水晶体皮質部および核部におけるゲノムDNA残存性について示した.ICR/fラット水晶体皮質部では,日齢にかかわらず未切断DNAが高度に存在しており,核部では未切断ゲノムDNAは認められなかった.774963229135days図1ICR/fラットにおける水晶体前眼部スリット像———————————————————————-Page4678あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(98)III考按前眼部画像解析装置EAS-1000は,動物を殺傷せずに経時的に水晶体混濁の測定が可能である.本研究でははじめに,この前眼部画像解析装置EAS-1000を用いICR/fラットの水晶体混濁発現時期について検討した.その結果,22および63日齢のICR/fラット水晶体は透明性を維持しており,混濁は認められなかったが,77日齢では混濁開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.この結果から本研究では22日齢を透明な水晶体,63日齢を水晶体混濁直前の水晶体,そして91日齢を成熟白内障水晶体とし,ICR/fラット白内障発症へのIL-18およびDNA分解酵素の関与について検討した.IL-18の塩基配列から推測される蛋白質は分子量24kDのIL-18前駆体であることが知られている.この24kDの22day63day91day20kDa15kDa図3ICR/fラットにおける成熟型IL18蛋白発現量IL-18BPmRNACaspase-1mRNAIL-18RbmRNAIL-18RamRNAIL-18mRNA912263Age(days)9101234567891002468101214012345670123456780.50.51.01.52.02.53.03.5IL-18/GAPDH(×10-3)IL-18Ra/GAPDH(×10-5)IL-18Rb/GAPDH(×10-5)IL-18BP/GAPDH(×10-3)Caspase-1/GAPDH(×10-4)図2ICR/fラットにおけるIL18,IL18Ra,IL18Rb,IL18BPおよびcaspase1遺伝子発現量の変化(n=34)BAAge(days)400bp300bp0510152025226322day91day91DLAD/GAPDH(×10-2)図4ICR/fラットにおけるDLAD遺伝子発現量の変化A:半定量PCR法,B:定量PCR法.(n=34)10kb3kb22dayCorNuc91dayCorNuc図5ICR/fラット水晶体皮質部(Cor)および核部(Nuc)における未切断ゲノムDNA———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009679(99)IL-18前駆体は一般の分泌蛋白に存在するリーダーペプチドをもっておらず,生理活性も有していない.近年,この24kDaのIL-18前駆体がcaspase-1によるプロセッシングを受け,生理活性をもつ18kDaの分子(成熟型IL-18)になることが明らかとされた10).また,成熟型IL-18がIL-18レセプター(IL-18R)に作用することで,インターフェロン-g(IFN-g)誘導などの生理活性を発現することが明らかとされている.このIL-18RにはIL-18Ra鎖(IL-1Rrp)およびIL-18Rb鎖(AcPL)が存在し,IL-18Ra鎖とIL-18Rb鎖はヘテロ二量体のIL-18R複合体である.IL-18はIL-18Ra鎖に結合し,IL-18Rb鎖の作用活性を増強する10).特にIL-18Rb鎖はIL-1receptor-associatedkinase(IRAK)など,その後の生理活性作用増強と活性化に不可欠の物質として知られる10).そこで本研究では22,63および91日齢のICR/fラット水晶体におけるIL-18活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Ra,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1)発現量の変化について示した.IL-18aはいずれの週齢においても変化はみられなかったが,水晶体混濁開始直前の63日齢および水晶体混濁時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18,IL-18Rbおよびcaspase-1遺伝子発現量および成熟型IL-18蛋白発現量上昇がみられICR/fラット水晶体混濁にIL-18発現が関与することが強く示唆された.一方,IL-18の特異的内因性阻害薬であるIL-18bindingprotein(IL-18BP)11,12)も63および91日齢水晶体において上昇が認められた.Hurginらは,IFN-gの増加はIL-18BP発現を誘発することを明らかとしている13).したがって,ICR/fラット水晶体中IL-18BP発現量の増加は,IL-18の活性化を介したIFN-g過剰産生によりひき起こされるのではないかと示唆された.他の白内障発症要因として,水晶体の線維化不全が注目されている5).水晶体は,通常の組織にみられるように基底膜上に上皮細胞があるのではなく,水晶体が周囲を覆いその内側に上皮細胞が存在する.細胞分裂は増殖帯でのみ観察され,分化した細胞は新たに分化した細胞に押され水晶体中心部に移動する.この水晶体中心部で水晶体核を形成している線維細胞は核をもっておらず,線維細胞の脱核は細胞分化が起こり伸展した線維細胞からなる水晶体皮質が中心部へ移動する過程で起こるとされている.このように線維細胞の分化は細胞内小器官などの消失を伴うことが知られており,特に細胞核を含む細胞内小器官の消失は,水晶体に透明性をもたらす重要な変化であると考えられている.近年,DLADが水晶体線維化過程ゲノムDNAの消失を担っており,このDLADが欠損すると,本来除去されるはずのゲノムDNAが核部に残存し,水晶体が混濁する原因になると報告された5).そこで先のICR/fラットにおける水晶体混濁と水晶体中ゲノムDNA残存性について検討を行った.その結果,ICR/fラット水晶体皮質部では,日齢にかかわらず未切断DNAが高度に存在しており,核部では未切断ゲノムDNAは認められなかった.したがって,DNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存はICR/fラット水晶体混濁には影響しないことが明らかとなった.IL-18産生はUPLラットおよびICR/fラットでともに認められたのに対し,DNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存はUPLラットのみで認められ,ICR/fラット水晶体混濁には関与しなかったことから,UPLラット白内障にはICR/fラットと比較し,より複数の要因が関与し発症するものと示唆された.これらの結果は,UPLラットは多角的な視点による水晶体混濁機構解明を目指した研究に有効であり,ICR/fラット白内障はヒト加齢白内障と類似していることから,抗白内障薬の有効性における研究に適していると考えられた.これらIL-18活性発現と水晶体混濁の関連性を明確にするためにはさらなる研究が必要である.したがって,現在筆者らはIL-18阻害薬がICR/fラット水晶体混濁へ与える影響について検討しているところである.以上,本研究ではIL-18産生がICR/fラット水晶体混濁に関与する可能性を強く示唆した.また,ICR/fラットではDNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存がないことを明らかとした.これらの報告は今後の抗白内障薬開発研究の確立に有用であるものと考える.文献1)HardingJJ:Cataract;biochemistry,epidemiologyandpharmacology.ChapmanandHall,London,19912)佐々木一之:白内障.医学と薬学33:1271-1277,19953)ShearerTR,DavidLL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