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Humphrey 視野検査の固視不良例の検討

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(97)1263《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1263.1268,2010cはじめに緑内障治療の目的は視野障害の進行を停止または遅延させ,残存視野を維持することで,そのための治療として高いエビデンスが得られているのが眼圧下降である1,2).眼圧下降治療として点眼薬治療,レーザー治療,手術治療が行われている.眼圧下降の評価は眼圧値で行われている.一方,残存視野の維持が最終目標であるが,視野障害は視野検査により評価されている.視野検査には動的視野検査(Goldmann視野計)と静的視野検査がある.静的視野検査としてHumphrey視野計やオクトパス視野計が用いられることが多い.Humphrey視野検査の問題点として,自覚的検査のために固視状態が悪くなると検査の信頼性が低くなる点があげられ〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANHumphrey視野検査の固視不良例の検討井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AnalysisofFixationLossinHumphreyVisualFieldTestKenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineHumphrey視野検査における患者の固視状態と固視不良の原因についてプロスペクティブに検討した.Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Standardを施行した558例558眼を対象とした.固視不良率が20%未満(固視良好群)と20%以上(固視不良群)に分類した.患者背景(性別,年齢,矯正視力,病型,測定時間,meandeviation値)を両群で比較した.検査終了後に選択式のアンケート調査を行い,両群で比較した.固視不良に寄与する因子を重回帰分析で解析した.バリマックス法で各因子の関連性について因子分析を行った.固視良好群は454例,固視不良群は104例であった.性別,病型,meandeviation値は両群で同等であった.固視不良群で平均年齢が高く,矯正視力が低く,測定時間が長く,睡眠時間が短かった.重回帰分析では測定時間(p<0.001),睡眠時間(p=0.0001)のみと有意に関連していた(R2=0.12).バリマックス法では固視不良と睡眠時間の関連が強かった.高齢で,矯正視力が低く,前夜の睡眠時間の短い患者がHumphrey視野検査を受ける際に,検者は患者の固視に注意を要したほうがよい.WeprospectivelyinvestigatedthereliabilityoftheHumphreyvisualfieldtest,inastudyinvolving558eyesof558patientswhoreceivedtheHumphreyvisualfieldtestprogram30-2SITA-Standard.Thepatientsweredividedintotwogroupsaccordingtofixationlossrate:over20%(High-fixationlossgroup)andunder20%(Lowfixationlossgroup).Gender,age,correctedvisualacuity,disease,testdurationandmeandeviationoftheHumphreyvisualfieldtestwerecomparedbetweenthegroups.Afterthetest,aquestionnairewasgiven;theresultswerethencomparedbetweenthegroups.Regressionanalysiswasalsoperformed.Therelationofthesefactorstofixationlosswasanalyzedbythevarimaxmethod.TheHigh-fixationlossgroupcomprised454patients;theLowfixationlossgroup,104patients.Gender,diseaseandmeandeviationweresimilar.IntheHigh-fixationlossgroup,agewashigher,correctedvisualacuitylower,testtimelongerandsleepingtimeshorterthanintheLow-fixationlossgroup.Inregressionanalysis,testduration(p<0.001)andsleepingtime(p=0.0001)weresignificantlycorrelatedwiththefixationlossrates(R2=0.12).Thevarimaxmethoddisclosedastrongrelationbetweenfixationlossandsleepingtime.InadministeringtheHumphreyvisualfieldtest,careshouldbetakenregardingfixationinpatientswhoareelderly,havelowercorrectedvisualacuityandhadashortsleepingtimethepreviousnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1263.1268,2010〕Keywords:Humphrey視野検査,SITA-Standard,固視不良,信頼性.Humphreyvisualfieldtest,SITA-Standard,fixationloss,reliability.1264あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(98)る.Humphrey視野検査における患者の固視状態については多くの報告がある3.6)が,固視不良の原因まで探求した報告は少ない6).今回,Humphrey視野検査における患者の固視状態と固視不良の原因についてプロスペクティブに検討した.I対象および方法2009年2月に井上眼科病院でHumphrey視野プログラム中心30-2Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-Standardを施行した558例558眼(男性232例232眼,女性326例326眼)を対象とした.平均年齢は57.7±13.1歳(平均±標準偏差)(20.87歳)であった.Humphrey視野計はCarlZeissOphthalmicSystems社製740,740i,745,750iのいずれかを使用し,それぞれSizeIIItarget,背景輝度31.5°を用いた.Humphrey視野検査は午前8時30分から午後5時の診療時間内に行った.検査室内には6台のHumphrey視野計が設置されているが,検査台は無作為に選択された.検査室内は室温26.27℃,湿度55.65%であった.両眼検査施行例では右眼を先に左眼を後に検査を行い,右眼の結果を解析に用いた.固視不良率が20%未満(固視良好群)と20%以上(固視不良群)に分類した.患者背景〔性別,年齢,矯正視力(logMAR),病型,測定時間,meandeviation(MD)値〕を両群で比較した(対応のないt検定).Humphrey視野検査終了後に選択式のアンケート調査を行った.その内容は,Humphrey視野検査の経験(初めて,2回目,3回目,4回目以上),Humphrey視野検査の説明の理解度(大変分かり易い,だいたい分かった,大変分かりにくい,どちらとも),検査時疲れたか(全く疲れない,ほとんど疲れない,やや疲れた,とても疲れた,どちらとも),検査時の姿勢は(全く辛くない,ほとんど辛くない,やや辛い,とても辛い,どちらとも),検査に集中できたか(集中できた,まあ集中できた,あまり集中できない,全く集中できない,どちらとも),室温は(大変暑い,少し暑い,丁度良い,少し寒い,大変寒い),隣の声などが気になるか(気にならない,ほとんど気にならない,やや気になった,とても気になった,どちらとも),検査は上手くできたか(大変上手くできた,だいたい上手くできた,あまり上手くできない,全く上手くできない,どちらとも),検査時間は(5分位,5.10分,10.15分,15分以上,その他),体調は(大変良い,まあ良い,少し悪い,悪い,どちらとも),睡眠時間は(8時間以上,6.8時間,4.6時間,4時間未満,寝ていない),空腹か満腹か(空腹,少し空腹,丁度良い,少し満腹,満腹)とした.統計学的検討は有効回答数に対してc2検定を用いた.固視不良に寄与する因子を重回帰分析で解析した.患者背景とアンケートの各因子を独立変数,固視不良率を従属変数とした.固視不良に関わる因子の評価に,固視不良と,性別,年齢,病名などの背景因子およびアンケート12項目の合計20項目について因子分析(バリマックス法)を行い,20対の尺度より固有値1以上の7因子を抽出した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.II結果固視良好群は454例(81.4%),固視不良群は104例(18.6%)であった.患者背景は,性別は固視良好群が男性196例,女性258例,固視不良群が男性36例,女性68例で同等であった(表1).平均年齢は固視良好群が56.7±13.2歳,固視不良群が61.9±11.9歳で,固視不良群のほうが有意に高表1背景因子固視良好群(n=454)固視不良群(n=104)p値性別男性196例:女性258例男性36例:女性68例NS平均年齢(歳)56.7±13.261.9±11.9p<0.01矯正視力(logMAR).0.03±0.130.02±0.23p<0.01病型NS緑内障58.6%54.8%緑内障疑い34.8%37.5%高眼圧症5.7%4.8%視神経炎0.7%2.9%視神経萎縮0.2%0.0%測定時間(min/s)7¢06.±1¢19.8¢00.±1¢15.p<0.001Meandeviation(dB).3.74±5.86.3.47±5.97NS(99)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101265かった(p<0.01).矯正視力(logMAR)は固視良好群が.0.03±0.13,固視不良群が0.02±0.23で,固視良好群のほうが有意に高かった(p<0.01).病型は固視良好群が緑内障58.6%,緑内障疑い34.8%,高眼圧症5.7%,視神経炎0.7%,視神経萎縮0.2%,固視不良群が緑内障54.8%,緑内障疑い37.5%,高眼圧症4.8%,視神経炎2.9%,視神経萎縮0%で同等であった.測定時間は,固視良好群が7分6秒±1分19秒,固視不良群が8分0秒±1分15秒で,固視不良群のほうが有意に長かった(p<0.01).MD値は固視良好群が.3.74±5.86dB,固視不良群が.3.47±5.97dBで同等であった.アンケート結果は,Humphrey視野検査の経験,検査の説明の理解度,検査時疲れたか,検査時の姿勢は,検査に集中できたか,室温は,隣の声などが気になるか,検査は上手くできたか,検査時間は,体調は,空腹か満腹かの各項目は固視良好群と固視不良群で同等であった(表2).睡眠時間は,固視良好群が8時間以上3.3%,6.8時間47.1%,4.6時間46.3%,4時間未満3.3%,寝ていない0%,固視不良群が8時間以上6.7%,6.8時間42.3%,4.6時間42.3%,4時間未満8.7%,寝ていない0%で,固視良好群のほうが有意に長かった(p<0.05).重回帰分析においては,測定時間(p<0.001),睡眠時間(p=0.0002)のみが固視不良率と有意に関連していた(R2=0.12,p<0.05)(表3).バリマックス法においては,「疲れ」表2aアンケート結果1-1検査経験1-2検査の説明について1-3検査時疲れたか1-4検査時の姿勢は固視良好群454例初めて9.7%大変分かり易い64.8%全く疲れない8.6%全く辛くない22.0%2回目9.0%だいたい分かった31.3%ほとんど疲れない24.2%ほとんど辛くない44.7%3回目12.6%少し分かりにくい2.4%やや疲れた57.3%やや辛い25.3%4回目以上68.5%大変分かりにくい0.7%とても疲れた9.5%とても辛い1.5%空白0.2%どちらとも0.7%どちらとも0.2%どちらとも6.2%──空白0.2%空白0.2%空白0.2%固視不良群104例初めて14.4%大変分かり易い62.5%全く疲れない9.6%全く辛くない18.3%2回目9.6%だいたい分かった39.4%ほとんど疲れない23.1%ほとんど辛くない43.3%3回目9.6%少し分かりにくい0.0%やや疲れた51.0%やや辛い32.7%4回目以上66.3%大変分かりにくい0.0%とても疲れた16.3%とても辛い1.0%空白0.0%どちらとも0.0%どちらとも0.0%どちらとも4.8%──空白0.0%空白0.0%空白0.0%p値NSNSNSNS表2bアンケート結果1-5検査に集中できたか1-6室温は1-7隣の声などが気になるか1-8検査は上手くできたか固視良好群454例集中できた32.6%大変暑い1.5%気にならない33.7%大変上手くできた5.1%まあ集中できた56.8%少し暑い22.9%ほとんど気にならない39.4%だいたい上手くできた66.3%あまり集中できない9.7%丁度良い75.3%やや気になった24.0%あまり上手くできない21.4%全く集中できない0.4%少し寒い0.0%とても気になった1.3%全く上手くできない0.4%どちらとも0.2%大変寒い0.0%どちらとも1.3%どちらとも6.6%空白0.2%空白0.2%空白0.2%空白0.2%固視不良群104例集中できた33.7%大変暑い3.8%気にならない30.8%大変上手くできた7.7%まあ集中できた52.9%少し暑い16.3%ほとんど気にならない41.3%だいたい上手くできた56.7%あまり集中できない12.5%丁度良い79.8%やや気になった25.0%あまり上手くできない28.8%全く集中できない0.0%少し寒い0.0%とても気になった1.9%全く上手くできない0.0%どちらとも1.0%大変寒い0.0%どちらとも1.0%どちらとも6.7%空白0.0%空白0.0%空白0.0%空白0.0%p値NSNSNSNS1266あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(100)「姿勢」「体調」の身体的要素が因子1,「年齢」「測定時間」「検査経験」の時間的要素が因子2,「性別」「経験」が因子3,「病名」「眼圧」の疾患的要素が因子4,「固視不良」「睡眠時間」が因子5,「集中できた」「隣の声が気になる」「上手くできた」の集中力が因子6,「室温」「測定時間」の環境的要素が因子7の影響を強く受けることがわかった(表4).その中でも「固視不良」(負荷量0.721)と「睡眠時間」(負荷量0.745)は,7つの因子のなかで相互の負荷量が高く,関連が強かった.III考按今回,固視状態の評価としてHeijl-Krakau法7)を用いた.これはMariotte盲点に定期的に検査視標を呈示して,応答があると固視不良とする方法で,20%までが正常範囲と定義されている.その他に一般的に偽陽性率,偽陰性率も固視状態の評価に用いられている.偽陽性率は検査視標を呈示していないにもかかわらず間違って応答した割合である.偽陰性率は視野検査中に一度応答のあった部位に再び高輝度の視標を呈示しても応答しなかった割合である.偽陽性率,偽陰性率ともに33%以上で信頼性が低いとされている.視野検査のプログラムにより閾値測定法が異なる.Humphrey視野検査ではfullthreshold法が閾値測定法の基本である.Fullthreshold法は4dBステップで輝度を変化させ,被検者の応答が変化したら,逆方向に2dBステップで輝度を変化させ,再び被検者の応答が変化した点で測定を終了する.この方式では検査に時間がかかるという欠点があった.そこでSITA法が新しく開発された8).SITA法は閾値の推定に最尤法を応用しているのが特色である.1回の視標呈示ごとに,被検者の応答により閾値を統計的に推定し,その推定した閾値の視標をつぎに呈示する.このくり返しにより測定精度を落とすことなく,従来のfullthreshold法の約1/2の測定時間となった9.11).しかしSITA法では,閾値決定に多数の正常者および緑内障患者から得られた視野を用いているため,基本的には緑内障専用のアルゴリズムと考えられる.過去のHumphrey視野検査における固視状態の報告では,固視不良率は7.38.5%,偽陽性率は0.5%,偽陰性率は0.17%である3.6).しかしこれらの検討はいずれもfull表2cアンケート結果1-9検査時間は2-1体調は2-2睡眠時間は2-3空腹か満腹か固視良好群454例5分位27.8%大変良い11.7%8時間以上3.3%空腹3.5%5~10分57.7%まあ良い66.7%8~6時間47.1%少し空腹23.3%10~15分12.6%少し悪い16.7%6~4時間46.3%丁度良い63.7%15分以上1.3%悪い1.3%4時間未満3.3%少し満腹8.4%その他0.4%どちらとも3.3%寝てない0.0%満腹0.9%空白0.2%空白0.2%空白0.2%空白0.2%固視不良群104例5分位26.0%大変良い11.5%8時間以上6.7%空腹1.9%5~10分52.9%まあ良い61.5%8~6時間42.3%少し空腹26.9%10~15分19.2%少し悪い20.2%6~4時間42.3%丁度良い61.5%15分以上1.0%悪い3.8%4時間未満8.7%少し満腹7.7%その他1.0%どちらとも2.9%寝てない0.0%満腹1.9%空白0.0%空白0.0%空白0.0%空白0.0%p値NSNS<0.05NS表3重回帰分析要因回帰系数標準回帰係数p値性別0.0440.060.18年齢0.0020.0670.156矯正視力(logMAR)0.1170.0470.289病型0.0240.0340.431測定時間.0.00010.22<0.001アンケート1-1検査経験0.0110.030.4781-2検査の説明について0.0080.0140.7481-3検査時疲れたか.0.01.0.0420.3961-4検査時の姿勢は.0.03.0.0860.0741-5検査に集中できたか0.0110.020.6951-6室温は.0.05.0.0610.1511-7隣の声などが気になるか0.0070.0160.711-8検査は上手くできたか0.010.0250.5971-9検査時間は0.0040.0220.592-1体調は.0.011.0.0260.5482-2睡眠時間は0.0390.1560.00022-3空腹か満腹か.0.026.0.0450.277(R2=0.124)(101)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101267threshold法による結果である.Nelson-Quiggら3)は,54例の健常人,36例の高眼圧症患者,20例の初期緑内障患者について報告した.健常人では固視不良率19.4%,偽陽性率と偽陰性率0%,高眼圧症患者では固視不良率22%,偽陽性率2.8%,偽陰性率0%,初期緑内障患者では固視不良率30%,偽陽性率0%,偽陰性率5%であった.Katzら4)は,はじめて視野検査を行った88例の緑内障患者と25例の健常人について報告した.緑内障患者では固視不良率23%,偽陽性率3.4%,偽陰性率17%,健常人では固視不良率25%,偽陽性率3.6%,偽陰性率5%であった.Johnsonら5)は,視野検査を過去に行ったことのある48例の健常人,32例の高眼圧症患者,19例の初期緑内障患者について3年間のHumphrey視野検査結果を報告した.健常人では固視不良率7.15%,偽陽性率0%,偽陰性率2.1%,高眼圧症患者では固視不良率14%,偽陽性率3.1%,偽陰性率0%,初期緑内障患者では固視不良率11.22%,偽陽性率0%,偽陰性率3.5%であった.固視不良率については3群ともに1年目より2.3年目で減少していた.Birtら6)は,視野検査を過去に行ったことのある106例の開放隅角緑内障患者について報告した.固視不良率38.5%,偽陽性率5%,偽陰性率8.10%であった.固視状態を病型別に検討すると,固視不良率は健常人7.25%,高眼圧症患者14.22%,緑内障患者11.38.5%,偽陽性率は健常人0.3.6%,高眼圧症患者2.8.3.1%,緑内障患者0.5%,偽陰性率は健常人0.5%,高眼圧症患者0%,緑内障患者3.5.17%であった3.6).固視状態は緑内障患者で健常人や高眼圧症患者に比べてやや悪い可能性が示唆される.今回はSITA-Standard法を用い,固視不良率18.6%,偽陽性率0.2%,偽陰性率0.4%であった.過去の報告3.6)と比べると検査法は異なるが,固視不良率はほぼ同等で,偽陽性率と偽陰性率はやや良好と考えられる.その原因として検査法が異なる,検査機器の精度が向上した,対象がさまざまな病型の患者だった,視野検査の経験もさまざまだった,人種の違いなどが考えられるが,その詳細は不明である.いずれにしろSITA-Standard法は従来からのfullthreshold法に比べ患者の固視状態という観点では特に偽陽性率と偽陰性率で優れている可能性が示唆される.Birtら6)は,Humphrey視野検査における固視不良と関連のある因子を検討し,MD値,測定時間,年齢は関連があり,矯正視力は関連がなかったと報告した.今回の重回帰分析では測定時間,睡眠時間に関連が有意に認められたが,決定係数R2は0.12と低値だったので,関連性はあまり高くないと考えられる.一方,バリマックス法では「固視不良」(負表4因子分析(バリマックス法)項目因子1因子2因子3因子4因子5因子6因子7固視不良.0.1740.0390.13.0.0120.7210.075.0.097性別.0.112.0.0790.8030.0150.0370.0620.098年齢.0.1220.580.1170.0530.105.0.042.0.012病型.0.008.0.207.0.0880.566.0.0260.207.0.173眼圧0.0630.0290.0250.8440.096.0.14.0.004視力(logMAR)0.000040.021.0.0160.04.0.035.0.0020.012測定時間0.1450.5550.094.0.1370.286.0.024.0.08Humphrey検査経験.0.0090.828.0.141.0.011.0.1320.0660.038アンケート1-1検査経験.0.224.0.086.0.5510.0280.0860.1220.0121-2検査の説明について0.148.0.0290.0220.012.0.0060.116.0.0791-3検査時疲れたか0.706.0.12.0.0790.0030.0730.2190.1971-4検査時の姿勢は0.683.0.002.0.0910.169.0.0850.210.151-5検査に集中できたか0.293.0.0440.007.0.0550.0420.6380.2591-6室温は0.0440.1720.2150.312.0.1370.1160.5861-7隣の声などが気になるか0.0720.0180.104.0.083.0.0170.766.0.2211-8検査は上手くできたか0.1790.068.0.1150.0680.1030.5990.1851-9検査時間は.0.1340.090.0110.216.0.04.0.009.0.7422-1体調は0.6920.090.137.0.0790.0490.003.0.1242-2睡眠時間は0.23.0.033.0.1520.1110.7450.0160.72-3空腹か満腹か.0.0460.002.0.052.0.008.0.015.0.00240.0981268あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(102)荷量0.721)と「睡眠時間」(負荷量0.745)は関連が強かった.Birtら6)は睡眠時間を検討項目に入れておらず,その点は不明である.測定時間はBirtら6)と今回で共通して関連が認められたが,固視不良のために視標の呈示が多くなるので測定時間が長くなるためと考えられる.今回の固視良好群と固視不良群の比較では,年齢,矯正視力,測定時間に差があり,Birtら6)の報告と年齢,測定時間は一致しており,矯正視力は異なる結果であった.MD値については固視良好群が.3.74±5.86dB,固視不良群が.3.47±5.97dBで同等であったが,固視不良群のMD値が正確性に欠けると考えられるため,今回は重回帰分析やバリマックス法での比較検討を行わなかった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Standardを施行した患者の固視状態と固視不良の原因についてプロスペクティブに検討した.その結果,18.6%の患者が固視不良だった.高齢で,矯正視力が低く,前夜の睡眠時間の短い患者がHumphrey視野検査を受ける際に,検者は患者の固視に注意を要したほうがよい.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)Nelson-QuiggJM,TwelkerJD,JohnsonCA:Resposepropertiesofnormalobserversandpatientsduringautomatedperimetry.ArchOphthalmol107:1612-1615,19894)KatzJ,SommerA:Screeningforglaucomatousvisualfieldloss.Ophthalmology97:1032-1037,19905)JohnsonCA,Nelson-QuiggJM:Aprospectivethree-yearstudyofresponsepropertiesofnormalsubjectsandpatientsduringautomatedperimetry.Ophthalmology100:269-274,19936)BirtCM,ShinDH,SamudralaVetal:AnalysisofreliabilityindicesfromHumphreyvisualfieldtestsinanurbanglaucomapopulation.Ophthalmology104:1126-1130,19977)HeijlA,KrakauCE:Anautomaticstaticperimetry,designandpilotstudy.ActaOphthalmol(Copenh)53:293-310,19758)BengtssonB,OlssonJ,HeijlAetal:Anewgenerationofalgorithmsforcomputerizedthresholdperimetry,SITA.ActaOphthalmolScand75:368-375,19979)BengtssonB,HeijlA,OlssonJ:Evaluationofanewthresholdvisualfieldstrategy,SITA,innormalsubjects.Swedishinteractivethresholdingalgorithm.ActaOphthalmolScand76:165-169,199810)BengtssonB,HeijlA:Evaluationofanewperimetricthresholdstrategy,SITA,inpatientswithmanifestandsuspectglaucoma.ActaOphthalmolScand76:268-272,199811)BengtssonB,HeijlA:SITAFast,anewrapidperimetricthresholdtest.Descriptionofmethodandevaluationinpatientswithmanifestandsuspectglaucoma.ActaOphthalmolScand76:431-437,1998***