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Vogt- 小柳-原田病におけるHLA-DRB1*040501検出の頻度

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1(129)ツ黴€ 1290910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ あたらしい眼科 27(1):129 132,2010cはじめにVogt-小柳-原田病(VKH)は,穿孔性眼外傷既往歴のないぶどう膜炎を主とする眼症状と白髪,難聴,髄膜炎などの眼外症状を呈する全身性疾患であり,色素を有する器官に炎症が随伴することから,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.発症頻度は世界的にみると大きな偏りがあり,モンゴロイドに多くその他のコーカソイドなどの人種にはあまりみられていない1).VKH には両眼の汎ぶどう膜炎,びまん性の脈絡膜炎,多発する滲出性の網膜 離,フルオレセイン蛍光眼底造影検査〔別刷請求先〕雪田昌克:〒980-8574 仙台市青葉区星陵町 1-1東北大学医学部眼科学教室Reprint requests:Masayoshi Yukita, M.D., Department of Ophthalmology, Tohoku University School of Medicine, 1-1 Seiryo-tyo, Aoba-ku, Sendai-shi 980-8574, JAPANVogt-小柳-原田病における HLA-DRB1*040501 検出の頻度雪田昌克*1阿部俊明*2高橋秀肇*1大友孝昭*1西田幸二*1*1 東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野*2 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センターPrevalence of HLA-DRB1*040501 in Vogt-Koyanagi-Harada DiseaseMasayoshi Yukita1), Toshiaki Abe2), Hidetoshi Takahashi1), Takaaki Otomo1) and Koji Nishida1)1)Department of Ophthalmology and Visual Science, Tohoku University School of Medicine, 2)Division of Clinical Cell Therapy, Department of Translational Research, Tohoku University Graduate School of Medicine目的:Vogt-小柳-原田病(VKH)では,humanツ黴€ leukocyteツ黴€ antigen(HLA)の DNA-typing 検査にて,HLA-DRB1*0405 や*0410 のアリルが高率に検出されることが報告されている.最近では HLA 解析の進歩により,*0405 のサブタイプまで同定されている.今回,筆者らは VKH の患者にこの DNA-typing 検査を行い,その有用性について検討した.対象および方法:2006 年 4 月から 2008 年 5 月までに東北大学病院眼科で VKH を疑われた患者 21 例(男性 7名,女性 14 名,年齢平均 44±14 歳)に対し,PCR(polymeraseツ黴€ chainツ黴€ reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)法にて HLA-DNA-typing を行った.結果:21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が 5 例(23.8%)において*0410 が検出された.すべての症例において*0405 または*0410 のいずれかあるいは両方が検出された.さらに*0405 が検出された 19 例のうち 8 例は*040501 まで正確に検出され,それ以外のサブタイプはみられなかった.結論:原田病の*0405 サブタイプは*040501 である可能性が非常に高い.これまでに*0405 サブタイプの報告はないが,*040501 はモンゴロイドに特異的であり原田病特異的サブタイプである可能性が推測された.Purpose:Itツ黴€ isツ黴€ reportedツ黴€ thatツ黴€ inツ黴€ Vogt-Koyanagi-Haradaツ黴€ disease(VKH),ツ黴€ HLA-DRB1*0405 or *0410 are fre-quentlyツ黴€ detectedツ黴€ byツ黴€ DNA-typingツ黴€ analysis.ツ黴€ Recently, *0405ツ黴€ subtypesツ黴€ haveツ黴€ beenツ黴€ identi ed,ツ黴€ thanksツ黴€ toツ黴€ advancesツ黴€ in HLA-DNA-typing analysis. In the present study, we conducted this examination on VKH patients and assessed its usefulness. Methods:Weツ黴€ conductedツ黴€ theツ黴€ HLAツ黴€ typingツ黴€ test,ツ黴€ usingツ黴€ theツ黴€ PCR(polymeraseツ黴€ chainツ黴€ reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)methodツ黴€ onツ黴€ 21ツ黴€ patients(7ツ黴€ males,ツ黴€ 14ツ黴€ females;averageツ黴€ age:44±14 yrs)withツ黴€ suspected VKH,ツ黴€ fromツ黴€ Aprilツ黴€ 2006ツ黴€ toツ黴€ Mayツ黴€ 2008. Results:HLA-DRB1*0405 was detected in 19 cases(90.5%);*0410 was detected in 5 cases(23.8%). HLA-DRB1*0405 or *0410, or both, were detected. In addition, in 8 of the 19 *0405 detectionツ黴€ cases,ツ黴€ areツ黴€ detected *040501 exactly, and any other subtypes aren’t detected. Conclusion:It is highly likely that all cases of *0405 detection were *040501. We assume that *040501 is maybe speci c to mongoloid and VKH.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(1):129 132, 2010〕Key words:Vogt-小柳-原 田 病,HLA-DNA タ イ ピ ン グ, ア リ ル,HLA-DRB1*040501, 人 種 特 異 性.Vogt-Koyanagi-Harada diease, HLA-DNA-typing, alleles, HLA-DRB1*040501, race-speci c.———————————————————————- Page 2130あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(130)(FA)にて造影早期に多発性の点状蛍光漏出や,インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査にて造影早期に脈絡膜背景蛍光の局所的な充盈遅延,中期から後期にかけて多発性斑状低蛍光などの特徴的な眼所見がある.これらと類似していることから鑑別疾患としてあげられるのが,急性後部多発性斑状網膜色素上皮症,多発性後局部網膜色素上皮炎,uvealツ黴€ e u-sionツ黴€ syndrome,散弾状脈絡網膜症や,後部強膜炎などである.しかし,実際の臨床での診断は 2001 年に Read らによって作成された VKH の国際診断基準2)に基づいて行われているが,臨床所見や FA 所見など病期によって変化が著しい所見からの診断であり,また,髄液検査が必須の検査項目に入っていないこともあって,これらの鑑別に苦慮することがあるのが現状である.一方,診断の一手段として,従来より humanツ黴€ leukocyte antigen(HLA)-DR4 抗原の存在が考慮されていたが,近年より詳細な HLA 抗原の解析報告があり,HLA-DRB1*0405や*0410 のアリルが高率に検出されることが報告されてい る3,4).HLA サブタイプであれば,臨床症状のようにその出現が病期に左右されることはなく,診断に非常に有用と考えられる.また,最近では検査法の進歩に伴い,これらのアリルはより詳細なサブタイプまで同定されるようになり*0405であれば*040501 *040506 まで判明している.これらの詳細なサブタイプは VKH の診断法に影響を与え,発症頻度の偏りなどを明らかにできる可能性があるが,VKH と詳細なサブタイプの頻度について言及された報告はまだない.今回,筆者らは東北大学病院眼科(当科)での VKH 症例を検討し,*0405 のサブタイプの頻度を検討し,若干の文献的考察を加えたので報告する.I対象および方法対象は 2006 年 4 月 2008 年 5 月に当科を受診し,細隙灯検査,眼底検査,蛍光眼底造影検査,髄液検査やその後の経過や所見を総合的に判断して VKH と診断された 21 例 42眼(男性 7 名,女性 14 名)である.これらの患者は 2001 年に発表された原田病診断のガイドライン2)に基づいて完全型,不完全型,疑いに分類した.年齢は,21 59 歳(平均44.4 歳)であった.治療法は,21 例中 16 例に対しステロイドパルス療法,4 例に対しステロイド大量漸減療法,原田病の診断に難渋した 1 例に対しステロイド Tenonツ黴€ 下注射の局所投与を施行した.これらの患者に対し,経過中もしくは治療後に患者から同意を得たあとに静脈血採取を行い,DNA 合成キットを用いて DNA を 抽 出 し 精 製 し て か ら PCR(polymeraseツ黴€ chain reaction)-SBT(sequencing-basedツ黴€ typing)法5)にて HLA-DNA-typing を施行後,対立遺伝子の同定を行った.この方法は PCR 法で増幅された DNA を用いてシークエンス反応を行い,ゲル電気泳動より得られる塩基配列の多型性を直接検出する検査法で,第 12 回の国際組織適合性会議において検討されたものである.自動シークエンサーを用いて行うが,このなかには使用するプライマーで増幅される領域に関する各対立遺伝子の塩基配列情報が収められており,シークエンシングにより得られた情報を読み込んで,各対立遺伝子の塩基配列との異同を検索する.従来の方法は多型性を示す領域の周辺のみを検索するのに対し,SBT 法はすべての塩基配列を検索,決定でき,対立遺伝子の識別・判定がより厳密に確定可能となり,まれな対立遺伝子や未知の新対立遺伝子も検出可能である.本法は東北大学医学系研究科倫理委員会の承認のもとに実行された.II結果症例は全例原田病に特徴的な眼所見を有し,原田病診断のガイドラインを満たすものであった.病型別に分類すると21 例中 3 例が完全型 VKH,14 例が不完全型 VKH,4 例がVKH 疑いであった.今回は糖尿病網膜症で光凝固 1 年後にVKH を発症した症例が 1 例認められ,糖尿病黄斑浮腫や糖尿病性の腎不全もあり,uvealツ黴€ e usionツ黴€ syndrome など8)との 鑑 別 に 時 間 を 要 し た. 当 初 ト リ ア ム シ ノ ロ ン2 m gのTenonツ黴€ 下注射で加療し,軽快・増悪をくり返していた.しかし,最終的な診断にこの HLA 解析は非常に有効な判断材料になり,ステロイドの局所投与による加療のみで良好な経過をたどっている.4 例 7 眼において,7.5±2.5 mmHgの表1 臨床型別のVKH患者群と検出されたHLA-DRB1のアリル結果AllelesComplete VKHIncomplete VKHProbable VKHn(%)DRB1*0101011 2(9.5)DRB1*0403010 1(4.8)DRB1*0405312419(90.5)DRB1*0410041 5(23.8)DRB1*0803001 1(4.8)DRB1*0901040 4(19.0)DRB1*1001010 1(4.8)DRB1*1302010 1(4.8)DRB1*1401100 1(4.8)DRB1*1403110 1(4.8)DRB1*1405010 1(4.8)DRB1*1501021 3(14.3)DRB1*1502110 2(9.5) 21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が検出され,完全型 3 例(100%),不完全型 12 例(78.6%),疑い 4 例(100%)であった.*0410 は完全型 5 例(23.8%)において不完全型 4 例(28.6%),疑い 1 例(25%)で検出された.すべての症例において*0405 または*0410 が検出された.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010131(131)眼圧上昇が認められたが,全例経過観察か降圧剤の点眼のみでコントロール可能であり,ほかに合併症はなく視力を含めて良好な経過であった.表 1 に臨床型別の VKH 患者群と検出された HLA-DRB1のアリル結果を示す.通常,HLA-DRB1 のアリルはヘテロ接合体であることから,患者 1 名について 2 つ存在するため,今回 21 症例 42個のアリルが検出された.21 例中 19 例(90.5%)において,HLA-DRB1*0405 が検出され,完全型 3 例(100%),不完全型 12 例(78.6%),疑い 4 例(100%)であった.*0410 は完全型 5 例(23.8%)において不完全型 4 例(28.6%),疑い 1 例(25%)で検出された.すべての症例において*0405 または*0410 が検出された.今回の少ない症例のなかでは*0405 陽性者と*0410 陽性者の臨床的に明らかな差はみられなかった.19 例の*0405のうち 8 例は*040501 まで正確に検出され,残りの 11 例は*040503 と塩基配列が酷似しており,はっきり*040501 と判別できなかった.III考按HLA(ヒト白血球抗原)とは,ヒトにおける主要組織適合遺伝子複合体(MHC:major histocompatibility complex)のことであり,自己と他者を認識する役割をもつ.第 6 染色体短腕上の遺伝子群によりコードされ,もともと同種移植片への拒絶反応を規定する遺伝子座として発見されたが,HLA領域は多数の遺伝子群が存在し,同種個体間の遺伝的相違(多型)に富む領域であり,自己免疫疾患をはじめとする免疫関連疾患では疾患感受性を規定する遺伝子マーカーとしても使われてきた.眼疾患のなかでも,特にぶどう膜炎はその発症に免疫反応が深く関与し,VKH や交感性眼炎,Behcet病は MHC 対立遺伝子(allele)との相関が認められる代表的な疾患である6).VKH と HLA-DRB1*0405,*0410,DQB1*0401,*0402 や,Behcet 病と HLA-B*5101 との相関7)は以前から知られているが,後者の陽性率が 30 65%に対し,前者の陽性率はほぼ 100%に近く1),VKH の診断においては病期を問わず高い感度が得られる有用な検査法であると考えられる.今回の筆者らの結果も,VKH と診断された全症例からHLA-DRB1*0405,*0410 が検出され,これを裏付けるものであった.Shindo ら3)も同様の報告であり,*0405 または*0410 が検出されなければ VKH である可能性は低いということが推測された.HLA-DRB1*0405,*0410 に共通の特異的アミノ酸はDRb鎖 57 番目のセリン(Ser)であり,HLA-DQB1*0401,*0402 に共通の特異的アミノ酸は DQb鎖 70 番目のグルタミン酸(Glu),71 番目のアスパラギン酸(Asp)であるといわれている2).HLA クラス II 抗原の 3 次元立体構造モデル上では,これらのアミノ酸はいずれもaへリックス上に位置し,ヘルパー T 細胞の抗原認識に重要な位置にある.そして,チロシンをメラニンに変換する酵素であるチロシナーゼが原田病の自己抗原の有力な候補であり,その抗原ペプチドが DRB1*0405 上の抗原結合ポケットに結合することがYamaki らによって明らかにされている9).アリルの命名法は 2002 年の WHO HLA 命名委員会にてそれまでの 4 桁から改正された(日本組織適合性学会 HLA標準化委員会.2003 年版ツ黴€ HLA アリルの命名規則の改正に関 す る お 知 ら せ).HLA-DRB1*040501 を 例 に と る と,DRB1 は HLA の DR 領域のb鎖分子をコードすることを表す.そして 04 は血清抗原 HLA-DR4 抗原をコードすることを表し,05 はアリル名の命名された順で,数字が異なると,コードされるアミノ酸は異なる(非同義置換).01 はアミノ酸置換を伴わない塩基配列の違い(同義置換)であり,*0405は 01 から 06 まで報告されている.現在まで,VKH に関して HLA-DRB1*0405 が検出された論文は散見されるが,さらにそのサブタイプまで報告した論文はまだない.そのサブタイプは,*040501 *040506 まで報告されているにもかかわらず,今回 VKH の患者から検出された*0405 はすべて*040501 であった.今回は健常者のコントロール群からの HLA-typing は行わなかったため確認できなかったが,SRL 社のデータバンクによる情報から,*040501 はモンゴロイドに特有のもので,VKH の発症に人種差があることに影響を与えている可能性も推測される.VKH に限らず個々のぶどう膜炎に地域差がみられることなどを考慮すると今回の検討は興味深いものと考えられ,今後健常者を含めさらに症例を増やして検討する価値があると考えられる.文献 1) 望 月 學:Vogt-小柳-原 田 病. 日 眼 会 誌 111:359-366, 2007 2) Read RW, Hollande GN, Rao NA et al:Revised diagnostic criteriaツ黴€ forツ黴€ Vogt-Koyanagi-Haradaツ黴€ disease:angiographic signs and utility in patient follow-up. Int Ophthalmol 27:173-182, 2007 3) Shindo Y, Inoko H, Yamamoto T et al:HLA-DRB1typing of Vogt-Koyanagi-Harada’s disease by PCR-RFLP and theツ黴€ strongツ黴€ associationツ黴€ withツ黴€ DRB1*0405ツ黴€ andツ黴€ DRB1*0410. Br J Ophthalmol 51:41-44, 2007 4) イスラム S.M. モノワルール,沼賀二郎,藤野雄次郎:フォークト-小柳-原田病の臨床経過と HLA-DR4 サブタイプ.日眼会誌 98:801-806, 1994 5) 成瀬妙子,河田寿子,猪子英俊:直接塩基配列決定法(SBT)による HLA クラス II 遺伝子タイピング.MHC 5:101-106, 1998———————————————————————- Page 4132あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(132) 6) 大野重昭:眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌 96:1558-1579, 1992 7) Mizuki N, Inoko H,Tanaka H et al:Human leukocyte antigen serologic and DNA typing of Behcet’s disease and its primary association with B51. Invest Ophthalmol Vis Sci 33:3332-3340, 1992 8) 竹下孝之,阿部俊明,玉井信:急性腎不全に伴う uveal e usion syndrome.臨眼 54:990-992, 2000 9) Yamaki K, Gocho K, Hayakawa K et al:Tyrosinase fami-lyツ黴€ proteinsツ黴€ areツ黴€ antigensツ黴€ speci cツ黴€ toツ黴€ Vogt-Koyanagi-Hara-da disease. J Immunol 165:7323-7329, 2000***