‘光干渉式’ タグのついている投稿

新しい光干渉式眼軸長測定装置の測定精度と再現性

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1337《原著》あたらしい眼科28(9):1337?1340,2011cはじめに近年では白内障手術において,眼内から摘出した水晶体に代わる眼内レンズのさまざまな種類の開発および発展がめざましい.それに伴い患者のよりよいqualityofvisionが求められている.白内障手術における眼内レンズ度数予測において眼軸長の測定は必要不可欠であり,眼軸長測定の誤差が術後の屈折値に大きく影響する1).これまで眼軸長の測定にはAモードに代表されるような超音波式眼軸長測定が一般的であった.しかしながら,超音波式の測定は接触式であるために侵襲的であることや,測定誤差が生じることなどが欠点としてあげられており,近年普及している光干渉式の眼軸長測定装置は非接触かつスピーディに測定することができると報告されている2).光干渉式は超音波式に比べ簡便に測定することができるが,中間透光体混濁眼などが強い場合測定ができないことや,網膜?離眼では不正確な測定になってしまうという側面がある3).嶺井ら4)は超音波によるAモードと光干渉を用いたIOLMasterR(CarlZeissMeditec)の眼軸長測定について白内障眼で比較しているが,その結果良好な相関関係を認めている.IOLMaserR同様,光干渉法を用いて眼軸長測定のみではなく角膜曲率半径,前房深度の測定も可能な装置OA-1000(トーメー)が近年発売され注目を集めている.光干渉式眼軸長測定装置OA-1000の特徴は,1)非接触のため眼球圧迫による測定誤差がなく再現性の高い測定が可能,2)接触による感染のリスクがないこと,3)1秒間に10データを連続で取得できる高速測定で,固視困難例でも測定可能で〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻Reprintrequests:HiroshiUozato,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0373,JAPAN新しい光干渉式眼軸長測定装置の測定精度と再現性中山奈々美*1魚里博*1,2川守田拓志*1,2*1北里大学大学院医療系研究科眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻RepeatabilityandMeasurementAccuracyofNewOcularBiometryDeviceUsingOpticalLow-CoherenceInterferometryNanamiNakayama1),HiroshiUozato1,2)andTakushiKawamorita1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience光干渉式眼軸長測定装置は超音波式に比べ,高速で簡便に測定することができ,現在いくつかの機種が使用されている.そこで今回,新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)の測定精度と再現性について比較した.ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用前後の眼軸長の差から推定されるSCL厚みと,メーカー公称値の差から評価された測定精度は約24μmであった.また,再現性については,測定10回の平均標準偏差は10.0μmと良好であり,非侵襲的でもあることから今後の臨床応用に期待できる装置であると考えられた.Inrecentyears,theuseofaxiallength-measuringdevicesemployingopticalinterferencehasbecomewidespread.Devicesusingopticallylow-coherenceinterferometrycanmeasureaxiallengthmoresimplyandathigherspeedthandevicesusingultrasoundbiometry.WeinvestigatedtherepeatabilityandmeasurementaccuracyoftheOA-1000(TOMEY).Resultsshowedthatthemeasurementaccuracyofthedevice,usingopticallylow-coherenceinterferometry,wasabout24micrometers.Inaddition,devicerepeatabilitywas10micrometers.Theseresultssuggestthatthisdevice,usingopticallylow-coherenceinterferometry,providesgoodrepeatabilityandmeasurementaccuracy,aswellasnon-invasivetesting.Itissuggestedthatthisdeviceisclinicallyuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1337?1340,2011〕Keywords:眼軸長,光干渉式,再現性,測定精度.axiallength,opticalinterferometry,repeatability,measuringaccuracy.1338あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(118)あること,4)タッチディスプレイ上で被検眼の瞳孔中心に触れると自動で測定位置に移動・測定開始し,他検者においても高い再現性が得られることがあげられる.過去の報告でもOA-1000とIOLMasterRの測定精度を比較した結果,OA-1000はIOLMasterRと同等の精度であったと報告している5).このようにOA-1000については高い測定精度と再現性が利点としてあげられているものの,詳細にそれらを検討したものは少ない.そこで今回筆者らは,高速測定が可能である新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)の眼軸長測定精度と再現性を調査するため,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用による眼軸長測定の誤差について検討を行った.I方法1.被検者被検者として屈折異常以外に眼科的疾患を認めない健常者18名36眼を用いた.被検者の平均年齢は22.8±2.5歳,平均等価球面度数は?3.67±3.01D(+2.50??6.75D)であった.測定眼は両眼とし,裸眼の場合とSCLワンデーアキュビューR(Johnson&Johnson)装用で測定した.なお,測定に際し,被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.2.測定条件眼軸長の測定には光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)を使用した.測定モードはImmersionモードを採用し,室内環境照度は約400lxの明室下とし,裸眼の場合とSCL装用下の両者で眼軸長の測定を行った.測定精度はSCL装用前後の眼軸長の差から推定されるSCL厚みと,メーカー公称値(0.084mm)の差から評価した.再現性の評価は裸眼測定10回の標準偏差,変動係数(標準偏差/平均×100),10回測定のうちランダムに選んだ2回の95%一致限界(±1.96×SD)で評価した.3.統計解析裸眼とSCL装用時の眼軸長の比較にはWilcoxon検定を用いた.また,両者の相関についてはSpearmanの順位相関係数の検定を行った.II結果裸眼での被検者の眼軸長は25.43±1.28mm,SCL装用後においては25.54±1.28mmとSCL装用前に比べ装用後の眼軸測定で有意な延長が認められ(p<0.01,図1),両者には強い相関関係が認められた(r=0.9997,p<0.01,図2).使用したSCLのメーカー公称厚み84μmとSCL装用前後差から推定されたSCL厚み107.9±32.8μmとの差は23.9±32.8μmであった.再現性については,測定10回の平均標準偏差は10.0μm,平均変動係数は0.04±0.03%であった.また,2回測定から算出された95%一致限界は±23.5μmであった(図3).過去の報告によるIOLMasterR,Aモードとの比較結果を表124.525.025.526.026.527.0裸眼眼軸長SCL装用眼軸長眼軸長(mm)図1眼軸長変化左が裸眼で測定された眼軸長,右はSCL装用での眼軸長を示す.SCL装用で眼軸長は有意に延長した.y=1.0042xr2=0.999323.024.025.026.027.028.029.023.024.025.026.027.028.029.0SCL装用眼軸長(mm)裸眼眼軸長(mm)図2裸眼とSCL装用での相関関係縦軸にSCL装用眼軸長,横軸に裸眼眼軸長,点線は縦軸と横軸1:1を示す.両者には有意な相関が認められた.-0.10-0.08-0.06-0.04-0.020.000.020.040.060.080.1023.024.025.026.027.028.029.02回測定の差(mm)2回測定の平均(mm)図395%一致限界裸眼測定10回のうちランダムに選ばれた2回の95%一致限界.縦軸に差を横軸に平均をプロットしてある.上側限界と下側限界内の領域を灰色で示す.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111339に示す.III考按これまで眼軸長の測定は超音波を用いたものが主流であった.しかしながら,超音波式の眼軸長測定は接触式であるため測定誤差が大きく,また検者の熟練度により測定結果に影響するという欠点があった.過去の報告では,白内障手術で挿入される眼内レンズの度数計算では,眼軸長1mmの測定誤差で2.3Dの屈折誤差になるといわれている1)ため,眼軸長の測定は高い精度が求められてきている.そこで近年,光干渉を用いた眼軸長測定装置が開発された.IOLMasterRに代表される光干渉式眼軸長測定機器は,超音波式に比べて簡便・非接触・高速に眼軸長を測定することができる.IOLMasterRは検者間の再現性が43μmと良好であり,超音波式に比べ検者による誤差が少ない6).IOLMasterRと超音波式Aモードの再現性を比較した報告が過去にいくつかある.標準偏差を指標として比較した結果ではAモード44μm,IOLMasterRで20μmであり,本検討のOA-1000でも10μmの再現性が得られた4).95%一致限界による再現性はAモード,IOLMasterRに比べ本検討が最も再現性がよい結果となった(表1)7,8).同じ光干渉を用いた装置の比較としてLENSTARLS900(HAAG-STREIT)とIOLMasterRの比較9,10)についても報告されており,光干渉式眼軸長測定装置は測定精度や再現性に優れていることがわかる.本検討のようにSCLを用いたIOLMasterRによって測定された眼軸長の再現性の検討をLewisらが行っている11).それによるとSCL装用後に眼軸長は有意な延長(134μm)を示し,標準偏差による再現性は裸眼で約20μmであったと報告されている.OA-1000を用いた本検討もSCL装用前後で眼軸長の測定を行ったが,SCL装用後に眼軸長は有意な延長をし,標準偏差による再現性は裸眼で約10μmであった.同じ光干渉の原理を用い,その他測定範囲(14?40mm)や表示分解能(10μm)は両装置ともに同じ設定ではあるものの,IOLMasterRとOA-1000では光源が異なる.IOLMasterRは波長780nmの半導体レーザーダイオードを用いているのに対し,OA-1000は波長820?850nmのスーパールミネッセントダイオードを使用している.半導体レーザーダイオードを用いた測定法は人体への影響が懸念され,IOLMasterRは各個人に対する一日の測定上限が20回とされているが,スーパールミネッセントダイオードによる測定は人体への影響がないと考えられているため同日の測定条件が設定されていない.このように同じ光干渉式であっても,IOLMasterRとOA-1000には波長など測定原理の違いがある.今回の検討で使用した新しい光干渉式眼軸長測定装置は非侵襲式で安全,簡便,高速に眼軸長の測定が可能であった.本装置の測定精度は約24μm,再現性は約10μmと良好な結果が得られた.このことから新しい光干渉式眼軸長測定装置は今後の臨床応用に期待できる装置であると考えられた.また,今後はさらに白内障眼などにおけるOA-1000の測定精度の検討も期待される.謝辞:稿を終えるにあたり,本研究にご協力いただきました北里大学医療衛生学部進藤真紀殿に感謝いたします.文献1)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼内レンズ.西信元嗣編:眼光学の基礎,p57-62,金原出版,19902)HaigisW,LegeB,MillerNetal:ComparisonofimmersionultrasoundbiometryandpartialcoherenceinterferometryforintraocularlenscalculationaccordingtoHaigis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:765-773,20003)深井寛伸,土屋陽子,野田敏雄ほか:光学式眼軸長測定器(IOLマスターTM)の眼軸長測定精度の検討.IOL&RS17:295-298,20034)嶺井利沙子,清水公也,魚里博ほか:レーザー干渉による非接触型眼軸長測定の検討.あたらしい眼科19:121-124,20025)氣田明香,須藤史子,島村恵美子ほか:光学式眼軸長測定装置OA-1000とIOLマスターRの比較.日本視能訓練士協会誌38:227-234,20096)LamAK,ChanR,PangPC:TherepeatabilityandaccuracyofaxiallengthandanteriorchamberdepthmeasurementsfromtheIOLMaster.OphthalmicPhysiolOpt21:477-483,2001表1過去の報告との比較超音波Aモード4,7,8)IOLMasterR4,7,8)OA-1000(本検討)測定時間4)約5分約1分約20秒再現性標準偏差4)44μm(36~67μm)20μm(7~38μm)10μm(0~33μm)再現性95%一致限界7,8)±300μm(成人)±760μm(小児)±90μm(成人)±40μm(小児)±24μm(成人)─過去の報告における被検眼数は文献4),7),8)でそれぞれ12,20,179眼であった.1340あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(120)7)ShengH,BottjerCA,BullimoreMA:OcularcomponentmeasurementusingtheZeissIOLMaster.OptomVisSci81:27-34,20048)CarkeetA,SawSM,GazaardGetal:RepeatabilityofIOLMasterbiometryinchildren.OptomVisSci81:829-834,20049)BuckhurstPJ,WolffsohnJS,ShahSetal:Anewopticallowcoherencereflectometrydeviceforocularbiometryincataractpatients.BrJOphthalmol93:949-953,201010)RohrerK,FruehBE,WaltiRetal:Comparisonandevaluationofocularbiometryusinganewnoncontactopticallow-coherencereflectometer.Ophthalmology116:2087-2092,200911)LewisJR,KnellingerAE,MahmoudAMetal:Effectofsoftcontactlensesonopticalmeasurementsofaxiallengthandkeratometryforbiometryineyeswithcornealirregularities.InvestOphthalmolVisSci49:3371-3378,2008***