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第一世代Ahmed ClearPath (ACP) の使用経験と6カ月の短期治療成績

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):924.927,2025c第一世代AhmedClearPath(ACP)の使用経験と6カ月の短期治療成績千原悦夫千原智之千照会・千原眼科CAnalysisofAhmedClearPathTreatmentOutcomesOveraShort-TermPeriodof6MonthsEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC3例C3眼の難治性緑内障眼に対して第一世代CAhmedClearPath(ACP)による治療を行った.術前C35.2±7.6CmmHg(4.7±1.5剤)であったものがC6カ月後にはC14.0±3.6CmmHgに下がり,2眼は点眼フリーとなった.視力は術前と比べて悪化したものはなかった.術後短期合併症として浅前房があったが自然治癒し,そのほかには特記するべき異常を認めなかった.3例におけるC6カ月という短期の経過観察ではあるが,経過は良好であり,第一世代CACPは十分臨床使用に耐えるものと考えられた.CHerein,wereportthesurgicaloutcomesof3eyesof3refractoryglaucomacasesthatweretreatedusingtheAhmedCClearPathR(ACP)(NewCWorldMedical)drainageCdevice.CPreoperativeCmeanCintraocularpressure(IOP)CwasC35.2±7.6CmmHg(meanCnumberCofCmedicationsCbeingused:4.7±1.5).CAtC6-monthsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCdecreasedCtoC14.0±3.6CmmHg,CandC2CeyesCnoClongerCrequiredCeye-dropCinstillation.CMoreover,CthereCwasCnoCworseningofvisioncomparedtothepreoperativelevels.Atransientanteriorchambershallowingwasobservedasashort-termpostoperativecomplication,butitresolvedspontaneouslyandnoothersigni.cantabnormalitieswerenoted.Althoughthefollow-upperiodinthese3caseswasshort(i.e.,6months),our.ndingsrevealedthattheout-comeswerefavorableandthatACPimplantationisbothsafeande.ectiveforthetreatmentofrefractoryglauco-ma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):924.927,C2025〕Keywords:緑内障ロングチューブシャント,難治性緑内障,AhmedClearPath(ACP),術後眼圧,手術合併症.Cglaucomadrainagedevice,refractiveglaucoma,AhmedClearPath,post-surgicalintraocularpressure,surgicalcom-plications.Cはじめに第一世代CAhmedClearPath(ACP)はC2024年C3月に医療材料としてわが国の認可を得た新しい緑内障ロングチューブシャントである.従来,わが国のロングチューブシャントはBaerveldt緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)とCAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)しかなかったが,3種類目のロングチューブが導入されたことになる.筆者らはこのチューブを試用する機会があったので,その6カ月の結果を報告する.I第一世代ACPの概要第一世代CACPは調圧弁のないロングチューブで,眼圧下降機序はCBGIと似ているが,プレートとCsutureholeの形状が改良され,ステントが前置されるという改善が施されている.プレートの材料はバリウムを含むシリコン素材で乳白色をしており,表面は研磨されて平滑である.FenestrationholeがC4個あり,BGIのC4個と同じである.プレートの形状はCBGIが楕円形であるのに対して第一世〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会・千原眼科Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC924(140)図1第一世代ACPの術中所見第一世代CACPの出荷時には,あらかじめチューブ内にC4-0ポリプロレン糸が挿入されており,後から入れなくてはならないCBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)よりも改善されている.また,プレートは矩形に近くなっており,操作性が改善されている.代CACPは矩形に近く,外直筋の下に挿入するにあたって入れやすくなるように工夫されている(図1).プレート面積はCP250がC250CmmC2,CP350がC350CmmC2であり,BGIにおけるC250CmmC2/350Cmm2と同じである.従来の報告では,BGIとほぼ同等の眼圧下降効果が得られている1.4).プレートを強膜に固定するためのCsutureholeの位置と形状は特徴的で,この部分はプレート本体から岬状に突出しており可動性がある.従来のCBGIやCAGVでは二つのCsutureholeの距離が一定であり,プレートを強膜上に固定する場合は歪みを生じないように配慮が必要であるが,第一世代ACPの場合は多少のずれであればデバイスの方が順応してくれるので術中操作がやりやすくなった(図2).チューブの外径はC0.635Cmmと内径はC0.305Cmmとなっており,従来のCAGVと変わらない.このチューブ内には,出荷時からC4-0ポリプロピレン糸が挿入されている.BGIの場合は手術時にC3-0のナイロン糸あるいはプロリン糸を挿入する必要があったが,第一世代CACPではその手間が省けるようになっている.チューブの挿入部位は前房・毛様溝・硝子体腔のいずれも可能であるが,ステントが入った状態なので剛性が高く挿入操作はやりやすい(図3).CII術後低眼圧と高眼圧の抑制ステントは入れてあるが,そのままでは術後低眼圧が起こるので,術中にチューブを結紮してCSherwoodslitを入れておく必要がある.ただ,これでも術後高眼圧を起こす可能性があるので,その調節のためにチューブを結紮するときにチューブの外側にC7-0もしくはC6-0のナイロン糸をC2本おいて一緒に縛り,高眼圧が起こったときに順次抜くようにすると眼圧の調節ができる(図4).チューブを前房に挿入するときは輪部からC2Cmm,毛様溝ではC2.5Cmm,硝子体腔に挿入するときはC3.5Cmm後方で強図2第一世代ACPのsuturehole第一世代CACPのCsutureholeはプレート本体から岬状に突出した突起の中にあり,可動性がある.そのため,強膜に固定する場合に二つのCholeが多少ずれても順応してくれるので扱いやすい.図3第一世代ACPのデザインプレート形状は矩形に近く,BaerveldtglaucomaCimplant(BGI)とは異なるが,プレートの面積がC250CmmC2のCCP250(Ca)とC350Cmm2のCCP350(Cb)があり,BGIと同じになっている.(NewWorldMedicalのホームページより転載)膜を穿孔する.通常はC23CGの針を用いるが,針の方向には注意が必要である.前房に挿入する場合は角膜からの距離が保たれるように虹彩面に平行に挿入し,毛様溝では水晶体.や虹彩に当たらないように十分粘弾性物質で空間を作ってから挿入する.何度もさしなおすと出血することがあるので注意が必要である.硝子体腔挿入では眼球中心に向かって挿入するが,kinkingが起こっていないことを確認する必要があ図4術後の低眼圧と高眼圧の抑制第一世代CACPは調圧弁がないタイプのインプラントで,低眼圧制御のために出荷時からC4-0ポリプロピレン糸(.)が挿入してあるが,それでも術直後の低眼圧が起こりうる.それを防ぐためには,チューブを結紮する必要があるが,結紮により短期的な術後高眼圧が起こるので,Sherwoodslitを作成するが,それでも高眼圧が起こる.その対策として,チューブの結紮を行う場合にはチューブの外側にC6-0もしくはC7-0のナイロン糸(.)を置いて一緒に縛り(.:7-0ポリソルブ糸),術後高眼圧が起こった場合に一本ずつ抜くという操作を加えると,術後高眼圧を乗り切ることができることが多い(左側のC4-0絹糸は上直筋にかけた牽引糸).る.チューブの被覆は保存強膜を使用することが多いが,最近では強膜トンネルをする術者も増えてきている.GoretexやEverPatchなど人工材料を使う被覆も検討されているが5),現時点では保存強膜を使うことが無難と考えられる.CIII対象と方法対象は点眼・内服での眼圧コントロールが不良であり,結膜瘢痕や虹彩血管新生のために緑内障インプラント手術の適応となった難治緑内障C3例C3眼である,これらの患者に対して,手術に関するインフォームドコンセントを得たうえで手術治療を行った.研究デザインは当院CIRB(主任天野)の承諾を得ており,世界医師会ヘルシンキ宣言に則って行われている.CIV手術手技外上方結膜輪部切開後にCTenon.下麻酔を行い,外直筋を露出して牽引糸を置く.Tenon.下組織を郭清し,プレートを直筋の下に挿入する.つぎに,輪部からC7Cmmの場所でプレート固定のためのCanchorsuture糸(筆者はC5-0テフデック(ポリエステル)だがC8-0ナイロン糸を使う術者も多い)を置き,これをCsutureholeに通糸してプレートを固定する.前房と硝子体腔にチューブを挿入する場合は眼内にC2表1眼圧,視力,点眼数の経過眼圧術前1カ月後3カ月後6カ月後C35.2±7.6C19.7±12.7C15.3±1.5C14.0±3.6点眼数術前6カ月後C4.7±1.5C0.7±1.2矯正視力術前6カ月後C(小数視力)0.68±0.75C0.74±0.74Cmm(+強膜内C2Cmm)入るようにトリミングするが,毛様溝に入れる場合はC3Cmm(+3Cmm)になるようにトリミングする.毛様溝にチューブを留置するためには前房穿刺のあと,粘弾性物質で毛様溝空間を拡大し,適当な経線部分で輪部からC2.5Cmm離れてC23CG針で強膜・ぶどう膜を穿孔し,ここにチュ.ブを挿入する.チューブをC9-0ナイロン糸で強膜に固定し,チューブのそばにC7-0もしくはC6-0ナイロン糸(ripcord)をC2本おいてチューブとCripcordをまとめてC7-0吸収性の糸でもろともに結紮する(図4).結紮の角膜寄りでC3カ所程度のCSherwoodslitを作成する.保存強膜を適当な大きさに切り,チューブの上に置いてC9-0ナイロンC4糸で固定する.結膜創をC8-0ポリソルブ吸収糸で閉じる.結膜創からはみ出ているC4-0プロリンステントはトリミングして異物感の原因にならないように配慮する.術後処置としてデキサメサゾン(デカドロン)の結膜注射をし,抗菌薬とステロイド軟膏を塗布して眼帯する.CV手術成績2024年C4月からC6月の間にC3例の第一世代CACP手術を行った.平均年齢はC55±15.1歳,観察期間はC174±21日,眼内手術既往数はC1.7±0.6回,小数視力はC0.68±0.75(0.03-1.5),屈折は無水晶体眼C1眼,偽水晶体眼C1眼,.4.5の近視C1眼であった.病名は小眼球に伴う続発緑内障C1眼,偽水晶体眼に伴う続発緑内障C1眼,糖尿病に伴う血管新生緑内障1眼である.内皮数はC2090±400/mm2,ステント抜去は術後C31.7±11.7日,ripcord抜去はC17±14.7日であった.眼圧,視力,点眼数の経過を表1に示す.3眼中C2眼は点眼フリーとなり,術後C6カ月の小数視力はC0.74±0.74と改善気味であった.合併症としてはC1例で浅前房があったが自然治癒し,そのほかの重大な異常はない.CVI考按ロングチューブは濾過手術の一種であるが,濾過胞はトラベクレクトミーにおけるそれよりも後方にできるので濾過胞漏出や感染のリスクが低く,また,術後の眼圧下降がプレートの大きさによって影響されると考えられているため,術後の眼圧を想定された範囲に収めることが可能であるという特徴がある.低眼圧黄斑症が起こりにくいこともロングチューブの特徴であり,トラベクレクトミーと比べると安全性が有意に高いとされており,このことが世界的にトラベクレクトミーからロングチューブへと術式のシフトが起こっている理由である6,7).ロングチューブには調圧弁のついたもの(現在はCAGVのみであるが,過去にはCWhiteCPumpShuntやClongCKrupinCDenverCvalveCimplantなどがあった)と調圧弁のないもの(BGI,Molteno3implant,PaulGlaucomaimplantなど)があり,一般論として弁のないものは眼圧下降効果が強いが,低眼圧黄斑症などの合併症が多いということがいわれてきた.弁のないロングチューブの最大の欠点は術後の低眼圧による合併症と考えられるが,これに対応する改良点としてチューブを細くしたり,術中チューブ内にステントを留置して流量を調節したりするようなデバイスが出てきており,それが今回紹介した第一世代CACPと,まだわが国では未発売のCPaulGlaucomaimplantである.術後低眼圧が起こるのはチューブ設置後C1.2カ月であるので,その間をステント・ripcordとチューブの結紮で乗り切り,最終的にステントを抜去すれば,術後の眼圧は弁なしのほうが低くなり成功率が高いことは報告されているとおりなので,より大きな眼圧下降が求められる眼にとってはメリットがある8).今回はC3例のみの経験であるが,6カ月の臨床経過は良好であり,今後適応を選んで実臨床に応用していくことが望ましい.CVII結論新しい弁のないロングチューブである第一世代CACPの使用経験について報告した.従来の弁なしのロングチューブと比べるといくつかの点で改善されており,今後有用な治療デバイスになると考えられた.利益相反:JFCセールスプラン,JFCセールスプランFII文献1)DorairajCS,CChecoCLA,CWagnerCIVCetal:24-MonthCOut-comesCofCAhmedCClearPathRCGlaucomaCDrainageCDeviceCforCRefractoryCGlaucoma.CClinCOphthalmolC16:2255-2262,C20222)ElhusseinyAM,VanderVeenDK:EarlyExperienceWithAhmedCClearCPathCGlaucomaCDrainageCDeviceCinCChild-hoodGlaucoma.JGlaucomaC30:575-578,C20213)ShalabyCWS,CReddyCR,CWummerCBCetal:AhmedCClear-PathCvs.CBaerveldtCGlaucomaImplant:ACRetrospectiveCNoninferiorityCComparativeCStudy.COphthalmolCGlaucomaC7:251-259,C20244)BoopathirajCN,CWagnerCIV,CLentzCPCCetal:36-MonthCOutcomesCofCAhmedCClearPathRCGlaucomaCDrainageCDeviceCinCSevereCPrimaryCOpenCAngleCGlaucoma.CClinCOphthalmolC18:1735-1742,C20245)安岡恵子,多田憲太郎,安岡一夫:人工硬膜使用のCAhmed緑内障チューブシャント手術.眼科手術C37:541-545,C20246)VinodK,GeddeSJ,FeuerWJetal:PracticepreferencesforCglaucomasurgery:aCsurveyCofCtheCamericanCglauco-masociety.JGlaucomaC26:687-693,C20177)ChiharaE:TrendsCinCtheCnationalCophthalmologicalChealthcarefocusingoncataract,retina,andglaucomaover15yearsinJapan.ClinOphthalmolC17:3131-3148,C20238)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal:Five-yearCpooledCdataCanalysisCofCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudyandtheAhmedversusBaerveldtstudy.AmJOph-thalmolC176:118-126,C2017***

急性涙囊炎に対するアジスロマイシン点眼液を涙囊内に注入する治療法の結果

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):919.923,2025c急性涙.炎に対するアジスロマイシン点眼液を涙.内に注入する治療法の結果久保勝文*1工藤孝志*2*1吹上眼科*2十和田市立中央病院眼科E.ectofAzithromycinOphthalmicSolution1%InjectionIntoTheLacrimalSacforAcuteDacryocystitisMasabumiKubo1)andTakashiKudo2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TowdaCityHospitalC吹上眼科にてアジスロマイシン(AZM)点眼液の涙.内注入で治療した,急性涙.炎の成績について報告する.急性涙.炎を認めた男性C1例女性C7例,全員片側の計C8例で,手術希望がないC7例,希望があるC1例だった.年齢は,38.95歳で平均年齢C74.9C±18.1歳.通水試験で鼻涙管閉塞症をC6例に認め,2例に認めなかった.上涙点より生食で涙.内洗浄後に,涙.内をCAZM点眼液に完全に置換する治療で,8例全員がC1.3日と短期間で消炎鎮痛した.観察期間中にC2例で涙.炎再発を認めず,2カ月後とC5カ月後にそれぞれC1例が再発した.消炎後に涙.鼻腔吻合術C3例,涙.摘出術C1例を行った.AZM点眼液の涙.組織への高い移行性と長期間の持続性により,急性涙.炎の治癒と再発予防が可能になったと考えた.手術以外の代替治療や,手術前の速やかな消炎治療方法としてCAZM点眼液を涙.内に注入する治療法は効果があると考えられた.CPurpose:Toreportthee.cacyofazithromycinophthalmicsolution1%(AZM)injectionintothelacrimalsac(LS)forCacutedacryocystitis(AD)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC8CADpatients(1Cmale,C7females;meanage:74.9C±18.1years[range:38-95years])C.Ofthose,6hadnasolacrimalductobstruction,yet2hadnoobstruction.Inalltreatedeyes,afterwashingtheLSwithsalineviathesuperiorlacrimalpunctum,itwas.lledCwithCAZMCviaCinjection.CResults:InCallCcases,CimmediateCresolutionCofCpainCandCrapidCcontrolCofCinfectionComlurredpostinjection.In2casestherewasnorecurrence,yetrecurrencedidomlurin1caseat1-monthpostinjectionandin1caseat5-monthspostinjection.Afterimprovementofin.ammation,3casesunderwentdacryo-cystorhinostomyand1caseunderwentdacryocystectomy.Conclusion:InjectionofAZMatahighconcentrationintotheLSwasfoundtobeane.ectivealternativetherapyforAD,aswellasforrapidreductionofin.ammationpriortosurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):919.923,C2025〕Keywords:アジスロマイシン点眼液,急性涙.炎,涙.鼻腔吻合術,涙.摘出術,注入療法.azithromycinCoph-thalmicsolution,acutedacryocystitis,dacryocystorhinostomy,dacryocystectomy,injectiontherapy.はじめに急性涙.炎は涙道疾患のC2.4%にみられ,まれな疾患ではない1).急性涙.炎の増悪・寛解を繰り返し,涙.摘出術や涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を説得しても,手術を拒絶する老齢患者も多い.手術の有無にかかわらず速やかな消炎鎮痛も必要となるため1),急性涙.炎に対して点滴・内服および点眼を処方するが,薬剤耐性率が高くなっているためか2,3),改善までに長時間を要する場合も多い1.3).急を要する場合では,涙.穿刺や涙.切開で排膿する治療方法がとられる1,2,4).しかし,5%ほどで涙.皮膚瘻を形成し,事態が悪化することもある4).今回,アジスロマイシン(AZM)点眼液は涙.炎への適応病名をもち,組織への高い薬物移行性と5)長期の良好な薬物滞留性により6)涙.炎治療に有効であり,さらに涙.内に注〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,PhD.,FukiageEyeClinic,2-10FukiageHachinohe031-0003,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(135)C919表1症例1~8のまとめNo.年齢性別(歳)初診時通水検査涙.炎治癒後の通水検査観察期間(月)結果培養結果備考C62女性鼻涙管閉塞通水良好C72カ月後再発CNeisseriasp.C92女性鼻涙管閉塞検査なしC5手術(涙.摘出術)発育を認めずC73女性通水良好通水良好C55カ月後再発CPseudomonaeaeruginosaIgG4:C527C↑(C11-121)涙道内視鏡検査で異常なしC75女性通水良好通水良好C4涙.炎治癒CCorynebacteriumsp.涙道内視鏡検査で異常なしC38女性鼻涙管閉塞検査なしC3手術(DCR)CAcinetobactersp.初診時より手術希望C83男性鼻涙管閉塞検査なしC2Stenotophomonas手術(DCR)CmaltophiliaC95女性鼻涙管閉塞検査なしC1涙.炎治癒CEnterobactraogenesC80女性鼻涙管閉塞検査なしC1手術(DCR)発育を認めずDCR:dacryocystorhinostomy.入すればより効果的であると考えて治療を行ったので結果を報告する.CI対象と方法2023年C8月.24年C3月末の期間で急性涙.炎の患者に対して生食で涙.内洗浄を行い,その後CAZM点眼液で涙.内に注入する治療を行った.10症例に行い,1例は治療後来院せず.1例は全身麻酔希望のため他院紹介.残りの急性涙.炎C8例について考察を行った.男性C1例,女性C7例で年齢はC38-95歳で平均年齢はC74.9C±18.1歳.全員片側で観察期間はC1.7カ月,平均C3.5C±2.1カ月.全例に涙.部に発赤・圧痛を認める急性涙.炎を認めた.初診時の通水検査ではC6例には鼻涙管閉塞症があり,2例は閉塞がなく通水があるのを確認した(表1).初診時はC7例に手術希望がなく,1例(症例5)が手術を希望した.細菌検査は,涙.内から注射筒で採取または通水検査時に逆流した膿汁をカルチャースワブプラス医科用捲綿糸(日本ベクトン・ディキンソン社製)にて採取し,全例ビー・エム・エル社で細菌培養検査を行った.全例で好気性細菌培養検査を行い,血液寒天培地,BTB寒天培地およびチョコレート培地で行った.AZM点眼液による処置は,点眼麻酔後にC2.5Cml注射筒にディスポーザルの曲の涙洗針(27CGC×25Cmm,エムエス)を装着して生食で十分に涙.内を洗浄後にCAZM点眼液を注射筒内に移し,指で涙.を触診し,十分な大きさになるまでAZM点眼液を涙.内に注入した.当院初診C2例,他施設からの紹介C6例で,基本的に前医の点眼内服を継続し,適宜AZM点眼液とクラリスロマイシンC200Cmg2回C5日分を追加処方し,1.3日後に来院を指示した.II結果8例全員がC1.3日で速やかに消炎し,2例は涙.炎が治癒して観察期間中に再発しなかった.2例はいったん涙.炎が治癒したが,2カ月後とC5カ月後にC1例ずつ再発した.消炎後に手術を希望したC3例と初診時から手術を希望していたC1症例の計C4症例に対してCDCR3例および涙.摘出術C1例を行い経過良好である(表1).初診時に鼻涙管閉塞のなかったC2例(症例C3,4)について,消炎した時点で涙道内視鏡検査を行ったが,軽い鼻涙管狭窄を認める以外に涙.内結石などの異常を認めなかった.培養結果は,細菌の発育を認めなかった症例がC2例.6例でCNeis-seriasp.,Pseudomonaeaeruginosa,Corynebacteriumsp.,CStenotophomonasmaltophilia,Enterobacteraerogenes,CAcinetobacterCsp.をそれぞれ検出した.細菌感受性試験は,AZM点眼液に対しては行わなかった(表1).以下にC3症例を提示する.[症例1]62歳,女性,近医で何度か涙.炎を治療し,鼻涙管閉塞を指摘されていたが,眼脂が強くなり当院を受診.初診時に涙.炎を認め,通水検査で通過性はなかった.AZM点眼液で治療後C1週間後に涙.炎は治癒し,通水検査でも通過良好でその後通院がなかった.しかし,2カ月後に涙.炎で再受診し,涙.炎を認め,通水検査で通過性を認めず,AZM点眼液を涙.内に注入後に来院がなかった.[症例2]92歳,女性.以前より何度か急性涙.炎を起こしていたが,今回腫れが引かないので当院へ紹介となる.初診時は図1のように涙.が大きく腫れて強い痛みを訴えた.涙.洗浄後にCAZM点眼液を涙.内注入し,翌日には消炎し痛みもなくなった(図2).後日,涙.摘出術に同意し手術を行い,経過良好である.図1症例2の初診時顔写真左眼急性涙.炎で大きく腫脹している.図3症例6の初診時顔写真右急性涙.炎で大きく腫脹している.[症例6]83歳,男性.近医で穿刺排膿の治療をしていたが,半年前から涙.部分の腫瘤が徐々に大きくなり,治療目的で当院に紹介となる(図3).ガチフロキサシンC5CmlおよびC0.1%フルオロメトロンC5Cmlを右眼にC4回点眼していた.初診時に右涙.部が大きく腫れ,痛みが強く,手術希望はなく,前医で行っていた涙.穿刺を希望した.涙.洗浄後にAZM点眼液を注入し,クラリスロマイシン錠C200Cmgの内服を追加した.3日後の来院時には消炎し,痛みも引いていた(図4).その後も増悪なく,2カ月C10日後には慢性涙.炎の状態となりCDCRを希望した.手術中もとくに出血がなく,術後も経過良好である.CIII考按涙.炎は,鼻涙管閉塞などの原因で起こる感染症疾患であ図2症例2のAZM点眼液を涙.内に入れた翌日涙.部の炎症は鎮静化し,痛みもほぼ消失した.図4AZM点眼液を涙.内に入れた3日後涙.部の炎症は鎮静化し,痛みもほぼ消失した.り,速やかに消炎ができなければ眼窩内に炎症が波及し,失明することもあるため,慎重に診察治療する必要がある1).涙.摘出術やCDCRなどの外科治療を行うことができれば,急速に治療できる疾患ではあるが1,2,4),抗菌薬の点眼や抗菌薬の内服・点滴では治癒までにC1.2週間やC10日を要すると報告されている1,2,4).今回はC7例と症例は少ないが,今までの経験以上に速やかに消炎・鎮痛が行えた.点滴を常備できない開業医や,紹介病院まで遠い医療施設において,常備しやすいCAZM点眼液の涙.内注入で抗菌剤の内服・点滴と同等に速やかに治療できるなら,患者および開業医にとって有用と考えられる.涙.炎の起炎菌は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,レンサ球菌が多く,鈴木らは,涙.内貯留液から分離された菌C64株のうち,グラム陽性菌はC44株,グラム陰性菌はC19株,真菌はC1株と報告している3).AZMは,ブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌,コリネバクテリウム属,インフルエンザ菌,アクネ菌に対する抗菌作用を示すが,感受性はフルオロキノロンには及ばない.しかし,組織内移行性と滞留性がよく,一度の点眼で長期に炎症を抑える効果が期待できる薬剤である7,8).今回は,検出された細菌でのCAZMへの感受性を行っていないので次回以降の検討が必要と考えた.また,AZMの内服・点滴では,涙.炎の適応病名がなく,AZMの静脈内投与はC2時間かけて点滴する必要がある.それに比較して,AZM点眼液では涙.炎の適応病名があり7),AZM涙.内注入は点滴に比較し短時間で終わり,医療側,患者側の負担も少ない.涙.内への薬物注入治療による涙.炎治療についての報告は,わが国では前田らと松見らによる軟膏注入したC2編があり,海外での報告は確認できなかった9,10).報告が少ない原因は,軟膏の粘性が高く注入自体が容易でないことが原因と思われる10).また,AZM点眼液の涙.注入についての報告は,わが国および海外で確認できなかった.軟膏の注入の効果については,わが国で前田らが慢性涙.炎に対して眼軟膏の種類を変えて注入したが,完全に分泌物は消失しなかったと報告している9).また,約C100例の慢性涙.炎の注入で全例有効だったが,2.3週間ごとの注入が必要で,注射器と洗浄針の固定が外れないよう注意が必要だったとしている.松見らは,DCR後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(mechicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)涙.炎に,ペリプラスト用の微量滴下セット(20ゲージ)を用い,6日連続で涙.内にバンコマイシン眼軟膏注入を行い,最終的に眼脂,結膜充血がなく排膿を認めない状態まで改善させた10).今回のCAZM点眼液は,通常の点眼液よりは粘性が高いが針が外れることもなく,27CGの洗浄針とC2.5Cmlのディスポーザルの注射器で,容易に涙.内に注入することができ,特別に用意する物品はなく,容易にC1回のCAZM涙.内注入で,頻回の軟膏注入と同等の治療効果が期待できると考えられた.再発までの期間は,前田らの報告ではC2.3週間であった9)のに比べて今回は症例が少ないが,2カ月とC5カ月と再発までの期間をより長期間維持できた.AZMが組織内に長く残留し,再発を長期間防止し,手術に同意しない高齢患者の涙.炎の消炎を長期間維持できる可能性が高いと考えた.涙.内に眼軟膏注入する療法の効果の機序として,軟膏の粘性が高いため,分泌物が洗い流され,軟膏が長期に滞留することや,局所濃度が高いことなどがあげられている9).AZM点眼液の注入でも同様の機序が考えられ,加えて閉鎖された涙.内に注入されるため,反復点眼のような効果で高濃度の薬剤が長期にわたり組織に滞留する6,11).さらに,AZMが炎症抑制作用をもつことが寄与していると思われた7,11).しかし,ブジーと軟膏注入療法を行ったC2年後に,下眼瞼に腫瘤を形成したという報告があり12),軟膏が皮下に迷入した結果と考えられており,AZM点眼液注入にも注意が必要であると考えた.急性涙.炎に対して涙.切開を積極的に行う治療法や,針で吸引する方法も報告されている13).今回は,全員涙点より涙.内に到達可能だった.症例や施設によっては積極的に涙.切開や穿刺を行い,直接創部より涙.内にCAZM点眼を注入することも可能であると考えた.AZM点眼液を創部から涙.内粘膜に作用させることにより,今回も同様の効果が得られるかは不明だが,症例があれば検討したいと考えた.当院初診時の涙.炎にもかかわらず通水検査で通水があり,涙.炎治癒後に涙道内視鏡検査を行ったが,軽度の鼻涙管狭窄以外の異常を認めなかった症例がC2例あった.症例C3はCIgG4関連疾患として観察中であり,IgG4関連疾患としての涙.から鼻涙管粘膜の一時的な浮腫が発生し,機能的な鼻涙管閉塞に至り,消炎できたあとは鼻涙管粘膜の浮腫がとれ,通過性が回復した可能性が高いと思われた14).症例C4では,涙.内結石がもともとあったが15),AZM点眼液注入時で涙.内結石が洗い流され,後日涙道内視鏡検査を行っても異常を認めなかった可能性や,症例C3と同様にCIgG4関連疾患の可能性もあるが,採血を行っていないのでそれ以上は不明だった.涙.炎に対してもCIgG4関連疾患の可能性を念頭におかなければならないと考えた.涙.炎の根治治療としてCDCRや涙.摘出術が確立しているが,患者の高齢化などにより手術に同意しない場合も増加すると考えられ,老齢患者では内服薬コンプライアンスが悪い場合も多い.手術前の速やかで効果的な消炎や手術の代替治療として,AZM点眼液の涙.内注入療法は,症例が少ないものの患者と医療側ともに利益がある治療法である.今後も症例を増やし,検討することが必要であろう.CIV結論AZM点眼の涙.内注入により,急性涙.炎の速やかな消炎・鎮痛をすることができた.一時的な代替治療および手術前の消炎・鎮痛が目的であれば,従来の点眼および点滴・内服治療と比較して同等かそれ以上の効果があり,導入の容易な治療である可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鎌尾知行:2.急性涙.炎.眼科62:1293-1298,C20202)CahillCKV,CBurnsJA:ManagementCofCacuteCdacryocysti-tisCinCAdult.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC9:38-41,C19933)鈴木亨,森田啓文,柳本孝子ほか:涙道手術では抗菌点眼薬は何を選択すべきか?.あたらしい眼科C17:385-389,C20004)AliMJ,JoshiSD,NaikMNetal:Clinicalpro.leandman-agementoutcomeofacutedacryocystitis:twodecadesofexperienceCinCaCtertiaryCeyeCcareCcenter.CSeminCOphthal-molC30:118-123,C20155)SakaiCT,CShinnoCK,CKurataCMCetal:PharmacokineticsCofCazithromycin,levo.oxacin.ando.oxacininrabbitextraoc-ularCtissuesCafterCophthalmicCadministration.COphthalmolCTherC8:511-517,C20196)AkpekCEK,CVittitowCJ,CVerhoevenCRSCetal:OcularCsur-facedistributionandpharmacokineticsofanovelophthal-mic1%azithromycinformulation.JOculPharmacolTherC25:433-439,C20097)井上幸次:アジスロマイシン点眼:薬剤耐性対策時代の新しい抗菌点眼薬.IOL&RSC34:151-156,C20208)松永敏幸:新規C15員環マクロライド系抗菌薬アジスロマイシン(ジスロマックC.)の薬理学的および薬物動態学的特性.日薬理誌117:343-349,C20019)前田清二,中村秀夫,佐藤直樹ほか:慢性涙.炎に対する軟膏注入の試み.臨眼48:622-623,C200410)松見文晶,三ツ井瑞季:涙.鼻腔吻合術後の難治性慢性涙.炎に対する涙.内抗菌眼軟膏注入療法.耳鼻臨床C112:C795-800,C201911)IkemotoCK,CKobayashiCS,CHaranosonoCYCetal:Contribu-tionCofCanti-in.ammatoryCandCanti-virulenceCe.ectsCofCazithromycinCinCtheCtreatmentCofCexperimentalCstaphylo-comlusaureuskeratitis.BMCOphthalmolC20:89,C202012)LiebW:Para.ngranulomCdesCunterlides.CKlinCMonblCAugenheilkdC190:125-126,C198713)GuptaCA,CSainiCP,CBothraCNCetal:Acutedacryocystitis:CchangingpracticepatternoverthelastthreedecadesatatertiaryCcareCsetup.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC262:1289-1293,C202414)BatraCR,CMudharCHS,CSandramouliS:ACuniqueCcaseCofCIgG4CsclerosingCDacryocystits.COphthalCPlastCReconstrCSurgC28:e70-e72,C201215)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathoogocalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinJapaneseCpatients:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthal-molC2013:406153,C2013***

春季カタルの未治癒例の臨床的特徴に関する解析

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):915.918,2025c春季カタルの未治癒例の臨床的特徴に関する解析髙橋理恵原田一宏池田文川村朋子尾崎弘明内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofClinicalFeaturesofUnhealedCasesofVernalKeratoconjunctivitisRieTakahashi,KazuhiroHarada,AyaIkeda,TomokoKawamura-Tsukahara,HiroakiOzakiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversityC目的:思春期を超えるまで治療したが治癒に至らなかった春季カタル(VKC)の臨床的特徴の解析.対象および方法:2005年C9月.2014年C10月に福岡大学病院眼科でC2年以上Cproactive療法を行ったCVKCのうちC16歳を過ぎても治癒しなかったC11例(男性C9例,女性C2例.平均初発年齢C9.5歳)が対象.最終再発・診察時年齢,観察期間,臨床スコア,再発回数,アトピー性皮膚炎(AD)の有無を後方視的に検討.臨床スコアは重症眼を用い,再発回数は両眼の合計とした.結果:観察期間はC103カ月,最終再発時年齢はC18.5歳,最終観察年齢はC19.9歳,臨床スコアは開始時3.6最終時C1.0,再発回数はC1.37回/年だった.91%にCADを合併した.結論:VKCの中に思春期を超えても治癒しない症例があった.その臨床的背景は今後検討の余地がある.CPurpose:Toreporttheclinicalcharacteristicsofvernalkeratoconjunctivitis(VKC)casestreateduntilpuber-tyCthatCremainedCuncured.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCsurveyedC11CVKCCcases(9Cmales,C2females;meanageatonset:9.5years)whounderwentproactivetreatmentformorethan2yearsbetweenSep-tember2005andOctober2014,yetfailedtocureuntilafterapatientageof16years.Results:Themeanobser-vationperiodwas103months,andthemeanpatientageat.nalrecurrencewas18.5years.ThemeanpatientageatC.nalCobservationCwasC19.9Cyears,CandCtheCmeanCclinicalCscoreCatCbaselineCandCatC.nalCvisitCwasC3.1CandC1.0,Crespectively.Annually,themeannumberofrecurrenceswas1.37,and91%ofthepatientswerecomplicatedwithatopicdermatitis.Conclusion:AlthoughcasesofVKCthatremainedunhealedbeyondpubertywereobservedinthisstudy,furtherinvestigationoftheclinicalbackgroundinthesecasesisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):915.918,C2025〕Keywords:春季カタル,proactive療法,思春期,ステロイド,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,proactivetreatment,puberty,corticosteroid,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は重症の増殖性アレルギー性結膜疾患であり,幼少期に発症し増悪・寛解を繰り返したあと,思春期に自然治癒することが多い.抗アレルギー点眼薬だけでは不十分な中等症以上のCVKCに対しては免疫抑制点眼薬を追加投与し,これらの点眼でも改善がみられない重症例は,ステロイドの点眼や内服,局所注射が選択される.それでも改善が得られない場合は,結膜乳頭の外科的切除も検討される1).症状の改善が得られたら,ステロイドの低力価への変更や点眼回数を漸減し,寛解状態になれば増悪しないよう,免疫抑制点眼薬や抗アレルギー点眼薬のみでコントロールしていき,再燃を避けるため免疫抑制点眼薬の投与量を調整し,最終的に少量の維持量を続けるproactive療法に関しては,福岡大学病院眼科(以下,当院)ではC2009年より行っている.森らの報告では,ステロイドを使用せずにCproactive療法のみで治療を継続できた症例の割合はC81.2%であり,VKCに対してCproactive療法は有効な治療法であるとしている2).Shimokawaらは,2年以上経過観察ができたCVKC症例の検討で,累積治癒率がC10年間でC84.9%であったと報告している一方,16歳以上でCproac-tive療法を継続している症例がC15.1%あったと報告している3).〔別刷請求先〕髙橋理恵:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RieTakahashi,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1NanakumaJohnan-ku,Fukuoka814-0180,JAPANC表116歳で治癒しなかったVKC11症例の詳細症例性別初発時初診時観察期間最終再発最終診察再発回数臨床スコア治療CAD合併最終転帰免疫抗アレルギーステロイド年齢年齢(月)時年齢時年齢開始時16歳時終了時抑制点眼点眼点眼内服眼瞼注射C1男C8C8C117C17C17C4C3C2C0C○C○C○C××○治療中断C2女C8C10C144C21C23C14C5C0C0C○C○C×〇C6C○治療継続C3女C12C15C105C17C23C3C1C1C0C○C○C×××○治癒C4男C12C14C30C16C16C6C4C0C0C○C○C××5C○治療中断C5男C12C14C48C16C19C1C3C1C0C○C○C××××治癒C6男C6C7C182C19C22C9C5C1C1C○C○C○C×1C○転院C7男C10C12C81C18C18C14C2C1C1C○C○C○C○C11C○治療中断C8男C8C11C117C21C21C26C4C1C2C○C○C○C○C16C○転院C9男C10C11C72C16C17C3C4C1C2C○C○C○C××○治療中断C10男C11C13C90C20C20C10C4C2C2C○C×××7C○転院C11男C7C8C157C22C22C44C5C5C3C○C○C○C○C26C○治療継続今回は,小児期にCVKCを発症し,16歳を超えるまでの長期観察中に治癒に至らなかった未治癒症例の臨床的特徴について解析したので報告する.CI対象および方法2005年9月.2014年10月の10年間に当院でVKCと診断されたC45例のうち,経過中C2年以上Cproactive療法を行ったがC16歳を過ぎても再発し,治癒に至らなかったC11例(男性C9例,女性C2例)を対象とした.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版,以下,ガイドライン)にもとづいて行った1).治癒の定義は,免疫抑制点眼薬でC1年間再発しなかったのち免疫抑制点眼薬を中止してさらにC1年間再発がなかったものとした.本研究は,この治癒の定義を満たさなかった症例が対象である.また,再発の定義はCVKC所見が悪化し,治療を強化したときとした.検討項目は初発時年齢,当院初診時年齢,最終再発時年齢,最終診察時年齢,再発回数,再発の季節との関連,初診診察時臨床スコア,16歳時点での臨床スコア,最終診察時臨床スコア,治療内容,アトピー性皮膚炎(atopicdermati-tis:AD)の有無とした.臨床スコアは,ガイドラインの臨床評価基準のうち,結膜巨大乳頭,輪部腫脹,角膜上皮障害のそれぞれの重症度を,「なし:0」「軽度:1」「中等症:2」「重症:3」とスコア化し,その合計を臨床スコアとした1).両眼例は,より重症な眼のスコアを使用した.ステロイド使用の基準は,ガイドラインの臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症(スコア2)以上,あるいは角膜中等症(スコア2)以上のいずれか,ないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.また,ステロイドの選択は,ガイドラインの臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症(スコア3)あるいは角膜重症(スコア3)のいずれか,ないし療法が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の悪化に対しては点眼を行った.本研究で外科的切除を行った症例はなかった.再発回数は両眼の合計回数とした.診療録をもとに,それぞれの項目について後ろ向きに解析した.再発回数の季節性の比較は,それぞれの季節で再発回数に差がないと仮定したものと比較して有意差があるかCPearsonC|2検定を用い,診察初診時と最終診察時のスコア変化,最終再発時年齢を年齢別にC2群に分けた比較検討はCWil-coxonsinged-rank検定を用いた.本研究は,福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果11症例の結果を表1に示した.VKCが発症した初発時年齢は平均C9.5C±2.2歳(6.12歳)であり,当院初診時年齢は平均C11.2C±2.7歳(7.15歳)であった.観察期間は平均C103C±46カ月(30.180カ月)であり,最終再発時年齢は平均C18.5±2.3歳(16.22歳),最終診察時年齢は平均C19.9C±2.6歳(16.23歳)であった.再発の回数は両眼で平均C12.2C±12.7回(1.44回)であり,1年間あたりの再発回数は平均C1.37C±1.09回/年であった.再発回数と観察期間には相関はなかった(RC2=0.2514)(図1).また,3.5月を春,6.8月を夏,9.11月を秋,12.2月を冬として季節を分け,季節別でみた全症例の累積再発回数は春C49回,夏C31回,秋C18回,冬C36回であり,有意差はなかったが,春と冬に多い結果であった(p=0.051)(図2).臨床スコアは,治療開始時スコア平均C3.6C±1.3(1.5)に再発合計回数(回)50454035302520151050050100150200観察期間(月)図1VKCの再発合計回数と観察期間との相関関係観察期間と再発回数には相関はなかった.対して,16歳時点でのスコアは平均C1.4C±1.4(0.5)と低下していた.最終診察時スコアは平均C1.0C±1.1(0.3)であり,全症例の初診時スコアと比較して最終診察時のスコアは有意に低下しており,11症例中C5症例は最終診察時の臨床スコアがC0となっていた(p<0.001)(図3).最終診察時点での転帰は治癒がC2例,治療継続がC2例,転院がC3例,治療中断がC4例であった.さらに,11症例を最終再発時年齢がC16.19歳の早い群とC20.22歳の遅い群に分けてそれぞれ比較したところ,初発時・初診時年齢や臨床スコア,観察期間に差はみられなかったが,再発回数は最終再発が遅い群のほうが有意に多かった(p=0.023).また,治療内容に関してはステロイドの点眼と内服には差はみられなかったが,眼瞼注射の回数に関しては有意に最終再発が遅い群のほうが多かった(p=0.026).治療内容は,proactive療法を行っているため,免疫抑制点眼は全例使用しており(100%),そのほか,抗アレルギー点眼はC93.3%で使用し,ステロイド点眼はC54.5%,ステロイド内服はC36.4%,ステロイド眼瞼皮下注射はC63.6%で使用していた.全体のC81.8%でステロイドを使用していた.ステロイドを使用しなかった症例はC2例あり,評価したC16歳時点ではCVKCは寛解に至っていなかったが,その後C16歳以上でCVKCの寛解が得られ,治療が終了していた症例だった.ADを合併していたのは全体のC90.9%であった.CIII考按今回,思春期までに寛解しなかったCVKCの特徴について検討した.VKCは通常C10歳頃までに発症する疾患とされ,わが国ではC7.8歳が多いという報告がある4).また,思春期前または直後に自然寛解するともされており,その治療期間はC4.8年と長期間にわたる5).本研究では初発年齢は平均C9.5歳とやや遅く,10歳以上で発症した症例がC6例(54.5%)あった.三島らが報告したC5年以上経過をみたCVKC再6050403020100春夏秋冬(3~5月)(6~8月)(9~11月)(12~2月)図2季節別でみたVKCの再発回数累積再発回数である.季節ごとの差は少なかった.C6543210開始時スコア最終時スコア図3治療前後の臨床スコア治療前と比較して最終診察時点の臨床スコアは有意に低下した.発群の初診時年齢はC7.9歳に多かったが6),本研究では平均C11.2歳であり,10.15歳が半数以上を占めていた.治療期間は,発症が高年齢時だった症例は短かったが,10歳未満で発症した症例はC8年以上と長期にわたっていた.VKCは春の終わりから夏にかけて多く発症すると報告されている.VKCが春先に多い理由は花粉症との関係が示唆されているが,温暖な地域は通年性に出現することもある7).本研究では再発の回数と観察期間には相関関係なく,長期間治療をされていても再発が少ない症例もあれば,来院するたびにステロイド治療を増強している症例もあった.また,有意差は認めなかったものの春と冬に再発がやや多い傾向があった.今回冬にも再発が多かった理由として,ADの合併が関係している可能性が考えられた.VKCはC20.50%にCADを合併していると報告されているが8),本研究におけるCAD合併率はC90.9%と高率であった.ADは冬に乾燥が契機となって悪化することが知られているため,冬にCADが悪化した影響でCVKCも再発した可能性が考えられた.しかし,今回の検討ではCADの増悪の時期についての検討はしていないため,今後の課題としたい.なお,今回の結果は未治癒例のCVKCについてのものであり,VKC全体としての季節性を検討したものでないことに注意が必要である.ADを伴うCVKCの一部は,思春期までに治癒することなく,そのままアトピー性角結膜炎(atopicCkeratoconjunctivi-tis:AKC)に移行することがあるという報告がある9,10).AKCは顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜炎であり,結膜の線維化,角膜の新生血管・混濁を伴うことが多い.AKCには結膜の増殖性変化がみられるものもあるが,それらのない非増殖性のものも含まれる1).また,AKCは思春期前に診断されることは一般的でなく,成人に発症すると考えられているが10),Fujitaらが報告したCVKC41症例のクラスター分析では,ADの存在がVKCの臨床経過に影響を与えることが示唆されており,「思春期発症型CAKC」として分類された.このCVKCは発症がC9歳頃であり,ADの合併率もC71%と高く,治癒傾向が低い傾向にあり,このグループが成人のCAKCへ移行すると考えられた11).本研究も発症年齢が高く,長期間治療を行っており,臨床スコアは改善したものの,9例は免疫抑制点眼を中止する治癒にまで至らずCAKCに移行したと考えられた.一方,年少者であってもCAKCを罹患するという報告もある12).年少者でCVKCと診断された症例の中にはCAKCの患者も含まれる可能性があり,とくにCADを合併している症例には注意が必要である.本研究では治療として,免疫抑制点眼薬のほかに抗アレルギー点眼の併用がC93.3%と多かった.結膜巨大乳頭や角膜所見が増悪する際はステロイドの使用も追加しており,ステロイド眼瞼皮下注射がC11症例中C7症例と多く,症例によっては複数回注射を施行していた.ステロイド内服による全身投与よりもステロイド眼瞼皮下注射の方が多かった理由としては,注射のほうが全身的な副作用を軽減できることに加え,高年齢になると外来で注射が可能となることがあげられる.最終再発時年齢を早い群と遅い群に分けて比較した際に,遅い群の再発回数が多かった理由ははっきりしなかったが,眼瞼皮下注射の回数が多かった理由は,再発時に注射をメインで施行する傾向にあったことが大きな要因であると考えられた.ステロイドを使用しなかったC2例はC16歳時点では治癒に至らなかったが,その後Cproactive療法を継続することでC19歳とC23歳時点で免疫抑制点眼を中止し治癒に至った症例であった.思春期の時点で治癒しなかったCVKCでも,proactive療法によって症状の改善が得られることがわかったが,長期化する要因にCADの合併が関与している可能性が示唆された.今後さらに症例を積み重ね,VKC再発とCAD活動性の時期との相関やほかの要因がないか検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-785,C20212)森貴之,川村朋子,佐伯有祐ほか:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたCproactive療法の治療成績.あたらしい眼科35:243-246,C20183)ShimokawaCA,CIkedaCA,CHaradaCKCetal:Long-termCobservationCofCprognosticCfactorsCandCclinicalCoutcomeCofCvernalCkeratoconjunctivitisCinCchildhood.CClinCOphthalmolC18:2339-2347,C20244)海老原伸行:我が国における免疫抑制薬点眼液による重症アレルギー性結膜疾患の治療.アレルギーC70:942-947,C20215)LeonardiA,LazzariniD,MotterleLetal:Vernalkerato-conjunctivitis-likeCdiseaseCinCadults.CAmCJCOphthalmolC155:796-803,C20136)三島彩加,佐伯有祐,内尾英一:春季カタルにおける長期予後の解析.あたらしい眼科C36:111-114,C20197)VillegasBV,Benitez-Del-CastilloJM:CurrentknowledgeinCallergicCconjunctivitis.CTurkCJCOphthalmolC51:45-54,C20218)ZazzoCAD,CBoniniCS,CFernandesM:AdultCvernalCkerato-conjunctivitis.CurrOpinAllergyClinImmunolC20:501-506,C20209)JongvanitpakCR,CVichyanondCP,CJirapongsananurukCOCetal:ClinicalcharacteristicsandoutcomesofocularallergyinCThaiCchildren.CAsianCPacCJCAllergyCImmunolC40:407-413,C202210)Bremond-GignacD,DonadieuJ,LeonardiAetal:Preva-lenceCofCvernalkeratoconjunctivitis:aCrareCdisease?CBrJOphthalmolC92:1097-1102,C200811)FujitaCH,CUenoCT,CSuzukiCSCetal:Classi.cationCofCsub-typesCofCvernalCkeratoconjunctivitisCbyCclusterCanalysisCbasedConCclinicalCfeatures.CClinCOphthalmolC17:3271-3279,C202312)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:AlargeprospectiveobservationalCstudyCofCnovelCcyclosporine0.1%CaqueousCophthalmicCsolutionCinCtheCtreatmentCofCsevereCallergicCconjunctivitis.JOculPharmacolTherC25:365-372,C2009***

オルソKレンズ装用における未成年の角膜感染症の3例

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):910.914,2025cオルソKレンズ装用における未成年の角膜感染症の3例南幸佑福岡秀記宮平大横井則彦外園千恵京都府立医科大学眼科学教室CThreeCasesofCornealInfectioninMinorsUsingOrthokeratologyLensesKosukeMinami,HidekiFukuoka,HiroshiMiyahira,NorihikoYokoiandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturaluniversityofMedicineC目的:オルソケラトロジー(オルソCK)レンズの装用中に感染性角膜潰瘍を発症した未成年患者C3症例を報告する.症例:症例C1はC18歳,女性で,中学生からオルソCKレンズを使用し,右眼の痛みと充血で京都府立医科大学附属病院眼科を受診.前房蓄膿と角膜中央付近に円形の浸潤と浸潤よりも広い範囲に上皮欠損を認めた.眼脂培養からは緑膿菌が検出された.抗菌薬の頻回点眼,全身投与により改善した.症例C2はC13歳,女性で,1年前からオルソCKレンズを使用し,右眼の眼痛と充血で受診.角膜擦過物の塗抹鏡検にてアカントアメーバのシストを認めた.抗菌薬,抗真菌薬,グルコン酸クロルヘキシジンの頻回点眼にて改善した.症例C3はC11歳,男性(症例C2の弟)で,2年前からオルソCKレンズを使用していた.右眼の異物感で受診し,角膜擦過物のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査からアカントアメーバDNAが検出された.症例C2と同様の治療で改善した.結論:近年,未成年者へのオルソCKレンズ処方が増加しており,不適切なレンズ使用や管理による角膜感染症の増加が懸念されるため,保護者への指導が一層重要となっている.CPurpose:ToCreportC3CcasesCofCinfectiousCcornealCulcersCinCminorsCusingCorthokeratologyClenses.CCasereports:Case1involvedan18-year-oldfemalewithahistoryoforthokeratologylensusesincejuniorhighwhopresentedCwithCpain,Credness,Chypopyon,CandCaCcornealCin.ltrateCandCepithelialCdefectCinCherCrightCeye.CACpusCcul-tureCrevealedCPseudomonasCaeruginosa.CHerCconditionCimprovedCwithCtheCadministrationCofCtopicalCandCsystemicCantibiotics.Case2involveda13-year-oldfemalewhopresentedwithpaininherrighteye,andacornealscrapingrevealedCAcanthamoebaCcysts.CHerCconditionCimprovedCviaCtheCadministrationCofCantibiotics,Cantifungals,CandCchlorhexidinegluconate.Case3involvedan11-year-oldmale(theyoungerbrotherofCase2)whopresentedwithforeignCbodyCsensation.CPolymeraseCchainCreactionCtestingCcon.rmedCAcanthamoebaCDNA.CHisCconditionCimprovedCfollowingCtheCadministrationCofCtheCsameCtreatmentCappliedCinCCaseC2.CConclusions:WithCtheCincreasingCuseCofCorthokeratologylensesinminors,concernsaboutcornealinfectionsduetoimproperuseandcarehaveincreased,soitisnowcrucialtoprovidedetailedguidancetoparentsandguardians.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):910.914,C2025〕Keywords:オルソケラトロジー,感染性角膜潰瘍,アカントアメーバ,緑膿菌.Orthokeratology,Infectiouscor-nealulcer,Acanthamoeba,Pseudomonasaeruginosa.Cはじめにオルソケラトロジー(以下,オルソCK)は,睡眠時に特殊デザインのハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)を装用することにより角膜の形状を一時的に変化させ,日中の裸眼視力を向上させる屈折矯正法である.夜間就寝中にCHCLを使用することで,日中は裸眼で生活できることを目標としている.2009年に初版のガイドラインが公開されたが,当初は適応年齢がC20歳以上とされた.実際には,未成年(20歳未満)への処方がC66%,学童(12歳以下)への処方がC25%にも及び1),また,未成年ゆえの重篤な合併症の報告は少ないという市販後調査2)の結果が報告された.2017年にガイドラインが改定され,未成年に対しても慎重処方という文言が追加された3).視力予後に影響を及ぼすオルソCKの重篤な合併症として感染性角膜潰瘍が報告されており4.5),日本においてC1万人あたり年間C5.4人に発症するといわれている6).オルソCKにおいてはレンズの適切な管理と衛生管理〔別刷請求先〕福岡秀記:〒606-8566京都市上京区広小路通上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Hirokoji-doriAgaru,Kyoto606-8566,JAPANC910(126)図1初診時前眼部写真a:角膜浸潤病巣と前房蓄膿,毛様充血を認める.b:浸潤病巣よりも広い範囲に角膜上皮欠損を認める.が不可欠であり,これらが不十分であると角膜感染症のリスクが増大すると考えられる.しかし,未成年は衛生管理に対する意識が低く,不適切なレンズケアが感染症の原因となりうることが指摘されている7.8).今回,未成年のオルソCKレンズ装用による角膜感染症が生じたC3症例を経験したので報告する.CI症例[症例1]18歳,女性.主訴:右眼眼痛および結膜充血.既往歴:特記事項なし.現病歴:中学生の頃からオルソCKレンズ(Targetpower:C.2.0D)を装用しており,親元を離れて一人暮らしであるため,レンズ管理は全て自身で行っている.京都府立医科大学附属病院眼科(以下,当院)を受診する2日前より右眼の結膜充血と掻痒感を自覚し,市販の点眼薬で様子を見ていた.その翌日から眼痛が出現し,症状が増悪してきたため,当院を受診した.初診時所見:右眼視力は指数弁(矯正不能),左眼視力は1.5(1.5C×S+0.5D),角膜中央部に直径約C4mmの円形の膿瘍と前房蓄膿を認めた(図1).フルオレセイン蛍光造影では膿瘍よりも広い範囲に角膜上皮欠損を認めた.眼脂を培養検査に供し,角膜所見より緑膿菌感染が疑われたため,1.5%レボフロキサシン点眼をC1時間ごと,0.3%トブラマイシン点眼C6回/日,0.3%オフロキサシン眼軟膏C4回点入/日,1%アトロピン点眼C1回/日,4日間のセフタジジムC1Cgの全身投与を開始した.治療開始C1週間後には角膜浮腫の改善,角膜上皮の伸展,前房蓄膿の減少を得て,右眼視力はC0.01(矯正不能)に改善した.初診時に採取した眼脂の培養検査にてCPseudomonasaeruginosaが検出された.治療開始C2週間後には角膜上皮欠損はさらに改善し,1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,0.3%トブラマイシン点眼C3回/日,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1回点入/日に減量し,1%アトロピン点眼を終了とした.治療開始C1カ月後に右眼視力はC0.2(0.5C×sph.2.0D)まで改善した.角膜上皮欠損は治癒したが,病巣の中心に浸潤が残っていたため,1.5%レボフロキサシン点眼C3回/日を継続した.治療開始C2カ月後には右眼視力は0.2(1.0C×sph.2.0D(cyl.1.0DAx140°)と良好であったが,角膜周辺部から角膜混濁に向かう新生血管を認めたため,0.1%フルオロメトロン点眼C2回/日を追加した.治療開始後C4カ月の現在では,上皮下混濁を残すものの血管侵入の悪化はない.[症例2]13歳,女性.主訴:右眼眼痛,右眼結膜充血.既往歴:特記事項なし.現病歴:12歳からオルソCKレンズ(Targetpower:C.6.0D)を装用しており,当初は母親がレンズ管理を行っていたが,夏休みを機に自身で管理を行うようになった.しかし,日常的なレンズ消毒を怠ることが多く,オルソCKレンズを処方している前医にてプロージェントを用いたレンズ洗浄を実施するも,汚れが除去しきれない状態であった.このため,レンズの再作成が予定されていた.当院受診のC15日前から右眼の眼痛と結膜充血を自覚し,当院受診C12日前に前医を受診した.前医では右角膜に点状表層角膜症を認めたため,ガチフロキサシン点眼とオフロキサシン眼軟膏による治療が開始された.しかし,当院受診C2日前に角膜上皮下混濁,偽樹枝状角膜炎が出現したため,アカントアメーバによる角膜炎を疑い,フルコナゾール点眼を1時間ごと,1.5%レボフロキサシン点眼をC6回/日に変更され,当院紹介となった.初診時所見:視力は右眼視力がC0.1(0.2C×sph.7.0D(cylC.2.0DAx25°),左眼視力は0.6(1.2C×sph.2.0D),右眼に放射状角膜神経炎,偽樹枝状角膜炎を認めた(図2).角膜所見よりアカントアメーバ角膜炎が疑われたため,病巣を擦過し,ファンギフローラCY染色とポリメラーゼ連鎖反応(poly-meraseCchainreaction:PCR)検査を行ったところ,染色に図2初診時前眼部写真a:放射状角膜神経炎と角膜上皮下混濁を認める.b:偽樹枝状の角膜上皮欠損を認める.図3症例2の角膜擦過物のファンギフローラY染色アカントアメーバのシストを認める.て円形のアカントアメーバシストが確認できたため,アカントアメーバ角膜炎と診断した(図3).前医での処方をC0.3%ガチフロキサシン点眼C4回/日,0.02%クロルヘキシジン点眼をC1時間ごと,0.1%ミコナゾール点眼(自家調整)6回/日,1%ピマリシン眼軟膏C6回点入/日に変更し,治療を開始した.治療開始C1週間後には,角膜浮腫や放射状角膜神経炎の所見はやや増悪傾向であったが,1カ月後には角膜上皮下混濁を一部残すものの角膜浮腫は改善し,右眼視力は(1.2C×sph.4.5D(cyl.1.0DA180°)と改善した.そこで,0.02%クロルヘキシジン点眼C6回/日,0.1%ミコナゾール点眼C3回/日,1%ピマリシン眼軟膏C3回点入/日へ減量した.角膜混濁は経過とともに軽減し,治療開始半年後にすべての薬剤を終了した.PCR検査では角膜擦過を行った翌日にアカントアメーバが検出されたため,コンタクトレンズ保存液に対しても初診日のC1週間後に追加のCPCR検査を行ったが,アカントアメーバは検出されなかった.[症例3]11歳,男性.主訴:右眼痛.既往歴:特記事項なし.現病歴:症例C2の弟.姉と同じ眼科(前医)にてC9歳からオルソCKレンズ(Targetpower:C.4.0D)を装用しており,姉が以前に角膜感染症を発症した経緯があるため,前医の指導のもと,レンズ管理は母親が行っていた.当院受診のC4日前より右眼の違和感を自覚し,前医を受診した.前医にて右眼角膜下方の上皮下に線状の細胞浸潤を認めたため,セフメノキシム点眼C4回/日,レボフロキサシン点眼C4回/日が開始された.翌日の診察では角膜所見に改善を認めず,0.1%フルコナゾール液の点眼C6回/日,ピマリシン眼軟膏C4回/日,ガチフロキサシン点眼C6回/日に変更されたが,徐々に浸潤が拡大しており,1年前に姉がアカントアメーバ感染を発症していることもあり,さらなる精査目的に当院へ紹介となった.初診時所見:右眼視力はC0.4(0.9C×sph.5.0D(cyl.1.5DAx50°),左眼視力はC0.3(1.2C×sph.4.75D(cyl.0.75DAx30°)であった.右眼には明らかな放射状角膜神経炎を認めなかったが,角膜浮腫と角膜上皮下浸潤,毛様充血を認めた(図4).病巣を擦過し,ファンギフローラCY染色を行ったが,アカントアメーバのシストは確認できなかった.しかし,角膜所見からアカントアメーバ感染を疑い,0.3%ガチフロキサシン点眼C4回/日,0.02%クロルヘキシジン点眼C6回/日,0.1%ミコナゾール点眼(自家調整)6回/日に変更し,治療を開始した.翌日に角膜擦過物のCPCR検査にてアカントアメーバが検出されたが,コンタクト保存液からは検出されなかった.治療開始C1週間後に角膜浮腫の増悪と放射状角膜神経炎を認め,右眼視力は(0.1C×sph.2.75D)に低下した(図5).上記の点眼内容を継続したところ,治療開始C2週間後には角膜浸潤は軽減し,治療開始C1カ月後には軽度角膜混濁は残存するものの角膜浸潤は改善し,右眼視力は(1.0C×sph.3.5D)へと改善した.0.02%クロルヘキシジン点眼のみC3回/日継続し,残りの点眼は終了とした.治療開始C3図4初診時前眼部写真角膜下方に角膜上皮下混濁を認めるも,明らかな放射状角膜神経炎などアカントアメーバを示唆する所見は認めない.カ月後には角膜混濁も改善し,角膜透明性は良好であったため,クロルヘキシジン点眼を終了した.右眼の最終視力は(1.0C×sph.3.5D)であった.CII考按近視の有病率は世界的に増加傾向にあり,Holdenら9)のメタ解析によれば,全世界の近視有病率はC2000年のC22.9%からC2050年にはC49.8%に増加すると予測されている.強度近視は将来的に緑内障や黄斑円孔網膜.離などの重篤な視力障害を引き起こす可能性があり,その進行予防が重要とされる.オルソCKは小児および青少年の近視進行を抑制する可能性が示唆されており,早期(6.8歳)に開始することでより大きな効果が得られたと報告されている10,11).2017年にオルソCKガイドラインが改定され3),初版では「適応はC20歳以上」とされていたが,第C2版では「20歳未満は慎重処方とする」との文言が追加され,今後はさらなる若年者への処方がさらに増加することが予想される.オルソCKレンズは非オルソCKレンズと異なり,中央角膜に対する圧力が大きくなるため,角膜上皮バリアが損なわれ,数時間の低酸素状態にさらされることで角膜感染のリスクが高まるといわれている12).矯正度数が増すにつれて角膜上皮障害が生じやすくなると考えられるが,矯正度数と角膜障害の関連を明確に証明した研究は見当たらなかった.2024年に報告された日本の多施設共同研究ではオルソCKによる角膜感染の発生率は,もっとも一般的に使用されている日常装用ソフトCCLによる角膜感染の発生率とほぼ同等であった6).オルソCKレンズ装用に伴う角膜感染症のおもな起因菌は緑膿菌とアカントアメーバであり4.7),オルソCKレンズ使用者に角膜感染症が認められた場合は,まずはこれらを念頭におき,迅速に治療を開始する必要がある.両病原体ともに治療が遅れると重篤な視力障害を残す可能性があるが,オルソ図5治療1週間後の前眼部写真初診時には認めなかった放射状角膜神経炎と膜浮腫の増悪を認める.Kによる角膜感染症は発症早期に適切な治療を行うことにより良好な視力予後が得られる報告13)があるように,今回のC3症例においても早期に診断,治療を開始することにより矯正視力はC1.0まで回復している.改訂版ガイドラインでは,「緑膿菌やアカントアメーバによる角膜炎のリスクが高く,レンズは界面活性剤による擦り洗いに加え,ポピドンヨード剤による消毒を推奨する」との注意点が追加された.しかし,未成年者,とくに学童への処方は本人ではなく保護者の希望であることが多く,本人のレンズ装用に対するモチベーションや,レンズケアの重要性への認識は低くならざるを得ない.今回報告するC3症例はすべて未成年である.症例C1および症例C2では,患者本人がレンズ管理を行っていたが,レンズケアの重要性を十分に認識しておらず,ケアを怠ったまま連続装用を続けたことが原因で角膜感染を発症したと考えられる.一方,症例C3では,症例C2の経緯を踏まえ,母親が処方医の指導のもと,徹底した消毒を実施し管理を行っていたにもかかわらず角膜感染が発生した.このため,消毒方法ではなく保管方法など他の要因が関与している可能性が疑われた.コンタクト保存液からはアカントアメーバは検出されなかったが,問診により自宅内にコンタクトレンズの一時保存場所があることが判明した.そこで清潔なスワブを持ち帰ってもらい,その保存場所と水道蛇口を拭取したところ,PCR検査によりアカントアメーバが検出された.このような症例から,外来にてふだんのコンタクトレンズの扱い方や保存方法について親も含めて詳細に問診する必要がある.今後は近視人口の増加に伴い,未成年へのオルソCKレンズの処方数がさらに増加することが考えられるが,レンズ管理と装用が適切に行われるように処方医による保護者への適切な指導がいっそう重要となる.保護者によるレンズの管理が,成年とは異なる課題であることを処方医が認識しなければならない.また,オルソCKによる角膜感染症の多くが緑膿菌やアカントアメーバによるものであることを認識し,早期に適切な治療を開始する必要性を認識すべきであり,定期的な眼科受診を積極的に促す必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)柿田哲彦,高橋和博,山下秀明ほか:オルソCKに関するアンケート調査集計結果報告.日本の眼科C87:527-534,C20162)平岡孝浩,伊藤孝雄,山本輝一:オルソCK使用成績調査:5年間の解析結果.日本コンタクトレンズ学会誌C59:C66-75,C20173)日本コンタクトレンズ学会オルソCKガイドライン委員会:オルソCKガイドライン(第C2版).日眼会誌C121:936-938,C20174)WattCK,CSwarbrickCHA.CMicrobialCkeratitisCinCovernightorthokeratology:reviewofthe.rst50cases.EyeContactLensC31:201-208,C20055)VanCMeterCWS,CMuschCDC,CJacobsCDSCetal:SafetyCofCovernightCorthokeratologyCformyopia:aCreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC115:2301-2313,C20086)HiraokaCT,CMatsumuraCS,CHoriCYCetal:IncidenceCofCmicrobialkeratitisassociatedwithovernightorthokeratol-ogy:aCmulticenterCcollaborativeCstudy.CJpnCJCOphthalmolC69:139-143,C20247)HsiaoCH,YeungL,MaDHetal:Pediatricmicrobialker-atitisCinCTaiwanesechildren:aCreviewCofChospitalCcases.CArchOphthalmolC125:603-609,C20078)CopeJR,CollierSA,ScheinODetal:Acanthamoebaker-atitisCamongCrigidCgasCpermeableCcontactClensCwearersCinCtheCUnitedCStates,C2005CthroughC2011.COphthalmologyC123:1435-1441,C20169)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.OphthalmologyC123:1036-1042,C201610)VanderVeenCDK,CKrakerCRT,CPinelesCSLCetal:UseCofCorthokeratologyforthepreventionofmyopicprogressioninchildren:aCreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOph-thalmology.OphthalmologyC126:623-636,C201911)LiCSM,CKangCMT,CWuCSSCetal:E.cacy,CsafetyCandCacceptabilityCofCorthokeratologyConCslowingCaxialCelonga-tionCinCmyopicCchildrenCbyCmeta-analysis.CCurrCEyeCResC41:600-608,C201612)DingCH,CPuCA,CHeCHCetal:ChangesCinCcornealCbiometryCandCtheCassociatedChistologyCinCrhesusCmonkeysCwearingCorthokeratologycontactlenses.CorneaC31:926-933,C201213)ChanTCY,LiEYM,WongVWYetal:Orthokeratology-associatedinfectiouskeratitisinatertiarycareeyehospi-talCinCHongCKong.CAmCJCOphthalmolC158:1130-1135,C2014C***

内眼手術後1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術併用irido-zonulo-hyaloid vitrectomyを行った1例

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):904.909,2025c内眼手術後1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術併用irido-zonulo-hyaloidvitrectomyを行った1例小林栞綸*1根元栄美佳*1角野晶一*1泉谷祥之*1大須賀翔*1河本良輔*1,2小嶌祥太*3喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2河本眼科クリニック*3市立ひらかた病院眼科CACasethatUnderwentIrido-Zonulo-HyaloidoVitrectomywithGoniosynechialysisforBilateralMalignantGlaucomathatOccurred18MonthsAfterIntraocularSurgeryKarinKobayashi1),EmikaNemoto1),AkikazuSumino1),YoshiyukiIzutani1),ShouOosuka1),RyohsukeKohmoto1,2),ShotaKojima3)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)KohmotoEyeClinic,3)HirakataCityHospitalDepartmentofOphthalmologyC目的:術後C1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術(GSL)併用Cirido-zonulo-hyaloidCvitrectomy(IZHV)を施行した症例報告.症例:78歳,女性.X-2年C8月に左眼硝子体黄斑牽引症候群に対し白内障手術併用硝子体手術,右眼白内障手術.2週間前からの両眼霧視でCX年C2月C6日前医受診,右眼眼圧C54CmmHg,左眼眼圧C63CmmHgであり同日当科紹介.右眼視力(0.8×sph.3.50D(cyl.0.75DAx90°),左眼視力(0.7×sph.3.00D(cyl.1.25DAx75°)と近視化し,浅前房,毛様体前方回旋と毛様溝消失,水晶体.の前方圧排を認めた.眼軸長は右眼C21.67Cmm,左眼21.76Cmm.両眼悪性緑内障と診断,薬物・レーザー治療を行うも両眼とも再発したためCGSL併用CIZHVを施行し,眼圧下降を得た.結論:悪性緑内障は術後数年して生じることがあり危険因子があれば注意を要する.この症例に対する治療としてCIZHVが有効であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCthatCunderwentCirido-zonulo-hyaloidovitrectomy(IZHV)withCgoniosynechialysis(GSL)forCbilateralCmalignantCglaucomaCthatCoccurredC18CmonthsCafterCintraocularCsurgery.CCase:AC78-year-oldCfemaleunderwentvitrectomycombinedwithcataractsurgeryforvitreomaculartractionsyndromeinherlefteyeandcataractsurgeryinherrighteye.At18-monthspostoperative,shevisitedanoutsideclinicforblurredvisioninCbothCeyes,CandCwasCreferredCtoCourCdepartmentCdueCtoCbilateralCreducedCvisualCacuityCandCelevatedCintraocularpressure(IOP).CUponCexamination,CsheCwasCdiagnosedCwithCbilateralCmalignantCglaucoma,CandCpharmacotherapyCandYAG-lasercapsulotomywasperformed.However,theconditionrecurredinbotheyes,soIZHVwithGSLwasperformedCinCbothCeyesCandCtheCIOPCloweredCandCtheCpostoperativeCcourseCwasCfavorable.CConclusions:InCthisCcase,CIZHVCwithCGSLCwasCe.ectiveCforCbilateralCmalignantCglaucomaCthatCoccurredCseveralCyearsCafterCintraocularCsurgery,thusillustratingthatpatientswithsimilarriskfactorsshouldbecarefullyfollowed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):904.909,C2025〕Keywords:悪性緑内障,短眼軸長,白内障手術,硝子体手術.aqueousmisdirection,irido-zonulo-hyaloidvitrec-tomy(IZHV),shorteraxiallength,cataractsurgery,vitreoussurgery.Cはじめにた1).発症機序は毛様体で産生された房水が前房へ流出せず悪性緑内障はC1869年にCvonGraefeによって初めて報告に後房から硝子体側へおもに流れるようになり(aqueousされた病態で,周辺虹彩切除術後に浅前房を伴う高眼圧がみmisdirection),硝子体腔への房水の貯留により水晶体,虹られ,通常の緑内障治療では予後不良の症例として報告され彩が前方移動し,浅前房と隅角閉塞をきたすと推測されてい〔別刷請求先〕小林栞綸:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:KarinKobayashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC904(120)る2).近年,aqueousmisdirectionの解除のために硝子体切除のみでなく,虹彩,Zinn小帯,前部硝子体膜の切除を併用するCirido-zonulo-hyaloidCvitrectomy(IZHV)が有効であることが報告されている3,4).今回,術後C1年半で生じた両眼の悪性緑内障に,隅角癒着解離術(goniosynechiolysis:GSL)併用CIZHVを施行したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:78歳,女性.主訴:両眼の霧視.既往歴:脂質代謝異常,腎.胞,胃癌(術後)家族歴:特記すべきことなし.現病歴:X-2年C8月,他院にて左眼硝子体黄斑牽引症候群に対して白内障手術併用硝子体手術と右眼白内障手術を施行された.X年C2月C6日にC2週間前からの両眼霧視にて前医を受診.右眼眼圧C54CmmHg,左眼眼圧C63CmmHgと両眼ともに眼圧が上昇しており,トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液を処方のうえ,精査加療目的に同日に大阪医科薬科大学病院(以下,当院)に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.3(0.8C×sph.3.50D(cyl.0.75CDAx95°),左眼0.1p(0.7C×sph.3.00D(cyl.1.25DCAx75°)で,眼圧は右眼C35mmHg,左眼C54mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,両眼とも中央の前房深度は保たれているが,周辺の前房は消失していた(図1a).前房内に落屑物質は認めなかった.静的隅角検査では両眼とも全周で閉塞しており,動的隅角検査では下方の線維柱帯がわずかに観察できた(図1b).前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で全周閉塞隅角,中央前房深度は右眼2.170Cmm,左眼C2.207Cmmであった(図1c).超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)で両眼ともに毛様体の前方回旋と毛様溝の消失,水晶体.の前方への圧排を認めた(図1d).眼底所見として視神経乳頭陥凹は両眼ともC/D比C0.5で拡大は認めなかった.眼軸長は右眼C21.67mm,左眼C21.76mmと短眼軸眼で,平均角膜曲率半径は右眼7.10Cmm,左眼C7.23Cmmであった.中心角膜厚は右眼C517μm,左眼C511Cμm,角膜内皮細胞数は右眼C2,596個/mmC2,左眼C2,571個/mmC2であった.経過:両眼の悪性緑内障と診断した.高張浸透圧薬の点滴を施行し,両眼にアトロピン硫酸塩水和物点眼と炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した.X年C2月C10日,右眼眼圧C19mmHg,左眼眼圧C26CmmHg,薬物療法は効果不十分と判断し,両眼ともCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜切開を施行した.レーザー治療後,前眼部COCTにて隅角は一部開大し,中央前房深度は右眼C2.765mm,左眼C2.796Cmmと改善(図2a),UBMにて両眼とも毛様体の前方回旋が一部改善しており,右眼眼圧C13CmmHg,左眼眼圧C22CmmHgと下降した(図2b).X年3月4日左眼眼圧33mmHgと再度上昇を認め,悪性緑内障の再発と診断し,X年C3月C8日に左眼CGSL併用CIZHVを施行した.硝子体手術後であったが前部硝子体皮質が残存していたため,25CG硝子体手術で前部硝子体皮質を周辺部まで可及的に切除した.硝子体カッターにてC11時の周辺虹彩を切除し,25CGVランスにて角膜から周辺虹彩切除で作成した虹彩穴へ向け穿刺し,同創より硝子体カッターを挿入して周辺虹彩切除部よりCZinn小帯を切除することで前後房の交通路を作成した.これにより前後房の圧格差が解消され,前房深度は改善を認めた.そののち隅角を確認し,9.12時に虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)の形成を認めたため,GSLを併施した.右眼はCX年C6月C9日にアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところ眼圧上昇を認めたため悪性緑内障再発と診断し,X年C7月C30日に右眼CGSL併用CIZHVを施行した.25CG硝子体手術で最周辺まで硝子体を可及的に切除,硝子体カッターにてC2時の周辺虹彩を切除した.硝子体側より硝子体カッターにて周辺虹彩切除部のCZinn小帯を切除することで前後房の交通路を作成した.前後房の圧格差は解消され前房深度は改善した.その後,隅角を確認し4.7時にCPASの形成を認めたためCGSLを併施した.その後,術後C3年の現在まで両眼とも悪性緑内障の再発はなく経過している.視力は右眼(1.2CpC×sph.0.25D(cyl.0.75DAx95°),左眼(1.2C×cylC.1.75DAx90°)と近視化は改善しており,眼圧は右眼C12mmHg,左眼C13CmmHg.IZHVによる周辺虹彩切除を両眼とも鼻上側に認める(図3a).隅角は開大しており(図3b),中央前房深度は右眼C2.85mm,左眼C3.62mmである(図3c).CII考按悪性緑内障は,房水の前房への流出が阻害されるCaqueousmisdirectionにより生じると考えられている2).発症には解剖学的要因があることが既報で示唆されており,短眼軸眼,狭隅角やプラトー虹彩は危険因子とされる5,6).発症の男女比はC3:11と女性に多く,その解剖学的な要因として,女性では水晶体が男性よりも前方にあり,前房がC4%浅いだけでなく水晶体の赤道部と毛様体の間も狭いためにCaqueousmisdirectionが生じやすいとされる2).本症例は女性,短眼軸眼であり既報の危険因子を有していた.悪性緑内障の発症により近視化することが報告されている7).近視化はCaque-ousmisdirectionによる眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の前方偏位によると考えられるが,今回の症例でもC.3D程度に近視化していた.短眼軸眼ではCIOL度数計算のずれにより術後に遠視化することが多いと報告されている8).術後の近視化は,浅前房化や閉塞隅角の進行と同様に悪性緑内障を疑うに矛盾しない指標であるといえる.ab右眼左眼cd右眼左眼図1初診時の所見a:細隙灯顕微鏡所見.両眼とも中央の前房深度は保たれているが周辺の前房は消失.Cb:隅角所見.静的隅角検査では全周閉塞.動的隅角検査では下方のみ線維柱帯がわずかに観察できた.Cc:前眼部COCT所見.両眼とも閉塞隅角.中央前房深度は右眼C2.17Cmm,左眼C2.207Cmm.Cd:UBM所見.両眼ともに毛様体前方回旋と毛様溝の消失,水晶体.の前方への圧排を認めた.悪性緑内障の誘因となる内眼手術は閉塞隅角緑内障の周辺術後C1年半で両眼ともに悪性緑内障を発症した.左眼は硝子虹彩切除のほか,濾過手術,レーザー虹彩切開術,白内障手体術後に悪性緑内障を発症しており,前部硝子体皮質の切除術などさまざまな報告があり,もっとも頻度が高いのは急がなされていなかったことが関与している可能性があると考性・慢性閉塞隅角緑内障の濾過手術後でC2.4%,白内障術える.後の発症はC0.1%程度である9,10,11).硝子体術後にも悪性緑内悪性緑内障の治療は,まず薬物療法が第一選択となる.ア障が発症した報告があり,残存前部硝子体皮質が収縮し前方トロピン硫酸塩水和物点眼や炭酸脱水酵素阻害薬内服,高張移動することで水晶体後面と癒着を生じ,房水の前房への流浸透圧薬点滴,緑内障薬(房水産生抑制作用)点眼を行い,れを障害したことで発症したとされる11,12).今回の症例は,毛様体を弛緩させて水晶体を後方へ移動させること,房水産ab図2YAGレーザー後の所見a:前眼部COCT所見.両眼とも隅角は一部開大し,中央前房深度は右眼C2.765Cmm,左眼C2.796Cmm.Cb:UBM所見.両眼とも一部で毛様体の前方回旋が改善している.生を抑制することで眼圧を下降させる.しかし,薬物治療のみではC20%しか悪性緑内障は解消されず13),またほぼC100%再発したという報告もある14).薬物療法が奏効しない場合は次段階としてCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜の切開があるが,こちらの再発率はC75%程度と報告されており14),観血的治療が必要となる場合が多い.本症例でも薬物治療とCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜切開では再発し,観血的治療を要した.観血的治療としては,有水晶体眼であれば水晶体再建術・水晶体.切開,単純硝子体切除などがあげられるが,aqueousmisdirectionの解除のために硝子体切除のみでなく,虹彩,Zinn小帯,前部硝子体の切除を行うことで前房と硝子体腔に交通を作製するIZHVが有効であると報告されており3,4),再発率は周辺のshavingを伴わない単純硝子体切除術ではC75%程度,IZHVではC0.10%とされる14,15).また,IZHVにおいて前部硝子体の切除のみでは,術後に前方移動してきた硝子体により前後房の交通路がブロックされて悪性緑内障を再発することがあり,硝子体をすべて切除することの重要性が報告されている14).本症例では,両眼とも最周辺部まで硝子体切除を行なったCIZHVにて悪性緑内障の改善が得られ,術後C3年の間で再発は認めない.悪性緑内障により狭隅角の状態が続くとPASが形成され,悪性緑内障の原因であるCaqueousCmisdi-rectionを解除できたとしても眼圧のコントロールが困難となる可能性があるため,早期に診断し治療することが重要である.本症例では,長期経過中にCPASが形成された可能性を考慮し術中に隅角の確認を行い,両眼ともC1/4周のCPASの形成を認めた.PASの形成が半周以上ではなかったが,より確実な眼圧コントロールのためにCGSLを併施とした.本症例は女性,短眼軸眼であり既報の悪性緑内障の危険因子を有していた.悪性緑内障は手術から発症まで数時間から数年と幅があり,危険因子を有する場合は術後の経過に注意が必要である.本症例に対してCIZHVは有効であった.本症例は,第C35回日本緑内障学会で発表した.ab右眼左眼図3現在の所見a:細隙灯顕微鏡所見.IZHVによる周辺虹彩切除を両眼とも鼻上側に認める.Cb:隅角所見.隅角は開大している.c:前眼部COCT所見.隅角は開大.中央前房深度は右眼C2.85mm,左眼C3.62mm.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vonCGraefeA:BeitrageCzurCpathologieCundCtherapieCdesCglaucomas.ArchOphthalmolC15:108-252,C18692)GrzybowskiCA,CKanclerzP:AcuteCandCchronicC.uidCmis-directionsyndrome:pathophysiologyCandCtreatment.CGraefesArchClinExpOphthalmolC256:135-154,C20183)LoisCN,CWongCD,CGroenewaldC:NewCsurgicalCapproachCinCtheCmanagementCofCpseudophakicCmalignantCglaucoma.COphthalmologyC108:780-783,C20014)FaisalCAA,CKamaruddinCMI,CTodaCRCetal:SuccessfulCrecoveryCfromCmisdirectionCsyndromeCinCnanophthalmicCeyesCbyCperformingCanCanteriorCvitrectomyCthroughCtheCanteriorchamber.IntophthalmolC39:347-357,C20195)ZarnowskiT,Wilkos-KucA,Tulidowicz-BielakMetal:CE.cacyCandCsafetyCofCaCnewCsurgicalCmethodCtoCtreatCmalignantCglaucomaCinpseudophakia.CEye(Lond)C28:C761-764,C20146)PrataCTS,CDorairajCS,CDeCMoraesCCGCetal:IsCpreopera-tiveCciliaryCbodyCandCirisCanatomicalCcon.gurationCaCpre-dictorofmalignantglaucomadevelopment?ClinExpOph-thalmolC41:541-545,C20137)VarmaDK,BelovayGW,TamDYetal:Malignantglau-comaaftercataractsurgery.JCataractRefractSurgC40:1843-1849,C20148)KamiyaK,HayashiK,TanabeMetal:Nationwidemulti-centreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredict-abilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC106:1227-1234,C20229)Krix-JachymCK,CZarnowskiCT,CRekasCMCetal:RiskCfac-torsCofCmalignantCglaucomaCoccurrenceCafterCglaucomaCsurgery.JOphthalmolC2017:1-6,C201710)ShuteTS,VarmaDK,TamDetal:SeasonalvariationintheCIncidenceCofCmalignantCglaucomaCafterCcataractCsur-gery.JOphthalmicVisRes14:32-37,C201911)MassiccotteEC,SchumanJS:Amalignantglaucoma-likesyndromefollowingparsplanavitrectomy.OphthalmologyC106:1375-1379,C199912)植木麻理:硝子体手術後に生じた悪性緑内障のC1例.眼科43:1715-1718,C200113)RajCS,CThattaruthodyCF,CJoshiCGCetal:TreatmentCout-comesCandCe.cacyCofCparsCplanaCvitrectomy-hyaloidoto-my-zonulectomy-iridotomyCinCmalignantCglaucoma.CEurJOphthalmolC31:234-239,C202114)DebrouwereCV,CStalmansCP,CVanCCalsterCJCetal:Out-comesCofCdi.erentCmanagementCoptionsCforCmalignantglaucoma:aCretrospectiveCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:131-141,C201215)AlCBinCAliCGY,CAl-MahmoodCAM,CKhandekarCRCetal:COutcomesofparsplanavitrectomyinthemanagementofrefractoryCaqueousCmisdirectionCsyndrome.CRetinaC37:C1916-1922,C2017C***

難治性緑内障に対するAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術成績

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):898.903,2025c難治性緑内障に対するAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術成績韓昇熙木嶋理紀菊地香澄田川義晃董震宇新海晃弘石田晋北海道大学大学院医学研究院眼科学教室CSurgicalOutcomesandComplicationsofAhmedGlaucomaValveImplantationinPatientswithRefractoryGlaucomaShokiKan,RikiKijima,KasumiKikuchi,YoshiakiTagawa,DongZhenyu,AkihiroShinkaiandSusumuIshidaCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversityC目的:難治性緑内障に対するCAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術成績を検討する.対象および方法:北海道大学病院においてC2017年C12月.2023年C9月にCAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行し,術後C6カ月以上の経過観察が可能だった連続症例C73例C82眼を,診療録をもとに後ろ向きに検討した.surgicalsuccessを術後C6カ月以降,眼圧がC5CmmHg以上C21CmmHg以下で推移し,観察期間中に眼内炎や光覚消失等の重篤な合併症を生じず,かつ追加の緑内障手術を施行しなかった症例と定義し,チューブ先端の挿入部位別の生存率を検討した.結果:男性C56眼,女性C26眼,手術時平均年齢はC59.5±17.8歳,平均経過観察期間はC25.5±19.5カ月だった.チューブ挿入部位は前房C10眼,毛様溝C57眼,硝子体腔C15眼だった.眼圧は術前C27.8±11.0CmmHg,術後C24カ月C13.4±4.3CmmHgと有意に低下した(p<0.01).術後C24カ月の累積生存率は全体でC86.3%,挿入部位別では前房C52.5%,毛様溝C92.4%,硝子体腔C86.7%だった.結論:難治性緑内障において,Ahmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術は有意に眼圧を下降させた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCoutcomesCofCAhmedCGlaucomaValve(AGV,CNewCWorldMedical)implantationCforrefractoryglaucoma.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved82eyesof73glaucomapatientswhounder-wentAGVimplantationfromDecember2017toSeptember2023andwerefollowedforatleast6-monthspostop-erative.CInclusioncriteria:patientsCwithCnoCseriouscomplications(endophthalmitisCorClossCofvision)andCnoCneedCforadditionalglaucomasurgeryduringthefollow-upperiod.Results:Meanpatientageatsurgerywas59.5±17.8Cyears,andthemeanfollow-upperiodwas25.5±19.5months.TheAGVinsertionsiteswereanteriorchamber(n=10eyes),Cciliarysulcus(n=57eyes),CandCvitreouscavity(n=15eyes).CMeanCintraocularpressure(IOP)preCsur-geryCwasC27.8±11.0CmmHg,CyetC13.4±4.3CmmHgCatC24-monthsCpostoperative,Csigni.cantlylower(p<0.01).CAtC24Cmonths,thecumulativesurvivalratewas86.3%overall,andbyinsertionsitewas52.5%intheanteriorchamber,92.4%CinCtheCciliaryCsulcus,Cand86.7%CinCtheCvitreousCcavity.CConclusion:InCpatientsCwithCrefractoryCglaucoma,CAGVimplantationsigni.cantlyreducedIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):898.903,C2025〕Keywords:Ahmed緑内障バルブ,眼圧下降効果,合併症,毛様溝.Ahmedglaucomavalve,IOPreductione.ect,complications,ciliarysulcus.Cはじめに高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない患者,ほかロングチューブシャント手術は緑内障に対して施行されるの濾過手術が技術的に施行困難な患者が適応とされてい濾過手術の一つであり,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除る1).術が不成功に終わった患者,手術既往により結膜の瘢痕化が当施設でも上記に従い,いわゆる難治性の緑内障に対して〔別刷請求先〕韓昇熙:〒060-8648札幌市北区北C15条西C7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:ShokiKan,DepartmentofOphthalmologyFacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicineHokkaidoUniversity,North15West7,Kitaku,Sapporo-city060-8638,JAPANC898(114)ロングチューブシャント手術を実施している.また,当施設の患者では視野障害が後期であったり,角膜内皮細胞数が少なかったり,房水産生低下が予想されたりする例が多い.そのため,術直後の低眼圧による合併症を避けるための圧調整弁を有するCAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を使用する機会が多い.しかし,チューブの閉塞や露出,内皮障害,濾過胞瘢痕化による眼圧上昇など,術後に留意する点数が多くあり2),また報告ごとに頻度が異なる3.12)のは患者背景が異なるためと考えられる.そのため,当施設でのCAGVを用いたロングチューブシャント手術の術後成績および合併症について調査した.CI対象および方法2017年C12月.2023年C9月に北海道大学病院でCAGVを用いたチューブシャント手術を施行し,術後C6カ月以上の経過観察が可能だったC73例C82眼を対象とし,診療録をもとに後ろ向きに検討した.術後C6カ月以降に眼圧がC5CmmHg以上C21CmmHg以下で推移し,追加の緑内障手術を必要とせず,かつ術後合併症による眼内炎や光覚消失を生じなかった患者を,術後の緑内障点眼使用数にかかわらずCsurgicalsuc-cess症例と定義した.手術前後の眼圧の推移,緑内障点眼剤数の推移,術後合併症,累積生存率について検討した.緑内障点眼剤数は緑内障配合点眼薬についてはC2剤とし,炭酸脱水酵素阻害薬内服は回数を点眼とは別に計算した.術後合併症のうち一過性高眼圧については,術後C6カ月以内で緑内障点眼の有無を問わず眼圧C22CmmHg以上となり,その後眼圧が低下して追加の緑内障手術が不要だったものと定義した.チューブ先端は,無硝子体眼および硝子体手術を同時に実施する必要のある患者では硝子体腔へ,水晶体を温存する必要のある患者では前房へ,それ以外の患者では毛様溝へ挿入し,必要に応じて白内障手術を併施した.手術はCTenon.下麻酔による局所麻酔または,全身麻酔にて施行した.AGVは全例CFP7を使用し,結膜を切開後,上直筋と外直筋または下直筋と外直筋の間に留置した.チューブは原則自己強膜弁で被覆したが,線維柱帯切除術後などで強膜の菲薄がある場合は保存強膜を用いた.2022年C3月.2023年C9月の連続症例には術中にトリアムシノロンアセトニドC40Cmg後部CTenon.下注射(posteriorCsub-Tenoninjection:STTA)を原則施行したが,明らかなステロイドレスポンダーの患者には投与を避けた.また,終了時にデキサメタゾンの結膜下注射を施行した.術後点眼として抗菌薬点眼とベタメタゾン点眼を使用し,白内障手術を併施したものについては非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrugs:NSAIDs)点眼も併用した.また,術後の緑内障点眼追加については各担当医の判断で行われた.統計解析は眼圧や点眼剤数についてはCWilcoxonの符号付き順位検定を,累積生存率についてはClog-rank検定を,その他の検定にはC|2検定や対応のないCt検定を適宜使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.本研究はヘルシンキ宣言に則り行われ,北海道大学病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号CNo.016-0056).診療録を用いた後ろ向き研究のため,インフォームド・コンセプトはオプトアウトによって取得された.CII結果男性C56眼,女性C26眼,手術時平均年齢はC59.5C±17.8歳,平均経過観察期間はC25.5C±19.5カ月だった.緑内障病型は,広義の原発開放隅角緑内障がC35眼(42.7%),血管新生緑内障がC14眼(17.1%),ぶどう膜炎続発緑内障・落屑緑内障がともにC7眼(8.5%)ずつ,アトピー性緑内障・小児緑内障がともにC5眼(6.1%)ずつ,外傷緑内障がC3眼(3.7%),その他のものがC3眼(3.7%)であった.過去の内眼手術の平均回数はC2.5C±1.0(0-5)回で,うち緑内障手術については平均C1.8±1.1(0-5)回であった.眼圧の変化・緑内障点眼剤数の変化を図1に示す.術前平均眼圧はC27.8C±11.0CmmHg,術後平均眼圧はC6カ月C15.8C±6.7mmHg,12カ月C14.4C±5.1CmmHg,24カ月C13.4C±4.3CmmHg,36カ月C13.2C±3.4CmmHg,48カ月C14.9C±4.0CmmHg,60カ月C16.7±5.8CmmHgと下降し,観察期間中どの観察時点でも有意な低下を認めた.緑内障点眼剤数については,術前平均C3.8±0.9であり,術後C36カ月までのすべての時点で術前と比較し有意に低下したが,42カ月以降は有意差がなかった.炭酸脱水酵素阻害薬の内服については,術前はC1日あたり平均C1.3C±1.1錠だったが,術後は内服を必要とした患者はいなかった.全体の累積生存率は,術後C6カ月でC93.9%,12カ月で90.5%,24カ月でC86.3%,36カ月でC81%,60カ月でC57.8%だった(図2a).チューブの挿入部位は,毛様溝へ挿入した患者がC57眼(69.5%)ともっとも多く,ついで硝子体腔がC15眼(18.3%),前房がC10眼(12.2%)であった.チューブ先端の挿入部位別の累積生存率は図2bのとおり有意差がみられ(log-rank検定,p=0.01),術後6,12,24,36,48,60カ月は挿入部位別でそれぞれ前房C70.0%,52.5%,52.5%,52.5%,52.5%,52.5%,毛様溝C100%,98.0%,92.4%,85.3%,85.3%,68.2%,硝子体腔C86.7%,86.7%,86.7%,86.7%,86.7%,0%であった.術後合併症の種類・割合は表1のとおりとなり,一過性の高眼圧がC40眼(48.8%)ともっとも多くみられた.また,重篤な合併症として駆逐性出血,水疱性角膜症が各C1眼ずつ生mmHg剤数***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05(mean±SD)505303202*404101*************************00術前136121824303642485460カ月n=82n=60n=42n=38n=29n=21n=14n=12n=10n=9Wilcoxonの符号付き順位検定.図1術後眼圧・緑内障点眼剤数の変化左軸が眼圧,右軸が点眼剤数,下方に症例数(n).どの観察時点でも眼圧は術前と比較し有意な低下をした.緑内障点眼剤数は,術後C36カ月までは術前と比較して有意に低下したが,42カ月以降は有意差がなかった.Cab100%100%80%80%生存率生存率20%20%0%0%60%60%40%40%01224生存期間(月)生存期間(月)log-rank検定,p=0.01図2累積生存率a:全症例,Cb:チューブ挿入部位別.術後C24カ月で全体C86.3%,挿入部位別で前房C52.5%,毛様溝C92.4%,硝子体腔C86.7%で部位別では有意差がみられた.じ,駆逐性出血を起こした眼が光覚消失し,水疱性角膜症を生じた眼は,後に全層角膜移植を行い視力は改善した.術中にCSTTAを施行したものがC21眼,施行しなかったものがC61眼であった.その患者の内訳を表2に示す.施行時期の選定の違いにより,経過観察期間は有意にCSTTA施行眼が短かった.手術時年齢もCSTTA施行眼が有意に若年であった.チューブ先端の挿入部位も有意差があり,STTA施行眼は施行しなかった眼よりも硝子体腔に挿入した割合が高かったが,挿入位置として一番多いのは毛様溝だった(それぞれC52%,75%).一過性高眼圧がみられたのはそれぞれ12眼(57.1%),28眼(45.9%)であり,STTA施行の有無と一過性高眼圧に有意な関連性はみられなかった(C|2検定,Cp=0.37).一過性高眼圧の発症時期はCSTTAを施行した眼でC2.4C±1.5カ月,STTAを施行しなかった眼でC1.6C±1.0カ月とCSTTA施行した眼でやや遅い傾向はあるものの,有意差はみられなかった(対応のないCt検定,p=0.056).またそのときの最高眼圧についてもそれぞれ平均C31.4C±13.0mmHg,31.2C±5.5CmmHgと有意差はなかった(対応のないt検定,p=0.94).累積生存率についても図3に示すとおり有意差はみられなかった(log-rank検定,p=0.90).表1術後合併症の発生症例数術後合併症発生症例数一過性の高眼圧(2C2CmmHg以上)チューブ先端の位置不良(挿入しなおした症例)インプラントの露出(追加の結膜縫合,または強膜パッチを実施した症例)40眼(C48.8%)4眼(4C.9%)3眼(3C.7%)複視の自覚2眼(2C.4%)駆逐性出血1眼(1C.2%)水疱性角膜症1眼(1C.2%)光覚消失1眼(1C.2%)表2STTA施行あり/なしの症例の内訳STTA施行あり20例21眼STTA施行なし54例61眼p値経過観察期間C10.9±6.4カ月C24.1±13.2カ月<C0.001***手術時年齢C52.8±21.8歳C61.7±15.8歳C0.05*性別男15眼(71%)41眼(67%)C0.72女6眼(29%)20眼(33%)チューブ先端位置前房2眼(10%)8眼(13%)C0.02*毛様溝11眼(52%)46眼(75%)硝子体腔8眼(38%)7眼(12%)術前平均眼圧(mmHg)C31.9±11.1CmmHgC27.6±10.0CmmHgC0.07過去の内眼手術回数(うち緑内障手術回数)C2.3±1.3回(C1.7C±1.2回)C2.6±1.0回(C1.9C±1.0回)C0.23C0.57術前緑内障点眼剤数C4.0±0.8回C3.7±0.9回C0.09術前炭酸脱水酵素阻害薬内服数C1.5±1.1錠/日C1.3±1.1錠/日C0.67III考按今回の患者の術前の緑内障手術の既往は平均C1.8C±1.1回であり,多くの患者は代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術を施行したが,良好な眼圧下降が得られなかったことが推測できる.複数回の代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不奏効であった患者が多かったにもかかわらず,今回累積生存率はC2年でC86.3%であり,AGVを用いたチューブシャント手術は難治性の緑内障に対してよい適応であると考える.わが国での既報では,豊田ら3)が血管新生緑内障に対する手術成績を報告しており,過去の緑内障手術回数が平均C3回程度とかなり難治性の患者が対象だったが,術後C2年の累積生存率はC71.4.83.3%と,今回の検討同様に良好な結果であった.海外からの報告は緑内障手術既往があるものが半数を超える報告7)もあるが,半数未満からC2割程度のものが多く4.6,8.11),なかにはC9割が緑内障初回手術のもの6)もあり,対象患者が大きく異なることが推測される.また,今回チューブの挿入部位別に検討したところ,毛様溝へのチューブ挿入症例の生存率が良好な結果となった.既報では前房と毛様溝4,5),あるいは前房と硝子体腔6)へのチューブ挿入例を比較し,術後眼圧や累積生存率には有意差がないことが報告されている.今回の検討では,挿入部位により患者の年齢や緑内障の病型などの疾患背景の偏りが大きく,単純な比較はむずかしいと考える.前房へのチューブ挿入は,毛様溝と比較すると術後の角膜内皮細胞の減少率が大きいことが知られており5),また,硝子体腔への挿入は硝子体の郭清が必要である.毛様溝へのチューブ挿入は,手技の煩雑さや前房出血・誤挿入のリスクはある4,5)ものの,今回は追加の硝子体手術が必要なほど出血が遷延した患者はなかった.このことからも,硝子体手術未実施の患者に対しては,毛様溝へのチューブ挿入はよい適応であると考えられる.AGVを用いたチューブシャント手術の合併症として頻度が高く,治療上問題となるものが一過性の高眼圧である.こ100%80%60%40%STTAありSTTAなし20%0%01224364860生存期間(月)log-rank検定,p=0.90図3STTA施行の有無と累積生存率STTA施行あり群となし群で累積生存率に有意差はみられなかった.生存率れはプレート周囲組織が炎症細胞やサイトカインに曝露することで,術後数週.数カ月に発症する眼圧上昇といわれており2),頻度はC23.4.73.2%C7.11)と報告によるばらつきが大きい.今回はC48.8%であり,既報と同程度と考えられた.一過性高眼圧を抑制する手段として術中のトリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射の報告7,8)があったため,2022年C3月.2023年C9月までのステロイドレスポンダーの既往がある症例を除く連続症例にトリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射を施行したが,施行した群と施行しなかった群で,一過性高眼圧期発症の頻度や最高眼圧,累積生存率には有意差はみられなかった.既報7,8)では一過性高眼圧の頻度をC2.3割に抑え,発症までの時期を遅らせたり7),最高眼圧を低下させたり8)することが報告されているが,累積生存率やC6カ月以降の眼圧や点眼数には有意差がないとされている.今回の患者で一過性高眼圧の頻度が低下しなかった原因の一つは,施行した群としなかった群で年齢に有意差があり,施行群のほうが若年だったため,術後発症のステロイドレスポンダーが混在した可能性が考えられた.また,手術時の年齢が若年であることがリスク因子であるとの報告10)もあり,今後年齢をそろえての比較が必要と考えられた.今回術後の緑内障点眼追加については,各担当医の判断に委ねられており,統一基準がなかったが,術後早期の緑内障点眼追加による房水産生抑制が一過性高眼圧抑制に効果的という報告11)もあり,点眼の基準を揃えての検討も必要である.その他の合併症として,術後眼内炎がなく,駆逐性出血による光覚消失がC1例だけだった.難治性の患者が多かったが,重篤な合併症が少なかった.この点からも難治性の症例に適した術式であると考えられた.また,複視の自覚についてはC2例だけであるが,中心視野が障害されている患者も多いため,実際に眼球運動障害が出現していた患者はもっと多いことが推測される.Robbinsら12)はC4%程度に斜視が出現することを報告しており,斜視が出現した患者は若年で,視力が良好であったと報告している.今後の適応拡大によって,より若年で視機能良好である眼が対象になった場合,術前のインフォームドコンセントが重要となる.CIV結論難治性緑内障に対するCAGVを用いたロングチューブシャント手術は有効である.また,硝子体手術が未実施の患者に対しては,毛様溝へのチューブ挿入がよい適応である.術後合併症として,一過性高眼圧や複視には注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C2022C2)浪口孝治:チューブシャント手術の術後管理.眼科手術C37:35-38,C20243)豊田泰大,徳田直人,塚本彩香ほか:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術(プレートのあるもの)の中期成績.あたらしい眼科39:1539-1543,C20224)BayerA,OnolM:ClinicaloutcomesofAhmedglaucomavalveCinCanteriorCchamberCversusCciliaryCsulcus.CEye(Lond)31:608-614,C20175)KimCJY,CLeeCJS,CLeeCTCetal:CornealCendothelialCcellCchangesandsurgicalresultsafterAhmedglaucomavalveimplantation:ciliarysulcusversusanteriorchambertubeplacement.SciRepC11,C12986,C20216)QinCVL,CKaleemCM,CContiCFFCetal:Long-termCclinicalCoutcomesCofCparsCplanaCversusCanteriorCchamberCplace-mentCofCglaucomaCimplantCtubes.CJCGlaucomaC27:440-444,C20187)TuralbaAV,PasqualeLR:HypertensivephaseandearlycomplicationsCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplantationCwithintraoperativesubtenontriamcinoloneacetonide.ClinCOphthalmolC11:1311-1316,C20148)YazdaniS,DoozandehA,PakravanMetal:AdjunctiveTriamcinoloneCAcetonideCforCAhmedCGlaucomaCValveImplantation:ARandomizedClinicalTrial.EurJOpthal-molC27:411-416,C20179)Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:Evaluationofthehyperten-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCglaucomaCvalve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C200310)OzalpCO,C.lguyCS,CAtalayCECetal:RiskCfactorsCforChyper-tensiveCphaseCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplantation.CIntOphthalmolC42:147-156,C202211)PakravanCM,CRadCSS,CYazdaniCSCetal:E.ectCofCearlyCtreatmentCwithCaqueousCsuppressantsConCAhmedCglauco-maCvalveCimplantationCoutcomes.COphthalmolC121:1693-1698,C201412)RobbinsCL,CGosekiCT,CLawCSKCetal:StrabismusCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplantation.CAmCJCOphthalmolC222:1-5,C2021***

緑内障眼の黄斑部血管・灌流密度および網膜神経節細胞複合体厚と中心視野:セクター別構造と機能の関係

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):892.897,2025c緑内障眼の黄斑部血管・灌流密度および網膜神経節細胞複合体厚と中心視野:セクター別構造と機能の関係大内達央*1山下力*1,2荒木俊介*1,2後藤克聡*1三宅美鈴*1水上菜美*1春石和子*1,2家木良彰*1八百枝潔*3三木淳司*1,2*1川崎医科大学眼科学1*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科*3やおえだ眼科CSectoralStructure-FunctionRelationshipsBetweenMacularVesselandPerfusionDensity,RetinalGanglionCellComplexThickness,andCentralVisualFieldinGlaucomatousEyesTatsuhiroOuchi1),TsutomuYamashita1,2),SyunsukeAraki1,2),KatsutoshiGoto1),MisuzuMiyake1),NamiMizukami1),KazukoHaruishi1,2),YoshiakiIeki1),KiyoshiYaoeda3)andAtsushiMiki1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)CUniversityofMedicalWelfare,3)YaoedaEyeClinicCDepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,Kawasaki目的:緑内障眼における網膜表層の黄斑部血管密度(mVD:単位面積あたりの血管の長さ),灌流密度(mPD:単位面積あたりの血管面積の割合),網膜神経節細胞複合体(GCC)厚と中心視野障害(中心C10-2)との関連を検討した.対象・方法:対象は広義原発開放隅角緑内障C24例C37眼(MD値:.9.1±9.4CdB)とした.年齢,眼軸長を共変量,症例をランダム効果とした線形混合モデルにおいて,mVD,mPD,GCC厚とCMD値,セクター別CTD値の関連を検討した.結果:mVD,GCC厚はCMD値と有意な関連がみられた(mVD:StandardizedCb=0.38,GCC厚:Standard-izedCb=0.72).セクター別の解析ではCmVD,GCC厚はすべてのセクターで平均CTD値と有意な関連がみられた.結論:緑内障眼のCmVD,GCC厚は対応する中心視野との関連を示し,GCCの菲薄化がもっとも緑内障性視野障害の程度を反映する指標であることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCrelationshipCbetweenCmacularCvesseldensity(mVD;lengthCofCvesselsCperCunitarea),macularperfusionCdensity(mPD;areaCpercentageCofCvesselsCperCunitarea),CandCganglionCcellCcomplex(GCC)thicknessCinCglaucomatousCeyesCandCtheirCassociationCwithCcentralCvisual.eld(VF)defects(central10-2).CSubjectsandMethods:Weanalyzed37eyesfrom24patientswithwide-angleprimaryopen-angleglaucoma(MDvalue:.9.1±9.4dB).Linearmixed-e.ectsmodelswithsubject-levelrandomintercepts,adjustedforageandaxi-alClength,CwereCusedCtoCexamineCtheCassociationsCbetweenCmVD,CmPD,CGCCCthickness,CandCbothCmeanCdeviation(MD)andsector-speci.ctotaldeviation(TD)values.Results:MVDandGCCthicknessweresigni.cantlyassoci-atedwithMDvalues(mVD,Standardizedb=0.38;GCCthickness,Standardizedb=0.72).SectoralanalysisfoundthatCmVDCandCGCCCthicknessCwereCsigni.cantlyCassociatedCwithCaverageCTDCvaluesCinCallCsectors.CConclusion:CmVDandGCCthicknessinglaucomatouseyeswereassociatedwiththecorrespondingcentralVF,indicatingthatGCCthinningisareliableindicatoroftheseverityofglaucomatousVFdamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):892.897,C2025〕Keywords:黄斑部血管密度,黄斑部灌流密度,網膜神経節細胞複合体厚,中心視野,光干渉断層計.macularves-seldensity,macularperfusiondensity,retinalganglioncellcomplexthickness,centralvisual.eld,opticalcoherencetomographyCはじめに害をきたす1).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-緑内障は特徴的な視神経乳頭の構造的異常と進行性の網膜phy:OCT)を用いた黄斑部の網膜神経節細胞複合体(gan-神経節細胞の消失を引き起こし,障害部位に対応する視野障glioncellcomplex:GCC)厚解析は,緑内障の診断,進行評〔別刷請求先〕大内達央:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1Reprintrequests:TatsuhiroOuchi,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki,Okayama701-0192,JAPANC892(108)abc図1mVD,mPD,GCC解析,HFAのセクター分け(右眼)a:mVD,mPD解析:黄斑部6.0C×6.0mmのAngioスキャン(256C×256枚)を測定し,網膜表層(始端層ILM/0Cμm.IPL/INL+8Cμm)のCmVD,mPDを計測した.Cb:GCC解析:黄斑部C6.0C×6.0CmmのC3Dスキャン(256C×256枚)を測定し,GCC厚を計測した.Cc:HFA:mVD,mPD,GCC解析のCG-Chartmap解析領域に対応させて,四つのセクターに分割した平均Ctotaldeviation(TD)値を算出した.mVD,mPD,GCC解析の解析範囲と視野検査の測定範囲が一致している.価に有用であると報告されており2.4),緑内障診療に必要不可欠なパラメータである.近年,造影剤不要で非侵襲的に短時間で網脈絡膜血管を描出できる光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)が登場した.OCTAは緑内障性変化に伴う網膜表層の血管密度の減少をとらえることが可能で,血管密度の減少は乳頭周囲網膜神経線維層,黄斑部網膜内層の菲薄化と一致し5),緑内障性視野障害と関連が強い6)と報告されている.Leeら7)はCCirrusHD-OCTで計測した乳頭周囲血管密度,灌流密度が緑内障性視野障害と関連がみられたと報告している.しかし,筆者らが調べた限り,黄斑部血管密度(macularCvesseldensity:mVD),黄斑部灌流密度(macularCperfu-siondensity:mPD),GCC厚と緑内障性視野障害との関連性を黄斑部のセクター別に解析範囲を一致させて検討した報告はない.そこで本研究では,mVD,mPD,GCC厚の解析範囲と視野検査の測定範囲を一致させ,セクター別にmVD,mPD,GCC厚と視野障害の関連性を検討した.CI対象および方法対象はC2020年C4月.2024年C3月に川崎医科大学附属病院眼科においてCOCT撮影,Humphrey.eldanalyzer(HFA,CCarlZeissMeditecAG社)による静的視野検査,光学式眼軸長測定(OA-2000,トーメーコーポレーション)が施行された原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleglaucoma:POAG)および正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)とした.本研究の選択基準は,①最高矯正視力がC0.8以上,②mVD,mPD,GCC厚とCHFAを同日に測定している者,③緑内障・白内障以外の眼科疾患を有さない者とした.本研究は後方視的研究として実施され,川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認のもと(承認番号C5798-00),ヘルシンキ宣言に準拠して行われた.mVD,mPD,GCC厚の測定はCRS-3000CAdvanceC2(spectralCdomainOCT:NIDEK,蒲郡)を用いた.本装置は,光源波長C880Cnm,スキャンレートC85,000A-scans/秒,深さ方向C7Cμmである.mVD,mPDの測定のスキャンプロトコルは黄斑部C6.0C×6.0CmmのCAngioスキャン(256C×256枚)とし,網膜表層(始端層CILM/0Cμm.IPL/INL+8Cμm)のCmVD,mPDを計測した.mVDは血管細線化画像から算出され,単位面積あたりの血管の長さ(mmC.1)を示すパラメータである.mPDは二値化画像から算出され,単位面積あたりの血管面積の割合(%)を示すパラメータである.GCC厚の測定のスキャンプロトコルは黄斑部C6.0C×6.0CmmのC3Dスキャン(256C×256枚)とした.signalCstrengthindexがC8未満のデータは除外した.各セクターのCmVD,mPD,GCC厚はCG-Chartmapの内円と外円の平均値から算出した(図1a,b).視野測定はCHFA(中心C10-2プログラム,SITA-StandardもしくはCSITA-Fast)を用いた.固視不良C20%以上,偽陽性C15%以上,偽陰性C33%以上のいずれかに該当するデータは除外した.視野障害とCmVD,mPD,GCC厚との関連性を評価するため,視野検査結果をCmVD,mPD,GCC厚のCG-Chartmap解析領域に対応させて,四つのセクターに分割した平均Ctotaldeviation(TD)値を算出した(図1c).統計学的解析は,線形混合モデルを用いてCmVD,mPD,GCC厚とCmeandeviation(MD)値の関連性を検討した.目的変数をCMD値,固定効果をCmVD,mPD,GCC厚とし,年齢,眼軸長を共変量として解析した.症例ごとにC1眼またはC2眼を解析対象に含めたため,症例をランダム効果としてモデルに組み込み,両眼間の相関を補正した.各セクター別のCmVD,mPD,GCC厚とCTD値の関連性も同様の方法で表1患者背景早期.後期早期緑内障中期緑内障後期緑内障眼数C37C9C15C13POAG/NTG(眼)C20/17C4/5C6/9C10/3性別(男性/女性)13/24人1/8人4/11人8/5人年齢(歳)C64.27±10.49C63.11±12.07C64.67±9.77C64.62±10.97視力(logMAR)C.0.11±0.06C.0.10±0.07C.0.14±0.05C.0.16±0.28屈折度数(D)C.3.69±2.69C.3.81±3.09C.3.48±2.91C.3.85±2.33眼軸長(mm)C25.57±1.44C25.45±1.79C25.55±1.61C25.68±1.01中心C30-2MD(dB)C.11.22±6.53C.3.15±1.80C.9.24±1.75C.17.44±4.14VFI(%)C66.18±21.27C91.42±5.81C72.35±7.63C46.76±15.27中心C10-2MD(dB)C.9.11±7.83C.3.03±4.05C.7.55±4.75C.15.12±8.78PSD(dB)C9.42±5.02C4.98±4.65C10.52±4.47C11.22±4.25MD(dB)平均値±標準偏差.POAG:primaryCopen-angleCglaucoma,NTG:normal-tensionglaucoma,MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,VFI:visual.eldindex.C555000MD(dB)MD(dB)-5-5-5-10-10-10-15-15-15-20-20-20-25-25-25-30-30-30-35-35-35-40-40-400246810010203040505060708090100110mVD(mm-1)mPD(%)GCC厚(μm)図2mVD,mPD,GCC厚とMD値の関係mVD,GCC厚はCMD値と有意な関連がみられた.表2mVD,mPD,GCC厚とMD値の関連性MD値b95%信頼区間CPvalueCAICCmVD(mmC.1)C0.38C0.18C2.75<C0.05C150.9mPD(%)C0.32C.0.02C0.52C0.06C152.4GCC厚(Cμm)C0.72C0.40C0.83<C0.01C130.8Cb:標準化偏回帰係数,AIC:Akaike’sInformationCriterion.検討した.また,赤池情報量基準を用いてモデル適合度を判定した.統計学的分析は,統計解析ソフトCSPSSCStatistics23.0(SPSSJapan)を使用した.危険率C5%未満を統計学的に有意とした.CII結果本研究の対象はC30名C37眼(早期:9眼,中期:15眼,後期:13眼),平均年齢±標準偏差はC64.3C±10.5歳であった(表1).mVD,GCC厚はMD値と有意な関連がみられた〔mVD:標準化偏回帰係数(Cb)=0.38,p<0.05,GCC厚:Cb=0.72,p<0.01〕(図2).赤池情報量基準によるCMD値とのモデル適合度はCGCC厚,mVD,mPDの順で良好であった(mVD:150.9,mPD:152.4,GCC厚:130.8)(表2).各セクター別の解析ではCmVD,GCC厚はすべてのセクターでCTD値と有意な関連がみられた(図3)〔(上耳側セクター)mVD:Cb=0.40,p<0.01,GCC厚:Cb=0.55,p<0.01,(上鼻側セクター)mVD:Cb=0.35,p<0.05,GCC厚:Cb=0.66,p<0.01,(下耳側セクター)mVD:Cb=0.49,p<0.01,GCC厚:Cb=0.67,p<0.01,(下鼻側セクター)mVD:Cb=0.42,p<0.05,GCC厚:Cb=0.77,p<0.01〕.赤池情報量基準によるモデル適合度はすべてのセクターでGCC厚,mVD,mPDの順で良好であった(表3)〔(上耳側セクター)mVD:176.5,mPD:175.4,GCC厚:164.5,(上鼻側セクター)mVD:131.5,mPD:133.7,GCC厚:116.0,ST5500-5-5-5Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)-25-30-35-25-30-35-25-30-35-40-40-40102030405060708090100mPD(%)GCC厚(μm)024681012mVD(mm-1)SN50-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-35-40-40-400246810121401020304050605060708090100110120mVD(mm-1)mPD(%)GCC厚(μm)IT50-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-35-40-40-40246805060708090100mPD(%)GCC厚(μm)010mVD(mm-1)102030405060IN50-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-35-40-40-400mPD(%)図3mVD,mPD,GCC厚とTD値のセクター別の関係上方セクター(ST,SN)では,mVD,GCC厚がCTD値と関連がみられ,下方セクター(IN,IT)では,mVD,mPD,GCC厚がCTD値と関連がみられた.すべてのセクターでCGCC厚がCTD値ともっとも関連が強かった.024681012mVD(mm-1)1020304050605060708090100110120GCC厚(μm)(下耳側セクター)mVD:177.5,mPD:178.9,GCC厚:CIII考按164.0,(下鼻側セクター)mVD:163.5,mPD:165.2,GCC厚:141.7〕.本研究ではCmVD,mPD,GCC厚の解析範囲と視野検査表3mVD,mPD,GCC厚とTD値のセクター別の関連性b95%信頼区間CPCvalueCAICCSTmVD(mmC.1)C0.40C0.48C3.02<C0.01C173.5mPD(%)C0.23C.0.02C0.59C0.10C175.4GCC厚(Cμm)C0.55C0.25C0.75<C0.01C164.5CSNmVD(mmC.1)C0.35C0.10C1.48<C0.05C131.5mPD(%)C0.25C.0.03C0.28C0.12C133.7GCC厚(Cμm)C0.66C0.17C0.41<C0.01C116.0CITmVD(mmC.1)C0.49C1.15C4.79<C0.01C177.5mPD(%)C0.45C0.17C0.85<C0.01C178.9GCC厚(Cμm)C0.67C0.36C0.78<C0.01C164.0CINmVD(mmC.1)C0.42C0.34C2.91<C0.05C163.5mPD(%)C0.34C0.01C0.55<C0.05C165.2GCC厚(Cμm)C0.77C0.35C0.66<C0.01C141.7Cb:標準化偏回帰係数,AIC:Akaike’sInformationCriterion.の測定範囲を一致させ,mVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害の関連性を検討した.その結果,mVD,GCC厚はMD値と有意な関連がみられ,視野障害が強いほどCmVDの低下およびCGCCの菲薄化を示した.赤池情報量基準によるMD値とのモデル適合度はCGCC厚,mVD,mPDの順で良好であった.既報では,早期緑内障においてmPDよりGCC厚のほうが視野障害との関連が強いこと8)や,後期緑内障でもCGCC厚は進行の検出が可能であること9),緑内障診断力はCmPDよりCGCC厚のほうが優れていること10)が報告されている.また,Chenら11)は中心C10-2視野における構造と機能の関係が,乳頭周囲灌流密度,GCC厚,乳頭周囲網膜神経線維層厚,mPDの順で強く,黄斑部解析においてはCOCTAパラメータよりもCOCTパラメータのほうが視野障害との関連が強いことを示している.本研究ではmVD,mPDのC2種のCOCTAパラメータとCGCC厚を比較し,黄斑部における構造と機能の関係を詳細に検討したが,既報と同様にCGCC厚のほうが視野障害との関連が強かった.よって,OCTによるCGCC厚解析はCOCTAによるCmVD,mPD解析よりも緑内障性視野障害の程度をより鋭敏に示す指標であることが示唆された.この理由として,GCC厚解析は網膜神経節細胞が密に集中する黄斑部12)が測定領域であり,測定値のダイナミックレンジが広いため13),微小な構造的変化を検出する能力に優れていることが考えられる.対照的に,mVD,mPD解析では測定値のダイナミックレンジが狭く,黄斑部の血流は乳頭周囲に比べて乏しいため,GCC厚と比較して視野障害との関連が弱かった可能性がある.一方で,GCC厚の測定値には血管やグリア細胞などの非神経要素が含まれており,測定値が理論的に減少する限界(.oore.ect)がみられる14,15)が,mVDおよびCmPDはC.oore.ectの影響を受けにくく,進行した緑内障眼における構造と機能の関係の評価に有用である可能性がある6).今後,症例数を増やし,mVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害の関連性を病期別に検討する必要がある.筆者らが調べた限り,mVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害との関連性を黄斑部のセクター別に解析範囲を一致させて検討した報告は本研究が初めてである.その結果,すべてのセクターでCGCC厚がもっとも関連が強く,赤池情報量基準によるモデル適合度はCGCC厚がもっとも良好であった.CAkiyamaら8)はCmPD,GCC厚と緑内障性視野障害のCEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)セクター別の関連性を検討し,上下セクターにおいてCmPDよりもGCC厚のほうが強い関連を示したと報告している.本研究は既報と同様の結果であった.しかし,Akiyamaらの検討8)で用いられたCETDRSセクターは,黄斑疾患に基づいて設計された分割法であり,水平経線で分割していないため,緑内障に特徴的な上下象限の非対称性を考慮できていないことが問題点としてあげられる.一方,本研究で用いたCG-Chartマップは緑内障解析に特化した分割法で,水平経線で分割し,視野との対応関係を一致させた解析が可能であった.そのため,緑内障による構造的変化を考慮した分割法を用いた本研究は,既報よりもCmVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害との関連を詳細に検討できたと考えられる.よって,緑内障眼の黄斑部のセクター別解析において,GCCの菲薄化がもっとも緑内障性視野障害の程度を反映する指標である可能性が高いと考えられる.本研究の限界として,多数例の検討ではなく,長眼軸長のデータが含まれる点,HFAの測定プログラムが統一されていないため測定データの一貫性に課題がある点,病期別での検討ができていない点,POAG眼とCNTG眼の両者を区別せずに解析を行った点などがあげられる.POAG眼とCNTG眼のCOCTAパラメータの違いに関しては,さまざまな結果が報告されている16.18)が,Xuら18)は黄斑部の血管密度はPOAG眼とCNTG眼で同等であることを示しており,両者を区別せずに解析を行ったことが本研究の結果に与える影響は少ないと考えられる.本研究では,緑内障眼の黄斑部解析はCmVD,GCC厚が対応する中心視野との関連を示し,GCCの菲薄化がもっとも緑内障性視野障害の程度を反映する指標であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)GarasCA,CVarghaCP,CHolloG:DiagnosticCaccuracyCofCnerveC.breClayer,CmacularCthicknessCandCopticCdiscCmea-surementsCmadeCwithCtheCRTVue-100CopticalCcoherenceCtomographCtoCdetectCglaucoma.Eye(Lond)C25:57-65,C20113)MwanzaCJC,CDurbinCMK,CBudenzCDLCetal:GlaucomaCdiagnosticaccuracyofganglioncell-innerplexiformlayerthickness:comparisonCwithCnerveC.berClayerCandCopticCnervehead.OphthalmologyC119:1151-1158,C20124)KimCHJ,CLeeCSY,CParkCKHCetal:GlaucomaCDiagnosticCAbilityofLayer-by-LayerSegmentedGanglionCellCom-plexbySpectral-DomainOpticalCoherenceTomography.GlaucomaC57:4799-4805,C20165)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:MicrovascularDensi-tyCinCGlaucomatousCEyesCWithCHemi.eldCVisualCFieldDefects:AnCOpticalCCoherenceCTomographyCAngiogra-phyStudy.AmJOphthalmolC168:237-249,C20166)MoghimiCS,CBowdCC,CZangwillCLMCetal:MeasurementC.oorsCandCdynamicCrangesCofCopticalCcoherenceCtomogra-phyCandCangiographyCinCglaucoma.COphthalmologyC126:C980-988,C20207)LeeCMW,CYuCHY,CParkCKSCetal:ACcomparisonCofCperi-papillaryCvesselCdensityCbetweenCsubjectsCwithCnormal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucomawithsimilarCextentsCofCglaucomatousCdamage.CSciCRepC13:9258,C20238)AkiyamaCK,CSaitoCH,CShiratoCSCetal:DiagnosticCabilityCandsectoralstructure-functionrelationshipofcircumpap-illaryandmacularsuper.cialvesseldensityinearlyglau-comatouseyes.SciRepC12:5991,C20229)BelghithCA,CMedeirosCFA,CBowdCCCetal:StructuralCChangeCCanCBeCDetectedCinCAdvanced-GlaucomaCEyes.CInvestOphthalmolVisSciC57:OCT511-OCT518,C201610)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:AcomparisonoftheCdiagnosticCabilityCofCvesselCdensityCandCstructuralCmeasurementsofopticalcoherencetomographyinprima-ryopenangleglaucoma.PLoSOneC12:e0173930,C201711)ChenCHSL,CLiuCCH,CWuCWCCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCofCtheCsuper.cialCmicrovascula-tureCinCtheCmacularCandCperipapillaryCareasCinCglaucoma-tousCandChealthyCeyes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C3637-3645,C201712)CurcioCCA,CAllenKA:TopographyCofCganglionCcellsCinChumanretina.JCompNeurolC300:5-25,C199013)HouH,MoghimiS,ProudfootJAetal:Ganglioncellcom-plexCthicknessCandCmaculaCvesselCdensityClossCinCprimaryCopenCangleCglaucoma.COphthalmologyC127:1043-1052,C202014)SihotaCR,CSonyCP,CGuptaCVCetal:DiagnosticCcapabilityCofCopticalcoherencetomographyinevaluatingthedegreeofglaucomatousCretinalCnerveC.berCdamage.CInvestCOphthal-molVisSciC47:2006-2010,C200615)MwanzaCJC,CBudenzCDL,CWarrenCJLCetal:RetinalCnerveC.berClayerCthicknessC.oorCandCcorrespondingCfunctionalClossinglaucoma.BrJOphthalmolC99:732-737,C201516)BojikianKD,ChenCL,WenJCetal:Opticdiscperfusioninprimaryopenangleandnormaltensionglaucomaeyesusingopticalcoherencetomography-basedmicroangiogra-phy.PLoSONEC11:e0154691,C201617)ScripsemaCNK,CGarciaCPM,CBavierCRDCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCanalysisCofCperfusedCperipapillaryCcapillariesCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCnormal-tensionCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC57:OCT611-OCT620,C201618)XuH,ZhaiR,ZongYetal:Comparisonofretinalmicro-vascularCchangesCinCeyesCwithChigh-tensionCglaucomaCornormal-tensionglaucoma:AquantitativeopticcoherencetomographyCangiographicCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:1179-1186,C2018***

チューブ断裂による過剰濾過により低眼圧をきたしたロングチューブシャント術後の1例

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):887.891,2025cチューブ断裂による過剰濾過により低眼圧をきたしたロングチューブシャント術後の1例川村光*1池田華子*1,2沼尚吾*1森雄貴*1三宅正裕*1須田謙史*1亀田隆範*1辻川明孝*1*1京都大学大学院医学研究科眼科学教室*2大阪医科薬科大学医学部眼科学教室CACaseofHypotonyDuetoOver.ltrationfromTubeDisruptionafterLong-TubeShuntSurgeryHikaruKawamura1),HanakoO.Ikeda1,2)C,ShogoNuma1),YukiMori1),MasahiroMiyake1),KenjiSuda1),TakanoriKameda1)andAkitakaTsujikawa1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversityC多重手術後の原発開放隅角緑内障症例に対して緑内障インプラント手術を施行後に,低眼圧と脈絡膜.離が出現した.改善の兆しがなく,チューブ再結紮目的で行った再手術にてチューブを確認したところ,吸収糸での結紮部位付近でチューブが断裂していた.チューブ断端を縫合し,チューブ内にC3-0ナイロン糸をステント糸として留置した.術後C30日目にステント糸を抜去し,以降は眼圧C8CmmHg前後で推移した.ロングチューブシャント手術後に低眼圧が遷延する場合は,チューブの断裂の可能性をも考慮に入れる必要がある.CFollowingglaucomaimplantsurgeryinacaseofprimaryopen-angleglaucomawithahistoryofmultiplepre-vioussurgeries,hypotonyandchoroidaldetachmentwereobserved,withnosignsofimprovement.Duringasubse-quentCsurgery,CitCwasCdiscoveredCthatCtheCtubeCwasCrupturedCnearCtheCligationCsiteCofCtheCabsorbableCsuture.CForCtreatment,theseveredendsofthetubeweresutured,andthen3-0nylonthreadwasinsertedasastentwithinthetube.At30-dayspostoperative,thestentwasremovedandintraocularpressure(IOP)inthateyeremainedataroundC8CmmHg.CInCcasesCofCprolongedClowCIOPCfollowingClong-tubeCshuntCsurgery,CtheCpossibilityCofCaCrupturedCtubeshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):887.891,C2025〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,チューブ断裂,3-0ナイロン糸.Bearveldtglaucomaimplant,tubedisruption,3-0nylon.CはじめにBaerveldt緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)は眼外への房水流出を増加させる目的で眼内に挿入する緑内障インプラントの一つである.BGIとマイトマイシンCC併用線維柱帯切除術との前向き比較試験にて,多重手術眼ではCBGI手術のほうが線維柱帯切除術より累積失敗率が低く1),初回手術眼では累積失敗率に有意差がない2)と報告されている.わが国では,線維柱帯切除術が不成功に終わった,成功が見込めない,手術既往により結膜の瘢痕化が高度であるなどの症例に実施することが推奨されている3).BGIは調圧弁がなく,術後早期の低眼圧防止のためチューブを吸収糸で結紮する必要があり,結紮糸が溶けるまでの間の高眼圧予防目的でチューブにCSherwoodslitを入れる4).ステント糸をチューブ内に留置してリップコードとし,術後の眼圧に応じてステント糸を抜去し,眼圧を調整することもある5).BGIの術後合併症の一つに,過剰濾過に伴う低眼圧があり,チューブ結紮が不十分または結紮の解除が原因と考〔別刷請求先〕池田華子:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町C54京都大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:HanakoO.Ikeda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shogoin-kawahara-cho54,Sakyo,Kyoto606-8507,JAPANCえられる場合には,再手術にてチューブ結紮を追加することがある.今回筆者らは多重手術後の眼圧コントロール不良眼にCBGI挿入術を実施,術後に低眼圧と脈絡膜.離が遷延し,チューブ再結紮目的に行った再手術時にチューブ断裂を認めたC1例を経験したので報告する.CI症例79歳,女性.50歳代に両眼強度近視・原発開放隅角緑内障の診断を受け,55歳時に両眼線維柱帯切除術,73歳時に両眼白内障手術を施行した.75歳時に左眼眼内レンズ偏位に対して硝子体手術ならびに眼内レンズ強膜内固定術を施行した.75歳時まで,眼圧下降点眼薬下で両眼眼圧C10CmmHg台前半を推移していた.79歳時に左眼眼圧が上昇し,眼圧下降点眼薬C5剤とアセタゾラミド内服下で左眼眼圧C15CmmHg前後となった.視野はC60歳代に両眼ともに中心視野が欠損し,その後も視野狭窄が進行していた.治療方針の相談目的にて当科紹介となった.当科初診時の視力は右眼C0.03(0.09C×sph.4.75D(cylC.1.00DCAx135°),左眼C0.02(0.09C×sph.7.00D(cyl.3.0CDAx60°),眼圧は,眼圧下降点眼薬C5剤およびアセタゾラミドC250Cmg2錠分C2内服下にて,右眼C10CmmHg,左眼C14mmHgであった.両眼眼内レンズ挿入眼,隅角検査にて開放隅角で特記すべき所見はなく,両眼C11時方向結膜に濾過手術痕と周辺虹彩切除,左眼耳上側に眼内レンズ摘出および強膜内固定術による結膜瘢痕を認めた.眼軸長は右眼C29.8mm,左眼C28.8mm,視野は両眼湖崎分類CVb期だった.眼圧上昇した左眼に関して,眼圧C10CmmHg台前半で視野狭窄が進行していたこと,多重手術後かつ硝子体切除済みであったことから,左眼耳上側にCBGIを挿入,チューブ先端は毛様体扁平部から硝子体腔内へ挿入する方針とした.CII初回BGI挿入術BGI(BGI-101-350)のチューブはC8-0バイクリル糸でC3カ所結紮し,SherwoodslitをC3カ所作成した.耳上側にBGIのプレートを挿入し,角膜輪部よりC9Cmmの強膜にC5-0ダクロン糸で固定した.チューブ先端を硝子体腔内に留置し,チューブをC9-0ナイロン糸で強膜に固定した.チューブを保存強膜片で被覆し,結膜縫合を行った.BGI挿入術翌日より眼圧C2CmmHg程度の低眼圧と全周性に丈の高い脈絡膜.離を認めた.眼圧上昇する兆候を認めず(図1),チューブ結紮が不十分なことによる過剰濾過を疑い,術後C7日目に再手術にてCBGIを確認することにした.結膜を切開し,チューブを被覆した保存強膜片を.離して確認したところ,もともとチューブを結紮していたバイクリル糸のうち,一番プレート側のC1糸が確認できず,その付近でチューブが断裂し,断裂部位からの多量の房水流出を認めた(図2).房水流出を抑制するため,断裂部位より角膜側にてC8-0バイクリル糸でC1カ所チューブを結紮した(図2).再手術翌日より左眼圧がC34CmmHgに上昇し,眼圧下降点眼薬とアセタゾラミド内服を再開,眼球マッサージを開始した.再手術C2週間以降は,眼圧下降薬使用下C14-18CmmHgで推移した.結紮したバイクリル糸の吸収を待つも眼圧は下降せず,アセタゾラミド内服を中止するとC20CmmHg以上に上昇した(図1).前眼部光干渉断層計(OCT)でCBGIを観察したところ,チューブ内腔は開通していたが,プレート上の濾過胞形成が不良であった(図3a).プレート付近の過度な瘢痕形成により通水が不十分である可能性が疑われたため,BGI再建術を実施することとした.CIIIBGI再建術結膜を切開したところ,BGIプレートおよびチューブ周囲に瘢痕組織を認めた.チューブ断端部周囲の瘢痕組織を除去したところ,房水の漏出を認めた.BGIプレート周囲の瘢痕組織を.離・除去した.チューブ内にC3-0ナイロン糸をステント糸として留置し,チューブ断端同士をC10-0ナイロン糸でC2カ所縫合した(図4).プレート上にわずかに房水が流出していることを確認した.BGIチューブを保存強膜片で被覆縫合し,結膜を縫合した.ステント糸の片端を結膜切開創から結膜上に出し,固定した(リップコード).BGI再建術後,数日は眼圧C3CmmHg前後の低値であったが,上昇傾向となり退院した(図1).そのあとに眼圧がさらに上昇したため,眼圧下降点眼薬および眼球マッサージを再開した.ステント糸は再建術後C30日目に抜去した.術後C47日目には眼圧はC13CmmHgに低下し,前眼部COCTでプレート上の濾過胞が良好に形成されていた(図3b).以降の半年間は眼圧の再上昇がなく,眼圧下降薬C2剤(ラタノプロスト,チモロール配合薬)にてC8CmmHg前後で推移している(図1).CIV考按BGI手術後に低眼圧を呈し,再手術時にCBGIのチューブが断裂していた症例を経験した.チューブ結紮追加で眼圧が上昇したが,そののち良好な眼圧コントロールが得られなかったため,BGI再建術を行った.BGI周囲の瘢痕組織を除去後,チューブ内にステント糸を挿入し,断端同士を縫合した.ステント糸抜去後,濾過胞形成および眼圧下降は良好である.本症例において術翌日からの低眼圧は,チューブが断裂したことによる過剰濾過が原因であった.チューブは吸収糸での結紮部位付近で断裂していた.BGI挿入初回手術の操作を録画映像にて見返したところ,結膜とCTenon.によるCBGI左眼眼圧(mmHg)353025201510501D4D7D8D11D15D1M2M3M4M5M1D3D6D9D13D19D30D33D47D2M3M7M眼圧下降点眼薬アセタゾラミド4剤内服図1BGI挿入術実施後の左眼眼圧の推移図2術後7日目のBGI確認とチューブ結紮a:チューブが断裂し(.),断裂部位からの多量の房水流出を認めた.断裂部位より角膜側にてC8-0バイクリル糸でC1カ所チューブを結紮した(.).b:チューブ結紮部のシェーマ.被覆時にプレートが角膜輪部側へ押される場面が確認できり高眼圧をきたした症例が報告されている6).BGIのチューた.術中や術終了時にチューブの断裂や付近からの房水流出ブは厚み約C0.3Cmmで原材質がシリコンであることを考慮すは認めなかったことから,チューブによじれる力が加わり,ると,吸収糸による結紮にて負荷がかかった部位によじれる術終了後翌日までの間に結紮部位が断裂した可能性が考えら力が加わったことが断裂の一因となった可能性がある.れた(図5).チューブ断裂を予防する方法としては,プレートを緩みがロングチューブシャント術後にチューブ断裂を認めた症例ないように固定する5),結膜とCTenon.の被覆時にプレートの報告は見当たらなかったが,術後にチューブのよじれによ偏位がないか確認すること,などが考えられる.図3BGI再建術前後の前眼部OCT画像a:BGIプレート(#)上の濾過胞形成は不良である(→).b:BGI再建術後C47日目にはCBGIプレート(#)上の濾過胞が良好に形成された(*).b3-0ナイロン図4BGI再建術a:BGIプレート周囲の瘢痕組織を.離・除去した.チューブ内にC3-0ナイロン糸をステント糸として留置し,チューブ断端同士をC10-0ナイロン糸でC2カ所縫合した(.).b:チューブ断端のシェーマ.BGI挿入術後に低眼圧を認めた際,チューブの早期開放による過剰濾過と考えた.しかし,チューブの再結紮目的で行った再手術にてチューブ断裂を認めた.断端より角膜側のチューブを再結紮し,結紮糸吸収による眼圧下降を期待したが,チューブ断端が瘢痕組織により閉鎖したことで想定していた眼圧調整が困難となった.チューブ断裂を認めた時点で,BGIチューブを端端縫合しプレートまでの房水流出路を保つことができれば,BGI再建・被膜除去術を回避できた可能性もある.BGI再建術時には,術後の低眼圧予防としてチューブ内に3-0ナイロン糸をステントとして留置し,術後の眼圧推移を見ながら抜去できる様にリップコードとした.Sherwoodslitを作成し,3-0ナイロン糸を留置したCBGIチューブの房水流出能は,生理的な眼球の房水流出能に近いとの報告もあり7),BGI周囲に瘢痕が過度に形成されることを懸念し,本症例では吸収糸による再度のチューブ結紮は行わなかった.BGI再建術後数日は眼圧が低めで推移したものの,術後C9日目に眼圧がC18CmmHgに上昇しており,チューブ結紮することなく低眼圧遷延を予防することができた.BGIプレート周囲の線維性被膜は術後C4.6週間で形成されること8),術後早期の過度な房水漏出は過度な炎症と被膜増殖をもたらし,濾過胞形成不良と眼圧上昇に関連すること9)から,BGIチューブ内に留置したC3-0ナイロン糸は術後所見に応じてC4.68週後に抜去したとの報告がある10).本症例ではCBGI再建術後C9日目に眼圧上昇を認めたが,眼圧下降点眼薬と眼球マッサージにて眼圧調整しつつ,術後C30日目にステント糸を抜去した.以降は良好な濾過胞形成およびb図5BGI挿入初回手術時の操作a:BGI挿入初回手術の操作を録画映像で見返したところ,結膜とCTenon.によるCBGI被覆時にプレートが角膜輪部側へ押される場面が確認できた.b:BGI被膜時のシェーマ.眼圧下降を得られており,ステント糸抜去時期は適切であったと考えられる.BGI手術後に吸収糸での結紮部位付近でチューブ断裂をきたし,過剰濾過をきたした症例を経験した.チューブ内にステント糸を挿入してリップコードとし,断端同士を縫合,BGIを再建することで良好な眼圧下降を得られた.ロングチューブシャント術時にはチューブ断裂につながる力を加えないように注意するとともに,術後の低眼圧遷延時にはチューブの断裂も念頭におく必要がある.利益相反川村光なし池田華子なし沼尚吾なし森雄貴なし三宅正裕:ノバルティス・ファーマ株式会社,第一三共株式会社須田謙史なし亀田隆範なし辻川明孝:キヤノン株式会社,株式会社ファインデックス,参天製薬株式会社,住友ファーマ株式会社文献1)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20122)GeddeCSJ,CFeuerWJ,CLimCKSCetal:TreatmentCOutcomesCinCtheCPrimaryCTubeCVersusCTrabeculectomyCStudyCafterC5CYearsCofCFollow-up.COphthalmologyC129:1344-1356,C20223)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:118.C20224)SherwoodCMB,CSmithMF:PreventionCofCearlyChypotonyCassociatedCwithCMoltenoCimplantsCbyCaCnewCoccludingCstenttechnique.OphthalmologyC100:85-90,C19935)谷戸正樹:緑内障ロングチューブシャント手術実践マニュアル,日本医事新報社,p18-21,20236)朝岡聖子,本田理峰,山ロ昌大ほか:バルベルト緑内障インプラントにおけるチューブのよじれを整復したC1例.あたらしい眼科C34:899-902,C20177)BreckenridgeCRR,CBartholomewCLR,CCrossonCCECetal:COut.owCresistanceCofCtheCBaerveldtCglaucomaCdrainageCimplantandmodi.cationsforearlypostoperativeintraocu-larpressurecontrol.JGlaucomaC13:396-399,C20048)MoltenoCAC,CFucikCM,CDempsterCAGCetal:FactorsCcon-trollingcapsule.brosisaroundMoltenoimplantswithhis-topathologicalCcorrelation.COphthalmologyC110:2198-2206,C20039)HongCCH,CArosemenaCA,CZurakowskiCDCetal:GlaucomaCdrainagedevices:asystematicliteraturereviewandcur-rentcontroversies.SurvOphthalmolC50:48-60,C200510)StringaCF,CChenCR,CAgrawalP:One-yearCoutcomesCfol-lowingCinternalCligationCsutureCremovalCinC350Cmm2CBaer-veldtCtubeCimplantCsurgery.CJCCurrCGlaucomaCPractC16:C20-23,C2022C***

多施設による緑内障患者の実態調査2024年版─薬物治療─

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):881.886,2025c多施設による緑内障患者の実態調査2024年版─薬物治療─小林大航*1,2井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*3富田剛司*1,2石田恭子*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院*3西葛西・井上眼科病院CMulti-institutionalsurveyforglaucomain2024─drugtherapy─TaikoKobayashi1,2)C,KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),GojiTomita1,2)CandKyokoIshida2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,3)NishikasaiInouyeEyeHospitalC目的:現状の緑内障患者の実態をアンケート調査して,さらに経時的変化を検討する.対象と方法:本調査に賛同したC82施設に外来受診した緑内障および高眼圧症患者C6,323例C6,323眼を対象とした.病型と,レーザーおよび手術既往歴,使用薬剤を調査した.2020年に行った前回調査とも比較した.結果:病型は正常眼圧緑内障C45.6%,原発開放隅角緑内障C33.1%,続発緑内障C7.8%などであった.使用薬剤数はC1.8C±1.4剤であった.単剤はCFP作動薬C61.9%,2剤はCFP/Cb配合剤C56.4%が各々最多だった.配合剤使用はC3剤C91.3%,4剤C94.2%で前回調査より増加した.単剤はEP2作動薬が,2剤はCFP/Cb配合剤が前回調査より増加した.レーザーと手術既往は前回調査より増加した.結論:単剤はCFP作動薬,2剤はCFP/Cb配合剤が依然として最多だった.3剤以上での配合剤使用,レーザー既往,手術既往は調査ごとに増加している.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcurrentCstatusCofCglaucomaCtherapyCthroughCaCsurvey,CandCfurtherCexamineCchangesovertime.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved6,323glaucomaandocularhypertensionpatientsseenat82participatingfacilities.Diseasetype,historyofsurgery/laser-surgery,andmedicationsusedwereinves-tigatedandcomparedwiththeprevious2020survey.Results:Subtypesincludednormal-tensionglaucoma(45.6%)C,primaryCopen-angleCglaucoma(33.1%)C,CandsecondaryCglaucoma(7.8%)C.CFPCagonistsCandCFP/bcombinationCdrugsweremostcommonlyusedinsingle-medication(61.9%)anddual-medication(56.4%)therapies,respective-ly,andofthecombinationdrugsused,91.3%involved3medicationsand94.2%involved4medications,anincreaseCcomparedtothe2020survey.Comparedtotheprevioussurvey,EP2agonists(monotherapy)andFP/bcombina-tiondrugs(dual-medication)wereusedmorefrequentlyandthenumberofsurgicalandlaser-surgeryproceduresperformedChadCincreased.CConclusions:ComparedCtoCtheCpreviousCsurvey,CFPagonists(monotherapy)andCFP/bcombinationdrugs(dual-medicationtherapy)remainedCtheCdrugsCmostCcommonlyCused,CwithC3CorCmoreCmedica-tionsCusedCmoreCfrequentlyCinCtheCcombinationCdrugs,CandCtheCnumberCofCsurgicalCandClaser-surgeryCproceduresCperformedhadincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):881.886,C2025〕Keywords:眼科医療施設,多施設,緑内障治療薬,緑内障実態調査,配合剤.ophthalmologymedicalfacility,drugforglaucoma,surveyforglaucoma,combinationeyedrops.Cはじめに日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第C5版が2022年に改訂された1).緑内障性視野障害進行抑制に対して唯一根拠が明確に示されている治療は眼圧下降で,わが国において現在の開放隅角緑内障治療の第一選択は薬物治療である.新たな作用機序を有する眼圧下降薬,新規配合剤が使用可能となり,薬物治療を行ううえでの選択肢は増えている.緑内障診療ガイドライン第C4版がC2018年に改訂されて以降,EP2作動薬(オミデネパグイソプロピル)と新規配合剤(ブリモニジン/ブリンゾラミド,リパスジル/ブリモニジン)が使用可能になった.そこで,眼科専門病院やクリニックにおける多施設での緑内障患者実態調査をC2007年に開始した2).〔別刷請求先〕小林大航:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TaikoKobayashi,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3KandaSurugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(97)C881表1研究協力施設(82施設)1ふじた眼科クリニックC22あいりす眼科クリニックC43おがわ眼科C64たじま眼科・形成外科C2苫小牧しみず眼科C23かさい眼科C44綱島駅前眼科C65やなせ眼科C3有楽町駅前眼科C24みやざき眼科C45眼科中井医院C66母心堂平形眼科C4アイ・ローズクリニックC25はしだ眼科クリニックC46市ヶ尾眼科C67ヒルサイド眼科クリニックC5飯田橋藤原眼科C26にしかまた眼科C47さいとう眼科C68さいはく眼科クリニックC6中山眼科医院C27久が原眼科C48あおやぎ眼科C69藤原眼科C7白金眼科クリニックC28田宮眼科C49本郷眼科C70ふじもと眼科クリニックC8高輪台眼科クリニックC29そが眼科クリニックC50吉田眼科C71大原ちか眼科C9小川眼科診療所C30明大前西アイクリニックC51のだ眼科麻酔科医院C72かわぞえ眼科クリニックC10もりちか眼科クリニックC31ほりかわ眼科久我山井の頭通りC52みやけ眼科C73いまこが眼科医院C11鈴木眼科C32広沢眼科C53高根台眼科C74槇眼科医院C12良田眼科C33小滝橋西野眼科クリニックC54大島眼科医院C75むらかみ眼科クリニックC13駒込みつい眼科C34いなげ眼科C55おおあみ眼科C76川島眼科C14赤羽すずらん眼科C35眼科松原クリニックC56いずみ眼科クリニックC77鬼怒川眼科医院C15菅原眼科クリニックC36しらやま眼科クリニックC57サンアイ眼科C78お茶の水井上眼科クリニックC16うえだ眼科クリニックC37赤塚眼科はやし医院C58さいき眼科C79井上眼科病院C17江本眼科C38氷川台かたくら眼科C59林眼科医院C80西葛西・井上眼科病院C18えづれ眼科C39えぎ眼科仙川クリニックC60のいり眼科クリニックC81大宮・井上眼科クリニックC19的場眼科クリニックC40西府ひかり眼科C61石井眼科クリニックC82札幌・井上眼科クリニックC20錦糸町おおかわ眼科クリニックC41東小金井駅前眼科C62やながわ眼科C21江戸川のざき内科眼科C42後藤眼科C63ふかさく眼科そののち,2009年に第C2回3),2012年に第C3回4),2016年に第C4回5),2020年に第C5回の緑内障患者実態調査6)を実施した.そこで今回は,緑内障診療ガイドライン第C5版に合わせて新たに第C6回緑内障患者実態調査を実施し,緑内障患者の最新の実態を解明した.加えて前回調査の結果6)と比較し,経年変化を解析した.CI対象と方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した全国C82施設においてC2024年C3月C10.16日に施行した.調査目的は緑内障患者への薬物治療の実態把握である.協力施設を表1に示す.調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.今回の調査から緑内障病型として初めて前視野緑内障(preperimetricCglaucoma:PPG)を入れた.総症例数はC6,323例,男性C2,765例,女性C3,558例,平均年齢C69.2C±13.3歳(5.100歳)であった.緑内障の診断と治療は緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.調査は調査票(図1)を用いて行った.調査票に年齢,性別,病型,使用薬剤,レーザー治療と緑内障手術の既往を記載し回収した.片眼症例は患眼,両眼症例は右眼を調査した.患者背景,使用薬剤数,単.5剤の使用薬剤を調査した.前回の調査と同様に薬剤は一般名での収集とした.配合剤はC2剤として解析した.さらに,2020年に行った前回調査の結果6)と比較した.今回調査の各薬剤分布の比較にはC|2検定,Fisherの直接法,今回調査と前回調査の患者背景の年齢比較には対応のないCt検定,使用薬剤数の比較にはCMann-Whit-neyのCU検定,男女比,レーザー治療既往症例,手術既往症例の比較にはC|2検定,Fisherの直接法を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果今回の調査での病型は正常眼圧緑内障C2,882例(45.6%),原発開放隅角緑内障C2,090例(33.1%),続発緑内障C492例(7.8%),前視野緑内障C344例(5.4%)などであった(図2).レーザー治療既往症例はC312例(4.9%),緑内障手術既往症例はC571例(9.0%)であった(表2).レーザー治療の内訳は,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtrabeculo-図1調査票正常眼圧緑内障45.651.0**原発開放隅角33.1**緑内障31.07.8続発緑内障8.25.40.1**4.4前視野緑内障高眼圧症5.4原発閉塞隅角今回調査3.54.2**緑内障前回調査0.2小児緑内障0.10102030405060図2前回調査との比較(手術既往症例,レーザー治療既往症例比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2plasty:SLT)174例(55.8%),レーザー虹彩切開術(Laseriridotomy:LI)はC120例(38.5%),その他C18例(5.8%)であった.緑内障手術の内訳は,線維柱帯切除術C300例(52.6%),線維柱帯切開術C111例(19.5%),iStent手術C87例(15.3%),チューブシャント手術C14例(2.5%),隅角癒着解離術(GSL)6例(1.1%)などであった.使用薬剤数は平均C1.8C±1.4剤で,その内訳は無投薬C739検定,Fisherの直接法比較)例(11.7%),単剤C2,473例(39.1%),2剤C1,435例(22.7%),3剤C838例(13.3%),4剤C513例(8.1%),5剤C266例(4.2%),6剤C53例(0.8%),7剤C6例(0.1%)であった.使用薬剤の内訳を以下に示す.単剤はCFP作動薬C1,532例(61.9%),b遮断薬C476例(19.2%),EP2作動薬C255例(10.3剤2).3図,ROCK阻害薬62例(2.5%)などであった(%)はCFP/Cb配合剤C810例(56.4%),FP作動薬+b遮断薬C116表2前回調査との比較(|2検定)例(8.1%),CAI/Cb配合剤C115例(8.0%),FP作動薬+点眼CAI112例(7.8%)などであった(図4).2剤で最多となったCFP/b配合剤の内訳は,ラタノプロスト/カルテオロール配合剤C451例(55.7%),ラタノプロスト/チモロール配合剤C199例(24.6%),トラボプロスト/チモロール配合剤C61例(7.5%),タフルプロスト/チモロール配合剤C99例(12.2%)であった.3剤,4剤,5剤の薬剤内訳を表3に示す.配合剤使用例はC3剤C765例(91.3%),4剤C483例(94.2%),5剤C264今回調査前回調査p値症例数6,323例5,303例男女比2,765:C3,5582,347:C2,956C0.58平均年齢C69.2±13.3歳(5.C100歳)C68.7±13.1歳(1C1.C101歳)C0.09手術歴レーザー歴571例(C9.0%)312例(C4.9%)366例(C6.9%)220例(C4.1%)<C0.05<C0.01FP作動薬1,4131,532*476b遮断薬473107255*EP2作動薬962*ROCK阻害薬58イオン開口5747点眼CAI391578*a2作動薬14ab遮断薬136今回調査a1遮断薬67前回調査経口CAI41その他402004006008001,0001,2001,4001,600図3前回調査との比較(単剤使用比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2検定)FP作動薬:FP受容体作動薬,EP2:EP2受容体作動薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.CFP/b配合剤521810**FP+b116149**CAI/b配合剤115146*FP+点眼CAI112143**82FP+a2851041**CAI/a2配合剤032**27a2/b配合剤FP+ROCK2517a2+EP2916b+EP213今回調査9b+a235前回調査a2/ROCK配合剤08*50その他420100200300400500600700800900図4前回調査との比較(2剤比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2検定)FP:FP受容体作動薬,EP2:EP2受容体作動薬,Cb:b遮断薬,Cab:ab遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2:a2刺激薬,ROCK:ROCK阻害薬.表33,4,5剤の処方内訳使用薬剤数処方薬剤組み合わせ患者数(例)割合(%)FP作動薬+CAI/b配合剤C21325.4%C3剤FP/b配合剤+点眼CCAIC14317.1%CFP/b配合剤+a2作動薬C11914.2%その他C36343.3%FP/b配合剤+CAI/a2配合剤C18536.1%4剤CFP作動薬+CAI/b配合剤+a2作動薬C7514.6%CFP/b配合剤+ROCK/a2配合剤C346.6%その他C21942.7%FP/b配合剤+CAI/a2配合剤+ROCK阻害薬C11844.4%5剤CFP作動薬+CAI/b配合剤+ROCK/a2配合剤C3814.3%FP作動薬+CAI/b配合剤+a2作動薬+ROCK阻害薬C3011.3%その他C8030.0%※配合剤はC2剤としてカウントし,使用ボトル数での試算はしていない.また,6剤以上の使用報告もあるが,件数は統計に必要なサンプル数を満たさなかった.例(99.2%)であった.配合剤C2本(4剤)使用はC4剤C229例(44.6%),5剤C186例(69.9%)であった.今回の調査結果をC2020年の前回調査10)の結果と比較した(表2).平均年齢は今回と前回で同等であった.病型は今回が前回に比べて原発開放隅角緑内障,前視野緑内障が有意に多く,原発閉塞隅角緑内障,正常眼圧緑内障が有意に少なかった(p<0.001).レーザー治療既往症例は今回のC312例(4.9%)が前回のC220例(4.1%)に比べて有意に多かった(p<C0.01).緑内障手術既往症例は今回のC571例(9.0%)が前回のC366例(6.9%)に比べて有意に多かった(p<0.05).平均使用薬剤数は,今回調査で前回に比べて有意に増加した(p=0.05).使用薬剤数の分布では,単剤およびC2剤の使用が有意に減少し(p<0.05),5剤以上の使用が有意に増加した(p<0.001).単剤使用において,FP作動薬の使用率は前回調査と同等だったが,EP2作動薬(p<0.0001)およびROCK阻害薬(p<0.0001)の使用が有意に増加した.2剤使用では,FP/Cb配合剤の使用が有意に増加(p<0.0001),CCAI/b配合剤の使用が有意に減少(p<0.001)し,CAI/Ca2配合剤の使用が有意に増加した(p<0.001).3剤以上の使用に関して,配合剤の使用率はC3剤(p<C0.001),4剤(p<0.001),5剤(p<0.001)でいずれも有意に増加した.とくに,4剤では配合剤C2本の使用での処方が可能となり,今回調査でC44.6%にみられた.5剤では,配合剤C2本の使用が前回調査に比べて有意に増加した(p<C0.001).6剤以上の使用例もあったが,統計解析に必要なサンプル数を満たさなかった.III考按今回調査では,緑内障病型は正常眼圧緑内障C45.6%,原発開放隅角緑内障C33.1%と広義の原発開放隅角緑内障がC8割近くを占めた.多治見スタディ7)や過去の緑内障患者実態調査2.6)とも同様であった.また今回調査では,前回に比べて原発開放隅角緑内障が有意に増加し,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した.日本国民の屈折が近視化していることが一因と考えられる.緑内障診療ガイドライン第C4版にて,今までなかった緑内障の概念として前視野緑内障が定義された.前回調査は第C4版の発表後であったために前視野緑内障はC0.1%であったが,今回調査では前視野緑内障はC5.4%と有意に増加した.前視野緑内障の診断増加により,正常眼圧緑内障は今回調査C45.6%で前回調査C51.1%に比べて有意に減少した.レーザー治療既往症例は今回調査のC312例(4.9%)のほうが前回のC220例(4.1%)に比べて有意に多かった.レーザー種別では,レーザー虹彩切開術が今回C120例(38.5%)と前回のC151例(68.6%)に比べて有意に減少した.一方で,選択的レーザー線維柱帯形成術は今回調査でC174例(55.8%)と,前回のC68例(30.9%)に比べて有意に増加した.狭隅角,閉塞隅角症例の第一選択は白内障手術が選択されているためと考えられ,選択的レーザー線維柱帯形成術が増加しているのは,その効果や安全性が報告されている8)ためと考えられる.手術既往症例は今回調査でC9.0%と,前回のC6.9%に比べて有意に増加した.高齢化に伴う緑内障症例の増加と前回調査からの経年による進行例の増加によるものと考えた.術式にも変化があった.線維柱帯切除術は今回調査でC300例(52.6%)と前回のC263例(71.9%)から有意に減少した.一方で,低侵襲手術として負担が少なく,合併症も少ないCMinimallyInvasiveGlaucomaSurgeryの増加が今回調査に反映され,たとえば,iStent手術は今回調査C87例(15.3%)は前回調査C5例(1.4%)に比べて有意に増加した.使用薬剤数は今回調査で前回に比べて有意に多かった.配合剤が多数使われるようになったことなどが原因と考えられる.今回調査では単剤,2剤が有意に減少し,5剤が有意に増加した.配合剤の使用が増加したことが要因と考えられる.3剤以上の使用例では配合剤を使用する割合はC9割を超えた.また,配合剤の種類が増えたことによりC4剤以上の使用例で配合剤C2本を使用することも可能となった.今回調査の単剤の使用薬剤はCFP作動薬C61.9%,Cb遮断薬19.2%,EP2作動薬C10.3%の順であった.FP作用薬,Cb遮断薬が多いのは過去の緑内障患者実態調査C2.6)と同様であった.EP2作動薬は前回調査に比べて有意に増加したが,プロスタグランジン関連眼窩周囲症の副作用が少ない点8)が影響したと考えられた.2剤ではCFP/Cb配合剤がもっとも多く,ついでCFP作動薬+b遮断薬,CAI/Cb配合剤の順で,前回調査と同様だった.FP/Cb配合剤は有意に増加した.FP作動薬を単剤使用した後の治療強化として,FP/Cb配合剤が選択されていると考えられる.今回調査ではCCAI/Cb配合剤は有意に減少した.CAI/Ca2配合剤は有意に増加した.Cb遮断作用のないCa2作動薬を選択する傾向があると考えられる.また,前回調査から今回調査の間にCROCK/Ca2配合剤が使用可能となり,2剤目以降の選択も多様化したと考えた.今回調査ではC3剤以上についても検討した.3剤での配合剤使用例は今回調査ではC9割を超えており,前回調査9)と比べて有意に増加した.4剤での配合剤使用例も今回調査ではC9割を超えた.新規配合剤の登場により,前回調査では少なかったC4剤,5剤での配合剤C2本使用例の増加がめだった.従来の点眼本数を減らすことができて点眼アドヒアランス向上も見込めることから,配合剤は積極的に使用される傾向にあると考えられる.全体のまとめとしては,眼科医療施設における緑内障患者は原発開放隅角緑内障(広義)が多い.平均使用薬剤数はC1.8C±1.4剤であった.単剤はCFP作動薬が,2剤はCFP/Cb配合剤が依然として最多である.3剤は配合剤を使用する割合が9割以上を占め,4剤使用以上ではC2種類の配合剤使用が著明に増加した.本論文は第C35回日本緑内障学会で発表した.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力頂いた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査.薬物治療..あたらしい眼科C25:1581-1585,C20083)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年版C.薬物治療..あたらしい眼科28:874-878,C20114)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設による緑内障実態調査C2012年版C.薬物治療..あたらしい眼科C30:851-856,C20135)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C20176)黒田敦美,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2020年度版─薬物治療─.臨床眼科C75:C377-385,C20217)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheprevalenceofpriC-maryopen-angleglaucomainJapanese.theTajimistudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20048)GazzardG,EvgeniaK,DavidGetal:LaseringlaucomaandCocularhypertension(LiGHT)trial:six-yearCresultsCofCprimaryCselectiveClaserCtrabeculoplastyCversusCeyeCdropsforthetreatmentofglaucomaandocularhyperten-sion.OphthalmologyC130,C139-151,C20239)InoueCK,CShiokawaCM,CKatakuraCSCetal:PeriocularCadverseCreactionsCtoCOmidenepagCIsopropyl.CAmCJCOph-thalmolC237:114-121,C2022***

基礎研究コラム:98.眼表面における病的角化(扁平上皮化生)

2025年7月31日 木曜日

眼表面における病的角化(扁平上皮化生)吉岡誇はじめに眼表面は体表面に露出した特殊な粘膜上皮細胞であり,マイボーム腺,涙腺,角膜上皮や結膜上皮細胞などから構成される複合的な組織です1).非角化の粘膜上皮から角化扁平上皮への病理学的変化を病的角化(扁平上皮化生)とよびます.この過程では,杯細胞の消失に始まり,上皮細胞の肥厚,粘膜上皮特異的なサイトケラチンの発現減少,さらに皮膚に特徴的なサイトケラチンやインボルクリン,フィラグリンといった角質層特異的な蛋白の発現上昇が起こります.病的角化は重症ドライアイ,Sjogren症候群,ビタミンCA欠乏症に加えて,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの難治性眼表面疾患の重症例の一部に生じることが知られていましたが,そのメカニズムは不明でした.病的角化における遺伝子発現変動近年,網羅的遺伝子発現解析とバイオインフォマティクス的手法を用いた病態解明がさまざまな領域で盛んに行われています.これらの手法を眼表面の病的角化で用いた報告はまだなく,筆者らは,Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,そして前部ぶどう腫による閉瞼障害による兎眼のため角化をきたした組織を用いて,病的角化上皮細胞と非角化結膜上皮(結膜弛緩症)を網羅的遺伝子発現解析で比較しました(図1)2).その結果,角化に関連する遺伝子に加えて,脂質代謝などの遺伝子群が有意に発現上昇していることが明らかになりました.これらの遺伝子をさらにバイオインフォマティクス的手法を用いて解析することでCMYBL2,FOXM1,図1病的角化を伴う症例(上段)とコントロール(下段)の前眼部写真a:前部ぶどう膜腫,Cb:Stevens-Johnson症候群,Cc:眼類天疱瘡,Cd~f:結膜弛緩症.(文献C2より転載)京都府立医科大学眼科学教室SREBF2といった転写因子がこの病態に関連しうることが明らかになりました.さらに脂質代謝にかかわる遺伝子の中でもCAKR1B15,RDH12,CRABP2,RARB,RARRES3といったビタミンCA代謝関連遺伝子が有意に発現変動していることが明らかになりました2).ビタミンCAは細胞内で酸化されることで活性型となり,さまざまな作用を有するとされます.病的角化した細胞内ではビタミンCAは非活性化されており,ビタミンCA刺激が減少していることが示唆されました.さまざまな疾患に由来する病的角化した結膜上皮細胞は,相対的にビタミンCA刺激が減少しているという共通したメカニズムが存在する可能性が示唆されました.今後の展望難治性眼表面疾患における病的角化は,深刻な視力低下をきたし,有効な治療法は未だありません.しかし,病的角化における細胞内活性型ビタミンCA欠乏の改善や,今回明らかになった転写因子を標的とした治療が開発されれば,点眼により予防あるいは治療が可能となるかもしれません.文献1)ThoftRA,FriendJ:Biochemicaltransformationofregen-eratingCocularCsurfaceCepithelium.CInvestCOphthalmolCVisCSciC16:14-20,C19772)YoshiokaH,UetaM,FukuokaHetal:Alterationofgeneexpressioninpathologicalkeratinizationoftheocularsur-face.InvestOphthalmolVisSciC65:37,C2024(91)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C8750910-1810/25/\100/頁/JCOPY