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白内障手術中の水晶体落下に対してCENTURION を使用 したまま硝子体腔灌流下で超音波乳化吸引術を行った1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):489.492,2025c白内障手術中の水晶体落下に対してCENTURIONを使用したまま硝子体腔灌流下で超音波乳化吸引術を行った1例植田壮胤*1國見洋光*2清水裕介*1南雲美希*1奥山翔*1林俊介*1秦未稀*1常吉由佳里*1岡本知大*1細田進悟*1*1国立病院機構埼玉病院眼科*2慶應義塾大学病院眼科CACaseofPhacoemulsi.cationandAspirationunderVitreousIrrigationforLensDropMasatsuguUeda1),HiromitsuKunimi2),YusukeShimizu1),MikiNagumo1),ShoOkuyama1),ShunsukeHayashi1),MikiHata1),YukariTsuneyoshi1),TomohiroOkamoto1)andShingoHosoda1)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationSaitamaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospitalC目的:白内障手術中の水晶体核落下への対処法として,従来の術式では切開創拡大や煩雑な操作が必要であり,頻用される白内障手術装置(CENTURION)を用いた報告は少ない.そこで,新たにCCENTURIONを用いた硝子体腔灌流下超音波乳化吸引術(VI-PEA)を施行したので報告する.症例:CENTURIONで白内障手術中に後.破損により水晶体核落下を認めたC63歳,女性.三方活栓付きハンドピースと灌流ポートを用い,水流を利用して落下した核片を吸引口に誘導し,核片を処理した.術中の眼圧は安定し,網膜損傷もなく手術を終えた.結論:術後の視力は良好で,重大な合併症もなく,VI-PEAが迅速かつ低侵襲な術式である可能性が示唆された.CPurpose:Incataractsurgery,anenlargedincisionandtroublesomeproceduresareusuallyrequiredforlensdrops,CandCthereChaveCbeenCfewCreportsConCtheCuseCofCcommonlyCutilizedCcataractCsurgeryCdevices,CsuchCasCtheCCENTURIONCVisionSystem(Alcon,Inc.)C,CinCsuchCcases.CHerein,CweCreportCtheCsurgicalCoutcomeCinCaClensCdropCcaseCinCwhichCVitreousCCavityCInfused-Phacoemulsi.cationCandAspiration(VI-PEA)C,CaCvitreousCcavity-infusedCphacoemulsi.cationCaspirationCtechniqueCthatCweCdevelopedCtoCovercomeCsuchCdi.culties,CwasCused.CCase:ThisCstudyinvolveda63-year-oldfemalepatientinwhomalensnucleusdropoccurredduetoposteriorcapsulerup-tureduringcataractsurgerywiththeCENTURIONVisionSystem.Usingahandpiecewithathree-waystopcockandCinfusionCport,C.uidC.owCguidedCnucleusCfragmentsCtoCtheCaspirationCportCforCremoval.CIntraocularCpressureCremainedstableduringsurgery,andnoretinaldamageoccurred.Conclusion:Postoperativevisionwasgoodwithnosigni.cantcomplications,suggestingthatVI-PEAcouldbeaquickandminimallyinvasivesurgicaltechnique.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(4):489.492,C2025〕Keywords:硝子体腔灌流下超音波乳化吸引術,水晶体核落下,後.破損.vitreouscavityinfused-phacoe-mulsi.cationandaspiration(VI-PEA),lensnucleusdrop,posteriorcapsulerupture.I背景白内障手術において,後.破損やCZinn小帯断裂などによる水晶体核落下は一定の確率(0.074%)で発生する1).そのような水晶体核落下に対して,これまで切開創を拡大し輪匙を用いて核娩出を行う方法2)や液体パーフルオロカーボン(liquidCper.uorocarbon:PFCL),鑷子,眼内ジアテルミーなどを用いて前房内に核を持ち上げ,超音波乳化吸引を行う方法(既報のCKebabTechnique)C3.5)がとられてきた.しかし,前者では切開創を拡大しなければならないこと,後者では手技が煩雑であり,超音波乳化吸引で生じる細かい核片の処理に時間がかかってしまうことが難点である.加えて,基本的に既報は硝子体手術装置(Constellation)にて白内障手術を行う際の術式として報告されており,昨今頻用されてい〔別刷請求先〕植田壮胤:〒160-0016東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室医局Reprintrequests:MasatsuguUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospital,35,Shinanomachi,Shinjyuku-ku,Tokyo160-0016,JAPANCる白内障手術装置(CENTURION)については言及されていない.そこで,筆者らはCCENTURIONのみを用いて,迅速かつ低侵襲な手術が期待できる硝子体腔灌流下超音波乳化吸引術(vitreousCcavityinfused-PEA:VI-PEA)を施行したので報告する.CII症例患者はC63歳,女性.右眼白内障に対し手術目的で当院へ紹介受診となった.既往は高血圧のみで,眼疾患の既往はない.初診時,右眼に皮質白内障および核白内障(核硬化度CNS2)を認めた.他に,特記すべき所見は認められなかった.右眼の矯正視力はC0.1,レフ値はCsph.7.25(cyl.2.25Ax15°であり,術後の狙い度数はC0Dとした(表1).術中Cdivideandconquerにて核分割を行っていたが,核の第C2分割目で後.破損を確認し,1/8核片の眼底への落下を認めた.CIII術式術前麻酔は,2%エピネフリン入りキシロカイン点眼および同CTenon.下麻酔を使用した.CENTURIONにハンドピース(インフィニティCU/Sハンドピース,Alcon社)を接続し,ハンドピースにはC0.9Cmmマイクロチップ(Alcon社)を取り付け,0.9Cmmマイクロスリーブ(Alcon社)を装着した.3時,9時の位置に角膜穿刺,12時からC1時の位置にC2.8Cmm経強角膜一面切開を行い,超音波乳化吸引術を施行した.後.破損を認めたのち,眼圧の低下および水晶体核の落下を防止するため,ヒアルロン酸C0.85眼粘弾剤C1%を前房内に注入した.その後,トロカールカニューラ(ディスポエッカード氏C23CGカニューレシステムツーステップ,DORC社)を用いてC3ポートを作製し,灌流チューブをハンドピースからポートへ付け替えた.ウルトラビットハイスピードビトレクトミープローブ(Alcon社)とキセノンブライトスター光源装置(DORC社)に接続したディスポイルミネータ(DORC社)を準備し,広角眼底システムを用いて周辺まで硝子体切除を行った.硝子体切除時の設定は,カットレート4,000Ccpm,灌流圧C38CmmHg,最大吸引圧C350CmmHg,最大吸引流量C20Cml/分とした.その後,灌流液が逆流しないよう灌流接続口に三方活栓をつけたハンドピース(図1)を用いて,前房内に残存している核片に対し超音波乳化吸引を行った(図2).この際,灌流ポートからハンドピースへ向かって水流が生まれており,落下することなく核片を処理することができた.次に,落下した核片に対して広角眼底システム下にて超音波乳化吸引を行ったが,灌流ポートを動かし前述の水流を調整することで核片がハンドピースの吸引口へ移動してきた(図3).KebabCtech-niqueなどでは破砕された細かい核片が再び網膜上へ落下し表1術前データ年齢性別左右視力眼圧(mmHg)他覚的屈折度数(D)角膜曲率半径(mm,D)63歳女性右眼C0.1C18.4Csph.7.25(cyl.2.25CAx15°CR1C43.00CR2C44.00CC.1.00CAx27°図1ハンドピース,ポートの準備3ポートを作製したのち,灌流チューブをハンドピースからポートへ付け替えることにより,硝子体腔へ還流が生まれる.ただし,そのままではCVI-PEA施行時にハンドピースの灌流接続口より灌流液が逆流してしまうため,三方活栓を灌流接続口へ取り付けロックする.図2前房内でのVI-PEA前房内に残存している核片に対し超音波乳化吸引を行う.この際,灌流ポートからハンドピースへ向かって水流が生まれており,核片の落下を防いでいる.図3硝子体腔でのVI-PEA落下した核片に対して広角眼底システム下にて超音波乳化吸引を行う.灌流ポートを動かし水流を調整することで核片がハンドピースの吸引口へ移動し,超音波乳化吸引を効率よく行える.Cabc図4Kebabテクニック概略図眼内ジアテルミーにて焼き付けることで水晶体核を眼底より持ち上げ,超音波乳化吸引を行う.しかし,破砕された細かい核片が再び網膜上へ落下してしまうことが多い.Cabc図5VI-PEA概略図灌流ポートからの水流を用いて水晶体核を眼底より押し上げ,超音波乳化吸引を行う.硝子体腔から前房へ向けて水流があるため,破砕された細かい核片が落下することなく吸引口へ近づいてくる.表2術後データ術後視力眼圧(mmHg,NT)他覚的屈折度数(D)角膜曲率半径(mm,D)1週間後C1.2C16.0Csph.1.75(cyl.2.75CAx19°CR1C43.50CR2C43.75CC.0.25CAx71°1カ月後C1.2C22.4Csph.1.00(cyl.1.50CAx30°CR1C43.50CR2C44.25CC.0.75CAx14°3カ月後C1.2C15.3Csph.0.75(cyl.1.00CAx33°CR1C43.25CR2C43.75CC.0.50CAx21°Cてしまうことがあったが(図4),本法では水流があるため落下することなく吸引口へ近づいてきた(図5).なお,三方活栓で灌流液の逆流を防いでいるため,術中眼圧は安定しており眼球が虚脱することはなかった.そして,核片の処理後,前.円形切開が保たれていたため,眼内レンズ(NX-70S,参天製薬)のハプティクスを毛様溝へ挿入し,レンズを.内に固定した.最後に,再度眼底を観察して網膜.離や水晶体核の残存がないことを確認し,ポートを抜去,術終了とした.CIV結果術後結果に関しては以下の通りである(表2).術後矯正視力は,1週間後,1カ月後,3カ月後ともに変わらずC1.2であった.術後レフ値は,1週間後.3カ月後にかけて徐々に近視および乱視の改善を認めた.術後の重大な合併症は認めなかった.CV考按本法を論じる前提として,外光源,眼底観察システム,23CGカニューレシステムを用いれば,CENTURIONで硝子体茎顕微鏡下離断術を行うことが可能であるという点があげられる.白内障手術にCCENTURIONを用いている施設は多く,上記のデバイスさえ用意しておけば硝子体手術用のConstellationなどがなくても本法を施行可能である.本法の利点としては,前述のように核片が硝子体腔灌流に乗りハンドピースの吸引口へ集まるため,硝子体腔内操作が最小限で済み,落下した核片を硝子体カッターで処理する際の網膜損傷のリスクを低減できる.一方,kebabCtech-nique5)やフラグマトームなどの超音波乳化吸引を行う方法では,超音波により飛散した細かい核片が再び後極へ落下してしまう.この対策として,PFCLを用いて虹彩面近くまで水晶体を挙上させる方法3,4)がある.たしかに,PFCLを用いれば核片の後極への落下を防ぐことができ,本法と同様に網膜損傷のリスクを低減できるが,硝子体手術を行っている施設でなければCPFCLを即座に準備できず,使用経験も少ないために扱いに難渋する可能性が高い.加えて,コスト面も無視できない要因となる.また,本法では超音波チップとスリーブの間に灌流液が保持されており,ハンドピースの三方活栓を少し開けば水流を生み出せるため,従来のフラグマトームのような創口熱傷のリスクも低い.そして,既存のハンドピースで核処理が可能なため切開創拡大が不要で,拡大による惹起乱視を最小限に抑制することができる2,6).しかし,核硬化が強かったり巨大な核片が落下したりしたケースでは,灌流で舞った核片が網膜に接触した際に網膜障害が起こる可能性は否定できず,今後検討していかなければならない問題である.また,硝子体切除を行うことが前提であるため,硝子体手術に慣れた術者でなければ施行はむずかしい.このような本法の特徴を踏まえると,本法は硝子体手術に慣れた術者がCCENTURIONを用いて白内障手術を行った際に,核硬化の強くない水晶体核の落下が生じた場合に有用であると考える.CVI結論白内障手術中の水晶体落下に対しCVI-PEAを用いることで,最小限の硝子体腔内操作で,CENTURION使用下においても迅速かつ低侵襲に処理を行うことが期待できる.文献1)LundstromCM,CDickmanCM,CHenryCYCetal:RiskCfactorsCforCdroppedCnucleusCinCcataractCsurgeryCasCre.ectedCbyCtheCEuropeanCregistryCofCqualityCoutcomesCforCcataractCandCrefractiveCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC46:287-292,C20202)YiQY,HuangJ,ChenNetal:Managingdislocatedhardlensnuclei:23-gaugeCvitrectomyCandClensCextractionCviaCaCcorneoscleralClimbalCincisionCversusC23-gaugeCvitrecto-myandphacofragmentation.JCataractRefractSurgC45:C451-456,C20193)JangCHD,CLeeCSJ,CParkJM:Phacoemulsi.cationCwithCper.uorocarbonliquidusinga23-gaugetransconjunctivalsuturelessCvitrectomyCforCtheCmanagementCofCdislocatedCcrystallineClenses.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:1267-1272,C20134)WatanabeCA,CGekkaCT,CTsuneokaH:TreatmentCofCaCdislo-catedClensCbyCtranscornealCvitrectomyCandCbimanualCphacoemulsi.cation.CClinCOphthalmolC18:1539-1542,C20145)AsoH,YokotaH,HanazakiHetal:Thekebabtechniqueusesabipolarpenciltoretrieveadroppednucleusofthelensviaasmallincision.SciRepC11:7897,C20216)SandersCDR,CGillsCJP,CMartinRG:WhenCkeratometricCmeasurementsCdoCnotCaccuratelyCre.ectCcornealCtopogra-phy.JCataractRefractSurgC19:131-135,C1993

Relentless Placoid Chorioretinitis のマルチモーダル イメージングの有用性

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):483.488,2025cRelentlessPlacoidChorioretinitisのマルチモーダルイメージングの有用性我謝朱莉寺尾信宏大城綾乃古泉英貴琉球大学大学院医学研究科眼科学教室CTheUtilityofMultimodalImaginginaCaseofRelentlessPlacoidChorioretinitisAkariGaja,NobuhiroTerao,AyanoOshiroandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:Relentlessplacoidchorioretinitis(RPC)は多数の斑状病巣を広範囲に生じ,再発を長期に繰り返す疾患である.今回,RPCの臨床経過をマルチモーダルイメージングにより評価した.症例:17歳,女性.視力は右眼(1.0),左眼(1.2).両眼に後極から周辺部へ多数の色素を伴う斑状の瘢痕病変と,活動性病変を示唆する黄白色滲出斑を認めた.初診時よりC4カ月後,右眼の黄斑部および周辺部に複数の黄白色滲出斑の再発を認め,視力は右眼(0.05)に低下した.中心窩の黄白色滲出斑は,光干渉断層計(OCT)では網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚を,光干渉断層血管撮影(OCTA)では脈絡膜毛細血管板の灌流不全を,マイクロペリメータ微小視野計では網膜感度低下を認めた.周辺部の黄白色滲出斑は超広角走査レーザー検眼鏡を用いた眼底自発蛍光(FAF)では淡い過蛍光を呈した.結論:RPCの活動性評価には,黄斑部はOCT,OCTA,微小視野計,周辺部は広角CFAFが有用であった.CPurpose:Relentlessplacoidchorioretinitis(RPC)isadiseasethatpresentswithnumerousplacoidlesionsandrecurringClesionsCoverCaClong-termCperiod.CInCthisCstudy,CweCevaluatedCtheCclinicalCcourseCinCaCcaseCofCRPCCusingCmultimodalimaging.Case:A17-year-oldfemalepresentedwithRPC.FunduscopicexaminationshowednumerousplacoidClesionsCthatCappearedCtoCbeCmixedCwithCfreshCandColdCscarClesionsCinCbothCeyes.CFourCmonthsClater,CfreshClesionswithmultipleyellowish-whiteplacoidexudatesappearedfromtheposteriorpoletotheperiphery.Opticalcoherencetomography(OCT)examinationofthefreshlesionsinthefovearevealedretinalexudativechangesandchoroidalCthickening.COCTangiography(OCTA)revealedC.owCreductionCwithinCtheCchoriocapillaris,CandCmicrope-rimetryshowedreducedretinalsensitivity.Wide-anglefundusauto.uorescence(FAF)ofperipheralfreshlesionsshowedhyper.uorescence.Conclusion:MultimodalimagingsuchasOCT,OCTA,microperimetry,andwide-angleFAFweresuitableforassessingRPCstatus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(4):483.488,C2025〕Keywords:relentlessplacoidchorioretinitis,マルチモーダルイメージング,光干渉断層計,光干渉断層血管撮影,眼底自発蛍光.relentlessplacoidchorioretinitis,multimodalimaging,opticalcoherencetomography,opticalcoher-encetomographyangiography,auto.uorescence.CI緒言RelentlessCplacoidchorioretinitis(RPC)は,Jonesら1)によりC2000年に提唱された新しい疾患概念であり,急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteCposteriorCmultifocalCplacoidpigmentCepitheliopathy:APMPPE)や地図状脈絡膜炎と類似の臨床所見,蛍光眼底造影所見を呈する非感染性ぶどう膜炎である1,2).RPCは,前眼部に炎症を伴い,病変が黄斑部から周辺部まで広範囲に散在し,長期にわたり再発を繰り返す点1,2)でCAPMPPEや地図状脈絡膜炎とは異なる.RPCは,一般的には色素沈着を伴う瘢痕病変と新しい活動性の黄白色病変が共存することが多い.黄白色滲出斑はフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では蛍光の逆転現象を示し,病状の活動性を示唆する重要な所見〔別刷請求先〕我謝朱莉:〒901-2720沖縄県宜野湾市喜友名C1076琉球大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:AkariGaja,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyue,1076Kiyuna,Ginowan,Okinawa901-2720,JAPANCabcdef図1初診時の右眼各種画像所見a:カラー眼底写真では,黄斑部を中心に色素を伴う瘢痕病巣および黄白色滲出斑(C.)を認める.Cb,c:フルオレセイン蛍光造影(b:早期,Cc:後期)では,黄白色滲出斑は蛍光の逆転現象(C.)を認める.Cd:OCT(水平断)では,瘢痕病巣に一致する網膜外層障害を認める(C.).e:OCTA(脈絡膜毛細血管板:CC)では,黄白色滲出斑に一致する灌流不全を認める(C.).f:微小視野計では,瘢痕病巣に一致する網膜視感度の低下を認める.として知られているが,病変は黄斑部だけでなく,しばしば周辺部にも存在するため,再発や治療反応の評価を確実に行うためには広角の蛍光眼底造影検査が使用される.今回,筆者らはCRPCの黄斑部および周辺部の臨床経過について,マルチモーダルイメージングを用いて評価したので報告する.CII症例患者:17歳,女性.既往歴:特記事項なし.家族歴:父,父方の祖母:緑内障.現病歴:1週間継続する側頭部痛および左眼の眼痛,充血を主訴に近医を受診,虹彩炎および両眼底に多数の滲出斑を認め,ぶどう膜炎と診断され,0.1%ベタメタゾン点眼およびプレドニゾロン(prednisolone:PSL)30Cmg内服を開始され,1カ月後に琉球大学病院眼科へ精査加療目的に紹介となった.経過:初診時,視力は右眼(1.0),左眼(1.2),眼圧は右眼C23.0CmmHg,左眼C24.0CmmHg.前眼部に炎症所見は認めなかった.眼底には,黄斑部および周辺部に広範に多数の色素を伴う瘢痕病巣および黄白色滲出斑を認めた(図1a,2a,b).FAでは,黄白色滲出斑は蛍光の逆転現象を,瘢痕病変はCwindowdefectに伴う過蛍光所見を,色素沈着部は低蛍光所見を呈した(図1b,c).インドシアニングリーン蛍光造影では,早期から後期にかけ広範囲にわたる多数の低蛍光斑を認めた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,活動性を認める黄白色滲出斑は網膜下に高輝度の滲出性変化を,瘢痕病巣は網膜外層に欠損や不明瞭化を認めた(図1d).光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)では,活動性を認める黄白色滲出斑に一致して脈絡膜毛細血管板(choriocapillaris:CC)レベルでの灌流不全を認めた(図1e).微小視野計では,色素沈着の強い瘢痕萎縮病巣に一致して網膜感度の低下を認めた(図1f).超広角走査レーザー検眼鏡を用いた眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)では,後極から周辺部にかけて,ほとんどの病変は低蛍光を示していたが,黄斑部から周辺部の活動性病変を示す黄白色滲出斑は淡い過蛍光所見を呈した(図2c,d).APMPPEや地図状脈絡膜炎,RPCを鑑別に考え,前医でのステロイド治療はいったん中止として,再発がないか注意深く経過観察した.初診時よりC4カ月後,急激な右眼の視力低下を自覚して再診,視力は右眼(0.05)に低下し,右眼中心窩近傍(図3a)および周辺部に複数の黄白色滲出性病変のab図2初診時,走査型レーザーを用いた眼底撮影および眼底自発蛍光(FAF)a,b:広角眼底撮影(Ca:右眼,Cb:左眼)では,多数の色素を伴う斑状の瘢痕病巣と周辺部に黄白色滲出斑を認める(C.).c,d:広角CFAF(Cc:右眼,d:左眼)では,周辺部の活動性病変を示す黄白色滲出斑に一致して淡い過蛍光所見を示す(C.).出現を認めた(図4a).右眼の中心窩を含む活動性の黄白色滲出斑は,OCTでは著明な網膜滲出性変化および限局的な脈絡膜肥厚を認め(図3b),OCTAではCCCレベルでの灌流不全を認めた(図3c).微小視野計では,活動性病変に一致した右眼の網膜感度の低下を認めた(図3d).広角CFAFでは,右眼底周辺部に境界不鮮明な黄白色滲出斑(図4a)に一致した淡い過蛍光斑の出現を認めた(図4b).RPCの急性増悪と診断し,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射およびステロイドパルス療法としてメチルプレドニゾロンC1,000Cmg/日をC3日間行い,後療法としてCPSL60Cmgから開始し,漸減した.2カ月後,視力は右眼(1.0)に改善した.右眼の黄斑部の黄白色滲出斑は,色素を伴う境界明瞭な病巣となり(図5a),OCTでは右眼の網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚の改善を(図5b),OCTAでは右眼黄斑部CCCレベルでの灌流不全の改善を(図5c),微小視野計では右眼中心窩の網膜感度の改善を認めた(図5d).広角CFAFでは右眼底周辺部の淡い過蛍光斑は消失した.その後C3年間再発を認めず,視力は両眼(1.0)を維持している.現在は再発予防のため,PSL10Cmgおよびシクロスポリン150Cmgを内服し,マルチモーダルイメージングを用いて黄斑部および周辺部の再発の有無を定期的に評価している.III考按RPCは,おもに脈絡膜,網膜色素上皮に病変を生じるまれな両眼性の非感染ぶどう膜炎であり,APMPPEや地図状脈絡膜炎と非常に似た症状を呈することが知られている.近年,画像検査機器の性能向上により,RPCの特徴的な臨床的所見が明らかになってきた.蛍光眼底造影検査では活動性病変は初期で低蛍光,後期で過蛍光所見を示す,いわゆる蛍光の逆転現象が特徴である.OCTでは活動性病変は網膜層に高反射病巣を伴う漿液性網膜.離などを呈する3).これらの臨床的特徴はCAPMPPCE1,2)や地図状脈絡膜炎1,2)にも認められるため,診断に難渋することがある.鑑別にはCRPCの特徴的所見や臨床経過を把握することが重要であり,後極から赤道部を超えて病変が及ぶ2,4)こと,前眼部炎症2)を生じること,再発を長期に繰り返し,瘢痕病変と活動性病変が混在2)していること,50個以上の病変2,4)が観察されることなどの特徴があればCRPCと診断する.本症例では,初診時には前医で投与されていたステロイド点眼,内服の使用により前眼部炎症は明らかではなかったが,活動性病変以外にも両眼に後極から赤道部周辺まで多数の発症時期の異なる瘢痕性病変を認めていたことから,潜在性に病状が進行していた可acdb図3再発時の各種画像所見a:カラー眼底写真では,中心窩近傍に黄白色滲出性病変を認める().b:OCT(水平断)では,中心窩に網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚(.)を認める.c:OCTA(脈絡膜毛細血管板)では,黄白色滲出斑に一致する灌流不全を認める(.).d:微小視野計では,黄白色滲出斑に一致する網膜感度の低下を認める.Cab図4再発時の広角眼底撮影および広角FAFa:広角眼底撮影では,周辺部に新たな黄白色滲出性病変(.)を認める.b:広角CFAFでは,黄白色滲出斑に一致する淡い過蛍光斑(.)を認める.能性が高いと判断した.さらに当院初診時からC4カ月後には地図状脈絡膜炎などと鑑別に難渋したが,臨床的特徴,経黄斑部を含む活動性病変の再発を認めた.それ以降長期にわ過,その他の検査結果からCRPCと診断した.たり再発を繰り返しているわけではないため,APMPPEや初診時より,黄斑部はCOCT,OCTA,微小視野計,周辺cd図5治療後3カ月の各種画像所見a:カラー眼底写真では,中心窩近傍に認めた黄白色滲出斑は消失し,軽度の色素沈着を伴う瘢痕病巣を認める.Cb:OCT(水平断)では,網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚の改善を認める.Cc:OCTA(CC)では,黄白色滲出斑部位における灌流不全の改善を認めた.d:微小視野計では,中心窩の網膜感度の改善を認めた.部はカラー広角眼底撮影,広角CFAFなどを使用し,マルチモーダルイメージングを用いて病状の活動性を評価した.CAmer3)らは,RPCの活動期にCOCTでの網膜下滲出性病変を示したと報告しており,本症例においても再燃時に黄斑部のCOCTにて網膜下滲出性変化や脈絡膜肥厚を認め,既報と同様であった.また,ステロイドパルス療法後には網膜下滲出性変化や脈絡膜肥厚は改善を認め,OCTでの評価は治療効果判定にも有用であった.CKlufasら5)は,APMPPEをはじめ,その類縁疾患であるRPCおよびCpersistentCplacoidCmaculopathyのCOCTAを評価し,CCにおける灌流不全をC96%に認めたと報告している.彼らはCCCの灌流不全が蛍光眼底造影での早期での低蛍光領域と密接に関連していたこと,さらに治療や経過観察によりCCCの灌流不全が改善されたことから,脈絡膜内層が病変の首座である可能性や,その二次的な変化として網膜外層障害が生じることを示唆した.本症例においても,活動性病変ではCCCレベルでの灌流不全が著明であった.ステロイド治療後,黄斑部のCCCレベルでの灌流不全は速やかに改善した.これらの結果から,非侵襲的に繰り返し評価が可能なCOCTAは,RPCにおける疾患の鑑別,黄斑部の経過観察,治療におけるモニタリングに非常に有用であると考えられた.微小視野計は眼底像を確認しながら,黄斑部における網膜感度を測定する機器である.本症例では再発時には活動性病変に一致した網膜感度の低下を認めた.治療後には網膜感度低下領域は速やかに改善し,それに伴い視力も改善した.これらは,カラー眼底写真などでは判断が困難な微細な病状の活動性変化を微小視野計が反映できる可能性を示唆する結果であり,OCTやCOCTAなどから得られた網膜構造と微小視野計で測定した網膜感度を眼底画像上で重ね合わせることにより,網膜構造と網膜機能の関係をより正確に解析できる可能性があり,治療効果判定にはとくに有用であると考える.広角CFAFでは,初診時および再発時に周辺部に活動性変化と考えられる淡い過蛍光斑が認められ,自覚症状が乏しい周辺部領域において,経過中に病状が変化していることが確認可能であった.CYehら6)は,FAFを用いて,後極からその周辺部に広範囲に多数の低蛍光所見を示すことをCRPCの特徴として報告している.本症例においても既報と同様に,周辺部に多数の低蛍光斑を認めていたが,蛍光眼底造影検査で漏出を認める活動性の黄白色滲出斑は,広角CFAFでは淡い過蛍光斑を呈しており,周辺部の活動性病変を評価するのに非常に有用である可能性が示された.RPCは長い活動期を有し,再発を繰り返すことにより徐々に視力低下をきたすと報告1,7)されている.しかし,RPCは明確な治療方針が確立しておらず4),ステロイド単独加療だけでは再発をきたす可能性が報告されている1).再発予防には免疫抑制薬4),TNF阻害薬8)などの併用が有効との報告がなされており,活動性評価に準じた治療方針の変更が必要になる.黄斑部評価は,長期視力予後を保つために重要であり,OCT,OCTA,微小視野計は病変の早期発見,治療効果判定にとくに有用であり,さらに長期的な視力予後改善につながる可能性がある.また,非侵襲検査である広角CFAFは,自覚症状を伴いにくい周辺部の新規病変を早期に発見することが可能であり,周辺部の再発所見に引き続き生じる可能性がある黄斑部病変の再発を予防できる可能性がある.APMPPE,地図状脈絡膜症,Vogt-小柳-原田病などのぶどう膜炎全般に活動性や治療評価にマルチモーダルイメージングの重要性が多く報告されているが,RPCの活動性,治療評価においてもマルチモーダルイメージグ,とくに黄斑部病変にはCOCT,OCTA,微小視野計を組み合わせて評価することは有用であり,今後視機能評価にも応用できる可能性がある.周辺部病変には広角CFAFによる評価が有用であり,とくに経過観察時においては,広範囲の活動性病変を非侵襲的に評価できるため,再発を頻繁に繰り返すCRPCでは,自覚症状の乏しい再発所見を見逃さずに確認できる有効な検査といえる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JonesCBE,CJampolCLM,CYannuzziCLACetal:Relentlessplacoidchorioretinitis:anewentityoranunusualvariantofserpiginouschorioretinitis?ArchOphthalmolC118:931-938,C20002)RavenML,RingeisenAL,YonekawaYetal:Multi-mod-alCimagingCandCanatomicCclassi.cationCofCtheCwhiteCdotCsyndromes.IntJRetinaVitreousC3:12,C20173)AmerCR,CFlorescuT:OpticalCcoherenceCtomographyCinCrelentlessCplacoidCchorioretinitis.CClinCExpCOphthalmolC36:388-390,C20084)UrakiCT,CNambaCK,CMizuuchiCKCetal:CyclosporineCandCprednisolonecombinationtherapyasapotentialtherapeu-ticCstrategyCforCrelentlessCplacoidCchorioretinitis.CAmJOphthalmolCaseRepC14:87-91,C20195)KlufasCMA,CPhasukkijwatanaCN,CIafeCNACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCrevealsCchoriocapil-larisC.owCreductionCinCplacoidCchorioretinitis.COphthalmolCRetinaC1:77-91,C20176)YehCS,CForooghianCF,CWongCWTCetal:FundusCauto.u-orescenceimagingofthewhitedotsyndromes.ArchOph-thalmolC128:46-56,C20107)ObradoviC.L,CJovanovi.S,CPetrovi.NCetal:RelentlessCplacoidCchorioretinitis-ACcaseCreport.CSrpCArhCCelokCLekC144:527-530,C20168)AsanoCS,CTanakaCR,CKawashimaCHCetal:RelentlessCplac-oidchorioretinitis:aCcaseCseriesCofCsuccessfulCtaperingCofCsystemicimmunosuppressantsachievedwithadalimumab.CaseRepOphthalmolC10:145-152,C2019***

水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後に周辺虹彩前癒着 および瞳孔偏位が生じた1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):478.482,2025c水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後に周辺虹彩前癒着および瞳孔偏位が生じた1例大久保浩平*1白鳥宙*2,3中元兼二*2久保田大紀*1武田彩佳*1高尾和弘*1加藤脩太郎*1天野文保*3岡本史樹*2五十嵐勉*1,3*1日本医科大学千葉北総病院眼科*2日本医科大学眼科*3神栖済生会病院眼科CACaseofPeripheralAnteriorIrisSynechiaandPupilDeformityafteriStentinjectWInsertionCombinedwithCataractSurgeryKoheiOkubo1),NakaShiratori2,3),KenjiNakamoto2),DaikiKubota1),AyakaTakeda1),KazuhiroTakao1),ShutaroKato1),FumiyasuAmano3),FumikiOkamoto2)andCTsutomuIgarashi1,3)1)NipponMedicalSchoolChibaHokusohHospital,2)NipponMedicalSchoolDepartmentofOpthalmology,3)SaiseikaiKamisuHospitalC目的:水晶体再建術併用眼内ドレーン(iStentinjectW.以下,iSw)挿入術後に,周辺虹彩前癒着(PAS)および瞳孔偏位を生じたが,保存的治療により改善したC1例を報告する.症例:74歳,女性.原発開放隅角緑内障.両眼の霧視および視力低下を自覚し,近医より白内障手術目的で紹介された.視力は右眼(0.6),左眼(0.4),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C13CmmHg.両眼にCiSw挿入術を施行した.右眼術後C4週,左眼術後C2週に両眼ともにCPASが生じ,iSwはCPASに埋没して確認できない状態であった.また,左眼はCiSw挿入方向に瞳孔が偏位していた.その後,ピロカルピン点眼と術後点眼の継続で,PASおよび瞳孔偏位は改善した.結論:iSw挿入術後のCPASおよび瞳孔偏位は,ピロカルピン点眼と術後点眼による保存的治療で改善することがある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCperipheralCanteriorsynechia(PAS)andCpupilCdeformityCafterCiStentCinjectCW(iSw)(GlaukosCorporation)implantationcombinedwithcataractsurgerythatimprovedwithconservativethera-py.Case:A74-year-oldfemalewithprimaryopen-angleglaucomawasreferredbyalocalclinicforcataractsur-geryCafterCexperiencingCbilateralCblurredCvisionCandCdecreasedCvisualacuity(VA).CInCherCrightCandCleftCeyes,Crespectively,CVAwas(0.6)and(0.4)andCintraocularCpressureCwasC15CmmHgCandC13CmmHg,CsoCbilateralCiSwCimplantationwasperformed.However,PASoccurredinbotheyesaftersurgeryandtheiSwwasembeddedinthePASCandCcouldCnotCbeCcon.rmed.CMoreover,CtheCleft-eyeCpupilCwasCdeviatedCtowardCtheCiSwCinsertionCdirection.CThereafter,PASandpupildeviationimprovedwithcontinuedpilocarpineeyedropsandpostoperativeeyedrops.Conclusion:PASCandCpupilCdeviationCafterCiSwCimplantationCcanCbeCimprovedCwithCconservativeCtreatmentCusingCpilocarpineeyedropsandpostoperativeeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(4):478.482,C2025〕Keywords:水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術,周辺虹彩前癒着,ピロカルピン,iStentCinjectW,瞳孔偏位.Cintraoculardraininsertioncombinedwithcataractsurgery,peripheralanterioririssynechia,pilocarpine,iStentin-jectW,pupildeformity.Cはじめにsurgery:MIGS)があげられる.従来,緑内障手術では線維緑内障は,日本における中途失明原因の第C1位であり1),柱帯切除術が主流であったが,近年,その低侵襲性および高眼圧下降が唯一確実な治療法である.その観血的治療法の一い安全性からわが国においてもCMIGSが施行される頻度がつとして,低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucoma増加している1).水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術であ〔別刷請求先〕大久保浩平:〒270-1694千葉県印西市鎌苅C1715日本医科大学千葉北総病院眼科Reprintrequests:KoheiOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChibaHokusohHospital.1715Kamagari,Inzai-Shi,Chiba,270-1694JAPANC478(88)るCiStentinjectW(以下,iSw)挿入術は,MIGSの一つに分類され,隅角鏡を用いて線維柱帯に二つのデバイスを挿入しCSchlemm管への房水流出を促進する目的で行われる術式である.iSw挿入術の適応は,隅角鏡観察でCSha.er分類Cgrade3以上の開放隅角で,周辺虹彩前癒着(peripheralanterioririssynechia:PAS)を認めないこと2),早期ないし中期の開放隅角緑内障患者で,白内障手術との併施でのみ施行できる.MIGSの中でもCiStentは,KahookCDualCBlade3)やマイクロフック・トラべクロトミー4)より前房出血などの合併症が少なく,安全性が高いと報告されている.今回,iSw挿入術施行後に,PASにより,著明な瞳孔偏位を生じたが,保存的治療により改善したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.現病歴:前医で緩徐に進行する原発開放隅角緑内障と診断され,ラタノプロストC0.005%点眼で治療されていたが,経過観察中に両眼の霧視および視力低下を自覚した.両眼の白内障と診断され,白内障手術目的で紹介となった.当院初診時所見:視力右C0.4(0.6C×sph+2.50D(cyl.1.50DCAx110°)左0.4(0.5C×sph+2.00D(cylC.0.50DCAx90°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C13CmmHgであった.中心角膜厚は右眼C497Cμm,左眼C460Cμm,両眼ともに中間透光体に未熟白内障があり,眼底には垂直陥凹乳頭径比C0.7の視神経乳頭陥凹拡大があった.隅角鏡検査では両眼ともにCSha.er分類Cgrade2.3,PASはなかったが,虹彩高位付着およびプラトー虹彩形態があった.術前の超音波CAモード法(UD8000トーメーコーポレーション)による眼軸長は右眼23.46mm,左眼C23.53mm,中心前房深度は,右眼C3.19mm,左眼C3.00Cmmであった.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.経過:両眼にCiSw挿入術を施行した.手術は両眼とも同一術者(T.I.)により施行された.水晶体再建術を施行後,iSw挿入術は,スワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(Ocular社)を用いて,線維柱帯を同定し鼻側にCiSwを2個挿入した.術中,iSwはいずれもC1回の操作で挿入でき,手術は問題なく終了した.手術後の一過性の眼圧上昇を予防するため,手術日のみ,夕食後にアセタゾラミドC250CmgC1錠,アスパラカリウムC600Cmg1錠を内服させた.術後点眼は,術翌日よりモキシフロキサシンC0.5%C4回,ブロムフェナクナトリウムC0.1%C2回,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%C4回,ピロカルピン塩酸塩C2%C4回を点眼させた.右眼は術翌日に凝血塊を伴う前房出血があったため,視力C0.6(n.c.)であったが,眼圧はC9CmmHgで,術後C1週には視力C0.4(1.0C×sph.0.75D(cyl.0.50DAx100°),眼圧はC10CmmHgと良好な経過であった(図1).左眼も術翌日に凝血塊を伴う少量の前房出血があり,視力(0.7C×sph+2.50D(cyl.1.50DAx110°),眼圧は11mmHg,術後1週には,視力C0.6(1.0C×sph.0.50D(cyl.0.50DCAx90°),眼圧11CmmHgであった.ただし,iSwのC1個はCPAS下に埋没して確認できず,瞳孔はCiSw挿入方向に偏位していた(図2).さらに,右眼術後C4週,左眼術後C2週に両眼ともに隅角にPAS(右眼はC2.4時,左眼はC7.10時)が生じ,左眼瞳孔はCiSw挿入側に偏位していた.iSwは,両眼とも完全に虹彩嵌頓し,確認できなかった.眼圧は右眼C13CmmHg,左眼14CmmHgであった(図3).右眼術後C5週,左眼術後C3週に,両眼のCPASはピロカルピン点眼を含む術後点眼の継続で改善し,右眼のCiSwはC2個とも確認でき,左眼はC1個のみ確認できるようになった(図4).眼圧は右眼C13CmmHg,左眼11CmmHgであった.右眼術後C16週,左眼術後C14週には,PASの改善に伴い,瞳孔偏位はほぼ治癒した(図5).CII考按今回の症例では,iSw挿入術後にCPASおよび瞳孔偏位が生じた.わが国では,iSw挿入術でCPASの形成はC1.3%の頻度で生じたとする報告4)はあるが,瞳孔偏位については筆者らが調べた限りでは報告はない.iSw挿入術によるCPAS形成の機序に関しては不明であるが,レーザー線維柱帯形成術5)および線維柱帯切開術(眼内法)6)などの主経路に作用する他の緑内障手術でも,PASが形成されることはよく知られている.谷原らは,線維柱帯切開術(眼外法)術後の隅角鏡所見を検討し,PASの発生機序として,房水流出量増加に伴い,周辺虹彩とトラベクロトームにより切開された線維柱帯の裂隙が接近すること,また術後炎症および前房出血の関与を指摘しているが,iSwのPASも同様の機序が関与している可能性がある.また,本症例の場合はCSha.er分類Cgrade2.3の軽度狭隅角眼で,虹彩高位付着およびプラトー虹彩形態もあったため,術前から周辺虹彩と線維柱帯の距離が近く,さらにCiSw挿入によりCSchlemm管への房水流出抵抗が減弱し,Schlemm管への房水流出量が増加したため,周辺虹彩が線維柱帯切開部に引き込まれて,PASが形成された可能性も考えられる.また,瞳孔偏位が左眼にあったが,これは丈が高いCPASの形成および虹彩嵌頓が原因と考えられる.そして,左眼のC7-9時方向にCPASが残存した.これは挿入されたCiSwへの流入によりCiSwに周辺虹彩がはずれないほど深く嵌頓してしまったためと考える.iSwの嵌頓を認めていたときでも眼圧が落ち着いていたのは,一時的なアセタゾラミド内服と継続使用したピロカルピン点眼の効果も考えられる.本症例は,術前両眼の眼圧は緑内障点眼治療中でC15図1右眼術後1週の前眼部および隅角鏡所見(鼻側)a:前眼部所見.b:隅角鏡所見(鼻側).凝血塊を伴う前房出血があったが,iSwはC2個とも確認できた.図2左眼術後1週の前眼部および隅角鏡所見(鼻側)a:前眼部所見.Cb:隅角鏡所見(鼻側).凝血塊を伴う少量の前房出血と瞳孔偏位があった.iSwのC1個はCPAS下に埋没して確認できなかった.図3右眼術後4週,左眼術後2週の隅角鏡所見(鼻側)a:右眼.Cb:左眼.両眼ともCiSw挿入部のCPASが悪化し(右眼はC2.4時,左眼はC7.10時),iSwは両眼ともPASに覆われていた.図4右眼術後5週,左眼術後3週の隅角鏡所見(鼻側)a:右眼.b:左眼.PASは改善し,iSwは右眼C2個,左眼C1個のみ(C→)確認できた.図5右眼術後16週,左眼術後14週の前眼部所見a:右眼.b:左眼.PASの改善に伴い,瞳孔偏位は改善した.mmHg前後と顕著に高くはなかったが,通院および点眼治療のアドヒアランスが不良であったため,緩徐に視野障害が進行していた.そのため,本症例は隅角開大度の点でCiSw挿入術の適応に懸念があったが,術後には隅角開大度が改善されることを見越してCiSw挿入術を施行した.しかし,この適応外使用が虹彩嵌頓,瞳孔偏位の原因になった可能性もあり,たとえ軽度な狭隅角眼と考えても,適応を拡大してはいけないと痛感した.本症例では,ピロカルピン2%点眼と通常の術後の消炎で,PASおよび瞳孔偏位は著明に改善した.その原因の一つとして,iSwが虹彩内に嵌頓したことで房水流出機能が低下し,iSwを介したCSchlemm管への房水流出量が減少したところに,ピロカルピンによる縮瞳作用により虹彩が整復した可能性が考えられる.iStentおよびCiSwが虹彩に嵌頓した場合,YAGレーザーでCPASを解除する方法7,8)もあるが,今回の症例ではCiSwが完全にCPAS下に埋没しており,また,眼圧上昇もなかったので,YAGレーザーは施行しなかった.今回,筆者らは,iSw挿入後に生じたCPASによる瞳孔偏位が保存的治療により改善したC1例を経験した.iSw挿入術では,PASや瞳孔偏位は頻度の少ない合併症ではあるが,比較的軽度の閉塞隅角であってもとくに虹彩高位付着あるいはプラトー虹彩を有する症例では,術後のCPASおよび瞳孔偏位に注意する必要がある.また,本症例から術後CPASや瞳孔偏位が生じたら,まずはピロカルピンを含む術後点眼を継続しながら注意深く経過観察すべきであると考える.これらの要旨は,第C34回日本緑内障学会で発表した.文献1)TanitoM:NationwideCanalysisCofCglaucomaCsurgeriesCinC.scalCyearsCofC2014CandC2020CinCJapan.CJCPersCMedC13:C1047,C20232)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌C124:441-443,C20203)IwasakiCK,CTakamuraCY,COriiCYCetal:PerformancesCofCglaucomaCoperationsCwithCKahookCDualCBladeCorCiStentCcombinedwithphacoemulsi.cationinJapaneseopenangleCglaucomapatients.IntJOphthalmolC13:941-945,C20204)TakayanagiY,IchiokaS,IshidaAetal:Fellow-eyecom-parisonbetweenphaco-microhookab-internotrabeculoto-myCandCphaco-iStentCtrabecularCmicro-bypassCstent.CJClinMedC10:2129,C20215)BaserEF,AkbulutD:Signi.cantperipheralanteriorsyn-echiaeCafterCrepeatCselect.veClaserCtrabeculoplasty.CCanJOphthalmolC50:e36-e38,C20156)谷原秀信,永田誠:トラベクロトミー術後の隅角所見とその意義1.基本パターン.臨眼C41:1334-1338,C19987)GuedesCRAP,CGravinaCDM,CLakeCJCCetal:IntermediateCresultsCofCiStentCorCiStentCinjectCimplantationCcombinedCwithcataractsurgeryinareal-worldsetting:alongitudi-nalCretrospectiveCstudy.COphthalmolCTherC8:87-100,C20198)塚本彩香,徳田直人,豊田泰大ほか:同一症例における白内障手術併用眼内ドレーン挿入術と内方線維柱帯切開術の術後早期成績について.あたらしい眼科C37:105-109,C2020C***

G 群Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis に よる感染性角膜炎の1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):473.477,2025cG群CStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisによる感染性角膜炎のC1例外山直樹*1岩崎琢也*1水口法生*1森洋斉*1子島良平*1園田忍*1野口ゆかり*2佐々木裕美*1石原誠都*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2(一般財団法人)阪大微生物病研究会CACaseofInfectiousKeratitisCausedbyGroupGStreptococcusdysgalactiaeCSubsp.EquisimilisCNaokiToyama1),TakuyaIwasaki1),NorioMizuguchi1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),ShinobuSonoda1),YukariNoguchi2),YumiSasaki2),MasatoIshihara1)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)TheResearchFoundationforMicrobialDiseasesofOsakaUniversityC緒言:細菌検査に質量分析(MALDI-TOFMS)が導入され,これまで同定が困難であった分離株が菌種名で報告できるようになった.症例:76歳,男性.植物を剪定中に左眼に異物感が生じ,翌日,疼痛のため来院した.細隙灯顕微鏡検査で角膜びらんと結膜充血・浮腫を認め,擦過検体の検鏡で連鎖状グラム陽性球菌を検出した.G群Cb溶血性レンサ球菌が分離され,MALDI-TOFMSによりCStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.Cequisimilis(SDSE)と同定した.分離株の薬剤感受性は良好で,レボフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼,およびオフロキサシン眼軟膏により治癒し,予後は良好であった.結論:G群CSDSE感染による高齢者の角膜炎のC1例を報告した.菌種同定が容易になったことにより,これまで菌種レベルで同定されていなかった眼科感染症の臨床像が解明されることを期待する.CPurpose:Relentlessplacoidchorioretinitis(RPC)isadiseasethatpresentswithnumerousplacoidlesionsandrecurringClesionsCoverCaClong-termCperiod.CInCthisCstudy,CweCevaluatedCtheCclinicalCcourseCinCaCcaseCofCRPCCusingCmultimodalimaging.Case:A17-year-oldfemalepresentedwithRPC.FunduscopicexaminationshowednumerousplacoidClesionsCthatCappearedCtoCbeCmixedCwithCfreshCandColdCscarClesionsCinCbothCeyes.CFourCmonthsClater,CfreshClesionswithmultipleyellowish-whiteplacoidexudatesappearedfromtheposteriorpoletotheperiphery.Opticalcoherencetomography(OCT)examinationofthefreshlesionsinthefovearevealedretinalexudativechangesandchoroidalthickening.OCTangiography(OCTA)revealed.owreductionwithinthechoriocapillaris,andmicrope-rimetryshowedreducedretinalsensitivity.Wide-anglefundusauto.uorescence(FAF)ofperipheralfreshlesionsshowedhyper.uorescence.Conclusion:MultimodalimagingsuchasOCT,OCTA,microperimetry,andwide-angleFAFweresuitableforassessingRPCstatus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(4):473.477,C2025〕Keywords:G群CStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.equisimilis,感染性角膜炎,MALDI-TOFCMS.GroupCGCS.Cdys-galactiaeCsubsp.Cequisimilis,CinfectiousCkeratitis,CMALDI-TOFCMS.Cはじめにb溶血をきたすレンサ球菌はCLance.eld分類のCA群,B群,C群,G群,L群に大別され,このうちCA群(groupAStrep-tococcus)とCB群(groupBStreptococcus)は日常臨床で重要視され,その他のCb溶血性レンサ球菌はあまり重要視されてなかった1).2010年代にマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix-assistedClaserCdesorp-tion/ionizationtimeof.ightmassspectrometry:MALDI-TOFMS)が細菌検査に導入され,細菌蛋白(分子量約C3,000.15,000,約C70.120種)のマススペクトルに基づく同定が容易にかつ迅速となり,分離株も菌種名で報告されることが多くなっている2).〔別刷請求先〕外山直樹:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:NaokiToyama,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(83)C473C図1左眼前眼部写真(左)とフルオレセイン染色(右)a,b:初診時.ほぼ円形の角膜びらんがフルオレセインで染まり,球結膜の充血と浮腫を伴い,前房蓄膿は認められなかった.Cc,d:治療開始C1週間後,角膜びらんは白濁し類円形となり,角膜浮腫は軽減しているが充血は残存していた.e,f:治療開始C3週間後,角膜びらん・球結膜充血は消失した.b溶血性レンサ球菌のCStreptococcusCdysgalactiaeはC1930年代からにウシ,ヒツジの乳腺炎より分離され,酪農業で問題となる菌種であった.一方,ヒトからも類似の菌種が分離され,動物由来をCS.dysgalactiaeCsubsp.Cdysgalactiae,ヒト由来をCS.dysgalactiaeCsubsp.Cequisimilis(SDSE)とすることがC1996年に提案された3).現在,SDSEはCLance.eldのC群とCG群,さらにCA群とCL群を含み,ヒトのみならず動物からも分離されている4).SDSEは咽頭,消化管,女性生殖器から分離され1),主としてヒト間で感染し,A群レンサ球菌感染症に類似した咽頭炎や蜂窩織炎,菌血症,化膿性関節炎,壊死性筋膜炎,毒素性ショック症候群などを引き起こす1,5).SDSEの眼感染症としては,菌血症に続発,内眼術後,眼外傷後の眼内炎が報告されているがC6.10),感染性角膜炎の報告はほとんどどない11).今回,基礎疾患のない高齢者の角膜病巣よりCSDSEを分離したC1例を経験したので報告する.CI症例患者はC76歳,男性.来院C1日前に剪定中に左眼に異物感が生じ,その後,痛みが出現し,宮田眼科病院を受診した.眼科既往歴に特記事項はなく,降圧薬による高血圧症治療中であり,糖尿病の罹患歴はなかった.初診時の視力は右眼0.6(1.2C×sph+2.50D(cyl.2.00DAx80°),左眼C0.2(n.c.)で,眼圧は右眼C15.4CmmHg,左眼C19.5CmmHgであった.スリットランプ検査では,左眼の角膜・結膜表面に異物はなく,角膜中央上方に大きさC2Cmm前後の角膜びらんが生じ,474あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025(84)結膜充血と浮腫を伴っていたが,前房蓄膿は認めなかった(図1a,b,図2a).びらんの擦過検鏡で連鎖状のグラム陽性球菌(GPC)を多数検出し(図3a),ファンギフローラ染色では真菌は確認されなかった.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼C1時間ごと,セフメノキシム(CMX)点眼C1時間ごと,オフロキサシン(OFLX)眼軟膏C2回/日を開始した.擦過検体よりCSDSEが分離された.分離株の抗菌薬感受性(表1)では使用薬剤に対して感性であったので,治療は継続した.治療開始C1週間後,眼痛は改善し,びらんも縮小し,LVFX点眼とCCMX点眼をC2時間ごとに減量した.2週間後,びらんはさらに縮小し(図1c,d),LVFXとCCMXの点眼C6回/日に減量した.治療開始C3週間後の前眼部所見ではびらんはほぼ消失し(図1e,f),視力は治療開始C3週後でC0.7(1.0C×sph+2.50D(cyl.2.00DAx90°)まで回復した.LVFX点眼4回/日,CMX点眼4回/日,OFLX眼軟膏C1回/日に減量した.治療開始後C5週後(図2b),LVFX点眼とCOFLX眼軟膏を中止した.その後,通院を自己中断され,その後の経過は不明である.CII分離株の細菌学的特徴角膜擦過検体はC5%ヒツジ血液加Ctripticasesoy寒天培地上にCb溶血を伴うコロニーを形成した(図3b).コロニーのCMALDICBiotyperMSP(Bruker)を用いた質量分析により分離株はCSDSEとスコアバリューがC2以上で一致した.また,Lance.eld凝集試験ではCG群と判定された.薬剤感受性検査(表1)ではトブラマイシンとイミペネム以外の種類の抗菌薬に感性を示した.CIII考按角膜びらんの擦過検体の塗抹検鏡でレンサ状CGPCを検出し,分離株はCb溶血をきたすコロニーを形成し,Lance.eld分類ではCG群,質量分析ではCSDSEと同定し,本症例はCG群CSDSE感染による角膜炎のC1例と判断した.感染性角膜炎で肺炎球菌以外のレンサ球菌が分離される割合は,台湾の1992.2001年の集計ではC3.6%,2007.2016年ではC3.2%であり12),菌種が同定されずにレンサ球菌属細菌として報告されている可能性がある.近年,SDSEの分離率が増加していることが報告されており,菌種同定が容易になったことに加えて,SDSEの浸淫率が増加していることも示唆される5).なお,ヒトに感染しCb溶血を示すCG群レンサ球菌にはCStrep-tococcusanginosusもあるため,G群レンサ球菌の報告ではその区別に留意する必要がある4).本症例では,受傷後早期に治療が開始され,分離株は使用したCLVFXとCCMXとCOFLXに感染があり,点眼治療に良図2前眼部OCT写真a:初診時.角膜は浮腫を伴い(厚さ:0.613Cmm),傍中央部実質に深さC0.225Cmmまでの高輝度変化を認め,下方の球結膜には浮腫を認めた.Cb:治療開始C5週後には角膜の浮腫は消失したが(厚さはC0.513Cmm),深さC0.197Cmmに高輝度性変化は残存していた.結膜の浮腫は消失している.図3初診時の角膜擦過物a:塗抹標本のグラム染色では連鎖状のグラム小生球菌を認めた.b:分離株はC5%ヒツジ血液加CTripticaseCsoy寒天培地に幅広いCb溶血を伴うコロニーを形成した.(85)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C475C表1角膜病変からの分離株の薬剤感受性抗菌薬CMIC感受性抗菌薬CMIC感受性CoxacillinC≦0.25C-moxi.oxacinC≦0.25CSCceftazidimeC≦0.25CSCgati.oxacinC≦0.25CSCceftriaxoneC≦0.25CSClevo.oxacinC0.5CSCcefmenoximeC≦0.5CSCchloramphenicolC4CSCtobramycinC32C-minocyclineC≦1CSCvancomycinC≦1CSCmeropenemC≦0.25CSCazithromycinC≦0.25CSCimipenemC≦0.25CIMIC:minimuminhibitoryconcentration(mg/ml)感受性の判定はCClinicalandLaboratoryStandardsInstituteのガイドラインに基づいた.S:感性,I:中間,-:基準値なし.好な反応を示した.角膜びらんはC3週間の経過で消失し,予後も良好であった.しかし,近年,フルオロキノロン系抗菌薬に耐性を示すCSDSEも報告されており13),分離株の抗菌薬感受性結果の把握は重要である.SDSEが角膜炎から分離された例は少なく,筆者らが文献を検索した結果では,肺癌の基礎疾患を有し,上皮成長因子レセプター阻害薬の投与中に角膜潰瘍が生じたC89歳の女性で,最終的に角膜穿孔をきたした細菌性角膜炎のC1例のみであった11).SDSEと病原性が類似するCA群レンサ球菌による角膜炎の報告もほとんどなく,AmarasekeraらはC6例報告しているが,本症例と同様に角膜病変はC2.3Cmmと小さく,早期に治療が開始された例では角膜病変は改善したが,治療開始までの期間がC1週以上の例では穿孔をきたしていた14).肺炎球菌以外のレンサ球菌による角膜炎の臨床像は十分には解析されていない.本症例はC76歳の糖尿病の病歴のない高齢者であった.SDSEはC50歳以上の高齢者から分離されやすく15),眼科領域の感染症としては高齢者に菌血症に伴う内因性眼内炎が報告されている6.8).これらの宿主では糖尿病,悪性腫瘍などの基礎疾患を有していることが多く,血液よりCSDSEが分離された場合は内因性眼内炎のリスクを考慮する必要がある.現在,質量分析を用いた細菌同定の普及により,分離株の菌種の同定が容易になっている.本症例のように,あまりなじみのない菌種が同定された場合は,角膜病変の検鏡で検出された細菌の性状と分離株の整合性を確認し,起因菌を同定することが重要である.今後,SDSEによる角膜感染の報告数が増加する可能性があり,眼科領域における本菌の病原性が解明されることを期待する.利益相反:利益相反公表基準に該当なし476あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025文献1)BrandtCCM,CSpellerbergB:HumanCinfectionsCdueCtoCStreptococcusCdysgalactiaeCsubsepciesCequisimilis.ClinCInfectDisC49:766-772,C20092)川﨑浩子:MALDI-TOFMS微生物同定技術:原理とデータ取得.MicrobResourSystC35:60-67,C20193)VandammeP,PotB,FalsenEetal:TaxonomictsudyofLance.eldCstreptococcalCgrupsCC,CG,CandL(Streptococcusdysgalactiae)andproposalofS.dysgalactiaeCsubsp.ellqui-similisCsubsp.nov.IntJSystBacteriolC46:774-781,C19964)FaclamR:WhathappendtotheStreptococci:OverviewofCtaxonomicCandCnomenclatureCchanges.CClinCMicrobiolCRevC15:613-630,C20025)TakahashiCT,CSunaoshiCK,CSunakawaCKCetal:ClinicalCaspectsofinvasiveinfectionswithStreptococcusdysgalac-tiaeCssp.CequisimilisCinJapan:di.erencesCwithCrespectCtoCStreptococcuspyogenesCandStreptococcusagalactiaeinfec-tions.ClinMicrobiolInfectC16:1097-1103,C20166)SuemoriS,SawadaA,MochizukiKetal:Caseofendoge-nousCendophthalmitisCcausedCbyCStreptococcusCequisimilis.ClinOpthalmolC4:917-918,C20107)HagiyaCH,CSembaCT,CMorimotoCTCetal:PanophthalmitisCcausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis:acasereportandliteraturereview.JInfectChemotherC24:C936-940,C20188)GuptaA,TsuiE,SarrafpourSetal:Streptococcusdysga-lactiaeCsubspeciesequisimilisCendogenousendophthalmitisassociatedCwithCaorticCvalveCabscess.COculCImmunolCIn.ammC27:743-746,C20199)GohCES,CLiewGC:TraumaticCbleb-associatedCgroup-GCbeta-haemolyticCStreptococcusCendophthalmitis.CClinCExpCOphthalmolC36:58-581,C200810)LeeYW,KohKM,HwangKYetal:Acasereportofful-minantendophthalmitiscausedbyStreptococcusdysgalac-tiaeCinCaCpatientCwithCtraumaticCcornealClaceration.CBMCCOphthalmolC20:238-202011)SobolEK,AhmadS,IbrahimKetal:RapidlyprogressiveStreptococcusCdysgalactiaeCcornealCulcerationCassociatedCwithCerlotinibCuseCinCstageCIVClungCcancer.CAmCJCOpthal-molCaseRepC18:100630,C202012)LiuCHY,CChuCHS,CWangCIJCetal:MicrobialCkeratitisCin(86)Taiwan:aC20-yearCupdate.CAmCJCOphthalmolC205:CLensAntEyeC42:581-585,C2019C74-81,C201915)HanadaS,WajimaT,TakataMetal:Clinicalmanifesta-13)BarrosRR:AntimicrobialCresistanceCamongCbeta-hemo-tionsCandCbiomarkersCtoCpredictCmortalityCriskCinCadultsClyticCStreptococcusCinBrazil:AnCoverview.CAntibioticsCwithinvasiveStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisC10:973,C2021Cinfections.EurJClinMicrobiolInfectDisC43:1609-1619,14)AmarasekeraCS,CDurraniCAF,CFaithCSCetal:ClinicalCfea-2024CturesofStreptococcuspyogeneskeratitis:caseseries.Cont***(87)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C477C

基礎研究コラム:15.幾何学的形態測定学を用いた画像解析

2025年4月30日 水曜日

幾何学的形態測定学を用いた画像解析幾何学的形態測定学とは19世紀以前,博物学の時代から,生物標本の形態を測定し,特徴を定量化する方法が開発されており,形態測定学と呼称されます.体長と頭長といった長さ(一次元情報)を特徴量とする手法が主でありましたが,20世紀以降に幾何学的形態測定学が発展してきました.座標平面上に標本を置くことで形状を数学的な座標情報に変換し,二次元情報を保ったまま特徴量を抽出することが可能となります.さまざまな手法が開発されていますが,その一つとして仮想的な空間の歪みを計算し,形状を定量化する薄板スプライン法があります.方眼用紙上に図形を載せることを考えると,升目が変形するとその上の図形も変形します.したがって,形状の差異はその背景にある空間の変形として捉えることができ,基準画像からの変形に必要なエネルギーを算出することで形状を定量化します(図1).近年の情報科学の発展に伴い,高度な数学的知識を要することなく専門外の研究者でも解析が可能となっており,昆虫など小動物を扱う生物学分野では多用されています.GraphicalCuserinterface(GUI)操作で簡便に解析できるフリーソフトウェアも配布されています1).眼の領域ではどうでしょうか眼科学分野では,緑内障視神経乳頭の形状解析2)や,成長に伴う水晶体形状変化の評価といった報告がありますが,幾何学的形態測定学が普及しているとはいえない状況です.筆者らは網膜前膜による網膜形状変化を薄板スプライン法により定量化し,視機能との関連を調べ報告しました3).中心窩正常網膜宮城清弦長崎大学病院眼科厚や内顆粒層厚といった従来のパラメータに比べ,薄板スプライン法で算出された歪みエネルギーはより優れた相関を示し,多変量解析において視機能の有意な予測因子でした.また,輪郭情報を三角関数の和として表現する楕円CFourier法を用いた定量化についても報告しました.これらの幾何学的形態測定学の手法は,網膜形状の解析において有用であると考えます.今後の展望眼科診療においてはCOCTを代表とする画像診断が重要な位置を占めており,検査画像(二次元情報)を医師が解釈することで日常的な臨床診断を行っています.しかし,臨床研究での画像定量化においては,網膜厚などの一次元情報をおもに利用しており,二次元情報(さらには三次元情報)を十分に活用しているとはいいきれない状況にあります.技術の進歩に伴って今後もさまざまな検査が可能となり,解釈を必要とする画像情報は増加すると思われます.その定量化において,幾何学的形態測定学は有用なツールになると考えます.文献1)RohlfFJ:TheCtpsCseriesCofCsoftware.CHystrixC26:9-12,C20152)San.lippoCPG,CCardiniCA,CHewittCAWCetal:OpticCdiscCmorphology―rethinkingCshape.CProgCRetinCEyeCResC28:C227-248,C20093)MiyagiS,OishiA,TsuikiEetal:Geometricmorphomet-ricsCcanCpredictCpostoperativeCvisualCacuityCchangesCinCpatientsCwithCepiretinalmembrane:ACretrospectiveCstudy.TranslVisSciTechnolC12:24,C2023図1歪みエネルギーによる網膜形状の定量化正常な網膜からどれだけ歪んでいるのか,その歪みにどれだけのエネルギーが必要かを算出することで,網膜前膜による形状変化を定量化する.ERM:網膜前膜.(79)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C4690910-1810/25/\100/頁/JCOPY歪みエネルギー:4.53歪みエネルギー:1.08

硝子体手術のワンポイントアドバイス:263.硝子体手術中に生じるacute intraoperative choroidal effusion(中級編)

2025年4月30日 水曜日

263硝子体手術中に生じるacuteintraoperativechoroidale.usion(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにChoroidale.usionは外傷,内眼手術後,ぶどう膜炎,光凝固などが誘因で脈絡膜上腔に滲出液が貯留する病態であるが,これが内眼手術中に生じ,駆逐性出血様の病態を呈するものをCacuteCintraoperativeCchoroidale.usion(AICE)とよんでいる1).駆逐性出血と違い,一般に胞状の脈絡膜.離は早期に消失し,視力予後も良好であることが多い.白内障手術中に生じたとする報告が多いが,硝子体手術中に生じることもある2).C●症例提示87歳,女性.左眼の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)脱臼で,IOL摘出+硝子体手術を施行した.眼軸長C30mmの最強度近視眼で,無水晶体眼になっても-1Dの近視が残るためCIOL抜去のみとした.硝子体切除後に眼底に落下したCIOLを硝子体鑷子で把持し,上方の強角膜創から摘出したが,この際に創からの眼内灌流液の漏出が多く(図1),一時的に低眼圧となった.再度眼底を観察すると,耳側と上方に脈絡膜の隆起を認めた(図2).脈絡膜出血を疑い,ただちに強角膜創を縫合し,残存硝子体を無理のない範囲で切除し手術を終了した.術翌日,脈絡膜の隆起は消失していた(図3).脈絡膜出血ではなく,硝子体手術中に生じたCAICEと診断した.C●硝子体手術中に生じるAICE内眼手術中に生じるCAICEは,術中の急激な眼圧上昇,前房消失,脈絡膜の隆起病変が生じるので,駆逐性出血(脈絡膜出血)との鑑別が困難であり,いずれにしても即座に手術創を閉じるのが原則である.鑑別には術後の超音波CBモード検査が有用である.AICEは,通常の脈絡膜.離の像を呈し,脈絡膜上腔が高輝度にはならないことに加えて,術後早期に軽快することが多い.一図1術中所見(1)脱臼IOL摘出時に強角膜創からの眼内液の漏出が多く,一時的に低眼圧となった.図2術中所見(2)耳側と上方に脈絡膜の隆起を認めた.図3術翌日の眼底写真脈絡膜の隆起は消失していた.方,駆逐性出血は脈絡膜上腔に高輝度反射像を認め,吸収には長期間を要する.ZhangらはCsmallgauge硝子体手術の連続症例C1,026眼中C6例でCAICEが生じたとし,術中の低眼圧が一番の誘因であると述べている.AICE発症の他の危険因子としては,高齢,高血圧,動脈硬化,緑内障,強度近視など,駆逐性出血と類似のものが多く,もともと脈絡膜血管の脆弱性があり,これに内眼手術による低眼圧が引き金となり,血管外に血漿成分が漏出することが原因と考えられる.文献1)MaumeneeCAE,CSchwartzMF:AcuteCintraoperativeCcho-roidale.usion.AmJOphthalmolC100:147-154,C19852)ZhangCT,CWeiCY,CZhangCZCetal:IntraoperativeCchoroidalCdetachmentduringCsmall-gaugeCvitrectomy:analysisCofCcauses,Canatomic,CandCvisualCoutcomes.Eye(Lond)36:C1294-1301,C2022C(77)あたらしい眼科Vol.42,No.4,20254670910-1810/25/\100/頁/JCOPY

考える手術:40.MIGSにおける隅角鏡の使い分けのコツ

2025年4月30日 水曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅MIGSにおける隅角鏡の使い分けのコツ城下哲夫さだまつ眼科クリニック線維柱帯切開術(abexterno)は線維柱帯切除術に比べ眼圧下降効果は劣るが,合併症が少ないことが利点であり,古くから施行されている術式である.結膜を切開し,経強膜的にSchlemm管にトラベクロトームを挿入し,Schlemm管内壁と線維柱帯を切開する.その適応は原則として線維柱帯における房水流出抵抗が眼圧上昇の原因となっている開放隅角緑内障であり,線維柱帯以降の流出路に眼圧上昇の原因がある炎症眼や,血管新生緑内障などは非適応となる.近年,谷戸正樹先生(島根大学)が考案した谷戸氏abinternoトラベクロトミーマ線維柱帯切開術におけるMIGSは,結膜切開を伴わない低侵襲な緑内障手術を指すことが一般的であり,前房内での操作により線維柱帯を切開するため,隅角鏡を用いる隅角手術が基本となる.隅角鏡はSwan-Jacob,Thorpeのような往年のモデルのほか,森和彦先生(バプテスト眼科長岡京クリニック)考案のモリゴニオトミーレンズ(Ocular社)やHill,Ahmedなど,それぞれ特徴の異なるさまざまなモデルが発売されている.ほかにもディスポーザブルのものもラインナップされ,隅角鏡選択だけでも非常に多岐にわたる.その隅角鏡の一部を紹介し,それぞれの特徴と術式との相性を解説する.聞き手:低侵襲緑内障手術〔micro(orminimally)-inva-す.その点ではトラベクロトームを使用したconven-siveglaucomasurgery:MIGS〕の利点はなんですか?tionalLOTや5-0ナイロン糸を使用したSutureLOT城下:trabeculotomy(以下,LOT)においては,結膜では,Schlemm管外壁を損傷するリスクは少なく,確を切開せずに温存できることが最大の利点です.ただし実にSchlemm管内壁側のみを選択的に切開することが注意点もあります.前房から線維柱帯とSchlemm管内できます.壁にアプローチすることになりますが,その際,ブラインド操作で選択的にSchlemm管内壁まで切開すること聞き手:Hydrus緑内障マイクロステント(以下,になります.ここでSchlemm管外壁も傷つけてしまうHydrus)はどのようなデバイスですか?と,集合管への流出不全が生じて手術効果が得られない城下:Hydrusは,米国では2018年,わが国では2024可能性があります.隅角手術ではそのような点にも注意年9月から使用可能となった流出路再建のデバイスですしながら,使用する器具の操作を習得する必要がありま(https://www.myalcon.com/jp/professional/glaucoma/(75)あたらしい眼科Vol.42,No.4,20254650910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術migs-devices/hydrusmicrostent/).前房内よりインジェクターを用いてSchlemm管内に挿入し,留置します.Schlemm管の拡張と,デバイスの流入口であるinletを通じて前房からの房水流出を復元し,線維柱帯のバイパス機能を改善することで眼圧下降を得ます.線維柱帯の切開範囲は非常に小さいため,挿入時の出血リスクが少なく,唯一眼や日帰り手術でも選択しやすいのが特徴です.聞き手:隅角鏡の種類について教えてください.城下:隅角鏡にはさまざまな種類があり,ディスポーザブルのものやオートクレーブ可能なものなど特徴が細かく異なります.まずミラーの有無の違いで2種類に分かれます.通常の隅角鏡はレンズのみでミラーはなく,顕微鏡の鏡筒と患者の顔を傾けて使用します.Swan-Jacobゴニオプリズム(Ocular社)やHillサージカルゴニオプリズム(以下Hill.Ocular社)などです.一方,ミラー付きは顕微鏡を傾ける必要がなく,そのままの状態で隅角を観察できますが,二つのミラー(ダブルミラー)を介しているため解像度が落ちる傾向にあり,また,価格は高価です.モリゴニオトミーレンズ(以下,モリ.)やAhmed氏DVXサージカルゴニオ(以下,Ahmed.Ocular社)などです.また,形状においては,柄つきのものが一般的です.左手用と右手用の2タイプあるもの(Hillなど),両手兼用のもの(Swan-Jacobなど),柄の位置を付け替えることで両手兼用で使えるもの〔ディスポゴニオプリズム左右用(PHAKOS社)など〕があります.アプローチの仕方によっては,柄の方向が患者の鼻と干渉し操作がしづらくなることもあります.筆者はマイクロフックトラベクロトミーやHydrusを挿入する際は,患者頭側に座り右眼には右手で,左眼には左手で下鼻側のSch-lemm管にアプローチします(図1).左右用に分かれている隅角鏡を用いる場合は,持ち手が患者の鼻と干渉してしまいます.そのため,モリやAhmedを好んで使っています.鏡筒を傾ける操作や見たい術野によって座る位置と傾ける方向を変えなければならないのは,手術件数が多くなってくると負担になってきます.鏡筒の傾けが不要のモリやAhmedはその点でも優れています.また,観察可能な術野の範囲の違いにより顕微鏡のX-Y操作の点で負担が変わります.たとえば,モリでは観察したい位置に合わせてマイクロのX-Yを操作する必要があります.一方,Ahmedはレンズを回転させることでX-Y操作をせずに観察が可能です.スカートの有無でも違いがあります.サイドポートからアクセスする場合は,スカートつきのレンズではスカートとデバイスが干渉してレンズが浮いてしまい,気泡や血液がレンズの下に入って視認性が落ちることがありますので,スカートつきは適さないといえます(動画1).滅菌方法はEOG滅菌が主でしたが,オートクレーブ対応やディスポーザブルのものも増えてきています.ハンズフリーのレンズ〔ハンズフリーゴニオレンズディスポーザブル(SensorTek社)など〕もあり,両手を使ってデバイス操作ができるため,より安定した手技が可能となります.このレンズの視野角は非公表ではあるものの従来のものより広くなっており視認性にも優れています(動画2).用意すべき個数は,手術件数や滅菌方法によっても変わってきます.価格にも幅がありますので,導入費用面においても施設ごとの基準で選択する必要があると思います.聞き手:緑内障手術におけるMIGSの位置づけについて教えてください.城下:trabeculectomy(以下,LET)がスタンダードだった時代から,LOTが登場し,近年はMIGSが一般的に知られるようになってきました.MIGSの最大のメリットは低侵襲であり合併症が少ないことです.手術時間も短く,LETでは高かった手術のハードルが下がり,早期から手術介入がしやすくなっています.白内障手術との相性もよく,緑内障の進行が目立っていなくても,白内障手術のタイミングで点眼の剤数を減らすことを目的としてMIGS同時手術を選択をすることもあります.結果的に緑内障の進行を防ぐことにつながることも十分にあると思います.ただし,濾過手術ほどの眼圧下降は望めませんので,目標眼圧や緑内障の病型,進行度によって術式の適正な選択は必要です.もちろん,MIGSにおいても術者の経験が必要であり,その効果は熟練度によって変わってきます.地域によっては緑内障専門医が少なく,MIGSもすべてカバーしきれない環境も存在しますので,わが国ではまだしばらくは,その地域ごとに術者が担う役割がそれぞれ変わってくるでしょう.地域での連携をしっかりとることが重要です.図1筆者のアプローチの工夫466あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025(76)

抗VEGF治療セミナー:囊胞様黄斑変性と治療中断

2025年4月30日 水曜日

●連載◯154監修=安川力五味文134.胞様黄斑変性と治療中断木戸愛京都大学大学院医学研究科眼科学教室.胞様黄斑変性(CMD)は,滲出性変化の現れである網膜内液とは異なり,新生血管型加齢黄斑変性の疾患活動性を反映したものではなく,積極的な治療対象ではない.長期的な治療をみすえ,患者の治療負担を最小限にするためにも,両者をしっかり区別して,患者ごとに適切な治療方針をたてることが望ましい.新生血管型加齢黄斑変性においては滲出性変化の見きわめが重要新生血管型加齢黄斑変性の診療において,適切な治療方針の決定のためには黄斑新生血管(macularCneovas-cularization:MNV)の活動性評価を正しく行うことが要となる.活動性の評価は基本的には非侵襲的な検査である光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて行われ,その検査所見からCMNVに滲出性変化があるかを見きわめることとなる.滲出性変化はMNV周囲の滲出液の貯留(網膜内液,網膜下液,漿液性網膜色素上皮.離),出血,フィブリン,硬性白斑などとして現れる.網膜内液(intraretinal.uid:IRF)は「滲出性変化がある」と判断する代表的な所見の一つであるが,非常に類似した所見として.胞様黄斑変性(cystoidCmaculardegeneration:CMD)があり,両者は似て非なるものであるため区別が必要である..胞様黄斑変性とはCMDは疾患の進行に伴い網膜組織が破壊され変性した結果として,網膜内に.胞様腔が観察される病態である.ほとんどの場合,.胞様腔がある部位には健常な視細胞は存在しておらず,瘢痕病巣(線維性瘢痕や萎縮性瘢痕)を伴っている(図1,2).OCTで観察される.胞様腔の形状の特徴として,滲出性変化として現れるCIRFは丸みをおびた形状であるのに対して,CMDは縁取りが直線状であったり角ばっていたり四角形に近い形状であることが多い1).また,.胞様腔内部は低輝度である(図1,2).CMDの大きさは非常に大きなものから小さなものまでさまざまで,網膜のどの層に認めるかもさまざまである(図1).また,蛍光眼底造影検査では蛍光色素の.胞様腔への貯留は認めるが,旺盛な蛍光漏出は認めない.CMDは抗CVEGF療法などの治療に反応しない(治療(73)の前後で.胞様腔の大きさが変化しない)ことも多く,もし治療に伴い縮小・消退することがあったとしても,視力回復や自覚症状の改善にはつながらない.また,長期的に徐々に.胞様腔の大きさが拡大することはあるが,数カ月の経過ではほぼ大きさや形状に変化がないと報告されている1).網膜内.胞様腔は変性か滲出性変化か上述のように,CMDは滲出性変化の所見ではなく変性所見であるため,新生血管型加齢黄斑変性の疾患活動性の評価には用いない2).そのためCCMDを根拠に治療を継続する必要はない.対して,同様の網膜内の.胞様腔であるCIRFは滲出性変化の所見であり,疾患活動性の評価に用いる.網膜内に.胞様腔を認めた際に,IRFかCCMDか,どちらと判断するかで治療方針の方向性がまったく逆となってくるのが厄介である.典型的なケースでは悩むことはないかもしれないが,両者の区別を要する場合は,①.胞様腔の形状,②.胞様腔の周囲の状態,③治療への反応・経時変化,に注目して総合的に判断をしてほしい.形状については,滲出性変化の現れであるCIRFは周囲に凸で丸みをおびた形状であるのに対して,CMDは辺が直線状であったり角ばっていたり四角形に近い形状であることが多いと述べた.しかし実際は,形状だけで両者を区別するのはむずかしいことが多い.その場合は.胞様腔の周囲の状態に注目してほしい.線維性瘢痕や網膜外層萎縮などの瘢痕病巣を伴っているか,周囲に網膜下液や出血などの他の滲出性変化の所見がないかを確認する.瘢痕性病巣があり,他の滲出性変化がめだたない場合は,.胞様腔はCCMDである可能性が高くなる.治療への反応性や経時変化も非常に参考となる.CMDは治療への反応性が不良であることが多い.治療への反応性を評価したいときは,治療直前の診察タイミング(treatandextend投与などでは,通常,診察タイミングを治療直前に設定している場合が多い)のみではあたらしい眼科Vol.42,No.4,20254630910-1810/25/\100/頁/JCOPY線維性瘢痕評価が不十分である.なぜなら,治療直前の診察タイミングに.胞様腔を認めたとしても,治療効果があり一度消退したが再発しているのか,そもそも治療効果がなく不変であるのかの判断がむずかしいからである.そこで,治療後C2~3週のタイミングでも.胞様腔の状態や症状改善がみられるかを評価してほしい.CMDの場合は治療前後で.胞様腔の大きさや形状に変化がないことが多く,縮小・消退があったとしても視力回復や自覚症状の改善は乏しい.逆に,治療前と比して.胞様腔が縮小・消退しており視力や自覚症状の改善がみられる場合は,滲出性変化である可能性が高く,治療対象の所見と考えたほうがいいだろう.筆者の考え新生血管型加齢黄斑変性の診療に携わっていると,通院や治療費の負担が患者にとって切実な問題であることを痛感する.とくに新生血管型加齢黄斑変性は一度の治C464あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025図1線維性瘢痕を伴う.胞様黄斑変性.胞様黄斑変性を複数認める..胞様腔内部の輝度は低輝度で,縁取りが直線状で角ばっており,四角形に近い形状をしている.大きさは大きなものから小さなものまでさまざまである.図2網膜外層萎縮を伴う.胞様黄斑変性中心窩に.胞様黄斑変性を認める.眼底自発蛍光で蛍光色素の反射が完全に消失しており,網膜外層が萎縮していることがわかる.療で完治する疾患ではないため,長期管理をみすえた,持続可能な治療方針の決定が必要である.必要な治療と不必要な治療を見きわめ,患者ごとに最適と思われる治療方針を,患者のニーズをしっかり汲みあげながら一緒に考えていくことが眼科医に求められている.治療中断・経過観察という選択肢は,眼科医にとってときに勇気のいることであるが,本来治療が必要でないCMDに対して漫然と治療を継続することがないように注意したい.文献1)QuerquesCG,CCoscasCF,CForteCRCetal:CystoidCmacularCdegenerationCinCexudativeCage-relatedCmacularCdegenera-tion.AmJOphthalmolC152:100-107,Ce2,C20112)日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン.日眼会誌128:680-697,C2024(74)外層萎縮

緑内障セミナー:ROTA(網膜神経線維層テクスチャ解析)

2025年4月30日 水曜日

●連載◯298監修=福地健郎中野匡298.ROTA(網膜神経線維層テクスチャ解析)西田崇カリフォルニア大学サンディエゴ校緑内障診断に一般的なOCTや眼底写真では,診断がむずかしい場合がある.ROTAは網膜神経線維層の微細な構造変化を捉え,レッドフリー眼底写真やOCT偏差マップでは見逃されていた欠損を高い感度,特異度で検出可能である.さらに黄斑部の観察や高眼圧症患者にも有用性を示しており,緑内障の早期発見に寄与する可能性がある.●はじめに緑内障の診断は,機能・構造的損傷を検出することによって行われる.構造的変化を評価するために一般的に使用される検査には,眼底写真による視神経乳頭の観察や,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)の評価が含まれる.Wuらによるメタ解析では,機械学習アルゴリズムを用いることで,眼底写真を用いた緑内障の診断では感度が0.92,特異度が0.93,AUC(曲線下面積)が0.97と報告されている.同様に,OCTを用いた場合でも感度が0.90,特異度が0.91,AUCが0.96と高い診断性能が示された1).しかし,近視眼や非緑内障性視神経症が共存するケースでは,これらの技術でも診断が困難な場合がある.最近,LeungらはRNFLopticaltextureanalysis(ROTA)という新しい解析法を開発した2,3).ROTAはRNFLの微細な構造変化を捉えることが可能であり,緑内障の早期発見,進行管理に有用である可能性がある.●ROTAの原理ROTAはRNFLの厚さに加えて,反射率を非線形変換し,それを基にテクスチャ解析マップを生成する(図1).この生成されたマップを用いることでRNFL欠損を検出することが可能である.具体的には,OCTを用いてラスタースキャンを取得し,RNFLの境界をセグメント化する.その後,RNFL内の各画素位置(x,.y)の深さzにおける反射率値Pz,.xyを抽出する.光学テクスチャシグネチャSxyは以下のように計算される.1bi,yc1c2Sxy=*Pz,xyk/a4/aPrefz=b1,xyここでb1とbiは,それぞれRNFLの前部境界および(71)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ROTAによるRNFL欠損の検出上弓状線維束,下黄斑乳頭黄斑線維束,下弓状線維束欠損を認める.後部境界のz位置を表す.Pは網膜色素上皮で測定された最大反射率値の中央値をさrefす.c1,c2およびaは,Sのダイナミックレンジを最大化するために計算された定xy数である2).簡単にいえば,SxyはAスキャン方向のRNFL内の正規化された輝度値の総和を計算している.●ROTAの特長ROTAを用いることで,従来のレッドフリー眼底写真やOCTの偏差マップでは見逃されていたRNFL欠損を評価できることが報告されている.具体的には,95%特異度におけるレッドフリー眼底写真の感度は79.3%であったのに対し,ROTAでは98.9%という高い感度を示した.また,ROTAは正常眼データベースに基づく偏差データに依存せず評価が可能であるため,近視眼で眼軸長が長い患者にしばしば生じる偽陽性のリスクを低減することができる.特異度についてもROTAは94.3%を示し,黄斑部神経節細胞-内網状層の78.1%や視神経乳頭RNFLの87.9%を上回る結果となった2).さらにROTAは,弓状束,乳頭黄斑束,鼻側放射束あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025461図2ROTA画像への24-2視野と10-2図3眼底写真視野の投影図1の症例.画像右側のレッドフリー眼底写真では,下方図1の症例.高い構造機能の一致が確認にRNFL欠損が確認できるが,上方のRNFL欠損は視認できる.が困難である.といった網膜の広範なRNFL欠損を検出することが可能である.Leungらは初期緑内障の204眼を調べ,乳頭黄斑束の71.6%,乳頭中心窩束の17.2%にRNFL欠損が認められたと報告した3).従来は,黄斑部は緑内障後期まで障害を受けにくいとされてきたが,初期においてもqualityoflifeに重要な黄斑を正確に評価できる可能性が示唆された.高い構造機能相関を示した一例(図1と同一症例)を図2に示す.同症例の眼底写真(図3),OCT画像(図4)も示す.また,ROTAは高眼圧症(ocularhypertension:OHT)の患者においても重要な役割を果たす可能性がある.Suらの研究では,600眼のOHTを対象にROTAを用いて解析を行い,10.8%の眼でRNFL欠損が認められた.このような欠損はOCT偏差マップや眼底写真において見逃されていたものであり,ROTAの診断的有用性が強調された4).●おわりにROTAは,現在市販のOCT装置への実装が計画されており,普及が期待されている.一方で,RNFL欠損の462あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025図4OCT画像(Pano図Map)図1の症例.上方および下方に広範なRNFL欠損を認め,この所見は図2に示されるROTA画像の結果と一致している.主観的な判断や,モーションアーティファクト,網膜疾患,中間透光体混濁による画像品質への影響といった課題がある.今後のアルゴリズム改良やAI技術の活用により,これらの課題が克服されれば,ROTAは緑内障診療の新しいスタンダードとなる可能性がある.文献1)WuJH,NishidaT,WeinrebRNetal:Performancesofmachinelearningindetectingglaucomausingfundusandretinalopticalcoherencetomographyimages:ameta-analysis.AmJOphthalmol237:1-12,20222)LeungCKS,LamAKN,WeinrebRNetal:Diagnosticassessmentofglaucomaandnon-glaucomatousopticneu-ropathiesviaopticaltextureanalysisoftheretinalnerve.brelayer.NatBiomedEng6:593-604,20223)LeungCKS,GuoPY,LamAKN:Retinalnerve.berlayeropticaltextureanalysis:Involvementofthepapillomacu-larbundleandpapillofovealbundleinearlyglaucoma.Ophthalmology129:1043-1055,20224)SuCK,GuoPY,ChanPPMetal:Retinalnerve.berlayeropticaltextureanalysis:Detectingaxonal.berbun-dledefectsinpatientswithocularhypertension.Ophthal-mology130:1080-1089,2023(72)

屈折矯正手術セミナー:中高年の近視進行抑制

2025年4月30日 水曜日

●連載◯299監修=稗田牧神谷和孝299.中高年の近視進行抑制鳥居秀成慶應義塾大学医学部眼科学教室小児だけでなく,成人以降も近視が進行し続ける場合がある.とくに強度近視眼では成人以後も眼軸長が伸び続けることがわかってきた.さらに,白内障手術を受ける年齢層においても,眼内レンズの種類によっては近視が有意に進んだという報告もあり,長寿社会においては中高年の近視進行抑制も一つの課題である.●はじめに近年,小児の近視進行抑制がクローズアップされているが,強度近視眼では成人以後も眼軸長が伸び続けているという報告1)もある.そこで本稿では,成人の眼軸長伸長とその抑制に的を絞り,抑制できる可能性について最新の知見も交えて解説する.C●成人以後の近視の進行・眼軸長伸長とその程度20歳以上の成人でも,世界的に近視は進行していることが報告されており,その進行程度はC0.04~0.4D/年程度である(表1)2).成人以後は白内障(核硬化の進行)による近視化もあるため,眼軸長伸長による評価がより適切であると考えられる.強度近視眼〔等価球面値(SE)C.6D以下〕の年齢別の眼軸長伸長の軌跡を調べた中国の報告では,7歳~18歳未満ではC0.46Cmm/年,18歳~40歳未満では0.07mm/年,40歳~70歳未満では0.13Cmm/年であり,さらに,50~70歳でも中等度~急速に眼軸長が伸長する症例があることがわかった(図1)3).日本人の成人以後の強度近視眼の眼軸長伸長は,初診時の後部ぶどう腫の有無にかかわらず,0.06Cmm/年伸び続けることも報告2)されている.C●成人以後の眼軸長伸長とその原因幼少期において屋外活動が近視進行を抑制することは周知の事実であるが,20~28歳の成人においても屋外活動に近視進行抑制効果があることが報告4)された.幼少期から成人まで,屋外活動が近視進行を抑制する構成因子は何であろうか.その一つとして,屋外の光環境・波長が関与している可能性,そして室内にはほとんどなく屋外環境に存在するバイオレットライト(360~400nm)が関与している可能性を以前筆者らが報告5)した.さらに,白内障手術時にバイオレットライトを完全にカットする眼内レンズを挿入した群(バイオレットライトカット群)と,一部カットする眼内レンズを挿入した群で,白内障手術後C5年間の近視進行を後ろ向きに比較した報告6)によると,バイオレットライトカット群で白内障術後も有意に近視が進行した.表1成人以後の近視の進行の研究ReferencesCCohortCFollow-updurationCMyopiaincidenceCMyopiaprogressionCTheFaineStudyCommunity-based;baselineage=20yearsC8yearsC1.75%/yearC.0.041D/year(n=107)CJacobsenetal.Medicalstudents;baselineage=23yearsC2yearsC4.8%/yearC.0.12D/year(n=143)CJorgeetal.(n=118)Universitystudents;baselineage=21C3yearsC6.5%/yearC.0.10D/yearCJiangetal.C9monthsduring(n=64)Optometrystudents;baselineage=25yearsCschooltermC─C.0.37D/yearCLomanetal.Lawstudents;age=27yearsC3years,retrospectiveaC6.3%/yearaC─(n=117)CKingandMidelfart,Engineeringstudents;baselineage=21yearsC3yearsC11%/yearbC.0.17D/year(n=224)aBasedonparticipant-reportedinformation;bKingeandMiddelfartmyopiaassphericalequivalent..0.25D.世界的に,20歳以後の成人でも近視が進行していることがわかる.(文献C2より引用)(69)あたらしい眼科Vol.42,No.4,20254590910-1810/25/\100/頁/JCOPY333231302928272625Age,y●バイオレットライトが近視進行抑制効果を発揮するメカニズム幼児から白内障手術を受ける年齢層まで,一貫してバイオレットライトが近視進行抑制効果を発揮する一つのメカニズムとして,網膜神経節細胞に発現する非視覚光受容体で,バイオレットライト領域内のC380Cnmを最大吸収波長とするCOPN5を介す経路があることを筆者らが以前報告7)した.その研究の概要は,網膜特異的にOpn5遺伝子を欠損させたCOPN5ノックアウトマウスを用いた研究を実施し,網膜神経節細胞が発現するCOPN5でバイオレットライトが受光されることにより,脈絡膜厚が維持され,眼軸長伸長が抑制されることを示した.C●バイオレットライトが成人以後の近視進行を抑制する可能性筆者らは,白内障手術時にバイオレットライトの透過性の異なるC2種のCIOLを用いて,ランダム化単盲検並行群間比較試験を行い,屈折値や脈絡膜厚変化量などを前向きに比較検討した(UMIN000038961).術後C3~12カ月のC2群間(平均年齢C69歳)の脈絡膜厚変化量は,バイオレットライト透過により脈絡膜厚が有意に厚くなった.さらに,バイオレットライトは屋外に豊富に存在し,その受光量は屋外活動時間に依存することから,2群間の脈絡膜厚変化量の多変量解析を実施した.その結果,ことに,女性,バイオレットライトをより透過しやすい眼内レンズを選択したこと,屋外活動時間が長いことが,脈絡膜厚が厚いことと有意に関係することがわかった.以上の結果より,将来的には,中高年の近視進行抑制C460あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025Axiallength,mm71020304050607080図1強度近視眼(SE≦-6.0D)の年齢別の眼軸長伸長の軌跡50~70歳でも中等度~急速に眼軸長が伸長する症例(赤枠内)があることがわかる.(文献C3より引用)に応用できる可能性がある.C●おわりに自然界に存在する波長にはそれぞれに意味があり,人為的に特定の波長をカットすることは,未だ発見されていない受容体などの存在とその生理活性を無視してしまうことにつながりかねない.まだ解決すべき課題はあるが,より生理的な視環境を維持することが重要である可能性がある.文献1)SakaCN,CMoriyamaCM,CShimadaCNCetal:ChangesCofCaxialClengthmeasuredbyIOLmasterduring2yearsineyesofadultsCwithCpathologicCmyopia.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:495-499,C20132)LeeSS,MackeyDA:Prevalenceandriskfactorsofmyo-piaCinCyoungadults:ReviewCofC.ndingsCfromCtheCRaineCStudy.FrontPublicHealthC10:861044,C20223)ZhangS,ChenY,LiZetal:AxialelongationtrajectoriesinCChineseCchildrenCandCadultsCwithChighCmyopia.CJAMACOphthalmolC142:87-94,C20244)LeeCSS,CLinghamCG,CSan.lippoCPGCetal:IncidenceCandCprogressionofmyopiainearlyadulthood.JAMAOphthal-molC140:162-169,C20225)ToriiCH,CKuriharaCT,CSekoCYCetal:VioletClightCexposureCcanbeapreventivestrategyagainstmyopiaprogression,EBioMedicineC15:210-219,C20176)佐藤裕之,佐藤裕也,貞松良成ほか:長眼軸眼に挿入された眼内レンズの分光透過特性の違いによる術後長期の近視化傾向の検討.IOL&RS34:635-640,C20207)JiangX,PardueMT,MoriKetal:Violetlightsuppresseslens-inducedCmyopiaCvianeuropsin(OPN5)inCmice,CProcCNatlAcadSciUSAC118:e2018840118,C2021(70)