Vogt-小柳-原田病(再発・遷延型)AProtractedCaseofVogt-Koyanagi-HaradaDisease長谷敬太郎*南場研一*はじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)によるぶどう膜炎は,ステロイドへの反応がよく,比較的視力予後のよい疾患といわれている.しかし,なかにはステロイドの減量中に炎症の再発を繰り返し,発症後6カ月を経過しても炎症が消退しない遷延型原田病に移行する患者が少なからず存在する.遷延型での治療目標は生涯の視機能維持である.そのためには再発を予防するとともに,再発時には炎症を最小限に抑え,脈絡膜萎縮の拡大を防ぐ必要がある.その際に大事なことは,複数の画像診断機器を用いて,再発を早期に正確に診断することである.今回は,マルチモーダルイメージングを用いた炎症の再発・遷延時の病状評価方法や治療方法について述べる.I原田病(再発・遷延型)の再発時の眼所見・画像所見原田病再発時の眼所見として,前眼部に虹彩毛様体炎(豚脂様角膜後面沈着物やKoeppe結節など)が生じる「前眼部再発のみ」タイプと,後眼部に脈絡膜炎(漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞など)を生じる「検眼鏡的後眼部再発のみ」のタイプ,その両者を生じる「前眼部再発+検眼鏡的後眼部再発」タイプがある.しかし,検眼鏡的に後眼部に炎症所見がみられず「前眼部再発のみ」と判断された患者にも,複数の画像検査を用いることで無症候性脈絡膜炎の存在を確認できる場合が多々あり,実は「前眼部再発+無症候性後眼部再発」であることが多い1).無症候性脈絡膜炎の検出には,深部強調光干渉断層計(enhanceddepthimaging-opticalcoherencetomog-raphy:EDI-OCT)やsweptsource(SS)-OCT,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiog-raphy:IA),フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA),レーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)といった画像検査を組み合わせて行う,いわゆるマルチモーダルイメージングが有用である.「検眼鏡的後眼部再発」タイプでは,初発時と同様に漿液性網膜.離,視神経乳頭発赤・腫脹がみられ,OCTで著明な脈絡膜肥厚と脈絡膜皺襞を生じる.FAでは多発性点状蛍光漏出や蛍光貯留が検出され,IAでは低蛍光斑(hypo.uorescentdarkdots:HDDs)が多数検出される.つぎに,もっとも多いタイプである「前眼部再発+無症候性後眼部再発」では,検眼鏡的には眼底に異常は観察されないが,OCTで脈絡膜肥厚が検出される(図1).FAでは点状蛍光漏出や蛍光貯留は認められない.IAでHDDsが多発するが,初発の場合と違ってHDDsが眼底全体ではなく,ある区画に限られることが多い(図2).そのため,OCTでの脈絡膜肥厚やIAでのHDDsの所見が脈絡膜炎再発の有用な指標となる.筆者らの報告では,前眼部再発した原田病17眼のうち,IAで4眼(24%)はHDDs(-)であったが,13眼(76%)はHDDs(+)であった2).さらに,前眼部再発時とステロ*KeitaroHase&KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕長谷敬太郎:〒060-8638北海道札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(9)399b581μm図1OCTによる前眼部再発時の無症候性脈絡膜炎の検出a:前眼部再発前.脈絡膜厚()はC293Cμm.Cb:前眼部再発時.後眼部に検眼鏡的炎症所見はないが,脈絡膜厚()はC581Cμmと肥厚している.d図2IAによる前眼部再発時の無症候性脈絡膜炎の検出上段:前眼部再発前の眼底写真(Ca)とCIA(Cb)とCOCT(Cc).IAでは炎症を示唆する淡い低蛍光斑(HDDs)は目立たない.下段:前眼部再発時のCIA(Cd)とCOCT(Ce).再発前(上段)と比べてCIAで炎症を示唆する淡いCHDDsが多発しており,OCTでも脈絡膜厚()が厚くなっている.a図3マルチモーダルイメージングによる前眼部再発時の脈絡膜炎(脈絡膜腫瘤型)a:視神経周囲に脈絡膜萎縮がみられる.脈絡膜色素の脱失により夕焼け状の眼底となっており,色素の集簇もみられる.b:OCTでは,黄斑部の脈絡膜が隆起しており(脈絡膜腫瘤型),肉芽腫の存在を疑わせる.Cc,d:FA(Cc)では,黄斑周囲に点状の蛍光漏出を認め,その周囲に蛍光貯留を認める.IA(Cd)では,その部位は低蛍光となっている.Ce,f:LSFGでは,再発前(Ce)と比べて再発後(Cf)の血流速度が低下し,寒色系になっている.図4無症候性脈絡膜炎による遷延型脈絡膜萎縮の進行a:原田病発症からC7年.視神経乳頭周囲や黄斑部に脈絡膜萎縮があり,矯正視力はC0.7であった.Cb:原田病発症からC16年.視神経乳頭周囲や黄斑部含む後極の広範囲に脈絡膜萎縮が進行し,矯正視力はC0.2まで低下した.Cc,d:bの前眼部再発前.OCT(Cc)では黄斑部の脈絡膜萎縮があり,脈絡膜厚()は菲薄化している.IA(Cd)で脈絡膜の炎症を示唆する淡いCHDDsはあまりめだたない.濃いCHDDsは脈絡膜が萎縮し,完全に脈絡膜血流が途絶えてしまっている部位である.Ce,f:bの前眼部再発時.OCT(Ce)での脈絡膜厚()は再発前(Cc)と変化ないが,IA(Cf)で淡いCHDDsが多発しており,無症候性脈絡膜炎を示唆している.脈絡膜の完全な萎縮を示唆する濃いCHDDsの個数や大きさに変化はない.TenonCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:STTA)で対応することがある.CIII治療強化の方法1.ステロイドの再開または増量いったんステロイドを休薬している患者での再発であればステロイドの再導入を行うが,すでに遷延型となっている場合にはCPSL0.3Cmg/kg/日(15.25Cmg/日)内服から開始し漸減する.ステロイド内服中の再発であれば,PSL内服量の増量である.よく用いられている方法としてC2ステップアップがある1).たとえば,PSL10Cmg/日を内服していたのであれば,PSLの量をC2段階増量(12.5Cmg/日→C15Cmg/日)し,再度漸減する.ステロイドの副作用として,免疫抑制によるニューモシスチス肺炎,消化性潰瘍,骨粗鬆症があり,それぞれの疾患予防のため,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤,ヒスタミンCHC2受容体拮抗薬,ビスホスホネート製剤の内服を併用する.そのほかにも,血糖値の上昇,高血圧,高脂血症,不眠や精神症状などの副作用を生じることがあり,定期的な血液・尿検査や,他科との連携が必要である.C2.シクロスポリンもしくは腫瘍壊死因子阻害薬の併用原田病を含む非感染性ぶどう膜炎に対して保険適用として用いることができる薬剤には,免疫抑制薬のシクロスポリン(CyA)と腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfac-tor:TNF)阻害薬のCADAがあるが,ADAが保険適用となったC2016年以降はCADAを用いることが多くなってきたと思われる.CyAも原田病に対して有効な薬剤であり,ステロイドとの併用により夕焼け状眼底を抑制できるとの報告がある5).しかし,CyAは食事などの影響により吸収が変化しやすいこと,また,至適血中濃度の幅が狭いため治療薬物血中濃度のモニタリングを行う必要があり,定期的にトラフ値(内服直前の血中濃度)を測定し,その投与量を調節する必要があること,さらには副作用(腎機能障害,脂質異常症,高血圧など)が高頻度にみられることから,その使用はCADAにシフトしてきていると考えられる.ADAは完全ヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体で,投与方法は皮下注射となっている.原田病を含む非感染性ぶどう膜炎に対しては,初回C80Cmgを投与し,1週間後からC40CmgをC2週ごとに投与する.ADAは原田病に対して有効であり,ステロイド減量効果を有する.筆者らの検討では,PSL内服に加えてCADAを導入し,導入後C12カ月以上経過観察を行った遷延型原田病のC18例(うちC14例はCCyAからの切り替え)におけるCADAのステロイド減量効果を調べたところ,全例で減量可能で,平均C16.9CmgからC6.3Cmgへの減量(約C60%の減量)が可能であった6).ADAの使用における注意点は,感染防御反応に重要な因子であるCTNFCaを抑えるため,感染症に十分に気をつけることである.とくに,導入前には結核やCB型肝炎ウイルスに関するスクリーニング検査は必須であり,投与後も定期的なモニタリングが必要である.日本眼炎症学会から提示されている「非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針及び安全対策マニュアル(改訂第C2版,2019年版)」をぜひ参照していただきたい.C3.メトトレキサート内服治療メトトレキサート(MTX)内服治療は保険適用外の治療となるが,原田病を含む非感染性ぶどう膜炎に対してステロイドやCTNF阻害薬との併用薬として以前から用いられており,一定の効果が認められる7).1週間にC1度の内服(2またはC3分服)をC8Cmg/週から開始し,効果がみられ副作用がみられない場合は,徐々に増量する.最大C16Cmg/週まで増量可能であるが,腹部症状,倦怠感などがみられることが多く,その場合は減量またはC2日後に葉酸製剤で中和する.そのほか,汎血球減少,易感染性,肝機能障害,腎機能障害,間質性肺炎などの副作用に注意する必要がある.C4.後部トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射原田病は全身疾患であるため,初発時に後部CSTTAのみで完治をめざすことは期待できない.しかし,遷延型に移行した患者は,もはや完治が望めない状態と考えられる.そのため,ステロイドの内服量を減量する目的(13)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C403-