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前眼部OCT

2025年5月31日 土曜日

前眼部OCTAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography上野勇太*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が眼科領域に導入されて久しく,眼底撮影用OCTは緑内障診断における重要な補助ツールとして汎用されている.一方で,前眼部OCTも市販化されて以降は前房隅角の形態評価や定量解析,緑内障術後濾過胞の他覚的評価に使用されている.前眼部構造は細隙灯顕微鏡や隅角鏡を用いることである程度の観察が可能だが,OCTは赤外線を用いて断面検査を行うために混濁組織の描出に優れるというメリットがあり,従来の検査ではわからない情報を取得することができる.また,隅角鏡は接触式であり,医師自身が観察する必要があるが,前眼部OCTは非接触式でコメディカルが簡便に検査可能である点も大きな長所である.近年では緑内障手術が転換期を迎えており,従来から施行されていた線維柱帯切除術に加え,眼内アプローチをメインとした線維柱帯切開術や各種インプラント手術も汎用されている.これらの術式において術後の前眼部観察の重要性が増しており,とくにインプラント手術においては細隙灯顕微鏡や隅角鏡検査で把握しきれない情報もあるため,OCTを用いた術後評価が不可欠になっている.本稿では,前眼部OCTを用いた前眼部形態評価について,緑内障診療にどう活かすか,とくに緑内障の周術期にどのような使い方が有効であるのかを中心に解説する.I隅角構造の形態評価前眼部OCTで隅角を観察する最大のメリットは,非接触かつ光刺激を抑えた状態で隅角開大度を評価できる点であり,これについては「隅角検査」の項に譲る.本稿では線維柱帯やSchlemm管,虹彩根部など隅角近傍組織の定性的な観察方法について述べる.前眼部OCTは輝度の情報により組織の形態評価が可能である一方で,質的な組織の弁別は不得手である.線維柱帯は強膜や角膜などの充実性組織に隣接しており,OCT断面像から特定するのはむずかしいが,もしSch-lemm管が確認できれば,その内側の領域が線維柱帯であるため識別可能となる.理論的には,Schlemm管は内腔が房水であることからOCT断面では低輝度のスリット状の構造物として描出されるはずであるが,生体では眼圧があるために内腔が狭くなっており,全例で観察されるわけではなく,一部で限定的にそれらしい構造物を視認することがある(図1).なお,近年では隅角近傍,Schlemm管の外側にあるbandofextracanalicularlimballamina(BELL)という組織についての報告がなされた1).BELLは,病理学的に線維組織が密になっている箇所である.線維組織はその光学特性によって光干渉信号に変化が生じることが知られている.同部位はOCT断面でノイズとして認識され,流通している前眼部OCTでは自動的に処理される仕様となっており,臨床現場で認識することはあまりな*YutaUeno:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(29)529図1正常隅角の前眼部OCTa:正面視.b:側方視.CASIA2(トーメーコーポレーション)で撮影.異なるC2症例の隅角を提示した.症例によっては隅角にスリット状の低輝度構造()を認めることがあり,Schlemm管の可能性がある.Ca2.22[deg/μm]図2偏光感受型OCTで撮影した正常眼の隅角a:輝度画像.b:複屈折画像.CASIA2P(トーメーコーポレーション)で撮影.OCT輝度画像では隅角構造の詳細な弁別が不可能である.一方,複屈折画像においてCBELL()は周囲の強角膜より高複屈折(緑色部)に,その前房側に線維柱帯()が低複屈折(青色部)に描出される.0図3血管新生緑内障の症例a:細隙灯顕微鏡および隅角鏡検査,b:前眼部COCT(CASIA2で撮影).高眼圧により角膜浮腫があり,隅角鏡による観察が困難である.前眼部COCTでは隅角形態の評価が可能で,周辺虹彩前癒着(PAS)をきたしていることがわかりやすい().また,眼内レンズ(IOL)も描出されており,PASの影響で虹彩とCIOLの距離が長いことも確認できる.図4線維柱帯切開術後2カ月の毛様体脈絡膜.離の症例a:隅角鏡検査.Cb:前眼部COCT(CASIA2で撮影).術後C2カ月が経過して眼圧がC7CmmHgと低い症例.隅角鏡で一部隅角後退をきたしていることが確認可能であり,OCTでは同部位に前房-脈絡膜上腔の交通を認めた.III線維柱帯切除術後の濾過胞評価古典的な緑内障濾過手術である線維柱帯切除術では,良好な濾過胞が形成されることで眼圧下降が得られる.前眼部COCTは非接触式検査であるため,感染リスクなしで施行でき,開発当初から濾過胞評価に使用されている.赤外線で検査することにより濾過胞内部の情報を定性的に観察可能である.良好な濾過胞の条件として,内部が低輝度で大きな空間があり,微小.胞が多く存在することと報告されている6).つまり,房水を貯留するスペースが豊富で,微小.胞による拡散・吸水機能が良好であるために眼圧下降が得られるという考え方である.一方で,機能不全に陥った濾過胞は高さが低く扁平になっていることがあり,前眼部COCTでは線維柱帯切除部位や房水流出路の閉塞がみられる.また,ある程度の高さのある機能不全濾過胞において,OCTでは内部の微小.胞や水隙が消失して充実性の瘢痕組織で満たされていたり,内部水隙が高輝度の隔壁で覆われたエンキャプスレーションなどがみられたりするため,機能不全に陥った原因特定の一助として汎用される.追加治療としてはニードル法や観血的な濾過胞再建術があげられるが,その術式選択においてもCOCT所見を参照することが有用である.また,前述した偏光感受型COCTを用いることで濾過胞の瘢痕化を他覚的に評価することができる.正常な結膜は低複屈折である一方で,創傷治癒で生じる線維化組織は高複屈折であるため,偏光感受型COCTの画像上で両者のコントラストをつけることができる.既報では眼圧が上昇しはじめる前に濾過胞壁の線維化を検出できると報告されており,これまでより早い段階で濾過胞機能不全の徴候をとらえることが可能になると期待されている7).CIV緑内障インプラント手術後の評価緑内障手術は線維柱帯切除術がゴールドスタンダードであったが,多くのインプラント手術の登場によって潮流が変わりつつある.2025年C1月現在,国内で使用可能な緑内障手術デバイスはCiStentinject(グラウコス社),エクスプレス(アルコン社),プリザーフロマイクロシャント(参天製薬),Baeveldt緑内障インプラント(AMO社),Ahmed緑内障バルブ(ジャパンフォーカス)などがあげられる.デバイスの種類によって形状や眼圧下降の原理・効果が異なるが,共通しているのはいずれも結膜や強膜,隅角など混濁組織の下(後方)に固定するという点である.そのため術後診察において細隙灯顕微鏡や隅角鏡のみでは対応しきれない時代になっており,前眼部COCTを用いてデバイスの状態を正確に把握する必要があると思われる.とくに合併症を生じた患者においては追加治療を考えるうえで非常に有用な情報が得られるため,積極的に活用していくべき検査である.iStentは線維柱帯に刺入して房水流出抵抗を減じるデバイスであり,術後に隅角鏡検査を行うことでデバイスの位置や深さなどを観察できる.前眼部COCTを用いてもデバイスの描出が可能であり,もっとも有用と思われるのは迷入・埋没してしまった場合である8).隅角鏡検査では線維柱帯表面に顔を出していない限り観察できないため,デバイスが見当たらないと困惑することがあるが,OCTで位置を特定でき,前房・後房・硝子体腔への脱落など重大な合併症を生じていないことを確認できる.エクスプレスやプリザーフロマイクロシャントはトラベクレクトミーを代替する濾過手術デバイスであり,とくにプリザーフロは低侵襲濾過手術(minimallyCinva-siveblebsurgery:MIBS)として注目されている.強膜上から刺入して隅角を経由し,先端を前房に留置するデバイスであるため,前房内のデバイスの位置や角度,とくに角膜や虹彩との距離を評価するのが非常に大事で,この点において前眼部COCTは有用である.しかし,筆者がもっとも有用だと思うのは濾過胞の評価である.設計上,プリザーフロマイクロシャントのデバイス後端は角膜輪部から離れて固定されるため,術後濾過胞は円蓋部寄りにやや低くびまん性に形成される傾向にある(図5).従来の線維柱帯切除術では輪部付近に濾過胞が形成されていたので細隙灯顕微鏡を用いて高さや広がりの評価が可能であったが,プリザーフロマイクロシャント後の濾過胞は細隙灯顕微鏡で評価しづらいことが多く,OCTによる評価が適していると感じる.また,術532あたらしい眼科Vol.42,No.5,2025(32)図5プリザーフロマイクロシャント術後3カ月の症例a,b:細隙灯顕微鏡.c,d:前眼部COCT(CASIA2で撮影).チューブは前房内で角膜と虹彩の中間付近に固定されている().濾過胞は輪部に形成されておらず細隙灯顕微鏡ではわかりづらいが,OCTではチューブ後端から流出した房水が円蓋部に広がっている様子を確認することができる(*).図6プリザーフロマイクロシャントに挿入したナイロン糸の抜去前後の前眼部OCTa:前眼部写真.b:ナイロン糸抜去前のCOCT(CASIA2で撮影).c:抜去後のOCT.術後C2週の症例.内腔に挿入された黒ナイロン糸()はCOCTで高輝度に描出されている.抜去後には内腔が低輝度に変化した.図7ロングチューブシャントに硝子体線維が嵌頓した症例の前眼部OCTCASIA2で撮影.Ca:レーザー治療前,b:レーザー治療後.チューブ先端に嵌頓していた硝子体線維(Caの)に対してCYAGレーザーを施行した.施行後に硝子体線維はチューブの奥に移動し,強膜表面あたりのチューブ内にひっかかっていることを確認した(Cbの).本症例では硝子体切除術を行い,その際にチューブ内に鋭針を挿入し,嵌頓した硝子体線維を吸引・除去することに成功した.(文献C9より引用)

隅角検査

2025年5月31日 土曜日

隅角検査Gonioscopy高野史生*盛崇太朗*はじめに隅角検査は眼科診療における基本的な診察手技の一つとして位置づけられているものの,接触式検査であることもあり,日常診療でルーティンとして実施されるケースは少ないのが現状である.しかし,隅角鏡を用いた観察は診断・治療の観点からきわめて重要な意義をもっている.隅角鏡検査のおもな目的の一つは,緑内障の病型を分類し,開放隅角型か閉塞隅角型かを識別することである.とくに,閉塞隅角緑内障のリスクがある患者を特定することは早期介入の観点から不可欠である.さらに,隅角検査により色素沈着の有無や程度,新生血管,隅角後退や離開,隅角結節,前房内異物(たとえばシリコーンオイル)などを評価することで,続発緑内障の基礎疾患を推定することが可能になる.また,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)や隅角蓄膿が確認された場合に,炎症性疾患の診断を補助する情報としても役立つ(図1).緑内障診療においては,新規の緑内障患者や緑内障の疑いのあるすべての患者に対して隅角鏡検査を実施することが推奨される.さらに,緑内障術後のPASの再形成や,低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)デバイスの位置確認にも隅角鏡検査が活用される1).本稿では,とくに隅角鏡を用いた古典的な観察手法とその実際について詳述する.I隅角検査の種類1.直接隅角鏡検査直接隅角鏡検査は,隅角手術時に使用されるSwan-Jacobレンズ(図2)やHillゴニオプリズムなどの手術用プリズムレンズを用いる方法で,わが国ではおもに手術時に利用される.乳幼児の隅角評価において,手もち細隙灯顕微鏡と組み合わせて使用されることもある.これらのレンズは光線をレンズのカーブで適切に屈折させ,観察者の眼に届ける設計となっている.直接隅角鏡検査の利点は観察部位のオリエンテーションが容易なことである.一方で,被検者を仰臥位にさせる必要があるため,成人における日常診療での使用頻度は低い傾向にあると思われる.2.間接隅角鏡検査間接隅角鏡検査では,Volk,Posner,Sussman,Zeiss,Goldmann,Ocularレンズなどが広く用いられている.また,森ゴニオトミーレンズのように手術時に使用される全周観察用レンズも存在する.これらのレンズには内蔵された鏡があり,隅角からの光線を反射させて観察者の眼に届けるようになっている.外来診療では,4面鏡が患者の負担軽減の観点からもっとも一般的に用いられている(図3).一方,新生血管など詳細な観察が必要な場合には2面鏡が適している.眼裂が狭い患者には,Sussman四面鏡など接眼範囲の小さいレンズが有効で*FumioTakano&SotaroMori:神戸大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕高野史生:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学医学部眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(23)523図1隅角鏡での隅角写真テント状のCPASが見られる().図2Swan-Jacobレンズ隅角手術に用いる.図3OCULAR社の4面鏡図4静的隅角検査の写真図5動的隅角検査の写真毛様体帯は視認できない.図C4に圧迫を加え,毛様体帯までの確認が可能となっている.図6Sampaolesi線Sampaolesi線が見られる().図7小児緑内障患者の術中写真虹彩高位付着が見られる.表1Scheie分類Grade0すべての部位で毛様体帯まで観察できるCGradeI毛様体帯の一部が観察できないCGradeII毛様体帯が観察できない(強膜岬から後部線維柱帯網まで観察が可能)CGradeIII線維柱帯の後方半分が観察できないCGradeIVSchwalbe線が観察できない図8Sha.er分類に対応した前眼部OCTによる隅角評価図9隅角閉塞に関連する解剖学的異常の例a:プラトー虹彩形状を伴った狭隅角.b:ぶどう膜炎による膨隆虹彩.図10前眼部OCTによる全周の隅角評価図11サルコイドーシス患者の隅角鏡所見図12血管新生緑内障患者の隅角鏡所見隅角結節()が観察できる.隅角新生血管()が確認できる.C’C-

眼圧測定の基本と眼圧影響因子の新たな知見

2025年5月31日 土曜日

眼圧測定の基本と眼圧影響因子の新たな知見ProperMeasurementofandFactorsA.ectingIntraocularPressure寺内稜*はじめに緑内障の治療においては,眼圧下降が唯一の確立された治療法であり,眼圧に関する知識と測定技術の習得は眼科医にとって不可欠と考えられる.本稿では,前半で眼圧検査の基本を概説したうえで,後半では眼圧に影響を及ぼすさまざまな因子について最新の知見もあわせて紹介する.I眼圧検査の基本1.Goldmann圧平眼圧計眼科診療において眼圧検査は必須の検査の一つであり,Goldmann圧平眼圧計(図1)は眼圧計のなかでもっとも精度および再現性が高いと考えられている.そのため,精密な眼圧測定を要する患者にはGoldmann圧平眼圧計を用いるべきである.Goldmann圧平眼圧計はImbert-Fickの法則に基づいた眼圧計である(図2a).実際の眼球を考える際には,涙液による表面張力と角膜の抵抗力(眼球硬性)を考慮しなければならないが(図2b),Goldmann圧平眼圧計は圧平面積Aを15.09.mm2(直径3.06mm)に設定しており,この条件では表面張力と眼球硬性は同等で互いに打ち消し合い,結果的にImbert-Frickの法則をそのまま当てはめることができる.a.測定方法圧平プリズムを支持枠に装着し,目盛り0°または180°を支持枠の白線に合わせる.角膜乱視が3D以上あれば,弱主経線の角度を赤線に合わせる(図3).つぎに表面麻酔薬を点眼後,フルオレセインで眼表面を染色し,被験者には額帯と顎台にしっかりと顔を当てるよう指示する.Goldmann圧平眼圧計を細隙灯顕微鏡の前方にセットし,ドラムの目盛を1g(10mmHg)に合わせる.ブルーフィルターを使用し,スリット幅を全開にして約60°の角度から照明しながら,圧平プリズム先端を角膜に接触する直前まで近づけて観察を開始する.角膜に接触すると上下のフルオレセイン半円が観察できるので(図4),ジョイスティックで二つの半円が同じ大きさになるように位置を調整し,二つの半円の内縁が接触するまでドラムを回す.最後に圧平プリズム先端を角膜から離し,測定値と時間を記録する.測定は3回行い,誤差が±1.mmHg以内であるか確認する.b.測定時の注意点フルオレセインの半円幅は約0.2mmで,染色時は適量の生理食塩水または蒸留水を使用する.過度な染色では幅が太く,染色不足では幅が細くなる.半円が心拍に応じて動く場合は中央値を測定結果とする.ドラムを加圧方向に過剰に回したり繰り返し測定すると,マッサージ効果で眼圧が低く出やすい.Goldmann圧平眼圧計は中心角膜厚520μmでもっとも正確に測定できるが,角膜厚や剛性には個人差がある.中心角膜厚が薄いと眼圧は低く評価され,厚いと高く評価される.*RyoTerauchi:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕寺内稜:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(15)515図1Goldmann圧平眼圧計の外観abWssAiptW:角膜に加わる圧平力,A:角膜後面の圧平面積,P:眼球内圧,s:涙液による表面張力,b:角膜の抵抗力(眼球硬性).図2Imbert-Fickの法則(a)と角膜圧平時に作用する力(b)図3角膜乱視のある症例に対する圧平プリズムの設置角膜乱視がC3ジオプトリー以上ある場合は,弱主経線の角度を支持枠の赤線に合わせる.図はC60°に合わせた場合.abc図4Goldmann圧平眼圧計におけるフルオレセイン染色による半円の観察細隙灯顕微鏡のジョイスティックを操作して上下の二つの半円が同じ大きさになるように位置を調整し,二つの半円の内縁が接触するまでドラムを回転させる.フルオレセイン染色の多寡により半円の線幅が異なる.上の例ではCaが適切な線幅である.線の太いCbは染色が多いため,眼圧が高く測定される.細が細いCcは染色が少ないため,眼圧が低く測定される.図6iCareHOME2の外観図5非接触型眼圧計の外観図7Tono-PenAVIAの外観表1高眼圧をきたす代表的なリスク因子・高眼圧・緑内障の家族歴・糖尿病・高血圧・40歳以上・人種(African-AmericansCandHispanics)・強度近視・長期ステロイド使用・眼外傷・手術・落屑症候群・色素散乱症候群(文献C1より改変引用)飲酒の頻度飲まない飲酒既往者数日/週ほぼ毎日/週平均1日飲酒量飲まない0~2drink/日2~4drink/日>4drink/日累積飲酒量飲まない0~40drink.year40~60drink.year60~90drink.year>90drink.year0.81.01.21.41.6オッズ比1drink=純エタノール10g相当の飲酒.drink.year=平均1日飲酒量×飲酒年数.図8飲酒習慣と緑内障有病率の関係飲酒の頻度について「週に数日飲む」「ほぼ毎日飲む」群はオッズ比の有意な上昇を認めた.1日平均飲酒量ではC0.2Cdrink/day群でオッズ比が有意に上昇したが,それ以上の多量飲酒群では有意差はなかった.累積飲酒量に関してはC60Cdrink-yearsを超える群において有意なオッズ比上昇が示された.全体として,より高頻度または多量の飲酒を行う群で緑内障のリスクが高い傾向が示唆された.(文献C7より改変引用)眼圧,mmHg全体13.5<4013.340~4445~4913.150~5455~5960~6412.9.6512.712.5月火水木金土月火水木金土月火水木金土図9曜日ごとの眼圧値の比較曜日ごとの眼圧値を比較すると,とくにC65歳未満の男性において月曜日の眼圧が高かった.65歳以上では曜日ごとの眼圧に差はなかった.(文献C10より改変引用)-

後眼部のみかた

2025年5月31日 土曜日

後眼部のみかたHowtoExaminetheFundus内藤知子*はじめに緑内障の本態は緑内障性視神経症であり,その診断には視神経乳頭変化を含む眼底所見を正確に評価することが不可欠である.視神経乳頭篩状板部での軸索障害によって引き起こされる網膜神経節細胞死は,網膜神経線維の脱落を招き,視神経乳頭に特徴的な変化を生じさせる.このため,緑内障の早期発見には視神経乳頭の変化を正確に把握することが基本となる.また,緑内障の進行速度を予測するうえで重要な視神経乳頭出血などの所見も眼底検査により得られるため,経過観察においても眼底所見を常に正確に把握することが求められる.本稿では視神経乳頭の評価を中心に,診察時に留意すべき点を考察する.CI視神経乳頭の観察法緑内障の診断においては,眼底の直接観察をはじめ,視神経乳頭写真,眼底写真,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などを用いて総合的に判定する必要があるが,とくに大切なのが視神経乳頭を立体的に観察することである.視神経乳頭は約C140万本の神経線維,グリア,血管などから構成されており,網膜面上を走行した神経線維は乳頭縁で後方に屈曲し,乳頭中央に陥凹を形成して篩状板孔を通り中枢へ向かう.陥凹の縁は色調および形状に基づいて判断されるが,陥凹自体は立体的であり,網膜と平行に走行する神経線維が急激に後方へ向きを変える部分や,小血管の屈曲するラインを陥凹縁とするのが正しい.そのため,観察は三次元的に行うことが望ましく,可能であれば細隙灯顕微鏡とC90DあるいはC78Dのレンズを用いた観察が推奨される.これらの前置レンズを用いる細隙灯顕微鏡による観察は,拡大して詳細な所見を得ることができ,両眼視により立体的な構造を把握するのに有用である.しかし,固視がむずかしい患者や強いまぶしさを感じる患者では検査が困難な場合があり,その際には眼底写真を活用する.また,緑内障は長期間にわたり経過観察を行う疾患であるので,経時的な乳頭変化を評価する際には詳細な所見の記録が必須である.これには,写真撮影による記録を残すことが有用である.CII緑内障でみられる眼底変化緑内障性乳頭所見を見分けるための三つのポイントとして,①乳頭陥凹の拡大,②網膜神経線維層欠損(nerve.verlayerdefect:NFLD),③乳頭出血があげられる.これらの所見は多くの場合で並行して現れるが,極早期の患者では,いずれか一つのみが診断の手がかりとなることがある.そのため,所見を見逃さず,適切に評価できるよう注意を払いたい.C1.乳頭陥凹の拡大網膜神経線維の脱落により,乳頭辺縁(リム)は菲薄化し,それに伴い内側の陥凹が拡大する.また,篩状板*TomokoNaito:グレース眼科クリニック〔別刷請求先〕内藤知子:〒700-0821岡山県岡山市北区中山下C1-1-1グレースタワーⅢC2階グレース眼科クリニックC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(9)C509図1乳頭陥凹の拡大図2局所的陥凹上方では陥凹の下掘れ(Cundermining)がみられ,血管の走乳頭上耳側に突出した陥凹(notching)がみられ(),この部行が途切れてみえる().陥凹底にClaminarCdotsignもみ位から神経線維層欠損が広がっている().られる().図3乳頭径(DD)と乳頭中心から中心窩までの距離(DM)の比(DM/DD比)乳頭陥凹は大きいが,乳頭径(DD)()も大きく,全周でリムの厚みが保たれている.DM()/DD比は約C2.0で,大乳頭における生理的乳頭陥凹である(右図は左図乳頭部の拡大).図4神経線維層欠損(NFLD)上下耳側にCNFLDが広がっている().図5乳頭出血(DH)図6上方視神経部分低形成乳頭上耳側にCDHがみられる().鼻側にCdoubleringsignを認め(),鼻側には網膜神経線維層欠損が広がっている().

前眼部観察

2025年5月31日 土曜日

前眼部観察AnteriorSegmentExaminationUsingSlit-LampBiomicroscopy三重野洋喜*はじめに緑内障は視神経障害を特徴とする進行性の疾患であり,早期診断と適切な管理が求められる.代表的な緑内障の検査といえば眼圧検査や視野検査が想起されるが,細隙灯顕微鏡を用いた前眼部観察も診断や鑑別においてきわめて重要な役割を果たす.緑内障ガイドラインにおいて,緑内障の検査は問診,細隙灯顕微鏡検査,眼圧検査,隅角鏡検査,眼底検査,視野検査となっている1).緑内障は原発開放隅角緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,小児緑内障に分類されるが,細隙灯顕微鏡を用いた前眼部観察で異常がみられないのは基本的に原発開放隅角緑内障のみであり,その他の緑内障では前眼部観察によって特徴的な所見を認めることが多い.細隙灯顕微鏡検査では角結膜,前房,虹彩,水晶体を観察するが,補助レンズを用いることで隅角や眼底の評価も可能となる.隅角検査および眼底検査については別稿に譲り,本稿では細隙灯顕微鏡を用いた前眼部観察によって得られる成人緑内障の診断的所見について解説するとともに,見落としがちな続発緑内障について述べる.I緑内障でみられる前眼部の異常所見1.角膜角膜浮腫は急性緑内障発作などで眼圧が著明に上昇した場合にみられるが,虹彩角膜内皮(iridocornealendo-thelial:ICE)症候群などの角膜内皮障害を伴う続発緑内障では,眼圧が正常範囲内にあっても角膜浮腫を呈することがある.ICE症候群は後天的に角膜内皮細胞が異常増殖し,隅角や虹彩前面へ進展することにより,異常角膜内皮細胞とその産生する異常基底膜の収縮によって,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS),虹彩萎縮,瞳孔偏位,虹彩結節が生じる疾患群である.PASは房水流出障害を引き起こし,ICE症候群患者の46~82%が緑内障を発症すると報告されている2,3).ICE症候群は非遺伝性で片眼性に発症し,若年~中年の女性に多く,臨床的特徴によりChandler症候群,progressiveessentialirisatrophy,Cogan-Reese症候群の三つに分類される.a.Chandler症候群Chandler症候群は角膜浮腫を主体とする亜型である(図1).特徴的な所見として,角膜内皮がhammeredsilverとよばれる特異的な反射像を示す.これは異常増殖した角膜内皮細胞によるものである.Chandler症候群では角膜浮腫に伴い視力低下を自覚することが多いが,虹彩異常は比較的軽度であり,進行した患者でない限り顕著な瞳孔偏位や虹彩穿孔はみられない.PASも他のICE症候群亜型と比較して軽度なことが多いが,進行すると房水流出障害をきたして眼圧が上昇する.初期には正常眼圧を示すことも多く,眼圧上昇の有無に注意が必要である.b.ProgressiveessentialirisatrophyProgressiveessentialirisatrophyはICE症候群のな*HirokiMieno:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(3)503図1Chandler症候群の前眼部写真図2Progressiveessentialirisatrophyの前眼部写真図3Cogan-Reese症候群の前眼部写真Grade0Grade2Grade4図4VanHerick法による前房深度の評価図5血管新生緑内障でみられる虹彩ルベオーシス図6落屑緑内障でみられる落屑物質の瞳孔縁への沈着図7落屑緑内障でみられる落屑物質の水晶体前面への沈着図8サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎でみられるコインリージョン表1原因ウイルスによる前眼部所見の違い単純ヘルペスウイルス(HSV)水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)サイトメガロウイルス(CMV)好発年齢50歳未満60歳以上急性型:3C0歳以上慢性型:5C0歳以上性別男女ともに発症男女ともに発症男性に多い発症様式急性・再発性急性・再発性急性(Posner-Schlossman症候群様)慢性(Fucks虹彩異色性虹彩毛様体炎様)眼圧急性の高眼圧急性の高眼圧非常に高い(30~5C0CmmHg以上)前房炎症軽度~中等度の炎症中等度の炎症軽度の炎症角膜病変樹枝状潰瘍,円板状角膜炎偽樹枝状潰瘍,びまん性角膜浮腫角膜内皮炎,角膜浮腫角膜内皮後面沈着物(KPs)Arltの三角形内の小~中サイズ,色素沈着ありArlt三角内の小~中サイズ,色素沈着あり中型~小型,白色または灰色,散在性またはコインリージョン虹彩萎縮虹彩間質萎縮螺旋状萎縮虹彩実質萎縮瞳孔異常偏心性散瞳,後癒着あり偏心性散瞳,後癒着あり瞳孔偏位なし,異色症あり皮膚症状眼瞼ヘルペス,水疱皮膚帯状疱疹(VC1領域が多い)なし緑内障のリスク中等度(慢性型で高リスク)高リスク高リスクHSV:単純ヘルペスウイルス,VZV:水痘帯状疱疹ウイルス,CMV:サイトメガロウイルス.表2Keraticprecipitates(KPs)とKrukenberg’sspindleの違いKeraticprecipitates(KPs)CKrukenberg’sspindle成因炎症(ぶどう膜炎,角膜炎)色素散布症候群,色素性緑内障構成物炎症細胞,組織片色素顆粒形状点状,豚脂様,大型(大きく豚脂状なら肉芽種性,小さく散在性なら非肉芽腫性の可能性が高い)垂直方向の紡錘状位置角膜内皮の下方(Arltの三角形)角膜内皮中央部色調白色,灰色(古くなると色素沈着する場合あり)黒色または茶色経過急性または慢性(原因疾患により異なる)慢性(非炎症性)臨床的意義急性または慢性の炎症性疾患を示唆色素散布症候群や色素性緑内障を示唆図9色素緑内障でみられる虹彩の後方弯曲

序説:緑内障の検査と診断

2025年5月31日 土曜日

緑内障の検査と診断GlaucomaTestingandDiagnosis齋藤瞳*中野匡**緑内障は,視神経が不可逆的に損傷し,進行性の視野障害を引き起こす疾患である.日本では成人の中途失明原因の第一位であり,高齢化や近視化の進展とともにその有病率は増加すると予測されているため,早期診断と適切な管理が視機能の維持に不可欠である.緑内障の診断には,前眼部検査,眼底検査,眼圧検査,隅角検査,視野検査が必須である.従来より行われている検査方法に加えて,近年では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)をはじめとする非侵襲的な画像診断技術・画像解析技術を活用した構造評価や,特殊な視野検査を活用した機能評価が重要な役割を果たしており,早期診断の精度を飛躍的に向上させている.日本人の緑内障の8割は開放隅角緑内障であるため,前眼部検査や隅角検査は忙しい外来ではおろそかになりがちである.しかし,角膜,虹彩,水晶体に異常がある特殊な緑内障やぶどう膜炎に続発する緑内障もあるため,細隙灯顕微鏡を用いた前眼部検査や隅角検査のコツをつかむことは非常に重要である.また,閉塞隅角緑内障は早期発見・予防治療をすることによって重篤な視機能低下を回避できる疾患であるため,前房深度や隅角鏡による隅角開大度の評価をマスターすることは必須である.さらに,近年は前眼部OCTを用いて隅角開大度を定量的かつ記録可能な方法で検査することも可能となっている.前眼部OCTでは緑内障術後の線維柱帯や濾過胞の状態観察も可能であるため,今後はさらに応用範囲が広がることが期待されている.Goldmann圧平眼圧計による眼圧検査は緑内障のもっとも基本的な検査の一つであるが,瞼裂が狭かったり,眼瞼皮膚の伸展性が悪かったりと検査が容易でない患者も多く,検査方法やコツをしっかりとつかんでおくことが不可欠である.眼圧は緑内障だけでなく,血圧,血糖値,生活習慣や測定日時などにも影響を受けることが近年のビッグデータの解析を通して報告されている.このような眼圧にかかわる因子を把握しておくことは,外来患者の眼圧変動の原因をつきとめる助けとなる.後眼部の評価については,OCTが普及した今でも検眼鏡的眼底検査がゴールドスタンダードであることは変わらない.立体的に観察して乳頭陥凹拡大,網膜神経線維層欠損,乳頭出血などの重要な所見を見落とさないようにすることが緑内障診断の基本である.また,緑内障とまぎらわしい視神経乳頭低形成や頭蓋内疾患による視神経乳頭変化も,特徴的な所見を把握しておくと検眼鏡的検査でも診断可*HitomiSaito:東京大学医学部眼科学教室**TadashiNakano:東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)501

白内障手術中の水晶体落下に対してCENTURION を使用 したまま硝子体腔灌流下で超音波乳化吸引術を行った1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):489.492,2025c白内障手術中の水晶体落下に対してCENTURIONを使用したまま硝子体腔灌流下で超音波乳化吸引術を行った1例植田壮胤*1國見洋光*2清水裕介*1南雲美希*1奥山翔*1林俊介*1秦未稀*1常吉由佳里*1岡本知大*1細田進悟*1*1国立病院機構埼玉病院眼科*2慶應義塾大学病院眼科CACaseofPhacoemulsi.cationandAspirationunderVitreousIrrigationforLensDropMasatsuguUeda1),HiromitsuKunimi2),YusukeShimizu1),MikiNagumo1),ShoOkuyama1),ShunsukeHayashi1),MikiHata1),YukariTsuneyoshi1),TomohiroOkamoto1)andShingoHosoda1)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationSaitamaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospitalC目的:白内障手術中の水晶体核落下への対処法として,従来の術式では切開創拡大や煩雑な操作が必要であり,頻用される白内障手術装置(CENTURION)を用いた報告は少ない.そこで,新たにCCENTURIONを用いた硝子体腔灌流下超音波乳化吸引術(VI-PEA)を施行したので報告する.症例:CENTURIONで白内障手術中に後.破損により水晶体核落下を認めたC63歳,女性.三方活栓付きハンドピースと灌流ポートを用い,水流を利用して落下した核片を吸引口に誘導し,核片を処理した.術中の眼圧は安定し,網膜損傷もなく手術を終えた.結論:術後の視力は良好で,重大な合併症もなく,VI-PEAが迅速かつ低侵襲な術式である可能性が示唆された.CPurpose:Incataractsurgery,anenlargedincisionandtroublesomeproceduresareusuallyrequiredforlensdrops,CandCthereChaveCbeenCfewCreportsConCtheCuseCofCcommonlyCutilizedCcataractCsurgeryCdevices,CsuchCasCtheCCENTURIONCVisionSystem(Alcon,Inc.)C,CinCsuchCcases.CHerein,CweCreportCtheCsurgicalCoutcomeCinCaClensCdropCcaseCinCwhichCVitreousCCavityCInfused-Phacoemulsi.cationCandAspiration(VI-PEA)C,CaCvitreousCcavity-infusedCphacoemulsi.cationCaspirationCtechniqueCthatCweCdevelopedCtoCovercomeCsuchCdi.culties,CwasCused.CCase:ThisCstudyinvolveda63-year-oldfemalepatientinwhomalensnucleusdropoccurredduetoposteriorcapsulerup-tureduringcataractsurgerywiththeCENTURIONVisionSystem.Usingahandpiecewithathree-waystopcockandCinfusionCport,C.uidC.owCguidedCnucleusCfragmentsCtoCtheCaspirationCportCforCremoval.CIntraocularCpressureCremainedstableduringsurgery,andnoretinaldamageoccurred.Conclusion:Postoperativevisionwasgoodwithnosigni.cantcomplications,suggestingthatVI-PEAcouldbeaquickandminimallyinvasivesurgicaltechnique.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(4):489.492,C2025〕Keywords:硝子体腔灌流下超音波乳化吸引術,水晶体核落下,後.破損.vitreouscavityinfused-phacoe-mulsi.cationandaspiration(VI-PEA),lensnucleusdrop,posteriorcapsulerupture.I背景白内障手術において,後.破損やCZinn小帯断裂などによる水晶体核落下は一定の確率(0.074%)で発生する1).そのような水晶体核落下に対して,これまで切開創を拡大し輪匙を用いて核娩出を行う方法2)や液体パーフルオロカーボン(liquidCper.uorocarbon:PFCL),鑷子,眼内ジアテルミーなどを用いて前房内に核を持ち上げ,超音波乳化吸引を行う方法(既報のCKebabTechnique)C3.5)がとられてきた.しかし,前者では切開創を拡大しなければならないこと,後者では手技が煩雑であり,超音波乳化吸引で生じる細かい核片の処理に時間がかかってしまうことが難点である.加えて,基本的に既報は硝子体手術装置(Constellation)にて白内障手術を行う際の術式として報告されており,昨今頻用されてい〔別刷請求先〕植田壮胤:〒160-0016東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室医局Reprintrequests:MasatsuguUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospital,35,Shinanomachi,Shinjyuku-ku,Tokyo160-0016,JAPANCる白内障手術装置(CENTURION)については言及されていない.そこで,筆者らはCCENTURIONのみを用いて,迅速かつ低侵襲な手術が期待できる硝子体腔灌流下超音波乳化吸引術(vitreousCcavityinfused-PEA:VI-PEA)を施行したので報告する.CII症例患者はC63歳,女性.右眼白内障に対し手術目的で当院へ紹介受診となった.既往は高血圧のみで,眼疾患の既往はない.初診時,右眼に皮質白内障および核白内障(核硬化度CNS2)を認めた.他に,特記すべき所見は認められなかった.右眼の矯正視力はC0.1,レフ値はCsph.7.25(cyl.2.25Ax15°であり,術後の狙い度数はC0Dとした(表1).術中Cdivideandconquerにて核分割を行っていたが,核の第C2分割目で後.破損を確認し,1/8核片の眼底への落下を認めた.CIII術式術前麻酔は,2%エピネフリン入りキシロカイン点眼および同CTenon.下麻酔を使用した.CENTURIONにハンドピース(インフィニティCU/Sハンドピース,Alcon社)を接続し,ハンドピースにはC0.9Cmmマイクロチップ(Alcon社)を取り付け,0.9Cmmマイクロスリーブ(Alcon社)を装着した.3時,9時の位置に角膜穿刺,12時からC1時の位置にC2.8Cmm経強角膜一面切開を行い,超音波乳化吸引術を施行した.後.破損を認めたのち,眼圧の低下および水晶体核の落下を防止するため,ヒアルロン酸C0.85眼粘弾剤C1%を前房内に注入した.その後,トロカールカニューラ(ディスポエッカード氏C23CGカニューレシステムツーステップ,DORC社)を用いてC3ポートを作製し,灌流チューブをハンドピースからポートへ付け替えた.ウルトラビットハイスピードビトレクトミープローブ(Alcon社)とキセノンブライトスター光源装置(DORC社)に接続したディスポイルミネータ(DORC社)を準備し,広角眼底システムを用いて周辺まで硝子体切除を行った.硝子体切除時の設定は,カットレート4,000Ccpm,灌流圧C38CmmHg,最大吸引圧C350CmmHg,最大吸引流量C20Cml/分とした.その後,灌流液が逆流しないよう灌流接続口に三方活栓をつけたハンドピース(図1)を用いて,前房内に残存している核片に対し超音波乳化吸引を行った(図2).この際,灌流ポートからハンドピースへ向かって水流が生まれており,落下することなく核片を処理することができた.次に,落下した核片に対して広角眼底システム下にて超音波乳化吸引を行ったが,灌流ポートを動かし前述の水流を調整することで核片がハンドピースの吸引口へ移動してきた(図3).KebabCtech-niqueなどでは破砕された細かい核片が再び網膜上へ落下し表1術前データ年齢性別左右視力眼圧(mmHg)他覚的屈折度数(D)角膜曲率半径(mm,D)63歳女性右眼C0.1C18.4Csph.7.25(cyl.2.25CAx15°CR1C43.00CR2C44.00CC.1.00CAx27°図1ハンドピース,ポートの準備3ポートを作製したのち,灌流チューブをハンドピースからポートへ付け替えることにより,硝子体腔へ還流が生まれる.ただし,そのままではCVI-PEA施行時にハンドピースの灌流接続口より灌流液が逆流してしまうため,三方活栓を灌流接続口へ取り付けロックする.図2前房内でのVI-PEA前房内に残存している核片に対し超音波乳化吸引を行う.この際,灌流ポートからハンドピースへ向かって水流が生まれており,核片の落下を防いでいる.図3硝子体腔でのVI-PEA落下した核片に対して広角眼底システム下にて超音波乳化吸引を行う.灌流ポートを動かし水流を調整することで核片がハンドピースの吸引口へ移動し,超音波乳化吸引を効率よく行える.Cabc図4Kebabテクニック概略図眼内ジアテルミーにて焼き付けることで水晶体核を眼底より持ち上げ,超音波乳化吸引を行う.しかし,破砕された細かい核片が再び網膜上へ落下してしまうことが多い.Cabc図5VI-PEA概略図灌流ポートからの水流を用いて水晶体核を眼底より押し上げ,超音波乳化吸引を行う.硝子体腔から前房へ向けて水流があるため,破砕された細かい核片が落下することなく吸引口へ近づいてくる.表2術後データ術後視力眼圧(mmHg,NT)他覚的屈折度数(D)角膜曲率半径(mm,D)1週間後C1.2C16.0Csph.1.75(cyl.2.75CAx19°CR1C43.50CR2C43.75CC.0.25CAx71°1カ月後C1.2C22.4Csph.1.00(cyl.1.50CAx30°CR1C43.50CR2C44.25CC.0.75CAx14°3カ月後C1.2C15.3Csph.0.75(cyl.1.00CAx33°CR1C43.25CR2C43.75CC.0.50CAx21°Cてしまうことがあったが(図4),本法では水流があるため落下することなく吸引口へ近づいてきた(図5).なお,三方活栓で灌流液の逆流を防いでいるため,術中眼圧は安定しており眼球が虚脱することはなかった.そして,核片の処理後,前.円形切開が保たれていたため,眼内レンズ(NX-70S,参天製薬)のハプティクスを毛様溝へ挿入し,レンズを.内に固定した.最後に,再度眼底を観察して網膜.離や水晶体核の残存がないことを確認し,ポートを抜去,術終了とした.CIV結果術後結果に関しては以下の通りである(表2).術後矯正視力は,1週間後,1カ月後,3カ月後ともに変わらずC1.2であった.術後レフ値は,1週間後.3カ月後にかけて徐々に近視および乱視の改善を認めた.術後の重大な合併症は認めなかった.CV考按本法を論じる前提として,外光源,眼底観察システム,23CGカニューレシステムを用いれば,CENTURIONで硝子体茎顕微鏡下離断術を行うことが可能であるという点があげられる.白内障手術にCCENTURIONを用いている施設は多く,上記のデバイスさえ用意しておけば硝子体手術用のConstellationなどがなくても本法を施行可能である.本法の利点としては,前述のように核片が硝子体腔灌流に乗りハンドピースの吸引口へ集まるため,硝子体腔内操作が最小限で済み,落下した核片を硝子体カッターで処理する際の網膜損傷のリスクを低減できる.一方,kebabCtech-nique5)やフラグマトームなどの超音波乳化吸引を行う方法では,超音波により飛散した細かい核片が再び後極へ落下してしまう.この対策として,PFCLを用いて虹彩面近くまで水晶体を挙上させる方法3,4)がある.たしかに,PFCLを用いれば核片の後極への落下を防ぐことができ,本法と同様に網膜損傷のリスクを低減できるが,硝子体手術を行っている施設でなければCPFCLを即座に準備できず,使用経験も少ないために扱いに難渋する可能性が高い.加えて,コスト面も無視できない要因となる.また,本法では超音波チップとスリーブの間に灌流液が保持されており,ハンドピースの三方活栓を少し開けば水流を生み出せるため,従来のフラグマトームのような創口熱傷のリスクも低い.そして,既存のハンドピースで核処理が可能なため切開創拡大が不要で,拡大による惹起乱視を最小限に抑制することができる2,6).しかし,核硬化が強かったり巨大な核片が落下したりしたケースでは,灌流で舞った核片が網膜に接触した際に網膜障害が起こる可能性は否定できず,今後検討していかなければならない問題である.また,硝子体切除を行うことが前提であるため,硝子体手術に慣れた術者でなければ施行はむずかしい.このような本法の特徴を踏まえると,本法は硝子体手術に慣れた術者がCCENTURIONを用いて白内障手術を行った際に,核硬化の強くない水晶体核の落下が生じた場合に有用であると考える.CVI結論白内障手術中の水晶体落下に対しCVI-PEAを用いることで,最小限の硝子体腔内操作で,CENTURION使用下においても迅速かつ低侵襲に処理を行うことが期待できる.文献1)LundstromCM,CDickmanCM,CHenryCYCetal:RiskCfactorsCforCdroppedCnucleusCinCcataractCsurgeryCasCre.ectedCbyCtheCEuropeanCregistryCofCqualityCoutcomesCforCcataractCandCrefractiveCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC46:287-292,C20202)YiQY,HuangJ,ChenNetal:Managingdislocatedhardlensnuclei:23-gaugeCvitrectomyCandClensCextractionCviaCaCcorneoscleralClimbalCincisionCversusC23-gaugeCvitrecto-myandphacofragmentation.JCataractRefractSurgC45:C451-456,C20193)JangCHD,CLeeCSJ,CParkJM:Phacoemulsi.cationCwithCper.uorocarbonliquidusinga23-gaugetransconjunctivalsuturelessCvitrectomyCforCtheCmanagementCofCdislocatedCcrystallineClenses.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:1267-1272,C20134)WatanabeCA,CGekkaCT,CTsuneokaH:TreatmentCofCaCdislo-catedClensCbyCtranscornealCvitrectomyCandCbimanualCphacoemulsi.cation.CClinCOphthalmolC18:1539-1542,C20145)AsoH,YokotaH,HanazakiHetal:Thekebabtechniqueusesabipolarpenciltoretrieveadroppednucleusofthelensviaasmallincision.SciRepC11:7897,C20216)SandersCDR,CGillsCJP,CMartinRG:WhenCkeratometricCmeasurementsCdoCnotCaccuratelyCre.ectCcornealCtopogra-phy.JCataractRefractSurgC19:131-135,C1993

Relentless Placoid Chorioretinitis のマルチモーダル イメージングの有用性

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):483.488,2025cRelentlessPlacoidChorioretinitisのマルチモーダルイメージングの有用性我謝朱莉寺尾信宏大城綾乃古泉英貴琉球大学大学院医学研究科眼科学教室CTheUtilityofMultimodalImaginginaCaseofRelentlessPlacoidChorioretinitisAkariGaja,NobuhiroTerao,AyanoOshiroandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:Relentlessplacoidchorioretinitis(RPC)は多数の斑状病巣を広範囲に生じ,再発を長期に繰り返す疾患である.今回,RPCの臨床経過をマルチモーダルイメージングにより評価した.症例:17歳,女性.視力は右眼(1.0),左眼(1.2).両眼に後極から周辺部へ多数の色素を伴う斑状の瘢痕病変と,活動性病変を示唆する黄白色滲出斑を認めた.初診時よりC4カ月後,右眼の黄斑部および周辺部に複数の黄白色滲出斑の再発を認め,視力は右眼(0.05)に低下した.中心窩の黄白色滲出斑は,光干渉断層計(OCT)では網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚を,光干渉断層血管撮影(OCTA)では脈絡膜毛細血管板の灌流不全を,マイクロペリメータ微小視野計では網膜感度低下を認めた.周辺部の黄白色滲出斑は超広角走査レーザー検眼鏡を用いた眼底自発蛍光(FAF)では淡い過蛍光を呈した.結論:RPCの活動性評価には,黄斑部はOCT,OCTA,微小視野計,周辺部は広角CFAFが有用であった.CPurpose:Relentlessplacoidchorioretinitis(RPC)isadiseasethatpresentswithnumerousplacoidlesionsandrecurringClesionsCoverCaClong-termCperiod.CInCthisCstudy,CweCevaluatedCtheCclinicalCcourseCinCaCcaseCofCRPCCusingCmultimodalimaging.Case:A17-year-oldfemalepresentedwithRPC.FunduscopicexaminationshowednumerousplacoidClesionsCthatCappearedCtoCbeCmixedCwithCfreshCandColdCscarClesionsCinCbothCeyes.CFourCmonthsClater,CfreshClesionswithmultipleyellowish-whiteplacoidexudatesappearedfromtheposteriorpoletotheperiphery.Opticalcoherencetomography(OCT)examinationofthefreshlesionsinthefovearevealedretinalexudativechangesandchoroidalCthickening.COCTangiography(OCTA)revealedC.owCreductionCwithinCtheCchoriocapillaris,CandCmicrope-rimetryshowedreducedretinalsensitivity.Wide-anglefundusauto.uorescence(FAF)ofperipheralfreshlesionsshowedhyper.uorescence.Conclusion:MultimodalimagingsuchasOCT,OCTA,microperimetry,andwide-angleFAFweresuitableforassessingRPCstatus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(4):483.488,C2025〕Keywords:relentlessplacoidchorioretinitis,マルチモーダルイメージング,光干渉断層計,光干渉断層血管撮影,眼底自発蛍光.relentlessplacoidchorioretinitis,multimodalimaging,opticalcoherencetomography,opticalcoher-encetomographyangiography,auto.uorescence.CI緒言RelentlessCplacoidchorioretinitis(RPC)は,Jonesら1)によりC2000年に提唱された新しい疾患概念であり,急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteCposteriorCmultifocalCplacoidpigmentCepitheliopathy:APMPPE)や地図状脈絡膜炎と類似の臨床所見,蛍光眼底造影所見を呈する非感染性ぶどう膜炎である1,2).RPCは,前眼部に炎症を伴い,病変が黄斑部から周辺部まで広範囲に散在し,長期にわたり再発を繰り返す点1,2)でCAPMPPEや地図状脈絡膜炎とは異なる.RPCは,一般的には色素沈着を伴う瘢痕病変と新しい活動性の黄白色病変が共存することが多い.黄白色滲出斑はフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では蛍光の逆転現象を示し,病状の活動性を示唆する重要な所見〔別刷請求先〕我謝朱莉:〒901-2720沖縄県宜野湾市喜友名C1076琉球大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:AkariGaja,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyue,1076Kiyuna,Ginowan,Okinawa901-2720,JAPANCabcdef図1初診時の右眼各種画像所見a:カラー眼底写真では,黄斑部を中心に色素を伴う瘢痕病巣および黄白色滲出斑(C.)を認める.Cb,c:フルオレセイン蛍光造影(b:早期,Cc:後期)では,黄白色滲出斑は蛍光の逆転現象(C.)を認める.Cd:OCT(水平断)では,瘢痕病巣に一致する網膜外層障害を認める(C.).e:OCTA(脈絡膜毛細血管板:CC)では,黄白色滲出斑に一致する灌流不全を認める(C.).f:微小視野計では,瘢痕病巣に一致する網膜視感度の低下を認める.として知られているが,病変は黄斑部だけでなく,しばしば周辺部にも存在するため,再発や治療反応の評価を確実に行うためには広角の蛍光眼底造影検査が使用される.今回,筆者らはCRPCの黄斑部および周辺部の臨床経過について,マルチモーダルイメージングを用いて評価したので報告する.CII症例患者:17歳,女性.既往歴:特記事項なし.家族歴:父,父方の祖母:緑内障.現病歴:1週間継続する側頭部痛および左眼の眼痛,充血を主訴に近医を受診,虹彩炎および両眼底に多数の滲出斑を認め,ぶどう膜炎と診断され,0.1%ベタメタゾン点眼およびプレドニゾロン(prednisolone:PSL)30Cmg内服を開始され,1カ月後に琉球大学病院眼科へ精査加療目的に紹介となった.経過:初診時,視力は右眼(1.0),左眼(1.2),眼圧は右眼C23.0CmmHg,左眼C24.0CmmHg.前眼部に炎症所見は認めなかった.眼底には,黄斑部および周辺部に広範に多数の色素を伴う瘢痕病巣および黄白色滲出斑を認めた(図1a,2a,b).FAでは,黄白色滲出斑は蛍光の逆転現象を,瘢痕病変はCwindowdefectに伴う過蛍光所見を,色素沈着部は低蛍光所見を呈した(図1b,c).インドシアニングリーン蛍光造影では,早期から後期にかけ広範囲にわたる多数の低蛍光斑を認めた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,活動性を認める黄白色滲出斑は網膜下に高輝度の滲出性変化を,瘢痕病巣は網膜外層に欠損や不明瞭化を認めた(図1d).光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)では,活動性を認める黄白色滲出斑に一致して脈絡膜毛細血管板(choriocapillaris:CC)レベルでの灌流不全を認めた(図1e).微小視野計では,色素沈着の強い瘢痕萎縮病巣に一致して網膜感度の低下を認めた(図1f).超広角走査レーザー検眼鏡を用いた眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)では,後極から周辺部にかけて,ほとんどの病変は低蛍光を示していたが,黄斑部から周辺部の活動性病変を示す黄白色滲出斑は淡い過蛍光所見を呈した(図2c,d).APMPPEや地図状脈絡膜炎,RPCを鑑別に考え,前医でのステロイド治療はいったん中止として,再発がないか注意深く経過観察した.初診時よりC4カ月後,急激な右眼の視力低下を自覚して再診,視力は右眼(0.05)に低下し,右眼中心窩近傍(図3a)および周辺部に複数の黄白色滲出性病変のab図2初診時,走査型レーザーを用いた眼底撮影および眼底自発蛍光(FAF)a,b:広角眼底撮影(Ca:右眼,Cb:左眼)では,多数の色素を伴う斑状の瘢痕病巣と周辺部に黄白色滲出斑を認める(C.).c,d:広角CFAF(Cc:右眼,d:左眼)では,周辺部の活動性病変を示す黄白色滲出斑に一致して淡い過蛍光所見を示す(C.).出現を認めた(図4a).右眼の中心窩を含む活動性の黄白色滲出斑は,OCTでは著明な網膜滲出性変化および限局的な脈絡膜肥厚を認め(図3b),OCTAではCCCレベルでの灌流不全を認めた(図3c).微小視野計では,活動性病変に一致した右眼の網膜感度の低下を認めた(図3d).広角CFAFでは,右眼底周辺部に境界不鮮明な黄白色滲出斑(図4a)に一致した淡い過蛍光斑の出現を認めた(図4b).RPCの急性増悪と診断し,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射およびステロイドパルス療法としてメチルプレドニゾロンC1,000Cmg/日をC3日間行い,後療法としてCPSL60Cmgから開始し,漸減した.2カ月後,視力は右眼(1.0)に改善した.右眼の黄斑部の黄白色滲出斑は,色素を伴う境界明瞭な病巣となり(図5a),OCTでは右眼の網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚の改善を(図5b),OCTAでは右眼黄斑部CCCレベルでの灌流不全の改善を(図5c),微小視野計では右眼中心窩の網膜感度の改善を認めた(図5d).広角CFAFでは右眼底周辺部の淡い過蛍光斑は消失した.その後C3年間再発を認めず,視力は両眼(1.0)を維持している.現在は再発予防のため,PSL10Cmgおよびシクロスポリン150Cmgを内服し,マルチモーダルイメージングを用いて黄斑部および周辺部の再発の有無を定期的に評価している.III考按RPCは,おもに脈絡膜,網膜色素上皮に病変を生じるまれな両眼性の非感染ぶどう膜炎であり,APMPPEや地図状脈絡膜炎と非常に似た症状を呈することが知られている.近年,画像検査機器の性能向上により,RPCの特徴的な臨床的所見が明らかになってきた.蛍光眼底造影検査では活動性病変は初期で低蛍光,後期で過蛍光所見を示す,いわゆる蛍光の逆転現象が特徴である.OCTでは活動性病変は網膜層に高反射病巣を伴う漿液性網膜.離などを呈する3).これらの臨床的特徴はCAPMPPCE1,2)や地図状脈絡膜炎1,2)にも認められるため,診断に難渋することがある.鑑別にはCRPCの特徴的所見や臨床経過を把握することが重要であり,後極から赤道部を超えて病変が及ぶ2,4)こと,前眼部炎症2)を生じること,再発を長期に繰り返し,瘢痕病変と活動性病変が混在2)していること,50個以上の病変2,4)が観察されることなどの特徴があればCRPCと診断する.本症例では,初診時には前医で投与されていたステロイド点眼,内服の使用により前眼部炎症は明らかではなかったが,活動性病変以外にも両眼に後極から赤道部周辺まで多数の発症時期の異なる瘢痕性病変を認めていたことから,潜在性に病状が進行していた可acdb図3再発時の各種画像所見a:カラー眼底写真では,中心窩近傍に黄白色滲出性病変を認める().b:OCT(水平断)では,中心窩に網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚(.)を認める.c:OCTA(脈絡膜毛細血管板)では,黄白色滲出斑に一致する灌流不全を認める(.).d:微小視野計では,黄白色滲出斑に一致する網膜感度の低下を認める.Cab図4再発時の広角眼底撮影および広角FAFa:広角眼底撮影では,周辺部に新たな黄白色滲出性病変(.)を認める.b:広角CFAFでは,黄白色滲出斑に一致する淡い過蛍光斑(.)を認める.能性が高いと判断した.さらに当院初診時からC4カ月後には地図状脈絡膜炎などと鑑別に難渋したが,臨床的特徴,経黄斑部を含む活動性病変の再発を認めた.それ以降長期にわ過,その他の検査結果からCRPCと診断した.たり再発を繰り返しているわけではないため,APMPPEや初診時より,黄斑部はCOCT,OCTA,微小視野計,周辺cd図5治療後3カ月の各種画像所見a:カラー眼底写真では,中心窩近傍に認めた黄白色滲出斑は消失し,軽度の色素沈着を伴う瘢痕病巣を認める.Cb:OCT(水平断)では,網膜滲出性変化および脈絡膜肥厚の改善を認める.Cc:OCTA(CC)では,黄白色滲出斑部位における灌流不全の改善を認めた.d:微小視野計では,中心窩の網膜感度の改善を認めた.部はカラー広角眼底撮影,広角CFAFなどを使用し,マルチモーダルイメージングを用いて病状の活動性を評価した.CAmer3)らは,RPCの活動期にCOCTでの網膜下滲出性病変を示したと報告しており,本症例においても再燃時に黄斑部のCOCTにて網膜下滲出性変化や脈絡膜肥厚を認め,既報と同様であった.また,ステロイドパルス療法後には網膜下滲出性変化や脈絡膜肥厚は改善を認め,OCTでの評価は治療効果判定にも有用であった.CKlufasら5)は,APMPPEをはじめ,その類縁疾患であるRPCおよびCpersistentCplacoidCmaculopathyのCOCTAを評価し,CCにおける灌流不全をC96%に認めたと報告している.彼らはCCCの灌流不全が蛍光眼底造影での早期での低蛍光領域と密接に関連していたこと,さらに治療や経過観察によりCCCの灌流不全が改善されたことから,脈絡膜内層が病変の首座である可能性や,その二次的な変化として網膜外層障害が生じることを示唆した.本症例においても,活動性病変ではCCCレベルでの灌流不全が著明であった.ステロイド治療後,黄斑部のCCCレベルでの灌流不全は速やかに改善した.これらの結果から,非侵襲的に繰り返し評価が可能なCOCTAは,RPCにおける疾患の鑑別,黄斑部の経過観察,治療におけるモニタリングに非常に有用であると考えられた.微小視野計は眼底像を確認しながら,黄斑部における網膜感度を測定する機器である.本症例では再発時には活動性病変に一致した網膜感度の低下を認めた.治療後には網膜感度低下領域は速やかに改善し,それに伴い視力も改善した.これらは,カラー眼底写真などでは判断が困難な微細な病状の活動性変化を微小視野計が反映できる可能性を示唆する結果であり,OCTやCOCTAなどから得られた網膜構造と微小視野計で測定した網膜感度を眼底画像上で重ね合わせることにより,網膜構造と網膜機能の関係をより正確に解析できる可能性があり,治療効果判定にはとくに有用であると考える.広角CFAFでは,初診時および再発時に周辺部に活動性変化と考えられる淡い過蛍光斑が認められ,自覚症状が乏しい周辺部領域において,経過中に病状が変化していることが確認可能であった.CYehら6)は,FAFを用いて,後極からその周辺部に広範囲に多数の低蛍光所見を示すことをCRPCの特徴として報告している.本症例においても既報と同様に,周辺部に多数の低蛍光斑を認めていたが,蛍光眼底造影検査で漏出を認める活動性の黄白色滲出斑は,広角CFAFでは淡い過蛍光斑を呈しており,周辺部の活動性病変を評価するのに非常に有用である可能性が示された.RPCは長い活動期を有し,再発を繰り返すことにより徐々に視力低下をきたすと報告1,7)されている.しかし,RPCは明確な治療方針が確立しておらず4),ステロイド単独加療だけでは再発をきたす可能性が報告されている1).再発予防には免疫抑制薬4),TNF阻害薬8)などの併用が有効との報告がなされており,活動性評価に準じた治療方針の変更が必要になる.黄斑部評価は,長期視力予後を保つために重要であり,OCT,OCTA,微小視野計は病変の早期発見,治療効果判定にとくに有用であり,さらに長期的な視力予後改善につながる可能性がある.また,非侵襲検査である広角CFAFは,自覚症状を伴いにくい周辺部の新規病変を早期に発見することが可能であり,周辺部の再発所見に引き続き生じる可能性がある黄斑部病変の再発を予防できる可能性がある.APMPPE,地図状脈絡膜症,Vogt-小柳-原田病などのぶどう膜炎全般に活動性や治療評価にマルチモーダルイメージングの重要性が多く報告されているが,RPCの活動性,治療評価においてもマルチモーダルイメージグ,とくに黄斑部病変にはCOCT,OCTA,微小視野計を組み合わせて評価することは有用であり,今後視機能評価にも応用できる可能性がある.周辺部病変には広角CFAFによる評価が有用であり,とくに経過観察時においては,広範囲の活動性病変を非侵襲的に評価できるため,再発を頻繁に繰り返すCRPCでは,自覚症状の乏しい再発所見を見逃さずに確認できる有効な検査といえる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JonesCBE,CJampolCLM,CYannuzziCLACetal:Relentlessplacoidchorioretinitis:anewentityoranunusualvariantofserpiginouschorioretinitis?ArchOphthalmolC118:931-938,C20002)RavenML,RingeisenAL,YonekawaYetal:Multi-mod-alCimagingCandCanatomicCclassi.cationCofCtheCwhiteCdotCsyndromes.IntJRetinaVitreousC3:12,C20173)AmerCR,CFlorescuT:OpticalCcoherenceCtomographyCinCrelentlessCplacoidCchorioretinitis.CClinCExpCOphthalmolC36:388-390,C20084)UrakiCT,CNambaCK,CMizuuchiCKCetal:CyclosporineCandCprednisolonecombinationtherapyasapotentialtherapeu-ticCstrategyCforCrelentlessCplacoidCchorioretinitis.CAmJOphthalmolCaseRepC14:87-91,C20195)KlufasCMA,CPhasukkijwatanaCN,CIafeCNACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCrevealsCchoriocapil-larisC.owCreductionCinCplacoidCchorioretinitis.COphthalmolCRetinaC1:77-91,C20176)YehCS,CForooghianCF,CWongCWTCetal:FundusCauto.u-orescenceimagingofthewhitedotsyndromes.ArchOph-thalmolC128:46-56,C20107)ObradoviC.L,CJovanovi.S,CPetrovi.NCetal:RelentlessCplacoidCchorioretinitis-ACcaseCreport.CSrpCArhCCelokCLekC144:527-530,C20168)AsanoCS,CTanakaCR,CKawashimaCHCetal:RelentlessCplac-oidchorioretinitis:aCcaseCseriesCofCsuccessfulCtaperingCofCsystemicimmunosuppressantsachievedwithadalimumab.CaseRepOphthalmolC10:145-152,C2019***

水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後に周辺虹彩前癒着 および瞳孔偏位が生じた1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):478.482,2025c水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後に周辺虹彩前癒着および瞳孔偏位が生じた1例大久保浩平*1白鳥宙*2,3中元兼二*2久保田大紀*1武田彩佳*1高尾和弘*1加藤脩太郎*1天野文保*3岡本史樹*2五十嵐勉*1,3*1日本医科大学千葉北総病院眼科*2日本医科大学眼科*3神栖済生会病院眼科CACaseofPeripheralAnteriorIrisSynechiaandPupilDeformityafteriStentinjectWInsertionCombinedwithCataractSurgeryKoheiOkubo1),NakaShiratori2,3),KenjiNakamoto2),DaikiKubota1),AyakaTakeda1),KazuhiroTakao1),ShutaroKato1),FumiyasuAmano3),FumikiOkamoto2)andCTsutomuIgarashi1,3)1)NipponMedicalSchoolChibaHokusohHospital,2)NipponMedicalSchoolDepartmentofOpthalmology,3)SaiseikaiKamisuHospitalC目的:水晶体再建術併用眼内ドレーン(iStentinjectW.以下,iSw)挿入術後に,周辺虹彩前癒着(PAS)および瞳孔偏位を生じたが,保存的治療により改善したC1例を報告する.症例:74歳,女性.原発開放隅角緑内障.両眼の霧視および視力低下を自覚し,近医より白内障手術目的で紹介された.視力は右眼(0.6),左眼(0.4),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C13CmmHg.両眼にCiSw挿入術を施行した.右眼術後C4週,左眼術後C2週に両眼ともにCPASが生じ,iSwはCPASに埋没して確認できない状態であった.また,左眼はCiSw挿入方向に瞳孔が偏位していた.その後,ピロカルピン点眼と術後点眼の継続で,PASおよび瞳孔偏位は改善した.結論:iSw挿入術後のCPASおよび瞳孔偏位は,ピロカルピン点眼と術後点眼による保存的治療で改善することがある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCperipheralCanteriorsynechia(PAS)andCpupilCdeformityCafterCiStentCinjectCW(iSw)(GlaukosCorporation)implantationcombinedwithcataractsurgerythatimprovedwithconservativethera-py.Case:A74-year-oldfemalewithprimaryopen-angleglaucomawasreferredbyalocalclinicforcataractsur-geryCafterCexperiencingCbilateralCblurredCvisionCandCdecreasedCvisualacuity(VA).CInCherCrightCandCleftCeyes,Crespectively,CVAwas(0.6)and(0.4)andCintraocularCpressureCwasC15CmmHgCandC13CmmHg,CsoCbilateralCiSwCimplantationwasperformed.However,PASoccurredinbotheyesaftersurgeryandtheiSwwasembeddedinthePASCandCcouldCnotCbeCcon.rmed.CMoreover,CtheCleft-eyeCpupilCwasCdeviatedCtowardCtheCiSwCinsertionCdirection.CThereafter,PASandpupildeviationimprovedwithcontinuedpilocarpineeyedropsandpostoperativeeyedrops.Conclusion:PASCandCpupilCdeviationCafterCiSwCimplantationCcanCbeCimprovedCwithCconservativeCtreatmentCusingCpilocarpineeyedropsandpostoperativeeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(4):478.482,C2025〕Keywords:水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術,周辺虹彩前癒着,ピロカルピン,iStentCinjectW,瞳孔偏位.Cintraoculardraininsertioncombinedwithcataractsurgery,peripheralanterioririssynechia,pilocarpine,iStentin-jectW,pupildeformity.Cはじめにsurgery:MIGS)があげられる.従来,緑内障手術では線維緑内障は,日本における中途失明原因の第C1位であり1),柱帯切除術が主流であったが,近年,その低侵襲性および高眼圧下降が唯一確実な治療法である.その観血的治療法の一い安全性からわが国においてもCMIGSが施行される頻度がつとして,低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucoma増加している1).水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術であ〔別刷請求先〕大久保浩平:〒270-1694千葉県印西市鎌苅C1715日本医科大学千葉北総病院眼科Reprintrequests:KoheiOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChibaHokusohHospital.1715Kamagari,Inzai-Shi,Chiba,270-1694JAPANC478(88)るCiStentinjectW(以下,iSw)挿入術は,MIGSの一つに分類され,隅角鏡を用いて線維柱帯に二つのデバイスを挿入しCSchlemm管への房水流出を促進する目的で行われる術式である.iSw挿入術の適応は,隅角鏡観察でCSha.er分類Cgrade3以上の開放隅角で,周辺虹彩前癒着(peripheralanterioririssynechia:PAS)を認めないこと2),早期ないし中期の開放隅角緑内障患者で,白内障手術との併施でのみ施行できる.MIGSの中でもCiStentは,KahookCDualCBlade3)やマイクロフック・トラべクロトミー4)より前房出血などの合併症が少なく,安全性が高いと報告されている.今回,iSw挿入術施行後に,PASにより,著明な瞳孔偏位を生じたが,保存的治療により改善したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.現病歴:前医で緩徐に進行する原発開放隅角緑内障と診断され,ラタノプロストC0.005%点眼で治療されていたが,経過観察中に両眼の霧視および視力低下を自覚した.両眼の白内障と診断され,白内障手術目的で紹介となった.当院初診時所見:視力右C0.4(0.6C×sph+2.50D(cyl.1.50DCAx110°)左0.4(0.5C×sph+2.00D(cylC.0.50DCAx90°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C13CmmHgであった.中心角膜厚は右眼C497Cμm,左眼C460Cμm,両眼ともに中間透光体に未熟白内障があり,眼底には垂直陥凹乳頭径比C0.7の視神経乳頭陥凹拡大があった.隅角鏡検査では両眼ともにCSha.er分類Cgrade2.3,PASはなかったが,虹彩高位付着およびプラトー虹彩形態があった.術前の超音波CAモード法(UD8000トーメーコーポレーション)による眼軸長は右眼23.46mm,左眼C23.53mm,中心前房深度は,右眼C3.19mm,左眼C3.00Cmmであった.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.経過:両眼にCiSw挿入術を施行した.手術は両眼とも同一術者(T.I.)により施行された.水晶体再建術を施行後,iSw挿入術は,スワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(Ocular社)を用いて,線維柱帯を同定し鼻側にCiSwを2個挿入した.術中,iSwはいずれもC1回の操作で挿入でき,手術は問題なく終了した.手術後の一過性の眼圧上昇を予防するため,手術日のみ,夕食後にアセタゾラミドC250CmgC1錠,アスパラカリウムC600Cmg1錠を内服させた.術後点眼は,術翌日よりモキシフロキサシンC0.5%C4回,ブロムフェナクナトリウムC0.1%C2回,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%C4回,ピロカルピン塩酸塩C2%C4回を点眼させた.右眼は術翌日に凝血塊を伴う前房出血があったため,視力C0.6(n.c.)であったが,眼圧はC9CmmHgで,術後C1週には視力C0.4(1.0C×sph.0.75D(cyl.0.50DAx100°),眼圧はC10CmmHgと良好な経過であった(図1).左眼も術翌日に凝血塊を伴う少量の前房出血があり,視力(0.7C×sph+2.50D(cyl.1.50DAx110°),眼圧は11mmHg,術後1週には,視力C0.6(1.0C×sph.0.50D(cyl.0.50DCAx90°),眼圧11CmmHgであった.ただし,iSwのC1個はCPAS下に埋没して確認できず,瞳孔はCiSw挿入方向に偏位していた(図2).さらに,右眼術後C4週,左眼術後C2週に両眼ともに隅角にPAS(右眼はC2.4時,左眼はC7.10時)が生じ,左眼瞳孔はCiSw挿入側に偏位していた.iSwは,両眼とも完全に虹彩嵌頓し,確認できなかった.眼圧は右眼C13CmmHg,左眼14CmmHgであった(図3).右眼術後C5週,左眼術後C3週に,両眼のCPASはピロカルピン点眼を含む術後点眼の継続で改善し,右眼のCiSwはC2個とも確認でき,左眼はC1個のみ確認できるようになった(図4).眼圧は右眼C13CmmHg,左眼11CmmHgであった.右眼術後C16週,左眼術後C14週には,PASの改善に伴い,瞳孔偏位はほぼ治癒した(図5).CII考按今回の症例では,iSw挿入術後にCPASおよび瞳孔偏位が生じた.わが国では,iSw挿入術でCPASの形成はC1.3%の頻度で生じたとする報告4)はあるが,瞳孔偏位については筆者らが調べた限りでは報告はない.iSw挿入術によるCPAS形成の機序に関しては不明であるが,レーザー線維柱帯形成術5)および線維柱帯切開術(眼内法)6)などの主経路に作用する他の緑内障手術でも,PASが形成されることはよく知られている.谷原らは,線維柱帯切開術(眼外法)術後の隅角鏡所見を検討し,PASの発生機序として,房水流出量増加に伴い,周辺虹彩とトラベクロトームにより切開された線維柱帯の裂隙が接近すること,また術後炎症および前房出血の関与を指摘しているが,iSwのPASも同様の機序が関与している可能性がある.また,本症例の場合はCSha.er分類Cgrade2.3の軽度狭隅角眼で,虹彩高位付着およびプラトー虹彩形態もあったため,術前から周辺虹彩と線維柱帯の距離が近く,さらにCiSw挿入によりCSchlemm管への房水流出抵抗が減弱し,Schlemm管への房水流出量が増加したため,周辺虹彩が線維柱帯切開部に引き込まれて,PASが形成された可能性も考えられる.また,瞳孔偏位が左眼にあったが,これは丈が高いCPASの形成および虹彩嵌頓が原因と考えられる.そして,左眼のC7-9時方向にCPASが残存した.これは挿入されたCiSwへの流入によりCiSwに周辺虹彩がはずれないほど深く嵌頓してしまったためと考える.iSwの嵌頓を認めていたときでも眼圧が落ち着いていたのは,一時的なアセタゾラミド内服と継続使用したピロカルピン点眼の効果も考えられる.本症例は,術前両眼の眼圧は緑内障点眼治療中でC15図1右眼術後1週の前眼部および隅角鏡所見(鼻側)a:前眼部所見.b:隅角鏡所見(鼻側).凝血塊を伴う前房出血があったが,iSwはC2個とも確認できた.図2左眼術後1週の前眼部および隅角鏡所見(鼻側)a:前眼部所見.Cb:隅角鏡所見(鼻側).凝血塊を伴う少量の前房出血と瞳孔偏位があった.iSwのC1個はCPAS下に埋没して確認できなかった.図3右眼術後4週,左眼術後2週の隅角鏡所見(鼻側)a:右眼.Cb:左眼.両眼ともCiSw挿入部のCPASが悪化し(右眼はC2.4時,左眼はC7.10時),iSwは両眼ともPASに覆われていた.図4右眼術後5週,左眼術後3週の隅角鏡所見(鼻側)a:右眼.b:左眼.PASは改善し,iSwは右眼C2個,左眼C1個のみ(C→)確認できた.図5右眼術後16週,左眼術後14週の前眼部所見a:右眼.b:左眼.PASの改善に伴い,瞳孔偏位は改善した.mmHg前後と顕著に高くはなかったが,通院および点眼治療のアドヒアランスが不良であったため,緩徐に視野障害が進行していた.そのため,本症例は隅角開大度の点でCiSw挿入術の適応に懸念があったが,術後には隅角開大度が改善されることを見越してCiSw挿入術を施行した.しかし,この適応外使用が虹彩嵌頓,瞳孔偏位の原因になった可能性もあり,たとえ軽度な狭隅角眼と考えても,適応を拡大してはいけないと痛感した.本症例では,ピロカルピン2%点眼と通常の術後の消炎で,PASおよび瞳孔偏位は著明に改善した.その原因の一つとして,iSwが虹彩内に嵌頓したことで房水流出機能が低下し,iSwを介したCSchlemm管への房水流出量が減少したところに,ピロカルピンによる縮瞳作用により虹彩が整復した可能性が考えられる.iStentおよびCiSwが虹彩に嵌頓した場合,YAGレーザーでCPASを解除する方法7,8)もあるが,今回の症例ではCiSwが完全にCPAS下に埋没しており,また,眼圧上昇もなかったので,YAGレーザーは施行しなかった.今回,筆者らは,iSw挿入後に生じたCPASによる瞳孔偏位が保存的治療により改善したC1例を経験した.iSw挿入術では,PASや瞳孔偏位は頻度の少ない合併症ではあるが,比較的軽度の閉塞隅角であってもとくに虹彩高位付着あるいはプラトー虹彩を有する症例では,術後のCPASおよび瞳孔偏位に注意する必要がある.また,本症例から術後CPASや瞳孔偏位が生じたら,まずはピロカルピンを含む術後点眼を継続しながら注意深く経過観察すべきであると考える.これらの要旨は,第C34回日本緑内障学会で発表した.文献1)TanitoM:NationwideCanalysisCofCglaucomaCsurgeriesCinC.scalCyearsCofC2014CandC2020CinCJapan.CJCPersCMedC13:C1047,C20232)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌C124:441-443,C20203)IwasakiCK,CTakamuraCY,COriiCYCetal:PerformancesCofCglaucomaCoperationsCwithCKahookCDualCBladeCorCiStentCcombinedwithphacoemulsi.cationinJapaneseopenangleCglaucomapatients.IntJOphthalmolC13:941-945,C20204)TakayanagiY,IchiokaS,IshidaAetal:Fellow-eyecom-parisonbetweenphaco-microhookab-internotrabeculoto-myCandCphaco-iStentCtrabecularCmicro-bypassCstent.CJClinMedC10:2129,C20215)BaserEF,AkbulutD:Signi.cantperipheralanteriorsyn-echiaeCafterCrepeatCselect.veClaserCtrabeculoplasty.CCanJOphthalmolC50:e36-e38,C20156)谷原秀信,永田誠:トラベクロトミー術後の隅角所見とその意義1.基本パターン.臨眼C41:1334-1338,C19987)GuedesCRAP,CGravinaCDM,CLakeCJCCetal:IntermediateCresultsCofCiStentCorCiStentCinjectCimplantationCcombinedCwithcataractsurgeryinareal-worldsetting:alongitudi-nalCretrospectiveCstudy.COphthalmolCTherC8:87-100,C20198)塚本彩香,徳田直人,豊田泰大ほか:同一症例における白内障手術併用眼内ドレーン挿入術と内方線維柱帯切開術の術後早期成績について.あたらしい眼科C37:105-109,C2020C***

G 群Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis に よる感染性角膜炎の1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):473.477,2025cG群CStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisによる感染性角膜炎のC1例外山直樹*1岩崎琢也*1水口法生*1森洋斉*1子島良平*1園田忍*1野口ゆかり*2佐々木裕美*1石原誠都*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2(一般財団法人)阪大微生物病研究会CACaseofInfectiousKeratitisCausedbyGroupGStreptococcusdysgalactiaeCSubsp.EquisimilisCNaokiToyama1),TakuyaIwasaki1),NorioMizuguchi1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),ShinobuSonoda1),YukariNoguchi2),YumiSasaki2),MasatoIshihara1)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)TheResearchFoundationforMicrobialDiseasesofOsakaUniversityC緒言:細菌検査に質量分析(MALDI-TOFMS)が導入され,これまで同定が困難であった分離株が菌種名で報告できるようになった.症例:76歳,男性.植物を剪定中に左眼に異物感が生じ,翌日,疼痛のため来院した.細隙灯顕微鏡検査で角膜びらんと結膜充血・浮腫を認め,擦過検体の検鏡で連鎖状グラム陽性球菌を検出した.G群Cb溶血性レンサ球菌が分離され,MALDI-TOFMSによりCStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.Cequisimilis(SDSE)と同定した.分離株の薬剤感受性は良好で,レボフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼,およびオフロキサシン眼軟膏により治癒し,予後は良好であった.結論:G群CSDSE感染による高齢者の角膜炎のC1例を報告した.菌種同定が容易になったことにより,これまで菌種レベルで同定されていなかった眼科感染症の臨床像が解明されることを期待する.CPurpose:Relentlessplacoidchorioretinitis(RPC)isadiseasethatpresentswithnumerousplacoidlesionsandrecurringClesionsCoverCaClong-termCperiod.CInCthisCstudy,CweCevaluatedCtheCclinicalCcourseCinCaCcaseCofCRPCCusingCmultimodalimaging.Case:A17-year-oldfemalepresentedwithRPC.FunduscopicexaminationshowednumerousplacoidClesionsCthatCappearedCtoCbeCmixedCwithCfreshCandColdCscarClesionsCinCbothCeyes.CFourCmonthsClater,CfreshClesionswithmultipleyellowish-whiteplacoidexudatesappearedfromtheposteriorpoletotheperiphery.Opticalcoherencetomography(OCT)examinationofthefreshlesionsinthefovearevealedretinalexudativechangesandchoroidalthickening.OCTangiography(OCTA)revealed.owreductionwithinthechoriocapillaris,andmicrope-rimetryshowedreducedretinalsensitivity.Wide-anglefundusauto.uorescence(FAF)ofperipheralfreshlesionsshowedhyper.uorescence.Conclusion:MultimodalimagingsuchasOCT,OCTA,microperimetry,andwide-angleFAFweresuitableforassessingRPCstatus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(4):473.477,C2025〕Keywords:G群CStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.equisimilis,感染性角膜炎,MALDI-TOFCMS.GroupCGCS.Cdys-galactiaeCsubsp.Cequisimilis,CinfectiousCkeratitis,CMALDI-TOFCMS.Cはじめにb溶血をきたすレンサ球菌はCLance.eld分類のCA群,B群,C群,G群,L群に大別され,このうちCA群(groupAStrep-tococcus)とCB群(groupBStreptococcus)は日常臨床で重要視され,その他のCb溶血性レンサ球菌はあまり重要視されてなかった1).2010年代にマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix-assistedClaserCdesorp-tion/ionizationtimeof.ightmassspectrometry:MALDI-TOFMS)が細菌検査に導入され,細菌蛋白(分子量約C3,000.15,000,約C70.120種)のマススペクトルに基づく同定が容易にかつ迅速となり,分離株も菌種名で報告されることが多くなっている2).〔別刷請求先〕外山直樹:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:NaokiToyama,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(83)C473C図1左眼前眼部写真(左)とフルオレセイン染色(右)a,b:初診時.ほぼ円形の角膜びらんがフルオレセインで染まり,球結膜の充血と浮腫を伴い,前房蓄膿は認められなかった.Cc,d:治療開始C1週間後,角膜びらんは白濁し類円形となり,角膜浮腫は軽減しているが充血は残存していた.e,f:治療開始C3週間後,角膜びらん・球結膜充血は消失した.b溶血性レンサ球菌のCStreptococcusCdysgalactiaeはC1930年代からにウシ,ヒツジの乳腺炎より分離され,酪農業で問題となる菌種であった.一方,ヒトからも類似の菌種が分離され,動物由来をCS.dysgalactiaeCsubsp.Cdysgalactiae,ヒト由来をCS.dysgalactiaeCsubsp.Cequisimilis(SDSE)とすることがC1996年に提案された3).現在,SDSEはCLance.eldのC群とCG群,さらにCA群とCL群を含み,ヒトのみならず動物からも分離されている4).SDSEは咽頭,消化管,女性生殖器から分離され1),主としてヒト間で感染し,A群レンサ球菌感染症に類似した咽頭炎や蜂窩織炎,菌血症,化膿性関節炎,壊死性筋膜炎,毒素性ショック症候群などを引き起こす1,5).SDSEの眼感染症としては,菌血症に続発,内眼術後,眼外傷後の眼内炎が報告されているがC6.10),感染性角膜炎の報告はほとんどどない11).今回,基礎疾患のない高齢者の角膜病巣よりCSDSEを分離したC1例を経験したので報告する.CI症例患者はC76歳,男性.来院C1日前に剪定中に左眼に異物感が生じ,その後,痛みが出現し,宮田眼科病院を受診した.眼科既往歴に特記事項はなく,降圧薬による高血圧症治療中であり,糖尿病の罹患歴はなかった.初診時の視力は右眼0.6(1.2C×sph+2.50D(cyl.2.00DAx80°),左眼C0.2(n.c.)で,眼圧は右眼C15.4CmmHg,左眼C19.5CmmHgであった.スリットランプ検査では,左眼の角膜・結膜表面に異物はなく,角膜中央上方に大きさC2Cmm前後の角膜びらんが生じ,474あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025(84)結膜充血と浮腫を伴っていたが,前房蓄膿は認めなかった(図1a,b,図2a).びらんの擦過検鏡で連鎖状のグラム陽性球菌(GPC)を多数検出し(図3a),ファンギフローラ染色では真菌は確認されなかった.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼C1時間ごと,セフメノキシム(CMX)点眼C1時間ごと,オフロキサシン(OFLX)眼軟膏C2回/日を開始した.擦過検体よりCSDSEが分離された.分離株の抗菌薬感受性(表1)では使用薬剤に対して感性であったので,治療は継続した.治療開始C1週間後,眼痛は改善し,びらんも縮小し,LVFX点眼とCCMX点眼をC2時間ごとに減量した.2週間後,びらんはさらに縮小し(図1c,d),LVFXとCCMXの点眼C6回/日に減量した.治療開始C3週間後の前眼部所見ではびらんはほぼ消失し(図1e,f),視力は治療開始C3週後でC0.7(1.0C×sph+2.50D(cyl.2.00DAx90°)まで回復した.LVFX点眼4回/日,CMX点眼4回/日,OFLX眼軟膏C1回/日に減量した.治療開始後C5週後(図2b),LVFX点眼とCOFLX眼軟膏を中止した.その後,通院を自己中断され,その後の経過は不明である.CII分離株の細菌学的特徴角膜擦過検体はC5%ヒツジ血液加Ctripticasesoy寒天培地上にCb溶血を伴うコロニーを形成した(図3b).コロニーのCMALDICBiotyperMSP(Bruker)を用いた質量分析により分離株はCSDSEとスコアバリューがC2以上で一致した.また,Lance.eld凝集試験ではCG群と判定された.薬剤感受性検査(表1)ではトブラマイシンとイミペネム以外の種類の抗菌薬に感性を示した.CIII考按角膜びらんの擦過検体の塗抹検鏡でレンサ状CGPCを検出し,分離株はCb溶血をきたすコロニーを形成し,Lance.eld分類ではCG群,質量分析ではCSDSEと同定し,本症例はCG群CSDSE感染による角膜炎のC1例と判断した.感染性角膜炎で肺炎球菌以外のレンサ球菌が分離される割合は,台湾の1992.2001年の集計ではC3.6%,2007.2016年ではC3.2%であり12),菌種が同定されずにレンサ球菌属細菌として報告されている可能性がある.近年,SDSEの分離率が増加していることが報告されており,菌種同定が容易になったことに加えて,SDSEの浸淫率が増加していることも示唆される5).なお,ヒトに感染しCb溶血を示すCG群レンサ球菌にはCStrep-tococcusanginosusもあるため,G群レンサ球菌の報告ではその区別に留意する必要がある4).本症例では,受傷後早期に治療が開始され,分離株は使用したCLVFXとCCMXとCOFLXに感染があり,点眼治療に良図2前眼部OCT写真a:初診時.角膜は浮腫を伴い(厚さ:0.613Cmm),傍中央部実質に深さC0.225Cmmまでの高輝度変化を認め,下方の球結膜には浮腫を認めた.Cb:治療開始C5週後には角膜の浮腫は消失したが(厚さはC0.513Cmm),深さC0.197Cmmに高輝度性変化は残存していた.結膜の浮腫は消失している.図3初診時の角膜擦過物a:塗抹標本のグラム染色では連鎖状のグラム小生球菌を認めた.b:分離株はC5%ヒツジ血液加CTripticaseCsoy寒天培地に幅広いCb溶血を伴うコロニーを形成した.(85)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C475C表1角膜病変からの分離株の薬剤感受性抗菌薬CMIC感受性抗菌薬CMIC感受性CoxacillinC≦0.25C-moxi.oxacinC≦0.25CSCceftazidimeC≦0.25CSCgati.oxacinC≦0.25CSCceftriaxoneC≦0.25CSClevo.oxacinC0.5CSCcefmenoximeC≦0.5CSCchloramphenicolC4CSCtobramycinC32C-minocyclineC≦1CSCvancomycinC≦1CSCmeropenemC≦0.25CSCazithromycinC≦0.25CSCimipenemC≦0.25CIMIC:minimuminhibitoryconcentration(mg/ml)感受性の判定はCClinicalandLaboratoryStandardsInstituteのガイドラインに基づいた.S:感性,I:中間,-:基準値なし.好な反応を示した.角膜びらんはC3週間の経過で消失し,予後も良好であった.しかし,近年,フルオロキノロン系抗菌薬に耐性を示すCSDSEも報告されており13),分離株の抗菌薬感受性結果の把握は重要である.SDSEが角膜炎から分離された例は少なく,筆者らが文献を検索した結果では,肺癌の基礎疾患を有し,上皮成長因子レセプター阻害薬の投与中に角膜潰瘍が生じたC89歳の女性で,最終的に角膜穿孔をきたした細菌性角膜炎のC1例のみであった11).SDSEと病原性が類似するCA群レンサ球菌による角膜炎の報告もほとんどなく,AmarasekeraらはC6例報告しているが,本症例と同様に角膜病変はC2.3Cmmと小さく,早期に治療が開始された例では角膜病変は改善したが,治療開始までの期間がC1週以上の例では穿孔をきたしていた14).肺炎球菌以外のレンサ球菌による角膜炎の臨床像は十分には解析されていない.本症例はC76歳の糖尿病の病歴のない高齢者であった.SDSEはC50歳以上の高齢者から分離されやすく15),眼科領域の感染症としては高齢者に菌血症に伴う内因性眼内炎が報告されている6.8).これらの宿主では糖尿病,悪性腫瘍などの基礎疾患を有していることが多く,血液よりCSDSEが分離された場合は内因性眼内炎のリスクを考慮する必要がある.現在,質量分析を用いた細菌同定の普及により,分離株の菌種の同定が容易になっている.本症例のように,あまりなじみのない菌種が同定された場合は,角膜病変の検鏡で検出された細菌の性状と分離株の整合性を確認し,起因菌を同定することが重要である.今後,SDSEによる角膜感染の報告数が増加する可能性があり,眼科領域における本菌の病原性が解明されることを期待する.利益相反:利益相反公表基準に該当なし476あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025文献1)BrandtCCM,CSpellerbergB:HumanCinfectionsCdueCtoCStreptococcusCdysgalactiaeCsubsepciesCequisimilis.ClinCInfectDisC49:766-772,C20092)川﨑浩子:MALDI-TOFMS微生物同定技術:原理とデータ取得.MicrobResourSystC35:60-67,C20193)VandammeP,PotB,FalsenEetal:TaxonomictsudyofLance.eldCstreptococcalCgrupsCC,CG,CandL(Streptococcusdysgalactiae)andproposalofS.dysgalactiaeCsubsp.ellqui-similisCsubsp.nov.IntJSystBacteriolC46:774-781,C19964)FaclamR:WhathappendtotheStreptococci:OverviewofCtaxonomicCandCnomenclatureCchanges.CClinCMicrobiolCRevC15:613-630,C20025)TakahashiCT,CSunaoshiCK,CSunakawaCKCetal:ClinicalCaspectsofinvasiveinfectionswithStreptococcusdysgalac-tiaeCssp.CequisimilisCinJapan:di.erencesCwithCrespectCtoCStreptococcuspyogenesCandStreptococcusagalactiaeinfec-tions.ClinMicrobiolInfectC16:1097-1103,C20166)SuemoriS,SawadaA,MochizukiKetal:Caseofendoge-nousCendophthalmitisCcausedCbyCStreptococcusCequisimilis.ClinOpthalmolC4:917-918,C20107)HagiyaCH,CSembaCT,CMorimotoCTCetal:PanophthalmitisCcausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis:acasereportandliteraturereview.JInfectChemotherC24:C936-940,C20188)GuptaA,TsuiE,SarrafpourSetal:Streptococcusdysga-lactiaeCsubspeciesequisimilisCendogenousendophthalmitisassociatedCwithCaorticCvalveCabscess.COculCImmunolCIn.ammC27:743-746,C20199)GohCES,CLiewGC:TraumaticCbleb-associatedCgroup-GCbeta-haemolyticCStreptococcusCendophthalmitis.CClinCExpCOphthalmolC36:58-581,C200810)LeeYW,KohKM,HwangKYetal:Acasereportofful-minantendophthalmitiscausedbyStreptococcusdysgalac-tiaeCinCaCpatientCwithCtraumaticCcornealClaceration.CBMCCOphthalmolC20:238-202011)SobolEK,AhmadS,IbrahimKetal:RapidlyprogressiveStreptococcusCdysgalactiaeCcornealCulcerationCassociatedCwithCerlotinibCuseCinCstageCIVClungCcancer.CAmCJCOpthal-molCaseRepC18:100630,C202012)LiuCHY,CChuCHS,CWangCIJCetal:MicrobialCkeratitisCin(86)Taiwan:aC20-yearCupdate.CAmCJCOphthalmolC205:CLensAntEyeC42:581-585,C2019C74-81,C201915)HanadaS,WajimaT,TakataMetal:Clinicalmanifesta-13)BarrosRR:AntimicrobialCresistanceCamongCbeta-hemo-tionsCandCbiomarkersCtoCpredictCmortalityCriskCinCadultsClyticCStreptococcusCinBrazil:AnCoverview.CAntibioticsCwithinvasiveStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisC10:973,C2021Cinfections.EurJClinMicrobiolInfectDisC43:1609-1619,14)AmarasekeraCS,CDurraniCAF,CFaithCSCetal:ClinicalCfea-2024CturesofStreptococcuspyogeneskeratitis:caseseries.Cont***(87)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C477C