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Multi-Stimulus Vision Tester-binocularの視野異常検出能の検討

2025年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(8):1070.1075,2025cMulti-StimulusVisionTester-binocularの視野異常検出能の検討宇田川さち子*1松本長太*2薄雄斗*3,4青木宏文*4東出朋巳*5岩瀬愛子*3,4*1金沢大学附属病院眼科*2近畿大学眼科*3たじみ岩瀬眼科*4名古屋大学未来社会創造機構*5金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学CEvaluationoftheVisualFieldAbnormalityDetectionCapabilityoftheMulti-StimulusVisionTesterBinocularSachikoUdagawa1),ChotaMatsumoto2),YutoSusuki3,4),HirofumiAoki4),TomomiHigashide5)andAikoIwase3,4)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineKindaiUniversity,3)TajimiIwaseEyeClinic,4)InstitutesofInnovationforFutureSociety,NagoyaUniversity,5)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversitySchoolofMedicalSciencesCMulti-StimulusCVisionTester-binocular(MVT-b)は,自動車運転免許取得時または更新時の検査で視野異常の存在を患者が自覚するための非医療機器セルフチェックスクリーニングを目的として開発されたプログラムである.両眼開放下でタブレット端末を用いて視野異常のスクリーニングを簡便に行うことが可能である.本研究では,MVT-bの視野異常の検出能を検討することを目的とした.眼疾患があり両眼開放状態で視野異常がある患者(視野異常群)51名および健常人ボランティア(健常群)47名を対象とした.MVT-bの異常点数による健常群と視野異常群の判別能は,カットオフ値C3点で感度C88.2%,特異度C93.6%(AUC=0.92,95%信頼区間:0.86.0.98)だった.特異度が最大となるカットオフ値C4点では,感度C84.3%,特異度C97.8%であった.健常群と進行した視野異常群の判別能は,カットオフ値C3点で感度C100%,特異度C84.8%(AUC=0.98,95%信頼区間:0.96.1.00),特異度が最大となるカットオフ値C9点では,感度C82.1%,特異度C98.3%であった.以上のことから,MVT-bは視野異常をスクリーニングするツールとして有効であると考えられる.CTheCMulti-StimulusCVisionTester-binocular(MVT-b)isCaCprogramCdevelopedCforCnon-medical-deviceCself-checkscreeningtoraiseawarenessamongpatientsonthepresenceofavisual.eldabnormality(VFA)thatmayinterferewithdriving.AsitispossibletoeasilyscreenforVFAsusingatabletdevicewithbotheyesopen,thisstudyCaimedCtoCexamineCtheCMVT-b’sCabilityCtoCdetectCVFAs.CThisCstudyCinvolvedC51CpatientsCwithCeyeCdiseasesCwhohadbilateralVFAs(VFAgroup)and47healthyvolunteers(healthygroup).TheMVT-bshowedasensitivi-tyof88.2%andaspeci.cityof93.6%(areaunderthereceiver-operatedcharacteristicscurve[AUC]=0.92,95%Ccon.denceinterval[CI]:0.86-0.98)withCaCcuto.CvalueCofC3CabnormalCpointsCforCdistinguishingCbetweenCtheCnor-malhealthyandVFAgroups.Whenthecuto.wassetat4abnormalpoints,speci.citywasmaximizedat97.8%,withasensitivityof84.3%.ForthegroupwithadvancedVFAs(grade.5),acuto.of3abnormalpointsachievedasensitivityof100%andaspeci.cityof84.8%(AUC=0.98,95%CI:0.96-1.00),whereasacuto.of9abnormalpointsmaximizedspeci.cityat98.3%withasensitivityof82.1%.Basedonthese.ndings,theMVT-bcanbecon-sideredane.ectivetoolforscreeningVFAs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(8):1070.1075,C2025〕Keywords:視野セルフチェック,両眼視野,非医療機器スクリーニング,緑内障.Multi-StimulusVisionTester-binocular,visual.eldself-check,binocularvisual.eld,non-medicaldeviceself-checkscreening,glaucoma.C〔別刷請求先〕宇田川さち子:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:SachikoUdagawa,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,13-1Takara-machi,Kanazawa920-8641,JAPANC1070(136)はじめに視野異常は,眼疾患,頭蓋内疾患などによって生じる.しかし,視力低下と比較して,視野異常は自覚されにくいことが多く,とくに初期・中期に視力が低下しない疾患の場合,高度な視野異常が生じるまで疾患が発見されない場合がある1).とりわけ「自動車運転」は視覚情報に大きく依存するタスクであり,安全運転のための視野異常について注意を喚起する研究が増えている2).現在の日本における自動車運転免許の取得および更新においては,道路交通法施行規則第23条により,視力検査に合格すれば視野検査は行われないので,視力が良好な疾患の場合,高度な視野障害があっても免許取得が可能となる.そのため,眼科通院中で視野異常があって運転は危険と考えられる患者や,未発見の大きな視野異常のある患者が,自分の視機能は運転に問題ないと判断されたと考える可能性がある.2013年に日本眼科医会などの要請により,警察庁は「運転と安全に関する調査研究」を開始した3).その結果,視野検査による視野異常の検出の重要性が確認され,2018年には,警察庁の調査研究において適性検査内で実施する「新たな視野検査器」のプロトタイプが提案され臨床評価も行われた.しかし,検査者・被検査者ともに視野検査機器に慣れない環境において短時間で有用な検査を実施するという課題は解決されず,検討課題のままとなっている4).高齢者のさまざまな疾患や臨床症状に応じて各都道府県に設置された安全運転相談窓口で個別に運転の可否を判断する制度が導入され,運転免許証の自主返納に関する広報資料に視野異常に注意を促す文言が加えられたが,視野検査についてはまだ進展はしていない5).Multi-StimulusVisionTester(MVT,株式会社クリュートメディカルシステムズ)は,パソコンやタブレットを利用して視野異常をスクリーニングできる視野チェックソフトであり,非医療機関でのスクリーニングを目的に開発された6).なかでも,MVT-binocular(MVT-b)は,上記で警察庁が提案した「新たな視野検査器」のコンセプトを基に検査点位置(図1)を配置し,汎用性と操作性を重視して考案され,運転免許取得時または更新時の検査で視野異常の存在を患者が自覚するための非医療機器セルフチェックスクリーニングを目的として開発された.本研究では,MVT-bでの視野異常検出力と有用性を検討することを目的とした.CI対象と方法2024年C7.8月に,金沢大学附属病院眼科とたじみ岩瀬眼科に通院中で眼疾患があり両眼開放状態で視野異常がある患者(視野異常群)51名および健常人ボランティア(健常群)47名を対象とした(表1).症例選択基準は,2群に共通することとして,自動車運転免許(第一種運転免許もしくは第二種運転免許)を保持し日常的に自動車運転をしていること,斜視がないこと,神経系に影響を及ぼす投薬歴がないこととした.視野異常群は,各眼にCHumphrey視野CSITACStandard24-2プログラム(HFA24-2)でCAndersonC&Patellaの基準を満たす視野異常があり,左右眼のCHFA24-2を基に各検査点の実測感度が高いほうを選択して作成するCintegratedCvisual.eld(IVF)7)による両眼視野に異常がある例とした.IVFの視野異常判定については,採用された感度のパターン偏差確率プロットにより,5%以下の点が三つ以上隣接し,そのうちのC1点がC1%以下のものとした.健常群は,前眼部,中間透光体に異常がなく,正常開放隅角,眼疾患,視神経視路疾患がないこと,視野に影響を及ぼす眼科既往歴・眼手術歴がないこととした.両眼開放CEstermanテストとCHumphrey視野計CSITACStandard10-2プログラムとCMVT-bをC3カ月以内に実施した.MVT-bは,両眼開放下でタブレット端末を用いて視野異常のスクリーニングが簡便に行えるセルフチェックプログラムである.タブレット端末は被検者の眼前C25Ccmの距離に設置し,被検者自身が画面をタッチして操作する.視野チェック中は,timeof.ightセンサーを用いて視距離を検出し,調整を促す表示を行うことで,視野チェックプログラムにおいて重要な視距離を維持することが可能である.視野チェックは説明動画の視聴後,練習,本番の順で進行する.チェックでは,中心固視標(赤い星印)をタッチした後に呈示されるC2.3個の点滅視標が呈示された位置をタッチする操作を繰り返す.中心視野のチェック後に,固視標が画面の四隅に順次移動し,同様の手順で周辺視野をチェックする(図2).各検査点において,1回目の視標呈示でタッチの応答がない場合にのみ,2回目の視標呈示を行い,2回ともタッチの応答がなかった点を異常点としてカウントした.今回,MVT-bの異常点数による視野異常群と健常群の判別のほかに,進行した視野異常群の判別も検討した.進行した視野異常群の定義は,自動視野計を用いた視覚障害等級(視野障害,表2)の算出基準による視覚障害C5級以上に該当する症例とした.MVT-bによる感度・特異度,健常群と視野異常群および進行した視野異常群を分別するCreceiverCoperatingcharacteristiccurves(ROC)曲線を算出し,ROC曲線下面積(areaunderthereceiveroperatingcharacteris-ticcurve:AUC)を検討した(図3,4).2群間の有意差検定には,Mann-WhitneyのCU検定を用い,危険率C5%未満を有意とした.統計学的検討にはCSTATAsoftware(バージョンC18.0,StataCorpLLC)を用いた.本研究は,日本視野画像学会のモビリティと視機能委員会運転と視野研究班による研究として,金沢大学医学倫理審査委員倫理審査委員会の承認を受けて行った(試験番号:714466).ヘルシンキ宣言を遵守し,インフォームド・図1MVT-bの検査点配置検査点は全体でC42点存在し,上下方向は最大C21°,左右方向は最大C34°までの範囲である.中心視野チェックではC28点を刺激し,そのうちC10°円内にはC10点の検査点が含まれる.固視標を画面の四隅に移動して行う周辺視野チェックでは,上方のC2象限でC6点,下方のC2象限でC8点の計C14点を刺激する.表1患者背景健常群視野異常群p値年齢(歳)C69.3±10.1(C50.C86)C68.3±11.2(C44.C89)C0.7487*性別(男性/女性)C26/21C20/31C0.156**右眼視力(logMAR)C.0.09±0.09(.0.18.C0.15)C0.07±0.38(.0.18.C1.9)Cp=0.0001*左眼視力(logMAR)C.0.08±0.10(.0.18.C0.15)C0.12±0.51(.0.11.C1.9)Cp=0.0009**Mann-WhitneyのCU検定**Fisherの正確確率検定logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.図2MVT-bの外観タブレット端末は被検者の眼前C25Ccmの距離に設置する.被検者自身が画面をタッチして操作する.視野チェック中は,タブレット端末の正面上方にあるCTimeCofCFlightセンサーが視距離を検出し,視距離を維持することが可能である.表2自動視野計を用いた視覚障害等級(視野障害)自動視野計両眼開放CEstermanテスト視認点数10-2プログラム両眼中心視野視認点数2級20点以下3級70点以下40点以下4級5級100点以下40点以下SensitivitySensitivityAreaunderROCcurve=0.9835図3健常群と視野異常群を分別するreceiveroperatingcharacteristiccurves曲線健常群と視野異常群の判別能については,Youden法に基づく最適な異常点数のカットオフ値はC3点で感度C88.2%,特異度C93.6%(AUC=0.9295%CCI:0.86.0.98),特異度が最大となるのは4点で感度C84.3%,特異度C97.8だった.コンセントを行い,研究に対する同意取得が得られた被検者に対して行った.CII結果視野異常群の原因疾患は全例が緑内障であった.両眼開放CEsterman視野の視認点数は,健常群でC116.9±3.6(108.120),視野異常群でC100.0±18.2(37.120)であり,健常群のほうが有意に多かった(p<0.001).視野異常群C51例のうち,進行した視野異常群(視野障害等級C5級以上該当例)はC39例(76.5%)で,視認点数はC95.5±18.4(37.120)だった.また,視野障害等級非該当例はC12例(23.5%)で,視認点数はC114.8±6.0(103.120)であり,進行した視野異常群(視野障害等級C5級以上該当例)のほうが有意に低かった(p<0.001).なお,健常群と視野障害等級非該当例では視認点数に有意差はみられなかった(p=0.2882).MVT-bの異常点数は,健常群がC0.6±1.2(0.7)点,視野異常群がC14.5±10.6(0.38)点であり,視野異常群のほうAreaunderROCcurve=0.9207AUC:areaunderthereceiveroperatingcharacteristiccurve.図4進行した視野異常群か否かを分別するreceiveroperatingcharacteristiccurves曲線進行した視野異常群の判別能については,Youden法に基づく最適なカットオフ値はC3点で,感度C100%,特異度C84.8%,AUC=0.98(95%CI:0.96.1.00),特異度が最大となる異常点のカットオフ値はC9点で,感度C82.1%,特異度C98.3%だった.が有意に多かった(p<0.001).視野異常群のうち進行した視野異常群の異常点数はC17.8C±9.6(3.38)点,視覚障害等級非該当例ではC3.5±4.2(0.12)点であり,いずれも健常群と有意差がみられた(p<0.001,p=0.0259).MVT-bの検査時間は,健常群がC126.7±37.7(78-249)秒,視野異常群がC212.0±74.3(97-445)秒で,視野異常群の所要時間が有意に長かった(p<0.001).全例が初めてMVT-bを操作したが,検査を理解できなかった例や検査不可例はなかった.MVT-bの異常点数による健常群と視野異常群の判別能は,Youden法に基づく最適なカットオフ値は3点で,感度C88.2%,特異度C93.6%,AUC=0.92(95%信頼区間:0.86.0.98)だった.特異度が最大となる異常点C4点をカットオフ値すると感度はC84.3%,特異度はC97.8%であった.進行した視野異常群の判別能については,Youden法に基づく最適なカットオフ値はC3点で,感度C100%,特異度84.8%,AUC=0.98(95%信頼区間:0.96.1.00)だったが,特異度が最大となる異常点のカットオフ値はC9点で,感度82.1%,特異度C98.3%だった.CIII考按日本ではC2023年(令和C5年)の運転免許統計8)によると,総保有者数C81,862,728人,そのうちC65歳以上がC19,838,119人,80歳以上でもC3,036,530人に上り,多くの高齢者が運転免許を保有している.一方,視覚障害を引き起こす原因疾患の統計によると,近年,高齢化に伴い視覚障害C2級を申請する症例が増加し,とくに原因疾患のなかでは緑内障による症例が増加している9).疫学調査的にも多治見スタディによれば,緑内障は年齢が高くなるほど有病率が上昇し,高齢人口の増加とともに,緑内障に罹患する患者数が増加することが予想される.一方で,同スタディの潜在患者に関する報告では,調査診断時点で全体のC89.5%が無自覚・無症状であり,とくに日本に多い正常眼圧緑内障ではC95.5%が未発見であったとされている10).CJohnson11)らによれば,10,000人の視野スクリーニングの結果,全体のC3.3%に視野異常があり,そのC57.6%はその視野異常を自覚していなかった.さらに,全体のC1.1%に認められた両眼視野異常のある被験者は,年齢・性別をマッチさせた正常視野を有する対照被験者に比べて,交通事故率および交通違反率がC2倍以上高いと報告している.ドライビングシミュレータによる研究では,正常者に人工的に視野狭窄を作成してドライビングシミュレータでの事故発生件数を検討したところ,視野狭窄の程度が強いほど事故率が増加することが確認されている12).運転には,視力,視野,眼球運動などの視機能全般が重要な役割を果たし,視野異常があっても代償機能が効果的な場合は安全運転可能であるとの報告もある13,14).しかし,視野異常を自覚していない運転者において,自己運転制限は期待できない.現時点で,すでにある視野異常に気づいてもらうことや,自身の視機能を認識してもらうことは,安全運転指導や疾患の治療あるいは進行抑制に役立つともいえる.MVT-bによる正常視野群と視野異常群の判別能力は,Youden法を用いたカットオフ値計算において,視野異常群全体と進行した視野異常群の両者で,異常点C3点と区別がつかなかったが,特異度を重視すると,視野異常群ではカットオフはC4点,進行した視野異常群はC9点をカットオフ値とするのがよいと考えられた.しかし,今後は他疾患での検討や視野異常の部位やパターンとの関係について,十分に多数な症例での検討が必要である.そして,このような検出の限界を踏まえても,進行した視野異常群にあたる症例,つまり視覚障害C5級以上の症例について,視野異常を自覚するための非医療機器を用いた簡易視野スクリーニングとしての有用性が確認された.タブレットによるCMVT-bは,自己チェックによる簡易スクリーニングツールとして,進行した視野異常のスクリーニングに特化した「視野異常に気づく」ための一手段である.一方で,運転適性の判断という点からみると,MVT-bは,眼球運動や頭の動き,反応時間や,有効視野などとの関連は把握できない.今回は視野検査の経験がある被検者が多かったが,実際にスクリーニング検査を行う場面では,視野検査の経験がない被検者やタブレット端末の使用経験がない被検者も存在することが予想される.検査中の固視不良の監視評価,学習効果や再現性などの問題も含め今後の課題である.なお,MVT-bによるスクリーニング結果で視野異常を指摘された者には,臨床的な精密検査を眼科医療機関において実施し,その後の対策を立てる必要がある.自動車運転の可否は,症例ごとに医師などによる個別の診断と評価を踏まえ,警察などの安全運転の指導を通じて総合的に判断されるべきものと考える.利益相反:宇田川さち子(該当なし),松本長太(P),薄雄斗(該当なし),青木宏文(該当なし),東出朋巳(F:HeidelbergEngineering),岩瀬愛子(F:HeidelbergCEngineering)文献1)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieCMCetal:CharacteristicsCofundiagnosedCprimaryCopen-angleCglaucoma:TheCTajimiCStudy.OphthalmicEpidemiolC21:39-44,C20142)MannersCS,CMeulenersCLB,CNgCJOCetal:BinocularCvisualC.eldClossCandCcrashrisk:anCeFOVIDCpopulation-basedCstudy.OphthalmicEpidemiolC18:1-8,C20243)警察庁:視野と安全運転の関係に関する調査研究(調査研究報告書平成C25年度),20144)警察庁:「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」の具体化に向けた調査研究に係る視野と安全運転の関係に関する調査研究(調査研究報告書平成C31年C3月).警察庁CWebサイトChttps://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/koureiunt-en/menkyoseido-bunkakai/vision/vision_report.pdf5)国家公安委員会,警察庁:平成C30年警察白書,p116-170,C20186)松本長太:緑内障と視野視野に魅せられたC37年.あたらしい眼科C38:1051-1063,C20217)CrabbDP,ViswanathanAC,McNaughtAIetal:Simulat-ingbinocularvisual.eldstatusinglaucoma.BrJOphthal-molC82:1236-1241,C19988)警察庁交通局運免許課:令和C5年運転免許統計.警察庁webサイトChttps://www.npa.go.jp/publications/statistics/Ckoutsuu/menkyo.html9)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyearC2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C202310)日本緑内障学会:日本緑内障学会多治見疫学調査報告書(2000-2001年).https://www.ryokunaisho.jp/general/Cekigaku/tajimi.php11)JohnsonCC,CKeltnerJ:IncidenceCofCvisualC.eldClossCinC20,000CeyesCandCitsCrelationshipCtoCdrivingCperformance.CArchOphthalmolC101:371-375,C198312)UdagawaCS,COhkuboCS,CIwaseCACetal:TheCe.ectCofCcon-centricCconstrictionCofCtheCvisualC.eldCtoC10CandC15CdegreesConCsimulatedCmotorCvehicleCaccidents.CPLoSCOneC13:e0193767,C201813)OkamuraCK,CIwaseCA,CMatsumotoCCCetal:AssociationCbetweenCvisualC.eldCimpairmentCandCinvolvementCinCmotorCvehicleCcollisionCamongCaCsampleCofCJapaneseCdriv-ers.TranspResPartFC62:99-114,C201914)CrabbCDP,CAmithCND,CRauscherCFGCetal:ExploringCeyeCmovementsCinCpatientsCwithCglaucomaCwhenCviewingCaCdrivingscene.PLoSOneC5:e9720,C201015)OwsleyCC,CMcGwinCGJr:VisionCandCdriving.CVisionCResC50:2348-2361,C2010***

緑内障患者における自動車運転実態調査

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1013.1017,2012c緑内障患者における自動車運転実態調査青木由紀国松志保原岳川島秀俊自治医科大学眼科学教室FactualSurveyofMotorVehicleDrivingbyGlaucomaPatientsYukiAoki,ShihoKunimatsu-Sanuki,TakeshiHaraandHidetoshiKawashimaDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity目的:緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.対象および方法:自治医科大学附属病院緑内障外来受診中の初期,中期,後期の緑内障患者各29名を対象とし,各群に対して自動車運転に関する質問を行い,各群間の年齢,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,運転時間,事故率を比較した.つぎに後期緑内障患者36名を事故歴のあるもの(事故群)とないもの(無事故群)に分類し,年齢,運転歴,運転時間,視力,視野検査結果の比較を行った.結果:初期・中期・後期群間の比較では後期群で有意に事故が多かった(p=0.0003).後期群における事故群と無事故群の比較では事故群で視力不良眼の視力が有意に悪く(p=0.0002),視野不良眼のMD値が有意に低かった(p=0.02).また,Goldmann両眼視野立体角の比較ではV/4視標における60°以内および30°以内の上半視野,下半視野で事故群が有意に狭かった(p=0.02.0.03).結論:視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.Objective:Toinvestigatetherelationshipbetweentypeofvisualfielddefectandfrequencyofmotorvehicleaccidentsinglaucomapatients.SubjectsandMethods:Chosenforthisstudywere29patientsofvariousglaucomastages(early,intermediateandadvanced).Weexaminedage,historyofaccidentsandmeandeviation(MD)viaHumphreyFieldAnalyzer(HFA).Additionally,patientsinadvancedstageweredividedintotwogroups:thosewithaccidenthistoryandthosewithout.Wethencomparedage,drivingrecord,actualhoursspentdriving,visualacuityandvisualfieldastestedbyHFAandGoldmannperimeter.Result:Patientswithadvancedglaucomacommittedsignificantlymoretrafficaccidentsthantheothertwogroups.Intheadvancedpatients,thosewithaccidenthistoryhadworsevisualacuityanddecreasedMDvaluesinthelessereye,aswellasmorerestrictedvisualfieldsinbothupperandlowerhemifields.Conclusions:Themorethevisualfieldlossprogressed,thegreaterthenumberofaccidentsthepatientsexperienced.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1013.1017,2012〕Keywords:緑内障,緑内障性視野障害,自動車運転,自動車事故,両眼視野.glaucoma,glaucomatousvisualfieldloss,driving,motorvehicleaccident,binocularvisualfield.はじめに公共交通機関に乏しい地方都市では,通勤,通学,買い物などの日常生活に自動車は欠かせない移動手段となっている.そのため地方では,自動車運転に支障をきたす視野障害を認める場合でも,必要に迫られて運転を継続し,安全確認不足が原因と考えられる交通事故を起こしている症例にしばしば遭遇する.しかし,日常臨床の場では医師側が,患者が運転しているかどうかについて知る機会は少ない.また,視野障害と自動車事故との関連を示唆する過去の報告は多いものの1.5),どの程度の視野障害であれば自動車運転に支障をきたさないのか明確な基準はない.筆者らは以前,自治医科大学附属病院(以下,当院)緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例について報告した6).今回筆者らは,緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.〔別刷請求先〕青木由紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)1013 I対象および方法2007年7月から2010年3月までに当院緑内障外来受診中の成人患者,264人中,過去5年間に自動車運転歴のあるもの,良いほうの視力が0.7以上であるもの,緑内障以外の視力および視野障害をきたすと思われる疾患の既往のないものを対象とした.視野障害の分類はAnderson分類に準じて7),Humphrey視野検査中心30-2プログラム(HFA30-2)meandeviation(MD)値で,初期緑内障は両眼ともに.6dB以上(以下,初期群),後期緑内障は両眼ともに.12dB以下(以下,後期群)のものとし,どちらも満たさない場合を中期緑内障(以下,中期群)とした.1.緑内障患者の自動車運転実態調査年齢をマッチングできた初期群,中期群,後期群各29名を対象とした.各群に対して自動車運転に関する質問(運転歴,過去5年間の事故歴,運転時間,運転目的)を行った.また,3群間で年齢,男女比,視力〔logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力〕,Humphrey視野検査MD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,事故率の比較を行った.2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との関連つぎに,後期群36名(平均年齢59.7±9.5歳)を対象とした.過去5年間に事故歴のある群(事故群)と事故歴のない群(無事故群)に分類した.事故群および無事故群において,年齢,運転歴,運転時間,運転目的,logMAR視力,視野検査結果の比較を行った.視野検査結果は下記の項目を比較した.a.Humphrey視野検査両群における視野良好眼および視野不良眼のHFA30-2MD値を比較した.b.Esterman視野生活不自由度を評価するために開発された両眼開放下で行うHFAの視野プログラム8)で,測定時間は正常者で6.8分である.生活不自由度に重要とされる中心30°と下半分の視野に比重がおかれ,点数配分が多くなっている.Estermandisabilitysore(満点は100点)の比較を行った.c.視能率Goldmann視野検査結果I/2視標における8方向の残存視野の角度を両眼それぞれ測定し,合計したものを560°で割り(片眼視能率),優位視能率の75%と非優位視能率の25%の合計を両眼視能率(=視能率)として算出した.d.Goldmann視野検査Goldmann視野検査結果においてV/4とI/4視標の左右眼の結果をそれぞれ重ね合わせて両眼視野を作成し,両群でのV/4,I/4視標における上半視野,下半視野それぞれ60°以内,30°以内における視野を求め,数値にて比較検討するためsteradian法により立体角で表した(図1).立体角とは二次元における角度の概念を三次元に拡張したものであり,全立体角は4psteradian(sr)である.初期群,中期群,後期群の比較についてはFisher’sexacttestおよびSteel-Dwass法による多重比較検定を使用し,正常:21歳,女性無事故群:70歳,男性事故群:51歳,男性Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野V/4I/4V/4I/4V/4I/460°30°60°30°60°30°立体角(sr)立体角(sr)立体角(sr)V/4I/4V/4I/4V/4I/460°以内上1.531.38下1.571.5730°以内上0.420.42下0.420.4260°以内上1.350.48下1.571.0530°以内上0.420.26下0.420.4260°以内上0.220.03下1.521.1230°以内上0.000.00下0.370.35図1正常人・無事故群・事故群における両眼視野および立体角1014あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(138) 表1初期・中期・後期緑内障患者群における背景初期中期後期p値292929年齢((n)歳)56.7±10.257.2±8.358.6±8.2NS男:女14:1520:920:90.17視力良好眼のlogMAR視力.0.06±0.06.0.07±0.02.0.03±0.08>0.05*視力不良眼のlogMAR視力.0.05±0.060.05±0.320.23±0.39<0.05*良いほうのMD値(dB).1.2±2.2.3.4±3.5.18.2±5.6<0.005*悪いほうのMD値(dB).3.6±2.6.13.5±6.3.22.5±5.2<0.001*運転歴(年)33.0±10.033.9±8.631.3±7.9NS運転時間(時間/週)6.4±5.45.6±4.56.4±8.1NS事故あり(%)2(6.9%)0(0%)10(34.5%)0.0003†事故率は後期群で有意に高かった.後期緑内障患者における事故群,無事故群の比較についてはStudent’st-test,Mann-Whitney’sUtestおよびc2検定を用いた.これらの調査については当院倫理委員会の承認のもと(倫理委員会番号:第臨09-12号),各対象者にインフォームド・コンセントを行い,同意を得たのちに行った.II結果1.緑内障患者の自動車運転実態調査緑内障患者の事故率を,年齢をマッチングした病期ごとに調べた結果,各群29名中,過去5年間に事故歴があったのは初期群で2名(6.9%),中期群で0名(0%),後期群で10名(34.5%)と後期群で有意に多かった(p=0.0003).事故の内訳は,初期群は対物事故1件と物損事故1件,後期群は対人事故1件,対物事故9件,物損事故4件(複数回答あり)であった.初期群・中期群・後期群を比較すると男女比は初期,中期,後期でそれぞれ14:15,20:9,20:9と有意差はなく,視力良好眼のlogMAR視力は,各群間に差がなかったが,視力不良眼のlogMAR視力は,後期群で有意に悪かった(p<0.005).運転歴,1週間当たりの運転時間ともに関連後期緑内障患者36名のうち事故群10名,無事故群26名において,年齢,視力良好眼および視力不良眼のlogMAR視力,視野良好眼および視野不良眼のMD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野立体角を比較した結果を表2,3に示す.年齢,運転時間は両群間で差はなかったが,運転歴は無事故群で有意に長かった(p=0.03).視力良好眼のlogMAR視力は両群間において有意差がなく,視力不良眼では事故群が有意にlogMAR視力は悪かった(p=0.0002).視野良好眼のMD値は事故群で.21.8±6.3dB,無事故群で.16.4±3.6dB(139)*Steel-Dwass法.†Fisher’sexacttest.表2後期緑内障患者における事故群,無事故群の背景事故群無事故群p値1026年齢((n)歳)55.9±8.161.1±9.80.11男:女8:218:80.52運転歴(年)28.1±7.636.2±10.20.03†運転時間(時間/週)8.5±9.84.6±6.00.29視力良好眼のlogMAR視力.0.03±0.1.0.03±0.10.80視力不良眼のlogMAR視力0.5±0.50.04±0.10.0002*視野良好眼のMD値(dB).21.8±6.3.16.4±3.60.13視野不良眼のMD値(dB).25.5±4.3.20.7±4.50.02†事故群では視力不良眼のlogMAR視力,視野不良眼のMD値が有意に悪かった.†Student’st-test.*Mann-Whitney’sUtest.表3事故群・無事故群における両眼視野評価方法による比較事故群無事故群p値n1026視能率3.7±2.87.6±4.20.23Estermandisabilityscore72.4±22.484.0±10.70.05上0.82±0.481.22±0.250.02*0.51±0.540.65±0.320.20各群間に有意差はみられなかった(表1).立体角60°1.46±0.161.54±0.080.02*下2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との0.94±0.351.10±0.330.210.24±0.140.36±0.080.03*上段:V/4上0.16±0.150.33±0.130.12下段:I/430°0.34±0.080.39±0.080.02*下0.30±0.120.33±0.120.29視能率,Estermandisabilityscoreにおいては差がなく,Goldman視野検査両眼視野立体角評価においてV/4視標の60°以内,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった.*Mann-Whitney’sUtest.と,両群間に差はなかったが,視野不良眼のMD値はそれぞれ.25.5±4.3dB,.20.7±4.5dBと,事故群のほうが有意に低かった(p=0.02).視能率,Estermandisabilityあたらしい眼科Vol.29,No.7,20121015 scoreの比較では両群間に差はなかった.Goldmann両眼視野立体角はV/4視標における60°以内の上半視野,下半視野,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった(p=0.02,p=0.02,p=0.03,p=0.02)(表3).なお,事故を起こした10名中8名が運転を継続していた.III考按今回筆者らは,緑内障患者における自動車運転実態調査を行った.年齢をマッチングした各群29名の過去5年間で事故を起こした率は初期群6.9%(2名),中期群0%(0名)後期群34.5%(10名)と,後期群で有意に事故率が高かった(,)(表1).視野障害と自動車事故についてOwsleyらが行った55.87歳の高齢運転者179名(事故群78例,無事故群101例)を対象とした調査では,事故群では無事故群と比べて緑内障罹患率が3.6倍であったとしている1).Szlykらは,緑内障患者40名と正常者11名とを比較したところ,過去5年間の事故歴は緑内障患者群で32.5%であり,正常者と比較して有意に事故率が高かったと報告している2).一方で,McGwinらによる緑内障患者群576名と正常群115名の事故率を比較したところ,緑内障群のほうが運転に慎重になるため事故率は低かった(relativerisk0.67)という報告もあり9),視野が狭いほど事故が起きるのかどうか統一した見解は得られていない.また,これらはいずれも海外からの報告であり,免許基準が異なる日本と比較することはできない.わが国での緑内障と自動車事故に関する報告は,筆者らの調べうる範囲ではわずかに1編のみである.Tanabeらは原発開放隅角緑内障患者を視野障害程度によりHFA30-2のMD値が両眼ともに.5dB以上を初期,視野が悪いほうの眼のMD値が.5dBから.10dBまでを中期,また,.10dB以下を後期に分類し,事故率の比較を行った.その結果,初期群で0%,中期群で3.9%,後期群で25%と後期群で有意に事故が多かったと報告している5).視野が狭いほど事故を起こしやすいという可能性を示唆するものだが,後期群ほど高齢であるため加齢の影響により事故が増加していることも考えられる.警察庁交通局による平成21年の原付以上運転者(第1当事者)による運転免許保有者10万人当たり交通事故件数を年齢層別にみると,若者(16.24歳,1,649.3件)が最も多く,ついで25.29歳(1,017.5件),高齢者(75歳以上,987.4件)の順となっている(http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H21mistake.pdf#search).今回筆者らの対象とした33.70歳での1年間の交通事故件数は727.6.770.3件であり,各群29名当たりの5年間での事故件数は平均1件前後となる.今回は,「自動車事故」の対象を,警察に届け出をしない物損事故も含めているため,単純比較はできない1016あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012が,初期群2名,中期群0名が過去5年間に自動車事故を起こした,という数字は,ほぼ,全国の同年代の運転免許保有者の事故率と同等であると考える.しかし,それに比して,後期群の10名(34.5%)は有意に多く,これにより,視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.海外の過去の報告では,対象となる緑内障患者の視野障害度は軽度のものが多く含まれ,両眼ともに高度の視野障害がある緑内障例での検討は皆無であった.国によっては,視野狭窄例では免許更新ができないこともあるが,わが国では両眼ともに視力が良好な場合は,高度の視野狭窄があっても免許取得・更新が十分可能である.Tanabeらの報告では,視野が悪いほうのMDで分類しているため片眼の視野障害が軽度な例が含まれている可能性がある.そのため,両眼の高度の視野狭窄例での検討が必要だと考え,両眼ともにHFA30-2MD値.12dB未満であるものを後期緑内障群として運転調査を行い,事故歴の有無と視野との関連を検討した.その結果,事故群では無事故群に比べて視力不良眼の視力が悪く,視野不良眼のMD値が悪かった.運転は,両眼開放下で行うものの,緑内障患者では,視力不良眼・視野不良眼の状態が,自動車事故に影響を及ぼしている可能性が示唆された.さらに,両眼視野結果である視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野より得られた立体角の3種類で比較を行ったところ,視能率と自動車事故との関連はなかった.視能率は,日常的には視覚障害者の認定のために使用されるが,Goldmann視野検査におけるI/2視標結果から計算される.そのため高度な視野障害のみられる後期緑内障群では,事故群,無事故群ともに値が小さくなり,有意差はみられなかったと考えられる.また,Estermandisabilityscoreでも事故群・無事故群では有意な差はみられなかった.Estermandisabilityscoreは生活不自由度と相関するといわれている10)が,今回,事故群と無事故群で有意差がなかったのは,中心視野を含まない(中心10°内に検査点がない)ことが影響しているかもしれない.Goldmann両眼視野では,事故群においてV/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったが,I/4視標で差がみられなかった.これは,今回の対象が,視野障害が高度な後期緑内障患者であり,I/4視標では,事故群・無事故群ともに狭小化しており,両群に差がでなかったものと考える.同じ後期緑内障群であっても,事故群は,より末期である可能性があり,V/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったことは,後期緑内障群のなかでも,事故群では,さらに視野障害が進行していることを表しているのかもしれない.Goldmann視野検査の,立体角による視野面積の定量化は,過去に馬場らが少数例で行っている11)が,筆者らの,(140) Goldmann視野検査からの両眼視野を作成し,立体角を計算する作業にはかなりの時間を要する.Goldmann視野検査結果から両眼視野を作成し,立体角を計測する方法により,より小さい立体角で事故が起こる可能性が推測できるが,日常臨床の場での判断に利用するには,作業を簡便化するソフトの開発などが必要であろう.今回の研究における問題点として事故歴聴取のあり方があげられる.対象者に行った事故歴の有無についての聴取は自己申告であり,本人が自分の責任で生じた事故ではないと考えている場合,あえて事故歴ありと申告をしていない可能性がある.視野が高度に狭窄しているにもかかわらず自覚症状のない患者では,安全確認に必要な視野が確保されていないことが原因と思われる事故状況であっても,自分の責任ではないと考えている症例もあった.このように,自己申告による事故歴の聴取には限界があると思われる.今回事故歴のあった後期緑内障患者10名のうち8名が運転を継続していた.現時点では運転を中止すべき明確な基準がないため,いずれの症例が運転を中止すべきなのかは判断できない.しかし,この実態調査を通じて,後期緑内障患者の事故率は有意に高いことから,日常臨床の場でも,緑内障患者の自動車運転歴の有無を聴取し,運転している場合は,視野検査結果を詳しく説明し,注意を喚起することは重要であると考える.今後は自動車運転シミュレータのような運転条件を一定にした状態での事故率を調査し,どの程度の視野障害度,どの部位の視野欠損が自動車事故に関与しているか検討していきたい.文献1)OwsleyC,McGwinGJr,BallK:Visionimpairment,eyedisease,andinjuriousmotorvehiclecrashesintheelderly.OphthalmicEpidemiol5:101-113,19982)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperformanceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualfieldloss.JGlaucoma14:145-150,20053)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Riskoffallsandmotorvehiclecollisionsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci48:1149-1155,20074)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Glaucomaandon-roaddrivingperformance.InvestOphthalmolVisSci49:3035-3041,20085)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:TheAssociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20116)青木由紀,国松志保,原岳ほか:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例.あたらしい眼科25:1011-1016,20087)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)EstermanB:Functionalscoringofthebinocularfield.Ophthalmology89:1226-1234,19829)McGwinGJr,XieA,MaysA:Visualfielddefectsandtheriskofmotorvehiclecollisionsamongpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:4437-4441,200510)ParrishRK2nd,GeddeSJ,ScottIUetal:Visualfunctionandqualityoflifeamongpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1447-1455,199711)馬場裕行:ゴールドマン視野の立体角による定量化.日眼会誌90:210-214,1986***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121017