《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):695.699,2026c潜在的にロービジョンケアのニーズを抱えていた緑内障患者田保和也*1,2山﨑舞*1,2横田聡*1,2武田佳代*1,2木場みゆき*1,2山本庄吾*1,2平見恭彦*1,2栗本康夫*1,2,3仲泊聡*1,3,4,5*1神戸市立神戸アイセンター病院*2神戸市立医療センター中央市民病院眼科*3公益社団法人NEXTVISION*4立命館大学・総合科学技術研究機構*5東京慈恵会医科大学眼科学講座CGlaucomaPatientswithUnrecognizedNeedsforLowVisionCareKazuyaTayasu1,2)C,MaiYamazaki1,2)C,SatoshiYokota1,2)C,KayoTakeda1,2)C,MiyukiKoba1,2)C,ShogoYamamoto1,2)C,YasuhikoHirami1,2)C,YasuoKurimoto1,2,3)CandSatoshiNakadomari1,3,4,5)1)KobeCityEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)NEXTVISIONPublicInterestIncorporatedAssociation,4)RitsumeikanUniversityResearchOrganizationforScienceandTechnology,5)DepartmentCofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC緑内障は慢性進行性疾患であり,視野障害が進行しても患者自身が生活上の困難を自覚しにくい,あるいは自覚しても医療従事者へ訴えない場合が少なくない.本報告では,眼科通院中でありながら適切なロービジョン(LV)ケアの介入がなかった緑内障患者C3例を提示し,視能訓練士が患者の行動や反応から潜在的な支援ニーズを把握し,介入へとつなげた経過を検討した.視力が比較的良好な症例では,視野障害が身体障害者手帳の交付基準に相当していても,その該当性が認識されず結果として支援に結びつかない例が認められた.また,身体障害者手帳取得後でも活用方法に関する理解が不十分のため,適切な視覚支援が加入できていない症例も存在した.これらの症例から,検査所見のみならず検査中や移動時の様子,患者との対話を通じて生活上の困難を把握し,医療機関が適切な支援機関へつなぐ役割を担うことが円滑なCLVケア導入において重要であると考えられた.CGlaucomaisachronic,progressivedisease,andpatientsoftenfailtorecognizeorreportfunctionaldi.cultiesindailylifedespiteadvancingvisual.eldloss.Thisreportdescribes3glaucomapatientswhowereunderregularophthalmicCfollow-upCbutChadCnotCreceivedCappropriateClowCvisionCcare.CCerti.edCorthoptistsCidenti.edClatentCsup-portCneedsCthroughCsystematicCobservationCofCpatientCbehavior,CresponsesCduringCexaminations,CandCstructuredCcommunicationaboutdailyactivities,enablingtimelyintervention.Inpatientswithrelativelypreservedvisualacu-ity,Csigni.cantCvisualC.eldCimpairmentCmeetingCcriteriaCforCaCPhysicalCDisabilityCCerti.cateCwasCsometimesCover-looked,CrestrictingCaccessCtoCvisualCsupport.CEvenCafterCcerti.cation,CsomeCpatientsCreceivedCinsu.cientCassistanceCbecauseCofClimitedCinformationCofCavailableCservices.CTheseC3CcasesCindicateCthatCrelianceConCclinicalCtestCresultsCaloneisinadequate.Carefulassessmentofmobility,examinationbehavior,andpatient-reporteddailychallengesisessential.Furthermore,medicalinstitutionsplayacriticalroleinproactivelylinkingpatientstoappropriatesocialresources.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):695.699,C2026〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,視覚障害,身体障害者手帳,視能訓練士.glaucoma,lowvisioncare,vi-sualimpairment,physicaldisabilitycerti.cate,certi.edorthoptist.Cはじめにanalyzer:HFA)における平均偏差(meandeviation:MD)緑内障は日本における中途視覚障害の主因である.山岸らと生活の質(qualityoflife:QOL)が有意に関連することをは緑内障患者においてCHumphrey視野計(HumphreyC.eld報告している1,2).また,田中らは緑内障患者では疾患初期〔別刷請求先〕田保和也:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院Reprintrequests:KazuyaTayasu,KobeCityEyeHospital,2-1-8Minatojima-minamimachi,Chuo-ku,Kobe650-0047,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(101)C695図1症例1の視野a:Humphrey視野計(HFA)10-2では,26CdB以上の視認点数は右眼C19点,左眼C6点(C○:実測閾値)で周辺視野のデータがなくとも視野障害C5級相当と考えられた.Cb:本人から身体障害者手帳取得の希望があったため,両眼開放CEstermanテストを実施したところ,見えた点はC114点であり,視野等級はC5級となった.からCQOLの低下がみられ,視野障害の進行とともにその低下が加速することを示した3).しかし,緑内障は慢性進行性疾患であり,視野障害が緩徐に進行するため,患者自身が視機能の低下に順応し,不自由さを自覚しにくい,あるいは自覚しても主治医へ訴えない場合が少なくない4).このため,患者からの訴えの有無にかかわらず,医療従事者が積極的に患者の生活上の困難に着目し,必要に応じて早期にロービジョン(LV)ケアの介入・支援を行うことが重要であると考える.当院では支援が必要な患者を発見する方法として,視能訓練士が以下のC2点を中心に支援ニーズの抽出を行う取り組みを行っている.①視力検査,視野検査の結果から身体障害者手帳交付基準に相当すると判断される場合に,主治医へ情報共有する.②検査中の患者の行動や質問への応答などから支援の必要性が示唆される場合には,LVケアの必要性について確認する.本稿では,患者の行動・反応から視能訓練士がCLVケアの潜在的ニーズを把握し実際に支援介入につながった症例を報告する.I症例170歳代,女性.両眼開放隅角緑内障.右眼視力(1.0C×sph-8.00DCcyl-0.75DCAx145°).左眼視力(0.7C×sph-8.00DCcyl-1.00DCAx180°).右眼眼圧C16mmHg,左眼眼圧C16mmHg.身体障害者手帳:未取得.視野:図1に示す.C1.介入を検討する契機となった所見視力検査時に,矯正視力が良好にもかかわらず回答に時間を要し,視標を探す動作が繰り返し観察された.C2.現状確認視野C10°内に認めた暗点が視標探索の困難さに影響していると推察された.日常生活で感じる困難について質問したところ本人からの訴えはなかったが,視能訓練士が読字や顔の識別など具体例を提示し質問したところ実は多数該当することが判明し,視機能の低下により日常生活に支障をきたしている状況が明らかとなった.支援のニーズが潜在的に存在するものの,患者自身が具体的に自覚・把握しにくい可能性が示唆された.C3.施行したLVケアHFA10-2の結果から身体障害者手帳に該当することを主治医に報告し,後日両眼開放CEstermanテストを実施して視認点数C114点,視野障害C5級相当であることを確認し身体障害者手帳申請の手続きを行った.後日改めてニーズ確認を行い,特に読字困難と,歩行時に下方の段差や傾斜に対して不安を感じていることを確認した.LVケアを進めるにあたり,具体的な視覚支援機器や地域福祉サービスの選択も重要であることから,当院と同一施設内に併設されたビジョンパークに情報提供を依頼した.同施設は,公益社団法人CNEXTVISIONが運営する情報提供拠点であり,福祉施設担当者や支援学校教職員など多様な専門職が関与し,各種補助具の体験や福祉相談が可能となっている.本症例では強度近視のため短文は裸眼での至近読が有効であり,長文は拡大読書器による拡大と音声読み上げ機能の併用が有用であることが確認された.ビジョンパークで読み上げ機能付き拡大読書器を体験することでその有効性を本人が実感し,身体障害者手帳取得後に導入へ至った.また,移動に関する困難に対しては地域の支援施設を紹介し,白杖の購入および歩行訓練の実施が検討された.CII症例280歳代,女性.右眼網膜.離に対する硝子体手術後続発緑内障,左眼開放隅角緑内障.右眼光覚弁.左眼視力(0.1C×sph-5.5DCcyl-2.25DCAx90°).右眼眼圧C16mmHg,左眼眼圧C14mmHg.身体障害者手帳:2級(視力障害C4級・視野障害C2級)所持.視野:図2に示すC.C1.介入を検討する契機となった所見検査室への移動時,家族にしがみつくように歩行していた.C2.現状確認身体障害者手帳は所持しているものの,読字困難,移動困難のニーズに対してCLVケアが未介入の状況であった.図2症例2の視野Goldmann視野計で右眼はCV/4eに対する反応を認めなかった.左眼は中心視野および耳上側に島状に視野が残存していたが,移動に重要とされる下方視野は欠如していた.3.施行したLVケア主治医にニーズへの対応が必要な現状を報告し,LV外来へ紹介した.同外来にてニーズの詳細確認を行い,カタログの字が読めず買い物に支障があること,署名ができないこと,信号の色がわからないこと,店頭で商品が識別できないことが明確となった.視機能の活用方法について評価するなかで,読字の際は文字の拡大が必要であることを確認し,ビジョンパークにて拡大読書器を試したところ,有効であることが判明した.また,スマートフォンを所持していたため音声での入力や読み上げ機能の活用と,信号識別や文字認識などが可能な視覚支援アプリがあることを紹介し,操作のサポートなど具体的な対応はビジョンパークへ依頼した.さらに,移動支援として白杖を使用した安全な歩行についての説明と同行援護サービスの活用を提案し,サービス内容の説明および地域支援施設への登録手続きに関する情報提供を行った.CIII症例350歳代,女性.両眼開放隅角緑内障.右眼視力(0.05C×sph-7.00DCcyl-2.00DCAx30°).左眼視力(0.4C×sph-7.00DCcyl-1.75DCAx140°).右眼眼圧C12mmHg,左眼眼圧C12mmHg.身体障害者手帳:2級(視野障害C2級)所持.視野:図3に示すC.C1.介入を検討する契機となった所見視力検査時に,患者から「身体障害者手帳を取得したがメリットがわからない」との報告を受けた.図3症例3の視野右眼は中心視野を欠き,耳下側に島状の視野残存を認めた.左眼は全体として視野の広がりはあるものの輪状暗点を呈し,中心視野はC3°以内であった.2.現状確認身体障害者手帳は所持しているものの,取得によりどのような福祉支援が受けられるか理解できていないこと,読字困難のニーズを確認した.C3.施行したLVケア身体障害者手帳取得後に受けられる福祉サービスとして補装具や日常生活用具等の視覚補助具の購入支援,税金の減免など経済的なメリットがあることを説明した.また,障害年金受給の可能性があるため年金事務所や社会保険労務士に相談するよう助言した.読字支援については拡大読書器,スマートフォンの視覚支援アプリについて紹介し,ビジョンパークにて実際に体験しながら説明を依頼した.CIV考按本報告のC3症例はいずれも,緑内障の治療目的で眼科通院中であったにもかかわらずCLVケアへの適切な導入に至っていなかった.とくに症例C1では,緑内障が慢性進行性であるという疾患特性から患者本人がCQOLの低下を自覚しにくいこと,自発的な訴えが乏しかったことでニーズの発掘がむずかしかったと考えられることが既報4)と一致していた.また,視覚支援において重要な役割を担う身体障害者手帳に関しては,横田らが身体障害者手帳未取得のリスク因子として「視力非該当」をあげており5),症例C1のように視力が比較的良好である場合には,視野障害が身体障害者手帳の交付基準に相当する程度まで進行していてもその該当性が認識されず,結果として身体障害者手帳取得に関する情報提供が行われないまま視覚支援介入に至らない場合もある.視力が良好に保たれている場合でも,視野障害が中心C10°内に及ぶと読字困難や羞明など日常生活への影響が顕著となることが報告されている6)ことから,視力によらず中心視野障害を認める場合には視覚支援のニーズが高まる.緑内障における視野評価ではC30°以内の視野測定が標準とされており,必要に応じて中心C10°以内の測定を追加することが推奨されている7).なお,中心C10°のみの視野データが得られていない場合であっても,24-2およびC30-2では測定点間隔がC6°であるため,中心部からC2点以内に暗点が存在するかを確認することは可能であり,このような中心暗点が認められる場合には読字困難や羞明などの視覚的な困難の有無について確認するとともに,身体障害者手帳の交付基準に相当するか確認することが重要と考える.さらに,湖崎分類Ⅲ期以降に相当する中期緑内障では,30°を超える周辺視野にも欠損が出現し始める.周辺視野欠損は移動のしづらさ以外に夜盲や羞明が起りやすい8).このため,両眼開放CEstermanテスト,FF120,Goldmann視野計などを用いて周辺視野を含めた評価を適宜行うことが望ましく,周辺視野の評価から身体障害者手帳の交付基準に相当すると判断できる場合も少なくない.また,症例C2やC3のように身体障害者手帳を所持していながら,本来はより早期の介入が必要であったにもかかわらず,十分なCLVケアを受けられていない患者は当院においても散見される.さらに筆者らは当院のCLV外来受診歴のある患者への聞き取り調査で,約半数にあたるC47%の患者がCLV外来受診後に新たな課題が生じていたものの,そのうち主治医に伝えられていたのはC41%にとどまっていたことを,第23回日本CLV学会学術総会で報告した.これらからCLVケアの対象となる視機能障害を有する患者に対しては,身体障害者手帳の取得や専門外来,専門機関への紹介のみにとどまるのではなく,生活上の困難や支援ニーズについても定期的に把握し継続的な支援につなげていくことが重要と考える.LVケアの重要性が認識される一方で,すべての支援を医療機関内で完結させることは現実的でない場合も少なくない.そのため,医療機関には患者の視覚的ニーズを適切に把握したうえで,必要な支援を提供可能な医療・福祉資源へ的確につなぐ役割が求められる.本報告ではいずれの症例も,LVケアへの導入およびニーズの把握は院内で行い,具体的な助言や補助具の体験についてはビジョンパークや地域の支援機関へつなぎ,継続的な介入が可能になるよう連携を行った.福祉機関の利用に心理的抵抗を示す患者も少なくないことから,医療機関において視機能評価とあわせてCLVケアに関する情報提供を行い地域の支援機関と段階的に連携することは,患者の不安を軽減し円滑な支援導入に重要であると考える.治療に対する関心は患者・医療従事者ともに高い一方で,生活上の「見えにくさ」への対応は十分ではなく,視覚支援の必要性を適切に把握できないまま支援介入に至っていない緑内障患者の存在が示唆された.検査所見に加え,患者の行動や対話を通じて潜在的な支援ニーズを把握し,LVケアにつなげることが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版CVFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のCqualityoflife評価C.日眼会誌C113:964-971,C20092)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:高齢者正常眼圧緑内障患者の視野障害とCQOL.臨眼C63:1467-1473,C20093)田中健司,岩瀬愛子,水野恵ほか:緑内障患者のCQOLとソーシャル・サポートの関連.日視能訓練士協誌C48:C35-45,C20194)国松志保:緑内障患者のロービジョンケア.あたらしい眼科C26:1077-1078,C20095)横田聡,金森章泰,藤本雅大ほか:神経眼科・斜視弱視外来における視覚障害者手帳取得状況.神経眼科C34:C61-64,C20176)張替涼子:緑内障のビジョンケア.眼科C66:125-138,C20247)木内良明,井上俊洋,庄司信行ほか:緑内障ガイドライン(第C5版)C.日眼会誌C126:85-177,C20228)陳進志:第C4章ロービジョンケアの視機能と行動.視能学エキスパートロービジョンケア(新井千賀子,田中恵津子,阿曽沼早苗,石井祐子編),p93-97,医学書院C,2024C***