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スクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と 緑内障性眼底変化の有無

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):963.967,2023cスクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と緑内障性眼底変化の有無瀧利枝丸山勝彦杉浦奈津美八潮まるやま眼科CCornealHysteresisValuesObtainedbyOcularResponseAnalyzerforScreeningExaminationswithorwithoutGlaucomatousFundusChangeToshieTaki,KatsuhikoMaruyamaandNatsumiSugiuraCYashioMaruyamaEyeClinicC目的:スクリーニング目的で行ったCOcularResponseAnalyzer(ORA)での眼圧検査で測定された角膜ヒステリシス(CH)の値を,眼底の緑内障性変化のある群とない群で比較すること.対象および方法:一定期間内にスクリーニングとしてCORAを用いて眼圧を測定し,かつ,眼底写真撮影と光干渉断層計(OCT)検査が行われている眼を対象とした.眼底写真とCOCTの結果から眼底の緑内障性変化の有無を判定し(あり群,なし群),両群のCCHの値を比較した(t-検定).結果:127例(平均年齢C53.5C±18.0歳),192眼が解析対象となった.あり群はC53眼,なし群はC139眼だった.あり群となし群のCCHはそれぞれC9.6C±1.4(6.8.13.3)mmHg,10.2C±1.2(6.9.13.3)mmHgとなり,あり群のほうが有意に低かった(p=0.003).結論:眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは低値だが,分布は重複する.CPurpose:ToCinvestigateCcornealChysteresisCvaluesCobtainedCbyCOcularResponseCAnalyzer(ORA)(Reichert)Cforscreeningexaminationpurposeswithorwithoutglaucomatousfunduschange.SubjectsandMethods:Weret-rospectivelyanalyzedthemedicalrecordsofeyesinwhichintraocularpressure(IOP)wasmeasuredbyORAforscreeningexaminations,andfundusphotographsandopticalcoherencetomographyimageswereobtained.Cornealhysteresis(CH)wascomparedbyt-testbetweeneyeswith(positivegroup)andwithout(negativegroup)glauco-matousCfundusCchange.CResults:ThisCstudyCinvolvedC192CeyesCofC127patients(meanage:53.5C±18.0years)C.CInCtheCpositivegroup(n=53eyes)andCtheCnegativegroup(n=139eyes)C,CtheCmean±standarddeviation(range)ofCCHwas9.6±1.4CmmHg(6.8to13.3mmHg)and10.2C±1.2CmmHg(6.9to13.3mmHg)C,respectively(p=0.003)C.CCon-clusions:OurC.ndingsCrevealedCthatCtheCmeanCCHCwasClowerCinCtheCpositiveCgroupCeyesCthanCinCtheCnegativeCgroupeyes,however,therewasanoverlapinthemeasureddistributions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):963.967,C2023〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,角膜ヒステリシス,スクリーニング,緑内障,眼圧.OcularResponseAnalyzer,cornealhysteresis,screeningexamination,glaucoma,intraocularpressure.Cはじめにライカート社のCOcularResponseCAnalyzer(ORA)は,緑内障の発症1.3),あるいは進行4.9)に影響するとされる角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)が測定できる眼圧計である.また,ORAは非接触型眼圧計であるため日常診療でスクリーニング用眼圧計として使用されることもあり,スクリーニング目的でCORAを用いた場合でも約C8割の症例で信頼性のある測定結果が得られることがわかっている10).これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている患者を選択して対象としたものが多く,緑内障点眼薬による治療介入後の測定値を解析した報告も少なくない.また,不特定多数に対するスクリーニング検査で測定されたCCHでの検討は行われていない.さらに,ほとんどの〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC報告は視野異常を有する緑内障眼を対象としているが,緑内障性視神経症の病態は視野異常が検出される前から存在し,眼底に特徴的な変化が観察されることがわかっている11).本研究の目的は,スクリーニング目的で行ったCORAによる眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することである.CI対象および方法2021年C3月C1日.5月C15日に,八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3(ライカート社)を用いて眼圧測定を行ったC747例(男性C287例,女性C460例,平均年齢C53.5±20.4歳,レンジC6.94歳),1,488眼(右眼C745眼,左眼C743眼)の中で,WaveformScore6以上の結果が得られ,眼底写真撮影と光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査が行われている眼を対象とした.レーザー治療を含む内眼手術歴のある眼や,緑内障点眼薬を使用中の眼は対象から除外した.ORAは患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.なお,同一眼に別の日にも測定を行っている場合には初日の結果を解析に用いた.眼底写真は無散瞳眼底カメラCAFC-330(ニデック)を用い,散瞳下,あるいは無散瞳下で後極部を画角C45°で撮影した.OCTはCRS-3000Advance(ニデック)を用い,同様に散瞳下,あるいは無散瞳下で黄斑マップを撮影後,緑内障解析を行った.なお,OCT測定時の信号強度指数の値は問わなかった.同一検者(丸山)が診療録データの眼底写真とCOCT結果を読影し,眼底の緑内障性変化の有無を判定した.眼底の緑内障性変化は,眼底写真で視神経乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の菲薄化,それに伴う網膜神経線維層欠損と,OCT網膜内層厚解析で神経線維の走行に沿った菲薄化を認め,かつ,網膜神経線維層欠損を生じうる緑内障以外の眼底疾患(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病網膜症,高血圧性眼底,腎性網膜症など)が除外できることにより判定した.眼底読影の結果,緑内障性変化の有無が明らかな眼のみを抽出し,緑内障性変化を認める眼(あり群)と認めない眼(なし群)で,等価球面度数,最高矯正視力(logMAR)を比較した(t-検定).また,ORAで測定されたCGoldmann圧平眼圧計に相当する眼圧値(IOPg),CHをもとに補正された眼圧値(IOPcc),CHの分布の差を検討し(F-検定),数値を比較した(t-検定).なお,緑内障以外の他の疾患があっても,明らかに緑内障性変化を合併していると思われる眼はあり群と判定した.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).CII結果スクリーニングとしてCORAを用いて眼圧測定を行った1,488眼の中で,WaveformScoreがC6以上の結果が得られた眼はC1,245眼あり,その中で内眼手術歴のある眼はC663眼あった.残りのC582眼の中で,読影可能な眼底写真撮影とOCT検査が行われている眼はC341眼あったが,緑内障性変化の有無が判定できない眼がC149眼あり,最終的にC127例(平均年齢C53.5C±18.0歳,レンジC9.87歳,男性C46例,女性C81例),192眼が解析対象となった.あり群はC40例C53眼,なし群はC89例C139眼だった.なお,2例は片眼があり群に,片眼はなし群に組み入れられていた.すべての眼にオートレフケラトメータ(ARK-1s,ニデック)を用いた屈折検査と,視力検査が行われていた.あり群となし群の屈折(等価球面度数)はそれぞれC.2.11±4.15D(レンジC.17.13.+4.00D),.2.13±3.07D(レンジC.8.75.+5.00D)であり,差はなかった(p=0.98).また,最高矯正視力(logMAR)もそれぞれC.0.01±0.11(レンジC.0.18.0.30),.0.03±0.14(レンジC.0.30.0.70)と差はなかった(p=0.26).あり群,なし群のIOPg,IOPcc,CHのヒストグラムを図1に示す.いずれのパラメータもあり群となし群の間に分布の差はなかった(IOPg:p=0.17,IOPcc:p=0.16,CH:p=0.09).あり群,なし群のCIOPg,IOPcc,CHの箱ひげ図を図2に示す.あり群となし群のCIOPgはそれぞれC15.7C±3.3CmmHg(レンジC10.2.24.3CmmHg),16.2C±3.9CmmHg(レンジC8.1.29.8CmmHg)で差はなかった(p=0.42).また,IOPccはそれぞれC17.0C±2.7CmmHg(レンジC12.8.24.0CmmHg),16.8C±3.2CmmHg(レンジC10.5.28.3CmmHg)となり,やはり差はなかった(p=0.65).一方,CHはC9.6C±1.4CmmHg(レンジC6.8.13.3CmmHg),10.2C±1.2CmmHg(レンジC6.9.13.3CmmHg)となり,あり群のほうがなし群より有意に低かった(p=0.003).CIII考按本研究は,スクリーニング目的で行ったCORAでの眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障変化の有無で比較した初めての報告である.測定値への影響を除外するため,内眼手術や緑内障点眼薬による治療介入が行われていない眼を対象に検討を行った.その結果,眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは全体としては低値だが,測定値のレンジは重複することがわかった.これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている症例を選択して対象としたものが多い.Abitbolら1)は,点眼治療中の緑内障眼C58眼(開放隅角C88%,閉塞隅角C12%,正常眼圧緑内障なし)と正常眼C75眼のCHを比較した結果,緑内障眼C8.77C±1.4CmmHg(レンジC5.0.11.3CmmHg)に対して正常眼はC10.46C±1.6CmmHg(レンジ4030201006.97.98.99.910.911.912.9(mmHg)図1OcularResponseAnalyzerで測定された各パラメータのヒストグラムa:IOPg,b:IOPcc,c:角膜ヒステリシス(CH).あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.08.09.010.012.013.09.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)c509.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)b50a50あり群なし群4034眼数眼数眼数4030201003020100~38~~~~~~~~~~10.012.014.016.018.020.022.024.026.010.012.014.016.018.020.022.024.026.0~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(mmHg)IOPg(mmHg)IOPcc(mmHg)CH353535303030252525202020151515101010555000あり群なし群あり群なし群あり群なし群図2あり群,なし群のIOPg,IOPcc,角膜ヒステリシス(CH)の箱ひげ図あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.1.14.9CmmHg)と,緑内障眼のほうが有意に低かったとしている.また,Hirneisら2)は,点眼治療中の片眼性の原発開放隅角緑内障C18例と僚眼のCCHを比較しており,緑内障眼C7.73C±1.46mmHgに対して僚眼はC9.28C±1.42CmmHg(レンジ未記載)と,緑内障眼のほうが有意に低値だったとしている.さらにCKaushikら3)は,すでに診断がついた緑内障外来を受診中のCGlaucomaClikedisc101眼,高眼圧症C38眼,原発閉塞隅角症C59眼,原発開放隅角緑内障(狭義)36眼,正常眼圧緑内障C18眼の眼圧,ならびにCCHをはじめとする角膜の特徴を正常コントロール71眼と比較している(全症例手術歴や点眼使用なし).その結果,原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障のCCHはそれぞれC7.9CmmHg(レンジ未記載,95%信頼区間C6.9.8.8CmmHg),8.0CmmHg(95%信頼区間C7.2.8.8CmmHg)であり,正常眼C9.5CmmHg(95%信頼区間C9.2.9.8CmmHg)に比べ,有意に低かったと報告している.本研究でもあり群のCCHはなし群より低い結果となったが,既報では測定値のレンジやC95%信頼区間をみてみると緑内障眼は対象全体が低めに測定されているのに対し,本研究ではあり群となし群の測定値のレンジは重複した.その理由として,本研究でのあり群の臨床背景が影響していると考えられる.本研究では組み入れの条件に視野異常の有無を問わなかったため,あり群のなかに前視野緑内障が含まれていたと予想され,また,内眼手術歴や点眼治療中の眼を除外しているため,多くの未発見,あるいは未治療の症例が解析対象となった.これらの要因が関与して後期の症例が除外され,早期の症例が多く含まれたため,本研究のあり群のCCHは既報より高く測定された可能性がある.スクリーニングとしてCCHが測定された不特定多数の症例を対象とした本研究の結果には意義がある.緑内障の危険因子の一つとしてCCHが低いことは緑内障診療ガイドラインに明記されているが12),日常臨床での緑内障の発見の機会を考えたとき,スクリーニングとして視力,眼圧,前眼部細隙灯,眼底などの諸検査を行って,緑内障が疑われる場合は適宜検査を追加して診断をすすめていくのが通例である.スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,CHの測定値が低ければ緑内障の存在を疑う根拠になるが,測定値のレンジは正常眼と重複することから,それだけでは不十分であり,他の検査結果も加味して総合的に緑内障を疑う必要があることが確認できた.本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を考慮しなければならない.まず,眼底所見の読影に関して本研究にはいくつかの特徴があるため,結果の解釈に制限がある.たとえば,他院からのデータがあれば当院を受診した際に改めて眼底写真やOCTを撮影していないことも多く,眼底写真とCOCTは緑内障が疑われた全例に行われたわけではない.また,読影は一人の検者が行っているため,所見の見逃しや判定の偏りが生じることは否定できない.さらに,視神経乳頭の立体観察を全例で行っているわけではないため,眼底写真やCOCTでも判定困難なごく早期の陥凹拡大を見逃している可能性がある.OCTの測定結果の精度を問わなかった影響も考えられるが,今回は精度によらず緑内障性変化の有無が明らかに判定できる症例のみを対象としたので影響は少ないと考えられる.本研究でCOCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚解析を用いなかった理由は,黄斑疾患の除外のためCOCTで乳頭部の撮影を行っていなくても黄斑部の撮影を行っている症例が多くあり,それらの症例を解析対象に加えなければとくに正常眼の眼数が著しく減少してしまうからであるが,乳頭周囲網膜神経線維層厚解析の結果を加味していないことにより診断の精度が低下している可能性はある.さらにまた,読影対象となった眼のうちC4割強は判定不能のため除外したことなどが結果に影響した可能性がある.眼底所見の読影以外でも,結果に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの要素がある.本研究の結果は,ORAでCWave-formScoreがC6以上の結果が得られ,内眼手術歴のない未治療の眼に限定したものである.さらに,ORAの測定条件が一定ではないことも影響していると思われる.たとえば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例などに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値はそのときの検者の判断に任せた結果である.今回は,3名の検者が測定を担当したが,検者ごとの結果は明らかではない.さらに,本研究はデザインの特性から,眼底の緑内障性変化の有無に影響する背景因子の交絡は排除できない.屈折や最高矯正視力には群間の差はなかったものの,緑内障の有病率は年齢とともに高い12)ことを反映し,年齢が結果に影響を与えている可能性はある.本研究の対象には片眼はあり群,片眼はなし群に組み入れられた症例がC2例存在しており,単純な比較は困難と考え検討は行っていないが,あり群はなし群より明らかに年齢の高い眼が多く含まれている.しかし,本研究の目的はスクリーニングとして測定されたCCHの値を眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することであり,交絡因子が影響している前提で,臨床像としての結果と解釈できると考える.このようにいくつかの問題点はあるが,スクリーニングとしてCCHの情報が加われば緑内障検出の精度の向上が期待できる.そして,将来的には緑内障の早期発見や進行の危険因子を有する患者の早期発見に貢献でき,重症化の回避などによる医療経済的効果に繋がる可能性があると考えられる.今後,さらに多数例を対象とした多施設での検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalCandCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:116-119,C20102)HirneisC,NeubauerAS,YuAetal:Cornealbiomechan-icsCmeasuredCwithCtheCocularCresponseCanalyserCinCpatientsCwithCunilateralCopen-angleCglaucoma.CActaCOph-thalmolC89:e189-e192,C20113)KaushikCS,CPandavCSS,CBangerCACetal:RelationshipCbetweencornealbiomechanicalproperties,centralcornealthickness,CandCintraocularCpressureCacrossCtheCspectrumCofglaucoma.AmJOphthalmolC153:840-849,C20124)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:LowerCcornealChys-teresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:209-213,C20125)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CornealChysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:aCprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:1533-1540,C20136)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CornealChysteresisCandprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.AmJOphthalmolC166:29-36,C20167)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:AprospectivelongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC187:148-15,C20188)AokiCS,CMikiCA,COmotoCTCetal:BiomechanicalCglaucomaCfactorCandCcornealChysteresisCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCtheirCassociationsCwithCvisualC.eldCprogression.InvestOphthalmolVisSciC62:4,C20219)MatsuuraM,HirasawaK,MurataHetal:TheusefulnessofCorvisSTTonometryandtheOcularResponseAnalyz-erCtoCassessCtheCprogressionCofCglaucoma.CSci.CRepC7:40798;doi:10.1038/srep40798,C201710)杉浦奈津美,丸山勝彦,瀧利枝ほか:スクリーニング用眼圧計としてCOcularCResponseCAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討.あたらしい眼科C39:959-962,C202211)WeinrebCRN,CFriedmanCDS,CFechtnerCRDCetal:RiskCassessmentCinCtheCmanagementCofCpatientsCwithCocularChypertension.AmJOphthalmolC138:458-467,C200412)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C2022***

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査 2021 年版

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):958.962,2023c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2021年版正井智子*1井上賢治*1塩川美菜子*1鶴岡三惠子*1國松志保*2田中宏樹*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科TheCurrentStatusofApplicantsforVisualImpairmentCerti.cationforGlaucomain2021SatokoMasai1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),HirokiTanaka2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)取得申請を行った緑内障患者について検討した.対象および方法:2021年1.12月に手帳申請を行った緑内障153例を対象とした.緑内障病型,視覚等級,視野測定方法を調査した.2015年調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(22.2%)などだった.視覚等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%)だった.視野測定はGoldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)だった.視覚障害5級が2015年調査より有意に増加した.結論:手帳申請者の緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.視覚等級は1級と2級で60%を超えていた.視野測定はGoldmann型視野計が依然として多かった.Purpose:Toreportthestatusofvisualimpairmentcerti.cationinglaucomapatients.Methods:Atotalof153glaucomapatientswhoappliedforvisualimpairmentcerti.cationin2021wereenrolled.Thetypeofglaucoma,thegradeofvisualimpairment,andvisual.eld(VF)measurementswereinvestigated.Theresultswerethencomparedwiththoseinthe2015survey.Results:Ofthe153patients,theglaucomatypeswereprimaryopen-angleglaucoma(POAG)in54.2%,secondaryglaucomain22.2%,andother.ThegradeswereGrade1in12.4%,Grade2in50.3%,Grade3in2.6%,Grade4in7.8%,andGrade5in26.8%.TheVFmeasurementdevicesusedweretheGoldmannperimeterin60.1%andtheautomaticperimeterin39.9%.Grade5signi.cantlyincreasedcomparedwiththatinthe2015survey.Conclusion:Inthissurvey,POAGwasthemostcommonglaucomatypeobserved,thetotalofGrades1and2wasmorethan60%,andGoldmannperimetrywasstillthemostcommonmeasurementmethodused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):958.962,2023〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野計.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycerti.cate,perimeter.はじめに厚生労働省から「身体障害者福祉法施行規則等の一部を改正する省令」が2018年4月27日に公布された.これを受けて2018年7月に視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.視力障害では「両眼の視力の和」が「視力の良い方の目の視力と他方の目の視力」となった.視野障害ではGoldmann型視野計では「周辺視野角度が左右眼ともI/4視標の視野が10°以内である」が「周辺視野角度の総和が80°以下」となった.また,視能率,損失率という用語を廃止し,視野角度,視認点数を用いた明確な基準が導入された.さらにGoldmann型視野計による認定基準に加え,現在普及している自動視野〔別刷請求先〕正井智子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:SatokoMasai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN958(110)計でも認定が可能となった.緑内障は視覚障害による手帳認定者の原因疾患の常に上位である.そこで手帳に該当する緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点から重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,病型により重症度や手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで筆者らは,井上眼科病院において2005年1),および井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院において2012年2),2015年3)に視覚障害による手帳の申請を行った緑内障患者の実態を調査して報告した.今回筆者らは井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2021年に手帳の申請を行った緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2015年に行った調査3)の結果と比較し,経年変化を検討した.I対象および方法2021年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,同時期に視覚障害による手帳の申請を行った153例(男性71例,女性82例)を対象とし,後ろ向きに研究を行った.年齢は41.95歳で,平均年齢は73.9±11.3歳(平均±標準偏差)であった.手帳申請時の緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級,視野検査方法(Goldmann型視野計,自動視野計)を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.緑内障病型別に視覚障害等級を比較した.視野検査方法別に視野障害等級を比較した.2015年に行った同様の調査3)と緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級を比較した.統計学的検討にはIBM統計解析ソフトウェアSPSSで|2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.なお緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,発達緑内障の5群として検討した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(ぶどう膜炎14例,落屑緑内障14例,ステロイド緑内障3例,血管新生緑内障2例,角膜移植後1例)(22.2%),正常眼圧緑内障29例(19.0%),原発閉塞隅角緑内障5例(3.3%),発達緑内障2例(1.3%)であった(図1).視覚障害等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%),6級0例(0%)であった(図2).病型別の視覚障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級11例(13.3%),2級43例(51.8%),3級2例(2.4%),4級5例(6.0%),5級22例(26.5%)であった.続発緑内障では1級4例(11.8%),2級18例(52.9%),4級4例(11.8%),5級8例(23.5%)であった.正常眼圧緑内障では1級3例(10.3%),2級13例(44.8%),3級2例(6.9%),4級2例(6.9%),5級9例(31.0%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級1例(20.0%),5級2例(40.0%)であった.発達緑内障では1級1例(50.0%),2級1例(50.0%)であった.緑内障の病型別に視覚障害等級に差はなかった(p=0.8729).視力障害で申請したのは72例,視野障害で申請したのは153例であった.その内訳は,視力障害は1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%)で,視野障害によるもの2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%)であった(表1).重複障害申請を行ったのは72例で,重複申請により上位等級に認定された症例は11例であった.内訳は視野障害2級・視力障害2級が7例,視野障害2級・視力障害3級が3例,視野障害3級・視力障害4級が1例であった(表2).申請に使った視野検査方法は,Goldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)であった.Goldmann型視野計あるいは自動視野計のどちらを使用するかには明確な基準がなく,視野障害を評価する医師の判断で視野計を選択した.視野障害等級は,Goldmann型視野計は2級69例(75.0%),5級23例(25.0%),自動視野計は2級25例(41.0%),3級3例(4.9%),5級33例(54.1%)であった.視野障害2級の症例はGoldmann型視野計が自動視野計より有意に多く(p<0.0001),視野障害5級の症例は自動視野計のほうがGoldmann型視野計より有意に多かった(p=0.0003).2015年調査3)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障33例(54.1%),続発緑内障16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26.2%),正常眼圧緑内障7例(11.5%),原発閉塞隅角緑内障4例(6.6%),発達緑内障1例(1.6%)であった(図1).視覚障害等級は1級14例(23%),2級29例(47%),3級1例(2%),4級3例(5%),5級8例(13%),6級6例(10%)であった(図2).今回調査と2015年調査6)との比較では,緑内障病型は同等(p=0.5736)(図1),視覚障害等級は5級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に増加し(p=0.0320),6級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に減少した(p=0.0004)(図2).視力障害等級は,今回調査では1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%),2015年調査3)では1級9例(20.0%),2級6例(13.3%),3級2例(4.4%),4級3例(6.7%),5級6例(13.3%),6級19例(42.2%)であった(表1).今回調査では2015年調査3)に比べて4級が有意に多く(p<0.0001),5級が有意に少な今回調査(153例)2015年調査(61例)発達緑内障(2例,1.3%)原発閉塞隅角緑内障(5例,3.3%)*p<0.05今回調査(153例)2015年調査(61例)6級*図2視覚障害等級の比較今回調査と2015年調査で今回調査の視野等級では,5級の割合が有意に増加し(p=0.0320),6級の割合が有意に減少した(p=0.0004).表1今回調査と2015年調査との視力障害等級,視野障害等級の比較等級今回調査2015年調査p視力障害1級7(9.7%)9(20.0%)0.16582級10(13.9%)6(13.3%)>0.99993級5(6.9%)2(4.4%)0.70564級28(38.9%)3(6.7%)**<0.00015級1(1.4%)6(13.3%)0.0127*6級21(29.2%)19(42.2%)0.1650視野障害3級3(2.0%)0(0.0%)>0.99994級0(0.0%)0(0.0%)─5級56(36.6%)8(19.5%)0.0406*6級0(0.0%)0(0.0%)─かった(p<0.05).視野障害等級は,今回調査では2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%),2015年調査3)では2級33例(80.5%),5級8例(19.5%)であった.今回調査では2015年調査3)に比べて2級が有意に少なく(p<0.05),5級が有意に多かった(p<0.05).III考按視覚障害による手帳認定者の全国規模の疫学調査が2015年4月.2016年3月の患者を対象にして行われた4).原因疾患は緑内障(28.6%),網膜色素変性(14.0%),糖尿病網膜症(12.8%),黄斑変性(8.0%)の順だった.筆者らは,井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に2021年1.12月に通院し,視覚障害による手帳を申請した患者を調査して報告した5).原因疾患は緑内障(46.5%),網膜色素変性(15.8%),網脈絡膜萎縮(9.1%),黄斑変性(8.2%)の順だった.2015.2016年に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院で行った同様の調査6)と比較すると,今回調査5)では緑内障の割合が有意に増加した.緑内障患者の早期発見,治療薬や手術の開発,ロービジョンケアがますます重要になっている.そこで今回2021年1.12月に視覚障害による手帳を申請した緑内障患者の実態を調査した.さらに2015年に行った同様の調査3)の結果と比較した.2015年から2021年までの間に視覚障害による手帳の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.今回はこの改正の影響も検討した.緑内障病型は今回調査と2015年調査3)で順位は同様で割合に差もなかった.引き続き,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では,注意深い経過観察が必要である.視力障害は4級の割合が2015年調査3)6.7%より今回調査62.2%で有意に増加し(p<0.0001),5級の割合が2015年調査3)13.3%より今回調査2.2%で有意に減少した(p<0.05).視力障害認定基準の改正により2015年調査3)で5級だった症例が今回調査で4級となった可能性が考えられる.緑内障症例に限定しないが,同様の変更が既報でも多く報告されている7.10).視野検査方法は2018年から視野障害判定に利用可能となった自動視野計が39.9%で使用されていた.今回調査の全症例での検討5)では,自動視野計は緑内障が網膜色素変性,網脈絡膜萎縮に比べて有意に多く使用されていた.視野障害判定に自動視野計が使用可能となったことは,緑内障患者にとって有益であったと考えられる.視野障害等級は,Gold-mann型視野計は2,5級のみ,自動視野計は2,3,5級の症例が存在し,自動視野計のほうが詳細に視野障害を評価できる可能性がある.視野障害は5級の割合が2015年調査3)19.5%より今回調査36.6%で有意に増加し(p<0.05),2級の割合が2015年調査3)80.5%より今回調査61.4%で有意に減少していた(p<0.05).2018年の改正により,自動視野計による判定が可能となり,自動視野計による5級認定が54.1表2重複申請で上位等級となった症例視野等級視力等級視覚等級症例数(例)2級2級1級72級3級1級33級4級2級1%と多かったことが寄与したと考えられる.視覚障害等級は1級と2級を合わせて今回調査では62.7%,2015年調査3)では70%であった.緑内障の手帳申請者は依然として重症例が多いことが判明した.2015年から2021年の間に緑内障治療分野では,点眼薬として新たにラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用可能となった.また,手術ではmicroinvasiveglaucomasurgery(MIGS)としてiStent,KahookDualBlade,谷戸式abinternoマイクロフックロトミー,TrabExが行われるようになった.これらの新しい点眼薬や手術手技により緑内障患者の手帳申請が減ることを期待したが,今回調査では2015年調査3)に比べて,件数,割合ともに増加していた.この6年間で緑内障患者が増加したと考えるよりも,緑内障に対する啓発活動により緑内障が発見されやすくなったと思われる.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院ではロービジョンケアに力を入れており,光学補助具の使用や福祉施設への紹介にあたり積極的に手帳取得をすすめていることも増加の理由と考えられる.2021年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による手帳を申請した緑内障症例153例を調査した.病型は原発開放隅角緑内障が54.2%で最多で,視覚障害等級は2級以上が62.7%を占めていた.2015年調査3)と比較すると視覚障害5級が有意に増加したが,これは2018年の視野障害の認定基準の改訂,具体的には自動視野計による視野障害認定が可能となった影響によると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20072)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,20133)比嘉利沙子,井上賢治,永井瑞希ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年度版).あたらしい眼科34:1042-1045,20174)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20195)井上賢治,鶴岡三惠子,天野史郎ほか:眼科専門病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請(2021年).眼臨紀(印刷中)6)井上賢治,鶴岡三惠子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現状(2015年)─過去の調査との比較─.眼臨紀10:380-385,20177)江口万祐子,杉谷邦子,相馬睦ほか:認定基準改正後の手帳取得状況とQOLの変化.日本ロービジョン学会誌20:101-104,20208)中川浩明,本田聖奈,間瀬智子ほか:視覚障害認定基準改正前後の等級とFunctionalVisionScore.眼科62:795-800,20209)黄丹,間宮紀子,武田佳代ほか:身体障害者手帳申請件数の新旧基準での比較.日本ロービジョン学会誌21:24-28,202110)相馬睦,杉谷邦子,青木典子ほか:視覚障害認定基準改正による身体障害者手帳等級への影響.日本ロービジョン学会誌21:34-38,2021***

線維柱帯切開術眼外法と眼内法の術後成績比較 西

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):693.696,2023c線維柱帯切開術眼外法と眼内法の術後成績比較西田崇下川翔太郎藤原康太小栁俊人村上祐介園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CComparisonofPostoperativeOutcomesbetweenTrabeculotomyAbExternoCandAbInternoCTakashiNishida,ShotaroShimokawa,KohtaFujiwara,YoshitoKoyanagi,YusukeMurakamiandKoh-HeiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:線維柱帯切開術眼外法(LOT-ext)とマイクロフックを用いた眼内法(LOT-int)の術後C2年間の成績を比較した.対象および方法:2017年C1月.2018年C12月に九州大学病院においてCLOT-extおよびCLOT-intを白内障手術と同時に行った患者を後ろ向きに抽出し,術後C1年以上経過観察できたC39例C39眼(LOT-ext:20眼,LOT-int:19眼)を対象とした.術後C6,12,18,24カ月時点での術後眼圧値,および術後合併症の有無について両術式間で比較した.結果:術後の平均眼圧下降値および平均眼圧下降率は術式間で差はなかった.また,生存時間分析でも術後眼圧値は術式間で差はなかった.術後合併症は,LOT-extでニボーを伴う前房出血(p=0.001)および術後C1カ月以内の眼圧スパイクが有意に多かった(p=0.002).結論:LOT-extとCLOT-intの眼圧下降効果に違いはなかった.LOT-extは術後前房出血の頻度および術後眼圧スパイクがCLOT-intより多くみられ,術後管理により注意を要する.CPurpose:ToCcompareCtheCpostoperativeCoutcomesCbetweentrabeculotomy(LOT)abexterno(LOT-ext)andCLOTabinternoCusingamicrohook(μLOT-int).CSubjectsandMethods:Weretrospectivelyinvestigated39eyesof39patientswhounderwentLOT-extCorμLOT-intCwithcataractsurgeryatKyushuUniversityHospitalfromJanu-ary2017toDecember2018andwhowerefollowedupformorethan1-yearpostoperative.At6-,12-,18-,and24-monthsCpostoperative,Cintraocularpressure(IOP)andCsurgery-relatedCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCthetwomethods.Results:Our.ndingsrevealednodi.erenceinpostoperativeIOPbetweenthetwotechniques,yetCpostoperativeCcomplicationsCwereCsigni.cantlyChigherCinCLOT-extCwithCanteriorCchamberChemorrhageCwithniveau(p=0.001)andCIOPCspikesCwithinC1-monthpostoperative(p=0.002)C.CConclusions:OurC.ndingsCrevealedCnodi.erenceinIOPreductionbetweenLOT-extCandμLOT-int,yetLOT-extChadahigherfrequencyofpostopera-tiveanteriorchamberhemorrhagewithneveauandpostoperativeIOPspikesthanLOT-int,thusrequiringmoreattentioninpostoperativemanagement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):693.696,C2023〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,眼内法,眼外法,眼圧,術後合併症.glaucoma,trabeculotomy,abinterno,abexterno,IOP,postoperativecomplications.Cはじめに線維柱帯切開術眼外法(trabeculotomyCabexterno:LOT-ext)は,1960年にCSmithによって初めて報告された1).LOT-extは線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)と比較すると眼圧下降は劣るが術後合併症は少なく,初期.中期緑内障のよい手術適応として,とくにわが国で多く行われている2).隅角異常を伴う小児緑内障や角膜混濁を伴う症例では隅角観察,線維柱帯の同定が困難であるため,LOT-extが必要である.一方,近年,結膜切開を行わないCLOTとして,マイクロフックやCiStentを用いた線維柱帯切開法眼内法(trabeculotomyCabinterno:LOT-int)などの低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)が報告されており3,4),LOT-extに比べて手技が簡便であることからCLOT-intが選択されるケースが近年増加している.しかし,両者の術式選択に際する明確な基準はなく,LOT-extとCLOT-intの手術成績を比較した報告は少ない5).そこで,筆者らは九州大学病院におけるCLOT-extとCLOT-intの手術成績を後ろ向きに比較した.〔別刷請求先〕村上祐介:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:YusukeMurakami,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANCI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言の理念に従い行われ,九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(2019-056).2017年C1月.2018年C12月に九州大学病院において,白内障手術とCLOT-extもしくは谷戸氏マイクロフックを用いたCLOT-intを併用して行った患者について後ろ向きにカルテ情報を取得し,手術後C1年以上の経過観察が可能であったものを対象とした.同一患者で両眼ともCLOTを行っている場合は先に手術を行った眼を対象とした.術式の選択には明確な基準はなく,患者ごとに各術者の判断で決定した.LOT-extはおもに緑内障専門医が選択しており,LOT-intは緑内障非専門医がより積極的に選択している傾向があった.LOT-extは,白内障手術後に円蓋部基底の結膜切開(6-8時)後に,4C×3Cmmの強膜四角フラップ・3C×3Cmmの内側フラップを作製し,線維柱帯を露出させた.トラベクロトームを2方向に挿入し,線維柱帯を約C120°切開した.LOT-intは,白内障手術を角膜切開で行ったあとに隅角鏡で線維柱帯を確認し,角膜切開創またはサイドポートより谷戸氏マイクロフックを挿入し,鼻側.上方および鼻側.下方の線維柱帯を計C120.180°切開した.術後成績の検討項目は術後眼圧を用いた.術後C6,12,18,24カ月における両術式の眼圧下降値,眼圧下降率について比較した.術後C18,24カ月時点では追跡可能であった患者を対象とし,再手術を行った症例は再手術を行う時点までを対象とし再手術以降は対象から除いた.また,Kaplan-Meier法を用いて生存時間分析を行った.術後の眼圧値によりC3段階の基準を設け(基準1:21mmHg未満,基準C2:18mmHg未満,基準C3:15mmHg未満)を設け,術後C6,12,18,24カ月時点で基準以上になった時点を死亡と定義した.また,追加手術を行った場合も死亡と定義した.Logrank検定を行い術式間に生存率の差があるかを検討した.眼圧測定は非接触式眼圧計の測定結果を用いた.緑内障点眼数は配合薬の点眼はC2本,炭酸脱水酵素阻害薬を内服している場合は点眼スコアC1としてカウントした.また,術後合併症については既報5)を参考にニボーを形成する前房出血の有無,眼圧スパイク(術後C1カ月以内の眼圧C30CmmHg以上)の有無,2段階以上の視力低下の有無,低眼圧(術後眼圧C4mmHg以下)の有無,術後の緑内障再手術の有無についてデータを取得した.LOT-extとCLOT-int群間の患者背景,平均術後眼圧下降値・平均眼圧下降率の比較,および術後合併症の比較には,Wlicoxonの順位和検定またCFisherの正確検定を用いた.II結果LOT-extはC19症例,LOT-intはC20症例であった.手術時の平均年齢はCLOT-extでC69.5歳,LOT-intでC68.4歳で両群間に差はなかった.両術式間で性別,術前眼圧,術前視力,術前緑内障点眼数,術前CMD値,緑内障病型の割合に有意差は認めなかった(表1).術後眼圧下降値の平均値±標準偏差は術後6,12,18,24カ月時点においてCLOT-extでC.2.2±3.7CmmHg,C.3.2±4.9mmHg,C.3.6±4.7CmmHg,C.3.5±4.3CmmHg,LOT-intでC.3.5±6.2CmmHg,C.3.7±4.9CmmHg,C.5.7±8.1CmmHg,C.5.0±4.5CmmHgであった.各時点において両術式間で眼圧下降値に有意差を認めなかった(図1a).術後眼圧下降率の平均値±標準偏差は術後C6,12,18,24カ月時点においてCLOT-extでC10.2C±22.6%,14.3C±27.6%,17.5C±20.9%,C17.4±17.6%,LOT-intでC14.6C±28.5%,19.6C±22.3%,C27.2±29.0%,24.2C±18.6%であった.眼圧下降率においても各時点において両術式間で眼圧下降値に有意差を認めなかった(図1b).術後眼圧値による死亡の定義を眼圧C21CmmHg以上,18mmHg以上,15CmmHg以上として生存時間分析を行った(図2).眼圧C21CmmHg以上を死亡と定義した場合,平均生存期間±標準誤差はCLOT-extでC1.9C±0.08年,LOT-intで1.9年C±0.06年であった.眼圧C18CmmHg以上を死亡と定義した場合,平均生存期間±標準誤差はCLOT-extでC1.8C±0.09年,LOT-intでC1.9年C±0.06年であった.眼圧C15CmmHg以上を死亡と定義した場合,平均生存期間±標準誤差はCLOT-extでC1.7C±0.13年,LOT-intでC1.7年C±0.13年であった.いずれの定義においても術式間で生存率に有意な差はなかった.いずれにおいても両術式で生存率に有意差を認めなかった(図2).術後合併症について表2に示す.ニボーを伴う前房出血はLOT-extにおいてC73.7%,LOT-intにおいてC20.0%であり有意にCLOT-extで多かった(p=0.002).眼圧スパイクはLOT-extでC57.9%,Lot-intでC10.0%であり有意にCLOT-extで多かった.低眼圧,視力低下,緑内障再手術については両群で有意差を認めなかった.CIII考察本研究ではCLOT-extとCLOT-intの両術式間で術後C2年においても,術後眼圧に有意差は認めなかった.本研究と同様に,LOT-extと谷戸氏マイクロフックを用いたCLOT-intの術後C1年時点の成績を比較したCMoriらの報告では,両術式で眼圧下降効果に差はなかった5).また,LOT-extとCKahookCDualBladeを用いたCLOT-intとの術後成績を比較した廣岡らの報告でも,両術式で眼圧下降効果に差はなかっ表1手術時の患者背景眼外法(n=19)眼内法(n=20)CpvalueC年齢(歳)(*)(†)C69.5±8.6C68.4±11.1C0.75性別(男/女)C12/7C11/9C0.75眼圧(mmHg)(*)C14.7±5.6C15.3±6.8C0.98緑内障点眼数(本)(*)C3.3±1.2C3.6±1.1C0.48炭酸脱水酵素阻害薬内服症例(†)C1C2C0.58HFA30-2MD値(dB)(*)C.14.0±8.3C.10.9±8.7C0.18矯正視力(logMAR)(*)C.0.17±0.43C.0.16±0.35C0.82角膜厚(μm)(*)C527±36C509±39C0.32眼軸長(mm)(*)C24.7±1.9C24.6±1.3C0.74病型開放隅角緑内障(†)12(63.2%)14(70.0%)C0.74続発緑内障(†)7(36.8%)6(30.0%)C0.74C平均値C±標準偏差,HFA:HumphreyCFieldAnalyzer,(*)Wilcoxonの順位和検定,(†)Fisherの正確検定.Cap=0.73p=0.68p=0.70p=0.45bp=0.72p=0.61p=0.39p=0.51平均術後眼圧下降率(%)806040200-20-40平均眼圧下降値(mmHg)-5-10-15-20-25-3061218246121824術後期間(月)術後期間(月)図1術後眼圧下降値と術後眼圧下降率a:平均術後眼圧下降値の経過.b:平均術後眼圧下降率の経過.a基準1b基準2c基準31.01.01.00.80.80.8生存率(%)0.60.40.60.40.60.40.20.20.20000.51.01.52.000.51.01.52.000.51.01.52.0観察期間(年)観察期間(年)観察期間(年)線維柱帯切開術眼外法線維柱帯切開術眼内法図2生命表解析(Kaplan-Meier法)による線維柱帯切開術の2年生存率死亡の定義として,基準C1はC21mmHg,基準C2はC18mmHg,基準C3はC15CmmHgを超えた時点または追加手術を行った場合と定義した.表2術後合併症の割合眼外法(n=19)眼内法(n=20)p値(*)ニボーを伴う前房出血(%)(*)眼圧スパイク(%)(*)低眼圧(%)(*)視力低下(%)(*)緑内障再手術(%)14(C73.7)11(C57.9)2(C10.5)14(C73.7)0(0)4(C20.0)C2(C10.0)C3(C15.0)C8(C40.0)C3(7C.7)C0.0010.0021.00.0530.23(*)Fisherの正確検定.たと結論づけている6).一方で,LOT-extとCTrabectomeを用いたCLOT-intの術後眼圧の比較を行ったCKinoshita-Nakanoらの報告では,術後C1年および術後C2年時点においてCLOT-extの眼圧下降が有意に大きかった(7).短期的な眼圧下降効果にはデバイスごとの違いがある可能性があり,今後さらなる検討が必要である.術後合併症についてはCLOT-extでニボーを伴う前房出血および眼圧スパイクが有意に多い結果となった.LOT-extにおけるニボーを伴う前房出血はC20.91%5,6,8)と幅広く報告されており,本研究ではC73.7%に前房出血を認めた.一方で谷戸氏マイクロフックを用いたCLOT-intにおけるニボーを伴う前房出血はC16%と報告されており5),本研究では20%であった.前房出血は房水静脈からの血液逆流によるもので,術終了時の眼圧との圧較差により生じる.LOT-extでニボーを伴う前房出血の頻度が高かった要因としては,ロトームによる線維柱帯切開後に眼圧が大きく下降するため,フラップ縫合までの時間に血液逆流が多く生じること,また症例によっては創部からの漏出が術後一過性にあり5),血液逆流が遷延した可能性が考えられた.本研究ではCLOT-extにおいて眼圧スパイクも有意に多く認めた.本研究では術後1カ月以内の早期における眼圧スパイクを対象としており眼圧スパイクをきたした症例では全例薬物投与(炭酸脱水酵素阻害薬内服,緑内障点眼)により眼圧スパイクは速やかに改善した.本研究において,術後C2年の時点でCLOT-intとCLOT-extの眼圧下降効果に両群間で有意差はなかった.LOT-extは術後前房出血および一過性眼圧スパイクを生じる割合が多く,術後管理により注意を要する.文献1)SmithR:ACnewCtechniqueCforCopeningCtheCcanalCofCSch-lemm.CPreliminaryCreport.CBrCJCOphthalmolC44:370-373,C19602)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19933)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmologicaC95:e354-e360,C20174)Arriola-VillalobosCP,CMartinez-de-laCCasaCJM,CDiaz-ValleCDCetal:CombinedCiStentCtrabecularCmicro-bypassCstentCimplantationandphacoemulsi.cationforcoexistentopen-angleCglaucomaCandcataract;aClong-termCstudy.CBrJOphthalmolC96:645-649,C20125)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ACcomparisonCofCtheC1-yearCsurgicalCoutcomesCofCabCexternoCtrabeculotomyCandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmolC5:e000446,C20206)廣岡一行,合田衣里奈,木内良明:線維柱帯切開術CabexternoとCKahookCDualBladeを用いた線維柱帯切開術の術後成績.日眼会誌124:753-758,C20207)Kinoshita-NakanoE,NakanishiH,Ohashi-IkedaHetal:CComparativeCoutcomesCofCtrabeculotomyCabCexternoCver-susCtrabecularCablationCabCinternoCforCopenCangleCglauco-ma.JpnJOphthalmolC62:201-208,C20188)FukuchiCT,CUedaCJ,CNakatsueCTCetal:TrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cation,CintraocularClensCimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmolC55:205-212,C2011***

改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固 術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1 症例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):410.414,2023c改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1症例馬場口紘成藤代貴志杉本宏一郎相原一東京大学医学部附属病院眼科CACaseofMacularEdemainBothEyesafterBilateralMicropulseCyclophotocoagulationUsingtheImprovedProbeKouseiBabaguchi,TakashiFujishiro,KoichiroSugimotoandMakotoAiharaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-CPC)後に両眼に黄斑浮腫を発症した症例を経験したので報告する.症例:48歳,男性.落屑緑内障による両眼高眼圧の治療のため当院を受診した.両眼にCMP-CPCを行い,右眼,左眼とも術後C28日で黄斑浮腫を発症した.右眼は術後C56日の時点で自然軽快したが,左眼は黄斑浮腫の程度が強く,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行い,術後C79日で改善を得た.結論:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブによるCMP-CPCで黄斑浮腫を発症した初めての報告である.MP-CPC後の黄斑浮腫の治療にCSTTAが有効である可能性がある.CPurpose:Toreportacaseofmacularedema(ME)inbotheyesafterbilateralmicropulsecyclophotocoagula-tion(MP-CPC)usingtheMicroPulseP3DeviceRev2(IridexCorp.)probe.Casereport:A48-year-oldmalewasreferredtoourhospitalfortreatmentofhighintraocularpressureinbotheyesduetoexfoliationglaucoma.Bilater-alCMP-CPCCwasCperformed,CyetCMECdevelopedCinCbothCeyesCatC28-daysCpostoperative.CAtC56-daysCpostoperative,CtheMEinhisrighteyeresolvedspontaneously,yetat42-dayspostoperative,theMEinhislefteyewassevere,sosub-Tenon’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonideinjection(STTA)wasCadministeredCandCimprovementCwasCachievedCat79-dayspostoperative.Conclusion:Thisisthe.rstreportedcaseofMEinbotheyesafterbilateralMP-CPCwiththeMicroPulseP3DeviceRev2probe,andSTTAmaybeane.ectivetreatmentforMEafterMP-CPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):410.414,C2023〕Keywords:緑内障,マイクロパルス毛様体光凝固術,MicroPulseP3DeviceRev2,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.glaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,MicroPulseP3DeviceRev2,macularedema,sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに緑内障は視神経と視野に特徴的な変化を有する疾患であり,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一の治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法としては点眼加療,レーザー治療,観血的治療などがある.これまでは点眼やレーザー治療による眼圧下降が不十分な場合は手術で眼圧下降を行っていたが,社会的な理由(高齢,僻地)などにより入院や通院が困難で,加療ができずに失明に至る患者もおり課題が残っていた.近年日本に導入されたマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は合併症が少なく安全に眼圧下降を得られ,入院や頻回の通院を必要としない治療として注目されている1).今回,新型のプローブ(MicroPulseCP3CDeviceRev2)を用いて両眼にCMP-CPCを行い両眼とも術後黄斑浮腫(macu-laredema:ME)を発症した患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕馬場口紘成:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:Kouseibabaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC410(128)I症例患者:48歳,男性.既往歴:重症アトピー性皮膚炎.手術歴:2001年に両眼水晶体再建術,2019年に右眼,2021年に左眼眼内レンズ強膜内固定術.現病歴:2013年に両眼落屑緑内障(pseudoexfoliationsyndrome:PE)の診断を受け,近医で点眼加療を受けていた.両眼にカルテオロール塩酸塩ラタノプロストC1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミドC2回,リパスジル塩酸塩水和物C2回を点眼していたが,2022年C3月に右眼眼圧C38mmHg,左眼眼圧C29CmmHgと両眼眼圧上昇を認めたため,緑内障治療目的に東京大学医学部附属病院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼矯正視力(0.7)(logMAR換算値0.16),左眼矯正視力(1.2)(logMAR換算値C.0.08).眼圧はGoldmann圧平眼圧計で右眼C28CmmHg,左眼C22CmmHg.角膜に異常はなく,前房炎症もなかった.両眼とも落屑物質が虹彩縁にみられCPEと診断した.両眼眼内レンズ強膜内固定後で正位,両眼底とも光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)上で黄斑浮腫はなかった.網膜静脈分枝閉塞症などの血管閉塞性病変の合併もなかった.重症アトピー症候群のため瞼裂は非常に狭小で眼瞼肥厚を認めた.Humphrey30-2静的視野検査では平均偏差(meandeviation:MD)値は右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdBと右眼で,進行した視野障害を認めた(図1).CII経過眼瞼の状態が悪く術野の確保が困難であるため,手術加療が困難であると判断し,MP-CPCを行う方針となった.2022年3月に右眼MP-CPC,2022年4月に左眼MP-CPCを,それぞれCCycloG6GlaucomaLaserSystem(Iridex社)を用いて行った.CMicroPulseCP3CDeviceRev2プローブを用い,麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon.下麻酔C3Cml,レーザー設定は出力C2,500CmW,dutycycle31.3%,経結膜で上下半球それぞれ片道C20秒かけて往復しC2往復ずつ(計C80C×2秒)照射した.両眼とも眼内レンズ強膜内固定後であるが,4時,10時方向の眼内レンズ固定部位へも他の部位と同様に照射した.術中にとくに疼痛の訴えはなかった.術後点眼としてガチフロキサシン点眼C4回,0.1%ベタメタゾン吉草酸エステル点眼C4回をC1週間使用した.右眼は術後C7日で眼圧C16CmmHg,28日後C15CmmHg,56日後C22CmmHg,77日後C23CmmHgと眼圧下降を認めたが,98日後にC40CmmHgと再上昇した.眼瞼の状態が悪く線維柱帯切除術後の濾過胞維持が困難と予想され,Ahmed-FP7によるチューブシャント手術を予定している.術後の前房炎図1静的視野検査MD値:右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdB.右眼でとくに進行した視野障害を認めた.症は軽度であった.術後C28日の時点でごく軽度のCMEを認めたが,術後C56日の時点では自然軽快しており,以降再発なく経過している(図2).矯正視力は術前ClogMAR換算値0.16に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.40と低下を認め,ME改善後も視力は変化していない.左眼は術後C7日で眼圧C13CmmHg,28日後C14CmmHg,49日後C20CmmHg,79日後C15CmmHgと眼圧下降を認めた.術後の前房炎症は軽度であった.術後C7日後の時点では,MEを認めなかったが,術後C28日で著明なCMEを認め,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)(20mg)を行った.術後C79日でCMEはほぼ消失した(図3).矯正視力は術前logMAR換算値C.0.08に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.52と悪化を認めたが,術後C79日でCMEがほぼ消失するとC0.10と回復した.この間,高眼圧に対する治療としては,MP-CPC術後点眼以外に点眼の追加や内服の追加は行わなかった.STTA後に点眼の追加は行わず,非ステロイド性抗炎症薬(snon-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAID)点眼は使用しなかった.CIII考按MP-CPCは従来型の連続波CPCと比較して遷延性低眼圧,ME,視力低下,眼球勞などの重篤な合併症の率が少ないことが特徴である2,3).MP-CPCは従来型プローブとしてC2017年に日本に導入されたが,先端が大きいため狭瞼裂症例で照射困難をきたすことがあり,先端部分の面積が小さく改良され,プローブ先端が眼球面に沿うように形状が改良されたRev2プローブが導入された.MP-CPCによって組織に供給されるエネルギーに影響を与える既知の因子として,出力,時間,dutyCcycle(実際の照射時間:CycloCG6CGlaucomaCLaserSystemでは,照射時間のC31.3%),sweep時間(プローブを眼球に押し当てて結膜上を滑らす片道移動時間)の四つの変数が報告されている4.6).MP-CPCの有効性と安全性眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図2右眼経過術後C28日でごく軽度の黄斑浮腫を発症したが,経過観察のみで術後C56日で軽快した.術後C98日で眼圧C40mmHgと上昇を認め,チューブシャント手術を予定している.眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図3左眼経過術後C28日で著明な黄斑浮腫を発症し,術後C42日でCSTTAを行った.黄斑浮腫発症に伴い視力低下を認めたが,術後C79日でCMEが改善すると視力も改善傾向を認めた.(130)表1MP-CPCと黄斑浮腫についての既報術前眼圧最終受診眼圧Sweep時間黄斑浮腫視力低下低眼圧眼球勞既報(mmHg)(mmHg)エネルギー(J)(秒)(%)(%)(%)(%)Limetal11)C31.5±12.0C23.8±11.8(術後C2年)31.3.C125.2C10C1.4C13.9C0.5C3.4CWilliamsetal10)C31.9±10.251%眼圧低下(術後C8カ月)75.1.C225.4C-5.0C17.0C8.8C0CLimetal12)C35.2±11.0C31.8±13.2(術後C3年)31.3.C112.7C-2.3C32.6C7.0C4.7CChamardetal13)C24.9±7.1C18.9±6.3(術後C6カ月)C75.1C15C1.4C14.3C1.1C0CdeCrometal15)C23.5±9.4C16.8±9.2(術後C2年)100.2.C112.7C-1.4C24.7C0.7C0のバランスには出力(W)C×時間(s)C×dutycycle(0.313)で計算されるエネルギー(J)が関与すると報告されており7,8),SanchezらはC112.150CJのエネルギーを理想的なレーザーパラメーターとして報告している9).MP-CPC後の合併症として知られるCMEは,その頻度は決して高くなくC1.1.5%程度ではあるが10),視力低下をきたしうる重要な合併症の一つである.従来型プローブを用いた既報ではCLimらはC62.8C±12.2JのCMP-CPC後にC1.4%でMEを発症し,いずれも発症後C3カ月以内に自然消退したと報告している11).また,別の報告ではC31.3J.112.7JのMP-CPC後にC2.3%でCMEを発症し,2カ月以内に自然消退したと報告している12).ChamardらはC75.1CJのCMP-CPC後1週間でC1.1%の症例にCMEを認めたが,自然消退したと報告している13).本症例では両眼ともC125.2CJのCMP-CPC後28日でCMEを発症した.左眼はCSTTAを行ったが,両眼ともCMEの発症時期や軽快までの期間は既報と同程度であった.また,MP-CPC術後に両眼CMEを発症した報告はこれまでになく,きわめてまれと考える(表1)10.14).MEの治療に関して,一般的なCMEの治療としてはNSAIDs点眼やステロイド点眼,長期に効果が持続するSTTAが有効である15).既報ではCMP-CPC後のCMEは自然治癒したが,本症例では左眼のCMEの程度が強く,STTAを行い,STTA後C37日(MP-CPC後C79日)で改善を得た.MP-CPC後のCMEは症例数が少ないためにまだ確立した治療法はなく,STTAの治療が適切であるかどうか今後の検討が必要である.既報との相違点としては,まずCME発症の既報は従来型のCMP-CPCプローブを用いて行われたのに対して,今回は新プローブのCRev2を用いていることと,sweep時間も既報のなかでは長いC20秒であったことである.MEが発症した理由として,一つめは,本症例では重症アトピー症候群および長期間のCFP受容体作動薬使用により眼瞼の状態がきわめて悪く,瞼裂が非常に狭小であった.その平均値±標準偏差ためCRev2を用いても治療に十分な照射スペースを確保することがむずかしく,今回のような狭瞼裂に対しては従来型のプローブよりも容易に照射可能であるが,照射の向きが従来型のプローブと異なり,従来型のプローブでは眼球に対して垂直に照射するのに対して,Rev2では視軸に対して平行に照射する.そのため従来型プローブとCRev2で同じエネルギー照射量であったとしても,Rev2の照射は網膜側に向かうため,エネルギーが散乱することで網膜方向へある程度のレーザーエネルギーが伝わり,炎症性のCMEを惹起した可能性が考えられた.二つめは,sweep時間は術者によって異なる因子であり,片道約C5秒.30秒の間で報告されている4).レーザープローブのCsweepの時間を変化させることで治療効果や副作用を比較した報告はまだないが,同じレーザー出力の設定であってもsweep時間が長くなるほど組織の熱変性が大きくなると考えられ,今回は片道C20秒でレーザープローブをCsweepさせたため,既報のなかではプローブのCsweep時間が長いために熱変性が大きくなり炎症性のMEが生じた可能性が考えられた.三つめは,本症例は両眼とも眼内レンズ強膜内固定術後であり,後.が残っておらず無硝子体眼であったこともCME発症に関与していた可能性がある.ME発症時の僚眼へのCMP-CPCに関して,両眼発症の報告はなく不明だが,片眼でCMP-CPC術後にCMEを生じた場合は僚眼のCMP-CPCによるCMEの発症リスクが通常より高い可能性も十分考えられる.治療の際は僚眼への適応を慎重に考え,術前にはCME発症リスクについて患者に十分に説明したうえで理解を得る必要があると考える.また術後は,眼圧だけでなく,OCTで黄斑部の定期的な検査の必要があると考えられた.CIV結論今回,筆者らはCRev2を使用して両眼にCMP-CPCを行い,両眼にCMEを発症した症例を経験した.Rev2によるMP-CPCでCMEを発症した初めての報告であり,ME発症にはCRev2の照射角度やエネルギー,sweep時間,眼瞼の状態などが関与していた可能性がある.MP-CPC後のCMEの治療としてCSTTAが有効である可能性があるが,さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C36:933-936,C20192)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20153)VarikutiCVNV,CShahCP,CRaiCOCetal:OutcomesCofCmicro-pulsetransscleralcyclophotocoagulationineyeswithgoodcentralvision.JGlaucomaC28:901-905,C20194)AbdelmassihY,TomeyK,KhoueirZ:Micropulsetranss-cleralcyclophotocoagulation.JCurrGlaucomaPractC15:C1-7,C20215)KabaCQ,CSomaniCS,CTamCECetal:TheCe.ectivenessCandCsafetyCofCmicropulseCcyclophotocoagulationCinCtheCtreat-mentCofCocularChypertensionCandCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:181-189,C20206)NguyenCAT,CMaslinCJ,CNoeckerRJ:EarlyCresultsCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CEurCJCOphthalmolC30:700-705,C20207)JohnstoneCMA,CShaozhenCS,CPadillaCSCetal:Microscopereal-timevideo(MRTV)C,high-resolutionOCT(HR-OCT)&histopathology(HP)toCassessChowCtranscleralCmicro-pulselaser(TML)a.ectsCthesclera,CciliaryCbody(CB)C,muscle(CM)C,secretoryCepithelium(CBSE)C,Csuprachoroi-dalspace(SCS)&CaqueousCout.owCsystem.CInvestCOph-thalmolVisSciC60:2825,C20198)SanchezCFG,CPeirano-BonomiCJC,CBrossardCBarbosaCNCetal:UpdateConCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagula-tion.JGlaucomaC29:598-603,C20209)SanchezFG,Peirano-BonomiJC,GrippoTM:Micropulsetransscleralcyclophotocoagulation:aChypothesisCforCtheCidealCparameters.CMedCHypothesisCDiscovCInnovCOphthal-molC7:94-100,C201810)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucomaC27:C445-449,C201811)LimCEJY,CAquinoCCM,CLimCDKACetal:ClinicalCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithCadvancedCglauco-ma.JGlaucomaC30:257-265,C202112)LimEJY,AquinoCM,LunKWXetal:E.cacyandsafe-tyofrepeatedmicropulsetransscleraldiodecyclophotoco-agulationCinCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC30:566-574,C202113)ChamardC,BachouchiA,DaienVetal:E.cacy,safety,andCretreatmentCbene.tCofCmicropulseCtransscleralCcyclo-photocoagulationCinCglaucoma.CJCGlaucomaC30:781-788,C202114)deCCromCR,CSlangenCC,CKujovic-AleksovCSCetal:Micro-pulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCoutcomes.CJCGlauco-maC29:794-798,C202015)ReichenbachCA,CWurmCA,CPannickeCTCetal:MullerCcellsCasCplayersCinCretinalCdegenerationCandCedema.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC245:627-636,C2007***

マイクロフック線維柱帯切開術眼内法術後のゴニオスコープ GS-1 により観察された隅角所見と眼圧の検討

2023年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(2):248.251,2023cマイクロフック線維柱帯切開術眼内法術後のゴニオスコープGS-1により観察された隅角所見と眼圧の検討宮崎稚子*1,2藤原雅史*1,2山本庄吾*1,2吉水聡*1,2横田聡*1,2宇山紘史*1,2松崎光博*1,2酒井大輝*1,2広瀬文隆*1,3栗本康夫*1,2*1神戸市立神戸アイセンター病院*2神戸市立医療センター中央市民病院*3新神戸ひろせ眼科CIntraocularPressureandGonioscopicFindingsObservedbytheGonioscopeGS-1360-DegreeOphthalmicCameraafterMicrohookAbInternoTrabeculotomyWakakoMiyazaki1,2),MasashiFujihara1,2),ShogoYamamoto1,2),SatoruYoshimizu1,2),SatoshiYokota1,2)CUyama1,2),MitsuhiroMatsuzaki1,2),DaikiSakai1,2),FumitakaHirose1,3)andYasuoKurimoto1,2)C,Hirofumi1)KobeCityEyeHospital,2)KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)HiroseEyeClinicC目的:マイクロフック線維柱帯切開術眼内法(μLOT)術後のゴニオスコープCGS-1(ニデック)による隅角所見と眼圧の関連の検討.対象および方法:2021年C1.3月に神戸アイセンター病院にてCμLOTを施行した連続C29例C33眼中,白内障手術以外の内眼手術の既往がなく,術後CGS-1による撮影ができた続発性を含む緑内障C18眼(両眼の場合C1眼目)を対象に,GS-1による隅角所見,眼圧,緑内障点眼スコアを後向きに検討した.結果:平均眼圧および点眼スコアは術前C25.2±10.2CmmHg,3.9±1.1に対して平均観察期間C6.3±2.2カ月でC11.0±2.7CmmHg,2.0±1.4と有意に下降した(p<0.01)(ANOVA+Dunnett検定).術後CGS-1にて周辺虹彩前癒着(PAS)がC10眼(56%)に認められた.PASの有無で,全時点での眼圧に明らかな有意差は認められなかった(最終平均眼圧:15.6±4.8CmmHgCvsC12.6±4.0CmmHg)(t検定).結論:GS-1によりCμLOT術後早期にCPASが高率に認められたが,術後C6カ月の期間では眼圧に影響は認められなかった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCassociationCbetweenCperipheralCanteriorsynechiae(PAS)andCintraocularCpres-sure(IOP)afterCmicrohookCab-internotrabeculotomy(μLOT)usingCtheCGonioscopeGS-1(NIDEK)360-degreeCophthalmiccamera.SubjectsandMethods:Of33consecutiveeyesof29patientswhounderwentμLOTorcom-binedμLOTandcataractsurgeryasaninitialsurgery,weretrospectivelyreviewedtheIOP,glaucomaeye-dropmedicationscore,andthedevelopmentofPASusingtheGonioscopeGS-1in18eyeswithglaucoma.Results:ThemeanIOPandmedicationsscoredecreasedfrom25.2±10.2CmmHgand3.9±1.1beforesurgeryto11.0±2.7CmmHgandC2.0±1.4CatC6.3±2.2CmonthsCaftersurgery(p<0.01)(ANOVA+Dunnett’stest).CIn10(56%)ofCtheC18Ceyes,CPASwasobserved,yetnocorrelationwasfoundbetweenthedevelopmentofPASandthemeanIOP(i.e.,15.6±4.8CmmHgbeforesurgeryvs.12.6±4.0CmmHgat.nalfollow-up)(t-test).Conclusion:TherateofPASformationafterCμLOTCdetectedCusingCtheCGonioscopeCGS-1CwasCsigni.cantlyChigh,CbutCwasCnotCassociatedCwithCIOPCatC6-monthspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(2):248.251,C2023〕Keywords:線維柱帯切開術,谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック,ゴニオスコープCGS-1,周辺虹彩前癒着,緑内障.trabeculotomy,Tanitomicrohookabinterno,360-degreegonio-camera,peripheralanteriorsyn-echia,glaucoma.Cはじめにあるものの安全性に優れ,おもに線維柱帯にその病因がある線維柱帯切開術は,線維柱帯切除術に比べ効果は限定的でとされる落屑緑内障,ステロイド緑内障や発達緑内障などを〔別刷請求先〕宮﨑稚子:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院Reprintrequests:WakakoMiyazaki,M.D.,KobeCityEyeHospital,2-1-8,Minatojima-minami-machi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANC248(110)中心に高い効果が報告されてきた1.4).近年,機器の進歩などに伴い,minimallyCinvasiveCglaucomasurgery(MIGS)が盛んになってきた.そのなかでも谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフックを用いた線維柱帯切開術眼内法(microhookab-internotrabeculotomy,以下CμLOT)は,短い手術時間と比較的軽い患者への負担で線維柱帯切開を行うことができる5).一方,μLOT術後には切開象限を中心に周辺部虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)が高頻度で形成されることが報告されている.ゴニオスコープCGS-1(GS-1)は360°の隅角写真が一度の撮像で得られるため,PASの経時的な形成が簡便かつ客観的に検出可能である6).続発緑内障を含むCμLOTの術後にはCPAS形成の頻度の上昇の可能性が考えられるが,その眼圧に与える影響は知られていない.今回CμLOT術後のCGS-1による隅角所見と眼圧の検討を行ったので報告する.CI対象および方法2021年C1.3月に神戸アイセンター病院(以下,当院)にて複数人の医師がCμLOTを施行した連続C29例C33眼中,白内障手術以外の内眼手術の既往がなく,医師の指示のもと術後CGS-1による撮影がされたC18眼を対象とした.両眼手術の場合はC1眼目のみとした.一般的に続発緑内障は線維柱帯切開術眼外法の適用外となることが多いが,炎症が軽微かつ落ち着いている場合は,消炎に用いられたステロイドの影響も鑑み,侵襲の低いCμLOTであれば炎症を励起する危険性が低く,将来の濾過手術に結膜を温存できるなど有用性が上回ると考え,手術対象とした.術中に切開範囲内にCPASを認めた場合は,谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフックを用いて解離した後,線維柱帯を切開した.平均切開範囲は鼻側を中心としてC186C±36.4°(120.240°),平均観察期間はC6.3C±2.2カ月,平均年齢はC73.1C±13.1歳,男性C11眼,女性C7眼であった.病型別では原発開放隅角緑内障C8眼,落屑緑内障C6眼,特発性ぶどう膜炎による続発緑内障C4眼であった.白内障手術併用はC8眼,単独はC10眼(有水晶体眼はC2眼)であった.GS-1による撮影は術後C1.8カ月まで行った.GS-1は隅角を360°カラー撮影し,自動でC16枚に分割した画像を環状に再構成しており,そのうちCPASが出現している画像数の割合をCPASの割合とした.術後全例に抗菌薬,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム液,ピロカルピン塩酸塩液を投与した.基本的にはC3カ月以内で点眼中止しているが,続発緑内障の患者を中心に術後炎症の程度に応じてフルオロメトロン液に漸減し,最大C8カ月間投与とした.また,術前から続発性の要素を認めた患者や,術前は開放隅角緑内障であると思われたものの,術中線維柱帯前面に透明な膜が形成されていることが判明し,その切開を要した場合は,炎症を惹起しやすいと考え,術当日からプレドニゾロン錠C10Cmg3日間の内服を追加した(6眼).なお,術前にCPASを認めず術中切開部に膜の存在が判明した場合は,μLOTを施行しなければ開放隅角緑内障として扱われていたものであり,またその成因が不明であることより,本研究では開放隅角緑内障として分類した.眼圧,緑内障薬剤スコア,GS-1によるCPASの割合を後向きに検討した.薬剤スコアは緑内障点眼薬C1種類につきC1点(配合剤はC2点),アセタゾラミド内服はC2点とした.眼圧および薬剤スコアはCrepeated-measureCanalysisCofCvari-ance(ANOVA)を用いて検定し,有意差が認められた場合はCDunnett法を用いて検定した.隅角所見として術後C4カ月の時点でCPASを認めた群と認めなかった群に分け,眼圧経過をCunpairedCStudentt-testを用いて検定した.また,目標眼圧を術前眼圧のC30%下降とし,生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず目標眼圧をC2回連続で越えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点としてCKaplan-Meierの生命曲線を用いて作成し,群間の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は当院倫理委員会の承認を得て施行した.CII結果術前および術後C1,2,3,6カ月の平均眼圧はそれぞれC25.2±10.2,15.9C±4.3,16.9C±6.4,14.4C±3.9,11.0C±2.7mmHgであり,平均薬剤スコアはそれぞれC3.9C±1.1,1.6C±1.7,1.2C±1.4,1.6C±1.5,2.0C±1.4であった.術後すべての時点で術前と比較して有意に平均眼圧は低下し,薬剤スコアは減少していた(p<0.01,ANOVA)(図1,2).術前に全例隅角鏡で隅角所見を確認したところ,全C18症例中C4例にCPASを認めた.いずれの症例でもCPASindexは50%以下であった.術後はCGS-1を用いて経時的にCPASを観察し,全C18症例中術後C1カ月では新たにC7例,術後C4カ月ではさらにC3例増え,最終的に合計C10例に認めた(図3).術後C1,2,3,4,5,6カ月目のCPASの割合はそれぞれC0.09C±0.13,0.11C±0.19,0.16C±0.23,0.21C±0.23,0.21C±0.23,C0.21±0.23であった.術後C1カ月目と比較し術後C6カ月目で57%増加しており有意な増加を認めた(p=0.05,ANOVA).また,いずれの症例でもCPASはテント状のものが散見されるのみで,PASindexがC50%を超える症例は認められなかった.PASを認めた症例のうち切開範囲に一致していたのはC9例で,1例は切開範囲外にもCPASを認めた.PASを認めた群の術前および術後C1,2,3,6カ月の平均眼圧はそれぞれC24.3C±10.2,16.1C±4.4,17.2C±7.1,14.9C±3.4,15.3C±7.6mmHgであり,認めなかった群ではC26.3C±35530薬剤スコア眼圧(mmHg)201510321500-1術前123456経過期間(月)(mean±SD)経過期間(月)(mean±SD)図1術前および術後の平均眼圧の経過図2平均薬剤スコア術後すべての観察期間で術前と比べて有意な眼圧下降効果を認め術後すべての観察期間で術前と比べて有意な平均薬剤スコアの減た(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).少を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C40眼圧(mmHg)35302520151050術前123456経過期間(月)(mean±SD)図4PASの有無での眼圧経過両群とも術後有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,unpairedCStudentt-test)が,いずれの時期においても両群の眼圧経過に有意差を認めなかった.C1009087.5%80生存率(%)7070.0%605040PAS+図3GS-1で得られた同一眼の隅角画像30a:術後C1カ月(C.).b:術後C4カ月でCPASを新たに認めた(.).10.8,15.8C±4.5,16.6C±5.8,14.0C±4.5,14.0C±4.1CmmHgであった.両群間においてすべての時点で眼圧に有意な差は認めなかった(p>0.05,unpairedCStudentt-test)(図4).術後C6カ月の時点での生存率はCPASを認めた群でC70%,認めなかった群でC87.5%であり,両群間で有意な差は認めなかった(p=0.33)(図5).なお,経過観察期間中に再手術を要した症例はなかった.また,術中術後に前房内出血(11例)と20100012345PAS-67生存期間(a)図5PASの有無での生存曲線目標眼圧を術前眼圧からC30%の眼圧下降とした.死亡の定義は緑内障点眼薬の有無にかかわらず目標眼圧をC2回連続で越えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.両群間で有意な差は認めなかった(p=0.33,Logranktest).一過性の眼圧上昇(3例)以外の重篤な合併症は認めなかった.CIII考按今回の検討ではC25.2C±10.2mmHgからC11.0C±2.6CmmHgへとC56%の眼圧下降しており,平均薬剤スコアはC3.9C±1.1からC2.0C±1.4に減少していた.既報では術後C6.2カ月でC25.9C±14.3CmmHgからC14.3C±3.6CmmHgへとC44%の眼圧下降効果があり,点眼スコアはC3.3C±1.0からC2.8C±0.8に減少すると報告されており5),本検討は既報と同程度の効果が得られた.μLOT術後のCPASの有無についてCGS-1を用いて評価したところ,PASを認めた症例はC56%であった.Matsuoらの報告では続発緑内障を除く開放隅角緑内障に対するCμLOT術後の症例C86%にCPASが発生しており6),今回の検討では続発性を含むにもかかわらず,それに比してやや低率であった.本研究は症例数が少なく観察期間が短いことや,GS-1において,眼位などによるイメージクオリティの問題から一部検出できていない可能性は否定できない.術後生じたCPAS形成の有無でC2群に分け,両群間で眼圧経過に関して検討したが,有意な差は認められなかった.いくつかの研究では,PASindexがC50%以上認めると有意に眼圧上昇するとの報告があるが7.9),今回はCPASindexが50%を超えたものがなく,程度が軽かったことが要因の一つとなった可能性が考えられる.今回の検討ではC1例を除くすべての症例が切開範囲に一致してCPAS形成を認めていた.PAS形成の原因は炎症反応に伴うことが知られており10),切開に伴う炎症がCPAS形成に関与している可能性や,切開範囲に一致してCPASが形成されている場合には線維柱帯切開に伴う房水流出の増大により虹彩が切開部位に嵌頓している可能性などが考えられる.また,術C4カ月後にもかかわらずCPASが別の部位に増加している症例や新たに形成されている症例もあり,術後長期間にわたって検眼鏡的には検出できないほどの弱い炎症が続いている可能性もあり,今後さらなる検討が必要である.また,今回の検討では,対象となった炎症が軽微かつ落ち着いている続発緑内障眼全例で有意な眼圧下降効果を認めているが,術後に新たにCPAS形成を認めた.予想されたとおり続発緑内障においてはCPAS形成の頻度は高いものの,術後早期にステロイド内服を併用することで全例テント状PASが散見される程度の軽度なものに抑制され,短期間の眼圧への影響も認められなかったため,μLOTは炎症が軽微かつ落ち着いている続発緑内障にも有効である可能性がある.しかし,今回は短期間の観察であったため長期的には炎症再燃,PASの増加や眼圧上昇などの可能性は否定できない.CIV結論炎症が軽微かつ落ち着いている続発性を含む緑内障眼において,GS-1によりCμLOT術後早期からCPASが高率に認められたが,術後十分な消炎を行えば,PASを認めた群と認めなかった群ともに術後C6カ月で有意に眼圧は低下し,点眼スコアは減少していた.また,両群間の眼圧経過や薬剤スコアに有意な差は認めなかった.今後,PASの増悪と眼圧の長期的な経過観察が必要である.文献1)ChiharaCE,CNishidaCA,CKodoCMCetal:TrabeculotomyCabexterno:anCalternativeCtreatmentCinCadultCpatientsCwithCprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurgC24:735-739,C19932)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19933)TanitoM,OhiraA,ChiharaE:Surgicaloutcomeofcom-binedCtrabeculotomyCandCcataractCsurgery.CJCGlaucomaC10:302-308,C20014)TanitoCM,COhiraCA,CChiharaE:FactorsCleadingCtoCreducedCintraocularCpressureCafterCcombinedCtrabeculoto-myandcataractsurgery.JGlaucomaC11:3-9,C20025)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:e354-e360,C20176)MatsuoCM,CInomataCY,CTanitoCMCetal:CharacterizationCofperipheralanteriorsynechiaeformationaftermicrohookCab-internotrabeculotomyusinga360-degreegonio-cam-era.ClinOphthalmolC15:1629-1638,C20217)ZhangCM,CMaoCGY,CYeCCCetal:AssociationCofCperipheralCanteriorsynechia,intraocularpressure,andglaucomatousopticCneuropathyCinCprimaryCangle-closureCdiseases.CIntJOphthalmolC14:1533-1538,C20218)LeeJY,KimYY,JungHR:istributionandcharacteristicsofCperipheralCanteriorCsynechiaeCinCprimaryCangle-closureCglaucoma.KoreanJOphthalmolC20:104-108,C20069)FosterCPJ,CMachinCD,CSeahCSKCetal:DeterminantsCofCintraocularpressureanditsassociationwithglaucomatousopticCneuropathyCinCChineseSingaporeans:theCTanjongCPagarCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC44:3885-3891,C200310)RouhiainenCHJ,CTerasvirtaCME,CTuovinenEJ:PeripheralCanteriorCsynechiaeCformationCafterCtrabeculoplasty.CArchCOphthalmolC106:189-191,C1988***

当科における10 年間の感染性角膜潰瘍の起炎菌と薬剤感受性

2023年2月28日 火曜日

当科における10年間の感染性角膜潰瘍の起炎菌と薬剤感受性柴田学張佑子曽田里奈塚本倫子中路進之介南泰明鈴木智地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科CAlterationofCausativeBacteriaandDrugSusceptibilityinCasesofInfectiousCornealUlcerGakuShibata,YukoCho,RinaSoda,MichikoTsukamoto,ShinnosukeNakaji,YasuakiMinamiandTomoSuzukiCDepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospitalC目的:感染性角膜潰瘍(ICU)の起炎菌と薬剤感受性についての検討.対象および方法:2010年C4月.10年間にICUと診断したC97例C101眼を対象に,患者背景,起炎菌とその薬剤感受性,臨床的特徴を診療録によりレトロスペクティブに検討した.結果:50歳未満(46例)は,コンタクトレンズ装用者がC91.3%を占め,起炎菌はメチシリン感受性表皮ブドウ球菌(MSSE)が最多であった.50歳以上(51例)では,起炎菌は角膜上下方の感染ではCMSSE(27.6%),中央部ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が最多であった(17.4%).耐性菌は検出菌のC4割以上を占め,緑内障点眼使用者でその割合が有意に高かった(p<0.05).緑内障とマイボーム腺機能不全(MGD)の双方を合併したC6例中,4例で耐性菌が検出された.結論:ICUでは,常在細菌叢の加齢性変化に加え,緑内障やCMGDなどの患者背景,耐性菌を念頭において診療にあたることが重要である.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcausativeCbacteriaCandCdrugCsusceptibilityCinCcasesCofCinfectiousCcornealCulcer(ICU)C.Methods:InC101CeyesCofC97CpatientsCdiagnosedCwithCICUCfromCAprilC2010CtoCMarchC2020,CpatientCback-ground,CcausativeCbacteriaCandCtheirCdrugCsusceptibility,CandCocularC.ndingsCwereCretrospectivelyCinvestigated.CResults:InCpatientsCunderC50Cyearsold(n=46cases)C,91.3%CwereCcontactClensCwearers,CandCtheCmostCcommonCcausativebacteriumwasMethicillin-susceptibleStaphylococcusepidermidis(MSSE)C.Inpatientsover50yearsold(n=51cases)C,themostcommoncausativebacteriuminupperandlowerregioncornealinfectionswasMSSE(27.6%)C,CwhileCinCcentralCcornealCregionCtheCinfectionCwasCMethicillin-resistantCStaphylococcusaureus(17.4%)C.Morethan40%CofCtheCcausativeCbacteriaCwereCresistantCtoCantibiotics,CandCtheCproportionCofCdrug-resistantCorganismsCwasCsigni.cantlyChigherCinCglaucomaCeyeCdropusers(p<0.05)C.CInC4CofC6CpatientsCwithCglaucomaCandCmeibomianCglanddysfunction,drug-resistantbacteriaweredetected.Conclusion:InICUcases,itisimportanttounderstandtheage-relatedalterationofcommensalbacteriaandthepatientbackground.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(2):243.247,C2023〕Keywords:感染性角膜潰瘍,起炎菌,薬剤感受性,緑内障,マイボーム腺機能不全.infectiouscornealulcer,causativebacteria,drugsusceptibility,glaucoma,meibomianglanddysfunction(MGD)C.Cはじめに角膜感染症は,早期に診断し効果的な治療ができなければ永続的な視力低下を生じうる疾患である.若年者ではコンタクトレンズ(contactlens:CL)の不適切な使用に伴う角膜上皮障害をきっかけとするケースが多い一方,高齢者では,ドライアイ,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddys-function:MGD),眼瞼内反症,緑内障点眼の長期使用など,さまざまな患者背景に起因する角膜上皮障害をきっかけに感染を生じることが多いと考えられている1).近年,周術期を含めた抗菌薬の過度な使用は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)やキノロン耐性コリネバクテリウム属をはじめとする薬剤耐性菌を生じ,これらの細菌に起因した重症の角膜感染症へとつながることが報告されている2,3).一方,健常者のマイボーム腺,結膜.,眼瞼皮膚の常在細菌叢は加齢とともに変化し4),とくにCMGD患者では結膜.の常在細菌叢が変化する〔別刷請求先〕柴田学:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:GakuShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2MibuHigashitakadacho,Nakagyo-ku,Kyoto-shi,Kyoto604-8845,JAPANC50歳未満50歳以上症例数,眼数46例49眼51例52眼年齢C30.4±9.4歳C70.2±11.5歳性別(男性/女性)C21/25C23/28マイボーム腺機能不全合併9例(1C9.6%)23例(C45.1%)(p=0.008)コンタクトレンズ装用42例(C91.3%)10例(C19.6%)(p<0C.001)緑内障点眼使用0例(0%)12例(C23.5%)(p<0C.001)(例)25201510500~910~1920~2930~3940~4950~5960~6970~79■症例数■MGD合併症例数■緑内障点眼使用症例数図1年代別感染性角膜潰瘍症例数80~8990~99(歳)各年代におけるマイボーム腺機能不全(MGD)合併症例数,緑内障点眼使用症例数を合わせて表示した.と報告されている5).また,緑内障点眼を使用している患者のC82%はCMGDを合併し6),長期間の緑内障点眼治療により眼表面常在細菌叢が変化することも報告されている7).そこで,今回筆者らは,当院で過去C10年間に経験した感染性角膜潰瘍の患者について,起炎菌とその薬剤感受性,患者背景(とくにCMGDの合併や緑内障点眼使用の有無)についてレトロスペクティブに検討したので報告する.CI対象および方法対象は,2010年4月1日.2020年3月31日の10年間に当院で感染性角膜潰瘍と診断されたC97例である.感染性角膜潰瘍の診断は細隙灯顕微鏡による角結膜所見(角膜細胞浸潤・潰瘍の部位,形状,深さ,前房蓄膿の有無,結膜充血など)から行った.ウイルス性角膜炎,慢性移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)による重症ドライアイを合併した症例は除外した.結膜.培養および角膜擦過培養検査,検出菌の薬剤感受性,前眼部所見(角膜感染巣の部位,MGDの有無),CL装用歴,緑内障点眼使用の有無,診断日から治癒までの期間を診療録によりレトロスペクティブに検討した.感染巣の部位は,瞳孔径によらず角膜を上方・中央・下方と三つの部位に均等に分け,上方・下方をまとめて上下方とした.MGDは,2010年に日本で制定された分泌減少型CMGDの診断基準8)に基づいて,マイボーム腺開口部周囲異常所見(血管拡張,粘膜皮膚移行部の前方または後方移動,眼瞼縁不整),マイボーム腺開口部の閉塞所見,マイボーム腺分泌物の圧出低下から診断した.CL使用歴は発症時に装用していた症例を対象とし,緑内障点眼使用については,発症時より遡ってC1年間以上緑内障点眼を継続していた症例を対象とした.各数値は平均値C±標準偏差(standarddeviation:SD)で表記し,統計学的検討にはCt検定を行い,p<0.05を有意水準とした.CII結果対象の詳細を表1に示す.97例C101眼の平均年齢はC51.0C±22.6歳であった.50歳未満(46例C49眼)とC50歳以上(51例C52眼)の各群の平均年齢はそれぞれC30.4C±9.4歳とC70.2C±11.5歳であり,両群とも性差を認めなかった.MGDの合併は全体のC33.0%(32例)で認め,50歳未満のC19.6%(9例),50歳以上のC45.1%(23例)であった.CL装用歴は全体の53.6%(52例)で認め,50歳未満のC91.3%(42例),50歳以上のC19.6%(10例)であった.緑内障点眼の使用症例は全例がC50歳以上であり,23.5%(12例)を占めていた.診断か陰性51.2%MSSE30.2%陰性32.6%MSSE32.6%MSSA4.7%その他8.7%CCorynebacteriumその他S.lugdunensis4.7%CMSSACMRSA8.7%7.0%Corynebacterium2.3%6.5%8.7%MRSE2.2%図2結膜.培養検出菌MSSE:メチシリン感受性表皮ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSE;メチシリン耐性表皮ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.Ca上下方(n=27)中央(n=23)CMSSE18.5%CMSSE不明不明26.1%51.9%CMSSA34.8%7.4%CPseudomonasaeruginosaCSerratia7.4%8.7%CSteptococcusspecies7.4%アカントアメーバCMRSECMRSA8.7%Corynebacterium3.7%4.3%4.3%CSteptococcusspeciesS.lugdunensis3.7%4.3%Moraxellacatarrhalis4.3%Enterococcusfaecalis4.3%Cb上下方(n=29)中央(n=23)CMRSA不明CMSSE不明17.4%27.6%27.6%26.1%CMSSECStaphylococcushaemolyticus13.0%CStenotrophomonasmaltophilia3.4%CMSSA4.3%CMRSEC.acnes3.4%13.8%肺炎球菌4.3%8.7%Serratia3.4%CMRSECMRSACMoraxellacatarrhalis真菌10.3%10.3%4.3%CMSSA8.7%CCorynebacterium4.3%8.7%図3角膜の感染部位別起炎菌a:50歳未満,Cb:50歳以上.MSSE:メチシリン感受性表皮ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSE;メチシリン耐性表皮ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.ら治癒までの平均日数はC47.6C±57.7日で,50歳未満では症例数および各年齢層におけるCMGD合併症例数と緑内障点C27.9±26.7日,50歳以上ではC65.5C±70.0日であり,50歳以眼使用症例数を図1に示した.年代別症例数では,20歳代上の群でC2倍以上長い結果となった.10歳ごとの年代別のとC70歳代に二峰性のピークを認めた.また,MGD合併症例数はC60.70歳代で,緑内障点眼使用症例数はC70歳代でピークを示した.50歳未満50歳以上上下方中央上下方中央診断から治癒までの日数Cマイボーム腺機能不全合併コンタクトレンズ装用緑内障点眼使用19.2±17.1日C38.3±33.0日C(p=0.05)3例(1C2.5%)6例(2C7.3%)21例(C87.5%)20例(C90.9%)0例(0C.0%)0例(0C.0%)34.9±47.3日C91.7±74.8日(p=0.04)15例(C53.6%)9例(3C9.1%)5例(1C7.9%)5例(2C1.7%)4例(1C4.3%)8例(3C4.8%)結膜.培養検査による検出菌の割合を図2に示す.細菌は50歳未満の群のC48.8%,50歳以上の群のC67.4%から検出され,検出菌は,両群ともメチシリン感受性表皮ブドウ球菌(methicillin-susceptibleCStaphylococcusCepidermidis:MSSE)が最多となり,50歳以上の群ではコリネバクテリウム属,MRSA,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicil-lin-susceptibleCStaphylococcusaureus:MSSA),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusepidermidis:MRSE)と続き,ブドウ球菌属がC52.2%を占めた.一方で,角膜擦過培養検査では,50歳未満ではC16人中2人,50歳以上ではC24人中C10人が陰性であった.50歳以上からの検出菌のうちC60%がブドウ球菌属,20%がコリネバクテリウム属であった.50歳未満,50歳以上の症例において,各種培養結果や臨床経過から推察された起炎菌を感染部位別にまとめたものをそれぞれ図3に,部位別の臨床像の比較を表2に示す.起炎菌は,各症例の角膜潰瘍擦過塗抹鏡検および培養検査結果(角膜潰瘍部,結膜.,CL,CLケースなど)や,細隙灯顕微鏡による角膜所見(角膜潰瘍の部位,程度,前房蓄膿の有無)および結膜,眼瞼縁の所見,当科受診までの抗菌薬治療歴,当科での抗菌薬治療効果から総合的に推測した.50歳未満では(図3a),上下方,中心とも起炎菌はCMSSEがもっとも多く,中央部の感染でC2例アカントアメーバ角膜炎を認めた.50歳以上では(図3b),上下方の感染の起炎菌はCMSSEがもっとも多く,その他のブドウ球菌属を含めると全体のC60%以上を占めた.中央部の感染の起炎菌はMRSAがもっとも多く,ブドウ球菌属のほか,コリネバクテリウム属や真菌によるものも認めた.50歳以上の症例における診断から治癒までの日数の平均は,上下方の感染ではC34.9±47.3日,中央部の感染ではC91.7C±74.8日であり,中央部の感染で有意に長い結果となった(p=0.004).これら起炎菌のうち薬剤感受性が明らかとなった細菌はC31例から検出され,そのうちレボフロキサシン,ガチフロキサシン,セフメノキシムのいずれかに耐性を有する細菌はC14例で検出された.感染部位の違いやCMGDの有無では耐性菌の割合に明らかな差異を認めなかった.しかし,緑内障点眼の使用群では未使用群と比較して耐性菌の割合が有意に高い結果となった(p=0.049).また,緑内障とCMGDの双方を合併したC6例中,4例で耐性菌(うち,3例でCMRSA)が検出された.CIII考按正常角膜では角膜表面を重層扁平上皮細胞が覆い,上皮細胞間は多数のデスモゾームで連なり,とくに最表層上皮細胞はCZO-1やCclaudineなどのCtightCjunction関連蛋白の発現さらには膜結合型ムチンにより強固なバリア機能を保持している9,10).さらに角膜上皮細胞はCdefensinなどの抗菌物質の発現により細菌微生物の侵入を阻止しているが,何らかの原因で上皮細胞が障害を受けると,微生物の侵入,付着が起こりやすくなり感染症発症の誘引となる11).今回,年代別の検討では,既報と同様にC20歳代とC70歳代に二峰性のピークを認めた12,13).50歳以下の群のC91.3%にCCL装用歴を認め,検出菌はCMSSEが最多であったことから,若年者ではCCL装用による上皮障害をきっかけとした常在細菌による感染症がおもなものであることが再確認された.CL装用者に生じる重傷の感染性角膜潰瘍ではC35%程度でアカントアメーバが原因とされるが14),本検討では,放射状角膜神経炎など典型所見を認め,アカントアメーバ角膜炎の治療が奏効した症例はC2例のみであり,その他の症例では放射状角膜神経炎は認めず,抗菌治療が奏効したことからアカントアメーバの関与はないと考えた.一方,70歳代では,MGD合併例や緑内障点眼使用例の割合が高く(37.5%),コリネバクテリウムやMRSAの検出も増加していた.加齢に伴いマイボーム腺機能は低下しCMGD有病率が増加すること15),緑内障点眼使用によりCMGDの有病率が増加することも報告されている6).加齢や緑内障点眼に合併するCMGDによって常在細菌叢が変化し,角膜感染症の発症に影響している可能性が推測された.今回,結膜.培養検査で細菌が検出された症例では,50歳未満の症例のC90.5%,50歳以上の症例のC80.6%がグラム陽性球菌であり,既報(51.7%)と比べても割合が高く12),この結果も眼表面の常在細菌による角膜感染の割合が増加している可能性を示していると考えられた.一方,角膜擦過培養の検出率はC30.0%であり,既報(36.1%)と比べてやや低い結果であった12).当院では,感染性角膜潰瘍の患者の多くが紹介患者であり,すでに前医で抗菌点眼薬の処方が開始されており細菌の検出率が低くなった可能性が考えられた.角膜の感染部位別では,中央部の感染でキノロン系,セフェム系抗菌薬への耐性菌の割合が高く,上下方の感染と比べ治癒までの日数が有意に長い結果となった.これは,既報と同様に16),角膜中央部は,無血管なため生体反応が生じにくく,感染が成立,拡大しやすいためと考えられた.一方,角膜上方および下方は眼瞼縁との距離が近く,前部眼瞼縁の睫毛や皮膚,後部眼瞼縁のマイボーム腺や眼瞼結膜などの常在細菌叢の変化の影響を受けやすいと想像された.また,ドライアイやCMGDで生じうる角膜下方の慢性的な点状表層角膜症には17),細菌が感染しうると考えられる.緑内障患者では,緑内障点眼による角膜上皮バリア機能障害1)が感染のきっかけになる可能性,緑内障点眼によるCMGDの影響でマイボーム腺内常在細菌叢の変化が生じている可能性などが考えられる.ただし,緑内障点眼薬の長期使用による眼表面常在細菌叢の変化6)については,緑内障点眼の多くに防腐剤として添加されている塩化ベンザルコニウムの影響である可能性が指摘されている2).一般的に緑内障に対する点眼治療は両眼に点眼されている場合が多く,片眼の細菌性角膜潰瘍として治療を開始する際,僚眼のCMGDの有無や角膜上皮障害の有無などの所見が患眼の治療の手がかりとなる.今回の検討により,とくに高齢者の角膜感染症では,加齢に伴う常在細菌叢の変化に加え,緑内障点眼やCMGDなどの患者背景を考慮し,常に耐性菌の可能性を念頭において診療にあたることが重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)InoueCK,COkugawaCK,CKatoCSCetal:OcularCfactorsCrele-vanttoanti-glaucomatouseyedrop-relatedkeratoepitheli-opathy.JGlaucomaC12:480-485,C20032)DeguchiH,KitagawaK,KayukawaKetal:ThetrendofresistanceCtoCantibioticsCforCocularCinfectionCofCStaphylo-coccusCaureus,Ccoagulase-negativeCstaphylococci,CandCCorynebacteriumCcomparedCwithC10-yearsprevious:ACretrospectiveCobservationalCstudy.CPLoSCOneC13:Ce0203705,C20183)AokiCT,CKitazawaCK,CDeguchiCHCetal:CurrentCevidenceCforCCorynebacteriumConCtheCocularCsurface.CMicroorgan-isms9:254,C20214)SuzukiCT,CSutaniCT,CNakaiCHCetal:TheCmicrobiomeCofCthemeibumandocularsurfaceinhealthysubjects.InvestOphthalmolVisSciC61:18,C20205)DongX,WangY,WangWetal:Compositionanddiver-sityCofCbacterialCcommunityConCtheCocularCsurfaceCofCpatientsCwithCmeibomianCglandCdysfunction.CInvestCOph-thalmolVisSci60:4774-4783,C20196)KimJH,ShinYU,SeongMetal:EyelidchangesrelatedtoCmeibomianCglandCdysfunctionCinCearlyCmiddle-agedCpatientsCusingCtopicalCglaucomaCmedications.CCorneaC37:C421-425,C20187)OhtaniS,ShimizuK,NejimaRetal:Conjunctivalbacte-riaC.oraCofCglaucomaCpatientsCduringClong-termCadminis-trationCofCprostaglandinCanalogCdrops.CInvestCOphthalmolCVisSciC58:3991-3996,C20178)天野史郎:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科C27:627-631,C20109)木下茂:OcularSurfaceの神秘を探る.臨眼58:2086-2994,C200410)BanCY,CDotaCA,CCooperCLJCetal:TightCjunction-relatedCproteinexpressionanddistributioninhumancornealepi-thelium.ExpEyeResC76:663-669,C200311)FleiszigCSMJ,CKrokenCAR,CNietoCVCetal:ContactClens-relatedcornealinfection:Intrinsicresistanceanditscom-promise.ProgRetinEyeResC76:100804,C202012)阿久根穂高,佛坂扶美,門田遊ほか:2012年からC2年間の久留米大学眼科における感染性角膜炎の報告.あたらしい眼科37:220-222,C202013)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現状─.日眼会誌110:961-971,C200614)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C201115)DenCS,CShimizuCK,CIkedaCTCetal:AssociationCbetweenCmeibomianglandchangesandaging,sex,ortearfunction.CorneaC25:651-655,C200616)稲富勉:角膜感染所見を見落とさない所見の見方と考え方.あたらしい眼科19:971-977,C200217)鈴木智:マイボーム腺機能不全に関連した角膜症.COCULISTAC59:42-47,C2018***

Amsler チャートによる緑内障性傍中心視野障害検出の検討

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):118.121,2023cAmslerチャートによる緑内障性傍中心視野障害検出の検討松岡孝典佐藤大樹西垣誠士部坂優子雲井美帆辻野知栄子松田理大鳥安正独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科CExaminationofParacentralVisualFieldDefectsinGlaucomabyAmslerChartTakanoriMatsuoka,HirokiSatou,SeijiNishigaki,YukoHesaka,MihoKumoi,ChiekoTsujino,SatoshiMatsudaandYasumasaOtoriCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospitalC目的:緑内障の傍中心視野障害検出に対するCAmslerチャートの有用性を検討すること.対象および方法:大阪医療センター眼科を受診し,HumphreyCFieldCAnalyzerCSITA-FAST10-2(以下,HFA10-2)とCAmslerチャート(Whiteonblack)を施行したC22例C22眼を対象とした.Amslerチャートによる傍中心視野障害の検出率をCHFA10-2と比較し,感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を検討した.両眼とも緑内障の場合は,MD値が低値である眼を選択した.患者背景は,平均年齢C61.1±12.3歳,平均CMD値(HFA10-2).13.5±7.4CdB,中心窩閾値C31.3±8.1CdB.それぞれの検査における異常ありの定義は,Amslerチャート:暗点あり,HFA10-2:パターン偏差で連続するC3点に危険率C5%以下の感度低下があり,そのうちのC1点が危険率C1%以下であるものとした.結果:Amslerチャートの傍中心視野障害の検出率は,感度C85%(17/20),特異度C100%(2/2),陽性的中率C100%(17/17),陰性的中率C40%(2/5)であった.Amslerチャートで認めた暗点は,すべてCHFA10-2の視野障害の部位と一致した.結論:Amslerチャートは,緑内障における傍中心視野障害のスクリーニング方法として用いることが可能である.CPurpose:ToexaminetheusefulnessoftheAmslerchartfordetectingparacentralvisual.elddefectsinglau-coma.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC22CeyesCofC22CpatientsCwhoCunderwentCHumphreyCFieldCAnalyzerCSITA-FAST10-2(HFA10-2)andAmslerchart(whiteonblack)visual.eldtests.Ifbotheyeshadglaucoma,theeyewiththelowermeandeviation(MD)valuewasincluded.Patientbackgroundwasasfollows:ameanageof61.1C±12.3years,andameanMDof.13.5±7.4CdB.Thede.nitionofabnormalineachexaminationwasasfollows:CAmslerchart:darkspotspresent,andHFA10-2:threeconsecutivepoints(asensitivityreductionof5%orless),withoneofwhichhavingariskof1%orlessinpatterndeviation.Results:TheAmslercharthadasensitivityof85%,speci.cityof100%,positivepredictivevalueof100%,andnegativepredictivevalueof40%.Conclusions:CTheAmslerchartcanbeusedasascreeningtoolforparacentralvisual.elddefectsinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(1):118.121,C2023〕Keywords:Amslerチャート,ハンフリー視野検査,緑内障,傍中心視野障害,スクリーニング.AmslerCchart,CHumphreyvisual.eldtest,glaucoma,paracentralvisual.elddefects,screening.Cはじめに緑内障における傍中心視野障害は,患者のCqualityCofClifeの低下をきたすため1),緑内障の重症度分類であるCAnder-son分類でも重視されており2),出現時は治療強化のタイミングとなる.しかし,緑内障の静的視野検査として多く用いられているCHumphreyCFieldCAnalyzerCSwedishCinteractiveCthresholdalgorithm(以下,HFASITA)30-2あるいは24-2プログラムは,HFASITA10-2プログラムと比較すると,傍中心視野障害検出は劣ると報告されている3).また,傍中心視野障害のある患者では,HFASITA24-2よりもCHFASITA10-2のほうが視野障害の進行をより鋭敏に捉えることができるとの報告もある4).このように重症度および進行速度の把握に重要となる傍中心視野障害の早期発見のためには,HFACSITA-Faster24-2Cといった新たなプログ〔別刷請求先〕松岡孝典:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:TakanoriMatsuoka,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,Chuoku,Osakashi,Osaka540-0006,JAPANC118(118)ラムの導入や,HFASITA10-2を追加で行うことなどが必要である.しかし,緑内障と診断されたすべての患者にCHFASITA10-2を行うことは現実的ではなく,傍中心暗点検出のために簡便で短時間に行うことのできるスクリーニング検査が求められる.AmslerチャートはCMarkAmslerによって考案され,十分近方矯正したうえで眼前C30Ccmにかざすと,固視点から10°の視野が検査可能となる.白地に黒線のCblackonwhite(以下,BOW)のものと,黒字に白線のCwhiteonblack(以下,WOB)がある5).Amslerチャートは,網膜前膜や中心性漿液性脈絡網膜症といった網膜疾患のスクリーニングとして用いられることが多い6).緑内障に対してのCAmslerチャートの有用性の検討としては,Suらの報告がある7)が,わが国からの報告はない.そこで筆者らは日本人における緑内障性傍中心視野障害検出に対してのCAmslerチャートの有用性を検討した.CI対象および方法大阪医療センター緑内障外来を受診し,HFASITA-Fast10-2(CarlZeiss以下,HFA10-2)とCAmslerチャート(半田屋商店)を施行したC22例C22眼(男性C13例C13眼,女性C9例C9眼)を対象とした.両眼とも緑内障である場合は,検査眼はCHFA10-2のCmeandeviation(以下,MD)値がより低値であるものを選択した.対象の平均年齢は,61.1±12.3(31.77)(平均値±標準偏差(範囲)歳であった.病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)14例,正常眼圧緑内障C6例,続発緑内障C1例,落屑緑内障C1例であった.平均矯正視力は0.8(0.2-1.5),HFA10-2での平均CMD値は.13.5±7.4(.28.27.0.34)dB,中心窩閾値C31.3±8.1(o..39)dBであった.AmslerチャートはCWOB(図1)のものを使用し,視能訓練士が眼前C30Ccmにかざし,明室で暗点の部位を問診し,暗点の自覚部位を記載した.その後にCHFA10-2を行い,検査結果を比較した.異常ありの定義として,Amslerチャート:暗点あり,HFA10-2:パターン偏差で連続するC3点が危険率C5%以下であり,そのうち一点が危険率C1%以下のものとした.Amslerチャートにおける中心視野障害の検出率をCHFA10-2と比較して感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を比較検討した.また,EZRを用いて,l係数算出およびCMann-WhitneyUtestでの有意差検定を行った8).本研究は後ろ向き研究であり,診療録から年齢,性別,病型,HFA10-2,Amslerチャートを抽出した.また,ヘルシンキ宣言に準じており,当院の臨床研究審査委員会の承認のもとで行った(承認番号C20083).図1本研究で使用したAmslerチャート第C1表whiteonblackを用いた.II結果HFA10-2では,異常ありC20眼,異常なしC2眼であった.Amslerチャートの検査では,異常ありC17眼,異常なしC5眼であった.両検査とも異常ありはC17眼.HFA10-2異常ありだが,Amslerチャートで異常なしと判断されたものはC3眼あった.HFA10-2で異常なしの症例では,全例CAmslerチャートでは異常なしであった.Amslerチャートでの中心視野障害の検出は,感度C85%(17/20),特異度C100%(2/2),陽性的中率C100%(17/17),陰性的中率C40%(2/5)であった.l係数はC0.51であった.HFA10-2で異常ありだが,Amslerチャートで異常なしであったC3例は,全員男性で,矯正視力は,(0.5),(1.5),(1.5)であり,平均CMD値は.9.8±1.4CdB,平均中心窩閾値はC31.7±2.2CdBであった.両検査で異常ありの症例群の平均MD値.15.7±6.6CdB,中心窩閾値C32.7±4.7CdBと比較して有意差はなかった.(p=0.146,p=0.669)図2にCHFA10-2とCAmslerチャートの視野障害の比較を示す.症例C1は,75歳の正常眼圧緑内障の女性.矯正視力は(0.9),MD値は.17.23CdB,中心窩閾値はC33CdB.HFA10-2で上および下鼻側に視野障害があり,Amslerチャートでも同様の位置に視野異常を認めた.症例C2は,40歳の原発開放隅角緑内障の男性.矯正視力は(1.5),MD値は.6.14dB,中心窩閾値はC34CdB.HFA10-2で上鼻側に視野障害があり,Amslerチャートで同様の部位に視野異常があった.症例C3はC64歳の原発開放隅角緑内障の男性.矯正視力は(0.5),MD値は.9.62CdB,中心窩閾値はC33CdB.HFA10-2では上鼻側に視野障害があったが,Amslerチャートでは視野異常を自覚しなかった.症例C1と症例C2のようにCAmslerチャートで検出される暗点は,HFA10-2のパターン偏差と比べて視野障害の位置は一致するが,面積は小さい傾向にあった.図2HumphreyFieldAnalyzer10-2(HFA10-2)とAmslerチャートの視野障害の比較症例1:75歳,女性.正常眼圧緑内障.矯正視力(0.9),MD値.17.23CdB,中心窩閾値C33CdB.HFA10-2のパターン偏差とCAmslerチャートの視野異常が一致している.症例2:40歳,男性.原発開放隅角緑内障.矯正視力(1.5)MD値C.6.14CdB,中心窩閾値C34CdB.HFA10-2のパターン偏,差とCAmslerチャートの視野異常の部位は一致しているが,Amslerチャートの視野異常の面積が小さい.症例3:64歳,男性.原発開放隅角緑内障.矯正視力(0.5)MD値C.9.62CdB,中心窩閾値C33CdB.HFA10-2のパターン偏,差では上鼻側に感度低下があるが,Amslerチャートでは視野異常が検出できなかった.MD:meandeviation.III考按Amslerチャートによる緑内障性傍中心視野障害の検出を検討したところ,感度は低いが特異度が高い結果となった.また,Cl係数はC0.51であり,AmslerチャートとCHFA10-2の検査結果は一致していた.緑内障性傍中心視野障害に対してのCAmslerチャートの感度・特異度の既報としては,Suらは感度C68%,特異度C92%(WOB,平均年齢C60.9歳,平均CMD値C.8.21CdB)7),Gesse-sseらは感度C71.7%,特異度C95.4%(WOB,平均年齢C59.8歳,平均CMD値C.19.94dB),感度C80.4%,特異度C95.4%(BOW,同一症例)9)と報告している.今回の報告は,既報と同様に特異度が高く感度が低い結果であった.SuらはMD値によるCAmslerチャートの感度比較を行っており,MD値が低値であるほど,感度が高くなると報告している7).今回の検討では既報より感度・特異度ともに高値であるが,MD値がC.12CdB以下がC12例と中期以降の症例が多かったため,既報よりも感度が高い結果となった.Amslerチャートは,網膜疾患のスクリーニングで用いられることが多いが,感度は高くなく,感度C20.60%,特異度C88.95%と報告されている10).網膜疾患での検討では,病変の大きさにより感度は変化するとされ,直径C6°以内の暗点は約C80%判別できないと報告されている6).緑内障性視野障害の検出も暗点の面積によって異なると考えられるが,網膜疾患と異なり,中心視野の異常でないため,さらに大きな暗点でなければ検出できない可能性がある.今回の研究では,Amslerチャートの記載を視能訓練士が行った.患者ごとに異なる視能訓練士が検査および記載を行ったため,Amslerチャートの暗点の面積と視野障害の検出率を比較することができていない.暗点の面積とスクリーニングの有用性については,今後の検討課題としたい.今回の検討では,HFA10-2で異常ありだが,Amslerチャートで異常なしとなった偽陰性の症例はC3例あった.3症例とも男性であったが,平均CMD値や平均中心窩閾値は両検査で異常ありの症例と有意差はなかった.矯正視力は(1.5)と良好な症例もあったが,症例C3で示したような不良例もあった.症例C3は唯一眼であり,矯正視力も不良でありながら,自覚症状がないため,緑内障の治療強化に消極的であった症例である.偽陰性となる症例の特徴の検討は既報でもなされておらず7,9),病気への向き合い方や性格もCAmslerチャートにおける暗点の検出率に関与しており,HFA10-2の測定値のみでは推測できない可能性がある.網膜前膜と緑内障が合併している眼は,網膜前膜を合併していないもう片眼と比べて視野障害が進行しているという報告もある10).Amslerチャートを用いて傍中心暗点とともに歪視の有無をみることで黄斑部疾患の有無も同時にスクリーニングできることは意義深い.緑内障のスクリーニングとしては,従来クロックチャートが用いられ,早期緑内障の検出として有用であると報告されている11).しかし,クロックチャートは,中心視野障害検出はやや乏しいことと,大きさが新聞と同じであるためスマートホンを用いたスクリーニングとしては使用できないことが問題点である.近年はスマートホンが普及しており,今回の検討からもスマートホンでCAmslerチャートを表示してのセルフチェックは有用である可能性がある.今回の検討では,視能訓練士によってCAmslerチャート検査が行われたが,当院の実際の日常診療では医師自身が行っている.Amslerチャートを患者に片眼ごとに提示して格子の見え方の異常の有無を問い,異常があるようなら,HFA10-2などの精査を行う.OCTでの神経線維層欠損の位置から中心視野障害の位置を予想し,再度問診すると,視野障害の部位の格子の見え方に異常を自覚することが多い.Crabbらは,緑内障性視野障害の部位の見え方を検討しており,blurredpartsやCmissingpartsの見え方が多いと報告している12).Fujitaniらは,Amslerチャートでの緑内障性視野障害の部位の見え方の検討で,missing/white31%,Cblurry/gray24%,black21%と報告している13).今回の研究では,見え方の検討は行っていないが,日常診療の印象としては,やはりCmissing/whiteかCblurry/grayのように見えているようである.また,同論文では,Amslerチャートを行うことで,緑内障性視野障害を自覚し,点眼アドヒアランスの向上が期待できるとも報告している14).当院でもAmslerチャートで視野障害を自覚した症例のなかには,緑内障手術を含めた治療強化に積極的になる者もあった.本研究の限界として,対象症例が少ないこと,緑内障の病期が進行した例が多いこと,患者自身が大病院に紹介となった時点で通常より検査に積極的になった可能性があることがあげられる.自覚を問う検査であり,検査を行う環境や患者自身の心理面も重要であるため,通常よりも感度,特異度が高く出ている可能性がある.軽症例やクリニックでの感度,特異度も検討することが今後の課題である.また,今回の検討ではCWOBのCAmslerチャートのみを使用して検討したが,視野異常の検出感度はCBOWを用いたほうが高いとの報告もある9)ことから,BOWを用いての検査も今後の検討としたい.以上,Amslerチャートは緑内障による傍中心視野障害のスクリーニングとして有用であることが明らかになった.本研究の内容の一部は第C32回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SumiCI,CShiratoCS,CMatsumotoCSCetal:TheCrelationshipCbetweenCvisualCdisabilityCandCvisualC.eldCinCpatientsCwithCglaucoma.OphthalmologyC110:332-339,C20032)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry,CCVMosby,St.Louis,19993)Sullivan-MeeCM,CKarinCTranCMT,CPensylCDCetal:Preva-lence,Cfeatures,CandCseverityCofCglaucomatousCvisualC.eldClossCmeasuredCwithCtheC10-2CachromaticCthresholdCvisualC.eldTest.AmJOphthalmolC168:40-51,C20164)KungY,SuD,SimonsonJLetal:ParafovealscotomainprogressioninglaucomaHumprey10-2versus24-2visu-al.eldanalysis.OphthalmologyC120:1546-1550,C20135)AmslerM:Methodofusingthetestchartofquantitativevision.アムスラーチャート付属説明書6)SchuchardRA:ValidityCandCinterpretationCofCAmslerCgridreports.ArchOphthalmolC111:776-780,C19937)SuCD,CGreenbergCA,CSimonsonCJLCetal:E.cacyCofCtheCAmslergridtestinevaluatingglaucomatouscentralvisualC.elddefects.OphthalmologyC123:737-743,C20168)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasy-to-useCsoftware“EZR”(EasyR)forCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowTransplantC48:452-458,C20139)GessesseGW,TamratL,DamjiKF:AmslergridtestfordetectionCofCadvancedCglaucomaCinCEthiopia.CPLoSCOneC15:e0230017,C202010)SakimotoCS,COkazakiCT,CUsuiCSCetal:Cross-sectionalCimagingCanalysisCofCepiretinalCmembraneCinvolvementCinCunilateralCopen-angleCglaucomaCseverity.CInvestCOphthal-molVisSciC59:5745-5751,C201811)MatsumotoCC,CEuraCM,COkuyamaCSCetal:CLOCKCHART(CR):aCnovelCmulti-stimulusCself-checkCvisualC.eldscreener.JpnJOphthalmolC59:187-193,C201512)CrabbDP,SmithND,GlenFCetal:Howdoesglaucomalook?patientperceptionofvisual.eldloss.Ophthalmolo-gyC120:1120-1126,C201313)FujitaniCK,CSuCD,CGhassibiCMPCetal:AssessmentCofCpatientperceptionofglaucomatousvisual.eldlossanditsassociationwithdiseaseseverityusingAmslergrid.PLoSOneC12:e0184230,C2017***

アーメド緑内障バルブ挿入時における結膜被覆困難症例の検討

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1690.1693,2022cアーメド緑内障バルブ挿入時における結膜被覆困難症例の検討小岩千尋*1春日俊光*1浅田洋輔*2朝岡聖子*3林雄介*2,3松田彰*2*1順天堂大学医学部附属練馬病院眼科*2順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科*3順天堂大学医学部附属静岡病院眼科CClinicalOutcomesofAhmedGlaucomaValveImplantationwithIntraoperativeConjunctivalClosureProblemsChihiroKoiwa1),ToshimitsuKasuga1),YosukeAsada2),SatokoAsaoka3),YusukeHayashi2,3)andAkiraMatsuda2)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityShizuokaHospitalC目的:アーメド緑内障バルブ(AGV)挿入術において,手術部位の結膜被覆に難渋した症例について後ろ向きに検討した.対象および方法:順天堂附属病院でC2017.2020年にCAGVを挿入したC155例C165眼中,術中に結膜被覆が困難であったC5例C5眼の臨床経過を検討した.結膜被覆困難例は全例,線維柱帯切除術不成功のためアーメドCFP7を全例耳下側に挿入した症例で,原発開放隅角緑内障C4眼,落屑緑内障C1眼であった.結果:平均観察期間はC13.4(8.24)カ月であった.全例で術後C6カ月以内に結膜上皮欠損は解消したが,その後C2眼でインプラントが露出し,インプラント抜去と耳上側への再挿入を施行した.露出したC2眼では結膜を引き寄せて手術創の被覆をめざしたのに対し,露出がなかったC3眼では完全被覆を断念し,輪部側のパッチ組織を覆わない状態で手術を終了した.結論:AGVの結膜被覆困難例ではプレート側の被覆を優先し,輪部側に無理に引き寄せない方法が好ましいと考えられた.CPurpose:ToevaluatetheclinicalcourseofcasesinwhichconjunctivalclosureatthesurgicalwoundsitepostAhmedCglaucomavalve(AGV)implantationCwasCdi.cult.CPatientsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedthemedicalrecordsof5cases(n=5eyes)inwhichconjunctivalclosureatthesurgicalwoundsitepostAGVimplantationwasdi.cult.Results:Themeanfollow-upperiodwas13.4months(range:8-24months).All5eyeshadahistoryoffailedtrabeculectomyandtheAGVbeingimplantedattheinferior-temporalquadrant.In2eyes,theconjunctivawaspulledtightlytofullycoverthesurgicalwound,thusresultinginexposureoftheAGV,soCtheCexposedCAGVCwasCremovedCandCaCnewCFP7CAGVCwasCreinsertedCatCtheCsuperior-temporalCquadrant.CInC3Ceyes,CtheCconjunctivaCwasCsecuredCtoCtheCpatchCtissueCtoCavoidCtension,CandCnoCAGVCexposureCwasCobservedCinCthoseeyes.Conclusions:Incaseswithconjunctivalclosuredi.cultypostAGVimplantation,itappearspreferabletoCgiveCpriorityCtoCcoveringCtheCplateCandCnotCforciblyCpullingCtheCconjunctivaCtowardCtheClimbalCsideCinCorderCtoCavoidAGVexposure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(12):1690.1693,C2022〕Keywords:緑内障,アーメド緑内障バルブ,チューブ露出,プレート露出,合併症.glaucoma,Ahmedglaucomavalve,tubeexposure,plateexposure,complications.Cはじめに緑内障ロングチューブ手術の一つであるアーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)挿入術は,血管新生緑内障,続発緑内障,線維柱帯切除術が不成功に終わったなどの難治性緑内障に対して施行される術式である.わが国ではC2012年にバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)が保険適用となり,2014年にはAGVによるチューブシャント手術が認可された.AGVは眼圧の調整弁が付いているため,BGIと比較し,速やかな眼圧下降が望ましい重症緑内障患者に施行されることが多い1).AGV挿入術では,術中に強膜パッチの結膜被覆に難渋することをときに経験するが,これまでに術中に強膜パッチを結膜で被覆することができなかった症例の経過について検討した報告は少ない2).本研究では,順天堂大学附属病院で経〔別刷請求先〕小岩千尋:〒177-8521東京都練馬区高野台C3-1-10順天堂大学医学部附属練馬病院眼科Reprintrequests:ChihiroKoiwa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPANC1690(122)表15例5眼の背景年齢眼科手術白内障術前緑内障観察期間症例(歳)性別病型既往(回)同時手術点眼数(剤)インプラント露出(カ月)1C71女原発開放隅角緑内障C2なしC4あり(チューブ,プレート)C24C2C90女落屑緑内障C3なしC3なしC15C3C59女原発開放隅角緑内障C1ありC3あり(チューブ)C10C4C77男落屑緑内障C1ありC3なしC10C5C71男原発開放隅角緑内障C2なしC4なしC8C験したC5例C5眼の結膜被覆困難症例を対象として,AGV挿入術後の重篤な合併症であるインプラント露出2.14)の有無の観点から臨床経過をレトロスペクティブに検討した.CI対象および方法1.対象順天堂大学附属病院でC2017年C6月.2020年C8月にCAGVを挿入したC155例C165眼のうち,術中に手術部位(強膜パッチ部位)を結膜で被覆することが困難であったC5例C5眼の臨床経過をレトロスペクティブに検討した.結膜被覆困難の定義はCGe.enらの論文に準じて,手術終了時にパッチ組織を結膜で被覆できなかった眼とした2).平均年齢はC73.6C±10.1歳(59.90歳),平均観察期間はC13.4C±5.8カ月(8.24カ月),病型は原発開放隅角緑内障C4眼,落屑緑内障C1眼で,全例耳上側の線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)の術後であった.落屑緑内障のC1例は,鼻上側にもCTLEを施行していた.AGVのプレートは全例で耳下側に固定し,チューブは毛様溝に挿入した.術前の緑内障点眼使用数は平均C3.4±0.49剤(3.4剤)であった.なお,本研究は順天堂大学医学部の倫理委員会の承認(承認番号C16-287)を得て施行した.C2.手術方法有水晶体眼は耳側角膜切開による白内障手術を併施した.順天堂医院におけるCAGV導入初期に手術を施行したC1眼(症例1)では,耳下側の結膜を輪部から約C6Cmmの位置で円周状にC3時からC7時にかけて切開した.以後の症例(症例2.5)では,結膜は輪部切開を基本として,耳下側を右眼の場合はC9時からC5時,左眼の場合はC3時からC7時にかけて輪部切開し,両側に放射状の減張切開を加えた.プレートの留置は直筋間とし,角膜輪部からC8Cmmの位置にC8-0ナイロン糸で強膜に固定したあとにトリアムシノロンアセトニドをプレート下へ散布した.粘弾性物質で虹彩と眼内レンズ間の空間を確保し,角膜輪部よりC2.5Cmmの強膜からC23ゲージ針で穿刺後,チューブを毛様溝に挿入した.一眼のC1/8の大きさで作製しておいた保存強膜片をチューブ被覆のために必要十分な大きさにトリミングした後でC10-0ナイロン糸を用いて固定し,その後結膜をC8-0バイクリル糸で縫合した.AGVは全例でCFP7を使用し,全例同一術者(A.M.)が執刀した.術後点眼はC0.5%モキシフロキサシン塩酸塩点眼液をC1日C4回,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C6回から開始し,術後C2カ月を目安に漸減終了した.CII結果5例C5眼の特徴について表1に示した.5例のうちC4例は耳上側にCTLEをC1回,症例C2は鼻上側と耳上側に計C2回のTLEを施行していた.また,症例C3,4は,AGV挿入術と水晶体再建術との同時手術であった.全例で術後C6カ月以内に結膜上皮が伸展して上皮欠損は解消した.3眼はインプラント露出なく経過したが,2眼でインプラントの露出が生じ,2眼ともCAGVの抜去と耳上側への再挿入を施行した.1眼(症例1)では,術後C22カ月でチューブとプレートの露出(図1)を,別のC1眼(症例3)では術後C8カ月でチューブ露出を生じた.露出を認めたC2眼では可能な限り結膜を引き寄せて被覆をめざしたのに対し,露出がなかったC3眼では手術時の完全被覆を断念し,輪部側の強膜パッチ組織を覆わない状態で手術を終了していた.術前緑内障点眼使用数は,チューブとプレートが露出した症例C1でC4剤,チューブが露出した症例C3でC3剤であった(表1).全例において,他の合併症は認めなかった.CIII考按本研究では,術中に強膜パッチ部位を結膜で被覆することが困難であったC5例C5眼の臨床経過をレトロスペクティブに検討した.結膜被覆困難の原因はさまざまであるが,共通点として手術部位の結膜組織が薄く,進展性に乏しい状態であったことがあげられる.AGV挿入術後のインプラント露出は,重要な合併症の一つである.TVTstudy3)ではチューブシャント術後の晩期合併症として,インプラントの露出をC5%に認めたと報告して図1プレート露出・チューブ露出を認めた症例(71歳,女性.症例1)a:結膜輪部から約C6Cmmの位置に円弧上の結膜切開創(.)を作製してCAGVプレートを挿入した.輪部側から結膜を引き寄せて,強膜パッチの被覆を試みるも,結膜裂創を生じ完全な被覆を断念した(.).b:術後C22カ月でプレート露出(.)とチューブ露出(.)を生じた.図2インプラント露出を生じなかった症例(77歳,男性.症例4)a:右眼耳下側の輪部に設置した強膜パッチを結膜で覆わない状態(.)で手術を終了した.Cb:術後C1年,耳下側の強膜パッチは結膜上皮で被覆されている(.).いる.国内では沼尾ら4)がCAGV挿入術後のプレートの露出・脱出をC17%に認めたと報告している.Ge.enら2)は,AGV挿入術後にC8.9%の症例で平均C996C±735日後にインプラント露出を認めたとし,結膜離開を生じたインプラント挿入部位は鼻下側(57.1%),耳下側(46.2%),耳上側(24.6%),鼻上側(16%)の順に多かったと報告している.しかし,本検討でも全例で耳上側のCTLE術後であったためチューブ挿入箇所に耳下側を選択したように,下側を選択するのはすでに耳上側に濾過手術を施行している場合が多いことが理由として考えられ,下方挿入例で露出が多いのは多重手術によるバイアスがかかっている可能性がある.本検討では結膜被覆困難症例のみを扱っているが,同時期に手術をした165眼のうちインプラント露出を生じたのは,前述のC2眼を含めC4眼(2.4%)と既報より少ない結果であった.インプラント露出のリスク因子として既報では,若年症例5)や多重手術後の症例6)があげられている.インプラント露出は眼内炎のリスクであり,すみやかに修復術を行う必要がある.Levinsonら7)は,初回のCAGVFP7挿入例でチューブまたはプレートの露出がC3.8%に生じ,とくに鼻下側への挿入で露出が起こりやすいと報告した.さらに,露出を生じた症例のうち,16.3%が同時に眼内炎症を引き起こしており,下方で露出した症例が上方挿入例よりも眼内炎症を起こしやすかったとしている.Pakravanら8)は,抜去を要するインプラント露出が下方挿入例で有意に多かったとし,Rachmielら9)は下方挿入例で結膜創部離開が有意に多く,チューブやプレートの露出につながったと報告している.現在では,筆者らは耳上側のCTLE術後であっても,可能な限り瘢痕化濾過胞部位を再度切開して耳上側にCAGVを挿入することを原則に手術を施行しており,瘢痕化濾過胞部位への挿入が術後成績に与える影響を現在検討している.修復術を行う際には強膜パッチ組織を含めて修正を行うことが推奨されているが10),糖尿病罹患症例,術前の緑内障点眼薬使用数が多い症例,多重手術後症例は,露出修復術後の成績が不良であることが報告されており11),赤木ら12)は計C8回の内眼手術既往がある患者において,同一眼でC2度のインプラント露出を生じた症例を報告している.今回のインプラント露出のC2症例は糖尿病ではなかったが,露出部位の結膜の状態が不良であったため,修復術ではなく耳下側のインプラント摘出と耳上側への再挿入術を施行した.1例は術後C9カ月,もうC1例は術後C10カ月が経過しているが,現時点で合併症なく経過している.また,症例C1のように順天堂医院におけるCAGV挿入術導入初期において,結膜は輪部から約6Cmmの位置で円弧状に切開していたが,プレート近傍の結膜切開はプレート露出のリスクになるのではと考え,この症例の経験をきっかけに現在では全例で輪部からのCfornixbaseの切開を行っている.過去の報告でインプラント露出の原因として眼瞼との摩擦,チューブやプレートの動きが指摘されており2,13),とくに耳側下方に挿入された症例では,第一眼位における瞼裂内の強膜パッチの露出部位が上方挿入例と比較して広いこと,結膜.の奥行きが耳上方より狭いことから,インプラント露出のリスクがより高い可能性が示唆されている14).本検討におけるインプラント露出症例においても,結膜を輪部側に引き寄せたことにより結膜に機械的なストレスがかかり,摩擦に対する脆弱性が生まれた可能性が考えられた.また,チューブ露出を認めたC2症例ではプレート近傍の結膜が薄い状態が持続し,最終的にチューブを固定していたC10-0ナイロン糸が時間の経過とともに強膜からはずれたことでプレート近くのチューブが強膜パッチを破って露出に至った.一方で,結膜での完全被覆を断念したC3例では,プレート側の被覆を優先し結膜組織を牽引することなく結膜組織をパッチ組織に固定し,時間をかけて結膜上皮の進展を待つ方針がよい結果を生んだと考えられた.本研究は少数例でのレトロスペクティブなものであり,今後さらなる検討が必要である.CIV結論手術時に結膜を輪部側に引き寄せることで結膜が菲薄化し,インプラント露出をきたした可能性が考えられた.AGVの結膜被覆困難症例においてはプレート側の被覆を優先し,輪部側に無理に引き寄せない被覆方法が好ましいと考えられた.文献1)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CZurakowskiCDCetal:TheCAhmedversusBaerveldtstudy:one-yeartreatmentout-comes.OphthalmologyC118:2180-2189,C20112)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20143)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCcomplicationsintheTubeversusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,Ce1,C20124)沼尾舞,平井鮎奈,權守真奈ほか:アーメド緑内障バルブ挿入術の短期成績.臨眼C75:1067-1071,C20215)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C20166)ByunCYS,CLeeCNY,CParkCK:RiskCfactorsCofCimplantCexposureCoutsideCtheCconjunctivaCafterCAhmedCglaucomaCvalveimplantation.JpnJOphthalmolC53:114-119,C20097)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516.521,C20158)PakravanM,YazdaniS,ShahabiCetal:SuperiorversusinferiorAhmedglaucomavalveimplantation.Ophthalmol-ogyC116:208-213,C20099)RachmielCR,CTropeCGE,CBuysCYMCetal:Intermediate-termCoutcomeCandCsuccessCofCsuperiorCversusCinferiorCAhmedCGlaucomaCValveCimplantation.CJCGlaucomaC17:C584-590,C200810)GeddeCSJ,CScottCIU,CTabandehCHCetal:LateCendophthal-mitisCassociatedCwithCglaucomaCdrainageCimplants.COph-thalmologyC108:1323-1327,C200111)HuddlestonSM,FeldmanRM,BudenzDLetal:Aqueousshuntexposure:aCretrospectiveCreviewCofCrepairCout-come.JGlaucomaC22:433-438,C201312)赤木忠道,須田謙史,亀田隆範ほか:2回の緑内障インプラント露出に対してインプラント摘出と再留置術を要した続発緑内障のC1例.臨眼C73:573.580,C201913)LankaranianD,ReisR,HendererJDetal:Comparisonofsinglethicknessanddoublethicknessprocessedpericardi-umCpatchCgraftCinCglaucomaCdrainageCdevicesurgery:aCsingleCsurgeonCcomparisonCofCoutcome.CJCGlaucomaC17:C48-51,C200814)SidotiPA:InferonasalCplacementCofCaqueousCshunts.CJGlaucomaC13:520-523,C2004***

白内障手術併用マイクロフックAb Interno トラベクロトミー の患者背景別奏効率

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1685.1689,2022c白内障手術併用マイクロフックAbInternoトラベクロトミーの患者背景別奏効率池田瑞希白戸勝北村裕太馬場隆之千葉大学医学部附属病院眼科CTheOutcomeofCombinedCataractSurgeryandMicrohookAbInternoCTrabeculotomybyPatientBackgroundCMizukiIkeda,SuguruShirato,YutaKitamuraandTakayukiBabaCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:白内障手術併用マイクロフックCabinternoトラベクロトミー(PEA+IOL+μLot)の奏効率を患者背景別に検討する.対象および方法:初回手術として施行されたCPEA+IOL+μLotの連続症例C126例C171眼(平均年齢C71.4C±9.1歳)を対象とし,最終受診時の眼圧がC18CmmHg以下かつC15%以上下降を認めた場合を奏効と定義し,1年後の奏効率を年齢別,性別,病型別,術前眼圧別,術前点眼スコア別に検討した.結果:術後平均経過観察期間はC10.3C±8.5カ月(1.39カ月),病型は広義原発開放隅角緑内障(POAG)69例C100眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)3例C3眼,続発緑内障(SG)54例C68眼であった.病型別の奏効率はCPOAG45.0%,SG67.6%であり,POAGはCSGと比べ有意に奏効率が低かった(p<0.05).術前眼圧別ではC20mmHg以下でC51.3%,21mmHg以上30mmHg以下でC60.0%,31CmmHg以上でC66.7%であり,有意ではないものの術前眼圧が高くなると奏効率が上昇する傾向がみられた.年齢,性,術前点眼スコアによる差はみられなかった.結論:PEA+IOL+μLotはCPOAGに対してCSGで奏効率が高く,術前眼圧が高くなると奏効率が上昇する傾向がみられた.CPurpose:ToinvestigatetheoutcomeofcombinedcataractsurgeryandmicrohookabinternoCtrabeculotomy(μLOT)[phacoemulsi.cation(PEA)+intraocularClensimplantation(IOL)+μLOT]C.Methods:ThisCretrospectiveCstudyinvolved171eyesof126consecutivecases(meanage:71.4C±9.1years)thatunderwentPEA+IOL+μLOT.Asuccessfulsurgicaloutcomewasde.nedasa.nalIOPof≦18CmmHgandanintraocularpressure(IOP)reduc-tionCrateCof15%CorCmore,CandCwasCreviewedCbyCpatientCage,Csex,CdiseaseCtype,CpreoperativeCIOP,CandCmedicationCscore.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC10.3±8.5months(range:1-39months)C.COfCtheC171Ceyes,C100CwereprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG,Cn=69cases)C,C3CwereprimaryCangle-closureCglaucoma(PACG,Cn=3cases),and68weresecondaryglaucoma(SG,n=54cases).Successratebydiseasetypewas45%forPOAGand67.6%forSG,whichwassigni.cantlyhigherthanthatofPOAG(p<0.05)C,andbypreoperativeIOPwas51.3%intheC≦20CmmHgCgroup,60%CinCtheC21CmmHg-30CmmHgCgroup,Cand66.7%CinCtheC≧30CmmHgCgroup.CTheCsuccessCrateCtendedCtoCincreaseCasCtheCpreoperativeCIOPCincreased.CNoCrelationshipCwasCfoundCbetweenCsuccessCrateCandCpatientage,gender,andpreoperativemedicationscore.Conclusions:PEA+IOL+μLOThadahighersuccessrateinSGthaninPOAG,andthesuccessratetendedtobehighwhenthepreoperativeIOPwashigh.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1685.1689,C2022〕Keywords:緑内障,谷戸式Microhook,線維柱帯切開術,MIGS.glaucoma,Tanitomicrohookabinterno,tra-beculotomy,minimallyinvasiveglaucomasurgery.Cはじめに管に導き,主経路からの房水流出を促進させる目的で行われ線維柱帯切開術(以下,トラベクロトミー)は線維柱帯とる手術である.濾過胞を形成する線維柱帯切除術と比較するSchlemm管内皮を機械的に切開することで房水をCSchlemmと,視力低下に直結する低眼圧黄斑症,脈絡膜.離,濾過胞〔別刷請求先〕池田瑞希:〒260-8677千葉市中央区亥鼻C1-8-1千葉大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizukiIkeda,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-8-1Inohana,Chuo-ku,Chiba260-8677,JAPANC感染など重篤な合併症をきたす割合が低い反面,本手術のみで緑内障による視野の進行を抑制するだけの眼圧下降を得ることはむずかしく,術後も緑内障治療用点眼を併用することが多い.線維柱帯の切開方法は,強膜弁を作製し,Schlemm管を開放してからトラベクロトームでC120°切開する方法や,5-0ナイロン糸をC360°通し,全周切開する眼外アプローチと,ゴニオプリズムを用い,線維柱帯を直視下にマイクロフックで切開する眼内アプローチに大別される1).眼外アプローチは虹彩前癒着が存在しても線維柱帯を切開できる反面,手技が煩雑で難易度が高い.眼内アプローチは簡便で手術時間が短く患者の負担が少ない反面,角膜の視認性が悪いとうまく切開できない.また,虹彩前癒着があると切開が困難な場合がある.それぞれ長所,短所があるが,眼内アプローチは簡便であり白内障手術と同一創から切開できるため近年急速に普及している.緑内障を合併した患者の白内障手術では,術後眼圧を下降させ,緑内障治療用点眼の本数を減らす目的で,眼内アプローチからのトラベクロトミーを併用するケースが増えている2).しかし,併用したものの十分な眼圧下降を得られないケースにもしばしば遭遇する.筆者らは白内障手術を同時に行ったマイクロフックCabinternoトラベクロトミーの奏効率を病型別,患者背景別に比較し,効果の得られやすい背景を検討した.CI対象および方法2017年C10月C24日.2020年C11月C24日に千葉大学医学部附属病院で同一術者により初回手術として行われた白内障手術併用マイクロフックCabinternoトラベクロトミーの連続症例C126例C171眼を対象とした.内訳は男性症例C86眼,女性症例C85眼,年齢はC71.0C±9.1歳(平均値C±標準偏差),病型は広義原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglauco-ma:POAG)100眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)3眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EG)48眼,ステロイド緑内障C6眼,ぶどう膜炎続発緑内障C14眼であった(表1).症例を患者背景により次のようにグループ分けした.年齢(65歳未満とC65歳以上),性別,病型,術前眼圧(21CmmHg未満,21CmmHg以上C31CmmHg未満,31CmmHg以上),点眼スコア(5以上とC6以上).点眼スコアはC1剤C1点,配合剤点眼C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.観察ポイントは手術前日,手術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年,最終受診時とし,術後眼圧がC18CmmHg以下かつ術前よりC15%以上下降を認めた症例を生存とした.最終受診時における生存率を手術奏効率とし,それぞれの患者背景別に比較,検討した.手術方法は次のとおりである.耳側角膜切開(2.8Cmm)で水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入を施行後,前房に粘弾性物質(ヒアルロン酸C0.3アルコン)を投与し隅角を広げる.患者の頭部を術者と逆側に向けると同時に顕微鏡を術側と逆側に傾け,術眼の視軸と顕微鏡の光軸をC45°ほどずらした状態で隅角鏡(ヒルサージカルゴニオプリズム)を角膜に乗せ,隅角を観察する.白内障手術と同一創からストレートマイクロフック(イナミ)を前房に挿入し,鼻側から下方にかけて可能な限り広範囲に(90°以上)線維柱帯を切開する3).前房から粘弾性物質を吸引し,耳側のC2.8Cmm角膜創をC10-0ナイロン糸(マニー)で縫合する.最後に角膜サイドポートから眼内灌流液(BSS)を注入し,眼圧を高めた状態で終刀した.眼圧推移における術前後の比較はCpairedt-test,奏効率の比較にはCc2testを用い,いずれもCp<0.05を有意水準とした.CII結果術後平均経過観察期間はC10.3C±8.5カ月(1.39カ月)だった.全症例の眼圧経過は術前,術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年でそれぞれC19.9C±5.9,15.4C±4.2,14.9C±3.7,15.5C±3.5,C16.6±4.6CmmHgであり(表2),いずれの時点でも有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).また,術後眼圧C18CmmHg以下,15%以上の眼圧下降を成功とした場合の生存率は術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年でそれぞれC69.0%,57.3%,53.8%,50.3%となった(図1).最終受診時の眼圧下降率はC21.8%,手術奏効率はC54.4%だった.追加手術を要した症例は23眼で,Express手術はC19眼,線維柱体切除術はC4眼であった.患者背景別の手術奏効率を表1に示す.年齢別,性別,術前眼圧別,術前点眼スコア別の検討では有意な差はみられなかった.有意ではないが,術前眼圧別では眼圧が上昇するにつれ奏効率が上昇する傾向にあった.病型別では広義POAGのみ奏効率がC45.0%と低く,その他はC66.7.71.4%と高かった.症例数の多いCEGおよび続発緑内障全体では有意差を認めた.CIII考按今回,白内障手術を併用したマイクロフックCabCinternoトラベクロトミーの術後眼圧を患者背景別に検討した.全症例の最終受診時の眼圧下降率はC21.8%,手術奏効率はC54.4%であった.既報を参照すると(表3)術後眼圧はC12.18mmHg程度であり,術後C1年の奏効率は約C50.80%程度である4.6).術者によって切開範囲が異なること,報告により症例の傾向が異なるため結果にばらつきがあるが,おおむね眼外法で施行されるトラベクロトミーと同等の成績と考える.表1患者背景n(眼)奏効率(%)Cp年齢<6C5C29C58.6C0.69C65≦C142C53.5性男C86C60.4C0.12女C85C48.2広義CPOAGC100C45CPACGC3C66.7C0.59C病型PEGC48C66.7C67.6C0.01C0.41C0.090.005SteroidCSGC6C68C66.7CUveitisC14C71.4C<2C1C119C51.3術前眼圧21≦IOp<3C1C40C60C0.36C31≦C12C66.7C0.37点眼スコア5以下C82C53.7C0.886以上C89C55.1病型別のCp値はCPOAGとの比較,術前眼圧のCp値は<21との比較.表2術前および術後1,3,6,12カ月の眼圧,点眼スコアn(眼)眼圧(mmHg)p値点眼スコアp値術前C171C19.9±5.9C5.7±1.34p<C0.0001術後C1カ月C169C15.4±4.16p<C0.0001C2.94±2.08p<C0.0001術後C3カ月C160C14.9±3.66p<C0.0001C3.99±1.72p<C0.0001術後C6カ月C88C15.5±3.54p<C0.0001C3.26±1.66p<C0.0001術後1年C58C16.6±4.62p<C0.0001C3.28±1.61p<C0.0001また,本研究では術前眼圧が高い症例で奏効率が高い傾向C1.0にあること,病型別では続発緑内障のほうが広義CPOAGよC0.8り奏効率が良いことが示された.線維柱帯-Schlemm管を介0.20.0術後日数(日)171118989892929292図1手術後1年間の生存曲線群ではC21.79CmmHgと術前平均眼圧が続発緑内障より低く,トラベクロトミーが奏効しづらいのではないかと考える.さらに本研究,既報ともに続発緑内障のほうが術後平均眼圧が低く,これも理由として考えられる.広義CPOAGのほうが続発緑内障よりトラベクロトミー後の眼圧が高めになること050100150200250300350生存確率する主経路の房水流出は過去の報告で示されているとおり,眼圧に依存して流出量が増える性質をもっている.トラベクロトミーで線維柱帯の一部を開放すると,眼圧の高い症例ほど主経路を介した房水流出が増えるため,眼圧下降率が高くなる.そのため手術の奏効率が上昇したものと考えた.本研究では術前眼圧が高いほど眼圧下降率が高い(図2)一方で,術前眼圧が低いほど術後眼圧が低くなる(図3)傾向が示されており,既報と一致する結果となった7).続発緑内障のほうが広義CPOAGより奏効率が高かったことに関しては表4に示すとおり,既報でも同様の結果となっている8,9).既報はトラベクトーム,トラベクロトミー(眼外法)と本研究と術式が異なるが,眼圧下降のメカニズムは同様であり,参考になりうるものである.理由の一つとして,広義CPOAGには正常眼圧緑内障も含まれるため,術前平均眼圧が広義CPOAG群ではC18.51CmmHgであり,続発緑内障0.60.4表3既報との比較術式Cn(眼)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)奏効率(%)成功基準C3)Tanito,etal(2C017)PEA+IOL+μLOTC68C16.4±2.910カ月C11.8±4.51年82%CIOP≦18CmmHg15%以上の低下C4)Yachna,etal(2C013)PEA+IOL+μLOTCorμLOTC246C21.6±8.62年C15.3±4.62年22%CIOP≦18CmmHg20%以上の低下C5)Mori,etal(2C020)PEA+IOL+μLOTorμLOTC69C28.4±7.81年C17.8±6.31年74%C5≦IOP≦20CmmHg20%以上の低下C6)Tojo,etal(2C021)PEA+IOL+μLOTCorμLOTC61C24.1±9.21年C12.5±3.91年59%CIOP≦18CmmHg20%以上の低下本研究CPEA+IOL+μLOTC171C19.9±6.01年C16.6±4.61年54%CIOP≦18CmmHg15%以上の低下1506050術後眼圧(mmHg)眼圧下降率(%)40030-5020-10010-150051015202530354045-200術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)図2術前眼圧と眼圧下降率の散布図図3術前眼圧と術後眼圧の散布図表4病型別の既報との比較0術式病型Cn(眼)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)奏効率(%)成功基準CTingJLM,etal8)(C2012)PEA+IOL+TrabecutomeCPOAGC263C19.9±5.4C15.6±3.287%CIOP≦21CmmHg20%以上の低下CSG(PEG)C45C21.7±8.4C14.2±3.191%C9)ChinS,etal(2C012)Trabecutomy(withmetaltrabeculotome)CPOAGC1631%CIOP≦18CmmHg30%以上の低下CSGC1950%本研究CPEA+IOL+μLOTCPOAGC100C18.4±4.2C15.3±6.068%CIOP≦18CmmHg15%以上の低下CSGC68C21.7±7.3Cは興味深く,Schlemm管から房水静脈に至る経路に何らか者背景から症例を選んで施行することが重要と考える.の異常があることが推測される.白内障手術併用マイクロフックCabinternoトラベクロト利益相反:利益相反公表基準に該当なしミーは術前眼圧の高い症例,続発緑内障でより高い奏効率を得られる傾向が示された.一般的にこの術式の奏効率が線維柱帯切除術など他の緑内障手術に劣ることを考慮すると,患文献1)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:e354-e360,C20172)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaCECetal:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCinCJapaneseCeyesCwithglaucoma:Creportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20173)TanitoM:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery.CClinCOphthalmolC12:43-48,C20184)YachnaA,SonMKP,MehrdadMetal:ClinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabeclotomyforopenangleCglaucoma:TheCMayoCClinicCseriesCinCRochester,CMinnesota.AmJOphthalmolC156:927-935,C20135)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ACcomparisonCofCtheC1-yearCsurigicalCoutcomesCofCabCexternoCtrabeculotomyCandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmolC5:e000446,C20206)TojoCN,COtsukaCM,CHayashiCACetal:ComparisonCofCtra-bectomeCandCmicrohookCsurgicalCoutcomes.CIntCOphthal-molC41:21-26,C20217)TanitoCM,CSugiharaCK,CTsutsuiCACetal:E.ectsCofCpreop-erativeCintraocularCpressureClevelConCsurgicalCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy.CJCClinCMedC10:C3327,C20218)TingJLM,DamjiKF,StilesMCetal:Abinternotrabec-ulectomy:outcomesCinCexfoliationCversusCprimaryCopenCangleCglaucoma.CJCCataractCRefractCSurgC38:315-323,C20129)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopenangleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C2012***

血管新生緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術と バルベルト緑内障インプラント術の術後成績の比較

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1534.1538,2022c血管新生緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術とバルベルト緑内障インプラント術の術後成績の比較練合かのこ井田洋輔鈴木綜馬渡部恵日景史人大黒浩札幌医科大学眼科学講座CShort-TermPostoperativeOutcomesbetweenAhmedGlaucomaValveImplantandBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryforNeovascularGlaucomaKanokoNeriai,YosukeIda,SomaSuzuki,MegumiWatanabe,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversityC目的:今回,血管新生緑内障に対して施行されたアーメド緑内障バルブインプラント術(Ahmedglaucomavalveimplanttubing:AGV)とバルベルト緑内障インプラント術(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)の術後成績を比較検討した.方法:2020年C6月.2021年C4月に眼圧コントロール不良の血管新生緑内障に対し,当院で施行されたバルブインプラント術をCAGV群(7例C8眼)とCBGI群(4例C4眼)に分け,眼圧を術後C3日目,2週間,1カ月,3カ月,薬剤スコアを術後C1カ月,3カ月で比較検討した.結果:術前平均眼圧はCAGV群でC38.8±13.6CmmHg,BGI群でC36.1±7.6CmmHgであった.術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,それぞれCBGI群ではC16.8±10.0,26.8±15.0,9.5C±3.9,12.0±3.5CmmHg,AGV群ではC11.5±3.2,16.0±6.6,17.5±6.5,15.0±3.9CmmHgであった.術後眼圧は術前と比較すると,両群ともに観察期間すべてで有意な低下を認めた.両群間の術後眼圧に有意差は認めなかったが,術後3日目,2週間時点ではCBGI群の眼圧が高い傾向を示し,眼圧の変動は大きかった.薬剤スコアに関しては,AGV群およびCBGI群はいずれも術前に比べ有意差は認めず,群間でも有意差は認めなかった.結論:AGV群およびCBGI群いずれも高い降圧効果が得られたものの,BGI群はCAGV群に比べ眼圧の変動がみられたことから,視野障害が高度な眼圧コントロール不良な血管新生緑内障に対してはCAGVのほうが適していると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCpostoperativeCoutcomesCbetweenCAhmedCglaucomavalve(AGV)CimplantCandCBaerveldtglaucomaCimplant(BGI)surgeryCforCneovascularglaucoma(NVG).CMethods:ThisCstudyCinvolvedC12CeyesCofC11CNVGCpatientsCinCwhichCAGVimplant(8eyes)orBGI(4eyes)surgeryCwasCperformedCbetweenJune2020andApril2021.Intraocularpressure(IOP),drugscores,andsurgicalcomplicationswereevalu-atedCatC3-days,C2-weeks,C1-month,CandC3-monthsCpostoperative.CResults:MeanCbaselineCIOPCinCtheCAGV-groupCandCBGI-groupCeyesCwasC38.8±13.6CmmHgCandC36.1±7.6CmmHg,Crespectively.CAtC3-days,C2-weeks,C1-month,CandC3-monthsCpostoperative,CmeanCIOPCsigni.cantlyCdecreasedCtoC16.8±10.0,C26.8±15.0,C9.5±3.9CmmHg,CandC12.5±3.0CmmHg,respectively,intheBGIgroupand11.5±3.2,C16.0±6.6,C17.5±6.5,CandC15.0±3.9CmmHg,respectively,intheAGVgroup.Nosigni.cantdi.erenceindrugscoreandsurgicalcomplicationswasobservedbetweenthetwogroups.CConclusion:BothCAGVCimplantCandCBGICsurgeryCwereCfoundCe.ectiveCforCNVG.CHowever,CpostoperativeCIOPlevelsintheAGV-groupeyesweremorestable,thussuggestingthatitmaybeamoresuitabletreatmentforrefractoryNVG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(11):1534.1538,C2022〕Keywords:緑内障,緑内障治療,アーメド緑内障バルブインプラント,バルベルト緑内障インプラント.glauco-ma,glaucomasurgery,Ahmedglaucomavalveimplant,Baerveldtglaucomaimplant.C〔別刷請求先〕練合かのこ:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanokoNeriai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,Minami1-jouNishi16-chome,Cyuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPANC1534(94)表1各症例のまとめ年齢術前術前硝子体緑内障術前点眼CCAI術式症例性別原疾患術眼眼圧CPGCbaCAICRho(歳)(mmHg)視力手術手術スコア内服BGIC1C41男CPDR左C29C0.07Cp+.5C.+++.+2C67男眼虚血症候群左C34LP(+)+.6++++.+3C71女CPDR右C62CCF+.5++.+.+4C73男CPDR左C30LP(+)+.5++.+.+AGVC5C49男CPDR左C37C0.08+.5++.+.+6C49男CPDR右C35C0.5+.5++.+.+7C48男CPDR左C44C0.6+.2+.+…8C53女CPDR右C50C0.03+.6++++.+9C68女CPDR左C27C1++2C..+.+.10C75男CPDR右C28C0.2+.4+.+++.11C75女CPDR右C39C0.04+.6++++.+12C42男CPDR左C29CHM+.6++++.+PDR:増殖糖尿病,LP:光覚弁,CF:指数弁,PG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,Ca:a刺激薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.はじめに緑内障に対するインプラント手術は,房水の流出路を人工的な素材によって確保することで流出路の閉塞を回避する目的で行われる1).近年,米国ではCTubeCversusCTrabeculec-tomy(TVT)studyの結果2)を受けてプレートを有するチューブシャント手術(以下,チューブシャント手術)を好む術者が増加している.日本でもC2012年にバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)が保険適応となり,2014年にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglauco-mavalve:AGV)が認可された.わが国の緑内障診療ガイドラインでは,線維柱帯切除術が不成功に終わった患者,結膜瘢痕化が高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない患者,他の濾過手術が困難な患者がチューブシャント手術の適応とされている3).その結果,血管新生緑内障やぶどう膜炎による続発性緑内障などの難治性緑内障に対してチューブシャント手術が施行されるケースが増加している.国内で使用可能なチューブシャント手術にはCAGVとCBGIがあり,眼球赤道付近の強膜にプレートを設置してその周囲に被膜を作らせ,房水が眼球からチューブを通って,被膜中に流出することで眼圧を低下させる.BGIとAGVの最大の違いはチューブの圧調節弁(valve)の有無である.BGIは圧調節弁がなく,低眼圧防止のため手術時にチューブを結紮する必要がある.結紮した糸が吸収されるまでは房水は排出されず,術直後は眼圧下降が得られにくい.そのため,高眼圧防止のためにチューブに針でCSherwoodslitを入れるが,その効果は定量できない.AGVはチューブがプレート内で弁構造を有しており,理論上はC8CmmHg以上の圧がかかると開放される.そのため,AGVでは術直後より眼圧下降が期待でき,なおかつ術後低眼圧が少ない可能性が期待できる.また,BGIとCAGVとではプレートの大きさにも差があり,AGVはCBGIよりもプレート面積が小さく,2直筋間に挿入することができる.現在までチューブシャント手術間の手術成績を直接比較した報告は少なく,対象疾患を絞った報告はさらに少ない.そこで,今回筆者らは当院で血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対して施行されたCAGVおよびCBGIの術後成績を比較検討した.CI対象および方法2020年C6月.2021年C4月にCNVGと診断され,当院にてチューブシャント手術を施行し,術後C3カ月観察が可能であったC11例C12眼を対象として,後ろ向きに検討した.術式はC2020年C6月.2020年C11月はCBGI,2020年C12月.2021年C4月はCAGVを選択した.対象の内訳はCBGI群C4例C4眼,AGV群C7例C8眼であった.各症例の年齢,性別,原疾患,硝子体手術の有無,緑内障手術の有無,術前眼圧,術前視力,薬剤スコア(点眼薬はC1点,配合薬はC2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点)を比較した(表1).BGIの平均年齢はC63.0±12.9歳,AGVはC57.4C±12.3歳で有意差はなかった.性別はCBGIでは男性C3例,女性C1例,AGVでは男性C4例,女性C3例であった.NVGの原疾患はCBGIのC1例のみ眼虚血症候群,それ以外はすべて増殖糖尿病網膜症であった.また,すべての症例でチューブシャント以前に硝子体手術が施行されており,緑内障手術(トラベクレクトミー)を施行した症例はCAGVのC1例のみだった.術前眼圧はCBGIではC38.8±13.6mmHg,AGVではC36.1C±7.6CmmHg,術前視力(logMAR)はCBGIではC1.6C±0.3,AGVではC0.9C±0.6,点眼スコアはCBGIではC5.3C±0.4,AGVではC4.5C±1.6といずれも2群間で有意差は認めなかった.チューブシャント手術のチューブ留置部位はすべて硝子体腔内とした.BGIはまず結膜を切開し,外直筋および上直筋の制御後にC6C×7Cmmの強膜フラップを上耳側に作製した.BGI(全例C103-250)のチューブ根部をC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞されていることを確認したうえでCSher-woodslitを作製,BGIプレートを直筋下に固定した.角膜輪部よりC3.5Cmmの位置でチューブを硝子体腔内に挿入し,強膜フラップでチューブを被覆し終了とした.なお,AGVについては全例CFP7を使用し,直筋制御およびCSherwoodslitの作製は行わず,外直筋と上直筋の間に設置した.術前,術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧および術前,術後C1カ月,3カ月の薬剤スコア,炭酸脱水酵素阻害薬の有無および手術後の有害事象の発症の有無を両群間で比較した.統計解析はCGraphPadCPrismCversion9.3.1を用いて,各時点での両群間の有意差を対応のないCt検定で比較した.6040II結果術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,BGI群ではC16.8±10.0,26.8C±15.0,9.5C±3.9,12.0C±3.5CmmHg,AGV群ではC11.5C±3.2,16.0C±6.6,17.5C±6.5,15.0C±3.9CmmHgであった(図1).両群ともに術前に比べどの期間でも有意な眼圧下降を認めたが,両群間で有意差は認めなかった.術後C1カ月とC3カ月の薬剤スコアは,BGI群ではC4.5C±1.3とC3.0C±0.7で,AGV群ではC2.1C±1.5とC2.3C±1.5であった.BGI群では術前後で有意差はなかったものの,AGV群では術前と比較し,術後C1カ月の時点で有意な減少がみられたが,両群間で有意差はみられなかった(図2).またCBGI群では術前に炭酸脱水酵素阻害薬を全例で内服していたが,術後の内服はみられなかったのに対し,AGV群では術前C7例中C5例において炭酸脱水酵素阻害薬の内服が,術後C1カ月でC1例,3カ月でC3例に減少した(図3).周術期の有害事象はCBGI群で前房出血がC2例,硝子体出血がC1例,脈絡膜.離がC1例,AGV群では,チューブ閉塞がC1例,硝子体出血がC3例,脈絡膜.離がC1例みられた(表2).チューブ閉塞に関しては,閉塞解除のため再度硝子体手術を施行した.眼圧(mmHg)0無,有害事象について比較検討を行った.術後眼圧は両群ともに有意に下降し,両群間に有意差は認めなかったものの,BGI群ではCAGV群に比べ,術後眼圧の変動がみられた.これは,バルブを持たないCBGIにおいてチューブを結紮した図1術前後の平均眼圧術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,BGI群ではことによるものと考えられた.国内でCNVGに対し施行したC16.8±10.0,26.8C±15.0,9.5C±3.9,12.0C±3.5mmHgであBGI,AGVの術後成績を比較した既報でも,術前と比較しった.AGV群ではC11.5C±3.2,16.0C±6.6,17.5C±6.5,15.0術後は有意に眼圧の下降は認めたが,術式による有意差はな±3.9CmmHgであった.AGV群BGI群882200術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月図2術前術後の薬剤スコア術後C1カ月とC3カ月の薬剤スコアは,BGI群ではC4.5C±1.3とC3.0C±0.7,AGV群ではC2.1C±1.5とC2.3C±1.5であった.薬剤スコア*66薬剤スコア44AGV群BGI群8866CIA内服者数424200図3炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)内服者数の変化CAIを全例で内服していたが,術後は内服している症例はなかった.一方でCAGV群ではC7例中C5例で術前にCCAIを内服していたが,術後にも内服していたのは術後C1カ月でC1例,3カ術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月月でC3例であった.く,本研究と同様の結果であった4).NVG以外の疾患を含めた重症緑内障に対してCAGV,BGIを施行した国内からの報告でも同様の結果であった5).また,AhmedCBaerveldtcomparisonCstudy(ABCstudy)やCAhmedCVersusCBaer-veldtStudy(AVBstudy)ではC5年間と長期間の観察が行われ,長期的にみるとCBGIのほうが術後1.2CmmHg程度低い眼圧が得られた6,7)とされている.薬剤スコアに関しては,BGI群では術前と比較して有意差はみられなかったものの,AGV群では術後C1カ月の時点で有意な下降がみられた.術後の炭酸脱水酵素阻害薬の内服に関しては,BGI群では内服継続している症例はなかったが,AGV群では術後有害事象として,チューブ閉塞や硝子体出血が生じて眼圧が上昇したことで,AGV群では術後C3カ月の時点で炭酸脱水酵素阻害薬の内服を再開した症例がC3例あった.一般的にチューブシャント手術ではどのタイプのチューブであっても術後C1カ月から数カ月まで無治療時の眼圧がC30.50CmmHgまで上昇する高眼圧期が存在するとされている.これは,術後早期はチューブ本体周囲組織の浮腫が軽減することで組織の密度が高くなり,房水排出が減少することで眼圧が上昇しやすく,その後,消炎に伴い周囲組織が菲薄化していくことで眼圧が下降するといわれており,眼球マッサージが眼圧の維持に有効であったとの報告もある8).BGIはチューブを吸収糸で結紮するため手術直後のC1.2カ月間は高眼圧が持続することが広く知られており1,2),AGVでも術後の一過性に眼圧が上昇することが報告されているが9,10),それらは術直後のサイトカインの多い房水にCTenon.下組織が曝露されることが関与しているとの推察もあり,手術終了時にトリアムシノロンアセトニドをプレート周囲に散布することが高眼圧期の予防に有効だとの報告もある11).本研究でも術後に眼圧上昇が生じた症例で眼球マッサージにより,眼圧下降が得られた症例も存在した.また,ABCstudyや表2有害事象BGI群(n=4)AGI群(n=8)チューブ閉塞0眼1眼(1C2.5%)前房出血2眼(50%)0眼硝子体出血1眼(25%)3眼(3C7.5%)脈絡膜.離1眼(25%)1眼(1C2.5%)AVBstudyでは,BGIのほうが低眼圧による不成功が多いとの報告もあり6,7),重症の増殖硝子体網膜症,増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後や重篤なぶどう膜炎などの網膜が広範囲に障害され,房水産生が減少しているような症例ではAGVのほうが安全であるといえる.今回,当院で施行したCBGIでは手術C1カ月後の時点までの眼圧変動が大きかったが,AGVでは安定した低眼圧が得られた.一方CBGIは術後一過性の高眼圧を生じやすく,前房穿刺やチューブ内に留置したCripcordやステントを抜去する必要が生じることもあるため,治療に非協力的な小児や認知症患者では対応が困難となる.その点,AGVでは術直後より眼圧下降が得やすいため,術後処置に協力が得られない患者の場合はCAGVのほうが望ましいと考えられる.また,すでに高度な視野障害が生じている患者では,BGIのような眼圧変動は視野障害をさらに悪化させる可能性が示唆されるため,AGVのほうが望ましいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岩崎健太郎:アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント.臨眼74:218-219,C20202)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafter.veyearsoffollowup.AmJOphthalmolC153:789-803,C20123)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C3版,20124)田部早織,稲崎鉱,井上麻衣子ほか:血管新生緑内障に対するC2種類のチューブシャント手術の術後成績の比較.臨眼73:1275-1279,C20195)高木理那,小林未奈,田中克明ほか:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績.あたらしい眼科C35:1692-1695,C20186)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC122:308-316,C20157)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetal:TheCAhmedCversusCBaerveldtstudy:Five-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20168)Neuri-MahdaviK,CaprioliJ:Evaluationofthehyperten-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCGlaucomaCValve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C20039)JungCKI,CParkCK:RiskCfactorsCforCtheChypertensiveCphaseCafterCimpkantationCofCaCglaucomaCdrainageCdevice.CActaOpthalmolC94:260-267,C201610)SmithCM,CGe.enCN,CAlasbaliCTCetal:DigitalCocularCmas-sageCforChypertensiveCphaseCafterCAhmedCvalveCsurgery.CGlaucomaC19:11-14,C201011)YaxdaniCS,CDoozandehCA,CPakravanCMCetal:AdjunctiveCtriamcinoloneCacetonideCforCAhmedCglaucomaCvalveimplantation:aCrandomaizedCclinicalCtrial.CEurCJCOpthal-molC27:411-416,C2017***