———————————————————————-Page1(117)6930910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):693696,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は,線維柱帯細胞のうち色素を含有する細胞のみを選択的に障害する新しい緑内障レーザー治療として1995年にLatinaら1)によって報告された.低エネルギーであり線維柱帯の器質的変化をきたすことが少ないため,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)に代わる緑内障レーザー治療として注目され,以来,広く臨床使用されるに至っている.その成績は開放隅角緑内障や落屑緑内障を対象として,primarytreatmentとして使用した場合,80%以上の有効率2,3)を示し,ラタノプロストに匹敵する降圧作用2,4)があると報告されている.しかし実地臨床では,点眼加療で眼圧下降が不十分な例に手術回避を目的として施行されるなど,second-linetherapyとして使われることが多く,また,ぶどう膜炎に続発する緑内障や閉塞隅角緑内障を除くさまざまな緑内障病型にも用いられる場合がままある.〔別刷請求先〕望月英毅:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:HidekiMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima-shi734-8551,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率望月英毅高松倫也木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学ResponderRateatSixMonthsafterSelectiveLaserTrabeculoplastyHidekiMochizuki,MichiyaTakamatsuandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を後ろ向きに検討した.対象はSLTを受けた緑内障患者連続55例58眼であった.内訳けは,開放隅角緑内障が36眼,落屑緑内障11眼,その他の続発緑内障および緑内障手術既往眼が11眼で,点眼薬剤数2.3±1.0剤,治療前眼圧は20.4±4.1mmHg.総エネルギー量は28.2±6.8mJ,下方半周を凝固した.照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅中央値は5.0mmHgであった.同様に6カ月後に20%以上眼圧が下降したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値は27.4%であった.術前眼圧は有効率と相関があった(r=0.5,p=0.012).落屑以外の続発緑内障と緑内障手術既往眼では成績が悪かった.比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,緑内障手術既往のない眼が良い適応と考えた.Wereviewedaseriesof58eyesof55patientswhohadbeentreatedwithselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Ofthe58eyes,36hadopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma),11hadexfoliativeglau-comaand11hadothersecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgery.Theaveragenumberofanti-glauco-mamedicationsusedwas2.3±1.0andthemeanbaselineintraocularpressure(IOP)was20.4±4.1mmHg.Theinferior180degreesofmeshworkreceivedenergyof28.2±6.8mJ.Theresponderratefor20%pressurereductionwas36%andthatfor3mmHgIOPreductionwas41%at6-monthsfollow-up.ThebaselineIOPcorrelatedwithanSLTsuccessof20%IOPreduction(r=0.5,p=0.012).Eyeswithsecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgerydidnotrespond.SLTwasfoundtobeecaciousforopen-angleglaucomaorexfoliativeglaucomawithoutahistoryofglaucomasurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):693696,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.———————————————————————-Page2694あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(118)から4まで分類判定したものを用いた.II結果術後16カ月後の有効率を図1に示す.レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅の中央値は5.0mmHg,2575%点は4.36.8mmHg,最大値は10.3mmHgであった(図2a).同様に6カ月後に下降率20%以上を示したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値しかしながらこうした場合,従来の報告どおりの効果が期待できるのかはわからない.そこでSLTの日常臨床での成績を検討した.I対象および方法1.対象広島大学眼科緑内障外来でSLTを受けた緑内障患者連続58例62眼のうち全身状態悪化などで受診が途絶えた3例4眼を除いた,55例58眼を対象にレトロスペクティブに検討した.対象は男性30例32眼,女性25例26眼で,年齢は平均62.3±11.2歳(4386歳)であった.異なる日に計測した連続する術前2回の眼圧の平均値は,20.4±4.1mmHgであった.術前の眼圧下降薬の点眼数は2.3±1.0本で,内訳は,点眼薬を使用していないものが3眼,1剤が10眼,2剤が14眼,3剤が26眼,4剤が5眼であった.眼圧下降薬の内服はなかった.観察期間は6カ月とした.対象の緑内障病型の内訳は表1に示すとおり,広義原発開放隅角緑内障で術前眼圧が16mmHg以下の群,16mmHgより大きい群,落屑緑内障,その他の緑内障群とした.その他の群にはaphakicglaucomaなど落屑緑内障以外の続発開放隅角緑内障および,トラベクレクトミー既往眼が4眼,トラベクロトミー既往眼が1眼含まれている.ALT既往眼はなかった.2.方法レーザーはLuminus社製SelectaIIを用い,照射の方法はこれまでの報告57)と同様,0.8mJ/発前後から始め,気泡の出ない最大のエネルギーを使用し,全例下方線維柱帯半周180°に照射した.平均総エネルギーは28.2±6.8mJ(平均±SD),照射数は56.3±6.0発であった.下降幅3mmHg以上,または下降率20%以上を有効と判定した.経過観察期間中に点眼を追加された1眼,緑内障手術を受けた10眼は無効例とした.隅角色素は下方象限の色素をScheieの分類でグレード0表1対象患者の緑内障病型の内訳病形眼数術前眼圧(平均±SDmmHg)開放隅角緑内障(≦16mmHg)614.8±1.5開放隅角緑内障(>16mmHg)3019.9±2.9落屑緑内障1124.0±4.4その他1121.5±3.9開放隅角緑内障(≦16mmHg)は術前2回の受診時眼圧の平均値が16mmHg以下の広義原発開放隅角緑内障.開放隅角緑内障(>16mmHg)は同様に術前眼圧が16mmHgより大きい広義原発開放隅角緑内障.その他の群には緑内障手術既往眼(レクトミー後4例,ロトミー後1例)およびaphakicglaucomaなど,その他の続発開放隅角緑内障を含む.:3mmHg下降:20%下降1009080706050403020100有効率(%)1カ月3カ月術後月数6カ月図1SLT後1~6カ月の有効率実線は有効判定基準を眼圧下降幅3mmHg以上としたもの,破線は有効判定基準を眼圧下降率20%以上としたもの.02468101201020304050ab眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)図2SLT有効例の箱ヒゲ図a:レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示した24眼の下降幅の分布.b:同様に6カ月後に下降率20%以上を示した21眼の下降率の分布.:無効例:有効例35302520151050眼数OAG≦16mmHg15110OAG>16mmHg1317落屑緑内障65その他図3照射後6カ月での病型別有効例数(眼圧下降率20%以上)OAG:開放隅角緑内障.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008695(119)むね50%程度の有効率があったが,眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障および,緑内障手術既往のある群や無水晶体性緑内障などの続発緑内障では有効率は低かった.今回の対象では手術既往のある眼は,トラベクレクトミー後で特に成績が悪かった.レクトミー後はSchlemm管が狭窄化しており9),レクトミー既往眼にはロトミーは効果が少ない10)ことから,一般にレクトミー後は房水流出路が萎縮するものと考えられている.SLTも同様の理由でレクトミー後は無効であるものと推察される.また,術前眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障の群では反応例が少なく,やはり術前眼圧の高いものが反応しやすいものと考える.落屑緑内障にやや反応例が多かったのも術前眼圧が高かった影響があるのかもしれない.色素含有細胞のみを選択的に障害するとされているSLTの作用機序からは隅角色素が多い眼のほうが有効性は高いものと予想されるが,SLTでは隅角色素と術後成績の間に相関がない5,11)と報告されている.自験例でも相関はみられなかった.この事象に関しては考察が困難であり,これまでにも納得のできる説明はなされていない.Songら8)は個々の緑内障点眼薬が成績に及ぼす影響を検討し,プロスタグランジン製剤,b遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬のいずれも有効率に差は検出されなかったとしているが,Songらの対象では複数の点眼が処方されている例が多く,はたして正確に個々の点眼の影響を検討できるのか疑問が残る.筆者らの症例においても,多くの症例でラタノプロストが処方されており,個々の点眼薬の影響を検討することは困難であったので,今回は検討していない.最近レトロスペクティブな検討12)で,プロスタグランジン製剤点眼を使用している患者群のほうが,その他の緑内障点眼を使用している群よりSLTの効果が高いとの報告がなされたものの,今のところその他にSLTと相乗効果のある緑内障点眼薬があるのかどうかは不明である.以上を要するに,SLTでは比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,レクトミーの既往のない眼がよい適応であり,隅角色素は効果には無関係と考える.SLTは比較的合併症の少ない治療ではあるが,点眼と比べて患者にかなりの経済的負担(平成18年10月版医科点数表の解釈によると隅角光凝固術8,970点)を強いるものである.病型を選ばずに,点眼加療中の緑内障患者にSLTを行うと,既報の成績よりも反応性が悪くなる可能性があることを念頭に適応を決する必要があるものと考える.文献1)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,1995は27.4%,2575%点は2533%,最大値は42%であった(図2b).照射後6カ月で,下降率20%以上を示した例の数を病型別に図3に示す.術前眼圧16mmHgより大きい開放隅角緑内障と落屑緑内障の群で比較的良好な反応が得られたが,16mmHg以下の開放隅角緑内障とその他の群では反応性に乏しかった.緑内障手術既往のある眼では,トラベクレクトミー既往眼は4眼すべてで無効で,ロトミー既往眼1眼は術後3カ月までは有効であったが,6カ月目に無効となった.つぎに成績に影響を与える因子を検討した.有効例(下降率20%以上)における眼圧下降値と術前眼圧は単回帰にてr=0.5と弱い相関があった(図4).3mmHg下降,および20%下降で判定した有効例群と無効例群における隅角色素のScheie分類のグレード数をMann-Whitney-Utestを用いて比較したところ,いずれの判定基準においても差は検出されなかった(順にp=0.89,p=0.59).同様に術前の眼圧下降薬の点眼数を比較したが,差は検出されなかった(順にp=0.17,p=0.11).III考按今回は,すでに点眼加療がなされているさまざまな緑内障病型に対してSLTを行った結果を検討した.これまでの報告2,3)ではSLTはprimarytreatmentとしては80%以上の有効率を示すとされている.しかしながら,今回得られた有効率はこれらと比べても低い値であった.筆者らと同様に点眼加療を行っている患者に対する治療の報告8)をみると,50%前後の有効率であり,筆者らの結果よりやや良いもののおおむね同様である.今回の検討では術前の点眼数と有効性の関係は検出されなかったものの,日常臨床でSLTの適応を決定する場合に注意を要する結果といえる.対象患者の病型の内訳をみてみると,術前眼圧が16mmHgより大きい開放隅角緑内障,および落屑緑内障ではおおr=0.50p=0.0121110987654315202530術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(6カ月後)(mmHg)図4有効例(眼圧下降率20%以上)における眼圧下降幅と術前眼圧の単回帰分析———————————————————————-Page4696あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(120)維柱帯形成術のアルゴンレーザー線維柱帯形成術の効果比較.眼臨99:633-637,20058)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,20059)JohnsonDH,MatsumotoY:Schlemm’scanalbecomessmalleraftersuccessfulltrationsurgery.ArchOphthal-mol118:1251-1256,200010)禰津直久,永田誠:天理病院トラベクロトミーの統計学的観察その1病型・術前手術.眼臨80:2120-2123,198611)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200512)SchererWJ:Eectoftopicalprostaglandinanaloguseonoutcomefollowingselectivelasertrabeculoplasty.JOculPharmacolTher23:503-512,20072)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20063)MelamedS,BenSimonGJ,Levkovitch-VerbinH:Selec-tivelasertrabeculoplastyasprimarytreatmentforopen-angleglaucoma:aprospective,nonrandomizedpilotstudy.ArchOphthalmol121:957-960,20034)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Aran-domised,prospectivestudycomparingselectivelasertra-beculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20055)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19996)加治屋志郎,早川和久,澤口昭一:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.日眼会誌104:160-164,20007)佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:選択的レーザー線***