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強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の 眼圧下降効果

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1097.1101,2022c強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の眼圧下降効果池上裕華*1新田耕治*2松田卓爾*1坂部敦子*1余頃麻里*1河野文香*1楢崎智也*1露木未夕*1杉山和久*3生野恭司*1*1いくの眼科*2福井県済生会病院眼科*3金沢大学付属病院眼科CE.ectofIOPReductioninHighMyopiaGlaucomabySelectiveLaserTrabeculoplastyYukaIkenoue1),KojiNitta2),TakujiMatsuda1),AtsukoSakabe1),MariYogoro1),AyakaKono1),TomoyaNarazaki1),MiyuTsuyuki1),KazuhisaSugiyama3)andYasushiIkuno1)1)IkunoEyeCenter,2)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospitalOphthalmology,3)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospitalOphthalmologyC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が強度近視を伴う緑内障にも有効かを後ろ向きに検討した.対象および方法:2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行した患者のうち,6カ月まで経過観察可能であったC96眼(男性C35眼,女性C61眼平均年齢C67.8C±11.6歳)を非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)に分けて検討した.結果:眼圧はCSLT施行後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な下降を認めた.Out.owpressure改善率C20%未満を死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群C87.7%,強度近視群C80.0%,病的近視群C96.6%でC3群間に有意差を認めなかった.合併症は一過性眼圧上昇をC4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)で認めた.うちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.結論:強度近視眼緑内障においてもCSLTは安全で有用な治療法であると考えられる.CPurpose:Toretrospectivelyinvestigatethee.cacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)fortreatingglau-comaCassociatedCwithChighCmyopia.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC96Cglaucomatouseyes(35CmaleCeyes,61femaleeyes;meanpatientage:67.8C±11.6years)thatweretreatedwithSLTandfollowedforatleast6-monthspostoperative.Theeyesweredividedintothefollowing3groupsaccordingtotherefractivestatusandfundus.ndings:1)nonhighmyopiagroup(n=42eyes,meanage:68.0C±13.5years),highmyopicgroup(n=25eyes,Cmeanage:61.0C±7.5years)C,CandCpathologicalCmyopiagroup(n=29Ceyes,Cmeanage:73.2C±8.2years)C.CResults:Comparedwiththepreoperativevalues,meanintraocularpressure(IOP)wassigni.cantlyreducedat1-,3-,and6-monthspostoperative.At6-monthspostoperative,thelifetableanalysis.ndingsinthenonhighmyopia,highCmyopia,CandCpathologicalCmyopiaCgroupsCwere87.5%,83.8%,Cand86.2%,Crespectively,CthusCillustratingCnoCsigni.cantlydi.erence.PostoperativecomplicationsincludedtransientIOPelevationin4eyes,yetIOPwasfoundtoChaveCreducedCtoCnormalCinC3CofCthoseCeyesCatCtheCsubsequentCfollow-upCexamination.CInCtheCpathologicCmyopiaCgroup,1eyeunderwent.lteringsurgeryduetocontinuoushighIOP.Inalleyes,therewasnooccurrenceofante-riorCchamberChemorrhageCorCuveitis.CConclusion:SLTCisCaCsafeCandCe.ectiveCtreatmentCforCglaucomaCassociatedCwithhighmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1097.1101,C2022〕Keywords:緑内障手術,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT),強度近視眼緑内障,眼圧下降.glaucomaCsur-gery,selectivelasertrabeculoplasty,highmyopicglaucoma,IOPreduction.C〔別刷請求先〕池上裕華:〒532-0023大阪市淀川区十三東C2-9-10十三駅前医療ビルC3階医療法人恭青会いくの眼科Reprintrequests:YukaIkenoue,IkunoEyeCenter,3FJuusoekimaeiryobiru,2-9-10Jusohigashi,Yodogawa-ku,Osaka-shi,Osaka532-0023,JAPANCはじめに緑内障は眼圧下降治療が唯一のエビデンスの存在する治療である.一般的第一選択治療である点眼治療は,患者が容易に受け入れることができるが,デメリットとして毎日点眼する必要があり,副作用のアレルギー反応がでる可能性がある.また,患者のアドヒアランスに左右される.緑内障の初期.中期は視力や視野障害の自覚がないという特徴があるため,脱落していく患者も少なくない1).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は,Qスイッチ半波長CYAGレーザーを用いたレーザー手術である.照射によりサイトカインが放出され,活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ2),Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進されることで,房水流出抵抗が減少するとされている3).近年はパターンレーザー線維柱帯形成術(patternedClaserCtrabecu-loplasty:PLT)やマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micropulseCdiodeClasertrabeculoplasty:MDLT)も施行されているが,唯一,SLTは周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性が生じない治療である4).これまでCSLTの位置づけは最大耐用薬剤成分数での点眼治療をしても眼圧が下がらなかった患者に行うことが多かったが,点眼を多く使用していると成績は不良であるとの報告5,6)もあり,また期待したほど眼圧が下がらない,説明に時間がかかる,患者がレーザーに対して抵抗感があるなどの理由により普及していなかった.2013年に新田らは,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に対してSLTを第一選択治療として施行した成績を国内で最初に報告し,NTGに対するC.rst-lineSLTの有効性と安全性を示した7).さらにC2019年にはCLiGHTCstudy8)が報告され,原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対する第一選択治療としてのSLTの有用性を示した.また,SLT施行群では追加の観血的緑内障手術の必要がなかったことや,点眼群と比較してコストパフォーマンスが高い点も報告され,最近,SLTが世界的に注目されるようになってきた.強度近視眼は近視性変化により緑内障様視神経症をきたすことがある.この病態に緑内障に準じた眼圧下降療法が行われることがある.これまでCSLTに関して多数の報告があるが,強度近視眼緑内障に対する報告はない.今回筆者らは強度近視眼緑内障にもCSLTが有効か後向きに検討した.CI対象および方法いくの眼科(以下,当院)で広義開放隅角緑内障と診断された患者のうち,眼圧コントロール不良・視野障害進行・第一選択治療としてCSLT治療が必要と判断され,緑内障専門の同一術者によってC2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行され,施行後C6カ月まで経過観察可能であったC96眼を対象とした.対象の病型は狭義開放隅角緑内障C40眼,正常眼圧緑内障CNTG56眼であった.本研究は,当院の倫理委員会の承認(第C5回C001番)を得て行った.SLTはCEllex社製CTangoオフサルミックレーザー(波長532Cnm,パルス幅C3Cns)を使用し,indexingSLTレンズを装着した後,0.3.0.8CmJの間でシャンパンバブルが発生するかしないかの強さのエネルギーを用い,隅角全周C360°に施行した.一過性眼圧上昇(5CmmHg以上上昇)を防ぐため,術前C1時間前および術直後にアプラクロニジン点眼(アイオピジン)を行い,術後はステロイド点眼および非ステロイド抗炎症薬点眼は使用しなかった.術前後で緑内障点眼の内容は変更せずに経過観察を行った.経過観察中に眼圧下降効果が不十分な場合は治療を強化し,眼圧の再上昇をきたした場合にはCSLTの再照射も考慮した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用い,術前と術後C1カ月,3カ月,6カ月の時点での眼圧値,眼圧下降率,Cout.owpressure改善率(CΔOP)を解析に使用した.眼圧値は,術前は1.3回の平均値,術後はC1回の測定値を行いた.CΔOPは上強膜静脈圧をC10CmmHgとし,CΔCOp=(SLT前眼圧.SLT後眼圧)/(SLT前眼圧C.10)C×100の式で求め,CΔOP(%)を計算した.SLT効果の判定には,CΔCOP20%以上を有効と定義した.眼軸長は光学的眼軸長(OA2000,トーメーコーポレーション)を使用して測定し,26Cmm未満であったものを非強度近視群,26Cmm以上を強度近視群に分類し9),さらに強度近視群に分類したなかから後極部に変性を有するものを病的近視群に分類し,術前後の眼圧値,眼圧下降率を検討した.なお,病的近視眼の判定は,強度近視専門医とCSLT施行医のC2名による判定をもって分類した.また,配合点眼はC2剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤として計算した.統計ソフトはCJMP14を用い,SLT施行前後での眼圧下降の有意性には対応のあるCt検定を,3群間の比較にはCKruskal-Wallisの検定を,3群間での眼圧の推移の分散分析には二元配置分散分析を使用した.生命表解析は,CΔCOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義し,Kaplan-Meier法を用いた.各々の検定における有意水準はC0.05未満とした.CII結果対象の内訳は,非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)であった.非強度近視群/強度近視群/病的近視群(以下,同様)の眼軸長はそれぞれC24.21C±1.18Cmm/27.41±1.13Cmm/C31.26±2.01Cmm(p<0.01)であった.SLT照射エネルギー(照射数)は55.5C±10.1CmJ(85.0C±6.6発)/57.8C±11.1CmJ(88.6C±6.1発)/56.2C±12.2CmJ(86.1C±7.3発)(p=0.63)であった.表13群の臨床的背景非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)p値年齢(歳)20.C86(C68.0C±13.5)50.C77(C61.0C±7.5)54.C82(C73.2C±8.2)<C0.01性別(男/女)C14/28C14/11C7/22<C0.05眼軸長(mm)C24.2±1.2C27.4±1.1C31.3±2.0<C0.01SLT前眼圧(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1C0.06薬剤成分数C1.6±1.4成分C2.3±1.6成分C2.6±1.2成分<C0.01薬剤成分数の内訳無治療9眼1成分16眼2成分6眼3成分以上11眼無治療5眼1成分3眼2成分3眼3成分以上14眼無治療0眼1成分7眼2成分3眼3成分以上19眼<C0.01表23群の眼圧値および眼圧下降率非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)術前眼圧値(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1術後C1カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.4±3.2C18.6±14.1C13.0±3.1C15.3±13.2C15.7±7.3C16.3±15.2術後C3カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.1±2.5C19.1±14.0C12.5±2.8C16.7±14.4C13.9±4.3C21.7±19.5術後C6カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C13.8±2.5C19.1±12.0C13.4±3.2C11.6±16.2C14.2±4.7C21.4±20.10.6非強度近視群強度近視群10.8眼圧(mmHg)2015累積生存率0.4病的近視群0.210001234565SLT前眼圧1カ月後3カ月後6カ月後SLT施行後経過時間(カ月)図1SLT前後の眼圧値の推移図2Out.owpressure改善率20%未満を死亡と定義しSLT施行後眼圧は,術後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前眼圧はC18.1C±5.1mmHg/15.4±3.1mmHg/19.0C±7.1CmmHg(p=0.06)であった.SLT施行直前に使用していた薬剤成分数はC1.6成分/2.3成分/2.6成分であった(p<0.01)(表1).SLT施行後眼圧は,術後C1カ月:14.4C±3.2CmmHg/13.0±3.1CmmHg/15.7±7.3mmHg,3カ月:14.1C±2.5/12.5±2.8/13.9±4.3,6カ月:13.8C±2.5/13.4±3.2/14.2C±4.7で,常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認た生命表解析Out.owpressure改善率C20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(logrank検定:p=0.1722).めた(表2,図1).SLT施行後の眼圧下降率は術後C1カ月:C18.6±14.1%/15.3C±13.2%/16.3C±15.2%,3カ月:19.1C±14.0%/16.7C±14.4%/21.7C±19.5%,6カ月:19.1C±12.0%/C11.6±16.2%/21.4C±20.1%であった(表2).ΔOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(p=0.1722)(図2).SLT後の合併症として,術後C1時間の時点または術後C1カ月の時点で一過性眼圧上昇が認められたものは,96眼中4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)であった.このうちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.CIII考按近視は緑内障発症の危険因子とされ,緑内障進行の危険因子である可能性についての報告もある10,11).また,近視眼は加齢とともに眼球形態が変化することによりさまざまな黄斑疾患や周辺部網膜病変が生じることがある.これを病的近視とよび,病的近視の眼底所見には,後部ぶどう腫,Bruch膜のClacquercrack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,網膜分離症,近視性網脈絡膜萎縮などがある.これらの近視性変化により緑内障様視神経症をきたすこともある12).この病態は,緑内障による構造変化と強度近視による構造変化が混在している可能性があるがまだ不明なことが多い.強度近視眼緑内障をC10年以上観察した場合には乳頭出血の出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された13).myopicCglaucomatous(MG)型,generalizedenlargement型,focalglaucomatous型のC3群の乳頭形状を有する開放隅角緑内障でC5年間の乳頭出血の頻度を比較した結果,MG型が乳頭出血の出現頻度が低率で,近視緑内障眼は進行も緩徐である可能性がある14)など,近視眼緑内障の病態は非近視眼緑内障と異なる経過をたどる可能性も考えられ,アジアを中心に徐々に報告が増えてきている.近視眼緑内障に視神経へのストレス軽減を目的に眼圧下降治療を試す施設もあり,その是非が注目されている.本研究におけるCSLT後の眼圧はすべての時点でベースライン眼圧より下降し,強度近視眼や病的近視眼であっても眼圧下降効果は発現している.日本人の緑内障はその約C7割がCNTGであり15),本研究でもCNTGは全体のC58.3%だったので,同様の分布であったと思われる.NTGにCSLTを施行したC6カ月後の眼圧下降率は,15.1%7)やC21.2%16)などの報告があり,SLTにより過去の報告と同様の効果が得られたと思われる.当院は強度近視眼の患者が多く高度の視神経障害も合併している患者が多いという特殊性がある.視力C0.1以下の症例も多く,Humphrey視野での評価が困難な患者も多く,SLTによる視機能保持効果の評価については課題が多い.また,最大薬剤成分数の点眼を使用しており,SLTの作用持続期間が短い5,6)とされる患者であっても,一時的にでも視機能を保持したいためにCSLTを施行しているという背景があった.このような条件下でも経過観察期間内の合併症の頻度は少なく,眼圧は下降していることから,病的近視眼緑内障の治療方法としてもCSLTは有用である可能性が示唆された.合併症については一過性眼圧上昇がC0.8%起こる可能性があると報告されている5).本研究では非強度近視でC2.4%,強度近視群でC8.0%,病的近視群でC3.4%に認めた.一過性眼圧上昇を認めても治療内容を変更せずに経過観察したところ,3例で次の診察時にはベースライン以下に眼圧は下降し,視機能に影響するような合併症もなかった.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術が必要となった.SLTはC1回の治療でしばらく経過観察するので,点眼での治療とは異なり,定期的な通院の必要性に対する認識が希薄になってしまう可能性がある.このためCSLTの照射後は眼圧が上昇する可能性があるので術後も定期的な眼圧の確認が必要である,と伝えておくことは非常に重要である.本研究の限界は,後ろ向き研究であることである.強度近視を伴う緑内障では緑内障性構造変化と近視性構造変化が合併した状態なので,SLT施行前の臨床的背景がC3群間で異なっておりCSLT効果を評価することが困難であった.よって本研究では,それぞれの症例群に対して効果があるということを示したものとなる.今後は病期や眼圧の程度を揃えた多施設前向き研究が必要と考える.また,今後の研究では,強度近視や病的近視群の眼軸伸展に伴う構造変化が眼圧上昇に影響する可能性も考慮していくことが重要と考えられる.病的近視群のなかには,網脈絡膜萎縮が広範に存在するために視神経症による視野障害以外の要素も加味すべきであるが,病的近視眼群では視力C0.1以下の症例も多く,Hum-phrey視野での評価が困難であったので,SLTによる眼圧下降が視機能保持に貢献しているかの検討が困難であった.CIV結論強度近視眼緑内障においてもCSLTは非強度近視眼緑内障と同様に眼圧下降が得られる可能性がある.文献1)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20142)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:AnewinsightintoCtheCcellularCregulationCofCaqueousout.ow:howCtra-becularCmeshworkCendothelialCcellsCdriveCaCmechanismCthatCregulatesCtheCpermeabilityCofCSchlemm’sCcanalCendo-thelialcells.BrJOphthalmolC89:1500-1505,C20053)ChenCC,CGolchinCS,CBlomdahlS:ACcomparisonCbetweenC90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucomaC13:62-65,C20044)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulseandCWlaserinterac-tion.ExpEyeRes60:359-371,C19955)KhawajaCAP,CCampbellCJH,CKirbyCNCetal:Real-worldCoutcomesCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCtheCUnitedCKingdom.OphthalmologyC127:748-757,C20206)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C20167)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20138)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20199)HuanhuanCheng,LiWang,JackXKaneetal:AccuracyofCarti.cialCintelligenceCformulasCandCaxialClengthCadjust-mentsCforChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC223:C100-107,C202110)PerdicchiCA,CIesterCM,CScuderiCGCetal:VisualC.eldCdam-ageCandCprogressionCinCglaucomatousCmyopicCeyes.CEurJOphthalmolC17:534-537,C200711)ParkHY,HongKE,ParkCK:ImpactofageandmyopiaonCtheCrateCofCvisualC.eldCprogressionCinCglaucomapatients.Medicine(Baltimore)C95:e3500,C201612)Ohno-MatsuiCK,CShimadaCN,CYasuzumiCKCetal:Long-termCdevelopmentCofCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC152:256-265,C201113)NittaCK,CSugiyamaCK,CWajimaCRCetal:IsChighCmyopiaCaCriskfactorforvisual.eldprogressionordiskhemorrhageinCprimaryCopen-angleCglaucoma?CClinCOphthalmolC11:C599-604,C201714)YamagamiA,TomidokoroA,MatsumotoSetal:Evalua-tionCofCtheCrelationshipCbetweenCglaucomatousCdiscCsub-typesCandCoccurrenceCofCdiscChemorrhageCandCglaucomaCprogressionCinCopenCangleCglaucoma.CSciCRepC10:21059,C202015)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C200416)LeeJWY,ShumJJW,ChanJCHetal:Two-yearclinicalresultsCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCnormaltensionglaucoma.Medicine(Baltimore)C94:e984,C2015***

リパスジル塩酸塩水和物点眼薬の眼圧下降効果と安全性の検討

2017年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(1):124.126,2017cリパスジル塩酸塩水和物点眼薬の眼圧下降効果と安全性の検討吉川晴菜*1池田陽子*2,3森和彦*2吉井健悟*4上野盛夫*2丸山悠子*5今井浩二郎*6外園千恵*2木下茂*7*1京都第二赤十字病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5福知山市民病院*6京都府立医科大学医療フロンティア展開学*7京都府立医科大学感覚器未来医療学InvestigationofIntraocularPressure-loweringE.ectsandSafetyofRipasudilHarunaYoshikawa1),YokoIkeda2,3),KazuhikoMori2),KengoYoshii4),MorioUeno2),YukoMaruyama5),KoujiroImai6),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita7)1)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)DepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)FukuchiyamaCityHospital,6)DepartmentofMedicalInnovationandTranslationalMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,7)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineリパスジル塩酸塩水和物(グラナテックR)点眼薬の眼圧下降効果と安全性について検討するために,2014年12月.2015年5月にグラナテックR点眼液を処方した225例のうち3カ月経過観察できた症例を対象に,眼圧下降効果および副作用をレトロスペクティブに検討した.処方した225例のうち,3カ月以内の中止例は20例であった.1カ月と3カ月に眼圧測定が可能であった125例のうち,グラナテックR追加群は94例(平均2.9剤に追加),切替群は31例(平均3.8剤より1剤切替)であり,経過中に副作用を認めたものは225例中76例で,半数以上に充血を認めた.点眼開始前眼圧は平均18.5±6.5mmHg,1カ月後の平均眼圧下降量は追加群/切替群は3.0±5.4/1.5±2.9mmHg,同じく3カ月後は3.1±5.4/2.9±3.0mHgであり,いずれも追加および切替前と比較して有意な眼圧下降効果を認めた.Subjectsofthisretrospectivestudywere225patientswhohadbeenprescribedGLANATECRfromDecember2014toMay2015.Statisticalanalysiswasdonebypairedt-test.Ofthe225patients,20werediscontinuedwithin3months.TheGLANATECRadditiongroupconsistedof94patients,andtheGLANATECRswitchinggroupof31patients.Sidee.ectsoccurredin76of225patientsduringthefollow-upperiod.Averageintraocularpressure(IOP)beforeGLANATECRinitiationwas18.5±6.5mmHg;averagedecreaseinIOPafter1and3monthswas3.0±5.4/1.5±2.9mmHgand3.1±5.4/2.9±3.0mmHg,respectively(additiongroup/switchinggroup).Inbothgroups,IOPwasstatisticallysigni.cantlydiminished.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(1):124.126,2017〕Keywords:リパスジル塩酸塩水和物,Rhoキナーゼ阻害薬,眼圧下降,緑内障.ripasudilhydrochloridehydrate,Rho-associated,coiled-coilcontainingproteinkinaseinhibitor,intraocularpressurelowering,glaucoma.はじめに2014年12月に発売されたリパスジル塩酸塩水和物(0.4%グラナテックR)点眼液は,Rhoキナーゼ阻害作用により主経路の房水流出を促進する1.5).これまでの抗緑内障点眼薬とは作用機序が異なることから,既存の点眼薬に追加,または切り替えることにより,さらなる眼圧下降の効果が期待されている.これまでに,多数例での0.4%グラナテックR点眼液処方による眼圧下降効果の報告はまだ行われていない.発売から1年以上経過し,多数の処方例を経験したので,リパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性につい〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN124(124)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(124)1240910-1810/17/\100/頁/JCOPYてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法対象は2014年12月.2015年5月に当科および御池眼科池田クリニックを受診し,リパスジル塩酸塩水和物点眼液を処方した225例225眼(平均年齢68.0±35.0歳)である.本研究はヘルシンキ宣言のもと,厚生労働省倫理研究に関する倫理指針に則り個人情報を連結不可能匿名化した状態でレトロスペクティブな観察研究として行った.対象の内訳は男性111例111眼(平均年齢67.3±35.0歳),女性114例114眼(平均年齢69.4±35.3歳)であり,両眼に処方している場合は右眼のデータを選択した.副作用の検討は全例に対して行い,リパスジル塩酸塩水和物点眼開始前と開始後1カ月,3カ月の眼圧測定が可能であった症例に対して,眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討した.眼圧測定にはGoldmann圧平式眼圧計を使用し,測定時間は外来診察時間であった午前9時.午後19時とした.点眼前眼圧は直前の1回の値を採用した.統計的検討は対応のあるt検定を用い,多重比較の調整にはBonferroni法により,p<0.017の場合に有意とした.データ表示は平均値±標準偏差とした.II結果リパスジル塩酸塩水和物点眼開始後1カ月,3カ月の眼圧を測定可能であった症例は125例125眼(平均年齢68.8±12.1歳)であり,内訳は男性63例63眼(平均年齢67.5±14.2歳),女性62例62眼(平均年齢70.1±9.8歳)であった(表1).既存使用の抗緑内障点眼液にリパスジル塩酸塩水和物点眼液を追加した群は94例94眼であり,平均2.9±1.2剤に追加されていた.1カ月後の平均眼圧下降量は3.0±5.4mmHgであり,3カ月後の平均眼圧下降量は3.1±5.4mmHgであった(図1).リパスジル塩酸塩水和物点眼眼圧下降作用に関しては5mmHg以上下降したHyperresponderが存在し,使用開始から3カ月の時点で眼圧が5mmHg以上下降した症例を9眼(25.5%),10mmHg以上下降した症例を5眼(5.3%)認めた.10mmHg以上下降した症例は全例が男性(平均年齢65.0歳)であったが,病型などその他の共通点は認めなかった.既存使用の抗緑内障点眼液平均3.8±1.0剤のうちの1剤をリパスジル塩酸塩水和物点眼液に切り替えた群は31例31眼であり,切り替え前の点眼薬はブナゾシン塩酸塩が19例,ブリモニジンが9例,その他が3例であった.1カ月後の平均眼圧下降量は1.5±表1患者背景(1カ月後と3カ月後に眼圧測定が実施できた症例125例)病型症例数(眼)男性:女性(人)平均年齢(歳)NTG4017:2368.0±11.8POAG3622:1471.6±13.5SG落屑緑内障154:1168.1±13.2ぶどう膜炎に伴う緑内障95:0464.6±16.0ステロイド緑内障11:0044血管新生緑内障22:0057.5±19.1その他のSG94:0559.3±18.1その他137:0677.0±4.2NTG:正常眼圧緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,SG:続発緑内障.*2220201818*1616眼圧(mmHg)14141212101088642200点眼前1M後3M後点眼前1M後3M後*有意差あり(p<0.01)*有意差あり(p<0.01)図1追加群図2切り替え群(125)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017125表2リパスジル塩酸塩水和物点眼薬の副作用副作用症例数(眼)充血55眼瞼腫脹5霧視2頭痛2その他12合計762.9mmHg,3カ月後の平均眼圧下降量は2.9±3.0mmHgであった(図2).切り替えから3カ月の時点で眼圧が5mmHg以上下降した症例は9眼(29%)あり,10mmHg以上下降した症例は認めなかった.すでに4剤以上使用している多剤併用症例61例61眼(平均年齢66.8±12.8歳)に絞って検討しても,リパスジル塩酸塩水和物液点眼液の使用から3カ月の時点で平均2.7±4.9mmHgと有意な眼圧下降効果を認め(p<0.01),多剤併用症例に対しても有意な眼圧下降効果を確認した.リパスジル塩酸塩水和物を処方した225例中,副作用を認めたものは76眼(33.8%)(表2)であり,半数以上に充血を認めた.また,処方した225例のうち,開始後3カ月継続できずに中止した症例は20眼(8.9%)であった.途中中止に至った理由の内訳は眼圧下降効果不十分により緑内障手術に至ったものが9眼(45%),頭痛2眼(10%),その他9眼(45%)(圧迫感,ふらつき,充血,気分不良,転院,胸のつっかえ感,かゆみ,咽頭の違和感,前房炎症それぞれ1例ずつ)であった.III考按今回,筆者らはリパスジル塩酸塩水和物液発売以来,多数の処方例を経験した.リパスジル塩酸塩水和物を追加した群,もしくは既存の点眼薬と切り替えた群ともに,使用後3カ月の時点で有意に眼圧が下降した.すでに4剤以上使用している多剤併用症例に対しても,リパスジル塩酸塩水和物点眼液使用開始から3カ月の時点で平均2.7±4.9mmHgと有意な眼圧下降効果を認めた.これは,既存の抗緑内障薬とは作用機序が異なるために,多剤併用している症例に対してもさらなる眼圧下降効果を認めたと考える.緑内障点眼4剤目としての0.1%ブリモニジン点眼液の短期眼圧下降効果の報告6)や,ブナゾシン塩酸塩からブリモニジン酒石酸塩への切り替えの報告7)と比較しても,ほぼ同等の眼圧下降効果を認めた.しかし,有意な眼圧下降効果を認めた一方で,副作用も処方例の33.8%で認め,点眼を中止せざるをえない症例も処方全体の8.9%に認めた.このように,眼圧下降効果を認めながらも,副作用の出現により使用を中止する症例もある.使用当初は副作用症状がなくても使用期間が延びるに伴い,充血や眼瞼炎が出現する症例もあるため,副作用の出現には毎回注意が必要である.眼圧下降作用に関してはhyperresponderも存在していたが,眼圧下降の効果が持続するのか,それとも一時的なものなのかは,今後症例数を増やし,経過観察期間を延長し,検討していかなくてはならないと考える.この研究でのバイアスとして,眼圧下降効果は3カ月以上継続できた症例に限っているので,3カ月を待たずに眼圧下降不十分で中止した症例は眼圧下降効果判定には含まれていない.そのために眼圧下降効果が比較的よい症例の解析結果となっている可能性がある.リパスジル塩酸塩水和物点眼液は2014年12月に発売され,処方後の報告なども少ない.長期の眼圧下降効果や副作用などについては,今後のさらなる検討が必要と考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeungT,ManserE,TanLetal:Anovelserine/threo-ninekinasebindingtheRas-relatedRhoAGTPasewhichtranslocatesthekinasetoperipheralmembranes.JBiolChem270:29051-29054,19952)IshizakiT,MaekawaM,FujisawaKetal:ThesmallGTP-bindingproteinRhobindstoandactivatesa160kDaSer/Thrproteinkinasehomologoustomyotonicdys-trophykinase.EMBOJ15:1885-1893,19963)MatsuiT,AmanoM,YamamotoTetal:Rho-associatedkinase,anovelserine/threoninekinase,asaputativetar-getforsmallGTPbindingproteinRho.EMBOJ15:2208-2216,19964)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofrho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20015)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115Clinical-StudyGroup:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20136)平川沙織,井上俊洋,小嶋祥ほか:緑内障点眼4剤目としての0.1%ブリモニジン点眼液の短期眼圧下降効果.眼臨紀8:896-899,20157)木内貴博,井上隆史,高林南緒子ほか:眼圧下降薬4剤併用緑内障患者におけるブナゾシン塩酸塩からブリモニジン酒石酸塩への切り替え.眼臨紀8:891-895,2015***(126)

ラタノプロスト単独投与への点眼治療薬変更による眼圧下降効果の多施設検討

2011年3月31日 木曜日

444(13あ6)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(3):444.447,2011cはじめにラタノプロストは1999年に日本で発売されて以来,その優れた眼圧下降効果の臨床試験は多数報告され1),b遮断薬を上回る眼圧下降効果が期待できる薬剤と考えられている2,3).2003年に発表された緑内障診療ガイドラインでは,「薬剤の効果が不十分な場合,あるいは薬剤耐性が生じた場合は,薬剤の追加ではなく薬剤の変更をまず考える.また,その場合,視神経障害の進行を阻止しうると考えられる眼圧レベル〔別刷請求先〕高井保幸:〒693-8501出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YasuyukiTakai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversitySchoolofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANラタノプロスト単独投与への点眼治療薬変更による眼圧下降効果の多施設検討高井保幸*1谷戸正樹*1市岡博*2高梨泰至*3舩田雅之*4八田史郎*5河合公子*6小松直樹*7大平明弘*1*1島根大学医学部眼科学講座*2市岡眼科クリニック*3松江赤十字病院眼科*4魚谷眼科医院*5前嶋眼科*6山陰労災病院眼科*7鳥取大学医学部視覚病態学EffectofSwitchtoLatanoprostMonotherapyonIntraocularPressureReduction:MulticenterStudyYasuyukiTakai1),MasakiTanito1),HiroshiIchioka2),TaijiTakanashi3),MasayukiFunada4),ShirouHatta5),KimikoKawai6),NaokiKomatsu7)andAkihiroOhira1)1)DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversitySchoolofMedicine,2)IchiokaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,MatsueRedCrossHospital,4)UotaniEyeClinic,5)MaejimaEyeClinic,6)DepartmentofOphthalmology,SaninRosaiHospital,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity多施設において,他剤点眼にて目標眼圧(初期~中期:15mmHg,後期:15mmHg,末期:12mmHg)以下に達していない原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例52例99眼をラタノプロスト単独投与に変更した後の眼圧下降率および目標眼圧到達度を検討した.点眼変更前平均眼圧は17.5±4.0mmHgで,点眼変更2週後14.6±2.5mmHg,4週後14.2±2.8mmHg,8週後14.2±2.9mmHg,12週後13.9±2.6mmHgであり,変更前と比較して有意(p<0.01,pairedt-test)に下降し,12週後の平均眼圧下降率は20.9%であった.目標眼圧到達度は,点眼変更12週後において71.4%であった.単剤および多剤からラタノプロスト単独投与への変更は,視神経障害の進行を阻止しうると考えられる眼圧レベルに到達させるうえで有用な治療法と考えられる.Westudiedtheeffectofswitchingtolatanoprostmonotherapyonintraocularpressurereductionandtargetintraocularpressure(IOP)achievement.Subjectscomprised99eyesof52glaucomapatients,includingcasesofprimaryopen-angleandnormal-tensionglaucoma,whohadnotachievedtargetIOP(earlytomoderatestage:15mmHg,latestage:15mmHg,advancedstage:12mmHg)usingotheranti-glaucomaagents.TheIOPat2,4,8and12weeksaftertheswitchtolatanoprost(14.6±2.5mmHg,14.2±2.8mmHg,14.2±2.9mmHgand13.9±2.6mmHg,mean±SD,respectively)wassignificantlylowerthanthebaselineIOPof17.5±4.0mmHg(p<0.01forallcomparisons,pairedt-test).At12weeksafterswitching,themeanreductionofIOPwas20.9%andthetargetIOPachievementratewas71.4%.SwitchingtolatanoprostmonotherapycouldbeusefulforcontrollingIOPinpatientswhohavenotachievedthetargetIOPwithotheranti-glaucomaagents.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):444.447,2011〕Keywords:緑内障点眼治療,ラタノプロスト単独治療,目標眼圧,眼圧下降,多施設検討.anti-glaucomaagents,latanoprostmonotherapy,targetintraocularpressure(IOP),IOPreduction,multicenterstudy.(137)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011445(目標眼圧)を設定することは合理的な方法である.」と記載されている4).これまで,ラタノプロスト単独投与への変更による眼圧下降効果について報告がなされている5~7)が,多施設において,個々の患者に対し目標眼圧を設定し,目標眼圧到達度を検討した報告は見当たらない.これらの観点から,ラタノプロスト単独への薬剤変更により十分な眼圧下降を得られるか,また,どの程度目標眼圧に到達できるか,他剤点眼において目標眼圧に達していない患者を対象に,薬剤変更試験によって検討したので報告する.I対象および方法多施設(7施設),前向き研究.平成2004年4月から平成2008年3月までの間に,各施設においてラタノプロスト以外の他剤点眼にて目標眼圧(初期~中期:15mmHg,後期:15mmHg,末期:12mmHg,病期分類はHumphrey視野における平均偏差が,.10dB≦平均偏差を早期~中期,.20dB≦平均偏差<.10dBを後期,平均偏差<.20dBを末期とした)以下に達していない原発開放隅角緑内障(POAG),正常眼圧緑内障(NTG)症例52例99眼(男性22例,女性30例,年齢74.2±9.2歳)について,washout期間を設けずにラタノプロスト単独投与に変更し,変更前・2週・4週・8週・12週・24週後の眼圧値を,症例単位で時刻を統一してGoldmann圧平式眼圧計で測定し,眼圧下降率および目標眼圧到達度を検討した.目標眼圧については,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyによる30%眼圧下降(治療前21mmHgで目標眼圧15mmHg)の有効性8),あるいはShirakashiらによる15mmHg未満の眼圧下降の有効性についての報告9)を参考に,初期~中期,後期両者において15mmHgを目標眼圧と設定した.末期緑内障については,岩田の分類10)を参考として,12mmHgと設定した.変更前との眼圧は統計手法paired-t検定を用いて比較した.前治療薬の影響を除外するためには4週間前後のwash-out期間が必要であるが,その間の眼圧上昇によって視機能障害が進行する可能性を考慮し,今回はwash-out期間を設けなかった.表1に変更前の薬剤の組み合わせ,眼数を示す.単剤からの切り替えが85眼,2剤からの切り替えが14眼であった.ただし,本剤に対して過敏症である,レーザー照射術の既往がある,6カ月以内の内眼手術歴,眼感染症・ぶどう膜炎・眼症状を伴う全身疾患(糖尿病,自己免疫疾患)合併症例,妊婦または妊娠している可能性がある,その他主治医が不適当と判断した患者は除外した.ラタノプロスト点眼開始時に本研究の趣旨,点眼薬の効果・副作用を説明し,患者の同意を得た.II結果全症例の平均眼圧の経過(図1)は,投与前17.5±4.0mmHg(平均±標準偏差),点眼変更2週後14.6±2.5mmHg,4週後14.2±2.8mmHg,8週後14.2±2.9mmHg,12週後13.9±2.6mmHgであり,眼圧下降値は3.6±1.4mmHg,眼圧下降率20.8%であった.投与24週後には,14.6±2.7mmHg,眼圧下降値は2.9±1.3mmHg,眼圧下降率は16.8%であった(12週後および24週後p<0.01).個々の症例の眼圧下降率については図2に示す.単剤からの切り替え群では,平均眼圧は,投与前17.7±4.2mmHg,切り替え12週後13.9±2.7mmHg,眼圧下降値は3.8±1.5mmHg,眼圧下降率は21.5%であった.投与24週後には,平均眼圧は15.0±2.8mmHg,眼圧下降値は2.7±1.4mmHg,眼圧下降率は15.3%であった(12週後および24週後p<0.01).2剤からの切り替え群では,平均眼圧は,投与前16.3±2.9mmHg,切り替え12週後13.9±2.1mmHg,眼圧下降値は2.4±0.8mmHg,眼圧下降率は14.7%であった.投与24週後には,平均眼圧は12.3±0.9mmHg,眼圧下降値は4.0±2.0mmHg,眼圧下降率は24.5%であった(12週後および24週後p<0.01).目標眼圧到達度は,12週後は71.4%,24週後は56.3%であった.さらに今回は,病期別目標眼圧到達度を検討しており,特に後期緑内障患者での目標眼圧到達度が良好であった(表表1ラタノプロスト単独投与に変更前の点眼薬剤変更前の薬剤眼数ウノプロストンチモロールベタキソロールカルテオロールニプラジロールドルゾラミドブナゾシンウノプロストン+ブナゾシンチモロール+ブナゾシンウノプロストン+レボブノロール38眼30眼5眼4眼4眼2眼2眼6眼4眼4眼20.0018.0016.0014.0012.0010.008.006.00投与前2週後4週後6週後8週後12週後16週後20週後24週後(99)(49)(24)(62)(75)(83)(50)(45)(51)*pairedt-test:p<0.01眼圧(mmHg)********図1ラタノプロスト単独投与に変更後24週までの平均眼圧の経過446あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(138)2).III考按一般に緑内障視野障害の進行は非常に緩徐で,眼圧下降治療による視野障害進行の抑制効果を検出するには,治療開始から数年間の経過観察が必要とされる.可能な限りの低眼圧を達成するために,治療開始時から最大許容薬物量を投与すれば,少なくない症例で過剰治療となり,また薬物の副作用,生涯にわたる薬物治療のコストの点においても適切ではない.そこで,治療開始時において患者のqualityoflifeの十分な維持が期待できる眼圧レベル(目標眼圧)を設定するという考え方が推奨されている.薬物の単剤療法と多剤併用療法を比較した場合,眼局所・全身性副作用,あるいは,コンプライアンス・アドヒアランスの観点において単剤療法が優れていると予想されるため,初期治療で目標眼圧に到達しない症例,あるいは薬物耐性により眼圧上昇をきたした症例では,薬物の追加ではなく,薬物の変更をまず考慮すべきであると推奨されている4).これまで,いくつかの報告により,ラタノプロストが単剤あるいは多剤からの切り替え薬としての有効性が示されている5~7).今回筆者らは,比較的多数例を対象とした多施設前向き検討により,目標眼圧に達していないPOAG,NTG症例において,単剤および2剤からラタノプロスト単剤への変更の眼圧下降効果,目標眼圧到達度について検討した.高田らの報告5)では,単剤からの変更群では12週後に3.4±2.2mmHg,24週後に3.8±2.6mmHgの眼圧下降が得られ,2剤からの変更群では12週後に3.3±1.7mmHg,24週後に4.2±2.9mmHgの眼圧下降が得られている.今回の検討においても,単剤からの変更群において同様の眼圧下降率を認め,2剤併用療法よりもラタノプロスト単独投与のほうが眼圧下降値が大きいという結果を得た.単剤からの切り替え群が多数占めていたため12週後には20.8%の良好な眼圧下降効果を得られたと考えられるが,2剤併用からの切替え群でも,眼圧下降率は高くはないが,1眼を除き全眼で眼圧下降し,12週後には約15%のさらなる眼圧下降を得ることができた.個々の症例で眼圧下降率を検討すると,12週後に10%以上の眼圧下降率を得たのが51眼,逆に10%以上の眼圧上昇をきたしたのは2眼であった.2003年に発表された緑内障診療ガイドラインでは,緑内障管理において,個々の症例における目標眼圧の設定が推奨された.目標眼圧を設定する利点として,眼圧管理がより計画的で厳密になることや,患者と医師が共通の目に見える目標をもつことによって治療意欲が向上することなどがあげられる.1999年のラタノプロスト発売以降,その優れた眼圧下降効果についての報告がなされている5~7)が,多施設において,個々の患者に対し目標眼圧を設定し,目標眼圧到達度を検討した報告は見当たらない.目標眼圧の設定方法には,緑内障の病期によりある特定表2病期別の目標眼圧到達度目標眼圧への到達度目標眼圧への到達度目標眼圧への到達度初期~中期後期末期眼数12週目標眼圧到達眼数眼数24週目標眼圧到達眼数眼数12週目標眼圧到達眼数眼数24週目標眼圧到達眼数眼数12週目標眼圧到達眼数眼数24週目標眼圧到達眼数533638191312884220率67.9%率50.0%率92.3%率100.0%率50.0%率0.0%図2各症例の眼圧下降率(12・24週後)6050403020100-10-2016111621263136414651566166717681眼圧下降率(%)眼圧下降率(%)161116212631364146514035302520151050-5-1012週後24週後(139)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011447の眼圧値まで下降させる方法と,ベースライン眼圧の一定割合に下降させる方法がある.今回,筆者らはwash-out期間を設けておらず,ベースライン眼圧の把握が困難であったため,病期により目標眼圧を設定した.設定した目標眼圧(初期~中期:15mmHg,後期:15mmHg,末期:12mmHg)は岩田分類10)よりも若干厳しいものとなっているが,それでも,12週後には約70%の目標眼圧到達度を得ることができた.平均年齢が74歳と比較的高齢者を対象とした研究であり,ラタノプロストそのものの眼圧下降効果に加えて,1日1回点眼によるコンプライアンス・アドヒアランスの改善効果が本研究の結果に影響した可能性が高いと推測される.本研究開始当時(2004年),ラタノプロストの強力な眼圧下降効果に関する報告5~7)に加えて,緑内障診療ガイドラインの発表(2003年)により,“最少の薬剤”による“目標眼圧の達成”が重要であるという認識が一般臨床にも拡大しつつあった.しかし,治療効果の判定に長期間を要する,視野変化が軽度で視野の悪化が許容できる範囲である,副作用・コンプライアンスなどの認容性に明らかな問題がなかった,他院からの紹介患者であったなどの理由で以前からの治療が継続され,治療薬変更までにはある程度の時間が経過してしまうことはしばしばであり,2004年の時点において“目標眼圧の設定”と“最少の薬剤”による治療がすべての患者において実践されていたわけではなかった.本研究において,初期~中期症例が相対的に多く含まれていることも,視野変化が軽度で悪化が許容できる範囲であったなどの理由からと考えられる.また,末期の4症例についても,従来の点眼で眼圧下降は得られていたものの,本研究により設定した目標眼圧には達していなかった症例であり,単剤でより強力な薬剤への変更でさらなる眼圧下降が期待される症例であった.今回の検討では,変更前薬物としてウノプロストン以外のプロスタグランジン(PG)製剤を含んでいない.近年,ラタノプロストとほぼ同等の眼圧下降効果を有するPG製剤が,臨床において使用可能となっており,これらのPG製剤を変更前薬物として含んだ場合には,本研究の結果は異なったものとなる可能性がある.症例ごとに,それぞれのPG製剤に対する反応性が異なる可能性も指摘されているため,PG製剤から他のPG製剤への切り替えも,今後,目標眼圧到達のための重要な選択肢となるかもしれない.慢性疾患である緑内障の治療は,しばしば長期間に及ぶため,眼圧下降薬は,その安全性と強力な眼圧下降効果を維持し,さらにコンプライアンスの良いものが望まれる.ラタノプロストは1日1回点眼で,眼圧下降効果が強力であり,単独療法は安全かつ24時間を通した良好な眼圧コントロールが期待されるため,漠然と多剤併用療法で眼圧コントロールされていた症例や,多剤併用療法によるコンプライアンス低下が疑われる症例には,試みる価値がある治療方法と考えられる.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)植木麻里,川上剛,奥田隆章ほか:ラタノプロストの短期使用経験.あたらしい眼科17:415-418,20002)CamrasCB,WaxMB,RitchR:Latanoprosttreatmentforglaucoma:effectsoftreatingfor1yearandofswitchingfromtimolol.AmJOphthalmol126:390-399,19983)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,20064)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:778-814,20065)高田園子,橋本茂樹,有村英子ほか:ラタノプロスト単独への変更投与の検討.あたらしい眼科19:353-357,20026)斎藤昌晃,八子恵子:複数点眼使用例におけるラタノプロスト単独治療への切り替え.眼臨97:1965-1068,20037)小川美幸,庄司信行,林良子ほか:複数点眼症例におけるラタノプロスト単剤への変更の有用性.あたらしい眼科20:1011-1014,20038)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19989)ShirakashiM,IwataK,SawaguchiSetal:Intraocularpressure-dependentprogressionofvisualfieldlossinadvancedprimaryopen-angleglaucoma:a15-yearfollow-up.Ophthalmologica207:1-5,199310)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,1992***

選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(111)14390910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14391442,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は半波長Qスイッチ:Nd-YAGレーザー(波長532nm)を用いて,線維柱帯の色素細胞のみを選択的に障害し,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させることで眼圧を下降させると考えられているレーザー治療である1).アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculo-plasty:ALT)は線維柱帯構造全体に作用するが,SLTは周囲の線維柱帯組織や無色素細胞には影響しないことが明らかになっており2),線維柱帯への侵襲が少ない.また,ALTは熱凝固組織損傷の合併症である術後一過性の眼圧上昇,周辺部虹彩癒着などを認めることがあるのに対し,SLTはそれらの合併症を認めることが少なく,くり返し治療が可能で,手術治療に影響を与えないため,薬物治療と手術治療の中間的な役割を果たすものとして位置づけられている3).SLTはALT同等の眼圧下降が得られ,その有効性については多くの報告があり4,6,8),狩野ら4),Hodgeら5)は,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)と落屑緑内障(EXG)の2病型において,SLTの眼圧下降効果に有意差を認めなかったと報告している.しかし,最大耐用薬物療法下でのSLT6)や色素緑内障に対するSLT7)には限界があることが示唆されており,患者背景因子を検討することが必要である.また,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手〔別刷請求先〕上野豊広:〒669-5392豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターReprintrequests:ToyohiroUeno,M.D.,EyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital,81Iwanaka,Hidaka-cho,Toyooka-shi,Hyogo-ken669-5392,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績上野豊広岩脇卓司湯才勇矢坂幸枝港一美倉員敏明公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターClinicalResultsofSelectiveLaserTrabeculoplastyToyohiroUeno,TakujiIwawaki,SaiyuuYu,YukieYasaka,KazumiMinatoandToshiakiKurakazuEyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital筆者らは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)の眼圧下降効果を緑内障手術の既往の有無や病型別で比較検討を行った.対象は,当院でSLT施行後3カ月以上観察可能であった44例49眼,年齢は65.59±11.02歳,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)が42眼,落屑緑内障(EXG)が7眼であった.今回検討した全症例の眼圧は術前18.36±2.60mmHg,術後3カ月16.37±2.82mmHgで,有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無の検討では,緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往がある群は有意な眼圧下降がなく,病型別の検討では,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.患者背景因子について検討し施行すれば,SLTは有効な眼圧下降を得る一つの方法になると考えた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringecacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inrela-tiontothehistoryofpriorglaucomasurgeryanddierenttypesofglaucoma.Subjectscomprised49eyesof44patientswhowerefollowedupfor3monthsormoreafterSLT.Meanpatientagewas65.59±11.02years(mean±standarddeviation);42eyeshadprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and7hadexfoliationglaucoma(EXG).IOPdecreasedsignicantly,from18.36±2.60mmHgto16.37±2.82mmHgat3monthsafterSLT,decreasingsignicantlyineyesthathadnotundergoneglaucomasurgerybeforeSLT,butnotdecreasingsignicantlyineyesthathadundergoneglaucomasurgerybeforeSLT.IOPdecreasedsignicantlyineyeswithPOAG,butnotineyeswithEXG.SLTappearstobeaneectivemethodfortreatingglaucoma,consideringpatienthistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14391442,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧下降,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty(SLT),intra-ocularpressurereduction,glaucoma.———————————————————————-Page21440あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(112)術の既往の有無についてはいまだ報告されていない.今回筆者らは,緑内障手術の既往の有無と緑内障の病型別にて,SLTの眼圧下降効果に関して比較検討を行った.I対象および方法対象は,公立豊岡病院組合眼科でSLTを施行し,3カ月以上観察可能であった,44例49眼とした.内訳は男性24眼,女性25眼,年齢は65.59±11.02(4986)歳であった.全症例とも,術前にALTの既往,術前後での点眼治療に変化はなく,隅角色素はScheie分類でⅡ以下であった.緑内障手術に関しては,SLT施行前に既往がある症例は9眼,既往がない症例は40眼であり,その内訳は,線維柱帯切除術,非穿孔性線維柱帯切除術と線維柱帯切開術であり,濾過手術と流出路再建術に分けて検討を行った.表1に示すように,年齢,性別,病型,Humphrey自動視野計プログラム中心30-2SITA-STANDARDプログラム(HumphreyeldanalyzerⅡ:HFA)の平均偏差(meandeviation:MD)値は緑内障手術既往の有無で有意差はなかった.また,病型別の検討に関しては,POAGが42眼,EXGが7眼であった.表2に示すように,年齢,性別,緑内障手術の既往,HFAのMD値も病型間で有意差はなかった.SLTは施行前に十分な説明をし,患者から同意を得たうえで,緑内障専門外来の熟練した術者2人が行った.SLTには,ellex社製タンゴオフサルミックレーザーを用いた.SLTの照射条件は,スポットサイズが400μm,照射時間が3ns,出力が0.61.5mJ,照射は半周(下方180°)に施行し,照射数は4960発であった.術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行った.眼圧測定は術前,術後翌日,1週,1カ月,その後は1カ月ごとにGold-mannapplanationtonometerで測定した.術前眼圧は術前3回の平均を用い,それぞれの術後眼圧と比較した.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無や緑内障の病型別の検討では術前眼圧と術後3カ月の眼圧と比較検討した.なお,術前と術後1週,1カ月,2カ月,3カ月の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)法および多重比較(Bonferroni/Dunn法),術前眼圧と術後3カ月の眼圧の比較にはMann-Whitney’sUtest,緑内障手術既往の有無と病型の患者背景の比較にはMann-Whitney’sUtestおよびFisher’sexactprobabilitytestを用いた.統計学的有意差は5%未満の危険率をもって有意とした.統計解析にはStat-View5.0(SASInstitute社)を用いた.値の表示はすべて平均値±標準偏差とした.II結果全症例の術前平均眼圧が18.36±2.60mmHg,術後1週の眼圧は16.60±3.67mmHg(p<0.05),術後1カ月の眼圧は16.98±3.24mmHg(p<0.05),術後2カ月の眼圧は16.67±3.40mmHg(p<0.05),術後3カ月の眼圧は16.37±2.82mmHg(p<0.05)であった.術後1週から3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.図1に示す.SLT施行前に緑内障手術の既往がない群は40眼,術前平均眼圧が18.35±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は15.88±2.33mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,SLT施行前に緑内障手術の既往がある群は9眼,術前平均眼圧が18.40±3.44mmHg,術後3カ月の眼圧は18.56±3.81mmHg(p=0.81)であり有意な眼圧下降がなかった.図2に示す.濾過手術群は男性4眼,女性1眼,POAG4眼,EXG1眼,術前平均眼圧が18.86±2.66mmHg,術後3カ月の眼圧は18.60±3.13mmHg(p=0.81)であった.流出路再建術群は男性2眼,女性2眼,POAG2眼,EXG2眼,表1緑内障手術の既往別の患者背景緑内障手術の既往がない群緑内障手術の既往がある群p値年齢(歳)65.80±11.35(4986)65.22±10.02(5078)0.85*性別男性18眼女性22眼男性6眼女性3眼0.29**病型POAG36眼EXG4眼POAG6眼EXG3眼0.11**MD値(dB)9.46±8.7411.66±9.020.82**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.表2病型別の患者背景POAG群EXG群p値年齢(歳)64.83±11.15(4986)70.86±9.23(5379)0.11*性別男性19眼女性23眼男性5眼女性2眼0.25**緑内障手術の既往あり6眼(14.3%)あり3眼(42.9%)0.11**MD値(dB)9.36±8.9112.56±9.110.51**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.2520151050眼圧(mmHg)術前1週1カ月2カ月3カ月術後経過日数****図1全症例におけるSLTの眼圧経過眼圧は術後1週から術後3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunn法.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081441(113)術前平均眼圧が17.83±4.62mmHg,術後3カ月の眼圧は18.50±5.07mmHg(p=0.32)であり,両群とも有意な眼圧下降を認めなかった.POAG群(42眼)は術前平均眼圧が18.16±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は16.02±2.47mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,EXG群(7眼)は術前平均眼圧が19.54±3.46mmHg,術後3カ月の眼圧は18.42±3.99mmHg(p=0.34)であり有意な眼圧下降がなかった.図3に示す.SLTに伴う合併症は眼圧上昇のみで,経過中に術前より眼圧の上昇した症例は21眼で,全体の42.9%であった.そのうち5mmHg以上の高度の眼圧上昇が生じた症例は2眼で,全体の4.1%であった.虹彩炎は全例軽微であり,加療を必要とする重篤な炎症所見はなかった.また,前房出血など,他の重篤な合併症はなかった.III考按本研究では,POAGとEXGの2病型に対して,点眼治療,緑内障手術の既往の有無にかかわらず,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が望ましいと思われる患者に対しSLTを施行し,検討を行った.過去の報告によるとSLTの予後因子として,年齢,性別,病型,ALTの既往の有無,隅角色素,術前眼圧,手術の既往,術前投薬数,術後一過性眼圧上昇などさまざまな因子が過去に検討されている49).まず,手術の既往に関する過去の報告では,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手術の既往の有無についていまだ報告されていないため,筆者らは緑内障手術の既往の有無とSLTによる眼圧下降効果に関して比較検討を行った.SLT施行前に緑内障手術の既往のない群は術後3カ月で,有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往のある群は術前と術後3カ月の眼圧に変化を認めず,SLTの効果がなかった可能性がある.現在のところ,緑内障手術後の線維柱帯組織にSLTがどのような影響を及ぼすかは不明であり,今後組織学的検討が必要であると考えた.また,今回症例数が少ないので,今後症例数を増加し,術式別にも引き続きさらなる検討を要すると考える.また,緑内障の病型別に関する過去の報告4,10)では,ALT,SLTにおいてもPOAGとEXGの2病型には有効性に差を認めず,両群ともに有効であったとされている.しかし,色素緑内障にはSLT後に追加手術が必要となり7),SLTの限界を指摘されている.今回,筆者らの研究において,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は眼圧下降があったものの有意な眼圧下降ではなく,POAG群と比較しSLTの効果に差を認める結果となった.EXG眼では,線維柱帯への色素沈着だけでなく,傍Schlemm管結合組織などの水晶体偽落屑の沈着による房水通過抵抗の高まりが眼圧上昇に影響を及ぼしており11),線維柱帯に対するSLTの効果が少なくEXG群がPOAG群に比べて,眼圧下降効果が弱かった可能性がある.合併症については,これまでの他施設でのSLTの報告ではそれぞれに基準が異なるものの,19.433%4)に一過性の眼圧上昇がみられている.しかしながら,今回の症例では4.1%にみられたのみであり,眼圧上昇がきわめて少なかった理由として,術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行ったことが考えられた.SLTは,線維柱帯に対して侵襲が少ないので,降圧手段の一つとして積極的に試みてよい方法であり,点眼数の減少や手術に至るまでの期間の延長が期待される.しかし,緑内障手術の既往の有無,緑内障の病型によって眼圧下降効果が減弱する可能性があるため,施行前に患者背景因子について検討を重ねたうえで施行する必要があることが示唆された.SLTの効果についてはいまだ一定した見解が得られていないこともあり,今後症例数の増加および術後の経過観察期間を延長し,引き続き検討を行っていく予定である.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:SLT施行前に緑内障手術の既往がない群:SLT施行前に緑内障手術の既往がある群*図2緑内障手術の既往の有無によるSLTの効果緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,既往がある群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.図3緑内障の病型別によるSLTの効果POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:POAG:EXG*———————————————————————-Page41442あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(114)文献1)LatinaMA,ParkC:SelectivetargetingoftrabecularmeshworkcellsinvitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-372,19952)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthal-mology108:773-779,20013)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertra-beculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospectiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,19994)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19995)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomizedclinicaltraial.BrJOphthalmol89:1157-1160,20056)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassociatedwith180degreesselectivelasertrabeculo-plasty.JGlaucoma14:400-408,20059)WernerM,SmithMF,DoyleJW:Selectivelasertrabecu-loplastyinphakicandpseudophakiceyes.OphthalmicSurgLasersImaging38:182-188,200710)安達京,白土城照,蕪城俊克ほか:アルゴンレーザートラベクロプラスティの10年の成績.日眼会誌98:374-378,199411)Schlozer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.OcularmanifestationofasystemicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,1992***