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薬局における点眼指導実態アンケート調査報告

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):225.231,2021c薬局における点眼指導実態アンケート調査報告西原克弥山東一孔堀清貴参天製薬(株)日本メディカルアフェアーズグループCSurveyReportontheConditionsofEyeDropGuidanceinPharmaciesKatsuyaNishihara,KazunoriSantoandKiyotakaHoriCSantenPharmaceuticalCo.,LtdJapanMedicalA.airsGroupC目的:薬局の点眼指導の実態を把握すること.対象および方法:本調査の趣旨に同意した調剤薬局企業(15社)傘下のC1,462店舗で実施した.実態調査は,点眼指導の有無,時間,手段,指導内容と頻度,小児・高齢者の指導の有無と指導内容,洗眼指導の有無などについて,アンケート形式で行った.結果:点眼指導の実施率はC96.1%であった.点眼指導にかける時間はC5分未満がもっとも多く,点眼指導の手段は,ほぼ全店舗で「口頭による説明」が施行されていた.点眼指導内容は「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”に比べ高い頻度であった.小児または高齢者への指導経験の有無は,「ある」がC4割強,「ない」がC5割強を占めた.クラスター分析を行った結果,点眼指導は四つのクラスターに分類することができた.結論:個々の患者に対応するため,点眼指導にはいくつかのバリエーションが存在するが,点眼薬の処方機会の多さと時間的な制約,点眼指導に対する意識の差といった要素により,店舗間で指導内容の相違がみられた.今後,この点を是正していくことが点眼治療の質の向上につながると考えられた.CObjective:Toinvestigatetheactualguidanceprovidedinretailpharmaciesforophthalmic-solutioneye-dropinstillation.Subjectsandmethods:Asurveywasconductedat1462pharmaciesunderthecontrolof15pharma-ceuticalcompaniesthatagreedtothepurposeofthesurvey.Thecontentofthequestionnaireincludedthefollow-ing:presenceorabsenceofeyedrops,time,means,content,andfrequencyofeyedrops,presenceorabsenceofguidanceCforCchildrenCandCtheCelderly,CandCpresenceCorCabsenceCofCeyeCwashingCguidance.CResults:OphthalmicCguidancewasdeliveredto96.1%ofthepatients.Theaveragetimespentforophthalmicguidancewaslessthan5minutes,andthemethodofinstructionwas“verbal”innearlyallpharmacies.Regardingthecontentofophthalmicguidance,CtheCfrequencyCof“alwaysCinstructing”wasChigherCthanCthatCof“washingChandsCbeforeCinstillation”andC“closingeyelidsafterinstillation”for“instillation:pullingtheeyelidsdownanddroppingtheeyesothatthetipsofthecontainersdonottouchtheeyes,”“wipingo.theover.owsolution,”and“closingtheeyelidsafterinstilla-tion.”Approximatelyhalfoftherespondentswere“yes”or“no”withregardtotheexperienceofprovidingguid-ancetochildrenortheelderly.Clusteranalysisshowedthattheclusterscouldbeclassi.edintofourclusters.Con-clusions:ItCwasCspeculatedCthatCsomeCpharmaciesCwereCnotCadequatelyCpreparedCforCtheCocularCguidanceCofCindividualpatients.Fromtheclusteranalysis,itwasthoughtthatfactorssuchasthenumberofeye-dropprescrip-tions,CtimeCconstraints,CandCdi.erencesCinCawarenessCofCophthalmicCguidanceChadCanCin.uenceConCnotCbeingCade-quatelyprepared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):225.231,C2021〕Keywords:点眼指導,点眼手技,アンケート調査,薬局.guidanceoninstillation,ocularinstilltionprocedure,questionnairesurvey,pharmacy.C〔別刷請求先〕西原克弥:〒533-8651大阪市東淀川区下新庄C3-9-31参天製薬(株)サイエンスインフォメーションチームReprintrequests:KatsuyaNishihara,ScienceInformationTeam,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-9-31,Shimo-Shinjo,Higashiyodogawa-ku,Osaka533-8651,JAPANCはじめに眼科疾患に対する治療は,点眼薬を主要薬剤とする治療(点眼治療)が基本であり,点眼アドヒアランスだけでなく,点眼手技を含めた点眼薬の取り扱いも治療効果に影響を与えると考えられている.すなわち,点眼薬がもつ有効性と安全性を確保するためには,用法用量を遵守し,正しい点眼方法で確実に薬液を眼に点眼することが求められる.それゆえ,点眼薬処方時の正しい点眼方法の指導(点眼指導)は不可欠である.その一方で,高齢者や緑内障患者1),白内障術後の点眼指導上の課題2)が報告されており,医師,薬剤師,看護師など点眼治療にかかわる医療従事者が共通認識をもち,点眼薬の服薬指導に携わることが重要である..今回,筆者らは,点眼指導の実態を把握することを目的に薬局店舗を対象とした点眼指導実態アンケート調査を実施したので報告する.CI対象および方法1.アンケートの対象と調査方法対象は,本調査の趣旨に同意した調剤薬局企業(15社)傘下のC1,462店舗である.調査期間はC2019年C6月のC1カ月間である.実態調査は,点眼指導の有無,時間,手段,指導内容と頻度,小児・高齢者の指導の有無と指導内容,洗眼指導の有無などについてアンケート形式の調査を行った.調査内容の詳細は表1に示した.調査手法は,Googleフォームまたは調査用紙を利用し,各店舗につきC1件の回答を回収し集計した.C2.統計学的検討実態調査の結果は,単純集計して点眼指導の実態を検討した.また,点眼指導の内容に関する詳細な傾向を明らかにするため,潜在クラス分析(クラスター分析)を行った.クラスター分析では,全店舗をC4クラスターに分類した後,各クラスターにおける点眼指導内容の特徴について検討した.クラスター分類に用いた分析変数の各クラスター間での相違は,分散分析を用いて検討した.判定は,p<0.05を有意差ありと判定した.統計学的解析にはCJMP(Ver.14,CSASInstituteInc.)を用いた.CII結果1.調査店舗の背景都道府県別の調査店舗数を表2に示す.Q1の回答から,月平均の点眼薬処方箋枚数は,点眼薬処方箋がC100枚未満の店舗の割合がC75.0%であったのに対し,100枚以上C500枚未満の割合がC17.0%,500枚以上の割合がC7.7%で,点眼薬処方箋がC100枚以上の店舗の割合はC24.7%であった(表3).C2.点眼指導の実態Q2において点眼指導を「新規に点眼薬を処方する患者さんすべてに実施している」または「点眼指導が必要と思われる患者さんに実施している」とした店舗はC1,462店舗中1,405店舗で,実施率はC96.1%であった.その内訳を表4に示す.「Q3:点眼指導が必要と思われる患者さん」の質問に対する回答は,「高齢者」がもっとも多く,「保護者」「小児」「障害者」の順であった(表5).点眼指導にかける時間は,5分未満がもっとも多く(図1),Q4:点眼指導の手段は,ほぼ全店舗で「口頭による説明」が施行されており,紙媒体のチラシや指導箋を利用している割合はC42.3%,点眼手技動画の利用割合はC0.3%であった(表6).なお口頭と紙媒体を併用する店舗はC41.1%であった.表1アンケート調査内容店舗の所在地(都道府県)Q1)月平均,点眼薬の処方箋をどのくらい受けていますか?Q2)点眼指導を実施されていますか?Q3)Q2)で「点眼指導が必要と思われる患者さんに実施している」と答えた方にお聞きします.必要と思われる患者さんをすべて教えてください.Q4)点眼方法に係る指導の手段を教えてください(複数回答可)Q5)基本の点眼方法に係る指導の内容とその頻度を教えてください.-①点眼前の手洗い-②点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する-③あふれた液のふき取り-④点眼後の閉瞼-⑤点眼後の涙.部圧迫Q6)小児の点眼で指導されたことがある点眼手技はありますか?Q7)Q6)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような手技ですか(自由記載)Q8)高齢者の点眼で指導されたことがある点眼手技はありますか?Q9)Q8)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような手技ですか?(自由記載)Q10)洗眼方法について洗眼指導されたことはありますか?Q11)Q10)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような指導内容ですか?(自由記載)表2都道府県別の調査店舗数表3点眼薬処方箋枚数(月平均)回答数割合(%)5枚未満C207C14.25.C20枚未満C377C25.820.C100枚未満C513C35.1100.C500枚未満C248C17.0500枚以上C112C7.7未記入C5C0.3合計C1,462表5点眼指導が必要と思われる患者回答数割合(%)高齢者C644C91.9小児C436C62.2保護者C480C68.5障害者C294C41.9新規,あるいは初めてC33C4.7慣れていない,不安そうな患者C24C3.4未記入C4C0.6Q5では,点眼指導内容として「点眼前の手洗い」,「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」,「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」「点眼後の涙.部圧迫」のC5項目の基本的な点眼指導頻度を調査し,その表4点眼指導の実施状況回答数割合(%)新規に点眼薬を処方する患者さんすべてに実施しているC704C48.2点眼指導が必要と思われる患者さんに実施しているC701C47.9実施していないC54C3.7未記入C3C0.2合計C1,4620.40.0■:5分未満:5分以上10分未満:10分以上:その他図1点眼指導にかける時間の割合(%)点眼指導にかける時間は,5分未満がもっとも多い.結果を図2に示した.「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”に比べ高い頻度であっ表6点眼指導の手段回答数割合(%)口頭C1,385C98.6紙の資料C595C42.3動画C4C0.3実地してもらい,悪いところを指導C23C1.6薬剤師が手本C21C1.5未記入C1C0.1C点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点点眼前の手洗い眼するあふれた液のふき取り点眼後の閉瞼点眼後の涙.部圧迫2.42.02.53.5■C:ほとんど指導しない■B:ときどき指導する■A:いつも指導するD:指導しない:未記入図2点眼指導内容の実施割合(%)「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」に比べ高い頻度であった.小児の点眼指導の有無高齢者の点眼指導の有無0.10.4■:ある:ない:未記入図3小児と高齢者への点眼指導の有無の割合(%)「ある」および「ない」は,「ない」が多かった.た.Q6.9で小児および高齢者に対する点眼指導の実態を調査した.小児または高齢者への指導経験の有無は,「ある」がC4割強,「ない」がC5割強を占めた(図3).指導した手技(回答は自由記載)については,アフターコーディングの結果,小児では「寝ているときに点眼」「プロレス法」,高齢者では「げんこつ法」「点眼補助具」の回答割合が高かった(図4).洗眼方法の指導経験(Q10)は,「ある」がC11.2%であった.C3.クラスター分析アンケート結果から,互いに似た性質をもつ薬局店舗をグルーピングし,そこから得られる課題を抽出するためクラスター分析を行った.分析変数を「点眼指導の手段」「基本的なC5項目の点眼指導内容」「小児と高齢者への指導経験」の調査結果としたところ,四つのクラスターに分類することができた.クラスター解析に用いた分析変数は分散分析の結果,クラスター間で有意に差がある変数であった(図5).四つのクラスターの定義づけを「点眼薬処方箋枚数」の結果と掛け合わせた結果を表7に示した.泣いているときは寝て点眼点眼しない目尻,横から入れる容器を持つ手を固定目を閉じて点眼点眼補助具30.7%33.0%プロレス法(子供を固定)げんこつ法寝ているときに点眼0.0%5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%0.0%5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%図4小児と高齢者の点眼手技小児,高齢者に点眼指導を実施している店舗におけるその手技方法の割合(アフターコーディング)処方箋枚数指導手段小児指導の有無高齢者指導の有無クラスター1クラスター2クラスター3クラスター40%20%40%60%80%100%*p<0.0001*p<0.0001*p<0.00010%40%80%0%40%80%0%40%80%■20枚以上100枚未満■口頭+紙資料■口頭のみ■ある■ない■ある■ない■100枚以上紙資料のみ■他の説明■20枚未満20%60%100%20%60%100%20%60%100%①②③④⑤クラスター1クラスター2クラスター3クラスター4#p<0.0001#p<0.0001#p<0.0001#p<0.0001#p<0.00010%40%80%0%40%80%0%40%80%0%40%80%0%40%80%20%60%100%20%60%100%20%60%100%20%60%100%20%60%100%■A:いつも指導する■B:ときどき指導する■C:ほとんど指導しないD:指導しない①点眼前の手洗い②点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する③あふれた液のふき取り④点眼後の閉瞼⑤点眼後の涙.部圧迫図5クラスター分析分析変数を「点眼指導の手段」「基本的なC5つの点眼指導内容」「小児と高齢者への指導経験」の調査結果としたところ,四つのクラスターに分類することができた.表7クラスターの定義づけクラスター分類定義クラスターC1点眼薬の処方箋枚数が少ない薬局で,点眼指導はときどき実施する薬局クラスターC2点眼薬の処方箋枚数が比較的多い薬局で,紙(チラシ)資材も併用しながらC5項目の点眼指導を積極的に実施している.ただし,小児・高齢者への点眼手技指導は,高齢者・小児の接触機会が少ないことからクラスターC3より実施頻度は低いクラスターC3点眼薬の処方箋枚数が多い薬局で,小児・高齢者への点眼手技指導については指導する機会の多さから実施頻度は高いが,5項目の点眼指導は紙(チラシ)に頼る傾向があるクラスターC4点眼薬の処方箋枚数が少ない薬局で,点眼指導はクラスターC1より消極的クラスターAS1S2S3S4S5B13322223221111123112222143444443処方箋数3213数字は変数内の順位図6各変数のクラスター順位A:紙資材の利用頻度,B:小児・高齢者の点眼指導の実施頻度.S1:点眼指導内容「点眼前の手洗い」の実施頻度,S2:点眼指導内容「点眼前の手洗い点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」の実施頻度,S3:点眼指導内容「あふれた液のふき取り」の実施頻度,S4:点眼指導内容「点眼後の閉瞼」の実施頻度,S5:点眼指導内容「点眼後の涙.部圧迫」の実施頻度.CIII考察今回のアンケート調査に参加した調査店舗の背景は,都道府県別の分布をみると,おおむね人口比率と似た傾向を示したが,中国地方と九州地方の調査店舗数が少なかった(佐賀県は調査店舗が0).また,点眼薬処方箋枚数では,月平均がC500枚以上の店舗割合がC7.7%であったことから,本調査ではごく標準的な院外薬局が抽出されていると考えられ,眼科関連の処方箋をおもに扱う薬局によるバイアスは考慮しなくてよいと考えられた.今回の対象店舗における点眼指導の実施率はC96.1%とほぼすべての薬局で実施されており,実施方法としては口頭による説明がC98.6%とほとんどを占め,紙資材を併用する店舗はC41.1%であった.近年動画による点眼指導が効果的3,4)との報告があるが,本調査結果で動画の利用率はC0.3%であり,紙資材や動画を使用した点眼指導が普及していない実態が浮き彫りになった.また,基本的なC5項目の点眼指導の実施頻度は,点眼時動作の「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」と「点眼直後のふき取り・閉瞼」の指導頻度は比較的高い傾向がみられたが,「点眼前の手洗い」「点眼後の涙.部圧迫」の指導頻度は低い傾向がみられた.すなわち,点眼指導すべきC5項目が一連の点眼手技であることが十分に認識されていないために指導内容の実施頻度にばらつきがみられたものと考えられた.また,涙.部圧迫については,白内障術後などは,感染症のリスクから実施すべきではないとの報告(文献)が実施頻度を低値にしていることに多少影響している可能性が考えられた.五つの指導内容で“いつも実施する”が,一番高くてC34%であったこと,また小児,高齢者への点眼指導がC50%に達していないことは,個々の患者に対応するための点眼指導がまだ十分に準備されていない店舗があることが推察された.クラスター分析では四つのタイプの薬局店舗に分類することができた.クラスターC2とC3はC1とC2より点眼薬の処方箋枚数が多い店舗タイプであるが,この二つの相違点としては,点眼薬処方箋枚数,紙資材の利用頻度,基本的なC5項目の点眼指導頻度,高齢者・小児の点眼手技指導率があげられる.すなわち,クラスターC3は点眼薬処方に慣れている薬局店舗と考えられ,眼科関連の処方箋を多く扱っている店舗であると推察される.さらに,点眼薬の処方機会の多さとそれによる服薬指導にかかる時間的な制約から,基本的なC5項目の点眼指導については,より効率的な紙資材を多用したことが推察された.クラスターC3におけるこれらの背景が,クラスターC2より五つの点眼指導の実施頻度が少なくなった理由であると考えられた.しかしながら眼科に近接した薬局では,アクセスのよさから高齢者や小児の患者の来局機会は多くなると推測できるため,処方箋枚数が多い店舗では,小児・高齢者の点眼手技の直接指導の頻度がクラスターC2より高くなったと考えられた.点眼薬の処方箋枚数が少ないクラスターC1とC4の違いは,基本的なC5項目の点眼指導の頻度であったことから,点眼指導に対する意識の差が頻度の差となって現れたのではないかと推察した.クラスターC4は,眼科以外の診療科から,内服薬とともに点眼薬が処方される処方箋を扱う機会が多い店舗であると推察され,服薬指導が内服薬中心に行われていて,点眼薬の服薬指導が十分に行われていない可能性が示唆された.これらクラスター分析の結果から,薬局における点眼指導の実態を解釈してみると,点眼指導の内容と頻度は,点眼薬の処方機会の多さと時間的な制約,点眼指導に対する意識の差といった要素が影響を与えていると考えられた.今後,点眼指導内容の統一化を図るためには,統一化を妨げる要因を排除すること,つまり処方の機会や時間的な制約に影響されない指導手段を構築することと,点眼指導をする側,される側の教育と理解の促進を図っていくことが重要と考えられる.謝辞:本論文投稿にあたりご助言をいただきました庄司眼科医院・日本大学医学部視覚科学系眼科学分野の庄司純先生に深謝2)大松寛:白内障術前抗菌点眼薬の施行率と点眼方法の観いたします.察.IOL&RS32:644-646,C20183)野田百代:入院前からの点眼指導への介入.日本視機能看護学会誌3:15-18,C2018文献4)小笠原恵子:白内障手術患者に対するCDVDを用いた個別1)谷戸正樹:点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果.点眼指導の取り組み.日本農村医学会雑誌C63:846-847,あたらしい眼科35:1675-1678,C2018C2015C***

薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)12850910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12851289,2008cはじめに緑内障の薬物療法では,眼圧を下げる目的でプロスタグランジン製剤,b遮断薬(マレイン酸チモロールなど)が第一選択薬としておもに使用され1),これらの薬剤が不十分な場合に,炭酸脱水酵素阻害薬(塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド)などが併用薬として使用されている.市販されている炭酸脱水酵素阻害薬のドルゾラミド点眼液とブリンゾラミド点眼液の効果を比較した報告では,眼圧降下作用に有意差がないこと2)や,有効成分の物理化学的特性,製剤学的特徴から使用感が異なることが知られている3,4).しかし,これらの報告にみられる使用感調査は医師によって外来診療中に行われている.一般に,外来診療中の調査では患者から十分な時間をかけた聞き取り調査はむずかしいことが多い.さらに,データは限られた診療施設から収集されるために,精度の高い解析に必要なデータ数を確保するには長期間〔別刷請求先〕高橋現一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科Reprintrequests:Gen-ichiroTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,AotoHospital,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPAN薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査高橋現一郎*1山村重雄*2*1東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科*2城西国際大学薬学部ResearchonObjectiveSymptomsafterGlaucomaEyedropAdministration,UsingDataObtainedbyPharmacistsatPharmaciesGen-ichiroTakahashi1)andShigeoYamamura2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeikaiUniversity,AotoHospital,2)FacultyofPharmaceuticalSciences,JosaiInternationalUniversity緑内障治療薬として用いられる2種の炭酸脱水酵素阻害薬(塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド)の使用感について薬局店頭での薬剤師による聞き取り調査を行った.調査対象は単剤投与あるいは両剤の使用感に影響が少ないと考えられるプロスタグランジン関連点眼薬またはマレイン酸チモロールの併用患者とした.調査の結果,気になる症状として,塩酸ドルゾラミド投与患者では刺激感を,ブリンゾラミド投与患者では霧視を指摘する人が多かった.年齢的には,70歳以下の患者で刺激感を気にする人が多かった.また,気になる症状を医師へ相談するかどうかを尋ねたところ,女性で刺激感,掻痒感がある場合に相談する可能性が高いことが示された.これらの結果は,医師による診療時,薬剤師による薬剤投与の際には,製剤の特徴,年齢層,性別などを考慮した説明が重要であることを示している.Weinvestigatedtheworrisomeobjectivesymptomsofpatientswhoadministeredcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)(dorzolamidehydrochlorideorbrinzolamide)fortreatmentofglaucoma.Whenpharmacistslledthepre-scriptions,theyaskedthepatientswhethertheyhadexperiencedworrisomesymptoms(blurredvision,foreignbodysensation,itchingparaesthesia,feelingofstimulation)afteradministratingCAIeyedrops.Afeelingofstimula-tionandblurredvisionwerecitedasworrisomesymptomsby25.9%ofpatientstakingdorzolamidehydrochlorideand30.8%ofpatientstakingbrinzolamide.Patientsaged70yearsoryoungertendedtoexperienceafeelingofstimulation.Femalepatientswhoexperiencedafeelingofstimulationoritchingparaesthesiaexpressedthedesiretoconsulttheirdoctorregardingthesymptom.Becausethesesymptomsareknownnottoinuencethepharmaco-logicaleectsofCIA,doctorsandpharmacistsshouldcrediblyexplainthemedicationtopatients,takingintoaccountCAIproductproperties,aswellaspatientageandsex.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12851289,2008〕Keywords:炭酸脱水酵素阻害薬,緑内障,点眼液,使用感,薬局.carbonicanhydraseinhibitor,glaucoma,eyedrops,objectivesymptom,pharmacy.———————————————————————-Page21286あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(98)を要することになる.これらの問題点を解決するために,調剤薬局の薬剤師による服薬指導の際に,炭酸脱水酵素阻害薬を点眼している緑内障患者へのインタビューを通じて使用感を聞き取り調査した.得られた結果から,患者が医師へ相談する背景を探索し,患者個別の適切な指導方法への応用を考察した.I対象および方法平成18年11月12日から12月15日までに,49の薬局で緑内障治療のために塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)またはブリンゾラミド(エイゾプトR懸濁性点眼液1%)を含む処方せんが調剤された患者のうち,初回処方以外の患者(318名)を対象とした.緑内障患者では複数の点眼液が処方されていることが多いので,調査対象の両剤の使用感に影響が少ないと考えられるプロスタグランジン関連点眼薬(キサラタンR点眼液)またはマレイン酸チモロール(チモプトールR点眼液)の2つの製剤に関してはどちらかの併用を認め,これら以外の点眼薬を併用している患者および3剤以上の点眼液を使用している患者は除外した.最終的な調査対象者は,ドルゾラミド投与群85名,ブリンゾラミド投与群78名の計163名であった.併用の有無は,単独投与36名,チモプトールRまたはキサラタンRのいずれか1剤の併用が120名であった.調査は,薬局で薬剤師による服薬指導の一環として行われ,調査目的を口頭で説明し,同意が得られた患者から以下の質問項目に対して口頭で回答を得た.質問内容は,1)年代,性別,2)使用薬剤および併用薬剤,3)初回処方からの経過期間,4)目薬をさした直後に気になる症状(「眼がかすむ」(霧視),「眼がごろごろする,目やにがでる」(異物感),かゆい(掻痒感),しみる(刺激感)の4つのなかから1つを選択),5)これら使用感について医師への相談の有無.統計解析はJMP6.0.3(SASInstituteJapan,Tokyo)を用いた.比率の検定はc2検定,“医師への相談”に関連する因子の探索はロジスティック回帰分析で行った.II結果患者背景を表1にまとめた.患者背景の一部に欠測がみられたが,本調査の主目的が使用感を比較することにあるので,“気になる症状”の有無のデータが聴取できた患者データはすべて解析対象症例とした.ドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群間で,性別,年齢層,併用薬の有無,処方期間に患者背景として差はみられなかった.全体として,60歳以上の年齢層の患者で,処方期間は3カ月以上である患者が多くみられた.“気になる症状”があると回答した患者は,ドルゾラミド投与群では85名中44名(51.7%),ブリンゾラミド投与群では78名中45名(57.7%)であり,半数以上の患者が点眼に伴ってなんらかの気になる症状がある表1患者背景背景合計ドルゾラミド投与群ブリンゾラミド投与群p値1)組み入れ患者数1638578性別2)男性/女性64/6337/3127/320.3309年齢層2)20歳代1100.497830歳代10140歳代106450歳代169760歳代1911870歳代50222880歳代以上301911併用薬の有無3)あり/なし120/3663/2257/140.3628処方期間4)3カ月以上14673730.375213カ月10551カ月未満220気になる症状の有無あり/なし89/7444/4145/330.44771)c2検定.2)ドルゾラミド投与群17名,ブリンゾラミド投与群19名のデータが不明.3)ブリンゾラミド投与群7名のデータが不明.4)ドルゾラミド投与群5名のデータ不明.ただし,初回処方ではない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081287(99)と答えた.しかし,その割合は両群で有意差はみられなかった(p=0.4477,c2検定).図1にドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群の“気になる症状”として4つの項目のいずれかを選択した人の割合と人数をまとめた.「異物感」,「掻痒感」は,両群で差はみられなかったが,ドルゾラミド投与群では「刺激感」を指摘する患者が多く(p=0.0360,c2検定),ブリンゾラミド投与群では「霧視」を指摘する患者が多かった(p=0.0498,c2検定)が,症状はいずれも軽度であった.気になる症状があると回答した患者のうち,医師に相談した経験がない患者の割合は両群とも8割以上であった.また,両製剤の使用方法の違いとして1日の点眼回数があげられるが,緑内障患者は複数の点眼薬を併用していることが多く,投与回数が多くなりがちであり,ドルゾラミド投与患者においても,58/76名(76.3%)は1日3回の投与回数は気にならないと回答した.図2に,患者の年齢(70歳以上と70歳以下)による気になる症状の違いをまとめた.70歳以下の患者で「刺激感」を“気になる症状”としてあげている割合が高いことが認められた(p=0.0079,c2検定).図3に,性別による“気になる症状”の違いをまとめた.男女間で“気になる症状”に違いはなかったが,女性のほうが症状を医師に相談する割合が高い傾向が認められた(p=0.0682,c2検定).“医師へ相談する”因子を解析した結果を表2に示した.年代はリスク因子とならなかったので説明変数から除き,“気になる症状”をすべて説明変数とし,どの症状が気になったときに医師に相談するかをロジスティック回帰分析で解表2症状を医師に相談するリスク因子因子オッズ比95%信頼区間p値性別[女]3.84921.009019.28470.0484霧視3.23470.569817.16080.1738異物感3.85740.475623.92620.1842掻痒感19.86401.9185199.62520.0149刺激感7.73661.674941.56570.0092ロジスティック回帰分析.オッズ比は,相談するオッズ/相談しないオッズ.35302520151050(%)霧視異物感掻痒感刺激感p=0.0498p=0.4879p=0.9008p=0.03601524810442210:ドルゾラミド:ブリンゾラミド図1ドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群の“気になる症状”としてあげた人の割合と人数ドルゾラミド投与群85人,ブリンゾラミド投与群78人.カラム内の数値は人数,p値はc2検定.80706050403020100p=0.0010p=0.2040p=0.0981p=0.8485p=0.0079p=0.2944333212138624151047:70歳以下*:70歳以上**症状全体霧視異物感掻痒感刺激感症状を医師に相談する***(%)図2年代による“気になる症状”の違い*70歳以下群47人,**70歳以上群80人,***気になる症状を医師に相談すると回答した患者(70歳以下33人中,70歳以上32人中).カラム内の数値は人数.p値はc2検定.6050403020100p=0.6587p=0.2040p=0.9751p=0.9842p=0.7894p=0.0682313414117733121338:男性*:女性**症状全体霧視異物感掻痒感刺激感症状を医師に相談する***(%)図3性別による“気になる症状”の違い*男性群64人,**女性群63人,***気になる症状を医師に相談すると回答した患者(男性34人中,女性31人中).カラム内の数値は人数.p値はc2検定.———————————————————————-Page41288あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(100)析し,“医師に相談する”リスクをオッズ比と95%信頼区間で示した.その結果,「性別」(オッズ比で3.8倍,p=0.0484),「掻痒感」(オッズ比で19.9倍,p=0.0179),「刺激感」(オッズ比で7.7倍,p=0.0092)が有意となり,女性であり,「掻痒感」や「刺激感」が“気になる症状”となった場合にして,患者は医師へ相談する傾向があることが示された.III考察ドルゾラミド投与群,ブリンゾラミド投与群いずれにおいても“気になる症状”があると回答した患者は,約半数であり,その割合に差はみられなかった.2つの点眼薬臨床試験で報告された副作用は,ドルゾラミドで23.4%(145例中34例)5,6),ブリンゾラミドで2025%である7).今回の調査の結果,実際に副作用で報告されている割合の約2倍の患者が,“気になる症状”をあげている.副作用と“気になる症状”は必ずしも同一ではないが,すでに報告されている副作用の割合以上に患者が気になる症状を認識している実態が明らかになった.“気になる症状”として指摘された項目を比較すると,ドルゾラミド投与群で「刺激感」,ブリンゾラミド投与群では「霧視」が多かった.ドルゾラミド点眼液のpHは5.55.9と涙液に比べて低く,これが刺激性の原因と考えられている5,6).一方,ブリンゾラミド点眼液は白色の懸濁製剤であることから,視界が白く曇り霧視が多くみられるものと考えられる7,8).ドルゾラミド投与群で刺激感,ブリンゾラミド投与群では霧視が副作用として指摘されることはこれまでにも報告されており,今回の調査はその結果を裏付けるものとなった3).このことから,炭酸脱水酵素阻害薬を初回処方する際には,それぞれの使用感の特徴を,患者にあらかじめよく伝えておく必要があると思われる.それ以外の症状については指摘される頻度も低く,異物感,掻痒感に関しては,両剤とも差はないと考えられる.70歳以下の患者で,刺激感を“気になる症状”としてあげる割合が高かったが,高齢の患者では,刺激を感じる閾値が上昇しており,さらに,刺激感は連続点眼で軽減するためと考えられる.この結果は,70歳以下の患者に投与を開始する際には「刺激感」に対する指導がなされる必要があることを示している.“気になる症状”の内容に性差はみられなかったが,女性のほうが“症状を医師に相談する”傾向がみられた.これは女性のほうが,“気になる症状”に対する不安感を示しているものと考えられる.特に,女性に対して“気になる症状”の不安感を取り除くような服薬説明が必要であることを示している.“症状を医師へ相談する”リスク因子を探索したところ,「性別」,“気になる症状”として「掻痒感」と「刺激感」の3つの因子が選択された(表2).図3に示したとおり,女性は“気になる症状”に対して不安感をもっていると思われる.したがって,これらの製剤の処方時や服薬指導時にはあらかじめ点眼液の特徴を説明して,不安を取り除く十分な説明が必要となるであろう.また,投与回数に関しては,高齢者,または罹患期間が長い,症状が重篤であるなどの背景をもつ緑内障患者では,点眼回数が多い治療を容認することが報告されており9),年齢や重症度を考慮した説明が必要であると考えられる.一般の外来診療において,点眼薬が初めて処方されたときに,その薬剤の特徴などが説明され,使用感に関して最初のうちは確認されると思われるが,その後は,使用感よりも効果(眼圧下降)や角膜などへの副作用に注意が向かうと思われる.限られた診療時間内では,病状,検査結果などの説明に時間を取られた場合や,同じ処方が続いた場合などは,患者サイドからの申し出がないと使用感は確認されない可能性もある.また,年齢,性別によっては,第三者には言えても医師の前では自分の感想,意見を言えない人もいることが推察される.今回の結果は,患者の年齢,性別,点眼液の特徴などを考慮することによって,患者に不安を与えず,コンプライアンスを向上させるための説明が可能となることを示している.今回の薬局での緑内障治療のための点眼液の使用感調査は,組み入れた患者数が両群で163名であり,これまでに日本で行われた炭酸脱水酵素阻害薬の点眼液の使用調査の例数を大きく上回っている24).今回の,調査期間がほぼ1カ月間と短期間であったことを考え合わせると,点眼液の使用感の調査は,外来診療時に行うよりも薬局で調剤時に行ったほうが効率的に行うことができることを示している.さらに,薬剤師は服薬指導時に患者と比較的時間をかけて話をすることができるので,より正確な使用感の調査ができると期待できる.ただしこの場合,薬局での調査結果が的確に医師側にフィードバックされることが重要であり,処方決定の際の情報として提供することができれば,医師と薬剤師の信頼関係も築くことができ,新たな医師-薬剤師の連携のモデルになると期待される.文献1)緑内障診療ガイドライン(第2版):日眼会誌110:777-814,20062)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用感の比較.臨眼58:205-209,20043)添田祐,塚本秀利,野間英孝ほか:日本人における1%ブリンゾラミド点眼薬と1%ドルゾラミド点眼薬の使用感の比較.あたらしい眼科21:389-392,2004———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081289(101)4)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20055)北澤克明,塚原重雄,岩田和雄:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-507,0.5%点眼液の長期投与試験.眼紀46:202-210,19946)TheMK-507ClinicalStudyGroup:Long-termglaucomatreatmentwithMK-507,Dorzolamide,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor.JGlaucoma4:6-10,19957)SilverLH,theBrinzolamideComfortStudyGroup:Ocu-larcomfortofbrinzolamide1.0%ophthalmicsuspensioncomparedwithdorzolamide2.0%ophthalmicsolution:resultsfromtwomulticentercomfortstudies.SurvOph-thalmol44(Suppl2):S141-S145,20008)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬に伴う「霧視」について.日眼会誌110:689-692,20069)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,2003***