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薬局における点眼指導実態アンケート調査報告

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):225.231,2021c薬局における点眼指導実態アンケート調査報告西原克弥山東一孔堀清貴参天製薬(株)日本メディカルアフェアーズグループCSurveyReportontheConditionsofEyeDropGuidanceinPharmaciesKatsuyaNishihara,KazunoriSantoandKiyotakaHoriCSantenPharmaceuticalCo.,LtdJapanMedicalA.airsGroupC目的:薬局の点眼指導の実態を把握すること.対象および方法:本調査の趣旨に同意した調剤薬局企業(15社)傘下のC1,462店舗で実施した.実態調査は,点眼指導の有無,時間,手段,指導内容と頻度,小児・高齢者の指導の有無と指導内容,洗眼指導の有無などについて,アンケート形式で行った.結果:点眼指導の実施率はC96.1%であった.点眼指導にかける時間はC5分未満がもっとも多く,点眼指導の手段は,ほぼ全店舗で「口頭による説明」が施行されていた.点眼指導内容は「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”に比べ高い頻度であった.小児または高齢者への指導経験の有無は,「ある」がC4割強,「ない」がC5割強を占めた.クラスター分析を行った結果,点眼指導は四つのクラスターに分類することができた.結論:個々の患者に対応するため,点眼指導にはいくつかのバリエーションが存在するが,点眼薬の処方機会の多さと時間的な制約,点眼指導に対する意識の差といった要素により,店舗間で指導内容の相違がみられた.今後,この点を是正していくことが点眼治療の質の向上につながると考えられた.CObjective:Toinvestigatetheactualguidanceprovidedinretailpharmaciesforophthalmic-solutioneye-dropinstillation.Subjectsandmethods:Asurveywasconductedat1462pharmaciesunderthecontrolof15pharma-ceuticalcompaniesthatagreedtothepurposeofthesurvey.Thecontentofthequestionnaireincludedthefollow-ing:presenceorabsenceofeyedrops,time,means,content,andfrequencyofeyedrops,presenceorabsenceofguidanceCforCchildrenCandCtheCelderly,CandCpresenceCorCabsenceCofCeyeCwashingCguidance.CResults:OphthalmicCguidancewasdeliveredto96.1%ofthepatients.Theaveragetimespentforophthalmicguidancewaslessthan5minutes,andthemethodofinstructionwas“verbal”innearlyallpharmacies.Regardingthecontentofophthalmicguidance,CtheCfrequencyCof“alwaysCinstructing”wasChigherCthanCthatCof“washingChandsCbeforeCinstillation”andC“closingeyelidsafterinstillation”for“instillation:pullingtheeyelidsdownanddroppingtheeyesothatthetipsofthecontainersdonottouchtheeyes,”“wipingo.theover.owsolution,”and“closingtheeyelidsafterinstilla-tion.”Approximatelyhalfoftherespondentswere“yes”or“no”withregardtotheexperienceofprovidingguid-ancetochildrenortheelderly.Clusteranalysisshowedthattheclusterscouldbeclassi.edintofourclusters.Con-clusions:ItCwasCspeculatedCthatCsomeCpharmaciesCwereCnotCadequatelyCpreparedCforCtheCocularCguidanceCofCindividualpatients.Fromtheclusteranalysis,itwasthoughtthatfactorssuchasthenumberofeye-dropprescrip-tions,CtimeCconstraints,CandCdi.erencesCinCawarenessCofCophthalmicCguidanceChadCanCin.uenceConCnotCbeingCade-quatelyprepared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):225.231,C2021〕Keywords:点眼指導,点眼手技,アンケート調査,薬局.guidanceoninstillation,ocularinstilltionprocedure,questionnairesurvey,pharmacy.C〔別刷請求先〕西原克弥:〒533-8651大阪市東淀川区下新庄C3-9-31参天製薬(株)サイエンスインフォメーションチームReprintrequests:KatsuyaNishihara,ScienceInformationTeam,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-9-31,Shimo-Shinjo,Higashiyodogawa-ku,Osaka533-8651,JAPANCはじめに眼科疾患に対する治療は,点眼薬を主要薬剤とする治療(点眼治療)が基本であり,点眼アドヒアランスだけでなく,点眼手技を含めた点眼薬の取り扱いも治療効果に影響を与えると考えられている.すなわち,点眼薬がもつ有効性と安全性を確保するためには,用法用量を遵守し,正しい点眼方法で確実に薬液を眼に点眼することが求められる.それゆえ,点眼薬処方時の正しい点眼方法の指導(点眼指導)は不可欠である.その一方で,高齢者や緑内障患者1),白内障術後の点眼指導上の課題2)が報告されており,医師,薬剤師,看護師など点眼治療にかかわる医療従事者が共通認識をもち,点眼薬の服薬指導に携わることが重要である..今回,筆者らは,点眼指導の実態を把握することを目的に薬局店舗を対象とした点眼指導実態アンケート調査を実施したので報告する.CI対象および方法1.アンケートの対象と調査方法対象は,本調査の趣旨に同意した調剤薬局企業(15社)傘下のC1,462店舗である.調査期間はC2019年C6月のC1カ月間である.実態調査は,点眼指導の有無,時間,手段,指導内容と頻度,小児・高齢者の指導の有無と指導内容,洗眼指導の有無などについてアンケート形式の調査を行った.調査内容の詳細は表1に示した.調査手法は,Googleフォームまたは調査用紙を利用し,各店舗につきC1件の回答を回収し集計した.C2.統計学的検討実態調査の結果は,単純集計して点眼指導の実態を検討した.また,点眼指導の内容に関する詳細な傾向を明らかにするため,潜在クラス分析(クラスター分析)を行った.クラスター分析では,全店舗をC4クラスターに分類した後,各クラスターにおける点眼指導内容の特徴について検討した.クラスター分類に用いた分析変数の各クラスター間での相違は,分散分析を用いて検討した.判定は,p<0.05を有意差ありと判定した.統計学的解析にはCJMP(Ver.14,CSASInstituteInc.)を用いた.CII結果1.調査店舗の背景都道府県別の調査店舗数を表2に示す.Q1の回答から,月平均の点眼薬処方箋枚数は,点眼薬処方箋がC100枚未満の店舗の割合がC75.0%であったのに対し,100枚以上C500枚未満の割合がC17.0%,500枚以上の割合がC7.7%で,点眼薬処方箋がC100枚以上の店舗の割合はC24.7%であった(表3).C2.点眼指導の実態Q2において点眼指導を「新規に点眼薬を処方する患者さんすべてに実施している」または「点眼指導が必要と思われる患者さんに実施している」とした店舗はC1,462店舗中1,405店舗で,実施率はC96.1%であった.その内訳を表4に示す.「Q3:点眼指導が必要と思われる患者さん」の質問に対する回答は,「高齢者」がもっとも多く,「保護者」「小児」「障害者」の順であった(表5).点眼指導にかける時間は,5分未満がもっとも多く(図1),Q4:点眼指導の手段は,ほぼ全店舗で「口頭による説明」が施行されており,紙媒体のチラシや指導箋を利用している割合はC42.3%,点眼手技動画の利用割合はC0.3%であった(表6).なお口頭と紙媒体を併用する店舗はC41.1%であった.表1アンケート調査内容店舗の所在地(都道府県)Q1)月平均,点眼薬の処方箋をどのくらい受けていますか?Q2)点眼指導を実施されていますか?Q3)Q2)で「点眼指導が必要と思われる患者さんに実施している」と答えた方にお聞きします.必要と思われる患者さんをすべて教えてください.Q4)点眼方法に係る指導の手段を教えてください(複数回答可)Q5)基本の点眼方法に係る指導の内容とその頻度を教えてください.-①点眼前の手洗い-②点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する-③あふれた液のふき取り-④点眼後の閉瞼-⑤点眼後の涙.部圧迫Q6)小児の点眼で指導されたことがある点眼手技はありますか?Q7)Q6)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような手技ですか(自由記載)Q8)高齢者の点眼で指導されたことがある点眼手技はありますか?Q9)Q8)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような手技ですか?(自由記載)Q10)洗眼方法について洗眼指導されたことはありますか?Q11)Q10)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような指導内容ですか?(自由記載)表2都道府県別の調査店舗数表3点眼薬処方箋枚数(月平均)回答数割合(%)5枚未満C207C14.25.C20枚未満C377C25.820.C100枚未満C513C35.1100.C500枚未満C248C17.0500枚以上C112C7.7未記入C5C0.3合計C1,462表5点眼指導が必要と思われる患者回答数割合(%)高齢者C644C91.9小児C436C62.2保護者C480C68.5障害者C294C41.9新規,あるいは初めてC33C4.7慣れていない,不安そうな患者C24C3.4未記入C4C0.6Q5では,点眼指導内容として「点眼前の手洗い」,「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」,「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」「点眼後の涙.部圧迫」のC5項目の基本的な点眼指導頻度を調査し,その表4点眼指導の実施状況回答数割合(%)新規に点眼薬を処方する患者さんすべてに実施しているC704C48.2点眼指導が必要と思われる患者さんに実施しているC701C47.9実施していないC54C3.7未記入C3C0.2合計C1,4620.40.0■:5分未満:5分以上10分未満:10分以上:その他図1点眼指導にかける時間の割合(%)点眼指導にかける時間は,5分未満がもっとも多い.結果を図2に示した.「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”に比べ高い頻度であっ表6点眼指導の手段回答数割合(%)口頭C1,385C98.6紙の資料C595C42.3動画C4C0.3実地してもらい,悪いところを指導C23C1.6薬剤師が手本C21C1.5未記入C1C0.1C点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点点眼前の手洗い眼するあふれた液のふき取り点眼後の閉瞼点眼後の涙.部圧迫2.42.02.53.5■C:ほとんど指導しない■B:ときどき指導する■A:いつも指導するD:指導しない:未記入図2点眼指導内容の実施割合(%)「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」に比べ高い頻度であった.小児の点眼指導の有無高齢者の点眼指導の有無0.10.4■:ある:ない:未記入図3小児と高齢者への点眼指導の有無の割合(%)「ある」および「ない」は,「ない」が多かった.た.Q6.9で小児および高齢者に対する点眼指導の実態を調査した.小児または高齢者への指導経験の有無は,「ある」がC4割強,「ない」がC5割強を占めた(図3).指導した手技(回答は自由記載)については,アフターコーディングの結果,小児では「寝ているときに点眼」「プロレス法」,高齢者では「げんこつ法」「点眼補助具」の回答割合が高かった(図4).洗眼方法の指導経験(Q10)は,「ある」がC11.2%であった.C3.クラスター分析アンケート結果から,互いに似た性質をもつ薬局店舗をグルーピングし,そこから得られる課題を抽出するためクラスター分析を行った.分析変数を「点眼指導の手段」「基本的なC5項目の点眼指導内容」「小児と高齢者への指導経験」の調査結果としたところ,四つのクラスターに分類することができた.クラスター解析に用いた分析変数は分散分析の結果,クラスター間で有意に差がある変数であった(図5).四つのクラスターの定義づけを「点眼薬処方箋枚数」の結果と掛け合わせた結果を表7に示した.泣いているときは寝て点眼点眼しない目尻,横から入れる容器を持つ手を固定目を閉じて点眼点眼補助具30.7%33.0%プロレス法(子供を固定)げんこつ法寝ているときに点眼0.0%5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%0.0%5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%図4小児と高齢者の点眼手技小児,高齢者に点眼指導を実施している店舗におけるその手技方法の割合(アフターコーディング)処方箋枚数指導手段小児指導の有無高齢者指導の有無クラスター1クラスター2クラスター3クラスター40%20%40%60%80%100%*p<0.0001*p<0.0001*p<0.00010%40%80%0%40%80%0%40%80%■20枚以上100枚未満■口頭+紙資料■口頭のみ■ある■ない■ある■ない■100枚以上紙資料のみ■他の説明■20枚未満20%60%100%20%60%100%20%60%100%①②③④⑤クラスター1クラスター2クラスター3クラスター4#p<0.0001#p<0.0001#p<0.0001#p<0.0001#p<0.00010%40%80%0%40%80%0%40%80%0%40%80%0%40%80%20%60%100%20%60%100%20%60%100%20%60%100%20%60%100%■A:いつも指導する■B:ときどき指導する■C:ほとんど指導しないD:指導しない①点眼前の手洗い②点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する③あふれた液のふき取り④点眼後の閉瞼⑤点眼後の涙.部圧迫図5クラスター分析分析変数を「点眼指導の手段」「基本的なC5つの点眼指導内容」「小児と高齢者への指導経験」の調査結果としたところ,四つのクラスターに分類することができた.表7クラスターの定義づけクラスター分類定義クラスターC1点眼薬の処方箋枚数が少ない薬局で,点眼指導はときどき実施する薬局クラスターC2点眼薬の処方箋枚数が比較的多い薬局で,紙(チラシ)資材も併用しながらC5項目の点眼指導を積極的に実施している.ただし,小児・高齢者への点眼手技指導は,高齢者・小児の接触機会が少ないことからクラスターC3より実施頻度は低いクラスターC3点眼薬の処方箋枚数が多い薬局で,小児・高齢者への点眼手技指導については指導する機会の多さから実施頻度は高いが,5項目の点眼指導は紙(チラシ)に頼る傾向があるクラスターC4点眼薬の処方箋枚数が少ない薬局で,点眼指導はクラスターC1より消極的クラスターAS1S2S3S4S5B13322223221111123112222143444443処方箋数3213数字は変数内の順位図6各変数のクラスター順位A:紙資材の利用頻度,B:小児・高齢者の点眼指導の実施頻度.S1:点眼指導内容「点眼前の手洗い」の実施頻度,S2:点眼指導内容「点眼前の手洗い点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」の実施頻度,S3:点眼指導内容「あふれた液のふき取り」の実施頻度,S4:点眼指導内容「点眼後の閉瞼」の実施頻度,S5:点眼指導内容「点眼後の涙.部圧迫」の実施頻度.CIII考察今回のアンケート調査に参加した調査店舗の背景は,都道府県別の分布をみると,おおむね人口比率と似た傾向を示したが,中国地方と九州地方の調査店舗数が少なかった(佐賀県は調査店舗が0).また,点眼薬処方箋枚数では,月平均がC500枚以上の店舗割合がC7.7%であったことから,本調査ではごく標準的な院外薬局が抽出されていると考えられ,眼科関連の処方箋をおもに扱う薬局によるバイアスは考慮しなくてよいと考えられた.今回の対象店舗における点眼指導の実施率はC96.1%とほぼすべての薬局で実施されており,実施方法としては口頭による説明がC98.6%とほとんどを占め,紙資材を併用する店舗はC41.1%であった.近年動画による点眼指導が効果的3,4)との報告があるが,本調査結果で動画の利用率はC0.3%であり,紙資材や動画を使用した点眼指導が普及していない実態が浮き彫りになった.また,基本的なC5項目の点眼指導の実施頻度は,点眼時動作の「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」と「点眼直後のふき取り・閉瞼」の指導頻度は比較的高い傾向がみられたが,「点眼前の手洗い」「点眼後の涙.部圧迫」の指導頻度は低い傾向がみられた.すなわち,点眼指導すべきC5項目が一連の点眼手技であることが十分に認識されていないために指導内容の実施頻度にばらつきがみられたものと考えられた.また,涙.部圧迫については,白内障術後などは,感染症のリスクから実施すべきではないとの報告(文献)が実施頻度を低値にしていることに多少影響している可能性が考えられた.五つの指導内容で“いつも実施する”が,一番高くてC34%であったこと,また小児,高齢者への点眼指導がC50%に達していないことは,個々の患者に対応するための点眼指導がまだ十分に準備されていない店舗があることが推察された.クラスター分析では四つのタイプの薬局店舗に分類することができた.クラスターC2とC3はC1とC2より点眼薬の処方箋枚数が多い店舗タイプであるが,この二つの相違点としては,点眼薬処方箋枚数,紙資材の利用頻度,基本的なC5項目の点眼指導頻度,高齢者・小児の点眼手技指導率があげられる.すなわち,クラスターC3は点眼薬処方に慣れている薬局店舗と考えられ,眼科関連の処方箋を多く扱っている店舗であると推察される.さらに,点眼薬の処方機会の多さとそれによる服薬指導にかかる時間的な制約から,基本的なC5項目の点眼指導については,より効率的な紙資材を多用したことが推察された.クラスターC3におけるこれらの背景が,クラスターC2より五つの点眼指導の実施頻度が少なくなった理由であると考えられた.しかしながら眼科に近接した薬局では,アクセスのよさから高齢者や小児の患者の来局機会は多くなると推測できるため,処方箋枚数が多い店舗では,小児・高齢者の点眼手技の直接指導の頻度がクラスターC2より高くなったと考えられた.点眼薬の処方箋枚数が少ないクラスターC1とC4の違いは,基本的なC5項目の点眼指導の頻度であったことから,点眼指導に対する意識の差が頻度の差となって現れたのではないかと推察した.クラスターC4は,眼科以外の診療科から,内服薬とともに点眼薬が処方される処方箋を扱う機会が多い店舗であると推察され,服薬指導が内服薬中心に行われていて,点眼薬の服薬指導が十分に行われていない可能性が示唆された.これらクラスター分析の結果から,薬局における点眼指導の実態を解釈してみると,点眼指導の内容と頻度は,点眼薬の処方機会の多さと時間的な制約,点眼指導に対する意識の差といった要素が影響を与えていると考えられた.今後,点眼指導内容の統一化を図るためには,統一化を妨げる要因を排除すること,つまり処方の機会や時間的な制約に影響されない指導手段を構築することと,点眼指導をする側,される側の教育と理解の促進を図っていくことが重要と考えられる.謝辞:本論文投稿にあたりご助言をいただきました庄司眼科医院・日本大学医学部視覚科学系眼科学分野の庄司純先生に深謝2)大松寛:白内障術前抗菌点眼薬の施行率と点眼方法の観いたします.察.IOL&RS32:644-646,C20183)野田百代:入院前からの点眼指導への介入.日本視機能看護学会誌3:15-18,C2018文献4)小笠原恵子:白内障手術患者に対するCDVDを用いた個別1)谷戸正樹:点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果.点眼指導の取り組み.日本農村医学会雑誌C63:846-847,あたらしい眼科35:1675-1678,C2018C2015C***

点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1675.1678,2018c点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CImprovementinTechniquesofTopicalDropAdministrationafterRepeatedPatientEducationMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障薬物治療に関する指導を繰り返すことの効果について検討した.島根大学医学部附属病院の緑内障外来を受診し,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)について外来看護師が指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った.指導内容に関する記録を後ろ向きに調査した.70歳以上の患者では,知識よりも手技に関して問題がある頻度が高かった.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能であった.CE.cacyCofCrepeatedCpatientCeducationCinCtopicalCdropCadministrationCtherapyCinCglaucomaCpatientsCwasCassessed.CTheC168glaucomaCpatients(88male,C80female)C,judgedCtoChaveCpoorCdrugCadherence,CunderwentCaCpatientCeducationCprogramCprovidedCbyCnurses.CTheCprogramCconsistedCofC3steps:1.CCheckupCofCknowledgeCandCskillregardingglaucomatherapy,2.Pointingoutproblems,and3.Educationregardingknowledgeandskill.The3stepswererepeateduntilsu.cientimprovementwasobserved.Thepatienteducationrecordswerereviewedret-rospectively.Attheinitialcheckup,problemswerefoundmorefrequentlyregardingskill,ratherthanknowledge,inolderpatients(C≧70years).Problemsregardingskilldecreasedasthenumberofeducationsessionsincreased.With3repetitionsofpatienteducation,mostpatientstendedtoacquireappropriateskillsintopicaldropadminis-tration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1675.1678,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,点眼指導,点眼手技.topicaldropadherence,glaucomamed-icaltherapy,patienteducationoftopicaldropadministration,topicaldropadministrationtechnique.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,もっとも一般的に行われる緑内障治療である.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は緑内障による失明の危険因子であり1),その改善・維持は臨床上重要な課題である.アドヒアランスを維持・改善するための方法として,疾患に対する理解や実際の点眼手技について患者指導を行うことの有効性が報告されている2).当院では,外来診療時に点眼に関するアドヒアランスが良好ではないと医師が判断した患者について,外来看護師による指導を行い,十分なアドヒアランスが得られるまで指導を繰り返している.今回,指導を繰り返すことによる点眼アドヒアランスの改善効果について,点眼指導記録を確認することで調査したので報告する.CI対象および方法対象は,2008年C12月.2011年C10月に,島根大学医学部附属病院の眼科で筆者の外来を受診した842名(男性439名,女性C403名)の緑内障患者のうち,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)で〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1675図1島根大学医学部附属病院における点眼指導の手順まず,①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握する.そのうえで,③問題のある知識と手技について指導を行う.以上を,問題がなくなるまで受診ごとに繰り返す.a:70歳未満b:70歳以上知識手技知識手技図31回目点眼指導前の確認で点眼の知識と手技について問題あり・なしと判定された患者の割合a:70歳未満の患者では,知識に関する問題ありの頻度(27人/35人,77%)と手技に関する問題ありの頻度(31人/35人,89%)に統計学的な有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法).Cb:70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの頻度(95人/133人,71%)と手技に関する問題ありの頻度(121人/133人,91%)に統計学的な有意差を認めた(p<0.0001,CFisherの直接確率法).ある.看護師が,島根大学医学部附属病院で通常行っている方法により,点眼治療に関する指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った(図1).知識については,医師が説明した病気に関する理解度(病名,眼圧下降治療の必要性,など),点眼薬名・効能・用法403530252015105020代30代40代50代60代70代80代90代■男性1名0名1名8名12名36名32名6名人数(名)■女性0名0名1名5名7名34名21名4名図2点眼指導を受けた患者の年齢分布(点眼回数,時間,左右,点眼間の間隔,1滴滴下で十分なこと,プロスタグランジン製剤後の洗顔の必要性,など)を確認し,指導を行った.手技については,練習用の点眼液を用いて患者が実際に行っている点眼方法を実施してもらい,“的中”しているか,姿勢や点眼瓶保持が安定しているか,点眼の滴数は適切か,点眼瓶の高さが保たれているか,点眼瓶の先が眼球や眼瞼に触れていないか,などを確認した後に,問題があれば,個々の症例に応じて指導を行った.手技に関する指導は,まずは自己流の点眼方法の継続を優先し,ついで,げんこつ法(仰臥位で,げんこつを作った手で下眼瞼を開瞼,げんこつの上に点眼瓶を保持した手を添えることで点眼時の高さと位置を安定化させる方法),点眼補助具,家人への点眼依頼,の順番で指導を行うことを基本方針とした.確認・指導内容について,指導ごとにノート(点眼指導ノート)に記載した.点眼指導ノートから年齢,性,点眼の知識・手技に関して問題が確認された頻度を後ろ向きに調査し,集計した.本研究は,島根大学医学部附属病院の倫理委員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果点眼指導を受けた患者の平均年齢はC76歳(男性C74歳,女性C78歳)で,男女ともC70代が最多であり,ついでC80代であった(図2).医師が点眼指導を必要と判断した主たる理由は,緑内障についての知識・理解不足(例:自分の病名・病態を知らない,など),点眼薬の作用・副作用・必要性が理解されていない(例:点眼薬がすぐなくなる,たくさん余る,点眼回数を増やせば効果があると思っている,眼に違和感を感じるたびに緑内障点眼薬を使用している,など),点眼治療の効果が予想されたほど得られない,自己点眼が困難な病100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%1676あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(100)補助具2%げんこつ法9%人数(名)図41回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法10090807060504030201001回目確認時2回目確認時3回目確認時4回目確認時■適切89名49名29名10名■不適切79名23名8名2名図5手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化点眼指導回数が増えるほど,手技について不適切な患者の割合が減少する(図C3では,プロスタグランジン薬点眼後の洗顔方法などの不適切については知識と手技の両者について問題ありにカウントされ,本図では具体的な四つの手技の成功・不成功のみをカウントしたため,図C3の手技の問題ありと図C5の手技不適切の総数は合致しない).態・状態がある(高齢,脳梗塞後遺症,認知症,四肢振戦,関節リウマチ,Parkinson病,など)であった.1回目の点眼指導時の確認で問題ありと判定された割合は,70歳未満の患者では知識に関する問題(77%)と手技に関する問題(89%)の割合に有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法)が,70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの割合(71%)よりも手技に関する問題ありの割合(91%)が有意に高値であった(p<0.0001)(図3).1回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法は,自己流がC82%で大多数を占めた(図4).そのうち点眼手技が不適切と判定された患者(79名)については,個々の症例について実行可能性を考慮したうえで,看護(101)手技適切患者手技不適切患者ab補助具家人3%1%補助具2%1回目確認時家人cd4%2回目確認時ef3回目確認時補助具7%gh4回目確認時げんこつ法10%図6手技について適切(a,c,e,g)・不適切(b,d,f,h)と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化師の判断で自己流点眼方法の改善,げんこつ法,点眼補助具の使用,家人への点眼依頼を選択して指導を行い,次回受診時の再確認を予定した.手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化を図5に示す.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.手あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1677技について適切・不適切と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化を図6に示す.1回目確認時(点眼指導C1回後),点眼手技適切(図6a)・不適切(図6b)と判定された両者で自己流の点眼を行っている者が大多数であったが,適切と判定された患者ではやや家人による点眼の割合が高かった(適切でC11%,不適切でC1%).2回目確認時(点眼指導C2回後),適切と判定された患者(図6c)では自己流(45%)が減り,げんこつ法(25%),点眼補助具(8%),家人(22%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6d)では,自己流(78%)が多数を占めていた.3回目確認時(点眼指導C3回後),適切と判定された患者(図6e)ではさらに自己流(21%)が減り,げんこつ法(38%)と家人(34%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6f)では,自己流(75%)が多数を占めていた.4回目確認時(点眼指導C4回後),適切と判定された患者(図6g)では家人(50%)による点眼が半数を占めた.4回目の確認で手技不適切(図6h)であったのは自己流点眼のみであった.CIII考察当院で点眼アドヒアランスに関する問題が疑われ,看護師による点眼指導を受けた患者はC70.80代の高齢者が中心で,明らかな性差は認めなかった(図2).点眼治療に関する知識と手技の両者について問題を指摘された患者が大部分であったが,とくにC70歳以上の高齢者では手技に関する問題が多い傾向を認めた(図3b).高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており3,4),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際には,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置き,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くべきと思われる.点眼手技について,点眼指導回数が増えるごとに不適切と判定される患者が数・割合とも減少した(図5).適切と判定された患者では,指導を重ねるごとに自己流の点眼が減少し,げんこつ法・点眼補助具・家人への点眼を行っている割合が増加した一方で,繰り返し不適切と判定された患者では自己流の点眼方法が主流を占めていた(図6)ことから,点眼指導時に勧められた点眼方法を遵守可能であった患者ほど適切な点眼手技の獲得ができるようになったと推測される.複数回の指導を行っても点眼手技に関する問題が完全に解消されない患者がみられること,点眼指導回数が増えるに従い家人への点眼依頼の割合が高くなっていることから,自身による点眼が困難な患者が一定数存在することが示唆される.このような患者では,独居や身体的特徴(認知症,四肢麻痺,など)がその背景にあると推測されるため,メディカルソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの介入による社会的サポートについても併せて行う必要があると思われる.また,薬物治療が複数回の指導後も手技的に困難な患者は,手術治療についても考慮すべきと思われる.本研究では,一度獲得した手技の持続性については検討していないが,定期的な確認・指導体制がなければ,適切な手技の継続が困難な患者が存在すると思われる.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能と考えられた.看護師を中心とする外来スタッフによる点眼指導は緑内障点眼アドヒアランスの改善・維持に効果的と考えられた.謝辞:本研究にご協力いただきました島根大学医学部附属病院眼科外来の佐藤千鶴子看護師,川上芳子看護師,石原順子看護師,山本知美看護師,仲舎妃登美看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenCPP.CBlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)TseAP,ShahM,JamalNetal:Glaucomatreatmentadher-enceCataUnitedKingdomgeneralpractice.EyeC30:1118-1122,C20164)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmol2018;e-pubaheadofprintC***1678あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(102)

緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)1491《原著》あたらしい眼科28(10):1491?1494,2011cはじめに緑内障治療ではアドヒアランスの向上が重要である1).アドヒアランスに影響を及ぼす要因として医師と患者のコミュニケーション,点眼する目的を理解すること2),点眼薬剤数3),点眼回数41)などが知られている.最近では特に点眼容器の形状改良による扱いやすさが有効であるという報告5)もある.また,治療効果を上げるための有意義なシステムとして,緑内障教育入院の有用性も報告されている6).しかし,これらの要因が眼圧にどのように影響するかに関しての検討は十分にされていない.そこで本研究では,緑内障患者に対して患者教育を行うことにより眼圧にどのような影響があるかを調べた.I対象および方法1.対象広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.選択基準は,〔別刷請求先〕植田俊彦:〒142-0088東京都品川区旗の台1-5-8昭和大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshihikoUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShowaUniversity,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-0088,JAPAN緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果植田俊彦*1,2笹元威宏*1平松類*1,2南條美智子*2大石玲児*3*1昭和大学医学部眼科学教室*2三友堂病院眼科*3三友堂病院薬剤部EffectofPatientEducationontheDecreaseinIntraocularPressureandIt’sDurationinGlaucomaPatientsToshihikoUeda1,2),TakehiroSasamoto1),RuiHiramatsu1,2),MichikoNanjyo2)andReijiOhishi3)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SanyudoHospital,3)PharmaceuticalDepartment,SanyudoHospital目的:緑内障患者を対象とし患者教育(点眼指導と疾患説明)による眼圧下降効果を調べること.対象および方法:2年以上緑内障点眼治療を受け少なくとも6カ月以上点眼の変更がなく,かつ視野に変化のない緑内障患者を対象とした.眼圧測定者を盲検化した2群間(A群:n=30とB群:n=27)比較,前向き臨床試験を行った.介入開始から3カ月間,1回/月,両群に対して医師による小冊子を用いた緑内障の点眼方法と疾患啓発に関する説明を行う.さらにB群にのみ看護師による点眼実技指導を追加する.眼圧測定は介入前と9カ月間行った.結果:眼圧はベースラインと比べ3カ月後でA群では1.2±1.8mmHg,B群では2.0±1.9mmHg(p<0.05)下降した.教育終了後にも両群では眼圧下降効果は持続したが,B群のほうが3,5カ月後で有意に下降した(p<0.05).結論:患者教育には眼圧下降効果がある.特に点眼実技指導には眼圧下降効果がある.Thisstudysoughttofindtheintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofglaucomapatienteducationcomprisingpatientinstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,inglaucomapatients.Aprospectiveclinicalinterventionstudywasperformed.Onceamonth,on3occasions,thephysicianlecturedthepatientsinbothAgroup(n=30)andBgroup(n=27)regardinginstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,withatextbook.ForBgrouppatients,eyedropsperformancewasinstructedbyanurse.IOPwasmeasuredbeforeintervention(baseline)andfor9monthsafterintervention.After3months,IOPhaddecreased1.2±1.8mmHginAgroupand2.0±1.9mmHg(p<0.05)inBgroup.Aftertheeducationperiod,theIOP-loweringeffectcontinuedinbothgroups,andsignificantIOPdecreasesobservedat3and5monthsinBgroup,ascomparedtoAgroup.IOPwasdecreasedbypatienteducation,andadditionalpracticalinstructionforeyedropsperformancewasmoreeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1491?1494,2011〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,コンプライアンス,点眼指導,眼圧.glaucoma,adherence,compliance,educationofeyedropprocedure,intraocularpressure.1492あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(124)1)緑内障点眼薬の治療を2年以上継続していること,2)過去6カ月以内で点眼薬に変更がないこと,3)過去6カ月間で視野に変化がないこと,4)過去6カ月の眼圧が2mmHg以内の変動であること,5)緑内障以外に眼圧に影響する疾患のないこと,6)同意能力のあること,7)眼圧が目標眼圧7)に達していないこと,とした.年齢,性別,点眼薬剤数は不問とした.また,1)緑内障点眼薬を変更した場合,2)眼の手術をした場合,3)3カ月間観察できなかった場合には対象から除外した.2.介入方法患者教育(疾患教育,点眼説明,点眼実技指導)を行った.試験参加者全員に医師がGlaucomaOphthalmologistCircus企画による緑内障患者教育用小冊子(図1)を見せながら約10分間,疾患教育と点眼説明指導を行った.次いでB群にのみ看護師が約30分間点眼実技指導を行った.これらの患者教育は介入開始日,1カ月後,2カ月後の合計3回行った.疾患教育では,1)眼圧とは何か,2)視野とは何か,3)緑内障では視野がどう変化するか,4)視野と眼圧の関係,の4項目について行った.点眼の説明では,1)何のために点眼するのか,2)涙?部圧迫の方法,3)点眼後閉瞼の方法,4)涙?部圧迫・点眼後閉瞼を2分間行うこと,の4項目について小冊子の図を示しながら行った.また,2種類以上点眼する場合にはその間隔を5分以上開けること,点眼順序はゲル化剤を最後にすること,保管場所は添付書通り定められた場所に保存することなどを説明した.B群にのみ看護師が点眼実技指導として別室(図2)で,1)忘れずに点眼すること,2)眼に確実に滴下すること,3)点眼効果を高めること,の3項目について実技指導した.1)忘れずに点眼するために点眼薬すべてに目立つシールを貼り,点眼時間割表のそれぞれ点眼すべき時間に同じシールを貼り配布した.2)眼に確実に滴下するためにまず看護師が行う点眼行為を患者に観察させる.つぎに,患者に点眼させ,手順どおり点眼しているかどうかを看護師が観察する.各患者に応じたそれぞれの点眼行為の問題点を解決するため,たとえば片手で下眼瞼を押し下げながら点眼する方法,または仰臥位になって上から滴下する方法など説明し練習させた.3)点眼効果を高めるために点眼直後に眼瞼に流出した涙液を拭き取らず,まず閉瞼しながら涙?部を2分間圧迫するように説明し練習させた.3.評価方法割り付けを盲検化された1名の医師がapplanationtonometoryにより午前中で同一時間帯(初回測定時間±1時間)に眼圧を測定した.眼圧測定は介入前と介入後1,2,3カ月と患者教育終了したその後も5,7,9カ月後に測定した.測定者は測定時には診療録上過去の眼圧値を見ないで測定した.4.試験デザイン試験デザインは前向きランダム化,評価者を盲検化した群間比較試験とした.第三者により割り付けられた表に従いランダムに2群(A群とB群)に分け,看護師が割り付け表に従いB群にのみ点眼実技指導を行った.評価者(眼圧測定医師)には盲検化した.三友堂病院倫理委員会の承認を受けた.臨床試験登録番号UMIN000001180.5.データの解析両群各々の介入前を基準とした経時的な眼圧変化には対応のあるt検定を,両群間眼圧変化量比較には介入前眼圧値を考慮し共分散分析法を用いた.有意水準は5%以下とした.図1緑内障に対する説明用冊子全部で6冊ある.医師が試験参加者全員に冊子を提示しながら,約10分間,疾患指導と点眼指導をした.図2点眼実技指導のための個室医師診察室とは別室で点眼実技指導が行われた.どの症例が実技指導を受けているかは医師には盲検化されている.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111493統計ソフトにはSASver9.1を用いた.II結果1.対象試験登録症例数はA群30例57眼とB群30例58眼であった.しかし,B群で3例6眼が患者自己都合によって受診を中断したため脱落し,研究を完了できた症例数はA群30例57眼,B群27例52眼であった.点眼治療を変更した症例,手術をした症例はなかった.背景因子としてA群では女性が多かった.使用している点眼薬剤数,罹病期間,病期にA・B群間で有意差はなかった.平均年齢はそれぞれA群71.8±9.4歳,B群で72.6±8.9歳,点眼薬の種類は1種類がA群28例,B群22例,2種類がA群17例,B群27例,3種類がA群12例,B群3例であった.平均罹病期間はそれぞれ5.9±4.0年と5.2±3.3年であった(表1).2.眼圧値の変化両群とも介入1カ月後から眼圧が下降し,3回の患者教育後の3カ月後の眼圧はA群ではベースライン17.1±2.5から15.9±2.2mmHg(p=5.02×10?6)へ,B群では16.8±2.3から14.8±2.0mmHg(p=1.56×10?9)へ下降した(図3).その後もA群では5カ月後15.6±2.2,7カ月後15.8±1.9,9カ月16.0±1.9mmHgと下降を続け,B群でも5カ月後14.8±2.5,7カ月後14.8±2.4,9カ月後15.7±2.4mmHgでありベースラインと比べ有意に眼圧下降が持続していた.しかしB群では最も下降した3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した(p=0.0027).眼圧変化量を両群間で比較すると始めの2カ月間では有意差はなかったが,B群のほうが3カ月後(p=0.0043)と5カ月後(p=0.0334)と有意に眼圧が下降したが,7カ月後と9カ月後では再び両群間に差がなくなった(表2).III考按症状に乏しく,長期間の投薬が必要である緑内障のような慢性疾患の治療では,患者自身のアドヒアランスが重要性であると報告8)されている.GlaucomaAdherencePersistencyStudy(GAPS)では,眼圧下降薬の最も高い継続率は,6カ月と報告されている9).また,薬効を高めるために経口する内服薬の場合と比べて点眼薬の場合では,点眼行為それ自体に高いアドヒアランス遵守が求められる.今回の試験では月に1回,3カ月間の疾患教育・点眼説明により眼圧が下降し,さらに点眼実技指導を加えたB群では約2mmHg眼圧下降が得られた.今回の対象症例はまったく緑内障の知識がない症例ではなく平均5年間,外来診療を通じてインフォームド・コンセントを行ってきた症例である.それでも改めて教育指導,特に点眼実技指導することには眼圧下降効果が得られるという結果となった.しかし両群とも眼圧が下がったことから眼圧測定評価者が試験期間中に意図的に低めに測定したというバイアスも考えられるが,各測定時点で前回の値を知らずに眼圧測定していること,評価者を盲検化し点眼実技指導を追加したB群で有意に眼圧下降が得られたことより,このようなバイアスは表1背景因子A群B群年齢(歳)71.8±9.472.6±8.9性別男性(例)女性(例)8221413点眼種類(眼)1種類2種類3種類28171222273罹病期間(年)5.9±4.05.2±3.3表2眼圧ベースラインと比べた変化量の両群間比較123579(カ月)A群?1.26±1.65?1.58±1.73?1.21±1.81?1.23±1.93?1.59±2.13?1.07±2.03B群?1.19±1.67?1.81±1.92?1.98±1.95?1.92±2.10?1.92±2.36?1.04±2.41〔共分散分析〕*p=0.0043,**p=0.0334.***201816140眼圧(mmHg)前123579観察期間(月数):A群:B群図3眼圧の経時変化患者教育は介入開始時,1と2カ月まで行われている.眼圧の経過ではベースラインがA群では17.1±2.5mmHgで,B群では16.8±2.3mmHgであった.試験開始1カ月後から両群ともに下降した.3カ月以降は患者教育を行わずに経過観察している.ベースラインと比較しA・B群ともに各時点で有意に眼圧が下降した(p<0.05).B群では3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した.1494あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(126)今回の試験に影響ないと考えられる.しかし,今回の両群の背景因子として男女比に有意差があった.男性のほうがノンコンプライアンスの確率が高いといわれている10).このことが本試験の結果に影響する可能性も否定できない.また,今回の選択基準は,過去6カ月の眼圧変動を2mmHg以内としたために,介入後にもその変動が影響する可能性がある.介入前と介入後平均値の差でみればB群では2mmHgの下降であったが,共分散分析で統計学的に解析すると有意差はあった.またこの2mmHgの下降は,1mmHgの眼圧下降が視野悪化リスクを10%低下させるというEarlyManifestGlaucomaTrialGroup(EMGT)によるEMGTstudy11)の観点から考えても臨床的にも意味のある下降であると考えられる.今回は緑内障治療に関与すると考えられる教育内容で行った.点眼液が鼻涙管を経由して鼻粘膜からも吸収され全身の合併症をきたすといわれているので,涙?部圧迫や閉瞼には副作用軽減効果のみならず眼球への移行を高める効果があるとされている12).また,点眼目的の理解が点眼し忘れを予防する効果があるといわれている13).しかし,このような個々の因子が,どの程度の割合で眼圧下降に寄与したのかは検討していない.月に1回の指導とはいえ,医師と看護師が合わせて約40分の指導時間は日常の外来診療のなかでは必ずしも実行できない.今後さらにどんな指導項目が最も有効なのかを詳しく検討する必要があると考えられる.B群では患者教育終了2カ月(介入開始から5カ月)後,4カ月(介入開始から7カ月)後では眼圧下降が維持されていたが,6カ月(介入開始から9カ月)経過すると最も眼圧が下降した介入3カ月後と比べて有意に眼圧が上昇し,それに対してA群では介入6カ月後でも眼圧に変化なく,むしろ両群の差がなくなった.このことより患者教育効果は半年の持続があるものの特に点眼実技指導効果は4カ月程度しか持続していないと推測される.患者が緑内障に関する知識や点眼手順を獲得できても,持続はある一定期間なので定期的な患者教育または学習できるツールを用意する必要があるのかもしれない.実際,試験対象者から「これらの指導効果を継続するのはむずかしい」,「来院ごとに指導を受けているが指導期間が過ぎれば忘れてしまいそうだ」との訴えもあった.緑内障治療に関する知識は一度獲得されると長続きするが,特に点眼実技法の持続はよりむずかしく,くり返して指導する必要があるかもしれない.今回の研究では点眼種類数の違い,点眼し忘れの回数,涙?部圧迫時間,圧迫方法,閉瞼時間などが眼圧下降にどの程度関与しているかなどの項目の有効性を統計的に検討するには症例数が少なかった.しかし,緑内障患者にとって患者教育(疾患指導・点眼指導・点眼実技指導)を行うことは眼圧下降効果があるかもしれず,将来,多施設でより多数症例での臨床研究を行うための基礎研究として本研究は役立つであろう.文献1)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20092)吉川啓司:コンプライアンスを高める患者説明.臨床と薬物治療19:1106-1108,20003)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19834)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20076)古沢千昌,安田典子,中元兼二ほか:緑内障教育入院の実際と効果.あたらしい眼科23:651-653,20067)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌107:777-814,20068)GrayTA,OrtonLC,HensonDetal:Interventionsforimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSysRev15:CD006132,20099)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200510)KonstasAG,MaskalerisG,GratsonidisSetal:ComplianceandviewpointofglaucomapatientsinGreece.Eye14:752-756,200011)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,200312)ZimmermanTJ,SharirM,NardinGFetal:Therapeuticindexofpilocarpine,carbachol,andtimololwithnasolacrimalocclusion.AmJOphthalmol114:1-7,199213)ChangJSJr,LeeDA,PeturssonGetal:Theeffectofaglaucomamedicationremindercaponpatientcomplicanceandintraocularpressure.JOculPharmacol7:117-124,1991***

点眼治療アドヒアランス向上を目指した意識調査

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(117)3950910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):395399,2010cはじめに点眼薬治療は眼科治療の基本であり,その成否は治療効果に直結する.手術後の細菌性眼内炎予防や緑内障の眼圧コントロール,角膜感染症の治療など,処方箋どおりに点眼されることが治療上不可欠であることが多い.そのため患者教育や,点眼指導については看護師を中心とした研究会では度々,議論となってきた.ところが,その指導方法は各医療機関によってばらつきがあり,すべての職種にコンセンサスの得られる指導法はいまだ確立されていないのが現状である.しかも従来,患者が点眼治療を決められたとおりにできないことを,医療側の教育不足や患者側のコンプライアンスの問題として捉えられることが多かった.しかし最近筆者らが行った緑内障患者を対象とした聞き取り調査1)においては,点眼薬そのものが点眼を困難としている可能性があるという結果が得られている.そこで今回,日本眼科看護研究会に加入する眼科施設の協力のもと,点眼指導の重点項目や製薬メーカー〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒791-0952松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime790-8534,JAPAN点眼治療アドヒアランス向上を目指した意識調査兵頭涼子*1山嵜淳*2大音清香*3*1南松山病院眼科*2熊本眼科*3西葛西・井上眼科病院OpinionforDevelopmentofEyedropTherapyAdherenceRyokoHyodo1),JunYamasaki2)andKiyokaOhne3)1)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,2)KumamotoOphthalmologyClinic,3)NishikasaiInouyeEyeHospital緑内障点眼薬,感染症に対する点眼薬や抗炎症作用を有する点眼薬の眼疾患に対する有効性を示す数多くの報告がなされているが,処方薬が適切に使用されなければ,良い結果は期待できない.したがって,点眼治療アドヒアランスは眼科治療において最も重要であると考えられる.そこで点眼指導の重要な点についてのコンセンサスを形成するため,日本の眼科医療機関の医師,看護師,視能訓練士,薬剤師などにアンケート調査を行った.その結果「毎日の点眼を忘れない」が最も重要であると考えられていることがわかった.そこで同じ医療従事者に対して,2回目のアンケート調査を行い,「毎日の点眼を忘れない」が最も重要であると考える理由と,「毎日の点眼を忘れない」ための患者指導について尋ねた.その結果,153名中75名が,点眼薬の効果を期待しており,64名が点眼治療をしているという患者の意識や病識を重視していることがわかった.また,172名中65名が患者のライフスタイルに合わせた点眼指導を行っていると回答した.今回のアンケート調査の結果,点眼指導の重点項目が明らかとなった.Numerousstudieshavedemonstratedtheecacyofglaucomaeyedrops,anti-infectiouseyedropsandanti-inammatoryeyedropsforeyediseases.However,goodresultscannotbeexpectedwhenpatientsdonotusetheprescribeddrugproperly.Eyedroptherapyadherenceisthereforeconsideredthecriticalpointofeyetreatment.Toarriveataconsensusregardingtheimportantpointsofteachingeyedropcaretothepatients,questionnairesweresenttoeyedoctors,nurses,orthoptists,pharmacistsetc.AtJapaneseeyeclinics.“Nottoforgeteyedropseveryday”becameessentialitemofinstruction.Wethensentasecondquestionnairetothesamemedicalsta,todeterminewhy“nottoforgeteyedropseveryday”issoimportant,andhowtoinstructpatients“nottoforgeteyedropseveryday.”Of153respondents,75consideredtheeectoftheeyedropsand64respectedtheconsciousofthediseases.Of172sta,65instructpatientstottheireyedropadministrationtimestotheirlifestylesched-ules.Theresultsofourquestionnairesclariedthemostimportantpointinteachingeyedropcare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):395399,2010〕Keywords:点眼指導,アンケート調査,アドヒアランス,要望,製薬メーカー.eyedroptraining,questionnaires,adherence,requests,pharmaceuticalindustry.———————————————————————-Page2396あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(118)に対する要望などを抽出するためのアンケート調査を医療従事者に対して実施し,有益な結果を得たので報告する.I対象および方法日本眼科看護研究会会員が所属する10の医療機関の医師,看護師,視能訓練士,検査補助員,薬剤師などを対象とし,職種や経験年数などの基礎データに加え,表1に示す項目でアンケート調査を行った.アンケートは各医療機関のなかでアンケート用紙を個人(323名)に手渡しをして,個人が内容を読んで回答をする方式を採用した.質問1として筆者らがあらかじめ用意した点眼指導内容の重要項目を選択する方式を使用し,さらにそのなかで最も重要であるものを1つ選択してもらった.質問2として製品,冊子への要望事項を,質問3では製薬会社への要望事項を文章で記入する方法を採用した.さらに1回目のアンケート調査の結果を踏まえ,追加のアンケート調査(表5)を同じ医療機関の医師,看護師,視能訓練士,検査補助員,薬剤師などを対象として施行した.II結果1回目のアンケートの回答は10医療機関の308名より得られた.1回目のアンケートの回収率は95.4%であった.その職種および職業の経験年数を表2に示す.看護師(142名)と視能訓練士(99名)は十分なサンプル数が得られたが,医師は15名,薬剤師は11名と少なかった.質問1の結果を図1に示す.点眼指導の内容については複数選択可(図1a)で最も多かったのは「毎日の点眼を忘れない」で,職種別(図1b)でも医師,看護師,検査補助員,薬剤師の50%以上が最も重要な項目として選択していた.さ表1第1回目のアンケートの項目質問1:点眼指導内容患者さんの自己点眼を指導される上で重要と考えておられる項目に○印を入れてください.(複数回答可)①毎日の点眼を忘れないこと②正確に眼の中に点眼すること③眼や手指に点眼容器のノズルが触れないこと④1日の点眼回数⑤1日のうちで点眼する時間帯⑥複数の点眼薬を点眼する時の点眼順序⑦複数の点眼薬を点眼する時の点眼間隔⑧1回で点眼する滴数⑨その他:具体的にお書きください☆更にこれらの中で最も重要な項目は?質問2:製品,冊子への要望事項点眼薬を開発,販売している製薬会社に対して特に点眼指導を確実に行うため,例えば点眼容器やラベル,種々の情報冊子に関してご要望される点をご記入ください.表2第1回目のアンケートの回答者の職種別経験年数内訳03年35年510年10年以上不明合計医師1149015看護師423033352142視能訓練士35232218199検査補助員67169341薬剤師0225211合計846377768308100500()a.複数選択の結果b.最も重要であると考える項目(職業別)c.最も重要であると考える項目(眼科経験年数別)500(%)500(%)■:医師■:看護師■:視能訓練士■:検査補助員□:薬剤師■:0~3年未満■:3~5年未満■:5~10年未満□:10年以上毎日の点眼正確な点眼衛生管理点眼回数点眼時間帯点眼順序点眼間隔滴数その他毎日の点眼正確な点眼衛生管理点眼回数点眼時間帯点眼順序点眼間隔滴数その他毎日の点眼正確な点眼衛生管理点眼回数点眼時間帯点眼順序点眼間隔滴数その他図1患者さんの自己点眼を指導する上で重要と考えている項目———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010397(119)らに経験年数別(図1c)では経験年数が増すほど選択する割合が増加している.そのほか,複数回答可の場合,自己点眼を指導するうえで重要と考えている項目として「正確に眼の中に点眼すること」,「眼や手指に点眼容器のノズルが触れないこと」,「1日の点眼回数」,「複数の点眼薬を点眼する時の点眼間隔」の4つが50%以上の回答者により選択された.質問2(製品,冊子への要望事項)の回答は,点眼容器への要望,点眼キャップへの要望,ラベル類への要望,投薬袋への要望,情報への要望,その他の要望の6つに分類した.その内容を表3に示す.点眼容器への要望として多かったのは,容器硬度(硬さ)を統一する(55名),識別しやすい容器にする(53名),点眼しやすい容器にする(35名)の3点.点眼キャップへの要望では識別しやすいキャップにする(34名),上向きに置いて倒れないキャップ(14名),開閉しやすいキャップにする(12名)が多かった.ラベル類への要望としては見やすい,判りやすいラベルにする(60名)が多数あった.質問3(製薬会社への要望事項)の回答を表4に示す.製品開発の要望では製品開発に対する要望として患者の負担を減らすためのアイデアや工夫が寄せられた.後発品に対しては情報の不足に対する不満があった.また,ロービジョン表4製薬会社へのその他の要望事項の回答(1)製品開発①患者さんが複数の点眼薬を点眼する困難さより,可能な組み合わせの配合点眼薬②高齢の患者さんが多いことより,1日の点眼回数のできるだけ少ない点眼薬③術後や長期点眼が必要な点眼薬の添加剤を減らして,シンプルにして欲しい④いつも,患者さんの視点での製品開発を望みたい(2)先発品vs後発品(ジェネリック品)①先発品,後発品に関する情報(同じところと異なるところ)が記載されている冊子を提供して欲しい②後発品の有効性が判らない.患者さんにとってメリット,デメリットを解りやすく説明して欲しい③後発品の普及に力を入れて欲しい(3)ロービジョン(LV)の患者さんへの対応①LV患者用の用品をいろいろな視点で考え,開発して欲しい②LV患者への点眼時の留意点などがあれば,冊子に追加し,広く行き渡るようにして欲しい③LV患者が少しでも確認できるように,文字や色,コントラストに工夫して欲しい④耳の不自由な患者さんへの適切な指導に関する情報提供も考えて欲しい(4)勉強会,説明会開催①薬や点眼指導などに関する勉強会を看護師や医療スタッフメンバーにも開催して欲しい②新しい情報は,医師,薬剤師だけでなく,看護師にも提供して欲しい③オペ室担当の看護師にとっては,点眼指導に関わる機会も少なく,勉強会の開催を④点眼薬の開発や製造工程に関する内容の勉強会も時には開催して欲しい(5)販売名(製品名)などの情報①医療事故を避けるため,紛らわしい販売名,似ている販売名は避けて欲しい②覚えやすい販売名を付けて欲しい(6)その他①フリーの点眼確認表があると,外来の患者さんにも提供できる.使いやすさとデザイン性は必要②点眼に興味を持ってもらえるような掲示物の提供表3製薬メーカーに対する製品,冊子への要望事項の回答1.点眼容器への要望①容器硬度(硬さ)を統一する(55名)②識別しやすい容器にする(53名)③点眼しやすい容器にする(35名)④容器形状を統一する(21名)⑤ノズル先端に色を付ける(11名)⑥容器全体を遮光にする(6名)⑦ミニ点容器製品を増やす(6名)⑧1回1滴しか出ない容器(6名)⑨キャップ一体型の容器(5名)⑩用時溶解型容器の改良(1名)2.点眼キャップへの要望①識別しやすいキャップにする(34名)②上向きに置いて倒れないキャップ(14名)③開閉しやすいキャップにする(12名)④キャップ形状を統一する(2名)⑤キャップに脱着可能な点眼補助具(1名)3.ラベル類への要望①見やすい,判りやすいラベルにする(60名)(色,文字の大きさ,識別性など)②特定の表示を大きく,分りやすく(14名)(保存条件,使用期限)③ラベルへの記載項目の追加(11名)(開封後の使用期限,点眼間隔など)④残液量が見やすいラベルにする(10名)4.投薬袋への要望①開けやすく,点眼薬の出し入れがしやすい投薬袋(8名)②点眼ケース(遮光も含めて)の販売(4名)③記載項目の充実化(記載欄の大きさも含めて)(3名)④袋の中が見やすい透明な投薬袋(2名)5.情報への要望①パンフレット類の充実化(小児に対する点眼法,点眼指導全般,副作用,開封後の使用期限など)(41名)②見やすい,解りやすいパンフレット(箇条書き,大きな文字,図・絵・写真を多用)(20名)③販売名(製品名)が紛らわしい(4名)④いろいろな種類の点眼確認表の提供(3名)6.その他の要望①製品に対する要望(用時溶解型,冷所保存品はなくす)(7名)②点眼補助具,識別性向上治具の開発(3名)———————————————————————-Page4398あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(120)(LV)の患者への対応が不十分であることや,勉強会,説明会開催や販売名(製品名)などの情報提供が医師以外のスタッフに対して十分に行われていないことへの不満が多く寄せられた.さらに,1回目のアンケート調査の結果より,「毎日の点眼を忘れない」を選択した理由と「毎日の点眼を忘れない」ための患者指導について記入方式により,同じ医療機関の個人にアンケート用紙を手渡し,即時に回収した.その結果,医師6名,看護師119名,薬剤師20名,視能訓練士8名より回答を得ることができた.1回目,2回目とも無記名での調査であり,2回目の回答者が1回目にすべて含まれるかは不明であった.「毎日の点眼を忘れない」を選択した理由については,効果を期待しているという内容が最も多く,75名いた.次いで点眼治療をしているという患者の意識や病識を重視しているという内容が64名いた.それ以外に,毎日の点眼が大前提であるという内容の回答が14名あった(表6).「毎日の点眼を忘れない」で行うための患者指導については,説明を工夫し充実させる内容が121名と最も多く,配布物を作成する(34名)ことや,周りの人の協力を得る(17名)という回答が寄せられた(表7).III考按今回のアンケート調査は日本眼科看護研究会の主導で行ったため,看護師と視能訓練士は十分なサンプル数が得られたが,実際に点眼指導を行う可能性がある薬剤師と医師のサンプル数は十分ではなかった.点眼治療が成功するためには患者への指導を十分に行う必要があるが,すべての職種において重要と考えている項目が一致する傾向がみられた.「毎日の点眼を忘れない」,「正確に眼の中に点眼する」,「眼や手指に点眼容器のノズルが触れない」,「1日の点眼回数」,「複数の点眼薬を点眼する時の点眼間隔」の5つの項目は点眼指導の際に必要不可欠であり,今回調査を依頼した医療機関においては点眼指導が適切になされていることを窺い知ることができる.なかでも,「毎日の点眼を忘れない」はどの職種においても最も重要であると考えられている.その理由として「効果を期待している」や,「毎日点眼をすることが大前提である」ということで選択している以外に,「点眼治療をしているという患者の意識や病識を重視している」という回答が多かったことは特筆すべきである(表6).また「毎日の点眼を忘れない」ための患者指導については「説明を工夫し充実させる」が最も多く,なかでも「患者の食事や入浴など生活スタイルに合わせて説明する」というものは,医療を中心に考える「コンプライアンス」とは様式が根本的に異なり,患者のライフスタイルに合わせた点眼治療を患者とともに模索するもので「アドヒアランス」に視点をおいた考えと言える.今回調査した多くの医療機関では「アドヒアランス」とういう概念が広く知られる以前より,点眼治療の「アドヒアランス」を高める取り組みがなされていたことを窺い知ることができた(表7).また,今回同時に施行した製薬メーカーへの要望の調査結果をみると,点眼指導を通して,われわれ医療の側が患者側に無理を強いていると痛切に感じていることがわかる2,3).そのなかには製薬メーカーに対して情報を発信することにより改善できる可能性があるものが存在し,製品に関連したも表7「毎日の点眼を忘れない」で行うための患者指導1.説明を工夫し充実させる121名・食事や入浴など生活スタイルに合わせて説明65名・病気を自覚して,点眼する必要性を理解するまで説明32名・時間を決めて説明10名・他14名2.配布物を作成34名・Check表を作成24名・パンフレットを作成10名3.家人の協力を得る17名表6「毎日の点眼を忘れない」が重要と考えて指導している理由1.効果を期待75名・不規則な点眼では治療効果が期待できない33名・点眼忘れは感染リスクが高くなる24名・有効濃度を維持して薬効を期待しているから13名・緑内障では点眼忘れで病状進行するため5名2.点眼治療をしているという意識や病識を重視64名・眼科の治療上点眼薬が重要なため51名・毎日の点眼を忘れず行うことで病識を維持できる11名・他2名3.毎日の点眼が大前提14名・点眼操作が確実でも,毎日の点眼行為が前提にあるので12名・毎日の点眼が前提にあり,医師が治療法を決めているため2名表5追加のアンケート調査の項目○あなたの職種は?【看護師・視能訓練士・薬剤師・医師・その他()】1.「毎日の点眼を忘れないこと」が多く回答あり,最も重要な項目とされていました.その理由は何でしょうか?自由記載でお願いします.2.毎日の点眼を忘れないためには,患者さんにどのような指導をされていますか?具体的に記入してください.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010399(121)のでは,「点眼をより容易にできるようにして欲しい」という要望と「製品を識別しやすくして欲しい」という要望の2つに大別できる.点眼を容易にするための要望としては,容器の硬さや形状の統一があげられる.すなわち,複数の点眼が必要な患者では1滴を確実に眼に落とすことを困難にしている原因と考えられているようである.その他,「袋からの出し入れが困難である」,「キャップの開閉が困難である」,「キャップが転がる」という不満もある.製品の識別に関連した要望をみると,「視覚障害者や高齢者を意識した製品設計がなされていない」と医療従事者が感じていることがわかる.視覚障害者はラベルの文字で製品を判別することが不可能であることは言うまでもないが,高齢者の多くは点眼薬の名前では製品を認識していない.このことに対する製薬メーカーの配慮が不足していると考えている医療従事者が,ラベルやキャップの色に言及したものと考えられる.さらに残量がわかりにくいなど製薬メーカーが改善すべき点を数多く指摘される結果となった.今回のアンケート調査を通じて,より良い点眼薬開発のためのアイデアが数多く得られたが,これらの情報を積極的に医療の側より製薬メーカーに伝えていくことにより,点眼治療の困難さを最小限にすることができると考えられる.今後看護師からも患者の生活環境を考慮した点眼指導について,積極的に製薬メーカーに情報発信していきたい.われわれ眼科医療従事者が点眼治療アドヒアランス向上を目指すとき,診療のさまざまな場面から患者との信頼関係を築き,点眼治療の重要性を認識できるように支援し,患者の生活に合った無理のない点眼方法を提案することが重要である.IV結論眼科領域では点眼は治療上不可欠である.そのためには医療従事者が患者に点眼の重要性について理解できるように説明することが必要である.その基盤には患者との信頼関係を深め,点眼に対するアドヒアランス向上を目指すことが重要である.患者に点眼の重要性が理解できても,点眼行為時に問題を生じている容器の硬さの統一や識別しやすい容器などに関しては医療現場では改善できないため,製薬メーカーへの情報発信の必要性が示唆された.謝辞:今回のアンケート調査に参加して下さいました日本眼科看護研究会会員の方々に心より感謝します.文献1)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20072)青山裕美子:教育講座緑内障の点眼指導とコメディカルへの期待緑内障と失明の重み.看護学雑誌68:998-1003,20043)沖田登美子,加治木京子:看護技術の宝箱高齢者の自立点眼をめざした点眼補助具の作り方.看護学雑誌69:366-368,2005***